説明

画像形成装置および画像形成方法

【課題】ユーザーへの影響を抑制しつつ定着プロセスをより安定的に実行できる画像形成装置および画像形成方法を提供する。
【解決手段】画像形成装置は、熱源と、熱源から熱を供給される定着回転体と、定着回転体との間でニップ部を形成するように構成された加圧回転体と、トナー画像が形成された記録媒体がニップ部を通過するように、定着回転体および加圧回転体の周速度に同期した速度で記録媒体を搬送する搬送手段と、定着回転体の温度が所定値となるように熱源の発熱量を制御する温度調整手段とを含む。定着回転体および加圧回転体を第1の周速度で回転させるとともに、記録媒体を第1の距離間隔ごとに画像形成手段へ供給する第1のモードと、定着回転体および加圧回転体を第1の周速度より高い第2の周速度で回転させるとともに、記録媒体を第1の距離間隔より長い第2の距離間隔ごとに画像形成手段へ供給する第2のモードとが切替えられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真式の画像形成プロセスに用いられる定着装置を搭載した画像形成装置および画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な電子写真式の画像形成プロセスにおいては、記録媒体(記録シート)上に形成されたトナー像を加熱および加圧することで定着させる。このようなトナー像の定着を行なう定着装置は、典型的には、加熱回転体である加熱ローラーと加圧回転体である加圧ローラーとを有しており、加熱ローラーは、ヒーターなどの熱源によって昇温される。
【0003】
このような定着装置は、未定着のトナー画像を記録媒体に定着させるために、加熱ローラーの表面温度を所定値に維持しなければいけないが、加熱ローラー表面から記録媒体への熱伝達などによって、加熱ローラーの表面温度が低下してしまう。そこで、サーミスターなどの温度センサーを用いて加熱ローラーの表面温度を検出し、その検出結果に基づいて熱源を制御することで、加熱ローラーの表面温度を所定値に維持する。
【0004】
また、加熱ローラーと連係して回転する加圧ローラーについても、記録媒体の通紙によって熱を奪われて、その表面温度が低下する。複数の記録媒体に対して連続的な画像形成(連続通紙)が行なわれると、加圧ローラーの温度低下が大きくなり、記録媒体に生じるカールが大きくなったり、低温オフセットが発生したりする。このような影響は、低温環境下においてより顕著に生じる。
【0005】
このような、加圧ローラーの表面温度低下に起因するカールや低温オフセットの対策として、サーミスターなどの温度センサーを用いて加圧ローラーの表面温度を検出し、その検出結果に基づいて、ヒーターなどの熱源などによって加圧ローラーを加熱するような構成が採用される場合もある。あるいは、起動直後のウォームアップ時間を延長する、温度制御に係る設定値を上げる、起動直後の生産性を落とすといった方法によって、加圧ローラーの表面温度の低下を抑制し、定着性を維持する手法が採用されることがある。
【0006】
すなわち、起動直後のウォームアップ時間を延長することで、加圧ローラーに蓄熱させることができ、加圧ローラーの表面温度の落ち込みを抑えることができる。また、温度制御に係る設定値を上げることで定着性を上げることができる。また、起動直後の生産性を落とすことで、記録媒体が搬送される時間間隔が長くなり、記録媒体が搬送されていない期間に加圧ローラーを加熱でき、これによって、加圧ローラーの表面温度の落ち込みを抑えることができる。
【0007】
このような定着装置の温度制御に関しては、以下のような先行技術文献がある。
特開2009−276549号公報に開示される構成は、低温状態にある定着ローラーが所定の定着温度に達するまでのウォームアップ時にのみ通電される補助ヒーターを有している。
【0008】
特開2009−58773号公報に開示される構成では、高湿時の場合には、ウォームアップ直後に通紙間隔を広げる。
【0009】
特開2005−99373号公報に開示される構成では、湿度が低い場合には、定着部材のうち昇温速度の速い方の定着部材が所定温度に達するまでウォームアップし、湿度が高い場合には、昇温速度の速い方の定着部材が所定温度に達した後、さらに所定時間、追加ウォームアップする。この追加ウォームアップは、タイマーカウントまたは定着部材のうち昇温速度の遅い方の定着部材が所定の温度に達するまで行なわれる。
【0010】
特開2009−265154号公報に開示される構成は、電源立ち上げによるウォームアップ時または消費電力を節約するためのスリープモードからの復帰時に、通常モードが設定されている状態で用紙の印刷を受け付けると、定着ローラーにおける印刷速度を通常モードでの通常設定速度より低速に設定し、かつ、定着ローラーにおける定着設定温度を通常モードでの通常設定温度よりも低温に設定した後、印刷動作をスタートし、定着温度が通常設定温度に到達した時点で、定着ローラーにおける印刷速度を通常設定速度に設定する制御を行なう。
【0011】
特開2009−180755号公報に開示される構成は、ウォームアップ期間の定着ローラーの回転速度として設定可能な回転速度を2種類以上とし、湿度センサーによる検知湿度に基づいて、検知湿度が高いほど回転速度が高くなるようにウォームアップ期間における定着ローラーの回転速度を2種類以上の回転速度のうち1つに設定する。
【0012】
特開2009−37077号公報に開示される構成は、近傍の環境湿度を検知する湿度検知手段を有し、この湿度検知手段によって検知した湿度に基づいて、ウォームアップ動作中の加圧ローラーの回転速度を変化させる。
【0013】
特開2008−102279号公報は、温湿度によりウォームアップ時の回転数制御を開示する。より具体的には、低湿度時には、定着ローラー回転を遅くし、高温度時には、定着ローラー回転を遅くする。
【0014】
特開2007−183686号公報は、紙間隔を変えることによって、定着ローラーの温度の落ち込みを抑制する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−276549号公報
【特許文献2】特開2009−58773号公報
【特許文献3】特開2005−99373号公報
【特許文献4】特開2009−265154号公
【特許文献5】特開2009−180755号公報
【特許文献6】特開2009−37077号公報
【特許文献7】特開2008−102279号公報
【特許文献8】特開2007−183686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述したような、起動直後のウォームアップ時間を延長する、温度制御に係る設定値を上げる、起動直後の生産性を落とすといった方法は、ユーザーへの影響が大きい。すなわち、起動直後のウォームアップ時間を延長する方法は、加圧ローラーを効率的に加熱できなければ、加圧ローラーの昇温に過大な時間を要することになる。また、温度制御に係る設定値を上げる方法は、消費される熱エネルギーを増大させることになる。また、起動直後の生産性を落とす方法は、ユーザーにとってみれば時間のロスになる。
