説明

生物変換により芳香族分子を産生するためのシステム

バニリルアルコールオキシダーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子を含み、その配列が配列番号1の配列、または配列番号1の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である酵母、並びにコニフェリルアルコール、フェルラ酸、及びバニリンを産生する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然の芳香族分子の産生に関する。とりわけ、本発明は、発現カセットを用い、生物変換によりフェノール誘導体を産生する、酵母における新規な発現システムに関するものであって、前記フェノール誘導体は、食料用着香料として、または香水(アロマまたは香料)に用いられる天然芳香族分子の産生に使用され得る。
【背景技術】
【0002】
天然芳香族分子の産生は、生物学的プロセスまたは化学合成のいずれかによって達成され得る。例えば、バニリンは、これら2つの経路の一方またはもう一方によって得られる。
【0003】
バニリン(3-メトキシ-4-ヒドロキシベンズアルデヒド)は、ヴァニラ・プラニフォリア(Vanilla planifolia)の鞘由来のバニラ抽出物の嗅覚及び味覚特性に関与する主要な成分である。それは、産業において最も一般的に用いられる芳香族分子である。しかし、ヴァニラの鞘またはバニラ抽出物由来の天然バニリンの産生は、この市場のほんの20%にすぎず、その使用は、第一に、世界中で入手可能な鞘の潜在性、第二に、大きく変動するこれら鞘の高いコスト(30ユーロ/kg〜450ユーロ/kgのオーダー、すなわち、天然バニリンの潜在性1kgあたり最低で1500ユーロ)が理由で制限されている。
【0004】
従って、天然バニリンに対する安価な代替物(およそ15ユーロ/kg)として、合成バニリンが一般に用いられる。しかし、合成バニリンは香水及び化粧品における使用には適しているものの、農業食品においては規制種という問題が生じ得る。さらに、合成着香料は、一般に、天然着香料よりも消費者に人気がない。
【特許文献1】EP 453 368
【特許文献2】WO 96/08576
【特許文献3】WO 00/61721
【特許文献4】EP 0 606 441
【特許文献5】EP 0 804 606
【非特許文献1】J. Overhage et al., Highly efficient biotransformation of eugenol to ferulic acid and further conversion to vanillin in recombinant strains of Escherichia coli. 2003, Applied and Environmental microbiology, p. 6569-6576
【非特許文献2】Guldener U., Heck, S., Fiedler, T., BeinHauer, J., and Hegemann, J.H. A new efficient gene disruption cassette for repeated use in budding yeast. 1996, Nucleic Acids Res. 24: 2519-2524
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この理由のために、生物学的方法、特に微生物(細菌、酵母、カビ)または植物細胞、あるいはそれらの酵素システムを用いた生物変換によって、天然芳香族分子、特にバニリンを獲得することが求められている。
【0006】
本発明の目的のために、用語「生物変換」は、天然の香味料、香料、あるいは香味料または香料の前駆体を得るための、好ましくは天然の供給源由来の基質の生物学的変換を意味することを意図する。
【0007】
バニリンは、以下の反応スキームに従って産生され得る。
【化1】

【0008】
記載された各分子により、それらが入手可能である限りバニリンを得ることが可能であり、最も重要なものは、フェルラ酸とユージノールである。
【0009】
例えば、出願EP 453 368、PCT出願WO 96/08576、及びPCT出願WO 00/61721は、糸状菌の存在下で、フェルラ酸からの生物変換による天然バニリンを産生するための方法を記載している。これらの方法で用いられるフェルラ酸は、フェルラ酸エステルを含む農業副産物:トウモロコシ、米、ビートの根、またはコムギの抽出物に由来する。しかし、これらの副産物の低濃度のフェルラ酸及びその抽出−精製に必要とされる複数の工程は、これらのエステルからの抽出収率が依然として非常に少ないこと、それゆえ、この開始材料に対して高コストが生じること、ゆえに、それに由来するバニリンに対して高い製造コストが生じることを意味する。
【0010】
ゆえに、微生物を用いた生物学的方法がコスト効率の良いものになり得るために、より広範囲に入手可能で且つ安価である基質を使うことが好ましい。
【0011】
これは、コニフェリルアルコールまたはフェルラ酸の供給源であり得るユージノールに当てはまる。
【0012】
