説明

画像処理方法および装置並びにプログラム

【課題】ボリュームレンダリング法による画像処理において、同じ入力画素値を有する構造物を区別して描画することを可能にする。
【解決手段】3次元医用画像データVに基づいて注目構造を選択的に強調し、処理済3次元医用画像データV1を出力する選択的強調処理部32と、3次元医用画像データVに基づいて各画素に輝度値bを割り当てる輝度値割当部33と、処理済3次元医用画像データV1に基づいて各画素に不透明度αを割り当てる不透明度割当部34と、任意の視点と投影面上の各画素とを結ぶ複数の視線に沿って輝度値bと不透明度αを積算しながら、投影面上の画素の画素値を決定するレイキャスティング部35とを設ける。選択的強調処理部32により、注目構造と非注目構造は異なる画素値となるので、不透明度割当部34でも異なる不透明度の割当てが可能になり、レイキャスティングにより投影された投影面上の画素の画素値も異なる値となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用画像処理に関し、特に詳しくは、ボリュームレンダリング法により、3次元医用画像から擬似3次元画像を生成する画像処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
CT装置、MRI装置、超音波診断装置(エコー)等の発展により、より詳細なレベルでの3次元医用画像の取得が可能になったが、それと同時に、1回の検査で撮影される画像数も膨大になったため、撮影された断面画像を1枚ずつ観察することによって診断する従来の方法では、膨大な時間がかかるようになった。また、断面画像に基づいて被検体の3次元的構造を把握するには、十分な経験を要することから、読影者の経験の差によって、読影精度にも差が生じてしまっていた。
【0003】
そこで、3次元コンピュータグラフィックスの技術を応用して、3次元医用画像を2次元平面に立体的に可視化した擬似3次元画像を生成する画像処理が行われるようになった。
【0004】
このような擬似3次元画像を生成する技術としては、ボリュームレンダリング法が知られている。これは、3次元医用画像を構成する各画素(ボクセル)に対して設定された不透明度(Opacity)と輝度値とに基づき、視線に沿った各探索点におけるこれらの値をサンプリングし、加算していくことによって投影画素の画素値を求め、半透明な投影画像を生成する処理である(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
このボリュームレンダリング法では、3次元医用画像中の各ボクセルの画素値に基づいてボクセル毎の不透明度を求めていた。したがって、同じ画素値を有するボクセルの不透明度は同じ値となる。
【0006】
一方、CT画像では、正常構造の骨と病変である石灰化領域とでは、CT値がほとんど同じであり、単純にCT値のみでこれらを区別することはできない。
【0007】
その結果、ボリュームレンダリングにおいても、骨と石灰化領域とは不透明度がほぼ同じ値になってしまうため、例えば、骨をボリュームレンダリング画像中に描画しないような不透明度の設定を行っていた場合には、石灰化領域も描画されなくなってしまい、ボリュームレンダリング画像によって石灰化領域の有無を観察することができなくなってしまうという問題があった。
【0008】
また、ボリュームレンダリング法では、ボクセル毎の不透明度の算出の際に、そのボクセルの画素値だけでなく、そのボクセルに隣接するボクセルの画素値に基づいて求められたそのボクセルの画素値の勾配も用いる手法が知られている(例えば、特許文献2、非特許文献1)。これは異なる生体組織間の境界を強調するためのものである。例えば、皮膚と脳とではCT値がほとんど同じであるが、皮膚はCT値が大きく異なる空気と接しているためCT値の勾配が大きくなる。したがって、ボクセルの画素値と画素値の勾配の両方を用いることによって、皮膚と脳の不透明度を異なる値にすることが可能になる。
【0009】
この他、ボクセルの画素値とそのボクセルの画素値の勾配だけでなく、ボクセルと投影面との間の距離によって不透明度の値を変化させる手法も知られている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−312809号公報
