説明

画像形成装置、定着装置、定着部材、および定着部材の製造方法

【課題】 優れた耐磨耗性を有する定着部材を備えた定着装置、画像形成装置、定着部材、および定着部材の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 記録媒体5上に形成された未定着トナー像6に加熱ロール11の表面を当接させて押圧し、該未定着トナー像6を加熱して記録媒体5に定着させる定着装置であり、加熱ロール11が、加熱ロール芯金11bと、該加熱ロール芯金11b上に設けられた、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる表面層11aとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式のプリンタや複写機などの画像形成装置、その画像形成装置に用いられる定着装置、定着部材、および定着部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、電子写真方式のプリンタや複写機などの画像形成装置においては、記録媒体上に形成された未定着トナー像を定着して永久画像にする必要があり、その定着法として溶剤定着法、圧力定着法、および加熱定着法などが知られている。これらのうち、溶剤定着法は、溶剤蒸気が発散するため臭気や衛生上の問題が多いという欠点があり、また、圧力定着法には、他の定着法と比べて定着性が悪いという欠点があり、いずれも広く実用化されるにはいたっていない。これらの方法に比べて、未定着トナー像を加熱することによりトナーを溶融させて記録媒体上に定着させる加熱定着法には比較的欠点が少ないため広く採用されている。
【0003】
従来、この加熱定着法を採用した定着装置として、内部にヒータランプを備えた円筒状の芯金、およびその芯金の外周面に形成された耐熱性離型層からなる加熱ロールと、この加熱ロールに対して圧接配置され、円筒状の芯金、およびその芯金の外周面に形成された耐熱弾性体層からなる加圧ロールとから構成され、これら両ロール間に1kg/cm2〜15kg/cm2、好ましくは3kg/cm2〜10kg/cm2の圧力を印加して形成したロール同士の接触領域に、表面に未定着トナー像を担持した記録媒体を挿通させて定着を行う加熱ロール型の定着装置が知られている。
【0004】
この加熱ロール型の定着方式は、他の加熱定着法である熱風定着方式やオーブン定着方式などと比べて熱効率が高いため消費電力が低く、高速性にも優れており、しかも、紙詰まりによる火災の危険性も少ないこと等から現在広く採用されているが、近年、定着速度の高速化に対する要求が次第に高まりつつある。高速化を達成するには、定着速度に応じて前記接触領域の幅を大きくする必要がある。接触幅を大きくする方法としては、両ロール間の荷重を大きくする方法、加熱ロールの弾性層の層厚を厚くする方法、加熱ロールおよび加圧ロールのロール径を大きくする方法等がある。
【0005】
しかしながら、これらの方法で対応できる定着速度には限界があり、さらなる高速化を図るために、加熱ロール・ベルト型または加熱ベルト・ロール型の定着装置が開発されている。
【0006】
これらの加熱ロール・ベルト型または加熱ベルト・ロール型の定着装置に用いられるロールやベルトなどの定着部材は、主に次の2つに大別される。
(1)基材上に、プライマを介してシリコーンゴムやフッ素ゴム等を薄く被覆したシリコーンゴム被覆部材、またはフッ素ゴム被覆部材
(2)基材上にプライマを介してテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体(以下「PFA」という)やポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」という)等のフッ素樹脂をコーティングしたフッ素樹脂被覆部材
これらの定着部材のうち、シリコーンゴム被覆部材は、その材料内部に、離型性に対して大きな影響を持つフリーオイルと呼ばれるシリコーンオイルが含まれており、このフリーオイルが多いもの程、高離型性を示すことが知られている。しかし、このフリーオイルの存在により、ゴム強度が低下したり、フリーオイルが放出されることによりベルト外形が変形したりするという問題がある。
【0007】
一方、フッ素ゴム被覆部材は、強度および耐摩耗性が高く、また弾性を有しているので高画質用の定着部材として優れている。しかしながら、フッ素ゴムは、それ自体が離型剤オイルとして通常使用されるポリジメチルシロキサンオイル(シリコーンオイル)を撥く性質を有するので、トナー像との間にオイルの離型層が形成されにくいという問題がある。そのため、フッ素ゴムとポリジメチルシロキサンオイル(シリコーンオイル)との組合わせでは、カラートナーのような低融点の高発色トナーに対する離型性が悪いため使用することができない。
【0008】
この問題を改善する方法として、ポリジメチルシロキサンオイルの一部をメルカプト基:−SH2またはアミノ基:−NH2で置換した変性シリコーンオイルを使用することが提案されている。この方法によれば、上記のメルカプト基またはアミノ基の官能基が、フッ素ゴムの中に含まれる金属酸化物(MgO,PbO等)や二重結合と反応し、シリコーンオイルの分子レベルの膜が形成され、これが離型層となって定着部材の表面は高離型性の表面に改質される。
【0009】
しかしながら、この高離型表面改質性を有するシリコーンオイルは、同時に記録媒体や、両面コピー時の給紙ロール表面をも高離型化してしまうため、得られる記録媒体に文房具テープ類を付着させることができなくなったり、給紙ロールによる給紙が円滑に行われなかったりするという問題がある。そのため、使用する変性シリコーンオイルの量を減らしたり、または、変性シリコーンオイルを殆ど使用しないようにすることが検討されているが、このようにした場合には、定着部材表面にフッ素ゴムが持つゴム特有の粘着性が現れ、定着時に記録媒体表面とフッ素ゴム被覆表面とが粘着して、定着後に記録媒体がフッ素ゴム表面から剥離できなくなるという現象が発生することがある。この現象は、記録媒体として、表面がコート剤で処理された表面平滑性の高いコート紙を使用した場合に特に顕著に現れる。
【0010】
この現象の発生を防止するために、使用する変性シリコーンオイルの量を減らしたり、変性シリコーンオイルを殆ど使用しないようにした定着条件下でも、記録媒体に対する高い離型性を備え、かつ低い粘着性を備えた表面を有する定着部材の開発が切望されている。このような定着部材は定着時の変性シリコーンオイルによる影響が少ない場合でも、トナーと定着部材との間の付着力が小さく、かつ記録媒体と定着部材表面との間の粘着力が小さいことが要求される。