【0017】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、その目的は、生産性の低下といったユーザーへの影響を抑制しつつ、定着プロセスをより安定的に実行できる画像形成装置および画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のある局面に従う画像形成装置は、記録媒体にトナー画像を形成する画像形成手段と、熱源と、熱源から熱を供給される定着回転体と、定着回転体との間でニップ部を形成するように構成された加圧回転体と、トナー画像が形成された記録媒体がニップ部を通過するように、定着回転体および加圧回転体の周速度に同期した速度で記録媒体を搬送する搬送手段と、定着回転体の温度が所定値となるように熱源の発熱量を制御する温度調整手段と、定着回転体および加圧回転体を第1の周速度で回転させるとともに、記録媒体を第1の距離間隔ごとに画像形成手段へ供給する第1のモードと、定着回転体および加圧回転体を第1の周速度より高い第2の周速度で回転させるとともに、記録媒体を第1の距離間隔より長い第2の距離間隔ごとに画像形成手段へ供給する第2のモードとを切替える制御手段とを含む。
【0019】
好ましくは、制御手段は、熱源が発熱のない状態から発熱する状態に切替えられることに応答して、第2のモードを選択する。
【0020】
さらに好ましくは、制御手段は、第2のモードを選択した後、所定時間の経過後に、第1のモードへ切替える。
【0021】
好ましくは、制御手段は、画像形成装置の環境温度が所定値以上である場合には、熱源が発熱する状態に切替えられたとしても、第1のモードを選択する。
【0022】
好ましくは、画像形成装置は、加圧回転体の温度を計測する温度計測手段をさらに含み、制御手段は、加圧回転体の温度が所定値未満であることに応答して、第2のモードを選択する。
【0023】
さらに好ましくは、制御手段は、第2のモードを選択した後、加圧回転体の温度が所定値以上になれば、第1のモードへ切替える。
【0024】
本発明のある局面に従う記録媒体にトナー画像を形成する画像形成方法は、記録媒体上にトナー画像を形成するステップと、加圧回転体と熱源から熱を供給される定着回転体との間で形成されるニップ部を通過させるように、定着回転体および加圧回転体の周速度に同期した速度でトナー画像が形成された記録媒体を搬送するステップと、定着回転体の温度が所定値となるように熱源の発熱量を制御するステップと、定着回転体および加圧回転体を第1の周速度で回転させるとともに、記録媒体を第1の距離間隔ごとに画像形成手段へ供給する第1のモードと、定着回転体および加圧回転体を第1の周速度より高い第2の周速度で回転させるとともに、記録媒体を第1の距離間隔より長い第2の距離間隔ごとに画像形成手段へ供給する第2のモードとを切替えるステップとを含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、生産性の低下といったユーザーへの影響を抑制しつつ、定着プロセスをより安定的に実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に従う画像形成装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に従う画像形成装置に含まれる定着装置の概略構成を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に従う画像形成装置の定着装置における温度特性についての試験結果の一例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に従う画像形成装置の定着装置におけるシステム速度の影響についての試験例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に従う画像形成装置における記録媒体の紙間距離とシステム速度との関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態に従う画像形成装置における記録媒体の搬送タイミングとシステム速度との関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に従う制御方法を従来の制御方法と比較したシミュレーション例である。
【図8】本発明の実施の形態に従う制御方法を従来の制御方法と比較したシミュレーション例である。
【図9】本発明の実施の形態に従う制御方法における温度落ち込みを評価した実験例である。
【図10】本発明の実施の形態に従う画像形成装置において電源投入時に実行される処理手順を示すフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態に従う画像形成装置においてプリント動作時に実行される処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0028】
[A.概要]
本実施の形態に従う定着装置は、熱源である加熱ヒーターを有する回転可能に両端が支持された加熱ローラーと、回転可能に支持された定着ローラーに巻き掛けられた無端状の定着ベルトと、その定着ベルト外周に接し、定着ローラーに荷重をかけてニップ部を形成するように設けられた回転駆動する加圧ローラーとで構成されている。定着ローラーは、側板に回転可能に固定されるとともに、側板と加熱ローラー支持部材との間に圧縮ばねを取り付け、テンションをかけてベルトを張る構成にしており、加圧ローラーの駆動で定着ベルトおよび定着ローラーが従動する。
【0029】
典型的には、電源投入後のウォームアップ制御の実行前にウォームアップ制御に係るシステム速度が決定される。低温環境下であれば、システム速度が通常環境下よりも高く設定される。ウォームアップ制御が開始されると、決定されたシステム速度に従って、加圧ローラーが駆動される。ウォームアップ制御が完了し、プリントジョブを受信した場合には、設定されているシステム速度に応じて、生産性を維持できるような紙間距離でプリントを行なう。
【0030】
ウォームアップ制御を開始してから一定期間が経過するまでは、設定されたシステム速度を維持する。一定期間の経過後は、加圧ローラー温度が上昇しているため、通常環境下でのシステム速度を選択し、より短い紙間距離に設定することで生産性を維持する。
【0031】
[B.全体装置構成]