【特許文献2】特開平10−11604号公報
【非特許文献1】周藤安造著,「医学における三次元画像処理―基礎から応用まで」,初版,コロナ社,1995年3月,p.104−112
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ボクセルの画素値と画素値の勾配の両方を用いて不透明度を求める手法では、骨と石灰化領域の場合、両者とも空気のようなCT値が大きく異なる物質と接していないので、この方法で両者を区別することは困難である。
【0011】
また、ボクセルと投影面との間の距離によって不透明度の値を変化させる手法では、投影面を変化させながら観察を行う場合に、病変部の描画も変化してしまう。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ボリュームレンダリング法による画像処理において、同じ画素値を有する構造物を区別して描画することができる画像処理方法および装置並びにプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による画像処理方法は、被検体を表す3次元医用画像を構成する各画素に不透明度を割り当て、任意の視点とその3次元医用画像が投影される投影面上の各画素とを結ぶ複数の視線に沿って不透明度を積算しながら、投影面上の画素の画素値を決定するボリュームレンダリング法によって、3次元医用画像から擬似3次元画像を生成する画像処理方法において、3次元医用画像に対して、3次元医用画像中の注目構造を選択的に強調する画像処理を行って、処理済3次元医用画像を生成し、処理済3次元医用画像に基づいて、各画素に不透明度を割り当てるようにしたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明による画像処理装置はこの方法を実施するものである。すなわち、被検体を表す3次元医用画像を構成する各画素に不透明度を割り当てる不透明度割当手段と、任意の視点とその3次元医用画像が投影される投影面上の各画素とを結ぶ複数の視線に沿って不透明度を積算しながら、投影面上の画素の画素値を決定するレイキャスティング手段とを有する、ボリュームレンダリング法によって3次元医用画像から擬似3次元画像を生成する画像処理装置に、3次元医用画像に対して、その3次元医用画像中の注目構造を選択的に強調する画像処理を行って、処理済3次元医用画像を生成する選択的強調手段を設け、不透明度割当手段が、処理済3次元医用画像に基づいて、各画素に不透明度を割り当てるようにしたことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明による画像処理プログラムは上記の方法をコンピュータに実行させるためのものである。すなわち、コンピュータを、被検体を表す3次元医用画像を構成する各画素に不透明度を割り当てる不透明度割当手段と、任意の視点とその3次元医用画像が投影される投影面上の各画素とを結ぶ複数の視線に沿って不透明度を積算しながら、投影面上の画素の画素値を決定するレイキャスティング手段として機能させ、ボリュームレンダリング法によって3次元医用画像から擬似3次元画像を生成させる画像処理プログラムにおいて、3次元医用画像に対して、3次元医用画像中の注目構造を選択的に強調する画像処理を行って、処理済3次元医用画像を生成する選択的強調手段としてこのコンピュータをさらに機能させ、不透明度割当手段が、処理済3次元医用画像に基づいて、各画素に不透明度を割り当てるようにこのコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0016】
次に、本発明による画像処理方法および装置並びにプログラムの詳細について説明する。
【0017】
「被検体を表す3次元医用画像」とは、被検体を表す医用画像であって、3次元的に配列された画素(ボクセル)の各々に画素値を与えることによって定義された3次元画像データによる画像である。具体例としては、CT装置やMRI装置を使用した撮影によって得られる複数の2次元のスライス画像を奥行き(深さ)方向に積み重ねて3次元にした画像が考えられる。
【0018】
「視線」は投影面上の投影画素と任意の視点とを結ぶものである。3次元医用画像を投影面に平行投影する場合には、視点は無限遠方に位置し、各視線は互いに平行となる。一方、3次元医用画像を投影面に透視投影する場合には、視点は有限の距離に位置し、各視線は放射状をなす。
