説明

画像処理方法、画像処理装置、撮像装置、および、画像処理プログラム

【課題】画像回復処理に必要な情報量を低減しつつ、高精度な画像回復処理を実行可能な画像処理方法を提供する。
【解決手段】撮影画像の画像回復処理を行う画像処理方法であって、撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する工程と、第1の光学伝達関数を撮影画像の中心または撮像光学系の光軸の周りに回転させて複数の第2の光学伝達関数を生成する工程と、第1の光学伝達関数および前記第2の光学伝達関数に基づいて画像回復フィルタを生成する工程と、画像回復フィルタを用いて撮影画像の画像回復処理を行う工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影画像の画像回復処理を行う画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
撮像装置により得られた撮影画像は、撮像光学系の球面収差、コマ収差、像面湾曲、非点収差等の各収差の影響によりぼけ成分を含み、劣化している。このような収差による画像のぼけ成分は、無収差で回折の影響もない場合に、被写体の一点から発した光束が撮像面上で再度一点に集まるべきものが広がっていることを意味しており、点像分布関数PSF(Point Spread Function)で表される。
【0003】
点像分布関数PSFをフーリエ変換して得られる光学伝達関数OTF(Optical Transfer Function)は、収差の周波数成分情報であり、複素数で表される。光学伝達関数OTFの絶対値、すなわち振幅成分をMTF(Modulation Transfer Function)と呼び、位相成分をPTF(Phase Transfer Function)と呼ぶ。振幅成分MTFおよび位相成分PTFはそれぞれ、収差による画像劣化の振幅成分および位相成分の周波数特性であり、位相成分を位相角として以下の式で表される。
【0004】
PTF=tan−1(Im(OTF)/Re(OTF))
ここで、Re(OTF)およびIm(OTF)はそれぞれ、光学伝達関数OTFの実部および虚部を表す。このように、撮像光学系の光学伝達関数OTFは、画像の振幅成分MTFと位相成分PTFに劣化を与えるため、劣化画像は被写体の各点がコマ収差のように非対称にぼけた状態になっている。また倍率色収差は、光の波長ごとの結像倍率の相違により結像位置がずれ、これを撮像装置の分光特性に応じて例えばRGBの色成分として取得することで発生する。従って、RGB間で結像位置がずれ、各色成分内にも波長ごとの結像位置のずれ、すなわち位相ずれによる像の広がりが発生する。
【0005】
振幅成分MTFおよび位相成分PTFの劣化を補正する方法として、撮像光学系の光学伝達関数OTFの情報を用いて補正するものが知られている。この方法は、画像回復や画像復元という言葉で呼ばれており、以下、撮像光学系の光学伝達関数(OTF)の情報を用いて撮影画像の劣化を補正する処理を画像回復処理という。詳細は後述するが、画像回復の方法のひとつとして、光学伝達関数(OTF)の逆特性を有する画像回復フィルタを入力画像に対して畳み込む(コンボリューション)方法が知られている。
【0006】
画像回復を効果的に用いるためには、撮像光学系のより正確なOTF情報を得る必要がある。一般的な撮像光学系のOTFは、像高(画像の位置)によって大きく変動する。また光学伝達関数OTFは2次元データであり、複素数であるため実部と虚部を有する。また、RGBの3つの色成分を有するカラー画像を対象とした画像回復処理を行う場合、一つの像高のOTFデータは、縦方向のタップ数×横方向のタップ数×2(実部、虚部)×3(RGB)となる。ここで、タップ数とはOTFデータの縦横のサイズである。これらを、像高、Fナンバー(絞り値)、ズーム(焦点距離)、撮影距離など全ての撮影条件について保持すると、膨大なデータ量となる。
【0007】
特許文献1には、撮影画像の劣化を補正するためのフィルタ係数を保持して画像処理を行う技術が開示されている。ところが、画面内の位置に応じた回復フィルタを必要とするため、データ量が膨大になる。特許文献2には、画像回復の技術ではないが、倍率色収差を補正するために光学中心からの距離を求め、これを3次関数に代入することでRおよびB成分の補正移動量を算出して、画面内の位置に応じた補正量を決定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−56992号公報
【特許文献2】特開2004−241991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、画像回復フィルタは2次元データであるため、画像の位置に応じた画像回復フィルタは、光学中心(撮影画像の中心または撮像光学系の光軸)からの距離だけでは決定されず、回転を必要とする。そのため、特許文献2の方法を画像回復処理に適用することはできない。また、画像回復フィルタの係数はタップ間で細かく変動しているため、画像の位置に応じた回転を行うと、フィルタ係数の値が大きく崩れ、画像回復処理の効果が得られない。
【0010】
そこで本発明は、画像回復処理に必要な情報量を低減しつつ、高精度な画像回復処理を実行可能な画像処理方法、画像処理装置、撮像装置、および、画像処理プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面としての画像処理方法は、撮影画像の画像回復処理を行う画像処理方法であって、前記撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、前記撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する工程と、前記第1の光学伝達関数を前記撮影画像の中心または前記撮像光学系の光軸の周りに回転させて複数の第2の光学伝達関数を生成する工程と、前記第1の光学伝達関数および前記第2の光学伝達関数に基づいて画像回復フィルタを生成する工程と、前記画像回復フィルタを用いて前記撮影画像の画像回復処理を行う工程とを有する。
【0012】
本発明の他の側面としての画像処理装置は、撮影画像の画像回復処理を行う画像処理装置であって、前記撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、前記撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する第1の光学伝達関数生成手段と、前記第1の光学伝達関数を前記撮影画像の中心または前記撮像光学系の光軸の周りに回転させて複数の第2の光学伝達関数を生成する第2の光学伝達関数生成手段と、前記第1の光学伝達関数および前記第2の光学伝達関数に基づいて画像回復フィルタを生成する画像回復フィルタ生成手段と、前記画像回復フィルタを用いて前記撮影画像の画像回復処理を行う画像回復手段とを有する。
【0013】
