説明

生分解性フィルムの製造方法

【課題】高強度で柔軟性や伸びにも優れた生分解性フィルムを提供する。
【解決手段】下記式(1)[−CHR−CH2−CO−O−] (1)(但し、式(1)中、RはCn2n+1で表されるアルキル基で、nは1〜15の整数である。)で示される2種以上の繰り返し単位からなるポリヒドロキシアルカノエートを主成分とする熱可塑性樹脂を溶融してフィルム状に形成し、溶融したフィルムを一旦結晶化させた後、前記樹脂の融点以下でかつガラス転移温度以上の温度で圧延して一次延伸し、さらに前記圧延温度より高い温度で二次延伸してフィルム状にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性フィルムの製造方法に関し、さらに詳しくは、ポリヒドロキシアルカノエート(以下、「PHA」と略記する。)を主成分とする熱可塑性樹脂からなるフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境中に廃棄された膨大なプラスチック類が環境破壊の原因となっているという社会的な問題がクローズアップされて以来、自然環境中で分解して二酸化炭素と水に還元される生分解性プラスチックの開発が精力的に進められている。現在、知られている生分解性プラスチックは、製法で分類すると、化学合成法(例えば、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート)、天然物配合品(例えば、デンプンやセルロース及びこれらと他の分解性プラスチックのブレンド品)、微生物産生ポリエステル(例えば、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)(以下、「PHB」と略記する。)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシバレレート)(以下、「PHBV」と略記する。))等のPHA類がある。
【0003】
これらの中にあって、微生物産生ポリエステルは、微生物が体内に蓄積する貯蔵物質であり、微生物が飢餓状態に陥ったときにエネルギー源として使用される高分子物質である。自然界には、微生物産生ポリエステルを分解する微生物が多数生息しており、微生物が産生するポリエステルは、土壌中、河川中、湖水中、海水中、活性汚泥中、堆肥(コンポスト)中等、自然環境にあっても、好気性、嫌気性、いずれの環境下でも優れた分解性を示す。また、燃焼時には有毒ガスを発生せず、植物由来原料を使用しており、地球上の二酸化炭素を増大させないカーボンニュートラルである、といった優れた特徴を有している。PHAの中でも、単独重合体であるPHBは、結晶化度が最も高く、融点も高い。PHAが共重合体の場合、構成するモノマー単位(成分)の組成比を制御することで、融点(耐熱性)や柔軟性等の物性を変化させることが可能である。
【0004】
このように、PHAは、再生可能な植物原料から製造されており、生分解性に優れていることから、廃棄物の問題が解決され、環境適合性に優れるため、包装材料、食器材料、建築・土木・農業・園芸材料等への適用が期待されつつある。
【0005】
その一方で、PHAは、加工性に関して二つの大きな問題を有する。一つは、遅い結晶化速度に由来する加工性の悪さ、もう一つは、高温に加熱した場合の熱分解による分子量低下である。例えば、PHA類のなかでもPHBは、融点が175℃と高温であり、加工温度が高くなることから、加熱加工時に熱分解し易く、成形体の分子量が低下してしまうため加工幅は狭い。一方、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(以下、「PHBH」と略記する。)の場合、共重合成分のうち、3−ヒドロキシヘキサノエート成分の比率が増大すると融点は低下し、熱加工温度を下げることができ、熱分解を抑制できる。また、PHA類の遅い結晶化速度を改善するために、結晶核剤の添加検討が多く行われており、結晶核剤として窒化ホウ素やタルク等が知られている。
【0006】
PHAは、溶融状態から冷却すると、ガラス転移温度(以下、「Tg」と略記する。)以上の温度で結晶化するが、そのフィルムは脆くて延伸が困難であり、そのため強度の高いフィルムを作ることができなかった。延伸が困難な理由は、PHAの結晶化で発生する大きな球晶のため、あるいは、PHAの非晶部に起こる二次結晶化によるクラック発生のためといわれている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。
【0007】
この問題を解決するために、繊維化においては、押出機で溶融したPHAを押出直後にポリマーのTg以下に急冷したのちにTg以上に加熱して延伸する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、フィルムの作製においても、PHAの溶融フィルムを形成したのち、Tg+10℃以下に急冷、固化して非晶質のフィルムを作製し、該非晶質フィルムを延伸し、さらに緊張熱処理することが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
