説明

生体組織接着性医療器具

【課題】 生体組織(例えば血管等)に強固に接着させることができる医療器具(例えばステント、ステントグラフト等)を提供する。
【解決手段】 生体組織接着性材料からなる部分を表面に有する医療器具であって、前記生体組織接着性材料が、生体組織を接触させた状態において9×10〜1×10N/mの圧力、60〜140℃の温度、及び周波数1〜100kHzの振動を付加することにより、前記生体組織と接着できる材料(例えば湿潤コラーゲン、ポリウレタン、ビニロン、ゼラチン又はこれらの複合材料)である前記医療器具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織と接着可能な医療器具に関する。
【背景技術】
【0002】
狭窄は血管の一部が収縮する疾患であり、狭窄の治療にはステントによる血管拡張術が用いられる。また、大動脈瘤は血管の一部が拡大する疾患であり、大動脈瘤の治療にはステントグラフト内挿術が用いられる。ステント及びステントグラフトを用いた治療法は、人工血管置換術のように開胸する必要がないため非常に低侵襲である。
しかしながら、ステント及びステントグラフトは縫合を行っていないため、動脈との不完全な接着から生じる動脈瘤内への血液の漏れ(エンドリーク)、血流による設置場所からの逸脱等が生じるおそれがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、生体組織(例えば血管等)に強固に接着させることができる医療器具(例えばステント、ステントグラフト等)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は、生体組織接着性材料からなる部分を表面に有する医療器具であって、前記生体組織接着性材料が、生体組織を接触させた状態において9×10〜1×10N/mの圧力、60〜140℃の温度、及び周波数1〜100kHzの振動を付加することにより、前記生体組織と接着できる材料である前記医療器具を提供する。
【0005】
本発明の医療器具において、前記生体組織接着性材料が、湿潤コラーゲン、ポリウレタン、ビニロン、ゼラチン又はこれらの複合材料であることが好ましい。
本発明の医療器具において、前記医療器具は、例えば、ステント又はステントグラフトである。
【0006】
互いに接触した状態にある生体組織接着性材料及び生体組織に、9×10〜1×10N/mの圧力、60〜140℃の温度、及び1〜100kHzの周波数の振動が付加されると、生体組織接着性材料及び生体組織は迅速かつ強固に接着する。また、生体組織接着性材料及び生体組織に、上記圧力、温度及び振動が付加されたとき、生体組織接着性材料及び生体組織に与えられる損傷は少ない。なお、生体組織接着性材料及び生体組織に付加される圧力は1×10〜5×10N/mであることが好ましく、温度は80〜110℃であることが好ましく、振動の周波数は10〜60kHzであることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、生体組織(例えば血管等)に強固に接着させることができる医療器具(例えばステント、ステントグラフト等)が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
生体組織接着性材料は、生体組織と接触させた状態において9×10〜1×10N/m(好ましくは1×10〜5×10N/m)の圧力、60〜140℃(好ましくは80〜110℃)の温度、周波数1〜100kHz(好ましくは10〜60kHz)の振動を付加することにより、生体組織と接着できる材料である限り特に限定されるものではない。好ましい生体組織接着性材料としては、湿潤コラーゲン、ポリウレタン、ビニロン、ゼラチン、これらの複合材料等が挙げられる。
【0009】
生体組織接着性材料と生体組織とを接着させるために要する時間(生体組織接着性材料と生体組織とを接触させた状態において上記圧力、温度及び振動を付加する時間)は、通常2〜240秒、好ましくは10〜120秒である。
【0010】