【0019】
「3次元医用画像中の注目構造を選択的に強調する画像処理」とは、3次元医用画像中で同じ画素値を有する、注目構造と注目構造ではない部分とを区別できるようにする画像処理をいう。具体例としては、3次元医用画像を表す原画像信号Sorgの各画素に対応して各画素の周囲の注目構造よりも大きい範囲内の原画像信号Sorgに基づいて非鮮鋭化した非鮮鋭マスク信号Susを求め、注目構造よりも大きい部分で原画像信号Sorgが注目構造の原画像信号Sorgと同じ値となる部分の非鮮鋭マスク信号Susを入力したときの出力値と、注目構造の部分の非鮮鋭マスク信号Susを入力したときの出力値とが異なる値となる関数をg(Sus)としたとき、式Sproc=Sorg+g(Sus) に従って原画像信号Sorgを処理して、処理済3次元医用画像を表す処理済画像信号Sprocを求める処理が考えられる。この他、モフォロジフィルタを用いて既知の大きさや形状を有する特定部分を強調する処理も考えられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、3次元医用画像に対して、3次元医用画像中の注目構造を選択的に強調する画像処理を行って、処理済3次元医用画像を生成し、処理済3次元医用画像に基づいて、各画素に不透明度を割り当て、複数の視線に沿って不透明度を積算しながら、投影面上の画素の画素値を決定する。したがって、例えば、注目構造である石灰化領域と注目構造でない骨のように、3次元医用画像中では画素値がほぼ同じ値であっても、処理済3次元医用画像中では、異なった画素値にすることができるので、それに基づいて割り当てられる不透明度も異なる値を割り当てることができる。その結果、もとの3次元医用画像中では同じ画素値を有する構造物を選択的に描画することができるようになるので、読影精度が向上する。
【0021】
また、3次元医用画像中の注目構造を選択的に強調する画像処理として、3次元医用画像を表す原画像信号Sorgの各画素に対応して各画素の周囲の注目構造よりも大きい範囲内の原画像信号Sorgに基づいて非鮮鋭化した非鮮鋭マスク信号Susを求め、注目構造以外の部分で原画像信号Sorgが注目構造の原画像信号Sorgと同じ値となる部分の非鮮鋭マスク信号Susを入力したときの出力値と、注目構造の部分の非鮮鋭マスク信号Susを入力したときの出力値とが異なる値となる関数をg(Sus)としたとき、式Sproc=Sorg+g(Sus) に従って原画像信号Sorgを処理して、処理済3次元医用画像を表す処理済画像信号Sprocを求めるようにした場合、注目構造は非鮮鋭化されるが、注目構造よりも大きい部分は、注目構造と同じ原画像信号Sorgの値を有していても非鮮鋭化されないため、注目構造と、注目構造よりも大きい部分で注目構造と同じ原画像信号Sorgの値を有している部分とでは非鮮鋭マスク信号Susの値が異なる。さらに、関数g(Sus)は、注目構造の非鮮鋭マスク信号Susを入力した場合の出力値と、注目構造よりも大きい部分で注目構造と同じ原画像信号Sorgの値を有している部分の非鮮鋭マスク信号Susを入力した場合の出力値とが異なる値となる。したがって、式Sproc=Sorg+g(Sus)にしたがって求められる処理済画像信号Sprocも、注目構造の部分と、注目構造よりも大きい部分で注目構造と同じ原画像信号Sorgの値を有している部分とでは異なる値となるため、それに基づいて割り当てられる不透明度も異なる値を割り当てることができ、前記と同様の効果が得られる他、この処理はアルゴリズムが単純で画像中に不自然さが出にくいので、さらに効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
図1は、3次元医用画像処理システムの概要を示すハードウェア構成図である。図に示すように、このシステムでは、モダリティ1と、画像保管サーバ2と、画像処理ワークステーション3とが、ネットワーク9を経由して通信可能な状態で接続されている。
【0024】
モダリティ1は、被検体を表す3次元医用画像Vを取得し、3次元医用画像データV(以下、画像と画像データとは同じ記号を用いる)を出力するものである。具体的には、CT装置やMRI装置、超音波診断装置等である。
