説明

画像形成方法及び画像形成物

【課題】コピー用紙等の塗工層を持たない記録媒体に対し、スミア定着性を損なうことなく、フェザリングとカラーブリードの抑制を両立させた画像を形成できる画像形成方法及び画像形成物の提供。
【解決手段】水溶性脂肪族系有機酸、水溶性有機モノアミン化合物、水溶性有機溶剤及び水を含有する前処理液を記録媒体に塗布する前処理工程と、アニオン系分散剤又はノニオン系分散剤で分散された水性顔料分散体、水溶性有機溶剤、アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂、界面活性剤、浸透剤及び水を含有するインクジェット用インクに刺激を印加し飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程とを含む画像形成方法において、前記前処理液が、前記水溶性脂肪族系有機酸に含まれる酸基に対し、1モル当量以上の前記水溶性有機モノアミン化合物を含有する画像形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式により普通紙、印刷用紙などに高画質画像を記録することができる画像形成方法及び画像形成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、普通紙へのカラー画像の記録が可能であり、しかもランニングコストが低いなどの理由から、近年、急速に普及してきている。しかし、この方法は、インクと記録媒体との組み合わせによっては文字滲み(以下、フェザリングという)に代表される画像欠陥が発生しやすく、画像品質が大きく低下するという問題を有する。
そこでインクの浸透性を抑えることでフェザリングを抑制する試みがなされているが、この場合、インクの乾燥性が悪くなり、記録物に触れるとインクが手に付いたり画像汚れが生じたりする。
また、インクジェット記録方法によりカラー画像を記録する場合には、色の異なるインクが次々と重ねられるため、色境界部分でカラーインクが滲んだり、混ざり合いが発生し(以下、カラーブリードと称することもある)、画像品質が大きく低下する問題もある。この問題についてはインクの浸透性を高めることで抑制する試みがなされているが、この場合、着色剤が記録媒体の内部に入り込んでしまうため、画像濃度が低下したり、記録媒体裏側へのインクの浸み出しが多くなり、両面印刷が良好に行えなくなる。
【0003】
そこでこれらの問題を同時に解決して画像品質を高めるために、前処理液とインクを用いた画像形成方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、水性インクに対して逆極性に表面が帯電している微粒子が分散状態で含まれる液体組成物を用いた記録媒体への着色部の形成方法が提案されている。しかしながら、この方法は着色剤の凝集、吸着において一定の効果があるものの、フェザリング、カラーブリード抑制の点で充分な効果が得られない。また、この方法は水性インクの定着性の点でも問題を有する。即ち、液体組成物と水性インクが記録媒体に付着し、ビヒクル(液体組成物中又は水性インク中における液体成分)が記録媒体に浸透すると、微粒子と着色剤の混合物が記録媒体の表面に堆積する。この堆積層は機械的に弱いため、指で擦ったりすると容易に取れてしまうため、ユーザーの手をインクが汚したり、印刷物同士が重なった際に印刷物の裏面をインクが汚したりする耐擦性不足の不具合が生じる。
また、特許文献2には、画像形成物の耐擦性を改良するため、インク組成物と、ポリマー微粒子を含む第一の液とを記録媒体に付着させて印字を行うインクジェット記録方法が開示されている。この方法によると充分な耐擦性を得るにはポリマー微粒子を大量に入れる必要がある。しかしながら、ポリマー微粒子を大量に入れようとすると、吐出安定性及び保存安定性の低下、粘度上昇などの副作用が生じてしまい問題の解決には至っていない。
【0004】
また、特許文献3には、前処理液の保存安定性を改良するために、酸解離定数pKaが4.5以下の有機酸、有機アミン化合物、水溶性溶媒、及び水を含有し、有機酸と有機アミン化合物の添加量の比率を特定したインクジェット用液体組成物と、インクジェット用インクのセットが開示されている。このインクセットによるとインクジェット用液体組成物とインクが混合されたときに、酸性側でpHが維持され、インクの色材を効果的に凝集させることができるとしている。しかし、保存安定性は満足するものの記録媒体の表面で着色剤が凝集して堆積するため、印写直後のスミア定着性(耐擦性)は満足できるものではない。
このように前処理液とインクを併用した従来の画像形成方法により画像形成物のフェザリングとカラーブリードの抑制を両立させようとした場合、前処理液の保存安定性が低下したり、スミア定着性(耐擦性)が低下したりする問題があった。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、コピー用紙などの塗工層を持たない記録媒体に対し、フェザリング及びカラーブリードがなく、かつスミア定着性(耐擦性)に優れた画像を形成できる画像形成方法及び画像形成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
本発明の画像形成方法は、水溶性脂肪族系有機酸、水溶性有機モノアミン化合物、水溶性有機溶剤及び水を含有する前処理液を記録媒体に塗布する前処理工程と、
アニオン系分散剤又はノニオン系分散剤で分散された水性顔料分散体、水溶性有機溶剤、アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂、界面活性剤、浸透剤及び水を含有するインクジェット用インクに刺激を印加し飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程と、を含む画像形成方法において、
前記前処理液が、前記水溶性脂肪族系有機酸に含まれる酸基に対し、1モル当量以上の前記水溶性有機モノアミン化合物を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、コピー用紙などの塗工層を持たない記録媒体に対し、スミア定着性(耐擦性)を損なうことなく、フェザリングとカラーブリードの抑制を両立させた画像を形成できる画像形成方法及び画像形成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、インクジェット記録装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】図2は、インクジェット記録装置の他の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(画像形成方法)
本発明の画像形成方法は、水溶性脂肪族系有機酸、水溶性有機モノアミン化合物、水溶性有機溶剤及び水を含有する前処理液を記録媒体に塗布する前処理工程と、
アニオン系分散剤又はノニオン系分散剤で分散された水性顔料分散体、水溶性有機溶剤、アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂、界面活性剤、浸透剤及び水を含有するインクジェット用インクに刺激を印加し飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程と、を含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
【0010】
<前処理液>
前記前処理液は、水溶性脂肪族系有機酸、水溶性有機モノアミン化合物、水溶性有機溶剤及び水を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
前記前処理液は、水溶性脂肪族系有機酸を含有し、水分散性着色剤を凝集させる性質を有する。ここで、凝集するとは水分散性着色剤粒子同士が吸着集合する意味であり、粒度分布測定装置により確認することができる。前処理液に水溶性脂肪族系有機酸等のイオン性物質を加えると、水分散性着色剤の表面電荷にイオンが吸着することで表面電荷が中和されるので、分子間力による凝集作用が増強されて凝集させることができる。凝集を確認する方法の例としては、水分散性着色剤濃度が5質量%のインクジェット用インク(以下、単に「インク」ということもある)5μLに、前処理液を30mL加えたときに、瞬時に着色剤が凝集するか否かを確認する方法が挙げられる。
【0011】
−水溶性脂肪族系有機酸−
前記水溶性脂肪族系有機酸としては、水溶性脂肪族系カルボキシル基含有有機酸、水溶性脂肪族系スルホン酸基含有有機酸が好適に用いられる。ここで、脂肪族とは直鎖又は分岐の炭化水素基を含むことを意味し、炭化水素基は飽和炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよい。水溶性脂肪族系有機酸の炭素数は、特に限定されないが、溶媒への溶解性の点から1分子あたり2個〜6個が好ましく、2個〜4個がより好ましい。水溶性脂肪族系有機酸の酸基の数は、画像濃度の点から、1分子あたり3個以下が好ましく、1分子あたり2個以下がより好ましく、1分子あたり1個が更に好ましい。
前記水溶性脂肪族系有機酸としては、下記一般式(I)〜(III)で表される水溶性脂肪族系カルボキシル基含有有機酸が好適に用いられる。これらの中でも、一般式(I)で示される有機酸が特に好ましい。
【0012】
【化1】

ただし、前記一般式(I)中、Rは水素原子又はカルボキシル基により置換されたメチル基を示し、Rはメチル基、カルボキシル基により置換されたメチル基、又は水酸基及びカルボキシル基により置換されたメチル基を示す。
【0013】
【化2】

ただし、前記一般式(II)中、nは1〜4の整数を示す。
【0014】
【化3】

ただし、前記一般式(III)中、nは0〜4の整数を示す。
【0015】
前記一般式(I)で表される化合物としては、例えば、乳酸(pKa:3.83)、リンゴ酸(pKa:3.4)、クエン酸(pKa:3.13)、酒石酸(pKa:2.93)などが挙げられる。
前記一般式(II)で表される化合物としては、例えば、蓚酸(pKa:1.04)、マロン酸(pKa:2.05)、琥珀酸(pKa:4.21)、アジピン酸(pKa:4.42)などが挙げられる。
前記一般式(III)で表される化合物としては、例えば、酢酸(pKa:4.76)、プロピオン酸(pKa:4.87)、酪酸(pKa:4.82)、吉草酸(pKa:4.82)などが挙げられる。
前記一般式(I)〜(III)以外の水溶性脂肪族系有機酸としては、例えば、グルコン酸(pKa:2.2)、ピルビン酸(pKa:2.49)、フマル酸(pKa:3.02)などが挙げられる。
【0016】
前記水溶性脂肪族系スルホン酸基含有有機酸としては、例えば、タウリンを好適に用いることができる。
前記水溶性脂肪族系有機酸の添加量は、前処理液全体の1質量%〜40質量%が好ましく、3質量%〜30質量%がより好ましい。前記添加量が、40質量%を超えると、処方上、中和に必要な量の水溶性有機モノアミン化合物を入れられなくなる可能性があり、1質量%未満であると、画像品質を向上させる効果が小さくなる可能性がある。
【0017】
―水溶性有機モノアミン化合物―
本発明で用いる前処理液には、インクの浸透性制御及び金属の腐食防止性の目的で水溶性有機モノアミン化合物を含有させる。前記水溶性有機モノアミン化合物は、1級、2級、3級及び4級アミン又はそれらの塩のいずれであっても構わない。なお、4級アミンとは、窒素原子に4つのアルキル基が置換した化合物を意味する。前記水溶性有機モノアミン化合物の炭素数は特に限定されないが、溶媒への溶解性の点から1分子あたり2個〜12個が好ましく、2個〜6個がより好ましい。
【0018】
前記水溶性有機モノアミン化合物としては、下記一般式(IV)又は(V)で表される化合物が好適に用いられる。
【化4】

