説明

画像処理装置、画像処理方法、プログラムおよびコンピュータ記録媒体

【課題】 ノイズの影響を考慮することで動画像から動きを精度良く判定し、その判定結果に応じた好適なノイズ低減を行う。
【解決手段】 複数フレームの動画像を時系列に重み付け加算する画像処理装置であって、
前記複数フレームの動画像の中で、現フレームより前のフレーム画像をリカ―シブフィルタ処理するフィルタ手段と、
前記現フレームの画像と前記フィルタ手段で得られた画像との差分画像におけるノイズの統計量に基づいて現フレームの重み付け係数を得る係数取得手段と、
前記係数取得手段で得られた前記複数フレームに対応する重み付け係数に基づき前記複数フレームの動画像を加算する加算手段と、
を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像のノイズを低減する技術に関し、特に時間方向に画像を加算することでノイズを低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線動画撮影の分野では、入射されたX線を蛍光体とイメージインテンシファイアにより可視光に変換し、CCDを用いたTVカメラで可視光像を撮像する2次元のX線動画撮影装置が提案されている。また、近年では撮像系をフラットパネルディテクタ(FPD)で置き換えたX線動画撮影装置も広く普及している。
【0003】
ところで、上述のX線動画撮影装置で得られる動画像(連続的に収集された複数の静止画像のセットのことであり、以下、個々の静止画像をフレームと呼ぶ)には、X線量子の揺らぎよる量子ノイズや検出器や回路等から発生するシステムノイズなど、様々なノイズが一連の撮影過程において重畳する。特に、医療用のX線動画撮影においては被検者への被曝の観点から少ないX線量で撮影を行うため、このようなノイズの影響は無視できず、画質を向上させるためにはノイズを低減することが重要となってくる。
【0004】
そこで、画像処理の分野においては、従来から時間方向もしくは空間方向に画素の値を重み付け加算(所謂フィルタリング)することによって、上述のようなノイズを低減することが行われている。
【0005】
具体的には、時間方向の重み付け加算は、対象となるフレームと過去のフレームの同一画素の値を平均化することで、時間的に略無相関なノイズの揺らぎを減少させる。また、空間方向の重み付け加算は、対象となる画素とその周辺の画素の値を平均化することで空間的に略無相関なノイズの揺らぎを減少させる。
【0006】
なお、時間方向の重み付け加算は、フレーム間において被検者の動きによる時間的な信号変化がない場合には理想的な方法である。しかしながら、信号変化がある場合においては、過去のフレームの像が対象のフレーム上に残像として発生するという課題がある。また、空間方向の重み付け加算は、過去のフレームを参照しないため、残像は発生しないが、エッジの境界等の空間的に類似しない構造をノイズと共に不鮮明にするため、効果はあるものの好ましい方法とは言えない。
【0007】
そこで、時間方向と空間方向を上手く組み合わせた方法も提案されており、例えば特許文献1の方法がある。この方法は、対象となるフレームと過去のフレームの局所平均の差に基づいて動きを判定し、動きが大きい場合は時間方向から空間方向の重み付け加算に切り替えるものである。これにより、動きがない場合は理想的なノイズ低減を行うことができ、動きが有った場合においても、残像を発生させないノイズ低減を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−47036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述のように時間方向と空間方法の重み付け加算を切り替える場合、ノイズが重畳した信号から動きをいかに精度良く判定するかが重要である。しかしながら、特許文献1の方法では、重畳したノイズの影響が十分に考慮されていない。具体的には、特許文献1の方法は、対象となるフレームと過去のフレームの局所平均の差に基づいて動きを判定しているが、その差が、被検者の動きによる時間的な信号変化であるのか、ノイズの時間的な揺らぎによる信号変化であるかを厳密に判定するものではないため、動きを精度良く判定できないという課題がある。
【0010】
そこで、本発明の例示的な目的は、上記の課題を解決するためになされたもので、ノイズの影響を考慮することで動画像から動きを精度良く判定し、その判定結果に応じた好適なノイズ低減を行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明による画像処理装置は複数フレームの動画像を時系列に重み付け加算する画像処理装置であって、
前記複数フレームの動画像の中で、現フレームより前のフレーム画像をリカ―シブフィルタ処理するフィルタ手段と、
前記現フレームの画像と前記フィルタ手段で得られた画像との差分画像におけるノイズの統計量に基づいて現フレームの重み付け係数を得る係数取得手段と、
前記係数取得手段で得られた前記複数フレームに対応する重み付け係数に基づき前記複数フレームの動画像を加算する加算手段と、
を有することを徴とする。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明による画像処理方法は、複数フレームの動画像を時系列に重み付け加算する画像処理方法であって、
前記複数フレームの動画像の中で、現フレームより前のフレーム画像をリカ―シブフィルタ処理するフィルタ工程と、
前記現フレームの画像と前記フィルタ工程で得られた画像との差分画像におけるノイズの統計量に基づいて現フレームの重み付け係数を得る係数取得工程と、
前記係数取得手段で得られた前記複数フレームに対応する重み付け係数に基づき前記複数フレームの動画像を加算する加算工程と、
を有することを徴とする。
【0013】
また、本発明は、上述した画像処理装置、および画像処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、並びにプログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体を含む。
【発明の効果】
【0014】
ノイズの特性に応じた好適なノイズ低減を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1および2によるX線動画撮影装置全体の構成図である。
【図2】実施例1による画像処理部112の処理手順を示すフローチャートである。
【図3】実施例2による画像処理部112の処理手順を示すフローチャートである。
【図4】実施例3および4によるX線動画撮影装置全体の構成図である。
【図5】実施例3による画像処理部112の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】実施例4による画像処理部112の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】ノイズの算出方法を説明する図である。
【図8】ピラミッドアルゴリズムを説明する図である。
【図9】階層画像の周波数特性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施例1]
本発明は、例えば図1に示すようなX線動画撮影装置100に適用される。図1に示すように、X線動画撮影装置100は、撮影された動画像をモニタ上に出力する際の効果的な画像処理を行う機能を有するX線の動画撮影装置である。X線動画撮影装置100は、X線発生部101、X線検出器104、データ収集部105、前処理部106、CPU108、メインメモリ109、操作部110、表示部111、画像処理部112を備えており、これらはCPUバス107を介して互いにデータ授受が可能に接続されている。
【0017】
上述のような画撮影装置100において、まず、メインメモリ109は、CPU108での処理に必要な各種のデータなどを記憶すると共に、CPU108のワーキング・メモリとして機能する。CPU108は、メインメモリ109を用いて、操作部110からの操作にしたがった装置全体の動作制御等を行う。これによりX線動画撮影装置100は、以下のように動作する。
【0018】
まず、操作部110を介してユーザから撮影指示が入力されると、この撮影指示はCPU108によりデータ収集部105に伝えられる。CPU108は、撮影指示を受けると、X線発生部101及びX線検出器104を制御してX線動画撮影を実行させる。
【0019】
X線動画撮影では、まずX線発生部101が、被検体103に対してX線ビーム102を照射する。X線発生部101から照射されたX線ビーム102は、被検体103を減衰しながら透過して、X線検出器104に到達する。そしてX線検出器104によりX線画像信号が連続的に出力される。なお、本実施の形態では被検体103を人体とする。すなわち、X線検出器104から出力されるX線動画像は人体画像となる。
【0020】
データ収集部105は、X線検出器104から連続的に出力されたフレーム単位のX線画像信号を所定のデジタル信号に変換してX線画像データとして前処理部106に供給する。前処理部106は、データ収集部105からの信号(X線画像データ)に対して、オフセット補正やゲイン補正等の前処理を行う。この前処理部106で前処理が行われたX線画像データは、CPU108の制御により、CPUバス107を介して、メインメモリ109、画像処理部112に順次転送される。
【0021】
画像処理部112は、複数フレームの動画像を時系列に重み付け加算することで動画像のノイズを低減するものである。複数のフレームで構成される動画像を時間方向にリカ―シブフィルタ処理するフィルタ部113と、現フレームの画像データからノイズを取得するノイズ取得部114と有する。また、ノイズ取得部114で取得したノイズの統計量を取得する統計量取得部115と、統計量取得部115で取得したノイズの統計量から予め取得されているノイズの分布に従うかを示す評価値を得る検定部116と、
この評価値で定められる重み係数を、複数のフレームのそれぞれに対応して取得する図示しない係数取得部1161と、を有する。そして、現フレームよりも以前に処理した画像データを図示しないメモリ1162から取得し、現フレームの画像データを係数取得部1161で取得した重み係数で加算しメモリ1162に格納する加算部117を備えている。また、これらの各構成部は、CPUバスに接続されている。
【0022】
以上のような構成を備えたX線動画撮影装置100において、画像処理部112の動作について、図2に示すフローチャートを用いて具体的に説明する。
【0023】
上述のごとく前処理部106によって得られた複数のフレームは、CPUバス107を介して画像処理部112に転送されるとともに、処理を開始する現フレームF(tは撮影開始から何枚目のフレームであるかを表す変数であり1以上かつ撮影枚数以下の整数である)としてt=2を設定する。
【0024】
ノイズ取得部114は、フィードバック係数aを設定する(s201)。ここで、フィードバック係数aは0<a<1の範囲で任意に設定すれば良く、本実施の形態ではユーザが操作部110を介して設定するものとする。
【0025】
次に、フィルタ部113において、設定された現フレームFよりも前のフレームとフィードバック係数aを用いて、すべての画素に対して時間方向の重み付け加算を行う(s202)。具体的には、下記式のように前フレームの処理結果を順次フィードバック加算する、いわゆるリカーシブフィルタ(再帰型)によって時間方向の重み付け加算を行う。
【0026】
【数1】