【0025】
画像保管サーバ2は、モダリティ1で取得された3次元医用画像データVや画像処理ワークステーション3での画像処理によって生成された画像データの医用画像を画像データベースに保存・管理するコンピュータであり、大容量外部記憶装置やデータベース管理ソフトウェア(例えば、ORDB(Object Relational DataBase)管理ソフトウェア)を備えている。
【0026】
画像処理ワークステーション3は、読影者からの要求に応じて、モダリティ1や画像保管サーバ2から取得した3次元医用画像Vに対して画像処理を行い、生成された画像を表示するコンピュータであり、特に、読影者からの要求を入力するキーボードやマウス等の入力装置と、取得した3次元医用画像Vを格納可能な容量の主記憶装置と、生成された画像を表示する高精細液晶ディスプレイとを備えている。
【0027】
画像データの格納形式やネットワーク9経由での各装置間の通信は、DICOM(Digital Imaging and COmmunications in Medicine)等のプロトコルに基づいている。
【0028】
図2は、画像処理ワークステーション3のボリュームレンダリング機能に関連する部分を示すブロック図である。図に示すように、画像処理ワークステーション3は、処理対象となる3次元医用画像データVをモダリティ1や画像保管サーバ2から取得する画像取得部31と、取得された3次元医用画像データVに基づいて選択的強調処理を行い、処理済3次元医用画像データV1を出力する選択的強調処理部(選択的強調手段)32と、3次元医用画像データVに基づいて各画素に輝度値bを割り当てる輝度値割当部33と、処理済3次元医用画像データV1に基づいて各画素に不透明度αを割り当てる不透明度割当部(不透明度割当手段)34と、任意の視点と投影面上の各画素とを結ぶ複数の視線に沿って輝度値bと不透明度αを積算しながら、投影面上の画素の画素値を決定するレイキャスティング部(レイキャスティング手段)35と、レイキャスティングにより生成されたボリュームレンダリング画像Pを表示する画像表示部36とから構成されている。
【0029】
次に、この医用画像処理システム、特に画像処理ワークステーション3によって、ボリュームレンダリング画像Pを生成する処理の流れについて説明する。
【0030】
まず、読影者は、画像処理ワークステーション3の高精細液晶ディスプレイに表示される図3に示す画面を見ながら、処理対象の3次元医用画像Vの選択を行う。図3の画面は、画像取得部31によって生成されたものであり、検査対象の画像の検索条件が階層化されたカテゴリに分類されている。画像取得部31は、読影者がマウスやキーボード等の操作により選択したカテゴリを、処理対象の画像の検索条件を画像保管サーバ2に対する検索要求メッセージに設定する。例えば、図3のように、現在の日時を2004年1月10日16時45分として、読影者が「直近24時間の検査」、「CT」を選択した場合、画像取得部31は、検査日時が「2004年1月9日16時46分〜2004年1月10日16時45分」かつモダリティが「CT」という検索条件を検索要求メッセージに設定する。読影者がマウス操作により検索実行ボタンをクリックすると、画像取得部31は、検索要求メッセージをネットワーク9経由で画像保管サーバ2に送信する。画像保管サーバ2では、受信した検索要求メッセージに基づいて、画像データベースを検索し、該当する画像データの患者氏名、患者ID、検査日付、モダリティ、画像数等のリスト情報を応答メッセージとして画像処理ワークステーション3に送信する。画像処理ワークステーション3では、画像取得部31が受信したリスト情報を図4のように表示する。読影者が、リストされた画像データに関する情報から、読影対象の患者の画像データを表す行をマウスやキーボード等の操作により選択すると、画像取得部31は、選択された行のリスト情報を画像取得要求メッセージに設定し、画像保管サーバ2に送信する。画像保管サーバ2は、受信したリスト情報に基づいて、画像データベースを検索し、該当する画像データVを画像処理ワークステーション3に送信する。画像処理ワークステーション3では、画像取得部31が、受信した画像データVを画像メモリに書き込む。この画像データVは、被検体の左右方向をx軸、前後方向をy軸、上下方向をz軸とする3次元座標系で各画素(以下、ボクセルという)の位置が定義され、各ボクセルの画素値は、そのボクセルの位置の座標と関連づけられている。
