説明

生物学的試料または化学的試料を定量分析するための方法

本発明は、生物学的試料または化学的試料を定量分析するための方法に関するものであって、本発明による方法においては、光源(11)からの光ビーム(17)を使用して試料(10)を照射し;試料(10)によって散乱された光ビーム(18)の画像を形成し;画像を、参照基準と比較することによって、解析し;光ビーム(17)と試料(10)との間の相互作用に固有の情報を抽出し;定量分析結果を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料または化学的試料を定量分析するための方法に関するものである。
【0002】
本発明の技術分野は、特に、溶液内に含有されているような、蛍光色素と称される蛍光分子の濃度の測定という技術分野である。そのような蛍光分子を使用することによって、与えられた生物学的種の量を定量分析することができる。その際、生物学的種の分子数を、蛍光分子の量と関係づけられる。蛍光分子を励起した時に放出される光強度を測定することにより、使用された測定装置の校正によって、生物学的分子の数または濃度を決定することができる。そのような測定は、生物学や化学や物理学においては、通常的に使用される。
【0003】
単純化の理由のために、以下の説明においては、本発明を、蛍光試料の測定という分野に関して、説明する。
【背景技術】
【0004】
例えば蛍光測定器やスペクトル蛍光測定器といったような多くの市販の装置を使用することにより、溶液の蛍光を測定することができる。このような装置は、用途に応じてその形状が可変的なものとされたチャンバ内において、測定を行うことができる。
【0005】
溶液の測定を行うための他の装置は、チャンバとして毛細管を使用する。それは、例えば、電気泳動装置に関する測定システムの場合である。
【0006】
これらすべての装置において、チャンバには単一の検出器が付設されており、このチャンバ内に配置された試料が測定される。
【0007】
スペクトル蛍光測定におけるいくつかの応用においては、複数の検出器が使用される。その場合、蛍光分子の発光スペクトルは、画像センサー上に分散され、これにより、波長全体にわたってのエネルギーを同時に測定することができる。この場合、各スペクトル区間に対して、それぞれ対応する検出器を使用することとなる。複数の画素は、時には、分散方向に対して直交する向きに配置される。これにより、いわゆる『結合』操作を実行することができる。この結合操作により、各スペクトル測定の信号雑音比を増大させ得るとともに、光子フローに対しての検出器の読取ノイズを低減することができる。また、複数の検出器は、いくつかのマルチ試料型の装置において使用される。その場合には、複数の試料の存在のために、複数のチャンバを使用する必要があり、各試料の測定は、画像センサによって行われる。
【0008】
そのような装置の検出感度は、疾病の診断を行う目的や溶液の純度を研究する目的のために、典型的にはピコモルといったような程度の少数の分子を定量分析するに際しては、不適切なものである。いくつかのタイプの定量分析においては、ある濃度以下において実行することさえ不可能である。すなわち、免疫分析(抗原の定量分析)という分野においては、ターゲット濃度に関して表された場合に、従来技術における検出の統計的しきい値は、溶液測定において得られる最小値として、100ピコモルの程度である。典型的には、市販のチャンバ装置は、1nM(ナノモル)というターゲット濃度以下の蛍光物質を測定するができない。
【0009】
検出限界を小さなものとし得るよう、レーザー光源からの光を、毛細管電気泳動法の場合に行われるように非常に小さなスペース内へと、焦点合わせすることができる。その場合、試料は、数百μmという直径の毛細管の中を通過する。得られた検出限界は、参考文献[1]に記載されているように、nMの程度である。
【0010】
参考文献[2]に記載されているように、そのようなマーカー検出限界は、毛細管の内部を調査する一体型共焦光学系を備えた複雑なシステムの場合である。
【0011】
測定システムにおいて使用されている毛細管は、例えば数十〜数百マイクロリットル/分といったような非常に高速の試料速度を許容し得ない。したがって、大きな容量の試料に関する測定を行うことができない。得られる選択は、分子のサンプリングを低減させ、検出しきい値を増大させる。例えば、参考文献[3]に記載されているように、蛍光相関技術によって単一の分子の存在を検出することが可能であれば、プローブ容積は、例えばフェムトリットルという程度といったように、非常に小さなものとなる。そのような容積内において分子を検出することは、nMの程度という検出限界を与える。
