説明

生分解性成形品

【課題】 還元剤や金属塩、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックを含まず、強度や耐水性に優れ、しかも、尿素臭などの異臭発生の可能性が少ない生分解性の容器やシートを提供する。
【解決手段】 0〜25.0質量%のデンプンと25.0〜55.0質量%のタンパク質と11.0〜37.0質量%のセルロース繊維と18.0〜35.0質量%の水と、必要に応じて10.0質量%以下のグリセリンなどの軟化剤を室温で十分に捏ねた後、40〜130℃好ましくは50〜120℃の温度、20〜120kgf好ましくは25〜100kgfの圧力でプレス処理を行い、農業に用いられる各種シート又は食品用包装容器、食器などの各種成形品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生分解性成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、ポリ乳酸や脂肪酸ポリエステルなどの生分解性樹脂やデンプンなどの天然素材を主成分とした数多くの生分解性容器やシートが提案されている。
【0003】
例えば、特開平7−17571号公報(特許文献1)には、デンプンを主たる成分とし、植物性繊維及び/又はタンパク質を加えて発泡成形した生分解性の緩衝材が開示されている。また、特開2005−119708号公報(特許文献2)には、デンプン、ポリオール、単糖若しくはオリゴ糖、タンパク質を配合した生分解性樹脂組成物が開示されている。特開平5−320401号(特許文献3)には小麦粉とデンプン、セルロース、油などを配合し、発泡焼成した生分解性成形品が開示されている。
【0004】
しかしながら、デンプンなどの天然素材を用いた場合には耐水性が十分でない場合が多く、強度的にも不足する傾向にあった。このため、例えば特開平5−278738号公報(特許文献4)や特開平5−57833公報(特許文献5)、特開2002−355932公報(特許文献6)にはそれぞれ生分解性組成物から成形した加工品の表面に、耐水用の樹脂をコーティングする方法が開示されているが、この方法ではコーティングが必須の工程であり、工程数が多くなってしまう。
【0005】
一方、耐衝撃性や耐熱性を向上させた生分解性組成物として、例えば、特開平6−248040号公報(特許文献7)には、フェノール類と砂糖、デンプンとからなる組成物が開示されている。この組成物はフェノール類と砂糖の反応による樹脂形成を応用したものである。また、特開2004−137726号公報(特許文献8)には、デンプン、タンニン又はポリフェノール、さらにはタンパク質並びに鉱物粉砕末、タンニン又はポリフェノールとキレート媒染効果を有する二価金属末(又は金属塩)とからなる生分解性砂利製品用の組成物が開示されている。しかしながら、この組成物は金属塩とポリフェノールの縮合化合物をデンプンに担持させたものであって、二価の金属末(又は金属塩)が用いられているので食器などの用途には好ましくない。また、ここで用いられているタンニン、ポリフェノール類は、柿しぶやお茶のタンニン、樹皮タンニンなどの縮合型タンニンであって、砂利の代替品には適しているが、縮合型タンニンと二価の金属塩を用いているために強度が高くなりすぎて食器などの加工品には適さない。そして、金属塩が用いられているため、分解された後にこれらの金属が残り、環境に悪影響を与える可能性も考えられた。
【0006】
特開2005−23262号公報(特許文献9)には、トウモロコシなどの穀類、雑草等の食物繊維、砂糖キビ等の100%天然素材を微細化した主材と、柿渋やコンニャク粉などの天然バインダーを用いた生分解性組成物が開示されている。しかしながら、具体的な組成比が不明であり、現実に製品として製造できるのかどうか不明である。また、この組成物は穀物などの天然素材のみで構成されているため、出来上がった成形品の品質が担保されず、工業製品としては不適当なものであった。
【0007】
さらに特表平9−500924号公報(特許文献10)には、デンプンとタンパク質、セルロース、フェノール及びタンニン、トール油やワックスを含む生分解性組成物が開示されている。しかしながら、この組成物はトール油やワックスを含むものであるため、ワックス等の滲出が懸念される。従って、木工品などの製作には適しているとしても、食器などの加工品に適用した場合には安全性の観点から好ましくない問題を生じる可能性がある。
