説明

用紙搬送用弾性部材及びその製造方法

【課題】搬送用紙にゴム跡が付きにくい塩素化ポリエチレンを含み、安価で弾力性を付与する充填剤を含みながら、表面に粉が発生しにくい用紙搬送用弾性部材を提供すること。
【解決手段】塩素化ポリエチレンを含むゴム材と充填剤とを含有する配合物を成形し加硫した後に、加硫を終了した高温状態から急冷して製造されたものである、用紙の搬送に用いられる弾性部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙の搬送に用いられる弾性部材に関し、詳しくは複写機、プリンタ、ファクシミリ装置等の画像形成装置において、堆積されたシート状記録材料から記録材料
を一枚ずつ搬送するために用いられる弾性部材及び給紙ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置等の各種の画像形成装置、さらには現金自動預け払い機(ATM)、キャッシュディスペンサ(CD)などにおいては、印刷用紙、記録紙、紙幣などの搬送のために給紙ローラが使用されている。給紙ローラは、紙の取り込み、分離等を確実に行うために摩擦係数の大きな低硬度のゴム材料から形成される。
【0003】
従来、このような要求に応える低硬度のゴム材料としては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が知られている。しかしながら、EPDMは搬送用紙にゴム跡が残りやすく、特に写真印刷機に用いると、印刷された写真の表面が色抜けしてしまう。それゆえ、近年では、搬送用紙にゴム跡が残りにくい塩素化ポリエチレンが用いられるようになっている。
【0004】
特許文献1には、塩素化ポリエチレンを含むゴム材と充填剤とを含有する給紙部材が記載されている。この給紙部材は、高速での紙葉の分離を要求される複写機用として、高い摩擦係数を長期に亘り安定して保つことができる。そのため、配合される無機充填剤の量は比較的少量に制限されている。
【0005】
一般に、塩素化ポリエチレンは弾力性に劣り、配合する充填剤の量が少ないと適切な弾力性に調節するのが困難で、弾性部材が切れやすくなる。また、塩素化ポリエチレンは高価であり、使用量が多いと弾性部材の単価が高くなる。他方、充填剤は安価であり、その配合量を多くすると高コストの問題は解消する。また、充填剤を増量すると塩素化ポリエチレンに弾力性が付与され、弾性部材の搬送性能も向上する。
【0006】
しかし、塩素化ポリエチレンに充填剤をある程度の量配合すると、形成される弾性部材は表面に粉をふきやすくなる。つまり、成形し、加硫した後の加硫物は、金型から脱型後、短い時間で表面の様子が変ってくる。粉が即座に発生するのが視認される。表面を爪などでこすると粉が付着していることがわかる。表面の粉は経時的に増加し、製品の外観が損なわれる。また、弾性部材の表面に付着した粉は紙送り性能にも良い影響を与えない。搬送力を下げてしまうためである。
【0007】
この粉は洗浄すればある程度除去することができるが、水、洗浄液及び粉を含む廃液が発生するため、環境に悪影響を与えてしまう。
【特許文献1】特開平11−11705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、搬送用紙にゴム跡が付きにくい塩素化ポリエチレンを含み、安価で弾力性を付与する充填剤を含みながら、表面に粉が発生しにくい用紙搬送用弾性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、塩素化ポリエチレンを含むゴム材と充填剤とを含有する配合物を成形し加硫した後に、加硫を終了した高温状態から急冷して製造されたものである、用紙搬送用弾性部材を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の用紙搬送用弾性部材は、搬送用紙にゴム跡が付きにくく、安価に製造でき、弾力性が高く、表面に粉が発生しにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
塩素化ポリエチレンはゴム材、つまり、原料ゴムとして用いられる。塩素化ポリエチレンは用紙搬送用弾性部材のゴム材として従来使用されている種類のものであればよい。例えば、一般に広く工業的に用いられている分子量が数万〜数十万程度の汎用低分子塩素化ポリエチレン、及び分子量が20万以上のポリエチレンをその融点付近の温度で塩素化してなり、且つ完全無定形ポリマー或いは実質的に結晶を含まない無定形ポリマーとしたものなどが含まれる。塩素化ポリエチレンの塩素含有率は20〜45質量%、好ましくは30〜40質量%である。塩素含有率がこの範囲内であると弾性部材の弾力性が良好になる。
【0012】