【0012】
励起した容積内におけるパワー密度を増大させ得るよう、励起光を焦点合わせすることができる。蛍光放出が、励起時に受領されるエネルギー量にほぼ比例することにより、パワー密度を増大させることによって、蛍光内において放射された光子数を増大させることができる。ほとんどの市販の器具の場合のように、うまく設計された測定システムにおいては、測定される光子数が、より大きなものとなり、測定に関する不確定さは、より小さなものとなる。この不確定さは、Nを、検出器による変換時に電子へと変換された光子数とした場合、N−1/2に比例する。このことは、励起容積内のパワー密度を増大させるという選択を正当化する。しかしながら、大きなパワー密度は、光励起を伴うものであり、光励起は、光エネルギーが大きいほど、速いものとなる。非常に小さな濃度の蛍光分子を測定する場合には、この容積を、光退化時間よりも長い時間にわたって露光する必要がある。光退化時間は、蛍光分子の特性に対応しており、光を放出しなくなるまでの経過時間のことである。必要とされた検出しきい値に到達し得るに十分な光子を収集することは、不可能である。
【0013】
検出しきい値を制限する要因は、液体の本来的蛍光である自己蛍光であり、また、ラマン散乱である。放出された光レベルは、実際、検出性能を低減させる。なぜなら、使用されているバッファの光ルミネセンス『オフセット』が、検出対象をなす信号と同じ性質のものであるからである、すなわち、『特定の』ものであるからである。測定システムが、『光子ノイズ』とも称されるような『ショットキーノイズ』によって単に制限されている場合には、統計的に測定可能な最小信号Smin は、“Offset”を、一次電子(光電子増倍管あるいは半導体表面の場合に、フォトカソードによる光子変換に直接的に起因する電子)として表したときには、3×(Offset)1/2 に等しい。3は、Smin と Offsetとの間において99%という識別能を保証するための任意の係数である。このような問題を解決し得るよう、従来技術による手法においては、
1)液体の注意深い選択、
2)マーカーの選択、
3)光子を蓄積し得るよう、測定時間の増大化、
4)より多くの光子を収集し得るよう、励起パワーの増大化、
を行う。
【0014】
しかしながら、検出しきい値を制限する主要な要因は、測定の非再現性である。測定の非再現性は、信号レベルが低い場合には、非常に速く支配的なものとなる。この非再現性は、実質的に、測定チャンバと、この測定チャンバ内の液体メニスカスによって収集されかつスペース内においてランダムに分散するような光と、の機械的位置決めが悪いことに起因するものである。
【0015】
このタイプの非再現性を低減させるための手法は、より大量の溶液をチャンバ内へと注入することである。しかしながら、そのような注入は、良好な感度を得るのに不適切なものである。さらに、大量の注入は、必ずしも可能であるわけではなく、また、必ずしも望ましいものでもない。
【0016】
機械的な位置決めを改良することは、容易ではない。加えて、そのような手法においては、例えば周囲光といったような光によって引き起こされるような擾乱や、メニスカスの形状の変動によって引き起こされる擾乱を、解決することができない。
【0017】
そのようなタイプの非再現性を低減するための他の手法においては、透明な『黒い』ガラス窓を使用することである。このガラス窓は、測定対象領域に対応したものとされる。しかしながら、この手法は、測定システムによって収集される光子フローを低減させる。したがって、検出限界を増大させる。さらに、周囲光の変動のために、また、チャンバの側面の表面状態が悪いことのために(汚れや、擦り傷、など)、また、メニスカスおよび壁による拡散のために、“Offset”の変動を知ることができない。
【0018】
したがって、従来技術によるこれらの様々な手法では、測定に関して、良好な感度を得ることができず、また、良好な再現性を得ることもできない。
【非特許文献1】“Some applications of near-ultraviolet laser-inducedfluorescence detection in nanomolar- and subnanomolar-range high-performanceliquid chromatography or micro-high performance liquid chromatography”byN. Simeon, R. Myers, C. Bayle, M. Nertz, J.K. Stewart, F. Couderc (2001, Journalof Chromatography A, Vol. 913, I 1-2, pages 253-259)(参考文献[1])
