説明

画像制御装置、画像表示システム

【課題】良好な立体表示を実現し得る画像表示技術を提供する。
【解決手段】画像制御装置は、第1画像と第2画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられるものであり、光学素子と、第1画像と第2画像の切り替えタイミングに対応して光学素子を駆動する光学素子駆動部を備える。光学素子は、第1基板及び第2基板と、第1基板上に設けられた第1電極と、第1基板上に設けられた複数のプリズムを有するプリズムアレイと、第1電極及びプリズムアレイの上側に設けられた第1配向膜と、第2基板上に設けられた第2電極と、第2電極の上側に設けられた第2配向膜と、第1基板と第2基板の間に設けられた液晶層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が立体的な表示を感得し得るための画像表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
使用者に立体的な画像(いわゆる3D画像)を視認させる画像表示システムが普及し始めている。立体的な画像表示を実現する方式には、大別して液晶シャッター等を用いて構成された立体表示用メガネを使用する方式とこのような立体表示用メガネを使用しない方式がある。
【0003】
立体表示用メガネを使用しない方式としては、主にレンチキュラーレンズ方式とパララックスバリア方式が挙げられる。これらの方式はいずれも空間的に右目用画像と左目用画像を作り出して、使用者が予め定められた位置から各画像を視認することにより立体的な画像を感得させるものである。
【0004】
上記のレンチキュラーレンズ方式とは、レンチキュラーと呼ばれる半円筒状のレンズ群を用いて、ディスプレイ上に再生された左目用画像と右目用画像を分離して左右の目に別々に入射させる方式である。また、上記のパララックスバリア方式とは、小さな穴もしくはスリットを有するパララックスバリアをディスプレイ前面に配置することにより、右目用画像と左目用画像を分離して左右の目に別々に入射させる方式である。
【0005】
しかし、レンチキュラーレンズ方式では、使用者は決められた位置でしか立体視できないという点や、画像表示システムの全体構成および映像ソフトが高価であるという点で未だ改良の余地がある。また、レンチキュラーレンズ方式とパララックスバリア方式のいずれにおいても、画像の解像度を高めるのが難しいという問題がある。具体的には、ディスプレイの画素数を一定で考えると、このディスプレイの画素数で通常に画像表示を行う場合と比較すると2眼式では解像度が1/2になり、多眼式では1/(多眼の数)になる。
【0006】
一方、立体表示用メガネを使用する方式として、特開平5−257083号公報(特許文献1)には、偏光方向が90°異なる偏光板をそれぞれ左右の目に合うように貼り合わせた偏光めがねを用いた立体表示技術が開示されている。また、特開平6−178325号公報(特許文献2)には、立体表示用の左右の画像に同期させて左右のシャッターを開閉させる液晶シャッターメガネを用いた立体表示技術について開示されている。
【0007】
しかし、特許文献1に代表される先行例においては、液晶パネルにおいて画素列を1列おきに用いて右画像と左画像をそれぞれ形成しているため表示画像の解像度が低下するという不都合がある。また、このような偏光メガネを用いる立体表示技術の1つとして、微細偏光素子を規則正しく配列して構成された高価な光学フィルムを用いるものもある。しかし、その場合には液晶パネル等の表示装置の出射光側に上記の光学フィルムを高い精度で取り付ける必要があり、光学フィルムの設置が容易ではない。さらに、偏光メガネは透過率が低く、画像以外を見るときに使用者が暗く感じてしまうという不都合もある。また、特許文献2に代表される先行例は、液晶表示装置以外の方式の表示装置にも広く適用できる優れた技術であるが、上記と同様に液晶シャッターメガネは透過率が低く、具体的には比較的に透過率が高いものでも45%以下、低いものでは30%以下であり、画像や画像以外を見るときに使用者が暗く感じてしまうという不都合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−257083号公報
