説明

画像処理装置、方法およびプログラム

【課題】血管等の所定の構造物の一部が表された断層画像を画面に表示させて観察する場合に、その断層画像上に設定した注目点と所定の構造物との位置関係を認識しやすく表示する。
【解決手段】1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる所定の構造物を表す木構造Msを3次元画像から抽出する構造抽出手段10と、3次元画像上の任意の位置を指定する操作者による入力に応じて、木構造Ms上に注目点Sを設定する注目点設定手段20と、注目点Sを含む任意の断層画像Ijと、該断層画像Ijに木構造Msの全体のうち注目点Sからその起始部を表す点Oまでの経路を構成する部分構造Pjを投影した投影像とを重畳させてなる投影画像Ij´を生成する投影画像生成手段30と、その生成された投影画像を表示する表示手段40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管等の所定の構造物が表された画像上において注目点が設定された場合にその注目点と前記所定の構造物との位置関係を認識しやすく表示する画像処理装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管が撮影されたCT、MRI等の断層画像を用いて血管の状態を調べる際に、注目する部分が動脈か静脈かを確認するため、医師等の操作者は、連続する断層画像を順次切り替えて表示させ、注目する部分から血管を根元まで辿っていくという処理を手作業を行っているが、この方法では操作者への負担が大きいため、より効率のよい確認方法が望まれている。
【0003】
これに対し、特許文献1では、病巣などの注目する点が表された断層画像を表示する際に、肋骨や椎骨などの骨を投影した投影像を重ねて表示することにより、病巣の位置を骨の位置との関係で把握しやすくする方法が提案されている。そこで、この方法を適用して、上記血管の断層画像を表示する際に、血管全体の構造を投影した投影像を重ねて表示することにより、一枚の表示画像を観察するだけで注目する部分のその部分を含む血管全体における位置を把握可能にする方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−93254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、血管全体の構造を投影した投影像を重畳表示する上記方法では、抽出された血管の全長が長いほど、又は血管の構造が複雑であるほど、重畳表示される血管の投影像が多くなり、注目する部分の観察の障害になるため、観察性能が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、所定の構造物が表された画像を画面に表示させて観察する場合に、その画像上に設定した注目点と所定の構造物との位置関係を認識しやすく表示する画像処理装置、方法およびプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像処理装置は、1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる所定の構造物を表す木構造を3次元画像から抽出する構造抽出手段と、3次元画像上の任意の位置を指定する操作者による入力に応じて、前記抽出された木構造上に注目点を設定する注目点設定手段と、設定された注目点を含む任意の断層画像と、その断層画像に前記抽出された木構造の全体のうち注目点から起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成する投影画像生成手段と、その生成された投影画像を表示する表示手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、木構造は、ノード群とノード間の連結関係を表すエッジ群で構成されるグラフのうち、1つのノードから分枝を繰返しながら広がって延びる構造を有するものをいう。
【0009】
上記画像処理装置において、構造抽出手段は、それぞれ1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる2以上の所定の構造物を表す複数の木構造を3次元画像から抽出するものであり、注目点設定手段は、前記指定された3次元画像上の位置に基づいて、前記抽出された複数の木構造上のいずれかの位置に注目点を設定するものであり、投影画像生成手段は、注目点設定手段により互いに連結する部分を有する複数の木構造上のその連結する部分あるいはその連結する部分よりも下流側に注目点が設定された場合、前記設定された注目点を含む任意の断層画像と、その断層画像に前記抽出された複数の木構造の全体のうち注目点から前記連結する部分を有する複数の木構造の各々の起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成するものであってもよい。