【0008】
生分解性のシートに関して言えば、例えば、特表平10−511145号公報(特許文献11)には、熱可塑性デンプンと生分解性のポリマー及びセルロース繊維並びにタンパク質などから作製された延伸フィルムが開示されている。特開2002−371201号公報(特許文献12)には、ポリ乳酸などの生分解性の樹脂と炭酸カルシウムなどの無機充填剤、さらにポリエチレングリコールなどの水溶性樹脂が用いられた生分解性のフィルムやシートが開示されている。また、特開平6−313063号公報(特許文献13)には、デンプンと生分解性の脂肪酸ポリエステルに補強用添加剤としてタンパク質及び天然ゴムが添加された生分解性のフィルムが開示されている。しかしながら、これらのフィルムは脂肪酸ポリエステルを含むものであるのでコストが高くなる傾向にあり、生分解性に劣ることが考えられた。
【0009】
特開2003−292554号公報(特許文献14)には、でんぷんなどの活性水素を有する生分解性化合物を主成分としてこれにアクリロイル基を有する化合物、さらに尿素やグリセリン、さらにはセルロースなどの天然繊維が用いられた生分解性のフィルムが開示されている。特開2003−105130号公報(特許文献15)には、デンプン、尿、カルボン酸基を有する化合物及び/又はグリセリンなどの水素結合性水溶性高沸点溶剤、架橋剤からなる生分解性のフィルムが開示されている。特開2004−339496号公報(特許文献16)には、デンプン類とそれに対して60〜300%の尿素並びに10〜150質量%のグリセリンなどの多価アルコールさらには天然素材として紙や麻などの繊維が用いられた生分解性のフィルムが開示されている。しかしながら、これらのフィルムはグリセリンなどの多価アルコールを含むものであるので、使用中にこれらの多価アルコールが漏出する可能性が考えられた。
【0010】
特開2001−288295号(特許文献17)には、コーングルテンミールと天然ゴムに可塑剤として尿素が用いられたフィルムが開示されているが、このフィルムは天然ゴムを含むので分解性に劣る可能性が考えられる。さらに特表2002−512929号公報(特許文献18)には、デンプンとタンパク質、天然セルロース繊維並びに金属塩水和物、可塑剤として尿素を含む組成物からなる生分解性のフィルムが開示されているが、このフィルムは金属塩を含むので分解後に周囲の環境を汚染する可能性が考えられる。
【0011】
そして、特表2001−517253号公報(特許文献19)には穀物タンパク質とデンプンとグリセリンなどの可塑剤及び亜硫酸塩などの還元剤を含む組成物が、米国特許第5523293号公報(特許文献20)には大豆タンパク質とデンプンフィラーとグリセリンなどの可塑剤、亜硫酸水素ナトリウムやメルカプトエタノールや還元剤などからなる組成物が開示されている。これらの組成物は還元剤によってデンプン中に存在するジスルフィド結合を還元処理することで、変性グルテンを生成させている。しかしながら、これらの組成物では還元剤が残留する可能性があり、衛生上好ましくないことが考えられた。
【0012】
このような状況下において、本願発明者らによって、強度を高めた生分解性容器のための組成物として、特許第4077026号公報(特許文献21)にデンプン、タンパク質、セルロース繊維、ポリフェノール類及び塩化ナトリウムからなる組成物が、また、耐水性を高めた生分解性シートのための組成物として、特許第4077027号公報(特許文献22)にはタンパク質、セルロース繊維及び尿素からなり、必要に応じてデンプンが加えられた組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−17571号公報
【特許文献2】特開2005−119708号公報
【特許文献3】特開平5−320401号
【特許文献4】特開平5−278738号公報
【特許文献5】特開平5−57833公報
【特許文献6】特開2002−355932公報
【特許文献7】特開平6−248040号公報
【特許文献8】特開2004−137726号公報
【特許文献9】特開2005−23262号公報
【特許文献10】特表平9−500924号公報
【特許文献11】特表平10−511145号公報