【0031】
次に、選択的強調処理部32で行われる処理について説明する。
【0032】
まず、3次元医用画像Vを表す原画像信号Sorgの各画素に対応して各画素の周囲の注目構造よりも大きい範囲内の原画像信号Sorgに基づいて平均化することにより非鮮鋭化した非鮮鋭マスク信号Susを求める。図5は、3次元医用画像V上の各ボクセルと各ボクセルに対応する原画像信号Sorg を表した図である。図にSijkで示した記号が、対応する各ボクセルの原画像信号Sorg を表している。ここで中央の白丸で示した画素のボケマスク信号Susijkが次の式(1)により求められる。
【数1】

【0033】
この演算を各ボクセルについて行うことにより画像全体のボケマスク信号Susが求められる。なお、a,b,cは、注目構造の大きさとの関係で決定される値であり、図5に示した立方体が注目構造の大きさよりも大きくなるように設定する。
【0034】
ここで、石灰化領域のような注目構造については、非鮮鋭マスク信号Susの方が原画像信号Sorgよりも信号値が小さくなるが、骨のような石灰化領域よりも大きい構造では、非鮮鋭マスク信号Susと原画像信号Sorgの値がほとんど同じになる。すなわち、石灰化領域のような注目構造の非鮮鋭マスク信号Susと骨のような石灰化領域よりも大きい構造の非鮮鋭マスク信号Susとは異なる値になる。
【0035】
次に、関数g(Sus)を用いて、次の式(2)により、処理済画像信号Sprocを求める。
【数2】

【0036】
図6は関数g(Sus)の一例を示したものである。図に示すように、g(Sus)は、注目構造の非鮮鋭マスク信号Susが含まれる、信号値の小さい範囲(点A1)では0、注目構造と原画像信号Sorgの値は同じだが注目構造よりも大きい部分の非鮮鋭マスク信号Susが含まれる、信号値が大きい範囲(点B1)では負の値をとる。したがって、注目構造の処理済画像信号Sprocの値は、注目構造と原画像信号Sorgの値は同じだが注目構造よりも大きい部分の処理済画像信号Sprocの値よりも大きくなる。
【0037】
以上の処理により、石灰化領域のような注目構造と骨のような石灰化領域よりも大きい構造とで画素値が異なる処理済3次元医用画像V1が得られる。なお、もとの3次元医用画像Vと処理済3次元医用画像V1との間では、座標系は変換されていないため、もとの3次元医用画像Vのボクセル(i,j,k)は、そのまま処理済3次元医用画像V1のボクセル(i,j,k)に対応する。
【0038】
次に、輝度値割当部33の処理について説明する。もとの3次元医用画像Vのボクセル(i,j,k)の輝度値b(i,j,k)は、次の式(3)により算出される。
【数3】

【0039】
ここで、hは、拡散反射によるシェーディング係数である。なお、本実施形態では、環境光や鏡面反射光については考慮していない。また、N(i,j,k)は、ボクセル(i,j,k)における法線ベクトルであり、次の式(4)により算出される。
【数4】

【0040】
このΔf(i,j,k)とは、次の式(5)のように、ボクセル(i,j,k)に隣接する6つのボクセルの入力画素値から求めた勾配値である。なお、fはもとの3次元医用画像Vのボクセルの入力画素値を表す。
【数5】

【0041】
さらに、Lは、ボクセル(i,j,k)から光源への単位方向ベクトル、「・」はベクトルの内積、cm(i,j,k)(ただし、m=R,G,B)は、予め被検体の組織毎(CT値等の入力画素値毎)に定義された色情報に基づき、各ボクセルに割り当てられた色情報である。なお、光源の位置は装置の初期設定ファイル等で予め設定しておいてもよいし、読影者がキーボードやマウスを使用して入力するようにしてもよい。
【0042】
次に、不透明度割当部34の処理について説明する。ボクセル(i,j,k)の不透明度α(i,j,k)は、例えば、次の式(6)により算出される。
【数6】

【0043】
