説明

画像出力機器の色変換定義の作成方法、そのプログラム及び記録媒体、ならびに画像出力機器および画像処理装置

【課題】同じ出力結果を異なる照明光下で見た場合に、違和感なく見えるようにする。
【解決手段】画像出力機器の出力結果を観察するための異なる照明光を有する複数の観察環境下でのそれぞれの色の見えの違いが小さくなる照明光による観察環境を想定し、それぞれの色の見えの違いが小さくなる照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求め、求めた画像出力機器のデバイスカラーの測色値から色変換定義を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像出力機器の色変換定義(ルックアップテーブル等)の作成方法と、そのプログラム及び記録媒体ならびに該色変換定義を作成可能な画像出力機器および画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
色彩工学の考え方では、照明光が物体に照射され、その反射光または透過光が人間の目に入射し、物体の色として認識される。図12に示すように、照明光の分光スペクトルP(λ)、物体の分光反射率R(λ)とすると、目に入射する物体からの反射光の分光分布φ(λ)は、φ(λ)=R(λ)P(λ)で表される。
【0003】
図13に照明光の分光スペクトルP(λ)、物体の分光反射率R(λ)、物体からの反射光の分光分布φ(λ)を図示する。横軸は波長(nm)、縦軸は放射エネルギーまたは反射率である。
目に入射した光φ(λ)は、網膜上の感光性を持つ視細胞である錐体で信号に変換され脳に伝達され色として認識する。色彩工学では、錐体の応答を、CIEXYZ表色系(以下XYZと略す)として扱っている。反射光の分光分布φ(λ)、等色関数x(λ)、y(λ)、z(λ)とすると、三刺激値X、Y、Zは、
【0004】
【数1】

【0005】
で表される。
XYZ値が同じであれば、目に入射した光の分光分布φ(λ)が異なっても同じ色であると考える。プリンタやディスプレイなどの画像出力機器はこの特性を利用している。プリンタでは、ある照明光の下で、出力したい色と出力結果の色が同じXYZ値となるように、インク(シアン/マゼンタ/イエロー/ブラック等)を制御している。入力色のXYZ値と同じXYZを出力すれば忠実な出力色再現を行うプリンタになる。また、入力色のXYZ値に対して人間の好ましさを加味したXYZ値を計算しそのXYZ値を出力すれば好ましい出力色再現を行うプリンタとなる。
【0006】
プリンタでは一般的にCIEの補助照明光のD50照明光を照明光として採用し出力結果の色の見え(出力色再現)を決めている。出力色再現は、入力色空間と画像出力機器のデバイス色空間(RGBやCMYK)への対応づけ(出力色変換定義)で決定される。画像出力機器のデバイス色空間の色空間への対応付けを行うためには、デバイス色空間の特性を知る必要がある。
【0007】
プリンタの場合は、画像出力機器のデバイスカラーの代表色を実際に出力し(カラーパッチ)、測色することでデバイス色空間の特性を知ることができる。この特性から出力色変換定義を作成するアルゴリズムは多くのメーカーにより様々なアルゴリズムを考えられている。またメーカーによっては、画像出力機器のデバイスカラーの測色値を入力させると、その画像出力機器に合わせた出力色変換を作成できるアプリケーションやモジュールを提供しており、ユーザはそれらを使用することができる。
【0008】
ある照明光の下で異なる反射率または透過率の物体が同じXYZ値になったとする。しかし照明光が変わった場合、必ずしも同じXYZ値になるとは限らない。その場合、照明光が異なると物体の色は異なって見える。つまり、ある照明光の下で出力したい色と画像出力機器の出力結果の色が同じXYZ値になるように設計しても、照明光が異なると出力したい色と出力結果の色が同じXYZ値になるとは限らない。つまりプリンタなどの画像出力機器では、照明光によって出力結果の色の見え(出力色再現)が異なってしまうため、出力結果を観察する照明光を考慮して出力色再現を考える必要がある。
【0009】
出力結果の観察環境の照明光として、ユーザAは照明光A下で、ユーザBは照明光B下で、ユーザCは照明光C下とユーザごとに異なる照明光を利用する場合が考えられる。また、ユーザは同じでも、画像出力機器の出力結果の観察環境として、昼は照明光A下(太陽光)、夜は照明光B下(室内照明)と時間帯によって異なる場合や、場所Aでは照明光A下、場所Bでは照明光B下と観察場所によって異なる場合が考えられる。画像出力機器の出力色再現は、複数の照明光下での出力色再現を考慮する必要性がある。
【0010】
正確に照明光を考慮して出力色再現を行うために、照明光毎にその照明光に基づいた別々の出力色再現を実現する方法がある。予め、照明光毎に別々の出力色再現を実現する色変換定義を用意しておいたり、予め用意しておいた照明光に対する出力色再現への色変換定義から任意の照明下の出力色再現への色変換定義を求めたりして実現することができる。また、観察環境に応じて動的に色変換定義を求めることも可能である。
【0011】
また、複数の観察環境下の照明光下での出力結果の見えを考え、各照明下での見えの違和感が小さくなるような最適な出力色再現を行うことが可能なひとつの色変換定義を作成することも考えられている。特許文献1に開示の技術では、まずある照明光Aで測色し、照明光Aで最適となる出力色変換定義を作成している。そして、作成した色変換定義による出力結果を照明光A、B、Cで測色し、それぞれの照明光下での実際の色の平均値もしくは重心値が出力したい色となるように作成した出力色変換定義を修正することが開示されている。特許文献2では、照明光A、B、Cでの出力色再現をそれぞれ求め、それらの出力色再現の誤差最小となるように出力色変換定義を決定することが開示されている。
【0012】
【特許文献1】特開2003−283851号公報
【特許文献2】特開2003−153015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のように、画像出力機器の出力色再現は、複数の照明光下での出力色再現を考慮するのが望まれる。つまり、同じ出力結果を異なる照明光下で見た場合に、違和感なく見えるようにすることが必要である。
【0014】
従来技術として、各ユーザの観察環境下の照明光に合わせてその観察環境下での出力結果を最適にすることを目的とした技術があった。観察環境下毎にその観察環境下での出力結果を最適にすることを目的としているため、観察環境が変わった場合、色変換定義を変更し出力結果を変更する必要がある。ディスプレイなどの画像出力機器では、簡単に変更できるため出力結果を変更すればよいが、プリンタなどの画像出力機器により印刷された出力結果は、観察環境が変わった場合再度出力しなおすしか方法はない。
【0015】