充填剤は、ゴムの補強材として従来一般的に用いられている様々な種類のものを使用することができる。適当な充填剤としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、例えば、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ等の金属酸化物、カーボンブラック、クレー、タルク、マイカ、セラミック繊維、水酸化アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウムなどを挙げることができる。このような充填剤のなかでも、搬送能力を向上させる効果が大きいものは、シリカ、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウム、アルミナ、セラミック繊維などである。また、塩素化ポリエチレンに対する分散性や耐摩耗性、品質安定性、コストなどの面から、シリカ、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウムなどが好適である。
【0013】
充填剤は、本発明の作用効果に対して悪影響を及ぼさない限り、充填剤の分野で一般的な様々な形態で使用することができる。充填剤の適当な形態としては、例えば、粉体、球体、板状物、繊維片、燐片などを挙げることができる。これらの充填剤は、必要ならば、特性等の向上のためにその表面にコーティングなどを有していてもよく、あるいは、表面処理などを施されていてもよい。充填剤の粒径は特に限定されないが、通常約30μm以下が好ましく、さらに好ましくは、約20μm以下である。
【0014】
充填剤は、所望とする効果などに応じ適当な量で弾性部材に含有させることができる。充填剤の含有量は、通常、ゴム材料100質量部に対して5〜70質量部、好ましくは、20〜40質量部、さらに好ましくは25〜35質量部である。充填剤の含有量がゴム材料100質量部に対して5質量部未満であると弾性部材は弾力性に劣り、適切な弾力性に調節するのが困難で、ゴム部材の強度が劣る。充填剤の含有量がゴム材料100質量部に対して70質量部を超えるとゴム部材の強度が却って低下する。
【0015】
塩素化ポリエチレンには、必要に応じて、可塑剤を添加してよい。可塑剤としては工業的に実用されているものならよく、例えばジドデシルフタレート、ジオクチルフタレート、塩素化パラフィン、ナフテン系オイル、フタル酸エステル系及びアジピン酸エステル系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、ポリエステル系可塑剤や石油系軟化剤などが使用できる。
【0016】
また、加硫剤、加硫促進剤、着色剤(例えば、カーボンブラック)、老化防止剤等を必要に応じて適当量添加するのが適切である。例えば、加硫剤としてはチオ尿素、アミン、過酸化物、メルカプトトリアジン類、チウラムサルファド類等を用いることができる。ここにおいて、チオ尿素としては2−メルカプトイミダゾリン等があり、またアミンとしてはヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、ピペラジン等がある。また、過酸化物としてはジクミルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルパ−オキシ)3,3,5トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等がある。
【0017】
本発明による弾性部材の製造は、加硫処理までは、ゴム加工分野における通常の方法で行われる。例えば、ミキシングロール、バンバリーミキサー、2軸混練押出機、各種ニーダー等を用いて、上記配合成分を混練りし、得られた混練物を成形金型に入れて、ロール状のような所要形状に成形する。次いで、成形された配合物を加硫缶を用いて熱水又は水蒸気で加硫する。加硫条件は用いられる加硫剤、加硫促進剤等に応じて温度100〜200℃で、数分〜120分間の範囲内で適宜選択される。
【0018】
加硫の後、得られた加硫物を加硫を終了した高温状態から急冷する。急冷とは、室温の空気中に放置して自然冷却させる場合と比較して冷却速度を促進することをいう。加硫物を急冷するために、加硫物の周囲温度を強制的に低下させるか、熱伝導率が空気よりも高い物質に加硫物を接触させる。例えば、0〜−20℃に温度調節した冷蔵庫に加硫物を入れたり、0〜100℃に温度調節した液体に加硫物を浸漬すればよい。液体に浸漬して冷却するほうが冷却効果が高く好ましい。その場合、用いる液体としては特に限定されないが、水、純水、氷水、アルコール、アルカリ水、炭酸水、これらの混合物などが例示される。
【0019】
