説明

画像表示装置

【課題】装置を大型化することなく、スペックルを確実に抑制することができる画像表示装置を提供する。
【解決手段】本発明の画像表示装置1は、レーザ光源2R,2G,2Bと、レーザ光を被投射面上で2次元方向に走査して画像を描画する走査手段(MEMSミラー3、ガルバノミラー4)と、を備え、MEMSミラー3が、レーザ光をスクリーン7上で所定の周期で走査するレーザ光走査運動を行いつつ、レーザ光の走査周期の倍数以外の一定周期を持つ運動、レーザ光の走査周期の約数以外の一定周期を持つ運動、一定周期を持たない運動のいずれかを含むレーザ光入射角変化運動を行うことにより、走査手段からスクリーン7の所定の描画点に対するレーザ光の入射角が時間的に変化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体レーザの高出力化や青色半導体レーザの登場に伴い、レーザ光源を用いたプロジェクタが開発されている。この種のプロジェクタは、レーザ光源の波長域が狭いために色再現範囲を十分に広くすることができ、小型化や構成部品の削減も可能である。このことから、次世代のプロジェクタとして大きな可能性を秘めている。しかしながら、レーザ光源を用いたプロジェクタにおいて表示を行う際、スクリーン等の散乱体で光の干渉が生じることによって明点と暗点が縞模様あるいは斑模様に分布する、いわゆる「シンチレーション(あるいは「スペックル」とも言う)」と呼ばれる現象が発生する場合がある。
【0003】
シンチレーションは、観察者に対してぎらつき感を与え、画像鑑賞時に不快感を与えるなどの悪影響を及ぼす原因となる。特にレーザ光は干渉性が高い光であることから、シンチレーションが発生しやすい。ところが、レーザ光源に限らず、ランプ光源の場合でも近年は短アーク化によって光の干渉性が高くなっており、シンチレーションを除去する技術が重要になってきている。そこで、以下のようなシンチレーションを低減する技術が提案されている(例えば、特許文献1−3参照)。
【0004】
特許文献1には、光変調装置による1次元中間像の形成位置に、各波長に対応する回折格子を備えた光散乱素子が配置された画像生成装置が開示されている。この画像生成装置では、各波長に対応する1次元中間像の結像位置が走査光学系の走査方向と対応する方向にずれることにより、スペックルを低減することができる。また、特許文献2,3には、光を走査する際に一定周期毎に描画位置(画素の位置)を変化させる画像表示装置が開示されている。この画像表示装置では、描画位置が変わることでスペックルのパターン(模様)が変化するため、人間の目で感じるスペックルを低減することができる。
【特許文献1】特開2008−8977号公報
【特許文献2】特開2003−255252号公報
【特許文献3】特開2005−292380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1−3に記載されたスペックル低減対策には、以下のような問題点があった。
特許文献1の画像生成装置では、光散乱素子上の1次元中間像を投射する投射光学系が必要となるため、装置が大型化するという不具合があった。特に、特許文献1のような走査型の画像生成装置の場合、投射光学系は本来必要ないものである。それにも係わらず、投射光学系が存在することによって全体の光学系が複雑になり、部品点数が増えてしまう。また、特許文献2,3の装置では、たとえ一定周期毎に描画位置がずれたとしても、スクリーン上の任意の点のスペックルパターンは常に一定であるため、スペックルの低減効果は十分ではない。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、装置を大型化することなく、スペックルを確実に抑制することができる画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の画像表示装置は、レーザ光を射出する光源と、前記レーザ光を被投射面上で2次元方向に走査して画像を描画する走査手段と、を備え、前記走査手段が、前記レーザ光を前記被投射面上で所定の周期で走査させるレーザ光走査運動を行いつつ、前記レーザ光の走査周期の倍数以外の一定周期を持つ運動、前記レーザ光の走査周期の約数以外の一定周期を持つ運動、一定周期を持たない運動のいずれかを含むレーザ光入射角変化運動を行うことにより、前記走査手段から前記被投射面の所定の描画点に対する前記レーザ光の入射角が時間的に変化することを特徴とする。
【0008】
