説明

生物学的サンプル材料のアーカイブ及び臨床分析用のバイオチップ

【課題】診断目的のためにバイオチップの形態にある小型化された分析システムを提供する。
【解決手段】固体マトリクス1のサンプルキャリヤbを有し、上記サンプルキャリヤの表面はマイクロ域に細分化され、上記表面には分析されるべき、生物学的生物から生ずるサンプル材料2が結合される、診断目的用のバイオチップであって、上記生物学的サンプル材料は、上記サンプルキャリヤの上記マトリクスの上記表面に直接的に結合され、上記サンプルキャリヤの上記マトリクス又は表面は、上記サンプル材料に対する上記表面の結合容量を改善するために化学的若しくは物理的方法によって好ましくは事前に処置されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断目的のために適切であり、分析されるべき生物学的サンプル材料でコーティングされており、場所を節約してサンプル材料をアーカイブし、サンプル材料に臨床検査診断分析を行うことに夫々適しているバイオチップに関わる。本発明は、更に、このようなバイオチップの作成に適切なサンプルキャリヤと、上記したサンプルキャリヤ又はバイオチップの作成のための処理とに関わる。本発明は、更に、本発明のバイオチップを用いた診断方法、並びに、様々な医学分野における本発明のバイオチップ及び診断方法の使用に関わる。
【背景技術】
【0002】
臨床検査診断は、治療法における重要な基礎を成す。利用できる診断マーカー分子の数が増加することで、臨床検査診断の可能性が常に拡がっている。行われるべき検出反応のボリューム、緊急度、並びに、経済的理由により、短時間で多数の異なる分析を取り扱うことができる自動分析方法が優先的に用いられる。
【0003】
患者の健康状態を臨床検査分析するための生材料は、典型的には、全血、血漿、血清、尿、腹水、羊水、唾液、液等のような体液、又は、異なる臓器の組織サンプルである。治療する医師は、可能性として患者に特定の治療、例えば、遠心分離法を受けさせて患者からサンプルを集め、患者のサンプルを試験管の中に移し、このサンプルは、試験管に入れられたまま送り出されるか分析が実施されるまで保存される。
【0004】
分析されるべきパラメータ、即ち、分析されるべき成分(分析物)によって、サンプルは、室温で保存され、又は、冷やされるか冷凍状態で保存される。長期保存の場合、即ち、数週間、数ヶ月、又は、数年にわたって保存される場合、患者のサンプルは、分析物の劣化を防止するために−20℃以下の温度で冷凍されなくてはならい。室温で生ずる劣化の主な原因は、液体サンプル材料において特有の酵素活性化である。
【0005】
長期保存の典型的なサンプル容積は、少なくとも500μlである。1回目の分析後に更なる分析的測定が後の時点で、又は、後の異なる時点で行われるべき場合、血液の元の収集物から幾つかの500μlのサンプルが調製され、保存され、又は、冷凍状態で保存されなくてはならない。これらサンプルは比較的場所を多く占有するため、長期間にわたる保存は比較的高価となる。このため、患者のサンプルを長期間保存することは、一般的に用いられない。しかしながら、これは、前に集めたサンプルを後で見直す可能性を失うこととなる。多くの場合、特に、ある診断パラメータに関して、患者の現在の状態を同じ患者の初期の状態と比較することが重要となるとき、望ましい、又は、必要となる場合もある。場合によっては、関連パラメータに関するトレンド分析を実施するために、様々な時点で患者の以前の状態を幾つか記録することが便利となる。しかしながら、このような比較は、関連の診断テストが以前に行われていない、又は、行われ得てなく、元のサンプルが保存されていない場合にはできない。
【0006】
患者の健康状態の分析に関して、最も異なる種類の方法が臨床検査で現在利用されている。これら方法の中でも、先ず、酵素の活性化測定、特別な呈色反応、免疫化学方法、細胞学的方法、分子生物学的方法がある。近年では、免疫化学方法が中でも重要となり、多くの従来方法の代わりとなった。分子生物学的方法もルーチン診断において登場しつつある。
【0007】
現在利用されている免疫化学分析システムは、多くの場合約10−500μlの容積で行われる抗原抗体反応に基づいている。ここでは、検出されるべき分析物を含む患者のサンプル(体液等)、この場合、抗原は、このパラメータに特定の抗体と一緒にインキュベートされこの分析物だけを認識し結合する。この抗原抗体反応の生成物は、抗体結合の抗原を含む複合体である。患者のサンプル中の抗原の濃度が高い程、形成される抗原抗体複合体の濃度も高くなる。現在のテストシステムでは、これら抗原抗体反応は、溶液中で自由に(濁度測定又は比濁分析によって検出)行われるか、抗原特定表面(例えば、RIA、ELISA)で実施される。抗原抗体反応が行われると、1回目の場合では、抗原抗体複合体は溶液にあり、2回目の場合では、固相、主にプラスチック表面に結合される。抗原抗体複合体の検出及び定量化は、濁度測定又は比濁分析の場合には濁度を測定することで実施され、RIA(放射免疫測定)の場合には放射検出と共に放射線同位体マーク抗体によって実施され、ELISA(酵素免疫測定)及びLIAの場合には酵素触媒の呈色反応の検出と共に酵素マークされた抗体によって実施される。これらテストシステムを手段として、分析物及び抗原の濃度は、1pg/ml(タンパク質)までの範囲で検出され得る。
【0008】
実験的技術において確立された上記分析システムの小型化及び自動化は、現在集中的に研究されている。このため、近年では、様々な小型化された固相リンクテストシステムが開発され、これらシステムはその大きさの小ささのためコンピュータチップに類似して「バイオチップ」と呼ばれる。このようなバイオチップの大きさは、典型的には、0.25乃至9cmである。ある文献に記載されているバイオチップは、ガラスの固体マトリクス(S. P. A. Foder外:Light − directed, spatially addressable parallel chemical synthesis; Science 251(1991年2月), p.767−773); C. A. Rowe外:An array immunosensor for simultaneous detection of clinical analytes; Analytical Chemistry Col.71(1999年1月15日) p.433−439; L. G. Mendoza外: High−throughput microarray−based enzyme−linked immunosorbent assay (ELISA); BioTechniques 27(1999年10月), p.778−788)、ナイロン若しくはニトロセルロース膜、ケイ素樹脂(J. Cheng外: Chip PCR. .Nucleic Acids Research Col.24 (1996) p.380−385)、又は、シリコンを含む。異なるリンカー分子を通じて、これらマトリックスに生体分子、例えば、DNA、ペプチド、タンパク質を共有結合することも可能である。