【0010】
ここで、「下流側」というのは、起始部から離れる側を意味する。
【0011】
また、上記画像処理装置において、構造抽出手段は、それぞれ1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる2以上の所定の構造物を表す複数の木構造を3次元画像から抽出するものであり、注目点設定手段は、前記指定された3次元画像上の位置に基づいて、前記抽出された複数の木構造上のいずれかの位置に注目点を設定するものであり、投影画像生成手段は、注目点設定手段により互いに近接する部分を有する複数の木構造上のその近接する部分あるいはその近接する部分よりも下流側に注目点が設定された場合、その設定された注目点を含む任意の断層画像と、その断層画像に前記抽出された複数の木構造の全体のうち注目点が設定された木構造上の注目点からその起始部を表す点までおよび前記近接する部分を有する他の木構造上の前記近接する部分からその起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成するものであってもよい。
【0012】
ここで、木構造上の一部分が他の木構造と近接する部分であるかどうかは、たとえばその部分と他の木構造との間隔の最小値が所定の閾値以下であるか否かにより判定することができる。このとき、閾値は所定の構造物の半径に基づいて設定することができる。
【0013】
また、木構造上の一部分を構成するエッジが他の木構造と近接する部分であるかどうかは、たとえばそのエッジの近傍に互いに直線をなすように接続可能なエッジのペアが2以上存在するか否かにより判定することができる。直線をなすように接続可能なエッジのペアが2以上存在する場合、ペア同士を接続する2以上の直線がそのエッジの近傍に存在する可能性が高いからである。このとき、近傍の範囲は所定の構造物の半径に基づいて設定することができる。
【0014】
また、上述の「近接する部分から」というのは、近接する部分がある程度の範囲に亘っている場合には、その範囲内のいずれの位置から、という意味である。
【0015】
また、上記画像処理装置において、投影画像生成手段は、前記部分構造と交差する任意の断層画像を指定する操作者の入力に応じて、その指定された第2の断層画像と、第2の断層画像に部分構造の全体のうちの第2の断層画像が部分構造と交差する点から起始部を表す点までの経路を構成する第2の部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる第2の投影画像を生成する機能をさらに有するものであり、表示手段は、前記生成された第2の投影画像を前記投影画像に切り替えてあるいは前記投影画像とともに表示するものであってもよい。
【0016】
また、投影画像生成手段は、2以上の異なる木構造の部分構造を投影して前記投影画像を生成する場合、木構造毎に投影像の表示色を互いに区別可能に異ならせるものであってもよい。
【0017】
また、本発明の画像処理方法は、上記画像処理装置の各手段が行う処理を、少なくとも1台のコンピュータにより実行する方法である。
【0018】
本発明の画像処理プログラムは、上記画像処理方法を少なくとも1台のコンピュータに実行させるプログラムである。このプログラムは、CD−ROM,DVDなどの記録メディアに記録され、またはサーバコンピュータに付属するストレージやネットワークストレージにダウンロード可能な状態で記録されて、ユーザに提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の画像処理装置、方法およびプログラムによれば、1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる所定の構造物を表す木構造を3次元画像から抽出し、3次元画像上の任意の位置を指定する操作者による入力に応じて、前記抽出された木構造上に注目点を設定し、その設定された注目点を含む任意の断層画像と、該断層画像に前記抽出された木構造の全体のうち注目点から起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成し、生成された投影画像を表示するようにしたので、注目点と所定の構造物との位置関係を認識しやすく表示することができる。
【0020】
たとえば、断層画像を用いて血管の状態を調べる際に、注目点が設定された部分が動脈か静脈かは、その部分から血管の起始部までを確認すれば充分であることから、血管全体のうちその確認に用いられる限られた部分のみを重畳表示することにより、血管全体を重畳表示する方法に比べて、観察により適した画像を提供することができる。