生体組織接着性材料及び生体組織に加えられる振動の方向は特に限定されるものではなく、例えば、生体組織接着性材料及び生体組織の接触面に略平行な方向であってもよいし、生体組織接着性材料及び生体組織の接触面に略垂直な方向であってもよい。生体組織接着性材料及び生体組織に加えられる振動の振幅は特に限定されるものではないが、通常0.1〜100μm、好ましくは0.2〜20μmである。
【0011】
生体組織接着性材料が接着可能な生体組織は特に限定されるものではなく、例えば、循環器系組織、消化器系組織、皮膚組織、腱組織、靭帯組織、間柔組織、血管組織、代謝系組織、脳組織、リンパ系組織、筋組織等が挙げられる。
【0012】
生体組織接着性材料と生体組織との接着力は、通常0.1〜2MPa、好ましくは0.5〜1MPaである。
【0013】
医療器具は、生体組織接着性材料からなる部分を表面に有する限り、医療器具の全体が生体組織接着性材料から構成されていてもよいし、医療器具の一部のみが生体組織接着性材料から構成されていてもよい。
【0014】
医療器具としては、例えば、ステント、ステントグラフト(カバードステント)、人工血管、癒着防止膜、創傷被覆材、血管カテーテル、カニューラ、モニタリングチューブ、人工腎臓、人工心肺、体外循環用血液回路、人工腎臓用A−Vシャント、人工血管、人工心臓、人工心臓弁、血液の一時的バイパスチューブ、人工透析用血液回路、血液バッグ、血液成分分離装置のディスポーザブル回路、透析膜、人工肝臓、ナノ粒子被覆材、バイオセンサー被覆材、経皮デバイス、動静脈シャント、ペースメーカー、中心静脈栄養カテーテル、心臓ラッピング用ネット等が挙げられる。
【0015】
本発明の医療器具がステントである場合、図1に示す装置1を使用してステントを血管の内壁に接着させることができる。
図1に示す装置1は、血管B内に挿入されたステントSTを血管Bの内壁に接着させるための装置であって、図1に示すように、発熱体5が内蔵された部材2と、部材2を血管Bの内壁の方向へ加圧するバルーン部3と、バルーン部3による加圧を制御する加圧制御部4と、発熱体5による発熱を制御する発熱制御部6と、微小振動を発生させる振動発生部7と、振動発生部7が発生する微小振動を制御する振動制御部8とを備える。
【0016】
ステントSTの表面は、湿潤コラーゲン、ポリウレタン、ビニロン、ゼラチン、これらの複合材料等の生体組織接着性材料でコーティングされている。
【0017】
図1に示すように、バルーン部3は、バルーンカテーテル9に通じており、バルーンカテーテル9を通じてバルーン部3の内部に流体を圧入することにより、バルーン部3は、膨張して、血管Bの狭窄部を拡張するとともに、部材2を血管Bの内壁の方向へ加圧する。部材2のステント接触面には、ステントST及び血管Bに加えられる圧力を検出するS1が設けられている。センサS1及びバルーン部3に流体を圧入する装置(図示せず)は加圧制御部4に電気的に接続されており、加圧制御部4は、センサS1で検出された圧力等に基づき、ステントST及び血管Bの内壁に加えられる圧力が9×10〜1×10N/m(好ましくは1×10〜5×10N/m)となるように、バルーン部3による加圧を制御する。
【0018】
図1に示すように、部材2のステント接触面には、ステントST及び血管Bの内壁の温度を検出できるセンサS2が設けられている。センサS2及び発熱体5は発熱制御部6に電気的に接続されており、発熱制御部6は、センサS2で検出された温度等に基づき、ステントST及び血管Bの内壁の温度が60〜140℃(好ましくは80〜110℃)となるように、発熱体5(例えば電熱ヒーター、ペルチェ素子、磁性体(磁性体を用いる場合、外部より変動磁場を照射する)等)による発熱を制御する。
【0019】
