説明

生体親和性の高いアパタイト被覆磁性ナノ粒子

【課題】生体内で医療用として使用することが可能で、無害な磁性ナノ粒子を提供する。
【解決手段】強磁性粒子コアに、アパタイトを被覆させる場合に、強磁性粒子コア表面にレピドクロサイト含有層を形成させ、そのレピドクロサイト含有層の上にアパタイト層を形成させることにより、強磁性粒子コアの周囲に十分な量のアパタイト層を形成することが可能である。それによって、強磁性粒子コアの金属イオンが生体成分と直接接触することを防ぎ、金属イオンが生体の体液中に溶出することがなく、生体親和性の高いアパタイト被覆磁性ナノ粒子を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アパタイト被覆磁性ナノ粒子及びその製造方法に関する。本発明によれば、疾患治療におけて生体親和性が高く、生理活性物質の徐放性に優れたドラッグデリバリーシステム用の担体を提供することができる。また、温熱治療において生体親和性が高く、電磁波温熱効果に優れた温熱治療用発熱体を提供することができる。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子は、その磁化を利用することによって、治療用、診断用、医薬のスクリーニング用など様々な用途に利用されている。例えば、表面に薬剤を担持させて生体内の標的器官や組織などに輸送するドラッグデリバリーシステム用の担体、タンパク質などの生理活性物質の分離精製のための吸着用担体、又は免疫分析方法において抗原や抗体を結合させる不溶性担体として、磁性粒子が利用されている。更に、磁性粒子の電磁波温熱効果を利用することによって、温熱治療用の発熱体に用いる試みが行われてきている。
特に、癌治療の分野においては、磁性粒子をドラッグデリバリーシステムの担体及び温熱治療用の発熱体として利用する試みが行われてきている。具体的には、磁性粒子の表面に抗癌剤を担持させ、そして癌組織へ抗癌剤を輸送し、抗癌剤が癌組織において徐放されることにより、効果的に癌を治療する試みや、また、磁性体が交流磁場下で発熱することを利用して、磁性粒子を発熱体として用い、癌細胞を温熱治療によって死滅させる試みが行われてきている。
【0003】
従来、磁性粒子としては、基体粒子の表面にフェライトなどをメッキした金属酸化物コート粒子が報告されている(特許文献1)。しかしながら、前記金属酸化物コート粒子は、フェライトが粒子の表面のみにメッキされたものであったために、磁性粒子の体積中に占めるフェライトの割合が低かった。従って、ドラッグデリバリーシステムの担体として用いる場合は、磁力による輸送効果が高くなかった。更に、抗癌剤などの薬剤をフェライトの表面に直接担持し、ドラッグデリバリーシステムの担体として利用した場合に、薬剤の徐放後に、生体内に磁性粒子が残留する。そのため、生体の体液成分とフェライトの重金属イオンが直接触れ、重金属がその表面から体液中に溶出することによる副作用が心配されていた。
また、温熱治療用の発熱体として用いる場合も、ナノ粒子の体積中に占めるフェライトの割合が低く、その電磁波温熱効果が高くなかったため、発熱体として十分な効果が得られなかった。更に、磁性粒子が生体内の体液成分と直接触れるため、同じような副作用が心配されていた。
【0004】
一方、温熱療法用の発熱体として用いる磁性粒子として、強磁性フェライト粒子が生体活性な水酸アパタイト等の無機質層で包まれた温熱療法用セラミックス発熱体(特許文献2)が報告されている。また、フェライト粒子表面に水酸アパタイトを被覆した温熱療法用セラミックス発熱体の製造方法が報告されている(特許文献3)。更に、温熱療法に使用可能なアパタイトとフェライトからなる複合多孔体を水熱処理により作製する方法が報告されている(特許文献4)。
【0005】
しかしながら、フェライト粒子の表面は疎水性であり、アパタイトは親水性であるため、アパタイトをフェライト粒子に直接十分に、成膜することは困難であった。従って、アパタイトをフェライト粒子に直接成膜した場合、フェライト粒子表面に緻密なアパタイト層が成膜されないものと考えられた。従って、前記の特許文献2及び3に記載の温熱療法用セラミックス発熱体を生体内で用いた場合は、フェライトをメッキした金属酸化物コート粒子と同じように、生体の体液成分とフェライトの重金属イオンが直接触れるため、重金属がその表面から体液中に溶出することによる副作用が心配されていた。実際に、引用文献2でも、温熱療法用セラミックス発熱体に用いるフェライト粒子は生体に有害な金属イオンを含まない強磁性フェライトを使用することを勧めている。また、前記の特許文献4ではα−TCPとフェライトを湿式混合してペレットを作製し、pHを8以上の溶液・水蒸気で水熱処理を行っているため、前記のように二つの異なる界面の緊密な結合が無かった。
【特許文献1】特開平10−83902号公報
【特許文献2】特開平5−43393号公報
【特許文献3】特許第2829997号公報
【特許文献4】特開2005−29439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、生体内で医療用に使用することが可能で、無害な磁性ナノ粒子の開発を行った。特には、癌の組織、例えば肝癌などを標的とし、その部位に抗癌剤等の薬剤を輸送し、徐放することのできるドラッグデリバリーシステム用の担体、及び/又は電磁波温熱効果による治療を可能にする温熱治療用の発熱体として好適であり、人体に対して無害な生体親和性の高い磁性ナノ粒子の創成について、鋭意研究した結果、強磁性粒子コアに、アパタイトを被覆させる場合に、強磁性粒子コア表面にレピドクロサイト含有層を形成させ、そのレピドクロサイト含有層の上にアパタイト層を形成させることにより、強磁性粒子コアの周囲に十分な量のアパタイト層を形成することが可能であることを見出した。そして、それによって、強磁性粒子コアの金属イオンが生体成分と直接接触することを防ぎ、金属イオンが生体の体液中に溶出することがなく、生体親和性の高いアパタイト被覆磁性ナノ粒子を製造することができることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、強磁性粒子コアと、その表面と直接に接触してコア表面を覆うレピドクロサイト含有層と、そのレピドクロサイト含有層と直接接触してレピドクロサイト含有層を覆うアパタイト層とを含むことを特徴とする、アパタイト被覆磁性ナノ粒子に関する。