【0021】
上記本発明の画像処理装置、方法およびプログラムにおいて、それぞれ1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる2以上の所定の構造物を表す複数の木構造を3次元画像から抽出し、前記指定された3次元画像上の位置に基づいて、前記抽出された複数の木構造上のいずれかの位置に注目点を設定し、そこで互いに連結する部分を有する複数の木構造上のその連結する部分あるいはその連結する部分よりも下流側に注目点が設定された場合に、前記設定された注目点を含む任意の断層画像と、その断層画像に前記抽出された複数の木構造の全体のうち注目点から前記連結する部分を有する複数の木構造の各々の起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成するようにした場合には、注目点が2以上の所定の構造物のうちいずれの構造物上の点であるかが不明確である場合に、注目点とそれらの全ての所定の構造物との位置関係を認識可能に表示することができ、いずれか一方の誤った構造物との位置関係のみを表示することによって誤った画像解析が行われてしまうような事態の発生を防止することができる。
【0022】
また、それぞれ1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる2以上の所定の構造物を表す複数の木構造を3次元画像から抽出し、前記指定された3次元画像上の位置に基づいて、前記抽出された複数の木構造上のいずれかの位置に注目点を設定し、そこで互いに近接する部分を有する複数の木構造上のその近接する部分あるいはその近接する部分よりも下流側に注目点が設定された場合に、その設定された注目点を含む任意の断層画像と、その断層画像に前記抽出された複数の木構造の全体のうち注目点が設定された木構造上の注目点からその起始部を表す点までおよび前記近接する部分を有する他の木構造上の前記近接する部分からその起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成するようにした場合には、複数の木構造が互いに近接する部分を有する場合、その部分において2以上の所定の構造物が交錯し、木構造の抽出に誤りがあった可能性があることから、注目点がある一つの所定の構造物上の点として初期認識されているものの、注目点が2以上の所定の構造物のうちいずれの構造物上の点であるかが不明確である場合に、注目点とそれらの全ての所定の構造物との位置関係を認識可能に表示することができ、いずれか一方の誤った構造物との位置関係のみを表示することによって誤った画像解析が行われてしまうような事態の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施の形態に係る画像処理装置の概略構成を示す図
【図2】構造抽出手段により抽出された木構造の一例を示す図
【図3】投影画像生成手段による投影画像の生成処理を説明するための図
【図4】投影画像生成手段による第2の投影画像の生成処理を説明するための図
【図5】第2の実施の形態に係る画像処理装置の概略構成を示す図
【図6】構造抽出手段により抽出された木構造の一例を示す図(その1)
【図7】投影画像生成手段による投影画像の生成処理を説明するための図(その1)
【図8】構造抽出手段により抽出された木構造の一例を示す図(その2)
【図9】投影画像生成手段による投影画像の生成処理を説明するための図(その2)
【図10】特定のエッジが他の木構造と近接する部分であるかどうかの判定方法を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の画像処理装置および方法ならびにプログラムの実施形態について説明する。図1は本発明の実施形態となる画像処理装置1の概略構成図である。なお、図1のような画像処理装置1の構成は、補助記憶装置に読み込まれた画像処理プログラムをコンピュータ上で実行することにより実現される。このとき、この画像処理プログラムは、CD−ROM等の記憶媒体に記憶され、もしくはインターネット等のネットワークを介して配布され、コンピュータにインストールされる。図1の画像処理装置1は、医者等がCT、MRI等の断層画像を画面に表示させて血管の状態を観察する場合に、その観察により適した表示を提供するものであって、構造抽出手段10、注目点設定手段20、投影画像生成手段30、表示手段40を備えている。以下、本実施の形態では、本発明における所定の構造物が肝静脈である場合について説明する。
【0025】