3.6cmの表面には、10000までの異なる生体分子を与えることができ、これには互いから分離しているマトリクスの特定域への生体分子のマイクロメートルに正確なアドレス指定を必要とする。これは、例えば、生体分子の写真平版的に制御される合成(S. P. A. Foder外: Light−directed, spatially addressable parallel chemical synthesis; Science 251 (1991年2月), p.767−773)によって、又は、精度機械的な、マイクロプロセッサ制御されたプログラム可能なピペットロボットを用いた生体分子のスポットオン(L. G. Mendoza外: High−throughput microarray−based enzyme−linked immunosorbent assay (ELISA); BioTechniques 27(1999年10月), p.778−788; M. Eggers外: A microchip for quantitative detection of moleculesutilizing luminescent and radioisotope reporter groups; BioTechniques 17 (1994), p.516−523)によって実現され得る。
【0009】
固相結合された生体分子を用いて、患者のサンプルに含まれる分析されるべき分析物は、続いて適切な検出システムで結合され検出され得る。
【0010】
高感度の検出システムとして、例えば、電荷結合素子(CCD)カメラ(L. G. Mendoza外、M.Eggers外; 前掲箇所)、フォトトランジスタ(T. Vo−Dinh外:DNA biochip using a phototransistor integrated circuit; Analytical Chemistry 71 (1999) p.358−363)、及び、蛍光検出器(S. P. A. Fodor外; 前掲箇所)が使用されている。
【0011】
上記バイオチップは、現在では、研究目的、例えば、DNA塩基配列決定法、遺伝子発見分析、遺伝子突然変異分析、及び、タンパク質結合研究、即ち、抗体結合研究のためだけに使用されている。遺伝子発見分析(M. Chena外: Quantitative monitoring of gene expression patterns with a complementary DNA microarray; Science 270 (1995年10月20日) p.467−470)では、ある遺伝子に対して補完的なDNA配列がピペットロボットを用いてチップブランクのマトリクスにスポットオンされ、このとき、一つのスポット全てがある遺伝子を表している。続いて、mRNAは、分析されるべき組織サンプルから分離され、蛍光染料でマーキングされ、バイオチップ全体に与えられる。次に、マーキングされたmRNA分子のバイオチップのある部位への結合が検出され得る。分析が行われた後、バイオチップは、mRNAサンプルで汚染されているため廃棄される。同様にして、バイオチップは、DNA配列分析、及び、遺伝子突然変異分析にも利用され得る。
【0012】
サンプル材料の免疫化学分析に関して、Mendoza外(前掲箇所)は、小型化されたテストシステムのプロトタイプを記載した。著者は、96の窪み(ウェル)のある特別なガラススライドを用い、各窪みには144の異なる抗原を含むスポットの模様がピペットロボット及びキャピラリー・プリンティング方法を用いて印刷される。抗体を含む溶液でインキュベートされた後、抗原抗体複合体が形成されたスポットは、CCDカメラを用いて検出され得る。
【0013】
従って、従来技術から公知のバイオチップは、特定の、選択された、又は、特別に合成された分子が、定められ小型化された配置で固体マトリクスに与えられ結合される実施例に制限される。これら分子は、異質成分からなる混合物、例えば、患者のサンプル中である分析物の存在を検出する機能を担う。つまり、これらバイオチップは、テスト指定、即ち、チップに存在する検出分子によって予め決定された検出反応だけを許可する。
【0014】
このアプローチ法は、臨床診断的用法に関して幾つか不都合な点を有する。このアプローチ法を用いると、多数の異なる測定を同時に実施することができるが、多くの場合限定された数のパラメータ、即ち、分析物だけが明らかであるといった問題がある。つまり、あるチップに存在する複数の検出分子は、未使用のままであるか、関心のないものである。更に、患者のサンプルとインキュベートされた後、このようなバイオチップが原則として更なる分析のために使用されてはならないことを考慮しなくてはらない。これらの理由により、上記タイプのバイオチップの使用は、臨床検査におけるルーチン検出方法にはさほど適してなく、費用効果的な方法で利用され得ない。
【0015】
更に、これまで公知のバイオチップでは、更に行う各分析に対して新しい患者のサンプル材料が必要であった。その結果、患者は血液サンプルを取られるために何回か出向かなくてはならず、医師及び患者夫々に対してある程度の労力を伴う。既に収集されたサンプルを用いて後の時点である検査が繰り返されるべき場合、サンプル材料を液体又は冷凍状態で中間保存する必要が生じ、上記欠点を伴うこととなる。
【0016】
開発が進んだ結果、新規の検出反応が常にアクセス可能にされている。従来技術から公知のバイオチップをこのような新しく開発された検出反応で使用可能にするためには、バイオチップは常に最新化されなくてはならず、これは、高支出を伴い、更には、時間的に遅れて可能となる。
【0017】
時として、新しい検出方法が利用できるようになると、ある患者の元のサンプル材料がもはや利用できなくなり、患者のサンプル材料の長期保存が問題であるために関心のある臨床パラメータの時間における変化を検査することができない場合が多い。従来技術から公知のバイオチップは、この問題の解決策には寄与し得ない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の基礎を成す作業は、従って、診断目的のためにバイオチップの形態にある小型化された分析システムを提供することであり、この分析システムは、比較的長い時間間隔の場合でも同じ患者のサンプル材料に対して分析的検出方法を繰り返し実行することを可能にする。更に、バイオチップは、長期間にわたってサンプル材料を場所を節約して保存且つアーカイブすることを可能にする。
【0019】
更に、本発明の基礎を成す作業は、バイオチップを前記必要条件に従わせて検出反応の自動実施を可能にする方法を提供する。この方法は、非常に柔軟、即ち、他の元々意図されていない検出反応に容易に適応可能でなくてはならない。更に、処理は、時間の間隔で同じサンプル材料に対して繰り返し検査を行うことを可能にさせる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記問題は、請求項1記載のバイオチップによって、及び、請求項17記載の診断検出処理によって解決され得る。従属項は、前記問題を同様に解決する本発明の更なる実施例に関する。