J. Overhage らにより発表された論文は、大腸菌における、ペニシリウム・シンプリシシマム(Penicillium Simplicissimum)由来のバニリルアルコールオキシダーゼ遺伝子の発現により、ユージノールのコニフェリルアルコールへの変換を触媒することが可能になるという事実を記載している。コニフェリルアルコールをフェルラ酸へ変換するために、J. Overhage らは、次いで、大腸菌において、ペニシリウム・シンプリシシマム由来の他の2つの酵素:コニフェリルアルコールデヒドロゲナーゼ及びコニフェリルアルデヒドデヒドロゲナーゼを発現させた(Highly efficient biotransformation of eugenol to ferulic acid and further conversion to vanillin in recombinant strains of Escherichia coli, 2003, Applied and Environmental microbiology, p. 6569-6576)。この方法は、入手可能で且つ比較的高価でない基質であるユージノールを実際使用しているものの、大腸菌においてフェルラ酸を産生するためのこのシステムは、ユージノールをフェルラ酸へ変換するために必要とされる3つのクローニングが理由で、実施することが依然として困難である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本願発明の主題は、従来技術よりも低い製造コストで、且つ産業的に実施しやすい方法で、天然バニリンの前駆体または天然バニリン自体を産生する方法である。
【0014】
本発明によって提案される解決策は、ユージノール及びフェルラ酸等の入手可能で安価な天然基質を使用または産生することである。バニリンの合成に最も一般的に用いられる基質である後者は、しばしは高価であり、且つ制御するのが困難な性質のものである。
【0015】
従って、本発明の別の主題は、天然フェルラ酸及び/または天然コニフェリルアルコールを産生するための簡単且つ効率的な方法であって、そのコストは産業的に許容可能なものである。フェルラ酸は、天然バニリンの前駆体として用いられ得るのに対し、コニフェリルアルコールは、ティアレ(Tiare)フラワー等のめずらしい芳香に見られるデヒドロコニフェリルアルコールの供給源であり、且つ酸化によりフェルラ酸の供給源であり得る。
【0016】
本発明による方法の重要な手段は、ペニシリウム・シンプリシシマム(Genbank参照番号Y15627)由来のバニリルアルコールオキシダーゼ遺伝子(配列番号1)等のタイプのバニリルアルコールオキシダーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子、または配列番号1の配列と少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の同一性を有する任意のヌクレオチド配列を含む酵母である。
【0017】
従って、本発明の目的は、バニリルアルコールオキシダーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子を含む酵母における、安価な基質の生物変換を提案することである。
【0018】
本発明の酵母によるユージノールの生物変換は、一方で、不純物なく且つ低コストで、天然フェルラ酸及び/または天然コニフェリルアルコールの産生を可能にし、他方で、天然バニリンの産生を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の一実施態様によれば、当該酵母は、バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子を含む少なくとも1つの発現システムを含む。
有利には、前記発現システムは、
(1)前記システムを前記細胞のゲノム内に組込むための手段であって、2つのヌクレオチド配列を含む手段;
(2)前記システムを組込んだ前記細胞を選択するための手段であって、プロモーター、抗生物質に対する耐性遺伝子等の選択可能なマーカー、及びターミネーターに隣接する2つのLoxP配列を含む選択インサートを含む手段;
(3)バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子のための発現カセットであって、前記遺伝子の発現を可能にするプロモーター、前記遺伝子の組込みを可能にする少なくとも1つのクローニングサイト、及びターミネーターを含む発現カセット;
を含む。
【0020】
用語「発現カセット」は、プロモーター、対象の遺伝子をクローニングするための挿入部位またはマルチクローニングサイト(MCS)、及びターミネーターを含むヌクレオチド配列を意味することを意図する。用語「プロモーター」は、転写の開始及び制御に必要とされるDNA配列を意味することを意図し、用語「クローニングのための挿入部位」は、1つ以上の制限酵素認識部位を含むDNA配列を意味することを意図し、さらに用語「ターミネーター」は、転写の終結に必要とされるDNA配列を意味することを意図する。用語「ベクター」は、外来核酸フラグメントを挿入することが可能な任意のDNA配列を意味することを意図し、ベクターは外来DNAを宿主細胞中に導入することを可能にする。ベクターの例は、プラスミド、コスミド、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、及びP1バクテリオファージ由来人工染色体(PAC)、並びにウイルス由来のベクターである。用語「選択可能なマーカー」は、発現することにより、それを含む細胞が選択されることを可能にする特徴を提供する遺伝子を意味することを意図する。
【0021】
本発明の好ましい態様によれば、クローニングサイトは、制限酵素NotI、BamHI、MfeI、及びXhoIに対する認識部位を含み、これにより、発現カセット内へのバニリルアルコールオキシダーゼのヌクレオチド配列の挿入が可能になる。
【0022】
有利には、このクローニングサイトの配列は、配列番号2の配列、または配列番号2の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、選択可能なマーカーを2つのLoxPサイトと隣接させることにより、CRE/Loxシステムに基づき、この選択可能なマーカーを切り出すことが可能となる。CRE酵素は、LoxPサイトを特異的に認識するリコンビナーゼである。これら2つのサイト間のヌクレオチド配列は標的DNAと呼ばれ、CRE酵素の存在下で除去されることになる。なぜなら、CRE酵素がLoxPサイトに結合すると、それはこれらのサイトを2つに切断し、標的DNAが除去された後に、2等分されたものを元どおりに貼り付けるからである。
