説明

画像処理装置、画像処理方法及びプログラム

【課題】 高画質な出力画像を得ることができる各版のデータを生成する。
【解決手段】 階調変換処理部201は、注目画素におけるm値の入力画像データに対して他の画素における量子化誤し、前記注目画素におけるm値の入力画像データを、n値の出力画像データに量子化する。そして、階調変換処理部201は、量子化値を、2種類以上の版のうちの何れの版の前記注目画素に割り当てるかを決定する。ここで階調変換処理部201は、各版における既に量子化値が割り当てられた画素と注目画素との間の距離を示す注目画素の距離情報に基づいて、各版のうちの何れの版の注目画素に対して量子化値を割り当てるかを決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、m値(mは自然数)の階調を有する入力画像データをn値(nはmより小さい自然数)の階調を有する出力画像データに量子化するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ、パーソナルコンピュータ等における情報出力装置として、所望の文字や画像等の情報を記録紙やフィルム等のシート状の記録媒体に記録を行う記録装置には様々な方式のものがある。その中で、記録媒体に記録剤を付着することで記録媒体上に文字や画像を形成する方式が実用化されており、このような方式の代表例として、インクジェット記録装置がある。
一般に、インクジェット記録装置は、記録速度の向上や高画質化等のため、同一色同一濃度のインクを吐出可能な複数のインク吐出口(ノズル)を集積配列したノズル群を備える。また、異なる色の複数のインクを搭載する場合には、各色に対してそれぞれノズル群が設けられる。さらに、同一色で濃度の異なるインクや、同一色で同一濃度のインクの吐出量を何段階かに変えて吐出可能なノズルについてもそれぞれノズル群が設けられる場合がある。
このような画像形成装置で、多値の入力画像データをドットの記録信号にあたる印刷データに変換する画像処理方法としてR.Floydらによる誤差拡散法(非特許文献1参照)がある。誤差拡散法では、二値化処理中の画素で発生した誤差を以降に処理される周辺の画素に拡散することにより、擬似的に階調表現を実現する。
階調数変換された画像データに基づき画像を画像形成装置で形成する際には、複数回のパス(走査)によって画像を形成する、マルチパス記録方式が用いられることが多い。各パスにおける印刷データを算出する方法としては、マスクパターンを利用する方法がある。特許文献1にその一例が開示されている。二値画像データは、パス毎のマスクパターンとの論理積演算によって各パスに分版される。上記のようなマルチパス記録方式により、インク吐出量及び吐出方向のバラツキによる影響が半減されるため、形成された画像は濃度ムラが緩和される。
マスクパターンを用いたマルチパス記録方式では、各パスの印刷データを統合したものは元の二値画像データに等しくなる。しかしながら、各パスの間に相対的な位置ずれが発生した場合には、画像の粒状性が悪化し、出力画像の画質は著しく低下する。マスクパターンによるマルチパス記録方式における画像品質の劣化は、各パスで印刷されるドットの分散性が低くなるため、位置ずれが生じた場合に出力画像でのドットの配置の分散性も悪化してしまうことが原因である。
さらに、上記の問題を一般化すると、色間排他技術や大中小ドット排他技術においても共通の課題が存在することがわかる。色間排他技術とは、複数の異なる色のインクを有する装置での二値化処理において、異なる色のドットが重なりにくくなるように、ドット配置を制御する技術である。色間排他技術においては、各色のドット配置の分散性を高くしつつ、各色が統合された画像のドット配置も分散性を高くしなければならない。
大中小ドット排他技術とは、同一濃度のインクの吐出量を何段階かに変えて吐出可能な装置において、異なる吐出量のドット配置の分散性を高くする技術である。大中小ドット排他技術においては、各吐出量のドット配置の分散性を高くしつつ、各吐出量のドットが統合された画像の分散性も高くしなければならない。
以上のように、異なる種類のドットを出力可能な画像形成装置において、各種類のドットの分散性を高くしつつ、各種類が統合されたドットの分散性も高くすることが必要である。これにより、形成画像の粒状性および濃度ムラが改善される。ここで、異なる種類のドットとは、マルチパス記録方式における各パスのドットや、多色記録における各色インクのドットや、大中小ドット記録における各吐出量のドットを意味する。