【0021】
請求項1によると、本発明によるバイオチップは、分析されるべき、生物学的生物からのサンプル材料が表面にリンクされている固体マトリクスからなるサンプルキャリヤを有する。従って、分析されるべきサンプル材料は固相にリンクされている。
【0022】
最新技術から公知のバイオチップと比べて、本発明の場合、どの具体的に選択された又は合成された分子もチップの表面に結合されていないが、その代わりに、サンプル材料自体、例えば、異なる生体分子の異質成分からなる混合物を含む体液が結合されている。従って、本発明によるバイオチップは、患者指定の又は患者のサンプル指定チップであり、これまでの公知のバイオチップはテスト指定、即ち、検出指定バイオチップである。サンプル材料の結合は、サンプルキャリヤマトリクスの表面に直接的に行われてもよい。サンプルキャリヤのマトリクス又は表面は、サンプル材料に対する表面の結合容量を改善するために化学的又は物理的な方法によって予め処置されることが好ましい。この目的に適切な方法、例えば、エッチング又は粗処理は、当業者に公知である。
【0023】
本発明によるバイオチップの一般的な構造は、図1Aから分かり、図1Aは、サンプルキャリヤ(b)及びそこに結合されたサンプル材料(2)を含むバイオチップ(a)の断面図である。サンプルキャリヤは、実質的に固体マトリクス(1)よりなる。
【0024】
サンプル材料の結合は、サンプルキャリヤの表面に適用されるリンカー分子の層(リンカー層)を手段として任意に行われてもよい。
【0025】
このようなバイオチップ(a)の概略的な構造は、図1Bに示されており、同図は、固体マトリクス(1)及び固体マトリクスの上に位置するリンカー層(3)を含むサンプルキャリヤ(b)の断面図であり、サンプル材料(2)はリンカー層を介してサンプルキャリヤの表面に結合される。
【0026】
本発明のバイオチップを用いると、診断検出反応は、以下に詳細に説明するように、サンプル材料でコーティングされているバイオチップの非常に小さい域に、検出に適した分子が適用されるようにして主に行われる。このようにして、同時に又は連続的に、異なる診断試薬を用いてバイオチップの表面の異なる域を処置することが可能となる。
【0027】
本発明のバイオチップでは、検出に使用される分子ではなく、分析されるべきサンプル材料がバイオチップのマトリクスを形成するサンプルキャリヤの表面に結合され、このようなチップの用途及び適用分野は、製造によりある選択された診断分子に制限されない。むしろ、有用な又は必要な診断検出試薬の選択は、検出方法が適用されるときだけ行われるため、適用が非常に柔軟となる。
【0028】
本発明によるバイオチップでは、分析されるべきサンプル材料は、サンプルキャリヤの表面に結合される。サンプル材料は、乾燥した状態にあるため、室温でも保存中安定している。本発明のバイオチップは小型化システムであるため、患者のサンプル材料を場所を節約して且つ経済的に保存及びアーカイブすることが可能となる。このようにして、本発明による多数の患者指定バイオチップは、小さい場所で保存され得、多数の分析的検出反応を実施することに利用できる。
【0029】
バイオチップをアーカイブする可能性は、互いとは無関係にチップ表面の様々な部位で幾つかの検出反応を実施する可能性と共に、特定の患者、又は、患者の特定のサンプルにおける特定の診断マーカーの検査を異なる時間の間隔でできるようにする。特に、元々、即ち、サンプル収集時に計画されていないような場合でも後の時点でこのような診断検査ができるといったことが有利である。これは、収集後の後の時点で展開した検出反応に特に適用される。
【0030】
本発明によるバイオチップの個々の試料は、夫々決まった個人の生物学的生物から収集されたサンプル材料、例えば、ある患者からのサンプル材料を含むことが好ましい。人間以外で、適切なサンプル材料を得ることができる更なる生物学的生物は動物、植物、菌類、及び、微生物である。
【0031】
バイオチップの表面にリンクされるサンプル材料として好ましく使用されるものは、例えば、全血、血漿、血清、尿、腹水、羊水、唾液、液、体腔からの洗浄材料或いは気管支肺胞洗浄等のような体液である。同様にして、組織のサンプル若しくは臓器のサンプル、又は、上記液体或いは組織若しくは臓器のサンプルからの成分、細胞、分画、細胞崩壊材料、濃縮物若しくは抽出物が使用されてもよい。ある場合では、サンプル中にあれば関心のある分析物が中に濃縮されるように事前処置を施すことも適当である。例えば、血清分析に関して、血液サンプルの固体成分は、遠心分離法によって分離され、続いて、このようにして得られた血清はサンプルキャリの表面に与えられ結合される。
【0032】
特に有利な実施例では、サンプル材料が載せられた本発明によるサンプルキャリヤの表面はマイクロ域に区分されている。これらマイクロ域は、互いに近接して配置されているが互いから離間されている非常に小さい表面域である。通常、表面は、複数のこのようなマイクロ域に、好ましくは少なくとも1cm当たり100マイクロ域に細分化される。ある用途に関して、1単位域当たり比較的少ない数のマイクロ域、例えば、1cm当たり10乃至100マイクロ域で十分である。マイクロ域は、窪みとして好ましくは構成されてもよく、又は、疎水性の若しくは非溶性の境界領域によって互いから離間されてもよい。サンプルキャリヤに疎水性の又は非溶性の境界領域を設けることによって、これら領域におけるサンプル材料のリンクを防止することができ、従って、個々の境界領域の間に位置するこれら境界領域にはサンプル材料がない。マイクロ域の構成は、以下に図2及び図3を参照し例として更に示す。
【0033】
チップ表面をマイクロ域に区分にすることによってピペットロボットによる単一の部位の検出及び処置が容易となるため、分析的検出反応の実行が改善される。特に、マイクロ域が正規グリッド又はスクリーンの形態で設けられた場合、夫々の座標を用いて個々のマイクロ域を識別しアドレス指定することが可能となる。それにより、ピペットロボットを用いてバイオチップの個々の部位に検出試薬を選択的に適用することが簡略化される。同時に、サンプル材料でコーティングされたチップ表面の区分は、検出信頼度を向上させ、個々のマイクロ域が境界領域によって互いから分離されているか窪みの形態で存在するため、望ましくない反応又は汚染の危険性が防止される。
【0034】
サンプル材料が表面に結合されている、本発明によるバイオチップのサンプルキャリヤは、実質的に固体マトリクスよりなる。サンプルキャリヤのマトリクスの適切なベース材料は、例えば、ケイ素樹脂、プラスチック(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテレフタル酸エチレン、ポリアミド、ニトロセルロース)又は、ガラスであるが、他の固体材料が使用されてもよい。透明な固体材料が優先して使用される。しかしながら、マトリクス材料を選択するとき、意図するサンプル材料を確実に結合することに適切かを考慮しなくてはならない。サンプルキャリヤは、少なくとも2つの異なるマトリクス材料の積層体でもよく、このとき2層のうちの一方が剛性なキャリヤ層となり、他方がサンプル材料を結合する表面となることが好ましい。
