説明

生分解性合成紙およびその製造方法

【課題】従来の合成紙と同等又はそれ以上の筆記性、印刷性を有し、かつ、天然紙のように適度なコシを有し、自然環境中でも容易に分解する合成紙を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸50〜95質量部とポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂50〜5質量部を含有する生分解性樹脂および充填剤を含む合成紙であって、合成紙の平面方向に沿って樹脂層と充填剤層が層状に配向し、かつ合成紙の厚み方向における前記充填剤層大きさが10μm以下であることを特徴とする生分解性合成紙。また、ポリ乳酸50〜95質量部とポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂50〜5質量部を含有する生分解性樹脂と、見かけ比重0.1〜0.45g/ccでかつ平均粒径が1〜8μmの充填剤とを溶融混練してシートまたはフィルムとした後、少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする前記生分解性合成紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性ポリエステル樹脂と充填材とを含む生分解性合成紙及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルプなどからなる天然紙は、鉛筆やボールペン等の筆記性や印刷性に優れ、さらに廃棄後自然環境中で分解するが、強度、耐水性が不足するなどの問題点があった。一方、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどからなる合成紙は、鉛筆やボールペン等の筆記性、印刷特性は天然紙と同等の特性を有し、かつ、強度、耐水性はそれよりも優れている。しかし、この合成紙は、廃棄後に自然環境中では分解せず永久に残存してしまい、また焼却処理した場合は、燃焼発熱量が大きいため焼却炉を傷めたり、大気中の炭酸ガス濃度が上昇するなど、産業上の問題があった。
【0003】
また、ポリブチレンサクシネートなどの生分解性樹脂を使用した合成紙が知られているが、これらの合成紙はコシがないなどの問題がある。
【0004】
一方、生分解性樹脂として、天然資源を原料とするポリ乳酸が知られており、ポリ乳酸に無機充填材を配合した未延伸フィルムからなる生分解性合成紙が開示されている(例えば、特許文献1)。しかし、適度なコシを有し、鉛筆やボールペン等の筆記性、印刷性を十分兼ね備えた合成紙は得られていない。
【0005】
さらに、前記の問題を解決すべく、特定の生分解性脂肪族ポリエステル、充填剤との組み合わせからなる生分解性合成紙が提案されているが、その性能は必ずしも十分とは言えなかった。(特許文献2、3)
【0006】
【特許文献1】特開平11−322962号公報
【特許文献2】特開2003−183419号公報
【特許文献3】特開2004−231860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の問題に鑑み、従来の合成紙と同等又はそれ以上の鉛筆やボールペン等の筆記性、耐水性、印刷性などの物性を有し、かつ、天然紙のように適度なコシを有し、自然環境中でも容易に分解し、環境を汚染することのない合成紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、合成紙の基材として、特定の特性を有する生分解性ポリエステル樹脂と充填剤とからなる組成物からなる合成紙において、無機充填剤が特定の層状態をとる場合に、上記課題が解決されることを見出し本発明に至った。すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)ポリ乳酸50〜95質量部とポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂50〜5質量部を含有する生分解性樹脂および充填剤を含む合成紙であって、合成紙の平面方向に沿って樹脂層と充填剤層が層状に配向し、かつ合成紙の厚み方向における前記充填剤層の大きさが10μm以下であることを特徴とする生分解性合成紙。
(2)ポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂が、ガラス転移温度0℃以下の樹脂であることを特徴とする(1)記載の生分解性合成紙。