本発明によるアパタイト被覆磁性ナノ粒子の好ましい態様においては、前記強磁性粒子コアが、マグネタイト粒子、マグヘマイト粒子、コバルト粒子、ニッケル粒子又はいずれかの強磁性粒子が、マンガン、亜鉛、ニッケル、リチウム、コバルト、銅、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、バリウム及びストロンチウムからなる群から選択された金属がドープされた強磁性粒子であり、特には、マグネタイト粒子又はマンガン亜鉛フェライト粒子であるである。
本発明によるアパタイト被覆磁性ナノ粒子の好ましい態様においては、前記アパタイト層が緻密アパタイト層である。
本発明によるアパタイト被覆磁性ナノ粒子の好ましい態様においては、前記アパタイト層が内側の緻密アパタイト層、及び外側アパタイト層を含み、特には、緻密アパタイト層の比表面積が40m/g以下であり、外側アパタイト層の比表面積が20〜400m/gである。
本発明によるアパタイト被覆磁性ナノ粒子の別の好ましい態様においては、磁性粒子状コアの平均粒径が10μm以下であり、アパタイト被覆磁性ナノ粒子の平均粒径が100μm以下である。
また、本発明は、フェライト粒子の表面を酸化してその表面にレピドクロサイト含有層を形成する工程、及びアパタイト反応溶液を接触させ、アパタイトを析出することによりアパタイト層を形成する工程を含む、アパタイト被覆磁性ナノ粒子の製造方法にも関する。
更に、本発明は、前記アパタイト被覆磁性ナノ粒子からなるドラッグデリバリーシステム用の担体に関し、特には、癌治療用である。
更に、本発明は、前記アパタイト被覆磁性ナノ粒子からなる、温熱治療用の発熱体にも関する。
更に、本発明は、前記アパタイト被覆磁性ナノ粒子からなる吸着用担体にも関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、強磁性粒子コアの表面にレピドクロサイト含有層を有し、十分なアパタイトをその表面に結合させている。そのため、ドラッグデリバリーシステム用の担体や温熱治療用の発熱体として用いて、治療後に生体内にアパタイト被覆磁性ナノ粒子が残留しても、外側のアパタイト層により生体の組織とよく親和する。また、強磁性粒子コアの表面が緻密なアパタイト層により覆われているため、重金属を含む強磁性粒子コアが直接、生体内の体液と接触せず、重金属イオンが生体の体液中に溶出することが無く、重金属による副作用を起こす心配が無い。更に、緻密なアパタイト層の外側に多孔性のアパタイト層を設けることによって、ドラッグデリバリーシステム用の担体として用いた場合に、担持している薬剤の徐放性を高めることが可能になった。また、本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、中実な強磁性粒子コアを用いているため、ドラッグデリバリーシステム用の担体や温熱療法の発熱体として用いた場合、少ない外部磁場でアパタイト被覆磁性ナノ粒子を患部に集めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子のコアとして、強磁性粒子を用いることができる。強磁性粒子は、磁場により磁化され、磁場を取り除いても残留磁化を残す粒子であり、例えば、鉄、コバルト、又はニッケルなどの粒子、マグネタイト(Fe)などのフェライト粒子、マグヘマイト(γ−Fe)粒子などを挙げることができる。
【0010】
また、強磁性粒子として、鉄粒子、コバルト粒子、ニッケル粒子、マグネタイト(Fe)などのフェライト粒子、又はマグヘマイト(γ−Fe)粒子が、マンガン、亜鉛、ニッケル、リチウム、コバルト、銅、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、バリウム、又はストロンチウムのいずれか1種又は2種以上の金属でドープされた強磁性粒子を用いることもできる。
【0011】
前記フェライト粒子としては、一般にスピネル構造をとるスピネルフェライト粒子を用いることができる。具体的には、マグネタイト(Fe)粒子、又はマグネタイトがマンガン、亜鉛、ニッケル、リチウム、コバルト、銅、バリウム及びストロンチウムからなる群から選択された金属によってドープされたフェライト粒子が好ましい。より好ましくは、マグネタイト粒子及びマンガン亜鉛フェライト〔(Mn,Zn)Fe〕粒子であり、最も好ましくは、マンガン亜鉛フェライト粒子である。
【0012】
強磁性粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、1nm〜20μmが好ましく、10nm〜10μmがより好ましく、100nm〜5μmが最も好ましい。強磁性粒子は、粒子径が小さくなるほど磁性が弱くなるため、1nmより小さくなると強磁性粒子の磁性を有効に利用できなくなるためである。また、粒子径が20μmより大きくなると、磁性粒子としての保磁力が大きく、凝集を起こすことがある。それによって、粒子の分散性が悪くなり、ドラッグデリバリーシステム用の担体として用いた場合に、操作性が悪くなる。
【0013】
以下の説明においては、強磁性粒子として、主にフェライトを用いた態様について説明を行うが、その他の強磁性粒子を用いても、本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子を製造し、使用することが可能であり、同じ作用効果を得ることができる。