ここで、f1は、処理済3次元医用画像V1のボクセルの画素値であり、αa、αb、αcは、被検体の組織を表す、処理済3次元医用画像V1の画素値毎に定義した不透明度である。すなわち、画素値fa、fb、fcのボクセルの不透明度は各々αa、αb、αcと定義している。なお、fa≦fb≦fcである。また、式(6)では、異なる組織間の境界を強調するため、ボクセル(i,j,k)に隣接する6つのボクセルのもとの3次元医用画像Vにおける入力画素値から求めた勾配Δf(i,j,k)をさらに考慮している。図7は、ボクセルの画素値f1と勾配値Δfと不透明度αとの関係を示したものである。図中の点A2は、処理済3次元医用画像V1中の注目構造を表すボクセルを、点B2は、3次元医用画像Vにおける画素値は注目構造の画素値と同じだが注目構造よりも大きい部分を表す処理済3次元医用画像V1中のボクセルを示している。図に示したとおり、点A2の不透明度αAの方が点B2の不透明度αBよりも大きくなる。
【0044】
なお、輝度値の割当てと不透明度の割当てとは、互いに独立した処理のため、直列処理で行う場合にはどちらの処理を先に行ってもよいし、並列処理により同時並行で行ってもよい。また、勾配値Δf(i,j,k)は、輝度値を決定する処理と不透明度を決定する処理の各々において算出するようにしてもよいが、画像処理ワークステーション3のメモリ容量に余裕があれば、予め各ボクセル(i,j,k)について勾配値Δf(i,j,k)を算出して記憶させておき、輝度値や不透明度の決定の際には、メモリに格納されている勾配値Δf(i,j,k)を読み出して用いるようにしてもよい。これにより、演算時間の短縮を図ることが可能になる。
【0045】
各ボクセルの輝度値と不透明度とを決定した後、レイキャスティング部35が、ボリュームレンダリング画像Pを構成する画素の画素値(出力画素値)を求める。まず、初期設定ファイル等や読影者によるキーボードやマウス等からの入力により、視点と投影面(大きさ、位置、画素数、法線ベクトルの向き)の設定を行う。これにより、視点と投影面上の投影画素の各々とを結ぶ複数の視線が決定される。次に、決定された視線に沿って探索点を順に設定し、図8に示すように、隣接する8つのボクセルの輝度値と不透明度とに基づき線形補間を行って、探索点での輝度値と不透明度とを求める。そして、各探索点での輝度値と不透明度とに基づいて、輝度値の積算を行っていく。具体的には、n番目の探索点を通過した光を表す積算輝度値bout(n)は、次の式(7)により算出される。
【数7】

【0046】
ここで、bin(n)はn番目の探索点に入射する光を表す積算輝度値、α(n)はn番目の探索点における不透明度、b(n)はn番目の探索点における輝度値を表す。なお、n番目の探索点を通過した光が(n+1)番目の探索点に入射する光となるから、bout(n)=bin(n+1)となる。
【0047】
また、この輝度値の積算と同時に、探索点を通過する毎にその探索点の不透明度を加算していく。ここで加算された不透明度を積算不透明度αTとよぶ。そして、探索点が3次元医用画像Vの範囲外となるか、積算不透明度αTが1(不透明)に達したら、その視線についての処理を終了し、その時点での積算輝度値boutを、その視線上にある投影画素の出力画素値として決定する。
【0048】
このような処理を各視線について行い、投影面上のすべての投影画素の出力画素値を決定し、ボリュームレンダリング画像Pを生成する。
【0049】
生成されたボリュームレンダリング画像Pは、画像表示部36によって画像処理ワークステーション3の高精細液晶ディスプレイに表示される。
【0050】
このように本発明による画像処理の実施形態となる3次元医用画像処理システムでは、3次元医用画像Vに基づいてボリュームレンダリング画像Pを生成する際に、3次元医用画像Vにおいて同じ画素値を有するが大きさの異なる、石灰化領域(注目構造)と骨の領域(非注目構造)とが、選択的強調処理部32によって、処理済3次元医用画像V1では異なる画素値を有する領域に変換されるとともに、これらの領域のボクセルには、この異なる画素値に基づいて、不透明度割当部34によって異なる不透明度が割り当てられる。レイキャスティング部35では、式(7)より、不透明度の値が小さいボクセルほど、そのボクセルの輝度値はボリュームレンダリング画像Pに反映されないことから、不透明度割当部34でより小さい不透明度が割り当てられた骨の領域は、石灰化領域と比べてボリュームレンダリング画像Pには反映されない。以上のように、本発明による画像処理の実施形態となる3次元医用画像処理システムでは、3次元医用画像Vにおいて同じ画素値を有する構造物を選択的に描画可能になり、読影精度の向上に資する。
