説明

画像形成装置用部材、該画像形成装置用部材を用いた定着装置及び画像形成装置。

【課題】電子写真方式による画像形成装置用部材において、画像形成装置用部材表面に、電気抵抗が均一かつ適度に低抵抗化された高強度な表面層を簡便かつ精度良く形成し、長期間にわたって安定してトナー像を記録媒体に熱定着または熱圧定着等を行うことができる画像形成装置用部材、及び該画像形成装置用部材を用いた定着装置を提供し、また、前記定着装置を用いることにより、高い画像品質を長期間維持できる画像形成装置を提供すること。
【解決手段】導電性の支持体上に少なくとも表面層を有する画像形成装置用部材であって、該表面層は、特定のフッ素置換パラキシリレン樹脂からなり、かつ、該表面層の厚さが0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする画像形成装置用部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真用の現像、感光体、帯電、転写、クリーニング、定着等に用いられる画像形成装置用部材、該画像形成装置用部材を用いた定着装置、画像形成装置に関する。
この画像形成装置用部材は、説明のため非限定的な用途例を挙げると、例えば定着部材として好適である。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による複写機、プリンタ、ファクシミリ、プロッタ等の画像形成装置は、一般的に、光導電性物質等の像担持体上に静電荷による潜像を形成し、この静電潜像に対して帯電したトナーを付着させて可視像を形成し、形成されたトナー可視像を最終的に紙等の記録媒体に転写後、熱、圧力や溶剤気体等によって転写媒体に定着して出力画像を形成している。
【0003】
中でも、熱によりトナー像を溶融して記録媒体に定着する熱定着方式や、熱と圧力によりトナー像を溶融して記録媒体に定着する熱圧定着方式は、定着機構の構成が比較的簡易であり、またトナー結着成分としての材料選択範囲が広いことから、一般的に使用されている。
【0004】
これらの熱定着や熱圧定着に用いる定着部材の表面は、加熱され高温になった状態で繰り返しトナーや記録媒体と接触し、また、画像形成装置の省エネ等のため温度制御がなされており、起動時や定着時や休止時等に昇温降温が繰り返される。
したがって、定着部材の表面は長期間にわたり、十分に安定した機械的な耐久性と、高温下での材料的な安定性が必要となる。
【0005】
これまで、高温下での材料的な安定性を有し、かつ離型性に優れることから、定着部材の表面層には、フッ素樹脂が用いられることが多く、一般的にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリパーフルオロアルキルエーテル(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)に代表されるフッ素樹脂のコート被膜やフィルム,チューブが多く用いられている。
【0006】
このようなフッ素系高分子を用いた従来技術は多数あり、例えば、特許文献1乃至特許文献14等の公報に示されており、特に離型用オイル塗布を行わない定着方法いわゆるオイルレス定着法では、定着部材にフッ素樹脂を用いたものが多く存在する。
【0007】
ところが、フッ素樹脂は、単独では一般的に電気抵抗が高いため、定着に伴う剥離、摩擦等で発生、蓄積した電荷によって、その表面に強電界が発生することがあり、この電界は、記録媒体に定着前のトナー粒子を、定着部材表面へ静電的に付着させ、記録媒体上のトナー像に乱れを引き起こす、いわゆる静電オフセットを発生させる原因となっていた。
【0008】
そこで、静電オフセットのような画像の乱れを抑止するために、定着部材の電気抵抗を下げるさまざまな提案がなされている。
例えば、特許文献1乃至13には、フッ素樹脂中に導電性粒子を混入させる方法が開示されており、また、特許文献14には、フッ素樹脂中に導電性ポリマーをブレンドさせる方法が開示されている。
【0009】
しかしながら、フッ素樹脂に導電性粒子を混入させる方法では、微視的にはポリマーと粒子が一体化されていないため、局所的に高抵抗部分が存在して部分的な帯電が発生したり、導電性粒子の近接によって局所的に低抵抗化したりするため、定着部材全体の抵抗を均一に下げ難く、 抵抗の電圧依存性が残るため、ある電圧以下の電位を除去できないといった問題がある。
【0010】
また、フッ素樹脂に導電性ポリマーをブレンドする方法では、フッ素樹脂と導電性ポリマーとの相溶性が十分でないために、導電性が不安定になったり、離型性が低下したりすることがある。
【0011】
定着部材の電気抵抗を下げるためには、前記導電性粒子を混入させる方法や導電性ポリマーをブレンドする方法の他、高抵抗の材料から形成される部分(表面層)を十分に薄膜化して実質的な抵抗値が小さくなるようにすることも考えられる。
【0012】
しかし、定着部材は、その表面が記録媒体や分離爪等と接触するため、表面層の膜厚を薄くすると摩耗や傷の発生等により下層が露出して離型性の低下を招き易く、従来定着部材等に用いられているフッ素樹脂は軟質であるため、薄膜化すると十分な耐久性が得られず、長期間に亘り安定した定着ができない。
【0013】
このように、従来のフッ素樹脂のコート被膜やフッ素樹脂チューブでは、単一の材料から形成される均一な電気抵抗と、電気抵抗の低抵抗化、及び、高強度化(耐久性)を同時に満足させることは困難であり、定着部での静電的な画像乱れを抑制し、かつ、長期間安定して使用可能な定着部材は、未だ提供されていない。
【0014】
また、均一な表面コートを行うための方法として、CVD法(ケミカルベイパーデポジション法)が知られ、無機被膜、有機被膜ともに、さまざまな材料開発が行われている。
【0015】
CVD法によるフッ素樹脂膜の形成方法として、パリレン(パラキシリレン樹脂)系の材料を用いたフッ素系樹脂膜が、特許文献15に開示されている。
【0016】
しかし、特許文献15は、半導体基板の絶縁処理等を目的とするものであって、電子写真の分野のものではなく、外力を加えられながらヒートサイクルを繰り返す定着部材に用いた場合の耐久性能や、定着部材に必要な静電オフセットの発生防止等のための電気的特性等については検討されておらず、全く未知の状態である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、電子写真方式による画像形成装置用部材において、画像形成装置用部材表面に、電気抵抗が均一かつ適度に低抵抗化された高強度な表面層を簡便かつ精度良く形成し、長期間にわたって安定してトナー像を記録媒体に熱定着または熱圧定着等を行うことができる画像形成装置用部材、及び該画像形成装置用部材を用いた定着装置を提供することを目的とする。
また本発明は、前記定着装置を用いることにより、高い画像品質を長期間維持できる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述したように、画像形成装置では、一定の画像品質を画像領域でムラなく得ることが重要であるが、そのためには記録媒体上に転写形成したトナー像を乱すことなく定着することが必要となる。更には、記録媒体へのトナー像の定着を長期間にわたり安定して行うことが必要となる。
【0019】
そこで、本発明者らは、トナー像の定着に広く採用されている熱圧定着装置等に用いる画像形成装置用部材における上記課題を解決するための検討を続けてきた結果、フッ素を含む特定のパリレン(パラキシリレン樹脂)系材料を画像形成装置用部材表面で直接重合して形成した表面層は、耐久性、耐熱性に優れ、該表面層の膜厚を一定以下にしても表面の機械的強度が低下せず、電気抵抗が均一かつ適度に低抵抗化され、長期に亘り記録媒体上のトナー像を乱すことなく定着できることを確認するに至り、本発明を完成した。
【0020】
即ち、上記課題を解決するために本発明に係る画像形成装置用部材・定着装置・画像形成装置は、具体的には下記(1)項〜(6)項に記載の技術的特徴を有する。
(1)「導電性の支持体上に少なくとも表面層を有する画像形成装置用部材であって、該表面層は、化学式(1)及び/または化学式(2)で表される構造を有する高分子材料からなり、かつ、該表面層の厚さが0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする画像形成装置用部材」、
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