【0014】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、強磁性粒子コアであるフェライト粒子の表面にアパタイト層を有する。通常、フェライト粒子の表面は疎水性であるために、親水性のアパタイトを十分被覆させることができない。本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、フェライト粒子、例えばマグネタイト(主組成、Fe)粒子の表面に、水酸基を有するレピドクロサイト(γ−FeOOH)を含有する層が形成されているために、アパタイトが結合する粒子の表面が親水性となっている。レピドクロサイトは、親水性の水酸基を外側に有しているからである。従って、レピドクロサイト含有層の外側に、アパタイトなどの親水性の物質を容易に結合させることが可能である。
【0015】
レピドクロサイト含有層は、レピドクロサイト(鱗鉄鉱、γ−FeOOH)のみからなるレピドクロサイト層でもよいが、ゲーサイト(針鉄鉱、α−FeOOH)又はアカガネアイト(赤金鉱、β−FeOOH)を含むこともできる。レピドクロサイトを形成させる温度条件を変化させることによってゲーサイト(α−FeOOH)又はアカガネアイト(β−FeOOH)が形成される。しかし、ゲーサイト又はアカガネアイトも親水性の水酸基を有しており、レピドクロサイトと同じように、アパタイトなどの親水性の物質を容易に結合させることが可能である。レピドクロサイト含有層におけるレピドクロサイトの比率は、特に限定されないが、50%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0016】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、レピドクロサイト含有層の外側に、アパタイト層を有している。アパタイト層を構成するアパタイトは、特に限定されないが、例えば、水酸アパタイトを挙げることができる。水酸アパタイトは、一般組成をCa10(PO(OH)とする化合物である。水酸アパタイト以外のアパタイトとしては、水酸アパタイトのCa成分の一部分が、Sr、Ba、Mg、Fe、Al、Y、La、Na、K、Hなどから選ばれる1種以上で置換されたアパタイト、また、(PO)成分の一部分が、VO、BO、SO、CO、SiO等から選ばれる1種以上で置換されたアパタイト、(OH)成分の一部分が、F、Cl、O、CO等から選ばれる1種以上で置換されたアパタイト、及び、これらの各成分の一部が欠陥となってアパタイトを挙げることができる。具体的には、フッ素アパタイト(水酸基の部分にフッ素が置換)、塩素アパタイト(水酸基の部分に塩素が置換)、炭酸含有アパタイト(水酸基やリン酸基の部分に炭酸基が置換)に、酸素アパタイト(水酸基の一部が酸素イオンで置換)、カルシウム欠損アパタイト(カルシウム含有量が少ない)、陽イオン置換アパタイト(カルシウム部分にナトリウム、カリウム。マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなどが置換)、及び、これらの複合置換化合物などのアパタイト化合物等が含まれる。
【0017】
アパタイトのカルシウム及びリンの原子比(Ca/P)は1.3〜1.8の範囲内にあることが好ましく、特に1.5〜1.7がより好ましい。原子比が1.3〜1.8の範囲内にあると、生成物中のアパタイト(リン酸カルシウム化合物)の組成と結晶構造が、脊椎動物の骨の中に存在するアパタイトと類似の組成と構造をとることができるため、生体親和性がより高くなるからである。
【0018】
アパタイト層の調製においては、その調整条件、例えば、カルシウム/リン酸のイオン強度や供給速度、pH、合成温度、添加有機物、界面活性剤の添加などを変化させることによって、アパタイトの物性、例えば、比表面積、細孔分布、平均細孔径、気孔率などが異なるアパタイトを得ることが可能である。本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子におけるアパタイト層を形成するアパタイトの物性は特に限定されるものではない。アパタイト層は、物性の均一なアパタイトから構成されてもよいが、物性の異なるアパタイトの組み合わせによって構成されてもよい。すなわち、アパタイト層のすべてが、均一な物性を有する単層のアパタイトで構成されてもよく、内側から外側にかけて物性が徐々に変化するようなアパタイト層、例えば、内側が緻密で外側が多孔性のアパタイトへ徐々に変化するアパタイトから構成されてもよい。また、アパタイト層は、物性の異なる2層又は3層以上のアパタイト層から構成されてもよい。
【0019】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子をドラッグデリバリーシステム用の担体、又は電磁波温熱効果による温熱治療用の発熱体として生体内で用いる場合は、フェライト粒子の重金属が生体内の体液と直接接触することを防ぐため、レピドクロサイト含有層に直接接触して覆うアパタイト層は緻密なアパタイト層が好ましい。更に、本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、緻密アパタイト層の外側にその用途に応じて、適当な物性の外側アパタイト層を形成させることができる。例えば、生理活性物質などの薬剤を担持させることのできるドラッグデリバリーシステム用の担体として用いる場合は、薬剤を十分に担持させることができるように、緻密アパタイト層の外側に、多孔性の外側アパタイト層を有する2層構造であることが好ましい。また、用途によっては、前記アパタイト層は、3層以上の構造であってもよい。
【0020】