【0011】
このような要求を満たすために、定着部材上にフッ素樹脂の表面層を設けるケースが増えてきている。このようなフッ素樹脂からなる表面層を備えた定着部材を得るには2つの方式がある。第1の方式は、フッ素樹脂を粉砕してフッ素樹脂粉末塗料を作成し、その塗料を溶液中に分散させて基材上へ塗布し乾燥し焼成することにより所望の定着部材を得る塗布方式であり、第2の方式は、フッ素樹脂を加熱溶融し押出し加工することによりフッ素樹脂チューブ材料を製造し、このフッ素樹脂チューブ材料を定着部材の基材に被せて所望の定着部材を得るチュービング方式である。
【0012】
ところで、定着速度の高速化に対する要求に応えるために定着速度の高速化を追求していくと、定着部材に対するストレスが次第に大きくなり、特に、定着部材の表面層材料として用いられるフッ素樹脂材料の磨耗に対するストレスが大きくなるという問題がある。
【0013】
このような高ストレス条件下において、定着部材の表面層材料としてフッ素樹脂コート材料を使用した場合には、表面層材料の磨耗故障による問題が多発することが知られている。
【0014】
そこで、この問題を解決するものとして、フッ素樹脂を主成分とするチューブを耐熱性樹脂層上に被着して耐熱性樹脂層と離型性樹脂層とからなる定着部用フィルムを形成し、その形成にあたり、フッ素樹脂の球晶の大きさを40μm以下(実施例では5μm)とすることにより、耐摩耗性、表面平滑性、離型性の向上を計る技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0015】
また、耐熱性エンドレスベルトの表面にフッ素樹脂を塗布し、そのフッ素樹脂を融点を越える温度まで加熱した後、10℃/分以上の冷却速度で融点まで冷却する定着ベルトの製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−10430号公報
【特許文献2】特開2003−114585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、最近の定着装置の高速化に対する要求はますます高まる一方であり、上記いずれの従来技術でも十分な耐磨耗性を有する定着部材を得ることはできない。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑み、優れた耐磨耗性を有する定着部材を備えた定着装置、画像形成装置、定着部材、および定着部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成する本発明の定着装置は、
基材と、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる、上記基材上に設けられた表面層とを備えた定着部材を有し、
記録媒体上に形成された未定着トナー像に上記定着部材の表面を当接させて押圧し、該未定着トナー像を加熱して該記録媒体に定着させることを特徴とする。
【0019】
ここで、アスペクト比とは、球晶の長径を球晶の短径で除した値をいう。その詳細な測定方法については後述する。
【0020】
本発明の定着装置によれば、定着部材の表面層を、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂とすることにより耐磨耗性に優れた表面層を有する定着部材を得ることができる。これについては後述の実施例に基づいて詳しく説明する。
【0021】
なお、球晶のアスペクト比は、2.5以上5.0以下であることがさらに好ましい。
【0022】
ここで、本発明の定着装置は、上記定着部材の内部に熱源を備えたことが好ましい。
【0023】
本発明の定着装置を上記のように構成した場合は、定着装置の加熱効率を向上させることができる。
【0024】
また、本発明の定着装置は、上記定着部材に当接して接触領域を形成する、該接触領域を上記記録媒体が通過する、該記録媒体上の未定着トナー像を加熱する加熱部材を備えたことが好ましい。
【0025】
本発明の定着装置を上記のように構成した場合は、定着性のよい定着装置を得ることができる。
【0026】
また、本発明の定着装置において、上記表面層は、長径が10μm以上の球晶を含有したものであることが好ましい。
【0027】
長径が10μm以上の大きな球晶であると球晶と球晶の間の非晶質部が少ないので耐磨耗性に優れた定着装置を得ることができる。
【0028】
また、上記目的を達成する本発明の画像形成装置は、
未定着トナー像を記録媒体上に形成するトナー像形成部と、上記トナー像形成部によって上記記録媒体上に形成された未定着トナー像に定着部材の表面を当接させて押圧し、該未定着トナー像を加熱して該記録媒体に定着させる定着装置とを備え、
上記定着部材が、基材と、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる、上記基材上に設けられた表面層とを備えたものであることを特徴とする。
【0029】
本発明の画像形成装置によれば、定着部材の表面層が、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂であるため耐磨耗性に優れており、その結果として良好な定着性が長期にわたって保たれる。
【0030】
また、上記目的を達成する本発明の定着部材は、
基材と、
アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる、上記基材上に設けられた表面層とを備えたことを特徴とする。
【0031】
本発明の定着部材によれば、表面層がアスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂であるので、耐磨耗性に優れている。
【0032】
また、上記目的を達成する本発明の定着部材の製造方法は、
基材上にフッ素樹脂からなる表面層を形成する表面層形成工程と、
上記表面層を上記フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱する加熱工程と、
上記加熱工程を経た表面層を2.5℃/分間以下の冷却速度で上記融点より低い温度に冷却する冷却工程とを経ることを特徴とする。
【0033】