まず、本実施の形態に従う画像形成装置100の構成について説明する。本実施の形態に従う画像形成装置100は、電子写真式の画像形成プロセスを実行する構成であれば、その用途は問わない。すなわち、画像形成装置100は、プリンター、複写機、ファクシミリ、複合機(MFP)などのいずれとしても具現化可能である。以下の説明では、画像形成装置100をプリンターとして具現化した場合の例を示す。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態に従う画像形成装置100の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、画像形成装置100は、一例として、タンデム方式のプリントエンジンを備えたカラープリンターを示す。画像形成装置100は、主たる構成要素として、画像形成ユニット3と、給紙ユニット4と、定着装置5と、制御装置6とを含む。
【0033】
画像形成ユニット3は、記録媒体(記録シートS)にトナー画像を形成する画像形成手段に相当し、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(BK)のトナー像をそれぞれ形成するの画像形成ユニット3Y,3M,3C,3Kからなる。これらの画像形成ユニット3Y,3M,3C,3Kは、図1中において矢印で示す方向に循環する中間転写ベルト11に沿って、上流からY→M→C→BKの順に配置されている。
【0034】
画像形成ユニット3Y,3M,3C,3Kの各々は、感光体ドラム31を有する。感光体ドラム31上には対応する色のトナー画像(単色)が現像され、この現像された各色のトナー画像は、対応する画像形成ユニット3と中間転写ベルト11との接触位置において、1次転写ローラー34によって中間転写ベルト11上へ転写される。画像形成ユニット3Y,3M,3C,3Kによるトナー画像の転写位置は互いに同期されているので、中間転写ベルト11が画像形成ユニット3Y,3M,3C,3Kをそれぞれ通過するごとに、各色のトナー画像が順次積み重ねられ、最終的にフルカラーのトナー画像が中間転写ベルト11上に形成される。
【0035】
より具体的には、画像形成ユニット3Y,3M,3C,3Kの各々は、感光体ドラム31を一様に帯電させるための帯電部32と、再現すべき画像に対応する光で感光体ドラム31表面を露光することで形成される静電潜像を対応する色のトナーで現像するための現像部33とを含む。これらの部材が一連に動作することで現像されるトナー像は、1次転写ローラー34によって、中間転写ベルト11へ1次転写される。感光体ドラム31に対する露光は、露光制御装置10によって行なわれる。露光制御装置10は、制御装置6からプリントジョブなどに応じた指令が与えられる。1次転写後に感光体ドラム31上に残留したトナーは、下流に配置されたクリーニング部35によって除去され、図示しない廃トナー容器などへ回収される。
【0036】
このように中間転写ベルト11上に形成されたフルカラーのトナー画像は、下流側に配置された2次転写ローラー45によって、記録媒体である記録シートSに一括して転写される。さらに、トナー画像が転写されて記録シートSは、その下流側に配置された定着装置5を通過することによって、その転写されたトナー画像が定着される。最終的に、トナー画像が定着された記録シートSは、排紙ローラー71などによって搬送されて、排紙トレイ72上へ排紙される。定着装置5の詳細については、後述する。
【0037】
記録シートSは、典型的には、装置の下部に設けられた給紙ユニット4の給紙カセット41内に納められており、その給紙カセット41から1枚ずつ2次転写ローラー45へ搬送される。この給紙カセット41から2次転写ローラー45までの搬送経路43には、給紙ローラー42や搬送ローラー44が設けられている。
【0038】
なお、2次転写後に中間転写ベルト11上に残留したトナーは、図示しないクリーニングブレードによって中間転写ベルト11上から除去され、図示しない廃トナー容器などへ回収される。
【0039】
制御装置6は、画像形成装置100の全体を制御する。すなわち、制御装置6は、露光制御装置10、画像形成ユニット3、記録シートSの搬送手段などを制御することで、後述するような、本実施の形態に従う画像形成に係る制御を実現する。
【0040】
制御装置6は、主として、処理部であるCPU(Central Processing Unit)や、記憶部であるRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrical Erasable and Programmable Read Only Memory)、およびHDD(Hard Disk Drive)などを含む。制御装置6における制御機能は、典型的には、CPUがプログラムを実行することで実現されるが、その制御機能の全部または一部を専用のハードウェアやLSI(Large Scale Integration)などで実装してもよい。
【0041】
なお、本発明に係る画像形成装置は、図1に例示される構成に限られるものではなく、必要に応じて適宜変更することができる。
【0042】
[C.定着装置の構成]
次に、図1に示す定着装置5のより詳細な構成について説明する。
【0043】
図2は、本発明の実施の形態に従う画像形成装置100に含まれる定着装置5の概略構成を示す模式図である。図2を参照して、定着装置5は、加熱ローラー51と、定着ローラー52と、加圧ローラー54とを含む。
【0044】
加熱ローラー51は、その内部に熱源である加熱ヒーター55を有する。加熱ヒーター55は、典型的には抵抗体であり、供給される電力が抵抗により消費されることで発生する熱を利用して発熱する。なお、加熱ヒーター55としては、電磁誘導を用いた方式などを採用してもよい。
【0045】
加熱ローラー51は、紙面垂直方向に回転軸を有して回転可能に構成されている。定着ローラー52についても、加熱ローラー51と同様に、紙面垂直方向に回転軸を有して回転可能に構成されている。すなわち、加熱ローラー51および定着ローラー52の各々は、紙面垂直方向を回転軸として両端が回転可能に支持されている。加熱ローラー51と定着ローラー52との間には、定着ベルト53が巻き掛けられている。定着ローラー52は、紙面に平行に存在する側板(図示しない)に回転可能に固定されており、また、加熱ローラー51の支持部材と当該側板との間には、図示しない圧縮ばねが設けられている。そして、圧縮ばねがテンションをかけて定着ベルト53を張架している。
【0046】
この定着ベルト53によって両ローラーが回転することによって、定着ローラー52は、熱源である加熱ローラー51(加熱ヒーター55)から熱を供給される。すなわち、加熱ヒーター55が発熱することによって加熱ローラー51が加熱され、さらに、加熱ローラー51の表面に接している定着ベルト53が加熱される。そして、この加熱された定着ベルト53が回転することで、定着ローラー52の表面にも接することで、加熱ローラー51が発した熱は定着ローラー52へ伝達される。
【0047】
加熱ローラー51には、その表面に接触して、または、その表面に近接して、温度センサー56が設けられている。温度センサー56は、加熱ローラー51の温度(表面温度)を計測する。温度センサー56としては、サーミスターや赤外線で測温するセンサーなどを用いることができる。
