説明

画像記録方法、及びインクと液体組成物のセット

【課題】 画像の滲み抑制効果及び画像の耐擦過性が高い画像記録方法及びインクと液体組成物のセットを提供すること。
【解決手段】 アニオン性基の作用によって分散している顔料を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる液体組成物を前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、前記液体組成物が、前記インクに対してpH緩衝能を有し、pHが5.1以上6.5以下であり、前記pH以下のpKaを有する第1の酸及び前記pHより高いpKaを有する第2の酸を含有し、前記液体組成物100g中の前記第1の酸の含有量(mol)が1.0×10−2mmol以上であり、かつ、前記液体組成物100g中の前記第2の酸の含有量(mol)が、前記第1の酸の含有量(mol)に対して、1.1倍以上であることを特徴とする画像記録方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像記録方法、及びインクと液体組成物のセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像記録方法において、画像の滲みの防止を目的に、顔料インクとインク中の顔料の分散状態を不安定化させる反応剤を含有する液体組成物を用いた2液反応システムが検討されている。この2液反応システムの中でも、酸析反応を利用した画像記録方法(以降、「酸析反応システム」という)が検討されている(特許文献1及び2)。酸析反応システムとは、インク中において、酸解離型のアニオン性基(例えば、−COO)間の静電反発力によって安定に分散している顔料が、酸性の液体組成物と混合されると、アニオン性基が酸型(例えば、−COOH)となり静電反発力を失うことで顔料の分散状態が崩れ、顔料が凝集する2液反応システムである。
【0003】
特許文献1には、顔料を含有するインクと反応剤として有機酸を含有する液体組成物を用いた画像記録方法によって、画像の光沢均一性が向上し、画像のべとつきが改善されることが開示されている。特許文献2には、アニオン性分散剤によって分散された顔料を含有するインクと、pKaが3.7〜6.5であるカルボキシル基を有するpH緩衝剤を含有するpH3.5〜5.0の液体組成物を用いた画像記録方法によって、画質が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−069715号公報
【特許文献2】特開2007−084607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、特許文献1及び2に記載の画像記録方法のような従来の酸析反応システムで得られた画像は、滲みは抑制されているものの、耐擦過性が低かった。したがって、本発明の目的は、画像の滲み抑制効果及び画像の耐擦過性を高いレベルで両立した2液反応システムの画像記録方法及びインクと液体組成物のセットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明にかかる画像記録方法は、アニオン性基の作用によって分散している顔料を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、前記液体組成物が、前記インクに対してpH緩衝能を有し、前記液体組成物の25℃におけるpHが5.1以上6.5以下であり、前記液体組成物が、前記pH以下のpKaを有する第1の酸及び前記pHより高いpKaを有する第2の酸を含有し、前記液体組成物100g中の前記第1の酸の含有量(mol)が1.0×10−2mmol以上であり、かつ、前記液体組成物100g中の前記第2の酸の含有量(mol)が、前記第1の酸の含有量(mol)に対して、1.1倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、得られる画像の滲み抑制効果及び画像の耐擦過性が高い画像記録方法及びインクと液体組成物のセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。本発明の画像記録方法は、アニオン性基の作用によって分散している顔料を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、前記液体組成物が、前記インクに対してpH緩衝能を有し、前記液体組成物の25℃におけるpHが5.1以上6.5以下であり、前記液体組成物が、前記pH以下のpKaを有する第1の酸及び前記pHより高いpKaを有する第2の酸を含有し、前記液体組成物100g中の前記第1の酸の含有量(mol)が1.0×10−2mmol以上であり、かつ、前記液体組成物100g中の前記第2の酸の含有量(mol)が、前記第1の酸の含有量(mol)に対して、1.1倍以上であることを特徴とする。尚、本発明において、pH及びpKaは25℃における値である。
【0009】
本発明者らは先ず、特許文献1及び2に記載の画像記録方法のような従来の酸析反応システムにおいて、画像の滲みは抑制されるものの、画像の耐擦過性が低くなってしまう理由について検討を行った。一般的な酸析反応システムにおいて、インク及び液体組成物は、2液が接触した際の反応性が高くなるように調製される。これは、インクと液体組成物との反応性が高くなると、記録媒体においてインクと液体組成物が接触した際に、インク中の顔料の凝集反応が素早く起きるため、画像の滲みの抑制効果が高まるからである。具体的に、インクと液体組成物との反応性を高める方法としては、液体組成物のpHを低くしたり、反応剤として強酸を使用したりする方法が用いられている。例えば、特許文献1では液体組成物のpHは0.67〜3.0であり、特許文献2では液体組成物のpHは3.5〜5.0であり、何れの液体組成物もpHが酸性領域となるように調整されている。