本発明の定着部材の製造方法によれば、定着部材の冷却工程において、表面層を上記のように冷却することによりフッ素樹脂の球晶を好適な形やサイズとすることができるので、耐磨耗性に優れた定着部材を得ることができる。
【0034】
ここで、上記表面層形成工程が、フッ素樹脂を含有する塗料を上記基材上に塗布し、その塗布した塗料を乾燥する工程であってもよく、また、上記表面層形成工程が、フッ素樹脂からなるチューブを上記基材上に被覆する工程であってもよい。
【0035】
上記の塗料を基材上に塗布し乾燥する工程は、基材の形状が複雑な場合にも適用可能であるが、耐摩耗性に優れた表面層を得る上ではやや不利である。一方、上記のフッ素樹脂からなるチューブを基材上に被覆する工程は、基材の形状が複雑な場合には適用が難しいが、耐摩耗性の優れた表面層を得る上では有利である。
【発明の効果】
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、優れた耐磨耗性を有する定着部材を備えた定着装置、画像形成装置、定着部材、および定着部材の製造方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0038】
図1は、本発明の定着装置の第1の実施形態を示す概略構成図である。
【0039】
図1に示すように、この定着装置10は、いわゆる加熱ロール型定着装置であり、加熱ロール11の表面に、未定着トナー像6を担持した記録媒体5を当接させて押圧し、加熱ロール11の熱で未定着トナー像6を記録媒体5に定着させるものである。
【0040】
加熱ロール11は、加熱ロール芯金11bと、該加熱ロール芯金11b上に設けられた、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる表面層11aとを備えており、さらに、加熱ロール芯金11bの内側の中空部には熱源であるヒータランプ11dを有する加熱装置11cを備えている。
【0041】
また、加熱ロール11の周辺には、離型剤オイルを塗布するための離型剤塗布装置15、加熱ロール11を表面から加熱するための外部加熱装置16、定着後の記録媒体5を加熱ロール11から剥離するための剥離爪17などが設けられている。
【0042】
さらに、この定着装置10には、加熱ロール11に対向して加圧ロール12が配備されており、この加圧ロール12と加熱ロール11とによって形成される接触領域Nに記録媒体5が挿通され、加圧ロール12および加熱ロール11の熱により未定着トナー像6が
記録媒体5に定着される。
【0043】
加圧ロール12は、加熱ロール11とほぼ同様の構成を有しており、すなわち、加圧ロール芯金12bと、該加圧ロール芯金12b上に設けられた、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる表面層12aと、加圧ロール芯金12bの内側に設けられた、内部に熱源であるヒータランプ12dを有する加熱装置12cとから構成されている。
【0044】
なお、本実施形態における加熱ロール11および加圧ロール12のそれぞれは、本発明にいう定着部材の各一例に相当するものであり、本実施形態における加熱ロール芯金11bおよび加圧ロール芯金12bのそれぞれは、本発明にいう基材の各一例に相当するものであり、本実施形態における各表面層11a,12aは、本発明にいう表面層の各一例に相当するものである。
【0045】
ここで、表面層11a,12aを構成するフッ素樹脂の球晶について説明する。
【0046】
上述したように、この球晶は2.0以上のアスペクト比を有している。アスペクト比とは、球晶の形状を走査型電子顕微鏡等で100個観察し、1つの球晶についての長径と短径を測定し、その平均値から下記式(1)により求めた値である。
【0047】
アスペクト比=球晶の長径/球晶の短径 ……… (1)
図2は、本実施形態におけるフッ素樹脂の模式図(a)および通常のフッ素樹脂の模式図(b)である。
【0048】
図2には、フッ素樹脂の表面構造の顕微鏡写真の模式図が示されている。図2(b)に示すように、通常のフッ素樹脂では、表面に数μmのサイズのほぼ等方的な形の球晶1と、球晶1どうしの間隙を埋める非晶質部2とが観察されるが、図2(a)に示すように、本実施形態のフッ素樹脂では、図2(b)に示した通常のフッ素樹脂の球晶1と比較してアスペクト比が大きくアスペクト比が2.0以上の球晶3が観察される。
【0049】
また、図2(a)に示すように、全体の面積に占める非晶質部4の面積の割合が通常のフッ素樹脂の場合(図2(b))に比較して少ないことが観察される。このように、アスペクト比が2.0以上の球晶を含むフッ素樹脂の場合には、球晶に比較して耐摩耗性の低い非晶質部が少ないため高い耐摩耗性を有するものと考えられる。
【0050】
図3は、本発明の定着装置の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【0051】
図3に示すように、この定着装置20は、いわゆる加熱ロール・ベルト型定着装置であり、加熱ロール21と加圧ベルト22とが対向して設けられている。
【0052】
加熱ロール21は、加熱ロール芯金21bと、該加熱ロール芯金21b上に設けられた、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる表面層21aとを備えている。このフッ素樹脂の表面も、図2(b)に示した構造と同様の表面構造を有する。
【0053】
なお、この実施形態における加熱ロール21は、本発明にいう定着部材の一例に相当するものであり、また、この実施形態における加熱ロール芯金21bは、本発明にいう基材の一例に相当するものであり、また、この実施形態における表面層21aは、本発明にいう表面層の一例に相当するものである。
【0054】
加圧ベルト22は、加圧ロール24と、2本の支持ロール25,26により張架されて矢印B方向に循環移動する。支持ロール26の内部にはヒータランプ26aが備えられている。加圧ベルト22は、その内側に配置された加圧パッド23により加熱ロール21に押圧されて接触領域Nを形成し、その接触領域Nに、未定着トナー像6を担持した記録媒体5が挿通され定着が行われる。
【0055】
加圧パッド23は、加圧ベルト22との当接部の形状がパッド状であり、さらに、その当接部ないしその近傍がゴム状の弾性部を含む構造となっている。なお、ここで、「パッド状」とは、加圧パッド23の、加圧ベルト22に当接する部分の形状が、加圧ベルト22の内周面との間にほぼ隙間無く密着するような形状をいう。また、ゴム状の弾性部とは、シリコーンゴムやフッソゴム等に代表される耐熱性ゴムをいう。