【特許文献12】特開2002−371201号公報
【特許文献13】特開平6−313063号公報
【特許文献14】特開2003−292554号公報
【特許文献15】特開2003−105130号公報
【特許文献16】特開2004−339496号公報
【特許文献17】特開2001−288295号公報
【特許文献18】特表2002−512929号公報
【特許文献19】特表2001−517253号公報
【特許文献20】米国特許第5523293号公報
【特許文献21】特許第4077026号公報
【特許文献22】特許第4077027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献21に記載の生分解性組成物にあっては、ポリフェノール類が用いられているので、場合によっては十分に生分解されないことが想定される。特許文献22に記載の生分解性組成物は尿素を含有するために、シートそのものに尿素臭が感じられ、シートが水に接触した際には尿素臭がはっきりと感じられるという問題があった。また、富栄養化の観点から窒素の含有量が少ないことが望まれる。
【0015】
本願発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、還元剤や金属塩、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックを含まず、強度や耐水性に優れ、しかも、尿素臭の発生の可能性が少ない生分解性容器やシートなどの成形品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明者らは、上記目的を達成するため、特許文献22に開示された生分解性組成物の改良に取り組んだところ、グリセリンなどの多価アルコール類や尿素を用いずとも耐水性や強度に優れた生分解性容器やシートが得られることを見いだし、本願発明を完成するに至った。
【0017】
本発明の生分解性加工品は、タンパク質を25.0〜55.0質量%、セルロース繊維を11.0〜37.0質量%、デンプンを0〜25.0質量%、水を18.0〜35.0質量%、必要に応じてグリセリン、ジグリセリン、脂肪酸の炭素数が12〜22であるグリセリン脂肪酸エステル、炭素数が4〜18の脂肪酸からなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上を10.0質量%以下で含み、金属塩、還元剤、その他の添加剤(着色料及び安定剤を除く)を含まない生分解性組成物の混練物を、40℃以上130℃以下の温度、20kgf以上120kgf以下の加圧条件下でプレス加工して得られたものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、非常に単純な系の組成物から耐水性や強度に優れた生分解性の成形品やシートが得られる。本発明の成形品は尿素を含んでいないので尿素臭の発生や窒素の排出量が抑えられる。また、この成形品はタンパク質やセルロース繊維、デンプンと言った安価な材料から構成され、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックや還元剤を含まないので、コストを安価にできる。しかも、ポリフェノール類を含まないので生分解されずに残る残留物の発生が少なく、アルミニウム塩、カルシウム塩などの金属塩や還元剤を含まないので、これらによる環境負荷を極めて少なくできる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の生分解性加工品は、タンパク質を25.0〜55.0質量%、セルロース繊維を11.0〜37.0質量%、デンプンを0〜25.0質量%、水を18.0〜35.0質量%、必要に応じてグリセリン、ジグリセリン、脂肪酸の炭素数が12〜22であるグリセリン脂肪酸エステル、炭素数が4〜18の脂肪酸からなる群から選ばれるいずれか1種又は2種以上を10.0質量%以下で含み、金属塩、還元剤、その他の添加剤(着色料及び安定剤を除く)を含まない生分解性組成物の混練物を、40℃以上130℃以下の温度、20kgf以上120kgf以下の加圧条件下でプレス加工して得られたものである。
【0020】
