説明

画像の消去方法

【課題】印刷物に形成した画像(文字を含む)を、その印刷物を劣化させることなく、容易かつ迅速に消去する方法を提供する。
【解決手段】(a)前記多孔質誘電体の少なくとも一部に接するように放電電極を設け、前記放電電極と共に前記記録媒体の少なくとも一部を挟むように誘電電極を設ける工程と、(b)酸化性ガスを発生し得る気体の雰囲気下で、誘電電極−放電電極間に電圧を印加することにより放電を行い酸化性ガスを発生させる工程と、(c)前記酸化性ガスにより前記色素を酸化することによって画像を消去する工程とを有することを特徴とする画像の消去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の画像、すなわち多孔質誘電体に形成された色素からなる画像を消去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピューター、プリンタ、複写機、ファクシミリ等の普及に伴い、紙への出力の要求はますます増加している。紙ほど視認性及び携帯性に優れた媒体は現在のところ他になく、「情報の電子化」、「ペーパーレス化」は思うように進展していない。
【0003】
そのため紙の再生・再利用のための技術開発が重要性を増している。従来の紙の再生方法は、回収紙を水で再解膠した後、脱墨工程においてインク部分を浮遊分離し、さらに漂白を行い、「再生紙」として再利用するものである。しかしこの方法では、紙力が低下し、しかも新規に製紙する場合に比べて工程経費が高いという問題がある。従って、脱墨工程を経ることなしに、紙を再利用或いは再生することが可能な方法が望まれる。
【0004】
このような背景から、近年、発色状態の呈色性化合物を消色状態へ変えることのできる可消色性色素組成物を含む画像形成材料により、紙を印刷する方法について種々検討が行われている。そのような画像形成材料として、印加する熱エネルギーの制御による記録層の可逆的な透明度の変化を利用する方法(特許文献1参照)や、電子供与性をもつ発色剤と、電子受容性をもつ顕色剤との分子間相互作用を利用する方法(特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)が提案されている。
【0005】
また、特許文献5は電子線照射により消色する色素を含むインクを提案しており、特許文献6は光照射により着色剤を消色させうる作用を持つ添加剤を含有するインクを提案している。特許文献7は、紅麹色素を用いることにより、光を照射することで消色可能であるインクジェット記録装置用インク及び記録方法を提案している。
【特許文献1】特開昭63−39377号公報
【特許文献2】特開昭61−237684号公報
【特許文献3】特開平5−124360号公報
【特許文献4】特開2001−105741号公報
【特許文献5】特開平11−116864号公報
【特許文献6】特開2001−49157号公報
【特許文献7】国際公開第02/088265号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜4に記載の方法では、画像の消去に熱エネルギーを用いるため、記録媒体の材質はその熱的安定性により多大な制約を受ける。また、特許文献5に記載の方法では、電子線照射を行うため、程度が少ないとはいえ基材が劣化したり、2次X線が発生したりする恐れがある。また、特許文献6に記載の方法では、用いる添加剤は具体的には色素系増感剤であり、添加剤を着色剤の含有量に対して重量比で1/10〜10/10と多く添加するため、インクのコストが高いといった欠点がある。
【0007】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであり、印刷物に形成した画像(文字を含む)を、その印刷物を劣化させることなく、容易かつ迅速に消去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有することを特徴とする。すなわち、本発明は、色素による画像が形成され放電可能な放電空間を備えた多孔質誘電体を有する記録媒体から画像を消去する方法であって、
(a)前記多孔質誘電体の少なくとも一部に接するように放電電極を設け、前記放電電極と共に前記記録媒体の少なくとも一部を挟むように誘電電極を設ける工程と、
(b)酸化性ガスを発生し得る気体の雰囲気下で、誘電電極−放電電極間に電圧を印加することにより放電を行い酸化性ガスを発生させる工程と、
(c)前記酸化性ガスにより前記色素を酸化することによって画像を消去する工程と