ただし、前記一般式(IV)中、R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜8のアルキル基、ヒドロキシエチル基、又はヒドロキシプロピル基を示す。ただし、全て水素原子である場合を除く。
【0019】
【化5】

ただし、前記一般式(V)中、Rはヒドロキシメチル基を示し、Rはメチル基、エチル基、又はヒドロキシメチル基を示し、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はヒドロキシメチル基を示す。
【0020】
前記一般式(IV)で表される化合物としては、例えば、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、t−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、ジ−n−オクチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、1−アミノ−2−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記一般式(V)で表される化合物としては、例えば、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記一般式(IV)又は(V)以外の水溶性有機モノアミン化合物としては、例えば、アリルアミン、ジアリルアミン、3−エトキシプロピルアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、3−メトキシプロピルアミン、コリンなどが挙げられる。
【0022】
前記水溶性有機モノアミン化合物の添加量は、水溶性脂肪族系有機酸に含まれる酸基1molに対して1.0mol〜1.5molが好ましく、1.0mol〜1.2molがより好ましい。前記水溶性有機モノアミン化合物の添加量が、1.0mol未満であると、画像形成物のドットの絞まりにより白スジが発生する可能性があり、1.5molを超えると、遊離した水溶性モノアミン化合物がインクの浸透を促進して画像濃度を低下させる可能性がある。
前記水溶性有機モノアミン化合物は、水溶性脂肪族系有機酸との中和塩を作るために必要であり、前処理液のpHを5以上とすることも重要なので、水溶性有機モノアミン化合物や水溶性脂肪族系有機酸の分子量などに応じて、適宜、水溶性有機モノアミン化合物の量を調整する必要がある。
【0023】
−水溶性有機溶剤−
本発明で用いる前処理液には、インクの浸透性制御及び金属の腐食防止性の目的で水溶性有機溶剤を含有させる。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレンなどが挙げられる。
また、前記水溶性有機溶剤は、前処理液が開放状態で放置されても多量の水分を保持することにより前処理液に流動性を付与する機能を有する。この場合、平衡水分量の高い水溶性有機溶剤を用いると、前処理液の水分が蒸発して平衡状態に達した場合にも極端な粘度上昇を抑えることができる。
【0024】
このような平衡水分量の高い水溶性有機溶剤としては、温度23℃±1℃、湿度80%±3%RH環境中の平衡水分量が、通常30質量%以上、好ましくは40質量%以上である水溶性有機溶剤(以後、水溶性有機溶剤Aという)が挙げられる。なお、前記平衡水分量とは、水溶性有機溶剤と水の混合物を一定温度、湿度の空気中に放置し、溶液中の水の蒸発と空気中の水の水溶性有機溶剤への吸収が平衡状態になったときの水分量を言う。具体的には、塩化カリウム飽和水溶液を用い、デシケーター内を温度23℃±1℃、湿度80%±3%RHに保ち、このデシケーター内に各水溶性有機溶剤を1gずつ秤量したシャーレを質量変化がなくなるまでの期間保管し、次の式により平衡水分量を求めることができる。
【数1】

【0025】
本発明で好適に用いられる水溶性有機溶剤Aとしては、温度23℃±1℃、湿度80%±3%RH環境中の平衡水分量が30質量%以上の多価アルコール類が挙げられる。その具体例としては、ジエチレングリコール(bp245℃、43質量%)、トリエチレングリコール(bp285℃、39質量%)、テトラエチレングリコール(bp324℃〜330℃、37質量%)、1,3−ブタンジオール(bp203℃〜204℃、35質量%)、グリセリン(bp290℃、49質量%)、ジグリセリン(bp270℃/20hPa、38質量%)、1,2,3−ブタントリオール(bp175℃/33hPa、38質量%)、1,2,4−ブタントリオール(bp190℃〜191℃/24hPa、41質量%)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、水分を含んだ場合に低粘度化すること及び顔料分散体が凝集せず安定に保てる点から、1,3−ブタンジオール、グリセリンは、特に好ましい。
前記水溶性有機溶剤Aを水溶性有機溶剤全体の50質量%以上用いることが、吐出安定性確保やインク吐出装置の維持装置での廃インク固着防止に優れるため好ましい。
【0026】
本発明で用いる前処理液は、水溶性有機溶剤Aに加えて又は水溶性有機溶剤Aの一部に代えて、23℃、80%RHでの平衡水分量が30質量%未満の水溶性有機溶剤(以後、水溶性有機溶剤Bと言う)を併用することができる。
前記水溶性有機溶剤Bとしては、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他の水溶性有機溶剤などが挙げられる。
【0027】
前記多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール(bp196℃〜198℃)、ポリエチレングリコール(粘調液体〜固体)、プロピレングリコール(bp187℃)、ジプロピレングリコール(bp232℃)、トリプロピレングリコール(bp267℃)、ポリプロピレングリコール(bp187℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(bp203℃)、1,5−ペンタンジオール(bp242℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(bp197℃)、ヘキシレングリコール(bp197℃)、1,6−ヘキサンジオール(bp253℃〜260℃)、1,2,6−ヘキサントリオール(bp178℃)、トリメチロールエタン(固体、mp199℃〜201℃)、トリメチロールプロパン(固体、mp61℃)などが挙げられる。
【0028】
前記多価アルコールアルキルエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(bp135℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(bp171℃)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(bp194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(bp197℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(bp231℃)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(bp229℃)、プロピレングリコールモノエチルエーテル(bp132℃)などが挙げられる。
前記多価アルコールアリールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル(bp237℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテルなどが挙げられる。
【0029】
前記含窒素複素環化合物としては、例えば、2−ピロリドン(bp250℃、mp25.5℃、47質量%〜48質量%)、N−メチル−2−ピロリドン(bp202℃)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(bp226℃)、ε−カプロラクタム(bp270℃)、γ−ブチロラクトン(bp204〜205℃)などが挙げられる。
前記アミド類としては、例えば、ホルムアミド(bp210℃)、N−メチルホルムアミド(bp199℃〜201℃)、N,N−ジメチルホルムアミド(bp153℃)、N,N−ジエチルホルムアミド(bp176℃〜177℃)などが挙げられる。
前記アミン類としては、例えば、モノエタノールアミン(bp170℃)、ジエタノールアミン(bp268℃)、トリエタノールアミン(bp360℃)、N,N−ジメチルモノエタノールアミン(bp139℃)、N−メチルジエタノールアミン(bp243℃)、N−メチルエタノールアミン(bp159℃)、N−フェニルエタノールアミン(bp282℃〜287℃)、3−アミノプロピルジエチルアミン(bp169℃)などが挙げられる。
前記含硫黄化合物類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(bp139℃)、スルホラン(bp285℃)、チオジグリコール(bp282℃)などが挙げられる。
【0030】
その他の水溶性有機溶剤としては糖類が好ましい。該糖類としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類などが挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースなどが挙げられる。ここで、多糖類とは広義の糖を意味し、α−シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む意味に用いることとする。また、これらの糖類の誘導体としては、前記した糖類の還元糖[例えば、糖アルコール〔一般式:HOCH(CHOH)CHOH(ただし、nは2〜5の整数を表す)で表される。〕]、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ酸などが挙げられる。これらの中でも、糖アルコールが好ましく、前記糖アルコールとしては、例えば、マルチトール、ソルビットなどが挙げられる。
【0031】
前記水溶性有機溶剤の前処理液中における含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%〜80質量%が好ましく、15質量%〜60質量%がより好ましい。前記含有量が、80質量%を超えると、水溶性有機溶剤の種類によっては前処理後の記録媒体が乾燥しにくくなる可能性があり、10質量%未満であると、前処理中に水分蒸発が生じ、前処理液の組成が大きく変わってしまう可能性がある。
【0032】
―脂肪族系有機酸塩化合物、無機金属塩化合物―
本発明で用いる前処理液に脂肪族系有機酸塩化合物又は無機金属塩化合物を添加すると、顔料が記録媒体表面に留まりやすくなり塩析効果が向上するため画像濃度が増加する。
前記脂肪族系有機酸塩化合物としては、例えば、L−アスパラギン酸ナトリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、アスコルビン酸カルシウム、L−アスコルビン酸ナトリウム、琥珀酸ナトリウム、琥珀酸二ナトリウム、琥珀酸二アンモニウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸アルミニウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三アンモニウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸二アンモニウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、乳酸カルシウム、乳酸マグネシウム、乳酸アルミニウム、乳酸アンモニウム、乳酸亜鉛、酒石酸カリウム、酒石酸カルシウム、DL−酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記無機金属塩化合物としては、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸鉄(II)、硫酸銅(II)、硫酸亜鉛、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硝酸コバルト、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸銅(II)、硝酸ニッケル(II)、硝酸鉛(II)、硝酸マンガン(II)、塩化ニッケル(II)、塩化カルシウム、塩化スズ(II)、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸リチウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
前記脂肪族系有機酸塩化合物又は無機金属塩化合物の含有量は、前処理液全体の0.1質量〜30質量%が好ましく、1質量%〜20質量%がより好ましい。前記含有量が、30質量%より多いと、脂肪族系有機酸塩化合物の場合、十分に溶解せずに析出することがあり、0.1質量%より少ないと、画像濃度向上効果が小さくなることがある。
【0035】
―界面活性剤―
本発明で用いる前処理液には、記録媒体表面の濡れ性を改質し、画像形成物の画像濃度、彩度及び白ポチを改良するために界面活性剤を含有させることができる。この場合、記録媒体表面の濡れ及びインクの浸透性を向上させるため、該界面活性剤により前処理液の静的表面張力を30mN/m以下(25℃)に調整することが好ましい。
前記界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤が好適に用いられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、表面張力を30mN/m以下に下げることが可能な点から、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が特に好ましい。
【0036】
前記フッ素系界面活性剤としては、フッ素置換した炭素数が2〜16であるものが好ましく、フッ素置換した炭素数が4〜16であるものがより好ましい。フッ素置換した炭素数が2未満では、フッ素系界面活性剤特有の効果が得られないことがあり、16を超えると保存性などの問題が生じることがある。
前記フッ素系界面活性剤としては、例えば、ノニオン系フッ素系界面活性剤、アニオン系フッ素系界面活性剤、両性フッ素系界面活性剤、オリゴマー型フッ素系界面活性剤などが挙げられる。
前記ノニオン系フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。これらの中でも、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物は起泡性が少ないため好ましく、下記一般式(1)で表されるフッ素系界面活性剤がより好ましい。
CFCF(CFCF−CHCHO(CHCHO)H 一般式(1)
ただし、前記一般式(1)中、水溶性を付与するため、mは0〜10が好ましく、nは0〜40が好ましい。
【0037】
前記アニオン系フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸化合物、パーフルオロアルキルカルボン酸化合物、パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルスルホン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルカルボン酸化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルリン酸エステル化合物としては、例えば、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルリン酸エステルの塩、などが挙げられる。
前記パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー化合物としては、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩などが挙げられる。
これらのフッ素系界面活性剤における塩の対イオンとしては、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、NH(CHCHOH)などが挙げられる。
【0038】
前記フッ素系界面活性剤の具体例としては、下記一般式(2)〜(10)で表される化合物が好適に用いられる。
<アニオン系フッ素系界面活性剤>
【化6】