【0048】
定着装置5では、温度センサー56によって計測された温度に基づいて、温度制御が行なわれる。典型的には、温度センサー56によって計測された温度と設定値とを比較することで、加熱ヒーター55への電源供給をオン/オフ制御する。このような温度調整機能によって、加熱ローラー51および定着ローラー52の温度が所定の設定値(たとえば、160℃)となるように制御される。すなわち、画像形成装置100に実装される温度調整手段は、定着回転体である定着ローラー52の温度が所定値となるように、熱源である加熱ヒーター55の発熱量を制御する。
【0049】
定着ローラー52は、加圧ローラー54と圧接されており、この定着ローラー52と加圧ローラー54との間には、定着ベルト53が挟まれた状態になっている。このような構成によって、定着ベルト53と加圧ローラー54との接触部がニップ部57を形成している。すなわち、加圧回転体である加圧ローラー54は、定着回転体である定着ローラー52との間でニップ部57を形成するように構成されている。
【0050】
定着装置5を構成する3つのローラー(加熱ローラー51、定着ローラー52、および加圧ローラー54)は、画像形成プロセスの実行中、所定速度で回転する。典型的には、図示しない駆動モーターが加圧ローラー54に連結されており、加圧ローラー54が駆動モーターにより回転駆動されることで、定着ベルト53、定着ローラー52および加熱ローラー51が従動回転する。これらのローラーおよび定着ベルト53が回転するうちに、定着ベルト53を媒介として全周が加熱される。そして、定着ローラー52の温度が所定値に達するまで昇温動作は継続される。なお、以下の例では、加圧ローラー54は、通常の環境下において、表面速度(周速度)110mm/sで回転しているものとする。
【0051】
そして、定着ローラー52および定着ベルト53が所定の温度まで加熱されると、中間転写ベルト11からトナー画像(未定着)が転写された記録媒体(記録シートS)がニップ部57へ突入される。記録シートSがニップ部57を通過する間に、その表面に形成された未定着のトナー画像が印加される熱および圧力によって、記録シートS上に定着される。このように、画像形成装置100は、記録媒体(記録シートS)を搬送する搬送手段(図1に示す搬送ローラー44など)を有しており、この搬送手段は、トナー画像が形成された記録媒体を定着ローラー52(定着回転体)および加圧ローラー54(加圧回転体)の周速度に同期した速度で搬送し、ニップ部57に記録媒体を通過させる。
【0052】
なお、加圧ローラー54の温度(表面温度)を計測するための温度センサー58をさらに設けてもよい。温度センサー58は、加圧ローラー54の表面に接触して、または、加圧ローラー54の表面に近接して設けられる。温度センサー58としては、サーミスターや赤外線で測温するセンサーなどを用いることができる。この温度センサー58によって計測された温度は、後述する加圧ローラー54などの回転速度(周速度)の制御に用いられる場合もある。このように、画像形成装置100は、加圧回転体である加圧ローラー54の温度を計測する温度計測手段を含む場合もある。
【0053】
後述する各種試験において用いた定着装置5の諸元としては以下のようになる。
加熱ローラー51は、外径30mm、肉厚0.5mmのアルミ製の芯金を有し、その表面はPTFE(polytetrafluoroethylene:ポリテトラフルオロエチレン)コーティングがされている。加熱ヒーター55の発熱量は、1000Wである。
【0054】
定着ローラー52は、外径18mmの鉄製の芯金を有し、その表面には、厚さ4mmの弾性層シリコーンゴムと、厚さ2mmのシリコーンスポンジとが形成されており、定着ローラー52全体としての外径は30mmである。
【0055】
定着ベルト53の表面には、厚さ35μmのニッケル層と、厚さ200μmの弾性層シリコーンゴムと、厚さ20μmの表層PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)チューブとが形成されており、定着ベルト53全体としての外径は60mmである。
【0056】
加圧ローラー54は、肉厚2.5mmの鉄製の芯金を有し、厚さ2.5mの弾性層シリコーンゴムと、厚さ30μmのPFAチューブとが形成されており、加圧ローラー54全体としての外径は35mmである。
【0057】
ニップ部57におけるニップ荷重は50〜450Nであり、そのニップ幅は約9mmであり、ニップ長手方向幅は約320mmである。
【0058】
温度センサー56に基づく温度調整機能における設定値は、160℃となっている。
加熱ヒーターについて、配向は115%−100%−115%であり、発光長は20mm−250mm−20mmである。すなわち、加熱ヒーターでは、端部の定着性を確保するために、端部における配向を高めている。加圧ヒーターについて、配光は100%であり、発光長は290mmである。
【0059】
なお、定着装置5は、上述した諸元値の一例に限定されず、装置に応じて適時変更すればよい。
【0060】
[D.定着装置における温度特性]
本実施の形態に従う制御機能について説明する前提として、定着装置5における温度特性について説明する。
【0061】
図2を用いて説明したように、定着装置5は、加熱ローラー51の表面温度を検出し、その検出結果に基づいて熱源である加熱ヒーター55を制御することで、加熱ローラー51の表面温度が所定値に維持される。加熱ローラー51と連係して回転する加圧ローラー54についても、記録媒体(記録シートS)の通紙によって熱を奪われて、その表面温度が低下する。複数の記録媒体に対して連続的な画像形成(連続通紙)が行なわれると、加圧ローラー54の温度低下が大きくなり、記録シートSに生じるカールが大きくなったり、低温オフセットが発生したりする。このような影響は、低温環境下においてより顕著に生じる。
【0062】
たとえば、月曜日などの始業直後などの装置全体が冷えている状態で、連続通紙などを行なった場合には、加圧ローラー54の表面温度の落ち込みが大きく、本願発明者らの試験によれば、10〜20枚目程度において定着性が最も悪化する。このような定着性の悪化傾向は、低温環境下において顕著である。
【0063】
このような加圧ローラー54の表面温度が落ち込む原因としては、連続通紙では、先行と記録媒体と後続の記録媒体との間の間隔(紙間距離)が短いため、加熱側(加熱ローラー51および定着ローラー52)からの熱を加圧側(加圧ローラー54)へ十分に伝達できないからである。すなわち、システム速度(プリント生産性)を一定に維持する条件下では、このような加圧ローラー54の表面温度の落ち込みといった障害が生じ得る。
【0064】