ここで、Frt−1が現フレームFよりも前のフレーム画像、すなわち1〜t−1枚目のフレームを時間方向に重み付け加算したデータとなる。なお、本実施の形態では上記式のような再帰型フィルタを用いたがこれに限定されるものではなく、異なる再帰型フィルタを用いてもよい、また非再帰型フィルタを用いても良い。
【0027】
次に、ノイズ取得部114において、現フレームFから時間方向の重み付け加算がなされた前フレームFrt−1を減算することで差分画像Dを生成する(s203)。具体的には、下記式のように、すべての画素に対してそれぞれ単純な減算を行う。
【0028】
【数2】

【0029】
次に、統計量取得部115において、差分画像Dに重畳されるノイズの分散σを差分画像のノイズの統計量として取得する(s204)。
【0030】
ここで、現フレームFに重畳されるノイズの分散をσとし、時間方向の重み付け加算がなされた前フレームFrt−1に重畳されるノイズの分散をσFrとし、ノイズが時間的に無相関であると仮定すれば分散の加法性により差分画像Dに重畳されるノイズの分散σは下記式で表される。
【0031】
【数3】

【0032】
また、ノイズの分布(例えば分散の確率分布)が時間的に変化しないと仮定すれば、上記式の右辺第二項は、現フレームFに重畳されるノイズの分散σおよび、時間方向の重み付け加算によるノイズ減衰率を考慮して下記式のように変形可能である。
【0033】
【数4】


ここで、aはユーザが操作部110を介して設定したフィードバック係数である。
【0034】
なお、現フレームFに重畳されるノイズの分散σは、検出器への入射X線量(入射X線量子数)に比例する量子ノイズを含むため、実際には入射X線量に依存した値となる。具体的には、検出器への入射X線量に比例する量子ノイズをσとし、入射X線量に依存しないシステムノイズをσとし、両者が無相関であると仮定すれば、現フレームFに重畳されるノイズの統計量である分散σは、下記式で表される。
【0035】
【数5】


ただし、Vは現フレームFの画素値であり、gは入射X線量に比例した画素値Vを入射X線量相当の値に変換するためのゲイン係数である。
【0036】
ここで、上記式を考慮すれば、差分画像Dに重畳されるノイズの分散σは下記式となる。
【0037】
【数6】


従って、実際には現フレームFの画素値Vに応じて分散σを推定する必要がある。そこで、本実施の形態では、対象画素(x,y)の画素値F(x,y)または、対象画素(x,y)を中心とした任意のn×n画素の平均画素値をV として分散σ(V)をすべての画素で推定する。
【0038】
なお、上記式の量子ノイズσ、システムノイズσ、ゲイン係数gのパラメータは、撮影過程で一意に決まる値であり、予め取得しておくことが可能である。従って、予め取得したパラメータをメインメモリ109に保存しておき、その結果をロードして用いればよい。
【0039】
ここで、上記パラメータの算出方法については、特に限定するものではないが、例えば、製品検査時に被検体のない状態で検出器への入射X線量を変えたn回の撮影を行い、図7のように各撮影画像の平均画素値Vと分散σの関係を求めた離散データ{(V,σ)|i=1,2,...,n}を得、この離散データを良く近似するパラメータを算出する。具体的には、下記式で表される残差の2乗和Jが、最小となるパラメータを最小二乗法によって求め、このパラメータを予めメインメモリ109に保存しておけば良い。
【0040】
【数7】