(3)ポリ乳酸50〜95質量部とポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂50〜5質量部を含有する生分解性樹脂と、見かけ比重0.1〜0.45g/ccでかつ平均粒径が1〜8μmの充填剤とを溶融混練してシートまたはフィルムとした後、少なくとも一軸方向に4.1倍以上延伸することを特徴とする(1)または(2)記載の生分解性合成紙の製造方法。
(4)延伸倍率が4.1倍以上である(3)記載の生分解性合成紙の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の生分解性合成紙は、優れた鉛筆筆記性と印刷性を備えるとともに、引き裂き強度に優れ、適度なコシを有している。そのため、ポスターなど屋外用印刷物、名刺など、コシの必要な用途に好適に利用できる。
【0010】
また、樹脂組成物から構成されているため耐水性を有し、生分解性樹脂を用いているため自然環境中でも容易に分解し、環境に対する影響が小さい。
【0011】
本発明の生分解性合成紙の製造方法によれば、前記生分解性合成紙を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の合成紙は、ポリ乳酸を含有する生分解性樹脂及び充填剤を含有する。
【0013】
生分解性樹脂に含有されるポリ乳酸としては、D−乳酸、L−乳酸、又はこれらの混合物が挙げられ、D−乳酸/L−乳酸の含有比率は、耐熱性の観点から(D−乳酸)/(L−乳酸)=0.1/99.9〜15/85、もしくは99.9/0.1〜85/15の範囲が好ましく、(D−乳酸)/(L−乳酸)=0.3/99.7〜12/88、もしくは99.7/0.3〜88/12の範囲がより好ましい。
【0014】
ポリ乳酸は、公知の溶融重合法により、あるいはさらに固相重合法を併用して製造される。
【0015】
ポリ乳酸の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が3万以上、100万以下であることが好ましく、さらには5万以上、100万以下であることが好ましい。重量平均分子量が3万未満である場合には溶融粘度が低すぎ、成形性が低下するばかりか、得られた合成紙の機械物性も急激に低下するので好ましくない。逆に、これが100万を超える場合には溶融時の流動性がなくなり、成形性が急速に低下するので好ましくない。
【0016】
本発明において、生分解性樹脂は、ポリ乳酸50〜95質量部とポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂50〜5質量部とを含み、ポリ乳酸50〜90質量部、ポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂50〜10質量部とすることが好ましい。ポリ乳酸とポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂との合計質量において、ポリ乳酸の割合が50質量部%未満であると、得られる合成紙の強度、コシ、耐水性、耐熱性が低下する傾向にある。一方、ポリ乳酸の割合が95質量%を超えると十分なコシが得られない。
【0017】
本発明において、ポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂としては、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等のジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル、ポリ(ε−カプロラクトン)に代表されるポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)のほか、芳香族成分を含む生分解性ポリエステル樹脂であるポリブチレンサクシネートのテレフタレート変性物やポリブチレンアジペートのテレフタレート変性物が挙げられる。これらの中でも、合成紙に柔軟性を付与し、コシを持たせ、適度な製膜性、延伸性を得るためには、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下である樹脂を用いることが好ましく、このような樹脂として、ポリ(ブチレンサクシネート−co−ブチレンテレフタレート)や、(ブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート)、ポリエチレンサクシネートが挙げられる。
【0018】
ポリ乳酸と、ポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂は、混合されていてもよいし、共重合されていてもよい。
【0019】