ひとつの印刷物を異なる観察環境で見るケースは多く、複数の観察環境下の照明光を考慮して出力することが必要である。これらを解決するには、複数の観察環境下の照明光での出力結果の見え、各照明下での見えの違和感が小さくなるような最適な出力色再現を行うことが可能なひとつの色変換を作成する必要がある。
【0016】
特許文献1では、ある照明光Aで測色し、照明光Aで最適となる出力色変換定義を作成し、作成した色変換定義による出力結果を照明光A、B、Cで測色を行い、測色値の平均値または重心値となるように色変換定義を修正する。測色作業と言うのは時間がかかるため、色変換定義の作成前と作成後に2度測色するのは、さらに時間がかかる。また、平均値や重心値では、想定する観察環境をすべて等価に扱っており、すべてのユースケースにおいて必ずしも好ましいとは考えられない。
【0017】
例えば観察環境が3つあったうち、使用頻度が観察環境A50%、観察環境B30%、観察環境C20%だった場合、観察環境Aに重みを置くべきであり、従来技術では対応できない。さらにいえば、実際にその画像出力機器を使用するユーザの複数の観察環境に応じて最適な出力色再現を実現するのが望ましいが、従来技術ではその実現方法に関して提案/言及されていない。
【0018】
特許文献2では、一旦誤差最小にするために複数観察環境での照明光毎の出力結果の算出を行わなければならず、計算工数/作成工数が多い。また、色変換定義を作成する際に、複数の出力結果の値より誤差最小となるように行うため、独自の色変換定義作成アルゴリズムを適用しなければならず、他の作成アルゴリズムを適用できない。このような従来技術にあるデバイスカラーの測色値を入力値とし色変換定義が作成可能なアプリケーションやモジュールに対しても適用可能であることが望まれる。
【0019】
プリンタでは、複数の色材(シアン/マゼンタ/イエロー/ブラック等)を制御して出力を行っている。色材ごとに反射率が異なるため、照明ごとの色のずれの大きさが色材ごとに異なる。つまり同じ画像出力機器の出力でも、色によって色材の組み合わせが異なるため、色によって照明ごとの色のずれの大きさが異なる。従来技術ではこの特性を加味して色の補正を行っていない。
【0020】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、1つには、複数の観察環境下の照明光での出力結果の見え(各照明下での見えの違和感)が小さくなるような最適な出力色再現を行うことを可能とすることである。さらに、色変換定義を作成するための測色回数や計算工数を少なくすることである。さらに、各照明光の観察環境ごとの使用頻度等の重み付けにも対応でき、ユーザでの色変換定義の作成も実現でき、色材ごとの色の補正を可能とすることである。さらに、色変換定義を作成可能な従来のアプリケーションやモジュールに対しても適応可能なものとすることである。そして、これらを実現する色変換定義の作成方法と、そのプログラム及び記録媒体ならびに該色変換定義を作成可能な画像出力機器および画像処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
画像出力機器における色変換定義の作成方法において、画像出力機器の出力結果を観察するための異なる照明光を有する複数の観察環境下でのそれぞれの色の見えの違いが小さくなる照明光による観察環境を想定する工程と、前記それぞれの色の見えの違いが小さくなる照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める工程と、前記工程で求めた画像出力機器のデバイスカラーの測色値から色変換定義を作成する工程とを有することを特徴とする色変換定義の作成方法を提供すること、さらに、画像出力機器の出力結果を観察するための異なる照明光を有する複数の観察環境下でのそれぞれの照明光をミックスした照明光による観察環境を想定する工程と、前記ミックスした照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める工程と、前記工程で求めた画像出力機器のデバイスカラーの測色値から色変換定義を作成する工程とを有する色変換定義の作成方法を提供することで、色変換定義を作成するための測色回数や計算工数を少なくすることができる。かつ従来のデバイスカラーの測色値を入力値とし色変換定義が作成可能なアプリケーションやモジュールに対しても適応可能なものとなる。また、複数の観察環境下の照明光での出力結果の見え(各照明下での見えの違和感)が小さくなるような最適な出力色再現を行うことが可能な色変換定義の作成することができる。
【0022】
さらに、複数の観察環境下でのそれぞれの照明光をミックスした照明光による観察環境を想定する際に、観察環境に優先度を設定し、優先する観察環境に応じてミックス比率を変えた照明光による観察環境を想定することで、各照明光の観察環境ごとの使用頻度等の重み付けにも対応できる。
【0023】
また、ミックスした照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める際に、色域によって照明光のミックス比率を変え、画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求めることで、異なる照明光での色の見えの色差が大きい色域のみ、もしくは色材ごとの色の補正をすることができる。
【0024】
また、画像出力機器における色変換定義の作成方法において、ユーザが実際に画像出力機器の出力結果を観察する照明光の観察環境を選択入力する工程と、ユーザが選択した観察環境に優先度を設定し、該優先度に応じてミックス比率を変えた照明光による観察環境を想定する工程と、前記ミックス比率を変えた照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める工程と、前記工程で求めた画像出力機器のデバイスカラーの測色値から色変換定義を作成する工程とを有することを特徴とする色変換定義の作成方法を提供することで、ユーザ自身の観察環境に応じてユーザ自身が色変換定義の作成することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、前述の課題を解決するためになされたものであり、複数の観察環境下の照明光での出力結果の見えの違いが小さくなるような(すなわち、各照明下での見えの違和感を軽減する)最適な出力色再現を行うことを可能とする。また、色変換定義を作成するための測色回数や計算工数が少なくすることができる。また、従来のデバイスカラーの測色値を入力値とし色変換定義が作成可能なアプリケーションやモジュールに対しても適応できるものとなる。
さらに、各照明光の観察環境ごとの使用頻度等の重み付けにも対応でき、ユーザでの色変換定義の作成も実現でき、色材ごとの色の補正も可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[実施形態1]
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態にかかる画像処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【0027】
