説明

生物廃棄物からのエタノールの製造

本発明は、エタノール及び他のアルコールを製造する方法、装置、及びキットを提供する。本方法は、発酵混合物中の有機質材料を、メタンを含むバイオガスに発酵させること;前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換すること;及び前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させてアルコールを製造することを必要とする。いくつかの実施態様では、三価の鉄を二価の鉄に還元する微生物が発酵混合物に含まれ、発酵効率及びアルコール収量が増強される。本発明はまた、有機質材料をメタンを含むバイオガスに発酵させること;前記バイオガスからスルフヒドリルを除去すること;前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換すること;前記合成ガスの少なくとも一部分を硫黄非含有触媒と接触させて実質的に硫黄を含まないアルコールを製造すること;及び前記アルコールを精製することを必要とするアルコールの製造方法を提供し、ここで前記精製アルコールは実質的に硫黄を含まず、さらに5%未満のエタノール及び少なくとも70質量%のC2+アルコールを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮特許出願60/574,698(2004年5月26日出願)の優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
都市下水及び農業廃棄物の処理はしばしば費用のかかる工程である。下水及び生物学的廃棄物(例えば有機質肥料)は、消化されやすい固体及び液体物質を主としてCH4及びCO2で構成されるバイオガスに変換するために、しばしば嫌気的微生物消化によって処理される。バイオガスは、強力な温室ガスのメタンの放出を回避するためにしばしば燃焼させられる。バイオガス燃焼から得られる熱は、時には、例えば建物の暖房又はモーターの動力源及び発電に用いられる。しかしながら暖房及び電力は低価値製品であり、したがって通常は、処理工程は正味の経済的出費である。
高価値製品を製造できないことに加えて、下水及び生物学的廃棄物の嫌気的消化は、所望されるものよりもしばしば緩徐で不完全である。嫌気性微生物による消化はまた硫化水素及び他のスルフヒドリル化合物を生じ、前記は金属パイプ及び発酵タンクを腐食させ、さらに廃棄物処理プラントの近隣住民にとって不愉快な臭いを発生させる。
下水及び他の生物学的又は有機的廃棄物の新規な処理方法が必要とされる。好ましくは、そのような方法はより完全で効率的な廃棄物の変換を可能にするであろう。好ましくは、そのような方法は臭い発生化合物を除去又は変換するであろう。好ましくは、そのような方法は従来方法よりも高価値製品を生成するであろう。
【発明の開示】
【0003】
発明の要旨
本発明は、生物学的廃棄物(例えば有機質肥料、下水及び農作物廃棄物)及び他の有機質材料からアルコール(特にエタノール)を製造する方法及び装置を提供する。本方法では、有機質材料は先ず初めに嫌気性微生物によって、主としてメタン及び二酸化炭素から成るバイオガスに発酵される。続いて前記バイオガスは、主としてCO及びH2から成る合成ガスに変換される。これは典型的には、メタンのスチームリフォーミング又は部分的酸化によって達成される。前記合成ガス(syngas)を続いて触媒、例えば米国特許4,333,852号に記載されたルテニウム触媒と接触させる。前記ルテニウム触媒は、COとH2の縮合を触媒してアルコール、典型的には主としてエタノールから成る混合アルコールを生成する。工業用アルコールは高価値製品である。
工業用アルコールの最大の市場は燃料又はガソリン添加物である。これらの使用では、アルコール混合物には低濃度のメタノール及び高濃度のエタノール及びC3+アルコールが含まれることが望ましい。好ましくは、前記アルコール混合物では、メタノール濃度は0.5%未満であり、エタノール濃度は60%(w/w)より高い。本方法で製造されるアルコールはまた、相当量のC3+アルコールを含むので貴重である。C3+アルコールは燃料のオクタン等級を高め、エタノールよりも価値が高い。
本発明者らは、発酵におけるバイオガス収量は、発酵混合物に微生物を含ませることによって増加させることができることを見出した。前記微生物は、最終電子受容体としてFe3+を用い、前記Fe3+をFe2+に還元し、さらに有機基質(例えば酵母によって生成されたエタノール)を揮発性の酸(酢酸、典型的にはプロピオン酸及び酪酸、潜在的にはギ酸を含む)に変換する。鉄を還元する微生物はメタン及びCO2の収量を増加させる。理論に拘束されないが、前記は、鉄還元微生物が生成する酸は、発酵混合物においてメタン生成微生物のための効率的な基質であるためであると本発明者らは考えている。メタンの収量を改善することによって、鉄還元微生物の混合はまた全体的プロセスにおけるアルコールの収量を改善する。好ましい鉄還元微生物はATCC55339である(前記は米国特許5,543,049号、5,620,893号、及び5,667,673号に記載されている)。
【0004】
発酵混合物に鉄還元微生物を含ませることのまた別の利点は、前記は臭い発生化合物を除去することができるということである。鉄還元微生物は相対的に不溶性のFe3+をより可溶性のFe2+に変換する。Fe2+はスルフヒドリル基と結合して、スルフヒドリル含有化合物(臭い発生化合物の塊である)を沈殿させる。スルフヒドリルはまた、必ずしも鉄還元微生物を添加することなく、他の金属陽イオンを添加することにより除去することができる。
本発明者らはまた、いくつかの実施態様では、好熱性(45℃以上)及び中温性(45℃より低い)発酵工程を含む発酵の実施によって、発酵時のバイオガス収量が改善され、したがって前記プロセスにおけるアルコール収量が改善されることを見出した。前記は、部分的には好熱性工程時に、有機質材料のいくつかの熱誘発性化学物質分解が生じ、これが中温性工程で利用可能な発酵性物質量を増加させるためであろう。
前記プロセスはまた、このアルコール製造触媒工程で生成される熱を利用して発酵混合物を加熱することによってエネルギー効率をより高めることができる。
前記プロセスが、バイオガスからスルフヒドリルを除去することを含むとき(例えば鉄還元微生物によって生成されるFe2+による)、前記プロセスは、燃料又は燃料添加物として特に貴重な、実質的に硫黄を含まないアルコールを製造することができる。
したがって、本発明は以下の工程を含むアルコールの製造方法を提供する:(a)発酵混合物中の有機質材料を発酵させてメタンを含むバイオガスを生成する工程;(b)前記バイオガスからスルフヒドリルを除去する工程;(c)前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換する工程;(d)前記合成ガスの少なくとも一部分を硫黄非含有触媒と接触させてアルコールを製造する工程;及び(e)前記アルコールを精製する工程、ここで前記精製アルコールは、10ppm未満の硫黄原子、5%未満のメタノール、及び少なくとも70質量%のC2+アルコールを含む。
【0005】