合成紙としての物性を損なわない範囲で、その他の生分解性樹脂成分を共重合ないしは混合することもできる。そのような生分解性樹脂として、ポリエステルアミド、ポリエステルカーボネート、デンプンなどの多糖類が挙げられる。
【0020】
合成紙に含有される充填剤としては、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等の無機充填剤が挙げられる。また、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品等の有機充填剤を用いてもよい。これらは、単独でも2種以上の混合物であってもよい。上記の充填剤の中でも、タルクやマイカなどは、強アルカリ性を示さないので生分解性ポリエステルの安定化の観点から好ましい。
【0021】
充填剤は平均粒径が1〜8μmのものであることが好ましく、1〜5μmの範囲であることがより好ましい。平均粒径が1μm未満であると、得られたフィルム表面の粗度が低くなり、合成紙として期待される鉛筆やボールペン等の筆記性が発現しなくなる。また、平均粒径が8μmを超えるとフィルムを延伸する際に破れることが多くなり好ましくない。さらには、平均粒径が8μmを超えると、延伸した際に充填剤が層状に配向しにくくなる。
【0022】
また、充填剤の形状が板状であれば、配向しやすいので好ましい。板状の充填剤としては、上述したタルクやマイカが挙げられる。
【0023】
合成紙における充填剤の含有量は、10〜70質量%であることが好ましく、さらに好ましくは、10〜50質量%であり、より好ましくは、10〜30質量%である。含有量が10質量%未満であると鉛筆やボールペンでの筆記性が発現しなくなるばかりか、合成紙としての隠蔽性も損なわれる。また、70質量%を超えると靭性が著しく低下し、フィルムを巻き取る際の割れや延伸時に切断が多発する等、製膜作業性や延伸性が低下するので好ましくない。
【0024】
本発明において、生分解性ポリエステル樹脂及び充填材を含有する樹脂組成物は、180℃、0.1s-1における溶融粘度が、10〜1×106Pa・sの範囲であることが好ましく、100〜1×105Pa・sがより好ましく、200〜1×105Pa・sがさらに好ましい。溶融粘度が上記の範囲であれば、得られる合成紙の表面粗さ(SRa)を0.1〜10.0μmの範囲としやすい。溶融粘度が10Pa・s未満の場合、充填剤が凝集しやすく、得られた合成紙に鉛筆やボールペン等で筆記した際に濃淡のムラが生じやすい。さらに、合成紙としての隠蔽性も損なわれやすい。溶融粘度が1×106Pa・sを超えると合成紙の表面に充填剤が現れず鉛筆筆記性の劣る合成紙となる。
【0025】
溶融粘度を上記範囲に調整する方法としては、生分解性ポリエステル樹脂の重量平均分子量を調節する方法や、ポリ乳酸を生分解性ポリエステル樹脂として用いる場合には、D−乳酸とL−乳酸の比率を調節する方法などが挙げられる。
【0026】
上記溶融粘度は、コーンプレート型のレオロジー測定装置により、温度180℃において角周波数(ω)が0.1s-1の条件で測定される値である。
【0027】
本発明において、少なくとも一軸方向に延伸するとは、フィルムまたはシートの機械進行方向(MD)及び/又は機械進行方向に対して直交方向(TD)に引き伸ばすことをいう。この操作により、樹脂の分子が配向し、フィルムまたはシートの機械的強度や衝撃強度が向上するとともに、樹脂層と充填剤層が合成紙の平面方向に沿って層状に配向した構造をとりやすくなる。
【0028】
また、前記延伸操作に加えて、充填剤として、平均粒径が1〜8μmでかつ見かけ比重が0.1〜0.45g/ccのものを用いることによって、樹脂層と充填剤層がさらに平面方向に沿って層状に配向した構造をとりやすくなり、同時に、充填剤層が凝集しにくくなって、結果として合成紙の厚み方向における充填剤層の大きさは10μm以下となる。さらにまた、充填剤が合成紙の表面近くに存在しやすくなり、充填剤が直接合成紙表面に現れるか、または合成紙表面上に現れた微粉状充填剤の周りを樹脂が薄く被覆構造をとるような構造となり、表面粗さ(SRa)の数値が筆記や印刷に適した0.1〜10μmの範囲に入りやすくなる。一般に、微粉状の充填剤を樹脂に高濃度で添加する場合には、嵩を低くする目的で、圧縮工程に供され見かけ比重を高められているが、これに対し、本発明に適した上記見かけ比重範囲0.1〜0.45g/ccを有する充填剤としては、例えば、微粉砕した後に、圧縮などの加工を施さないものが挙げられる。
【0029】
本発明において、合成紙の表面粗さ(SRa)は、0.1〜10μmであることが好ましい。表面粗さが0.1μm未満であると、凹部に筆記部材が残存できず筆記性が発現しないことがある。また、表面粗さが10μmを超えると合成紙表面の凹凸が大きすぎて鉛筆やボールペンなどの磨耗が大きいことや、滑らかな文字が書けない、さらにはインクが載らず印刷特性等に弊害を与えることがある。