本発明の他の側面としての撮像装置は、撮影画像の画像回復処理を行う撮像装置であって、前記撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、前記撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する第1の光学伝達関数生成手段と、前記第1の光学伝達関数を前記撮影画像の中心または前記撮像光学系の光軸の周りに回転させて複数の第2の光学伝達関数を生成する第2の光学伝達関数生成手段と、前記第1の光学伝達関数および前記第2の光学伝達関数に基づいて画像回復フィルタを生成する画像回復フィルタ生成手段と、前記画像回復フィルタを用いて前記撮影画像の画像回復処理を行う画像回復手段とを有する。
【0014】
本発明の他の側面としての画像処理プログラムは、撮影画像の画像回復処理を行う画像処理プログラムであって、前記撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、前記撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する工程と、前記第1の光学伝達関数を前記撮影画像の中心または前記撮像光学系の光軸の周りに回転させて複数の第2の光学伝達関数を生成する工程と、前記第1の光学伝達関数および前記第2の光学伝達関数に基づいて画像回復フィルタを生成する工程と、前記画像回復フィルタを用いて前記撮影画像の画像回復処理を行う工程とを情報処理装置に実行させる。
【0015】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、画像回復処理に必要な情報量を低減しつつ、高精度な画像回復処理を実行可能な画像処理方法、画像処理装置、撮像装置、および、画像処理プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1における画像処理方法のフローチャートである。
【図2】本実施例における画像回復フィルタの説明図である。
【図3】本実施例における画像回復フィルタの説明図である。
【図4】本実施例における点像分布関数PSFの説明図である。
【図5】本実施例における光学伝達関数の振幅成分MTFと位相成分PTFの説明図である。
【図6】実施例1における画像回復フィルタの生成方法を示す図である。
【図7】実施例1における画像処理システムの説明図である。
【図8】実施例1における係数算出装置の説明図である。
【図9】実施例1における係数データの説明図である。
【図10】実施例1におけるタップ数と周波数ピッチの説明図である。
【図11】実施例1におけるタップ数と周波数ピッチの説明図である。
【図12】実施例1におけるOTF再構成部の説明図である。
【図13】実施例1における再構成OTFの説明図である。
【図14】実施例1における別の画像処理方法のフローチャートである。
【図15】実施例2における撮像装置の構成図である。
【図16】実施例3における画像処理システムの構成図である。
【図17】実施例3における情報セットの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
まず、本実施例で説明される用語の定義および画像回復処理(画像処理方法)について説明する。ここで説明される画像処理方法は、後述の各実施例において適宜用いられる。
[入力画像]
入力画像は、撮像光学系を介して撮像素子で受光することで得られたデジタル画像(撮影画像)であり、レンズと各種の光学フィルタ類を含む撮像光学系の収差による光学伝達関数OTFにより劣化している。撮像光学系は、レンズだけでなく曲率を有するミラー(反射面)を用いて構成することもできる。
【0020】
入力画像の色成分は、例えばRGB色成分の情報を有する。色成分としては、これ以外にもLCHで表現される明度、色相、彩度や、YCbCrで表現される輝度、色差信号など一般に用いられている色空間を選択して用いることができる。その他の色空間として、XYZ、Lab、Yuv、JChを用いることが可能である。更に、色温度を用いてもよい。
【0021】
入力画像や出力画像には、レンズの焦点距離、絞り値、撮影距離などの撮影条件や、この画像を補正するための各種の補正情報を付帯することができる。撮像装置から別の画像処理装置に画像を受け渡して補正処理を行う場合、上述のように撮影画像に撮影条件や補正に関する情報を付帯することが好ましい。撮影条件や補正に関する情報の他の受け渡し方法として、撮像装置と画像処理装置を直接または間接的に接続して受け渡すようにしてもよい。
[画像回復処理]
続いて、画像回復処理の概要について説明する。撮影画像(劣化画像)をg(x,y)、もとの画像をf(x,y)、光学伝達関数OTFのフーリエペアである点像分布関数PSFをh(x,y)としたとき、以下の式(1)が成立する。
【0022】
g(x,y)=h(x,y)*f(x,y) … (1)
ここで、*はコンボリューション(畳み込み積分、積和)、(x,y)は撮影画像上の座標である。
【0023】
また、式(1)をフーリエ変換して周波数面での表示形式に変換すると、周波数ごとの積で表される式(2)が得られる。
【0024】
G(u,v)=H(u,v)・F(u,v) … (2)
ここで、Hは点像分布関数PSF(h)をフーリエ変換することにより得られた光学伝達関数OTFであり、G,Fはそれぞれ劣化した画像g、もとの画像fをフーリエ変換して得られた関数である。(u,v)は2次元周波数面での座標、すなわち周波数である。
【0025】
撮影された劣化画像gからもとの画像fを得るには、以下の式(3)のように両辺を光学伝達関数Hで除算すればよい。
【0026】
G(u,v)/H(u,v)=F(u,v) … (3)
そして、F(u,v)、すなわちG(u,v)/H(u,v)を逆フーリエ変換して実面に戻すことにより、もとの画像f(x,y)が回復画像として得られる。
【0027】
−1を逆フーリエ変換したものをRとすると、以下の式(4)のように実面での画像に対するコンボリューション処理を行うことで、同様にもとの画像f(x,y)を得ることができる。
【0028】
g(x,y)*R(x,y)=f(x,y) … (4)
ここで、R(x,y)は画像回復フィルタと呼ばれる。画像が2次元画像である場合、一般的に、画像回復フィルタRも画像の各画素に対応したタップ(セル)を有する2次元フィルタとなる。また、画像回復フィルタRのタップ数(セルの数)は、一般的に多いほど回復精度が向上する。このため、要求画質、画像処理能力、収差の特性等に応じて実現可能なタップ数が設定される。画像回復フィルタRは、少なくとも収差の特性を反映している必要があるため、従来の水平垂直各3タップ程度のエッジ強調フィルタ(ハイパスフィルタ)などとは異なる。画像回復フィルタRは光学伝達関数OTFに基づいて設定されるため、振幅成分および位相成分の劣化の両方を高精度に補正することができる。
【0029】