を有することを特徴とする画像の消去方法に関する。
【0009】
更に、本発明は前記多孔質誘電体が沿面放電用の面を有し、
前記工程(a)において、
前記放電電極として線状電極を設け、
前記誘電電極として面状電極を前記記録媒体の面方向と平行となるように設け、
前記工程(b)において、
前記電圧が交流電圧であり、前記放電が前記沿面放電用の面上の沿面放電であることが好ましい。
【0010】
更に、本発明は前記工程(a)において、
前記誘電電極及び放電電極として面状電極を前記記録媒体の面方向と平行となるように設け、
前記工程(b)において、
前記電圧が交流電圧であり、前記放電がバリア放電であることが好ましい。
【0011】
更に、本発明は前記多孔質誘電体が、更に導電性の金属微粒子又は金属酸化物微粒子を含有していることが好ましい。
【0012】
本発明の方法では、放電電極と誘電電極間に電圧を印加することで起こる放電にともない生成する酸化性ガスにより画像を消去することにより、その印刷物を劣化させることなく、容易かつ迅速に消去することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明による画像の消去方法は、その印刷物を劣化させることなく、容易かつ迅速に消去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る画像の消去方法は、(a)前記多孔質誘電体の少なくとも一部に接するように放電電極を設け、前記放電電極と共に前記記録媒体の少なくとも一部を挟むように誘電電極を設ける工程と、(b)酸化性ガスを発生し得る気体の雰囲気下で、誘電電極−放電電極間に電圧を印加することにより放電を行い酸化性ガスを発生させる工程と、(c)前記酸化性ガスにより前記色素を酸化することによって画像を消去する工程と、を有することを特徴とする画像の消去方法とを有する。この多孔質誘電体中に形成された色素からなる画像は、放電により発生した酸化性ガスによって色素が酸化され無色化されることにより消去される。
【0015】
なお、放電電極と誘電電極は同一形状・大きさでなくても良い。また、記録媒体の放電電極と誘電電極で挟まれる部分は、記録媒体の全部であっても一部であっても良い。
【0016】
記録媒体は少なくとも一部が多孔質誘電体であれば良く、その形態としては例えば誘電体からなる基材と多孔質誘電体を有する形態や多孔質誘電体のみからなる形態を挙げることができる。また、多孔質誘電体は放電可能な放電空間を有する。
【0017】
(放電電極及び誘電電極)
放電は、放電電極と誘電電極との間で起こる。放電電極は、多孔質誘電体の少なくとも一部に接するように設けられている。ここで、「接する」とは、多孔質誘電体の一方の面上に配置する場合、多孔質誘電体内に配置する場合を表す。また、誘電電極は記録媒体内もしくは記録媒体表面に設置されているか、又は記録媒体表面に接触している。
【0018】
放電電極及び誘電電極には、以下の材料を用いることができる。即ち、銀、金、白金、ニッケル、クロム、銅、アルミニウム、チタン、亜鉛、モリブデン、タングステン等の金属又はこれらの合金、SnO2、In23、ZnO、CdO、Cd2SnO4、ITO(In23+SnO2)などの金属酸化物である。
【0019】
これらの金属、合金又は金属酸化物からなる電極を記録媒体内、もしくは記録媒体表面に形成する場合、目的とする電極の形状・大きさに応じて公知の様々な方法を用いることができる。例えば、真空蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング等の方法を用いることができる。
【0020】
放電の種類は放電電極、誘電電極の形状、放電電極と誘電電極間の距離、印加電圧などにより沿面放電、バリア放電、コロナ放電などに変化するが、その種類には特に制限はない。以下、一例として沿面放電、バリア放電を行わせることにより、画像を消去する方法を説明する。
【0021】
(沿面放電)
本発明の画像の消去方法では、放電電極を線状電極、誘電電極を面状電極とし(工程a)、誘電電極−放電電極間に交流電圧を印加することにより沿面放電を起こすことができる(工程b)。このように沿面放電を起こすことにより、酸化性ガスを沿面放電用の面上に均一に発生させることができるため、沿面放電用の面近傍に色素が分布している場合、より均一に画像を消去することができる(工程c)。
【0022】
なお、沿面放電は多孔質誘電体の沿面放電用の面で発生し例えば、多孔質誘電体が基材と接している場合、多孔質誘電体と基材の界面等で起こる。
【0023】