本発明の画像表示装置においては、走査手段が、レーザ光の走査を行うためのレーザ光走査運動を行いつつ、レーザ光入射角変化運動を行うため、被投射面の所定の描画点に入射するレーザ光の入射角が時間的に変化する。このとき、仮にレーザ光の走査周期の倍数や約数にあたる一定周期を持つ運動を走査手段に付与したとすると、レーザ光の走査周期と走査手段に付与した運動の周期とが同期することになる。これでは描画点によっては常に同じ角度からレーザ光が入射する場合が生じ、スペックルを完全に抑制することができない。
【0009】
これに対して、本発明の画像表示装置では、走査手段が、レーザ光入射角変化運動として、レーザ光の走査周期の倍数以外の一定周期を持つ運動、レーザ光の走査周期の約数以外の一定周期を持つ運動、一定周期を持たない運動のいずれかを行うため、レーザ光の走査周期とレーザ光入射角変化運動の周期とが常に非同期の状態となる。よって、全ての描画点に対して、時刻により異なる角度からレーザ光が入射するため、異なるスペックルパターンが生じ、それらスペックルパターンが時間的に平均化されて画像光のSN比が高められる。このようにして、本発明の画像表示装置によれば、光学系を複雑化することなく、スペックルを確実に抑制することができる。
【0010】
本発明の画像表示装置において、前記走査手段として、前記レーザ光を反射させる反射面を有するミラーを用いることができる。
この構成によれば、例えばミラーに振動を加える等の方法により、走査手段にレーザ光入射角変化運動を行わせる構成を比較的容易に実現することができる。
【0011】
本発明の画像表示装置において、前記レーザ光入射角変化運動が、前記反射面の法線方向に移動成分を持つ並進運動、もしくは、前記ミラーの走査軸線と異なる軸線上の回転軸を中心とした回転運動であることが望ましい。
この構成によれば、被投射面の所定の描画点に対するレーザ光の入射角を効果的に変化させることができる。
【0012】
本発明の画像表示装置において、前記ミラーに共振型のミラーが用いられる場合、前記レーザ光走査運動として第1共振モードの共振運動が用いられ、前記並進運動もしくは前記回転運動として前記第1共振モードと異なる第2共振モードの共振運動が用いられることが望ましい。
この構成によれば、走査手段に比較的小さなエネルギーを付与しただけで大きな振動を得ることができ、高効率の画像表示装置を実現することができる。
【0013】
第2共振モードの共振運動を用いる上記の構成において、前記レーザ光の走査に用いる前記ミラーの駆動信号の波形に前記第2共振モードの共振周波数を持つ波形が重畳された波形を持つ駆動信号が、前記走査手段に供給されることが望ましい。
本発明において、ミラーにレーザ光入射角変化運動を付与する具体的な手段としては、例えば圧電素子等の駆動手段によってミラーを振動させる構成としても良いが、上記の構成によれば、格別な駆動手段を用いることなく、走査手段に供給する駆動信号を細工するだけでミラーに上記の運動を付与することができ、合理的である。
【0014】
本発明の画像表示装置において、前記走査手段が、前記被投射面上の一方向において前記レーザ光を相対的に高速に走査する高速走査手段と、前記被投射面上の前記高速走査手段の走査方向と垂直な方向において前記レーザ光を相対的に低速に走査する低速走査手段と、を備える場合、前記高速走査手段、前記低速走査手段の少なくとも一方が前記レーザ光入射角変化運動を行う構成を採用することができる。
この構成によれば、高速走査手段、低速走査手段の2段の走査手段を用い、その少なくとも一方がレーザ光入射角変化運動を行えばよいので、運動の制御を容易かつ確実に行うことができる。
【0015】
2つの走査手段を用いる上記の構成において、前記高速走査手段、前記低速走査手段の双方が前記レーザ光入射角変化運動を行い、前記高速走査手段のレーザ光入射角変化運動の周期と前記低速走査手段のレーザ光入射角変化運動の周期とが倍数以外の関係もしくは約数以外の関係にあるか、または、前記高速走査手段のレーザ光入射角変化運動、前記低速走査手段のレーザ光入射角変化運動の少なくとも一方が一定の周期を持たないことが望ましい。
この構成によれば、高速走査手段、低速走査手段の双方がレーザ光入射角変化運動を行い、かつ、高速走査手段の運動周期と低速走査手段の運動周期とが倍数以外もしくは約数以外の関係にあるか、または、2つの走査手段のレーザ光入射角変化運動の少なくとも一方が一定の周期を持たないため、非同期状態が被投射面全体にわたって確実に維持され、スペックルをより確実に抑制することができる。
