説明

画像処理装置

【課題】 画像処理装置が無線通信を用いてユーザとの距離を測定する場合、画像処理装置とユーザの持つ外部装置の動作クロックに依存して、測定結果に誤差が発生する。
画像処理装置がユーザとの距離をトリガとして特定の機能を正しく動作させるためには、測定結果の誤差を補正する必要がある。
【解決手段】 本発明では、画像処理装置のそれぞれの機能に応じて、発生しうる誤差の範囲内で特定の値を指定する。
その値を測定結果に加えることで、それぞれの機能を最適に実現する補正値を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を用いて外部装置との距離測定を実行する画像処理装置において、距離測定の誤差を補正する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、プリンタや複合機といった画像処理装置は、USB(Universal Serial Bus)や有線LAN(Local Area Network)で外部装置と接続しデータのやりとりをする通信機能を搭載している。さらにこの外部装置との接続を無線化する検討がなされており、その中でも高速通信が可能な無線USBの適用が注目されている。
【0003】
無線USBは、その通信方式の物理層にUWB(Ultra WideBand)を適用している。UWB通信は、無線LANなどの他無線通信方式と比較して、短距離、高速通信、低消費電力という特徴に加え、距離測定(以下、測距)機能を有する。
【0004】
UWBの通信規格(非特許文献1)によると測距方法は、図1のシーケンス図に示すように、一方の装置から測距用のデータパケットを送信し、応答までの伝播遅延時間を得ることで距離を算出する。図1は、装置101が装置102に対し測距を行う場合のシーケンスを示している。装置101は時刻T1にパケット103を装置102へ送信し、装置102は時刻R1に受信する。次に装置102は時刻T2にパケット103を装置101に返信し、装置101は時刻R2に受信する。このとき装置102はパケット103に時刻R1および時刻T2の値を記載する。これにより装置101は(R2 - T1) - (T2 - R1)の値を伝播遅延時間として算出することができる。
【0005】
また装置102は返信するパケット103に、自身の動作クロックの値を記載できる。
【0006】
ここで、画像処理装置などの電子機器はCPUの持つ動作クロックの時間単位で時間を扱う。そのため上記伝播遅延時間についても動作クロックの時間単位の値になる。したがって動作クロックの時間単位分が測距の誤差となる可能性がある。つまり動作クロックの時間単位で電波が空気中を伝播する距離が誤差となる。
【0007】
図2に、(非特許文献1)において示される動作クロックとそれに対する測距誤差の例を示す。
【0008】
また(特許文献1)に示されるように距離測定で発生する誤差に対して、基準動作クロックとなる第一の回路と基準動作クロックとの位相差を測定できる第二の回路により、測定精度をあげる技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−121726号公報
【非特許文献1】ECMA-368 : High Rate Ultra Wideband PHY and MAC Standard
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の従来技術では、動作クロックに依存する誤差に対し、測定精度自体を向上することを目的としている。しかしながら、発生した誤差を含む測定結果に対する補正は行われていない。
【0011】
上記のことから、画像処理装置が外部装置との測距結果を用いて特定の機能を実行しようとする場合、誤差により正しく機能を実現できないという問題が発生する。
【0012】
そのような機能としては、第一にユーザの持つ外部装置が一定距離に近づいたことを基点にジョブを開始することが考えられる。第二にユーザの持つ外部装置が一定距離内にある場合のみジョブ実行を許可することが考えられる。第三に複数のユーザの持つ外部装置の距離を比較して優先するユーザを選択することが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するために、請求項1に示すように、
画像処理装置は、無線接続された外部装置と通信することにより、外部装置との距離を測定する。
【0014】
また画像処理装置は、画像処理装置と外部装置の動作クロックの値から誤差値を判断する。
【0015】
また画像処理装置は、その誤差値の範囲内で特定の値を誤差補正値として算出する。
【0016】
また請求項2に示すように、
