説明

画像処理方法

【課題】 ピーク状構造に対する形状選択性を有する画像処理方法を提供する。
【解決手段】 入力画像を処理する方法により、ピーク状構造の強調された出力画像が生成される。入力画像は入力画素からなり、各入力画素は強度特性を有する。出力画像は、対応する出力画素からなり、各出力画素は値を有する。本方法は、入力画素について、直交する2方向(その一方は最大曲率の方向)の強度特性の二次導関数を計算するステップを含む。この2つの二次導関数の積が計算され、この積に応じて、入力画素に対応する出力画素の値が決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力画像を処理してピーク状構造の強調された出力画像を生成する方法に関する。本発明はさらに、当該方法を実施するコンピュータプログラム、該コンピュータプログラムが保存されたデータ記憶媒体並びに該コンピュータプログラムを実行するように構成されたシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
画像の処理は、生物試料の画像を解析し、一定の特徴の有無を調べなければならない生物学の分野において特に、今日的な意義がある。それらの特徴には、細胞内の成分、繊維、微粒などが含まれる場合がある。蛍光顕微鏡検査により、蛍光体と呼ばれる単分子の分布を画像化することが可能である。
【0003】
生体画像は一般にセグメンテーション法を用いて処理される。画像セグメンテーションは、対象物の構造を識別するために該対象物をその背景と区別する、画像処理の一形式である。画像セグメンテーションは、対象物の特徴的なサイズ及び/又は形状に基づいて実施可能である。サイズの範囲は、既知であっても、モデル化されていてもよい。例えば、細胞試料中の核のサイズが既知の範囲に収まる場合は、セグメンテーションを実施して、核のサイズを有する特徴を識別することが可能である。他の、特徴的サイズの細胞状の対象物として、エンドサイトーシス経路及びエキソサイトーシス経路内のミトコンドリア、細胞顆粒、小胞などの細胞器官がある。さらに、細胞全体又は細胞内の構造全体を検出するために、サイズに基づくセグメンテーションを実施することも可能である。
【0004】
細胞画像は、一般に、いわゆるトップハットベースのセグメンテーションを用いて処理される。トップハット変換は、予め定義されたサイズの対象物をセグメンテーションするために用いられる。トップハット変換は、高速かつ局所的細部に対して高感度であり、様々な蛍光分析に有効であることが実証されている。しかし、トップハットは、画像の局所的強度分布の形状には選択的ではない。トップハットは概して、トップハットが最適化される断面を有するピーク状構造、リッジ状構造及びエッジ状構造に対して等感度である。このように、異なる形態と構造に対して感度が混同することは、粒状度解析及び繊維検出の不十分、アーティファクト及び偽陽性の原因となる。
【非特許文献1】T. Lindeberg, "Edge detection and ridge detection with automatic scale selection", International Journal of Computer Vision, 1998, Vol.30(2), pp.117-154
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ピーク状構造に対して形状選択性を有する画像処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この、本発明の目的は、入力画像を処理してピーク状構造の強調された出力画像を生成する方法が提供された場合に達成され、入力画像は入力画素からなり、各入力画素は強度特性を有し、出力画像は、対応する出力画素からなり、各出力画素は値を有し、本方法は、入力画素について、直交する2方向(その一方は最大曲率の方向)の強度特性の二次導関数を計算するステップと、2つの二次導関数の積を計算するステップと、その積に応じて、入力画素に対応する出力画素の値を決定するステップと、を含む。入力画素は、グレイスケール画像であってよい。強度特性は、画像の強度に関連するパラメータである。強度特性は、例えば、画像の色(色相や彩度など)や、カラー画像又はグレイスケール画像の強度に関連するものであってよい。本方法は、非常に強い形状選択性を呈し、ほとんど知覚できない混合感度でピーク状構造を強調する。
【0007】