【0041】
次に、検定部116において、統計量取得部115で求めた差分画像Dのノイズの統計量が予めえられたノイズの統計分(例えば分散値の確率分布)に従うか否かを表す評価値としての有意確率を求める(s205)。ここで、有意確率とは、仮説検定において、ある仮説(帰無仮説)のもとで得られた検定統計量が実現する確率であり、この有意確率が小さい場合は、確率的に仮説が成り立つ可能性が低いことを表すものである。そこで、本実施の形態では「差分画像Dのノイズの統計量が予め得られたノイズの確率分布N(μ,σ)に従う」という帰無仮説に対して、その有意確率Pを求める。
【0042】
なお、「差分画像Dのノイズの統計量がノイズの確率分布N(μ,σ)に従う」ということは、差分画像Dにはノイズ以外の信号成分が含まれないことを意味し、言い換えれば「差分したフレーム間には被検者の動きによる信号変化がない」ということである。よって、求めた有意確率Pは、差分したフレーム間に被検体の動きによる信号変化がないかを確率的に表したものとなる。なお、ノイズの統計量としてノイズの平均値、標準偏差、分散の少なくともいずれかを用いることがえきる。
【0043】
なお、上述のごとく差分画像Dに重畳するノイズは画素毎に異なる確率分布(分散)を持つ。そこで、本実施の形態では対象画素(x,y)を中心とした任意のn×n画素の範囲を標本集合Ωとし、「標本集合Ωがノイズの確率分布N(μ,σ)に従う」という帰無仮説に対して、すべての画素で有意確率Pを算出する。ここで、ノイズの母平均μは0であり、母分散σは統計量取得部115で求めた対象画素(x,y)に対する分散σ(V)を推定値として用いる。また、nは任意のサイズを設定すれば良く、例えば本実施の形態ではn=3とする。
【0044】
なお、有意確率Pの算出方法に関しては、特に限定するものではないが、本実施の形態では、母平均μおよび母分散σに対する検定統計量から求めた有意確率を統合することで、上記の帰無仮説に対する有意確率Pを算出する。
【0045】
まず、対象画素(x,y)を中心とした任意のn×n画素の範囲の標本集合Ωに対し、母平均μに対する検定統計量Tを下記式にて求める。
【0046】
【数8】


ただし、Eは標本平均であり、Sは不偏分散を表す。また、母平均μは0である。
【0047】
ここで、上記式にて求めた検定統計量Tは、母平均がμの場合に自由度2n−1のT分布に従う。よって、「母平均がμである」という帰無仮説おける両側検定(「母平均がμでない」を対立仮説とする検定)に対する有意確率Pは、下記式にて求めることができる。
【0048】
【数9】


ただし、Γ(・)はガンマ関数を表す。
【0049】
なお、上記式で求めた有意確率Pは、「標本集合Ωの母平均が0である」という帰無仮説が成り立つ可能性を確率的に求めたものであり、例えばP=0.01であれば、帰無仮説は1%の確率で正しいことになる。言い換えれば、帰無仮説は99%の確率で誤りであり、「標本集合Ωの母平均が0でない」という対立仮説が成り立つ可能性が非常に高いこと表している。
【0050】
次に、対象画素(x,y)を中心とした任意のn×n画素の範囲の標本集合Ωに対し、母分散σに対する検定統計量χを下記式にて求める。
【0051】
【数10】


ただし、Sは不偏分散を表す。また、母分散σは統計量取得部115で求めた対象画素(x,y)に対する分散σ(V)である。
【0052】
ここで、上記式にて求めた検定統計量χは、母分散がσの場合に自由度2n−1のχ分布に従う。よって、「母分散がσである」という帰無仮説における両側検定(「母分散がσでない」を対立仮説とする検定)に対する有意確率Pχは、下記式にて求めることができる。
【0053】
【数11】


ただし、Γ(・)はガンマ関数を表す。
【0054】
なお、上記式で求めた有意確率Pχは、「標本集合Ωの母分散がσ(V)である」という帰無仮説が成り立つ可能性を確率的に求めたものであり、例えばP=0.01であれば、帰無仮説は1%の確率で正しいことになる。言い換えれば、帰無仮説は99%の確率で誤りであり、「標本集合Ωの母分散がσ(V)でない」という対立仮説が成り立つ可能性が非常に高いことを表している。
【0055】
以上により求めた有意確率PおよびPχは、それぞれ標本集合Ωの母平均および母分散に対する有意確率を独立に求めたものであり、本実施の形態ではその両者を満たす、すなわち「標本集合Ωがノイズの確率分布N(μ,σ)に従う」という帰無仮説に対して、その有意確率Pを求めたい。そこで、求めた2つの有意確率PおよびPχを統合し、上記帰無仮説に対する有意確率Pを算出する。なお、有意確率の統合方法に関しては特に限定するものではないが、本実施の形態では、Fisherの方法を用いることとする。具体的には下記式にて有意確率を統合した検定統計量Fを求める。
【0056】
【数12】


ここで、上記式で統合した検定統計量Fは、独立に求めた2つの有意確率PおよびPχを統合したものであり、これは自由度4のχ分布に従う。また、求めた検定統計量Fは、2つの有意確率PおよびPχが小さくなるほど大きな値をとる。よって、下記式のように、片側検定(上側)に対する有意確率をPとして算出する。
【0057】
【数13】


以上により、対象画素(x,y)に対する有意確率Pを算出することができる。ここで、同様の処理をすべての画素に対して実行する。なお、上記式で求めた有意確率Pは、「標本集合Ωがノイズの確率分布N{0, σ(V)}に従う」、すなわち「標本集合Ωには被検者の動きによる信号変化がない」という帰無仮説が成り立つ可能性を確率的に求めたものであり、例えばP=0.01であれば、帰無仮説は1%の確率で正しいことになる。言い換えれば、帰無仮説は99%の確率で誤りであり、「標本集合Ωには被検者の動きによる信号変化が有る」という対立仮説が成り立つ可能性が非常に高いことを表している。
【0058】
次に、加算部117において、s206〜s208のステップを実行することで、有意確率に基づいた時空間方向の重み付け加算を行う。まず、画素毎に求めた有意確率Pに従って時間方向の重みづけ係数としてフィードバック係数amを設定する(s206)。ここで、上述のごとく有意確率Pは「差分したフレーム間には被検者の動きによる信号変化がない」という帰無仮説が成り立つ可能性を確率的に求めたものであり、有意確率Pが小さいほど「差分したフレーム間には被検者の動きによる信号変化が有る」という対立仮説が成り立つ可能性が高くなる。よって、このような場合に前フレームの処理結果に対するフィードバック係数を大きく設定すると残像が発生する可能性がある。そこで、下記式のように有意確率Pが小さいほどフィードバック係数amが小さくなるように設定する。
【0059】
【数14】