【0016】
もしくは、前記高速走査手段、前記低速走査手段のうちのいずれか一方が前記レーザ光入射角変化運動を行い、一方の走査手段が前記レーザ光入射角変化運動を行うことによって生じる前記被投射面上の描画点のずれを、前記レーザ光入射角変化運動を行っていない側の走査手段の走査の制御、もしくは、前記光源の発光タイミングによって補正することが望ましい。
本発明では、走査手段がレーザ光走査運動以外にレーザ光入射角変化運動を行うため、被投射面にレーザ光を照射したときの描画位置が正規の描画点からずれ、画像が歪むことが考えられる。これに対し、上記の構成によれば、レーザ光入射角変化運動を行っていない側の走査手段の走査の制御、または、光源の発光タイミングによって描画点のずれを補正するので、歪みのない画像を得ることができる。
【0017】
本発明の画像表示装置において、前記走査手段が、前記レーザ光を前記被投射面上の水平方向および垂直方向に走査する2軸走査手段であり、前記2軸走査手段が前記レーザ光入射角変化運動を行う構成を採用することができる。
この構成によれば、2軸走査手段を1段のみ用い、これがレーザ光入射角変化運動を行えばよいため、画像表示装置の部品の簡略化、小型化を図ることができる。
【0018】
2軸走査手段を用いる上記の構成において、前記2軸走査手段が前記レーザ光入射角変化運動を行うことによって生じる前記被投射面上の描画点のずれを、前記2軸走査手段の走査の制御、もしくは、前記光源の発光タイミングによって補正することが望ましい。
この構成によれば、上記と同様、歪みのない画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について、図1〜図5を用いて説明する。
本実施形態の画像表示装置は、赤色光、緑色光、青色光をそれぞれ射出するレーザ光源を用いてスクリーン上に画像を描画する画像表示装置であり、2段の走査手段を用いた例である。
図1は本実施形態の画像表示装置の概略構成を示す斜視図である。図2は同画像表示装置に用いられるMEMSミラーを示す斜視図である。図3はMEMSミラーに供給する駆動信号の波形を示す図である。図4はMEMSミラーがレーザ光入射角変化運動を行ったときのスクリーンへの光の入射角の変化の様子を示す図である。図5はスクリーン上の各描画点の位置を示す正面図である。なお、以下の各図面においては、各構成要素を見やすくするため、構成要素毎に寸法の比率や縮尺を変えることがある。
【0020】
本実施形態の画像表示装置1は、図1に示すように、光源部2と、MEMSミラー3(高速走査手段)と、ガルバノミラー4(低速走査手段)と、を備えている。光源部2は、赤色レーザ光(中心波長:620nm)を射出する赤色レーザ光源2Rと、緑色レーザ光(中心波長:530nm)を射出する緑色レーザ光源2Gと、青色レーザ光(中心波長:460nm)を射出する青色レーザ光源2Bと、クロスダイクロイックプリズム5と、を備えている。なお、上記の各色のレーザ光の波長は一例に過ぎない。また、クロスダイクロイックプリズム5は、各レーザ光源2R,2G,2Bから射出された各色のレーザ光を合成するものである。
【0021】
MEMSミラー3は、図1に示すように、2つの走査ミラーのうち、光源部2に近い側に設置された走査ミラーである。MEMSミラー3は、スクリーン7(被投射面)上に画像を描画する際の2方向(垂直方向V、水平方向H)の走査のうち、光源部2から射出されたレーザ光を水平方向Hに走査する水平走査用スキャナとして機能し、高速側の走査を担当する。一方、ガルバノミラー4は、2つの走査ミラーのうち、スクリーン7に近い側に設置された走査ミラーである。ガルバノミラー4は、MEMSミラー3で反射された後のレーザ光を垂直方向Vに走査する垂直走査用スキャナとして機能し、低速側の走査を担当する。
【0022】
本実施形態で用いるスクリーン7は、水平方向640×垂直方向480の画素によって形成される、いわゆるVGA(Video Graphics Array)の画像を表示可能なものとする。なお、ここで言う「スクリーン上での画素」とは、投射画像を構成する最小単位である1画素に対応した被投射面上の照射領域のことである。
【0023】