【0010】
しかしながら、上記インクと液体組成物との反応性を高めたような従来の酸析反応システムでは、画像の滲み抑制効果が高まる一方で、インクと液体組成物が接触した際に、その界面で急激に凝集した顔料によって、その後の凝集反応が阻害されてしまう。その結果、得られる画像の顔料層のうち、インクと液体組成物とが初期に接触することで形成される部分は顔料が強固に凝集しているものの、その部分から離れるにつれて、顔料の凝集が弱くなってしまう。具体的には、液体組成物をインクより先に付与するような場合は、インクが液体組成物と初期に接触することで形成される部分、即ち、顔料層の下部が強固に凝集し、顔料層の上部にいくにつれて顔料の凝集が弱くなる。一方、液体組成物をインクより後に付与するような場合は、同様にして顔料層の上部が強固に凝集し、顔料層の下部にいくにつれて顔料の凝集が弱くなる。このように、単にインクと液体組成物との反応性を高めたような従来の酸析反応システムでは、顔料の凝集が均一に起きないために、顔料層表面に応力が加わった際に、応力が均一に分散されず画像が脆くなってしまい、画像の耐擦過性が低くなったと考えられる。
【0011】
以上より、本発明者らは、酸析反応システムにおいて、インクと液体組成物が接触した際に、顔料の凝集が均一に起きるようにすれば、画像の耐擦過性を向上することができるのではないかと考えた。そして、「顔料が均一に凝集するように反応を制御する」という本発明の技術思想に至ったのである。そこで、本発明者らが種々の検討を行ったところ、本発明の構成により、顔料が均一に凝集するように反応を制御できることが分かった。これを以下に詳述する。
【0012】
先ず、液体組成物のpHを中性に近い酸性領域(25℃におけるpHが5.1以上6.5以下)とすることで、液体組成物とインクが接触した際のpH変化が緩やかとなるようにした。しかし、単に液体組成物のpHを中性に近い酸性領域にしただけでは、インクと液体組成物とが接触した際に、2液の混合溶液のpHが中性領域となってしまい、顔料の凝集反応が起きなくなってしまう。そこで、インクと液体組成物とが接触したとしても、2液の混合溶液のpHが酸性に維持されるように、前記中性に近い酸性領域のpHにおいてインクに対してpH緩衝作用を有する液体組成物を用いるのが効果的である。しかし、本発明者らが、そのような液体組成物とインクを用いて得られた画像を検討したところ、画像の耐擦過性は向上するものの、画像の滲みが抑制されていない場合があり、画像の滲み抑制及び画像の耐擦過性を安定して両立できなかった。本発明者らが検討したところ、これは液体組成物中に使用する酸の種類及び組合せによっては、顔料の凝集が起きにくくなってしまうためであることが分かった。
【0013】
そこで、本発明者らは液体組成物中に使用する酸のpKaと液体組成物のpHに着目して更なる検討を行った。その結果、液体組成物のpH以下のpKaを有する第1の酸と、液体組成物のpHより高いpKaを有する第2の酸のそれぞれを含有することで、安定して画像の滲み抑制及び画像の耐擦過性を両立できることが分かった。このメカニズムは以下の通りであると本発明者らは考えている。
【0014】
pHが5.1以上6.5以下の液体組成物のpH以下のpKaを有するような酸(前記第1の酸)は、強い酸でありプロトンを放出しやすい性質を有する。この第1の酸から放出されたプロトンによって、顔料を分散させている酸解離型のアニオン性基が酸型となり、顔料の分散状態が不安定化するため、顔料が凝集する。しかし、液体組成物のpH以下のpKaを有する第1の酸のみを液体組成物中に含有する場合は、プロトンを消費しきってしまうと顔料を凝集させることができなくなってしまう場合がある。そこで、液体組成物のpHより高いpKaを有するような酸(前記第2の酸)を更に含有することで、pKaの高い第2の酸からpKaの低い第1の酸へプロトンが供給されるため、上記の第1の酸から放出されたプロトンによる顔料の凝集反応が安定的に起こる。その結果、画像の耐擦過性の向上効果に加えて、顔料の凝集反応が十分に起き、画像の滲み抑制効果もある程度向上すると考えられる。
【0015】
本発明者らが更に検討したところ、第1の酸と第2の酸を特定の含有量で液体組成物中に含有する場合に、上記のそれぞれの酸による作用が特に効率的に起こり、画像の滲み抑制効果及び耐擦過性を高いレベルで両立できることが分かった。具体的には、液体組成物100g中の第1の酸の含有量(mol)が、1.0×10−2mmol以上であり、かつ、液体組成物100g中の第2の酸の含有量(mol)が、第1の酸の含有量(mol)に対して、1.1倍以上であることが必要である。液体組成物100g中の第1の酸の含有量(mol)が、1.0×10−2mmolより少ないと、顔料のアニオン性基にアタックするプロトンの絶対量が少なく、顔料の凝集反応が十分に起きず、画像の滲み抑制効果が低くなってしまう。また、液体組成物100g中の第2の酸の含有量(mol)が、第1の酸の含有量(mol)に対して、1.1倍より小さいと、第2の酸から第1の酸へ供給されるプロトン量が十分でない。そのため、上記の第1の酸から放出されたプロトンによる顔料の凝集作用が不安定となり、画像の滲み抑制効果が低くなってしまう。また、本発明者らの検討によると、液体組成物のpHが5.1より小さい場合は液体組成物の反応性が強く、顔料が均一に凝集せず、得られる画像の耐擦過性が低いことが分かった。また、pHが6.5より大きい場合は、酸性が弱く、顔料の凝集反応が十分に起きないため、得られる画像に滲みが発生した。また、中性に近い酸性領域のpH(5.1以上6.5以下)においてpH緩衝作用を有さない液体組成物を用いた場合は、上述の通り、インクと混合した際に混合溶液のpHが中性領域となってしまい、顔料の凝集反応が十分に起きず得られる画像に滲みが発生した。また、画像の耐擦過性も低かった。