本発明で用いられる生分解性組成物は、上記のようにタンパク質とセルロース繊維と水の3成分から構成され、必要に応じ増量剤としてデンプンが配合されたものである。そして、さらに必要に応じて、グリセリンなどの軟化剤が添加されたものであって、金属塩及び還元剤並びにその他の添加剤(着色料及び安定剤を除く)を実質的に含まない。
【0021】
本発明において用いられるタンパク質は、植物由来のタンパク質や動物由来のタンパク質のいずれでもよく、合成タンパク質であってもよい。植物由来のタンパク質(植物性タンパク質)には、例えば、大豆タンパク、小麦タンパク、米タンパクなど種々の豆類や穀類から得られるタンパク質が例示される。また、動物由来のタンパク質(動物性タンパク質)には、例えば、乳タンパクなど各種動物、鳥類、魚類由来のタンパク質が例示される。また、これらのタンパク質は抽出しただけで精製していない粗タンパク質のみならず、濃縮した濃縮タンパク質であってもよい。例えば、植物由来のタンパクであれば、大豆濃縮タンパク、動物由来のタンパクであれば、濃縮乳タンパクが例示される。一方、粗タンパク質を精製したタンパク質であってもよく、植物由来のタンパク質としてグルテン、ゼイン、ホルデイン、アベニン、カフィリンなどが例示され、動物由来のタンパク質としてカゼイン、アルブミン、コラーゲン、ゼラチン、ケラチンなどが例示される。これらのタンパク質は1種若しくは2種以上を用いることができる。
【0022】
本発明において用いられるセルロース繊維は、天然若しくは人工のセルロース繊維のいずれでもよい。天然由来のセルロール繊維には、各種の植物、例えば籾殻などの穀類の種皮、草、木材、わら、さとうきび、綿、葉、トウモロコシの皮やさとうきびの絞り滓から得られたガバス、新聞紙などの加工品が例示される。これらのセルロース繊維は、わらや穀類の種皮などを乾燥させた後繊維状にほぐし、それを適当な長さに切断して用いられる。用いることのできるセルロース繊維は、太さが1〜100μm程度、長さが10μm〜30mm程度であるが、成形品の用途や要求される強度などに応じて適宜決定される。
【0023】
本発明において用いられるデンプンは、天然物由来によるデンプン(天然デンプン)のみならず、天然デンプンを化学的に処理し、化学修飾を行った化学修飾デンプンのいずれでもよく、また、これらを適宜混合して用いることもできる。
【0024】
天然デンプンとは、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、サツマイモデンプン、小麦デンプン、米デンプン、タピオカデンプン、ソルガムデンプンなど種々の植物から得られるデンプンであって、起源となる植物は限定されない。また、デンプン中に含まれるアミロース、アミロペクチン含量も特に問われるものでもなく、高アミローストウモロコシデンプンのようにアミロース含量を高めたデンプンを用いてもよい。また、本発明においては単一のデンプンのみならず、2種以上の天然デンプンを用いてもよい。
【0025】
化学修飾デンプンは、デンプンを構成するグルコースの水酸基に置換基を導入したものである。置換基は特に限定されるものではなく、被修飾デンプンである天然デンプンの種類も限定されるものではない。化学修飾デンプンとしては、例えば、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルデンプン、アセチル化高アミロースデンプン、酢酸デンプン、マレイン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、コハク酸デンプン、フタル酸デンプン、ヒドロキシプロピル高アミロースデンプン、架橋デンプン、リン酸デンプン、リン酸ヒドロキシプロピルジデンプンが例示される。これらの化学修飾デンプンも、単一種に限られず、2種以上を混合して用いても差し支えない。ここにいう架橋デンプンとは、リン酸塩化物、エピクロルヒドリン、リン酸誘導体等の種々の架橋剤によりデンプン分子を架橋したものをいう。
【0026】
本発明の組成物におけるセルロース繊維の配合量は11.0質量%以上37.0質量%以下、タンパク質の配合量は25.0質量%以上55.0質量%以下である。セルロース繊維の配合量やタンパク質の配合量がこれよりも少ない場合やこれよりも多い場合のいずれにおいても、捏ねが十分に出来なかったり、捏ねが出来たとした場合でもプレス成形ができなかったりする。