特許文献2には、マルチパス記録におけるパス間排他技術が開示されている。即ち、特許文献2には、各パスの間の相対的な位置ずれ量を検知し、位置ずれ量が小さい場合には誤差拡散法を使用し、大きい場合にはずれに強く設計されたディザマトリクスを使用する技術が開示されている。ディザマトリクスを生成する方法としては、特許文献3に開示されるような、パス毎の粒状性を評価値に含めた最適化計算を行う方法を用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−096455号公報
【特許文献2】特開2008−258866号公報
【特許文献3】特開2007−106097号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】“An adaptive algorithm for spatial gray scale,”SID International Symposium Digest of Technical Papers, vol4.3, 1975, pp. 36−37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示される技術は、位置ずれ量を検知する手段が必要であり、装置が高コストになる。また、位置ずれ量が大きいときにディザマトリクスを用いた階調変換しか使用できない。ディザマトリクスを用いた階調変換は、誤差拡散法と比較すると高速であるが、やや粒状性に劣ることが知られている。そのため、階調変換手段を限定せずに、各パスのドットの分散性を高くしつつ、各パスが統合されたドットの分散性も高くする技術が要求される。
そこで、本発明の目的は、高画質な出力画像を得ることができる各版のデータを生成できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の画像処理装置は、m値(mは自然数)の階調を有する入力画像データをn値(nはmより小さい自然数)の階調を有する出力画像データに量子化する画像処理装置であって、注目画素におけるm値の入力画像データを、n値の出力画像データに量子化する量子化手段と、前記量子化手段による量子化値を、2種類以上の版のうちの何れの版の前記注目画素に割り当てるかを決定する分版手段とを有し、前記分版手段は、前記各版における記録材が記録される画素から前記注目画素までの距離を示す前記注目画素の距離情報に基づいて、前記各版のうちの何れの版の前記注目画素に対して量子化値を割り当てるかを決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高画質な出力画像を得ることができる各版のデータを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る画像処理装置のハードウェア及びソフトウェアの構成を示すブロック図である。
【図2】第1及び第3の実施形態に係る画像形成装置の機能構成を示すブロック図である。
【図3】階調変換処理部における処理の詳細を示すフローチャートである。
【図4】図3のステップS304の処理の詳細を示すフローチャートである。
【図5】図3のステップS308の処理の詳細を示すフローチャートである。
【図6】実施形態において生成される、あるパスの距離情報を示す図である。
【図7】実施形態において生成されるパス版の画像と従来の手法により生成されるパス版の画像とを比較した図である。
【図8】第2の実施形態に係る画像形成装置の機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を適用可能な好適な実施形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明を限定するものではなく、また、以下の実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明に必須のものとは限らない。
【0010】
先ず、第1の実施形態について説明する。図1は、第1の実施形態に係る画像処理装置10のハードウェア及びソフトウェアの構成を示すブロック図である。図1に示すように、画像処理装置10は、画像データを印刷するプリンタ14と画像データを表示するモニタ16と接続されている。なお、画像処理装置10は、パーソナルコンピュータ等によって構成することが可能である。
【0011】