【0016】
以上のメカニズムのように、本発明の各構成が相乗的に働くことで、従来の酸析反応システムでは得られなかった上記本発明の効果を達成することが可能となる。
【0017】
[画像記録方法]
本発明において、液体組成物の記録媒体への付与手段としては、インクジェット方式や塗布方式などが挙げられる。塗布方式としては、例えば、ローラーコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法などが挙げられる。また、インクの記録媒体への付与手段としては、記録信号に応じて、インクジェット方式により記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させて記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法が好ましい。特に、インクに熱エネルギーを作用させて記録ヘッドの吐出口からインクを吐出させる方式のインクジェット記録方法がより好ましい。
【0018】
また、本発明の画像記録方法は、インクを記録媒体に付与する工程(A)と、液体組成物をインクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように記録媒体に付与する工程(B)の2つの工程を有する。このとき、工程(A)の後に工程(B)を行っても、工程(B)の後に工程(A)を行っても構わない。また、同じ工程を2回以上行うような場合、例えば、工程(A)→工程(B)→工程(A)や、工程(B)→工程(A)→工程(B)でも構わない。特に、工程(B)の後に工程(A)を行う過程を含む方が画像の耐擦過性及び滲み抑制の向上効果が大きく、より好ましい。
【0019】
[インクと液体組成物のセット]
本発明のインクと液体組成物のセットは、アニオン性基の作用によって分散している顔料を含有するインク及び前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる液体組成物を有し、前記液体組成物が、前記インクに対してpH緩衝能を有し、前記液体組成物の25℃におけるpHが5.1以上6.5以下であり、前記液体組成物が、前記pH以下のpKaを有する第1の酸及び前記pHより高いpKaを有する第2の酸を含有し、前記液体組成物100g中の前記第1の酸の含有量(mol)が1.0×10−2mmol以上であり、かつ、前記液体組成物100g中の前記第2の酸の含有量(mol)が、前記第1の酸の含有量(mol)に対して、1.1倍以上であることを特徴とする。尚、セットとして液体組成物と組み合わせて用いるインクについての限定は特になく、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、ブラックインクなどを用いることができる。以下、本発明の画像記録方法及びインクと液体組成物のセットに用いる液体組成物及びインクについて説明する。
【0020】
(1)液体組成物
本発明において、「インクに対してpH緩衝能を有する液体組成物」とは、共に用いるインクと混合しても、pHが実質的に変化しない液体組成物であることを意味する。本発明において、液体組成物がインクに対してpH緩衝能を有するか否かは、以下の判定方法によって判定することができる。用いる液体組成物のpHをPとして、用いる液体組成物と用いるインクとを等質量で混合して得られる混合溶液のpHをPとしたときに、|P−P|≦1.0を満たす場合、液体組成物が「インクに対してpH緩衝能を有する」と判定する。尚、後述する実施例では、液体組成物のpHは、pHメータ F−21(堀場製作所製)を用いて測定した。
【0021】
また、本発明において、「インク中の顔料の分散状態を不安定化させる液体組成物」とは、以下の判定方法を行った際に、DとDの比(D/D)が1.3以上となる液体組成物であることを意味する。前記判定方法は以下の通りである。先ず、用いるインクをレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2(堀場製作所製)を用いて、試料の屈折率1.5、分散媒(水)の屈折率1.333、反復回数15回の条件で平均粒径(体積基準の平均粒径D50)を測定し、この値をDとする。更にインクを、質量比率で0.5倍量の液体組成物と混合した後、同様にしてD50を測定し、この値をDとする。このとき、DとDの比(D/D)が1.3以上である場合、液体組成物が「インク中の顔料の分散状態を不安定化させる液体組成物である」と判定する。
【0022】
また、本発明の画像記録方法及びインクと液体組成物のセットに用いる液体組成物は、インクで記録した画像に影響を及ぼさないために、無色、乳白色、又は白色であることが好ましい。そのため、可視光の波長域である400nm乃至800nmの波長域における最大吸光度と最小吸光度の比(最大吸光度/最小吸光度)が1.0以上2.0以下であることが好ましい。これは、可視光の波長域において、吸光度のピークを実質的に有さないか、有していてもピークの強度が極めて小さいことを意味する。更に、本発明において、液体組成物は色材を含有しないことが好ましい。後述する本発明の実施例では、上記の吸光度は、非希釈の液体組成物を用いて、日立ダブルビーム分光光度計U−2900(日立ハイテクノロジーズ製)によって測定した。尚、このとき、液体組成物を希釈して吸光度を測定してもよい。これは、液体組成物の最大吸光度と最小吸光度の値は共に希釈倍率に比例するため、最大吸光度と最小吸光度の比(最大吸光度/最小吸光度)の値は希釈倍率に依存しないからである。