ここで、aは、ユーザが操作部110を介して設定したフィードバック係数であり、この値を基準として実際に用いるフィードバック係数amを設定する。
【0060】
なお、フィードバック係数amの設定方法はこれに限定されるものではなく、例えば下記式のように有意確率Pが設定した有意水準αよりも小さい場合、すなわち仮説検定で言う所の対立仮説が採択される場合は0(時間方向の重み付け加算を実行しない)に設定し、有意確率Pが設定した有意水準α以上の場合、すなわち仮説検定で言う所の帰無仮説を棄却できない場合はaに設定しても良い。
【0061】
【数15】


ここで、有意水準αは仮説検定で一般的に使われる値を用いれば良く、本実施の形態では例えばα=0.01とする。
【0062】
以上、すべての画素に対して上述の処理を実行し、有意確率Pに基づいたフィードバック係数amを設定する。なお、このように設定したフィードバック係数amは、各画素の近傍における動きに基づいたものであり、局所的な動きに応じて最適なフィードバック係数が得られるものである。
【0063】
次に、図示しない空間フィルタ部180は、現フレームFのすべての画素に対して空間方向の重み付け加算を空間フィルタ処理として行う(s207)。なお、空間方向の重み付け加算は、FIR等の単純な空間フィルタで行うこともできるが、エッジの境界等の空間的に類似しない構造をノイズと共に不鮮明にする。そこで、本実施の形態では下記式で表されるεフィルタを空間フィルタとして用いることで、構造のぼけを抑えた重み付け加算を行う。
【0064】
【数16】


ただし、hはサイズがN×Nのローパスフィルタであり、本実施の形態では例えば9×9の平均化フィルタを用いる。
【0065】
なお、上述の処理は、対象画素(x,y)と近傍画素の画素値の差を類似度の指標値とし、この指標値がε値よりも大きいほど近傍画素に対するローパスフィルタの重みを小さくするものである。これにより、類似しない近傍画素を除外した空間方向の重み付け加算がなされ、構造のぼけを抑えることができる。
【0066】
ここで、ε値は対象画素(x,y)と近傍画素が類似しているか否かを判定する閾値であり、本実施の形態では、下記式にてε値を設定する。
【0067】
【数17】


ただし、σは現フレームFに重畳するノイズの分散であり、統計量取得部115で求めた対象画素(x,y)に対する分散σ(V)を用いて、各画素でε値を設定する。
【0068】
なお、上記式の意味するところは、もし対象画素(x,y)と近傍画素がノイズを除けば同じ画素値であると仮定すると、その差はノイズの揺らぎによる信号変化であり、ノイズが正規分布ならば約99.7%の確率で±3√2σの範囲となる。よって、この値をε値として設定することで、もし対象画素(x,y)と近傍画素の画素値の差が想定されるノイズの揺らぎよりも大きい場合、その変化はノイズの揺らぎによる信号変化ではない。すなわち、対象画素(x,y)と近傍画素は類似しない画素であると判定するものである。
【0069】
以上、すべての画素に対して上述の処理を実行し、ε値に基づいた空間方向の重み付け加算を行う。なお、本実施の形態ではεフィルタを用いたが、これに限定されるものではなくBilateralフィルタ等の類似の非線形フィルタを用いることもできる。
【0070】
次に、空間方向に重み付け加算した現フレームFsとs206のステップで求めたフィードバック係数amを用いて、時空間方向に重み付け加算した現フレームFoを生成する(s208)。具体的には、すべての画素に対して下記式の処理を実行する。
【0071】
【数18】


ここで、Frt−1は時間方向の重み付け加算がなされた前フレームであり、加算部117で生成したものである。また、bは空間方向の重み付け加算の寄与率を表し、フィードバック係数amが小さいほど大きくなるように設定する。すなわち、残像が発生する可能性がある画素に対しては、時間方向の寄与を小さくする代わりに、空間方向の寄与を大きくし空間フィルタ処理の処理効果を上げ、十分なノイズ低減効果を得るものである。
【0072】
なお、寄与率bの設定方法は特に限定するものではないが、本実施の形態では、上記式によるノイズ減衰率Ro(入力のノイズの分散に対する出力のノイズの分散の比)が、基準値Rと略同等となるように寄与率bを設定する。ここで、上記式によるノイズ減衰率Roは、空間方向の重み付け加算(上記式の右辺第二項の波括弧内)におけるノイズ減衰率をRsとすれば下記式で表される。
【0073】
【数19】


ただし、aはユーザが操作部110を介して設定したフィードバック係数である。
従って、Roに基準値Rを代入し、Rsについて解けば空間方向の重み付け加算が担うノイズ減衰率が求まる。よって、空間方向の重み付け加算によるノイズ減衰率がRとなるような寄与率bを設定する。なお、この条件を満たす厳密解を求めるのは困難である。そこで、空間方向に重み付け加算した現フレームFsに重畳するノイズが無視可能なレベルと仮定し、下記式にて求まる近似値を寄与率bとして設定する。
【0074】
【数20】


なお、基準値Rは任意に設定すればよく、本実施の形態ではユーザが操作部110を介して設定したフィードバック係数aを用いて下記式にて設定する。
【0075】
【数21】


ここで、上記式で設定される基準値Rは、1〜t枚目のフレームをリカーシブフィルタによって処理した場合のノイズ減衰率そのものである。従って、このように設定した基準値Rを用いることで、すべての画素においてフィードバック係数aを用いたリカーシブフィルタと略同等のノイズ低減効果が得られるものである。
【0076】
なお、リカーシブフィルタのノイズ減衰率は時間依存性があり、tが大きくなるほど小さな値となる。よって、上記式で設定した基準値Rを用いるとフレーム間でノイズ低減効果が同等とならない。そこで、下記式のようにt→∞の場合のノイズ減衰率を基準値Rとして設定しても良い。この場合、すべてのフレームにおいて略同等のノイズ低減効果を得ることができる。
【0077】
【数22】