ただし、前記一般式(2)中、Rfは、下記構造式で表されるフッ素含有疎水基の混合物を表す。Aは、−SOX、−COOX、又は−POX〔ただし、Xは対アニオンであり、具体的には、水素原子、Li、Na、K、NH、NHCHCHOH、NH(CHCHOH)、又はNH(CHCHOH)が挙げられる〕を表す。
【化7】

【0039】
【化8】

ただし、前記一般式(3)中、Rf’は下記構造式で表されるフッ素含有基を表す。Xは、前記一般式(2)のXと同じ意味を表す。nは1又は2、mは2−nを表す。
【化9】

ただし、式中、nは3〜10の整数を表す。
【0040】
【化10】

ただし、前記一般式(4)中、Rf’及びXは、前記一般式(3)のRf’、前記一般式(2)のXと同じ意味を表す。
【0041】
【化11】

ただし、前記一般式(5)中、Rf’及びXは、前記一般式(3)のRf’、前記一般式(2)のXと同じ意味を表す。
【0042】
<ノニオン系フッ素系界面活性剤>
【化12】

ただし、前記一般式(6)中、Rfは、前記一般式(2)のRfと同じ意味を表す。nは5〜20の整数を表す。
【0043】
【化13】

ただし、前記一般式(7)中、Rf’は、前記一般式(3)のRf’と同じ意味を表す。nは1〜40の整数を表す。
【0044】
<両性フッ素系界面活性剤>
【化14】

ただし、前記一般式(8)中、Rfは、前記一般式(2)のRfと同じ意味を表す。
【0045】
<オリゴマー型フッ素系界面活性剤>
【化15】

ただし、前記一般式(9)中、Rf”は、下記構造式で表されるフッ素含有基を表す。nは1〜10の整数を表す。Xは、前記一般式(2)のXと同じ意味を表す。
【化16】

式中、nは1〜4の整数を表す。
【0046】
【化17】

ただし、前記一般式(10)中、Rf”は、前記一般式(9)のRf”と同じ意味を表す。lは1〜10の整数、mは1〜10の整数、nは1〜10の整数をそれぞれ表す。
【0047】
前記フッ素系界面活性剤としては、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えばサーフロンS−111、S−112、S−113、S−121、S−131、S−132、S−141、S−145(いずれも、旭硝子社製);フルラードFC−93、FC−95、FC−98、FC−129、FC−135、FC−170C、FC−430、FC−431(いずれも、住友スリーエム社製);メガファックF−470、F−1405、F−474(いずれも、大日本インキ化学工業社製);ゾニール(Zonyl)TBS、FSP、FSA、FSN−100、FSN、FSO−100、FSO、FS−300、UR(いずれも、DuPont社製);フタージェントFT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW(いずれも、ネオス社製)、ポリフォックスPF−136A、PF−156A、PF−151N、PF−154、PF−159(オムノバ社製)などが挙げられる。これらの中でも、良好な印字品質、特に発色性、紙に対する均染性が著しく向上する点から、DuPont社製のFS−300、ネオス製のFT−110、FT−250、FT−251、FT−400S、FT−150、FT−400SW、及びオムノバ社製のポリフォックスPF−151Nが特に好ましい。
【0048】
前記シリコーン系界面活性剤としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、側鎖変性ポリジメチルシロキサン、両末端変性ポリジメチルシロキサン、片末端変性ポリジメチルシロキサン、側鎖両末端変性ポリジメチルシロキサンなどが挙げられ、変性基としてポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン基を有するポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤が水系界面活性剤として良好な性質を示すので特に好ましい。
このような界面活性剤としては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。該市販品としては、例えば、ビックケミー株式会社、信越化学工業株式会社、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社、日本エマルジョン株式会社、共栄社化学株式会社などから容易に入手できる。
【0049】
前記ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、下記一般式(11)で表されるポリアルキレンオキシド構造をジメチルポリシロキサンのSi部側鎖に導入した化合物、などが挙げられる。
【化18】

ただし、前記一般式(11)中、m、n、a、及びbは1以上の整数を表す。R及びR’はアルキル基、アルキレン基を表す。
【0050】
前記ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることができ、該市販品としては、例えば、KF−618、KF−642、KF−643(信越化学工業社製)、EMALEX−SS−5602、SS−1906EX(日本エマルジョン社製)、FZ−2105、FZ−2118、FZ−2154、FZ−2161、FZ−2162、FZ−2163、FZ−2164(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、BYK−33、BYK−387(ビックケミー社製)などが挙げられる。
【0051】
前記アニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートの塩などが挙げられる。
前記ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミドなどが挙げられる。
【0052】
前記界面活性剤の前処理液中における含有量は、0.001質量%〜5質量%が好ましく、0.05質量%〜1質量%がより好ましい。前記含有量が、0.001質量%未満であると、界面活性剤を添加した効果が小さくなることがあり、5質量%を超えると、添加量を増やしても効果に違いが見られないことがある。
【0053】
−その他の成分−
本発明で用いる前処理液は、浸透性と水への溶解性を両立させるために、浸透剤として炭素数8〜11の非湿潤剤性ポリオール化合物又はグリコールエーテル化合物を少なくとも1種含有することが好ましい。ここで、非湿潤剤性とは、25℃の水中において0.2質量%〜5.0質量%の間の溶解度を有することを意味する。
前記浸透剤の中でも、下記一般式(12)で表される1,3−ジオール化合物が好ましく、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール[溶解度:4.2%(25℃)]、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール[溶解度:2.0%(25℃)]が特に好ましい。
【化19】