図1に放電電極及び誘電電極を配置した記録媒体の断面を示す。また、図6はこの記録媒体の上面図である(交流電源2は図示していない)。図1の記録媒体1では多孔質誘電体12の一方の面21に放電電極13(線状電極)の先端部が接するように(多孔質誘電体12の一方の面と放電電極13(線状電極)の先端部を構成する面が同一の面を構成するように)配置されている。
【0024】
また、基材11の他方の面には誘電電極15(面状電極)が接するように記録媒体の面方向23と平行に配置されている。そして、この放電電極−誘電電極間に交流電圧を印加することにより面21に沿って沿面放電を行わせることができる。
【0025】
なお、図1では放電電極13はその先端部が面21に接するように配置されているが、面22に接するように配置したり、多孔質誘電体12の内部に配置されていても良い。
【0026】
このように沿面放電を行う場合、記録媒体に用いる基材の種類は、紙、プラスチック、ガラス、繊維、セラミックスなど、誘電体であれば特に限定されない。記録媒体に放電電極を埋設させる方法としては、例えば真空蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング等の成膜法でマスクを用いて基材表面の所定領域に放電電極を形成し、更に放電電極を覆うように多孔質誘電体を形成させる方法が挙げられる(工程a)。
【0027】
多孔質誘電体の種類は特に限定されないが、シリカ、アルミナなどからなる無機多孔質体、およびポリマー微粒子、ポリマー繊維などからなる有機多孔質体が挙げられる。多孔質誘電体は、その内部に放電を行わせるための空間を提供することができる。この空間としては例えば、断面の穴径が10〜1000nmのものが好ましく、10〜100nmのものがより好ましい。
【0028】
放電電極は線状電極であるが、線状電極の周縁に複数の突起を設けたり、格子状としても良い。線状電極(放電電極)の先端部分の大きさは特に限定されるわけではないが、幅(図1のWに相当)0.1〜2mmであり、厚さ(図1のHに相当)が0.01〜0.2mmであることが好ましい。
【0029】
放電電極は1本の線状電極であっても複数本の線状電極であっても良いが、その近傍で発生した酸化性ガスが画像を形成している色素付近に拡散できるように設置されていることが好ましい。例えば、複数本の線状電極を設置する場合、線状電極間の間隔(図1のLに相当)は0.1〜5mmとすることができる。また、線状電極はその延在方向(図6の方向24に相当)に関して記録媒体の全長にわたって延在していることが好ましい。放電電極の寸法等がこれらの範囲内にあることによって、より効果的に沿面放電を発生させることができる。更に、放電電極と誘電電極間の距離は10〜500μmであることが好ましい。
【0030】
誘電電極は、放電電極に安定した沿面放電を誘起できる位置であれば、記録媒体(例えば、基材内部)内に設置されても、記録媒体の表面に設置されても構わず、記録媒体の表面に接触しているだけでもよい。誘電電極の厚さは0.01〜0.2mmnmであることが好ましい。
【0031】
放電電極及び誘電電極の抵抗値は、好ましくは1kΩ/sq以下、より好ましくは100Ω/sq以下である。
【0032】
印加する交流電圧は、沿面放電が発生し、かつ誘電体が絶縁破壊しない範囲のものに限られる。例えば、以下の条件の場合、印加電圧は1kV〜10kVであることが好ましい。
・放電電極:125μmのPETフィルムの一方の表面にスパッタリング等により形成した厚さ50nm、幅0.5mmの線状金電極(一本)
・誘電電極:PETフィルムの他方の表面にスパッタリングにより形成した厚さ50nmの面状金電極
・記録媒体:PETフィルムの放電電極を形成した面上に厚さ10μmのシリカからなる多孔質誘電体を形成したもの
印加する交流電圧の周波数は、沿面放電が発生する領域に限られる。例えば、以下の条件の場合、印加する交流電圧の周波数は1kHz〜100kHzであることが好ましい。
・放電電極125μmのPETフィルムの一方の表面にスパッタリングにより形成した厚さ200nm、幅0.5mmの線状ITO電極(一本)
・誘電電極:PETフィルムの他方の表面にスパッタリングにより形成した厚さ50nmの面状金電極
・記録媒体:PETフィルムの放電電極を形成した面上に厚さ10μmのシリカからなる多孔質層を形成したもの
(バリア放電)