画像処理装置は、前記誤差補正手段において、画像処理装置の機能に応じて指定する値を変化させることができる。
【0017】
また請求項3に示すように、
画像処理装置は、前記無線通信装置部で外部装置と通信することにより、特定の時間内に外部装置が移動した距離を測定することができる。
【0018】
また請求項4に示すように、
画像処理装置は、前記距離測定手段で取得した距離測定結果に、前記可変補正手段で取得した値および前記移動距離測定手段で取得した値を加減して、距離測定結果を補正できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、画像処理装置と無線通信可能な外部装置を持つユーザに対し、一定距離の接近を検知してジョブを開始する機能において、画像処理装置は一定距離内に接近した場合、誤判定せずジョブを開始できる。
【0020】
また画像処理装置と無線通信可能な外部装置を持つユーザが、一定距離内にいる場合のみジョブ実行を許可するセキュリティ関連機能において、画像処理装置は一定距離外でのジョブの実行を確実に禁止できる。
【0021】
また複数の画像処理装置と無線通信可能なユーザの持つ外部装置の距離を比較して、優先するユーザを選択する機能において、画像処理装置は誤認識を回避し適切なユーザを選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】距離測定のシーケンス。
【図2】動作クロックに対する距離測定誤差。
【図3】機能に応じて補正値を変化させる誤差補正。
【図4】通常ジョブの場合の距離判定NG例。
【図5】セキュリティジョブの場合の距離判定NG例。
【図6】移動距離を予測してユーザ同士を比較する誤差補正。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施例1)
機能に応じて補正値を変化させる誤差補正
実施例1では、請求項2記載の機能に応じて補正値を変化させる誤差補正を示す。
【0024】
図3は、請求項1および2の実施例を示す。
【0025】
画像処理装置301は、画像処理装置と無線通信可能な外部装置を持つユーザの距離を、図1に示す測距用のデータパケット103を送信することで定期的に測定する。ユーザがジョブ実行距離302の範囲内に近づいたことを検出すると、画像処理装置301は印刷などのジョブを開始する。
【0026】
ここで画像処理装置が開始を判断するジョブとして、本発明では2つに分類する。
【0027】
第一に、そのユーザが投入した通常の印刷ジョブやそのユーザ宛に受信したメールやFAXの印刷ジョブがある。このようなジョブを通常ジョブとする。
【0028】
第二に、そのユーザが投入した機密文書の印刷ジョブや画像処理装置へのログインジョブがある。このようなジョブをセキュリティ系ジョブとする。セキュリティ系ジョブは、画像処理装置のセキュリティに関連するため、設定されたジョブ実行距離302の範囲外での実行は確実に禁止する必要がある。
【0029】
ここで303および306は、本発明による補正を行なう前の測距結果を示す。
しかしながら背景技術と課題で述べたように、測距結果は誤差を含み、画像処理301はジョブの開始を正しく判断できない。
【0030】
そこで実施例1では以下のように補正値を設定し使用する。
【0031】
画像処理装置301は、自身の動作クロックとパケット103に記載されている外部装置の動作クロックを参照し、動作クロックの時間単位が大きい方の値に、電波の速度を乗算し、最大誤差値として判断する。
【0032】
画像処理装置301は、測距結果にこの最大誤差値を加算した値をプラス補正値、減算した値をマイナス補正値として設定する。測距結果303の場合、補正値はプラス補正値304とマイナス補正値305になる。測距結果306の場合、補正値はプラス補正値307とマイナス補正値308になる。
【0033】
通常ジョブの場合、画像処理装置301はマイナス補正値を使用してジョブ開始を判断する。これにより誤差が最大値であったとしてもユーザがジョブ実行距離302まで接近したことを判断でき、誤判定によりユーザを待たせることを回避できる。
【0034】
またセキュリティ系ジョブの場合、画像処理装置301はプラス補正値を使用してジョブ開始を判断する。これにより誤差が最大値であったとしてもユーザがジョブ実行距離302の範囲内に確実に入っていることを判断でき、誤判定によりジョブのセキュリティ性を失うことを回避できる。
【0035】
(実施例2)
移動距離を予測してユーザ同士を比較する誤差補正
実施例2では、請求項3記載の移動距離を予測してユーザ同士を比較する誤差補正を示す。
【0036】
画像処理装置と通信可能な外部装置を持つ複数のユーザに対して、画像処理装置に最も近いユーザを選択し、そのユーザのジョブを優先して実行する機能を想定する。