図3は、本発明の実施の形態に従う画像形成装置100の定着装置5における温度特性についての試験結果の一例を示す図である。図3(A)は、定着ベルト53のニップ部57に突入する前の温度(ニップ前温度)と、プリントされた記録シートSにおける定着性との関係をプロットした図である。なお、記録シートSにおける定着性の評価には、「定着性ランク」という指標を用いた。この「定着性ランク」は、トナー画像の定着の度合いを示す値である。図3(B)は、加圧ローラー54の表面温度(加圧温度)と、プリントされた記録シートSにおける定着性(定着性レベル)との関係をプロットした図である。図3(C)は、定着ベルト53のニップ部57に突入する前の温度と、加圧ローラー54の表面温度(加圧温度)との関係をプロットした図である。
【0065】
図3(A)に示すように、記録シートS上に形成されたトナー画像の定着性は、定着ベルト53の温度(ニップ前温度)との間で強い相関を有しており、定着ベルト53の温度が高いほどより高い定着性を得られることがわかる。また、図3(B)に示すように、記録シートS上に形成されたトナー画像の定着性は、加圧ローラー54の表面温度(加圧温度)との間でも相関を有しており、加圧ローラー54の表面温度が高いほどより高い定着性を得られることがわかる。
【0066】
図3(A)および図3(B)に示す試験結果から、定着ベルト53の温度および/または加圧ローラー54の表面温度が落ち込むことによって、定着性が劣化することがわかる。そのため、このような温度落ち込みについては、可能な限り抑制する必要があるといえる。
【0067】
一方、図3(C)に示すように、定着ベルト53の温度と加圧ローラー54の表面温度との間には、実質的に相関関係が存在しない。これは、定着ローラー52から加圧ローラー54へ伝達される熱量が定着ベルト53と加圧ローラー54との間を記録媒体が通過する頻度に大きく依存し、定着ベルト53自体の温度には依存しないためであると考えられる。
【0068】
すなわち、先行と記録媒体と後続の記録媒体との間の間隔(紙間距離)を確保できなければ、加熱ローラー51の表面温度についての設定値が高くとも、加圧ローラー54の表面温度は低下してしまう。このように、加圧ローラー54の表面温度は、紙間距離の依存性が高いといえる。そのため、加圧ローラー54の表面温度が定着性に大きく寄与する環境下(低温または高湿)では、紙間距離を確保する必要がある。
【0069】
一方で、システム速度を一定に維持した状態で紙間距離を確保しようとすると、生産性が低下する。本実施の形態においては、このように、定着性の悪化と生産性の低下との従来の方法では両方することが難しかった課題を解決することを目的とする。
【0070】
[E.解決手段]
上述のような定着性の悪化と生産性の低下との両方を抑制するため、本実施の形態に従う画像形成装置100では、システム速度および紙間距離を制御することで、加熱側(加熱ローラー51および定着ローラー52)を過剰に加熱することなく、加圧側(加圧ローラー54)の温度を制御して、連続通紙時における加圧ローラー54の表面温度の落ち込みを抑制するとともに、生産性を維持する。
【0071】
すなわち、画像形成装置100に搭載される制御手段は、定着ローラー52(定着回転体)および加圧ローラー54(加圧回転体)を第1の周速度(システム速度V1)で回転させるとともに、記録媒体(記録シートS)を第1の距離間隔(紙間距離D1)ごとに画像形成手段である画像形成ユニット3へ供給する第1のモードと、定着ローラー52(定着回転体)および加圧ローラー54(加圧回転体)を第2の周速度(システム速度V2>システム速度V1)で回転させるとともに、記録媒体(記録シートS)を第2の距離間隔(紙間距離D2>紙間距離D1)ごとに画像形成ユニット3へ供給する第2のモードとを切替える。
【0072】
以下、このようなシステム速度の変更および紙間距離の変更について説明する。
(e1:システム速度変更による昇温効果)
図4は、本発明の実施の形態に従う画像形成装置100の定着装置5におけるシステム速度の影響についての試験例を示す図である。すなわち、図4には、加熱側(加熱ローラー51および定着ローラー52)の温調に係る設定値を一定に維持したまま、システム速度を異ならせた場合(システム速度:110mm/sおよび165mm/s)における加圧ローラー54の表面温度の時間的変化を測定した結果を示す。図4の横軸は、加熱ローラー51の表面温度である。なお、図4に示す結果は、低温状態からのウォームアップ動作時に取得されたものである。
【0073】
図4に示すように、システム速度を高めた方が加圧ローラー54の表面温度がより高い値になっていることがわかる。たとえば、加圧側の印字許可温度が70℃であり、かつ、低温時の加熱側の印字許可温度が160℃である場合、システム速度を110mm/s(通常値)から165mm/sに変更することで、加熱側の温調に係る設定値を一定に維持したまま、加圧側の温度を70℃まで持ち上げることができる。すなわち、システム速度を高めることで、加圧側および加熱側の画像形成プロセスを開始するための温度条件を満足できる。
【0074】
これに対して、システム速度を110mm/sに維持したままでは、加圧側が印字許可温度の70℃に到達しない。加圧側を印字許可温度の70℃まで持ち上げるためには、加熱側の温調に係る設定値を約17℃持ち上げる必要がある。設定値の変更に伴って、無駄なエネルギーロスが発生する。
【0075】
以上のように、システム速度を高めることによって、加熱側(加熱ローラー51および定着ローラー52)から加圧側(加圧ローラー54)へ十分に熱を伝達できるようになる。
【0076】
(e2:システム速度変更に伴う紙間変更)
上述のようなシステム速度の変更に伴う加圧ローラーの表面温度の落ち込みを抑制するために、システム速度の変更と連動して、先行と記録媒体と後続の記録媒体との間の間隔(紙間距離)を変更する。この紙間距離の変更量としては、システム速度の変更前後で生産性を維持できる程度が好ましい。具体的には、システム速度とほぼ比例して紙間距離を変更する。このように紙間距離をシステム速度と比例させることで、単位時間当たりにプリントされる枚数を維持できる。
【0077】
図5は、本発明の実施の形態に従う画像形成装置100における記録媒体の紙間距離とシステム速度との関係を示す図である。図6は、本発明の実施の形態に従う画像形成装置100における記録媒体の搬送タイミングとシステム速度との関係を示す図である。
【0078】
図5に示すように、システム速度V1においては、記録媒体を紙間距離D1で画像形成ユニット3へ順次送出し、システム速度V2に変更されると、記録媒体を画像形成ユニット3へ送出す紙間距離をD1からD2へ長くする。
【0079】
ここで、システム速度V1:システム速度V2=(記録媒体長さ+紙間距離D1):(記録媒体長さ+紙間距離D2)が成立することが好ましい。このような関係を維持できれば、図6に示すように、記録媒体を画像形成ユニット3へ送出す時間的な周期はシステム速度に依存することなく一定に維持される。すなわち、単位時間当たりに出力されるプリント用紙の枚数は一定になるので、生産性を維持できることになる。