なお、"Edge detection and ridge detection with automatic scale selection" by T. Lindeberg in International Journal of Computer Vision, 1998, volume 30(2), pages 117 to 154には、生体画像のエッジ及びリッジを強調する方法が開示されている。この方法では、直交する2方向(その一方は最大曲率の方向)の二次導関数を計算する。この方法では、一方の二次導関数が大きくかつ負であって、他方の二次導関数が小さくなる入力画素を選択する。大きい方の二次導関数の絶対値は、リッジ強度の尺度として使用される。この方法は、リッジに対してだけでなくピークに対しても高感度であるが、この記事において、ピークを強調する方法については開示されていない。
【0008】
本発明の方法は、好ましくは、出力画素の値が積の平方根に依存することを特徴とする。この平方根は、入力画像の強度特性の範囲をほぼ確保している。
【0009】
両方の二次導関数の値が負である場合、出力画素の値が2つの導関数の積に依存し、それ以外の場合は、出力画素の値が定数であると、出力画像においてピークがより明確に強調される。この定数は、ゼロであることが好ましい。
【0010】
出力画像のノイズは、二次導関数が二次ガウス導関数として計算される場合に、低減される。ガウス導関数は、入力画像の強度特性の範囲を確保している。ガウス導関数は、サイズsを有する領域にわたって計算されることが好ましい。sの値は、入力画像の特徴の平滑化の度合いを決定する。したがって、sの値はさらに、本方法が選択的である特徴のサイズを決定する。
【0011】
二次導関数が求められる、直交する2方向は、強度特性のヘッセ行列の固有ベクトルの方向であることが好ましい。ヘッセ行列がsをパラメータとすると(すなわち、サイズがsである二次ガウス導関数を使用すると)、ノイズが低減されて、固有ベクトルの計算の精度が向上する。
【0012】
本方法の特殊な一実施形態(いわゆるマルチスケジュール手法)では、各入力画素についての計算はsの一連の値について実施され、出力画素の一連の中間値を生じる。本方法では、sについて1つの値だけを使用すると、1つのサイズの特徴に対してのみ高感度となる一方、一連の値を使用すると、入力画像の中に存在しうる様々なサイズの特徴に対して高感度になる。出力画素の値は、対応する入力画素について決定された一連の中間値のうちの最大値として選択されることが好ましい。
【0013】
画像内の特徴をそれらの背景と区別するために、二次導関数の計算の前に、入力画像に対する前処理ステップを実施することが好ましい。コンピュータプログラムに非常に効率的に実装できる、画像前処理の好適な方法の1つが、トップハット変換である。トップハットは、s領域にわたる平均によってノイズを低減することを含み得る。
【0014】
本発明の方法は、二次導関数の計算に先行する前処理ステップを含むことが可能である。このステップにより、ピーク強調プロセスのための入力画像の準備を行うことが可能である。有利なことに、トップハット変換のようなセグメンテーションアルゴリズムを用いることが可能である。
【0015】
本発明の方法は、生物学的標本を表す画像の処理に非常に好適である。
【0016】
本発明の第2の態様は、本発明の方法を実施するために構成されたコンピュータプログラムに関する。
【0017】
本発明の第3の態様は、上記コンピュータプログラムが保存されたデータ記憶媒体に関する。
【0018】
本発明の第4の態様は、上記コンピュータプログラムを実行する処理装置を含む解析器システムに関する。
【0019】
添付図面を参照しながら、例示目的でのみ示す以下の本発明の好ましい実施形態の説明を読むことによって、本発明のさらなる特徴及び利点が明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本文書は、以下の定義に準拠する。
【0021】
・「強度」は、伝搬方向に垂直に置かれた単位面積を通るエネルギーの流量(流速)である。強度は、エネルギーの流れの局所的な(座標依存の)尺度として理解される。画像の記憶された表現の場合、強度は、画像の画素の明るさの尺度であり、例えば、画像の暗い部分(例えば、光が当たっていない背景や、密集した非蛍光性細胞質領域)は強度が低く、明るい部分(例えば、強い蛍光体で標識された領域)は強度が高い。
【0022】
・「画素」は、デジタル画像の基本単位である。画素は、形状表現及び強度特性の両方を有する。画素の形状表現は、デカルト座標系のX,Yに中心がある正方形であり、X及びYは両方とも、連続(x,y)値と異なり、離散(整数)値を有する。画素の強度特性は、座標X,Yに関連付けられた局所センサで定義される状況依存数値である。強度特性は、画像取得のプロセスの間に、画素に割り当てられる。強度特性は、光子検出器で局所的に測定される放射強度であってよい。
【0023】