【0024】
有利には、LoxP配列の配列は、配列番号3の配列、または配列番号3の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、前記酵母のゲノム内への発現システムの組込みを可能にする配列は複数であり、TY配列、テロメア配列X及びY’、DUP配列、配列、または酵母のゲノムにおいて反復している任意の配列を含む群から選択される。
【0026】
有利には、前記配列は、サッカロマイセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)のTY1A及びTY1B、好ましくはそれぞれ配列番号4及び配列番号5の配列、またはそれらに対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である。
【0027】
本発明の別の好ましい態様によれば、当該発現システムに用いられるプロモーターは強力なプロモーターであり、すなわち、それらの制御下で遺伝子の強力な転写を誘導するプロモーターである。強力なプロモーターの例は、1)酵母内で豊富なタンパク質の遺伝子の発現を制御するプロモーターであって、例えば、解糖系タンパク質または窒素代謝タンパク質の発現を制御するプロモーター;2)発現が特異的であるプロモーターであって、例えば、糖または窒素の存在によって活性が制御されるプロモーター;3)トランスクリプトーム実験を考慮して、活性が高いプロモーター;または4)制御する遺伝子の強力な転写を可能にするように設計された人工プロモーターである。当該発現システムに用いられるターミネーターは、mRNAの優れた安定性を可能にする能力で選択される。有利には、選択されたターミネーターは、前記で選択された強力なプロモーターに対応する。
【0028】
有利には、当該発現システムにおいて対象の遺伝子の発現を可能にするプロモーターは、サッカロマイセス・セレヴィシエTDH3遺伝子のプロモーター、好ましくは配列番号6の配列、または配列番号6の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である。
【0029】
有利には、関連したターミネーターは、サッカロマイセス・セレヴィシエCYC1遺伝子のターミネーター、好ましくは配列番号7の配列、または配列番号7の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である。
【0030】
有利には、選択可能なマーカーの発現を可能にするプロモーター及びターミネーターは、アシュブヤ・アブラムシ(Ashbya gossypii)TEF1遺伝子のプロモーター及びターミネーター、好ましくはそれぞれ配列番号8及び配列番号9の配列、またはそれらに対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である。
【0031】
本発明の別の好ましい態様によれば、当該発現システムに用いられる選択可能なマーカーは、抗生物質に対する耐性遺伝子であり、ジェネティシン、ヌーセオスリシン(nourseothricin)、フレオマイシンまたはゼオシンに対する耐性遺伝子、あるいは野生型の酵母が感受性である主要な抗生物質に対する耐性のための任意の他の遺伝子を含む群から選択される。
【0032】
有利には、当該発現システムに用いられる選択可能なマーカーは、ジェネティシン耐性遺伝子、好ましくは配列番号10の配列、または配列番号10の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である。
【0033】
本発明の別の好ましい態様によれば、バニリルアルコールオキシダーゼ遺伝子を含む発現システムの配列は、配列番号11のヌクレオチド配列、または配列番号11の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である。
【0034】
本発明の主題はまた、以上に定義した発現システムを含むベクターである。
【0035】
本発明の別の好ましい態様によれば、当該発現システムを含むベクターはプラスミドであり、有利にはpUC57である。
【0036】
本発明はまた、以上に定義した少なくとも1つのベクターを含む形質転換された細菌を包含する。
【0037】
これらの形質転換された細菌は、選択されたキャリアーベクターの複製を可能にする任意の種に属するものであって良い。有利には、これらは、大腸菌属の細菌である。
【0038】
本発明の主題はまた、抗生物質に対する耐性遺伝子を切り出すためのベクターであって、前記切り出しベクターは:
(1)前記切り出しベクターを含む細胞を選択するための手段であって、アシュブヤ・アブラムシTEF1遺伝子のプロモーター及びターミネーター、並びにヌーセオスリシン耐性遺伝子を含む手段;及び
(2)当該発現システムに存在する選択可能なマーカーを切り出すための手段であって、サッカロマイセス・セレヴィシエGAL1遺伝子のプロモーター、CRE遺伝子、及びサッカロマイセス・セレヴィシエCYC1遺伝子のターミネーターを含む手段;
を含む。
【0039】
有利には、当該切り出しベクターは、配列番号12の配列、または配列番号12の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列を含む。
【0040】
本発明の好ましい態様によれば、当該切り出しベクターは、細胞分裂の間に分離されにくいベクターから選択され、この特徴により、頻繁な選択圧の非存在下でのベクター、例えばマルチコピー複製ベクターの欠失をもたらす。
【0041】
有利には、当該切り出しベクターはプラスミドpFL44sである。