【非特許文献2】“Performance of an integrated microoptical system forfluorescence detection in microfluidic systems”by J.C. Roulet, R. Volkel,H.P. Herzig, E. Verpoorte, N.F. Rooij, R. Dandliker (2002, Analytical Chemistry,Vol. 74 (14), pages 3400-3407)(参考文献[2])
【非特許文献3】“Single molecule detection of specific nucleic acidsequences in unamplified genomic DNA”by A. Castro, and J.G. Williams (1997,Analytical Chemistry, Vol. 69 (19), pages 3915-3920)(参考文献[3])
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、生物学試料または化学的試料の定量分析に際し、光源に起因する光と試料との間の相互作用画像を空間的に記録し得るようなデバイスを使用し、これにより、必要な情報を抽出するという新規な方法を提案することにより、従来技術による様々な欠点を解決することである。
【0020】
本発明は、生物学的試料または化学的試料を定量分析するための方法に関するものであって、
−付加的に、すべての側面が透明なものとされたチャンバ内へと試料を導入するという準備ステップを行い、
−光源からの光ビームを使用して試料を照射する、
という方法において、
−試料によって散乱された光ビームの画像を形成し、
−画像を、参照基準と比較することによって、解析し、
−光ビームと試料との間の相互作用に固有の情報を抽出し、
−定量分析結果を計算する、
ことを特徴とする方法である。
【0021】
この方法においては、散乱は、ラマン散乱、あるいは、蛍光散乱、あるいは、分子拡散、あるいは、粒子散乱、とすることができる。解析に際しては、画像の空間的構造と、この画像内における光エネルギー分布と、を検証することができる。定量分析結果は、光エネルギーの測定結果と、試料の濃度または量と、の間の校正に基づいて、計算することができる。また、定量分析結果は、生物学的反応または化学的反応の動力学を勘案して、計算することもできる。
【0022】
有利には、この方法においては、照射されたゾーンの周囲に位置した第1対象領域と、この第1対象領域の近くに位置した第2対象領域と、を規定し、第1対象領域に関するすべての画素の合計と、第2対象領域に関するすべての画素の合計と、の間の差分を計算することにより、固有信号を測定する。
【0023】
本発明は、以下のような様々な利点を有している。
【0024】
−本発明においては、従来のシステムにおける実験的検出限界と比較して、はるかに小さな実験的検出限界を得ることができる。
【0025】
−本発明においては、大きな流速を有した大容量溶液を使用した定量分析を行うことができ、したがって、例えば川の水の分析や建物の換気システムの分析といったような用途に応用することができる。
【0026】
−本発明においては、小さな容積内に光を焦点合わせする必要がない。したがって、蛍光分子の光退化が非常に小さい。
【0027】
−本発明においては、チャンバの形状に基づき、多くの分子を同時に励起することができる。これにより、多数の光子を収集することができる。
【0028】
−液体媒体の自己蛍光もまたラマン散乱も、本発明においては、感度を制限することがない。したがって、すべての市販のマーカーを使用することができる。これにより、マーカーに関する制約を低減することができる。
【0029】
−チャンバの機械的構成や、チャンバの光学的表面のクリーニングあるいは劣化や、また、人工物(泡、ダスト)の存在、に基づくような再現性の悪さは、もはや、制限要因とはならない。本発明においては、画像を解析することにより、それらを低減することができるあるいは除去することさえ可能である。本発明の測定システムにおけるチャンバ位置の変化は、あるいは、媒体に対する励起光の変化は、記録された画像内における蛍光トレースの位置を測定することにより、完全に補正することができる。同様に、測定に対して重大な影響を与えかねないような、励起容積内に存在するダストは、励起容積と比較して、小さなものであり、よって、ダストを見失うことなく測定時に認識することができて、測定結果から除去することができる。これは、単一検出器の場合には、実行不可能である。チャンバの光学的表面が劣化した場合には、試料を励起するための光量が実際に変化することとなるものの、本発明においては、有効パワーの変動を知ることができ、測定を補正することができる。