図1において、画像処理装置10は、オペレーティングシステム(OS)12によって、アプリケーションソフトウェア11、プリンタドライバ13、モニタドライバ15の各ソフトウェアを動作させる。アプリケーションソフトウェア11は、ワープロ、表計算、インターネットブラウザ等に関する処理を行う。モニタドライバ15は、モニタ16に表示する画像データを作成する等の処理を実行する。
【0012】
プリンタドライバ13は、アプリケーションソフトウェア11からOS12へ発行される各種描画命令(イメージ描画命令、テキスト描画命令、グラフィック描画命令等)を描画処理して、プリンタ14で用いる多値のCMYK画像データを生成する。ホストコンピュータ10は、以上のソフトウェアを動作させるための各種ハードウェアとして、CPU18、ハードディスク17、RAM19、ROM20等を備える。即ち、CPU18は、HD17やROM20に格納されている上記のソフトウェアに従ってその処理を実行し、RAM19はその処理の実行の際にワークエリアとして用いられる。
【0013】
プリンタ14は、インクを吐出する記録ヘッドを記録媒体に対して走査し、その間にインクを吐出して記録を行う所謂シリアル方式のプリンタである。ヘッドの走査は、画像を複数回の走査に分割して形成する所謂マルチパス記録方式を用いる。プリンタ14は、プリンタドライバ13から多値のCMYK画像データを受け取り、走査毎の二値のCMYK画像データへと変換する。記録ヘッドは、C、M、Y、Kそれぞれのインクに対応して用意され、これらがキャリッジに装着されることにより、記録用紙等の記録媒体に対して走査することができる。それぞれの記録ヘッドは、吐出口の配列密度が1200dpiである。吐出口は3種類のサイズに分かれ、それぞれの吐出口から10ピコリットル、6ピコリットル、3ピコリットルのインク滴を吐出する。これらをそれぞれ、大ドット、中ドット、小ドットと称す。
【0014】
次に、本実施形態における、多値のCMYK画像データを分版処理するための方法について説明する。ここで分版処理とは、マルチパス記録方式における各パス版への分版や、CMYK画像データの各色版への分版や、大中小ドットに対して用意された各ドットサイズへの分版を意味する。なお、以下では画像の座標系を横方向にx、縦方向にyとし、画像の左上端を原点(0,0)としている。またドットのON、OFFを表す二値画像データは、1をON、0をOFFに対応させている。パス版の数はNとしている。
【0015】
図2は、第1の実施形態に係る画像形成装置10の機能構成を示すブロック図である。階調変換処理部201は、C、M、Y、Kの色版毎に、分版前の多値画像データを誤差拡散法によって二値化しながら分版し、パス版毎の二値画像データを生成する。また、階調変換処理部201は、パス版毎の二値画像データを生成する際には、パス版毎に保持された距離情報と分版比率データとを参照する。
印字処理部202は、階調変換処理部201から入力されたパス版毎の二値画像データを記録媒体上に記録する。このとき、上述の記録ヘッド及びインクを用いて、マルチパス記録方式により画像が形成される。
【0016】
図3は、階調変換処理部201における処理の詳細を示すフローチャートである。ステップS301において、階調変換処理部201は、誤差拡散法で用いる変数、各パス版の距離情報δ(k,x,y)、各パス版の入出力誤差σ(k)を初期化する。ここでkはパス版の番号を表す変数であり、1≦k≦Nである。
誤差拡散法に用いられる変数のうち、注目画素位置(x,y)、累積誤差D(x,y)、走査方向はここで初期化される。注目画素位置(x,y)は(0,0)、累積誤差D(x,y)は全て0、走査方向は右方向(x軸正方向)に初期化する。ここで、走査方向とは誤差拡散法の処理の走査方向であり、マルチパス記録方式の走査とは無関係である。
各パス版の距離情報δ(k,x,y)は全て距離情報の上限値に初期化される。上限値は任意に設定可能であるが、発明者らの実験によれば入力される色版の多値画像データの上限値と等しくすれば十分である。よって、例えば色版の多値画像データが8bit画像データであれば、δ(k,x,y)は全て255に初期化される。各パス版の入出力誤差σ(k)は全て0に初期化される。
【0017】
ステップS302において、階調変換処理部201は、各種変数に値をセットする。先ず階調変換処理部201は、注目画素位置(x,y)における色版の多値画像データの画素値を取得し、入力値I(x,y)とする。また、階調変換処理部201は注目画素位置(x,y)における分版比率データも取得し、r(k,x,y)とする。本実施形態において、分版比率データとは、入力値I(x,y)を各パス版に分ける際の比率を意味する。