【特許文献2】特開平6−178325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明に係る具体的態様は、上記課題を解決し、良好な立体表示を実現し得る画像表示技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る一態様の画像制御装置は、第1画像と第2画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる画像制御装置であって、(a)光学素子と、(b)前記画像表示装置による前記第1画像と前記第2画像の切り替えタイミングに対応して前記光学素子を駆動する光学素子駆動部を備える。前記光学素子は、(c)相互に対向配置される第1基板及び第2基板と、(d)前記第1基板上に設けられ、前記光学素子駆動部と接続された第1電極と、(e)前記第1基板上に設けられた複数のプリズムを有するプリズムアレイと、(f)前記第1電極及び前記プリズムアレイの上側に設けられた第1配向膜と、(g)前記第2基板上に設けられ、前記光学素子駆動部と接続された第2電極と、(h)前記第2電極の上側に設けられた第2配向膜と、(i)前記第1基板の前記第1配向膜と前記第2基板の前記第2配向膜の間に設けられた液晶層を有する。
【0011】
上記の画像制御装置においては、第1電極および第2電極を介して液晶層に電圧を印加することにより液晶分子の配列を変化させたときに、液晶層の屈折率が変化する。このとき、微少な斜面を有するプリズムアレイと液晶層との界面を透過する光の屈折角を変化させることができる。この作用に基づき、液晶層へ印加する電圧の大きさを適宜設定することにより、光学素子を介して視認される画像表示装置の表示画像の視角方向を自在に制御することができる。このような光学素子を画像表示装置による第1画像(例えば右目用画像)と第2画像(例えば左目用画像)の切り替えタイミングに対応して駆動することにより、使用者の一方の目(例えば右目)の方向へ第1画像を表示し、別の目(例えば左目)の方向へ第2画像を表示させることができる。それにより、使用者に立体的な画像を視認させることが可能となる。上記の画像制御装置における光学素子は、反射防止フィルムを使用した場合でも透過率を90%以上にすることが可能であるから使用者が暗さを感じることがない。また、メガネ不要であるから、コスト面や使用者の使い勝手の面でも有利である。また、原理上、レンチキュラーレンズ方式やパララックスバリア方式のように解像度が低下することもない。したがって、上記の画像制御装置によれば先行例における不都合を解消し、良好な立体表示を実現し得る。
【0012】
上記の画像制御装置において、前記光学素子駆動部は、例えば前記第1画像の表示時において前記光学素子へ相対的に高い電圧を供給し、前記第2画像の表示時において前記光学素子へ相対的に低い電圧を供給する。ここでいう「相対的に低い電圧」には0ボルトも含む。
【0013】
上記の画像制御装置において、前記光学素子は、例えば前記画像表示装置の前面側に配置される。なお、例えば画像表示装置が液晶表示パネルを有する液晶表示装置である場合には、この液晶表示パネルの後面側に光学素子が配置されてもよい。
【0014】
光学素子を前面配置とすることで、画像表示装置に対して光学素子を外付け設置することが容易になる。
【0015】
上記の画像制御装置において、前記画像表示装置は、指向性バックライトを有する液晶表示装置であることも好ましい。
【0016】
それにより、第1画像と第2画像の分離性がより高まり、いわゆるクロストークを抑制する効果が高まる。
【0017】
上記の画像制御装置において、前記プリズムアレイは、前記複数のプリズムの配列方向に沿って当該各プリズムの傾斜角の大きさが異なることも好ましい態様の1つである。
【0018】
それにより、光学素子における光の屈折角を徐々に大きくする(または小さくする)ことができるので、画像表示装置のサイズが比較的に大きい場合にも使用者における画像の視認性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】一実施形態の画像表示システムの構成を示すブロック図である。
【図2】液晶表示パネルおよび光学素子の構造を示す模式的な断面図である。
【図3】プリズムアレイの模式的な斜視図である。
【図4】画像表示パネルの出射光の偏光方向と光学素子における配向処理の方向との関係を説明するための図である。
【図5】光学素子による画像制御の様子を説明するための図である。
【図6】光学素子の他の構造例を示す模式的な断面図である。
【図7】プリズムアレイの他の構造例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、一実施形態の画像表示システムの構成を示すブロック図である。図1に示す画像表示システム100は、液晶表示パネル(LCD)1、液晶駆動部(LCD駆動部)2、バックライト3、光学素子5、光学素子駆動部6を含んで構成されている。なお、本実施形態では、光学素子5および光学素子駆動部6が「画像制御装置」に相当し、液晶表示パネル1、液晶駆動部2およびバックライト3が「画像表示装置」に相当する。図示の例では、使用者200を基準として、液晶表示パネル1の前面側に光学素子5が配置されている。また、光学素子5は、例えば図示のように液晶表示パネル1と密着して配置される。
