説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】高詳細な画像を得るために被写体をフラッシュ撮影すると、実際の環境光下では観察されるであろう被写体の陰影が消失して立体感が損なわれる場合がある。
【解決手段】S1でのユーザ指示に基づき、S2で被写体をフラッシュ撮影した第1の画像データと、蛍光灯などの観察光源下で撮影した第2の画像データを取得する。そしてS3で第1および第2の画像データの照明ムラを補正した後、S4で第1および第2の画像データにおける平均明度の比を用いて、画素ごとの明度補正パラメータを算出する。そしてS5で、該明度補正パラメータを用いて第1の画像データにおける画素ごとの明度を補正する。これにより、観察光源下で被写体に生じる陰影が再現された、高詳細な撮影画像が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影画像を補正する画像処理装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被写体を撮影する際に光源の光量が不十分である場合、ノイズ、及びボケによって画質が劣化し、高精細な画像を取得することは難しい。高精細な画像を取得するためには、例えば被写体の周囲にエレクトロニックフラッシュ(以下、フラッシュ)を複数配置して十分な光量を確保したうえで撮影すると良い。しかし、フラッシュ等の複数の光源を発光させて撮影を行うと、被写体の陰影が消失してしまうことにより、被写体の立体感が損なわれた平坦な画像が得られる場合がある。このため、例えば文化財の複製プリントを作成する場合、フラッシュ光源で撮影された平坦な画像を基に出力を行うと、実際の環境光(例えば天井に固定された蛍光灯)の下で観察される原作の陰影を再現できないという課題がある。
【0003】
被写体の立体感を損なわずに高精細な画像を取得する方法として、フラッシュの照射条件を複数設定して撮影を行い、該撮影された複数の画像の中から陰影のある画像を選択する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−167376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のフラッシュ照射条件を複数設定して撮影を行う方法は、陰影を損なわずに高精彩な画像を取得する方法であり、実際に観察する光源下での陰影を再現する方法を提案するものではない。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、観察光源下で被写体に生じる陰影が再現された、高詳細な撮影画像を取得する画像処理装置および画像処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための一手段として、本発明の画像処理装置は以下の構成を備える。
【0008】
すなわち、同一の被写体について、第1の照明条件の下で撮影した第1の画像データと、該第1の照明条件よりも光量の大きな第2の照明条件の下で撮影した第2の画像データを取得する画像取得手段と、前記第1および第2の画像データのそれぞれに対し、照明に起因するムラを抑制するように補正するムラ補正手段と、該ムラ補正された前記第1および第2の画像データにおける平均明度の比を用いて、画素ごとの明度補正パラメータを算出するパラメータ算出手段と、前記明度補正パラメータを用いて、前記第2の画像データにおける画素ごとの明度を補正する補正手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、観察光源下で被写体に生じる陰影が再現された、高詳細な撮影画像を取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態における画像処理装置の構成を示すブロック図、
【図2】本実施形態の画像処理を示すフローチャート、
【図3】UI部が表示するユーザインタフェース例を示す図、
【図4】ムラ補正処理を示すフローチャート、
【図5】明度補正パラメータ算出処理を示すフローチャート、
【図6】画像補正処理を示すフローチャート、
【図7】本実施形態における処理概要を示す図、
【図8】撮影光源画像の撮影方法を示す図、
【図9】観察光源画像の撮影方法を示す図、である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について図面を用いて詳細に説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものでなく、また本実施の形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0012】
<第1実施形態>
●システム概要
本実施形態を説明するにあたり、まず代表的な適用先である文化財複製への適用事例を説明する。本実施形態の画像処理装置を文化財や絵画の複製に適用する際の概要を図7に示す。図7に示すように、本実施形態の画像処理装置は、原作をフラッシュ撮影した撮影光源画像701に対して陰影補正処理を施すことによって、実際に複製品を観察する光源下において原作の陰影を再現した画像705に変換するものである。変換された画像705はフラッシュ光源下の色データを観察光源下の色データに変換する光源変換処理によって、光源変換画像706に変換される。光源変換画像706は観察光源下のプリントデータに基づいて出力され、複製品707が作成される。この複製品707には、原作が置かれている観察光源下で原作と同じ陰影を再現することが要求されるため、上述した陰影補正処理が必要になる。本発明では、該陰影補正処理を以下のように実施する。まず、フラッシュを点灯させて撮影した撮影光源画像701と、フラッシュを点灯せずに撮影した観察光源画像702のそれぞれについて、照明に起因するムラ(照明ムラ)を抑制するように補正する。そして、該照明ムラが補正された撮影光源画像703と観察光源画像704から、明度補正パラメータを算出する。そして該明度補正パラメータを用いて、撮影光源画像701に陰影補正処理を施す。
【0013】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0014】