・「デジタル画像」(「画像」とも称される)は、W×H(幅×高さ)個の画素で構成される長方形の配列(グリッド、格子)である。デジタル画像U(X,Y)は、長方形領域{0<x<W,0<y<H}における当該二次元の場F(x,y)の区分線形(区分毎に直線的な)表現を与える。F(x,y)とU(X,Y)とを関連付ける数学的変換を、F→Uサンプリングと呼ぶ。画像は画素の集合にすぎないので、「形状表現」及び「強度特性」という用語を画像に適用しても曖昧さはない。
【0024】
・「画素強度」は、「X,Yにおける画像強度」又は単にU(X,Y)とも称される、デジタル画像Uの座標X,Yにおける画素の強度である。
【0025】
・「画像取得」は、F→Uサンプリングを実施し、その結果として、デジタル画像Uを作成するハードウェアプロセスである。画像取得は、画像Uの全画素の形状表現及び強度特性の両方を定義する。
【0026】
・「画像変換」Tは、所与の入力画像U(及び何らかの追加データ)に対して、入力画像Uと同じ形状表現と、U(X,Y)に基づいて計算された、異なる強度特性R(X,Y)とを有する出力画素Rの計算を定義する規則R=T[U,.]によって定義される。
【0027】
・「2値画像変換」Tは、同じ形状表現及び画素強度を有する入力画像対U(X,Y)及びU(X,Y)に依存して、次式で与えられる画像変換である。
【0028】
【数1】

画像演算の例としては、例えば以下のものがある。
【0029】
【数2】

・「関数画像変換」は、式R(X,Y)=f[U(X,Y)]で定義される画像変換である(fは、通常は実数の集合に関して定義される代数関数、初等関数その他の任意の関数である)。
例:グレイスケール画像の対数R(X,Y)=log[U(X,Y)]。
【0030】
・「画素毎の画像演算」は、1以上の2値画像変換及び/又は関数画像変換の組合せで表される画像変換である。
【0031】
・「マスク画像Bとの画像畳み込み」は以下の画像変換である。
【0032】
【数3】

ただし、D及びDはそれぞれマスク画像Bの幅の半分及び高さの半分である。マスクBの幅及び高さは共に奇数であり、それぞれW=2D+1及びH=2D+1でなければならない。
【0033】
・「サイズ(スケール)sのボックス平均」は、画像とサイズs(W=H=s)の正方形1 Box画像との正規化畳み込みである。
1 Box画像の強度特性は、
0<i<s,0<j<sのようなすべてのi,jについて、1 Box(i,j)=1
として定義される。正式には、ボックス平均変換は次式で定義される。
【0034】
【数4】

・「サイズsのガウス平均」は、画像と、サイズsの正規化ベル形状(2dガウス形)関数G(x,y|s)を表すマスク画像との畳み込みである。この平均はガウス平滑化とも呼ばれる。これは次式で定義される。
【0035】
【数5】

・「サイズsのガウスn次導関数演算」は、画像と対応するガウス形マスクとの畳み込みであり、正式には次式で定義される。
【0036】
【数6】

・「2値画像」は、2値強度特性(すなわち、U(X,Y)∈{0,1}なる強度特性)を有する画像である。
【0037】
・「画像2値化演算」は、出力画像が2値画像である画像変換である。この変換は、通常、画素毎の変換である。
【0038】
・「画像閾値処理」は、閾値をtとすると、次式の画像2値化演算として定義される。
【0039】
【数7】

・「ラベル付き画像」は、整数強度特性(すなわち、U(X,Y)∈Zなる強度特性)を有する画像である。ラベル付き画像では、各強度値Lが、ラベルとして、U(X,Y)=Lを満たす画素集合に関連付けられ、したがって、各ラベルは幾何学的物体を表す。
【0040】
・「画像ラベル付け」は、出力画像がラベル付き画像である画像変換である。
【0041】
・「画像セグメンテーション」は、問題に対して与えられたセマンティックコンテクストに従って実施される画像ラベル付け演算である。このセグメンテーション演算は、画像を、関心対象物とも呼ばれる画素集合(ラベル)に分割する。さらに、通常は、背景画素(非関心対象物)も存在する。ほとんどの画像処理用途では、背景画素に選択されるラベルは、U(X,Y)=0である(ゼロ背景規則)。
【0042】
入力画像は、蛍光顕微鏡検査により取得可能である。蛍光顕微鏡検査は、分子生物学及び細胞生物学において、用途が広く、一般に普及している手法である。蛍光顕微鏡検査は、一部の原子及び分子の、特定波長の光を吸収し、その後、そのエネルギーを、より長い波長で再放出する性質に基づく。関心特徴が天然の蛍光性を有しない場合は、特定の波長の光を吸収及び再放出する蛍光体を用いて、その特徴をラベル付けすることが可能である。蛍光体は、組織固有、細胞固有又は細胞器官固有の導入遺伝子の遺伝子産物であってよく、あるいは、外因性化合物として細胞懸濁液に追加されてもよい。位相勾配、光吸収、複屈折などのような、肉眼で見える標本特徴に基づく、他のモードの光学顕微鏡検査と異なり、蛍光顕微鏡検査は、蛍光放出の性質のみに基づいて、単分子を識別し、その分布を画像化することが可能である。