これらの方法は、溶融したポリマーをTg以下に急冷して非晶質のままで一旦固化することが特徴であるが、一般にPHAのTgは室温以下であり、Tg以下に急冷することは工業的には経済的でない。また、フィルムの場合は、繊維に比べて延伸の度合いが小さくて大きな張力がかからないために大きな球晶が発生しやすいという問題があった。
【特許文献1】特開2002−371431号公報
【特許文献2】特開2003−311824号公報
【非特許文献1】“Biopolymers” Volume 4, Polyesters III Applications and Commercial Products, WILEY-VCH, p64
【非特許文献2】井上義夫監修、グリーンプラスチック最新技術、シーエムシー出版、p147
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、PHA類を用いてフィルムでの延伸を可能にする実用的な方法を見出し、高強度の生分解性フィルムが得られる製造方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、強度のみならず柔軟性や伸びにも優れた生分解性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、溶融したフィルムを一旦結晶化させた後、樹脂の軟化温度以下でかつガラス転移温度以上の温度で圧力をかけることによって延伸(圧延)することにより、さらに高度に延伸することが可能になり、強度の高いフィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明の第1は、ポリヒドロキシアルカノエートを主成分とする熱可塑性樹脂からなるフィルムを製造するに際し、前記樹脂を溶融してフィルム状に形成し、溶融したフィルムを一旦結晶化させた後、前記樹脂の融点以下でかつガラス転移温度以上の温度で圧延して一次延伸し、さらに前記圧延温度より高い温度で二次延伸することを特徴とする生分解性フィルムの製造方法である。
【0012】
本発明の第2は、前記生分解性フィルムの製造方法において、前記一次延伸の圧延をロールを用いて行う方法である。
【0013】
本発明の第3は、前記生分解性フィルムの製造方法において、ロール圧延を20〜90℃の範囲内の温度で行う方法である。
【0014】
本発明の第4は、前記生分解性フィルムの製造方法において、前記ポリヒドロキシアルカノエートが、微生物から生産される、下記式(1)
[−CHR−CH2−CO−O−] (1)
(但し、式(1)中、RはCn2n+1で表されるアルキル基で、nは1〜15の整数である。)
で示される2種以上の繰り返し単位からなる脂肪族ポリエステル共重合体である方法である。
【0015】
本発明の第5は、前記生分解性フィルムの製造方法において、前記ポリヒドロキシアルカノエートが、前記式(1)において、n=1及び3からなるポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)である方法である。
【0016】
さらに、本発明の第6は、前記生分解性フィルムの製造方法において、前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート、PHBH)における共重合成分の組成比が、(3−ヒドロキシブチレート)/(3−ヒドロキシシヘキサノエート)=99/1〜70/30(mol/mol)である方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る生分解性フィルムの製造方法によれば、従来、強度の高いフィルムを得ることが困難であったPHAを用いてフィルムとして十分な強度を持ち、かつ必要に応じて柔軟で引張り伸びの良いフィルムを得ることができる。これによって、PHAの特徴である優れた生分解性を生かして、ゴミ袋、コンポスト袋、農業用フィルム等の用途に使用できるフィルムが製造可能となる。また、PHAは植物由来のポリマーであり、二酸化炭素を増やすことがなく地球環境に優しく、地球温暖化防止に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に用いるPHAとしては、PHB、下記式(1)
[−CHR−CH2−CO−O−] (1)
(但し、式(1)中、RはCn2n+1で表されるアルキル基で、nは1〜15の整数である。)