【0035】
既に上記した通り、サンプル材料がリンクされているサンプルキャリヤの表面がマイクロ域に細分化されている場合、特に有利である。本発明によるバイオチップの外側の寸法は、小型化の要件が満たされるように選択される。このようなバイオチップの、又は、このようなバイオチップを形成するためのサンプルキャリヤの表面は、最大で10cm、好ましくは、最大で4cm、特に好ましくは最大で1cmである。
【0036】
サンプルキャリヤ、従って、バイオチップは、優先的に、平坦形状体として構成され、特に好ましくは正方形の又は長方形の外形を有する。しかしながら、他の幾何学的形状、例えば、丸又は円形のサンプルキャリヤ又はバイオチップも好適である。平坦形状のサンプルキャリヤの厚さは好ましくは3mm未満、特に好ましくは1mm未満である。個々の場合では、バイオチップの外側の寸法は、既に利用できるピペットロボット又は分析オートマトンと互換性があり、このような機器において本発明によるバイオチップを使用することを可能にするよう選択される。
【0037】
本発明のバイオチップを形成するためには、サンプルキャリヤの表面は、生物学的サンプル材料でコーティングされ、この材料は、サンプルキャリヤの表面に結合され、この結合は、共有又は非共有でもよい。サンプル材料を結合する、従って、生体分子を結合する能力を向上するためには、あるマトリクス材料をサンプルキャリヤとして使用するとき、これら材料、従って、サンプルキャリヤの表面に化学的又は物理的方法(例えば、エッチング)を受けさせて結合能を向上させることが有用となる場合もある。更に、化学的な又は物理的な前処置により、サンプルキャリヤの表面は拡大され得、従って、結合能が向上する。この目的に適切な方法は当業者に公知である。
【0038】
本発明の好ましい実施例によると、サンプル材料の、従って、その中に含まれる分析物(例えば、生体分子又は細胞)のサンプルキャリヤの表面への結合を改善するために、又は、ある分析物、又は、分析物のグループ若しくはクラスの選択的な若しくは好ましい結合を生じさせるためにサンプル材料の適用前にサンプルキャリヤの表面にリンカー層が設けられてもよい。このようにして、ある分析物の又は分析物のグループの濃縮又は事前選択を実現することが可能となる。これに関連して、リンカーは、一方でサンプルキャリヤの表面、即ち、そのマトリクス材料と固く結合することができ、他方で、生物学的なサンプル材料を結合する、又は、生物学的サンプル材料を選択的に又は好ましい方法で結合することができる化合物を意味すると理解する。
【0039】
好ましくは、サンプルキャリヤの表面には好ましくは、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖、脂質、核酸のようなあるグループの生物学的マクロ分子の選択的な結合若しくは濃縮、又は、細胞若しくはある細胞のタイプ又は細胞集団の結合又は濃縮を可能にするリンカー分子の層が設けられる。更に、サンプルキャリヤの表面の異なる域部分を異なるタイプのリンカー分子でコーティングすることも有利となり得る。このようにして、例えば、患者のサンプルに存在する分析物(例えば、生物学的マクロ分子の異なるクラス)の事前選択及び空間分離を行うことが可能となる。
【0040】
リンカー分子として、例えば、(L. C. Shriver−Lake; Antibody immobilization using heterobifunctional crosslinkers; Biosensors & Bioelectronics Col.12 (1997), p.1101−1106):N−スクシンイミジル−4−マレイミドブチラート(GMBS;アミノ基の結合に関して),4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシルヒドラジド−HCl(M2C2H;残留糖の結合に関して)、又は、最も異なるマクロ分子又は細胞或いは細胞のタイプを結合することに関して既知の結合特性を有する抗体がある。
【0041】
既に述べたとおり、サンプルキャリヤ又はバイオチップの表面がマイクロ域に区分されていると有利である。既に記載した方法以外でこの区分化は、断続的に構成されたリンカー層によって実現されてもよい。この場合、リンカーを含む表面域のマイクロ域と、及び、それらの間にあるリンカーのないゾーンとが形成され、1cm当たり少なくとも100マイクロ域が存在することが好ましい。
【0042】
サンプル材料を結合するのに最適で好ましくはマイクロ域に細分化されている表面を有するサンプルキャリヤの製造は、様々な方法で達成され得る。バイオチップに好適な寸法の表面の片を形成するためには、通常大きい大きさのシート状のマトリクスの生材料(ガラス、プラスチック等)は、既知の機械的な方法を用いて対応する方法で分離され、それによりサンプルキャリヤが得られる。或いは、対応するマトリクス生材料は、液化され、続いて適当な成型に例えば、射出成型によって鋳造されて、サンプルキャリヤが形成される。
【0043】
記載したマイクロ域、従って、中間境界領域は、例えば、エングレービング、パンチング、エンボシング若しくはプリンティングのような物理的な方法を用いて、又は、エッチング若しくは疎水性の層を加えるような化学的方法によって形成され得る。更に、ピペットロボットを用いてサンプルキャリヤの表面にマイクロ域の形態でリンカー層を与えることも可能である。更に、本発明のマイクロ域の形成を可能にするために様々な既知のプリンティング方法が適応され得る。最後に、前述の方法は、組み合わせて利用されてもよい。更に、既にシート状のマトリクス生材料であるマイクロ域に細分化することも可能であり、上記マトリクス生材料はその後、上記のような個々のサンプルキャリヤに分離される。
【0044】
本発明によるバイオチップは、1つのバイオチップ当たり1人の特定の患者(「患者指定」バイオチップ)からのサンプル材料をアーカイブし、多数の診断分析を行うことに特に適切である。このようなチップのアーカイブ処理及び分析オートマトンにおけるその自動処理並びに評価を容易に又は可能にするために、本発明の更なる実施例によると、バイオチップ又は対応するサンプルキャリヤに、バイオチップの識別、又は、患者関連データの保存、又は、分析データの保存を可能にする手段が設けられることが提案される。これは、好ましくは、機械読み取り可能なバーコード、機械読み取り可能な磁気ストリップ、ディジタル記憶素子、又は、別のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を用いて行われ得る。多数の患者関連バイオチップがアーカイブ又は処理されなくてはならないときに上記実施例は有利となる。
【0045】