【0080】
具体例としては、たとえば、システム速度が110mm/sである場合の普通紙A4横通紙時の生産性は23枚/分であり、紙間距離は75mmに設定されているものとする。システム速度165mm/sが選択された時には、普通紙A4横通紙時の生産性を23枚/分に維持するため、紙間距離を220mmに設定することになる。
【0081】
このような紙間距離を設定することで、加圧ローラー54を加熱期間に相当するそれぞれの紙間距離は、システム速度が110mm/sで約0.8周分(75mm/(φ30×π))となり、システム速度が165mm/sで約2.3周分(220mm/(φ30×π))となる。すなわち、システム速度165mm/sが選択された場合には、システム速度110mm/sの場合に比較して、紙間距離において約3倍分にわたって加圧ローラー54を加熱することができる。
【0082】
このように加圧ローラー54を加熱するための定着ベルト53の接触距離が長くなることによって、連続通紙時の加圧ローラー54の表面温度についての落ち込みを抑制できる。
【0083】
(e3:実施例その1)
上述のような制御ロジックを適用した場合の実施例について示す。
【0084】
図7および図8は、本発明の実施の形態に従う制御方法を従来の制御方法と比較したシミュレーション例を示す。図7は、低温状態からのウォームアップ動作時における挙動を示し、図8は、ウォームアップ完了から待機状態への移行時における挙動を示す。
【0085】
図7(A)に示すように、システム速度が110mm/s(通常値)である場合には、加圧側が十分に昇温するまでに、加熱側(加熱ローラー51)の温度が設定値(ウォームアップ(WU)加熱設定温度)に到達してしまうので、温度調整機能によって、加熱ヒーター55への電源が供給されない期間(電源オフの期間)が発生する。この期間は、加圧ローラー54を十分に加熱できないロス分となる。加圧ローラー54の表面温度が目的の温度(低温ウォームアップ加圧設定温度)まで到達するのが遅くなる。
【0086】
これに対して、システム速度を165mm/sとした場合には、システム速度の上昇に伴って、加熱側(加熱ローラー51)の昇温速度は低下するが、加熱ローラー51による加圧ローラー54への加熱面積が増えるため、伝熱量が増加し、加圧ローラー54の昇温速度は向上する。また、加熱ローラー51の昇温速度の低下に伴って、加熱側(加熱ローラー51)の温度が設定値(ウォームアップ(WU)加熱設定温度)に到達するまでの時間が長くなるため、システム速度が110mm/sである場合に比較して、より長い期間にわたって加熱ローラー51から熱を発生できる。すなわち、システム速度が110mm/sの場合に発生していた、加熱ローラー51の加熱ヒーター55が点灯していない期間のロス分をなくすことができる。
【0087】
このように、本実施の形態によれば、低温環境下のウォームアップにおいても、加圧ローラー54を効率よく加熱できる。
【0088】
また、図8に示すように、通常のウォームアップが完了して、加熱ローラー51および加圧ローラー54をそれぞれの待機温度へ移行させるための予備回転モードにおいても、上述と同様にシステム速度を変更することで、効率的な加熱を行なうことができる。
【0089】
すなわち、図8には、ウォームアップを所定期間に亘って実行し、加熱ローラー51および加圧ローラー54をそれぞれ加熱し、続いて、それぞれが待機温度へ到達するまで予備的に加熱動作を行なう場合の例を示す。
【0090】
図8(A)および図8(B)には、ウォームアップ時のシステム速度が110mm/sである例を示す。ウォームアップ動作が完了して(WU完了)、それぞれのローラーの表面温度をそれぞれの待機温度とするために、昇温動作(回転)を継続するモード(予備回転モード)に移行した際のシステム速度を、通常の110mm/sとした例(図8(A))と、より高い165mm/sに変更した例(図8(B))とを示す。
【0091】
図8(A)と図8(B)とを比較すると、上述したのと同様に、加熱ローラー51による加圧ローラー54への加熱面積が増えることで伝熱量が増加し、加圧ローラー54をより効率的に加熱できる。そのため、加圧ローラー54が待機温度(待機加圧設定温度)に到達する時間をより短くできる。
【0092】
このように、ウォームアップ時、および/または、ウォームアップ完了から待機温度へ移行する際のモードのいずれにおいても、システム速度を通常の速度より高めることによって、加圧ローラー54をより効率的に加熱し、より短時間で目標の温度まで昇温させることができる。
【0093】
(e4:実施例その2)
図9は、本発明の実施の形態に従う制御方法における温度落ち込みを評価した実験例を示す。すなわち、図9には、システム速度を220mm/sと265mm/sとの場合について、いずれの場合においてもプリント時の生産性がほぼ同じになるように、それぞれの紙間距離を変更したときの、定着ベルト53のニップ部57に突入する前の温度(ニップ前)と加圧ローラー54の表面温度(加圧)との時間的変化を示す。
【0094】
加熱側(加熱ローラー51および定着ローラー52)の温度調整機能は同一としており、加熱ローラー51の温度は、システム速度に依存せず、ほぼ一定に維持されている。すなわち、記録媒体が通紙することにともなう加熱ローラー51の温度アンダーシュートの度合いはほぼ同じである。これにもかかわらず、システム速度265mm/sの場合には、システム速度220mm/sに比べて、加圧ローラー54の表面温度の落ち込みを約10℃改善できている。
【0095】
加熱ローラー51(定着ローラー52)の温度と加圧ローラー54の温度との差が大きくなるほど、用紙の表裏における温度差が大きくなるため、発生するカールがより大きくなる傾向にある。このことから、加熱側と加圧側との温度差が少なくなるようにシステム速度および紙間距離を制御することで、生産性を維持したままでカール低減効果を得ることができる。
【0096】
[F.処理手順]
次に、上述したような制御方法に係る処理手順について説明する。
【0097】
図10は、本発明の実施の形態に従う画像形成装置100において電源投入時に実行される処理手順を示すフローチャートである。図11は、本発明の実施の形態に従う画像形成装置100においてプリント動作時に実行される処理手順を示すフローチャートである。図10および図11に示す各ステップは、制御装置6(図1)のCPUがプログラムを実行することで提供される。
【0098】
(f1:電源投入時)