ただし、前記一般式(12)中、R’はメチル基又はエチル基であり、R”は水素原子又はメチル基であり、R”’はエチル基又はプロピル基である。
【0054】
その他の非湿潤剤性ポリオール化合物としては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオールなどの脂肪族ジオールが挙げられる。
【0055】
その他の併用できる浸透剤としては、前処理液中に溶解し、所望の物性に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル等の多価アルコールのアルキル及びアリールエーテル類、エタノール等の低級アルコール類、などが挙げられる。
前記浸透剤の前処理液における含有量は、0.1質量%〜5.0質量%が好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、前処理液を浸透させる効果がなくなることがあり、5.0質量%を超えると、溶媒への溶解性が低いために溶媒から分離して浸透性を向上させる効果が飽和してしまうことがある。
【0056】
本発明で用いる前処理液には、必要に応じて更に、後述するインクジェット用インクに用いられる防腐剤、防錆剤などの添加剤を配合してもよい。
前処理液のpHは、5〜9.5が好ましい。pHが5未満の場合には、水溶性脂肪族系有機酸の水溶性有機モノアミン化合物による中和が不充分であり、画像品質を改良する効果が十分に得られない可能性があり、pHが9.5よりも大きい場合には、遊離したアミンにより画像濃度が低下する可能性がある。
【0057】
<インクジェット用インク>
本発明で用いるインクジェット用インクは、少なくともアニオン系分散剤又はノニオン系分散剤で分散された水性顔料分散体、水溶性有機溶剤、アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂(以下、水性ウレタン樹脂αと略称することもある)、界面活性剤、浸透剤及び水を含有し、前記本発明で用いる前処理液により凝集する性質を有する。
【0058】
前記水性顔料分散体、特にノニオン系分散剤で分散された水性顔料分散体単独では、前処理液と混合しても殆ど凝集することはない。しかし、水性ウレタン樹脂αを一緒に用いることにより、前処理液と接触した場合に、水性ウレタン樹脂αが分散破壊を生じ凝集する。理由は明確ではないが、水性ウレタン樹脂αが前処理液に対して凝集し易いためである。他のアニオン性水分散性樹脂及びノニオン性水分散性樹脂では殆ど凝集しないか凝集性が弱く画像品質(画像濃度・彩度)向上効果が少ない。なお、カチオン性水分散性樹脂を用いるとインクを安定に保つことが難しい。
前記水性ウレタン樹脂αは前処理液と接触すると分散破壊を生じ凝集するが、この現象を記録媒体上で生じさせることにより、水性ウレタン樹脂αが凝集すると同時に水性顔料分散体を取込み、記録媒体表面付近に顔料が留まり、画像品質(画像濃度・彩度)が向上する。更に低温造膜樹脂を用いることにより、常温で樹脂が造膜して記録媒体に顔料が定着されスミア定着性(耐擦性)が向上する。
【0059】
―アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂(水性ウレタン樹脂α)―
水性ウレタン樹脂αとしては、特にpH7.5〜10程度のポリエステル系ウレタン樹脂エマルジョン及びポリエーテル系ウレタン樹脂エマルジョンを用いることが好ましい。また、前記ウレタン樹脂エマルジョンの最低造膜温度は常温以下であることが好ましい。 前記ポリエステル系ウレタン樹脂の市販品としては、例えば、ハイドランHW−140SF,ハイドランADS−110、ハイドランADS−120、ハイドランHW−311、ハイドランHW−333、ハイドランHW−350、ハイドランHW−930、ハイドランAP−20、ハイドランAP−40、ハイドランAP−40N、ハイドランAPX−101H、ハイドランAP−60LM(以上、DIC社製)、ポリエーテル系ウレタン樹脂の市販品としては、ハイドランHW−312B、ハイドランWLS−201、ハイドランWLS−210、ハイドランWLS−213(以上、DIC社製)が挙げられる。
前記水性ウレタン樹脂αは、強アルカリ性、強酸性下では分散破壊や加水分解などの分子鎖の断裂が引き起こされるため、pHは6〜11が好ましく、特に水性顔料分散体との混和性の点からpHは7〜11がより好ましく、pH7.5〜10が更に好ましい。
【0060】
水性ウレタン樹脂αの体積平均粒子径(D50)は、分散液の粘度と関係しており、組成が同じものでは粒径が小さくなるほど同一固形分での粘度が大きくなる。インク化したときに過剰な高粘度にならないためにも水分散性樹脂の体積平均粒子径(D50)は20nm以上が好ましい。しかし、粒径が数十μmになるとインクジェットヘッドのノズル口より大きくなるため使用できない。また、体積平均粒子径(D50)がノズル口より小さくても粒子径の大きな粒子がインク中に存在すると吐出性を悪化させる。そこで、インク吐出性を阻害させないために、体積平均粒子径(D50)は200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましい。
【0061】
更に、水性ウレタン樹脂αは、水性顔料分散体を紙面に定着させる働きを有し、常温で被膜化して色材の定着性を向上させることが好ましい。そのため、水性ウレタン樹脂αの最低造膜温度(MFT)は30℃以下であることが好ましい。
前記水性ウレタン樹脂αのインクにおける含有量は、固形分で1質量%〜15質量%が好ましく、2質量%〜10質量%がより好ましい。なお、インクの固形分含有量は、例えば、インク中から水性顔料分散体と水性ウレタン樹脂αのみを分離する方法により測定することができる。また、水性顔料分散体の場合には、熱質量分析により質量減少率を評価することで顔料と水性ウレタン樹脂αとの比率を測定できる。また、水性顔料分散体の着色剤の分子構造が明らかな場合には、NMRにより着色剤の固形分量を定量することが可能であり、重金属原子、分子骨格に含まれる無機顔料、含金有機顔料、含金属染料では、蛍光X線分析により着色剤の固形分量を定量することが可能である。
【0062】
また、定着性向上のために水性ウレタン樹脂α以外の水分散性樹脂を併用してもよく、例えば、縮合系合成樹脂、付加系合成樹脂、天然高分子化合物などが挙げられる。
前記縮合系合成樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリ(メタ)アクリル樹脂、アクリル−シリコーン樹脂、フッ素系樹脂などが挙げられる。
前記付加系合成樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、不飽和カルボン酸系樹脂などが挙げられる。
前記天然高分子化合物としては、例えば、セルロース類、ロジン類、天然ゴムなどが挙げられる。
前記水分散性樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ポリウレタン樹脂微粒子、アクリル−シリコーン樹脂微粒子及びフッ素系樹脂微粒子が特に好ましい。
【0063】
―水性顔料分散体―
本発明で用いるインクでは、水性顔料分散体の着色剤として、耐候性の面から顔料を用いるが、耐候性を劣化させない範囲内で色調調整のため染料を併用しても構わない。
前記顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、黒色用或いはカラー用の無機顔料や有機顔料などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエローに加え、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを用いることができる。
【0064】
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用できる。これらの顔料のうち、特に、水と親和性のよいものが好ましく用いられる。
好ましい顔料の具体例としては、黒色用として、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、銅、鉄(C.I.ピグメントブラック11)等の金属類、酸化チタン等の金属酸化物類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)等の有機顔料が挙げられる。
【0065】
更に、カラー用として、C.I.ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、408、109、110、117、120、128、138、150、151、153、183、C.I.ピグメントオレンジ5、13、16、17、36、43、51、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2〔パーマネントレッド2B(Ca)〕、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、C.I.ピグメントバイオレット1(ローダミンレーキ)、3、5:1、16、19、23、38、C.I.ピグメントブルー1、2、15、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルー)、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36などが挙げられる。
【0066】
水性顔料分散体は、上記顔料をアニオン系分散剤又はノニオン系分散剤で分散させて作製する。
アニオン系分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩(NH,Na,Ca)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩(NH,Na,Ca)、ジアルキルサクシネートスルホン酸Na塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物Na塩、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(NH,Na)、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート塩、オレイン酸塩などが挙げられる。特に有用な具体例としては、ジオクチルスルホコハク酸Na塩とポリオキシエチレンスチレンフェニルエーテルスルホン酸NH塩が挙げられる。
また、ノニオン系分散剤としては、HLB値10〜20の分散剤が好ましく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、アセチレングリコールなどが挙げられる。特に有用な具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−β−ナフチルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンスチレンフェニルエーテルが挙げられる。
【0067】
水系媒体中に上記分散剤を溶解させ、次に上記の有機顔料又は無機顔料を加えて充分に湿潤させた後、ホモジナイザーによる高速撹拌、ビーズミルやボールミルのようなボールを用いた分散機、ロールミルのような剪断力を用いた混練分散機、超音波分散機などを用いて顔料分散体を作製することができる。ただし、このような混練分散工程の後には粗大粒子が含まれていることが多く、インクジェットノズルや供給経路の目詰まりの原因となるため、フィルターや遠心分離器を用いて粒径1μm以上の粒子を除去する必要がある。
分散剤の使用量は、顔料に対して分散剤を1質量%〜100質量%の比率で用いることが好ましく、10質量%〜50質量%がより好ましい。前記分散剤量が少ないと、充分に顔料を微細化することができず、分散剤量が多すぎると、顔料に吸着していない過剰成分がインク物性に影響を与え、画像滲みや、耐水性、耐擦性の劣化を招くことになる。
【0068】
更に、顔料分散体を安定に保つため、平均分子量30,000以下の水溶性高分子化合物を併用することが好ましい。
前記水溶性高分子化合物としては、分子量30,000以下の水溶性スチレン−アクリル樹脂、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリウレタン、水溶性ポリエステル、水溶性スチレン−マレイン酸共重合体、水溶性α−オレフィン−無水マレイン酸共重合体が好ましい。
特に好ましいのは、下記一般式(13)で示される水溶性α−オレフィン−無水マレイン酸共重合体であり、酸価100mgKOH/g〜400mgKOH/g、重量平均分子量5,000〜20,000のものが好ましい。酸価が100mgKOH/g未満であると、アルカリ溶液の溶解性が劣るし、400mgKOH/gを超えると、顔料分散体の粘度が高くなり吐出を悪化させ易くなったり、顔料分散体の分散安定性が低下し易くなったりする恐れがある。また、重量平均分子量が5,000未満であると、顔料分散体の分散安定性が低下するし、20,000を超えると、アルカリ溶液の溶解性が劣り、粘度が高くなってしまう。
【化20】