【0023】
また、液体組成物の25℃における粘度が1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましく、2.0mPa・s以上8.0mPa・s以下であることがより好ましい。尚、本発明において液体の粘度は、円錐平板型回転粘度計RE80L(東機産業製)を用いて、50rpm/minの条件で測定した値を用いるものとする。更に、本発明に用いる液体組成物の表面張力は、25.0mN/m以上50.0mN/m以下であることが好ましい。また、液体組成物のpHはより好ましくは、5.1以上6.0未満である。
【0024】
以下、本発明の画像記録方法及びインクと液体組成物のセットに使用する液体組成物を構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0025】
<酸>
本発明の画像記録方法及びインクと液体組成物のセットに用いる液体組成物は、液体組成物のpH以下のpKaを有する第1の酸及びpHより高いpKaを有する第2の酸の2種の酸を含有する。本発明において液体組成物に用いる酸は、本発明の要件を満たすように、一般的に用いられている酸の中から選択すればよい。
【0026】
酸の中でも2価以上の酸はその価数の酸性基に由来する複数段階の電離を示すため、複数のpKaを有する。本発明において、このように複数のpKaを有する場合は、それぞれのpKaに対応した酸型(又は、塩型)ごとに、異なる酸として扱うものとする。具体的には、以下の通りである。例えば、2価の酸であるマレイン酸は、2段階の電離に対応して、2つのpKa(それぞれpKa=1.9、pKa=6.2とする)を有する。これらの2つのpKaはそれぞれ、pKaはHOOC−CHCH−COOHに、pKaはMOOC−CHCH−COOH(Mは、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである)に対応している。尚、本発明においては、便宜的に、前者をマレイン酸(2H型)、後者をマレイン酸(1M1H型)と呼ぶものとする。マレイン酸を液体組成物中に含有した場合、一部はpKaが1.9であるマレイン酸(2H型)となり、一部はpKaが6.2であるマレイン酸(1M1H型)となる。このときの液体組成物のpHを6.0としたとき、マレイン酸(2H型)は第1の酸として、マレイン酸(1M1H型)は第2の酸として扱うものとする。本発明に用いることができる代表的な酸の種類と、そのpKaの値を表1に示す。尚、25℃における酸のpKaは、それぞれの酸に固有の値であるから、表1に記載のない酸については文献値を参照すればよい。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明においては、液体組成物のpHは、5.1以上6.5以下の範囲であるので、液体組成物のpH以下のpKaを有する第1の酸としては、例えば、クエン酸(1M2H型)、酒石酸(1M1H型)、イタコン酸(2H型)、β−アラニン、リンゴ酸(2H型)、クエン酸(3H型)、酒石酸(2H型)、マロン酸(2H型)、ピロリン酸(1M3H型)、グリシン、リン酸(3H型)、マレイン酸(2H型)、亜硫酸(2H型)、リン酸エチル(2H型)、リン酸メチル(2H型)、ピロリン酸(4H型)、タウリン、グルタル酸(2H型)が挙げられる。一方、液体組成物のpHより高いpKaを有する第2の酸としては、例えば、リン酸(2M1H型)、ピロリン酸(3M1H型)、亜硫酸(1M1H型)、リン酸(1M2H型)、リン酸エチル(1M1H型)、ピロリン酸(2M2H型)が挙げられる。
【0029】
(酸の含有量)
本発明において、上述の通り、液体組成物100g中の第1の酸の含有量(mol)は、1.0×10−2mmol以上である必要がある。更には、液体組成物100g中の第1の酸の含有量(mol)は、1.0×10−1mmol以上であることが好ましい。また、液体組成物100g中の第1の酸の含有量(mol)は、8.6×10mmol以下であることがより好ましい。8.6×10mmolより大きいと、顔料のアニオン性基をアタックするプロトンの量が多いことで、顔料の凝集反応が急激に起き、画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0030】
液体組成物100g中の第2の酸の含有量(mol)は、7.5×10mmol以上であることが好ましい。また、2.0×10mmol以下であることが好ましい。
【0031】
また、液体組成物100g中の第2の酸の含有量(mol)が、第1の酸の含有量(mol)に対して、1.1倍以上であることが必要である。更には、2.1倍以上であることが好ましい。また、液体組成物100g中の第2の酸の含有量(mol)が、第1の酸の含有量(mol)に対して、4.0×10倍以下であることがより好ましい。4.0×10倍より大きいと、第2の酸から第1の酸へ供給されるプロトンの量に対して、顔料のアニオン性基をアタックするプロトンの量が少ないため、顔料の凝集反応が弱くなり、画像の滲み抑制及び画像の耐擦過性の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0032】