部材2はロッドR1を介して振動発生部7に取り付けられており、振動発生部7は、ロッドR2に取り付けられている。振動発生部7は、微小振動の発生源として、例えば、超音波振動子、小型モーター、磁性体(磁性体を用いる場合、外部より変動地場を照射する)等の振動素子を有している。振動発生部7から発生した微小振動は、振動伝達部材であるロッドR1を介して部材2に伝達される。振動発生部7には、振動発生部7による微小振動を制御する振動制御部8が電気的に接続されており、振動制御部8は、ステントST及び血管Bの内壁の微小振動の周波数が1〜100kHz(好ましくは10〜60kHz)となるように、振動発生部7が発生する振動を制御する。また、振動制御部8は、ステントST及び血管Bの内壁の振動の振幅が0.1〜100μm、好ましくは0.2〜20μmとなるように、振動発生部7が発生する微小振動を制御する。ロッドR2は、把持部(図示せず)、カテーテル(図示せず)、ガイドワイヤー(図示せず)等に接続される。
【0020】
装置1は、以下のようにしてステントST及び血管Bの内壁を接着する。
バルーンカテーテル9を通じてバルーン部3の内部に流体が圧入されると、バルーン部3は、膨張して、血管Bの狭窄部を拡張するとともに、部材2を血管Bの内壁の方向へ加圧することによりステントSTを血管Bの内壁に対して加圧する。これにより、ステントST及び血管Bの内壁は互いに接触する。このとき、バルーン部3による加圧が加圧制御部4により制御されることにより、ステントST及び血管Bの内壁には、9×10〜1×10N/m(好ましくは1×10〜5×10N/m)の圧力が加えられる。
【0021】
また、発熱体5が発生した熱は、部材2のステント接触面を介してステントST及び血管Bの内壁に伝達され、ステントST及び血管Bの内壁は加熱される。このとき、発熱体5による発熱が発熱制御部6により制御されることにより、ステントST及び血管Bの内壁は60〜140℃(好ましくは80〜110℃)に加熱される。
【0022】
さらに、振動発生部7が発生した微小振動は、振動伝達部材であるロッドR1を介して部材2に伝達され、部材2からステントST及び血管Bの内壁に伝達される。このとき、振動発生部7による振動が振動制御部8により制御されることにより、ステントST及び血管Bの内壁は、周波数1〜100kHz(好ましくは10〜60kHz)で振動する。ステントST及び血管Bの内壁に加えられる振動の方向は特に限定されるものではないが、本実施形態ではステントST及び血管Bの内壁の接触面と略平行な方向である(図1中の矢印で示す方向)。
【0023】
したがって、ステントST及び血管Bの内壁は、互いに接触した状態にあり、かつ、ステントST及び血管Bの内壁には、9×10〜1×10N/m(好ましくは1×10〜5×10N/m)の圧力、60〜140℃(好ましくは80〜110℃)の温度、周波数1〜100kHz(好ましくは10〜60kHz)の振動が付加される。ステントST及び血管Bの内壁に上記圧力、温度及び振動を付加する時間は、通常2〜240秒、好ましくは10〜120秒である。これにより、ステントST及び血管Bの内壁は迅速かつ強固に接着する。また、ステントST及び血管Bの内壁に上記圧力、温度及び振動が付加されたとき、ステントST及び血管Bの内壁に与えられる損傷は少ない。
【実施例】
【0024】
〔試験例1〕
本試験例は、生体組織同士の接着に必要な条件を明らかにするための試験である。
方法1(超音波メス):2枚の血管組織片(ブタ大動脈の内腔面)を接触させ、市販の超音波メス(ソノペット、ミワテック社製)を使用して、所定の周波数(kHz)、振幅(μm)、温度(℃)、圧着時間(秒)及び圧力(N/m)を2枚の血管組織片に付加し、2枚の血管組織片の接着を試みた。
【0025】
方法2(熱圧着):温度制御された加熱プレート上で2枚の血管組織片(ブタ大動脈の内腔面)を重ね合わせ、所定の圧力(N/m)を2枚の血管組織片に付加し、2枚の血管組織片の接着を試みた。
【0026】
方法3(熱圧着+微小振動):温度制御された加熱プレート上で2枚の血管組織片(ブタ大動脈の内腔面)を重ね合わせ、所定の所定の周波数(kHz)、振幅(μm)、温度(℃)、圧着時間(秒)及び圧力(N/m)を2枚の血管組織片に付加し、2枚の血管組織片の接着を試みた。