また、本発明の他の画像の消去方法では、誘電電極及び放電電極を面状電極とし記録媒体の面方向と平行となるように設ける(工程a)。次に、この誘電電極−放電電極間に交流電圧を印加することによりバリア放電を行わせることができる(工程b)。この誘電電極−放電電極間には多孔質誘電体の少なくとも一部が挟まれていれば良い。また、多孔質誘電体の一方の面に放電電極、他方の面に誘電電極が設けられていても(多孔質誘電体の全てが放電電極と誘電電極によって挟まれていても)よい。また、多孔質誘電体内部に放電電極、誘電電極が存在しても良い(多孔質誘電体の一部が放電電極と誘電電極によって挟まれていても良い)。
【0033】
このようにバリア放電を起こすことにより、誘電電極及び放電電極で挟まれた多孔質誘電体内にのみ効果的に放電を行わせることができ、より効果的に画像消去を行うことができる(工程c)。
【0034】
図2、3及び5に放電電極及び誘電電極を配置した記録媒体の断面を示す。バリア放電を行わせる場合、放電電極14及び誘電電極15は面状電極であり、記録媒体の面方向と平行で互いに対向するように配置されている。図2の方法では放電電極14及び誘電電極15は多孔質誘電体12を挟むように設けられている。図3の方法では放電電極14及び誘電電極15は多孔質誘電体12及び基材11を挟むように、記録媒体1の両表面上に設けられている。図5の方法では記録媒体が多孔質誘電体のみからなり、この多孔質誘電体を挟むように放電電極14及び誘電電極15が設けられている。
【0035】
また、これら各記録媒体において誘電電極は接地されており、放電電極に交流電圧が印加されるようになっている。放電電極の厚さは0.1mm〜10mmであることが好ましい。また、誘電電極の厚さは0.1mm〜10mmであることが好ましい。放電電極及び誘電電極がこれらの範囲の厚さであることにより、効果的にバリア放電を発生させることができる。
【0036】
このようにバリア放電を起こす場合、記録媒体は、紙、プラスチック、ガラス、繊維、セラミックスなどの誘電体を含んでいれば良い。ただし、プラスチック、ガラスなど多孔質ではない誘電体を含む場合、その表面に多孔質誘電体を形成する必要がある。多孔質誘電体の種類は特に限定されないが、シリカ、アルミナなどからなる無機多孔質体、およびポリマー微粒子、ポリマー繊維などからなる有機多孔質体が挙げられる。この多孔質誘電体は、放電のための空間を提供することができる。
【0037】
放電電極及び誘電電極の抵抗値は、好ましくは1kΩ/sq以下、より好ましくは100Ω/sq以下である。
【0038】
印加する交流電圧は、バリア放電が発生し、かつ誘電体が絶縁破壊しない領域に限られる。例えば125μmのPETフィルムの一方の表面にスパッタリングにより形成した厚さ50nmの面状金電極を放電電極とし、PETフィルムの放電電極を形成した面上に厚さ10μmのシリカからなる多孔質誘電体を形成し、厚さ1mmのガラスの表面にスパッタリングにより形成した厚さ50nmの面状金電極を誘電電極として多孔質誘電体の放電電極が形成された表面と反対側の表面に接触させた場合、印加電圧は500V〜10kVが好ましい。
【0039】
印加する交流電圧の周波数は、バリア放電が発生する領域に限られる。例えば125μmのPETフィルムの一方の表面にスパッタリングにより形成した厚さ50nmの面状金電極を放電電極とし、PETフィルムの放電電極を形成した面上に厚さ10μmのシリカからなる多孔質誘電体を形成し、厚さ1mmのガラスの表面にスパッタリングにより形成した厚さ50nmの面状金電極を誘電電極として多孔質誘電体の放電電極が形成された表面と反対側の表面に接触させた場合、印加する交流電圧の周波数は10Hz〜10kHzが好ましい。
【0040】
(金属微粒子、金属酸化物粒子)
本発明の多孔質誘電体は導電性の金属微粒子を含有することも可能である。この場合、電圧を印加する電極間のみならず、金属微粒子間もしくは金属酸化物微粒子間、又は金属微粒子間もしくは金属酸化物微粒子と電極間でも放電が誘発され、効果的に色素の消色を行うことができる。図4に放電電極及び誘電電極を配置し、金属微粒子間又は金属酸化物微粒子を含む多孔質誘電体を備えた記録媒体の断面を示す。
【0041】
金属微粒子の種類は、導電性を有するものであれば特に限定されず、白金、パラジウム、ルテニウム等の白金族元素、金、銀、銅、クロム、タンタル、鉄、タングステン、鉛、亜鉛、スズ等を用いることができる。また、これらを2つ以上組み合わせて使用することも可能である。
【0042】
金属酸化物微粒子の種類は、導電性を有するものであれば特に限定さない。例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化ビスマス、スズ等をドープした酸化インジウム、アンチモンをドープした酸化スズ、酸化ジルコニウム等を用いることができる。また、これらを2つ以上組み合わせて使用することも可能である。
