説明

生分解性樹脂組成物、成形体及びその製造方法

【課題】 実用に十分な外観と、耐熱性、耐久性に優れ、さらに耐湿熱性を有する生分解性ポリエステル樹脂組成物及びそれより得られる成形体、製造方法を提供する。【解決手段】 ポリ乳酸を50質量%以上含有した生分解性ポリエステル樹脂100質量部、カルボジイミド化合物0.1〜5質量部およびホスファイト系有機化合物0.01〜5質量部からなることを特徴とする生分解性樹脂組成物。また、80℃、相対湿度90%の条件下で200時間保持した時の強度保持率が80%以上であることを特徴とする前記生分解性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐湿熱性、耐熱性、耐久性を有する生分解性樹脂組成物及びそれより得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の見地から、ポリ乳酸をはじめとする生分解性樹脂が注目されている。生分解性樹脂のうちでポリ乳酸は、透明性が良好で、かつ最も耐熱性が高い樹脂の1つであり、またトウモロコシやサツマイモ等の植物由来原料から大量生産可能なためコストが安く、また石油原料の削減にも貢献できることから、有用性が高い。しかし、生分解性樹脂のみで成形体を作製すると長期の保存安定性や耐湿熱性が不十分で、劣化に伴う強度や分子量の低下、分子量の低下に伴う外観の悪化などが問題となる。そのため、繰り返し使用するような用途や長期間の使用には耐えられなかった。
この問題を解決する方法として、特許文献1にはポリ乳酸のカルボキシル末端を特定のカルボジイミド化合物で封鎖することで耐加水分解性を向上させる技術が開示されている。しかし、この方法では高温高湿度下での長期の安定性が不十分であった。また、生分解性樹脂の他の性能を高める方法として、特許文献2においては、脂肪族ポリエステル樹脂にフェノール系ホスファイト化合物を添加することにより熱安定性が付与されることができることが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−261797号公報
【特許文献2】特開2001-49097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カルボジイミド化合物の添加や、ホスファイト化合物の添加によりポリ乳酸の耐熱性や成形性は改善できるものの、さらなる長期保存や過酷な湿熱下での使用の際には、樹脂の分解が促進されて物性が保持されず、実用には十分とは言えなかった。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、耐熱性、成形性に優れ、
かつ耐加水分解性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物、その製造方法、及びそれにより得られる成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、生分解性ポリエステル樹脂に、特定量のカルボジイミド化合物とホスファイト系有機化合物を添加した生分解性樹脂の高温高湿下での耐久性が向上することを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)ポリ乳酸を50質量%以上含有した生分解性ポリエステル樹脂100質量部、カルボジイミド化合物0.1〜5質量部およびホスファイト系有機化合物0.01〜5質量部からなることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
(2)(1)記載の樹脂組成物において、生分解性ポリエステル樹脂100質量部あたり、さらにヒンダードフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物およびヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも1種の添加剤を合計量が0.01〜5質量部となるよう含有することを特徴とする生分解性樹脂組成物。
(3)80℃、相対湿度90%の条件下で200時間保持した時の強度保持率が80%以上であることを特徴とする(1)または(2)記載の生分解性樹脂組成物。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなる成形体。
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物を製造するに際して、カルボジイミド化合物およびホスファイト化合物を溶融混練時または成形時に生分解性ポリエステル樹脂に添加することを特徴とする生分解性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐久性、外観に優れた生分解性樹脂組成物を得ることが可能である。また、生分解性を有することから廃棄する際にはコンポスト化が可能であるので、ゴミの減量化、肥料としての再利用が可能となる。さらに、植物由来のポリエステル原料を使用すれば、環境負荷の低減と石油資源の枯渇防止に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の生分解性樹脂組成物を構成する生分解性ポリエステル樹脂は、ポリ乳酸を50質量%以上含有している必要がある。このポリ乳酸の含有量は、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。ポリ乳酸以外の生分解性樹脂が50質量%以上では、得られる生分解性樹脂組成物の機械的特性や透明性、耐熱性が不足する。また、ポリ乳酸として植物由来の原料を使用するのであれば、植物由来の樹脂含量が減ることは環境への負荷も大きくなる。
【0011】
本発明に用いる生分解性ポリエステル樹脂の主成分であるポリ乳酸としては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体などを挙げることができる。
【0012】
本発明に用いられる生分解性ポリエステル樹脂は、公知の溶融重合法により、あるいは必要に応じてさらに固相重合法を併用して、製造される。
【0013】
