説明

画像形成装置

【課題】スタートアップ時の加熱ローラの温度を、オーバーシュートすることなく目標温度に上昇でき、とくに、熱容量が小さな加熱ローラを備えている定着装置に好適で、スタートアップ後の定着処理を適正な温度で迅速に行なえる画像形成装置を提供する。
【解決手段】定着装置に、加熱ローラ、加圧ローラ、熱源と、各ローラの表面の温度を検出する温度検出素子と、熱源の温度制御を行なう制御部を設ける。制御部は、スタートアップ時における熱源への通電時間を算出する加熱時間算出部を備えている。加熱時間算出部は、スタートアップ開始時の各ローラの温度をパラメータにして、各ローラが目標温度に達するまでの熱源に対する通電時間を算出する。このとき、予め設定された目標温度、熱源の発熱量、実測値に基づいて決定された各ローラの熱量を加味して、通電時間を算出する。制御部は決定された通電時間に従って、熱源に対する通電状態を維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置の定着装置に関し、なかでも定着装置を構成する加熱ローラの温度制御に関して改良を加えたものである。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置のスタートアップ時には、主電源を投入することでウォーミングアップが開始され、加熱ローラを定着に適した所定温度にまで加熱したのち、熱源への通電を停止する。しかし、通電を停止した後にも、加熱ローラの温度は上昇し続けることがあり、そうした場合にオーバーシュートに陥ってしまう。節電モードまたはスリープモードで待機している状態から、再びスタートアップするような場合にも同様のオーバーシュートを生じやすい。
【0003】
とくに、スタートアップ時の待機時間を短縮するために、熱容量を小さくした加熱ローラにおいてオーバーシュートを生じやすい。この種の加熱ローラでは、たとえば面状発熱体の外面を覆う金属製の外筒体を薄肉化して熱容量を小さくしており、そのため、加熱ローラの温度が僅かな時間で上昇してしまうからである。たとえば、目標温度が180℃である場合に、加熱ローラのローラ表面の温度が170℃に達した時点で熱源への通電を停止したとしても、スタートアップが終了した時の加熱ローラのローラ表面の温度は180℃を越えてしまうことがある。
【0004】
このようなオーバーシュートを解消するために、特許文献1の画像形成装置では、次のような温度制御を行なっている。まず、今回の加熱ローラの検出温度と、直前に検出された加熱ローラの検出温度との差分から、加熱温度の平均変化率を求め、得られた平均変化率から次回の制御時に目標とすべき温度を予測する。さらに、この予測温度が目標温度と一致するように熱源への通電状態をオン・オフ制御して、加熱ローラの温度が過剰になるのを防いでいる。同様にしてアンダーシュートにも対応できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−233543号公報(段落番号0028、図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の定着装置によれば、熱源による加熱ローラのオーバーシュートをある程度は解消できる。しかし、加熱ローラの熱は、加圧ローラなどにも伝導されるため、加熱温度の平均変化率から導き出した予測値にずれを生じやすい。とくに、熱しやすく冷めやすい熱特性を備えた熱容量が小さな加熱ローラでは、速やかに加熱できる反面、加熱ローラから伝導される熱量の違いによって、ローラ表面の温度が敏感に変動するため、平均変化率から予測した温度にずれを生じやすい。
【0007】
本発明の目的は、スタートアップ時の加熱ローラの温度を、オーバーシュートを伴なうこともなく目標温度に最短で上昇でき、したがってスタートアップ後の定着処理を適正な温度で迅速に行なえる画像形成装置を提供することにある。
本発明の目的は、熱容量が小さな加熱ローラを備えている定着装置において、スタートアップ時の加熱ローラの温度を目標温度まで的確に加熱できる画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る画像形成装置は定着装置3を備えている。図1に示すように、定着装置3は、加熱ローラ15および加圧ローラ16と、加熱ローラ15に設けた熱源25とを備えている。さらに、定着装置3は、加熱ローラ15の表面の温度を検出する第1温度検出素子45と、加圧ローラ16の表面の温度を検出する第2温度検出素子46と、熱源25に対する通電状態を制御する制御部47を備えている。制御部47は、スタートアップ時の熱源25に対する通電時間を算出する加熱時間算出部48を備えている。加熱時間算出部48は、スタートアップ開始時に第1温度検出素子45で検出した加熱ローラ温度と、スタートアップ開始時に第2温度検出素子46で検出した加圧ローラ温度とをパラメータにして、熱源25に対する通電時間を算出する。通電時間の算出時には、予め設定された目標温度、および熱源25の発熱量と、実測値に基づいて決定された加熱ローラ15および加圧ローラ16の熱量から、加熱ローラ15および加圧ローラ16が目標温度に達するまでの、熱源25に対する通電時間を算出する。制御部47は、熱源25に対する通電開始から通電時間が経過するまでの間、熱源25に対して通電状態を維持する。
【0009】
加熱時間算出部48は、スタートアップ開始時の加熱ローラ温度および加圧ローラ温度に対応する通電時間を求めるためのテーブルを含む。加熱時間算出部48は、テーブルを参照して通電時間を決定する。
【0010】
加熱ローラ15は、薄肉の金属筒体からなる熱容量の小さな外筒体26と、外筒体26に密着する状態で配置される熱源25とを備えている。熱源25は面状発熱体で構成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る画像形成装置の定着装置3では、スタートアップ時における加熱ローラ15の熱源25に対する通電時間を、制御部47に設けた加熱時間算出部48で算出できるようにした。また、通電時間を算出する際には、加熱ローラ温度と加圧ローラ温度をパラメータにして、目標温度、熱源25の発熱量、実測値に基づいて決定された加熱ローラ15と加圧ローラ16の熱量を加味して、通電時間を算出するようにした。
【0012】
上記のように、実測した両ローラ15・16の熱量を定数にして、熱源25に対する通電時間を加熱時間算出部48で算出すると、各ローラ15・16を任意の温度から目標温度まで加熱するのに必要な通電時間、即ち加えるべき熱量を過不足なく決定できる。実測した両ローラ15・16の熱量には、加熱ローラ15を加熱する過程で避けられない両ローラ15・16の間の熱伝導に伴なう温度変動が含まれているからである。したがって、加熱時間算出部48で決定された通電時間に従って、熱源25に対する通電状態を制御部47で維持することにより、スタートアップ時の加熱ローラ15の温度を、オーバーシュートを伴なうこともなく目標温度に最短で上昇できる。さらに、スタートアップ後の定着処理を適正な温度で迅速に行なえる。
【0013】
スタートアップ時の加熱ローラ温度および加圧ローラ温度に対応する通電時間を求めるためのテーブルを加熱時間算出部48に設けておくと、加熱時間算出部48はテーブルを参照するだけで、瞬時に熱源25に対する通電時間を決定できる。したがって、加熱ローラ15および加圧ローラ16、あるいは熱源25の温度が高く、必要とする通電時間が短い場合であっても、熱源25に対する通電時間を遅滞なく決定して、熱源25を目標温度まで的確に昇温させることができる。
【0014】
薄肉の金属筒体からなる熱容量の小さな外筒体26と、外筒体26に密着する状態で配置した熱源25を備えた加熱ローラ15によれば、外筒体26の温度が僅かな時間で上昇するので、画像形成装置のスタートアップ時間を短縮して高速化に対応できる。また、先に説明したように、熱源25に対する通電時間を過不足なく、しかも遅滞なく決定することにより、外筒体26の温度上昇率が高いにもかかわらず、加熱ローラ15がオーバーシュートに陥るのを確実に防止しながら、目標温度まで的確に加熱できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る定着装置を示す、図3におけるA−A線断面図である。
【図2】本発明に係る定着装置の適用例を示す画像形成装置の概念図である。
【図3】本発明に係る定着装置の平面図である。
【図4】温度制御処理を説明するためのフローチャートである。
【図5】制御部におけるテーブルを概念的に示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(実施例) 図1から図5に、本発明に係る画像形成装置をコピー機能とファクシミリ機能とを備えた複合機に適用した実施例を示す。なお、本発明における前後、左右、上下とは、図2および図3に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。