【0056】
さらに、この定着装置20では、図1に示す定着装置10と同様に、加熱ロール21の周辺に、離型剤オイルを塗布するための離型剤塗布装置27、加熱ロール21を表面から加熱するための外部加熱装置28、定着後の記録媒体5を加熱ロール21から剥離するための剥離爪29などが設けられている。
【0057】
本実施形態の定着装置20に使用される加圧ベルト22の基材としては、加圧ベルト22を張架する支持ロール25,26や圧力ロール24を巻回するのに適した強度を有するものであればよく、例えば、高分子フィルム、金属フィルム、セラミックスフィルム、ガラス繊維フィルム、あるいはこれらいずれか2種以上を複合して得られた複合化フィルムを使用することができる。
【0058】
上記の高分子フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル類、ポリカーボネイト類、ポリイミド類、ポリフッ化ビニルやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー類、ナイロン等のポリアミド類、ポリスチレンやポリアクリル類、ポリエチレンやポリプロピレン類、ポリ酢酸セルロース類等のセルロース変性物類、ポリサルホン類、ポリキシリレン類、ポリアセタール類等のシート状あるいはクロス状成形物等を挙げることができ、さらには汎用高分子シートにフッ素系、シリコーン系、架橋性ポリマー等の耐熱樹脂層を積層して得られた高分子複合化物を挙げることができる。これらの中でも、特にエンドレスベルト状の耐熱性樹脂が好適である。
【0059】
また、このような高分子フィルムは、金属、セラミックス等で形成される耐熱層と複合化してもよく、また、内部に粒状、針状、繊維状等のカーボンブラック、グラファイト、アルミナ、シリコーン、カーバイト、ボロンナイトライド等の熱伝導性向上剤を添加したり、必要に応じて内部もしくは表面に導電化剤、帯電防止剤、剥離剤、補強剤等の添加剤を添加、もしくは適用してもよい。さらに、上記の高分子フィルムの他に、例えばコンデンサ紙、グラシン紙等の紙類や、セラミックス系フィルムや、ガラス繊維でクロス状に成形したガラス繊維フィルムや、ステンレスフィルムや、ニッケルフィルム等の金属フィルムを使用することができる。
【0060】
図4は、本発明の定着装置の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【0061】
図4に示すように、この定着装置30は加熱ロール・ベルト型の定着装置の一種であり、図3に示した定着装置20をさらに小型化し、省エネ化および高速化を計ったものである。この定着装置30は、加圧ベルト32を張架するための支持ロールや加圧ローラを持たず、加圧ベルト32はベルト走行ガイド34に沿ってガイドされ、矢印B方向に回転する加熱ロール31からの駆動力を受けて従動するようになっている。
【0062】
この定着装置30には、定着ユニットとして、加熱ロール31および加圧ベルト32が対向して設けられている。
【0063】
加熱ロール31は、内部にヒータランプ31dを有する加熱装置31cと、金属製の中空の加熱ロール芯金31bと、加熱ロール芯金31b上に設けられた、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる表面層31aとを備えている。このフッ素樹脂の表面も、図2(b)に示した構造と同様の表面構造を有する。
【0064】
なお、この実施形態における加熱ロール31は、本発明にいう定着部材の一例に相当するものであり、また、この実施形態における加熱ロール芯金31bは、本発明にいう基材の一例に相当するものであり、また、この実施形態における表面層31aは、本発明にいう表面層の一例に相当するものである。このフッ素樹脂の表面も、図2(b)に示した構造と同様の表面構造を有する。
【0065】
さらに、加熱ロール31の周辺には、定着後の用紙を剥離するための剥離ブレード38が設けられている。
【0066】
加圧ベルト32は、その内側に配置された加圧パッド33により加熱ロール31に押圧されて接触領域Nを形成しながら、ベルト走行ガイド34に沿ってガイドされ、加熱ロール31からの駆動力により矢印C方向に循環移動する。
【0067】
加圧パッド33は、記録媒体の進行方向に沿って、異なる硬度を有する2つの加圧部33a,33bと、加圧部33a,33bそれぞれの表面を覆い加圧ベルト32を介して加熱ロール31に押圧される、テフロン(登録商標)を含むガラス繊維シートやフッ素樹脂シートなどの低摩擦層33dと、加圧部33a,33bを支持するホルダ33cとを有する。
【0068】
2つの加圧部33a、33bのうち、記録媒体突入側の加圧部33aはゴム状弾性部材で構成され、記録媒体排出側の加圧部33bは金属等の硬い圧力付与部材で構成されている。この2つの加圧部33a、33bにより形成される接触領域Nは、記録媒体突入側の圧力よりも記録媒体排出側の方の圧力が高くなるように構成されている。このように構成したことにより、記録媒体、特に薄い記録媒体に対して優れた剥離性を発揮することができる。
【0069】
この定着装置30では、未定着トナー像6を表面に担持する記録媒体5が、矢印A方向に搬送され、矢印B方向に回転駆動される加熱ロール31と矢印C方向に循環移動する加圧ベルト32とが圧接し形成された接触領域Nに挿通される。こうして記録媒体5が接触領域Nを通過した際に、熱及び圧力が記録媒体5に加えられることにより、未定着トナー像6が記録媒体5に定着される。定着後の記録媒体5は接触領域Nを通過後、剥離ブレード38により加熱ロール31から剥離され、定着装置30から排出される。
【0070】
図5は、本発明の定着装置の第4の実施形態を示す概略構成図である。
【0071】
図5に示すように、この定着装置40は、いわゆる加熱ベルト・ロール型の定着装置であり、矢印B方向に循環移動する加熱ベルト41と、加熱ベルト41に圧接しながら矢印C方向に回転する加圧ロール42とからなる定着ユニットを有し、加熱ベルト41と加圧ロール42とにより形成される接触領域Nに、未定着トナー像6を保持する記録媒体5を通過させて熱および圧力によってトナー像を定着する。
【0072】