生体内で用いるアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、前記のようにレピドクロサイト含有層の上に、緻密なアパタイト層を形成することが好ましい。緻密なアパタイト層はレピドクロサイト含有層が水酸基を有し、その表面が親水性となっていることにより、形成されるが、アパタイトを被覆させる条件を最適化することによって、より緻密なアパタイト層を形成することが可能である。緻密なアパタイト層は、レピドクロサイト含有層を有するフェライト粒子などの強磁性粒子の表面を完全に覆っており、生体の体液成分と強磁性粒子の接触を防ぐことができるものである。また、アパタイト層が2層以上の構造を取る場合には、外側アパタイト層との結合を強固にする役割も果たす。この、アパタイト被覆磁性ナノ粒子を生体内で用いる場合は、緻密なアパタイト層の厚さは、10nm〜1μmが好ましい。また、アパタイト緻密層の相対気孔率は40%以下であることが好ましい。ここで相対気孔率とは、窒素ガスを用いたBET法により測定された総容積から以下の式で計算されるものである。
相対気孔率(%)=測定された総容積(mL/g)/(測定された総容積(mL/g)+0.3169(mL/g))×100
ここで、0.3169mL/gは水酸アパタイトの理論密度3.146g/cmから単位グラム当たりの体積に換算させた値である。
【0021】
この緻密なアパタイト層の比表面積は、好ましくは40m/g以下であり、より好ましくは0.5〜30m/gであり、最も好ましくは、1〜20m/gである。緻密なアパタイト層の比表面積が、40m/g以下であることによって、フェライト粒子の重金属が生体内の体液と直接接触することを防ぐことができる。比表面積が40m/gより大きくなると、アパタイトが多孔性となり、フェライト粒子と生体内の体液の接触を防ぐことが困難となるからである。
【0022】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、ドラッグデリバリーシステム用の担体として用いる場合に、緻密アパタイト層に薬剤を担持させることも可能であるが、薬剤の種類によって外側アパタイト層の物性を最適化することにより、薬剤を更に多量に担持させることが可能である。この場合の外側アパタイト層の比表面積は、好ましくは20〜400m/gであり、より好ましくは30〜300m/gであり、最も好ましくは、50〜200m/gである。比表面積が20m/g以上であると、生理活性物質などの薬剤の担持できる量が増大するため好ましい。また、比表面積が大きくなるほど薬剤を担持できる量は大きくなるが、比表面積が400m/gより大きくなると、強い化学的吸着を引き起こすために、生体内で薬剤を放出しにくくなる。しかし、比表面積が、400m/g以下であると、アパタイト層が適度に荒い構造を有しているために、多くの薬剤を保持できると共に、生体内で薬剤を徐々に放出することが可能であり、最適な徐放性を得ることができる。
【0023】
更に、ドラッグデリバリーシステムの担体として使用する場合は、アパタイト層、特に外側アパタイト層の細孔分布は、好ましくは3〜1000nmであり、より好ましくは3〜500nmであり、最も好ましくは、5〜200nmである。3nm以上であると薬剤の導入の点で好ましく、1000nm以下であると薬物の放出の点で好ましい。平均細孔径は、好ましくは5〜200nmであり、より好ましくは5〜100nmであり、最も好ましくは、5〜60nmである。5nm以上であると薬物の細孔内への導入の点で好ましく、200nm以下であると薬物の放出の点で好ましい。更に、相対気孔率は、40%以上が好ましい。40%以上であると薬物が吸着できる量の点で好ましい。
【0024】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、コアとして強磁性粒子、その表面と直接に接触してコア表面を覆うレピドクロサイト含有層、及びそのレピドクロサイト含有層と直接接触してレピドクロサイト含有層を覆うアパタイト層を有する積層構造を有する。更に、アパタイト層が、内側の緻密アパタイト層及びその外側の外側アパタイト層である積層構造を有することによって、生体内で使用するドラッグデリバリーシステム用の担体として、有用に使用することができる。
アパタイト被覆磁性ナノ粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、10nm〜100μmが好ましい。10nm未満であると凝集が著しくなり、特に安定なコア部分が3nm未満になると超常磁性となって強磁性を示さなくなることがある。また、十分なアパタイトの緻密層が形成されないことがある。100μmを超えると注射器の針が太くなり、患者への投与の際に痛みを伴うことがあり、大きさとして適していない。アパタイト被覆磁性ナノ粒子の飽和磁化量は、強磁性粒子の飽和磁化量と被覆されるアパタイト層の量によって決定されるが、アパタイト被覆磁性ナノ粒子の飽和磁化量は、10〜50emu/gが好ましい。飽和磁化が10emu/gより小さいと、磁石による誘導又は捕集が困難になり10emu/gより大きくするためには、アパタイト層の含有量を少なくする必要があり、実用的ではない。アパタイト被覆磁性ナノ粒子の保磁力は、一般的に保持力が大きくなると磁性ナノ粒子の間の凝集力が大きくなり、分散性が悪くなる。アパタイト被覆磁性ナノ粒子の飽和磁化量は、20〜40emu/gの範囲であれば、実用上問題ない。
【0025】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子の、強磁性粒子コアに用いる強磁性粒子としては、市販の強磁性粒子を使用することも可能であるが、公知の方法を用いて製造することができる。
例えば、フェライト粒子は、時系列を制御した共沈法、エマルジョン法又は噴霧熱分解法などで製造することが可能である。2価鉄イオン及び3価鉄イオンを含む水溶液とアルカリ溶液とを、液温0℃から15度で混合し、コロイド粒子を生成し、例えば、80℃まで温度を上げることによって、フェライトの磁性微粒子を得ることができる。更に、溶液のpHを水酸化ナトリウム又はアンモニアなどで8〜12に調製し、酸化剤の添加、又は空気のバブリングにより、粒子を酸化させることによってフェライト粒子を形成させることが可能である。酸化剤としては、例えば、NaNO及びKOCOCHの混合液を用いることができる。また、空気で酸化させる場合は、空気のバブリング速度は100〜400リットル/時間が好ましく、溶液の保持温度は、24〜90℃が好ましい。また、フェライトの組成としては、外部からの磁場印加によって、より患部に薬剤を効率よく輸送するために磁性を高めるFe以外の金属も導入することができる。例えば、マグネタイト(Fe)に、マンガン、亜鉛、ニッケル、リチウム、コバルト、銅等のイオンのドープを行い、Feの一部をそれらの金属に置き換えたフェライト粒子を作成することも可能である。