また、実際の画像にはノイズ成分が含まれるため、上記のように光学伝達関数OTFの完全な逆数をとって作成した画像回復フィルタRを用いると、劣化画像の回復とともにノイズ成分が大幅に増幅されてしまう。これは、画像の振幅成分にノイズの振幅が付加されている状態に対して、光学系のMTF(振幅成分)を全周波数に渡って1に戻すようにMTFを持ち上げるためである。光学系による振幅劣化であるMTFは1に戻るが、同時にノイズのパワースペクトルも持ち上がってしまい、結果的にMTFを持ち上げる度合(回復ゲイン)に応じてノイズが増幅されてしまう。
【0030】
したがって、ノイズが含まれる場合には、鑑賞用画像としては良好な画像は得られない。このことは、以下の式(5−1)、(5−2)で表される。
【0031】
G(u,v)=H(u,v)・F(u,v)+N(u,v) … (5−1)
G(u,v)/H(u,v)=F(u,v)+N(u,v)/H(u,v) … (5−2)
ここで、Nはノイズ成分である。
【0032】
ノイズ成分が含まれる画像に関しては、例えば以下の式(6)で表されるウィナーフィルタのように、画像信号とノイズ信号の強度比SNRに応じて回復度合を制御する方法がある。
【0033】
【数1】

【0034】
ここで、M(u,v)はウィナーフィルタの周波数特性、|H(u,v)|は光学伝達関数OTFの絶対値(MTF)である。この方法では、周波数ごとに、MTFが小さいほど回復ゲイン(回復度合)を小さくし、MTFが大きいほど回復ゲインを大きくする。一般的に、撮像光学系のMTFは低周波側が高く高周波側が低くなるため、この方法では、実質的に画像の高周波側の回復ゲインを低減することになる。
【0035】
続いて、図2および図3を参照して、画像回復フィルタについて説明する。画像回復フィルタは、撮像光学系の収差特性や要求される回復精度に応じてそのタップ数が決定される。図2の画像回復フィルタは、一例として、11×11タップの2次元フィルタである。また図2では、各タップ内の値(係数)を省略しているが、この画像回復フィルタの一断面を図3に示す。画像回復フィルタの各タップの値(係数値)の分布は、収差により空間的に広がった信号値(PSF)を、理想的には元の1点に戻す機能を有する。
【0036】
画像回復フィルタの各タップは、画像の各画素に対応して画像回復処理の工程でコンボリューション処理(畳み込み積分、積和)される。コンボリューション処理では、所定の画素の信号値を改善するために、その画素を画像回復フィルタの中心と一致させる。そして、画像と画像回復フィルタの対応画素ごとに画像の信号値とフィルタの係数値の積をとり、その総和を中心画素の信号値として置き換える。
【0037】
続いて、図4および図5を参照して、画像回復の実空間と周波数空間での特性について説明する。図4は、点像分布関数PSFの説明図であり、図4(a)は画像回復前の点像分布関数PSF、図4(b)は画像回復後の点像分布関数PSFを示している。図5は、光学伝達関数OTFの振幅成分MTF(図5(a))と位相成分PTF(図5(b))の説明図である。図5(a)中の破線(A)は画像回復前のMTF、一点鎖線(B)は画像回復後のMTFを示す。また図5(b)中の破線(A)は画像回復前のPTF、一点鎖線(B)は画像回復後のPTFを示す。図4(a)に示されるように、画像回復前の点像分布関数PSFは、非対称な広がりを有し、この非対称性により位相成分PTFは周波数に対して非直線的な値を有する。画像回復処理は、振幅成分MTFを増幅し、位相成分PTFがゼロになるように補正するため、画像回復後の点像分布関数PSFは対称で先鋭な形状になる。
【0038】
このように画像回復フィルタは、撮像光学系の光学伝達関数OTFの逆関数に基づいて設計された関数を逆フーリエ変換して得ることができる。本実施例で用いられる画像回復フィルタは適宜変更可能であり、例えば上述のようなウィナーフィルタを用いることができる。ウィナーフィルタを用いる場合、式(6)を逆フーリエ変換することで、実際に画像に畳み込む実空間の画像回復フィルタを作成することが可能である。また、光学伝達関数OTFは1つの撮影状態においても撮像光学系の像高(画像の位置)に応じて変化する。このため、画像回復フィルタは像高に応じて変更して用いられる。
【実施例1】
【0039】
次に、図1を参照して、本発明の実施例1における画像処理方法について説明する。図1は、本実施例における画像処理方法(画像処理プログラム)のフローチャートである。図1のフローチャートは、後述の画像処理装置の指令に基づいて実行される。
【0040】
まずステップS11において、撮影画像を入力画像として取得する。撮影画像は、撮像装置と画像処理装置を有線または無線で接続して取得することができる。また撮影画像は、記憶媒体を介して取得することもできる。続いてステップS12において、撮影条件を取得する。撮影条件は、焦点距離、絞り値、および、撮影距離等である。また、レンズがカメラ本体に交換可能に装着される撮像装置の場合、撮像条件は更にレンズIDやカメラIDを含む。撮影条件に関する情報は、撮像装置から直接取得することができる。またこの情報は、画像に付帯された情報から取得することもできる。
【0041】
次にステップS13において、撮影条件に適した係数データを取得する。係数データは、光学伝達関数OTFを再構成するためのデータであり、例えば、撮影条件に応じて予め保持された複数の係数データから所望の係数データが選択される。また、絞り、撮影距離、および、ズームレンズの焦点距離などの撮影条件が特定の撮影条件の場合、その撮影条件に対応する係数データを、予め保持されている他の撮影条件の係数データから補間処理により生成することもできる。この場合、保持する画像回復フィルタのデータ量を低減することが可能である。補間処理としては、例えばバイリニア補間(線形補間)やバイキュービック補間等が用いられるが、これに限定されるものではない。続いてステップS14において、係数データから光学伝達関数OTFを再構成する。すなわち、撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する。第1の光学伝達関数の生成は、第1の光学伝達関数生成手段により行われる。なお、撮像光学系は、撮像素子や光学ローパスフィルタなどを含んでもよい。光学伝達関数OTFの再構成の詳細については後述する。
【0042】
次にステップS15において、再構成された光学伝達関数OTFを画面中心(撮影画像の中心)または撮像光学系の光軸の周りに回転させて光学伝達関数OTFを展開する(第2の光学伝達関数生成手段)。具体的には、画素配列に対応して光学伝達関数OTFを補間することで、光学伝達関数OTFを撮影画像内の複数の位置に離散的に配置する。次にステップS16において、光学伝達関数OTFを画像回復フィルタに変換する、すなわち展開された光学伝達関数OTFを用いて画像回復フィルタを生成する(画像回復フィルタ生成手段)。画像回復フィルタは、光学伝達関数OTFに基づいて周波数空間での回復フィルタ特性を作成し、逆フーリエ変換により実空間のフィルタ(画像回復フィルタ)に変換することにより生成される。