【0042】
この切り出しベクターの第一の利点は、それにより、当該発現システムを用いて酵母を形質転換した後、前記酵母のゲノムに存在する抗生物質に対する耐性遺伝子を除去することが可能となることである。従って、本発明による芳香族分子の産生を可能にする酵母は、バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子を除いて、同じ属または同じファミリーに属する系統に由来しない任意のDNAを含まない。
【0043】
さらに、当該切り出しベクターによる耐性遺伝子の除去によって、酵母を数回形質転換することも可能となり、それによって、ゲノムに存在する発現システムのコピー数を増加させ、それによって、産生されるバニリルアルコールオキシダーゼタンパク質の量を増大させることが可能となる。
【0044】
本発明の主題は、バニリルアルコールオキシダーゼを含む発現システムを含む酵母であって、前記発現システムの配列は、配列番号11の配列、または配列番号11の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である。
【0045】
本発明の主題はまた、前述のような酵母及び/または前述のような切り出しベクターで形質転換された酵母である。
【0046】
本発明の好ましい態様によれば、当該酵母は、既知の従来方法に従って、バニリン前駆体(特に、ユージノール、フェルラ酸、コニフェリルアルコール)のバニリンへの生物変換を行い得る酵母の任意の種に属する。
【0047】
本発明の目的のために、用語「酵母」は、任意の二倍体もしくは倍数体酵母、またはこれらの系統の1つの胞子形成によって得られる任意の半数体クローン、あるいは2つの半数体クローンの交配によって得られる任意の二倍体クローンを意味することを意図する。
【0048】
有利には、当該酵母は、ヘミアスコミセート(hemiascomycete)酵母の任意の種、好ましくはサッカロマイセス属またはその交配種に属する。非常に好ましくは、当該酵母は、セレヴィシエ株またはその交配種に由来する。
【0049】
本発明の主題は、天然コニフェリルアルコール及び/または天然フェルラ酸を産生するための方法であって、以下の工程:
a)バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子のヌクレオチド配列を、当該発現システム内にクローニングする工程;
b)それによって得られた発現システムで酵母を形質転換する工程;
c)バニリルアルコールオキシダーゼの発現を可能にする条件下で、前記酵母を培養する工程;
d)前記酵母をユージノールに接触させる工程;
を含む。
【0050】
本発明の好ましい態様によれば、バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子のヌクレオチド配列及び当該発現システムを含むベクターは、最初に、1つ以上の制限酵素で消化される。次いで、バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子の配列は、単純なライゲーションまたは任意の他の挿入手段によって、ベクターに担持される発現システム内に挿入される。
【0051】
当該発現システムを増幅するために、任意の方法に従って、細菌は、ライゲーション産物(バニリルアルコールオキシダーゼ遺伝子を含む発現システムを担持するベクター)で形質転換される。当該発現システムを組込んだ細菌は、バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子を含む発現システムを担持するベクター上に存在する抗生物質に対する耐性遺伝子によって選択される。
【0052】
第二に、当該発現システムを担持するベクターは、前記発現システムのいずれかの側を切断する1つ以上の制限酵素、好ましくはPvuIIで消化される。次いで、前記発現システムは精製され、その後、任意の既知の方法に従って、酵母を形質転換するために用いられる。前記発現システムを組込んだ酵母は、前記発現システムに存在する耐性遺伝子によって選択される。
【0053】
最後に、形質転換された酵母は、バニリルアルコールオキシダーゼの発現を可能にする当業者に既知の条件下で培養される。当該培養物中にユージノールを添加すると、バニリルアルコールオキシダーゼにより、前記ユージノールのコニフェリルアルコール及び/またはフェルラ酸への生物変換を触媒することが可能となる。
【0054】
本発明の主題はまた、酵母のゲノムに存在する選択可能なマーカーが切り出される、天然コニフェリルアルコール及び/または天然フェルラ酸を産生するための方法であって、前記方法は、工程b)の後、且つ工程c)とd)の前に、以下の工程b1)、b2)、及びb3):
b1)前記酵母を切り出しベクターで形質転換する工程;
b2)CREシステムの発現を可能にする条件下で、前記酵母を培養する工程;
b3)選択可能なマーカーを欠失した酵母を単離する工程;
を含む。
【0055】
本発明の好ましい態様によれば、バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子のヌクレオチド配列は当該発現システム内に挿入され、当該酵母は、最初に、前述のようなこの発現システムで形質転換される。当該発現システムを組込んだ酵母は、第一の選択可能なマーカー、好ましくは抗生物質に対する耐性遺伝子の存在によって選択される。次いで、ポジティブに選択された酵母は、任意の既知の方法に従って、切り出しベクターで形質転換される。切り出しベクターを組込んだ酵母は、前記切り出しベクターに存在するヌーセオスリシン耐性遺伝子によって選択される。
【0056】