【0030】
−試料によってあるいは周囲環境によって引き起こされた周囲雰囲気光の変化は、画像内におけるすべての『オフセット』を測定することによって補償され、これにより、除去することができる。
【0031】
−画像内の情報の解析は、事前的な測定値(濃淡関数、様々な有効ゾーンの事前的位置決め)に基づいて、あるいは、動的に、行うことができる。これにより、画像処理手法(エントロピーの最大化、ニューロンネットワーク)を適用することによって、ランダムなおよび/または予測不可能な擾乱を処理することことができる。
【0032】
−あるタイプの測定においては、本発明による定量分析の動特性により、2200という生物学的定量分析の動特性を実験的に得ることができる。この動特性は、従来技術における動特性と比較して、ずっと大きなものである。従来技術においては、動特性は、同じタイプの測定に関し、典型的には、5〜10である。
【0033】
本発明は、多くの分野に応用することができる。特に、以下のような分野に応用することができる。
【0034】
−蛍光溶液の測定を行うことが有用であるようなすべての分野。
【0035】
−生物学。より詳細には、生物学的分子の定量分析、すなわち、生物学的に興味のある分子の分析、例えば、抗原や、抗体や、ペプチドや、DNAや、細胞や、バクテリア、等の分析。また、医療診断。
【0036】
−化学(定量分析)。
【0037】
−薬学。例えば、活性度や汚染物質等の定量分析。
【0038】
−物理学。例えば、生成物トレースの検索、流体トレースの検索、混合物の分析、等。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明による方法は、固体とも液体ともゲルともまたは他の性状のものともし得るような、生物学的試料すなわち生物学的に興味のある試料(抗原、抗体、ペプチド、DNA、細胞、バクテリア、毒素)を、あるいは、化学的試料(溶媒、溶解したガス、調製、化学的活性度)を、定量分析する(濃度または量を測定する)ための方法である。
【0040】
図1に示された第1実施形態においては、試料10に関し、使用されている蛍光色素に対して、光源11からの光ビーム17が照射されている。例えば、フルオレスセインに対して、488nmのアルゴンレーザーを使用することができる。あるいは、Cy5に対して、633nmのヘリウムネオンレーザーを使用することができる。試料10は、チャンバ12内に配置される。例えば、チャンバ12は、矩形横断面形状を有するものとされ、すべての側面が透明なものとされる。このチャンバ12の横断面形状は、実際、矩形とすることも、正方形とすることも、円筒形とすることも、また、楕円形とすることも、できる。ブロッキングフィルタ14を備えた観測システム13が、画像の空間的構造を記録するためのデバイス15の上流側に、設置されている。デバイス15は、例えば、CCDカメラや、走査システム、とすることができる。デバイス15は、プロセッサ16に対して接続されている。試料10によって拡散されたビーム18を受領するデバイス15により、画像を記録することができ、この画像から、特定の測定信号を抽出することができる。
【0041】
本発明による方法は、以下のような各ステップを備えている。
−光源11からの光ビーム17を使用して試料10を照射するというステップ。ここで、光源11は、ガスレーザーや、固体レーザーや、レーザーダイオードや、電界発光ダイオードや、有機ダイオードや、ハロゲンランプや水銀ランプやキセノンランプや重水素ランプ等のランプ(あるいは、スペクトルバルブ)、とすることができる。
−試料10によって散乱された光ビーム18の画像を形成するというステップ。この場合、散乱原因は、ラマン散乱や、蛍光散乱や、分子拡散(レイリー散乱)や、粒子散乱(ナノ粒子の使用)、とすることができる。
−画像を参照物と比較するというステップ。このステップにおいては、画像の空間的構造とこの画像内における光エネルギー分布とを検証する。ここで、参照物は、例えば、使用者による実験結果や、モルフォロジー的基準(光トレースの形状および位置)や、測光的基準(画像内における光の空間的変動の周波数)や、統計的基準(測定評価器の変動、画像のエントロピーの変動)、とすることができる。