さらに階調変換処理部201は、入力値I(x,y)に応じたLUTを参照することにより、誤差拡散係数c1、c2、c3、c4及び閾値T(x,y)を取得する。誤差拡散係数c1、c2、c3、c4とは、後述するステップS307において算出される誤差Eを近傍画素へ拡散する際に用いる重み係数である。
【0018】
ステップS303において、階調変換処理部201は、量子化値である出力値O(x,y)を決定する。出力値O(x,y)は、入力値I(x,y)と累積誤差D(x,y)との和と、閾値T(x,y)とを比較する以下の判定式により決定される。
O(x,y)=1 if(I(x,y)+D(x,y)≧T(x,y))
O(x,y)=0 if(I(x,y)+D(x,y)<T(x,y))
ステップS304において、階調変換処理部201は、出力値の種類を決定する。本実施形態においては、出力値の種類とは「どのパス版の出力値か」を意味する。即ち、ステップS304では、階調変換処理部201は、出力値O(x,y)をパス版へ分版してO(k,x,y)を決定する。
【0019】
以下、ステップS304における処理の詳細について、図4を用いて説明する。S304では先ず、階調変換処理部201は、ステップS303から入力された出力値O(x,y)のON/OFF判定を行う(ステップS3041)。出力値がOFF(O(x,y)が0)の場合、階調変換処理部201は、各パス版の出力値O(k,x,y)に全て0をセットし(ステップS3042)、ステップS304の処理を終了する。一方、出力値がON(O(x,y)が1)である場合、階調変換処理部201は、各パス版の距離情報δ(k,x,y)と各パス版の入出力誤差σ(k)の重みつきとの和が最大となるパスを探す(ステップS3043)。つまり、階調変換処理部201は、ある重み係数αを用いて、パス番号kについて次の式を満たすkを探す。
Max[δ(k,x,y)+α×σ(k)]
このときのkの番号をkmaxとする。ステップS3044において、階調変換処理部201は、kmax番目のパスについて出力値に1をセットする(O(kmax,x,y)=1)。一方、kmax番目以外のパスについては、ステップS3045において階調変換処理部201は出力値に0をセットする。
【0020】
ステップS305において、階調変換処理部201は、パス版毎に、距離情報δ(k,x,y)を更新する。対応するパス番号kの出力値O(k,x,y)が1であれば、距離情報δ(k,x,y)=0に更新される。それ以外の場合、距離情報δ(k,x,y)は更新されず、現在の値がそのまま保持される。
【0021】
ステップS306において、階調変換処理部201は、各パス版の入出力誤差σ(k)を更新する。以下の式に示すように、全てのパス番号kの入出力誤差σ(k)に対して、入力値I(x,y)に分版比率データr(k,x,y)をかけたものと、O(k,x,y)との差分が加算される。なお、演算記号+=は、左辺の現在値に右辺の値を加算して更新することを意味する。
σ(k)+=r(k,x,y)×I(x,y)−O(k,x,y)
上式により定義されるσ(k)は、kパス目の画像における出力値の過不足を示す値となるため、σ(k)が負の大きい値であればkパス目にONのドットが分配されやすくなるように制御することが望ましい。
【0022】
ステップS307において、階調変換処理部201は、誤差(量子化誤差)Eを算出し、近傍画素へと拡散する。誤差Eは、入力値I(x,y)と累積誤差D(x,y)との和と、出力値O(x、y)との差であり、以下の式により定義される。
E=I(x,y)+D(x,y)−O(x,y)
誤差Eは、上述の誤差拡散係数c1、c2、c3、c4に応じた割合で近傍画素へと分配され、累積誤差に加算される。本実施形態では、c1、c2、c3、c4をそれぞれ右、左下、下、右下方向の隣接画素への拡散比率とし、以下の式により近傍の累積誤差を更新する。
D(x+1,y)+=c1×E
D(x−1,y+1)+=c2×E
D(x,y+1)+=c3×E
D(x+1,y+1)+=c4×E
なお、上記の拡散方向は走査方向が右方向(x軸正方向)の場合であり、走査方向が左方向の場合には、左右を反転させた以下の式を用いる。
D(x−1,y)+=c1×E
D(x+1,y+1)+=c2×E
D(x,y+1)+=c3×E
D(x−1,y+1)+=c4×E