本システムは、ホストコンピュータ100、画像入力機器のスキャナ103、デジタルカメラ104、画像出力機器のプリンタ105およびモニタ106を有して構成されるものである。図に示すホストコンピュータ100には、スキャナ103、デジタルカメラ104、プリンタ105、モニタ106が接続されているが、必ずしもすべての機器が接続されている必要はなく一部機器のみが接続されていても良い。ホストコンピュータ100は、OS(オペレーティングシステム)101を有し、また、このOS101による管理下において画像処理等を行うアプリケーションおよび各入出力機器のドライバ102を有する。
【0028】
また、ホストコンピュータ100は、上述のソフトウエア等に従って動作可能な各種ハードウエアとして中央演算処理装置(プロセッサ:CPU)107、ランダムアクセスメモリ(RAM)108、ハードディスク(HD)109等の記憶装置を備える。さらにCD、DVD等の記録メディア及び記録メディア読み込み装置109等を備える。ハードディスク109等の記憶装置や、CD、DVD等の記録メディア及び記録メディア読み込み装置109には、それらの各種ソフトウエアが予め格納されており、必要に応じて読み出されて用いられる。そして、CPU107は、上述のソフトウエア等に従った処理を実行する。なお、RAM108は、上記CPU107による処理実行のワークエリア等として用いられる。
【0029】
画像データはスキャナ103やデジタルカメラ等の画像入力機器から必要に応じてホストコンピュータ100に取り込まれる。また画像データは予め画像入力機器から取り込まれ、記録装置または記録メディアをロードした記録メディア読み込み装置(HD/CD)109に保存しておくことも可能である。さらに画像データは、ホストコンピュータ100に接続した別のホストコンピュータ(サーバも含む)の記録媒体に保存したものでも良い。
【0030】
画像入力機器からホストコンピュータ100への画像データの受け渡しは、カードリーダまたはケーブル接続を介した有線通信、あるいは赤外線通信や無線通信により可能である。もちろんホストコンピュータ100内の記録媒体へ画像データを移動させることなく画像入力機器とホストコンピュータとを上記有線通信や、赤外線通信または無線通信により接続して画像入力機器が保持するメモリカードや内蔵のメモリから直接読み込んでも良い。
【0031】
図2は画像入力機器から画像出力機器への入力画像データの色変換を説明する図である。
【0032】
入力画像データは、ステップS201において画像入力機器から取り込みを行う。
次に、ステップS201において入力された画像をステップS202にて入力色変換処理を施す。入力色変換処理とは、画像データを入力色空間から別の色空間(図2では変換色空間と示している)に変換することである。
【0033】
次に、ステップS203において、色加工・色補正を行う。画像データの明るさや色相や彩度の変更などの処理を行う。
さらに、ステップS204にて出力色変換処理を施し、画像データを画像出力機器に対応した出力色空間への色空間変換を行う。
最後に、ステップ205にて画像出力機器の処理として画像出力機器固有の処理後、画像出力を行う。プリンタの場合、色分解処理や量子化処理を行い、画像出力される。
【0034】
ステップS202において、画像データの入力色空間は、SRGBやAdobeRGB、SYCCなどの規格化された色空間、または画像入力機器のデバイス色空間などが考えられる。ステップS202において、画像データは入力色空間から色加工・色補正を行う色空間またはCIEL*a*b*表色系の色空間(以下Lab色空間と略す)等の均等色色空間またはXYZ色空間等への変換を行うのが一般的である。ただし入力色空間と色加工・色補正を行う色空間は同じ色空間でもかまわないため、その場合はステップS202を省略できる。
【0035】
ステップS203において、色加工・色補正処理は必ずしも行う必要がなく省略できる。ユーザが手動で行っても良いし、もしくは、画像データを解析して自動で行っても良い。また、ステップS203の処理は、入力色空間で行っても良いし、出力色空間で行っても良い。ただし、入力色空間で行う場合、ステップS203、ステップS202の順序で処理され、出力色空間で行う場合は、ステップS204、S203の順序で処理される。
【0036】
ステップS204において、画像出力機器の出力色空間として画像出力機器のデバイス色空間などが考えられ、RGBプリンタの場合はRGB色空間、CMYKプリンタの場合はCMYK色空間となる。ステップS204において、ステップS202で変換した色加工・色補正を行う色空間またはLabなどの均等色色空間から画像出力機器の出力色空間への変換を行う。ステップS202が省略された場合、ステップS204では入力色空間から出力色空間への変換を行う。色変換の際に目的に応じて色再現性が加味して色変換が行われる(詳細は後述)。階調性を重視した色再現性、彩度を重視した色再現性、測色的一致を重視した色再現性、記憶色を重視した色再現性などがあり、これらを別々に実現してもかまわない。
【0037】
色空間変換の方法は、カラールックアップテーブル変換、マトリックス変換及びγ変換、計算式による変換などが知られているが方法は問わない。これら方法を複数組み合わせてもかまわない。色変換定義は、具体的には、色変換を行うための、カラールックアップテーブルであったり、マトリックスやガンマ値であったり、計算式であったりする。以下説明では、色変換定義としてルックアップテーブル(以下、LUTとも記載する)を用いた色空間変換について説明していく。
【0038】
(出力色変換定義の作り方)
ある色空間からある色空間への変換を行うための対応づけを色変換定義とする。さらにステップS202で行う入力色空間からの色変換のための色変換定義を入力色変換定義、ステップS204で行う画像出力機器のデバイス色空間へ色変換のための色変換を出力色変換定義とする。
【0039】
ここで、色加工・色補正処理を行う色空間から画像出力機器のデバイス色空間への色変換定義であるルックアップテーブルの作成方法について詳述する。本実施例では、色加工・色補正処理を行う色空間としてSRGB色空間を使って説明する。作り方としては、SRGB色空間以外のAdobeRGB等のRGB色空間やXYZ/Labなどの色空間、その他色空間の場合も同様である。
【0040】
ルックアップテーブルの作成とは、カラーテーブルを構成する格子点の入力色に対し、出力として画像出力機器のデバイス色を決定することである。まず、カラーテーブルを構成する格子点の入力色を定め、次に、カラーテーブルを構成する格子点の入力色に対し画像出力機器の色域内に含まれる色を出力色と決定する。そして、最後に、出力色にもっとも近似な画像出力機器のデバイスカラーを探索し、その格子点の出力値とすることによりLUTを作成することができる。これらの処理は均等色色空間上(Lab、Luv色空間など)で行うことが一般的である。本実施例では、Lab色空間を用いて説明する。