化学式(1)、(2)中nは1以上の整数を表す。
(2)「前記導電性支持体は、筒状のベルト部材であることを特徴とする前記(1)に記載の画像形成装置用部材」、
(3)「前記導電性支持体は、導電性基体上に少なくとも弾性層を設けてなるものであること特徴とする前記(1)項または(2)項に記載の画像形成装置用部材」、
(4)「該弾性層がソリッド状のシリコーンゴムよりなり、該弾性層の厚み0.1乃至2mmであることを特徴とする前記(3)項に記載の画像形成装置用部材。
(5)「少なくとも定着部材、該定着部材と対向して記録媒体を挟持搬送する加圧部材、記録媒体上のトナー像を記録媒体に定着固定するための加熱手段を有する定着装置であって、前記定着部材が、前記(1)項乃至(4)項のいずれか1項に記載の画像形成装置用部材であり、該定着部材が接地していることを特徴とする定着装置」、
(6)「像担持体と、該像担持体を帯電する帯電装置と、上記像担持体に潜像を形成する潜像形成装置と、上記像担持体上の潜像をトナー像として可視像化する現像装置と、中間転写媒体を介して、または介さずに、記録媒体上へトナー像を転写する転写装置と、トナー像を記録媒体に定着固定化する定着装置とを有する画像形成装置において、上記定着装置が、前記(5)項に記載の定着装置であることを特徴とする画像形成装置」。
【発明の効果】
【0023】
以下の詳細かつ具体的な説明から理解されるように、本発明の画像形成装置用部材によれば、長期間にわたって記録媒体上のトナー像が乱されず安定した定着を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】画像形成装置用部材の構成を拡大して示した部分図である。
【図2】定着装置を示した図である。
【図3】画像形成装置の全体図を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の画像形成装置用部材は、電子写真用の現像、感光体、帯電、転写、クリーニング、定着等に使用することができるものであり、例えば定着部材として好適である。
以下、定着部材を例に説明する。
[定着部材]
本発明の画像形成装置用部材は、導電性の支持体上に少なくとも表面層を有するものであり、該表面層は、化学式(1)及び/または化学式(2)で表される構造を有する高分子材料からなり、かつ、該表面層の厚さが0.1μm以上5μm以下のものである。
【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