それによって当該発現システム及び切り出しベクターを組込んだ酵母は、次いで、CRE酵素の発現を可能にする条件下で培養される。活性なCRE酵素により、当該発現システムにおいてLoxP配列に隣接する第一の選択可能なマーカーを切り出すことが可能となる。次いで、この選択可能なマーカーを欠失した酵母が選択される。例えば、抗生物質に対する耐性のためのこの第一の遺伝子を欠失した酵母は、この抗生物質に対する耐性の欠如によって選択される。
【0057】
この選択工程の後に得られる酵母は、当該発現システムに存在する選択可能なマーカーをもはや有さないが、切り出しベクターに存在するヌーセオスリシン耐性遺伝子を依然として有する。前述のように、当該切り出しベクターは、細胞分裂の間に分離されにくいベクターから選択される。この特徴によって、当該切り出しベクターは、頻繁な選択圧の非存在下で容易に欠失される。用語「選択圧」は、細胞を選択することに寄与する任意の方法を意味することを意図する。例えば、抗生物質に対する耐性遺伝子を有する酵母を、この抗生物質の存在下で培養状態に維持することは、選択圧という方法に相当する。従って、先行する工程で得られた酵母は、切り出しベクターを欠失するように選択圧の非存在下で培養され、次いで、ヌーセオスリシン耐性遺伝子の欠失について選択される。
【0058】
こうして得られた酵母は、それらのゲノム内にバニリルアルコールオキシダーゼの発現を可能にする発現システムを組込んでいるのに対し、それらのゲノムは、抗生物質に対する任意の耐性遺伝子をもはや含んでいない。次いで、形質転換された酵母は、バニリルアルコールオキシダーゼの発現を可能にする当業者に既知の条件下で培養される。当該培養物中にユージノールを添加すると、バニリルアルコールオキシダーゼにより、前記ユージノールのコニフェリルアルコール及び/またはフェルラ酸への生物変換を触媒することが可能となる。
【0059】
最後に、本発明の主題はまた、当該酵母のゲノム中の発現システムのコピー数を増加させる目的で、工程b)、b1)、b2)、及びb3)が前記発現システムの所望のコピー数と同じ回数だけ繰り返される、天然コニフェリルアルコール及び/または天然フェルラ酸を産生するための方法である。
【0060】
本発明の好ましい態様によれば、当該酵母は、最初に、当該発現システムで形質転換され、次いで、前述のように選択される。次いで、これらの酵母は切り出しベクターで形質転換され、それにより、前述のように選択可能なマーカーの除去が可能となる。こうして得られた酵母は、それらのゲノム中に選択可能なマーカーをもはや有しておらず、前記発現システムの少なくとも1つのコピーを組込んでいる。
【0061】
第二に、前記発現システムのコピー数を増加させるために、これらの酵母は、前記発現システムで再度形質転換される。選択、切り出しベクターを用いた形質転換、及び最終選択の同じ方法が、前述のように実施される。こうして得られた酵母は、選択可能なマーカーをもはや有しておらず、且つそれらのゲノム内に前記発現システムの少なくとも2つのコピーを組込んでいる。この方法は、所望される回数だけ繰り返されてよい。
【0062】
本発明の主題は、前述の工程a)、b)、c)、及びd)、並びに工程d)で産生されたフェルラ酸及び/またはコニフェリルアルコールをバニリンに変換するその後の工程を含む、バニリンを産生するための方法である。
【0063】
本発明の好ましい態様によれば、当該酵母は、それ自身の遺伝材料によって、工程d)で産生されたフェルラ酸をバニリンに変換することができる。
【0064】
本発明の別の好ましい態様によれば、フェルラ酸及び/またはコニフェリルアルコールをバニリンに変換する工程は、EP 0 606 441及びEP 0 804 606に記載される方法に従って、酵素的プロセスまたは生化学的プロセスによって実施される。
【0065】
本発明は、以下に続く、バニリルアルコールオキシダーゼを含む発現システム、この発現システムを含むベクター、切り出しベクターを得ることについて、並びにユージノールの生物変換によりコニフェリルアルコール及びフェルラ酸の産生のためのそれらの使用についての例を挙げているさらなる記載からより明確に理解されるであろう。
【0066】
以下に続く実施例において、説明のために添付の図面が参照されるであろう。
−図1は、当該発現システムのスキームを表す。
−図2は、当該酵母によるバニリルアルコールオキシダーゼの発現を表す。
−図3は、切り出しベクターpFL44s-NAT1-CREを得るための方法を表す。
【実施例】
【0067】
<実施例1:当該発現システムを用いた酵母の形質転換による、酵母におけるバニリルアルコールオキシダーゼの発現>
1/発現システムの合成
当該発現システムは、配列番号13に示される2715bpのヌクレオチド配列を含む。このヌクレオチド配列は、合成配列(配列番号14)及び選択インサート(selection insert)(配列番号15)から構築された。
【0068】
前記合成配列は1225bpのサイズを有するものであり、GenScript社によって合成された。この配列は、:
−TY1A配列;
−LoxP配列;
−TDH3遺伝子のプロモーター配列;
−マルチクローニングサイト配列;
−CYC1遺伝子のターミネーター配列;
−TY1B配列;
を含む。
【0069】
前記選択インサートは、大腸菌内にクローニングされたベクターpUG6から単離された(Guldener U., Heck, S., Fiedler, T., BeinHauer, J., and Hegemann, J.H. 1996. A new efficient gene disruption cassette for repeated use in budding yeast. Nucleic Acids Res. 24: 2519-2524)。
【0070】
前記選択インサートは1500bpを含み、:
−LoxP配列;
−TEF1遺伝子のプロモーター配列;
−kanr遺伝子配列;
−TEF1遺伝子のターミネーター配列;
を含む。
【0071】
このインサートは、SalI及びSacI制限酵素でpUG6ベクターを消化することによって単離された。