で示される2種以上の繰り返し単位からなる脂肪族ポリエステル共重合体(ポリヒドロキシアルカン酸共重合体(ポリヒドロキシアルカノエートコポリマー)、例えば、PHBV、PHBH等)が挙げられる。これらのPHAのうち、PHBを用いても高強度のフィルムを得ることは可能であるが、このポリマーは融解温度と加工温度が近くて加工温度幅が狭く、また得られたフィルムが硬く柔軟性に乏しい傾向にある。また、PHBVは、3−ヒドロキシバレレートの含有率によって物性は変化するが、3−ヒドロキシブチレートと3−ヒドロキシバレレートとの構造の差異が側鎖のメチレン基1つの差異であるため、結晶化度が大きく変化することがなく、やはり柔軟性には限界がある。それに対し、PHBHにおいては、3−ヒドロキシヘキサノエートの含有率が高まると急激に結晶化度が低下し、柔軟で引張り伸びの高いポリマーを得ることが可能である。従って、本発明に用いるPHAとしては、PHBHがより好ましい。この場合、前記PHBHにおける共重合成分の組成比が、(3−ヒドロキシブチレート)/(3−ヒドロキシヘキサノエート)=99/1〜70/30(mol/mol)であれば、さらに好ましい。前記組成比が99/1よりも高い、即ち3−ヒドロキシブチレートが多すぎるとPHBに近くなり加工温度幅が狭くなり、またフィルムも硬くなる傾向になる。前記組成比が70/30より低い、即ち3−ヒドロキシヘキサノエートが多すぎると樹脂の融点が低くなりすぎフィルムの耐熱性が低下する傾向になる。
【0019】
本発明で使用するPHA類としては、微生物が産生するもの、即ち発酵合成法により得られるものを用いることが好ましい。この発酵合成法に利用できる微生物としては、PHA類生産能を有する微生物であれば特に限定されない。PHB生産菌としては、アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)ともいう。)、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)、アルカリゲネス・ファエカリス(Alcaligenes faecalis)等のアルカリゲネス属等の天然微生物が知られており、これらの微生物ではPHBが菌体内に蓄積される。また、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体生産菌としては、PHBV及びPHBH生産菌であるアエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−4−ヒドロキシブチレート)生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、PHBHに関し、PHBHの生産性を上げるために、PHA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32、FERM BP−6038)(J.Bateriol., 179, 4821-4830頁(1997))等がより好ましく、これら微生物を適切な条件で培養して菌体内にPHBHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。
【0020】
上記のようなPHA類生産能を有する微生物の培養に用いる炭素源、培養条件は、特開平5−93049号公報、特開2001−340078号公報等に記載されている。例えば炭素源としては、植物油や魚油等等の油脂を用い、培養は炭素源以外の窒素、リン、ミネラル等の栄養素の制限下で微生物菌体の内部に貯蔵物質としてPHAを産生させる。また、培養条件としてのpH、温度、通気量、培養時間等は適宜調整して行われる。
【0021】
本発明で用いるPHAの重量平均分子量(以下、「Mw」と略記する。)は5万〜300万の範囲である。Mwが低すぎると溶融粘度が低くなりすぎて加工が難しく、高すぎると溶融粘度が高くなりすぎて流動性が乏しくなるうえに剪断発熱が大きくなるため加工が難しくなる。加工に適したPHAのMwの範囲は、10万〜150万程度である。
【0022】
本発明のPHAフィルムには、通常、樹脂フィルムの製造に用いられる配合剤、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、紫外線吸収剤、染料もしくは顔料等の着色剤、可塑剤、増粘剤、滑剤、結晶核剤、耐電防止剤、タルクもしくは炭酸カルシウム等の無機充填剤等を目的に応じて使用することができる。
【0023】
また、PHAの特徴を損ねない範囲で、他のポリマーをブレンドしてもよい。ブレンドするポリマーとしては、PHAの生分解性を損ねないものが好ましく、化学合成法で製造される、ポリ乳酸やポリブチレンサクシネート等、デンプンやセルロース等の天然物が挙げられる。
【0024】
本発明に係る生分解性フィルムの製造方法は、PHAを主成分とする熱可塑性樹脂を原料として、熱プレス、押出機、ロール、カレンダー等で樹脂を溶融させてフィルム状とし、溶融したフィルムを一旦結晶化させた後、樹脂の軟化点温度以下で、かつガラス転移温度(Tg)より高い温度で圧力をかけることにより延伸(圧延)し(一次延伸)、さらに前記圧延温度より高い温度で延伸(二次延伸)する。