また、液体組成物100g中の第1の酸と第2の酸の合計の含有量が5.0×10mmol以上であることが好ましい。第1の酸と第2の酸の合計の含有量が5.0×10mmolより小さいと、液体組成物が含有する酸の量が少なく、顔料の凝集作用が弱くなり、画像の滲み抑制の向上効果が十分に得られない場合がある。また、液体組成物100g中の第1の酸と第2の酸の合計の含有量が2.2×10mmol以下であることが好ましい。第1の酸と第2の酸の合計の含有量が2.2×10mmolより大きいと、酸が析出して装置内に固着てしまう場合がある。液体組成物の付与方法がインクジェット方式の場合は、液体組成物の吐出安定性が十分に得られない場合がある。
【0033】
本発明において、液体組成物のpH以下のpKaを有する第1の酸の含有量(液体組成物100g中のmol量)及び液体組成物のpHより高いpKaを有する第2の酸の含有量(液体組成物100g中のmol量)は以下の方法で算出することができる。
【0034】
液体組成物を調製する際に使用する酸の種類を、酸A(価数:x)とする。このとき、酸Aはx段階の電離のそれぞれに対応したx個のpKa(それぞれ、pKa、pKa、pKa・・・pKaとする)を有する。酸Aの1段階目の電離(酸解離定数:pKa)により発生するアニオンをA−1、2段階目の電離(酸解離定数:pKa)により発生するアニオンをA−2、3段階目の電離(酸解離定数:pKa)により発生するアニオンをA−3、・・・x段階目の電離(酸解離定数:pKa)により発生するアニオンをA−xとすると、液体組成物100g中のn段階目の電離により発生するアニオンA−nのmol量([A−n])は以下の式により算出することができる。尚、式中において、Wは酸Aの調製時の添加量(質量%)、Mは酸Aの分子量を表す。また、[H]は、液体組成物中の水素イオン濃度であり、液体組成物のpHから、pH=−log10[H]の関係式を用いて算出することができる。
【0035】
【数1】

【0036】
上記式により、各アニオンの液体組成物100g中のmol量を算出し、液体組成物のpH以下のpKaを有するアニオンのmol量の合計が本発明における「液体組成物100g中の第1の酸の含有量(mol)」となる。また、液体組成物のpHより高いpKaを有するアニオンのmol量の合計が本発明における「液体組成物100g中の第2の酸の含有量(mol)」となる。尚、成分が未知の液体組成物について、酸の種類や添加量(質量%)を分析する方法については、(酸の種類及び添加量の分析方法)に後述する。
【0037】
(酸の種類及び添加量の分析方法)
成分が未知の液体組成物について、含まれる酸の種類及びその添加量(質量%)は以下の方法で分析することができる。まず、液体組成物中に、含まれる酸の種類及びその添加量(質量%)は、液体クロマトグラフ質量分析(LC/MS)、核磁気共鳴法(NMR)、及びフーリエ変換型赤外分光光度計(FT−IR)を用いて特定することができる。具体的には、多数の成分を含む液体組成物に対して、液体クロマトグラフ部(LC)でこれらの成分を分離した後、質量分析部(MS)でどのような分子量の成分が含まれるかの分析を行う。更に、分離した各成分について、NMR及びFT−IRを用いることで、液体組成物が含有する酸の種類を特定することができる。液体組成物が含有する酸の種類が特定されれば、その添加量(質量%)は、種類を特定した酸それぞれについて検量線を求めることで特定することができる。具体的には、種類を特定した酸について、何段階かの濃度の試料を用意し、それらの濃度に対するLC/MSの出力結果との関係を回帰分析することで検量線を求める。この検量線を利用することで種類を特定した酸それぞれの濃度、即ち、添加量(質量%)を特定することができる。
【0038】
<水性媒体>
本発明に用いる液体組成物は、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。液体組成物中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、従来、一般的に用いられているものを何れも用いることができる。例えば、アルコール類、グリコール類、アルキレン基の炭素原子数が2乃至6のアルキレングリコール類、ポリエチレングリコール類、含窒素化合物類、含硫黄化合物類などが挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、必要に応じて1種又は2種以上を用いることができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。液体組成物中の水の含有量(質量%)は、液体組成物全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。
【0039】
<その他の成分>
本発明に用いる液体組成物は、上記の成分以外にも必要に応じて、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類や、尿素、エチレン尿素などの尿素誘導体など、常温で固体の水溶性有機化合物を含有してもよい。更に、本発明に用いる液体組成物は、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤、及び樹脂などの種々の添加剤を含有してもよい。
【0040】
(2)インク
本発明の画像記録方法及びインクと液体組成物のセットに使用するインクは、アニオン性基の作用によって分散している顔料を含有する。本発明において、インクのpHは7.5以上11.0以下であることが好ましい。更には、インクのpHは7.5以上9.5以下であることが好ましい。また、液体組成物のpHより、インクのpHが2.0以上高いことが更に好ましい。また、インクの25℃における粘度が1.0mPa・s以上10.0mPa・s以下であることが好ましく、2.0mPa・s以上8.0mPa・s以下であることがより好ましい。また、本発明に用いるインクの表面張力は、20.0mN/m以上45.0mN/m以下であることが好ましい。以下、本発明の画像記録方法及びインクと液体組成物のセットに使用するインクを構成する各成分について、それぞれ説明する。