【0072】
前記合成配列を含む発現システムを、EcoRI及びPstI制限酵素サイトによってpUC57ベクター(GenScript社)内にクローニングした。
【0073】
当該発現システムを含むpUGベクター及びpUC57ベクターをSalI及びSacI制限酵素で消化した。次いで、前記選択インサートを、SalI及びSacI制限酵素サイトのいずれかの側に位置するTY1A及びLoxP配列の間の合成配列内へ、単純なライゲーションによって挿入した。
【0074】
こうして得られた当該発現システム(合成配列+選択インサート)を含むベクターは、pM2-KAN(図1)と称される。
【0075】
前記選択インサート内に存在するXbaI及びSacI制限酵素サイトにより、使用者が所望する場合には、選択可能なマーカー及びその発現配列を変更することが可能である。
【0076】
SalI及びSpeI制限酵素サイトにより、2つのLoxP配列に隣接する選択可能なマーカー及びその発現配列によって構成される全配列を除去または置換することが可能である。
【0077】
2/当該発現システム内へのバニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子の挿入
VAOのヌクレオチド配列は、ペニシリウム・シンプリシシマム(Genbank参照番号Y15627)に由来する。この実験に用いられたVAO配列(配列番号1)は、pivexベクター内にクローニングされることが可能となるように、5’位のNotIサイト及び3’位のXhoIサイトを用いて合成され、このクローニングは、C末に6個のヒスチジンタグを有するタンパク質を産生するためのヌクレオチド配列にインフレームなものである。
【0078】
前述のように、VAO配列を含むpivexベクターをNotI及びEcoRIで消化し、VAO-6His配列を切り離した。次いで、この配列を、あらかじめNotI及びMfeIで消化した発現システムを含むpUC57ベクター内へ、単純なライゲーションによってクローニングした。
【0079】
3/バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子を含む発現システムを用いた酵母の形質転換
当該発現システムを含むpUC57ベクターを、PvuII制限酵素で消化する。この酵素は、対象のVAO遺伝子を含む発現システムのいずれかの側を切断する。この消化によって得られたDNA断片を精製し、PEG/酢酸リチウムの存在下でヒートショック法によって酵母を形質転換するのに用いる。
【0080】
300mg/Lのジェネティシンを含むYPD富栄養培地(1%酵母エキス、1%ペプトン、2%グルコース)上で、当該発現システムによって担持されたKANr遺伝子の存在によって、形質転換された酵母を選択する。
【0081】
形質転換後に、24クローンのサッカロマイセス・セレヴィシエ酵母(92411株)が得られた(92411 KANVAOクローン)。
【0082】
4/形質転換された酵母によるバニリルアルコールオキシダーゼの発現についての解析
形質転換された酵母を、完全グルコース含有培地(YPD)上で培養する。次いで、実施例1におけるように、VAOタンパク質をNi NTA樹脂でアフィニティー精製する。前記樹脂に保持されたタンパク質を、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGEゲル)によって解析し、クマシー・ブルーで検出する。図2は、2つのクローンについて、VAOタンパク質が産生されていることを示す(カラムE 92411 KANVAO)。P2411 T−クローンは、ネガティブコントロール、すなわち非形質転換92411株に相当し、いずれのVAOタンパク質も産生せず、一方、BL21 I+Fは、pivexベクターにバニリルVAOをクローニングし、それを大腸菌で産生させることによって得られるポジティブコントロールに相当する。
【0083】
<実施例2:バニリルアルコールオキシダーゼを発現する酵母における、ユージノールの生物変換によるコニフェリルアルコール及びフェルラ酸の産生>
前述のように、バニリルアルコールオキシダーゼを含む発現システムを用いて形質転換された酵母を、まず、ユージノールをコニフェリルアルコールへ変換するそれらの能力について選択し、次いで、それらの一部をフェルラ酸を産生する能力について選択した。このようにして、コニフェリルアルコールを形成する能力についてあらかじめ選択されたクローン93205が、その後、その誘導株を介して、ユージノールをフェルラ酸へ転換し得ることが見出された。
【0084】
クローン93207及びその子孫は、発酵槽においてユージノールをコニフェリルアルコールへ変換し得る株の一例として選択された。
【0085】
1/93207株及びその誘導株93334を用いた、発酵槽におけるコニフェリルアルコールの産生
93207株の2つの胞子を交配し、それによって、バニリルアルコールオキシダーゼを含む発現システムの2コピーを含む二倍体株93334を得た。
【0086】
次いで、93334株を約3〜6×108細胞/mLの濃度に達するように100mLの麦芽培地中で2日間培養する。次いで、前記細胞を、3Lの麦芽培地を含む発酵槽内に播種する。播種は、前培養の半分量を用いて、30℃にて500rpmで攪拌しながら行われる。エアレーションは、1分間あたり1Lの空気に曝される。
【0087】
20時間の培養後、ユージノールを50%グルコースの溶液に添加する(60gのユージノール+水50%における120mLのグルコース)。
【0088】
変換の18時間後、発酵槽を停止させる。サンプルを採取する。それをリン酸で酸性にし、エタノールで2倍に希釈し、8000rpmで遠心分離する。上清をHPLCで解析する。
【0089】
当該結果は、18時間において、ユージノールが実質的に完全に変換し、22g/Lのコニフェリルアルコールが合成されたことを示す(100%に近いモル収率)。