【0041】
まず、カラーテーブルを構成する格子点の入力色を定める。色加工・色補正処理を行う色空間から画像出力機器のデバイス色空間へのLUTを作成する場合、SRGB色空間を定義式に基づき均等色色空間(Lab色空間)の色に変換し、これを入力色とする。
【0042】
次に入力色に対する出力色を決定する。好ましさや記憶色などを考慮して色変換し、色変換後の値を出力色としても良い。好ましさや記憶色を考慮した色変換方法としては、RGB色空間で非線形の変換を行ったり、明度また輝度、色相、彩度などを変更したりして実現できる。
【0043】
ところが、入力色または好ましさや記憶色を考慮して色変換した出力色が、画像出力機器の出力色域内に含まれているとは限らない。入力色または好ましさや記憶色を考慮して色変換した出力色の色再現領域と画像出力機器の色再現領域とが異なるため、画像出力機器の色域外になる入力色があることが問題となる。このために、画像出力機器の色域外の入力色/出力色を圧縮して色域内にマッピングする必要となることがある。
【0044】
圧縮方法は作成するLUTの色再現性に応じたアルゴリズムが使われる。既存技術として、画像出力機器の色域内については測色値が等しくなるように圧縮すること(測色的一致を重視した色再現性)や明度や彩度を維持して圧縮すること(明度を重視した色再現及び彩度を重視した色再現)が考えられている。また、階調性を考慮し色域の境界面に圧縮するのではなく入力色の彩度等に応じて画像出力機器の色域内部に圧縮すること(階調性を重視した色再現性)も考えられている。こうして必要に応じて画像出力機器の色域内に収められた出力色を決定する。好ましさや記憶色を考慮した色変換や画像出力機器の色域内への圧縮が行われない場合、入力色をそのまま出力色とする。最後に、算出された出力色にもっとも近似な画像出力機器のデバイスカラーを探索し、その格子点の出力値とすることによりLUTを作成する。
【0045】
インクジェットプリンタでは、インクの混色による発色の変化、記録媒体へのインクの浸透の仕方による発色の変化など、複雑かつ多岐に亘る要因が発色に関連するので、その発色特性を予測することは困難である。そこで発色を予測する困難を避けつつ、インクジェットプリンタの色再現性や色域を表現するために、次の方法で、ある特定のデバイスカラーに対応するLabデータが求められる。
【0046】
はじめに、可能なデバイスカラーの組み合わせで、適当なサンプリング間隔でカラーパッチを印刷する。そして、このカラーパッチを、例えばGretagMacbeth社のSpectrolinoなどの測色器によって測定することにより、デバイスカラーからLab値へのLUTの格子点データを求める。
ここでは、デバイスカラーからLab値へのLUTを構成する格子点の数が9×9×9=729個出力し、測色することとする。任意のデバイスカラーに対応するLab値は、求めたデバイスカラーからLab値へのLUTに対して例えば四面体補間などの公知の補間演算を使用して格子点Lab値から推定することができる。
【0047】
求めたカラーテーブルを構成する格子点に対応する入力色とデバイスカラーに対応する推定測色Lab値とを比較し、色差が最小となる点のように近似できる点を探すことで、その格子点の対応色であるデバイスカラー値を求めることができる。カラーテーブルを構成する全格子点に対して、同様の処理を行うことによりカラーテーブルを作成できる。なお、デバイスカラーのカラーパッチの測色値は、画像出力機器の色域内への圧縮時にも色域を求めるのに使用されるため予め測色しておく必要がある。
【0048】
上記ルックアップテーブルの作成手順について図3にまとめる。
ステップS301で画像出力機器のデバイスカラーのカラーパッチを測色する。ステップS302で、LUTで実現する出力色を決定する。ステップS303で出力色に対応するデバイスカラーを測色値より推定しLUTを作成する。
ここでは、ルックアップテーブルの作成方法の一例を説明したが、本実施例では、画像出力機器のデバイス色空間の測色値を用いてルックアップテーブルを作成する方法であれば、作成方法は問わない。
【0049】
また、出力色変換定義のうちルックアップテーブルの作成方法について詳述したが、マトリックス変換や計算式の場合も同様である。ステップS301で画像出力機器の出力結果のパッチを測色する。ステップS302で、色変換定義で実現する出力色を決定する。ステップS303で出力色とデバイスカラーの対応付けをパッチの測色値を元に推定し色変換定義を作成する。マトリックス変換及びγ変換の場合は、最適となるマトリックス係数やγ係数を決定する。計算式による変換の場合は、変換式に含まれる係数などを決定する。
【0050】
(出力色変換定義の作成方法)
想定される観察環境の照明光を照明光A、照明光B、照明光Cとする。そして、従来方法のようにある特定の照明光A下で観察したときに、あわせてルックアップテーブルを作成した場合を考える。図4に示すように、画像データ中の色Aに関して画像出力機器の出力結果が照明光A下で色Aとして見えるようにルックアップテーブルは作成されている。照明光が変わると見た目の色が変わるため、照明光B下では色Bとなり、照明光C下では色Cとなり、色Aからずれる。つまり照明光Aで見た場合は、正しく出力されるが、照明光B、Cで見た場合は大きくずれて見える。
【0051】
それぞれの照明光下で違和感を軽減するように、実際に出力した色Aと、それぞれの照明下での色(照明光A下での色Aと照明光B下での色Bと照明光C下での色C)との色差を考える必要がある。図5に示すように、ある特定の照明光で作成した色変換定義での出力に比べて、各照明光下での色の差が小さくする必要がある。
【0052】
次に、本発明による一実施形態を説明する。
説明を簡略化するために、2つの照明光を使って説明する。
例えば照明光A、照明光Bに対して、照明光Aと照明光Bが混在する観察環境を考える。図6に示すように、照明光Aの分光スペクトルPa(λ)、照明光Bの分光スペクトルPb(λ)とすると、1対1の比率でミックスした照明光の分光スペクトルP(λ)はP(λ)=(Pa(λ)+Pb(λ))/2となる。物体の分光反射率をR(λ)とすると、照明光Aでの反射光の分光分布はφa(λ)=Pa(λ)R(λ)、照明光Bでの反射光の分光分布はφb(λ)=Pb(λ)R(λ)、ミックス照明光での反射光の分光分布はφ(λ)=P(λ)R(λ)となる。
【0053】
分布を図示すると図6のようになる。分光分布φ(λ)は、分光分布φa(λ)と分光分布φb(λ)の中間の値であり、照明光Aの色Aと照明光Bの中間の色である。照明光A+照明光Bの混在する観察環境で見える色は、照明光Aで見た色Aよりも照明光Bで見た色Bに近く、照明光Bで見た色Bよりも照明光Aで見た色Aに近く、照明光Aと照明光Bのそれぞれで見た場合の違和感が小さい色と言える。同様に、照明光B+照明光Cの混在する観察環境で見える色は、照明光Bで見た色Bよりも照明光Cで見た色Cに近いものとなる。照明光C+照明光Aの混在する観察環境で見える色は、照明光Cで見た色Cよりも照明光Aで見た色Aに近い。