【0043】
蛍光顕微鏡検査では、特定の蛍光体で標識された細胞内成分の正確な位置、並びにそれらに関連付けられた拡散係数、輸送特性及び他の生物分子との相互作用を監視することが可能である。さらに、局所化された環境変数に対する蛍光反応があれば、生物細胞及び生物組織のpH、粘性、屈折率、イオン濃度、膜電位及び溶媒極性を調べることが可能である。
【0044】
本発明は、1以上の蛍光マーカーで標識された多種多様な生物学的構造を検出する方法であって、潜在的に自動式、高速、かつ効率的である方法を提供する。複数のマーカーを一緒に使用することが可能である。本方法は、(コンビナトリアルライブラリにあるような薬剤候補を含み、これに限定されない)生物学的対象の化合物又は任意の分子に対して実施される細胞検定に用いられることが可能であり、生物学的対象の化合物の高スループットスクリーニングを可能にする。本発明は、多種多様な生物学的構造の識別に有用である。本発明の方法はまた、神経細胞の解析に特に有用である。
【0045】
生物学的標本は、任意の既知の蛍光体又は蛍光ラベルで標識されることが可能であり、そのような蛍光体又は蛍光ラベルとして、フルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド、Amersham社から市販の染色試薬Cy(商標)3、Cy(商標)5、Cy(商標)5.5及びCy(商標)7、DRAQ5(商標)、Hoechst社の核染色試薬、クマリン染色試薬などがあり、これらに限定されない。これらのラベルの詳細については、Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals by R.P. Haugland, 6th ed., 1996, Molecular Probes, Inc., Eugene, Oregonを参照されたい。代替として、経時変化調査中に同じ細胞集団が何度も画像化及び解析される検定では、無毒性核マーカーを用いることが可能である。そのような無毒性マーカーは、NLS蛍光タンパク質融合であってよい。例えば、Clontech(商標)pHcRed1−Nucベクターは、細胞系に形質移入したときに核内に赤い蛍光信号を生成する。代替として、GFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子を含むベクターの形質移入によって、緑色信号を生成することが可能である。
【0046】
図1は、前述の試料の画像化に用いることが可能な蛍光顕微鏡の概略図である。そのような顕微鏡の一例が、米国特許第6400487号及び同第6388788号で開示されているAmersham社から市販のBiosciences IN Cell Analyzer3000システムに組み込まれたニコンTE2000顕微鏡である。この顕微鏡は、電磁放射源、例えば、電球1及び/又はレーザ2を備え、電球1及びレーザ2は、350〜750nmの光学距離で放射を行い、これらの放射は、それぞれ、レンズ3及び4によって平行にされる。この顕微鏡はさらに、シリンドリカルレンズ5と、第1のスリットマスク6と、第1のリレーレンズ7と、ダイクロイックミラーの形式のビームスプリッタ8と、対物レンズ9と、試料ウェル11の二次元配列を含むマイクロタイタープレート10と、結像レンズ12と、フィルタ13と、第2のスリットマスク14と、検出器15と、を備える。これらの要素は、それぞれマスク6、14にあって、図1の面に対して垂直に延びるスリットアパーチャ16、17で定義される光軸OAに沿って配置される。レンズ7、9及び12の焦点距離とこれらのレンズの間隔、並びに、マスク6とレンズ7との間隔、対物レンズ9とマイクロタイタープレート10との間隔及びレンズ12とマスク14との間隔が、共焦顕微鏡を実現するように構成されている。しかし、例えば、米国特許第6563653号及び同第6345115号で開示されているAmersham社から市販のBiosciences IN Cell Analyzer 1000システムに組み込まれているような非共焦顕微鏡を用いることも可能であることを理解されたい。
【0047】
この実施形態では、電磁放射源からの電磁放射は、シリンドリカルレンズ5によって、ある特定の線に集束される。この線の形状は、第1のスリットマスク6によって最適化される。スリットマスク6は、マイクロタイタープレート10の面と共役な、光学系の面として示されている。スリットマスク6内のアパーチャ16によって形成される照射ストライプは、レンズ7、ダイクロイックミラー8及び対物レンズ9によって、マイクロタイタープレート10までリレーされる。説明の便宜上、各光学要素は断面図で描かれ、ウェルプレートは斜視図で描かれている。ウェルプレート10への照射の線の投射は、線18で描かれている。矢印A及びBで示されるように、ウェルプレート10は、図示されていない手段によって、配列の方向に平行な2方向(x,y)に動かされることが可能である。