【0090】
2/93205株及びその誘導株93342を用いた、発酵槽におけるフェルラ酸の産生
93205株の胞子形成によって得られた半数体93242株を、100mLの麦芽培地中で2日間、30℃にて攪拌しながら(150rpm)培養する。次いで、前記細胞を、3Lの麦芽培地中で、発酵槽にて培養する。播種は、前培養の半分量を用いて、30℃にて攪拌しながら(500rpm)行われる。エアレーションは、1分間あたり0.45Lの空気に24時間曝される。
【0091】
24時間の培養後、1時間あたり0.25〜0.5gのユージノールの流速で、ユージノール溶液を連続的に添加する。
【0092】
サンプルを定期的に採取し、当該基質のフェノール誘導体への変換をモニターする。
【0093】
各サンプルをリン酸で酸性にし、8000rpmで遠心分離する。上清をHPLCで解析する。
【0094】
【表1】

【0095】
これらの条件下で、10g/Lのユージノールから10g/Lのフェルラ酸が産生される(モル収率=85%)。
【0096】
<実施例3:形質転換された酵母のゲノムからの選択可能なマーカーの切り出し>
1/選択可能なマーカーの切り出しのためのpFL44s-NAT1-CREベクターの構築
この例において、切り出しベクターの由来となるベクターはpFL44sベクター(Genbank参照番号X70266)である。長さ4319bpのこのベクターは、:
−URA3遺伝子配列;
−Ampr耐性遺伝子配列;
−マルチクローニングサイト;
−2ミクロン複製開始点(2 micron origin of replication)の配列;
を有する。
【0097】
選択可能なマーカーを含むインサート及びCRE酵素の配列を含むインサートを、このpFL44sベクター内に挿入する。
【0098】
選択可能なマーカー(ここではヌーセオスリシン耐性遺伝子NAT1である)を含むインサートを、ヌーセオスリシンをコードするベクター(Genbank参照番号X73149)から得た。前記ベクター及びpFL44sベクターを、BglII及びEcoRI制限酵素で消化する。TEF遺伝子のプロモーター、NAT1遺伝子配列、及びTEF遺伝子のターミネーターを含むNAT1インサートを、pFL44sベクター内に単純なライゲーションによって挿入する。こうして得られたベクターが、pFL44s-NAT1ベクターである。
【0099】
CRE酵素の配列を含むインサートを、psh47ベクター(Genbank参照番号AF298782)から得る。psh47ベクター及びpFL44s-NAT1ベクターを、PvuII制限酵素で消化する。次いで、GAL1遺伝子のプロモーター、CRE遺伝子配列、及びCYC1遺伝子のターミネーターを含むCREインサートを、pFL44s-NAT1ベクター内に単純なライゲーションによって挿入する。こうして得られたベクターがpFL44s-NAT1-CREベクターであり、その配列は配列番号11の配列(図3)である。
【0100】
2/酵母ゲノムに存在する選択可能なマーカーを除去するための、切り出しベクターを用いた酵母の形質転換
バニリルアルコールオキシダーゼを含む発現システムを含む酵母、例えば93334株を、pFL44s-NAT1-CRE切り出しベクターで形質転換する。形質転換された酵母を、clonNAT(100mg/mL)を補充された富栄養培地(YPD)上で選択する。
【0101】
ポジティブに選択された酵母を、次いで、YPGalactose培地中で培養する。CRE遺伝子のプロモーターは、ガラクトースの存在下で誘導され得るため、この培養条件によって、酵母内でCRE酵素の発現を誘導することが可能となる。
【0102】
この実験の結果は、当該クローンの80%がKanRマーカーを欠失したことを示す。
【0103】
1/に記載したように、ユージノールをコニフェリルアルコールへ変換するための方法は、選択可能なマーカーを欠失している93334株を用いて行われる。変換の18時間後、同じ結果が得られ、選択可能なマーカーの欠失は、前記株の生物変換には影響を及ぼさないことを示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】当該発現システムのスキームを表す。
【図2】当該酵母によるバニリルアルコールオキシダーゼの発現を表す。
【図3】切り出しベクターpFL44s-NAT1-CREを得るための方法を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バニリルアルコールオキシダーゼをコードする少なくとも1つの遺伝子を含み、その配列が配列番号1の配列、または配列番号1の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である、酵母。
【請求項2】
バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子が発現システムに含まれ、前記発現システムが、:
(1)前記システムを前記酵母のゲノム内に組込むための手段であって、2つのヌクレオチド配列を含む手段;
(2)前記システムを組込んだ前記酵母を選択するための手段であって、プロモーター、抗生物質に対する耐性遺伝子等の選択可能なマーカー、及びターミネーターに隣接する配列番号3の配列に相当する2つのLoxP配列を含む選択インサートを含む手段;
(3)バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子のための発現カセットであって、前記遺伝子の発現を可能にするプロモーター、前記遺伝子の組込みを可能にする少なくとも1つのクローニングサイト、及びターミネーターを含む発現カセット;
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の酵母。
【請求項3】