化学式(1)(2)中nは1以上の整数を表す。
【0028】
前記表面層は、耐熱性に優れ、かつ、高強度であるため、表面層を薄膜化でき、熱伝導性が向上し省エネルギー化できると共に、薄膜化により画像形成装置用部材の適度な低抵抗化が可能なため、カーボンブラック等の導電剤の添加が不要となり、微視的な範囲においても電気抵抗が均一で、長期間にわたって記録媒体上のトナー像が乱されず安定した定着を行うことができる。
また、前記表面層は、常温域温度で形成可能であり、下層の熱変化を引き起こすことがない。
【0029】
本発明の画像形成装置用部材は、表面層の膜厚が0.1μm以上5μm以下である。表面層の膜厚が0.1μm未満では、摩耗や傷の発生等により離型性が低下することがあり、5μmを超えると定着部材の抵抗が高くなって静電オフセットが生じることがある。
また、定着時の熱伝導効率の点から、0.1mm以上2μm以下であることがより好ましい。
【0030】
本発明の画像形成装置用部材(71)の部分拡大図を図1に示す。
画像形成装置用部材(71)は、基体(71a)と表面層(71b)から構成される。
表面層(71b)は、少なくとも、基体(71a)の外周面を被覆するものである。表面層(71b)は、外周面だけではなく、接地するための接点部分を除き外周面だけでなく、ほぼ全てを被覆しても良い。表面層(71b)を設けることにより、画像形成装置用部材(71)表面の離型性が向上し、汚れや傷などがつきにくくなる。
以下の説明では、表面層(71b)の用紙に接する側の表面を画像形成装置用部材(71)の定着面ということがある。
【0031】
基体(71a)は、円筒形状、ベルト形状のいずれでもよいが、定着部材に用いる場合は、筒状のベルト形状であることが好ましい。筒状のベルト形状であると、例えば、形状が固定された円筒状の部材を用いた場合よりも、画像形成装置用部材が柔軟であるため、記録媒体と接触する幅を広く取ることができ、トナー像定着のための加熱効率を向上させることができ、また、接触部の出口側にて画像形成装置用部材の曲率半径を小さくすることにより、分離用の部品を付加することなく、画像形成装置用部材と記録媒体の分離性を向上することが可能となる。
【0032】
基体(71a)は、支持体(711)と弾性層(712)とからなるものであってもよい。
前記支持体(711)としては、ニッケル合金、ステンレス合金等の金属ベルトや、ポリイミドに代表される耐熱性樹脂を、カーボン微粒子、金属微粒子、イオン性液体等で導電処理した樹脂ベルトを、用いることができる。
また、前記弾性層(712)としては、シリコーンゴムやフッ素ゴム等に代表される耐熱性のゴムを使用することができるが、ソリッド状シリコーンゴム(総ゴム)であることが好ましく、弾性層の厚さは、0.1mm以上2mm以下であることが好ましい。
【0033】
弾性層(712)が、ソリッド状シリコーンゴムであると、記録媒体の表面性に沿った弾性変形を行うことが可能となるため、記録媒体上のトナー像への熱伝導が効率よく行われ、より小さな熱エネルギーで確実な定着が可能になると共に、画像形成装置用部材の形状維持、寸法安定性に優れる。
【0034】
本発明における画像形成装置用部材は、実質的に導電性であることが好ましい。画像形成装置用部材の具体的な電気抵抗は、その用途や、定着装置の構成、及び画像形成の速度によるため、一概に決められるものではないが、およそ、体積抵抗率で1.0×10Ω・cm以上1.0×10Ω・cm以下であることが好ましい。
画像形成装置用部材が導電性であるため、連続使用時でも画像形成装置用部材に電荷の蓄積が生じることない。
また、加熱手段として、電磁誘導加熱方式を用いる場合には、基体(71a)の全部または一部に誘導電流を発生する発熱体を積層して用いることもできる。
【0035】
次に表面層(71b)の形成方法について説明する。
表面層(71b)は、下記化学式(1)及び/または化学式(2)で表される構造を有する高分子材料からなる。
【0036】
【化5】