ただし、前記一般式(13)中、Rは炭素数6〜30、好ましくは6〜22、より好ましくは18〜22のアルキル基を表す。nは20〜100の整数、好ましくは30〜100の整数を表す。
【0069】
本発明においては、Rの炭素数が異なるアルキル基がランダムに高分子鎖中に導入されたα−オレフィン−無水マレイン酸共重合体を、前記一般式(13)で示されるα−オレフィン−無水マレイン酸共重合体として用いることができる。
前記一般式(13)で示されるα−オレフィン−無水マレイン酸共重合体の重量平均分子量は、以下のようにして測定することができる。
<重量平均分子量測定>
GPC(ゲル浸透クロマトグラフ分析)システムを用いて、共重合体の重量平均分子量を求める。
まず、テトラヒドロフランに共重合体を溶解し、GPCカラムとして、KF-806L(THF用)を用いる。また、分子量標準物質として、分子量が判っている分子量が異なるポリスチレン三種類(分子量1,000、2,400、8,500)を測定し、予め検量線を作成しておく。
また、共重合体をGPC測定し、結果として得られたSECクロマトグラム、微分分子量分布曲線と分子量標準物質で得られた検量線を反映させたグラフより、重量平均分子量を算出することができる。
【0070】
前記水溶性高分子化合物の使用量は、顔料に対して1質量%〜100質量%(固形分換算)が好ましく、5質量%〜50質量%がより好ましい。前記使用量が、1質量%未満では、分散安定化剤としての効果がなく、一方、100質量%を超えると、インク粘度が高くなりノズルからの吐出を悪化させ易くなる。また、分散安定化剤としての効果も飽和しているため、多く添加しても経済的に無駄である。
【0071】
顔料微粒子の体積平均粒子径(D50)は、インク中において150nm以下が好ましく、より好ましくは100nm以下である。体積平均粒子径(D50)が150nmを超えると急激に吐出安定性が低下し、ノズル詰まりやインクの曲がりが発生し易くなる。また、体積平均粒子径(D50)が100nm以下であれば、吐出安定性が向上し、更に画像の彩度も向上する。
インク中の顔料含有量は、1質量%〜15質量%が好ましく、2質量%〜12質量がより好ましい。
【0072】
また、前記水性顔料分散体以外に、アニオン性のポリマー微粒子を顔料に被覆させたポリマーエマルジョンや自己分散性顔料を混合併用してもよい。
アニオン性のポリマー微粒子を顔料に被覆させたポリマーエマルジョンとは、アニオン性のポリマー微粒子中に顔料を封入したもの、又はポリマー微粒子の表面に顔料を吸着させたものである。この場合、全ての顔料が封入又は吸着している必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲で顔料がエマルジョン中に分散にしていてもよい。
アニオン性のポリマーエマルジョンを形成するポリマー(ポリマー微粒子におけるポリマー)としてはビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマーなどが挙げられるが、特に好ましいのはビニル系ポリマー及びポリエステル系ポリマーであり、特開2000−53897号公報、特開2001−139849号公報に開示されているアニオン性のポリマーを使用することができる。
【0073】
自己分散性顔料とは、顔料の表面に少なくとも1種の親水基が直接又は他の原子団を介して結合し表面改質されたものである。該表面改質には、顔料の表面に、ある特定の官能基(スルホン酸基やカルボキシル基などの官能基)を化学的に結合させるか、あるいは、次亜ハロゲン酸又はその塩の少なくとも一方を用いて湿式酸化処理するなどの方法が用いられる。これらの中でも、顔料の表面にカルボキシル基が結合され、水中に分散している形態が特に好ましい。このように顔料が表面改質され、カルボキシル基が結合していると、分散安定性が向上するばかりではなく、高品位な印字品質が得られるとともに、印字後の記録媒体の耐水性がより向上する。
【0074】
このような自己分散性顔料としては、イオン性を有する自己分散性顔料(例えば、カーボンブラック)が好ましく、特にアニオン性親水基を有しアニオン性に帯電した自己分散性カーボンブラックが好ましい。
前記アニオン性親水基としては、例えば、−COOM、−SOM、−POHM、−PO、−SONH、−SONHCOR(ただし、Mは、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表す。Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基を表す)などが挙げられる。これらの中でも、−COOM、−SOMがカラー顔料表面に結合されたものが好ましい。前記アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。前記有機アンモニウムとしては、例えば、モノ乃至トリメチルアンモニウム、モノ乃至トリエチルアンモニウム、モノ乃至トリメタノールアンモニウムが挙げられる。
【0075】
前記アニオン性に帯電したカラー顔料を得る方法としては、カラー顔料表面に−COONaを導入する方法として、例えば、カラー顔料を次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法、スルホン化による方法、ジアゾニウム塩を反応させる方法が挙げられる。
前記親水基は、他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合されていてもよい。他の原子団としては、例えば、炭素原子数1〜12のアルキル基、置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基が挙げられる。前記置換基の具体例としては、例えば、−CCOOM(ただし、Mは、アルカリ金属、又は第4級アンモニウムを表す)、−PhSOM(ただし、Phはフェニル基を表す。Mは、アルカリ金属、又は第4級アンモニウムを表す)などが挙げられる。
【0076】
―水溶性有機溶剤―
本発明で用いるインクに含有させる水溶性有機溶剤としては、前処理液の場合と同じ水溶性有機溶剤が好適に用いられる。インクにおける水性顔料分散体と水溶性有機溶剤との質量比は、ヘッドからのインクの吐出安定性に影響を与える。例えば、水性顔料分散体の固形分が多いのに水溶性有機溶剤の配合量が少ないと、ノズルのインクメニスカス付近の水分蒸発が進み吐出不良をもたらすことがある。
水溶性有機溶剤のインク中における含有量は、20質量%〜50質量%が好ましく、20質量%〜45質量%がより好ましい。前記含有量が20質量%未満であると、吐出安定性が低下したりインクジェット記録装置の維持装置で廃インクが固着したりする可能性がある。一方、前記含有量が、50質量%を超えると、紙面上での乾燥性に劣り、更に普通紙上の文字品位が低下することがある。
【0077】
―界面活性剤―
本発明で用いるインクに含有させる界面活性剤としては、前処理液の場合と同じ界面活性剤が好適に用いられる。特に、着色剤の種類や水溶性有機溶剤の組み合わせによって分散安定性が損なわれず、表面張力が低く、浸透性、レベリング性の高いものが好ましい。このような界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤から選択される少なくとも1種が挙げられ、これらの中でも、シリコーン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が特に好ましい。
界面活性剤のインクにおける含有量は、0.01質量%〜3.0質量%が好ましく、0.5質量%〜2質量%がより好ましい。含有量が0.01質量%未満であると、界面活性剤を添加した効果が無くなることがあり、前記含有量が、3.0質量%を超えると、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり、画像濃度の低下や裏抜けが発生することがある。
【0078】
―浸透剤―
本発明で用いるインクに含有させる浸透剤としては、前処理液の場合と同じ浸透剤が好適に用いられる。浸透剤のインクにおける含有量は、0.1質量%〜4.0質量%が好ましい。前記含有量が0.1質量%未満では、速乾性が得られず滲んだ画像となることがあり、4.0質量%を超えると、着色剤の分散安定性が損なわれ、ノズルが目詰まりし易くなったり、記録媒体への浸透性が必要以上に高くなり画像濃度の低下や裏抜けが発生したりすることがある。
【0079】
−その他成分−
本発明で用いるインクに含有させるその他の成分としては特に制限はなく、必要に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調整剤、防腐防黴剤、キレート試薬、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、などが挙げられる。
【0080】
前記pH調整剤としては、調合されるインクに悪影響を及ぼさずにpHを7〜11に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類、アルカリ金属元素の水酸化物、アンモニウムの水酸化物、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、などが挙げられる。pHが7未満又は11を超えると、インクジェットのヘッドやインク供給ユニットを溶かし出す量が大きくなり、インクの変質や漏洩、吐出不良などの不具合が生じることがある。
前記アルコールアミン類としては、例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
前記アルカリ金属元素の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。
前記アンモニウムの水酸化物としては、例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物、第4級ホスホニウム水酸化物などが挙げられる。
前記アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。
【0081】
前記防腐防黴剤としては、例えば、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、などが挙げられる。
前記キレート試薬としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
前記防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
前記酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、などが挙げられる。
前記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
【0082】
―インクの製法―
本発明で用いるインクは、まず、顔料、アニオン系分散剤又はノニオン系分散剤及び水をビーズミルボールミルなどで分散し水性顔料分散体を作製する。次いで、水溶性有機溶剤、アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂、界面活性剤、浸透剤及び水を混合し、更に必要に応じてその他の成分を水性媒体中に分散又は溶解し、更に必要に応じて攪拌混合して作製する。前記攪拌混合は、例えば、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ペイントシェイカー、超音波分散機などにより行うことができ、攪拌混合は通常の攪拌羽を用いた攪拌機、マグネチックスターラーなどで行うことができる。
【0083】
―インクの物性―
本発明で用いるインクの物性には特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、粘度、表面張力などが以下の範囲であることが好ましい。
インクの25℃での粘度は、5mPa・s〜20mPa・sが好ましい。インク粘度を5mPa・s以上とすることによって、印字濃度や文字品位を向上させる効果が得られる。一方、インク粘度を20mPa・s以下に抑えることで、吐出性を確保することができる。ここで、粘度は、例えば、粘度計(RE−550L、東機産業社製)を用いて25℃で測定することができる。
本発明で用いるインクの静的表面張力は、25℃で20mN/m〜35mN/mが好ましく、20mN/m〜30mN/mがより好ましい。前記静的表面張力が20mN/m〜35mN/mであれば、浸透性を高めることによるブリーディングの低減効果が高く、普通紙に印字する際の乾燥性が良好となる。また、前処理層に濡れ易いので、発色性がよく白ポチも改良される。しかし、静的表面張力が35mN/mを超えると、被記録剤上のインクのレベリングが起こり難く、乾燥時間の長時間化を招くことがある。
上記のようにして作製したブラック、シアン、マゼンタ、イエローなどのインクを適宜組み合わせたインクセットを用いて記録を行うと、多色画像を形成することができ、全色併用したインクセットを用いて記録を行うと、フルカラー画像を形成することができる。
【0084】
(画像形成方法)
本発明の画像形成方法は、記録媒体に前処理液を塗布する前処理工程と、前処理液を塗布した面上に、インクを飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程とを有する。
【0085】
<前処理工程>
前処理工程としては、記録媒体に前処理液を均一に塗布する塗布方法を用いればよく、特に制限はない。
前記塗布方法としては、例えば、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、Uコンマコート法、AKKUコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、4本乃至5本ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法などが挙げられる。
前処理工程は、表面が充分乾燥されている記録媒体に対して行っても、乾燥中の記録媒体に対して行っても効果を発揮する。なお、前処理を施した記録媒体に対し、必要に応じて乾燥工程を設けることができる。この場合、ロールヒーター、ドラムヒーターや温風により記録媒体を乾燥することができる。