MEMSミラー3は、図2に示すように、例えばシリコン基板等から一体形成されたミラー部9と枠部10と梁部11とを備えている。ミラー部9は、円板状に形成されており、入射した光を反射させる平滑な反射面を有している。また、ミラー部9は、円板の直径方向に延在する梁部11によって枠部10の内側に回動可能に支持されている。また、図示を省略するが、ミラー部9にコイルが設けられているとともに、枠部10には磁石が設けられている。すなわち、このMEMSミラー3は、コイルに電流を流した際の電磁誘導によりミラー部9が駆動するようになっている。具体的には、コイルに正弦波状の駆動信号(電流)を供給することによりコイルがローレンツ力を受けて梁部11が捩れ、ミラー部9が梁部11を中心として所定の回転角の範囲内で回転往復運動(首振り運動)する。このミラー部9の回動がレーザ光走査運動であり、レーザ光がスクリーン7上を水平方向に走査される。なお、以下の説明では、ミラー部9が回転していないときにミラー部9の反射面と枠部の上面が同一平面にある状態の面のことを「MEMSミラーの主面」と呼ぶ。
【0024】
本実施形態では、コイルに対して単に正弦波状の駆動信号を与えるのではなく、一つの正弦波とは異なる周期を持つ他の正弦波を重畳させた波形を持つ駆動信号をMEMSミラー3のコイルに供給する。具体的には、図3に示すように、レーザ光の走査に用いる、実線W1で示した周期が短い正弦波状の駆動信号の波形に、1点鎖線W2で示した正弦波の波形を重畳させた駆動信号Sを生成し、コイルに供給する。ここで、実線W1で示した正弦波の周波数はMEMSミラー3に固有の第1共振モードの共振周波数に対応しており、1点鎖線W2で示した正弦波の周波数は第2共振モードの共振周波数に対応している。つまり、一般のMEMSミラーは、レーザ光の走査に用いる共振モード以外に複数の固有の共振モードを有しているため、本実施形態では、レーザ光の走査用の回転往復運動に用いる共振モード以外の共振モードを利用してミラー部9を振動させるということである。また、実線W1で示した正弦波の周期と1点鎖線W2で示した正弦波の周期とは、互いに倍数や約数の関係にない。
【0025】
このような駆動信号Sをコイルに供給すると、MEMSミラー3に固有の異なる2つの共振モードの共振が生じる結果、図2に示すように、上述のミラー部9の回転往復運動(矢印Aで示す方向の回転往復運動)が生じつつ、MEMSミラーの主面の法線方向へのミラー部の振動(矢印Bで示す方向の往復運動)が生じる。すなわち、ミラー部9には、MEMSミラー3の主面の法線方向、すなわちミラー部9が回転していないとき(ミラー部9の反射面が枠部10の上面と同一平面上にあるとき)の反射面の法線方向に移動成分を持つ並進運動が生じる。また、上述したように、駆動信号S中に含まれる2つの運動を生じさせるための2つの波形W1,W2の周期が倍数や約数の関係にないため、ミラー部9の回転往復運動と振動とは同期せず、常に位相がずれた状態となる。
【0026】
このとき、画像表示装置1の全体の動作を説明すると、赤色レーザ光源2R、緑色レーザ光源2G、青色レーザ光源2Bの各々から射出されたレーザ光がクロスダイクロイックプリズム5で合成され、MEMSミラー3に向けて射出される。MEMSミラー3で反射された光は、ガルバノミラー4の図4の紙面に平行な回転軸を中心とした回転運動(矢印C)によってスクリーン7上で走査される。このとき、MEMSミラー3のミラー部9は、図4の紙面に垂直な回転軸を中心として矢印A方向に回転往復運動しつつ、矢印B方向に振動しているため、レーザ光が同じ描画点P(画素)を照射する場合でも、時刻(フレーム)によってレーザ光が実線の経路L1を辿る場合と破線の経路L2を辿る場合とが生じ、スクリーン7に対する入射角が変化する。
【0027】
仮にレーザ光の回転往復運動と同期する振動をMEMSミラーに付与したとすると、描画点(画素)によっては常に同じ角度からレーザ光が入射する場合が生じ、スペックルを完全に抑制することができない。これに対して、本実施形態の画像表示装置1では、MEMSミラー3のミラー部9の回転往復運動と振動とが常に非同期の状態であるため、全ての描画点に対して時刻により異なる角度からレーザ光が入射する。そのため、異なるスペックルパターンが生じ、それらスペックルパターンが時間的に平均化されて画像光のSN比が高められる。このようにして、本実施形態の画像表示装置によれば、光学系を複雑化することなく、スペックルを確実に抑制することができる。
【0028】
また、走査手段として共振型のMEMSミラー3を備え、ミラー部9を回転往復運動させるために第1共振モードの共振運動が用いられ、ミラー部9を振動させるために第2共振モードの共振運動が用いられるため、MEMSミラーに比較的小さなエネルギーを付与しただけで大きな振動を得ることができ、高効率の画像表示装置を実現できる。さらに、ミラー部9を振動させるための電気信号を別に供給するのではなく、レーザ光走査用の駆動信号の第1共振モードの波形に第2共振モードの波形を重畳させているので、例えば圧電素子等の特別な振動付与手段を用いることなく、MEMSミラー3に供給する駆動信号を工夫するだけでミラー部9に上記の運動を付与することができ、合理的である。