【0041】
<アニオン性基の作用によって分散している顔料>
本発明において、アニオン性基の作用によって顔料が分散するには、インク中においてアニオン性基の少なくとも一部は酸解離型として存在する必要がある。したがって、アニオン性基の酸解離定数pKaが、インクのpHより小さいことが求められる。更には、本発明において、インクのpHが7.0以上11.0以下であり、かつ、アニオン性基のpKaが4.0以上5.0以下であることが好ましい。
【0042】
本発明において、インクに使用することのできる顔料としては、カーボンブラックなどの無機顔料及び有機顔料が挙げられ、インクに使用可能なものとして公知の顔料を何れも使用することができる。インク中の顔料の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上15.0質量%以下、更には、1.0質量%以上10.0質量%以下であることが好ましい。
【0043】
本発明においてアニオン性基の作用によって顔料を分散させる方法としては、分散剤としてアニオン性基を有する樹脂を用いる樹脂分散タイプの顔料(アニオン性基を有する樹脂分散剤を使用した樹脂分散顔料、顔料粒子の表面をアニオン性基を有する樹脂で被覆したマイクロカプセル顔料、顔料粒子の表面にアニオン性基を有する樹脂を含む有機基が化学的に結合した樹脂結合型自己分散顔料)や、顔料粒子の表面にアニオン性基が直接又は他の原子団を介して結合した自己分散タイプの顔料(自己分散顔料)が挙げられる。無論、分散方法の異なる顔料を併用することも可能である。
【0044】
本発明において、インクに使用する顔料が樹脂分散タイプの顔料であるときは、アニオン性基を有する樹脂を分散剤として用いる。アニオン性基を有する樹脂としては、アクリル酸やメタクリル酸などカルボキシル基を有するモノマーを用いて重合したアクリル樹脂;ジメチロールプロピオン酸などアニオン性基を有するジオールを用いて重合したウレタン樹脂などが挙げられる。本発明において、樹脂分散タイプの顔料を用いる場合は、樹脂は親水性部位と疎水性部位を共に有することが好ましい。また、樹脂の酸価は50mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることが好ましい。また、樹脂のGPCにより得られるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上15,000以下であることが好ましい。また、インク中の樹脂の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、0.1質量%以上10.0質量%以下、更には、0.2質量%以上4.0質量%以下であることが好ましい。また、インク中の、樹脂の含有量(質量%)が、顔料の含有量(質量%)に対して、質量比率で0.1倍以上1.0倍以下であることが好ましい。
【0045】
本発明において、インクに使用する顔料が自己分散顔料であるときは、顔料表面に直接、又は、他の原子団(−R−)を介して、アニオン性基が化学的に結合しているものを用いることができる。アニオン性基としては、例えば、COOM基、SOM基、POHM基、PO基、SONH基、及びSONHCOR基などが挙げられる。尚、上記式中、Mは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムである。また、前記他の原子団(−R−)としては、炭素原子数1乃至12のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基、又は置換若しくは未置換のナフチレン基などが挙げられる。尚、本発明において、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化するのであれば、インク中のアニオン性基の量やインクの付与量などは、本発明の効果には大きく影響しない。
【0046】
<水性媒体及びその他の成分>
インクには、水、又は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である水性媒体を用いることができる。インク中の水溶性有機溶剤の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、3.0質量%以上50.0質量%以下であることが好ましい。更には、3.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましい。水溶性有機溶剤としては、上記の液体組成物に使用可能なものとして挙げた水溶性有機溶剤と同様のものを使用することができる。水は脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。インク中の水の含有量(質量%)は、インク全質量を基準として、50.0質量%以上95.0質量%以下であることが好ましい。また、インクには、上記の液体組成物に使用可能なものとして挙げたその他の成分と同様のものを使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を更に詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