本発明の生分解性ポリエステル樹脂に用いることのできる、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂としては、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート−co−ブチレンアジペート)等に代表される、ジオールとジカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル、ポリグリコール酸、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3−ヒドロキシ吉草酸)、ポリ(3−ヒドロキシカプロン酸)等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(ε−カプロラクトン)やポリ(δ−バレロラクトン)に代表されるポリ(ω−ヒドロキシアルカノエート)、さらに芳香族成分を含んでいても生分解性を示すポリ(ブチレンサクシネート−co−ブチレンテレフタレート)やポリ(ブチレンアジペート−co−ブチレンテレフタレート)の他、ポリエステルアミド、ポリエステルカーボネート、澱粉等の多糖類等が挙げられる。これらの成分は、1種でも、2種以上用いてもよく、共重合されていてもよい。また、主成分であるポリ乳酸に単に混合されていてもよいし、共重合されていてもよい。
【0014】
本発明において用いられるカルボジイミド化合物の具体例としては、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、ヘキサメチレン−ビス−ジシクロヘキシルカルボジイミド、エチレン−ビス−ジフェニルカルボジイミド,N,N′−ベンジルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−フェニルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−フェニルカルボジイミド、N−オクタデシル−N′−トリルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N′−トリルカルボジイミド、N−フェニル−N′−トリルカルボジイミド、N−ベンジル−N′−トリルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−エチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−o−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−イソブチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジエチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−エチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2−イソブチル−6−イソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,4,6−トリイソブチルフェニルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、芳香族ポリカルボジイミド(例えば、住化バイエルウレタン社製スタバクゾールIなど)が挙げられる。これらカルボジイミド化合物は単独で使用してもよいが2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明では加水分解抑制効果の高いN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドが特に好ましい。
【0015】
カルボジイミド化合物の配合量は生分解性ポリエステル樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部、好ましくは0.5〜3質量部である。0.1質量部未満では本発明の目的とする長期の耐湿熱性や外観の安定性が得られず、5質量部を超えて用いても効果的ではない。
【0016】
本発明におけるホスファイト系有機化合物とは例えばトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGAFOS168)、ビス(2,4−ジ−tert- ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGAFOS12),ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜りん酸(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGAFOS38),テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]4,4’−ジイルビスホスフォナイト(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGAFOS P-EPQ),3,9−ビス(p−ノニルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ―3,9−ジホスファスピロ[5,5]ウンデカン(旭電化工業社製アデカスタブPEP-4C),O,O’−ジアルキル(C=8〜18)ペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブPEP-8,PEP-8W),旭電化工業社製アデカスタブPEP-11C,ビス(2,4−ジ―tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブPEP24G),ビス(2,6−ジ―tert―ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブPEP36,PEP-36Z),2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブHP−10)、トリス(2,4−ジ− tert-ブチルフェニルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ2112)、4,4’−ブチリデン−ビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェニル−ジトリデシルホスファイト)(旭電化工業社製アデカスタブ260),ヘキサアルキル又は[トリアルキル(C=8〜18)トリス(アルキル(C=8,9)フェニル)]1,1,3−トリス(3−t−ブチル−6−メチル−4−オキシフェニル)−3−メチルプロパントリホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ522A),ジ又はモノ(ジノニルフェニル)モノ又はジ(p−ノニルフェニル)ホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ329K),トリスノニルフェニルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ1178),(1−メチルエチリデン)−ジ−4,1−フェニレン−テトラ−C12−15−アルキルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ1500),2−エチルヘキシル−ジフェニルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブC),ジフェニルイソデシルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ135A),トリイソデシルホスファイト(旭電化工業社製アデカスタブ3010),トリフェニルホスファイト(旭電化工業社製TPP)、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマー(城北化学工業社製JPH3800)などが挙げられ、特にペンタエリスリトールジフォスファイト(PEP24G),ビス(2,6−ジ―tert―ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト(PEP36,PEP-36Z)、トリス(2,4−ジ−tert-ブチルフェニルホスファイト(2112)水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマー(JPH3800)などがより好ましい。これらは1種でも2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0017】
ホスファイト系有機化合物の配合量は生分解性ポリエステル樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜2質量部である。0.01質量部未満では本発明の目的とする着色の抑制や耐熱、耐湿熱性が得られず、5質量部を超えるとホスファイト系有機化合物の分解による樹脂組成物の物性の低下が生じる。
【0018】
本発明の樹脂組成物においては、生分解性ポリエステル樹脂100質量部あたり、さらにヒンダードフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物およびヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有させることができる。これらの添加剤によって、さらに着色の抑制や耐熱、耐湿熱性が改良される。前記添加剤を使用する場合、合計の配合量は生分解性ポリエステル樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜2質量部である。0.01質量部未満では本発明の目的とする着色の抑制や耐熱、耐湿熱性が得られず、5質量部を超えるとこれらの化合物や分解物による物性の低下や着色が生じる。
【0019】
本発明におけるヒンダードフェノール化合物とは、例えばペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ-tert-ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート] (チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1010)、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]( チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1035)、オクタデシル-3-(3,5−ジ-tert-ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1076、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert-ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]( チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1098)、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ,C7-C9側鎖アルキルエステル(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1135)、2,4−ジメチル―6−(1−メチルペンタデシル)フェノール(IRGANOX1141)、ジエチル[{3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル}メチル]ホスフォネート(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1222)、3,3’,3’’,5,5’,5’’−ヘキサ−tert −ブチル−a,a’,a’’−(メシチレン―2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1330)、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート]とポリエチレンワックスの混合物(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1425WL)、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX1520L)、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(tert-ブチル―4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX259)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX3114)、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2、6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H、3H、5H)−トリオン(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX3790)、N-フェニルベンゼンアミンと2,4,4-トリメチルペンテンとの反応生成物(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX5057)、6−(4−ヒドロキシ−3−5−ジt−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン(チバスペシャリティーケミカルズ社製IRGANOX565)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌル酸(旭電化工業社製アデカスタブAO−20)、1,1,3−tris(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン(旭電化工業社製アデカスタブAO−30)、4,4’−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)(旭電化工業社製アデカスタブAO−40)、3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)プロピオン酸−n−オクタデシル(旭電化工業社製アデカスタブAO−50)、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオナート](旭電化工業社製アデカスタブAO−60)、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート](旭電化工業社製アデカスタブAO−70)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルプロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカン(旭電化工業社製アデカスタブAO−80)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(旭電化工業社製アデカスタブAO−330)、2,2−オキサミドビス−[エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](Crompton−Uniroyal Chemical製ナウガードXL-1)などが挙げられ、特に、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ-tert-ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート] (IRGANOX1010),1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(AO−330)などが好ましく用いられる。これらは1種でも2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0020】
本発明におけるベンゾトリアゾール系有機化合物とは、例えば2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール(チバスペシャリティーケミカルズ社製TINUVIN P)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(チバスペシャリティーケミカルズ社製TINUVIN234)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール(チバスペシャリティーケミカルズ社製TINUVIN326)である。
【0021】
また、トリアジン系有機化合物とは、例えば2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシル]−フェノール(チバスペシャリティーケミカルズ社製TINUVIN1577FF)や2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール(サイテックインダストリーズ製UV-1164)などが挙げられる。
【0022】
さらに、ヒンダードアミン化合物としてはポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}](チバスペシャリティーケミカルズ社製CHIMASSORB944FDL)などが挙げられる。
【0023】
本発明の生分解性樹脂組成物は、80℃、相対湿度90%の条件下において200時間経過後の強度保持率が80%以上であることを特徴とする。ここでの強度保持率は樹脂組成物を用いて試験片を作製し、ASTM−790に基づいて測定し、処理前後の強度の保持率を算出したものである。

本発明の樹脂組成物の製造方法としては、一般的な混練機を用いて生分解性ポリエステル樹脂とその他の原料(各種添加剤)を溶融混練する方法、生分解性ポリエステルを形成するモノマーに対して各種添加剤を所定量存在させた状態で、モノマーを重合することによって、生分解性ポリエステル樹脂組成物を得る方法が挙げられ、ポリエステル樹脂の分子量低下が少ないことや、添加の簡便性などの理由から前者の方法が好ましい。
【0024】
溶融混練に際しては、単軸押出機、二軸押出機、ロール混練機、ブラベンダー等の一般的な混練機を使用することができ、添加剤の分散性向上のためには二軸押出機を使用することが好ましい。
【0025】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、本発明で規定した以外の熱安定剤や酸化防止剤、顔料、耐候剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、充填材等を添加してもよい。熱安定剤や酸化防止剤としては、たとえばイオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物あるいはこれらの混合物を使用することができる。これらの添加剤は一般に溶融混練時あるいは重合時に加えられる。無機充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維、層状珪酸塩等が挙げられる。有機充填材としては、澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ、ケナフ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品が挙げられる。