【0037】
【化6】

化学式(1)、(2)中nは1以上の整数を表す。
【0038】
前記表面層は、下記化学式(3)または、下記化学式(4)で表されるフッ素置換パラキシリレンダイマーを減圧下で120から180℃に加熱して気化し、気化したダイマーを更に650から700℃程度の高温にして反応性のモノマーとした後に、減圧常温の画像形成装置用部材の基体(71a)に接触させ、その表面で直接重合して高分子量化することにより形成することができ、表面層(71a)の厚さは、モノマー流量と時間によって制御することができる。
【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
[定着装置]
次に、本実施例の定着装置について詳細に説明する。図2に本発明の定着装置(7)の拡大図を示す。図2に示すように、定着装置(7)は、内部または近傍に加熱手段(72)を有する加熱ローラ(73)と表面に弾性層を持つ定着ローラ(74)とに架けまわされた画像形成装置用部材(71)を有するものであり、接地手段(76)により接地されている。
【0042】
前記定着ローラ(74)に対向する位置に加圧ローラ(75)が配置され、加圧ローラ(75)は図示しない加圧手段によって、画像形成装置用部材(71)が架けられた定着ローラ(74)の方向へ加圧されており、画像形成装置用部材(71)は、各ローラが回転するのに伴い回転し、加圧ローラ(75)との間でトナー像が形成された記録媒体を加熱・加圧し定着する。また、
【0043】
図2の例では、画像形成装置用部材(71)は、筒状であり、時計回り方向に回転する。また、図2の奥行き方向が長手方向となる。
【0044】
図3に本実施例の画像形成装置(100)の構成例を示す。
画像形成装置(100)の画像形成部(10)は、像担持体(1Y、1M、1C、1K)を含む。該像担持体(1Y、1M、1C、1K)は、中間転写ベルト(50)の搬送方向に沿って設けられている。像担持体とは、例えば、感光体ドラムである。以下では、像担持体(1Y、1M、1C、1K)をまとめていう場合は、像担持体(1)という。像担持体(1Y、1M、1C、1K)とは、各色のトナー(例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)による画像を担持可能なものであり、有機光導電層を有する。該画像は、書き込み装置(3)により像担持体(1)に対して、書き込まれる。
【0045】
中間転写ベルト(50)は、ローラ(30)、(31)、(32)で支持されている。
中間転写ベルト(50)の内側には各像担持体1に対応して1次転写手段としての1次転写ローラ(33Y、33M、33C、33K)が配置されている。また、ローラ(32)に対向する位置には、中間転写ベルト(50)上の重ね合わせ画像を記録媒体上に一括転写するための2次転写手段としての2次転写ローラ(34)が配置されている。
【0046】
各色の像担持体(1Y、1M、1C、1K)上に形成されたトナー像は、1次転写ローラ(33Y、33M、33C、33K)により中間転写ベルト(50)上に順次重ねて転写される。転写されたトナー像は、給紙装置(200)から給送された用紙上に2次転写ローラ(34)により一括転写される。
【0047】
重ね合わせ画像を一括転写された用紙は、定着装置(7)に送られる。定着装置(7)は、熱と圧力により、記録媒体に形成されたトナー像を定着させる。該定着処理を終えた用紙は排紙トレイ(8)に排出・スタックされる。
【0048】
本発明の画像形成装置は、単一の樹脂粉末、複合粉末、単一または複数の色材、樹脂と色材の複合物やこれにワックス成分や無機材料を加えた粉末、これらを高次に形態制御した機能粉末を始めとするトナーなど、画像形成を行うことができる全ての粉体を使用することができ、例えば、光沢抑制粉体、光沢付与粉体、焼付け粉体、発泡性粉体なども含まれる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
<画像形成装置用部材の作成>
[基体]
内径75mmの型枠に、カーボンを分散したポリイミドワニスを投入し、型を回転しながら250℃で10分間加熱し、周長235mm、幅335mm、厚み90μmのポリイミド支持体を作成した。
次に、作成したポリイミド支持体の外周面側にカーボン分散したシリコーンゴムを厚さ200μmとなるようにコーティングし、筒状の画像形成装置用部材の基体を作成した。
【0051】
[表面層]
下記化学式(3)で表されるダイマーを、約130Paに調整した真空室1で150℃に加熱して気化(昇華)させた。
【0052】
【化9】