【0022】
液晶表示パネル1は、液晶駆動部2から与えられる画像信号に基づいて画像(動画又は静止画)を表示する。この液晶表示パネル1は、公知の構造を有するものであり、その背面側にバックライト3が配置されている。
【0023】
液晶駆動部2は、液晶表示パネル1に画像信号を供給することにより、液晶表示パネル1に右目用画像(第1画像)と左目用画像(第2画像)を交互に表示させる。右目用画像と左目用画像の切り替えサイクルは例えば60Hz(フレームレート60fps)である。
【0024】
バックライト3は、液晶表示パネル1の背面側に配置されており、液晶表示パネル1に光を入射させる。
【0025】
光学素子5は、外観上ほぼ透明な薄板状の素子であり、液晶表示パネル1の前面側に配置される。この光学素子5は、光学素子駆動部6から供給される駆動信号に応じて、液晶表示パネル1から出射される光の状態を自在に制御する。それにより、使用者200において視認される表示画像の視角方向を自在に制御できる。なお、本実施形態の光学素子5は一般的な液晶素子とは異なり偏光板が不要であるため原理的に高透過率である。具体的には、光学素子自体の透過率として90%以上が見込まれ、光学素子5の表面に反射防止コート(ARコート)を施した場合には95%以上の透過率が見込まれる。
【0026】
光学素子駆動部6は、液晶表示パネル1による右目用画像と左目用画像の切り替えタイミングに対応して光学素子5を駆動する。具体的には、光学素子駆動部6は、例えば右目用画像の表示時に同期して光学素子5へ相対的に高い電圧を供給し、左目用画像の表示時に同期して光学素子5へ相対的に低い電圧を供給する。ここでいう「相対的に低い電圧」には0ボルトも含む。
【0027】
図2は、光学素子およびバックライトの構造を示す模式的な断面図である。なお、図2においては便宜上、一部構成を除いてハッチング記載を省略する(後述する図面においても同様)。図示のように、バックライト3と光学素子5は液晶表示パネル1を挟んで配置されており、光学素子5が液晶表示パネル1の前面側(光出射側)に配置され、バックライト3が液晶表示パネル1の後面側(光入射側)に配置されている。
【0028】
図2に示す本実施形態のバックライト3は、導光板31、LED光源32およびホログラム拡散板33を含んで構成されている。本実施形態のバックライト3は、その出射光に指向性を有するバックライト(指向性バックライト)である。なお、このような指向性バックライトの構造は、例えば特開2005−142078号公報において開示されている。
【0029】
導光板31は、透光性の材料(例えば透明アクリル樹脂など)を用いて形成された平板状の部材である。この導光板31は、複数の斜面を配列してなる溝状の凹凸部(ローレット)31aを有する一面とこれに対向する他面を備えており、他面側を液晶表示パネル1に近い側へ向けて配置されている。また、導光板31は、その端部にLED光源32からの出射光を導入するための光導入部31bを備える。
【0030】
導光板31の凹凸部31aは、LED光源32から出射した光を反射し、その進行方向を変えるためのものである。この凹凸部31aの各斜面の傾斜角度(ローレット傾斜角度)は、例えば2°〜20°程度、より好ましくは3°〜11°程度とされる。
【0031】
導光板31の光導入部31bは、例えば、対向するLED光源32の光軸と中心軸を同じくする双曲線(または円、楕円、放物線等)の断面形状の周縁部とこの周縁部とは異なる断面形状の中央部とを有し、かつフレネル化されたレンズである。
【0032】
LED光源32は、導光板31の端部の光導入部31bに近接して配置されており、導光板31へ光を入射させる。導光板31の光導入部とLED光源32との間隔は例えば0.1mm程度に設定される。
【0033】
ホログラム拡散板33は、導光板31と液晶表示パネル1の間に配置されている。
【0034】
図2に示す本実施形態の光学素子5は、第1基板51、第1電極52、プリズムアレイ53、第1配向膜54、第2基板55、第2電極56、第2配向膜57、液晶層58を含んで構成される。
【0035】
第1基板51および第2基板55は、相互に対向配置されており、それぞれ例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。第1基板51と第2基板55との相互間には、例えば多数のスペーサー(粒状体)が分散して配置されており(図示せず)、それらのスペーサーによって第1基板51と第2基板55との相互間隔が保たれる。