加熱ベルト41の内側には、加熱ベルト41を加熱するヒータランプ44および加熱ベルト41を加圧ロール42に圧接させる加圧部材43が備えられている。この加圧部材43は、圧力ロール43aと、圧力印加部材43bと、金属パッド43cとから構成されている。
【0073】
加圧ロール42は、中空の加圧ロール芯金42bと、加圧ロール芯金42b上に設けられた、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる表面層42aとを備えている。このフッ素樹脂の表面も、図2(b)に示した構造と同様の表面構造を有する。
【0074】
なお、この実施形態における加圧ロール42は、本発明にいう定着部材の一例に相当するものであり、また、この実施形態における加圧ロール芯金42bは、本発明にいう基材の一例に相当するものであり、また、この実施形態における表面層42aは、本発明にいう表面層の一例に相当するものである。
【0075】
図6は、本発明の定着装置の第5の実施形態を示す概略構成図である。
【0076】
図6に示すように、この定着装置50は、いわゆる加熱ベルト・ベルト型の定着装置であり、矢印B方向に循環移動する加熱ベルト51と、加熱ベルト51に圧接しながら矢印C方向に循環移動する加圧ベルト59とからなる定着ユニットを有し、加熱ベルト51と加圧ベルト59とにより形成される接触領域Nに未定着トナー像6を保持する記録媒体5を通過させて熱および圧力の作用によってトナー像を定着する。
【0077】
加熱ベルト51は、加熱ベルト基材51bと、加熱ベルト基材51b上に設けられた、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる表面層51aとから構成されている。この加熱ベルト51の内側には、加熱ベルト51を加熱するヒータランプ52および加熱ベルト51を加圧ベルト59に圧接させる加圧部材53が備えられている。この加圧部材53は、矢印D方向に回転する圧力ロール53aと、圧力印加部材53bと、金属パッド53cとから構成されている。
【0078】
加圧ベルト59は、加熱ベルト51と同様、加圧ベルト基材59bと、加圧ベルト基材59b上に設けられた、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる表面層59aとから構成されている。このフッ素樹脂の表面も、図2(b)に示した構造と同様の表面構造を有する。
【0079】
加圧ベルト59の内側の加圧部材53と対向する位置にはシリコーンゴム等からなる加圧ロール58が配備されている。こうして、加熱ベルト51と加圧ベルト59との間に接触領域Nが形成される。
【0080】
この定着装置50では、加熱ベルト51が、圧力ロール53aの矢印D方向への回転に従動して矢印B方向に循環移動し、それにつれて加圧ベルト59も矢印C方向に循環移動する。矢印A方向に搬送されてきた記録媒体5は接触領域Nに挿通され、記録媒体5上に担持された未定着トナー像6は加熱溶融および加圧されて記録媒体5に定着される。
【0081】
なお、この実施形態における加熱ベルト51および加圧ベルト59のそれぞれは、本発明にいう定着部材の各一例に相当するものであり、また、この実施形態における加熱ベルト基材51bおよび加圧ベルト基材59bのそれぞれは、本発明にいう基材の各一例に相当するものであり、また、この実施形態における各表面層51a,59aは、本発明にいう表面層の各一例に相当するものである。
【0082】
次に、本発明の画像形成装置の実施形態について説明する。
【0083】
図7は、本発明の画像形成装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【0084】
図7に示す画像形成装置100は、電子写真感光体107と、電子写真感光体107を接触帯電方式により帯電させる帯電装置108と、帯電装置108に接続され帯電装置108に電力を供給する電源109と、帯電装置108により帯電される電子写真感光体107表面を露光して電子写真感光体107の表面に静電潜像を形成する露光装置110と、露光装置110により形成された静電潜像をトナーにより現像してトナー像を形成する現像装置111と、現像装置111により形成されたトナー像を被転写媒体に転写する転写装置112と、クリーニング装置113と、除電器114と、定着装置115とを備えている。但し、このこの定着装置115は、図1〜図6を参照して説明した各定着装置10,20,30,40,50を総括的に表したものである。
【0085】
さらに、図7には示されていないが、トナーを現像装置111に供給するトナー供給装置も備えている。
【0086】
ここで、本実施形態における電子写真感光体107、帯電装置108、電源109、露光装置110、現像装置111、転写装置112、クリーニング装置113、および除電器114は、本発明にいうトナー像形成部の一例を構成している。
【0087】
帯電装置108は、電子写真感光体107の表面に帯電ロールを接触させて感光体に電圧を均一に印加し、感光体表面を所定の電位に帯電させるものである。帯電ロールを用いて電子写真感光体107を帯電させる際には、帯電ロールに帯電用のバイアス電圧が印加されるが、この印加電圧は直流電圧でもよく、また直流電圧に交流電圧を重畳したものでもよい。なお、本発明の画像形成装置では、上記の帯電ロール方式の他に、帯電ブラシ、帯電フィルム若しくは帯電チューブなどを用いた接触帯電方式による帯電を行ってもよく、また、コロトロン若しくはスコロトロンを用いた非接触方式による帯電を行ってもよい。
【0088】
露光装置110としては、本実施形態では、電子写真感光体107の表面を半導体レーザで露光する装置が用いられているが、このほかに、LED(light emitting diode)、液晶シャッタ等の光源で所望の像様に露光できる光学系装置等を用いることができる。
【0089】
現像装置111としては、磁性若しくは非磁性の一成分系現像剤又は二成分系現像剤等を接触又は非接触させて現像する一般的な現像装置が用いられている。しかし現像装置としては、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0090】
転写装置112としては、ローラ状の接触帯電部材が用いられているが、この他、ベルト、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、あるいはコロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器等を用いてもよい。