【0027】
本発明の組成物において、デンプンは任意成分であって、必要に応じて前記セルロース繊維やタンパク質に加えて使用され、あるいはそれらの一部に置き換えて使用されるものである。また、本発明においては、特許文献19や20に開示されているような還元剤による処理を不要とする。
【0028】
デンプンを配合する際には、組成物中に0より多く、0.01質量%以上、好ましくは0.1%質量%以上、25.0質量%以下である。低廉価の観点からは、デンプンの配合量を多くするのが好ましいが、デンプンの配合量が多くなると得られた成形品やシートの透明性が低下する傾向にあり、25.0質量%を越えると良好な成形(プレス加工)ができない。
【0029】
さらに、本発明の組成物には必要に応じて軟化剤が添加される。本発明において軟化剤とは、捏ねた組成物に柔軟性を付与するだけでなく、組成物の流動性を向上させ、成形加工をしやすくするために用いられる。この意味において、本発明の軟化剤は合成樹脂組成物における可塑剤(Plasticizers)の機能と滑剤(Lubricants)の機能の双方を合わせ持つものと言える。この軟化剤として、グリセリンやジグリセリン、脂肪酸の炭素数が12〜22であるグリセリン脂肪酸エステル、炭素数が4〜18の脂肪酸のいずれか1種又は2種以上が用いられる。グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリンジ脂肪酸エステル、グリセリントリ脂肪酸エステルの何れでもよい。グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は飽和、不飽和を問わず炭素数12〜22の直鎖又は分岐鎖の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が例示される。また、軟化剤として用いられる脂肪酸として、酪酸や吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの脂式モノカルボン酸が例示される。また、コハク酸やアジピン酸のように2以上のカルボキシル基を有する脂式ジ脂肪酸も用いることができる。なお、本発明では生分解性であることが望まれるので、芳香族脂肪酸は好ましくない。もっとも生分解性に影響を及ぼさない限りにおいてはこの限りではない。また、生分解性の観点や成形品からの滲出を考慮すれば、これらの軟化剤のうちグリセリンが最も好ましいと言える。
【0030】
軟化剤の添加量は組成物中10.0質量%以下である。軟化剤は、軟化剤を除いた成分、すなわちタンパク質、セルロース繊維及び必要に応じて加えられたデンプンからなる2又は3成分系の組成物から良好なプレス成形性が得られる場合において、0より多く、0.01質量%以上、好ましくは0.1%質量%以上、10.0%質量%以下で任意に加えることができる。軟化剤の添加量が多くなり、10.0質量%を越えると、捏ねが不十分になりやすく、プレス加工の際に破断される虞やプレス成形そのものができなくなる虞がある。従って、その添加量は少量であることがよく、好ましくは組成物中に8.0%質量以下、望ましくは5.0質量%以下、特にデンプンを用いない場合では組成物中に5.0%質量以下とするのが好ましい。
【0031】
水の配合量は上記2成分若しくは3成分からなる組成物に対して、十分な捏ねができるように適宜決められるが、好ましくは18.0質量%以上35.0質量%以下である。水の配合量が18.0質量%よりも少ないと、いわゆる団子状となって捏ねが困難となる。また、35.0質量%を越えると組成物に占める水の量が多くなり、この場合も十分に捏ねることができなくなる。
【0032】
本発明で用いられる組成物は上記の成分から構成され、それ以外の添加剤、例えば、還元剤、合成樹脂組成物に配合され滑剤として使用されるワックスやパラフィン、可塑剤として使用されるフタル酸エステルやアジピン酸エステル、脂肪酸の金属塩、タンニンやポリフェノール、ポリ乳酸などの高分子物質を実質的に含まない。ここで実質的に含まないとは意図して加えないという意味で用いられ、不純物や混入物としてこれらの物質を全く含まないという意味で用いられるのではない。ただし、成形性、得られた成形品の物性(例えば強度など)に影響を及ぼさない限りにおいて、加熱による着色を防止するための着色防止剤や生分解速度を低下させ、成形品の寿命を引き延ばすための生分解速度調整剤(例えば、カルボジイミド化合物や天然物由来のキトサン、ハーブ、ポリリジン、ヨモギ等の抗菌剤)のような安定剤や着色料を含ませることができる。このような着色防止剤や生分解速度調整剤などの安定剤や着色料の配合量はそれらの合計量として多くても組成物中に10.0質量%、好ましくは5.0質量%以下、より望ましくは3質量%以下、さらに望ましくは1質量%以下である。