バイオチップにデータを保存する手段があることにより、例えば、サンプルを収集し、可能性としてサンプル材料をサンプルキャリヤに適用する医師又は臨床医師が例えば、患者関連データ、又は、バイオチップ上のサンプルの収集に関連するデータを保存することができるようになる。更に、分析結果、又は、その評価を保存することも可能となり、それにより、以前に既に実施された分析に関する情報も保存することができる。
【0046】
本発明は、更に、サンプル材料を用いてバイオチップを製造する処理段階と、診断検出反応を実施し評価する段階とを有する診断検出方法を有する。
【0047】
最初に体液、組織サンプル等が患者又は別の生物から得られ、必要である場合、事前処置(例えば、遠心分離法、濃縮等)を受けさせる。必要な場合、サンプル材料は、適切な緩衝液又は溶剤に懸濁又は溶解される。バイオチップを作るためには、好ましくは液体の形態にあるこのサンプル材料は、例えば、ピペットによって又はディっピングによって本発明によるサンプルキャリヤの表面に与えられる。数分間例えば、1乃至10分間にわたる短いインキュベート時間の後、全ての余剰のサンプル材料は(例えば、吸引によって)除去される。その後、好ましくは、僅かに上昇した温度(30乃至60℃)で乾燥され、それにより、サンプル材料、従って、その中に含まれる分析物(例えば、生体分子)はサンプルキャリヤの表面にリンクされ、又は、場合によってはリンカー層にリンクされる。前述の処理段階は、サンプル材料を収集する医師によって、又は補助医療スタッフによって行われる。従って得られた患者指定の又はサンプル指定のバイオチップは、続いて乾燥した状態で、室温で保存され得、直ぐに又は後で分析するために用意される。
【0048】
サンプル材料でコーティングされたこのようなバイオチップに対して分析検出反応を実施するためには、後の段階で所望の検出試薬が上記バイオチップの個々の部位又は個々のマイクロ域に好ましくはピペットロボットを用いて与えられる。検出試薬として適切なものは、例えば、抗体、抗原、配列特異的抗体、レクチン、DNAプローブ、低分子の配位子、ホルモン、生体分子結合染料、又は、他の特定結合分子である。
【0049】
バイオチップの記載した部位又はマイクロ域は、ある時間にわたってある温度でインキュベートされ、このとき、選択された検出試薬はある濃度であり、各場合における実験的パラメータは使用される検出試薬の種類及びサンプル材料に依存する。当業者は、適切な実験的パラメータの選択に通常精通しているであろう。
【0050】
決められたインキュベート時間の後、液体検出試薬はピペットロボットを用いて吸引されて除去される。その後、次の段階では、同様にしてピペットロボットを用いて、洗浄溶媒、必要であれば、更なる検出試薬が分析されるべき部位又はマイクロ域に順番に適用され、吸引される。更に使用される洗浄溶液及び検出試薬、例えば、蛍光マーキングされた抗体並びに適切な反応条件は、原則として当業者に公知である。
【0051】
最後に、正の検出反応が見られた部位又はマイクロ域は、適当な検出器によって識別される。これら測定信号の登録は、好ましくは、CCDカメラ、フォトトランジスタ、又は、放射能、発光もしくは蛍光検出器を用いて実現されることが好ましく、検出方法の選択は、使用される検出試薬の種類に依存する。検出器によって供給される主な測定データは、コンピュータ支援評価を受けることができる。正の検出反応は、原則として、分析物(例えば、患者のサンプル中のある抗原)と、使用される検出試薬との間の特定の相互作用又はリンケージによって、例えば、抗原抗体複合体を形成することで生ずる。これらは、当業者に公知の、更なる反応段階又は試薬によって検出可能となる。
【0052】
例えば、異なる患者からの本発明による比較的多数のバイオチップが記載した方法で同時に又は並列に分析される場合、即ち、検出反応及び検出が複数のバイオチップに対して同時に又は並列に実施される場合に特に有利である。
【0053】
バイオチップ又は複数のバイオチップが並列(同時に)又は続いて順次に処置される場合に更に有利であり、このとき異なる検出試薬は異なる検出特異性を有し、各場合における上記検出試薬は前に検査されていない部位又はマイクロ域に適用される。このようにして、非常に短時間で、複数の患者指定バイオチップで診断マーカー分子の有無を試験することが可能となる。バイオチップのある部位又はマイクロ域が何回も検出反応のために使用されることを防止するために、既に「使用済み」の部位又は域の位置が登録されバイオチップの記憶媒体に記憶されてもよい。
【0054】
更に、可能性として異なる濃度の同じ検出試薬を用いて同じバイオチップの異なる部位又はマイクロ域を分析することが可能となる。このようにして、検出の信頼度は、多数の、又は、並列の測定によって向上される。
【0055】
検出反応と検出が行われた後、バイオチップは、アーカイブ及び保存のために戻され得、更なる検出反応に利用できるようにされる。つまり、ある患者のサンプル材料でコーティングされた同じバイオチップは、上記段階に従って、検出反応、検出及び評価を含む分析を2乃至数回にわたって連続して受けることができ、このとき上記バイオチップは連続する分析の間の時間中保存又はアーカイブされる。連続的な分析において、バイオチップの異なるマイクロ域は、異なる検出試薬で処置される。
【0056】
比較的長い時間の間隔であっても、単一のバイオチップに対して複数の診断検出反応を実施する可能性により、必要なサンプル材料の量は相当減少され、即ち、比較的少ない量(例えば、0.5ml)の最初のサンプルに基づいてバイオチップを形成することが可能となり、長期間にわたる多数の検出反応を可能にする。
【0057】
本発明によるバイオチップは、それに結合された生材料と共に、数年にわたって、少なくとも5年間にわたって室温で保存可能であり、この保存期間中、上記した検出反応を行うために繰り返し使用され得る。本発明のバイオチップは、従って、診断検出反応を実施する可能性を与える患者からのサンプル材料を保存又はアーカイブすることが重要な全ての場合において有利である。
【0058】
サンプル材料におけるある分析物の安定性が重要に思われるような特別な場合では、バイオチップは、低温、例えば、0℃乃至15℃、又は、比較的低い温度、例えば、0℃以下で保存されてもよい。原則として、乾燥した状態でバイオチップを長期保存、又は、数年にわたって保存した後、核酸分解酵素又はタンパク質分解酵素のような潜在的に劣化した酵素の大きな不活性化が行われることが予想される。
【0059】
本発明のバイオチップは、内側の側壁に沿って案内レールがある開閉可能なケース又はボックスの中に便宜上保存又はアーカイブされ、この案内レールに沿ってバイオチップはケースの中に入れられ、中でロックされる。このような案内レールを複数設けることにより、単一のケースに100のバイオチップを場所節約的な方法で収容することが可能となる。多数のこのようなケースは、引き出しシステム又はカップボードシステムにおいて不動な又は可動な構成要素として一体化され得る。
【0060】
本発明によるバイオチップ、従って、本発明による診断検出方法は、その保存性、及び、多数の個々の検出反応を実施する可能性により、複数の実際的な適用法に適切である。以下では、いくつかの可能な適用法を記載する。