構造抽出手段10は、肝臓が表された3次元画像Vから肝静脈を表す木構造を抽出する。具体的には、まず、3次元画像Vから肝静脈の画像的特徴および/または構造的特徴を有する領域を検出し、その領域を細線化して得られた細線を分岐点および所定の距離などで分割することによりグラフを生成する。ここで、3次元画像Vは、データ記憶手段に記憶されたたとえばCT装置、MRI装置、超音波診断装置等により取得された多数の連続する断層画像Ii(i=1〜n:nは断層画像の数)からなるものである。
【0026】
次に、生成されたグラフを構成する複数の候補点(ノード)の中から、形状モデル記憶手段DBに記憶された肝静脈の形状モデルMrefに一致もしくは最も類似する構造を形成する複数の候補点を、形状モデルMrefを構成する複数の教師ラベル(ノード)の各々に対応する対応点として選択し、選択された複数の対応点を形状モデルMrefに略一致するように接続することにより木構造Msを生成し、抽出する。これにより、たとえば図2に示すような木構造Msが抽出される。ここで、形状モデルMrefは、肝静脈の一般的な形状を表す木構造のグラフであって、たとえば多数のサンプル画像を学習することによって取得することができる。
【0027】
なお、上記対応点の選択は、たとえば下記式(1)で表すコスト関数Fの最小化を達成する最適解(対応関係)を求めることにより行う。ここで、Rは許容解xにおける候補点と教師ラベルの対応づけの集合を表し、θaは集合Rに属する任意の対応づけaに対するコストであり、θabは、集合Rに属する2つの対応づけaとbの組み合わせに対するコストである(特開2011−98195号公報参照)。
【数1】

【0028】
注目点設定手段20は、3次元画像V上の任意の位置を指定する操作者による入力に応じて、前記抽出された木構造Ms上に注目点Sを設定する。具体的には、ディスプレイ等の画像表示装置上に表示されたある断層画像Ij(j∈i)に対して、その画像表示装置上の任意の位置を指定するマウスやキーボード等の入力装置2による操作者の入力に応じて、その指定された位置に対応する断層画像Ij上の位置を取得し、さらにその取得された断層画像Ij上の位置に対応する3次元画像V上の位置を特定する。そして、特定された3次元画像V上の位置が木構造Ms上に有る場合にはその位置に、特定された位置が木構造Ms上にない場合にはその特定された位置から最も近い木構造上の位置に、注目点Sを設定する。
【0029】
投影画像生成手段30は、設定された注目点Sを含む断層画像と、その断層画像に木構造Msの全体のうち注目点からその起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成する。具体的には、まず、図3の左図に示すように、注目点Sから木構造Msの起始部を表す点Oまでの経路を構成する部分構造Pj(図中太線で表示)を特定し、特定された部分構造Pjを断層画像Ijに投影した投影像Pj´を生成する。そして、その生成された投影像Pj´と断層画像Ijとを重畳させてなる投影画像Ij´を生成する。これにより、たとえば図3の右図に示すような投影画像Ij´が生成される。この投影画像生成手段30において生成された投影画像Ij´は、表示手段40によってディスプレイ等の画像表示装置3上に表示される。
【0030】
また、投影画像生成手段30は、上記投影画像Ij´が生成および表示された後、その断層画像Ijよりも起始部側に位置する他の断層画像Ik(k∈i、k≠j)を画像表示装置上に表示することを指示するマウスやキーボード等の入力装置2による操作者の入力を受け付けた場合、投影画像Ik´をさらに生成する。具体的には、図4の左図に示すように、前記部分構造Pjの全体のうちの断層画像Ikが部分構造Pjと交差する点S´から木構造Msの起始部を表す点Oまでの経路を構成する第2の部分構造Pk(図中太線で表示)を特定し、特定された第2の部分構造Pkを断層画像Ikに投影した投影像Pk´を生成する。そして、その生成された投影像Pk´と断層画像Ikとを重畳させてなる第2の投影画像Ik´を生成する。これにより、たとえば図4の右図に示すような第2の投影画像Ik´が生成される。この生成された第2の投影画像Ik´は、表示手段40によって投影画像Ij´に切り替えてあるいは投影画像Ij´とともに画像表示装置3上に表示される。
【0031】
次に、本発明の画像処理装置および方法ならびにプログラムの第2の実施の形態について説明する。図5は本発明の第2の実施形態となる画像処理装置101の概略構成図である。なお、図5のような画像処理装置101の構成は、補助記憶装置に読み込まれた画像処理プログラムをコンピュータ上で実行することにより実現される。このとき、この画像処理プログラムは、CD−ROM等の記憶媒体に記憶され、もしくはインターネット等のネットワークを介して配布され、コンピュータにインストールされる。図5の画像処理装置101は、医者等がCT、MRI等の断層画像を画面に表示させて血管の状態を観察する場合に、その観察により適した表示を提供するものであって、構造抽出手段110、注目点設定手段120、投影画像生成手段130、表示手段140を備えている。以下、本実施の形態では、本発明における複数の所定の構造物が肝臓における門脈と肝動脈の2つの血管である場合について説明する。