気化(昇華)させた化学式(3)で表されるダイマーを、真空室1から、約60Paで約680℃に調整された真空室2に流入させ、前記気化した化学式(3)で表されるダイマーを熱分解して反応性モノマーとし、前記反応性モノマーを約13Paで常温に調整した真空室3に流入させた。
また、真空室3内に、内周面をマスキングした上記基体を設置し、前記反応性モノマーを基体表面で直接重合させ蒸着し、表面層を形成し画像形成装置用部材1を作製した。
表面層の厚さは、反応性モノマーの真空室3への流入量および流入時間により、1.0μmに制御した。
この画像形成装置用部材の体積抵抗率は1.2×10Ω・cmであった。
【0053】
(比較例1)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを0.05とする他は、実施例1と同様にして画像形成装置用部材2を作製した。
【0054】
(実施例2)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを0.1μmとする他は、実施例1と同様にして画像形成装置用部材3を作製した。
【0055】
(実施例3)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを2.0μmとする他は、実施例1と同様にして画像形成装置用部材4を作製した。
【0056】
(実施例4)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを3.0μmとする他は、実施例1と同様にして画像形成装置用部材5を作製した。
【0057】
(実施例5)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを5.0μmとする他は、実施例1と同様にして画像形成装置用部材6を作製した。
【0058】
(比較例2)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを10μmとする他は、実施例1と同様にして画像形成装置用部材7を作製した。
【0059】
(実施例6)
表面層(71a)を形成するための原材料として、下記化学式(4)で表されるダイマーを用い、化学式(2)で表される高分子材料からなる表面層を形成する他は実施例1と同様にして画像形成装置用部材8を作製した。
【0060】
【化10】

【0061】
(比較例3)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを0.05μmとする他は、実施例6と同様にして画像形成装置用部材9を作製した。
【0062】
(実施例7)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを0.1μmとする他は、実施例6と同様にして画像形成装置用部材10を作製した。
【0063】
(実施例8)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを2.0μmとする他は、実施例6と同様にして画像形成装置用部材11を作製した。
【0064】
(実施例9)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを3.0μmとする他は、実施例6と同様にして画像形成装置用部材12を作製した。
【0065】
(実施例10)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを5.0μmとする他は、実施例6と同様にして画像形成装置用部材13を作製した。
【0066】
(比較例4)
表面層形成時間を調節し、表面層(71a)の厚さを10.0μmとする他は、実施例6と同様にして画像形成装置用部材14を作製した。
【0067】
(実施例11)
下記化学式(3)で表されるダイマーと下記化学式(4)で表されるダイマーを1:1の割合で真空室3に供給し、複合または共重合被膜による表面層を形成する他は実施例1と同様にして画像形成装置用部材15を作製した。
【0068】
【化11】