本発明のまた別の実施態様は以下を必要とするアルコールの製造方法を提供する:(a)発酵混合物中の有機質材料を発酵させてメタンを含むバイオガスを生成し、ここで前記発酵混合物は、Fe3+を還元し、さらに有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する微生物を含み;(b)前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換し;(c)前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させてアルコールを製造する。
本発明のまた別の実施態様は以下を必要とするアルコールの製造方法を提供する:(a)発酵混合物中の有機質材料を発酵させてメタンを含むバイオガスを生成し;(b)前記バイオガスをスルフヒドリルと結合する金属陽イオンと接触させることにより、前記バイオガスから悪臭を放つ化合物を除去し;(c)前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換し;(d)前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させてアルコールを製造する。
本発明のまた別の実施態様は以下を必要とするアルコールの製造方法を提供する:(a)発酵混合物中の有機質材料を発酵させてメタンを含むバイオガスを生成し;(b)前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換し;(c)前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させてアルコールを製造し;(d)前記アルコールを精製し、ここで前記精製アルコールは0.5質量%未満のメタノールを含む。好ましくは、前記アルコールは少なくとも70質量%のC2+アルコールを含み、ここでC2+アルコールの収量は、バイオガス中のメタン1000立方フィート当たり少なくとも6ガロンであり、発酵混合物中の揮発性有機酸のバイオガスへの変換は少なくとも65%の効率である。
本発明のまた別の実施態様は以下を必要とするアルコールの製造方法を提供する:(a)発酵混合物中の有機質材料を発酵させてメタンを含むバイオガスを生成し、ここで前記発酵は、45〜100℃の範囲の温度で少なくとも12時間の発酵、続いて0〜44℃の範囲の温度で少なくとも12時間の発酵を含み;(b)前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換し;(c)前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させてアルコールを製造し、ここで前記アルコールは0.5質量%未満のメタノールを含む。
【0006】
本発明のまた別の実施態様は、有機質材料からエタノールを製造する装置を提供する。前記装置は以下を有する:(a)Fe3+を還元し、さらに有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する微生物を含む発酵混合物を収容する発酵容器;(b)(a)が機能的に連結されてある、CH4を含むバイオガスからCO及びH2を含む合成ガスを製造するための装置であって、ここで前記装置はスチームリフォーマー、部分的酸化ユニット、又はその両者を含む前記装置;(c)(b)が機能的に連結されてある、合成ガスをC2+アルコールを含むアルコール混合物に変換するための触媒。
本発明のまた別の実施態様は、有機質材料からエタノールを製造する装置を提供する。前記装置は以下を有する:(a)発酵混合物及び前記発酵混合物をメタンを含むバイオガスに発酵させる微生物を保持する、発酵容器;(b)(a)が機能的に連結されてある、CH4を含むバイオガスからCO及びH2を含む合成ガスを製造するための装置であって、ここで前記装置はスチームリフォーマー、部分的酸化ユニット、又はその両者を含む前記装置;(c)(b)が機能的に連結されてある、合成ガスをC2+アルコールを含むアルコール混合物に変換するための触媒;(d)(c)が機能的に連結されてある精製ユニットであって、前記アルコール混合物から少なくともC2+アルコールについて優先的に濃縮してC2+に富むアルコール画分及びメタノールに富む画分を生成するコンデンサーを含む前記ユニット;及び(e)(c)及び(d)に機能的に連結されてある再循環ユニットであって、前記ユニットは、合成ガスとの反応のためにメタノールに富む画分の少なくとも一部分を触媒(c)へ再循環させることを目的とする。
【0007】
本発明はまた、以下を含む、エタノール製造時に使用されるキットを提供する:(a)Fe3+を還元し、さらに有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する微生物;及び(b)有機質材料を発酵させてバイオガスを生成し、前記バイオガスを合成ガスに変換し、さらに前記合成ガスを触媒と接触させてエタノールを製造することによって、有機質材料からエタノールを製造する装置で前記微生物が使用されることを示す、指示手段。
本発明はまた、本発明のアルコールを製造する方法によって製造されたアルコール生成物を提供する。とりわけ、以下の工程を必要とする方法によって精製されたアルコールが提供される:(a)発酵混合物中の有機質材料を発酵させてメタンを含むバイオガスを生成する工程;(b)前記バイオガスからスルフヒドリルを除去する工程;(c)前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換する工程;(d)前記合成ガスの少なくとも一部分を硫黄非含有触媒と接触させてアルコールを製造する工程;及び(e)前記アルコールを精製する工程、ここで前記精製アルコールは、10ppm未満の硫黄原子、5%未満のメタノール、及び少なくとも70質量%のC2+アルコールを含む。
【0008】
(発明の詳細な説明)
(定義)
本明細書で用いられる“バイオガス”は、微生物の嫌気的発酵代謝によって生成される気体を指す。本明細書に記載するバイオガスはメタンを含み、典型的にはその主要な構成成分として二酸化炭素を含む。
本明細書で用いられる有機質材料を“発酵させる”という用語は、嫌気的呼吸作用を利用する微生物による有機質材料の消化を指す。
本明細書で用いられる“部分的酸化”という用語は、還元された基質の、酸素又は別の酸化剤との反応による不完全な酸化を指す。その例は、メタンの二酸化炭素以外のより酸化された化合物(例えばメタノール又は一酸化炭素)への変換である。具体的な実施態様では、バイオガスの部分的酸化には、メタンをO2と反応させてCO及びH2を生成することが含まれる。バイオガスを“部分的に酸化すること”には、バイオガスの全てを部分的に酸化すること、及びバイオガスの一部分を部分的に酸化することが含まれる。
本明細書で用いられる“スルフヒドリル”という用語は、SH基又は1つ若しくは2つ以上のSH基を有する化合物を指す。“スルフヒドリル”という用語には、例えば硫化水素、メタンチオール、エタンチオール及び2-メルカプトエタノールが含まれる。
“ナノサイズの硫化遷移金属触媒”という用語は、主として1の遷移金属又は複数の遷移金属の組合せで構成された触媒であって、その粒子が200nm未満、好ましくは100nm未満の平均粒子直径を有し、且つ前記金属が硫化されている触媒を指す。