【0043】
これらの粒子(金属微粒子、金属酸化物粒子)の粒子径は100nm〜10μmであることが好ましく、100nm〜1μmであることがより好ましい。なお、この場合の粒径は以下の方法により測定する。測定装置としては、コールターカウンターTA−IIあるいはコールターマルチサイザーII(コールター社製)を用いる。電解液は、1級塩化ナトリウムを用いて、約1%NaCl水溶液を調製する。例えば、ISOTON−II(コールターサイエンティフィックジャパン社製)が使用できる。
【0044】
(酸化性ガス)
本発明の酸化性ガスは、酸化性ガスを発生し得る気体の雰囲気下で、放電によって発生するものである。酸化性ガスを発生し得る気体としては、空気、酸素、窒素、二酸化炭素、水蒸気などを挙げることができる。必要に応じてこれらの気体の2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、酸化性ガスは、電離/解離ガス及びその二次性生物であるのが好ましい。この二次生成物としてはオゾン、ヒドロキシルラジカル、炭酸イオン及び窒素酸化物からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【0045】
(色素)
本発明の色素は、酸化性ガスを発生し得る気体の雰囲気下で、放電を行うことにより発生する酸化性ガスにより酸化されるものである。この酸化により色素は無色化され、画像が消色される。色素は、酸化性ガスにより酸化されるものであれば特に限定されないが、下記一般式(1)で表されるアザフィロン系化合物又は下記一般式(2)で表されるキサントモナシン類化合物、トウガラシ色素、クチナシ色素を用いるのが好ましい。
【0046】
【化1】

上記一般式(1)中、R1は炭素数2〜10のアルキル基を表し、好ましくは炭素数5〜7のアルキル基、特に好ましくはC715又はC511を表す。R2は水素原子又は一級アミンの側鎖になり得る基であれば特に限定されない。アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基などが挙げられ、置換アルキル基としては、1−カルボニル基、1−カルボニルエチル基等のアミノ酸由来の置換アルキル基が挙げられる。
【0047】
【化2】

上記一般式(2)中、R3は炭素数2〜10のアルキル基を表し、好ましくは炭素数5〜7のアルキル基、特に好ましくはC715又はC511を表す。なお、本化合物は水溶液中で平衡状態にあるが、いずれの形態も本発明の色素に含まれる。
【0048】
これらの色素は単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。なお、例えば、一般式(1)の化合物はペニシリウム属糸状菌により、一般式(2)の化合物は紅麹菌により生産することができるが、合成品又は半合成品のいずれであっても良い。
【0049】
(画像形成方法)
記録媒体に画像を形成する方法としては、インクをインクジェット方式によって記録する方法が最も適しているが、ペン、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、電子写真方式などでも構わない。インクとしては、上記のような色素を水や有機溶媒に溶解、分散、或いは溶解及び分散させることにより調整することができる。インク中には必要に応じて結合剤、粘度調整剤、浸透剤、表面張力調整剤、酸化防止剤等を添加することができる。
【実施例】
【0050】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0051】
(塗工液の作成例1)
ポバール(商品名:SMR−10H、信越化学工業株式会社製)の10wt%水溶液を作成した。これとシリカゾル(商品名:スノーテックスPS−M、日産化学工業株式会社製)とを重量比で18:82になるように混合し、1時間撹拌して塗工液1を得た。
【0052】
(塗工液の作成例2)
ポバール(商品名:SMR−10H、信越化学工業株式会社製)の10wt%水溶液を作成した。これとシリカゾル(商品名:スノーテックスPS−M、日産化学工業株式会社製)とを重量比で18:82になるように混合した。この塗工液にさらに、粒径100nmの金微粒子を上記混合液中に0.1wt%となるよう添加し、1時間撹拌して塗工液2を得た。
【0053】
(面状電極の作成例)