【0043】
ここで図6(a)〜(e)を参照して、ステップS15、S16について詳述する。図6(a)〜(e)は、画像回復フィルタの生成方法を示す図である。図6(a)に示されるように、再構成された光学伝達関数OTFは、画面中心(撮影画像の中心)または撮像光学系の光軸を通る一方向(垂直方向)に、画像の外接円の領域(撮像領域)に配置されている。
【0044】
本実施例においては、ステップS14において、図6(a)に示すように、直線上に光学伝達関数を展開したがこれに限られない。例えば、撮影画像面内において、撮影画像の中心を通り互いに直交する直線を第1の直線(図6(a)のy)と第2の直線(図6(a)のx)とする。このとき、ステップS14において生成された光学伝達関数のうち少なくとも2つの光学伝達関数が、第1の直線の直線上の位置(像高)に対応する光学伝達関数であればよい。即ち、再構成された光学伝達関数OTFは、画面中心または撮像光学系の光軸から所定の方向に互いに異なる距離で配列された複数の位置(撮影画像内の複数の位置)に配置されていれば、一方向に直線的に配列されていなくてもよい。なお、撮影画像の中心を含む画素がない場合、即ち、画素と画素の間に撮影画像の中心がある場合、ステップS14において生成される光学伝達関数は、第1の直線を挟む画素の位置(像高)に対応する光学伝達関数であればよい。
【0045】
また、光学伝達関数OTFを一方向に配列する場合には、垂直方向に限定されるものではなく水平方向など他の方向に配列してもよい。光学伝達関数OTFを垂直方向または水平方向のいずれかに直線的に配列すると、本実施例の画像処理がより容易に行えるため、より好ましい。
【0046】
続いて、再構成された光学伝達関数OTFを回転させ、必要に応じて補間処理(回転後の画素配列に応じた各種処理)を行い、図6(b)に示されるように光学伝達関数OTFを再配置する。補間処理は、放射方向の補間処理と回転に伴う補間処理を含み、光学伝達関数OTFを任意の位置に再配置することができる。次に、各位置の光学伝達関数OTFについて、例えば式(6)のように画像回復フィルタの周波数特性を計算して逆フーリエ変換を行うことで、図6(c)に示されるように実空間の画像回復フィルタへの変換を行う。
【0047】
本実施例の撮像光学系は回転対称の光学系である。このため、その対称性を利用し、光学伝達関数OTFを図6(d)に示されるように反転して、画面全域(光学伝達関数の定義域全体)に展開することができる。即ち、撮影画像において、撮影画像の中心を通り互いに直交する直線を第1の直線(図6(a)中のy)と第2の直線(図6(a)中のx)とする。撮影画像の中心または撮像光学系の光軸に対して、撮影画像の第1領域(図6(c)中の63)と点対称な領域を第2領域(図6(c)中の61)、第1の領域と第1の直線に対して線対称な領域を第3領域(図6(c)の62)とする。このとき、第1領域の光学伝達関数を用いて、第2領域または第3領域の光学伝達関数を生成する。これにより、フーリエ変換処理が最終的に再配置する位置の略1/4に低減される。また、図6(b)の光学伝達関数OTFおよび図6(c)の画像回復フィルタを図6(e)に示されるように回転および補間処理により再配置し、その対称性を用いて図6(d)に示されるように展開すれば、さらにフーリエ変換処理を低減することができる。なお、図6(a)〜(e)に示される配置(回復フィルタの配置密度)は一例であり、撮像光学系の光学伝達関数OTFの変動に応じて配置間隔を任意に設定することができる。
【0048】
次に、図1中のステップS17において、ステップS16で生成された画像回復フィルタを用いて撮影画像の画像回復処理を行う(画像回復手段)。すなわち、撮影画像に画像回復フィルタをコンボリューション(畳み込み)することで、撮影画像の画像回復処理を行う。そしてステップS18において、ステップS17での画像回復処理の結果から、回復画像を取得する。
【0049】
なお、画像回復フィルタのコンボリューションの際に、図6(d)の画像回復フィルタが配置されている位置以外の画素は、近傍に配置された複数のフィルタを用いて補間生成することもできる。このとき、画像回復フィルタは、撮影画像の第1の位置における第1の画像回復フィルタ、および、撮影画像の第2の位置における第2の画像回復フィルタを有する。第1の画像回復フィルタは、展開された光学伝達関数を用いて生成される。第2の画像回復フィルタは、第1の画像回復フィルタを用いて補間することにより生成される。このような補間処理を行うことで、例えば1画素ごとに画像回復フィルタを変更することが可能となる。
【0050】
次に、図7を参照して、上述の画像処理方法を行う画像処理装置を備えた画像処理システムについて説明する。図7は、本実施例における画像処理システム100の説明図である。画像処理システム100は、係数算出装置101、カメラ110(撮像装置)、および、画像回復処理装置120(画像処理装置)を備えて構成される。
【0051】
係数算出装置101は、撮影画像の撮影条件に応じて、光学伝達関数OTFを再構成するための係数データを算出する。係数算出装置101は、撮像光学系の設計値または測定値から光学伝達関数OTFを算出する処理を行う。係数算出装置101は、光学伝達関数OTFを係数に変換し、その必要精度に応じて後に光学伝達関数OTFの再構成に用いられる係数の次数を決定する。係数算出装置101は、点像分布関数PSFの空間的分布の大きさから光学伝達関数OTFを再現する際に必要な像高ごとのタップ数を決定する。係数算出装置101は、種々の撮像レンズとカメラの撮像素子との組み合わせについて、必要次数までの係数データとタップ数に関する情報を算出して出力する。カメラ110は、撮像素子111および撮像レンズ112を有する。カメラ110は、撮像レンズ112で撮像された画像に、撮像レンズ112のレンズIDと撮影条件に関する情報(絞り、ズーム、撮影距離等)、および、撮像素子111のナイキスト周波数を付加して出力する。
【0052】
画像回復処理装置120(画像処理装置)は、画像回復情報保持部121、OTF再構成部122、および、フィルタ処理部123(生成手段)を備えて構成される。画像回復処理装置120は、係数算出装置101およびカメラ110から出力された情報を保持し、これらの情報を用いて撮像レンズ112で撮影された劣化画像を補正する(撮影画像の画像回復処理を行う)。
【0053】
画像回復情報保持部121は、係数算出装置101によって算出された種々の撮像レンズ112と撮像素子111の組み合わせのそれぞれについて、係数データ、タップ数、レンズID、撮影条件、撮像素子のナイキスト周波数の各情報を記憶する。このように画像回復情報保持部121は、撮影画像の撮影条件に応じた係数データを記憶する記憶手段である。
【0054】