“揮発性有機酸”という用語は、COOH基を有し、且つ6以下の炭素原子を含む化合物を指す。例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸及び酪酸が含まれる。
“C2+アルコール”及び“C3+アルコール”という用語は、それぞれ2以上及び3以上の炭素を有するアルコールを指す。
本発明の方法によって製造された“アルコール”及び“精製アルコール”という用語には、アルコールの混合物並びにアルコール及び他の成分を含む混合物が含まれる。前記他の成分には、いくつかの事例では水、アルデヒド、ケトン、エーテル、エステル、有機酸、及び酸無水物が含まれる。好ましくは、本発明の方法のアルコール及び精製アルコール生成物は、50質量%を超える、より好ましくは60質量%を超える、さらに好ましくは70質量%を超える、さらに好ましくは80質量%を超える、なお好ましくは90質量%を超える、さらに好ましくは95質量%を超えるアルコールから成る。
“揮発性有機物”という用語はバイオマス中の物質塊であって、105℃で乾燥後は液体又は固体であり、大気中で550℃に加熱後は気化されるものを指す。
【0009】
(発明の説明)
本発明は、以下の工程を必要とするアルコールの製造方法を提供する:(1)発酵混合物中の有機質材料を発酵させてメタンを含むバイオガスを生成し;(2)前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換し;さらに(3)前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させてアルコールを製造する。
図1は本発明の装置の模式図である。前記装置は、発酵混合物(13)を保持する発酵容器(10)を含む。前記発酵混合物は鉄還元微生物(14)を含み、前記は発酵効率を強化する。前記鉄還元微生物(14)はF3+を還元し、さらに有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸(COOH基及び6個又はそれより少ない炭素原子を含む化合物)を生成する。発酵はCH4を含むバイオガスを生成し、前記バイオガスは発酵容器の上部空間を占有する。CH4を含むバイオガスは、CO及びH2を含む合成ガスを生成するために装置(11)を通過する。装置(11)は、例えばスチームリフォーマー、部分的酸化ユニット又はその両者であってもよいし、又はそれらを含むことができる。合成ガスは搬送され、触媒(12)と接触してC2+アルコール(例えばエタノール、プロパノール、ブタノール又は前記の混合物)に変換される。
本発明の方法及び装置のいくつかの実施態様では、前記発酵混合物は、Fe3+を還元し、さらに有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸(典型的にはもっぱら酢酸を含む酸の混合物)を生成する微生物を含む。いくつかの実施態様では、前記微生物は酢酸を生成する。いくつかの実施態様では、前記微生物はFe3+をFe2+に還元する。いくつかの実施態様では、前記微生物はFe3+をFe2+に還元し、さらに酢酸を生成する。
【0010】
好ましい鉄還元微生物はアメリカ菌培養集積所にATCC55339の番号で寄託されている。したがって、いくつかの実施態様では、前記微生物はATCC55339に由来する。“ATCC55339に由来する”とは、前記鉄還元微生物がATCC55339から増殖したか、前記がATCC55339培養の代表的な種の1つであるか、又は改善株を得るために変異導入及び選別によってATCC55339培養から選別されたことを意味する。
いくつかの実施態様では、前記微生物はATCC55339である。
ATCC55339は、前記有機質材料のバイオガスへの変換効率を高める。前記変換効率は、発酵により無効にされた化学的酸素要求(COD)を前記有機質材料の出発時のCODで割ったものとして測定される。これは、(生成されたメタン+CO2)/(揮発性有機物)に近似する。揮発性有機物は、大気中で550℃で処理することによって気化される有機質材料の量と定義される。本発明者らは、肥料中に見出される天然の細菌叢を用いて95°F(35℃)で12日間酪農の有機質肥料を発酵させることによって、46〜52%の変換効率がもたらされることを見出した。ATCC55339及び鉄供給源としての磁鉄鉱を添加することによって、前記変換効率が顕著に増加する。
ATCC55339はFe3+をFe2+に還元し、さらに揮発性酸の混合物(酢酸、プロピオン酸及び酪酸を含む)を生成する。前記菌は溶液由来のFe3+を用いるか、又は不溶性の鉄供給源(例えば磁鉄鉱又はタコナイト)からFe3+を抽出することができる。
【0011】
ATCC55339は、第一に、有機基質の分解の速度及び効率を高める外部電子アクセプター(すなわちFe3+)を時に豊富に用いることができることから、発酵効率を高めると考えられる。第二に、ATCC55339は酢酸及び他の揮発性有機酸を生成し、さらにこれらはメタン形成古細菌がCH4及びCO2へ変換する良好な基質であるので、発酵効率を高めると考えられる。したがって、ATCC55339が特に好ましいが、F3+を還元し、さらに少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する任意の微生物がバイオガス生成収量、したがってエタノール収量を高めるであろう。
本発明のある実施態様では、前記発酵混合物はさらに鉄供給源を含む。好ましくは、鉄供給源にはF3+が含まれる。原則的には、鉄供給源はより還元された鉄の形態であり(例えばF0)、化学的作用又は微生物作用によってin situでF3+に酸化される。しかしながら嫌気的発酵条件下では、より還元された鉄はF3+に酸化されるとは予測できない。
したがって好ましくは、鉄供給源はF3+を含む。F3+を含む鉄供給源は、溶液中にF3+を含むか、又は不溶性の鉄複合形を含むことができる(この場合、鉄原子のいくつかは3+の酸化状態で存在する、例えば磁鉄鉱又はタコナイト)。具体的な実施態様では、鉄供給源は磁鉄鉱である。他の具体的な実施態様では前記はタコナイトである。
【0012】
本発明の方法のいくつかの実施態様では、前記方法はバイオガスを部分的に酸化することを必要とする。これは、バイオガスのスチームリフォーミングと比較してCO対H2比を上昇させる。メタンの部分的酸化は2H2/COの比を生じる。スチームリフォーミングは3H2/COの比を生じる。部分的酸化から生じるCO対H2比の増加はメタノール量を低下させ、合成ガスから生成されるエタノール及びより高級なアルコールの量を増加させる。
部分的酸化の方法は周知であり、メタンをCO及びH2に部分酸化するためのユニットは市販されている。例えば、部分的酸化は酸素枯渇燃焼によって達成できる。
本発明のいくつかの実施態様では、バイオガスの一部分が部分的に酸化され、一部分がスチームリフォーミングされる。スチームリフォーミングは、メタンを高温及び高圧の水蒸気と反応させて、CO及びH2を生成することを含む。スチームリフォーマー(部分的酸化ユニットと同様なもの)は市販されている。
本発明のいくつかの実施態様では、バイオガスの一部分又は全部がスチームリフォーミングされる。
【0013】