【0069】
【化12】

【0070】
(実施例12)
画像形成装置用部材用基体として、弾性層を有しない実施例1で用いたポリイミド製支持体を用いる他は実施例1と同様にして画像形成装置用部材16を作製した。
【0071】
(実施例13)
画像形成装置用部材用基体として、弾性層を有しない実施例6で用いたポリイミド製支持体を用いる他は実施例6と同様にして画像形成装置用部材17を作製した。
【0072】
(比較例5)
〔表面層用塗工液〕
下記組成の表面層用塗工液を実験例1と同一構成の基体にスプレー塗布・乾燥した後、表面温度350℃に設定した熱ローラを回転させながら、画像形成装置用部材表面層部分を1分間押圧しつつ加熱して表面層を形成して画像形成装置用部材18を作製した。
表面層の膜厚は、機械的強度及び耐久性を考慮し40μmとした。
〔表面層〕
ポリパーフルオロアルキルエーテル(ダイキン工業社製 AD2CR) 10部
蒸留水 100部
【0073】
(比較例6)
原材料として下記化学式(6)で表されるダイマーを用い、下記化学式(5)で表される高分子材料の被膜による表面層を形成する他は実施例1と同様にして画像形成装置用部材19を作製した
【0074】
【化13】

化学式(5)中nは1以上の整数を表す。
【0075】
【化14】

【0076】
(比較例7)
実施例1で用いた基体に表面層を形成しない他は実施例1と同様にして画像形成装置用部材20を作製した。
【0077】
リコー製、imagio MP C6000の定着ユニットに作成した画像形成装置用部材を組み込んで、定着装置を作成し画像を形成し評価した。
評価結果を表1に示す。評価は以下のようにして行った。
【0078】
画像形成装置用部材18、20では、初期画像に異常が見られたため、「−」で示したように10000枚後の評価は行わなかった。
また、画像形成装置用部材19では、連続の通紙試験をはじめたものの、約500枚で定着装置内の紙詰まりが発生し、復帰不能となったため、「−」で示したように通紙試験を中止した。確認のため、画像形成装置用部材表面を拡大観察したところ、表面層が消失し弾性層が露出していた。
【0079】
<膜厚の測定>
各層の厚さは、画像形成装置用部材の試料片を液体窒素中で十分に冷やして凍結させた後、速やかに破断し、常温に戻して、破断面をSEM(走査電子顕微鏡)観察像を計測して求めた。
【0080】
<体積抵抗の測定>
画像形成装置用部材の抵抗は、画像形成装置用部材試料片の、基体側と表面層側の間の電気抵抗を、三菱化学株式会社製の高抵抗率計MCP−HT450を用いて計測した。印加電圧は直流10Vとし、印加時間は60秒とした。また試料厚みを、マイクロメーターを用いて測定し、体積低効率を求めた。なお、抵抗測定は、常温常湿の環境下(23℃/50%RH)で行った。
【0081】
<画像品質>
A4版テキストチャートを用紙に形成された初期画像と、画素密度5%のA4版テキストチャートを10000枚通紙後の画像の品質について評価した。
【0082】
(目視2by2評価)
600dpi、画素密度25%の、2by2全面トーンのA4版の用紙に、形成された画像を目視により以下の基準で評価した。

◎:極めて優れている(全面にわたってムラが感知できないレベル)
○:実用上問題ないレベル(◎と並べて見るとわずかにムラが感知できるレベル)
△:実用上許容できるレベル(◎と並べて見るとムラが感知できるレベル)
×:使用不可(単独で明らかにムラが感知できる)

画素密度25%の2by2全面トーンとは、4×4画素で形成される方形領域において、2×2画素分の方形の画像領域、該方形の画像領域以外を非画像領域として、これを全面に亘り画像形成することで、4/16=25%の画素密度の画像を形成することである。
【0083】
(目視ベタ評価)
画素密度100%の全面ベタに形成された画像を目視により以下の基準で評価した。