【0051】
また、選択的強調部32に実装された前記のアルゴリズムは単純であり、画像中にも不自然さが出にくいため、さらに効果的である。
【0052】
なお、本実施形態では、選択的強調処理部32における処理済画像信号Sprocの算出の際に図6に示すような関数g(Sus)を用いたが、関数g(Sus)の代わりに、図9に示すような関数h(Sus)を用いてもよい。図に示すように、h(Sus)は、注目構造の非鮮鋭マスク信号Susが含まれる、信号値の小さい範囲(点A3)では0、注目構造と原画像信号Sorgの値は同じだが注目構造よりも大きい部分の非鮮鋭マスク信号Susが含まれる、信号値が大きい範囲(点B3)では正の値をとる。この関数h(Sus)を用いて式(2)と同様にして処理済画像信号Sprocを求めると、注目構造と原画像信号Sorgの値は同じだが注目構造よりも大きい部分の処理済画像信号Sprocの値は、注目構造の処理済画像信号Sprocの値よりも大きくなる。この場合において、不透明度割当部34で式(6)により不透明度を算出した結果の一例を図10に示す。図に示したように、注目構造の一部を表す点A3では不透明度が0より大きい値となるため、後続のレイキャスティング処理により最終的にボリュームレンダリング画像P中に描画されるが、注目構造よりも大きい部分を表す点B3では不透明度が0になるため、ボリュームレンダリング画像中には描画されない。したがって、上記の関数g(Sus)を用いた場合と同様に、原画像信号Sorgが同じ値となる注目構造部分と注目構造よりも大きい部分とを選択的に描画することが可能になる。また、この注目構造を石灰化領域、この注目構造よりも大きい部分を骨領域とすると、これらの領域の画素値(信号値)は、もとの画像中でも最大値付近の値となっていることから、関数h(Sus)を用いた式(2)の演算により、骨領域の信号値をさらに大きな値に変換することにより、骨領域を表す処理済信号値が、画像中の他の構造物の信号値と一致する可能性が極めて低くなるため、骨領域を他の構造物として誤描画してしまうこともなくなり、読影精度の向上にさらに資する。
【0053】
上記の実施形態では、処理済3次元医用画像V1を不透明度の割当てにおける画素値にのみ使用したが、各ボクセルの勾配値の算出にも使用してもよい。また、輝度値の割当てにも使用するようにしてもよい。
【0054】
上記の実施形態では、画像処理ワークステーション3で画像処理と画像表示の両方を行うようにしたが、画像処理サーバを別途設けてネットワーク9に接続し、前記の画像処理はこの画像処理サーバに行わせるようにしてもよい。これにより、分散処理が図られ、例えば、画像の表示を複数の端末で行う場合には、高性能の画像処理ワークステーションを複数台設置する必要がなくなり、システム全体のコストの低減に資する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態となる3次元医用画像処理システムの概要を示すハードウェア構成図
【図2】画像処理ワークステーションのボリュームレンダリング機能を示すブロック図
【図3】画像処理ワークステーションで処理対象画像の検索条件を設定する画面の一例を示す図
【図4】画像処理ワークステーションで検索結果リストが表示された画面の一例を示す図
【図5】選択的強調処理部で行われる非鮮鋭化処理の範囲を示す図
【図6】選択的強調処理部の関数g(Sus)の特性の一例を示す図
【図7】不透明度割当部で割り当てられる不透明度αと画素値、画素値の勾配との関係の一例を示す図
【図8】探索点と隣接する8つのボクセルとの位置関係を示す図
【図9】本発明の他の実施形態における選択的強調処理部の関数h(Sus)の特性の一例を示す図
【図10】本発明の他の実施形態において不透明度割当部で割り当てられる不透明度αと画素値、画素値の勾配との関係の一例を示す図
【符号の説明】
【0056】
1 モダリティ
2 画像保管サーバ
3 画像処理ワークステーション
9 ネットワーク
31 画像取得部
32 選択的強調処理部
33 輝度値割当部
34 不透明度割当部
35 レイキャスティング部