燃料アルコールは、好ましくはもっぱら高級アルコールである。メタノールが豊富すぎるアルコール混合物は、水の存在下で相分離に敏感である(前記はガソリン系で普遍的である)。したがって好ましくは、アルコール生成物はC2+アルコールが豊富であり、メタノール含有量は低い。いくつかの実施態様では、前記アルコールは5質量%未満のメタノールを含む。好ましくは、前記アルコールは、少なくとも70質量%のC2+アルコールを含む。いくつかの実施態様では、前記アルコールは0.5質量%未満のメタノールを含む。いくつかの実施態様では、前記アルコールは、少なくとも60質量%のエタノールを含む。いくつかの実施態様では、前記アルコールは0.5質量%未満のメタノール及び少なくとも60質量%のエタノールを含む。いくつかの実施態様では、前記アルコールは、少なくとも92.1質量%のエタノールを含む。いくつかの実施態様では、前記アルコールは少なくとも5質量%又は少なくとも10質量%のC3+アルコールを含む。
C2+アルコールの含有量が高いアルコールを得るためにいくつかの要因が寄与しうる。1つは、高いCO対H2比をもつ合成ガスの使用である。上記で考察したように、メタンの部分的酸化は、スチームリフォーミングより高いCO対H2比をもたらす。高いC2+アルコール含有量を有するアルコールを得る場合に必要なまた別の要件は、メタノール生成を凌駕するC2+アルコール生成を促進する触媒および反応条件を使用することである。適切な触媒には、以下の文献に記載された触媒が含まれる:J. Bao et al. Chem. 2003, Commun. 2003:746-747;米国特許4,235,801号;及び米国特許4,333,852号。Baoらの文献に記載された触媒はK-Co-Mo/C触媒である。前記は以下の方法によって生成される。Co(NO3)2及び(NH4)6Mo7O24の水溶液を調製し、0.5のCo/Moモル比で混合する。定常的に攪拌しながら前記溶液にクエン酸を添加する(クエン酸/金属イオンのモル比は0.1)。続いてK2CO3溶液をゆっくりと前記溶液に滴下する(K/Moモル比は0.1)。溶液のpH値をHCOOH及びNH4OHで3.5に調整する。前記溶液がゲルになるまで、前記溶液を水浴中で65℃に維持する。前記ゲルを120℃で15時間乾燥させ、さらにアルゴン中で400℃4時間焼成する。合成ガスとの適切な反応条件は、温度230℃、圧6.0Mpa及びガス時間空間速度9600時間-1である。これらの条件下では、CO変換は7.5%C、アルコール選択性は炭素の60.4%、アルコールの空間-時間収量は296g/kg-時間、さらにC2+アルコール対メタノール比は1.48である(J. Bao et al. Chem. 2003, Commun. 2003:746-747)。
【0014】
他の適切な触媒は米国特許4,333,852号に記載されている。前記触媒は、ハロゲンプロモーター及び溶媒としてホスフィンオキシドを含むルテニウム触媒である。触媒調製及びアルコール合成の例は下記の方法を含む。トリルテニウムドデカカルボニルとして16mgのRu原子、5.6mmolの元素のヨウ素、及び75mLのトリプロピルホスフィンオキシドを、正味の容積が128mLのバックミキシングオートクレーブに入れ、攪拌しながら55℃で加熱する。リアクターをCOで500psiに加圧し、240℃に加熱し、続いてH2/CO混合物(H2/CO比は2.0)で6,000psiに加圧する。反応が進行するにつれ圧は下降する。圧が500psiに下降したとき、リアクターを合成ガスで6,000psiに再加圧する。この方法を用いて、エタノールが2.05モル/L/時間の速度で50質量%の選択性で生成される。エタノール+メタノール選択性は74質量%である。
低メタノール含有量及び高C2+アルコール含有量を有するアルコールを得るためにもっとも重要なメカニズムは、おそらく、アルコールが形成されるときにC2+に富むアルコール画分とメタノールに富む画分とに分画し、C2+に富むアルコール画分を採集し、さらにメタノールに富む画分を触媒と接触させるために合成ガスへ再循環させることである。触媒上での合成ガス反応へメタノールを添加することによって、CO+2H2--->CH3OH反応の平衡を左へ強制的に移動させる(欧州特許出願0,253,540号(D.G. Gavin and D.G. Richard))。前記平衡がメタノールの更なる正味生成を防止し、CO及びH2は反応してエタノール及び他のC2+生成物が生成される。再循環されたメタノールはまた、CO、H2及び/又は第二のメタノール分子との反応によって、C2+生成物の生成のための反応物質となることができる。全てのメタノール生成物が再循環されるならば、メタノールの正味の生産はない。
このメタノール再循環プロセスでは、前記触媒由来アルコール生成物は、C2+に富むアルコール画分とメタノールに富む画分へ分画される。前記は、好ましくはC2+アルコールの沸点より低く、メタノールの沸点より高い温度及び圧で、生成物の混合物からC2+アルコールを濃縮することによって実施される。続いて、触媒と接触させるために気体状のメタノールに富む画分を合成ガスと混合する。
【0015】
本発明の方法で生成されたアルコール(メタノールに富む画分から分離されたC2+に富むアルコール画分を含む)は、さらに処理または分画を実施することができる。例えば、エタノールは、混合物中の他のアルコール及び他の成分から分離することができる。前記混合物はしばしばプロパノール、ブタノール及びイソブタノールを含み、前記を精製することができる。アセトアルデヒド、酢酸、無水酢酸及び他の成分が、前記アルコール混合物中に存在し、アルコールから精製又は分離することができる。
本発明のいくつかの実施態様では、発酵は、45〜100℃の範囲の温度で少なくとも12時間、続いて0〜44℃の範囲の温度で少なくとも12時間発酵することを必要とする。ATCC55339は中温でのみ活性を有するので、ATCC55339が発酵で用いられる場合は、0〜44℃の範囲での発酵工程を用いなければならない。
本発明のいくつかの実施態様では、合成ガスを触媒と接触させる工程は、発酵混合物の加熱に用いられる熱を発生させる。
本発明のいくつかの実施態様では、鉄還元微生物は、発酵混合物及び/又はバイオガス中のスルフヒドリルと結合するFe2+を生成する。
いくつかの実施態様では、有機質材料を発酵させてバイオガスを生成する工程は、前記有機質材料を容器に補給し、前記容器中で嫌気的条件下にて前記有機質材料を発酵及び混合してバイオガスを生成し、混合を中断して粒子状の未発酵有機質材料を容器中で定着させて低浮遊物上清を生じ、前記上清を容器からデカントし、さらに補給及び発酵工程をくり返すことを含む。この方法は、2容器系(米国特許5,185,079号)と比較して、有機質材料の気化効率を改善する。2容器系では、発酵は1つの容器で生じ、続いて廃棄水は別の固形物分離ユニット(ここで定着が生じる)へ流れていく。続いて定着した固形物は発酵容器へ再循環される(米国特許5,185,079号)。1容器系ではまた要求される資本投資が少ない。
【0016】
1容器法のある実施態様では、前記方法は、場合によって真空を用い定着工程の直前にバイオガスの少なくとも一部分を容器から抜き取る工程をさらに含む。
本発明の方法のいくつかの実施態様では、前記有機質材料は酪農の有機質肥料を含む。他の実施態様では、前記有機質材料は、ブタの有機質肥料、シチメンチョウの有機質肥料、ニワトリの有機質肥料、屠場の廃棄物、都市下水、農作物廃棄物を含む。本発明の方法に適したある農作物廃棄物はサトウダイコン廃棄物(例えばサトウダイコン屑)である。