【0054】
ここで、照明光Aと照明光Bと照明光Cが混在する観察環境D(照明光A+照明光B+照明光Cをミックスした照明光の観察環境)を考える。図7に示すように観察環境Dで見える色Dは、照明光Aで見た色Aよりも色Bと色Cに近く、照明光Bで見た色Bよりも色Aと色Cに近く、照明光Cで見た色よりも色Aと色Bに近い。つまり、照明光A+照明光B+照明光Cをミックスした照明光の観察環境での見た目の色Dは、照明光Aの色Aと照明光Bの色Bと照明光Cの色Cと相関があり、見た目にも違和感が小さいと考えられる。
【0055】
そこで、観察環境D下での見た目の色Dに本来出力したい色を合わせた場合を考える。 図8に示すように、それぞれの照明下での色(照明光A下での色Aと照明光B下での色Bと照明光C下での色C)と色Dとは当然異なるが、それぞれの見た目の違和感は小さいと考えられる。よって本実施形態では、観察環境が複数ある場合、それぞれの観察環境の照明光をミックスした照明光を仮想の照明光とし、そのミックスした照明光の観察環境下での色が所定の色となるように色変換定義を作成する。仮想の照明光を元に作成した色変換定義を用いた出力結果に対して、それぞれの照明下での色(照明光A下での色Aと照明光B下での色Bと照明光C下での色C)は、本来出力したい色と違和感が少ない結果が得られるものとなる。
【0056】
図9を用いて本実施形態における出力色変換定義(ルックアップテーブル)の作成方法を説明する。
【0057】
まず、ステップS901で画像出力機器の出力結果を観察すると想定される複数の観察環境及び各観察環境の照明光を決定し、それぞれの観察環境下の照明光に基づいたミックス照明光を想定する。
次に、S902でミックス照明光下での画像出力機器のデバイスカラーのカラーパッチの測色値を求める。
最後にS903/S904でその測色値をもとにルックアップテーブルを作成する(詳細は下記)。
【0058】
ステップS901の観察環境の決定において、一例として、ユーザがよく使う代表的な観察環境及び照明光を想定することが可能である。ここでは、照明光Aの観察環境A、照明光Bの観察環境B、照明光Cの観察環境Cの3つの観察環境及び照明光を想定する。例えば、CIEで規定された標準光/補助標準光/代表的な蛍光ランプから、照明光AはD50照明光、照明光BはD65照明光など色温度が異なる照明光の組み合わせが考えられる。または色温度が同じで分光スペクトルが異なる組み合わせ(照明光AはD50、照明光BはF8、照明光CはF10)も考えられる。さらに、それぞれの照明光をミックスした照明光を想定する。この場合、照明光A+照明光B+照明光Cは、照明光A、照明光B、照明光Cの3つを1対1対1の割合で組み合わせた照明光ということになる。
【0059】
ステップS902において、そのミックス照明光下での測色を行う。それぞれの照明光の分光スペクトル及び画像出力機器のデバイスカラーのカラーパッチの分光反射率を測定し、それらのデータから測色値を算出することができる。実際にその照明光の観察環境を準備し、分光放射計で標準白色板を測定することで、それぞれの照明光の分光スペクトルを得ることができる。CIEで規定された標準光/補助標準光/代表的な蛍光ランプ等ならば、規定された分光スペクトルの値を利用することができる。
【0060】
照明光Aの分光スペクトルPa(λ)、照明光Bの分光スペクトルPb(λ)、照明光Cの分光スペクトルPc(λ)とすると、ミックスした照明光Dの分光スペクトルPd(λ)は
Pd(λ)=(Pa(λ)+Pb(λ)+Pc(λ))/3
となる。
【0061】
ミックスした照明光Dの分光スペクトルPd(λ)と画像出力機器のデバイスカラーのカラーパッチの分光反射率R(λ)を掛け合わせることで、下式のとおりに反射光の分光分布φd(λ)を得ることができる。
φd(λ)=Pd(λ)R(λ)
【0062】
反射光の分光分布φd(λ)から算出されるLab値をミックスした照明光Dでの画像出力機器のデバイスカラーのカラーパッチの測色値とする。または、測色の仕方としては、実際に組み合わせたミックスした照明光を用意し、その観察環境下で実際に画像出力機器のデバイスカラーのカラーパッチを測色してもかまわない。
ステップS303およびS304において、その測色値をもとにルックアップテーブルを作成する。ルックアップテーブルの作成方法に関しては前述したが、前述した方法に限らず他の方法でもかまわない。
【0063】
次に、図10を用いて本実施形態における出力色変換定義(ルックアップテーブル)の作成装置の構成を説明する。
【0064】
ミックス照明光決定部1001は、画像出力機器の出力結果を観察すると想定される複数の観察環境及び各観察環境の照明光を決定し、それぞれの観察環境下の照明光をミックスした照明光を想定する。
測色値算出部1002は、ミックス照明光下でのカラーパッチの測色値を求める。
【0065】
前述のように、ステップS903/S904(図9)でその測色値をもとにルックアップテーブルを作成する。ルックアップテーブルの作成方法は問わないため、本実施形態では作成モジュール1008、作成モジュール1009の異なるルックアップテーブル作成方法が選択可能とし、切り替えて使用できるものとする(当然作成モジュールは1つであってもかまわない)。
【0066】
それぞれの作成モジュールには、ステップS903に相当するガマット圧縮計算部1003/1005、ステップS904に相当するデバイスカラー探索部1004/1006で構成される。これらのモジュールにより、ルックアップテーブル1007が作成され出力される。また前述の説明では、ステップS901において、1対1対1の割合で照明光を組み合わせると書いたが、必ずしもその限りではない。
【0067】
特許文献1に開示の技術では、照明光A、B、Cが決まると、作成されるLUTは一意に決まる。なぜなら、色差最小も、平均値も、重心も、一意に決まるからである。つまり、これは、照明光Aおよび照明光B、照明光Cすべてを等価に扱っていることにほかならない。しかし実際は、使用用途に応じて、照明光を等価に扱うことが望ましくない場合がある。
【0068】
ここで、使用頻度が観察環境A50%、観察環境B30%、観察環境C20%だった場合、観察環境Aに重みを置くべきであると考える。本実施形態では、ミックスした照明光を考える際に、組み合わせる比率を変えることで、作成するLUTを変更することが可能である。比率を5:3:2とすることで、実際の使用頻度を反映したLUT及び出力色定義を実現することができる。比率を5:3:2でミックスした照明光Eの分光スペクトルはPe(λ)である。
【0069】
照明光Aの分光スペクトルPa(λ)、照明光Bの分光スペクトルPb(λ)、照明光Cの分光スペクトルPc(λ)とすると、ミックスした照明光Eの分光スペクトルPe(λ)は
Pe(λ)=(Pa(λ)*5+Pb(λ)*3+Pc(λ)*2)/(5+3+2)
となる。
【0070】