【0017】
図2において、複合機1は、画像形成部2、および定着装置3等が配置された本体部4と、本体部4の上部の画像読取部5などを備えており、本体部4の下側に配置した給紙カセット6と本体部4の上側の排出部7との間に記録紙の搬送路8が設けてある。搬送路8の下部に画像形成部2が、上部に定着装置3が配置してある。定着装置3に臨む本体部4の周囲壁には、サービス開口と、同開口を開閉するカバー10(図3参照)が設けてある。カバー10を開放することにより、定着装置3のメンテナンスを行なうことができ、さらに定着装置3およびその周辺の搬送路8に詰まった記録紙を取り除くことができる。
【0018】
画像形成部2は、感光ドラム11およびトナーカートリッジ12などで構成してあり、給紙カセット6から送給された記録紙に対してトナー像を転写して画像を形成する。画像読取部5の前面には、各種の操作ボタンを備えた操作パネル13が設けてあり、上面側には自動原稿搬送装置(ADF)14が設けてある。本などの綴られた原稿の画像は、画像読取部5の上面のプラテンガラスに載置した状態で読み込むことができ、さらに枚葉状の原稿は自動原稿搬送装置14を通すことにより読み込むことができる。
【0019】
図3において定着装置3は、加熱ローラ15と、加熱ローラ15の周面に外接する加圧ローラ16と、加圧ローラ16を加熱ローラ15に向かって押し付け付勢する前後一対の加圧ばね17・17などで構成する。加熱ローラ15は、ハウジング18の内面に設けた前後一対のブラケット19でベアリング20を介して回転自在に支持されてユニット部品化してある。加圧ローラ16は、先に説明したカバー10で支持してある。画像形成部2でトナー像が形成された記録紙を、加熱ローラ15と加圧ローラ16との間に通すことにより、トナー像を加熱しながら加圧して記録紙に定着することができ、定着された記録紙は排出部7へと送給される。
【0020】
図1に示すように、加熱ローラ15は、円筒状の管軸23を基体にして、その周囲に断熱筒24と、面状発熱体(熱源)25と、外筒体26とを多重筒状に配置して構成してある。管軸23は、アルミニウム合金製の管材を素材にして形成してある。外筒体26は、外直径が25mmのアルミニウム合金製の管体からなり、その筒壁の肉厚寸法は0.2mmである。断熱筒24は、シリコン発泡体を筒状に成形して形成してあり、面状発熱体25の熱が管軸23の側へ伝導するのを遮断する。図示していないが、外筒体26の外面には、定着された記録紙の剥離を促進するために、ふっ素樹脂製のシートで形成した剥離層が巻装してある。なお、図1に示す加熱ローラ15は、各部材の配置関係および相互関係を明確化するために、各部材の厚みを実際より誇張して表現してある。
【0021】
面状発熱体25は、耐熱性と電気絶縁性を備えたポリイミド製のシート基材30の片面に発熱体31を固定して形成する。発熱体31は、ステンレス製の箔にエッチングを施して、ひと筆書き状に連続するパターンとして形成してあり、通電時にジュール熱を発生する。面状発熱体25の熱容量は750Wである。面状発熱体25は、その発熱体31が断熱筒24の外周面に密着し、外面が熱容量の小さな薄肉の外筒体26に密着する状態で配置してある。したがって、面状発熱体25による外筒体26の加熱を短時間で効果的に行なうことができ、複合機1を起動する時の待機時間を短縮できる。
【0022】
加圧ローラ16は、その大半を占めるロール層33と、ロール層33を軸支するロール軸34とで構成する。ロール層33はゴムまたはプラスチックを素材とする発泡体を素材にして無端筒状に形成してある。ロール軸34の両端寄りは軸受35で回転自在に軸支してあり、さらにロール軸34の両端が、カバー10の内面に設けたガイド枠36で往復スライドのみ可能に案内してある。先の加圧ばね17は圧縮コイルばねからなり、カバー10と軸受35との間に配置されて、加圧ローラ16を加熱ローラ15へ向かって押し付け付勢する。カバー10を開放すると、加圧ローラ16がカバー10に同行して本体部4の外方へ揺動するので、加熱ローラ15から分離できる。また、開放されていたカバー10を閉止することにより、加圧ローラ16を加熱ローラ15に密着させて、両ローラ15・16の間に通紙用のニップ部37(図1参照)を構成することができる。
【0023】