いくつかの実施態様では、前記有機質材料は森林生産物の廃棄物(例えば、おがくず)を含む。
本発明のいくつかの実施態様では、発酵は、0〜44℃の範囲の温度で発酵させることを必要とする(中温性細菌の場合)。いくつかの実施態様では、発酵は、45〜100℃の範囲の温度で発酵させることを必要とする(好熱性細菌の場合)。本発明のいくつかの実施態様では、前記触媒は、第VI族の金属から選択される、ナノサイズの硫化遷移金属触媒である。いくつかの実施態様では、前記触媒は、ナノサイズの硫化モリブデン触媒である(米国特許6,248,796号)。
いくつかの実施態様では、ナノサイズの硫化遷移金属触媒は、溶媒(例えば重機械油)に懸濁され、さらに前記合成ガスは、250〜325℃の範囲の温度及び500〜3000psiの範囲の圧で触媒と接触される。
前記触媒はまた他の金属又は無機触媒でもよい(例えば米国特許4,675,344号、4,749,724号、4,752,622号、4,752,623号及び4,762,858号に開示されたもの)。
【0017】
好ましくは、前記触媒は硫黄を含まない。なぜならば、硫黄を含む触媒は、生成するアルコール混合物に硫黄をしみださせるからである。スルフヒドリルは燃料アルコールには望ましくない。なぜならば、前記は臭気を有し、燃焼時に酸性雨及び人間の健康問題を引き起こす酸化硫黄を生成し、さらに前記は内燃エンジンのエンジン部分に損傷を与えうるからである。したがって、好ましくは、アルコールは10ppm未満の硫黄原子、より好ましくは1ppm未満の硫黄原子を含む。前記は、バイオガスを合成ガスに変換する前にバイオガスからスルフヒドリルを除去し、続いて合成ガスからアルコールへの変換に硫黄を含まない触媒を用いることによって達成することができる。スルフヒドリルをバイオガスから除去するある方法は、スルフヒドリルと結合する金属陽イオン(例えばFe2+)とバイオガスを接触させることである。また別の方法は、スルフヒドリルと結合するまた別のタイプの物質(例えばアミン化合物、前記は樹脂上に固定することができる)とバイオガスを接触させることである。
また別には、スルフヒドリルはアルコール生成物から除去することができる。これを達成するためのある方法は、スルフヒドリルと結合する金属陽イオン(例えばFe2+)とアルコールを接触させることである。また別の方法は、スルフヒドリルと結合するまた別のタイプの物質(例えばアミン化合物、前記は樹脂上に固定することができる)とアルコールを接触させることである。
本発明の方法及び生成物の具体的な実施態様では、前記アルコール又は精製アルコールは、(重量で)10ppm未満又は1ppm未満の硫黄原子をスルフヒドリル化合物中に含む。他の実施態様では、前記アルコール又は精製アルコールは10ppm未満又は1ppm未満の(任意の形態の)硫黄原子を含む。
【0018】
本発明の方法はまた、鉄還元微生物によって生成されたFe2+とは別の硫黄スクラバーとバイオガスとを接触させることを含むことができる。前記硫黄スクラバーは、1つ又は2つ以上のスルフヒドリル、H2S、硫黄の陰イオン性酸化形(例えばスルフェート及び亜硫酸塩)及びCOSを除去することができる。
スルフヒドリル及び硫黄の他の形態はまたアルコールが生成された後でアルコールから除去することができる。したがって、本発明のある実施態様では、以下を必要とするアルコールの製造方法が提供される:(a)発酵混合物中の有機質材料を発酵させてメタンを含むバイオガスを生成し;(b)前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換し;(c)前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させてアルコールを製造し;(d)前記アルコールをスクラバーと接触させて前記アルコールからスルフヒドリルを除去し;さらに(e)前記アルコールを精製する。ここで前記精製アルコールは、10ppm未満の硫黄原子、5%未満のメタノール、及び少なくとも70質量%のC2+アルコールを含む。
原則として、合成ガスをアルコールに変換するための触媒は生物学的触媒、例えば微生物又はCO及びH2をエタノール若しくはアルコールに変換する精製酵素でありうる。これらのいくつかは以下の文献に記載されている:M.D. Bredwell et al. 1999, Biotechnol. Prog. 15:834-844;J.L. Vega et al. 1989, Appl. Biochem. And Biotech. 20/21:781;S. Barik et al. 1988, Appl. Biochem. And Biotech. 18:379。
本発明の方法のいくつかの実施態様では、前記アルコールはC2+アルコールを含み、前記C2+アルコールの収量は、バイオガス中のメタン1000立方フィート当たり少なくとも4ガロン、少なくとも5ガロン、又は少なくとも6ガロンである。
【0019】
前記方法の具体的な実施態様では、発酵混合物中の揮発性有機物のバイオガスへの変換は、少なくとも50%、少なくとも65%、少なくとも70%、又は少なくとも75%の効率である。
前記方法のいくつかの実施態様では、前記アルコールはC2+アルコールを含み、前記C2+アルコールの収量は、バイオガス中のメタン1000立方フィート当たり少なくとも6ガロンであり、発酵混合物中の揮発性有機物のバイオガスへの変換は少なくとも65%の効率である。
本発明のいくつかの実施態様では、発酵される有機質材料はセルロースを含み、さらに前記方法は、前記発酵工程の前又は発酵工程時に前記有機質材料をセルラーゼで消化することを含む。前記セルラーゼは単離された酵素であっても、又はセルラーゼ含有微生物中のセルラーゼであってもよい。
本発明のある実施態様は、以下の工程を含むアルコールの製造方法を提供する:(1)発酵混合物中の有機質材料を発酵させてメタンを含むバイオガスを生成する工程;(2)前記バイオガスをスルフヒドリルと結合する金属陽イオンと接触させることにより、前記バイオガスから悪臭を放つ化合物を除去する工程;(3)前記バイオガスの少なくとも一部分をCO及びH2を含む合成ガスに変換する工程;(4)前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させてアルコールを製造する工程。
スルフヒドリルと結合する前記金属陽イオンはFe2+でありうる。いくつかの実施態様では、前記Fe2+は、他の酸化状態の鉄から微生物の作用によって生成される。いくつかの実施態様では、前記微生物の作用は、有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する鉄還元性微生物によるFe3+からFe2+への還元を含む。
【0020】
他の実施態様では、スルフヒドリルと結合する金属陽イオンは亜鉛又は銅の陽イオンである。
本発明の方法のいくつかの実施態様では、外因性微生物(すなわち発酵される有機質材料中に見出される微生物の他の微生物)が発酵混合物に添加され、バイオガス生成の効率又は速度が強化される。