【0036】
第1電極52は、第1基板51の一面側に設けられている。同様に、第2電極56は、第2基板55の一面側に設けられている。第1電極52および第2電極56、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を用いて構成される。例えば本実施形態では、第1電極52、第2電極56ともに、基板一面に形成されている。なお、第1電極52、第2電極56は、適宜パターニングされていてもよい。
【0037】
プリズムアレイ53は、複数の微少な傾斜状の突起形状(プリズム)を一方向に配列して構成されている。プリズムアレイ53の模式的な斜視図を図3に示す。図示のように各プリズムの断面形状は直角三角形(例えば頂角75°、底角が15°と90°)である。また、各プリズムの配置ピッチPは例えば8μm程度、高さtは例えば2μm程度である。図3に示すように、プリズムアレイ53は、上面から見るとスリット形状に形成されている。このプリズムアレイ53は、例えば耐熱性および密着性に優れた樹脂材料を成形することにより得られる。プリズムアレイ53の成形方法の詳細については後述する。
【0038】
第1配向膜54は、第1基板51の一面側に、第1電極52およびプリズムアレイ53を覆うようにして設けられている。また、第2配向膜57は、第2基板55の一面側に、第2電極56を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、第1配向膜54および第2配向膜57として、液晶層58の液晶分子の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を水平配向状態に規制するもの(水平配向膜)が用いられている。これらの第1配向膜54、第2配向膜57に対しては、所定の表面処理(ラビング処理、光配向処理等)が施されている。
【0039】
液晶層58は、第1基板51の一面と第2基板55の一面の相互間に設けられている。本実施形態においては、誘電率異方性Δεが正(Δε>0)のネマティック液晶材料を用いて液晶層58が構成されている。液晶層58に図示された太線は、液晶層58内の液晶分子を模式的に示したものである。電圧無印加時における液晶分子は、第1基板51および第2基板55の各基板面に対して所定のプレティルト角を有してほぼ水平に配向する。
【0040】
ここで、光学素子5の動作について詳述する。光学素子5の第1電極52および第2電極56を介して液晶層58に電圧を印加すると、液晶層58の液晶分子の配列が変化し、それにより液晶層58の屈折率値が変化する、このため、複数の微少な傾斜状の突起形状であるプリズムアレイ53と液晶層58との界面を透過する光の屈折角が変化する(スネルの法則)。屈折角の大きさは、プリズムアレイ53の形状や液晶層58の屈折率異方性の値等により一概にいえないが、諸条件を調整することにより現状で18°程度までの屈折角を実現し得ることが確認できている。この屈折角は、光学素子5へ印加される電圧に応じて変化させることができる。
【0041】
図4は、液晶表示パネル1からの出射光の偏光方向と、光学素子5における配向処理の方向との関係を説明するための図である。図示のように、本実施形態の液晶表示パネル1は、出射側偏光板が斜め45°の方向に透過軸を有しており、出射側偏光板を通過した出射光が方向a1に偏光している。図示の例では、液晶表示パネル1の左右方向を基準として45°の方向に出射光が偏光している。これに対して、第1基板51は、第1配向膜54へ施された配向処理の方向a2が上記した出射光の偏光方向a1と略平行になるように配置されている。図示の例では、配向処理の方向a2は、プリズムアレイ53の各プリズムの長手方向(延在方向)a3との間で略45°に設定されている。また、第2基板55は、第2配向膜57へ施された配向処理の方向a4が上記した第1基板51の配向処理の方向a2との間でアンチパラレルの関係になるように配置されている。
【0042】