【0048】
代替として、スリットマスク6は、対物レンズ9の後焦点面(BFP)19に共役な面にある、光学系のフーリエ面として構成されることが可能である。この場合、スリットアパーチャ16は、図の面内にあり、レンズ7は、アパーチャ6によって形成された照射ストライプを対物レンズ9の後焦点面19までリレーし、これによって、照射ストライプは、図1の面に垂直なマイクロタイター10の面内の線に変換される。
【0049】
電磁放射源からの放射は、スリットマスク6を使用せずに、対物レンズ9の後焦点面19に集束されることも可能である。これは、図1に示されるように、シリンドリカルレンズ5と球面レンズ7との組合せによって達成可能であり、あるいは、シリンドリカルレンズ5によって、照射を面19に直接集束させることも可能である。
【0050】
試料エリアの画像、例えば、試料ウェル11内にある試料の画像を取得するには、照射の線18が試料の全体にわたって配置されるようにマイクロタイター10を位置決めし、試料からの蛍光放射を検出器15に画像化し、検出器15の読み取りと同期して、プレート10を、照射の線に垂直な方向に平行移動させる。蛍光放射は、対物レンズ9によって収集され、ビームスプリッタ8を通って投射され、レンズ12によって、フィルタ13及び第2のスリットマスク14を経て検出器15に画像化される(これは、例えば、無限遠補正対物レンズ9を有する共焦画像化システムに該当する)。ビームスプリッタ8及びフィルタ13は、照射波長の光を優先的にブロックする。検出器15は、Amersham社から市販のBiosciences IN Cell Analyzer 3000システムに組み込まれているような、Roper CoolSnap HQ(商標)などのカメラであってよい。検出器は、一次元であっても二次元であってもよい。一次元の検出器を用いる場合は、スリットマスク14が不要である。照射、検出及び平行移動の手順は、所定の範囲が画像化されるまで続けられる。マイクロタイターの平行移動が連続レートで行われる場合は、マイクロタイターの機械的運動が簡略化される。カメラの読み取り時間が露出時間に比べて短い場合には、連続運動が最も有用である。好ましい実施形態では、カメラの読み取りは連続的に行われる。露出時間と読み取り時間とを合わせた時間帯における試料の変位dは、照射線の幅Wより大きくても小さくてもよい(例示的には、0.5W≦d≦5W)。同様の方法で、マルチウェルプレートのすべてのウェルを画像化することが可能である。
【0051】
図2は、解析器システムのデータ処理コンポーネントの概略図である。本システムは、Amersham社から市販のBiosciences IN Cell Analyzerシステムをベースとする細胞解析システム30を含む。細胞解析システム30は、検出器Dを含み、Dは、図1に示すような顕微鏡の検出器15であってよい。細胞解析システム30はさらに、制御装置31と、画像データストア32と、入出力(I/O)装置33とを備える。
【0052】
関連付けられたコンピュータ端末34が、中央処理装置(CPU)35と、メモリ36と、ハードディスクドライブ37のようなデータ記憶装置と、I/O装置38とを含み、I/O装置38は、コンピュータと細胞解析システム30との相互接続及びコンピュータとスクリーン40の表示要素39との相互接続(スクリーンI/O装置41経由)をそれぞれ推進する。オペレーティングシステムプログラム50(Microsoft Windows XP(商標)など)が、ハードディスクドライブ37に格納され、既知の様式で、コンピュータ端末34の低レベル動作を制御する。プログラムファイル及びデータ51も、ハードディスクドライブ37に格納され、既知の様式で、関連付けられた装置を介してのオペレータへの出力を制御し、ハードディスクドライブに格納されたデータを出力する。その関連付けられた装置は、スクリーン40の一要素であるディスプレイ39と、別のI/O装置(図示せず)を介して、オペレータからの入力を受け取り、オペレータに情報を出力するポインティング装置(図示せず)及びキーボード(図示せず)とを含む。ハードディスクドライブ37に格納されたプログラムファイル51には、画像処理及び解析アプリケーション52と、検定制御アプリケーション53と、細胞解析システム30から受け取った画像データ及びデータ処理中に生成された出力ファイルを格納するデータベース54とが含まれる。画像処理及び解析アプリケーション52は、画像処理及び解析ソフトウェアパッケージを含む。本発明の一実施形態による方法は、画像処理及び解析アプリケーション52の中にソフトウェアとして実装されることが可能である。