以上、すべての画素に対して上述の処理を実行することで、ノイズ低減がなされた現フレームFoを生成することができる。
【0078】
次に、全フレームに対してノイズ低減が実行されたか否かを判定し(s209)、全フレームに対してノイズ低減が実行されていない場合は、tをインクリメントすることで次のフレームを現フレームとして設定し(s210)、s202〜s208の各ステップを実行する。全フレームに対してノイズ低減が実行された場合は、処理を終了する。
【0079】
以上、実施例1ではノイズの確率分布に基づいて動きである可能性を確率的に求めることで、精度良く動きを判定することができる。また、動きである可能性が高い画素では時間方向のフィードバック係数を小さくすることで残像を抑え、かつ空間方向の寄与率をノイズ減衰率に基づいて設定することで、すべての画素で略同等のノイズ抑制効果を得ることができる。
【0080】
[実施例2]
本発明は、X線動画撮影装置100において、画像処理部112の動作を実施例1とは異なる図3のフローチャートに従った動作とする。なお、図3に示すフローチャートにおいて、図2に示したフローチャートと同様に処理実行するステップは同じ符号を付し、ここでは、上述した実施例1とは異なる構成についてのみ具体的に説明する。
【0081】
まず、処理を開始する現フレームFとしてt=2を設定するとともに、複数のフィードバック係数{a|i=1,2,...,n}を設定する(s301)。ここで、フィードバック係数はユーザが操作部110を介して設定したフィードバック係数aを最大値とし、下記式のように0〜aの範囲をn等分したフィードバック係数を設定する。
【0082】
【数23】


ここで、nは任意の数を設定すれば良く、例えばn=10とする。
【0083】
次に、設定した複数のフィードバック係数の1つを選択し(s302)、s202〜s205の各ステップを実施例1と同様に実行することで有意確率を求める。
【0084】
以上の処理をすべてのフィードバック係数に対して実行するまで処理を繰り返し(s303)、フィードバック係数{a|i=1,2,...,n}に対する有意確率{P|i=1,2,…n}を求める。
【0085】
次に、加算部117において、複数のフィードバック係数{a|i=1,2,...,n}の中から最適なフィードバック係数amを設定する(s304)。ここで、上述した通り有意確率は「差分したフレーム間には被検者の動きによる信号変化がない」という帰無仮説が成り立つ可能性を確率的に求めたものであり、有意確率が小さいほど「差分したフレーム間には被検者の動きによる信号変化が有る」という対立仮説が成り立つ可能性が高くなる。そこで、本実施の形態では有意確率が最も大きくなるフィードバック係数、すなわち対立仮説が成り立つ可能性が最も低いフィードバック係数を最適なフィードバック係数aとして設定する。ただし、最大の有意確率が有意水準αよりも小さい場合、すなわち対立仮説がすべてのフィードバック係数において採択される場合は、すべてのフィードバック係数を棄却し、am=0(時間方向の重み付け加算を実行しない)に設定する。
【0086】
なお、フィードバック係数amの設定方法はこれに限定されるものではなく、例えば、有意確率が有意水準αよりも大きいフィードバック係数の内、最大のものを最適なフィードバック係数amとして設定しても良い。この場合は、設定した有意水準αを満たすものも内、最大のノイズ抑制効果を得られるフィードバック係数が選択されることとなる。
【0087】
以上、すべての画素に対して上述の処理を実行し、複数の有意確率{P|i=1,2,…n}に基づいたフィードバック係数amを設定する。
【0088】
次に、現フレームFのすべての画素に対して空間方向の重み付け加算を行い(s207)、空間方向に重み付け加算した現フレームFsとs304のステップで求めたフィードバック係数amを用いて、時空間方向に重み付け加算した現フレームFoを生成する(s305)。具体的には、すべての画素に対して下記式を実行する。
【0089】
【数24】


ここで、寄与率bは実施例1と同様に、上記式によるノイズ減衰率Roに基づいて設定すれば良い。
【0090】
なお、上記式ではam=0の場合は時間方向の重み付け加算が行われず、空間方向の重み付け加算のみが行われる。そのため、検定部116において最適なフィードバック係数としてam=0が設定された場合(すべてのフィードバック係数を棄却しam=0を設定した場合は除く)、1つ前のフレームFt−1との間に被検者の動きによる信号変化がないにも関わらず、1つ前のフレームFt−1の情報が利用されないことになる。そこで、この場合は、例外的に下記式にて処理を行っても良い。
【0091】
【数25】


ここで、aはユーザが操作部110を介して設定したフィードバック係数である。また、Fot−1は時空間方向に重み付け加算された前フレームである。
【0092】
上記式は、空間方向の重み付け加算のみを実行する代わりに、時空間方向に重み付け加算された前フレームFot−1とを重み付け加算するものである。この場合、時間方向の情報も利用した処理となるため、エッジの境界等の構造のぼけを抑えることができる。
【0093】
次に、全フレームに対してノイズ低減が実行されたか否かを判定し(s209)、全フレームに対してノイズ低減が実行されていない場合は、tをインクリメントすることで次のフレームを現フレームとして設定し(s210)、s302〜s305の各ステップを実行する。全フレームに対してノイズ低減が実行された場合は、処理を終了する。
【0094】
以上、実施例2では複数の有意確率に基づき確率的に最もリスクの少ないフィードバック係数、または確率的にリスクが少ないものの内、最もノイズ抑制効果の高いフィードバック係数を選択するものであり、実施例1よりも最適なフィードバック係数を設定できる。
【0095】
[実施例3]
本発明は、例えば図4に示すようなX線動画撮影装置400に適用される。このX線動画撮影装置400は、X線動画撮影装置100に対し、分解部401、再構成部402を備える構成としている。また、本発明は画像処理部112の処理手順を実施例1とは異なる図5に示したフローチャートに従った動作とする。
【0096】
なお、図4のX線動画撮影装置400において、図1のX線動画撮影装置100と同様に動作する箇所は同じ符号を付し、その詳細は省略する。また、図5に示すフローチャートにおいて、図2に示したフローチャートと同様に処理実行するステップは同じ符号を付し、ここでは、上述した実施例1とは異なる構成についてのみ具体的に説明する。
【0097】
まず、実施例1と同様に処理を開始する現フレームFとしてt=2を設定するとともに、フィードバック係数aを設定する(s201)。
【0098】
次に、分解部401において、現フレームFを複数の異なる解像度を持つ階層画像に分解する(s501)。なお、本実施の形態ではBurtとAdelsonによるピラミッドアルゴリズムを用いて階層画像に分解する。
【0099】
ここで、ピラミッドアルゴリズムの分解について図8の(a)及び(b)を参照して説明する。図8(a)は、入力画像Gに対して1レベルの分解を表しており、まず入力画像Gは図8(b)に示すフィルタでフィルタリングされ(80)、さらに1/2倍のダウンサンプリング81によって、解像度が縦横ともに1/2のガウシアン画像Gi+1を生成する。また、ガウシアン画像Gi+1は、さらに2倍のアップサンプリング82によって0値が挿入された後、図8(b)に示すフィルタ係数に4倍のゲインを掛けたフィルタによってフィルタリングされ(83)、解像度が入力画像Gと同一の画像を生成する。そして、入力画像Gからこの画像を減算器84にて減算することでラプラシアン画像Lを生成する。以上の動作により、入力画像Gをガウシアン画像Gi+1、ラプラシアン画像Lに分解することができる。さらに、マルチレベルの分解を行う場合は、出力されたガウシアン画像Gi+1を入力画像として同一の処理を繰り返せばよい。
【0100】
なお、本実施の形態では、現フレームFを最初の入力画像とし、上述の処理をM回繰り返すことで、解像度の異なる複数のガウシアン画像{Gt,i|i=0,1,…M}およびラプラシアン画像{Lt,i|i=0,1,…M−1}を生成する。ここで、このように生成された画像は図9に示す周波数特性を持つものである。図9のようにガウシアン画像はレベルiが大きくなるほど、入力画像のより低い周波数のみで構成される画像となる。また、ラプラシアン画像は入力画像の一部の周波数帯域で構成される画像となり、レベルiが大きくなるほど低い周波数帯域を抽出したものとなる。
【0101】
次に、フィルタ部113において、設定された現フレームよりも前のガウシアン画像とフィードバック係数aを用いて、時間方向の重み付け加算をおこなう(s502)。具体的には、下記式にてレベルMを除くすべての画素に対しリカーシブフィルタを用いた重み付け加算を行う。
【0102】
【数26】