OTF再構成部122は、カメラ110より撮像素子111の撮像素子のナイキスト周波数情報と撮影画像を取得し、撮像レンズ112のレンズIDと撮影条件に関する情報を取得する。OTF再構成部122は、撮影者が撮影した際に用いたカメラ110のレンズIDと撮影条件から、画像回復情報保持部121内に保存されている係数データとタップ数をサーチして、対応する係数データとタップ数を取得する。OTF再構成部122は、カメラ110の撮像素子のナイキスト周波数までの空間周波数領域において、フィルタ処理部123により用いられる光学伝達関数OTFを再構成する。すなわち、取得した係数データとタップ数を用いて、撮影画像の位置に応じた撮像光学系(撮像レンズ112)の光学伝達関数OTFを再構成する。このようにOTF再構成部122は、係数データを用いて撮影画像の位置に応じた撮像光学系の光学伝達関数OTFを再構成する再構成手段である。またOTF再構成部122は、光学伝達関数OTFを撮影画像の中心または撮像光学系の光軸の周りに回転させて光学伝達関数OTFを展開する展開手段である。以降、OTF再構成部122で再構成された光学伝達関数OTFを再構成OTFと称する。
【0055】
フィルタ処理部123は、OTF再構成部122で作成した再構成OTFを用いて、撮影画像の劣化を補正する画像回復フィルタを作成し、画像の劣化を補正する。すなわちフィルタ処理部123は、展開された光学伝達関数OTFを用いて画像回復フィルタを生成する生成手段である。またフィルタ処理部123は、画像回復フィルタを用いて撮影画像に対する画像回復処理を行う処理手段である。ここで、係数算出装置101で予め算出した係数データやタップ数を画像回復情報保持部121に保持しておけば、係数算出装置101をユーザ(撮影者)に提供する必要はない。また、ユーザはネットワークや各種の記憶媒体を通して係数データなどの画像回復処理に必要な情報をダウンロードして用いることもできる。
【0056】
次に、係数算出装置101での係数算出方法について詳述する。本実施例において、係数算出装置101は、撮像光学系(撮像レンズ112)の光学伝達関数OTFの設計値または測定値を所定の関数でフィッティングすることにより係数データを生成する。すなわち係数算出装置101は、撮像光学系の光学伝達関数OTFを所定の関数へのフィッティングによって近似することで係数データを生成する。本実施例では、Legendre多項式を用いてフィッティングを行う。ただし本実施例はこれに限定されるものではなく、Chebushev多項式など他の関数を用いてフィッティングすることもできる。Legendre多項式は、式(7)で表される。
【0057】
【数2】

【0058】
ここで、[x]はxを超えない最大の整数である。
【0059】
また、OTFはz=f(x,y)の形で表されるため、式(8)の係数aijを算出する必要がある。
【0060】
【数3】

【0061】
式(8)は直交関数であり、aijの値はフィッティング時の次数に依存せずに決定される。式(8)の直交関数の性質を利用することにより、光学伝達関数OTFのフィッティングが低次数でも十分高精度に行うことが可能な場合、装置内に保持すべき係数データに関する情報量を低減させることができる。
【0062】
続いて、図8を参照して、係数算出装置101について詳述する。図8は、係数算出装置101の説明図であり、式(7)、(8)を用いて光学伝達関数OTFをフィッティングする具体的な方法を示している。図8に示されるfum、fvmはそれぞれ、光学伝達関数OTFのmeridional、sagittal方向のナイキスト周波数である。また、Nx、Nyはそれぞれ、光学伝達関数OTFのmeridional、sagittal方向の奇数のタップ数である。係数算出装置101では、光学伝達関数OTFの実部および虚部のそれぞれに対し、上述のフィッティングを行って係数データを算出する。
【0063】
光学伝達関数OTFの実部は、meridional方向とsagittal方向に対称である。光学伝達関数OTFの虚部はmeridional方向に正負逆になるが対称であり、また、sagittal方向に対称である。このような対称性を利用すると、フィッティング対象とする光学伝達関数OTFのデータとして、定義域全体の1/4領域(定義域の一部)の情報があれば必要かつ十分である。すなわち、光学伝達関数OTFは、画面中心または撮像光学系の光軸に対する対称性を利用して定義域全体に展開することが可能である。上記理由により、本実施例では光学伝達関数OTFを高精度にフィッティングするため、光学伝達関数OTFから実部および虚部ともに定義域全体の1/4の領域をDC成分が含まれるように切り出してフィッティングを行う。本実施例では、光学伝達関数OTFのデータがNx(行)×Ny(列)タップの場合について説明しており、このデータから1〜[Nx/2]+1行、1〜[Ny/2]+1列のデータを切り出しているが、これに限定されるものではない。
【0064】
図9は、上述の方法により算出された係数データの説明図である。図9では、各像高別に光学伝達関数OTFの実部および虚部の係数をxyともに10次まで算出した場合の例を示している。像高別の係数群に、レンズID、絞り、ズーム、および、被写体距離情報を付加することで、1つの係数データ(係数情報)が完成する。本実施例では一例として、レンズID:No123、絞り:F2.8、ズーム:WIDE、撮影距離:至近、の撮影条件における10像高分の係数情報を示している。この10像高分の係数情報は、図6(a)中の10箇所の光学伝達関数OTFを再構成するために用いられる。また、上述のように作成した係数データを次数別に像高間でさらに関数化してもよい。係数算出装置101は、この情報を全てのレンズID、絞り、ズーム、撮影距離情報の組み合わせに対して作成して、画像回復処理装置120に出力する。
【0065】
次に、再構成OTFのタップ数の決定方法について詳述する。画像にフィルタ処理を行う際、処理時間はそのフィルタのタップ数に大きく依存する。このため、フィルタ処理を行う際に所望の画像回復の効果が得られ、リンギング等の弊害が生じなければ、フィルタのタップ数は小さいほうが好ましい。
【0066】
画像回復処理装置120のフィルタ処理部123で用いられる画像回復フィルタは、実空間のフィルタである。従って、実空間でフィルタに必要なタップ数を決定すればよい。画像回復フィルタは、点像分布関数PSFによる画像劣化を補正するフィルタであるから、点像分布関数PSFが実空間上で分布している領域と同程度の領域を確保できればよい。すなわち、画像回復フィルタに必要なタップ数は、上述の領域におけるタップ数である。実空間と周波数空間は互いに逆数の関係にあるため、実空間で決定したタップ数を周波数空間で用いることができる。
【0067】
図10および図11は、タップ数と周波数ピッチの説明図である。図10は、タップ数を点像分布関数PSFの空間分布に比べて十分大きい領域でとった場合を示している。図11は、図10の場合と同一の点像分布関数PSFに対して、タップ数を点像分布関数PSFの空間分布とほぼ同等の領域でとった場合を示している。図10では、実空間でのタップ数は周波数空間での最小周波数ピッチに対応している。図11に示されるように実空間のタップ数を小さくすることは、周波数空間を粗くサンプリングすることを意味し、最小周波数ピッチが大きくなることを示している。このとき、周波数空間でのナイキスト周波数の値は変化しない。