【0033】
本発明の成形品は次のようにして得られる。まず、タンパク質やセルロース繊維や水などを含む本発明の組成物を室温において十分に捏ねる。ここで室温とは、概ね10〜30℃程度の温度を示し、加温や冷却をしてこの温度範囲に維持する必要はないという意味で用いられる。もっとも、室温が極端に低い、例えば0℃以下であったり、極端に高い、例えば50℃以上であったりして、捏ねが十分にできない場合には、適宜、加温したり冷却することは差し使えない。
【0034】
捏ねはどのような方法によってもよく、例えば二軸ミキサーなどの混練機などを用いて行う。このとき、各成分が混ざるだけでは不十分であって、おおよそ耳たぶ程度の硬さ、好ましくはいわゆる麺の腰が出る程度まで十分に捏ねる。捏ねが不足すれば、グルテンの成長が足りず、プレス成形ができない可能性や得られた成形品の透明性が悪くなる可能性が高い。また、成形品がもろくなり、取り出し時に成形品が壊れる虞もある。
【0035】
得られた混練物はプレス加工によって種々の成形品に加工される。本発明において成形品とは、プレス加工によって加工されうるあらゆる物品を意味し、それらの形状や大きさ、用途は限られず、シートやフィルムである膜状物を含む広い意味で用いられる。本発明における成形品としては、食品などの各種物品を収納する収納容器、例えばトレーやケースなど、使い捨て弁当箱のような食品用の包装容器、皿や匙、コップ、お椀、使い捨て用のフォークやナイフ、スプーンなどの食器類はもちろんのこと、食品包装用のラップ用材、いわゆるブルーシート、保温や防寒のために用いられる農業用シート材などの膜状物が例示される。成形品の厚みは、好ましくは膜状物であれば概ね10μm〜1000μm、好ましくは10μm〜300乃至500μm、収納容器や包装容器であれば概ね0.5mm〜5mm、好ましくは0.5mm〜2乃至3mm程度である。さらに、得られた膜状物を加工して、ビニール袋やゴミ袋などのような袋状物を得ることもできる。もっとも、膜状物を経ることなく、前記組成物と金型を用いて直接袋状物を得ることも可能である。特に、弁当箱のような食品用の包装容器やゴミ袋とした場合、食品とそれ以外のプラスチック類を人手により分別することなくそのまま堆肥化できるというメリットがある。また、堆肥化した土壌も、金属塩を含まないので金属によって汚染されず、窒素過多に陥ることもなく、農業用土壌や園芸用土壌として好適に使用できる。
【0036】
プレス加工は一対の金型に素材を挟み込み、圧力をかけて所望する形状に加工するという一般的な意味で用いられ、膜状物への加工を含む意味で用いられる。膜状物への加工にはいわゆる圧延加工であるカレンダー法やロール加工が好ましく用いられ、上記捏ねられた組成物がそのまま圧延機に供給される。また、膜状物以外の成形品への加工には凹部を有する雌金型と凸部を有する雄金型が用いられ、上記捏ねられた組成物が雌金型と雄金型の間に直接供給され加圧される。あるいは、上記組成物から圧延などにより得られた中間品である膜状物が雌金型と雄金型の間に供給される。なお、中間品である膜状物を得る場合には高温に注意すべきである。高温にて圧延加工等を行うと塑性変形を生じ、皿やコップなどの成形品(最終製品)への加工ができなくなるからである。また、プレス加工前に捏ねた組成物や中間品を保存する場合には、例えば密閉容器に保存するなど過度の水分蒸発を防ぐ対策が必要である。
【0037】
プレス加工時の条件は適宜定めればよいが、本発明の組成物を用いた場合には、少なくとも10kgf程度の加圧及び40℃の加熱が望まれる。本発明では、捏ねによるグルテンの成長が望まれるだけでなく、適度な圧力及び熱を加えることが高い強度及び耐水性のある成形品を得るために必要だからである。加熱や加圧が不足すれば、強度が不足したり、成形品の透明性や耐水性が低下したりする。また、加熱や加圧が過剰になれば、いわゆる熱やけを起こして褐変を生じたり、成形品がもろくなったりする。本発明の組成物では、40℃以上130℃以下の加熱、好ましくは50℃以上120℃以下の加熱及び10kgf以上120kgf以下の加圧、好ましくは25kgf以上100kgf以下の加圧で良好な成形品が得られる。