ステップS308において、階調変換処理部201は、各パス版において、近傍画素における距離情報を更新する。以下、ステップS308における処理の詳細について、図5を用いて説明する。先ず階調変換処理部201は、注目画素の距離情報δ(k,x,y)に1を加算した値と、その近傍画素の距離情報との大きさを比較する(ステップS3081)。ここで、近傍画素とは、注目画素の右方向隣接画素と下方向隣接画素との2種類とする。比較の結果、近傍画素の距離情報の方が大きければ、近傍画素の距離情報に、注目画素の距離情報+1をセットする(ステップS3082)。即ち、次の式のように表される。
δ(k,x+1,y)=δ(k,x,y)+1 if(δ(k,x,y)+1<δ(k,x+1,y))
δ(k,x,y+1)=δ(k,x,y)+1 if(δ(k,x,y)+1<δ(k,x,y+1))
なお、上記の近傍画素は走査方向が右方向(x軸正方向)の場合であり、走査方向が左方向の場合には、左右を反転させた以下の式を用いる。
δ(k,x−1,y)=δ(k,x,y)+1 if(δ(k,x,y)+1<δ(k,x−1,y))
δ(k,x,y+1)=δ(k,x,y)+1 if(δ(k,x,y)+1<δ(k,x,y+1))
ステップS309において、階調変換処理部201は、注目画素(x,y)を1つ進める。走査方向が右方向の場合にはxに1を加算する。走査方向が左方向であれば、xから1を減算する。
【0023】
ステップS310において、階調変換処理部201は、1行分の処理が終了したかを判定する。この処理は、画素位置xと画像幅wとを比較することで判定される。1行分の処理が終了していれば、処理はステップS311に進む。終了していなければ、処理はステップS302に戻る。
【0024】
ステップS311において、階調変換処理部201は、次の行へと進み、走査方向を反転する。先ず階調変換処理部201は画素位置yに1を加算する。次に階調変換処理部201は、現在の走査方向が右方向であれば、画素位置xを画像右端としてから、走査方向を左方向に反転する。一方、現在の走査方向が左方向であれば、画素位置xを画像左端としてから、走査方向を右方向に反転する。
【0025】
ステップS312において、階調変換処理部201は、全ての行について処理が終了したかを判定する。この処理は、画素位置yと画像高さhとを比較することで判定される。全ての行の処理が終了していれば、階調変換処理部201の処理を完了する。一方、処理が終了していなければ、処理はS302に戻る。
【0026】
以上説明した処理を行うことにより、マルチパス記録方式のパス分解処理において、パス版毎のドット配置の分散性とパス版が統合された版のドット配置の分散性とをともに高くすることが可能となる。
【0027】
図6は、本実施形態において生成される、あるパス版における距離情報を示す図である。各画素にセットされた値は、注目画素から見たときの既処理画素内での最近傍ドットまでの距離を示している。なお、本実施形態においては、縦方向、横方向の隣接画素までの距離を1、斜め方向の隣接画素までの距離を2と計算する。
【0028】
図7は、本実施形態において生成されるパス版の画像(図7(b))と、従来の手法により生成されるパス版の画像(図7(a))と比較した図である。図7では、1パス目のみのパス版の画像から、後続のパス版の画像を統合していったときの画像を示している。「1〜kパス」という表記は、1パス目からkパス目までのパス版が統合された画像であることを意味する。従来の手法では、二値化処理の後にマスクパターンによる分版を行っているが、パス版の画像を統合していく過程でドット配置の分散性が悪いことがわかる。一方、本実施形態による結果は、パス版の画像を統合していく過程でもドット配置の分散性が良好である。これは、上述の距離情報に基づいて分版により、各パス版の画像においてドットが密または疎になりすぎることが防止されるためである。
【0029】
また、本実施形態においては、1回の処理で分版を実現できている。即ち、パス数N回分の誤差拡散法処理を繰り返す必要がない。また、図6に示した距離情報を格納するためのメモリ量に関しては、各パスに対して画像1行分ずつ保持できればよい。これは、既処理画素の距離情報は不要であり、上書き可能なためである。
【0030】
上記の理由により、距離情報の取得には本実施形態で示した方法が好適であるが、その方法は限定されるものではない。例えば既処理画素の出力値を保持しておき、注目画素からの最近傍出力ドットを探索するようにしてもよい。
【0031】
なお、本実施形態における構成は一例に過ぎない。通常の誤差拡散法の処理にあたる部分については、関連する技術による任意の改変が可能である。例えば、出力値O(x,y)を決定する判定において、閾値T(x,y)にランダムな変動成分を加算してもよい。また、累積誤差D(x,y)の初期値にランダムな変動成分を使用してもよい。画素の走査方向や、誤差の拡散方向についても上述の例に限定されるものではなく、任意の改変形態に適用することが可能である。