【0103】
次に、ノイズ取得部114において、現フレームのガウシアン画像Gt,iから時間方向の重み付け加算がなされた前フレームのガウシアン画像Grt−1,iを減算することで差分画像Dgt,iを生成する(s503)。具体的には、下記式にてレベルMを除くすべての画素に対してそれぞれ単純な減算を行う。
【0104】
【数27】

【0105】
次に、統計量取得部115において、差分画像Dgt,iに重畳されるノイズの分散σdを推定する(s504)。ここで、現フレームのガウシアン画像Gt,iに重畳されるノイズの分散をσgとし、時間方向の重み付け加算によるノイズ減衰率を考慮すれば、差分画像Dgt,iに重畳されるノイズの分散σdは下記式で表される。
【0106】
【数28】


ここで、aはユーザが操作部110を介して設定したフィードバック係数である。
【0107】
なお、現フレームのガウシアン画像Gt,iに重畳されるノイズの分散σgは、実施例1と同様にして求まる現フレームFに重畳されるノイズの分散σ(V)および分解過程におけるノイズ減衰率を考慮すれば下記式となる。
【0108】
【数29】


ただし、hは図8(b)に示したフィルタ行列であり、(↑a) ・はa倍のアップサンプリングを表す。また、*は畳み込みを表す。
【0109】
ここで、上記式はレベルiおよび画素値Vに依存した値をとる。従って、差分画像Dgt,iに重畳されるノイズの分散σdも同じく、レベルiおよび画素値Vに依存した値をとなる。なお、画素値Vは、現フレームFの重み付き平均であるガウシアン画像Gt,iを用いれば良いので、実際の処理としては、レベルiのガウシアン画像Gt,iの画素値Gt,i (x,y)に基づいてレベルMを除くすべての画素に対する推定値を算出すれば良い。
【0110】
次に、検定部116において、差分画像Dgt,iが統計量取得部115で求めたノイズの統計量に基づいて確率分布に従うか否かを表す有意確率を求める(s505)。ここで、上述のごとく差分画像Dgt,iに重畳するノイズはレベル及び画素毎に異なる確率分布(分散)を持つ。そこで、本実施の形態ではレベルiの対象画素(x,y)を中心とした任意のn×n画素の範囲を標本集合Ωとし、「標本集合Ωがノイズの確率分布N(μ,σ)に従う」という帰無仮説に対して、各レベルiのすべての画素で有意確率Pを算出する。ここで、ノイズの母平均μは0であり、母分散σは統計量取得部115で求めたレベルiの対象画素(x,y)に対する分散σd(V)を推定値として用いる。また、nは任意のサイズを設定すれば良く、例えば本実施の形態ではn=3とする。
【0111】
なお、標本集合Ωに対する有意確率の算出方法は、母平均μに対する検定統計量Tの算出方法を下記式に変更する以外は、実施例1と同様に求めることができる。
【0112】
【数30】


ここで、実施例1と上記式の違いはCであり、これは空間的に相関のあるノイズを持つガウシアン画像Gt,iから求めた検定統計量Tを自由度2n−1のT分布に従わせるための補正係数である。具体的には、空間的なノイズの相関を考慮して下記式にて算出する。
【0113】
【数31】


ただし、hは図8(b)に示したフィルタ行列であり、(↑a) ・はa倍のアップサンプリングを表す。また、*は畳み込みを表す。
【0114】
なお、mは標本サイズと同じサイズの平均化フィルタ行列であり、対象画素(x,y)を中心とした3×3画素の範囲を標本集合Ωとする本実施の形態では、下記式となる。
【0115】
【数32】


以上により求めた母平均μに対する検定統計量Tと、実施例1と同様に求めた母分散σに対する検定統計量χを統合することで、レベルMを除くすべての画素に対する有意確率Pを求める。なお、このように算出した有意確率Pは、画像を複数の周波数帯域に分解し、各々の周波数帯域における動きを確率的に求めたものである。そのため、周波数毎に異なる変化を伴うような非剛体運動においても精度良く動きを判定できるものである。
【0116】
次に、加算部117において、レベルMを除くすべての画素に対するフィードバック係数amを設定する(s206)。ここでは、各レベルiに対して実施例1と同様にフィードバック係数amを設定すれば良い。
【0117】
次に、現フレームのラプラシアン画像Lt,iのすべての画素に対して空間方向の重み付け加算を行う(s506)。なお、本実施の形態では、ラプラシアン画像Lt,iと同じレベルのガウシアン画像Gt,iからεフィルタと同様の原理にてノイズを抽出し、抽出したノイズを現フレームのラプラシアン画像Lt,iから減算することで、構造のぼけを抑えた重み付け加算を行う。具体的には下記式にて処理を行う。
【0118】
【数33】