−光ビーム17と試料10との間の相互作用に固有の情報を抽出するというステップ。この抽出ステップにおいては、例えば、ある画像と他の画像との間の算術的演算子または定数(例えば、減法、加法、除法、乗法)や、モルフォロジー的演算子(腐食、希釈、2値化、クリッピング、セグメント化、オフセット補正)や、測光的演算子(多項補正、コンボリューション、フィルタ、しきい値処理)、を抽出する。
−光エネルギーの測定結果と、生物学的試料または化学的試料の濃度または品質と、の間の校正に基づいて、定量分析結果を計算するというステップ。この計算は、また、生物学的反応または化学的反応の動力学を記録することにより、さらに、当業者に公知の方法を使用してこの動力学を分析することにより、実行することもできる。
【0042】
本発明による方法においては、画像の空間的構造を記録するためのデバイス15によって得られた画像に関し、上記測定を行う。本発明は、そのようなデバイス15の使用を必須とするものではない。しかしながら、本発明においては、主には、
−試料10によって拡散されたビーム18を、画像という形態でもって記録し、
−この画像から情報を抽出し、
−画像を分析することによってアダプティブサイドを得る。
【0043】
図2は、画像の空間的構造を記録するためのデバイス15を使用することによって得られたチャンバ12の画像を示している。チャンバは、画像の寸法よりも小さな寸法を有することができる。チャンバは、例えば、1つまたは複数の毛細管と取り替えることができる。
【0044】
加えて、光ビームは、チャンバよりも小さなものとも、また、チャンバよりも大きなものとも、することができる。
【0045】
この画像においては、以下のような複数のゾーンを識別することができる。
−照射された容積ゾーン20。このゾーンは、チャンバ12のうちの、ビーム17によって励起された容積に対応する。
−ビーム17がチャンバ12内へと入射するゾーン21。
−ビーム17がチャンバ12から導出されるゾーン22。
−メニスカスゾーン23。
−人工物ゾーン24。
【0046】
よって、図3に示すように、照射容積ゾーン20の周囲に位置した第1対象領域25と、この第1対象領域25の近くに位置した第2対象領域26と、を規定することができる。その後、固有信号の測定は、ΣRI−ΣRIを計算することにより、すなわち、第1対象領域25に関するすべての画素の合計と、第2対象領域26に関するすべての画素の合計と、の間の差分を計算することにより、与えられる。
【0047】
図3においては、2つの対象領域25,26は、同じサイズのものとされている。しかしながら、このことは必須ではない。これら対象領域が同じサイズのものでない場合には、単に、各領域のグレーレベルを平均化させたり、または、画素数に応じて値を均衡化させたり、するだけで良い。
【0048】
このようにして得られた画像分析は、ある種の観測結果をもたらす。
−光ビームの蛍光トレース(ゾーン20)は、固有の信号をもたらす。
−液体と空気との境界をなすメニスカス(ゾーン23)は、強い光を有している。この強い光は、上記トレースに起因している。このメニスカスの形状は、大いにランダムである。したがって、このメニスカスに由来する信号の振幅は、非常に変動が大きい。
−人工物(ゾーン24)は、与えられた構成においては、チャンバ12を適切に機械的に位置決めし得るよう構成されたスプリングロックワッシャとすることができる。
−ゾーン21,22は、チャンバ12に対しての光ビームの、それぞれ、入射ポイントおよび導出ポイントに対応する。
【0049】
表示しきい値を他の手法で調節することにより、最小光レベルを、より容易に示すことができる。
【0050】
本発明による方法においては、変動係数CV(標準偏差/平均)を改良することができる。実際、本発明による方法を使用して得られた係数CVは、単一の検出器を使用して行われた測定に対応するCCDカメラのすべての画素の合計によって計算された係数CVと比較して、より小さなものである。本発明による方法によって得られた係数CVは、上述したように、大きな溶液の容積に関して得られたものと同程度の大きさである。本発明による方法によって得られたこの係数CVは、各対象領域25,26において得られたものよりも小さい。これら2つの対象領域において得られた測定の差分は、すべての領域に影響するような照明変動を補正することができる。よって、本発明においては、平面内における空間的フィルタリングを行うことができ、これにより、蛍光に関して固有の情報を含有した信号を抽出することができる。さらに、本発明においては、画像あるいは擬似画像内において真に関連した対象領域を抽出することができる。このことは、ただ1つの単一画素検出器を使用した測定システムでは、実現し得ないような、機能である。