【0053】
細胞解析システム30による走査の実施が、制御アプリケーション53を用いて制御され、画像データが取得される。一実施形態では、制御アプリケーションは、図1に示す顕微鏡の自動焦点システムと連係して動作する。検出器D1による、マイクロタイタープレートの少なくとも1つのウェルに入る画像データの取得が終了すると、その画像データは、コンピュータ34に送られ、コンピュータ端末のハードディスクドライブ37のデータベース54に格納され、この時点で、画像データは、画像処理及び解析アプリケーション52を用いて処理されることが可能である。
【0054】
図3は、本発明による、生物学的標本の入力画像を処理する方法のフロー図である。この実施形態の入力画像60は、図1に示す蛍光顕微鏡でキャプチャされ、図2に示す解析器システムで解析されるデジタル画像である。入力画像60は、各画素が強度を有する複数の画素からなるグレイスケール画像である。
【0055】
ステップ62で、オプションの前処理変換が入力画像60に適用される。この前処理は、トップハット変換を含んでよい。次のアルゴリズムに従って、非線形トップハット変換Tが、入力画像の強度値Uを、出力画像の強度値Rに変換する。
【0056】
【数8】

この変換は、入力画像の入力画素に対して実行される、画素毎の演算である。各入力画素U(X,Y)に対し、結果として得られる出力値は、対応する出力画素R(X,Y)に割り当てられる。<U>は、変換が適用されている、入力画像の画素の周囲の、サイズsの領域全体にわたる、入力画像の画素の強度の平均である。この平均は、ガウスタイプ又はボックスタイプの平均であってよい。スケールパラメータsは、アルゴリズムが高感度である特徴のサイズを決定する。平均をとる範囲は、変換が適用されている画素を中心とする、一辺が2s+1個の画素である正方形として定義されることが可能である。パラメータK及びkは、チューニング係数である。
【0057】
前述の変換のパラメータは、対象領域の最適セグメンテーションのための調整が可能である。前述の変換は、パラメータk=1.5及びK=3の組合せで、多種多様なサイズ及び形状の領域を分割する場合に非常に効果的であることが示されている(sの値は、生物学的関心対象物のサイズに応じて選択される)。さらに、この変換は、2GHzプロセッサを有するデスクトップPCで実行された場合に、1000×1000画素の入力画像を処理し、約0.2秒で分割画像を返す。
【0058】
非線形トップハット変換は、ある画素が第1の強度範囲にあり、その画素の近くにある画素も第1の強度範囲にあり、その遠巻きの周囲が第2の、別の強度範囲にある場合に、最初の画素を、関心対象構造を表現する領域の一部であるとして識別するような、ヒューリスティックな画素比較を実施する。この変換は、領域Ksがksを含まないように実施されることも、領域Ksがksを含むように実施されることも可能であり、後者が計算的に高速である。好ましい一実施形態では、第1の強度値は第2の強度値より高いので、蛍光体で標識された領域を表現する画素は、生物学的関心対象構造を表現する領域の中にあるとして識別される。
【0059】
前処理アルゴリズムは、スケールパラメータsに対応するサイズの生物学的構造を表現する領域を、サイズに応じて強調して、そのような領域を、背景及び高強度の単一「スパイク」に起因するノイズと区別する。このアルゴリズムを画像に適用すると、前処理画像63が得られる。この前処理画像では、生物学的関心対象構造は、その後の処理に最も適切なように(例えば、それらを陰影から独立させることによって)強調されている。
【0060】
この画像処理方法の次のステップは、本発明による強調アルゴリズムを、前処理画像63を入力画像として、適用することである。このアルゴリズムは、入力画像63の画素について、sをパラメータとするヘッセ行列H(次式)を計算する。
【0061】
【数9】

対角行列化は、既知の手順で実施可能であり、例えば、J. Weickert, "Multiscale texture enhancement", 'Computer analysis of images and patterns; Lecture notes in computer science', edited by V. Hlavac and R. Sara, Vol. 970 (Springer, Berlin, 1995), pages 230-237に開示されているように実施可能である。回転角度Φがわかれば、次のルールに従って、導関数Upp,s及びUqq,sを計算することが可能である。
【0062】
【数10】