液体の温度が0℃未満であったり、100℃を超えると粉発生を抑制する効果が却って小さくなる。好ましくは、液体の温度は15〜40℃、より好ましくは17〜23℃である。
【0020】
冷却は、加硫終了後に金型を開けて加硫物を取り出した直後に開始されることが好ましい。加硫物を取り出して時間が経過すると従来通りの自然冷却処理に近づき、粉発生を抑制する効果が小さくなるからである。冷却を開始する際の加硫物の温度と加硫温度との差は、好ましくは40℃以内、より好ましくは25℃以内である。例えば、加硫温度が160℃である場合は、ゴム取り出し温度の120℃以上の温度で冷却を開始する。
【0021】
冷却の終点は特に厳密に決定する必要はないが、通常は加硫物の温度が周囲と同様になった時点で終了させる。冷却が終了した加硫物は、要すれば付着している液体などを除去及び/又は乾燥し、用紙搬送用弾性部材として使用される。
【実施例】
【0022】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例に記載された材料の量は特に断りなき限り、質量基準である。
【0023】
実施例1
分子量25万の塩素化ポリエチレン100質量部に、可塑剤としてアルチルスルフォン酸フェニルエステルを75質量部、充填剤として12質量部、加硫促進剤としてメルカプトベンゾチアゾールを添加し、ミキシングロール(オープンロール)を用いて配合物を混連して、ゴム組成物を形成した。これをゴムローラ成形金型に入れて成形し、そのまま160℃で15分間加硫した。金型を開けて加硫物を取り出した。その形状は外径30mm、内径20mm、長さ50mmのロール形である。
【0024】
金型から取り出したロール形の加硫物を、容器に溜めておいた室温の水約1リットルに浸漬した。浸漬する直前の加硫物の温度は125℃であった。1時間後加硫物を水浴から取り出したところ、その温度はほぼ室温であった。
【0025】
得られたゴムロールの表面は清浄であり、粉は発生していなかった。次いで、ゴムロールを室温で保存し、表面を観察した。10日経過してもゴムロールの表面は清浄に保たれ、粉は発生していなかった。
【0026】
実施例2〜4
用いる充填剤の種類及び量、及び冷却条件を表1に示すように変更すること以外は実施例1と同様にしてゴムロールを製造し、表面を観察した。結果を表1に示す。
【0027】
実施例5
実施例1と同様にしてゴム組成物を成形し、加硫した。これを金型から取り出し、水浴に浸漬する代わりに20℃に温度調節された冷蔵庫に入れ、2時間後に取り出した。取り出した直後のゴムロールの温度は20℃であった。
【0028】
得られたゴムロールの表面は清浄であり、粉は発生していなかった。次いで、ゴムロールを室温で保存したところ、3日後、表面に粉が発生した。
【0029】
比較例
実施例1と同様にしてゴム組成物を成形し、加硫した。これを金型から取り出し、水浴に浸漬する代わりに室温の空気中で放置した。1時間後、ゴムロールの温度はほぼ室温であった。
【0030】
得られたゴムロールの表面には粉が発生していた。次いで、ゴムロールを室温で保存したところ、粉の発生量は次第に増加した。
【0031】
[表1]


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素化ポリエチレンを含むゴム材と充填剤とを含有する配合物を成形し加硫した後に、加硫を終了した高温状態から急冷して製造されたものである、用紙搬送用弾性部材。
【請求項2】
前記急冷は、加硫物を0〜100℃の液体に浸漬して行われる請求項1記載の弾性部材。
【請求項3】
前記液体の温度が15〜40℃である請求項1又は2記載の弾性部材。
【請求項4】
急冷を開始する際の加硫物の温度と加硫温度との差が40℃以内である請求項1〜3のいずれか記載の弾性部材。
【請求項5】
充填剤の含有量がゴム材100質量部に対して5〜70質量部である請求項1〜4のいずれか記載の弾性部材。
【請求項6】
充填剤がシリカ、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、クレーからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1〜5のいずれか記載の弾性部材。
【請求項7】
塩素化ポリエチレンを含むゴム材と充填剤とを含有する配合物を成形し加硫する工程、及び
得られた加硫物を加硫を終了した高温状態から急冷する工程、
を包含する、用紙搬送用弾性部材の製造方法。

【公開番号】特開2009−291980(P2009−291980A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145947(P2008−145947)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】