【0032】
構造抽出手段110は、肝臓が表された3次元画像Vから門脈を表す木構造Ms1と肝動脈を表す木構造Ms2をそれぞれ抽出するものである。具体的には、まず、3次元画像Vから血管の画像的特徴および/または構造的特徴を有する領域を検出し、その領域を細線化して得られた細線を分岐点および所定の距離などで分割することによりグラフを生成する。そして、生成されたグラフを構成する複数の候補点(ノード)の中から、形状モデル記憶手段DBに記憶された門脈の形状モデルMref1および肝動脈の形状モデルMref2に一致もしくは最も類似する構造を形成する複数の候補点を、形状モデルMref1と形状モデルMref2を構成する複数の教師ラベルの各々に対応する対応点として選択し、選択された複数の対応点を形状モデルMref1と形状モデルMref2に略一致するように接続して門脈の木構造Ms1と肝動脈の木構造Ms2をを生成し、抽出する。これにより、たとえば図6、図8等に示すような木構造Ms1と木構造Ms2が作成される。
【0033】
ここで、形状モデルMref1は、門脈の一般的な形状を表す木構造のグラフであって、門脈を表す多数のサンプル画像を学習することによって取得することができ、形状モデルMref2は、肝動脈の一般的な形状を表す木構造のグラフであって、肝動脈を表す多数のサンプル画像を学習することによって取得することができる。
【0034】
注目点設定手段120は、3次元画像V上の任意の位置を指定する操作者による入力に応じて、前記抽出された複数の木構造上のいずれかの位置に注目点を設定するものであって、具体的には、ディスプレイ等の画像表示装置上に表示されたある断層画像Iiに対して、その画像表示装置上の任意の位置を指定するマウスやキーボード等の入力手段による操作者の入力に応じて、その指定された位置に対応する断層画像Ii上の位置を取得し、さらにその取得された断層画像Ii上の位置に対応する3次元画像V上の位置を特定する。そして、特定された3次元画像V上の位置が木構造Ms1または木構造Ms2上に有る場合にはその位置に、特定された位置が木構造Ms1および木構造Ms2上のいずれかの位置にない場合にはその特定された位置から最も近い木構造Ms1および木構造Ms2上のいずれかの位置に、注目点Sを設定する。
【0035】
投影画像生成手段130は、設定された注目点Sを含む断層画像と、その断層画像に前記抽出された木構造Ms1と木構造Ms2の全体のうち一部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成する。この投影画像の生成方法は、木構造Ms1と木構造Ms2間の位置関係および注目点Sの設定位置によって異なる。
【0036】
図6に示すように、木構造Ms1と木構造Ms2が互いに連結する部分Jを有し、注目点Sがその連結する部分よりも下流側に設定されている場合、投影画像生成手段130は、図7の左図に示すように、注目点Sから木構造Ms1の起始部を表す点O1までおよび注目点Sから木構造Ms1の起始部を表す点O2までの両方の経路を構成する部分構造Pj(図中太線で表示)を特定し、特定された部分構造Pjを断層画像Ijに投影した投影像Pj´を生成する。そして、その生成された投影像Pj´と断層画像Ijとを重畳させてなる投影画像Ij´を生成する。これにより、たとえば図7の右図に示すような投影画像Ij´が生成される。
【0037】
一方、図8に示すように、木構造Ms1と木構造Ms2が互いに近接する部分Jを有し、注目点Sがその近接する部分よりも下流側に設定されている場合、投影画像生成手段130は、図9に示すように、注目点Sが設定された木構造Ms1上の注目点Sからその起始部を表す点O1までおよび前記近接する部分を有する他の木構造Ms2上の前記近接する部分からその起始部O2を表す点までの経路を構成する部分構造Pj(図中太線で表示)を特定し、特定された部分構造Pjを断層画像Ijに投影した投影像Pj´を生成する。そして、その生成された投影像Pj´と断層画像Ijとを重畳させてなる投影画像Ij´を生成する。
【0038】