厚さ125μmのPETフィルムの片面に厚さ50nmの面状金電極(放電電極、誘電電極)をスパッタリングにより形成し、電極1を得た。
【0054】
(記録媒体の作成例1)
厚さ125μmのPETフィルムの一方の面に、幅0.5mmのマスクを用いて厚さ50nmの線状金電極(放電電極)(一本)をスパッタリングにより形成した。このPETフィルムの他方の面に厚さ50nmの面状金電極(誘電電極)をスパッタリングにより形成し、放電体1を得た。
【0055】
放電体1のうち、線状金電極を形成した側の面に塗工液1を55g/m2の厚さで塗工し、80℃で10分間乾燥して記録媒体1を得た。乾燥後の塗工層は10g/m2であった。塗工液を塗工した側を表とした。
【0056】
(記録媒体の作成例2)
厚さ125μmのPETフィルムの片面に厚さ50nmの面状金電極(放電電極)をスパッタリングにより形成し、放電体2を得た。
【0057】
放電体2のうち、面状金電極を形成した側の面に塗工液1を55g/m2の厚さで塗工し、80℃で10分間乾燥して記録媒体2を得た。乾燥後の塗工層は10g/m2であった。塗工液を塗工した側を表とした。
【0058】
(記録媒体の作成例3)
厚さ125μmのPETフィルムの片面に塗工液1を55g/m2の厚さで塗工し、80℃で10分間乾燥して記録媒体3を得た。乾燥後の塗工層は10g/m2であった。塗工液を塗工した側を表とした。
【0059】
(記録媒体の作成例4)
塗工液1の代わりに塗工液2を用いた以外は、記録媒体の作成例2と同様の方法により記録媒体4を得た。塗工液を塗工した側を表とした。
【0060】
(記録媒体の作成例5)
インクジェット用普通紙(商品名:両面上質普通紙、セイコーエプソン株式会社製)の片面に厚さ50nmの面状金電極(誘電電極)をスパッタリングにより形成し、記録媒体5を得た。面状金電極をスパッタリングしていない面を表とした。
【0061】
(インクの作成例)
500mlの坂口フラスコに、以下の培地を入れ、pH6.5に調節した後、120℃で20分間加圧滅菌を行った。
・100mlの麦芽酵母エキス(Yeast−Malt(YM))培地[グルコース1質量%、酵母エキス(Difco Laboratories, Inc.製)0.3質量%、麦芽エキス(Difco Laboratories, Inc.製)0.3質量%、バクトペプトン(Difco Laboratories, Inc.製)0.5質量%及び残部純水からなる培地]
冷却後、YM寒天培地で斜面培養した紅麹菌(モナスカス・パープレウス)〔Monascus purpureus WENT.;独立行政法人製品評価技術基盤機構・生物遺伝資源センター(NBRC)のカタログ番号NBRC4478〕を一白金耳接種し、30℃で2日間振盪培養を行い、種菌液を得た。
【0062】
一方、1Lガラスジャーに、上記と同じYM培地450mlを入れ、120℃で20分間加圧滅菌を行い、冷却後、上記種菌液を10%(v/v)植菌した。pH調整剤として酢酸を使用し、培養開始時から培養液のpHを4.0に保ちながら、30℃で7日間通気攪拌培養を行った。
【0063】
得られた培養液を遠心分離機にかけて(9000rpm、10min)、上澄み液と菌体に分離した。得られた色素含有湿菌体を凍結乾燥して水分量を求めたところ75.6質量%であった。
【0064】
得られた湿菌体400gに酢酸エチル10Lを加え、1時間攪拌した後、ろ紙でろ過してろ液と菌体に分離した。ろ液から水層を除去して酢酸エチル層を得た。得られた酢酸エチル抽出液に等量の水を加え、2回洗浄した。洗浄後の酢酸エチル抽出液を濃縮乾固し、モナスコルブリン及びルブロパンクタチンを含有する赤橙色色素を得た。
【0065】
得られた赤橙色色素10.8gにアセトニトリルを添加し、2095mlの赤橙色色素含有アセトニトリル溶液を得た。これに等量のグルタミン酸1ナトリウム水溶液(30mg/ml)を添加して攪拌しながら室温で3日間反応させた後、濃縮乾固して水溶性色素を得た。この色素を用い、色素/グリセリン/ジエチレングリコール/アセチレノール/水=2.5/7.5/7.5/0.1/82.4(質量比)となるように混合し、十分攪拌して溶解した後、ポアサイズが0.45μmのフロロポアフィルター[商品名:住友電工(株)製]により加圧ろ過し、インク1を調製した。
【0066】
(画像の作成例)
インク1をインクジェットプリンタ(商品名:BJS600、キヤノン株式会社製)に搭載し、記録媒体1〜5の表面に20mm×20nmのベタ印字を行った。印字された画像を目視により観察したところ、記録媒体1〜5の何れの記録媒体に記録した画像も良好であった。