ここで、第1基板51の配向処理の方向a2を液晶表示パネル1の出射光の偏光方向a1と略平行とすることによる利点について説明する。通常、液晶層58の液晶分子は、細長い形状を有しており、ある方向の偏光(液晶分子の長軸方向)は曲げることができるが、ある方向の偏光はそのまま透過する。したがって、液晶表示パネル1からの出射光の偏光方向a1と、光学素子5において液晶表示パネル1側に配置される第1基板51に施される配向処理の方向a2とが平行になるように配置することにより、原理的には、出射光の全成分を曲げることができる。すなわち、光の利用効率が高くなる。これに対して、例えば液晶表示パネル1からの出射光の偏光方向a1と光学素子5における配向処理の方向a2が45°になるように配置した場合には、原理的に、出射光のうち約1/2の成分は曲げられるが残りの成分は制御することができなくなる。さらに、偏光方向a1と配向処理の方向a2とが直交するように配置した場合には、原理的に、光学素子5によって液晶表示パネル1の出射光を制御することができなくなる。したがって、液晶表示パネル1からの出射光の偏光方向a1と、光学素子5における配向処理の方向a2とが略平行になるように配置することがより望ましいといえる。なお、プリズムアレイ53の各プリズムの長手方向a3については、表示画像全体を使用者200に対して相対的に左右へ移動させる方向に設定される。
【0043】
次に、図5に沿って本実施形態の画像表示システム100の動作を説明する。
【0044】
まず、図5(A)に示す動作状態について説明する。LED光源32から導光板31に入射した光は導光板31によって斜め方向に指向される。この斜めに指向された光はホログラム拡散板33により指向性を保ったまま法線方向(または少し斜め方向)へ傾けることができる。このとき、光学素子5に対して相対的に高い電圧を印加することにより、光学素子5の液晶層58を垂直配向状態にする。それにより、バックライト3から出光し、液晶表示パネル1を通過した光をそのままの進行方向で通過させることができる。このときの通過光を使用者200の左目で見えるようにしておくことで、使用者200の左目にのみ左目用画像を視認させることができる。このときの通過光を少し斜め方向へ傾けた状態で出光させるほうが制御はより容易である。
【0045】
次に、図5(B)に示す動作状態について説明する。上記図5(A)の場合と同様にしてバックライト3から液晶表示パネル1に光を入射させる。このとき、光学素子5に対して相対的に低い電圧(本例では0V)を印加することにより、光学素子5の液晶層58を水平配向状態にする。それにより、バックライト3から出光し、液晶表示パネル1を通過した光を光学素子5によって屈折させ、その進行方向を変化させることができる。このときの通過光を使用者200の右目で見えるようにしておくことで、使用者200の右目にのみ右目用画像を視認させることができる。
【0046】
以上のようにして液晶表示パネル1から出射する光の向きを光学素子5によって変化させる動作を高速に行うことにより、使用者200に対して立体的な画像を視認させることができる。このとき、液晶表示パネル1が表示する右目用画像と左目用画像の切り替えサイクルは、例えば120Hzや240Hzである。ここでは、例えば切り替えサイクルが120Hzであるとすると、約8.3ミリ秒ごとに右目用画像と左目用画像が交互に表示される。例えば左目用画像が表示されているフレームでは、光学素子駆動部6は光学素子5に対して比較的に高い電圧(例えば30V)を印加する。それにより、光学素子5の液晶層58は上記のように垂直配向状態に変化し、液晶表示パネル1からの出射光は光学素子5によって進行方向を曲げられずに通過するため、上記のように使用者200の左目にのみ左目用画像を視認させることができる(図5(A)参照)。次に右目用画像が表示されているフレームでは、光学素子駆動部6は光学素子5に対して相対的に低い電圧(例えば0V)を印加する。それにより、光学素子5の液晶層58は上記のように水平配向状態に変化し、液晶表示パネル1からの出射光は光学素子5によって進行方向を曲げられて通過するため、上記のように使用者200の右目にのみ右目用画像を視認させることができる(図5(B)参照)。
【0047】
なお、光学素子5の応答時間については諸条件に依存し一概には言えないが、上記した一例の条件により製造された光学素子5に対して相対的に高い電圧として35Vを印加し、相対的に低い電圧として0Vを印加した場合においては、立ち上がり時の応答時間が1.6〜1.7ミリ秒、立ち下がり時の応答時間が2.8〜4.2ミリ秒(いずれも室温)であり、120Hzの切り替えサイクルを想定した場合には必要十分な応答速度である。また、高い電圧を印加してから光の角度(進行方向)の変化量が最大変化量の90%となるまでの時間ton、低い電圧を印加してから光の角度の変化量が最大変化量の10%となるまでの時間toffは、それぞれtonが0.8〜0.9ミリ秒、toffが1.7〜2.9ミリ秒であり、実質的な変化時間は非常に速いことが分かる。なお、配向処理の手法との相関については、光配向処理を用いたほうが若干、応答時間が短くなる傾向が見られるが著しい差ではない。
【0048】