【0032】
なお、量子化方法は誤差拡散法に限定されるものではなく、任意の方法が適用可能である。例えば、ディザマトリクスを用いた量子化方法を用いてもよい。量子化方法としてディザマトリクスを用いる場合、前述の実施例における累積誤差D(x,y)および誤差拡散係数c1、c2、c3、c4が不要となり、閾値T(x,y)には所定のディザマトリクスが設定される。また、ステップS303における判定式からD(x,y)の項が除かれ、ステップS307における誤差処理が不要となるため、構成が簡易となる。ただし、ディザマトリクス毎に並列処理を行う際には、マトリクスの境界で距離情報が不連続になることで、境界部分に視覚的に不快なスジが発生してしまう恐れがある。そのため、ディザマトリクスの配置にオフセットを与える等、公知の対策手法を併用することが望ましい。
【0033】
無論、データ形式も一例に過ぎない。例えば、Lab*画像データやCMYK画像データを入力として受け取る形態であっても適用可能である。また、分版比率データr(k,x,y)を用いずに、予め分版された入力画像I(k,x,y)を入力として受け取る形態であってもよい。出力装置の記録材としては、淡濃度の記録材や無色の記録材を用いる場合であっても適用可能である。
【0034】
また、マルチパス記録方式としては、記録ヘッドが記録媒体上を複数回走査する形態に限定されない。例えば、記録媒体の幅以上に長い記録ヘッドを有する、所謂ラインヘッドを備えたプリンタにおいては、複数の記録ヘッドを備えることでマルチパス記録を実現できる。このような形態においても、本発明が適用可能であることは明らかである。
【0035】
距離情報及び入出力誤差の定義についても限定されるものではない。例えば、近傍画素における距離情報を更新する際に、斜め方向を含めてもよい。その場合には、縦横方向では注目画素の距離情報+1を比較、代入し、斜め方向では注目画素の距離情報+√2を比較、代入するようにしてもよい。パス毎の入出力誤差の定義についても上記例に限定されず、例えばパス毎の累積誤差D(k,x,y)を用いて以下の式で更新してもよい。
σ(k)+=r(k,x,y)×{I(x,y)+D(x,y)}−O(k,x,y)
また、任意に設定された上下限値を超えた場合にクリッピングしてもよい。本実施形態では、出力値O(x,y)は0か1の二値としたが、3値以上の値であってもよい。即ち、m値(mは自然数)の階調を有する入力値(入力画像データ)をn値(nはmより小さい自然数)の階調を有する出力値(出力画像データ)に量子化することができる。これは簡単な改変で実現可能であり、例えば出力値を3値とする場合には、ステップS303でO(x,y)を決定する際に、2つの閾値T1(x,y)、T2(x,y)を用いて、
O(x,y)=2 if(I(x,y)+D(x,y)≧T1(x,y))
O(x,y)=1 if(T1>I(x,y)+D(x,y)≧T2(x,y))
O(x,y)=0 if(I(x,y)+D(x,y)<T2(x,y))
とし、ステップS304で出力値の種類を決定する際に、δ(k,x,y)+α×δ(k)が大きい上位2つのパスを探すようにすればよい。
以上のように、本実施形態においては、パス版の数と同回数の誤差拡散法を実施する必要がないため、位置ずれに強い誤差拡散処理をより少ない計算量で実現することが可能となる。
【0036】
次に、第2の実施形態について説明する。第1の実施形態では、マルチパス記録方式におけるパス分解処理について説明した。これに対して、本実施形態においては、さらにCMYK画像データを各色の画像に分版する例について説明する。
【0037】
複数の異なる色のインクを有する装置での二値化処理においては、異なる色のドットが重なりにくくなるように、ドット配置を制御することが望ましい。これは、第1の実施形態におけるパス版の関係を、色版に拡張することにより実現可能である。
【0038】
図8は、第2の実施形態に係る画像形成装置10の機能構成を示すブロック図である。図2に示した機能構成に対して色統合処理部200が追加されたこと以外は、第1の実施形態に係る画像形成装置の構成と同一である。なお、第2の実施形態に係る画像処理装置10のハードウェア及びソフトウェアの構成は、図1に示した構成と同様である。