図3に示すように、加熱ローラ15の両端には、絶縁ブロック40と、受電軸41と、受電軸41に外接する給電体42とが設けてあり、受電軸41および給電体42を介して発熱体31に対して電力を供給している。受電軸41と発熱体31とは、絶縁ブロック40の内部で接続してある。図3において符号43は片方の受電軸41に固定したギヤであり、このギヤ43を図示していない駆動構造で駆動することにより、加熱ローラ15を図1に矢印で示す向きへ回転駆動できる。
【0024】
スタートアップ時の加熱ローラ15のローラ表面の温度を、オーバーシュートを伴なうこともなく目標温度に制御するために、定着装置3は第1・第2の温度検出素子45・46と、面状発熱体25に対する通電状態を制御する制御部47とを備えている。目標温度は、たとえば180℃である。第1温度検出素子45はサーミスタからなり、加熱ローラ15の表面の温度を検出する。第2温度検出素子46はサーミスタからなり、加圧ローラ16の表面の温度を検出する。制御部47には、面状発熱体25への通電時間を算出する加熱時間算出部48が設けてある(図1参照)。
【0025】
図1に示すように、第1温度検出素子45は、片持ち梁状に支持した支持腕49の遊端に固定されて、支持腕49の弾性力で加熱ローラ15の表面に押し付けられている。同様に、第2温度検出素子46は、片持ち梁状に支持した支持腕50の遊端に固定されて、支持腕50の弾性力で加圧ローラ16の表面に押し付けられている。図示していないが、加熱ローラ15の表面には、加熱ローラ15が過熱状態に陥ったことを検出して、面状発熱体25への通電を遮断するサーモスタットが設けてある。
【0026】
制御部47は、通常の運転モードにおいては、面状発熱体25への通電状態をオン・オフ制御して、加熱ローラ15の表面の温度を目標温度の許容範囲内に保持する。しかし、主電源がオンされたスタートアップ時には、始動モードに従って面状発熱体25へ通電し、加熱ローラ15および加圧ローラ16の表面の温度を目標温度まで一気に上昇させる。具体的には、スタートアップ開始時の各ローラ15・16の表面の温度をパラメータにして、予め設定された目標温度と、面状発熱体25の発熱量と、実測した各ローラ15・16の熱量から、面状発熱体25に対する通電時間を加熱時間算出部48で算出する。制御部47は、加熱時間算出部48で算出された通電時間が経過するまでの間、面状発熱体25への通電状態を維持する。通電時間が経過したのちは、通常の運転モードへ移行して、面状発熱体25への通電状態をオン・オフ制御する。
【0027】
面状発熱体25に対する通電時間は、各ローラ15・16を任意の温度から目標温度まで加熱するのに要する必要熱量がわかっていれば、面状発熱体25の発熱量から逆算できる。必要熱量は熱量計算によって算出できなくはないが、加熱ローラ15および加圧ローラ16の構造および形成素材などに大きく左右され、計算結果と実測した熱量とに大きなずれを生じることが多い。そこで本発明においては、各ローラ15・16を所定の温度から目標温度まで加熱するのに要する熱量を実測し、この実測データから面状発熱体25に対する通電時間を加熱時間算出部48で算出するようにした。また、算出結果をスタートアップ開始時の各ローラ温度ごとにテーブル化して、加熱時間算出部48の記憶部に格納しておくことにより、テーブルを参照して通電時間を瞬間的に決定できるようにした。
【0028】
熱量の実測データは、以下のようにして計測した。まず、加熱ローラ15を停止した状態で面状発熱体25に通電して、加熱ローラ15の表面の温度が目標温度に上昇するまでの、面状発熱体25の消費電力量を計測した。計測前の加熱ローラ15の表面の温度は10℃とした。得られた消費電力量と、面状発熱体25の熱容量から、加熱ローラ15を目標温度に加熱するのに必要な総熱量J1を算出した。
【0029】
つぎに、加熱ローラ15の表面の温度を180℃に保った状態で、加熱ローラ15および加圧ローラ16を回転駆動して、加圧ローラ16表面の温度が目標温度に上昇するまでの、面状発熱体25の消費電力量を計測した。計測前の加圧ローラ16の表面の温度は10℃とした。得られた消費電力量と、面状発熱体25の熱容量と、加熱ローラ15の加熱に消費された熱量から、加圧ローラ16を目標温度に加熱するのに必要な総熱量J2を算出した。
【0030】
さらに、ローラ表面の温度が10℃に調整された加熱ローラ15および加圧ローラ16を回転駆動して、加熱ローラ15および加圧ローラ16の表面の温度が目標温度に上昇するまでの、面状発熱体25の消費電力量を計測した。得られた消費電力量と、面状発熱体25の熱容量とから、スタートアップ時に加熱ローラ15および加圧ローラ16を目標温度まで加熱するのに必要な総熱量(熱量)Jを算出した。なお、加熱ローラ15と加圧ローラ16は、殆ど同時に目標温度まで上昇し、両ローラ15・16が目標温度まで昇温するタイミングに実用上のずれはなかった。得られた総熱量Jは、加熱ローラ15のみを目標温度に加熱するのに必要な総熱量J1と、加圧ローラ16を目標温度に加熱するのに必要な総熱量J2との和に等しいものであった。