【0091】
クリーニング装置113は、転写工程後の電子写真感光体107の表面に付着した残存トナーを除去するためのもので、これにより清浄面化された電子写真感光体107は上記の画像形成プロセスに繰り返し使用される。クリーニング装置としては、図示したクリーニングブレード方式のものの他に、ブラシクリーニング、ロールクリーニング等の方式のものを用いることができるが、これらの中でもクリーニングブレード方式が好ましく、クリーニングブレードの材質としてはウレタンゴム、ネオプレンゴム、シリコーンゴム等を挙げることができる。
【0092】
また、この画像形成装置100は、図7に示すように、除電器(イレーズ光照射装置)114を備えており、これにより、電子写真感光体107が繰り返し使用される場合に電子写真感光体107の残留電位が次の画像形成サイクルに持ち込まれる現象が防止されるので、画像品質をより高めることができる。
【0093】
次に、定着部材の製造方法の一実施形態について説明する。
【0094】
本実施形態の製造方法は3つの工程すなわち、表面層形成工程、加熱工程、および冷却工程で構成されており、以下、各工程について順次説明する。
【0095】
第1の工程(表面層形成工程)では、基材上にフッ素樹脂からなる表面層が形成される。
【0096】
基材としては金属製パイプを使用することができる。材質としては、鉄、アルミニウム、銅等などが用いられ、その外径は、定着装置として必要な接触幅により決定される。また、その肉厚は、加熱ロールおよび加圧ロールのウォームアップタイム短縮の観点から、定着装置時における接触圧に耐えうる最低の厚みとすることが望ましい。
【0097】
フッ素樹脂材料としては、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体(以下「PFA」という)やポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」という)等のフッ素樹脂を挙げることができる。
【0098】
表面層を形成する方式としては、塗布方式およびチュービング方式の2通りの方式があるが、本実施形態では塗布方式が採用されている。また、塗布方式には、湿式塗布法および乾式塗布法があり、湿式塗布法としてはスプレイ塗布、ディップ塗布などがあるが、本実施形態ではスプレイ塗布が採用されている。
【0099】
塗料としてはフッ素樹脂粉体が用いられ、その平均粒径は、0.1μm以上30μm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.1μm以上15μm以下、さらに好ましくは0.1μm以上10μm以下である。
【0100】
使用される液状分散媒体として、本実施形態では、水が用いられるが、本発明の製造方法としては、有機溶媒を用いてもよく、あるいは、塗布後の乾燥を容易にするために、水とアルコール等の有機溶媒との混合物を用いることもできる。
【0101】
フッ素樹脂粉体を液状分散媒体中に分散させる際に界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、ノニオン系界面活性剤が特に好ましい。界面活性剤の使用量は特に限定されないが、通常は、これらのPFA粒子を液状媒体中に均一に分散し得る量だけ使用される。また、表面層の膜厚の制御および塗布を容易にするため、適量の増粘剤を使用することもできる。
【0102】
本実施形態では上記のように湿式塗布法が採用されているが、本発明では湿式塗布法の代わりに乾式塗布法を採用してもよい。乾式塗布法としては、静電塗布法などを採用することができる。静電塗布法では、基材(ロール芯金またはベルト基材)の表面とフッ素樹脂粉体との間に逆電位を付与し、静電気力によって基材の表面にフッ素樹脂粉体を付着・塗布させる。
【0103】
また、本発明では、塗布方式の代わりにチュービング方式を採用してもよい。
【0104】
チュービング方式には、後被せ法および同時成型法があるが、本実施形態では後被せ法を採用している。後被せ法は、表面層よりも下の層を成型後、最後に表面層を被覆する方法であり、同時成型法は、表面層と下の層とを同時に成型する方法である。
【0105】
チュービング方式における表面層として用いられるフッ素樹脂チューブは、押出し加工にて成型された膜厚5μm以上100μm以下のものであることが好ましく、より好ましくは、10μm以上70μm以下、さらに好ましくは20μm以上50μm以下である。
【0106】
以下、湿式塗付法を用いた本実施形態の説明に戻る。
【0107】
本実施形態において、表面層の形成に際して、耐久性に優れた表面を形成すること(すなわち十分な膜厚の表面層を形成すること)が重要であり、そのために、粒径の異なる2種のフッ素樹脂粒子から表面層を形成するようにしている。
【0108】
また、うねり(鈍角凸)のない平滑な表面層を形成する観点から、溶融粘度が低くて融けやすい小粒径フッ素樹脂粒子を使用している。しかし、小粒径フッ素樹脂粒子のみを使い、1回の製膜工程で20μm以上の厚みの塗膜(表面層)を形成しようとするとクラックが生じやすい。
【0109】
表面層(フッ素樹脂膜)の厚みが小さすぎると、長期の使用により摩耗して耐久性が損なわれることがある。そこで、粒径の異なる2種のフッ素樹脂粒子を使用し、1回の製膜工程(表面層形成工程)で表面層(フッ素樹脂膜)の膜厚は粒径の異なる2種類のフッ素樹脂の粒径および配合比を調整することにより表面層の膜厚を約60μm程度まで確保することができ、低コスト化を実現することが可能である。
【0110】
ここで、配合する2種のフッ素樹脂粉末のうちの小粒径のものの平均粒径が3μmより小さく、配合する量が配合後の小粒径フッ素樹脂100質量部当たり、5質量部より少ない場合には、表面層(フッ素樹脂膜)にクラックが生じやすくなる。一方、2種のフッ素樹脂粉末のうちの大粒径のものの平均粒径が15μmより大きく、30質量部より多い場合、焼成時に粒径の大きいフッ素樹脂が完全に溶融せず表面層(フッ素樹脂膜)の表面に融けきれない大粒径フッ素樹脂によるうねりを生じることがある。
【0111】
上記の2種類のフッ素樹脂粒のうちの小粒径側のフッ素樹脂粒子は、380℃での溶融粘度が35×104ポイズ(3.5×104Pa・s)以下の範囲内にあり、大粒径側のフッ素樹脂粒子は、15×104ポイズ(1.5×104Pa・s)以下の範囲内に調整することが好ましい。
【0112】