色統合処理部200は、プリンタドライバ13から入力されたCYMK多値画像データの各色画像データ(C、M、Y、Kの4種類の版)を統合する。以下、統合後の画像データを色版統合画像データと称す。色版統合画像データは、CMYK画像データの画素値を色版毎に加算することで生成される。なお、統合する色版はCMYK全ての版でなくてもよく、例えばC版とM版だけに限定してもよい。
【0039】
印字処理部202は、第1の実施形態で説明したものと同様であるため、説明を省略する。階調変換処理部201については、第1の実施形態で説明したものとの差分についてのみ説明する。本実施形態では、色版の分版とパス版の分版とを行うため、分版後の版の数はパス数N×色数Qとなる。そのため、第1の実施形態でパス番号kについて定められた各種の変数を、パス番号k(1≦k≦N)及び色番号j(1≦j≦Q)について定める。具体的には、各版において、分版比率r(j,k,x,y)、出力値O(j,k,x,y)、距離情報δ(j,k,x,y)、入出力誤差σ(j,k,x,y)を定める。第1の実施形態との違いは、1次元のインデックスであったkが、2次元のインデックス(j,k)に置き換わっただけである。そのため、第1の実施形態で説明した階調変換処理部201の処理においてkを(j,k)に置換すればよい。
【0040】
以上説明した処理を行うことにより、マルチパス記録方式おけるパス分解処理において、パス版毎のドット配置の分散性及びパス版が統合された版のドット配置の分散性をともに高くすることができる。また、色毎のドット配置の分散性及び色版が統合された版のドット配置の分散性もともに高くすることができる。
【0041】
なお、本実施形態においてパス数Nを1とした場合には、色間排他を実現する二値化技術となる。その場合には、任意のパス分解技術と組み合わせ可能であることはいうまでもない。
【0042】
次に、第3の実施形態について説明する。本実施形態では、異なる吐出量のドットについて、各吐出量毎の版に分版する方法について説明する。
【0043】
先ず、本実施形態に係る画像形成装置10の機能構成について図2を参照しながら説明する。印字処理部202は、第1の実施形態で説明したものと同様であるため、説明を省略する。階調変換処理部201については、第1の実施形態で説明したものとの差分についてのみ説明する。なお、第3の実施形態に係る画像処理装置10のハードウェア及びソフトウェアの構成は、図1に示した構成と同様である。
【0044】
本実施形態では、色版の分版と吐出量版の分版とを行うため、分版後の版の数はパス数N×吐出量種類数Rとなる。そのため、第1の実施形態でパス番号kについて定められた各種の変数を、パス番号k(1≦k≦N)及び色番号j(1≦l≦R)について定める。具体的には、各版において、分版比率r(l,k,x,y)、出力値O(l,k,x,y)、距離情報δ(l,k,x,y)、入出力誤差σ(l,k,x,y)を定める。第1の実施形態との違いは、1次元のインデックスであったkが、2次元のインデックス(l,k)に置き換わっただけである。そのため、第1の実施形態で説明した階調変換処理部201の処理においてkを(l,k)に置換すればよい。
【0045】
以上説明した処理を行うことにより、マルチパス記録方式おけるパス分解処理において、パス版毎のドット配置の分散性及びパス版が統合された版のドット配置の分散性をともに高くすることができる。また、吐出量毎のドット配置の分散性及び吐出量版が統合された版のドット配置の分散性もともに高くすることができる。
なお、本実施形態は、第2の実施形態と組み合わせて用いることも可能である。また、本実施形態においてパス数Nを1とした場合には、吐出量間排他を実現する二値化技術となる。その場合には、任意のパス分解技術と組み合わせ可能であることはいうまでもない。
【0046】
以上の通り本発明は、分版処理において、各版における距離情報に基づいて各版のうちの何れの版の注目画素に対して量子化値を割り当てるか決定する。分版処理とは、マルチパス記録方式における各パス版への分版や、CMYK画像データの各色版への分版、大中小ドットの各ドットサイズの画像データへの分版、濃淡インクの各画像データへの分版などがある。前述の実施形態と同様に、濃淡インクの各画像データへの分版処理に本発明を適用しても、各版の分散性を高くすることができる。また、第2の実施形態や第3の実施形態のように、複数の分版処理を組み合わせて本発明を適用することも可能である。
【0047】
また、前述の実施形態では、注目画素の量子化値を、距離情報が最大の版へ割り当てる構成について説明したが、必ずしも最大である必要はない。距離情報が2番目に大きい版への分版など、画質の分散性を向上させることのできる範囲であれば構わない。