【0061】
本発明によるバイオチップは、モニタするために腫瘍診断の分野、例えば、血清又は組織サンプルにおけるある腫瘍マーカーの現れに関して使用され得る。これら腫瘍マーカーは、腫瘍によって形成され、病人の体液で分泌されるか、腫瘍に対する反応の結果として生物によって形成される。反対に、これらマーカー分子は、健康な人の血清又は他の体液には存在せず、又は、存在しても微量である。腫瘍が成長すると、マーカーの血清濃度が増加する。しかしながら、「中間」血清濃度の評価は、探すことが無害であるにも関わらず異常な正常値(例えば、遺伝的に原因)、及び、腫瘍の成長の始まりの両方を指すため、診断を確立することにおいて問題が生ずる。従って、決定的な質問は、ある期間で腫瘍マーカーの血清濃度において増加があったか否かである。この質問は、その腫瘍マーカーの血清濃度がある時間間隔で検査されている場合に答えられる。このようにしてだけ、初期の時点で、比較的正確に腫瘍の成長の始まりを認識することができる。原則として、このようなマーカー検出は、時間の間隔(即ち、順次決定)で各テスト人に対して行われなくてはならず、それにより、トレンド分析が実施され得る。本発明のバイオチップを用いた腫瘍マーカーのトレンド分析又は順次決定は、腫瘍の展開コントロール又は追跡のため例えば、術後再発コントロール又は細胞増殖抑制セラピーのコントロールに関して利用されてもよい。
【0062】
患者のサンプルに対する既知のアーカイブ方法を用いて、上記したテストシリーズは実現され得ず、又は、巨費を投じてだけ実現される。反対に、本発明によるバイオチップ及び本発明による方法を用いると、このサンプル材料を大量に、長期間にわたって場所節約的方法で保存し、且つ、例えば、腫瘍マーカーを判別するために、複数の診断検出方法を実施することが可能となる。これにより、診断の確立を相当促進させる回顧的なトレンド分析を可能にさせる。本発明によるバイオチップのアーカイブ性により、腫瘍マーカーの有無に関してある発端者の比較的古いバイオチップを試験するために新しい腫瘍マーカーが知られてきている場合にも可能である。本発明は、従って、初期の段階で腫瘍の成長を認識することに貢献し、初期の適切な介入にも寄与する。
【0063】
更に、本発明のバイオチップは、患者のサンプル材料をアーカイブすることが同様に重要な要素となる臨床研究に適切である。これは、特に、例えば、科学的な問題の調合物が変えられ、患者の前のサンプルを後で確認する必要がでた場合に特に顕著である。現在利用されている方法、即ち、サンプル(原則として少なくとも0.5ml)を冷凍し後で解凍する方法に比べて、本発明によるバイオチップは、相当多くの検出反応を可能にすると共に必要とする場所がかなり少なくてよく容易な保存を可能にするためより適切である。1つのバイオチップによってより多くの検出反応が可能となったため、特定の時点で患者の幾つかの並列サンプルを用意し保存する必要性がもはやなくなる。
【0064】
本発明によるバイオチップの更なる適用分野は、人間のドナー材料(例えば、体液、細胞、組織)を有し、ドナー材料のサンプル及び可能性としてそこからの生成物がコントロール目的のために診断検出反応を行うよう保存される又はされなくてはならない血液バンク又はファーム、又は他の機構である。通常、場所をとりすぎるため、サンプル自体ではなく分析結果だけが保存される。しかしながら、汚染が生じることに関連して、このようなサンプルを、例えば、法律的な安全防護対策のために可能性として他の検出方法を用いて再び分析することも有利である。このようなサンプルの新たな分析は、人間の材料の生材料、中間材料、又は、最終生成物が、それらの組成物に関して法律の規定又は条件に従うことが証明された場合も有利である。本発明によるバイオチップは、ドナー血液又は血液バンク、企業、及び、他の機構からの他のドナー材料のその後の分析のために有利に使用されてもよい。汚染した場合、又は、適合しない疑いがある場合、アーカイブされたバイオチップは、それに基づいて疑いのあるドナーサンプル又は生成物のサンプルを後で分析することを可能にさせる。このようにして、ドナーサンプル又は生成物のサンプルが法律の規則、標準、又は、条件に従う証拠を後で提出することが可能となる。これは、法律上の争いにおいて特に重要且つ助けとなり得る。
【0065】
更に、本発明のバイオチップ又はサンプルキャリヤは、患者のサンプルのルーチン診断の目的のために患者のサンプル材料の保存及びアーカイブに使用されてもよい。
【0066】
本発明によるバイオチップは、例えば、感染病の増殖を検査するために疫学的研究において有利的に利用され得る。これまで、このような検査は、前からのサンプル材料が、実質的な理由によりもはや入手可能でなかったため、必要な数の血液サンプル等を保存することができず、しばしば失敗した。これに対して、記載したバイオチップは、場所を節約し、経済的に長期保存及びアーカイブすることを可能にする。それにより、多数のサンプルをアーカイブすることが可能となる。これらサンプルは、後の疫学的研究のために利用され、従って、これらの研究は、前からのアーカイブされたサンプルに戻ることができるためより多くの患者の集合を考慮することができる。
【0067】
本発明によるバイオチップ及び方法は、薬学又は動物学の分野において問題の異なる調合物に関連して有利に利用され得る。既に述べた適用例以外で、組織適合試験の目的のための適用、又は、法医学の分野への適用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1A】サンプルキャリヤ(b)及びその表面に結合されたサンプル材料(2)を含む本発明によるバイオチップ(a)を通る断面図である。
【図1B】サンプルキャリヤ(b)が固体マトリクス(1)及び更にはその上に位置するリンカー層(3)を有する本発明によるバイオチップ(a)の実施例の断面図である。
【図2A】(b)が固体マトリクス(1)を含むサンプルキャリヤを表すとして、マイクロ域(c)の領域におけるバイオチップを通る断面図である。
【図2B】図2Aと同様にマイクロ域(c)の領域におけるバイオチップを通る断面図である。
【図2C】図2Aと同様にマイクロ域(c)の領域におけるバイオチップを通る断面図である。
【図2D】図2Aに示すような実施例を示す。
【図2E】図2Aのような表示の更なる実施例を示す。
【図2F】図2Eに示す実施例の変形例を示す。
【図2G】図2Eに示す実施例の変形例を示す。
【図2H】図2Fに示す実施例の変形例を示す。
【図3A】本発明によるバイオチップ又はサンプルキャリヤ(b)の基本形状を示す。
【図3B】図3Aに示すサンプルキャリヤ(b)の変形例を示す。
【図3C】サンプルキャリヤ(b)又はバイオチップを示す平面図である。
【図3D】図3Cに示す実施例の変形例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下では、基本原理、並びに、例として、本発明の幾つかの好ましい実施例を図1乃至図3を参照してより詳細に説明する。しかしながら、本発明は、例示する実施例に制限されない。参照記号は、全図面にわたって同様の構成要素を指すことに用いられ、各記号は同じ意味を持つものとする。