【0029】
なお、ミラー部9を振動させた結果、入射角が変化するだけでなく、描画点の位置がずれることがある。本実施形態のように、前段のMEMSミラー3に高速走査のための回転往復運動以外の振動を付与する一方、後段のガルバノミラーに低速走査のための回転往復運動以外に特別の運動を付与しなかったとすると、例えば図5に示すように、スクリーン7上の各描画点が、実線で示す正規の描画点位置P1に対して破線で示す位置P2に水平方向Hにずれることになる。この場合、ずれの程度が許容範囲内であれば良いが、許容範囲を超えると画像が歪む虞がある。その場合、後段のガルバノミラー4にも前段のMEMSミラー3と同様の振動を付与するか、または各レーザ光源2R,2G,2Bの発光タイミングを微調整することによって、各描画点を正規の位置に補正することができる。本実施形態では、高速走査側のMEMSミラー3のみに振動を付与し、低速走査側のガルバノミラー4で描画位置の補正を行えるため、補正が行いやすく、精度を高めることができる。
【0030】
一つのMEMSミラーにおける各モードの共振周波数は設計時点で予め判っているため、画像表示装置1とスクリーン7との間の位置関係が決まっていれば、スクリーン7上の各描画点の位置ズレは予め計算できる。したがって、定められた制御則に従って、ガルバノミラー4の制御やレーザ光源2R,2G,2Bの発光タイミングの調整を行えば、画素ズレのない画像表示装置を実現することができる。
【0031】
[変形例1−1]
上記実施形態では、MEMSミラー3のミラー部9に反射面の法線方向の振動を付与する構成例を説明したが、その構成例に代えて、ミラー部9の走査のための回転往復運動の回転軸とは異なる回転軸を中心とした回転運動を付与する構成としても良く、その場合も上記実施形態と同様の効果が得られる。図6に示したものは、MEMSミラー3の主面において梁部11の延在方向に対して直交する方向に延在する回転軸を中心とする回転往復運動が生じている構成例である。すなわち、このMEMSミラー3の場合、レーザ光を走査するための梁部11(回転軸a)を中心としたミラー部9の回転往復運動(矢印Aで示す)が生じつつ、回転軸aに対して垂直な回転軸dを中心としたミラー部9の回転往復運動(矢印Dで示す)が生じる。回転軸dを中心としたミラー部9の回転往復運動は、上記実施形態と同様、レーザ光を走査するためのミラー部9の回転往復運動に用いる共振モードとは異なる共振モードを利用して生じさせることができる。また、その共振モードは、レーザ光を走査するための駆動信号に所定の波形を重畳させて実現できる点も上記実施形態と同様である。
【0032】
本変形例の場合、回転軸dを中心としたミラー部9の回転往復運動によって、図7に示すように、スクリーン7上の各描画点が、実線で示す正規の描画点位置P1に対して破線で示す位置P2に垂直方向Vにずれることになる。この場合、ずれの程度が許容範囲内であれば良いが、許容範囲を超えると画像が歪む虞がある。その場合、後段のガルバノミラー4の走査角度を前段のMEMSミラー3によるズレ分だけ微調整することによって、各描画点を正規の位置に補正することができる。
【0033】
なお、本変形例において、図7のように微小なズレではなく、一つの描画点が隣の描画点位置までずれるような場合には、描画点位置の補正のための後段のガルバノミラー4の制御を敢えて行わず、各レーザ光源2R,2G,2Bに供給する各描画点に対応する画像信号を並べ替え、スクリーン7上の描画点の軌跡に従って所定の描画点位置を通過するタイミングでその描画点に対応するレーザ光を照射する構成としても良い。この場合、各レーザ光源2R,2G,2Bに供給する画像信号の制御は複雑になるものの、後段のガルバノミラー4の制御は極めて容易になる。
【0034】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態について図8、図9を参照して説明する。
図8は、本実施形態の画像表示装置の全体構成を示す斜視図であり、図9は、MEMSミラーを示す正面図である。
なお、図8、図9において、第1実施形態の説明で用いた図1、図2と共通の構成要素には同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0035】