こうして得られたミックスした照明光Eの分光スペクトルPe(λ)を用いて重み付けを考慮したデバイスカラーの測色値を求めることができる。求めた測色値をもとに出力色変換定義を作成することで、観察環境の重み付けを反映した出力結果を得ることができる。
【0071】
本実施形態では、測色工程はルックアップテーブル作成前に1度行うだけであり、出力値もミックスした測色値を元に計算するだけであるので、従来技術で課題であった測色回数や計算工数の問題を解決できる。また、本実施形態では、従来技術の課題として挙げた観察環境の優先順位による重み付け(優先度)を反映した出力結果も得ることができる。
【0072】
さらに、本実施形態は、前述のS903/S904のデバイスカラーの測色値よりルックアップテーブルを作成する方法を特定の手法に制限するものではない。したがって、本実施形態は、従来技術にあるデバイスカラーの測色値より色変換定義が作成可能なアプリケーションやモジュールに対しても適用できる。すなわち、従来技術の課題であったデバイスカラーの測色値を入力値としこれより色変換定義が作成可能なアプリケーションやモジュールに対して適用できないという問題点も解決できる。
【0073】
[実施形態2]
ところで、プリンタは、シアン/マゼンタ/イエロー/ブラックなどの複数のインクまたは色材を使い出力結果が作成される。色材ごとに分光反射率が違うので、色材によって、照明光が変わった場合の色のズレの大きさや傾向も異なる。よって、同じ出力結果でも色によって、見え方が変わる大きさ(程度)が異なる。色によってはほとんど変わらない色もあると考えられる。
【0074】
したがって、見え方の変化の大きい色域だけ処理を行えばよい。変化の大きい色域とは、変化の大きい色域の測色値のみミックスした照明光による測色値を使用し、変化のほとんどない色域の測色値はある照明光による測色値(割合が1:0:0のミックスした照明光とも考えられる)を使用することで実現することができる。ミックス比率を変えて測色値を求めるだけで、他の部分の修正が要らない為、簡単に実現できる。
【0075】
変化の大きい色域は、それぞれの照明光下での測色値を比較し、色差が大きい領域とすることで決定できる。または、色材ごとにそれぞれの照明光下での測色値等を比較し、色材ごとの異なる照明光での色の見え違いが大きいかを求める。異なる照明光での色の見え違いが大きい色材の混合比の大きさにより変化の大きい色域を決定することもできる。
【0076】
本実施形態は、前述の実施形態1において、各照明光の見えの違いの大きい色域だけに対して、見えの違いを小さくする色変換定義を作成することで実現することができる。また、色材の特性を利用することで、上記のようにより効果的に色変換定義を作成することが可能となる。
【0077】
[実施形態3]
実施形態3として、ユーザが実際にユーザの観察する観察環境に応じてルックアップテーブル(LUT)を作成する方法及びこのルックアップテーブルを使って画像出力機器で出力を行う方法について図11を用いて説明する。
【0078】
まずステップS1101で、ユーザは実際に観察する観察環境の照明光を設定する。
次に、ステップS1102でユーザが使用頻度等により各照明光のミックス比率を設定する。ステップS1103でユーザが照明光のスペクトルを測定するかを選択入力する。ユーザが測定する場合は、ステップS1104で測定器を使ってユーザが各照明光のスペクトルを測定し、ルックアップテーブルの作成装置であるホストコンピュータ100に入力する。測定器等がなくユーザが測定しない場合は、ステップS1105で予めメーカーが用意し保存されている各照明光のスペクトルを読み込む。
【0079】
ステップS1106で得られた各照明光のスペクトルから上記ミックス比率に基づきミックスした照明光のスペクトルを決定する。
さらにステップS1107でユーザがカラーパッチの分光反射率を測定するかを選択入力する。ユーザが測定する場合は、ステップS1108で測定器を使ってユーザがカラーパッチの分光反射率を測定し、ホストコンピュータ100に入力する。
【0080】
測定器等がなくユーザが測定しない場合は、ステップS1109で予めメーカーが用意し保存されているカラーパッチの分光反射率を読み込む。ステップS1110で得られたカラーパッチの分光反射率とミックス比率に基づきミックスした照明光のスペクトルからミックスした照明光下のカラーパッチの測色値を求める。そして、S903/S904で測色値を元に色変換定義を決定する。詳細は実施形態1で説明したとおりである。
【0081】
本実施形態では、S1101で次のようにユーザは実際に観察する観察環境を決定する。昼は照明光A下(太陽光)、夜は照明光B下(室内照明)と時間帯によって異なる場合は、照明光Aと照明光Bを観察環境の照明光とする。また、場所Cでは照明光C下、場所Dでは照明光D下と観察場所によって異なる場合は、照明光Cと照明光Dを観察環境の照明光とする。
【0082】
さらにステップS1103〜S1110でミックスした照明光でのカラーパッチの測色値を求める。ユーザの環境下では、ミックスした照明光を用意し実際にミックス照明光下での画像出力機器の出力結果の測色をおこなうことは手間がかかるため上記の方法を取っている。ユーザ自身が測定したほうが、ユーザの実際の観察環境の照明光のスペクトル、画像出力機器の出力結果の特性を正確に反映することができるが、測定器が必要であるため、予め用意されたデータを使用するステップも組み込んでいる。
【0083】
また、S1104でユーザが測定した各照明光のスペクトルを一旦保存しておき、再度ユーザが出力色変換定義を作成する際に、S1104でまたユーザが測定するのではなくS1105でユーザが保存した各照明光のスペクトルを読み込むこともできる。同様に、S1108でユーザが測定したカラーパッチの分光反射率を一旦保存しておき、再度ユーザが出力色変換定義を作成する際に、S1108でまたユーザが測定するのではなくS1109でユーザが保存したカラーパッチの分光反射率を読み込むこともできる。
【0084】
上記実施形態により、複数の観察環境下の照明光での出力結果の見え(各照明下での見えの違和感)が小さくなるような最適な出力色再現を行うことが可能な色変換定義をユーザ自身がユーザ自身の使用する観察環境に応じて作成することが可能となる。
【0085】
[実施形態4]
実施形態3では、ユーザが、実際にユーザが観察する観察環境に応じてLUTを作成する方法を説明した。ここでは、ユーザが測定せず予め保存されたカラーパッチの分光反射率を用いた別の実施形態を説明する。
【0086】
一般的に分光スペクトルは、人間の目が感知する可視光の領域のみを使用する。380nm〜780nm範囲である。1色を表現するのに、1nm間隔で表すと401値も必要となる。通常10nm〜20nm間隔の精度があれば色を管理できるが、それでも21〜41値が必要となる。ルックアップテーブルを作成するのに画像出力機器の出力結果が729色分必要だとすると、画像出力機器の分光反射率をスペクトルで管理する場合、729×401値または729×41値必要となる。さらに用紙や印刷方法が変わるとその分だけデータが必要になる。