【0068】
画像回復情報保持部121には、係数算出装置101から出力された係数情報(係数データ)、タップ数情報、レンズID、撮影条件、および、撮像素子のナイキスト周波数情報が記憶される。OTF再構成部122は、カメラ110から撮影時のレンズID、撮影条件、および、撮像素子のナイキスト周波数情報を取得する。そして、画像回復情報保持部121から上述の各条件に対応するタップ数情報、レンズID、撮影条件、および、撮像素子のナイキスト周波数情報を読み出し、これらの情報を用いて画像回復フィルタを作成するために用いられる再構成OTFを生成する。
【0069】
次に、図12を参照して、再構成OTFの作成方法について詳述する。図12は、OTF再構成部122の説明図である。図12において、再構成OTFの作成に必要なmeridional、sagittal方向のナイキスト周波数をfuc_rm、fvc_imとし、またmeridional、sagittal方向のタップ数をMx,Myとする。ただし、fum,fvmに対して0<fum_n≦fum、0<fvm_n≦fvm、0<Mx≦Nx、0<My≦Nyであり、Mx,Myは奇数である。
【0070】
ここで、式(7)、(8)中のx、yをu、mに置き換え、−fum_n/fum≦u≦1、−fvm_n/fvm≦v≦1の定義域を[Mx/2]+1、[My/2]+1タップでサンプリングする。そして、前記係数を式(8)に代入すると、再構成OTFの1/4の領域が作成される。上述の手順は再構成OTFの実部122−1−1および虚部122−2−1の両方について行われる。
【0071】
次に、上述の方法により作成された実部および虚部の1/4領域の再構成OTFから、定義域が−fum_n/fum≦u≦fum_n/fum、−fvm_n/fvm≦v≦fvm_n/fvmであり、タップ数がMx、Myである再構成OTFを作成する。
【0072】
まず、再構成OTFの実部作成方法について説明する。再構成OTFの実部を、再構成OTFの実部122−1−1を用いて、1〜[Mx/2]+1行、1〜[My/2]列の領域と、1〜[Mx/2]+1行、[My/2]+1列の領域に分離する。次に、実部122−1−2のように、1〜[Mx/2]+1行、1〜[My/2]列の領域の数値データを1〜[Mx/2]+1行、[My/2]+1列の領域に対して線対称になるように、1〜[Mx/2]+1行、[My/2]+2〜My列の領域に代入する。
【0073】
さらに実部122−1−3のように、実部122−1−2で作成した1/2領域の再構成OTFを1〜[Mx/2]行、1〜My列の領域と、[Mx/2]+1行、1〜My列の領域に分離する。そして、1〜[Mx/2]行、1〜My列の領域の数値データを、[Mx/2]+1行、1〜My列の領域に対して線対称になるように[Mx/2]+2行、1〜My列の領域に代入する。再構成OTFの虚部は、実部と同様の方法で作成可能であるが、虚部122−2−3において、正負を入れ替えて代入する必要がある。上記のような作成方法が可能なのは、光学伝達関数OTFの特徴による。
【0074】
図13は、再構成OTFのナイキスト周波数とタップ数の関係図(再構成OTF)である。上述のように、ナイキスト周波数は撮像素子111の空間分解能から決定されるパラメータであり、タップ数は撮像レンズ112の点像分布関数PSFに依存するパラメータである。これら2つのパラメータと上述の係数データを用いて所望の再構成OTFを生成する。図13において、ナイキスト周波数はf_nyq1>f_nyq2、タップ数はN>M1>M2であり、図13に示されるようにナイキスト周波数とタップ数を所望の値に制御することが可能である。
【0075】
以上のとおり、撮像素子とレンズの組合せ、および撮影条件に応じた光学伝達関数OTFを係数データ化し、画像回復処理装置120に記憶しておくことで、撮影時の撮影条件に応じた画像回復処理が可能になる。また図6に示されるように、少量の係数データから画像全域のデータを適切なタップ数で回復することができるため、保持データ量を低減することができる。
【0076】
次に、図14を参照して、本実施例における別の画像処理方法(変形例)について説明する。図14は、本実施例における別の画像処理方法のフローチャートである。図14の画像処理方法は、ステップS26において、展開された光学伝達関数OTFに、画面中心または光軸に対して回転非対称な伝達関数を適用する工程が付加されている点で、図1の画像処理方法とは異なる。図14中のステップS21〜S25およびステップS27〜S29は、図1中のステップS11〜S18とそれぞれ同一であるため、それらの説明は省略する。
【0077】
図14中のステップS21〜S25の工程を経ることにより、例えば図6(b)に示されるように光学伝達関数OTFが再配置されていることになる。ここで、例えば光学ローパスフィルタの伝達関数や、撮像素子111の画素開口形状の伝達関数のように、回転非対称な伝達関数を考慮する場合、図6(b)の状態で各光学伝達関数OTFに回転非対称な伝達関数を適用する(付加する)。また、図6(b)では、光学伝達関数OTFを画像の1/4の領域に展開しているが、伝達関数の対称性に応じて、例えば、光学伝達関数OTFを画像全域に展開してから適用してもよい。図14に示されるように、本実施例では、回転非対称な伝達関数が適用された光学伝達関数OTFを用いて画像回復フィルタを生成することもできる。
【実施例2】
【0078】
次に、図15を参照して、本発明の実施例2における撮像装置について説明する。図15は、本実施例における撮像装置200の構成図である。撮像装置200には、撮影画像の画像回復処理(実施例1と同様の画像処理方法)を行う画像処理プログラムがインストールされており、この画像回復処理は撮像装置200の内部の画像処理部204(画像処理装置)により実行される。
【0079】
撮像装置200は、撮像光学系201(レンズ)および撮像装置本体(カメラ本体)を備えて構成されている。撮像光学系201は、絞り201aおよびフォーカスレンズ201bを備え、撮像装置本体(カメラ本体)と一体的に構成されている。ただし本実施例はこれに限定されるものではなく、撮像光学系201が撮像装置本体に対して交換可能に装着される撮像装置にも適用可能である。
【0080】
撮像素子202は、撮像光学系201を介して得られた被写体像(結像光)を光電変換して撮影画像を生成する。すなわち被写体像は、撮像素子202により光電変換が行われてアナログ信号(電気信号)に変換される。そして、このアナログ信号はA/Dコンバータ203によりデジタル信号に変換され、このデジタル信号は画像処理部204に入力される。
【0081】