【0030】
本発明の合成紙は、適度なコシを有する。コシの程度は、クラーク法(JIS P8143、紙の自重曲げ法によるこわさ試験方法)により測定したこわさで評価することができる。本発明の合成紙のクラーク法によるこわさは、20(cm3/100)以上とすることができ、30(cm3/100)以上であることが好ましく、さらに40(cm3/100)以上であることがより好ましい。こわさが20(cm3/100)未満であるとコシがなくなり、紙の代替が困難となる。また適度なこわさの上限は70(cm3/100)であり、この数値を超えると硬くて脆くなる傾向があるので合成紙としては好ましくない。
【0031】
本発明において、合成紙の引裂き強度は0.9〜3.0N/mmであることが好ましい。0.9N/mm未満であると脆すぎて合成紙として利用できない。また、3.0N/mmを超えると合成紙を廃棄する際に容易に手で破ることができない。
【0032】
次に本発明の合成紙の製造方法について説明する。
【0033】
まず、本発明の合成紙を製造するためには、前記した生分解性ポリエステル樹脂と充填剤とを溶融混練する。溶融混練方法は特に限定されるものではなく、必要に応じてヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型混合機等により前もって混合しておいた後、一軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等を用いて溶融混練し、ペレット化するとよい。また、充填材は、押出機途中から粉体フィーダーによって配合する方法を採ることもできる。スタティックミキサーやダイナミックミキサーなどの併用も効果的である。
【0034】
本発明の製造方法においては、原料として用いる充填剤の見かけ比重が比較的低いという理由から、途中フィードできる二軸押出機を用いて、充填剤の一部をサイドフィーダーから添加すると、樹脂への混合操作が行いやすい。その場合、(トップフィードする量)/(サイドフィードする量)=30/70〜80/20(質量比)の範囲とすることが好ましい。さらに樹脂への混練を容易にするために、充填剤に少量の展着剤を配合してもよく、例えば、各種ワックス、脂肪族アミド、脂肪族ポリエステルの低分子量物などを0.01〜0.5質量%程度用いることができる。
【0035】
なお、溶融混練する際には、本発明を損なわない範囲内で、他の熱可塑性樹脂、熱安定剤、顔料、可塑剤、耐光剤、耐候剤、滑材、酸化防止剤、抗菌剤、香料、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種有機・無機電解質等を配合することができる。合成紙の色調を整えるために酸化チタン等の白色顔料を使用することは好ましい。
【0036】
次いで、得られた生分解性ポリエステル樹脂と充填剤を含有する樹脂組成物を、ペレット等の形状にて、Tダイ押出機、またはインフレーション押出機に供給し、フィルムまたはシートの形状に製膜する。なお、用いる押出機のダイは、環状又は線状のスリットを有するものでよい。生分解性ポリエステル樹脂と充填剤とを溶融混練した後、ペレット化せずに連続して製膜工程に供してもよい。
【0037】
生分解性ポリエステル樹脂組成物を押出製膜後、得られたフィルムまたはシートをガラス転移温度以上結晶化温度以下の温度雰囲気内で少なくとも一軸方向に延伸する。延伸倍率は4.1倍以上が好ましく、より好ましくは4.1〜10倍、特に好ましくは4.1〜9倍である。延伸は多段に分けて行なってもよいし、同時または逐次延伸法により二軸方向に延伸してもよい。延伸倍率が4.1倍よりも低い場合は、無機フィラーが層状に配向しにくく、筆記性やコシ等の性能において、合成紙として劣ったものとなる。延伸倍率が10倍を超えるとフィルムが破れ易くなり好ましくない。延伸後のフィルムは、収縮を抑えるために60〜160℃の範囲で数秒〜数十秒間熱処理を行うことが好ましい。
【0038】
本発明の合成紙の厚みは、上記押出製膜、延伸条件により制御することができるが、20〜2000μmが好ましい。厚みが20μmより薄いと、紙として使用しにくく、また2000μmより厚いものを製造しようとすれば、延伸時の応力が大きくなって、延伸が困難となる傾向にある。
【0039】
本発明の合成紙は、パルプなどからなる天然紙や、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートなどからなる合成紙が従来用いられている用途に良好に適用することができる。本発明の合成紙は、強度や耐水性が要求される用途、たとえば名刺、カレンダー、ポスター、ちらし、包装用紙、伝票用紙、食品表示用紙などに特に適している。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0041】