【0025】
前記方法において、溶融したフィルムを結晶化させる温度に関しては特に制限はないが、溶融したフィルムを一旦Tg付近の温度まで急冷させ、その後温度を上げて結晶化させたり、溶融したフィルムをそのまま室温雰囲気で冷却して結晶化させてもよい。なお、後述する実施例においては、一定の結晶化をさせるため、実験の都合上、前者の方法で結晶化させた。
【0026】
また、前記一次延伸における圧延は、ロールを用いて行うロール圧延が簡便でかつ工業的にも適用できることから好ましい。ロール圧延は、20〜90℃程度の温度範囲にロールを加温し、延伸倍率はロールのクリアランスを調節することによって行うことができる。ロール圧延倍率は、1.2〜5倍程度の範囲で行うことができる。
【0027】
さらに、前記二次延伸も、融点以下、ガラス転移温度以上の温度範囲で行うが、好ましくは、30〜90℃で行う。温度が低すぎると二次延伸倍率が高くできず、温度が高すぎると樹脂が軟化して破断してしまい、やはり二次延伸倍率を高くすることができない。二次延伸は、好ましくは、加温空気中、温水中等で好適に行うことができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明に係る生分解性フィルムの製造方法について、実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。
【0029】
(実施例1〜6、比較例)
アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)由来のPHA合成酵素群遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32、受託番号FERM BP-6038)を用いて、特開2001−340078号公報の実施例1に記載された方法により培養を行い、PHBHの生産を行った。即ち、アルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus C32、受託番号FERM BP-6038)(以下、「AC32株」と略す。)を次のように培養した。前培地の組成は1w/v% Meat−extract、1w/v% Bacto−Trypton、0.2w/v% Yeast−extract、0.9w/v% Na2HPO4・12H2O、0.15w/v% KH2PO4、(pH6.7)とした。ポリエステル生産培地の組成は1.1w/v% Na2HPO4・12H2O、0.19w/v% KH2PO4、0.6w/v% (NH42SO4、0.1w/v% MgSO4・7H2O、0.5v/v% 微量金属塩溶液(0.1N塩酸に1.6w/v% FeCl3・6H2O、1w/v% CaCl2・2H2O、0.02w/v% CoCl2・6H2O、0.016w/v% CuSO4・5H2O、0.012w/v% NiCl3・6H2O、0.01w/v% CrCl3・6H2Oを溶かしたもの。)、2w/v% プロエキスAP−12(播州調味料)、5×10-6w/v% カナマイシンとした。炭素源は油脂のみとし、パーム油、パーム核油またはヤシ油4w/v%を3回に分けて添加した。AC32株のグリセロールストックを前培地に接種して20時間培養し、6Lの生産培地を入れた10Lジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ製MD−500型)に1.5v/v%接種した。運転条件は、培養温度30℃、攪拌速度400rpm、通気量1.8L/minとし、pHは6.6から6.8の間でコントロールした。コントロールには5規定の硫酸と水酸化ナトリウムとを使用した。培養は72時間まで行った。遠心分離によって菌体を回収し、メタノールで洗浄後、凍結乾燥した。この乾燥菌体からクロロホルムを用いてポリエステル(PHBH)を抽出した後、PHBHを含んだクロロホルム溶液から濾過によって菌体成分を除去し、ろ液にメタノールを加えてPHBHを沈殿させた。その後、遠心分離によって上澄み液を除去し、乾燥させてPHBHを回収した。培養終了後のPHBHの平均Mwは138万であった。これを35ミリ単軸押出機で押出温度190℃でペレット化し、3−ヒドロキシヘキサン酸の含有率7モル%、Mw=40万、融点(以下、「Tm」と略記する。)=144〜147℃、Tg=約4℃のPHBH樹脂ペレットを得た。前記PHBH樹脂のペレット試料を真空プレス機に入れ、真空プレス機内部温度約150℃で試料を溶融して空気を抜いた。その後、プレス機を氷水に入れTg以下まで急冷し、厚さ約1mmのフィルムを作製した。作製したフィルムを40℃で12時間結晶化させた。結晶化させたフィルムを5mm×25mm角に切断し、井元製作所製の加熱延伸機を用いて、40℃のロール圧延温度で、ロール回転速度を変えて、延伸倍率が約2倍になるように2本ロール間隙間でロール圧延した。ロール圧延したフィルムを幅1mmに切り、40℃、60℃、80℃、90℃の温浴中で、手回し延伸機にて種々の倍率に二次延伸した。延伸後、直ちに氷水中で冷却した。