さらに表面層のうねりを改善する観点から、上記の2種類のフッ素樹脂粒子は、共に380℃での溶融粘度が15×104ポイズ(1.5×104Pa・s)以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは10×104ポイズ(1.0×104Pa・s)以下、最も好ましくは5×104ポイズ(0.5×104Pa・s)以下である。このフッ素樹脂の380℃での溶融粘度が15×104ポイズを超えると、融けたフッ素樹脂が広がらず、表面層の表面にうねりが発生することがある。
【0113】
第2の工程(加熱工程)では、上記の表面層がフッ素樹脂の融点以上の温度に加熱される。フッ素樹脂として上述のPFA材料を用いた場合は、約350℃に加熱される。加熱炉としてはオーブン炉を用いている。
【0114】
第3の工程(冷却工程)では、上記の加熱工程を経た表面層が2.5℃/分間以下の冷却速度で融点より低い温度に冷却される。
【0115】
冷却速度は、2.5℃/分間以下であるが、より好ましくは2℃/分間以下、さらに好ましくは1℃/分間以下である。この冷却速度の範囲内で冷却することにより球晶の形状が異方性を有するものとなるので、表面層の機械的強度が向上し、耐磨耗性も向上する。なお、冷却速度が、2.5℃/分間を超えると、フッ素樹脂球晶の成長が急激に停止してしまい、球晶は異方性を有するまで成長することができなくなるため、球晶のアスペクト比は2.0以上とはならず、また、球晶の大きさが10μm以上に成長しないので、優れた耐磨耗性を有する表面層を得ることはできない。
【0116】
最後に、定着部材の実施例および比較例を用いて本発明の効果を検証する。
【0117】
先ず、塗布方式によりフッ素樹脂表面層を形成した実施例1〜4および比較例1〜4について説明する。
[実施例1〜4]
表1に示すPFA組成物をポリイミドシートサンプル(100mm×100mm)上に80μmの厚みにスプレイ塗布した後、80℃の乾燥炉で10分間乾燥した。このサンプルを熱風オーブンにて350℃×10分間加熱・保持した後、表1に示す冷却速度で冷却処理を実施した。その結果、ポリイミドシート上に30μmのPFA膜が得られた。
【0118】
一方、比較例1〜4では、実施例1〜4と同様にして作成したPFA乾燥膜を熱風オーブンにて350℃×10分間加熱・保持した後、表1に示す冷却速度で冷却処理を実施した結果、ポリイミドシート上に30μmのPFA膜が得られた。
【0119】
【表1】

【0120】
こうして得られたシート状サンプルの材料評価のため、純水の接触角、表面粗さ、球晶サイズ(長径)、球晶のアスペクト比、および滑り摩耗試験による耐摩耗性(磨耗量)を測定した。
【0121】
ここで材料評価値の試験方法について説明する。
(1)表面接触角(純水の接触角)
純水の接触角は、協和界面科学(株)製・表面接触角測定機(製品名:CA−X Roll型)を使用し、サンプル表面にイオン交換水の水滴を滴下し、その水滴とサンプル表面との接触角を側面より測定した。
(2)表面粗さ(十点平均粗さRz)
東京精密(株)製・表面粗さ測定機(製品名:サーフコム1400A)を使用し、サンプル表面に測定子を荷重0.07gで接触させ、トラバーススピード0.03mm/secで2.5mm移動させて測定した。測定倍率は水平方向×50,垂直方向×5000に設定して、十点平均粗さ(Rz)を求めた。
(3)PFA球晶サイズと形状(アスペクト比)
PFA球晶サイズと形状(アスペクト比)の測定は、PFA表面層をサンプリングし、そのサンプルを走査型電子顕微鏡(日本電子社製JSM−6700F)にて100個の球晶について観察し、1つの球晶についての最大長(長径)と最小長(短径)を測定し、その平均値から下式により、形状(アスペクト比)を求めた。
【0122】
アスペクト比=球晶の長径/球晶の短径
(4)PFA表面の磨耗量
JIS K−7218の規定に準拠し、下記の条件により表面層の磨耗量を測定した。
【0123】
荷重:3kgf
回転速度:250rpm
測定温度:常温(25℃)
図10は、PFA表面の磨耗量を測定する摩耗試験機の概要を示す図であり、図11は、図10に示す摩耗試験機に用いられる試験片の形状を示す図である。
【0124】
図10(a)に示すように、この摩耗試験機90は、中空円筒状の試験片91と、固定された中空円筒状の相手材料92とを滑り面93(図11(a)参照)で互いに接触させ、負荷装置94により一定の試験荷重をかけた状態で電動機95により試験片91を回転させて、試験前後の試験片91の長さの減少量を測定することによりPFA表面の磨耗量を測定するようになっている。なお、試験片の形状については、図11(a)に示すような中空円筒状の試験片91aの代わりに、図11(b)に示すような角板状の試験片91bを用いてもよいことが定められている。
【0125】
実施例および比較例の摩耗試験に際しては、摩耗試験機90(図10参照)の試験片固定台の表面に、上記実施例および比較例として製造したフッ素樹脂表面層を貼り付けた角板状の試験片91b(図11(b)参照)を固定し、フッ素樹脂表面層を滑り面93として中空円筒状の相手材料92と接触させ、相手材料92を回転させることによりフッ素樹脂表面層の摩耗量を測定した。
【0126】
以上説明した試験方法による評価結果を表2〜表4に示す。
【0127】
【表2】

【0128】
表2に示すように、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したものであれば優れた耐摩耗性が得られること、また、アスペクト比が2.0未満の球晶を含有したものである場合には低い耐摩耗性しか得られないことがわかる。
【0129】
図8は、実施例1〜4および比較例1〜4における球晶サイズと磨耗量との関係を示すグラフである。
【0130】
図8に示すように、球晶サイズ(長径)が10μm未満である場合には低い耐摩耗性しか得られず、球晶サイズが10μm以上に達すると急激に耐摩耗性が向上することがわかる。
【0131】
なお、球晶サイズとアスペクト比とは高い相関関係があることを示しており、アスペクト比が2.0以上では球晶サイズが10μm以上となる。つまり、アスペクト比が2.0以上に達すると急激に耐摩耗性が向上するともいえる。
【0132】
次に、前述のチュービング方式を模した方式でフッ素樹脂表面層を形成した実施例5〜8および比較例5〜8について説明する。
[実施例5〜8]