図10を参照して、電源が投入されると、ウォームアップ動作が開始されることになる。その前に、制御装置6は、ウォームアップ動作におけるシステム速度を決定する。より具体的には、制御装置6は、現在の環境温度が所定のしきい値(たとえば、18℃)以下であるか否かを判断する(ステップS2)。現在の環境温度が所定のしきい値以下である場合(ステップS2においてYESの場合)には、制御装置6は、現在の環境が低温環境であると決定し、システム速度を通常環境における通常値(たとえば、110mm/s)より高い値(たとえば、165mm/s)に設定する(ステップS4)。これに対して、現在の環境温度が所定のしきい値を超えている場合(ステップS2においてNOの場合)には、制御装置6は、現在の環境が通常環境であると決定し、システム速度を通常環境における通常値(たとえば、110mm/s)に設定する(ステップS6)。
【0099】
このようにシステム速度を決定した後、制御装置6は、設定されたシステム速度に応じて、記録媒体についての紙間距離を決定する(ステップS8)。
【0100】
続いて、制御装置6は、ウォームアップ動作を実行する(ステップS10)。
続いて、制御装置6は、ウォームアップが完了したかどうかを判断する(ステップS11)。例えば、ウォームアップが完了したかどうかは、ウォームアップ動作として所定期間(たとえば、1、2分)が経過したかどうかを判断するようにしてもよい。あるいは、加熱ローラが所定温度に到達したかどうかで判断するようにしてもよい。
【0101】
続いて、制御装置6は、ウォームアップ完了後、システム速度を所定期間固定して動作させるシステム速度固定モードに移行する(ステップS12)。
【0102】
続いて、制御装置6は、プリントジョブを受信したか否かを判断する(ステップS12)。プリントジョブを受信している場合(ステップS12においてYESの場合)には、制御装置6は、現在設定されている紙間距離で記録媒体を搬送するとともに、受信したプリントジョブに基づく画像形成処理を実行する(ステップS14)。
【0103】
その後、制御装置6は、ウォームアップ動作を開始してから所定期間(たとえば、5分)が経過したか否かを判断する(ステップS16)。
【0104】
ウォームアップ動作を開始してから所定期間が経過している場合(ステップS16においてYESの場合)には、システム速度固定モードを終了する。すなわち、必要に応じてシステム速度を通常環境における通常値に戻す(ステップS18)。すなわち、ウォームアップ動作を開始してから所定期間が経過している場合には、定着装置5が充分に昇温されたと判断する。この場合には、加圧ローラー54の表面温度も十分に上昇していると考えられるため、システム速度を通常値に戻して、加圧ローラー54に対する過剰な加熱を回避する。
【0105】
なお、システム速度が変更された場合には、記録媒体についての紙間距離についても変更される。ウォームアップ動作を開始してから所定期間が経過していない場合(ステップS16においてNOの場合)には、ステップS18の処理がスキップされる。
【0106】
そして、ステップS12以下の処理が繰返される。
これに対して、プリントジョブを受信していない場合(ステップS12においてNOの場合)には、制御装置6は、プリントジョブを受信していない期間が所定期間を超えたか否かを判断する(ステップS20)。プリントジョブを受信していない期間が所定期間を超えていない場合(ステップS20においてNOの場合)には、ステップS12以下の処理が繰返される。
【0107】
一方、プリントジョブを受信していない期間が所定期間を超えている場合(ステップS20においてYESの場合)には、制御装置6は、待機制御を実行して、待機モードへ移行する(ステップS22)。
【0108】
このように、制御装置6は、熱源である加熱ヒーター55が発熱のない状態(停止状態)から発熱する状態(ウォームアップ状態)に切替えられることに応答して、システム速度を高めたモードを選択する場合がある。そして、制御装置6は、システム速度を高めたモードを選択した後、所定時間の経過後に、システム速度を通常値に戻したモードへ切替える場合がある。
【0109】
但し、制御装置6は、画像形成装置100の環境温度が所定のしきい値以上である場合には通常環境であると判断し、熱源である加熱ヒーター55が発熱のない状態(停止状態)から発熱する状態(ウォームアップ状態)に切替えられたとしても、システム速度を通常値に維持したモードを選択する。
【0110】
なお、システム速度固定モードは、ウォームアップ動作を開始してから所定期間にわたって継続するが、この当該期間が経過した後においても、システム速度を適宜変更するようにしてもよい。たとえば、システム速度を高めた状態でウォームアップ動作等を実行したにもかかわらず、加圧ローラー54が設定温度まで上昇していなければ、システム速度を高い状態に維持するようにしてもよい。また、通常のシステム速度でウォームアップ動作等を実行したが、加圧ローラー54が設定温度まで上昇していなければ、システム速度を高めて加圧ローラー54がより加熱されるようにしてもよい。
【0111】
(f2:プリント動作時)
図10には、電源投入時の動作に係る処理手順を示したが、加圧ローラー54の温度(表面温度)を計測するための温度センサー58(図2)をさらに設けて、プリント動作中においても、加圧ローラー54の温度を管理するようにしてもよい。
【0112】
図11を参照して、制御装置6は、プリントジョブを受信したか否かを判断する(ステップS50)。プリントジョブを受信している場合(ステップS50においてYESの場合)には、制御装置6は、現在設定されている紙間距離で記録媒体を搬送するとともに、受信したプリントジョブに基づく画像形成処理を実行する(ステップS52)。プリントジョブを受信していない場合(ステップS50においてNOの場合)には、ステップS52の処理がスキップされる。
【0113】
その後、制御装置6は、温度センサー58によって計測される加圧ローラー54の表面温度を取得する(ステップS54)。そして、制御装置6は、ステップS54において取得した加圧ローラー54の表面温度が設定値(たとえば、60℃)未満であるか否かを判断する(ステップS56)。
【0114】
加圧ローラー54の表面温度が設定値未満である場合(ステップS56においてYESの場合)には、制御装置6は、加圧ローラー54を昇温する必要があると判断し、システム速度を通常環境における通常値(たとえば、110mm/s)より高い値(たとえば、165mm/s)に設定する(ステップS58)。これに対して、加圧ローラー54の表面温度が設定値を超えている場合(ステップS56においてNOの場合)には、制御装置6は、加圧ローラー54をこれ以上昇温する必要はないと判断し、システム速度を通常環境における通常値に設定する(ステップS60)。
【0115】
このようにシステム速度を決定した後、制御装置6は、設定されたシステム速度に応じて、記録媒体についての紙間距離を決定する(ステップS62)。
【0116】
そして、ステップS50以下の処理が繰返される。
このように、制御装置6は、加圧ローラー54(加圧回転体)の温度が所定値未満であることに応答して、システム速度を高めたモードを選択する。そして、制御装置6は、システム速度を高めたモードを選択した後、加圧ローラー54(加圧回転体)の温度が所定値以上になれば、システム速度を通常値に戻したモードへ切替える。