●システム構成
図1は、本実施形態に係る画像処理システムの構成を示すブロック図である。図1において、101は画像処理装置であり、102は被写体や白色板を撮影した画像データを保持する画像データ保持部である。103は、画像データ保持部102から、同一場面について照明条件の異なる撮影画像の画像データを取得する画像取得部である。104は、該取得した画像データにおける照明ムラを補正するムラ補正部である。105は、画像データから明度補正パラメータを算出する明度補正パラメータ算出部である。106は、明度補正パラメータを用いて撮影画像を補正する画像補正部である。107は、ユーザにインタフェースを表示するUI部である。108は、画像データおよび演算処理における演算結果等を一時的に保存するバッファメモリである。
【0015】
尚、本実施形態における画像処理装置のハードウェア構成は、コンピュータ等の周知の技術によって構成可能であるため、ハードウェア構成についての詳細な説明は省略する。
【0016】
●画像補正処理概要
以下、画像処理装置101における画像補正処理の概要について、図2のフローチャートを用いて説明する。まずS1において、UI部107は、画像補正処理に必要な情報をユーザに入力してもらうためのユーザインタフェース(以下、UI)を表示し、ユーザによる入力を受け付ける。
【0017】
ここで図3に、UI部107に表示されるUI例を示す。図3において、1001は撮影光源下で撮影された被写体画像を指示するための撮影光源画像指示部である。1002は観察光源下で撮影された被写体画像を指示するための観察光源画像指示部である。1003は撮影光源下で撮影された、被写体とほぼ同サイズの白色板画像を指示するための撮影光源白色板画像指示部である。1004は観察光源下で撮影された、被写体とほぼ同サイズの白色板画像を指示するための観察光源白色板画像指示部である。1005は陰影補正された画像の保存先および保存ファイル名を指示するための補正画像保存指示部である。1006はムラ補正部104による撮影画像の照明ムラ補正処理を指示するムラ補正ボタンである。1007は撮影データから明度補正パラメータを算出する処理を指示する明度補正パラメータ算出ボタンである。1008は明度補正パラメータを用いた画像データの補正処理を指示する画像補正ボタンである。
【0018】
次にS2において、画像取得部103は、図3に示すUIにおける各画像指示部1001、1002、1003、1004で指示された画像ファイル名に基づき、画像データ保持部102から被写体と白色板についての撮影画像を取得する。取得した撮影画像はバッファメモリ108に保存する。ここで取得される被写体についての撮影画像は以下の2つである。まず1つは、天井など所定の位置に固定された蛍光灯等の固定照明など、実際に被写体観察する環境光を生成する観察光源の下(第1の照明条件)で、該被写体が撮影された観察光源画像(第1の画像データ)である。そしてもう1つは、フラッシュ等の撮影用の光源による照明下(第2の照明条件)で被写体が撮影された撮影光源画像(第2の画像データ)である。この撮影光源画像は図8に示すように、被写体の周囲に複数のフラッシュ光源を配置して、十分な光量を確保して撮影することが望ましい。また、観察光源画像は図9に示すように、図8と同一の被写体について、カメラとの位置関係も撮影光源画像の撮影時と同様として、光源を観察光源のみとして撮影する。また白色板についても被写体と同様に、同一場面を同じ画角で、光源を変えて撮影した撮影画像を取得する。
【0019】
次にS3においてムラ補正部104が、被写体についての撮影画像、すなわち撮影光源画像および観察光源画像のそれぞれにおける照明ムラを、白色板画像を用いて補正する。このムラ補正処理の詳細については後述する。
【0020】
次にS4において、明度補正パラメータ算出部105が、S3でムラ補正された撮影光源画像および観察光源画像から、明度補正パラメータを算出する。この明度補正パラメータ算出処理の詳細については後述する。
【0021】
次にS5において、画像補正部106が、S4で算出された明度補正パラメータを用いて撮影光源画像の明度補正を行い、処理を終了する。この画像補正処理の詳細については後述する。
【0022】
以上の画像補正処理によって、被写体をフラッシュ撮影した画像(撮影光源画像)に基づき、該被写体を観察光源下で観察した際と同様の陰影を有する画像として得ることができる。
【0023】
●ムラ補正処理(S3)詳細
以下、上記S3においてムラ補正部104で行われるムラ補正処理の詳細について、図4のフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0024】
まずS31、S32で、図3のUIに示す撮影光源画像指示部1001、観察光源画像指示部1002のそれぞれで指示された被写体画像を、画像データ保持部102から取得する。次にS33、S34で、図3のUIに示す撮影光源白色板画像指示部1003、観察光源白色板画像指示部1004のそれぞれで指示された白色板画像を、画像データ保持部102から取得する。
【0025】
次にS35において、S31及びS33で取得した、撮影光源下における被写体と、該被写体と同サイズの白色板の両撮影データ(RGB)を、AdobeRGB変換式(RGB→XYZ)を用いてXYZ値に変換する。そして該XYZ値の輝度成分であるY値について、以下に示す式(1)を用いて撮影光源画像のムラ補正を行う。さらに、補正後のXYZ値をAdobeRGB逆変換式(XYZ→RGB)を用いてRGB値に変換し、得られたムラ補正後の撮影光源画像をバッファメモリ108に保存する。
【0026】
次にS36において、S32及びS34で取得した、観察光源下における被写体と、該被写体と同サイズの白色板の両撮影データ(RGB)を、AdobeRGB変換式(RGB→XYZ)を用いてXYZ値に変換する。そして該XYZ値の輝度成分であるY値について、やはり式(1)を用いて観察光源画像のムラ補正を行う。さらに、補正後のXYZ値をAdobeRGB逆変換式(XYZ→RGB)を用いてRGB値に変換し、得られたムラ補正後の観察光源画像をバッファメモリ108に保存する。
【0027】

【0028】
●明度補正パラメータ算出処理(S4)詳細