【0026】
前記のフェライト粒子の表面に、直接レピドクロサイト含有層を形成することができる。レピドクロサイト含有層の薄膜の形成は、3価鉄イオンと酸化剤を含む溶液のpHを調節し、液相法又はスプレー法などで形成することができる。レピドクロサイト含有層の薄膜の形成のためには、前記溶液のpHをpH7〜9に調整することが好ましく、より好ましくはpH7.8〜8.8である。また、反応温度は好ましくは、20〜150℃であり、より好ましくは50〜120℃である。
【0027】
レピドクロサイト含有層上のアパタイト層は、前記レピドクロサイト含有層を有するフェライト粒子をアパタイト反応溶液に浸漬して作製することができる。例えば、前記レピドクロサイト含有層を有するフェライト粒子を水に分散させる。この分散液にカルシウムイオンが含まれた溶液を加え、アルカリでpHを5〜10に調製する。pHを維持しながら、カルシウムイオンが含まれた溶液とリン酸イオンが含まれた溶液を同時に加え(同時滴下法)で2〜6時間攪拌することにより、アパタイト層を形成することができる。
リン酸イオンとしては、PO3−、HPO2−及びHPOのいずれをも使用することができる。反応溶液中のリン酸イオンの濃度としては0.3〜5mMの範囲が好ましく、1〜2mMの範囲がより好ましい。反応溶液中のカルシウムイオンの濃度としては0.5〜10mMの範囲が好ましく、2.5〜5mMの範囲がより好ましい。水溶液中にはリン酸イオンとカルシウムイオンの他に各種イオンを含むことができ、特に生体内の体液や血液に含まれる、H、Na、K、Mg2+等の陽イオンや、OH、Cl、CO2−、HCO、PO3−、SO2−等の陰イオンを適量含む水溶液が好ましい。反応温度は、2〜80度が好ましく、室温〜40度がより好ましい。また、水溶液のpHは前記のように5〜10の範囲とすることが望ましく、pH6〜8がより好ましい。反応水溶液は、pHを調節するために、有機緩衝剤を含むことができる。例えば、トリスヒドロキシルアミノメタン等を使用することができる。pHが5未満では第二リン酸カルシウム塩が析出しやすくなり、pHが10より大きい場合には水酸化カルシウムが安定相となりアパタイトが析出しにくくなる。
【0028】
レピドクロサイト含有層上のアパタイト層は、前記レピドクロサイト含有層を有するフェライト粒子をアパタイト反応溶液に浸漬する高温湿式法によって作製することができる。例えば、前記レピドクロサイト含有層を有するフェライト粒子を、アルカリでpHを7〜14に調整したリン酸イオンが含まれた溶液に分散させる。この分散液にカルシウムイオンが含まれた溶液を加え、最終pHが7〜10になるように加える。所定のpHで合成したい場合はアルカリ溶液とカルシウムイオン溶液を同時に滴下して制御する。反応温度を40〜160度で、2〜12時間攪拌することにより、緻密なアパタイト層を形成することができる。
【0029】
リン酸イオンとしては、PO3−、HPO2−及びHPOのいずれをも使用することができる。溶液中のリン酸イオンの濃度としては1.0〜500mMの範囲が好ましく、10〜250mMの範囲がより好ましい。溶液中のカルシウムイオンの濃度としては1.0〜750mMの範囲が好ましく、15〜500mMの範囲がより好ましい。水溶液中にはリン酸イオンとカルシウムイオンの他に各種イオンを含むことができ、特に生体内の体液や血液に含まれる、H、Na、K、Mg2+等の陽イオンや、OH、Cl、CO2−、HCO、PO3−、SO2−等の陰イオンを適量含む水溶液が好ましい。反応温度は、40〜160度が好ましく、80〜140度がより好ましい。また、水溶液のpHは前記のように7〜14の範囲とすることが好ましく、pH7〜10がより好ましい。pHが7未満では第二リン酸カルシウム塩(モネタイト・ブルッシャイト)が析出しやすくなり、pHが10より大きい場合にはリン酸カルシウムの析出量が十分でない。この際に形成するアパタイトの結晶形態を制御するために、陽イオン界面活性剤(CTAB、CTAC)や、陰イオン界面活性剤(SDS、AOT)、及び非イオン性界面活性剤(Tween、P−123、F−127)などを適量加えることで可能である。レピドクロサイト含有層上の水酸基と滴下したカルシウムイオンが結合し、周囲のリン酸イオンと反応することでアパタイトの結晶核形成が界面で生じ、同時に高温処理のためアパタイト結晶成長が生じて緻密なアパタイト層が形成する。更に、カルシウム溶液に、Sr2+、Ba2+等の陽イオンを含ませることも可能である。
【0030】
更に、レピドクロサイト含有層上のアパタイト層は、前記レピドクロサイト含有層を有するフェライト粒子と第二リン酸カルシウム粒子をリン酸酸性溶液中に分散させて水熱処理を行う水熱法により作製することができる。リン酸酸性溶液のpHを2〜7に調整し、分散液を密閉した圧力容器に加える。80〜200度の温度で、2時間〜7日間処理を行い、緻密なアパタイト層を形成することができる。
【0031】