【0031】
上記のように総熱量Jを特定すると、面状発熱体25の熱容量から、加熱ローラ15および加圧ローラ16を、たとえば1℃昇温させるのに必要な面状発熱体25の通電時間を算出することができる。さらに、両ローラ15・16の表面の温度を第1・第2の両温度検出素子45・46で検出することにより、両ローラ15・16を任意の温度から目標温度まで上昇させるのに必要な面状発熱体25の通電時間を加熱時間算出部48で算出することができる。また、算出結果をスタートアップ時の、加熱ローラ温度および加圧ローラ温度の違いに対応してテーブル化しておくことにより、加熱時間算出部48はテーブルを参照して通電時間を瞬間的に決定できる。テーブルは、たとえば加熱時間算出部48の記憶部に格納しておく。因みに、実測した両ローラ15・16の総熱量Jには、加熱ローラ15を加熱する過程で避けられない、両ローラ15・16の間の熱伝導に伴なう温度変動が含まれている。
【0032】
図5に、加熱ローラ15および加圧ローラ16を、所定の温度から目標温度まで上昇させるのに必要な面状発熱体25の通電時間のテーブルを例示している。そこでは、両ローラ15・16の表面の温度が10℃、20℃、30℃、80℃、120℃、160℃である場合を示しており、表中のThは加熱ローラ15の表面の温度であり、Tpは加圧ローラ16の表面の温度である。実際のテーブルは、加熱ローラ温度および加圧ローラ温度の下限温度10℃)から上限温度160℃までの温度範囲において、算出された通電時間をたとえば1℃ごとに表したものとなっている。なお、加熱ローラ温度および加圧ローラ温度の下限温度が10℃未満である場合には、装置全体が冷えていてオーバーシュートを生じにくいので、従来どおりのスタートアップ制御で対応できる。また、加熱ローラ温度および加圧ローラ温度の上限温度が160℃を越える場合には、目標温度までの差が小さいため、通常の温度制御を行なっても問題はない。
【0033】
制御部47は図4に示す処理手順に従って、面状発熱体25に対する通電状態を制御する。それまで停止していた状態の複合機1の主電源をオンすると、加熱ローラ15および加圧ローラ16が回転駆動される(ステップ1)。ステップ1の実行と殆ど同時に、各ローラ15・16の表面の温度を第1・第2の温度検出素子45・46で検出する(ステップ2)。各ローラ15・16の表面の温度の検出が終了するのと同時に、面状発熱体25への通電が開始される。各温度検知素子45・46で検出した温度信号は加熱時間算出部48へ送られ、そこでテーブルを参照して面状発熱体25に対する通電時間が決定される(ステップ3)。制御部47は、面状発熱体25への通電の開始から、決定された通電時間が経過するまでの間、面状発熱体25への通電状態を維持して、加熱ローラ15および加圧ローラ16の表面温度を目標温度にまで上昇させる(ステップ4)。また、通電時間が終了するのと同時に、制御部47は面状発熱体25への通電を遮断する。以上のステップが始動モードを構成しており、以後は運転モードへ移行する。
【0034】
運転モードでは、スタートボタンがオンされたか否かを判定し(ステップ5)、判定結果がNOである場合には、加熱ローラ15および加圧ローラ16の回転を停止して、待機モードへ移行する(ステップ8)。また、判定結果がYESであれば、面状発熱体25に対する通電状態をオン・オフ制御して、加熱ローラ15を定着に適した温度に保持し(ステップ6)、送給されてきた記録紙を定着する。つぎに複合機の使用が終了したか否かを判定し、判定結果がNOであればステップ6へ戻って、再び面状発熱体25に対する温度制御を行なう。また、判定結果がYESであれば、ステップ8へ移行して加熱ローラ15の駆動を停止して待機モードへ移行する。始動モードは、基本的に複合機1の主電源がオンされた場合に実行するが、節電モード或いはスリープモードになっている複合機1を再起動する場合などにも実行される。
【0035】