入力画素に強調アルゴリズムを適用することにより、出力画像が得られる。強調アルゴリズムは、次式に従って、いわゆるピーク強度値を各出力画素に割り当てる。
【0063】
【数11】

強調アルゴリズムの適用によって、出力画像が形成される。出力画像は、強調画像65であって、スケールパラメータsの値に対応したピーク状特徴を示す。前処理アルゴリズム及び強調アルゴリズムのためのスケールパラメータの値は、一般には、等しくなるように選択されるが、異なる値であってもよい。その差は、小さいことが好ましい。
【0064】
前処理アルゴリズム及び強調アルゴリズムを適用するプロセスは、複数の異なる値のスケールパラメータについて実施されることが可能であり、これによって、入力画像の、複数のサイズを有する特徴を区別することが可能になる。図3では、そのようなマルチスケールの方法を、ステップ66を含むループで示している。このマルチスケールの方法は、関心対象の形状(例えば、エッジ、リッジ、ピーク又はコーナー)を選択することから始まる。図3に示す、本方法の実施形態では、関心対象の形状はピークであり、これに対して、本発明の方法が用いられる。次に、スケールのスペクトルが定義される。これは、一般に、試料の出所に依存する。スペクトルは、一連のスケールパラメータ値sを含む。各スケールパラメータ値について、参照符号62から66で示されたループを通る処理が行われる。ステップ62で、スケールパラメータの第1の値を有する様々な形状(例えば、線形又は非線形トップハット)に対して高感度な前処理アルゴリズムによって、入力画像が処理される。前処理アルゴリズムの結果として得られた前処理画像63は、ステップ64の入力として使用され、ステップ64は、本発明による、ピークに対して高感度な方法のような、選択された関心対象形状に対して選択的なアルゴリズムを適用する。この、形状に対して選択的なアルゴリズムは、同じ値のスケールパラメータを使用する。結果として得られる中間的な強調画像65は、ハードディスクドライブ37に格納される。ステップ66で、スペクトル内の値を順に処理する所定の方式に従って、スケールパラメータの値が変更される。得られた複数の中間的な強調画像65を処理して、単一の最終強調画像にすることが可能である。画像を結合する一方法では、中間画像同士を画素毎に比較し、その画素が複数の中間画像において有する強度値のうちの最も高い値を、最終強調画像のその画素に割り当てる。別の方法では、最終強調画像の画素の値は、中間画像のその画素の値の積である。
【0065】
その後、ステップ67で、強調画像に出力前処理を施すことが可能である。出力前処理は、強度に基づくセグメンテーションのステップを含むことが可能である。この処理ステップは、画像内で(好ましくは高い)ある強度範囲の強度を有する画素のグループを選択する。そのような方法の例として、ユーザ制御の閾値処理又は自動閾値処理(最適画像の2分割)や、強度に基づく局所的又は包括的な領域成長法や、これらの任意の組合せがある。閾値処理は、グレイスケール画像を白黒画像に変換する方法であって、特定の強度閾値を下回る強度を有する画素を黒の画素に変換し、その閾値を上回る強度を有する画素を白の画素に変換することによって行われる。この閾値に基づく変換を反転することにより、ネガの画像を生成することが可能である。画像が白黒画像に変換された後、その白黒画像を走査して、生物学的構造を表現する領域を識別することが可能である。領域内の画素は、4連結条件(すなわち、その領域内のすべての画素が水平方向又は垂直方向に接触していること)によって識別可能である。出力前処理の結果として、出力画像68が得られる。
【0066】
他の出力前処理方法は、関心対象領域を人間のユーザによりわかりやすく示すために、強調画像を構成する画素の強度値を変更することを含むことが可能である。関心対象の生物学的構造を表現する領域を強調表示するには、生物学的構造を表現する領域の中にあるとして識別された画素の強度値を高くし、他のすべての画素の強度値を低くする。代替として、画像がネガの場合は、そのような領域の一部であるとして識別された画素の強度値を低くすることが可能である。
【0067】
出力前処理時に画素の強度値を変更することはさらに、領域を明確に表すため又は背景のノイズを抑圧するために、領域内(又は背景内)の画素強度値を平均することを含むことも可能である。代替として、画像にアルゴリズムを適用する前にノイズを抑圧することも可能である。
【0068】
さらに、出力前処理は、輪郭描画を含んでもよい。輪郭描画は、細い可視境界を画像に適用して、分割された領域と背景とを線引きすることからなる。生物試料の画像に関して本発明の実施形態を説明してきたが、本発明の方法により、他の対象物の画像も同様に処理できることは明らかである。本方法の前述の実施形態における変換は、同じサイズの2D入力画像及び出力画像について動作する。これらの変換は、サイズが同じでない画像についても同様に動作可能である。画像は、これらの変換が動作可能な、画素の3D配列であってもよい。前述の定義及び実施形態は、画像の次元に依存しない。前述の実施形態はグレイスケール画像をベースとしているが、本発明は、適切な強度特性が選択されているカラー画像にも同様に適用可能である。