【0067】
(実施例1)
記録媒体1の誘電電極をアースし、放電電極に2kV、1kHzの交流電圧を印加し、放電を行わせた。
【0068】
(実施例2)
記録媒体2の放電電極を設けていない側の面に電極1を接触させ、電極1(誘電電極)と記録媒体2に設置された放電電極との間に1kV、50Hzの交流電圧を印加し、放電を行わせた。
【0069】
(実施例3)
記録媒体3の両面に電極1(放電電極、誘電電極)をそれぞれ接触させ、2枚の電極1との間に5kV、50Hzの交流電圧を印加し、放電を行わせた。
【0070】
(実施例4)
記録媒体4の放電電極を設けていない側の面に電極1(誘電電極)を接触させ、電極1と記録媒体4に設置された放電電極との間に1kV、50Hzの交流電圧を印加し、放電を行わせた。
【0071】
(実施例5)
記録媒体5のおもて面に電極1(放電電極)を接触させ、電極1と記録媒体5の裏面に設置された誘電電極との間に1kV、50Hzの交流電圧を印加し、放電を行わせた。
【0072】
なお、実施例1〜4では塗工液を塗布、乾燥後の層、実施例5ではインクジェット用普通紙が多孔質誘電体となる。また、酸化性ガスを発生し得る気体は空気となる。実施例1〜5で放電処理した印刷物について、放電処理前後での印字の光学濃度をカラー透過・反射濃度計(商品名「X−Rite 310TR」、X−Rite,Inc.製)により測定し、放電処理前の光学濃度に対する放電処理後の光学濃度(光学濃度残率)を調べた。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

表1の結果より何れの記録媒体を用いた場合でも、本発明の方法を用いることにより、画像が良好に消去されていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の記録媒体の一実施例を示す概略側面図である。
【図2】本発明の記録媒体の別の実施例を示す概略側面図である。
【図3】本発明の記録媒体の更に別の実施例を示す概略側面図である。
【図4】本発明の記録媒体の更に別の実施例を示す概略側面図である。
【図5】本発明の記録媒体の更に別の実施例を示す概略側面図である。
【図6】図1の記録媒体の概略上面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 記録媒体
11 基材
12 多孔質体
13 線状放電電極
14 面状放電電極
15 誘電電極
16 金属微粒子または金属酸化物微粒子
2 交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素による画像が形成され放電可能な放電空間を備えた多孔質誘電体を有する記録媒体から画像を消去する方法であって、
(a)前記多孔質誘電体の少なくとも一部に接するように放電電極を設け、前記放電電極と共に前記記録媒体の少なくとも一部を挟むように誘電電極を設ける工程と、
(b)酸化性ガスを発生し得る気体の雰囲気下で、誘電電極−放電電極間に電圧を印加することにより放電を行い酸化性ガスを発生させる工程と、
(c)前記酸化性ガスにより前記色素を酸化することによって画像を消去する工程と
を有することを特徴とする画像の消去方法。
【請求項2】
前記多孔質誘電体が沿面放電用の面を有し、
前記工程(a)において、
前記放電電極として線状電極を設け、
前記誘電電極として面状電極を前記記録媒体の面方向と平行となるように設け、
前記工程(b)において、
前記電圧が交流電圧であり、前記放電が前記沿面放電用の面上の沿面放電であることを特徴とする請求項1に記載の画像の消去方法。
【請求項3】
前記工程(a)において、
前記誘電電極及び放電電極として面状電極を前記記録媒体の面方向と平行となるように設け、
前記工程(b)において、
前記電圧が交流電圧であり、前記放電がバリア放電であることを特徴とする請求項1に記載の画像の消去方法。
【請求項4】
前記多孔質誘電体が、更に導電性の金属微粒子又は金属酸化物微粒子を含有していることを特徴とする請求項3に記載の画像の消去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−69510(P2007−69510A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−260544(P2005−260544)
【出願日】平成17年9月8日(2005.9.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】