画像処理部204(画像処理装置)は、このデジタル信号に対して所定の処理を行うとともに、上述の画像回復処理を行う。まず画像処理部204は、状態検知部207から撮像装置の撮像条件情報を取得する。撮像条件情報とは、絞り、撮影距離、または、ズームレンズの焦点距離等に関する情報である。状態検知部207は、システムコントローラ210から直接に撮像条件情報を取得することができるが、これに限定されるものではない。例えば撮像光学系201に関する撮像条件情報は、撮像光学系制御部206から取得することもできる。本実施例の画像回復処理の処理フロー(画像処理方法)は、図1または図14を参照して説明した実施例1と同様であるため、その説明は省略する。
【0082】
再構成OTFを生成するための係数データは、記憶部208に保持されている。画像処理部204で処理した出力画像は、画像記録媒体209に所定のフォーマットで保存される。表示部205には、本実施例の画像回復処理を行った画像に表示用の所定の処理を行った画像が表示される。ただしこれに限定されるものではなく、高速表示のために簡易処理を行った画像を表示部205に表示するように構成してもよい。
【0083】
本実施例における一連の制御はシステムコントローラ210により行われ、撮像光学系201の機械的な駆動はシステムコントローラ210の指示に基づいて撮像光学系制御部206により行われる。撮像光学系制御部206は、Fナンバーの撮影状態設定として、絞り201aの開口径を制御する。また撮像光学系制御部206は、被写体距離に応じてピント調整を行うため、不図示のオートフォーカス(AF)機構や手動のマニュアルフォーカス機構により、フォーカスレンズ201bの位置を制御する。なお、絞り201aの開口径制御やマニュアルフォーカスなどの機能は、撮像装置200の仕様に応じて実行しなくてもよい。
【0084】
撮像光学系201には、ローパスフィルタや赤外線カットフィルタ等の光学素子を入れても構わないが、ローパスフィルタ等の光学伝達関数(OTF)の特性に影響を与える素子を用いる場合、画像回復フィルタを作成する時点での考慮が必要になる場合がある。赤外カットフィルタに関しても、分光波長の点像分布関数(PSF)の積分値であるRGBチャンネルの各PSF、特にRチャンネルのPSFに影響するため、画像回復フィルタを作成する時点での考慮が必要になる場合がある。この場合、図14を参照して説明したように、光学伝達関数(OTF)を再配置した後に回転非対称な伝達関数を付加する。
【0085】
本実施例においては、撮像装置の記憶部に記憶された係数データを用いたが、変形例として、例えばメモリーカード等の記憶媒体に記憶された係数データを、撮像装置が取得するように構成してもよい。
【実施例3】
【0086】
次に、図16を参照して、本発明の実施例3における画像処理装置および画像処理システムについて説明する。図16は、本実施例における画像処理システム300の構成図である。なお、本実施例の画像回復処理の処理フロー(画像処理方法)は、図1または図14を参照して説明した実施例1と同様であるため、その説明は省略する。
【0087】
図16において、画像処理装置301は、本実施例の画像処理方法をコンピュータ(情報処理装置)に実行させるための画像処理ソフトウェア306を搭載したコンピュータ機器である。撮像機器302は、カメラ、顕微鏡、内視鏡、または、スキャナなどの撮像装置である。記憶媒体303は、半導体メモリ、ハードディスク、または、ネットワーク上のサーバなど、撮影画像を記憶した記憶手段である。
【0088】
画像処理装置301は、撮像機器302または記憶媒体303から撮影画像データを取得し、所定の画像処理を行った画像データを出力機器305、撮像機器302、記憶媒体303のいずれか一つまたは複数に出力する。また、その出力先を画像処理装置301に内蔵された記憶部に保存することもできる。出力機器305は、例えばプリンタである。
【0089】
画像処理装置301にはモニタである表示機器304が接続されている。このため、ユーザは表示機器304を通して画像処理作業を行うとともに、補正された画像を評価することができる。画像処理ソフトウェア306は、本実施例の画像回復処理(画像処理方法)を行うほか、必要に応じて現像やその他の画像処理を行う。
【0090】
続いて、図17を参照して、本実施例の画像処理方法を行うためのデータの内容と機器間でのデータ受け渡しについて説明する。図17は情報セット(データの内容)の説明図である。本実施例において、情報セットは以下のような情報を有する。
[補正制御情報]
補正制御情報は、画像処理装置301、撮像機器302、または、出力機器305のいずれの機器にて補正処理を行うかに関する設定情報と、これに伴い他の機器に伝送するデータの選択情報から構成される。例えば、撮像機器302内で回復画像を生成する場合、係数データを伝送する必要はない。一方、撮像機器302から補正前の画像を取得して画像処理装置301で回復画像を生成する場合、係数データ、タップ数情報、レンズID、撮像素子ナイキスト情報、および、撮影条件等を伝送する。または、撮影に使用された撮像機器302の撮像機器情報や撮像条件情報に基づいて、予め画像処理装置301に保持された係数データから選択し、必要に応じて補正して用いるように構成してもよい。
[撮像機器情報]
撮像機器情報は、撮像機器302の識別情報である。レンズがカメラ本体に対して交換可能に装着される場合、その組み合わせを含む識別情報である。例えば、上述のレンズIDがこれに相当する。
[撮像条件情報]
撮像条件情報は、撮影時の撮像機器302の状態に関する情報である。例えば、焦点距離、絞り値、撮影距離、ISO感度、または、ホワイトバランス設定などである。
[撮像機器個別情報]
撮像機器個別情報は、上述の撮像機器情報に対して、個々の撮像機器の識別情報である。製造誤差のばらつきにより撮像機器302の光学伝達関数(OTF)には個体ばらつきがある。このため、撮像機器個別情報は、個々に最適な補正パラメータを設定するために有効な情報である。補正パラメータとは、係数データや画像回復フィルタの補正係数、エッジ強調のゲイン値、歪曲補正、または、シェーディング補正などの設定値である。予め製造誤差の状態が把握されている場合、画像回復フィルタ生成に用いられる初期データを補正することで、より高精度な画像回復処理を行うことができる。
[係数データ群]
係数データ群は、位相劣化の補正に用いられる係数データのセットである。画像回復処理を行う機器が係数データを有していない場合、別の機器から係数データを伝送する必要がある。
[ユーザ設定情報]
ユーザ設定情報は、ユーザの好みに応じた先鋭度(回復の度合)に補正するための補正パラメータまたは補正パラメータの補正値である。ユーザは、補正パラメータを可変に設定可能であるが、ユーザ設定情報を用いれば常に初期値として好みの出力画像を得ることができる。またユーザ設定情報は、ユーザにより設定された補正パラメータの履歴に基づいて、学習機能を用いてユーザが最も好む先鋭度に更新されることが好ましい。さらに、撮像機器302の提供者(メーカ)がいくつかの先鋭度パターンに応じたプリセット値をネットワークや記憶媒体303を介して提供することもできる。
【0091】