ただし、hは図8(b)に示したフィルタ行列である。
【0119】
上記式において、右辺第二項がε値を基準としてラプラシアン画像Lt,iと同一の周波数帯域からノイズを推定したものとなる。ここで、ε値は、対象画素(x,y)と近傍画素がノイズを除けば同じ画素値であるかを判定する閾値であり、現フレームFに重畳されるノイズの分散σ(V)および分解過程におけるノイズ減衰率を考慮して下記式にて設定すれば良い。
【0120】
【数34】


hは図8(b)に示したフィルタ行列であり、(↑a) ・はa倍のアップサンプリングを表す。 また、*は畳み込みを表す。
【0121】
以上、レベルMを除くすべての画素に対して上述の処理を実行し、ε値に基づいて空間方向の重み付け加算を行う。
【0122】
次に、空間方向の重み付け加算した現フレームのラプラシアン画像Lst,iとs206で求めたフィードバック係数amを用いて、時空間方向に重み付け加算した現フレームのラプラシアン画像Lot,iを生成する(s507)。具体的には、各レベルiのすべての画素に対して下記式を実行する。
【0123】
【数35】


ここで、寄与率bは実施例1と同様に、上記式によるノイズ減衰率Roに基づいて設定すれば良い。
【0124】
次に、再構成部402において、時空間方向に重み付け加算した現フレームのラプラシアン画像Lot,iとレベルMのガウシアン画像Gm,iを用いて時空間方向に重み付け加算した現フレームFoを生成する(s508)。本実施の形態ではBurtとAdelsonによるピラミッドアルゴリズムを用いて階層画像に分解したので、その逆変換により再構成を行う。
【0125】
ここで、ピラミッドアルゴリズムの再構成について図8の(b)及び(c)を参照して説明する。図8(c)はレベルiのラプラシアン画像Lとレベルi+1のガウシアン画像Gi+1に対する1レベルの再構成を表しており、まずガウシアン画像Gi+1は2倍のアップサンプリング85によって0値が挿入された後、図8(b)に示すフィルタ係数に4倍のゲインを掛けたフィルタによってフィルタリング(86)され、解像度が縦横ともに2倍の画像を生成する。そして、ラプラシアン画像Lとこの画像を加算器87で加算することによって、再構成されたレベルiのガウシアン画像Gを生成する。以上の動作により、レベルiのラプラシアン画像Lとレベルi+1のガウシアン画像Gi+1からレベルiのガウシアン画像Gを再構成することができる。さらにマルチレベルの再構成を行う場合は、出力されたガウシアン画像Gと1つ下のレベルのラプラシアン画像Li−1を入力とし同一の処理を繰り返せば良い。
【0126】
なお、本実施の形態では、時空間方向に重み付け加算した現フレームのラプラシアン画像{Lot,i|i=0,1,…M−1}と未処理のレベルMのガウシアン画像Gm,iを入力として上述の処理をM回繰り返すことで、ノイズ低減がなされた現フレームFoを生成する。
【0127】
次に、全フレームに対してノイズ低減が実行されたか否かを判定し(s209)、全フレームに対してノイズ低減が実行されていない場合は、tをインクリメントすることで次のフレームを現フレームとして設定し(s210)、s501〜s508の各ステップを実行する。全フレームに対してノイズ低減が実行された場合は、処理を終了する。
【0128】
以上、実施例3では画像を複数の周波数帯域に分解し、各々の周波数帯域に対する有意確率を求めることで、周波数毎に異なる変化を伴うような非剛体運動においても精度良く動きを判定でき、実施例1よりも最適な時空間方向の重み付け加算を行うことができる。
【0129】
[実施例4]
本発明は、X線動画撮影装置400において、画像処理部112の動作を実施例3とは異なる図6のフローチャートに従った動作とする。なお、実施例4は実施例3に対して実施例2と同じ構成を加えたものである。従って、図6に示すフローチャートにおいて、図3または図5と同様に処理実行するステップは同じ符号を付し、ここでは、上述した実施例2または実施例3と異なる構成についてのみ具体的に説明する。
【0130】
まず、処理を開始する現フレームFとしてt=2を設定するとともに、複数のフィードバック係数{a|i=1,2,...,n}を設定する(s301)。
【0131】
次に、分解部401において、現フレームFを複数の異なる解像度を持つ階層画像に分解する(s501)。
【0132】
次に、設定した複数のフィードバック係数の1つを選択し(s302)、s502〜s505の各ステップを実施例3と同様に実行することで有意確率を求める。
【0133】
以上の処理をすべてのフィードバック係数に対して実行するまで処理を繰り返し(s303)、フィードバック係数{a|i=1,2,...,n}に対する有意確率{P|i=1,2,…n}を求める。
【0134】
次に、加算部117において、複数のフィードバック係数{a|i=1,2,...,n}の中から実施例2と同様に最適なフィードバック係数amを設定する(s304)。
【0135】
以上、すべての画素に対して上述の処理を実行し、複数の有意確率{P|i=1,2,…n}に基づいたフィードバック係数amを設定する。
【0136】
次に、現フレームのラプラシアン画像Lt,iのすべての画素に対して空間方向の重み付け加算を行い(s506)、空間方向に重み付け加算したラプラシアン画像Lst,iとs304のステップで求めたフィードバック係数amを用いて、時空間方向に重み付け加算した現フレームのラプラシアン画像Lot,iを生成する(s601)。具体的には、各レベルiのすべての画素に対して下記式を実行する。
【0137】
【数36】


ここで、寄与率bは実施例1と同様に、上記式によるノイズ減衰率Roに基づいて設定すれば良い。
【0138】
なお、上記式ではam=0の場合は時間方向の重み付け加算が行われず、空間方向の重み付け加算のみが行われる。そのため、検定部116において最適なフィードバック係数としてam=0が設定された場合(すべてのフィードバック係数を棄却しam=0を設定した場合は除く)、1つ前のフレームのラプラシアン画像Ht−1,iとの間に被検者の動きによる信号変化がないにも関わらず、1つ前のフレームのラプラシアン画像Ht−1,iの情報が利用されないことになる。そこで、この場合は、例外的に下記式にて処理を行っても良い。
【0139】
【数37】