[液体組成物の調製]
下記の成分を混合した。尚、イオン交換水の残部は、液体組成物を構成する全成分の合計が100.0質量%となる量のことである。
・酸 表2参照
・グリセリン 5.0質量%
・界面活性剤:アセチレノールE100(川研ファインケミカル製) 1.0質量%
・防腐剤:プロキセルGXL(アビシア製) 0.2質量%
・イオン交換水 残部
【0049】
これを十分撹拌して分散し、ポアサイズ3.0μmのフィルター(富士フイルム製)でろ過し、液体組成物を調製した。更に、10質量%水酸化カリウム水溶液を適宜加えることで、表2に記載のpH(P)となるように調製した。尚、液体組成物のpH(P)の測定は、pHメータ F−21(堀場製作所製)を用い、25℃で行った。上記で得られた液体組成物について、400nm乃至800nmの波長域における最大吸光度Amaxと最小吸光度Aminを日立ダブルビーム分光光度計U−2900によって測定し、比Amax/Aminを算出した。その結果、何れの液体組成物も1.0以上2.0以下であった。また、液体組成物100g中の第1の酸の含有量X(mmol)及び第2の酸の含有量Y(mmol)は、上述の方法で算出した。また、得られたX及びYの値から、Y/X、X+Yを計算した。
【0050】
【表2】

【0051】
[インクの調製]
<顔料分散体の調製>
(顔料分散体A)
樹脂分散剤として、酸価が100mgKOH/g、重量平均分子量が7,000のビニルアルコール−スチレン−アクリル酸共重合体を用いたアニオン性樹脂分散カーボンブラック分散体を調製し、顔料分散体Aとした。得られた顔料分散体Aの顔料の含有量は15.0質量%、樹脂の含有量は7.5質量%、顔料の体積平均粒径は110nmであった。
【0052】
(顔料分散体B)
樹脂分散剤として、酸価が150mgKOH/g、重量平均分子量9,000のスチレン−アクリル酸共重合体を用いたアニオン性樹脂分散カーボンブラック分散体を調製し、顔料分散体Bとした。得られた顔料分散体Bの顔料の含有量は15.0質量%、樹脂の含有量は4.0質量%、顔料の体積平均粒径は150nmであった。
【0053】
(顔料分散体C)
カーボンブラックの表面にスルホフェニル基が結合したアニオン性自己分散カーボンブラック顔料であるCab−O−Jet200(Cabot製)を顔料分散体C(顔料の含有量は15.0質量%)として用いた。顔料の体積平均粒径は135nmであった。
【0054】
(顔料分散体D)
カーボンブラックの表面にカルボキシルフェニル基が結合したアニオン性自己分散カーボンブラック顔料であるCab−O−Jet300(Cabot製)に、更に水を加えて顔料分散体D(顔料の含有量は15.0質量%)として用いた。顔料の体積平均粒径は130nmであった。
【0055】
<樹脂微粒子分散液の調製>
酸価が100mgKOH/g、重量平均分子量が8,000、体積平均粒径が150nmのメタクリル酸グリシジル−メタクリル酸の樹脂微粒子を合成した。樹脂微粒子のアニオン性基の中和率がモル基準で100%となるように水酸化カリウム水溶液を加え、更に適量のイオン交換水を加え、固形分30.0質量%の樹脂微粒子分散液を得た。
【0056】
<インクの調製>
上記で得られた顔料分散体、樹脂微粒子分散液を下記の組成で混合した。尚、イオン交換水の残部は、インクを構成する全成分の合計が100.0質量%となる量のことである。
・顔料分散体(顔料の含有量は15.0質量%) 20.0質量%
・樹脂微粒子分散液(樹脂の含有量は30.0質量%) 表3参照
・グリセリン 5.0質量%
・2−ピロリドン 10.0質量%
・ポリエチレングリコール(数平均分子量:600) 5.0質量%
・界面活性剤:アセチレノールE100(川研ファインケミカル製) 1.0質量%
・防腐剤:プロキセルGXL(アビシア製) 0.2質量%
・イオン交換水 残部
【0057】
これを十分撹拌して分散し、ポアサイズ1.2μmのフィルター(富士フイルム製)でろ過し、インクを調製した。更に、10質量%硫酸水溶液又は10質量%水酸化カリウム水溶液を適宜加えることで、表3に記載のpHとなるように調製した。尚、インクのpHの測定は、pHメータ F−21(堀場製作所製)を用い、25℃で行った。
【0058】
【表3】

【0059】
[評価]
上記で得られた液体組成物及びインクを、それぞれカートリッジに充填し、表4に示す組合せでセットとし、インクジェット記録装置PIXUS Pro9500(キヤノン製)に装着した。このとき、シアンの位置にインクを、フォトマゼンタの位置に液体組成物を装着した。そして、液体組成物を記録媒体であるオーロラコート(日本製紙製)に付与し、その後、インクを前記記録媒体の前記液体組成物を付与した領域に重ねて付与した。そして、インクの記録デューティが100%及び液体組成物の記録デューティが100%の画像(5cm×15cm)を作成した。得られた画像を常温で24時間保存した後、以下の評価を行った。尚、記録条件は、温度:23℃、相対湿度:55%とした。また、上記インクジェット記録装置では、解像度600dpi×600dpiで1/600インチ×1/600インチの単位領域に3.5ng(ナノグラム)のインク滴を8ドット付与する条件を、記録デューティが100%であると定義される。
【0060】
(インクに対してpH緩衝能を有する液体組成物であるか否かの確認)
表4に示す組合せでセットとしたインクと液体組成物を等質量で混合して混合溶液を得た。この混合溶液のpH(P)をpHメータ F−21(堀場製作所製)を用い、25℃で測定した。この値(P)と上記で測定した液体組成物のpH(P)を用いて、|P−P|を算出した。このとき|P−P|≦1.0を満たす場合、インクに対してpH緩衝能を有する液体組成物であると判断した。評価基準は以下の通りである。尚、下記の各評価項目の評価基準において、OKが許容できるレベルとし、NGは許容できないレベルとした。評価結果を表4に示す。