【0037】
しかしながら背景技術と課題で述べたように、測距結果は誤差を含み、さらにそれぞれのユーザの持つ外部装置の動作クロックは異なり、誤差の大きさも異なる。このため画像処理装置に最も近いユーザを正しく判断できない。
【0038】
図4と図5に、誤差により画像処理装置がユーザの選択を誤ってしまう場合の例を示す。ユーザAは動作クロックによる誤差の最大値が0.1メートル、ユーザBは動作クロックによる誤差の最大値が1.0メートルとする。
【0039】
図4において、画像処理装置401は、ユーザAに対して測距結果402を、ユーザBに対して測距結果403を得て、ユーザAが最も近いと判断する。しかしそれぞれのユーザは、測距結果の値から誤差の最大値の範囲内で存在する可能性がある。ユーザAが位置402に、ユーザBが位置404に存在するような場合、画像処理装置401に最も近いのはユーザBであり、ユーザの選択は誤判定となる。
【0040】
また図5において、画像処理装置501は、ユーザAに対して測距結果502を、ユーザBに対して測距結果504を得て、ユーザBが最も近いと判断する。しかしそれぞれのユーザは、測距結果の値から誤差の最大値の範囲内で存在する可能性がある。ユーザAが位置503に、ユーザBが位置505に存在するような場合、画像処理装置501に最も近いのはユーザAであり、ユーザの選択は誤判定となる。
【0041】
上記の問題を回避するために、請求項3および4を実施する。
【0042】
図6は請求項3および4の実施例を示す。
【0043】
画像処理装置は、ユーザに対して定期的に測距を行なうことで、複数の時刻についてユーザの距離を得る。前回の測距時刻からのユーザの移動距離を予測できる。これを移動予測量とする。
【0044】
画像処理装置は動作クロックの時間単位で時刻を認識するため、測距結果は動作クロックに依存する誤差の最大値の単位でしか取得されない。したがって測距結果が前回と同じである場合もユーザは移動している。ユーザの移動速度はそれぞれ異なるため、測距結果に対してこの移動予測量を考慮して補正する必要がある。
【0045】
図6において、画像処理装置601はユーザに対して測距結果602を得る。このとき測距結果から誤差の最大値を加減して、ユーザの存在する範囲は位置603から位置604となる。画像処理装置601は、この範囲の特定の位置を前回測距におけるユーザの位置とし、それに上記の移動予測量を加算することで測距結果602を補正する。例えば前回測距におけるユーザ位置を測距結果602と、ユーザの移動方向から後方の位置603の中間点605とする。そして中間点605に移動予測量を加算した値を予測補正値606とし、ユーザの選択に使用する。ただし中間点605に移動予測量を加算した値が、位置607のようにユーザの存在する範囲を超える場合は、予測補正値を604とする。
【0046】
以上により、画像処理装置は、測距結果に対するユーザの存在する範囲内でより正確な位置を特定でき、正しくユーザを選択できる可能性が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の手段を有することを特徴とする、無線接続された外部装置と通信可能な無線通信装置部を持つ画像処理装置。
前記無線通信装置部で外部装置と通信することにより、外部装置との距離を測定する距離測定手段と、
前記距離測定手段において、測定結果の誤差を判断し誤差値を取得する誤差判断手段と、
前記誤差判断手段で取得した誤差値に対して、誤差値の範囲内で特定の値を指定できる誤差補正手段。
【請求項2】
前記誤差補正手段において、画像処理装置の機能に応じて指定する値を変化させることができる可変補正手段を有する請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記無線通信装置部で外部装置と通信することにより、特定の時間内に外部装置が移動した距離を測定する移動距離測定手段を有する請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記距離測定手段で取得した距離測定結果に、前記可変補正手段で取得した値および前記移動距離測定手段で取得した値を加減して、距離測定結果を補正できる請求項1に記載の画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−223904(P2010−223904A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74300(P2009−74300)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】