【0117】
[G.別の局面]
本発明の別の局面に従えば、画像形成装置の定着装置は以下のように表現することもできる。
【0118】
すなわち、本発明のある局面に従う定着装置は、加熱源と、温度検出装置を有する加熱回転体と、加熱回転体に荷重をかけてニップ部を形成するように設けられた加圧回転体とで構成される。当該定着装置は、加熱ローラーからの熱、および、加圧ローラーからの荷重で、記録媒体にトナーを定着させる。そして、ウォームアップ開始から一定時間経過するまでは回転体の速度を上げて記録媒体の間隔を広げ、一定時間経過後には回転体速度を落として記録媒体間隔を狭めることで、いずれの場合にも単位時間当たりの生産性を略同じに維持する。
【0119】
また、本発明の別の局面に従う定着装置は、加熱源と、温度検出装置を有する加熱回転体と、加熱回転体に荷重をかけてニップ部を形成するように設けられた加圧回転体とで構成される。当該定着装置は、加熱ローラーからの熱、および、加圧ローラーからの荷重で、記録媒体にトナーを定着させる。そして、加圧回転体温度が一定温度未満である場合には回転体の速度を上げて記録媒体間隔を広げ、一定温度以上である場合には回転体速度を落として記録媒体間隔を狭めることで、いずれの場合にも単位時間当たりの生産性を略同じに維持する。
【0120】
[H.利点]
本実施の形態によれば、加圧ローラー温度が低下することによって、カールの悪化や低温オフセットが発生することが予想される環境下では、システム速度および紙間距離を制御して、通常環境下と同様の生産性を確保しつつ、加熱側の熱を加圧側に積極的に移動させる。これによって、加圧ローラーにおける表面温度の落ち込みを抑制する。
【0121】
ウォームアップ動作時のシステム速度を高めることによって、加熱側の昇温速度は緩慢にあるが、加熱側の熱を加圧側へより多く移動させることができるため、ウォームアップに要する時間をより短縮でき、かつ生産性を維持できる。
【0122】
このように、システム速度および紙間距離を適切に制御することで、ウォームアップ時間の延長、温度制御に係る設定値を上げる、起動直後の生産性を落とすといった方法を採用する必要もなく、加圧ローラーの表面温度の低下を抑制し、定着性を維持できる。
【0123】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0124】
3,3Y,3M,3C,3K 画像形成ユニット、4 給紙ユニット、5 定着装置、6 制御装置、10 露光制御装置、11 中間転写ベルト、31 感光体ドラム、32 帯電部、33 現像部、34 1次転写ローラー、35 クリーニング部、41 給紙カセット、42 給紙ローラー、43 搬送経路、44 搬送ローラー、45 2次転写ローラー、51 加熱ローラー、52 定着ローラー、53 定着ベルト、54 加圧ローラー、55 加熱ヒーター、56,58 温度センサー、57 ニップ部、71 排紙ローラー、72 排紙トレイ、100 画像形成装置、S 記録シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体にトナー画像を形成する画像形成手段と、
熱源と、
前記熱源から熱を供給される定着回転体と、
前記定着回転体との間でニップ部を形成するように構成された加圧回転体と、
前記トナー画像が形成された前記記録媒体が前記ニップ部を通過するように、前記定着回転体および前記加圧回転体の周速度に同期した速度で前記記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記定着回転体の温度が所定値となるように前記熱源の発熱量を制御する温度調整手段と、
前記定着回転体および前記加圧回転体を第1の周速度で回転させるとともに、前記記録媒体を第1の距離間隔ごとに前記画像形成手段へ供給する第1のモードと、前記定着回転体および前記加圧回転体を前記第1の周速度より高い第2の周速度で回転させるとともに、前記記録媒体を前記第1の距離間隔より長い第2の距離間隔ごとに前記画像形成手段へ供給する第2のモードとを切替える制御手段とを備える、画像形成装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記熱源が発熱のない状態から発熱する状態に切替えられることに応答して、前記第2のモードを選択する、請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第2のモードを選択した後、所定時間の経過後に、前記第1のモードへ切替える、請求項2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記画像形成装置の環境温度が所定値以上である場合には、前記熱源が発熱する状態に切替えられたとしても、前記第1のモードを選択する、請求項2または3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記加圧回転体の温度を計測する温度計測手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記加圧回転体の温度が所定値未満であることに応答して、前記第2のモードを選択する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記第2のモードを選択した後、前記加圧回転体の温度が前記所定値以上になれば、前記第1のモードへ切替える、請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
記録媒体にトナー画像を形成する画像形成方法であって、
前記記録媒体上にトナー画像を形成するステップと、
加圧回転体と熱源から熱を供給される定着回転体との間で形成されるニップ部を通過させるように、前記定着回転体および前記加圧回転体の周速度に同期した速度で前記トナー画像が形成された前記記録媒体を搬送するステップと、
前記定着回転体の温度が所定値となるように前記熱源の発熱量を制御するステップと、
前記定着回転体および前記加圧回転体を第1の周速度で回転させるとともに、前記記録媒体を第1の距離間隔ごとに画像形成手段へ供給する第1のモードと、前記定着回転体および前記加圧回転体を前記第1の周速度より高い第2の周速度で回転させるとともに、前記記録媒体を前記第1の距離間隔より長い第2の距離間隔ごとに前記画像形成手段へ供給する第2のモードとを切替えるステップとを備える、画像形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−3553(P2013−3553A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138039(P2011−138039)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】