◎:極めて優れている(全面にわたってムラが感知できないレベル)
○:実用上問題ないレベル(◎と並べて見るとわずかにムラが感知できるレベル)
△:実用上許容できるレベル(◎と並べて見るとムラが感知できるレベル)
×:使用不可(単独で明らかにムラが感知できる)
【0084】
(目視白紙評価)
画素密度0%の、画像が形成されていない白紙を目視により以下の基準で評価した。

◎:極めて優れている(全面にわたって異常な細線が感知できないレベル)
○:実用上問題ないレベル(◎と並べるとわずかに汚れが感知できるレベル)
△:実用上許容できるレベル(◎と並べて見ると汚れが感知できるレベル)
×:使用不可(単独で明らかに汚れが感知できる)
【0085】
(拡大2by2評価)
画素密度25%の、2by2全面トーンのA4版の用紙に、形成された画像を25倍のルーペで拡大して目視により以下の基準で評価した。

◎:極めて優れている(ドットが非常にそろっている;Rrが0.9以上)
○:実用上問題ないレベル(視野毎のドットの大きさに差異がある場所が少数ある;Rrが0.8以上0.9未満)
△:実用上許容できるレベル(視野毎のドットの大きさに差異がある場所がある;Rrが0.6以上0.8未満)
×:使用不可(複数領域のドットの大きさが明らかに異なる;Rrが0.6未満)
【0086】
【表1】