このとき、注目点Sが設定された木構造Ms1の注目点Sよりも上流側に他の木構造Ms2と近接する部分であるかどうかは、図8の左図に示すように、注目点Sが設定された木構造Ms1上のエッジをエッジE0とし、エッジE0から木構造Ms1の起始部を表す点O1までの最短経路を構成する複数のエッジをエッジEi(i=1〜n:nは最短路を構成するエッジの数)とし、エッジE0およびエッジEiの各々について、そのエッジが他の木構造Ms2と近接する部分であるかどうかを順次判定することにより調べる。
【0039】
ここで、特定のエッジが他の木構造と近接する部分であるかどうかは、そのエッジの近傍に互いに直線をなすように接続可能なエッジのペアが2以上存在するか否かを調べることにより判定する。ここで、一組のエッジのペアが直線をなすように接続可能なものであるかどうかは、各エッジを含む直線間の最短距離および各エッジ間の角度がそれぞれ所定の閾値以下であるか否かによって判定することができる(特願2011−060193号公報参照)。たとえば、図10に示すように、判定対象であるエッジEiの近傍に5つのエッジEa、Eb、Ec、Ed、Eeが存在する場合、エッジEaとエッジEdのペア、エッジEbとエッジEeのペアをそれぞれ直線をなすように接続可能なエッジのペアとして判定することができる。
【0040】
また、投影画像生成手段130は、上記各方法により投影画像Ij´を生成する際に、門脈の木構造Ms1は青色、肝動脈の木構造Ms2は赤色といったように、木構造毎にその投影像の表示色を互いに区別可能に異ならせる。このように生成された投影画像Ij´は、表示手段140によってディスプレイ等の画像表示装置3上に表示される。
【0041】
投影画像生成手段130は、さらに、上記投影画像Ij´が生成および表示された後、その断層画像Ijよりも起始部側に位置する他の断層画像Ik(k∈i、k≠j)を画像表示装置上に表示することを指示するマウスやキーボード等の入力装置2による操作者の入力を受け付けた場合、第2の投影画像Ik´をさらに生成する。具体的には、前記部分構造Pjの全体のうちの断層画像Ikが部分構造Pjと交差する点S´からその木構造の起始部を表す点までの経路を構成する第2の部分構造Pkを特定し、特定された第2の部分構造Pkを断層画像Ikに投影した投影像Pk´を生成する。そして、その生成された投影像Pk´と断層画像Ikとを重畳させてなる第2の投影画像Ik´を生成する。この生成された第2の投影画像Ik´は、表示手段140によって投影画像Ij´に切り替えてあるいは投影画像Ij´とともに画像表示装置3上に表示される。
【0042】
以上に説明したとおり、上記各実施の形態によれば、構造抽出手段10;110が、1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる血管を表す木構造Ms;Ms1、Ms2を3次元画像Vから抽出し、注目点設定手段20;120が、3次元画像V上の任意の位置を指定する操作者による入力に応じて、前記抽出された木構造上に注目点Sを設定し、投影画像生成手段30;130が、その設定された注目点Sを含む任意の断層画像Ijと、該断層画像Ijに前記抽出された木構造の全体のうち注目点から起始部を表す点までの経路を構成する部分構造Pjを投影した投影像Pj´とを重畳させてなる投影画像Ij´を生成し、表示手段40;140が、生成された投影画像Ij´を表示しているので、医者等の操作者に対し注目点Sと血管の起始部との位置関係を認識しやすく表示することができる。この表示により、熟練の医者等は注目点Sを設定した部分の血管が動脈か静脈かも容易に認識することができる。
【0043】
また、上記第2の実施の形態によれば、設定された注目点Sが門脈と肝動脈の2つの血管のうちいずれの血管上の点であるかが不明確である場合に、注目点Sとそれらの全ての血管との位置関係を認識可能に表示しているので、いずれか一方の誤った構造物との位置関係のみを表示することによって誤った画像解析が行われてしまうような事態の発生を防止することができる。
【0044】
なお、上記各実施の形態では、所定の構造物が肝静脈、門脈等の肝臓の血管である場合について例示しているが、所定の構造物は、1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる構造物であればよく、例えば肺または心臓の血管であってもよい。
【0045】
また、上記各実施の形態では、注目点設定手段20;120が、断層画像Ijの表示に対する操作者の入力に応じて注目点Sを設定するものである場合について例示しているが、3次元画像Vの表示(たとえば、ボリュームレンダリング画像の表示)に対する操作者の入力に応じて注目点Sを設定するものであってもよい。
【0046】