【0070】
図1Aは、サンプルキャリヤ(b)及びその表面に結合されたサンプル材料(2)を含む本発明によるバイオチップ(a)を通る断面図である。サンプルキャリヤ(b)は、実質的に固体マトリクス(1)よりなる。
【0071】
図1Bは、サンプルキャリヤ(b)が固体マトリクス(1)及び更にはその上に位置するリンカー層(3)を有する本発明によるバイオチップ(a)の実施例の断面図である。サンプル材料(2)は、サンプルキャリヤのリンカー層(3)を介してマトリクスにリンクされている。
【0072】
図2は、前述の上記マイクロ域(c)を含む、本発明によるバイオチップの異なる実施例の断面図である。図2A乃至図2Hの各図では、マイクロ域があるバイオチップの領域が示されている。
【0073】
図2Aは、(b)が固体マトリクス(1)を含むサンプルキャリヤを表すとして、マイクロ域(c)の領域におけるバイオチップを通る断面図である。同図から分かるように、生物学的サンプル材料(2)は、マイクロ域(c)の領域においてだけサンプルキャリヤの表面に結合される。サンプルキャリヤ表面の隣接する領域にはサンプル材料はない。
【0074】
図2Bは、図2Aと同様にマイクロ域(c)の領域におけるバイオチップを通る断面図であるが、サンプル材料(2)はリンカー層(3)を介してサンプルキャリヤ(b)のマトリクス(1)に結合されている。リンカー層は、各マイクロ域の領域においてだけ存在し、隣接する領域にはリンカー分子はない。
【0075】
図2Cは、図2Aと同様にマイクロ域(c)の領域におけるバイオチップを通る断面図である。しかしながら、ここでは、各マイクロ域を囲う疎水性特性の又は非可溶性の境界領域(4)が設けられ、これら境界領域ではどのサンプル材料(2)も結合され得ない。
【0076】
図2Dは、図2Aに示すような実施例を示し、同図では、図2B及び図2Cで示す対策が組み合わされる。サンプル材料(2)は、マイクロ域(c)の領域に位置するリンカー層(3)を介してサンプルキャリヤのマトリクスにリンクされる。更に、各マイクロ域を囲う疎水性特性の又は非可溶性の境界領域(4)が設けられる。
【0077】
図2Eは、図2Aのような表示の更なる実施例を示す。ここでは、サンプル材料(2)がサンプルキャリヤ(b)のマトリクス(1)に結合される窪み(5)の形態で構成されるマイクロ域(c)が示される。
【0078】
図2Fは、図2Eに示す実施例の変形例を示し、ここでは、サンプル材料(2)をサンプルキャリヤ(b)のマトリクス(1)に結合させるリンカー層(3)で底部がコーティングされた窪み(5)の形態で構成されるマイクロ域(c)が示される。
【0079】
図2Gは、図2Eに示す実施例の変形例を示し、このとき、マイクロ域(c)の窪み(5)は丸みのある溝の形態で構成される。
【0080】
図2Hは、図2Fに示す実施例の変形例を示し、このとき、マイクロ域(c)の窪み(5)は丸みのある溝の形態で構成される。
【0081】
図3は、本発明によるバイオチップ又はサンプルキャリヤの幾つかの実施例を例として示す平面図である。
【0082】
図3Aは、本発明によるバイオチップ又はサンプルキャリヤ(b)の基本形状を示し、このとき、サンプル材料でコーティングされるべき表面域は(6)で示される。表面域(6)の外側の領域、特に、境界領域は、疎水性又は非可溶性でもよい。
【0083】
図3Bは、図3Aに示すサンプルキャリヤ(b)の変形例を示し、同図では更に(8)でバーコード、磁気ストリップ、又は、他の記憶媒体を具備する。
【0084】
図3Cは、サンプルキャリヤ(b)又はバイオチップを示す平面図であり、上記マイクロ域(c)の配置は例として表示されている。図3A及び図3Bに示すように、同図でも境界領域は疎水性又は非可溶性である。
【0085】
最後に、図3Dは、図3Cに示す実施例の変形例を示し、図3Bに示すように、更にデータを記憶する手段、例えば、バーコード、磁気ストリップ、又は、別の記憶媒体が設けられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体マトリクスのサンプルキャリヤを有し、上記サンプルキャリヤの表面はマイクロ域に細分化され、上記表面には分析されるべき、生物学的生物から生ずるサンプル材料が結合される、診断目的用のバイオチップ。
【請求項2】
上記生物学的サンプル材料は、上記サンプルキャリヤの上記マトリクスの上記表面に直接的に結合され、上記サンプルキャリヤの上記マトリクス又は表面は、上記サンプル材料に対する上記表面の結合容量を改善するために化学的若しくは物理的方法によって好ましくは事前に処置されることを特徴とする請求項1記載のバイオチップ。
【請求項3】
上記バイオチップの各単一の試料の表面には、個々の生物学的生物、好ましくは、個々の患者からのサンプル材料が結合されることを特徴とする請求項1又は2記載のバイオチップ。
【請求項4】
上記表面に結合される上記生物学的材料は、好ましくは全血、血漿、血清、尿、腹水、羊水、唾液、液、体腔からの洗浄材料或いは気管支肺胞洗浄等のような体液、組織のサンプル若しくは臓器のサンプル、又は、上記体液、組織若しくは臓器のサンプルからの成分、細胞、分画、濃縮物若しくは抽出物であることを特徴とする請求項1乃至3記載のバイオチップ。
【請求項5】
上記サンプルキャリヤの上記表面は1cm当たり少なくとも100のマイクロ域に細分化され、上記マイクロ域は、窪みとして構成されるか、疎水性の若しくは非可溶性の境界領域によって互いから離間されることが好ましいことを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一項記載のバイオチップ。
【請求項6】
マイクロ域に細分化される、生物学的材料を結合するのに適当な表面を有し、請求項1記載のバイオチップを形成するのに適切であることを特徴とする固体マトリクスよりなるサンプルキャリヤ。
【請求項7】
1cm当たり少なくとも100マイクロ域を好ましくは有し、上記マイクロ域は窪みとして構成されるか、疎水性の又は非可溶性の境界領域によって互いから離間されることを特徴とする請求項6記載のサンプルキャリヤ。
【請求項8】
上記バイオチップ又は上記サンプルキャリヤの表面積は、最大で10cm、好ましくは最大で4cmであり、上記サンプルキャリヤは好ましくは平坦形状体、より好ましくは正方形若しくは長方形の外形を有して構成され、上記平坦形状のサンプルキャリヤの厚さは好ましくは3mm未満、特に好ましくは1mm未満であることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一項記載のバイオチップ、又は、請求項6又は7記載のサンプルキャリヤ。
【請求項9】
上記サンプルキャリヤの上記マトリクス又は上記表面は、化学的若しくは物理的な方法で事前に処置され、又は、上記サンプルキャリヤの上記表面は、化学的若しくは物理的な事前処置によって拡大されることを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか一項記載のバイオチップ又はサンプルキャリヤ。