36 画像表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を表す3次元医用画像を構成する各画素に不透明度を割り当て、任意の視点と前記3次元医用画像が投影される投影面上の各画素とを結ぶ複数の視線に沿って前記不透明度を積算しながら、前記投影面上の画素の画素値を決定するボリュームレンダリング法によって、前記3次元医用画像から擬似3次元画像を生成する画像処理方法において、
前記3次元医用画像に対して、該3次元医用画像中の注目構造を選択的に強調する画像処理を行って、処理済3次元医用画像を生成し、
該処理済3次元医用画像に基づいて、前記各画素に不透明度を割り当てるようにしたことを特徴とする画像処理方法。
【請求項2】
被検体を表す3次元医用画像を構成する各画素に不透明度を割り当てる不透明度割当手段と、任意の視点と前記3次元医用画像が投影される投影面上の各画素とを結ぶ複数の視線に沿って前記不透明度を積算しながら、前記投影面上の画素の画素値を決定するレイキャスティング手段とを備えた、ボリュームレンダリング法によって前記3次元医用画像から擬似3次元画像を生成する画像処理装置において、
前記3次元医用画像に対して、該3次元医用画像中の注目構造を選択的に強調する画像処理を行って、処理済3次元医用画像を生成する選択的強調手段をさらに備え、
前記不透明度割当手段が、該処理済3次元医用画像に基づいて、前記各画素に不透明度を割り当てるものであることを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
前記選択的強調手段が、
前記3次元医用画像を表す原画像信号Sorgの各画素に対応して該各画素の周囲の前記注目構造よりも大きい範囲内の前記原画像信号Sorgに基づいて非鮮鋭化した非鮮鋭マスク信号Susを求め、前記注目構造よりも大きい部分で前記原画像信号Sorgが前記注目構造の前記原画像信号Sorgと同じ値となる部分の前記非鮮鋭マスク信号Susを入力したときの出力値と、前記注目構造の部分の前記非鮮鋭マスク信号Susを入力したときの出力値とが異なる値となる関数をg(Sus)としたとき、
式Sproc=Sorg+g(Sus)
に従って前記原画像信号Sorgを処理して、前記処理済3次元医用画像を表す処理済画像信号Sprocを求めるものであることを特徴とする請求項2記載の画像処理装置。
【請求項4】
コンピュータを、被検体を表す3次元医用画像を構成する各画素に不透明度を割り当てる不透明度割当手段と、任意の視点と前記3次元医用画像が投影される投影面上の各画素とを結ぶ複数の視線に沿って前記不透明度を積算しながら、前記投影面上の画素の画素値を決定するレイキャスティング手段として機能させ、前記コンピュータに、ボリュームレンダリング法によって前記3次元医用画像から擬似3次元画像を生成させる画像処理プログラムにおいて、
前記3次元医用画像に対して、該3次元医用画像中の注目構造を選択的に強調する画像処理を行って、処理済3次元医用画像を生成する選択的強調手段として前記コンピュータをさらに機能させ、
前記不透明度割当手段が、該処理済3次元医用画像に基づいて、前記各画素に不透明度を割り当てるように前記コンピュータを機能させることを特徴とする画像処理プログラム。
【請求項5】
前記選択的強調手段が、
前記3次元医用画像を表す原画像信号Sorgの各画素に対応して該各画素の周囲の前記注目構造よりも大きい範囲内の前記原画像信号Sorgに基づいて非鮮鋭化した非鮮鋭マスク信号Susを求め、前記注目構造よりも大きい部分で前記原画像信号Sorgが前記注目構造の前記原画像信号Sorgと同じ値となる部分の前記非鮮鋭マスク信号Susを入力したときの出力値と、前記注目構造の部分の前記非鮮鋭マスク信号Susを入力したときの出力値とが異なる値となる関数をg(Sus)としたとき、
式Sproc=Sorg+g(Sus)
に従って前記原画像信号Sorgを処理して、前記処理済3次元医用画像を表す処理済画像信号Sprocを求めるように前記コンピュータを機能させることを特徴とする請求項4記載の画像処理プログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−338(P2006−338A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179054(P2004−179054)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】