【0087】
照明光Aの分光スペクトルPa(λ)、照明光Bの分光スペクトルPb(λ)、照明光Cの分光スペクトルPc(λ)とすると、ミックスした照明光Dの分光スペクトルPd(λ)は
Pd(λ)=(Pa(λ)+Pb(λ)+Pc(λ))/3
となる。
【0088】
また、ミックスした照明光Dの分光スペクトルPd(λ)と画像出力機器の出力パッチの分光反射率R(λ)を掛け合わせることで、下式のとおり反射光の分光分布φd(λ)を得ることができる。
φd(λ)=Pd(λ)R(λ)
この反射光の分光分布φd(λ)からミックスした照明光での測色値Labを求めることができた。
【0089】
また、各照明光ごとの反射光の分光分布φa(λ)、φb(λ)、φc(λ)は次のとおり求めることができる。
φa(λ)=Pa(λ)R(λ)
φb(λ)=Pb(λ)R(λ)
φc(λ)=Pc(λ)R(λ)
【0090】
これら分光分布より、照明光Aでの測色値(L_A、a_A、b_A)、照明光Bでの測色値(L_B、a_B、b_B)、照明光Cでの測色値(L_C、a_C、b_C)を求め、ミックスした照明光Dでの測色値(L_D、a_D、b_D)を
L_D=(L_A+L_B+L_C)/3
a_D=(b_A+b_B+b_C)/3
b_D=(b_A+b_B+b_C)/3
として算出する。なお、前述の分光分布φd(λ)から求めた測色値とは必ずしも一緒にならない。
【0091】
前述の分光分布φd(λ)から求めた測色値を用いて出力色変換定義を作成すると比べて、精度は若干悪くなるが、同様の出力色変換定義を作成することができる。よって、カラーパッチの分光反射率ではなく、カラーパッチの各照明光での測色値を保持しておき、測色値よりミックスした照明光での測色値を求めることも可能である。Lab値で管理できれば、L/a/bの3値だけでよい。
【0092】
一方Lab値で予め用意しておく場合、照明光ごとに測色値として持っておけばよいので、その数は729×3×照明光数となりデータ量を削減できる。このように、予め、各照明ごとの測色値を用意しておき、ミックス照明光に応じて測色値Lab値から算出したほうがデータ量を削減できる。測色値は予め測色しておき保持しているので、色変換定義作成時の測色回数増加にはつながらないため、作成時間の増加にはつながらない。本実施形態により、ユーザ自身がユーザ自身の使用する観察環境に応じて色変換定義を作成する際に保存されているデータのサイズを小さくすることが可能となる。
【0093】
[実施形態5]
ユーザの使い方の一例として、LUTを作成するのに想定した照明光以外の照明光で出力結果を見る機会がないとは限らない。実施形態2で説明したが、色材ごとの反射率が異なるため、印刷結果の色によって異なる照明光での色のずれ方の大きさや傾向が異なる。色によってはほとんど変わらない色もある場合もある。LUTを作成するのに想定した照明光以外の照明光で出力結果を見た場合、出力結果の一部の色域のみが見た目の色の違いにより、違和感を感じる。
【0094】
このような場合、新たに照明光を追加してLUTを作成する必要があるが、その場合ユーザは見た目の色の違いの大きい色域のみ照明光の影響を踏まえて出力結果を変更し、変化の小さい色域は出力結果を変えたくない。このような場合、実施形態2を利用し、照明光の見えの違いの大きい色域だけに対して、新たに照明光を追加しミックスした照明光を求め、見えの違いを小さくする色変換定義を作成することができる。
【0095】
[実施形態6]
上述した実施形態1から5において、画像出力機器はインクジェットプリンタとして説明してきたが、レーザープリンタ、昇華式プリンタなどのその他プリンタを採用した形態としてもかまわない。また、実施形態2では、インクごとに分光反射率が違うため、インクごとに見えの違いが異なると説明したが、もちろんインク以外の色材においても同様に適用できる。
【0096】
[実施形態7]
上記実施形態1〜6において、ホストコンピュータ100上で一連の処理がされると説明しているが、プリンタ105にホストコンピュータ100と同等な機能を持たせ、スキャナ103やデジタルプリンタ104上で一連の処理をすることも可能である。
例えばプリンタ内部にホストコンピュータ100と同等な機能を設けた場合には、画像データ201は、以下のようにしてプリンタ内部に入力することができる。すなわち、デジタルカメラ等の画像入力機器からプリンタに設けたカードリーダ等の読み取り装置からメモリカードを介して読み取ることができる。あるいは、デジタルカメラとプリンタとを有線ケーブルを用いた有線通信で接続したりあるいは赤外線通信または無線通信により接続してデジタルカメラが保持するメモリカードや内蔵のメモリから読み出すことも可能である。
【0097】
[実施形態8]
本発明による他の実施形態として、コンピュータに前述の色変換定義の作成を行わせる処理プログラムを供給する形態をとることができる。その場合、例えば、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどの記録媒体を用いそれに上記処理プログラムを記憶させることによって、本発明を具現化する処理プログラムを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の一実施形態にかかる画像処理装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる画像入力機器から画像出力機器への入力画像データの色変換フローを示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態にかかる出力色変換定義(ルックアップテーブル)の作成手順を示すブロック図である。
【図4】従来技術による出力色変換定義を用いた出力結果の照明光ごとの色の見えの違いを示す概念図である。
【図5】各照明光ごとの色の見えの違いが小さくなる出力結果の一例を示す概念図である。
【図6】各照明光の分光スペクトル及びミックスした照明光の分光スペクトル、各照明光下の物体の分光反射率及びミックスした照明光下の物体の反射光の分光分布を示す概念図である。
【図7】各照明光ごとの色の見えの違いと各照明光をミックスした照明光下での色の見えの違いを示す概念図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる複数の照明光の観察環境を考慮した出力色変換定義を用いた出力結果の、照明光ごとの色の見えの違いを示す概念図である。
【図9】本発明の一実施形態にかかる複数の照明光の観察環境を考慮した出力色変換定義(ルックアップテーブル)の作成手順を示すブロック図である。
【図10】本発明の一実施形態にかかる複数の照明光の観察環境を考慮した出力色変換定義(ルックアップテーブル)の作成手段を示すブロック図である。
【図11】本発明の一実施形態にかかるユーザが実際に観察する環境下での出力色変換定義(LUT)の作成手順を示すブロック図である。
【図12】色彩工学に基づく人間の目における色の見え方を説明する概念図である。