次に、光学素子5の製造方法の一例について詳述する。
【0049】
まず、第1基板51および第2基板55として用いるためのガラス基板を用意する。これらのガラス基板としては、予めITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電材料からなる導電膜を有するものがより好ましい。例えば、厚さが1500ÅのITO膜を有し、板厚が0.7mm、ガラス材質が無アルカリガラスである一対のガラス基板を用意する。第1基板51、第2基板55のそれぞれについて、ITO膜を適宜パターニングすることにより、第1電極52、第2電極56を形成する。
【0050】
次に、第1基板51の第1電極52上にプリズムアレイ53を形成する。ここでは、断面が三角形状であり、そのピッチPが8μm、高さtが約2μm、頂角75°、底角が15°と90°であり、上面から見るとスリット形状を有する金型を用いてプリズムアレイ53を形成する。
【0051】
具体的には、第1基板51上に光硬化性樹脂材料を滴下し、その上に金型を置き、かつ第1基板51の裏面側を厚手の石英基板等で補強した状態でプレスを行う。プレス後にある程度の時間(例えば1分間以上)だけ放置し、光硬化性樹脂材料を十分に広げた後、第1基板51側から光を照射することで光硬化性樹脂材料を硬化させる。光の照射量は光硬化性樹脂材料が硬化するのに十分な値を適宜に設定する。ここで、一般にプリズム用材料は耐熱性が低く、プリズムアレイ53上に第1配向膜54を形成する際の熱処理(例えば180℃以上)により特性が劣化してしまう場合が多い。これに対して、本実施形態では、熱処理前後での透過率特性の低下がほとんど生じない光硬化性(例えば紫外線硬化性)のアクリル系樹脂材料を用いる。光硬化性樹脂材料の屈折率は例えば1.51程度である。
【0052】
以上により第1基板51上に透明樹脂膜からなるプリズムアレイ53が形成される。その後、このプリズムアレイ53が形成された第1基板51を洗浄機により洗浄する。洗浄は、例えば、アルカリ洗剤を用いたブラシ洗浄、純水洗浄、エアーブロー、紫外線(UV)照射、赤外線(IR)乾燥の順に行うことができるがこれに限定されない。高圧スプレー洗浄やプラズマ洗浄などを行ってもよい。
【0053】
次いで、プリズムアレイ53が形成された第1基板51に第1配向膜54を形成する。同様に、第2基板55に第2配向膜57を形成する。ここでは例えばポリイミドを配向膜として用いる。フレキソ印刷法、インクジェット法、スピンコート法、スリットコート法、スリット法とスピンコート法の組みあわせ等の適宜の方法で配向膜材料を第1基板51上、第2基板55上にそれぞれ適当な膜厚(例えば800Å程度)で塗布し、熱処理(例えば180℃で1.5時間の焼成)を行う。そして、熱処理によって得られた第1配向膜54、第2配向膜57のそれぞれに対して配向処理を行う。この配向処理は、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせたときに各基板上の液晶分子の配向方向がアンチパラレル配向になるように行う。また、配向処理は、第1配向膜54への配向処理の方向がプリズムアレイ53の各プリズムの延在方向に対して45°となるようにする。
【0054】
ここでは配向処理として、例えばラビング処理を行うが、光配向処理等の配向処理であってもよいし、複数種の配向処理を組み合わせてもよい。例えば、第1基板51に対しては光配向処理を行い、第2基板55にはラビング処理を行うなどの組み合わせが考えられる。第1基板51に対して光配向処理を施す場合には、例えば紫外線を偏光した光を第1基板51に対して法線方向から照射する方法を用いることができる。このときの紫外線は、第1基板51に対しては垂直方向から照射しているが、プリズムアレイ53の各プリズムの斜面部分に対しては相対的に45°傾いた方向から照射しているに等しいことになる。露光に用いる偏光フィルタの波長は例えば310nmである。
【0055】
次いで、一方の基板(例えば第1基板51)上に、ギャップコントロール剤を適量(例えば2〜5wt%)含んだメインシール剤を形成する。メインシール剤の形成は、例えばスクリーン印刷やディスペンサーによる。また、ギャップコントロール剤の径は、プリズムアレイ53のベース層とプリズムの高さを含め、液晶層58の厚さが2〜4μm程度と比較的に薄くなるように材料を選ぶことができる。本実施形態では、ギャップコントロール剤としてその径が10.5μmのプラスチックボールを用いる。また、他方の基板(例えば第2基板55)上にはギャップコントロール剤を散布する。例えば本実施形態では、3.5μmのプラスチックボールを乾式のギャップ散布機によって散布する。