上述の情報セットは、個々の画像データに付帯させることが好ましい。必要な補正情報を画像データに付帯させることで、本実施例の画像処理装置を搭載した機器であれば補正処理を行うことができる。また、情報セットの内容は必要に応じて、自動または手動で、適宜、取捨選択が可能である。
【0092】
上記各実施例によれば、光学伝達関数の状態で画像内に再配置してから実空間の画像回復フィルタに変換するため、画像回復フィルタを回転および補間するよりも高精度に画像の位置に応じた画像回復フィルタを生成できる。また、高精度に画像回復フィルタが生成できることから、予め保持する必要のある光学伝達関数に関するデータ量を低減することができる。したがって、各実施例によれば、画像回復処理に用いられる情報量を低減しつつ、高精度に補正された回復画像の取得が可能な画像処理方法を提供することができる。
【0093】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0094】
120:画像回復処理装置
121:画像回復情報保持部
122:OTF再構成部
123:フィルタ処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影画像の画像回復処理を行う画像処理方法であって、
前記撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、前記撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する工程と、
前記第1の光学伝達関数を前記撮影画像の中心または前記撮像光学系の光軸の周りに回転させて複数の第2の光学伝達関数を生成する工程と、
前記第1の光学伝達関数および前記第2の光学伝達関数に基づいて画像回復フィルタを生成する工程と、
前記画像回復フィルタを用いて前記撮影画像の画像回復処理を行う工程と、を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項2】
前記第1の光学伝達関数のうち、少なくとも2つの光学伝達関数は、前記撮影画像の中心を通る直線上の位置に応じた光学伝達関数であることを特徴とする請求項1に記載の画像処理方法。
【請求項3】
前記複数の第1の光学伝達関数のうち、すべての光学伝達関数が、前記直線上の位置に応じた光学伝達関数であることを特徴とする請求項2に記載の画像処理方法。
【請求項4】
前記画像回復フィルタは、前記撮影画像の第1の位置における第1の画像回復フィルタ、および、該撮影画像の第2の位置における第2の画像回復フィルタを含み、
前記第1の画像回復フィルタは、前記第1と第2の光学伝達関数を用いて生成され、
前記第2の画像回復フィルタは、前記第1の画像回復フィルタに基づいて生成される、ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項5】
前記第2の光学伝達関数と前記撮影画像の中心または撮像光学系の光軸に対して回転非対称な伝達関数とを用いて、回転非対称な光学伝達関数を生成する工程を有し、
前記回転非対称な光学伝達関数を用いて前記画像回復フィルタを生成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項6】
前記回転非対称な伝達関数は、光学ローパスフィルタの伝達関数であることを特徴とする請求項5に記載の画像処理方法。
【請求項7】
前記回転非対称な伝達関数は、撮像素子の画素開口形状の伝達関数であることを特徴とする請求項6に記載の画像処理方法。
【請求項8】
前記係数データは、前記撮像光学系の光学伝達関数の設計値または測定値を近似した関数の係数のデータであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項9】
前記撮影画像において、前記撮影画像の中心または撮像光学系の光軸に対して点対称な領域を第1領域と第2領域、前記第1の領域と前記撮影画像の中心を通る直線に対して線対称な領域を第3領域とするとき、
前記第1領域の光学伝達関数を用いて、前記第2領域または前記第3領域の光学伝達関数を生成する工程を有することを特徴とすることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項10】
撮影画像の画像回復処理を行う画像処理装置であって、
前記撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、前記撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する第1の光学伝達関数生成手段と、
前記第1の光学伝達関数を前記撮影画像の中心または前記撮像光学系の光軸の周りに回転させて複数の第2の光学伝達関数を生成する第2の光学伝達関数生成手段と、
前記第1の光学伝達関数および前記第2の光学伝達関数に基づいて画像回復フィルタを生成する画像回復フィルタ生成手段と、
前記画像回復フィルタを用いて前記撮影画像の画像回復処理を行う画像回復手段と、を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項11】
撮影画像の画像回復処理を行う撮像装置であって、
前記撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、前記撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する第1の光学伝達関数生成手段と、
前記第1の光学伝達関数を前記撮影画像の中心または前記撮像光学系の光軸の周りに回転させて複数の第2の光学伝達関数を生成する第2の光学伝達関数生成手段と、
前記第1の光学伝達関数および前記第2の光学伝達関数に基づいて画像回復フィルタを生成する画像回復フィルタ生成手段と、
前記画像回復フィルタを用いて前記撮影画像の画像回復処理を行う画像回復手段と、を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項12】
撮影画像の画像回復処理を行う画像処理プログラムであって、
前記撮影画像の撮影条件に応じた係数データを用いて、前記撮影画像の位置に応じた複数の撮像光学系の第1の光学伝達関数を生成する工程と、
前記第1の光学伝達関数を前記撮影画像の中心または前記撮像光学系の光軸の周りに回転させて複数の第2の光学伝達関数を生成する工程と、
前記第1の光学伝達関数および前記第2の光学伝達関数に基づいて画像回復フィルタを生成する工程と、
前記画像回復フィルタを用いて前記撮影画像の画像回復処理を行う工程と、を情報処理装置に実行させることを特徴とする画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−38563(P2013−38563A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172503(P2011−172503)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】