【0026】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない限り、ポリアミド(ナイロン)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリ(アクリル酸)、ポリ(アクリル酸エステル)、ポリ(メタクリル酸)、ポリ(メタクリル酸エステル)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、およびそれらの共重合体等の非生分解性樹脂を添加してもよい。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形などの公知の成形方法により、各種成形体とすることができる。
【0028】
射出成形法としては、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。射出成形時のシリンダ温度はポリ乳酸の融点(Tm)または流動開始温度以上であることが必要であり、好ましくは180〜230℃、さらに好ましくは190〜220℃の範囲である。成形温度が低すぎると樹脂の流動性の低下により成形不良や装置の過負荷に陥りやすい。逆に成形温度が高すぎるとポリ乳酸が分解し、成形体の強度低下、着色等の問題が発生するため好ましくない。一方、金型温度に関しては、樹脂組成物のTg以下とする場合には、好ましくは(Tg−10℃)以下である。また、剛性、耐熱性向上を目的として結晶化を促進するためにTg以上、(ポリ乳酸の融点(Tm−30℃)以下とすることもできる。
【0029】
ブロー成形法としては、例えば原料チップから直接成形を行うダイレクトブロー法や、まず射出成形で予備成形体(有底パリソン)を成形後にブロー成形を行う射出ブロー成形法、さらには延伸ブロー成形等が挙げられる。また予備成形体成形後に連続してブロー成形を行うホットパリソン法、いったん予備成形体を冷却し取り出してから再度加熱してブロー成形を行うコールドパリソン法のいずれの方法も採用できる。
【0030】
押出成形法としては、Tダイ法、丸ダイ法等を適用することができる。押出成形温度は原料のポリ乳酸の融点(Tm)または流動開始温度以上であることが必要であり、好ましくは180〜230℃、さらに好ましくは190〜220℃の範囲である。成形温度が低すぎると操業が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に成形温度が高すぎるとポリ乳酸成分が分解し、押出成形体の強度低下や着色等の問題が発生するため好ましくない。押出成形により、シートやパイプ等を作製することができる。
【0031】
押出成形法により得られたシートまたはパイプの具体的用途としては、深絞り成形用原反シート、バッチ式発泡用原反シート、クレジットカード等のカード類、下敷き、クリアファイル、ストロー、農業・園芸用硬質パイプ等が挙げられる。また、シートは、さらに、真空成形、圧空成形、及び真空圧空成形等の深絞り成形を行うことで、食品用容器、農業・園芸用容器、ブリスターパック容器、及びプレススルーパック容器などを製造することができる。深絞り成形温度及び熱処理温度は、(Tg+20℃)〜(Tg+100℃)であることが好ましい。深絞り温度が(Tg+20℃)未満では深絞りが困難になり、逆に深絞り温度が(Tg+100℃)を超えるとポリ乳酸が分解し偏肉が生じたり、配向がくずれて耐衝撃性が低下したりする場合がある。食品用容器、農業・園芸用容器、ブリスターパック容器、及びプレススルーパック容器の形態は特に限定されないが、食品、物品、及び薬品等を収容するためには深さ2mm以上に深絞りされていることが好ましい。容器の厚さは特に限定されないが、強力の点から、50μm以上であることが好ましく、150〜500μmであることがより好ましい。食品用容器の具体的例としては、生鮮食品のトレー、インスタント食品容器、ファーストフード容器、弁当箱等が挙げられる。農業・園芸用容器の具体例としては、育苗ポット等が挙げられる。また、ブリスターパック容器の具体的例としては、食品以外にも事務用品、玩具、乾電池等の多様な商品群の包装容器が挙げられる。
【0032】
本発明の樹脂組成物を用いて製造されるその他の成形品としては、皿、椀、鉢、箸、スプーン、フォーク、ナイフ等の食器、流動体用容器、容器用キャップ、定規、筆記具、クリアケース、CDケース等の事務用品、台所用三角コーナー、ゴミ箱、洗面器、歯ブラシ、櫛、ハンガー等の日用品、植木鉢、育苗ポット等の農業・園芸用資材、プラモデル等の各種玩具類、エアコンパネル、各種筐体等の電化製品用樹脂部品、バンパー、インパネ、ドアトリム等の自動車用樹脂部品等が挙げられる。なお、流動体用容器の形態は、特に限定されないが、流動体を収容するためには深さ20mm以上に成形されていることが好ましい。容器の厚さは特に限定されないが、強力の点から、0.1mm以上であることが好ましく、0.1〜5mmであることがより好ましい。流動体用容器の具体例としては、乳製品や清涼飲料水及び酒類等の飲料用コップ及び飲料用ボトル、醤油、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、食用油等の調味料の一時保存容器、シャンプー・リンス等の容器、化粧品用容器、農薬用容器等が挙げられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物は繊維とすることもできる。その作製方法は特に限定されないが、溶融紡糸し、延伸する方法が好ましい。溶融紡糸温度としては、160℃〜260℃が好ましい。160℃未満では溶融押出しが困難となる傾向にあり、一方、250℃を超えると分解が顕著となって、高強度の繊維を得られ難くなる傾向にある。溶融紡糸した繊維糸条は、目的とする繊維径となるようにTg以上の温度で延伸させるとよい。
【0034】
上記方法により得られた繊維は、衣料用繊維、産業資材用繊維、短繊維不織布などとして利用される。
【0035】
本発明の樹脂組成物は長繊維不織布に展開することもできる。その作製方法は特に限定されないが、上記樹脂組成物を高速紡糸法により繊維を堆積した後ウェッブ化し、さらに熱圧接等の手段を用いて布帛化することにより得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0037】
実施例及び比較例の評価に用いた測定法は次のとおりである。
【0038】
(1)曲げ破断強度:
樹脂組成物を射出成形して150mm×13mm×3mmの成形片を得て、これをアニール処理したものを試料とした。ASTM−790に準じて変形速度1mm/分で荷重をかけ、曲げ破断強度を測定した。試験片の作製条件は下記の通り。