【0056】
次いで、第1基板51と第2基板55とを重ね合わせ、プレス機などで圧力を一定に加えた状態で熱処理することにより、メインシール剤を硬化させる。ここでは、例えば150℃で3時間の熱処理を行う。その後、第1基板51と第2基板55の間隙に液晶材料を充填することにより液晶層58を形成する。液晶材料の充填は、例えば真空注入法によって行う。本実施形態では、誘電率異方性△εが正であり比較的に粘度の低い液晶材料を用いる。液晶材料の屈折率異方性については、光を曲げる角度に関係するため目的にあった値とする。液晶材料の注入後、その注入口にエンドシール剤を塗布し封止する。そして、封止後に適宜熱処理(例えば120℃で1時間)を行うことにより、液晶層58の液晶分子の配向状態を整える。以上のようにして本実施形態の光学素子5が得られる。
【0057】
図6は、光学素子の他の構造例を示す模式的な断面図である。図6に示す光学素子5aは、第1基板51、第1電極52a、プリズムアレイ53a、第1配向膜54a、第2基板55、第2電極56、第2配向膜57、液晶層58を含んで構成される。上述した図2に示した光学素子5では第1電極52の上側にプリズムアレイ53が配置されていたが、図6に示す例の光学素子5aはプリズムアレイ53a上に第1電極52aが配置されている点が構造上の相違である。上記したような高い耐熱性を有する樹脂材料を用いて形成されたプリズムアレイ53a上であれば、本例のようにプリズムアレイ53aの上側にITO等の透明導電材料からなる第1電極52aを設けることもできる。なお、図示を省略するがプリズムアレイ53aと第1電極52aとの間に両者の密着性をより向上させるための酸化珪素(SiO)膜が設けられていることも好ましい。図6に例示する光学素子5aにおいては、第1基板51上の第1電極52aと液晶層58との間にプリズムアレイ53aが存在することなく、第1電極52aから直接的に液晶層58へ電圧を印加できることから、光学素子5aを駆動するための電圧をより低下させることが可能になる。また、図2に示した光学素子5、図6に示した光学素子5aのいずれについても、第1電極、第2電極の一方または双方がストライプ状(短冊状)などの形状にパターニングされていてもよい。それにより、表示画像の視角方向を変化させる領域と変化させない領域を設定することが可能となる。
【0058】
図7は、プリズムアレイの他の構造例を示す模式的な断面図である。図7(A)に示すプリズムアレイ53bは、複数のプリズムの配列方向(図中では上下方向)に沿って各プリズムの傾斜角の大きさが異なっている。具体的には、図示の例では図中の下方向に配列されたプリズムほど傾斜角が大きくなっている。図7(B)に示すプリズムアレイ53cも同様である。図7(A)に示すプリズムアレイ53bは、各プリズムの底辺の長さが同一であり各プリズムの高さが異なるのに対して、図7(B)に示すプリズムアレイ53cは、各プリズムの高さが同一であり、各プリズムの底辺の長さが異なる。これらのようにプリズムアレイの各プリズムの傾斜角を徐々に変えることにより、光学素子における光の屈折角を徐々に大きくする(または小さくする)ことができる。したがって、液晶表示パネル1のサイズが比較的に大きい場合にも使用者における画像の視認性を向上させることが可能となる。具体的には、上記した図5に示した配置を仮定すると、使用者200の右目へ右目用画像を入射させるためには、図中下側へいくほど光をより大きく曲げる必要があり、そのような状況においてはプリズムアレイ53bまたはプリズムアレイ53cがより好適である。
【0059】
なお、第1基板と第2基板の間隔をより薄く、かつ均一に得やすいという面からはプリズムアレイ53cがより好適である。プリズムアレイ53bの場合、基板間隔を均一に保持するには、プリズムアレイの各プリズムの高さの差が、ギャップコントロール剤が許容する弾性変形の範囲内に収まるようにプリズム形状および基板間隔を設定することが好ましい。この場合、概ね10%未満の変形を見込むことが好ましい。上記した高さ2μmのプリズムが最大プリズム高であった場合、基板間隔を20μmより大きくすることでこの条件は満たされる。このとき、基板間隔の保持をメインシール内のギャップコントロール剤で行うことを主とし、基板に散布されるギャップコントロール剤の量をごく少量とすることも好ましい。また、基板にはギャップコントロール剤を散布せずに構成しても構わない。
【0060】
なお、本発明は上述した各実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0061】