本実施形態の画像表示装置21は、図8に示すように、赤色レーザ光源2Rと、緑色レーザ光源2Gと、青色レーザ光源2Bと、クロスダイクロイックプリズム5と、MEMSミラー22(走査手段)とを備えており、レーザ光をMEMSミラー22によってスクリーン7上で2次元的に走査することにより画像を表示する。
【0036】
MEMSミラー22は、図9に示すように、ミラー部31と、第1枠部33と、第2枠部35と、第1梁部32と、第2梁部34と、を備えた共振型のミラーである。ミラー部31はx方向に延在する第1梁部32によって第1枠部33に支持され、ミラー部31を含む第1枠部33はy方向に延在する第2梁部34によって第2枠部35に支持されている。この構成により、ミラー部31を含む第1枠部33は第2梁部34を中心軸として回転往復運動し(矢印Eで示す)、レーザ光をスクリーン7上で水平方向Hに走査する(低速走査)。さらに、ミラー部31は第1枠部33に対して第1梁部32を中心軸として回転往復運動し(矢印Fで示す)、レーザ光をスクリーン7上で垂直方向Vに走査する(高速走査)。
【0037】
ここで、本実施形態の場合も第1実施形態と同様、MEMSミラー22のコイルに図3のような駆動信号を供給することにより、ミラー部31もしくは第1枠部33全体にレーザ光走査のための所定の共振モードの回転往復運動が生じるとともに、MEMSミラー22の主面の法線方向の並進運動もしくは前記回転往復運動の回転軸とは異なる軸を中心とする回転運動が生じる。
【0038】
本実施形態の画像表示装置21においても、光学系を複雑化することなく、スペックルを確実に抑制できる、といった第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0039】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば上記実施形態では、前段(高速走査)側の走査ミラーのみに並進運動や回転運動を付与する例を示したが、後段(低速走査)側の走査ミラーのみに運動を付与しても良い。その場合、描画点の位置ズレは前段側の走査ミラーの制御で補正するか、もしくはレーザ光源の発光タイミングの調整で補正すれば良い。
【0040】
または、前段、後段の双方の走査ミラーに運動を付与しても良い。その場合、前段の走査ミラーの運動の周期と後段の走査ミラーの運動の周期とが倍数以外の関係もしくは約数以外の関係にあることが望ましい。この構成によれば、各走査ミラーの運動の非同期状態が確実に維持されるため、スペックルをより確実に抑制することができる。
【0041】
また、上記実施形態では、一定の周期を持つ並進運動や回転運動を走査ミラーに付与する例を示したが、一定の周期を持たない(言い換えると、ランダムな周期を持つ)運動を走査ミラーに付与する構成としても良い。この場合、その運動はレーザ光を走査するための走査ミラーの回転往復運動とは同期することがないため、スペックルを確実に抑制することができる。
【0042】
また、上記実施形態では、走査ミラーに2つの異なる共振波形を重畳させた駆動信号を与えることで、走査ミラーにレーザ光走査以外の運動を生じさせる構成を示した。この構成に代えて、走査ミラーに与える駆動信号はレーザ光走査用の波形のみを有する信号としておき、別途、圧電素子等の振動を付与する手段を備えた構成としても良い。その他、レーザ光の走査手段としては、MEMSミラー、ガルバノミラーの他、ポリゴンミラー等を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の第1実施形態の画像表示装置を示す斜視図である。
【図2】画像表示装置に用いられるMEMSミラーを示す斜視図である。
【図3】MEMSミラーに供給する駆動信号の波形を示す図である。
【図4】MEMSミラーに運動を付与したときのスクリーンへの光の経路を示す図である。
【図5】スクリーン上の描画点の位置を示す図である。
【図6】変形例としてのMEMSミラーの動きを示す斜視図である。
【図7】図6の場合におけるスクリーン上の描画点の位置を示す図である。
【図8】本発明の第2実施形態の画像表示装置を示す斜視図である。