前処理工程における前処理液の記録媒体へのウエット付着量は、0.1g/m〜30.0g/mが好ましく、0.2g/m〜10.0g/mがより好ましい。前記付着量が、0.1g/m未満であると、画像品質(画像濃度、画像彩度、フェザーリング及びカラーブリード)の向上が殆ど見られないことがあり、30.0g/mを超えると、前処理液の乾燥性悪くなり、更にカールが発生することがある。
【0086】
<インク飛翔工程>
前記インク飛翔工程は、インクに刺激(エネルギー)を印加し、前処理液を塗布した記録媒体に、インクを飛翔させて記録媒体に画像を形成する工程である。
前記インクを飛翔させて画像を形成する方法としては、特に制限はなく、公知のあらゆるインクジェット記録方法を適用でき、例えば、ヘッドを走査する方式のインクジェット記録方法、ライン化されたヘッドを用いることにより、枚葉又は連帳の記録媒体において画像記録を行うインクジェット記録方法などが挙げられる。
前記インク飛翔工程において、インク飛翔手段である記録ヘッドの駆動方式としては、特に制限はなく、PZTなどを用いた圧電素子アクチュエータ、熱エネルギーを作用させる方式、静電気力を利用したアクチュエータなどを利用したオンディマンド型のヘッドを用いることもできるし、連続噴射型の荷電制御タイプのヘッドで記録することもできる。
【0087】
ここで、本発明の画像形成方法を実施するための画像形成装置について、図1を用いて説明する。
この図1は、インクジェット記録用ヘッドを走査して画像形成するタイプの記録装置の一例を示す概略構成図である。
図1の前処理付与及びインクジェット記録装置において、記録媒体6は給紙ローラ7によって送り出され、付与ローラ4とカウンタローラ5によって前処理液1が記録媒体6に均一に薄く付与される。前処理液1は汲み上げローラ3によって汲み上げられ、膜厚制御ローラ2によって付与ローラ4に均一に付与される。前処理液1を付与された記録媒体6は、インクジェット記録ヘッド20のある記録走査部まで送られる。前処理液付与動作の終了部(図1のA部)から記録走査開始部(図1のB部)までの用紙経路の長さは、記録媒体6の送り方向の長さより長く設定されているので、記録媒体6が記録走査開始部に到達した時点では、前処理液1の付与を完全に終了することができる。この場合、前処理液1の付与は、インクジェット記録ヘッド20が印字のための走査を開始し、記録媒体6が間欠的に搬送される前に実施できるため、記録媒体6の搬送速度が一定の状態で連続的に付与でき、ムラのない均一な付与が可能となる。なお、図1の画像形成装置例では前処理の必要な記録媒体6は下段のカセットから、必要がないか又は前処理されては困る記録媒体17は上段のカセットから供給するようになっているため、記録媒体搬送経路を長く設けるのに好都合である。
【0088】
次に、本発明の画像形成方法を実施するための他の装置について図2を用いて説明する。図2も、インクジェット記録ヘッドを走査して画像形成するタイプの記録装置の例を示す概略構成図であり、図1の装置に比べてコンパクトな装置構成とした例である。
記録媒体17は給紙ローラ7によって送り出され、付与ローラ4とカウンタローラ5によって前処理液1が記録媒体17に均一に薄く付与される。前処理液1は汲み上げローラ3によって汲み上げられ、膜厚制御ローラ2によって付与ローラ4に均一に付与されている。記録媒体17は前処理液1を付与されながらインクジェット記録ヘッド20のある記録走査部を通過し、記録媒体17が前処理液1の塗布を完了するまで送られ、記録媒体17が前処理液1の付与を完了した時点で再び記録媒体先頭が記録走査開始位置に至るまで戻される。付与完了は、例えば、前処理液付与装置の出口近傍に、公知の記録媒体検知手段(図示されず)を設けることにより検出することができる。この検知手段は必ずしも必要ではなく、あらかじめ記録媒体17の長さの情報をコントローラにインプットし、モータの回転数を制御することにより、記録媒体17の搬送ローラの外周の送り量を記録媒体17の長さに対応するようなシステム構成としてもよい。
【0089】
前処理液1が付与された記録媒体17は、前処理液1が乾燥固化する前に、再び記録走査位置に搬送されてくるが、この際には、インクジェット記録ヘッド20の走査とタイミングを合わせて、間欠的に搬送される。記録媒体17を戻すとき送られてきた経路と同じ経路を戻すと記録媒体17の後端が前処理液付与装置に逆進入することになり塗りムラや汚れ、記録媒体ジャムなどの不具合が起こるが、記録媒体17を戻すときは記録媒体ガイド31で方向を切り替える。即ち、記録媒体17に前処理液1を付与した後、記録媒体17を逆送する時には、記録媒体ガイド31を図2の点線の位置に、ソレノイドやモータなどの公知の手段で移動せしめる。これにより、記録媒体17は、記録媒体戻しガイド34の位置に搬送されるので、記録媒体17を汚したり、ジャムが生じたりすることを防止できる。
【0090】
前処理工程は、連続的に10mm/s〜1,000mm/sの一定の線速度で行うことが好ましい。そのため、この装置例では、枚葉の記録媒体を用い、ある枚葉の記録媒体についてみると、記録媒体に前処理液を付与する工程をその枚葉について終了した後に、インクジェット記録方法により画像を記録する工程を始める。このような装置においては、前処理液付与の速度と画像記録との速度が殆どの場合に一致しないので、その枚葉の記録開始部と記録終了部とでは、前処理液が付与されてから画像が記録されるまでの時間に差があることになる。この差がかなり大きくなった場合にも、水よりも沸点が高く、蒸発速度の小さな親水性の溶媒を多量に含み、プリンタを使用している環境での空気中の水分と平衡する量に近い水分比率に調整されている前処理液では、液からの水分蒸発が著しく抑制されるため、枚葉の記録媒体の、記録開始部と記録終了部で生じる画像品質の差を、少なくとも目視で観察できる水準以下にすることができる。
【0091】
この装置での記録媒体の搬送工程からも明らかなように、前処理液を付与した後、画像を形成するために、前処理液の付与された記録媒体をローラ、コロ、ガイドなどの記録媒体に接触する手段で記録媒体を搬送することが必要になる場合が多い。このような場合に、記録媒体に付与された前処理液が記録媒体の搬送部材に転写してしまうと、搬送機能に障害を生じたり、汚れが蓄積したりして、画像品質が低下してしまうという問題を生じる。この問題を防止するには、装置側から、例えば、ガイドを波板にしたり、コロを拍車状にしたり、ローラの表面を撥水性の材料にしたりするという手段を講じ、問題の発生を軽減することができる。
しかし、記録媒体に付与された前処理液は、極力速やかに記録媒体に吸収され、見かけ上は乾燥された状態にすることが好ましい。この目的を達成するためには、前処理液の表面張力を30mN/m以下として、速やかに液が記録媒体に浸透するようにすることが有効である。前処理液付与後の「乾燥固化」は、上記のように、記録媒体に前処理液が吸収されて、見かけ上乾燥したようになることを意味するものではなく、水分等の前処理液中の液体が蒸発し、液体状態を保てなくなり固化することを意味している。
上記のような前処理液付与装置と画像記録装置がセットになった記録装置を用いることにより、前処理液が記録媒体に吸収され、見かけ上は乾燥している状態になっていても、前処理液が固化していない状態で、インクジェット記録を行うことができ、前処理液の付与量が極めて少ない量においても、画像品質を著しく向上できる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、例中の「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」である。
【0093】
(調製例1)
−水溶性高分子化合物水溶液Aの調製−
下記処方の材料を撹拌機で加熱撹拌して、前記一般式(13)で表されるα−オレフィン−無水マレイン酸共重合体を溶解し、微量の不溶物を平均孔径5μmのフィルターで濾過して、水溶性高分子化合物水溶液Aを調製した。
<処方>
・前記一般式(13)で表されるα−オレフィン−無水マレイン酸共重合体・・・10.0部
(星光PMC社製、T−YP112、炭素数20〜24のオレフィン鎖(前記一般式(13)のRが炭素数18〜22のアルキル基に相当するα−オレフィン−無水マレイン酸共重合体)、酸価190mgKOH/g、重量平均分子量=10,000)
・1規定のLiOH水溶液・・・17.34部
(前記α−オレフィン−無水マレイン酸共重合体の酸価の1.2倍量)
・イオン交換水・・・72.66部
【0094】
(調製例2)
−イエロー顔料界面活性剤分散液の調製−
・モノアゾイエロー顔料(C.I.ピグメントイエロー74、大日精化工業社製)・・・20.0部
・ポリオキシエチレンスチレンフェニルエーテル(ノニオン系界面活性剤、第一工業製薬社製、ノイゲンEA−177、HLB値=15.7)・・・7.0部
・イオン交換水・・・73.0部
まず、上記界面活性剤をイオン交換水に溶解し、上記顔料を混合して充分に湿潤したところで、湿式分散機(ダイノーミルKDL A型、WAB社製)に直径0.5mmのジルコニアビーズを充填し、2,000rpmで2時間分散を行い、一次顔料分散体を得た。
次に、該一次顔料分散体に水溶性高分子化合物水溶液として、水溶性ポリウレタン樹脂(タケラックW−5661、三井武田ケミカル社製、有効成分35.2%、酸価40mgKOH/g、重量平均分子量18,000)を2.84部添加し、充分に撹拌してイエロー顔料界面活性剤分散液を得た。
この分散液における顔料分散体の体積平均粒子径(D50)を粒度分布測定装置(日機装社製、ナノトラックUPA−EX150)を用いて測定したところ、62nmであった。
【0095】
(調製例3)
−マゼンタ顔料界面活性剤分散液の調製−
・キナクリドン顔料(C.I.ピグメントレッド122、大日精化工業社製)・・・20.0部
・ポリオキシエチレン−β−ナフチルエーテル(ノニオン系界面活性剤、竹本油脂社製、RT−100、HLB値=18.5)・・・7.0部
・イオン交換水・・・73.0部
まず、上記界面活性剤をイオン交換水に溶解し、上記顔料を混合して充分に湿潤したところで、湿式分散機(ダイノーミルKDL A型、WAB社製)に直径0.5mmのジルコニアビーズを充填し、2,000rpmで2時間分散を行い、一次顔料分散体を得た。
次に、該一次顔料分散体に水溶性スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体(JC−05、星光PMC社製、有効成分21%、酸価170mgKOH/g、重量平均分子量16,000)4.76部を添加し、充分に撹拌してマゼンタ顔料界面活性剤分散液を得た。
この分散液における顔料分散体の体積平均粒子径(D50)を調製例2と同様の方法で測定したところ、83nmであった。
【0096】
(調製例4)
−シアン顔料界面活性剤分散液(1)の調製−
・フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3、大日精化工業社製)・・・20.0部
・ポリオキシエチレンスチレンフェニルエーテル(ノニオン系界面活性剤、第一工業製薬社製、ノイゲンEA−177、HLB値=15.7)・・・7.0部
・イオン交換水・・・73.0部
まず、上記界面活性剤をイオン交換水に溶解し、上記顔料を混合して充分に湿潤したところで、湿式分散機(ダイノーミルKDL A型、WAB社製)に直径0.5mmジルコニアビーズを充填し、2,000rpmで2時間分散を行い、一次顔料分散体を得た。
次に、一次顔料分散体に上記調製例1の水溶性高分子化合物水溶液Aを15.0部添加し、充分に撹拌してシアン顔料界面活性剤分散液(1)を得た。
この分散液における顔料分散体の体積平均粒子径(D50)を調製例2と同様の方法で測定したところ78nmであった。
【0097】
(調製例5)
−シアン顔料界面活性剤分散液(2)の調製−
・フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3、大日精化工業社製)・・・20.0部
・ポリオキシエチレンスチレンフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム(アニオン系界面活性剤、第一工業製薬社製、ハイテノールNF−17)・・・7.0部
・イオン交換水・・・73.0部
まず、上記界面活性剤をイオン交換水に溶解し、上記顔料を混合して充分に湿潤したところで、湿式分散機(ダイノーミルKDL A型、WAB社製)に直径0.5mmジルコニアビーズを充填し、2,000rpmで2時間分散を行い、一次顔料分散体を得た。
次に、一次顔料分散体に水溶性ポリエステル樹脂(ニチゴポリエスターW−0030、日本合成化学工業社製、有効成分29.9%、酸価100mgKOH/g、重量平均分子量7,000)を3.35部添加し、充分に撹拌してシアン顔料界面活性剤分散液(2)を得た。
この分散液における顔料分散体の体積平均粒子径(D50)を調製例2と同様の方法で測定したところ88nmであった。
【0098】
(調製例6)
−シアン顔料界面活性剤分散液(3)の調製−
・フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3、大日精化工業社製)・・・20.0部
・ラウリルジメチルベンジルアンモニウム臭素(カチオン系界面活性剤、東邦化学社製、カチナールCB−50)・・・7.0部
・イオン交換水・・・73.0部
まず、上記界面活性剤をイオン交換水に溶解し、上記顔料を混合して充分に湿潤したところで、湿式分散機(ダイノーミルKDL A型、WAB社製)に直径0.5mmジルコニアビーズを充填し、2,000rpmで2時間分散を行い、一次顔料分散体を得た。
次に、該一次顔料分散体に水溶性ポリエステル樹脂(ニチゴポリエスターW−0030、日本合成化学工業社製、有効成分29.9%、酸価100mgKOH/g、重量平均分子量7,000)を3.35部添加し、充分に撹拌してシアン顔料界面活性剤分散液(3)を得た。しかし、暫くすると前記分散液が凝集・増粘し始めたため、顔料分散体の体積平均粒子径(D50)が測定できなかった。また、インク作製もできない状態であった。
【0099】
(製造例1〜16)
−インク1〜16の作製−
まず、下記表1及び表2に示すように、水溶性有機溶剤(湿潤剤)、浸透剤、界面活性剤、防カビ剤、及び水を混合し、1時間攪拌を行い均一に混合した。また、製造例によっては水分散性樹脂を添加して1時間撹拌し、顔料分散液、消泡剤、及びpH調整剤を添加し、1時間攪拌した。この分散液を平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターで加圧濾過し、粗大粒子及びごみを除去して、製造例1〜16の各インクを作製した。
【0100】
【表1】