射出成形条件:射出成形は、射出成形機(東芝機械社製IS-80G型)を用い、シリンダ温度190〜170℃、金型温度15℃、 射出圧60%、射出時間20秒、冷却時間20秒、インターバル2秒とし、ASTM規格の1/8インチ3点曲げ・ダンベル試験片用金型を用いて行った。
アニール処理条件:アニール処理は120℃のオーブン中で30分間加熱することにより行った。
【0039】
(2)耐加水分解性評価:
恒温恒湿器(ヤマト科学製IG400型)を用い、(1)で作製した試料を、温度80℃、相対湿度90%の環境下に200時間保存処理し、曲げ破断強度の測定と外観評価を行った。
【0040】
強度保持率(%)は(強度保持率)=(処理後の強度)/(処理前の強度)×100として算出した。
【0041】
また、外観評価は目視で行い、外観に全く変化がなければ◎、若干の白化があるが元の形状を維持できていれば○、ひび割れが発生しているか、または形状維持ができていない場合を×とした。
【0042】
[原料]
次に、実施例、比較例において用いた各種原料を示す。
【0043】
(1)生分解性樹脂
樹脂A:ポリ乳酸(カーギルダウ社製NatureWorks、重量平均分子量(MW)=190,000、融点170℃)
樹脂B:テレフタル酸/アジピン酸/1,4−ブタンジオール共重合体(BASF社製エコフレックス、融点108℃、MFR5g/10分(190℃、荷重2.16kg)。)
【0044】
(2)カルボジイミド化合物
CDI:N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(バイエル社製品スタバクゾールI)
【0045】
(3)ホスファイト系化合物
PEP-36:ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)−ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト
(旭電化工業社製アデカスタブ)
JPH3800:水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマー(城北化学工業社製)
【0046】
(4)ヒンダードフェノール化合物
AO−330:1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン
【0047】
(5)ベンゾトリアゾール系化合物
TINUVIN234:2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール
(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)
【0048】
(6)トリアジン系化合物
UV−1164:2−[4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン−2−イル]−5−(オクチルオキシ)フェノール
(サイテックインダストリーズ社製)
【0049】
(7)ヒンダードアミン系化合物
CHIMASSORB944FDL:ポリ[{6−1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]
(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製)
【0050】
[樹脂の製造]
溶融混練には、池貝社製PCM−30型2軸押出機を用いた。スクリュー径は30mmφ、平均溝深さは2.5mmであった。
【0051】
実施例1
100質量部の樹脂A、2質量部のCDI、0.1質量部のPEP36をドライブレンドし、190℃、スクリュー回転数200rpm(=3.3rps)、滞留時間1.6分で溶融混練を行い、押出し、ペレット状に加工し、乾燥し樹脂組成物を得た。得られた組成物の物性と耐加水分解性の評価結果を表1に示した。
【0052】
実施例2〜13、比較例1〜4
ホスファイト系化合物、その他の添加剤を表1のように変更した他は実施例1と同様にして組成物を得て、評価した。なお、実施例13、比較例4においては、それぞれペレット状の樹脂A90質量部と樹脂B10質量部を押出機供給前にドライブレンドして用いた。
【0053】
【表1】

【0054】
実施例1〜13の樹脂組成物はいずれも曲げ破断強度の保持率が80%以上に保たれ、外観も良好であった。
【0055】
これに対して、比較例1〜4の樹脂組成物はカルボジイミド化合物、ホスファイト系化合物およびその他の添加剤を含んでいないために耐加水分解性が不十分であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を50質量%以上含有した生分解性ポリエステル樹脂100質量部、カルボジイミド化合物0.1〜5質量部およびホスファイト系有機化合物0.01〜5質量部からなることを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の生分解性樹脂組成物において、生分解性ポリエステル樹脂100質量部あたり、さらにヒンダードフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物およびヒンダードアミン系化合物から選ばれる少なくとも1種の添加剤を合計量が0.01〜5質量部となるよう含有することを特徴とする生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
80℃、相対湿度90%の条件下で200時間保持した時の強度保持率が80%以上であることを特徴とする請求項1または2記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物からなる成形体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物を製造するに際して、カルボジイミド化合物およびホスファイト化合物を溶融混練時または成形時に生分解性ポリエステル樹脂に添加することを特徴とする生分解性樹脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2006−249152(P2006−249152A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−64545(P2005−64545)
【出願日】平成17年3月8日(2005.3.8)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】