【0087】
<画像形成装置用部材1、3,4、5、6と画像形成装置用部材2、7の比較>
画像形成装置用部材1、3,4、5、6は、画像品質の評価が良好であった。
画像形成装置用部材2は、表面層厚みが薄く、通紙試験により画像形成装置用部材表面がダメージを受け、画像品質が悪化した。
また、画像形成装置用部材7は、表面層厚みが厚くなると、画像形成装置用部材の電気抵抗が高くなり、画像形成装置用部材の接地を行っても、蓄積した電荷を十分に除電できず、画像の乱れが生じた。
上記の結果より、化学式(1)で表される繰り返し単位の高分子材料で形成された表面層厚みは、0.1μm〜5μmであることが好ましいことがわかる。
また、画像形成装置用部材1、3、4は、画像形成装置用部材5、6より画像品質が良好であることから、表面層厚みは、0.1μm〜2μmであることが、より好ましいことがわかる。
【0088】
<画像形成装置用部材8、10、11、12、13と画像形成装置用部材9、14の比較>
画像形成装置用部材8、10、11、12、13は、画像品質の評価が良好であった。
画像形成装置用部材9は、表面層厚みが薄く、通紙試験により画像形成装置用部材表面がダメージを受け、画像品質が悪化した。
画像形成装置用部材14は、表面層厚みが厚く、画像形成装置用部材の電気抵抗が高くなり、画像形成装置用部材の接地を行っても、蓄積した電荷を十分に除電できず、画像の乱れが生じた。
上記の結果より、化学式(2)で表される繰り返し単位の高分子材料で形成された表面層厚みは、0.1μm〜5μmであることが好ましいことがわかる。
また、画像形成装置用部材8、10、11は、画像形成装置用部材12、13より画像品質が良好であり、表面層厚みが0.1μm〜2μmであることが、より好ましいことがわかる。
【0089】
<画像形成装置用部材1と画像形成装置用部材8と画像形成装置用部材15の比較>
画像形成装置用部材1、画像形成装置用部材8、及び、画像形成装置用部材15は、いずれも良好な画像品質が得られていることから、化学式(1)で表される繰り返し単位と、化学式(2)で表される繰り返し単位の両方を有する高分子材料で形成された表面層においても、各々単独の繰り返し単位を有するものと同様に、良好な表面層が形成できることがわかる。
【0090】
<画像形成装置用部材1、8と画像形成装置用部材16、17の比較>
画像形成装置用部材の基体として弾性層を有しない画像形成装置用部材16,17は、実用上問題なく使用できるものの、弾性層を有する画像形成装置用部材1,8と比較して、やや定着の均一性が劣っていたため、本発明の画像形成装置用部材では、弾性層を有する基体を用いた方が、より好ましいことが分かる。
【0091】
<画像形成装置用部材1〜15と画像形成装置用部材18〜20の比較>
画像形成装置用部材18、19、20は、画像形成装置用部材1〜15と同じ基体を用いたものであるが、化学式(1)及び/または化学式(2)で表される繰り返し単位を有する高分子材料とは異なる表面層を有する画像形成装置用部材18、19および表面層を有しない画像形成装置用部材20では、初期画像または通紙試験の極初期段階で、画像の異常が発生し、全く実用できるものではなかったことから、本発明の画像形成装置用部材が良好な画像品質を得る上で特異的に有利であることがわかる。
【0092】
これらの結果より、表面層は、化学式(1)または化学式(2)で表される繰り返し単位のうちの少なくとも一方を有する高分子材料からなり、かつ、該表面層の厚さが0.1μm以上5μm以下である画像形成装置用部材、これを用いた定着装置、画像形成装置の画像品質の優位性が示された。
【符号の説明】
【0093】
1 像担持体(感光体ドラム)
3 作像機構(書き込み)
5 転写装置
7 定着装置
8 排紙トレイ
10 画像形成部
30 中間転写ベルト支持ローラ
31 中間転写ベルト支持ローラ
32 中間転写ベルト支持ローラ
33Y,M,C,K 1次転写ローラ
34 2次転写ローラ
50 中間転写ベルト
71 画像形成装置用部材
71a 表面層
71b 基体
711 支持体
712 弾性層
72 加熱手段
73 加熱ローラ
74 定着ローラ
75 加圧ローラ
76 接地手段
77 定着ニップ入口ガイド
78 定着ニップ出口ガイド
100 画像形成装置
200 給紙機構
【先行技術文献】
【特許文献】
【0094】
【特許文献1】特開昭51−40138号公報
【特許文献2】特開昭54−109845号公報
【特許文献3】特開昭55−17182号公報
【特許文献4】特開昭57−89785号公報
【特許文献5】特開昭58−2864号公報
【特許文献6】特開昭63−218983号公報
【特許文献7】特開昭64−10283号公報
【特許文献8】特開平5−72934号公報
【特許文献9】特開昭58−14174号公報
【特許文献10】特開昭62−227967号公報
【特許文献11】特開昭62−288874号公報
【特許文献12】特開昭63−213880号公報
【特許文献13】特開平4−215684号公報
【特許文献14】特開平2−264281号公報
【特許文献15】特開平10−195181号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の支持体上に少なくとも表面層を有する画像形成装置用部材であって、該表面層は、化学式(1)及び/または化学式(2)で表される構造を有する高分子材料からなり、かつ、該表面層の厚さが0.1μm以上5μm以下であることを特徴とする画像形成装置用部材。
【化1】


【化2】

化学式(1)、(2)中nは1以上の整数を表す。
【請求項2】
前記導電性支持体は、筒状のベルト部材であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置用部材。
【請求項3】
前記導電性支持体は、導電性基体上に少なくとも弾性層を設けてなるものであること特徴とする請求項1または請求項2に記載の画像形成装置用部材。
【請求項4】
該弾性層がソリッド状のシリコーンゴムよりなり、該弾性層の厚み0.1乃至2mmであることを特徴とする請求項3に記載の画像形成装置用部材。
【請求項5】
少なくとも定着部材、該定着部材と対向して記録媒体を挟持搬送する加圧部材、記録媒体上のトナー像を記録媒体に定着固定するための加熱手段を有する定着装置であって、前記定着部材が、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の画像形成装置用部材であり、該定着部材が接地していることを特徴とする定着装置。
【請求項6】
像担持体と、該像担持体を帯電する帯電装置と、上記像担持体に潜像を形成する潜像形成装置と、上記像担持体上の潜像をトナー像として可視像化する現像装置と、中間転写媒体を介して、または介さずに、記録媒体上へトナー像を転写する転写装置と、トナー像を記録媒体に定着固定化する定着装置とを有する画像形成装置において、上記定着装置が、請求項5に記載の定着装置であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−252179(P2012−252179A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124961(P2011−124961)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】