実施例及び比較例の評価に用いた測定法、原料は次のとおりである。
(1)三次元表面粗さ測定:
三次元表面粗さ測定装置(小坂研究所社製 ET−30K)を用いて、JIS B0601−1994に準拠して測定を行なった。
【0042】
(2)筆記性:
フィルムに硬度Hの鉛筆で直線を引き、これを紙(三菱製紙製コピー用紙A4スーパーダイヤ)の上に直線を引いた場合と比較した。評価基準は次のとおりである。
○:紙と差はなく、良好に線を引くことができる。
△:紙と比較すると鉛筆が滑りやすく、やや線が引きにくい。
×:鉛筆が滑ってしまい、ほとんど線を引くことができない。
【0043】
(3)印刷性:
オフセット印刷機にて合成紙に印刷ができるか、また印刷した文字に滲みがないかを評価した。評価基準は次のとおりである。
○:文字に抜けや滲みがない。
△:文字に多少の抜けや滲みがある。
×:印刷ができない。
【0044】
(4)引裂き強度:
JIS K7128−1(トラウザー引裂き法)に準拠して測定を行なった。
【0045】
(5)溶融粘度:
コーンプレート型の治具をセットしたレオメーター(レオメトリックサイエンティフィック)により180℃における溶融粘度の周波数依存性測定を行い、0.1s-1における溶融粘度の値を確認した。
【0046】
(6)こわさの評価:
JIS P8143(紙の自重曲げ法によるこわさ試験方法、クラーク法)に
準拠して測定を行なった。
【0047】
(7)熱的特性:
樹脂のガラス転移温度(Tg)はDSCを用い、200℃以上で溶融したのち、20℃/分の速度で降温したときの、ガラス状態から固化する際のベース移動の中心値を測定して決定した。
【0048】
(8)見かけ比重:
JIS−K5101にしたがって測定した。
【0049】
(9)合成紙中の充填剤層の状態と厚み:
合成紙をその平面方向に対して垂直の方向(すなわち、合成紙の厚み方向)に切断し、その断面から薄片サンプルを作成して、透過型電子顕微鏡(TEM)により写真撮影をおこなった。その写真観察に基づき、充填剤層の状態を次のように評価した。
○:充填剤は十分に層状をなしていると判断できる。
△:やや充填剤の分散性は不十分であるが層状と判断できる。
×:充填剤の凝集が著しく、全く層状をなしていない。
【0050】
そして、撮影したTEM写真において、上記評価が○または△の場合には、充填剤層の最も厚い部分を測定し、×の場合には、凝集している充填剤塊の最大の大きさを測定した。
【0051】
原料
【0052】
1.ポリ乳酸
(1)ポリ乳酸A1:重量平均分子量18万のポリ乳酸(ネイチャーワークス社製、4032D、L体99%、D体1%)
(2)ポリ乳酸A2:重量平均分子量18万のポリ乳酸(ネイチャーワークス社製、4042D、L体96%、D体4%)
(3)ポリ乳酸A3:重量平均分子量18万のポリ乳酸(ネイチャーワークス社製、4060D、L体88%、D体12%)
【0053】
2.他の生分解性ポリエステル樹脂
(1)B1:ポリ(ブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート)(BASF社製、Ecoflex、Tg:−35℃)
(2)B2:ポリブチレンサクシネート (三菱化学社製、GsPla AZ81T、Tg:−32℃)
(3)B3:ポリエチレンサクシネート(日本触媒社製、ルナーレSE−P5000、Tg:−11℃)
【0054】
3.充填剤
(1)C1:タルク(林化成社製、MW−HS−T、平均粒径2.7μm、見かけ比重0.2g/cc)
(2)C2:タルク(竹原化学工業社製、ハイミクロンHE−5、平均粒径1.6μm、見かけ比重0.13g/cc)
(3)C3:圧縮タルク(林化成社製、UpnHS−T0.5、平均粒径350μm(一次粒子径2.7μm)、見かけ比重0.5g/cc)
【0055】
4.顔料
(1)T:酸化チタン(富士チタン工業社製、平均粒径0.1μm)
【0056】
実施例1
二軸押出成形機PCM−30(池貝社製、ダイス直径4mm×3孔、バレル温度:210℃、押出ヘッド温度:180℃)を用い、ポリ乳酸としてA1を64質量部、他の生分解性ポリエステル樹脂としてB1を16質量部、及び充填剤としてC1(タルク)20質量部を供給し、押出すことでペレット状に加工した。このペレットをいったん乾燥した後、Tダイ付き口径50mmφ押出機(日鋼社製)を使用して、樹脂温度210℃で押出した後、10℃の冷却ロールで冷却し、厚み500μmの未延伸フィルムを得た。得られた未延伸フィルムをロール延伸機により65℃で縦方向に4.5倍延伸し、120℃で熱固定し、さらに10℃〜室温で冷却することで厚み120μmの延伸フィルムを得た。得られたフィルムの合成紙としての特性を表1に示した。