【表2】

【0101】
表1及び表2中の略号などは下記の意味を表す。
*CAB−O−JET300:CABOT製、顔料固形分15%、ブラック自己分散顔料
*アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂1:DIC社製、ポリエステル系ウレタン
HYDRAN APX−101H、固形分45%、体積平均粒子径148nm、
最低造膜温度(MFT)=20℃
*アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂2:DIC社製、ポリエーテル系ウレタン
HYDRAN WLS−201、固形分35%、体積平均粒子径26.5nm、
最低造膜温度(MFT)=0℃以下
*アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂3:DIC社製、ポリエステル系ウレタン
HYDRAN HW−111、固形分45%、体積平均粒子径65.3nm、
最低造膜温度(MFT)=0℃以下
*アクリル−シリコーン樹脂エマルジョン:昭和高分子社製、ポリゾールROY6312
固形分40%、体積平均粒子径171nm、最低造膜温度(MFT)=20℃
*ゾニールFS−300:ポリオキシエチレンパーフロロアルキルエーテル(Dupont社製、成分40%)
*ソフタノールEP−7025:ポリオキシアルキレンアルキルエーテル(日本触媒社製、成分100%)
*Proxel GXL:1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンを主成分とした防カビ剤(アビシア社製、成分20%、ジプロピレングリコール含有)
*KM−72F:自己乳化型シリコーン消泡剤(信越シリコーン社製、成分100%)
【0102】
製造例1〜16の各インクについて、以下のようにしてインク物性を測定した。結果を表3に示す。
【0103】
<体積平均粒子径(D50)>
粒度分布測定装置(日機装社製、ナノトラックUPA−EX150)を用いてインクの体積平均粒子径(D50)を測定した。
【0104】
<粘度>
粘度計(RE−80L、東機産業社製)を用いて、25℃におけるインク粘度を測定した。
【0105】
<静的表面張力>
全自動表面張力計(CBVP−Z、協和界面科学社製)を用いて、25℃におけるインクの静的表面張力を測定した。
【0106】
【表3】

【0107】
(調製例7〜15)
<前処理液の作製>
各前処理液の作製を以下の手順で行った。
まず、表4に示す材料を1時間攪拌し均一な混合物を得たのち、平均孔径5.0μmのポリビニリデンフロライドメンブランフィルターで加圧濾過し、不溶物などのごみを除去して、調製例7〜15の各前処理液を作製した。
【0108】
【表4】

【0109】
表4中の略号などは下記の意味を表す。
*L−乳酸:東京化成工業社製、純度85%以上、炭素数3
*L(+)−酒石酸:関東化学社製、純度99.5%以上、炭素数4
*DL−リンゴ酸:関東化学社製、純度99%以上、炭素数5
*ゾニールFS−300:DuPont社製、ポリオキシエチレンパーフロロアルキルエーテル、成分40%
*KF−643:信越化学工業社製、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、
成分100%
*フタージェントFT−251:ネオス社製、分岐パーフルオロアルケニル基含有フッ素系界面活性剤、有効成分100%
*Proxel GXL:1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オンを主成分とした防カビ剤(アビシア社製、成分20%、ジプロピレングリコール含有)
【0110】
調製例7〜15の前処理液の物性を表5に示す。なお、有機酸に対する有機アミン比は次式を用いて算出した。また、静的表面張力は、全自動表面張力計(CBVP−Z、協和界面科学社製)を用いて、25℃で測定した。
【数2】