以下、上記S4において明度補正パラメータ算出部105で行われる明度補正パラメータ算出処理の詳細について、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0029】
まずS41、S42において、バッファメモリ108から、上記S35、S36でそれぞれ保存された、ムラ補正後の撮影光源画像および観察光源画像を取得する。次にS43において、S41、S42で取得したムラ補正後の撮影光源画像と観察光源画像を、AdobeRGB変換式を用いてXYZ値に変換する。さらに、該XYZ値をCIE-Lab変換式を用いてLab値に変換し、Lab値の明度成分であるL値について、以下に示す式(2)を適用することにより、画素(x,y)ごとの明度補正パラメータL補正(x,y)を算出する。
【0030】

【0031】
式(2)によれば、撮影光源画像と観察光源画像における平均明度の比を、観察光源画像の各画素の明度に乗じることで、画素ごとの明度補正パラメータL補正(x,y)が得られる。
【0032】
そしてS44において、S43で算出した明度補正パラメータL補正(x,y)を、バッファメモリ108に保存する。
【0033】
●画像補正処理(S5)詳細
以下、上記S5において画像補正部106で行われる画像補正処理の詳細について、図6のフローチャートを用いて説明する。
【0034】
まずS51で、上記S35で保存されたムラ補正後の撮影光源画像をバッファメモリ108から取得する。そしてS52で、上記S4で算出した明度補正パラメータL補正(x,y)をバッファメモリ108から取得する。
【0035】
次にS53において、S51で取得した撮影光源画像を、まずAdobeRGB変換式、及びCIE-Lab変換式を用いてLab値に変換する。そして、以下に示す式(3)のように、撮影光源画像の明度値Lout(x,y)をS52で取得した明度補正パラメータL補正(x,y)で置き換えることによって、撮影光源画像の明度を補正する。
【0036】
out(x,y)=L補正(x,y) …(3)
そしてS54において、S53で補正されたLab値を、CIE-Lab変換式、及びAdobeRGB逆変換式を用いてRGB値に変換し、該補正後のRGB画像をバッファメモリ108に保存して処理を終了する。
【0037】
以上説明したように本実施形態によれば、光量を十分に確保して撮影された高精細画像(撮影光源画像)の明度を、観察光源下で撮影された画像(観察光源画像)を用いて補正する。これにより、高精細で、かつ実際の観察光源下において被写体に生じる陰影を再現した画像を取得することができる。
【0038】
<他の実施形態>
なお本発明は、上述した実施形態の構成に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、例えば以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の被写体について、第1の照明条件の下で撮影した第1の画像データと、該第1の照明条件よりも光量の大きな第2の照明条件の下で撮影した第2の画像データを取得する画像取得手段と、
前記第1および第2の画像データのそれぞれに対し、照明に起因するムラを抑制するように補正するムラ補正手段と、
該ムラ補正された前記第1および第2の画像データにおける平均明度の比を用いて、画素ごとの明度補正パラメータを算出するパラメータ算出手段と、
前記明度補正パラメータを用いて、前記第2の画像データにおける画素ごとの明度を補正する補正手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記パラメータ算出手段は、前記第1および第2の画像データにおける平均明度の比を、該第1の画像データにおける各画素の明度に乗じることで、前記明度補正パラメータを算出することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記第2の画像データの明度を、前記明度補正パラメータの値に置き換えるように補正することを特徴とする請求項1または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記ムラ補正手段は、白色板を前記第1および第2の照明条件の下で撮影したそれぞれの画像データに基づいて、前記第1および第2の画像データの輝度を補正することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記第1の照明条件は、前記被写体を観察する環境光を生成する固定照明を示すことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記第2の照明条件は、フラッシュを点灯させた照明を示すことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
画像取得手段、ムラ補正手段、パラメータ算出手段、および補正手段を有する画像処理装置における画像処理方法であって、
前記画像取得手段が、同一の被写体について、第1の照明条件の下で撮影した第1の画像データと、該第1の照明条件よりも光量の大きな第2の照明条件の下で撮影した第2の画像データを取得し、
前記ムラ補正手段が、前記第1および第2の画像データのそれぞれに対し、照明に起因するムラを抑制するように補正し、
前記パラメータ算出手段が、該ムラ補正された前記第1および第2の画像データにおける平均明度の比を用いて、画素ごとの明度補正パラメータを算出し、
前記補正手段が、前記明度補正パラメータを用いて、前記第2の画像データにおける画素ごとの明度を補正する
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
コンピュータで実行されることにより、該コンピュータを請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−243041(P2012−243041A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111827(P2011−111827)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】