各方法の具体的条件及び結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、方法1では、短時間(3〜4秒)で血管組織片同士を接着させることができたが、接着時間が短すぎる場合(1〜2秒)には血管組織片同士を接着させることができず、接着時間が長すぎる場合(6〜7秒)には接着組織が損傷(加熱によって炭化)した。また、血管組織片同士の接着力は最高0.17MPaで、手で引っ張ると容易に剥離した。
【0029】
表1に示すように、方法2では、血管組織片同士を接着させることができなかった。このことから、生体組織同士の接着には熱及び圧力以外の要素(振動)が必要と考えられた。
【0030】
表1に示すように、方法3では、血管組織片同士を接着させることができた。方法3で必要な温度は方法1と同程度であったが、方法3で必要な圧着時間及び圧力は方法1よりも高かく、方法3で必要な振幅は方法1よりも小さかった。方法3で得られる接着力は、方法1よりも大きく、特に周波数12kHzの場合には、方法1で得られる接着力の約10倍の接着力が得られた。これは、手で引っ張っても容易に剥離しない接着力であった。
【0031】
〔試験例2〕
本試験例は、試験例1で明らかになった条件で生体組織と接着可能な材料を探索するための試験である。
血管組織片(ブタ大動脈の内腔面)及び各種材料を接触させ、周波数25kHz及び振幅80μmの振動、100℃の温度、5×10N/mの圧力を1〜5秒間付加した。
【0032】
その結果、湿潤コラーゲン(高研製タイプ1コラーゲンをグルタルアルデヒドで架橋したもの)、ポリウレタン(ESPA、東洋紡社製)、ビニロン(ビニロン、クラレ社製)、ゼラチン(和光純薬製精製ゼラチンをグルタルアルデヒドで架橋したもの)は、血管組織片に強固に接着した(図2参照)。ナイロン(ナイロンネット、グンゼ産業製)は、不十分ながら血管組織片に接着した。ポリエステル(ユービーグラフト、ウベ循研製)、ステンレス(SUS364、市販品)、セロファン(セロファンフィルム、東京セロファン製)、乾燥コラーゲン(高研製タイプ1コラーゲンをグルタルアルデヒドで架橋し、乾燥させたもの)、テフロン(ゴアテックスEPTFEグラフト、ジャパンゴアテックス社製)は、血管組織片に接着しなかった。なお、接着後に引張測定を行い、接着力が0.2MPa未満の場合を「不十分な接着」、0.2MPa以上の場合を「強固な接着」と判断した。
【0033】
上記と同様の条件で試験したところ、ポリウレタンをコーティングしたステンレス片(図3参照)、及びポリウレタンをコーティングしたポリエステル片(図4参照)は、血管組織片に接着した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】血管内に挿入されたステントを血管の内壁に接着させるための装置の部分断面概略図である。
【図2】(a)ポリウレタン、(b)ビニロン、(c)湿潤コラーゲンが血管組織片に接着した状態を示す図である。
【図3】ポリウレタンをコーティングしたステンレス片が血管組織片に接着した状態を示す図である。
【図4】ポリウレタンをコーティングしたポリエステル片が血管組織片に接着した状態を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織接着性材料からなる部分を表面に有する医療器具であって、
前記生体組織接着性材料が、生体組織と接触させた状態において9×10〜1×10N/mの圧力、60〜140℃の温度、及び周波数1〜100kHzの振動を付加することにより、前記生体組織と接着できる材料である前記医療器具。
【請求項2】
前記生体組織接着性材料が、湿潤コラーゲン、ポリウレタン、ビニロン、ゼラチン又はこれらの複合材料である請求項1記載の医療器具。
【請求項3】
前記医療器具がステント又はステントグラフトである請求項1又は2記載の医療器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−229271(P2007−229271A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55620(P2006−55620)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】