【0030】
上記のようにして得られたフィルムについて、以下の方法で機械的物性測定を行った。
引張試験:米倉製作所製の引張試験機 CATY500BHを使用して行った(試験長:20mm、引張速度:200mm/min)。
【0031】
結晶化温度40℃、ロール圧延(一次延伸)温度40℃で、一次延伸倍率を変えた時のフィルムの最大トータル延伸倍率(二次延伸後の延伸倍率)を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1から明らかなように、比較例の如くロール圧延による一次延伸を行わないと、ほとんど延伸ができず(フィルムが破断してしまう)、最大トータル延伸倍率は2倍以上にはならない。これに対し、ロール圧延(一次延伸)を行うと、二次延伸が可能になり、最大トータル延伸倍率は20倍にもなる。ロール圧延倍率を2倍にすると最大延伸倍率が最も高くなった。
【0034】
また、一次延伸のロール圧延倍率を2.0に固定し、二次延伸温度を60℃(実施例4−1)、80℃(実施例4−2)と変えた時のフィルムの引張り物性を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2から明らかなように、トータル延伸倍率が高くなるほど、引張り強度、引張り弾性率が高くなり、20倍に延伸したフィルムでは最も高い値が得られた。また、80℃での延伸の方がより高い引張り物性を示した。
【0037】
さらに、二次延伸速度を50mm分及び500mm/分で行った場合のフィルムの引張り物性を図1及び図2に示す。図1及び図2から明らかなように、二次延伸速度が500mm/分の方が高い引張り物性を示した。また、結晶化温度を30℃、40℃、60℃、80℃と変えても延伸倍率はそれほど変わらず、引張り物性も同等であった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】二次延伸速度が50mm/分及び500mm/分の場合の延伸倍率(倍)と引張強度との関係を示すグラフである。
【図2】二次延伸速度が50mm/分及び500mm/分の場合の延伸倍率(倍)と引張弾性率との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエートを主成分とする熱可塑性樹脂からなるフィルムを製造するに際し、前記樹脂を溶融してフィルム状に形成し、前記溶融したフィルムを一旦結晶化させた後、前記樹脂の融点以下でかつガラス転移温度以上の温度で圧延して一次延伸し、さらに前記圧延温度より高い温度で二次延伸することを特徴とする生分解性フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記一次延伸の圧延をロールを用いて行うことを特徴とする請求項1記載の生分解性フィルムの製造方法。
【請求項3】
ロール圧延温度が20〜90℃の範囲内である請求項2記載の生分解性フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、微生物から生産される、下記式(1)
[−CHR−CH2−CO−O−] (1)
(但し、式(1)中、RはCn2n+1で表されるアルキル基で、nは1〜15の整数である。)
で示される2種以上の繰り返し単位からなる脂肪族ポリエステル共重合体である請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ポリヒドロキシアルカノエートが、前記式(1)において、n=1及び3からなるポリ(3−ヒドロキブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)である請求項4記載の生分解性フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記ポリ(3−ヒドロキシブチレート−コ−3−ヒドロキシヘキサノエート)における共重合成分の組成比が、(3−ヒドロキシブチレート)/(3−ヒドロキシヘキサノエート)=99/1〜70/30(mol/mol)である請求項5記載の生分解性フィルムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−168159(P2006−168159A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−362957(P2004−362957)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年7月15日 社団法人高分子学会発行の「第50回 高分子研究発表会(神戸)・講演要旨集」に発表
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】