OK:|P−P|≦1.0であり、インクに対してpH緩衝能を有する液体組成物であった
NG:|P−P|>1.0であり、インクに対してpH緩衝能を有さない液体組成物であった。
【0061】
(液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化するか否かの確認)
インクをレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2(堀場製作所製)を用いて、試料の屈折率1.5、分散媒(水)の屈折率1.333、反復回数15回の条件でD50を測定し、この値をDとした。更に、表4に示す組合せでセットとしたインクと液体組成物について、インクを質量比率で0.5倍量の液体組成物と混合した後、同様にD50を測定し、この値をDとした。このとき、DとDの比(D/D)が1.3以上である場合、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化したと判断した。評価基準は以下の通りである。尚、下記の各評価項目の評価基準において、OKが許容できるレベルとし、NGは許容できないレベルとした。評価結果を表4に示す。
OK:D/D≧1.3であり、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化した
NG:D/D<1.3であり、液体組成物によってインク中の顔料の分散状態が不安定化しなかった。
【0062】
(画像の滲み抑制)
上記で得られた画像の輪郭を目視で確認することで、画像の滲み抑制の評価を行った。画像の滲み抑制の評価基準は以下の通りである。尚、下記の各評価項目の評価基準において、A〜Bが許容できるレベルとし、Cは許容できないレベルとした。評価結果を表4に示す。
A:画像の輪郭が滲んでいなかった
B:画像の輪郭がわずかに滲んでいたが、目立たないレベルであった
C:画像の輪郭が滲んでいた。
【0063】
(画像の耐擦過性)
上記で得られた画像の耐擦過性の評価を、JIS L 0849に準拠して以下の通り行った。具体的には、学振形染色摩擦堅ろう度試験機(安田機械製作所製)の曲面上に画像を配置し、画像を作製するのに使用した記録媒体であるオーロラコートを摩擦子に固定した。そして、固定した記録媒体を5.0Nの荷重で、50回往復摩擦する擦過試験を行った。擦過試験前後の画像を目視で比較することで、画像の耐擦過性の評価を行った。画像の耐擦過性の評価基準は以下の通りである。尚、下記の各評価項目の評価基準において、AA〜Bが許容できるレベルとし、Cは許容できないレベルとした。評価結果を表4に示す。
AA:擦過試験後の画像において、傷が見られなかった
A:擦過試験後の画像において、傷がほとんど見られなかった
B:擦過試験後の画像において、わずかな傷が見られたが、目立たないレベルであった
C:擦過試験後の画像において、傷が見られた。
【0064】
【表4】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基の作用によって分散している顔料を含有するインクを記録媒体に付与する工程、及び、前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる液体組成物を、前記インクを付与する領域と少なくとも一部で重なるように前記記録媒体に付与する工程を有する画像記録方法であって、
前記液体組成物が、前記インクに対してpH緩衝能を有し、
前記液体組成物の25℃におけるpHが5.1以上6.5以下であり、
前記液体組成物が、前記pH以下のpKaを有する第1の酸及び前記pHより高いpKaを有する第2の酸を含有し、
前記液体組成物100g中の前記第1の酸の含有量(mol)が1.0×10−2mmol以上であり、かつ、前記液体組成物100g中の前記第2の酸の含有量(mol)が、前記第1の酸の含有量(mol)に対して、1.1倍以上であることを特徴とする画像記録方法。
【請求項2】
前記液体組成物100g中の前記第1の酸の含有量(mol)が8.6×10mmol以下である請求項1に記載の画像記録方法。
【請求項3】
前記液体組成物100g中の前記第2の酸の含有量(mol)が、前記第1の酸の含有量(mol)に対して、4.0×10倍以下である請求項1又は2に記載の画像記録方法。
【請求項4】
アニオン性基の作用によって分散している顔料を含有するインク及び前記インク中の前記顔料の分散状態を不安定化させる液体組成物を有する、インクと液体組成物のセットであって、
前記液体組成物が、前記インクに対してpH緩衝能を有し、
前記液体組成物の25℃におけるpHが5.1以上6.5以下であり、
前記液体組成物が、前記pH以下のpKaを有する第1の酸及び前記pHより高いpKaを有する第2の酸を含有し、
前記液体組成物100g中の前記第1の酸の含有量(mol)が1.0×10−2mmol以上であり、かつ、前記液体組成物100g中の前記第2の酸の含有量(mol)が、前記第1の酸の含有量(mol)に対して、1.1倍以上であることを特徴とするインクと液体組成物のセット。


【公開番号】特開2013−103355(P2013−103355A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246926(P2011−246926)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】