例えば、上記した実施形態では画像表示装置の一例として液晶表示装置を示していたが、これに限定されない。本発明における画像表示装置は、出射される光が偏光しているものであればよく、例えば、単色タイプで外観が鏡面になっていない有機EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置等を用いることもできる。
【0062】
また、上記した実施形態における液晶層は水平配向に規制されていたが、90°捩れ配向等の配向モードとしてもよい。また、液晶層にカイラル剤を添加することなどにより液晶分子の配列方向を変えてもよい。また、液晶層を形成する際の手法は真空注入にのみ限定されず、ODF法を用いてもよい。
【0063】
また、プリズムアレイの断面形状は、上記した三角形状にのみ限定されない。断面形状は、例えば正弦波(サインカーブ)状でもよい。また、プリズムアレイの上面形状は、上記したストライプ状にのみ限定されない。上面形状は、例えば格子状、同心円状、楕円状、フレネルレンズ状、ドット状などでもよい。さらに、プリズムアレイの各プリズムの長手方向と配向処理の方向とを45°にしていたが、角度はこれに限定されず適宜設定できる。
【0064】
また、上記した実施形態では光学素子を画像表示装置の前面側に配置していたが、光学素子を画像表示装置の後面側に配置してもよい。ただし、視角特性の制御性という観点では光学素子を前面側に配置するほうがより好ましいといえる。
【0065】
また、上記した実施形態の画像表示システムにおいて立体的な画像表示を行わずに通常の2次元的な画像表示を行う場合には、基本的に光学素子を駆動しなくてよいが、画像表示の切り替えサイクル(例えば60Hz)に同期し、もしくは切り替えサイクルよりも速いサイクルで光学素子を駆動してもよい。それにより、通常の画像を視認する使用者にとって視角をより広く感得させることができる。本実施形態の画像表示システムはこのような動作も実現し得るものであり、これも好ましい動作態様の1つである。
【符号の説明】
【0066】
1:液晶表示パネル(LCD)
2:液晶駆動部
3:バックライト
5、5a:光学素子
6:光学素子駆動部
51:第1基板
52、52a:第1電極
53、53a:プリズムアレイ
54、54a:第1配向膜
55:第2基板
56:第2電極
57:第2配向膜
58:液晶層
100:画像表示システム
200:使用者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1画像と第2画像を交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる画像制御装置であって、
光学素子と、
前記画像表示装置による前記第1画像と前記第2画像の切り替えタイミングに対応して前記光学素子を駆動する光学素子駆動部を含み、
前記光学素子は、
相互に対向配置される第1基板及び第2基板と、
前記第1基板上に設けられ、前記光学素子駆動部と接続された第1電極と、
前記第1基板上に設けられた複数のプリズムを有するプリズムアレイと、
前記第1電極及び前記プリズムアレイの上側に設けられた第1配向膜と、
前記第2基板上に設けられ、前記光学素子駆動部と接続された第2電極と、
前記第2電極の上側に設けられた第2配向膜と、
前記第1基板の前記第1配向膜と前記第2基板の前記第2配向膜の間に設けられた液晶層を有する、
画像制御装置。
【請求項2】
前記光学素子駆動部は、前記第1画像の表示時において前記光学素子へ相対的に高い電圧を供給し、前記第2画像の表示時において前記光学素子へ相対的に低い電圧を供給する、請求項1に記載の画像制御装置。
【請求項3】
前記光学素子が前記画像表示装置の前面側に配置された、請求項1又は2に記載の画像制御装置。
【請求項4】
前記画像表示装置が指向性バックライトを有する液晶表示装置である、請求項1〜3の何れか1項に記載の画像制御装置。
【請求項5】
前記プリズムアレイは、前記複数のプリズムの配列方向に沿って当該各プリズムの傾斜角の大きさが異なる、請求項1〜4の何れか1項に記載の画像制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載の画像制御装置と、
第1画像と第2画像を交互に表示する画像表示装置、
を備える画像表示システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−194378(P2012−194378A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58259(P2011−58259)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】