【請求項10】
上記表面に対する上記サンプル材料の結合を改善するためには、上記サンプルキャリヤの上記表面は、リンカー層でコーティングされ、上記リンカー層を用いて上記サンプルキャリヤが結合されることを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか一項記載のバイオチップ又はサンプルキャリヤ。
【請求項11】
上記リンカー層は、好ましくは、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖、脂質、核酸のような特定のグループの生物学的マクロ分子の選択的な結合若しくは濃縮、又は、細胞若しくはある細胞のタイプ又は細胞集団の結合又は濃縮を可能にするリンカー分子よりなり、上記リンカー層の異なる表面部分は好ましくは異なるタイプのリンカー分子を含むことを特徴とする請求項10記載のバイオチップ又はサンプルキャリヤ。
【請求項12】
上記サンプルキャリヤの上記表面上の上記リンカー層は、断続的となるよう構成されて上記リンカーを含む表面のマイクロ域と中間のリンカーを含まないゾーンとが形成され、1cm当たり少なくとも100のマイクロ域が存在することを特徴とする請求項10又は11記載のバイオチップ又はサンプルキャリヤ。
【請求項13】
好ましくは機械読み取り可能なバーコード、機械読み取り可能な磁気ストリップ、ディジタル記憶素子、又は、他の機械読み取り可能な記憶媒体を用いて、バイオチップの識別、患者関連データの記憶、又は、分析データの記憶を可能にする手段を具備することを特徴とする請求項1乃至12のうちいずれか一項記載のバイオチップ又はサンプルキャリヤ。
【請求項14】
シート状のマトリクス生材料は機械的に分離されてバイオチップに適した寸法の表面の片が得られ、又は、マトリクス生材料は液化され、続いて好ましくは射出成型のような鋳造方法を用いて対応する成型に鋳造されることを特徴とする請求項6記載のサンプルキャリヤの形成プロセス。
【請求項15】
得られた上記サンプルキャリヤの表面は、マイクロ域に細分化され、上記細分化は、a)上記表面の物理的処置、b)上記表面の化学的処置、c)プリンティング方法、d)ピペットロボットを用いた上記マイクロ域の域へのリンカー分子の適用、又は、e)上記方法の少なくとも2つを組合すことで実現されることを特徴とする請求項14記載のプロセス。
【請求項16】
a)検査されるべき生物から体液若しくは組織サンプルの形態で生物学的サンプル材料を得る段階と、b)体液、細胞、又は、組織サンプルから得た液体若しくは懸濁したサンプル材料でコーティングすることにより、マイクロ域に細分化されたサンプルキャリヤの表面にサンプル材料を結合することでバイオチップを形成し、乾燥する段階と、c)ピペットロボットを用いて上記バイオチップの一つのマイクロ域に特定の診断検出試薬を適用し、関連する検出反応に適した条件下でインキュベートする段階と、d)未特定の反応を抑制するために洗浄液を適用し、上記洗浄液を除去する段階と、e)必要な場合に段階c)とd)を繰り返す段階と、f)正に反応するマイクロ域からの測定信号を検出する段階と、g)測定データをコンピュータ支援評価し、上記測定データを記憶する段階と、を有する診断検出方法。
【請求項17】
上記段階a)では、上記生物学的サンプル材料は上記サンプルキャリヤの上記表面に結合される前に好ましくは、遠心分離法、細胞崩壊又は抽出によって用意されることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
上記段階c)乃至g)は、1つ以上のバイオチップに並列に若しくは同時に実施されることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項19】
バイオチップの個々のマイクロ域は、異なる特定の診断検出試薬を用いて同時に若しくは順次に処置されることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項20】
上記段階c)で利用される特定の診断検出試薬は、抗体、抗原、レクチン、DNAプローブ、生体分子結合染料、又は、他の特定結合分子であることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項21】
上記測定信号の検出は、CCDカメラ、フォトトランジスタ、又は放射能、蛍光若しくは発光検出器を利用して行われることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項22】
ある患者のサンプル材料でコーティングされた同じバイオチップは、連続して2回又は何回か上記段階c)乃至上記段階f)又は上記段階c)乃至上記段階g)に従って分析され、上記バイオチップは連続する分析の間の期間中は保存され、上記バイオチップの異なるマイクロ域は連続する分析において検出試薬で処置されることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項23】
診断検出反応のための及び/又は患者から収集したサンプル材料を保存及びアーカイブするための、請求項1乃至13のうちいずれか一項記載のバイオチップ若しくはサンプル材料、又は、請求項16又は17の段階a)及び段階b)記載のプロセスの使用。
【請求項24】
患者のサンプルのルーチン診断、臨床研究、又は、疫学的研究における目的のため、血液バンク、企業、若しくは、他の機構、或いは、腫瘍診断における質の保証及び質の確認の目的のため、又は、裁判目的のために患者のサンプル材料を保存及びアーカイブする請求項23記載の使用。
【請求項25】
薬学又は動物学の目的のため、腫瘍診断のため、臨床研究における腫瘍マーカー分析のため、血液バンク、企業若しくは他の機構における質の保証のため、疫学的研究のため、組織タイピングのため、又は、裁判目的のための請求項16乃至22記載のプロセスの使用。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図2D】
image rotate

【図2E】
image rotate

【図2F】
image rotate

【図2G】
image rotate

【図2H】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図3D】
image rotate


【公開番号】特開2011−17707(P2011−17707A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174631(P2010−174631)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【分割の表示】特願2001−581123(P2001−581123)の分割
【原出願日】平成13年3月14日(2001.3.14)
【出願人】(502386019)ビオレフ ゲーエムベーハー (1)
【Fターム(参考)】