【0111】
【表5】

【0112】
<画像形成>
−前処理工程−
表6に示す記録媒体に、調製例7〜15の前処理液を、表6に示すwet付着量でロールコート法により塗布し、自然乾燥して前処理を行った。
−インク飛翔工程−
温度23℃±2℃、50%±15%RHに調整された環境下、インクジェットプリンタIPSiO GX5000(株式会社リコー製)のインクの吐出量が均しくなるようにピエゾ素子の駆動電圧を変動させ、記録媒体に同じ付着量のインクが付くように設定した。
次に、インクジェットプリンタの印字モードを「光沢紙 きれい」に設定し、表6に記載の記録媒体及びインクセットを用いて画像を形成したのち温風乾燥して画像を一時定着させた。
【0113】
【表6】

【0114】
−印写評価の準備−
温度23℃±0.5℃、湿度50%±5%RHに調整された環境下で、実施例1〜6、及び比較例1〜6の各インクをセットしたインクジェットプリンタ(株式会社リコー製、IPSiO GX−5000)を用い、各インクの吐出量が均しくなるようにピエゾ素子の駆動電圧を変動させ、記録媒体(株式会社リコー製の普通紙、Type6200)に同じ付着量のインクが付くように設定した。そして、以下のようにして、画像濃度、画像彩度、フェザリング、カラーブリード、スミア定着性(耐擦性)、及び乾燥性の評価を行った。
【0115】
<画像濃度>
Microsoft Word2000(Microsoft社製)により作成した64point文字「■(ベタ四角画像)」の記載のあるチャートを記録媒体(株式会社リコー製の普通紙、Type6200)に打ち出し、印字面の「■(ベタ四角画像)」部をX−Rite939で測色し、下記の評価基準により判定した。印字モードは、プリンタ添付のドライバで普通紙のユーザー設定により「普通紙−きれい」モードを「色補正なし」と改変したモードを使用した。4色の評価結果のうち最も悪い評価結果を記載した。
〔評価基準〕
◎:Black : 1.4以上
Yellow : 0.85以上
Magenta: 1.05以上、又は
Cyan : 1.1以上
○:Black : 1.3以上1.4未満
Yellow : 0.8以上0.85未満
Magenta: 1.0以上1.05未満、又は
Cyan : 1.0以上1.1未満
×:Black : 1.3未満
Yellow : 0.8未満
Magenta: 1.0未満、又は
Cyan : 1.0未満
【0116】
<画像彩度>
画像濃度と同様にチャートを記録媒体(株式会社リコー製の普通紙、Type6200)に打ち出し、印字面の「■(ベタ四角画像)」部をX−Rite939で測色し、下記評価基準により判定した。印字モードはプリンタ添付のドライバで「普通紙−標準はやい」モードとした。
標準色(Japan color ver.2)の彩度の値(Yellow:91.34、Magenta:74.55、Cyan:62.82)に対する測定した彩度の値の比率を算出し、下記の評価基準により判定した。
〔評価基準〕
◎:0.85以上
○:0.80以上0.85未満
△:0.75以上0.80未満
×:0.75未満
【0117】
<フェザリング>
Microsoft Word2000(Microsoft社製)により作成した6point文字「轟」の記載のあるチャートを、記録媒体(株式会社リコー製の普通紙、Type6200)に打ち出し、フェザリングの発生を目視により観察し、下記の評価基準により判定した。
〔評価基準〕
◎:全く問題なし
○:僅かに発生したが問題なし
△:少し発生し、問題あり
×:発生問題あり
【0118】
<カラーブリード>
記録媒体(株式会社リコー製の普通紙、Type6200)を用い、イエローのベタ画像内にマゼンタ、シアン、ブラックの0.5mmの線画像をそれぞれ形成し、異なった色の記録液が隣接した場合に滲んで起きる「色境界にじみ」の発生を目視により観察し、下記の評価基準により判定した。同様にシアンのベタ画像内にマゼンタ、イエロー、ブラックの0.5mmの線画像をそれぞれ形成した場合、及び、マゼンタのベタ画像内にシアン、イエロー、ブラックの0.5mmの線画像をそれぞれ形成した場合についても判定を行った。
〔評価基準〕
◎:全く問題なし
○:僅かに発生したが問題なし
△:少し発生し、問題あり
×:発生により問題あり
【0119】
<スミア定着性(耐擦性)>
Microsoft Word2000(Microsoft社製)により作成した3cm×3cmの単色ベタ画像があるチャートを記録媒体(株式会社リコー製の普通紙、Type6200)に打ち出し、温度23±1℃、湿度50±10%RHで5分間乾燥させた。次いで、CM−1型クロックメータに両面テープで取り付けたJIS L 0803 綿3号を、印字面の単色ベタ画像に押し当てるように5往復させた後、綿布へのインク付着汚れをX−Rite939で測定し、綿布の地肌色を差し引いた汚れ部の濃度を下記の評価基準により判定した。
〔評価基準〕
◎:0.03未満
○:0.03以上0.07未満
△:0.07以上0.10未満
×:0.10以上
【0120】
<乾燥性>
Microsoft Word2000(Microsoft社製)により作成した3cm×3cmの単色ベタ画像があるチャートを、記録媒体(株式会社リコー製の普通紙、Type6200)に打ち出し、印字直後に、印写した印字面の単色ベタ画像に濾紙を押し当て、転写の有無にて判定した。
〔評価基準〕
○:転写汚れなし
△:わずかな転写汚れあり
×:転写汚れあり
【0121】
評価結果を纏めて表7に示す。評価は評価基準に基づき各色ごとに行い、各評価項目の評価結果は、最も多い判定結果を記載した。また、判定が同数となった場合(例えば○が二つ、△が二つのような場合)は、よい方の判定結果を記載した。
【表7】

【0122】
本発明の画像記録方法及び画像形成物は、インクジェット記録方式による各種記録に適用することができる。
【符号の説明】
【0123】
1 前処理液
2 膜厚制御ローラ
3 汲み上げローラ
4 付与ローラ
5 カウンタローラ
6 記録媒体
7 給紙ローラ
8 給紙トレイ
10 記録媒体押えローラ
11 記録媒体送りローラ
12 記録媒体送りローラ
13 記録媒体送りローラ
14 記録媒体送りローラ
15 記録媒体送りローラ
16 記録媒体送りローラ
17 記録媒体
20 記録ヘッド
21 インクカートリッジ
22 キャリッジ軸
23 キャリッジ
31 記録媒体ガイド
32 記録媒体送りローラ
33 記録媒体送りローラ
34 記録媒体戻しガイド
35 搬送経路切替ガイド
【先行技術文献】
【特許文献】
【0124】
【特許文献1】特開2001−199151号公報
【特許文献2】国際公開第2000/06390号パンフレット
【特許文献3】特開2006−35689号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性脂肪族系有機酸、水溶性有機モノアミン化合物、水溶性有機溶剤及び水を含有する前処理液を記録媒体に塗布する前処理工程と、
アニオン系分散剤又はノニオン系分散剤で分散された水性顔料分散体、水溶性有機溶剤、アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂、界面活性剤、浸透剤及び水を含有するインクジェット用インクに刺激を印加し飛翔させて画像を形成するインク飛翔工程と、を含む画像形成方法において、
前記前処理液が、前記水溶性脂肪族系有機酸に含まれる酸基に対し、1モル当量以上の前記水溶性有機モノアミン化合物を含有することを特徴とする画像形成方法。
【請求項2】
アニオン性アイオノマー型水性ウレタン樹脂が、ポリエステル型ウレタン樹脂及びポリエーテル型ウレタン樹脂のいずれかである請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
水溶性脂肪族系有機酸が、下記一般式(I)で表される化合物から選ばれる請求項1から2のいずれかに記載の画像形成方法。
【化1】

ただし、前記一般式(I)中、Rは水素原子又はカルボキシル基により置換されたメチル基を示し、Rはメチル基、カルボキシル基により置換されたメチル基、又は水酸基及びカルボキシル基により置換されたメチル基を示す。
【請求項4】
水溶性有機モノアミン化合物が、下記一般式(IV)及び(V)のいずれかで表される化合物から選ばれる請求項1から3のいずれかに記載の画像形成方法。
【化2】

ただし、前記一般式(IV)中、R、R、及びRは、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜8のアルキル基、ヒドロキシエチル基、及びヒドロキシプロピル基のいずれかを示し、全てが水素原子である場合を除く。
【化3】

ただし、前記一般式(V)中、Rは、ヒドロキシメチル基を示し、Rは、メチル基、エチル基、及びヒドロキシメチル基のいずれかを示し、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、及びヒドロキシメチル基のいずれかを示す。
【請求項5】
前処理液に脂肪族系有機酸塩化合物及び無機金属塩化合物のいずれかを含有する請求項1から4のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項6】
前処理液の静的表面張力が、25℃で30mN/m以下である請求項1から5のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項7】
インクジェット用インクの静的表面張力が、25℃で20mN/m〜35mN/mである請求項1から6のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の画像形成方法により作製されたことを特徴とする画像形成物。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−91505(P2012−91505A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212259(P2011−212259)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】