【図13】照明光の分光スペクトル、物体の分光反射率、物体の反射光の分光分布を示す概念図である。
【符号の説明】
【0099】
100…ホストコンピュータ
101…OS
102…アプリケーション/ドライバ
103…スキャナ
104…デジタルカメラ(デジカメ)
105…プリンタ
106…モニタ
107…CPU
108…RAM
109…HD/CD
1001…ミックス照明光決定部
1002…測色値算出部
1003,1005…ガマット圧縮計算部
1004,1006…デバイスカラー探索部
1007…LUT
1008,1009…作成モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像出力機器における色変換定義の作成方法において、
画像出力機器の出力結果を観察するための異なる照明光を有する複数の観察環境下でのそれぞれの色の見えの違いが小さくなる照明光による観察環境を想定する工程と、
前記それぞれの色の見えの違いが小さくなる照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める工程と、
前記工程で求めた画像出力機器のデバイスカラーの測色値から色変換定義を作成する工程と
を有することを特徴とする色変換定義の作成方法。
【請求項2】
画像出力機器の出力結果を観察するための異なる照明光を有する複数の観察環境下でのそれぞれの照明光をミックスした照明光による観察環境を想定する工程と、
前記ミックスした照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める工程と、
前記工程で求めた画像出力機器のデバイスカラーの測色値から色変換定義を作成する工程と
を有することを特徴とする色変換定義の作成方法。
【請求項3】
前記ミックスした照明光による観察環境を想定する際に、観察環境に優先度を設定し、該優先度に応じてミックス比率を変えた照明光による観察環境を想定することを特徴とする請求項2に記載の色変換定義の作成方法。
【請求項4】
画像出力機器における色変換定義の作成方法において、
ユーザが実際に画像出力機器の出力結果を観察する照明光の観察環境を選択入力する工程と、
ユーザが選択した観察環境に優先度を設定し、該優先度に応じてミックス比率を変えた照明光による観察環境を想定する工程と、
前記ミックス比率を変えた照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める工程と、
前記工程で求めた画像出力機器のデバイスカラーの測色値から色変換定義を作成する工程と
を有することを特徴とする色変換定義の作成方法。
【請求項5】
前記ミックスした照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める際に、色域によって照明光のミックス比率を変え、画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求めることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれかに記載の色変換定義の作成方法。
【請求項6】
前記ミックスした照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求め、色域によって照明光のミックス比率を変える際に、異なる照明光での色の見えの色差の大きさに応じてミックス比率を変え、画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求めることを特徴とする請求項5に記載の色変換定義の作成方法。
【請求項7】
前記ミックスした照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求め、色域によって照明光のミックス比率を変える際に、色の見えの違いの大きい色材の混合比に応じて前記ミックス比率を変え、画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求めることを特徴とする請求項5に記載の色変換定義の作成方法。
【請求項8】
前記ミックスした照明光による観察環境下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める際に、各照明光の分光スペクトルからミックスした照明光の分光スペクトルを求め、ミックスした照明光の分光スペクトルと画像出力機器のデバイスカラーの分光反射率とから画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求めることを特徴とする請求項2から請求項7のいずれかに記載の色変換定義の作成方法。
【請求項9】
前記想定した照明光下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求める際に、各照明光下での画像出力機器のデバイスカラーの測色値をいったん求め、各照明光下の測色値よりミックス照明光下の画像出力機器のデバイスカラーの測色値を求めることを特徴とする請求項2から7のいずれかに記載の色変換定義の作成方法。
【請求項10】
異なる照明光での色の見えの色差が大きい色域のみ、見えの違いを小さくするための前記色変換定義を作成することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の色変換定義の作成方法。
【請求項11】
前記異なる照明光での色の見えの色差が大きい色域を、異なる照明光での色の見え違いが大きいインクの混合比によって決めることを特徴とする請求項10に記載の色変換定義の作成方法。
【請求項12】
前記色変換定義は、カラールックアップテーブルからなるか、またはマトリックス係数とγ値からなるか、または計算式からなることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の色変換定義の作成方法。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれかに記載の色変換定義の作成方法の各工程をコンピュータに実行させるための処理プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載の処理プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項15】
請求項13に記載の処理プログラムを実行するプロセッサを備えた画像出力機器。
【請求項16】
請求項13に記載の処理プログラムを実行するプロセッサを備えた画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−244613(P2008−244613A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79448(P2007−79448)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】