【0038】
得られる成形品の強度は、引っ張り強度として少なくとも10MPa以上、好ましい場合には15MPa以上、より望ましい場合には20MPa以上である。また、得られる成形品は、常温にて水に浸漬した場合、2週間の浸漬に耐えられる耐水性を有する。つまり、水に浸して室温に放置したとしても、2週間は初期の形状がほぼ維持される。このように本発明の生分解性成形品は、耐水処理をすることなく良好な耐水性が得られるが、さらに耐水性を増すために、例えばポリ乳酸(PLA)やポリカプロラクタン(PLC)などの生分解性物質による耐水コートを成形品表面に施しても良い。
【0039】
次に本発明について下記の実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されることのないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0040】
まず、タンパク質、デンプン、セルロース繊維からなる組成物のプレス加工性について評価を行った。トウモロコシデンプン(ワコー純薬(株)社製「コーンスターチ」)、コムギタンパク(長田産業(株)社製 「フメリットA」)、セルロースファイバー(日本製紙ケミカル(株)製KCフロック#100メッシュ又は#200)を表1の配合量に従って配合し、自転公転ミキサーを用いて室温(約25℃)でいわゆる腰がでるまで混合混練した。この混練物を2軸プレス機により約3mm厚のシート状に延伸して、温度120℃圧力100kgfにて金型プレスを用いて厚み1mmのカップ状に成形した。その結果を表2に示した。表1には各成分量を質量比で示し、表2には組成比を示した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
これによると、デンプンを加えない場合では、タンパク質10質量部に対しセルロース繊維が4質量部以上11質量部以下、水が5質量部以上10質量部以下でプレス成形性が確保された。また、タンパク質10質量部、セルロース繊維が3質量部の組成物に対してデンプンを6質量部、水を13質量部まで加えてもプレス成形性が確保された。これらの結果から、表2に示すようにタンパク質25.0〜55.0質量%、セルロース繊維11.0〜37.0質量%、デンプン0〜25.0質量%、水18.0〜35.0質量%からなる組成物が良好な生分解性組成物として利用できることが示された。
【実施例2】
【0044】
次にグリセリンの添加可能性について評価を行った。上記トウモロコシデンプン、コムギタンパク、セルロースファイバー、グリセリン(健栄製薬(株)社製 「局方グリセリン」:グリセリンとして86%含有)を表3に従って配合し、実施例1と同様に成形性を評価した。その結果を表4に示す。表3には各成分量を質量比で示し、表4には組成比を示した。なお、グリセリンについては、表3では用いた局方「グリセリン」の配合量を示し、表4にはグリセリンの絶対量に換算した値を示している。
【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
これによると、上記表1に示されかつ良好な成形性が得られた範囲にあるタンパク質とセルロース繊維からなる組成物に対してグリセリンを2質量部以下で加えた場合では良好なプレス成形性が得られたが、3質量部以上加えた場合には良好なプレス成形性が得られなかった。また、タンパク質とセルロース繊維及びデンプンからなる組成物に対してはグリセリンを3質量部まで加えられることができた。これらの結果から、表4に示すように、デンプン0〜25.0質量%、タンパク質25.0〜55.0質量%、セルロース繊維11.0〜37.0質量%、水18.0〜35.0質量%からなる組成物に対してグリセリンを10質量部以下で加えた組成物が良好な生分解性組成物として利用できることが確認された。
【実施例3】
【0048】
プレス条件について検討を加えた。実施例1及び実施例2において良好な成形性が得られた組成物(No.6とNo.21、表5参照)について、プレス加工時の温度及び圧力条件について検討を加えた。