リン酸イオンとしては、PO3−、HPO2−及びHPOのいずれをも使用することができる。第二リン酸カルシウムの反応溶液に対する混合量としては、100mL当たり10mg〜5gの範囲が好ましく、100mg〜1gの範囲がより好ましい。水溶液中にはリン酸イオンとカルシウムイオンの他に各種イオンを含むことができ、特に生体内の体液や血液に含まれる、H、Na、K、Mg2+等の陽イオンや、OH、Cl、CO2−、HCO、PO3−、SO2−等の陰イオンを適量含む水溶液が好ましい。反応温度は、80〜200度が好ましく、100〜160度がより好ましい。また、水溶液のpHは前記のように2〜7の範囲とすることが好ましく、pH3〜5がより好ましい。pHが2未満ではアパタイト被覆磁性ナノ粒子が形成せず、pHが7より大きい場合には緻密なアパタイト層が形成せず、アパタイトとフェライト粒子の混合層になる。この際に形成するアパタイトの結晶形態を制御するために、陽イオン界面活性剤(CTAB、CTAC)や、陰イオン界面活性剤(SDS、AOT)、及び非イオン界面活性剤(Tween、P−123、F−127)などを適量加えることで可能である。更に、アルコール(エタノールなど)を加えることでも結晶形態の制御が可能である。第二リン酸カルシウムは水熱条件下で一度完全に溶解し、レピドクロサイト含有層との界面でアパタイトの核形成並びに結晶化(析出)がおきるため、緻密なアパタイト層が得られる。更に第二リン酸カルシウムの変わりに、第二リン酸ストロンチウムや第二リン酸バリウム更にそれらの混合置換物などを用いることも可能である。
【0032】
緻密なアパタイト層上の厚い外側の多孔性のアパタイト層は、緻密なアパタイト層をもつ粒子をアパタイト作製溶液(飽和溶液)に浸漬して作製することができる。例えば、前記緻密なアパタイト層をもつ粒子をアパタイト作製溶液に添加して室温で2〜12時間攪拌することで外側の多孔性のアパタイト層を形成することができる。
アパタイト作製溶液としては、擬似体液(pH7.4)(T. Kokubo, H.M. Kim, M. Kawashita, Biomater., 24, 2161 (2003))に浸漬する方法や塩化ナトリウムとカルシウム及びリン酸を含む溶液に浸漬する方法がある。水溶液中のリン酸イオンの濃度としては0.1〜5mMの範囲が好ましく、0.5〜2mMの範囲がより好ましい。水溶液中のカルシウムイオンの濃度としては0.5〜10mMの範囲が好ましく、2.0〜5mMの範囲がより好ましい。また、ナトリウム及び塩素イオンの濃度としては、100〜200mMの範囲が好ましい。水溶液のpHは7〜9の範囲とすることが望ましく、pH7.2〜8.0がより好ましい。水溶液は、pHを調節するために、有機緩衝剤を含むことができる。例えば、トリスヒドロキシルアミノメタン等を使用することができる。これにより、大きさ10〜100μmの球状粒子が得られる。
【0033】
そのほかの方法としては、緻密なアパタイト層をもつ粒子とアパタイト懸濁液を混合分散させ、スプレイドライ処理により1〜20μmの球形粒子を作製する方法がある。アパタイト懸濁液は、水酸化カルシウム懸濁液中にリン酸水溶液を滴下し合成する。水酸化カルシウム懸濁液の濃度は、0.05〜1.0mol/Lの範囲が好ましく、0.15〜0.5mol/Lの範囲がより好ましい。またリン酸水溶液の濃度は、0.05〜1.0mol/Lの範囲が好ましく、0.15〜0.5mol/Lの範囲がより好ましい。合成時の温度は0〜80度の範囲が好ましく、0〜40度の範囲がより好ましい。水酸化カルシウム懸濁液にSr2+、Ba2+、Zn2+等の陽イオンを含ませることも可能である。スプレイドライ処理の条件としては、噴霧圧0.1〜1.5MPa、送液速度1〜500mL、140〜250℃で行うことが好ましい。
【0034】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、ドラッグデリバリーシステム用の担体として用いることができる。ドラッグデリバリーシステム用の担体として用いる場合、緻密アパタイト層に薬剤を担持させることも可能であるが、外側の多孔性のアパタイト層に生理活性物質、例えば、抗癌剤を担持させることが好ましい。抗癌剤を担持させた担体を磁性により患部へ誘導し、薬剤を体内で徐放させることができる。薬効成分は、多孔質のアパタイト層に担持されているために、徐々に患部において放出され、長期間(約2週間)にわたって癌組織に作用し、これを死滅させることが可能である。
【0035】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、電磁波温熱効果を利用して、温熱療法用の発熱体として用いることが可能である。電磁波温熱効果は、導電性の磁性体に外部から電磁波を印加することによって誘導加熱を起こさせる現象である。アパタイト被覆磁性ナノ粒子を磁化により癌組織に誘導し、生体外から電磁波を印加し、アパタイト被覆磁性ナノ粒子を加熱することによって、癌細胞を死滅させることができる。
【0036】
また、本発明によるアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、癌治療においては、ドラッグデリバリーシステム用の担体として抗癌剤を徐放し、化学療法が終了した後に、又は化学療法と平行して、温熱療法用の発熱体として利用し、温熱療法を行うことが可能である。
【0037】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、中実なマグネタイトナノ粒子を用いているため、従来のフェライトがメッキされた磁性粒子と比較すると、1/10の弱い外部磁場の印加で粒子を患部に集めることが可能である。特には、強磁性粒子コアとしてマンガン亜鉛フェライト〔(Mn,Zn)Fe〕粒子を用いることにより、マグネタイト粒子を用いる場合と比較して、更に、磁化の値を1.7倍高めることが可能である。従って、患部に担体を誘導するために生体の外部から印加する磁場の値をマグネタイト粒子を強磁性粒子コアとして用いた場合に比べて、1/17に低減できることができる。これにより、生体に強い磁場を印加することによる副作用の影響を抑制することが可能である。
【0038】