また、上記第2の実施の形態では、投影画像生成手段130が、注目点Sが設定された木構造の注目点Sよりも上流側に他の木構造と近接する部分が存在するかどうかを、上流側の各エッジについてその近傍に互いに直線をなすように接続可能なエッジのペアが2以上存在するか否かを調べることによって判定するものである場合について説明したが、たとえば上流側の各部分についてその部分と他の木構造との間隔の最小値が所定の閾値以下となる部分が存在するか否かを調べることによって判定するものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 画像処理装置
10 構造抽出手段
20 注目点設定手段
30 投影画像生成手段
40 表示手段
DB 形状モデル記憶手段
Ii 断層画像
Ii´ 投影画像
Mref 形状モデル
Ms 木構造
O 起始部を表す点
Pj 部分構造
Pj´ 投影像
S 注目点
V 3次元画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる所定の構造物を表す木構造を3次元画像から抽出する構造抽出手段と、
前記3次元画像上の任意の位置を指定する操作者による入力に応じて、前記抽出された木構造上に注目点を設定する注目点設定手段と、
該設定された注目点を含む任意の断層画像と、該断層画像に前記抽出された木構造の全体のうち前記注目点から前記起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成する投影画像生成手段と、
該生成された投影画像を表示する表示手段と
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記構造抽出手段が、それぞれ1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる2以上の所定の構造物を表す複数の木構造を前記3次元画像から抽出するものであり、
前記注目点設定手段が、前記指定された前記3次元画像上の位置に基づいて、前記抽出された複数の木構造上のいずれかの位置に前記注目点を設定するものであり、
前記投影画像生成手段が、前記注目点設定手段により互いに連結する部分を有する複数の木構造上のその部分あるいはその部分よりも下流側に前記注目点が設定された場合、前記設定された注目点を含む任意の断層画像と、該断層画像に前記抽出された複数の木構造の全体のうち前記注目点から前記部分を有する複数の木構造の各々の起始部を表す点までの経路を構成する前記部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる前記投影画像を生成するものであることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記構造抽出手段が、それぞれ1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる2以上の所定の構造物を表す複数の木構造を前記3次元画像から抽出するものであり、
前記注目点設定手段が、前記指定された前記3次元画像上の位置に基づいて、前記抽出された複数の木構造上のいずれかの位置に前記注目点を設定するものであり、
前記投影画像生成手段が、前記注目点設定手段により互いに近接する部分を有する複数の木構造上のその近接する部分あるいはその近接する部分よりも下流側に前記注目点が設定された場合、前記設定された注目点を含む任意の断層画像と、該断層画像に前記抽出された複数の木構造の全体のうち前記注目点が設定された木構造上の前記注目点からその起始部を表す点までおよび前記近接する部分を有する他の木構造上の前記近接する部分からその起始部を表す点までの経路を構成する前記部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる前記投影画像を生成するものであることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記投影画像生成手段が、前記部分構造と交差する任意の断層画像を指定する操作者の入力に応じて、前記指定された断層画像と、該断層画像に前記部分構造の全体のうち前記指定された断層画像が前記部分構造と交差する点から前記起始部を表す点までの経路を構成する第2の部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる第2の投影画像を生成する機能をさらに有するものであり、
前記表示手段が、前記生成された第2の投影画像を前記投影画像に切り替えてあるいは前記投影画像とともに表示するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記投影画像生成手段が、2以上の異なる木構造の部分構造を投影して前記投影画像を生成する場合、木構造毎に投影像の表示色を互いに区別可能に異ならせるものであることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項記載の画像処理装置。