【0049】
【表5】

【0050】
グリセリンを加えた場合加えない場合のいずれの場合も同様な結果が示され、それらを代表してグリセリンを加えない場合の結果を表6に示した。表6に示すようにいずれも、40〜130℃の温度範囲で、20〜120kgfの圧力範囲で良好なプレス加工性が得られた。特に表中に◎で示された範囲、つまり50〜120℃の温度範囲で、25〜100kgfの圧力の条件において、より良好な成形性が得られた。
【0051】
【表6】

【実施例4】
【0052】
実施例1及び実施例2において良好な成形性が得られた組成物(No.6、22、28)について強度試験を行った。強度試験は引張強度試験器(島津製作所社製:オートグラフAGS-10KNG、JIS K 6251 2004準拠、試験片形状:ダンベル状3号形、試験速度:500mm/分)によって実施された。上記各組成物を125℃、100kgfの条件で5分間プレスして作製した試験片を用いた。その結果を表7に示す。表7に示すように、グリセリンの有無によらず、またデンプンが配合された場合であっても、最低でも15MPa、平均すると20MPa以上の強度が得られた。
【0053】
【表7】

【実施例5】
【0054】
実施例1及び実施例2において良好な成形性が得られた組成物(No.6、22、16、28)について耐水性試験を行った。耐水性試験は水に浸漬して室温に放置した。その結果を表8に示す。表8に示すように、水に浸漬した場合、14日間でも初期の形状が維持され、本発明の成形品は十分な耐水性があることが示された。これによると、グリセリンが10質量%以下で配合された場合でもグリセリンを含まない場合と同様の耐水性を示した。また、デンプンの配合の有無にも関係なく良好な耐水性を示した。
【0055】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の生分解性成形品は、シートや食器、包装容器などとして利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を25.0質量%以上55.0質量%以下、
セルロース繊維を11.0質量%以上37.0質量%以下、
デンプン0以上25.0質量%以下、
水18.0質量%以上35.0質量%以下、
必要に応じてグリセリン、ジグリセリン、脂肪酸の炭素数が12〜22であるグリセリン脂肪酸エステル、炭素数が4〜18の脂肪酸からなる群から選ばれる何れか1種又は2種以上を10.0質量%以下で含み、
金属塩、還元剤、その他の添加剤(着色料及び安定剤を除く)を含まない生分解性組成物の混練物を、40℃以上130℃以下の温度、20kgf以上120kgf以下の加圧条件下でプレス加工して得られた生分解性成形品。
【請求項2】
10MPa以上の引っ張り強度を有する請求項1に記載の生分解性形成品。
【請求項3】
10質量%以下で安定剤及び/又は着色剤を含む請求項1又は2に記載の生分解性成形品。
【請求項4】
膜状物、食器、食品用包装容器、収納容器の何れかである請求項1〜3の何れか1項に記載の生分解性成形品。
【請求項5】
表面に生分解性物質による耐水性コーティング処理が施された請求項1〜4の何れか1項に記載の生分解性成形品。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の膜状物である生分解性成形品から得られた生分解性袋状物。

【公開番号】特開2011−84709(P2011−84709A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30724(P2010−30724)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【分割の表示】特願2009−240172(P2009−240172)の分割
【原出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【特許番号】特許第4574738号(P4574738)
【特許公報発行日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(591212349)株式会社原子力エンジニアリング (16)
【Fターム(参考)】