本発明によるアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、前記のように中実な磁性粒子を用いている。そのため、導電率の高い強磁性粒子、例えばマグネタイト粒子をコアとして用いたアパタイト被覆磁性ナノ粒子を、温熱療法の発熱体として使用する場合は、高周波の印加の条件によっては、温度上昇効果が高すぎる場合があることを見出した。しかしながら、強磁性粒子コアとして、マンガン亜鉛フェライト粒子を用いることによって、磁性体の導電率をマグネタイト粒子より一桁低下させることが可能である。これによって、誘導加熱によって温度が上昇する効果が大幅に抑制され、最適な上昇温度が得ることができる。すなわち、強磁性粒子コアとして、マンガン亜鉛フェライトを用いることにより、弱い磁場の印加で薬剤を患部に確実に集めることが可能であり、更に最適な電磁波温熱効果を同時に実現することに成功した。
【0039】
アパタイト被覆磁性ナノ粒子を、ドラッグデリバリーシステム用の担体、又は温熱療法の発熱体として用いた場合は、治療が終了した後に、アパタイト被覆磁性ナノ粒子は生体内に残留する。本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子を用いた治療後、1カ月を経過した後にも血液中のFe、Mn及びZnの濃度は正常値の範囲にあり、重金属がアパタイト被覆磁性ナノ粒子から溶解した事実は認められなかった。また、1カ月を経過後にアパタイト被覆磁性ナノ粒子の存在状態を調べたところ、生体の組織とよく親和しており、生体に残留していることによる悪影響は見られないことが確認された。
【0040】
本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、吸着用担体として用いることができる。アパタイト層により、ウイルス、細菌、タンパク質などを捕捉し、磁気により効率的にアパタイト被覆磁性ナノ粒子を補修することができ、捕捉したウイルスやタンパク質を単離し回収することが可能である。
また、アパタイト被覆磁性ナノ粒子に抗体を結合させ、その抗体とタンパク質を結合させ、タンパク質などを試料から分離することができる。また、アパタイト被覆磁性ナノ粒子を免疫測定用の磁性粒子としても利用することも可能である。
【実施例】
【0041】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
《実施例1》
(1)16.6mmol/Lの塩化鉄(FeCl)水溶液を100mL、5.3mmol/Lの塩化マンガン(MnCl)水溶液140mL、及び0.2mmol/Lの塩化亜鉛(ZnCl)水溶液415mLを混合した。この混合液を撹拌しながら、水酸化ナトリウムで、pH8に調製し、粒子を調製した。懸濁液の温度を90℃まで上昇させ、4.3mmol/LのNaNOと65mmol/LのKOCOCHの混合水溶液を滴下し、粒子を酸化させ、マンガン亜鉛フェライトを生成させた。平均粒径が50nmのマンガン亜鉛フェライト粒子が得られた。
(2)次に、得られたマンガン亜鉛フェライト粒子の表面にレピドクロサイト層を形成させる工程を実施した。マンガン亜鉛フェライト粒子を水溶液中に分散させ、0.01mol/LのFeCl水溶液100mL、及び0.001mol/LのNaNO 10mLを加えて、pHを水酸化ナトリウム又はアンモニアで、8.3に調整した。分散液の濃度を25℃に維持し、空気のバブリングによって、酸化を行い、表面をレピドクロサイトに変換した。表面の水酸基はエックス線光電子分光法(XPS)並びに広域エックス線吸収微細構造(EXAFS)で確認した。
(3)次に、レピドクロサイト層上に、緻密なアパタイト層の形成させる工程を実施した。前記の表面にレピドクロサイト層が形成されたマンガン亜鉛フェライト粒子を、十分に水洗し、3.3gの粒子を、5mol/L水酸化ナトリウムを添加しpHを13に調整した0.24mol/Lリン酸水素カリウム(KHPO)溶液100mLに添加し、還流装置を備えた反応装置にて温度120℃に保持した。Ca/P比が10/6になるように濃度調整した0.666mol/Lの塩化カルシウム溶液60mLをゆっくりと滴下した。滴下終了後、120℃で6時間攪拌した。遠心分離により固液分離を行い、純粋で十分に洗浄を行い110℃で乾燥させた。(ここで、アパタイト粒子とフェライト粒子との理論体積比は2:1として合成した。)
(4)最後に、緻密なアパタイト層上に外側アパタイト層を形成する工程を実施した。緻密アパタイト層が形成された粒子200mgをリン酸カルシウム飽和溶液400mL(pH8.0トリスヒドロキシルアミノメタン;Na28mM、Ca2+2.5mM、Cl296mM、HPO2−1.0mM)に分散させ、攪拌させながら6時間、37度で保持した。純水で洗浄し、110℃で乾燥した。
【0043】
《比較例1》
マンガン亜鉛フェライト粒子に、レピドクロサイト層を形成させる前記工程(2)を除いては、実施例1と同じ前記工程(1)、(3)及び(4)を繰り返した。つまり、レピドクロサイト層を有さない粒子を調製した。
【0044】
《鉄の価数の確認》
マンガン亜鉛フェライトの鉄の価数は、メスバウワー法とエックス線光電子分光法(XPS)を併用して確認した。その結果、フェライトのコア粒子表面では鉄は2価と3価の混合である一方、レピドクロサイト層を形成後には鉄は3価のみとなっており、レピドクロサイトの生成が確認された。
【0045】
《結晶構造の解析》
マンガン亜鉛フェライトの結晶構造は、透過型電子顕微鏡(TEM)の制限視野解析法で観察した。その結果、立方晶のスピネル構造を有していることが明らかになった。
【0046】
《BET法による比表面積の測定》
比表面積は、自動比表面積測定装置(日本ベル製、BELSORP36)を用いて測定した。120℃で真空乾燥したサンプルを、窒素ガスを用いて測定し、BET法に基づく1点法にて比表面積を決定した。
実施例1の緻密アパタイト層は、22m/g、外側アパタイト層は56m/gの比表面積を示した。
【0047】
《透過型電子顕微鏡による界面観察》
実施例1におけるマンガン亜鉛フェライト粒子とレピドクロサイト(γ−FeOOH)層の界面、及びレピドクロサイト層と緻密なアパタイト層との界面の状態観察、及び比較例1におけるマンガン亜鉛フェライト粒子とアパタイト層の界面の状態観察を透過型電子顕微鏡(TEM)で行った。その結果、レピドクロサイト(γ−FeOOH)層を有する場合に緻密なアパタイト層がその表面近傍に生成するのに対し、レピドクロサイト(γ−FeOOH)層が存在しない場合は、緻密なアパタイト層が生成せず、多孔性のアパタイト層が直接まばらに生成し、その接合強度が低いために容易にマグネタイト及びフェライト表面から剥がれ落ちる傾向があることが確認された。