【図9】画像表示装置に用いられるMEMSミラーを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1,21…画像表示装置、2…光源部、2R,2G,2B…レーザ光源、3…MEMSミラー(高速走査手段)、4…ガルバノミラー(低速走査手段)、7…スクリーン(被投射面)、22…MEMSミラー(走査手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を射出する光源と、前記レーザ光を被投射面上で2次元方向に走査して画像を描画する走査手段と、を備え、
前記走査手段が、前記レーザ光を前記被投射面上で所定の周期で走査させるレーザ光走査運動を行いつつ、前記レーザ光の走査周期の倍数以外の一定周期を持つ運動、前記レーザ光の走査周期の約数以外の一定周期を持つ運動、一定周期を持たない運動のいずれかを含むレーザ光入射角変化運動を行うことにより、前記走査手段から前記被投射面の所定の描画点に対する前記レーザ光の入射角が時間的に変化することを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
前記走査手段が、前記レーザ光を反射させる反射面を有するミラーであることを特徴とする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記レーザ光入射角変化運動が、前記反射面の法線方向に移動成分を持つ並進運動、もしくは、前記ミラーの走査軸線と異なる軸線上の回転軸を中心とした回転運動であることを特徴とする請求項2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記ミラーが共振型のミラーであり、前記レーザ光走査運動として第1共振モードの共振運動が用いられ、前記並進運動もしくは前記回転運動として前記第1共振モードと異なる第2共振モードの共振運動が用いられることを特徴とする請求項3に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記レーザ光の走査に用いる前記ミラーの駆動信号の波形に前記第2共振モードの共振周波数を持つ波形が重畳された駆動信号が、前記走査手段に供給されることを特徴とする請求項4に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記走査手段が、前記被投射面上の一方向において前記レーザ光を相対的に高速に走査する高速走査手段と、前記被投射面上の前記高速走査手段の走査方向と垂直な方向において前記レーザ光を相対的に低速に走査する低速走査手段と、を備え、
前記高速走査手段、前記低速走査手段の少なくとも一方が前記レーザ光入射角変化運動を行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記高速走査手段、前記低速走査手段の双方が前記レーザ光入射角変化運動を行い、前記高速走査手段のレーザ光入射角変化運動の周期と前記低速走査手段のレーザ光入射角変化運動の周期とが倍数以外の関係もしくは約数以外の関係にあるか、または、前記高速走査手段のレーザ光入射角変化運動、前記低速走査手段のレーザ光入射角変化運動の少なくとも一方が一定周期を持たないことを特徴とする請求項6に記載の画像表示装置。
【請求項8】
前記高速走査手段、前記低速走査手段のうちのいずれか一方が前記レーザ光入射角変化運動を行い、一方の走査手段が前記レーザ光入射角変化運動を行うことによって生じる前記被投射面上の描画点のずれを、前記レーザ光入射角変化運動を行っていない側の走査手段の走査の制御、もしくは、前記光源の発光タイミングによって補正することを特徴とする請求項6に記載の画像表示装置。
【請求項9】
前記走査手段が、前記レーザ光を前記被投射面上の水平方向および垂直方向に走査する2軸走査手段であり、
前記2軸走査手段が前記レーザ光入射角変化運動を行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の画像表示装置。
【請求項10】
前記2軸走査手段が前記レーザ光入射角変化運動を行うことによって生じる前記被投射面上の描画点のずれを、前記2軸走査手段の走査の制御、もしくは、前記光源の発光タイミングによって補正することを特徴とする請求項9に記載の画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−117494(P2010−117494A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289913(P2008−289913)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】