【0069】
前述の実施形態は、本発明の説明的な例であると理解されたい。本発明の別の実施形態も想定される。任意の1つの実施形態に関連して説明された任意の特徴が、単独でも、他の説明された特徴との組合せでも使用可能であること、並びに、他の任意の実施形態の1以上の特徴との組合せでも、他の任意の実施形態の任意の組合せでも、使用可能であることを理解されたい。さらに、前述されていない等価物及び修正物も、添付の請求項で定義される本発明の範囲から逸脱することなく、用いられることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】試料の画像化に用いられる蛍光顕微鏡の概略図である。
【図2】システムのデータ処理コンポーネントの概略図である。
【図3】本発明による画像処理方法のフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像を処理してピーク状構造の強調された出力画像を生成する方法であって、入力画像が入力画素を含んでいて各入力画素が強度特性を有しており、出力画像が対応出力画素を含んでいて各出力画素がある値を有しており、当該方法が、
入力画素について、直交する2方向の強度特性の二次導関数を計算するステップであって、上記方向の一方が最大曲率の方向であるステップと、
2つの二次導関数の積を計算するステップと、
上記積に応じて、入力画素に対応する出力画素の値を決定するステップとを
含んでいる方法。
【請求項2】
前記出力画素の値が前記積の平方根に依存する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記出力画素の値が、前記2つの二次導関数が共に負の値を有するときは前記積に依存し、それ以外のときは定数である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記二次導関数が二次ガウス導関数である、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記直交する2方向が、強度特性のヘッセ行列の固有ベクトルの方向である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記ヘッセ行列がsをパラメータとする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
各入力画素についての計算がsの一連の値について実施され、出力画素の一連の中間値を生じる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記出力画素の値が一連の中間値のうちの最大値である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記二次導関数の計算に先行する前処理ステップがある、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記前処理ステップがトップハット変換である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記画像が生物学的標本を表す、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法を実施するように構成されたコンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項12記載のコンピュータプログラムが保存されたデータ記憶媒体。
【請求項14】
請求項12記載のプログラムを実行する処理装置を備えるシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−512927(P2009−512927A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536124(P2008−536124)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【国際出願番号】PCT/GB2006/003890
【国際公開番号】WO2007/045878
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(398048914)ジーイー・ヘルスケア・ユーケイ・リミテッド (30)
【Fターム(参考)】