【0048】
《実施例2》
アパタイト被覆磁性ナノ粒子の表面には抗癌剤(ビスフォスフォネート・タキソール等)を含浸させた。得られた薬剤含浸粒子を生理食塩水・リン酸バッファー溶液に入れて溶出速度を測定した。その結果、約2週間にわたって安定した薬剤の徐放効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によるアパタイト被覆磁性ナノ粒子は、抗癌剤などを癌組織に誘導し、化学療法を行うための、ドラッグデリバリーシステム用の担体として用いることができる。また、磁性ナノ粒子の電磁波温熱効果を利用し、癌細胞を熱によって死滅させる温熱療法における発熱体として用いることができる。更に、アパタイト層により、ウイルス、細菌、タンパク質などを捕捉し、磁気により効率的に集め、捕捉したウイルスやタンパク質を単離し回収する吸着用担体として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のアパタイト被覆磁性ナノ粒子の一態様を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・強磁性粒子コア(マグネタイト(Fe)磁性);
2・・・レピドクロサイト含有層〔レピドクロサイト(Lepidocrocite・燐鉄鋼)Fe3+O(OH)マグネタイトとアパタイトの接合領域:一体化した界面〕;
3・・・緻密アパタイト層;
4・・・外側アパタイト層〔アパタイト生体親和性・カルシウム機能(多孔層:水酸アパタイトなど)〕。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性粒子コアと、その表面と直接に接触してコア表面を覆うレピドクロサイト含有層と、そのレピドクロサイト含有層と直接接触してレピドクロサイト含有層を覆うアパタイト層とを含むことを特徴とする、アパタイト被覆磁性ナノ粒子。
【請求項2】
前記強磁性粒子コアが、マグネタイト粒子、マグヘマイト粒子、コバルト粒子、ニッケル粒子又はいずれかの強磁性粒子が、マンガン、亜鉛、ニッケル、リチウム、コバルト、銅、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、バリウム及びストロンチウムからなる群から選択された金属がドープされた強磁性粒子である、請求項1に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子。
【請求項3】
前記強磁性粒子コアが、マグネタイト、又はマグネタイトが、マンガン、亜鉛、ニッケル、リチウム、コバルト、銅、バリウム及びストロンチウムからなる群から選択された金属によってドープされたフェライト粒子である、請求項1又は2に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子。
【請求項4】
前記フェライト粒子が、マグネタイト粒子又はマンガン亜鉛フェライト粒子である、請求項4に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子。
【請求項5】
前記アパタイト層が緻密アパタイト層である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子。
【請求項6】
前記アパタイト層が内側の緻密アパタイト層、及び外側アパタイト層を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子。
【請求項7】
前記緻密アパタイト層の比表面積が40m/g以下であり、前記外側アパタイト層の比表面積が20〜400m/gである、請求項6に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子。
【請求項8】
前記磁性粒子状コアの平均粒径が10μm以下である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子。
【請求項9】
アパタイト被覆磁性ナノ粒子の平均粒径が100μm以下である、請求項1〜8のいずれか一項に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子。
【請求項10】
フェライト粒子の表面を酸化してその表面にレピドクロサイト含有層を形成する工程、及び
アパタイト反応溶液を接触させ、アパタイトを析出することによりアパタイト層を形成する工程を含む、アパタイト被覆磁性ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子からなるドラッグデリバリーシステム用の担体。
【請求項12】
癌治療用である、請求項11に記載のドラッグデリバリーシステム用の担体。
【請求項13】
肝癌治療用である、請求項11又は12に記載のドラッグデリバリーシステム用の担体。
【請求項14】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子からなる、温熱治療用の発熱体。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のアパタイト被覆磁性ナノ粒子からなる吸着用担体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−137911(P2008−137911A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323621(P2006−323621)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】