本発明の方法によって生成されるアルコールは、本アルコールが相当量のプロパノール、n-ブタノール、iso-ブタノール及びペンタノールを含むという点で穀粒発酵エタノールよりも燃料添加物として利点を有する。これらのC3+アルコールは、エタノールよりも効率的に燃料のオクタンをブーストする。したがって、本発明の方法によって生成されるアルコールのいくつかの実施態様では、前記アルコールは少なくとも5質量%又は少なくとも10質量%のC3+アルコールを含む。
本発明の装置のいくつかの実施態様では、前記装置は、合成ガスをアルコールに変換する触媒に機能的に連結された精製ユニットを含み、前記精製ユニットは前記アルコール混合物から少なくとも1つのC2+アルコールを優先的に濃縮してC2+に富むアルコール画分及びメタノールに富む画分を生じるコンデンサーを含む。
いくつかの実施態様では、前記精製ユニットの他に前記装置は、前記触媒及び精製ユニットに機能的に連結された再循環ユニットを含む。前記再循環ユニットは、合成ガスとの反応のために、前記精製ユニットによって生成されたメタノールに富む画分の少なくとも一部分を前記触媒へ再循環させる。
本発明を以下の非限定的な例を用いてこれから例証する。
【実施例】
【0021】
比較実施例1
酪農の有機質肥料(前記肥料を採集した場所から肥料を洗浄するために用いたいくらかの水を含む)を、ステンレススチール又はプレキシガラス(Plexiglas)の発酵リアクターに米国特許5,185,079号に記載されたように入れた。前記リアクターはコロンビア・テク・タンク(Columbia Tech Tank, Kansas City, Missouri)から購入した。前記肥料は最初に好熱性蒸煮罐で135°F(57.2℃)で発酵させた。さらに別の微生物は添加されなかった。発酵は前記有機質肥料中に見出された細菌叢に依った。リアクターは1時間毎に2分間混合した。8時間が終了する毎に発酵混合物を混合し、その容積の1/30を抜き取り、第二の中温性発酵容器に移し、さらに等容積の有機質肥料を好熱性蒸煮罐に添加した。したがって、好熱性蒸煮罐中の平均的滞在時間は10日間であった。
第二の発酵容器は中温性発酵の場を提供した。中温性発酵は95°F(35℃)で行われた。くり返せば、微生物は添加されず、発酵は前記肥料中に見出される天然の細菌叢に依った。中温性及び好熱性の両蒸煮罐はほぼ3/4が液体で満たされ、容器容積の1/4は上部ガス空間であった。中温性発酵装置は以下を含む8時間のサイクル時間にしたがった:(a)6時間の反応(ここで前記混合物は1時間毎に2分間混合された);(b)固形物を定着させるために混合せずに1.5時間;(c)リアクターの液体容積の1/54に等しい、“灰白色水”の液体上清のデカント15分;(d)抜き取った灰白色水の容積と等しい容積を好熱性蒸煮罐から添加するために15分。8時間ごとに1/54の容積を置き換え、中温性リアクターでの平均滞在時間は18日であった。
定着させたスラッジは周期的に中温性リアクターから取り出し、乾燥させて肥料として販売することができる。
【0022】
バイオガスは、好熱性及び中温性発酵装置の両方の上部空間から持続的に抜き取られた。
2つの発酵装置から得られるバイオガスを収集した。前記ガスはほぼ69〜75%のメタン及び25〜29%の二酸化炭素を含み、残余には少量の硫化窒素及び硫化水素が含まれていた。
前記バイオガスを、酸素枯渇ガス燃焼装置を用いて部分的に酸化し、主としてCO及びH2を1:2の比で含む合成ガスに変換した。バイオガス中の二酸化炭素は部分的酸化によって影響を受けず、合成ガスにもまた存在している。
アルコール合成の適切性を示すために、18%H2、28%CO、30%CO2、15%CH4及び9%N2を含む、別々に入手した合成ガスサンプルを、重機械油に懸濁させたナノサイズの硫化モリブデン触媒と、米国特許6,248,796号に記載されたように200〜325℃、500〜3000psiで接触させた。前記触媒は、232g/Lのメタノール、126g/Lのエタノール、168g/Lのプロパノール、並びに69g/Lのブタノール及び高級アルコール、並びに120g/Lの水(高CO2含有量による)を含むアルコール混合物を生成した。
発酵装置を加熱するために、触媒からでる廃熱を、エチレングリコール熱移転媒体を用いて移動させた。
メタンの生成は、変換係数、8立方フィートメタン/ポンド揮発性有機物を揮発性有機物変換効率と掛け算することによって算出することができる。発酵混合物の基質中の揮発性有機物のバイオガスへの変換効率は、揮発性液体及び固体有機物の低下によって計算したとき45〜55%であった。メタン1000立方フィート当たり、ほぼ6〜7ガロンのアルコール混合物が生成された。
【0023】
[実施例1]
この実施例では単一発酵装置が用いられ、前記は95°F(35℃)での中温性発酵の場を提供した。比較実施例1のように、酪農の有機質肥料を前記発酵装置に添加した。発酵開始時にATCC55339を前記発酵装置に添加した。他の微生物は添加されなかった。発酵装置は以下を含む8時間のサイクル時間にしたがった:(a)6時間の反応(ここで前記混合物は1時間毎に2分間混合された);(b)固形物を定着させるために混合せずに1.5時間;(c)リアクターの液体容積の1/36に等しい、“灰白色水”の液体上清のデカント15分;(d)抜き取った灰白色水の容積と等しい容積を好熱性蒸煮罐から添加するために15分。8時間ごとに1/36の容積を置き換え、中温性リアクターでの平均滞在時間は12日であった。顆粒化酸化鉄(磁鉄鉱)を自動オーガー(augur)又は類似の装置によってバイオリアクターによって添加した。1ポンドの磁鉄鉱のほぼ1/8を乳牛1頭当たり毎日添加した。
単に12日滞在及び好熱性消化の欠如にもかかわらず、鉄還元性細菌ATCC55339により、揮発性有機物の変換効率は75〜86%であった。これは、細菌無しの比較条件での約50〜65%に匹敵する。
前記バイオガスは合成ガスに変換され、前記合成ガスは比較実施例1のようにアルコールに変換された。
実施例1のリアクターから取り出された灰白色水は、ホスフェート及び前記有機質肥料から生成されたホスフェート含有ポリマーを含む。ホスフェートは地下水の富栄養化をもたらし、したがって放出される排水において最小限にしなければならない。しかしながら、前記灰白色水はまた鉄還元微生物によって生成されたFe2+も含んでいる。前記灰白色水が発酵装置から除去された後で空気にさらされた場合、前記二価鉄は三価鉄に酸化され、これは前記ホスフェートと結合して沈殿する。前記沈殿物は灰白色水の放出前に分離することができ、乾燥させてホスフェート及び鉄に富む肥料として販売することができる。例えば、米国特許5,667,673号、5,543,049号及び5,620,893号を参照されたい。
【0024】
[実施例2]
酵母製造施設(サトウダイコンで酵母を増殖させる)の排水を実施例1に記載したように嫌気的発酵装置で消化し、バイオガスを生成する。600scf/時のメタンを含むバイオガスが生成される。300scf/時の酸素流をバイオガス流と混合し、前記ガスを、市販の触媒の存在下で周囲圧、850℃での反応のために部分的酸化リアクターに入れ、主としてH2及びCOから成る合成ガスを生成する。
前記合成ガスは部分的酸化系から出て、冷却され圧縮される。
合成ガスを6000psi及び240℃でルテニウム触媒と接触させ(前記触媒の調製は上記及び米国特許4,333,852号に記載されている)、もっとも豊富な生成物としてエタノール、相当量のメタノール、及び高級アルコールを含む生成物混合物を生成する。