【0051】
第2実施形態においては、例えば液晶やマイクロミラーマトリクスや他の等価なシステムといったようなプログラム可能な透明体を備えているような複数の画素からなるマトリクス30に関連した単一検出器を、図4に示すように、チャンバ12の前方に配置する。このマトリクス30は、チャンバ12と検出器との間に挿入される。この場合、画像を形成するためのシステムを介してもまた介さなくても良い。第1測定を、図5に示すように、第1対象領域25に対応した複数の画素を『開く』ことによって、行う。その後、第2測定を、図6に示すように、第2対象領域26に対応した複数の画素を開くことによって、行う。
【0052】
可変的な透明性を有したこのようなマトリクス30の使用を使用した場合には、例えば以下の複数のステップを実行することにより、画像のシステム的記録を回避することができる。
−単一検出器によって行われる測定と同期させつつ、マトリクス30のすべての画素を順次的に開閉することによって拡散させたビームの画像を記録し、
−対象領域を規定しつつ画像を分析することによって、固有情報を抽出し、
−その後の使用のためにそのようなパラメータを記録し、
−与えられた試料の分析に際し、分析ステップの際に規定された各対象領域を順次的に開放し、各対象領域に関する測定結果を記録し、
−必要な情報を抽出し、
−定量分析結果を計算する。
【0053】
図7に示すような第3実施形態においては、2つの単一画素検出器35,36を使用して、それぞれ対応する対象領域25,26を観測する。画像形成手段37,38を、それぞれ対応する検出器35,36の前方側に配置する。第1対象領域25に由来する信号の測定は、検出器35を使用して行われ、また、第2対象領域26に由来する信号の測定は、検出器36を使用して行われる。ゾーン39は、蛍光トレースを示す正面図である。
【0054】
本発明においては、実験条件に応じて、固有信号の抽出状況を、適合させることができる。例えば、チャンバが2つの測定位置の間にわたって移動した場合、画像の自動的な解析により、対象領域を自動的に位置決めすることができる。このような操作は、静的なシステムでは実行できないことである。
【0055】
[本発明の実施例]
後述する3つの実施例は、上述した3つの実施形態のそれぞれに対応している。
【0056】
図8に示す第1実施例においては、例えばレーザーや電界発光ダイオードといったような光源40は、チャンバ41内において、図示していない光学系を介して、および、例えばシャッタ42やダイヤフラム43といったような様々な付属品を介して、蛍光分子を含有した液体を励起する。例えば光ビームの主要進行方向に対して垂直に配置された第1対物レンズ44は、チャンバ41内の蛍光分子によって放射された光ビームの一部を収集する。ブロッキングフィルタ45が、第1対物レンズ44の後方に、かつ、第2対物レンズ46の前方に、配置されている。対物レンズ44,46を使用することにより、チャンバ41の画像を、命令制御システム49に対して接続されている画像検出器47上に、形成することができる。1cmという内部幅を有したチャンバ41の場合には、この検出器47は、10μmという側辺長さを有した512×512画素の検出器とすることができる。第1対物レンズ44は、50mmという焦点距離を有することができ、第2対物レンズ46は、25mmという焦点距離を有することができる。
【0057】
図9に示す第2実施例においては、励起に関しては、図8の構成と同じ構成とされている。ただし、この場合には、ただ1つの検出器が使用されている。例えば液晶マトリクスやマイクロミラーマトリクスとし得るものといったような、可変透明体を有したマトリクス56は、視野ダイヤフラムとして機能する。マトリクス56は、例えば電磁石や電気モータといったような機械的なまたは電気機械的なアクチュエータによって駆動される可動ウィンドウによって、代替することができる。
【0058】
図10に示す第3実施例においては、チャンバ41の内部を励起するための構成は、図8における構成と同じであり、なおかつ、光収集のための構成については、図9における構成と同じである。例えばオフセット光増倍管といったような2つの単一検出器50,51により、チャンバ41内における互いに異なる2つの領域を観測することができる。各検出器50,51の前方には、収集光学系52,53が配置されている。これら収集光学系52,53により、観測対象をなす領域を制限するための視野ダイヤフラム54,55上に、対象領域の画像を形成することができる。ブロッキングフィルタを、ダイヤフラムの前方にあるいは内部にあるいは後方に、配置することができる。ゾーン56は、蛍光トレースを示している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明による方法を実施するためのデバイスの第1実施形態を示す底面図である。