【0057】
実施例2〜14、比較例1〜2
ポリ乳酸、他の生分解性ポリエステル樹脂および充填剤、さらに延伸条件を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして、合成紙を作製した。ただし、実施例5、6、12においてはバッチ式延伸機(岩本製作所製)を用い、延伸時の雰囲気温度を80℃とした。得られたフィルムの合成紙としての特性を表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
A1:ポリ乳酸(L/D=99/1、重量平均分子量18万)
A2:ポリ乳酸(L/D=96/4、重量平均分子量18万)
A3:ポリ乳酸(L/D=88/12、重量平均分子量18万)
B1:ポリ(ブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート)(Tg:-35℃)
B2:ポリブチレンサクシネート(Tg:-32℃)
B3:ポリエチレンサクシネート(Tg:-11℃)
C1:タルク(平均粒径2.7μm、見かけ比重0.2g/cc)
C2:タルク(平均粒径1.6μm、見かけ比重0.13g/cc)
C3:圧縮タルク(平均粒径350μm(一次粒子径2.7μm)、見かけ比重0.5g/cc)
T:酸化チタン
【0060】
実施例1〜14の合成紙は、いずれも充填剤が配向しており、その厚み方向の最大厚みは、10μm以下であった。そして、適切な表面粗さを有しているために、適度な鉛筆筆記性、印刷性を発揮し、また、合成紙として適切な引裂き強度とこわさを有していた。実施例14は、充填剤の配向状態がやや不十分であったが、適度な表面粗さは得られており、鉛筆筆記性、印刷性には問題がなかった。
【0061】
比較例1は、ポリ乳酸以外の生分解性ポリエステルを用いなかった例であるが、こわさが高いものとなり、手で折り曲げると容易に割れてしまった。また、充填剤層の配向がやや不十分であり、充填剤層の最大厚みが10μmを超えていた。その結果、表面粗さが大きく、鉛筆筆記性と印刷性に劣ったものとなった。比較例2では、充填剤層の厚みが10μmを大きく超えており、表面粗さが著しく大きいため鉛筆筆記性と印刷性に劣り、また引き裂き強度が著しく低いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例1において製造した合成紙の切断面のTEM写真である。色が濃く見える部分が充填剤である。画像中、左下の白いスケールは10μmを示し、黒い矢印は合成紙の厚み方向を示す。
【0063】
【図2】比較例1において製造した合成紙の切断面のTEM写真である。色が濃く見える部分が充填剤である。画像中、左下の白いスケールは10μmを示し、黒い矢印は合成紙の厚み方向を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸50〜95質量部とポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂50〜5質量部を含有する生分解性樹脂および充填剤を含む合成紙であって、合成紙の平面方向に沿って樹脂層と充填剤層が層状に配向し、かつ合成紙の厚み方向における前記充填剤層大きさが10μm以下であることを特徴とする生分解性合成紙。
【請求項2】
ポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂が、ガラス転移温度0℃以下の樹脂であることを特徴とする請求項1記載の生分解性合成紙。
【請求項3】
ポリ乳酸50〜95質量部とポリ乳酸以外の生分解性ポリエステル樹脂50〜5質量部を含有する生分解性樹脂と、見かけ比重0.1〜0.45g/ccでかつ平均粒径が1〜8μmの充填剤とを溶融混練してシートまたはフィルムとした後、少なくとも一軸方向に延伸することを特徴とする請求項1または2に記載の生分解性合成紙の製造方法。
【請求項4】
延伸倍率が4.1倍以上である請求項3記載の生分解性合成紙の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−284558(P2007−284558A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113351(P2006−113351)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】