リアクターを出た後、ガス流の圧を取り除き冷却し、さらにエタノール及び高級(C3+)アルコールを濃縮して取り出す。このエタノールに富むアルコール画分は貯蔵ドラムへ送られる。
未反応合成ガス及び反応副生成物(メタノール、二酸化炭素及び水)はコンデンサーから排出され、さらにH2O及びCO2スクラバーで浄化されてH2O及びCO2が除去される。
未反応合成ガス及びメタノールは再加熱、再加圧し、さらに部分的酸化ユニットから流入する合成ガスと混合する。続いて前記ガス混合物をアルコールリアクターで再循環させる。
本明細書に引用した全ての参考文献、特許、及び特許書類は参照により本明細書に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】有機質材料からアルコールを製造する本発明の装置の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵混合物中の有機質材料を発酵させて、メタンを含むバイオガスを生じる工程;
前記バイオガスからスルフヒドリルを除去する工程;
前記バイオガスの少なくとも一部分を、CO及びH2を含む合成ガスへ変換する工程;
前記合成ガスの少なくとも一部分を硫黄非含有触媒と接触させて、アルコールを製造する工程;及び
前記アルコールを精製する工程;
を含むアルコールの製造方法であって、
精製されたアルコールは、10ppm未満の硫黄原子、5%未満のメタノール、及び少なくとも70質量%のC2+アルコールを含む、前記製造方法。
【請求項2】
C2+アルコールの収量が、バイオガス中のメタン1000立方フィート当たり少なくとも6ガロンであり、且つ発酵混合物中の揮発性有機物のバイオガスへの変換が少なくとも65%の効率である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
バイオガスからスルフヒドリルを除去する工程が、スルフヒドリルと結合する金属陽イオンと前記バイオガスとを接触させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
金属陽イオンが、Fe3+を還元し且つ有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する微生物によって発酵混合物中のFe3+を還元することにより生成されるFe2+である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
発酵混合物がさらに鉄供給源を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
精製されたアルコールが0.5質量%未満のメタノールを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
精製されたアルコールが少なくとも60質量%のエタノールを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
アルコールを精製する工程が、前記アルコールをC2+に富む画分とメタノールに富む画分とに分画することを含み、製造方法が、触媒と接触させるため、前記メタノールに富む画分を合成ガスへと再循環させる工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
発酵混合物中の有機質材料を発酵させて、メタンを含むバイオガスを生じる工程であって、ここで前記発酵混合物が、Fe3+を還元し且つ有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する微生物を含む、前記工程;
前記バイオガスの少なくとも一部分を、CO及びH2を含む合成ガスへ変換する工程;及び
前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させて、アルコールを製造する工程;
を含む、アルコールの製造方法:。
【請求項10】
Fe3+を還元する微生物がATCC55339に由来する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
発酵混合物がさらに鉄供給源を含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
鉄供給源が磁鉄鉱である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
バイオガスの少なくとも一部分を合成ガスへ変換する工程が、前記バイオガスの少なくとも一部分を部分的に酸化することを含む、請求項9記載の方法。
【請求項14】
アルコールを精製する工程をさらに含み、精製されたアルコールが0.5質量%未満のメタノールを含む、請求項9記載の方法。
【請求項15】
アルコールを精製する工程が、前記アルコールをC2+に富む画分とメタノールに富む画分とに分画することを含み、製造方法が、触媒と接触させるため前記メタノールに富む画分を合成ガスへと再循環させる工程をさらに含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
アルコールを精製する工程をさらに含み、精製されたアルコールが少なくとも60質量%のエタノールを含む、請求項9記載の方法。
【請求項17】
触媒と接触させる工程が、発酵混合物を加熱するのに用いられる熱を生成する、請求項9記載の方法。
【請求項18】
鉄を還元する微生物が、発酵混合物中のスルフヒドリルと結合するFe2+を生成する、請求項9記載の方法。
【請求項19】
有機質材料を発酵させてバイオガスを生じる工程が、前記有機質材料を容器に補給する工程、前記容器中の前記有機質材料を嫌気的条件下で発酵及び混合してバイオガスを生成する工程、混合を中断して粒子状の未発酵有機質材料を容器中に定着させ、低浮遊物上清を形成する工程、前記低浮遊物上清を前記容器からデカントする工程、並びに、少なくとも前記補給する工程及び前記発酵する工程をくり返す工程を含む、請求項9記載の方法。
【請求項20】
バイオガスの少なくとも一部分を、未発酵有機質材料を定着させる直前に容器から抜き取る工程をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
有機質材料が酪農の有機質肥料を含む、請求項9記載の方法。
【請求項22】
有機質材料が、ブタの有機質肥料、シチメンチョウの有機質肥料、ニワトリの有機質肥料、屠場の廃棄物、都市下水、または農作物廃棄物を含む、請求項9記載の方法。
【請求項23】
有機質材料が農作物廃棄物を含み、前記農作物廃棄物がサトウダイコン廃棄物である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
有機質材料が森林生産物の廃棄物を含む、請求項9記載の方法。
【請求項25】
発酵が、0〜44℃の範囲の温度で発酵させることを含む、請求項9記載の方法。
【請求項26】
発酵が、45〜100℃の範囲の温度で発酵させることを含む、請求項9記載の方法。
【請求項27】
アルコールがC2+アルコールを含み、前記C2+アルコールの収量が、バイオガス中のメタン1000立方フィート当たり少なくとも6ガロンであり、発酵混合物中の揮発性有機物のバイオガスへの変換が少なくとも65%の効率である、請求項9記載の方法。
【請求項28】