【0048】
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
m値(mは自然数)の階調を有する入力画像データをn値(nはmより小さい自然数)の階調を有する出力画像データに量子化する画像処理装置であって、
注目画素におけるm値の入力画像データを、n値の出力画像データに量子化する量子化手段と、
前記量子化手段による量子化値を、2種類以上の版のうちの何れの版の前記注目画素に割り当てるかを決定する分版手段とを有し、
前記分版手段は、前記各版における記録材が記録される画素から前記注目画素までの距離を示す前記注目画素の距離情報に基づいて、前記各版のうちの何れの版の前記注目画素に対して量子化値を割り当てるかを決定することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記量子化手段は、誤差拡散法により量子化することを特徴とする請求項に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記量子化手段は、ディザマトリクスを用いて量子化することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記2種類以上の版とは、マルチパス記録方式における複数のパスに対応するパス毎の版、複数の記録材に対応する記録材毎の版、及び、記録材の複数の吐出量に対応する吐出量毎の版のうちの少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記分版手段は、前記各版の前記注目画素に対して分配される前記入力画像データの値と量子化値とに基づいて求められる入出力誤差を更に加味して、前記各版のうちの何れの版の前記注目画素に対して量子化値を割り当てるかを決定することを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記各版における前記注目画素の量子化値に応じて、前記注目画素の距離情報を決定する決定手段を更に有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記決定手段は、前記注目画素の距離情報に基づいて、前記注目画素の近傍の画素の距離情報を決定することを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
m値(mは自然数)の階調を有する入力画像データをn値(nはmより小さい自然数)の階調を有する出力画像データに量子化する画像処理方法であって、注目画素におけるm値の入力画像データを、n値の出力画像データに量子化する量子化ステップと、
前記量子化ステップによる量子化値を、2種類以上の版のうちの何れの版の前記注目画素に割り当てるかを決定する分版ステップとを含み、
前記分版ステップは、前記各版における記録材が記録される画素から前記注目画素までの距離を示す前記注目画素の距離情報に基づいて、前記各版のうちの何れの版の前記注目画素に対して量子化値を割り当てるかを決定することを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
m値(mは自然数)の階調を有する入力画像データをn値(nはmより小さい自然数)の階調を有する出力画像データに量子化する画像処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、注目画素におけるm値の入力画像データを、n値の出力画像データに量子化する量子化ステップと、
前記量子化ステップによる量子化値を、2種類以上の版のうちの何れの版の前記注目画素に割り当てるかを決定する分版ステップとをコンピュータに実行させ、
前記分版ステップは、前記各版における記録材が記録される画素から前記注目画素までの距離を示す前記注目画素の距離情報に基づいて、前記各版のうちの何れの版の前記注目画素に対して量子化値を割り当てるかを決定することを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−50062(P2012−50062A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99714(P2011−99714)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】