ここで、aはユーザが操作部110を介して設定したフィードバック係数である。また、Hot−1,iは時空間方向に重み付け加算された前フレームのラプラシアン画像である。
【0140】
上記式は、空間方向の重み付け加算のみを実行する代わりに、時空間方向に重み付け加算された前フレームのラプラシアン画像Hot−1,iとを重み付け加算するものである。この場合、時間方向の情報も利用した処理となるため、エッジの境界等の構造のぼけを抑えることができる。
【0141】
次に、再構成部402において、時空間方向に重み付け加算した現フレームのラプラシアン画像Lot,iとレベルMのガウシアン画像Gm,iを用いて時空間方向に重み付け加算した現フレームFoを生成する(s508)。
【0142】
次に、全フレームに対してノイズ低減が実行されたか否かを判定し(s209)、全フレームに対してノイズ低減が実行されていない場合は、tをインクリメントすることで次のフレームを現フレームとして設定し(s210)、s302〜s508の各ステップを実行する。全フレームに対してノイズ低減が実行された場合は、処理を終了する。
【0143】
以上、実施例4では複数の有意確率に基づき確率的に最もリスクの少ないフィードバック係数、または確率的にリスクが少ないものの内、最もノイズ抑制効果の高いフィードバック係数を選択するものであり、実施例3よりも最適なフィードバック係数を設定できる。
【0144】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【0145】
また、本発明は、前述した実施例の機能を実現するソフトウェアのプログラム(実施例では図に示すフローチャートに対応したプログラム)を、システムあるいは装置に直接あるいは遠隔から供給し、そのシステムあるいは装置のコンピュータが該供給されたプログラムコードを読み出して実行することによっても達成される場合を含む。
【0146】
従って、本発明の機能処理をコンピュータで実現するために、該コンピュータにインストールされるプログラムコード自体も本発明を実現するものである。つまり、本発明は、本発明の機能処理を実現するためのコンピュータプログラム自体も含まれる。
【0147】
プログラムを供給するための記録媒体としては、例えば、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、MO、CD−ROM、CD−R、CD−RW、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM、DVD(DVD−ROM,DVD−R)などがある。
【0148】
その他、プログラムの供給方法としては、クライアントコンピュータのブラウザを用いてインターネットのホームページに接続し、該ホームページから本発明のコンピュータプログラムそのもの、もしくは圧縮され自動インストール機能を含むファイルをハードディスク等の記録媒体にダウンロードすることによっても供給できる。また、本発明のプログラムを構成するプログラムコードを複数のファイルに分割し、それぞれのファイルを異なるホームページからダウンロードすることによっても実現可能である。つまり、本発明の機能処理をコンピュータで実現するためのプログラムファイルを複数のユーザに対してダウンロードさせるWWWサーバも、本発明に含まれるものである。
【0149】
また、本発明のプログラムを暗号化してCD−ROM等の記憶媒体に格納してユーザに配布し、所定の条件をクリアしたユーザに対し、インターネットを介してホームページから暗号化を解く鍵情報をダウンロードさせ、その鍵情報を使用することにより暗号化されたプログラムを実行してコンピュータにインストールさせて実現することも可能である。
【0150】
また、コンピュータが、読み出したプログラムを実行することによって、前述した実施例の機能が実現される他、そのプログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが、実際の処理の一部または全部を行ない、その処理によっても前述した実施例の機能が実現され得る。
【符号の説明】
【0151】
112 画像処理部
113 フィルタ部
114 ノイズ取得部
115 統計量取得部
116 検定部
117 加算部
180 空間フィルタ部
401 分解部
402 再構成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数フレームの動画像を時系列に重み付け加算する画像処理装置であって、
前記複数フレームの動画像の中で、現フレームより前のフレーム画像をリカ―シブフィルタ処理するフィルタ手段と、
前記現フレームの画像と前記フィルタ手段で得られた画像との差分画像におけるノイズの統計量に基づいて現フレームの重み付け係数を得る係数取得手段と、
前記係数取得手段で得られた前記複数フレームに対応する重み付け係数に基づき前記複数フレームの動画像を加算する加算手段と、
を有することを徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記係数取得手段は、予めえられたノイズの分布に従うかを示す評価値に基づいて前記重み係数を得ることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記ノイズの統計量が予め得られたノイズの確率分布に従うか否かを表す有意確率を求める検定手段を更に備え、
前記加算手段は、前記有意確率に基づいて前記重みづけ係数を得ることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
複数の異なる周波数帯域の画像データに分解する分解手段を更に備え、
前記画像データは前記分解手段で分解された画像であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
複数の異なる周波数帯域の画像データに再構成する再構成手段を更に備え、
前記再構成手段は、前記加算手段で加算した画像データに基づいて再構成することを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記差分画像におけるノイズの統計量を取得する統計量取得手段を更に備え、
前記検定手段は、前記ノイズの統計量が予め取得された確率分布に従うか否かを示す有意確率を求めることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記ノイズの統計量は、ノイズの平均値、標準偏差、分散の少なくとも何れか1つであることを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記検定手段は、前記現フレームの画像における各画素を中心とした所定の範囲の画素を含む標本集合から有意確率を算出することを特徴とする請求項3乃至7の何れか一項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記有意確率は、前記標本集合の母平均が前記ノイズの統計量に基づいた確率分布に従うか否かを表すものであることを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記有意確率は、前記標本集合の母分散が前記ノイズの統計量に基づいた確率分布に従う否かを表すものであることを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記有意確率は、前記標本集合の母平均および母分散が前記ノイズの統計量に基づいた確率分布に従うか否かを表すものであることを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記現フレームの画像データを空間方向に空間フィルタ処理する空間フィルタ手段を更に備え、
前記加算手段は前記空間フィルタ処理後の画像データを加算することを特徴とする請求項1乃至11の何れか一項に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記空間フィルタ手段の前記空間フィルタ処理の処理効果を前記評価値に応じて変更することを特徴とする請求項12に記載の画像処理装置。
【請求項14】
複数フレームの動画像を時系列に重み付け加算する画像処理方法であって、
前記複数フレームの動画像の中で、現フレームより前のフレーム画像をリカ―シブフィルタ処理するフィルタ工程と、
前記現フレームの画像と前記フィルタ工程で得られた画像との差分画像におけるノイズの統計量に基づいて現フレームの重み付け係数を得る係数取得工程と、
前記係数取得手段で得られた前記複数フレームに対応する重み付け係数に基づき前記複数フレームの動画像を加算する加算工程と、
を有することを徴とする画像処理方法。
【請求項15】
請求項14に記載の画像処理方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項16】
請求項14に記載の画像処理方法の各工程をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶した記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−48782(P2013−48782A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189024(P2011−189024)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】