以上のように構成した複合機1によれば、実測した加熱ローラ15、および加圧ローラ16の熱量を加味して、熱源25に対する通電時間を加熱時間算出部48で算出するので、熱源25に加えるべき熱量を過不足なく決定できる。実測した両ローラ15・16の熱量には、加熱ローラ15を加熱する過程で避けられない、両ローラ15・16の間の熱伝導に伴なう温度変動が既に含まれているからである。また、制御部47は、加熱時間算出部48で決定された通電時間に限って、熱源25に対する通電状態を維持したのち通電を遮断するので、スタートアップ時に、加熱ローラ15が必要以上に加熱されるのを防止してオーバーシュートを一掃できる。
【0036】
さらに、加熱ローラ温度および加圧ローラ温度に対応する通電時間を求めるためのテーブルを加熱時間算出部48に設けておくことにより、テーブルを参照するだけで瞬時に熱源25に対する通電時間を決定できる。これにより、加熱ローラ15および加圧ローラ16の熱量が小さい場合、或いは熱源25の温度が高い場合など、必要とする通電時間が短い場合であっても、熱源25に対する通電時間を遅滞なく決定して、熱源25を目標温度まで的確に昇温させることができる。薄肉に形成された熱容量が小さな外筒体26を1個の面状発熱体25で加熱するので、スタートアップ時に加熱ローラ15を加熱するのに必要な消費電力量を削減できる。
【0037】
上記の実施例では、面状発熱体25を外筒体26の内面に配置したが、その必要はなく、外筒体26の外面に配置することができる。その場合には、面状発熱体25の外面を、電気絶縁性と易剥離性を備えたシートで覆うとよい。また、加熱ローラ15は面状発熱体25以外に、ハロゲンランプ或いはニクロム線ヒーターを熱源とするものであってもよい。
【0038】
温度検出素子45はサーミスタである必要はなく、熱電対、あるいは非接触温度センサなどの温度検出素子を適用することができる。また、温度検出素子45は、加熱ローラ15の表面の任意の位置に配置することができるので、実施例で説明した配置位置には限定しない。必要があれば、複数の温度検出素子45を加熱ローラ15の表面に分散配置することができる。外筒体26はアルミニウム以外の金属、たとえばステンレス鋼を素材とする薄肉の筒体で構成することができる。
【符号の説明】
【0039】
3 定着装置
15 加熱ローラ
16 加圧ローラ
25 熱源(面状発熱体)
26 外筒体
45 第1温度検出素子
46 第2温度検出素子
47 制御部
48 加熱時間算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着装置が、加熱ローラおよび加圧ローラと、前記加熱ローラに設けた熱源と、前記加熱ローラの表面の温度を検出する第1温度検出素子と、前記加圧ローラの表面の温度を検出する第2温度検出素子と、前記熱源に対する通電状態を制御する制御部とを備えており、
前記制御部は、スタートアップ時の前記熱源に対する通電時間を算出する加熱時間算出部を備えており、
前記加熱時間算出部は、スタートアップ開始時に前記第1温度検出素子で検出した加熱ローラ温度と、スタートアップ開始時に前記第2温度検出素子で検出した加圧ローラ温度とをパラメータにして、予め設定された目標温度、および熱源の発熱量と、実測値に基づいて決定された前記加熱ローラおよび前記加圧ローラの熱量から、前記加熱ローラおよび前記加圧ローラが前記目標温度に達するまでの前記熱源に対する通電時間を算出するように構成されており、
前記制御部が、前記熱源に対する通電開始から前記通電時間が経過するまでの間、前記熱源に対して通電状態を維持することを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記加熱時間算出部は、スタートアップ時の加熱ローラ温度および加圧ローラ温度に対応する通電時間を求めるためのテーブルを含み、
前記加熱時間算出部が、前記テーブルを参照して前記通電時間を決定する請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記加熱ローラが、薄肉の金属筒体からなる熱容量の小さな外筒体と、
前記外筒体に密着する状態で配置される前記熱源とを備えており、
前記熱源が、面状発熱体で構成してある請求項1に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−53156(P2012−53156A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193970(P2010−193970)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】