前記発現システムを酵母のゲノム内へ組込むためのヌクレオチド配列が、サッカロマイセス・セレヴィシエの配列番号4の配列に相当するTY1A配列及び配列番号5の配列に相当するTY1B配列、またはそれらに対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列であることを特徴とする、請求項2に記載の酵母。
【請求項4】
バニリルアルコールオキシダーゼの発現を可能にするプロモーターが、サッカロマイセス・セレヴィシエTDH3遺伝子(配列番号6)のプロモーターであり、且つ関連するターミネーターが、配列番号7の配列に相当するサッカロマイセス・セレヴィシエCYC1遺伝子のターミネーターであり、またはそれらに対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列であることを特徴とする、請求項2または3に記載の酵母。
【請求項5】
選択可能なマーカーの発現を可能にするプロモーター及びターミネーターが、アシュブヤ・アブラムシTEF1遺伝子の配列番号8の配列に相当するプロモーター及び配列番号9の配列に相当するターミネーター、またはそれらに対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列であることを特徴とする、請求項2から4のいずれか一項に記載の酵母。
【請求項6】
選択可能なマーカーが抗生物質に対する耐性遺伝子であり、ジェネティシン、ヌーセオスリシン、フレオマイシンまたはゼオシンに対する耐性遺伝子、あるいは野生型の酵母が感受性である主要な抗生物質に対する耐性のための任意の他の遺伝子を含む群から選択され、且つ好ましくは、配列番号10の配列、またはそれに対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列に相当するジェネティシン耐性遺伝子であることを特徴とする、請求項2から5のいずれか一項に記載の酵母。
【請求項7】
バニリルアルコールオキシダーゼを含む発現システムの配列が、配列番号11のヌクレオチド配列、またはそれに対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列である、請求項2から6のいずれか一項に記載の酵母。
【請求項8】
バニリン前駆体のバニリンへの生物変換を行い得る酵母の任意の種に属することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の酵母。
【請求項9】
ヘミアスコミセート酵母の任意の種、好ましくはサッカロマイセス属またはその交配種、非常に好ましくはセレヴィシエ株またはその交配種に属することを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の酵母。
【請求項10】
請求項2から7のいずれか一項に定義される発現システムを含むベクター。
【請求項11】
好ましくはpUC57である、請求項2から7のいずれか一項に定義される発現システムを含むプラスミド。
【請求項12】
好ましくは大腸菌である、請求項10または11に記載のベクターを含む細菌。
【請求項13】
好ましくはpFL44sである、マルチコピーベクターから選択される切り出しベクターであって、配列番号12の配列、または配列番号12の配列に対して少なくとも70%、好ましくは80%、非常に好ましくは90%の相同性を有する任意の配列を含むことを特徴とする、切り出しベクター。
【請求項14】
天然コニフェリルアルコール及び/または天然フェルラ酸の産生方法であって、以下の工程:
a)バニリルアルコールオキシダーゼをコードする遺伝子のヌクレオチド配列を、請求項2から7のいずれか一項に定義される発現システム内にクローニングする工程;
b)それによって得られた発現システムで酵母を形質転換する工程;
c)バニリルアルコールオキシダーゼの発現を可能にする条件下で、前記酵母を培養する工程;
d)前記酵母をユージノールに接触させる工程;
を含む産生方法。
【請求項15】
工程b)の後、且つ工程c)とd)の前に、以下の工程b1)、b2)、及びb3):
b1)酵母を請求項13に記載の切り出しベクターで形質転換する工程;
b2)CRE酵素の発現を可能にする条件下で、前記酵母を培養する工程;
b3)選択可能なマーカーを欠失した酵母を単離する工程;
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程b)、b1)、b2)、及びb3)が前記発現システムの所望のコピー数と同じ回数だけ繰り返される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項14から16のいずれか一項に記載の工程a)、b)、c)、及びd)、並びに工程d)で産生されたフェルラ酸及び/またはコニフェリルアルコールをバニリンに変換するその後の工程を含む、バニリンの産生方法。
【請求項18】
工程d)で産生されたフェルラ酸及び/またはコニフェリルアルコールをバニリンに変換する工程が、酵母内で、あるいは生化学的プロセスまたは酵素的プロセスによって実施される、請求項17に記載のバニリンの産生方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−528041(P2009−528041A)
【公表日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−556817(P2008−556817)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000364
【国際公開番号】WO2007/099230
【国際公開日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(504160194)
【Fターム(参考)】