【請求項6】
1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる所定の構造物を表す木構造を3次元画像から抽出する処理と、
前記3次元画像上の任意の位置を指定する操作者による入力に応じて、前記抽出された木構造上に注目点を設定する処理と、
該設定された注目点を含む任意の断層画像と、該断層画像に前記抽出された木構造の全体のうち前記注目点から前記起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成する処理と、
該生成された投影画像を表示する処理とを
少なくとも1台のコンピュータにより実行することを特徴とする画像処理方法。
【請求項7】
前記木構造の抽出処理が、それぞれ1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる2以上の所定の構造物を表す複数の木構造を前記3次元画像から抽出するものであり、
前記注目点の設定処理が、前記指定された前記3次元画像上の位置に基づいて、前記抽出された複数の木構造上のいずれかの位置に前記注目点を設定するものであり、
前記投影画像の生成処理が、前記注目点の設定処理により互いに連結する部分を有する複数の木構造上のその部分あるいはその部分よりも下流側に前記注目点が設定された場合、前記設定された注目点を含む任意の断層画像と、該断層画像に前記抽出された複数の木構造の全体のうち前記注目点から前記部分を有する複数の木構造の各々の起始部を表す点までの経路を構成する前記部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる前記投影画像を生成するものであることを特徴とする請求項6記載の画像処理方法。
【請求項8】
前記木構造の抽出処理が、それぞれ1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる2以上の所定の構造物を表す複数の木構造を前記3次元画像から抽出するものであり、
前記注目点の設定処理が、前記指定された前記3次元画像上の位置に基づいて、前記抽出された複数の木構造上のいずれかの位置に前記注目点を設定するものであり、
前記投影画像の生成処理が、前記注目点の設定処理により互いに近接する部分を有する複数の木構造上のその近接する部分あるいはその近接する部分よりも下流側に前記注目点が設定された場合、前記設定された注目点を含む任意の断層画像と、該断層画像に前記抽出された複数の木構造の全体のうち前記注目点が設定された木構造上の前記注目点からその起始部を表す点までおよび前記近接する部分を有する他の木構造上の前記近接する部分からその起始部を表す点までの経路を構成する前記部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる前記投影画像を生成するものであることを特徴とする請求項6記載の画像処理方法。
【請求項9】
前記投影画像の生成処理が、前記部分構造と交差する任意の断層画像を指定する操作者の入力に応じて、前記指定された断層画像と、該断層画像に前記部分構造の全体のうち前記指定された断層画像が前記部分構造と交差する点から前記起始部を表す点までの経路を構成する第2の部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる第2の投影画像を生成するものであり、
前記表示処理が、前記生成された第2の投影画像を前記投影画像に切り替えてあるいは前記投影画像とともに表示するものであることを特徴とする請求項6から8のいずれか1項記載の画像処理方法。
【請求項10】
コンピュータを
1つの起始部から分枝を繰返しながら広がって延びる所定の構造物を表す木構造を3次元画像から抽出する構造抽出手段、
前記3次元画像上の任意の位置を指定する操作者による入力に応じて、前記抽出された木構造上に注目点を設定する注目点設定手段、
該設定された注目点を含む任意の断層画像と、該断層画像に前記抽出された木構造の全体のうち前記注目点から前記起始部を表す点までの経路を構成する部分構造を投影した投影像とを重畳させてなる投影画像を生成する投影画像生成手段、
該生成された投影画像を表示する表示手段
として機能させるための画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−94438(P2013−94438A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240112(P2011−240112)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】