実施例5〜8では、ポリイミドシートサンプル(100mm×100mm)上に、プライマ(デュポン製 855−029)をスプレイ塗布し乾燥した後、表3に示すPFA材料シート70μmを重ね合わせ、このサンプルを熱風オーブンで350℃×10分間加熱・保持した後、表3に示す冷却速度にて冷却処理を実施した結果、基材に相当するポリイミドシート上に70μmの表面層に相当するPFA膜が得られた。
【0133】
一方、比較例5〜8では、実施例5〜8と同様にして作成したサンプルを熱風オーブンで350℃×10分間加熱・保持した後、表3に示す冷却速度にて冷却処理を実施した結果、ポリイミドシート上に70μmのPFA膜が得られた。
【0134】
【表3】

【0135】
こうして得られたシート状サンプルについて、材料特性評価として、純水の接触角、表面粗さ、球晶サイズ、球晶のアスペクト比、および滑り摩耗試験による耐摩耗性(磨耗量)を測定した。その評価結果を表4に示す。
【0136】
【表4】

【0137】
表4に示すように、アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したものであれば優れた耐摩耗性が得られること、また、アスペクト比が2.0未満の球晶を含有したものである場合には低い耐摩耗性しか得られないことがわかる。
【0138】
図9は、実施例5〜8および比較例5〜8における球晶サイズと磨耗量との関係を示すグラフである。
【0139】
図9に示すように、球晶サイズが10μm以上である場合には優れた耐摩耗性が得られること、また、球晶サイズが10μm未満である場合には低い耐摩耗性しか得られないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の定着装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】本実施形態におけるフッ素樹脂の模式図(a)および通常のフッ素樹脂の模式図(b)である。
【図3】本発明の定着装置の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図4】本発明の定着装置の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図5】本発明の定着装置の第4の実施形態を示す概略構成図である。
【図6】本発明の定着装置の第5の実施形態を示す概略構成図である。
【図7】本発明の画像形成装置の一実施形態を示す概略構成図である。
【図8】実施例1〜4および比較例1〜4における球晶サイズと磨耗量との関係を示すグラフである。
【図9】実施例5〜8および比較例5〜8における球晶サイズと磨耗量との関係を示すグラフである。
【図10】PFA表面の磨耗量を測定する摩耗試験機の概要を示す図である。
【図11】図10に示す摩耗試験機に用いられる試験片の形状を示す図である。
【符号の説明】
【0141】
1,3 球晶
2,4 非晶質部
5 記録媒体
6 未定着トナー像
10 定着装置
11 加熱ロール
11a 表面層
11b 加熱ロール芯金
11c 加熱装置
11d ヒータランプ
12 加圧ロール
12a 表面層
12b 加圧ロール芯金
12c 加熱装置
12d ヒータランプ
15 離型剤塗布装置
16 外部加熱装置
17 剥離爪
20 定着装置
21 加熱ロール
21a 表面層
21b 加熱ロール芯金
22 加圧ベルト
23 加圧パッド
24 加圧ロール
25,26 支持ロール
26a ヒータランプ
27 離型剤塗布装置
28 外部加熱装置
29 剥離爪
30 定着装置
31 加熱ロール
31a 表面層
31b 加熱ロール芯金
31d ヒータランプ
32 加圧ベルト
33 加圧パッド
33a、33b 加圧部
33c ホルダ
33d 低摩擦層
34 ベルト走行ガイド
35 温度センサ
38 剥離ブレード
40 定着装置
41 加熱ベルト
42 加圧ロール
42a 表面層
42b 加圧ロール芯金
43 加圧部材
43a 圧力ロール
43b 圧力印加部材
43c 金属パッド
44 ヒータランプ
50 定着装置
51 加熱ベルト
51a 表面層
51b 加熱ベルト基材
52 ヒータランプ
53 加圧部材
53a 圧力ロール
53b 圧力印加部材
53c 金属パッド
59 加圧ベルト
58 加圧ロール
59a 表面層
59b 加圧ベルト基材
90 摩耗試験機
91,91a,91b 試験片
92 相手材料
93 滑り面
94 負荷装置
95 電動機
100 画像形成装置
107 電子写真感光体
108 帯電装置
109 電源
110 露光装置
111 現像装置
112 転写装置
113 クリーニング装置
114 除電器
115 定着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる、前記基材上に設けられた表面層とを備えた定着部材を有し、
記録媒体上に形成された未定着トナー像に前記定着部材の表面を当接させて押圧し、該未定着トナー像を加熱して該記録媒体に定着させることを特徴とする定着装置。
【請求項2】
未定着トナー像を記録媒体上に形成するトナー像形成部と、
前記トナー像形成部によって前記記録媒体上に形成された未定着トナー像に定着部材の表面を当接させて押圧し、該未定着トナー像を加熱して該記録媒体に定着させる定着装置とを備え、
前記定着部材が、
基材と、
アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる、前記基材上に設けられた表面層とを備えたものであることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
基材と、
アスペクト比が2.0以上の球晶を含有したフッ素樹脂からなる、前記基材上に設けられた表面層とを備えたことを特徴とする定着部材。
【請求項4】
基材上にフッ素樹脂からなる表面層を形成する表面層形成工程と、
前記表面層を前記フッ素樹脂の融点以上の温度に加熱する加熱工程と、
前記加熱工程を経た表面層を2.5℃/分間以下の冷却速度で前記融点より低い温度に冷却する冷却工程とを経ることを特徴とする定着部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−322751(P2007−322751A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152967(P2006−152967)
【出願日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】