【図2】図1に示す画像記録デバイスを使用した場合に得られるチャンバ画像を示す写真である。
【図3】図1に示す画像記録デバイスを使用した場合に得られるチャンバ画像を示す写真である。
【図4】本発明による方法を実施するためのデバイスの第2実施形態を示す図である。
【図5】本発明による方法を実施するためのデバイスの第2実施形態を示す図である。
【図6】本発明による方法を実施するためのデバイスの第2実施形態を示す図である。
【図7】本発明による方法を実施するためのデバイスの第3実施形態を示す図である。
【図8】本発明による方法を実施するためのデバイスの第1実施形態に対応した第1実施例を示す図である。
【図9】本発明による方法を実施するためのデバイスの第2実施形態に対応した第2実施例を示す図である。
【図10】本発明による方法を実施するためのデバイスの第3実施形態に対応した第3実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0060】
10 試料
11 光源
17 光ビーム
18 光ビーム
25 第1対象領域
26 第2対象領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料または化学的試料を定量分析するための方法であって、
光源(11)からの光ビーム(17)を使用して試料(10)を照射するというステップを具備した方法において、
−前記試料(10)によって散乱された光ビーム(18)の画像を形成し、
−前記画像を、参照基準と比較することによって、解析し、
−前記光ビーム(17)と前記試料(10)との間の相互作用に固有の情報を抽出し、
−定量分析結果を計算する、
ことを特徴とする方法であり、さらに、
前記解析に際しては、画像の空間的構造と、この画像内における光エネルギー分布と、を検証することを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、
すべての側面が透明なものとされたチャンバ(12)内へと前記試料(10)を導入するという準備ステップを行うことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、
前記散乱が、ラマン散乱、あるいは、蛍光散乱、あるいは、分子拡散、あるいは、粒子散乱、とされていることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法において、
前記定量分析結果を、光エネルギーの測定結果と、前記試料の濃度または量と、の間の校正に基づいて、計算することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法において、
前記定量分析結果を、生物学的反応または化学的反応の動力学を勘案して、計算することを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法において、
照射されたゾーンの周囲に位置した第1対象領域(25)と、この第1対象領域(25)の近くに位置した第2対象領域(26)と、を規定し、
前記第1対象領域(25)に関するすべての画素の合計と、前記第2対象領域(26)に関するすべての画素の合計と、の間の差分を計算することにより、前記固有信号を測定することを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載された方法の応用であって、
蛍光に関して応用することを特徴とする応用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−516411(P2007−516411A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−516356(P2006−516356)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【国際出願番号】PCT/FR2004/050289
【国際公開番号】WO2005/001449
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【Fターム(参考)】