触媒が硫黄を含まず、アルコールが10ppm未満の硫黄原子を含む、請求項18記載の方法。
【請求項29】
アルコールが1ppm未満の硫黄原子を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
鉄還元微生物によって生成されたFe2+とは別の硫黄スクラバーとバイオガスとを接触させる工程をさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項31】
発酵混合物中の有機質材料を発酵させて、メタンを含むバイオガスを生じる工程;
前記バイオガスをスルフヒドリルと結合する金属陽イオンと接触させることにより、前記バイオガスから悪臭を放つ化合物を除去する工程;
前記バイオガスの少なくとも一部分を、CO及びH2を含む合成ガスへ変換する工程;及び
前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させて、アルコールを製造する工程;
を含む、アルコールの製造方法。
【請求項32】
金属陽イオンが、微生物作用によって他の酸化状態の鉄から生成されたFe2+である、請求項31記載の方法。
【請求項33】
微生物作用が、有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する鉄還元微生物によるFe3+からFe2+への還元を含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
鉄還元微生物がATCC55339に由来する、請求項33記載の方法。
【請求項35】
バイオガスの少なくとも一部分を合成ガスへ変換する工程が、前記バイオガスの少なくとも一部分を部分的に酸化することを含む、請求項31記載の方法。
【請求項36】
アルコールを精製する工程をさらに含み、精製されたアルコールが0.5質量%未満のメタノールを含む、請求項31記載の方法。
【請求項37】
有機質材料が酪農の有機質肥料を含む、請求項31記載の方法。
【請求項38】
有機質材料が、ブタの有機質肥料、シチメンチョウの有機質肥料、ニワトリの有機質肥料、屠場の廃棄物、都市下水、または農作物廃棄物を含む、請求項31記載の方法。
【請求項39】
有機質材料が農作物廃棄物を含み、前記農作物廃棄物がサトウダイコン廃棄物である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
有機質材料が森林生産物の廃棄物を含む、請求項31記載の方法。
【請求項41】
アルコールがC2+アルコールを含み、前記C2+アルコールの収量が、バイオガス中のメタン1000立方フィート当たり少なくとも6ガロンであり、発酵混合物中の揮発性有機物のバイオガスへの変換が少なくとも65%の効率である、請求項31記載の方法。
【請求項42】
触媒が硫黄を含まず、アルコールが10ppm未満の硫黄原子を含む、請求項31記載の方法。
【請求項43】
アルコールが1ppm未満の硫黄原子を含む、請求項42記載の方法。
【請求項44】
発酵混合物中の有機質材料を発酵させて、メタンを含むバイオガスを生じる工程;
前記バイオガスの少なくとも一部分を、CO及びH2を含む合成ガスへ変換する工程;
前記合成ガスの少なくとも一部分を触媒と接触させて、アルコールを製造する工程;及び
前記アルコールを精製する工程;
を含むアルコールの製造方法であって、
精製されたアルコールが0.5質量%未満のメタノール及び70質量%のC2+アルコールを含み、C2+アルコールの収量がバイオガス中のメタン1000立方フィート当たり少なくとも6ガロンであり、発酵混合物中の揮発性有機酸のバイオガスへの変換が少なくとも65%の効率である、前記製造方法。
【請求項45】
バイオガスの少なくとも一部分を合成ガスへ変換する工程が、前記バイオガスの少なくとも一部分を部分的に酸化することを含む、請求項44記載の方法。
【請求項46】
触媒が硫黄を含まず、製造方法がバイオガスからスルフヒドリルを除去することをさらに含み、アルコールが10ppm未満の硫黄原子を含む、請求項44記載の方法。
【請求項47】
アルコールが1ppm未満の硫黄原子を含む、請求項46記載の方法。
【請求項48】
発酵混合物が、Fe3+を還元し且つ有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する微生物を含む、請求項44記載の方法。
【請求項49】
微生物がATCC55339に由来する、請求項48記載の方法。
【請求項50】
発酵混合物が鉄供給源をさらに含む、請求項44記載の方法。
【請求項51】
有機質材料が酪農の有機質肥料を含む、請求項44記載の方法。
【請求項52】
有機質材料が、ブタの有機質肥料、シチメンチョウの有機質肥料、ニワトリの有機質肥料、屠場の廃棄物、都市下水、農作物廃棄物を含む、請求項44記載の方法。
【請求項53】
精製アルコールが10ppm未満の硫黄原子、5%未満のメタノール及び少なくとも70質量%のC2+アルコールを含む、請求項1記載の方法によって製造される精製アルコール。
【請求項54】
少なくとも5質量%のC3+アルコールを含む、請求項53記載の精製アルコール。
【請求項55】
以下を含む、有機質材料からエタノールを製造する装置:
(a)Fe3+を還元し、さらに有機基質から少なくとも1つの揮発性有機酸を生成する微生物を含む発酵混合物を収容する発酵容器;
(b)スチームリフォーマー、部分的酸化ユニット、又はその両者を含み、(a)が機能的に連結されており、CH4を含むバイオガスからCO及びH2を含む合成ガスを製造するための装置;
(c)(b)が機能的に連結されている、合成ガスをC2+アルコールを含むアルコール混合物に変換するための触媒。
【請求項56】
微生物がATCC55339に由来する、請求項55記載のエタノールを製造する装置。
【請求項57】
発酵混合物がさらに鉄供給源を含む、請求項55記載のエタノールを製造する装置。
【請求項58】
触媒(c)と機能的に連結された精製ユニット(d)をさらに含み、前記精製ユニットが、アルコール混合物から少なくとも1つのC2+アルコールを優先的に濃縮してC2+に富むアルコール画分及びメタノールに富む画分を生じるコンデンサーを含む、請求項55記載のエタノールを製造する装置。
【請求項59】
メタノールに富む画分の少なくとも一部分を合成ガスとの反応のため触媒(c)へ再循環させることを目的とし、(c)及び(d)に機能的に連結されている、再循環ユニット(e)をさらに含む、請求項58記載のエタノールを製造する装置。

【図1】
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【公表番号】特表2008−500053(P2008−500053A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515381(P2007−515381)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/018691
【国際公開番号】WO2005/118826
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(506392779)ノヴァス エナジー リミテッド ライアビリティ カンパニー (1)
【Fターム(参考)】