画像読み取り装置及び画像形成装置
【課題】装置の大型化やコストアップ、基準板の色数増加、回路構成の複雑化などを軽減しつつ、有彩色の主走査方向における読み取り輝度のムラを低減する。
【解決手段】画像読み取り装置は、原稿に光を照射する光源と、原稿からの反射散乱光を複数枚の平面ミラー及び結像ミラーで集光して結像する結像ユニットと、結像ユニットにより結像された反射散乱光を電気信号に変換する光電変換ユニットとを備える。結像ユニットは、画像読み取り装置の主走査方向の端部における分光特性と、主走査方向の中央部における分光特性との差が光源のピーク波長において5%以内となるように調整された結像光学系である。
【解決手段】画像読み取り装置は、原稿に光を照射する光源と、原稿からの反射散乱光を複数枚の平面ミラー及び結像ミラーで集光して結像する結像ユニットと、結像ユニットにより結像された反射散乱光を電気信号に変換する光電変換ユニットとを備える。結像ユニットは、画像読み取り装置の主走査方向の端部における分光特性と、主走査方向の中央部における分光特性との差が光源のピーク波長において5%以内となるように調整された結像光学系である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置とともに使用される画像読み取り装置及び単体で使用される画像読み取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディジタル複写機等に搭載される画像読み取り装置は、結像レンズ、ラインセンサ及び反射ミラーを備えている(特許文献1)。結像レンズ及びラインセンサは筐体に固定されている。一方、反射ミラーは、移動可能な走査ユニットに搭載され、原稿に対して副走査方向に移動する。特許文献1に記載された画像読み取り装置では、一般に、最大画角が20°程度になるように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−113961号公報
【特許文献2】特開2004−126448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図29は、画像読み取り装置における画角を説明するための平面図である。図の縦方向は、画像読み取り装置にける主走査方向に対応している。また、図の横方向は、副走査方向に対応している。反射ミラー522で反射される原稿画像の反射角は、主走査方向の端部と中央部で異なる。つまり、反射ミラー522のうち主走査方向の端部では、光を結像レンズ525に集光させるために、所定の角度θで光を反射する。この角度θのことを画角と言う。一方、主走査方向の中央に向かうにつれて、画角は、徐々に小さくなって行く。とりわけ、主走査方向の中央で画角θは0度となる。このように、原稿画像の画角は、反射ミラー522のどの位置で反射されるかに応じて異なっている。
【0005】
ところで、近年になり、画像読み取り装置の小型化が注目されるようになってきている。特許文献2によれば、結像素子として、オフアキシャル反射面が形成された複数のミラーにより結像させるオフアキシャル結像ユニットを採用することで、装置の小型化を図った画像読み取り装置が提案されている。オフアキシャル反射面は、基準軸光線の入射方向と反射方向が異なり、かつ、曲率を有した反射面のことである。
【0006】
ただし、大型の画像読み取り装置であっても、小型の画像読み取り装置であっても、光量ムラを補正するためのシェーディング補正が必要となる。一般に、カラー画像読み取り装置では、ラインセンサの光電変換素子上に、赤(R)、緑(G)及び青(B)の光成分をそれぞれ通過する3つのカラーフィルタを設けている。この3色のフィルタからの各透過光をRGBラインセンサで受光して光電変換を行うことにより、RGBの読み取り輝度信号を得る。一般に、光源の照度にはばらつきがあり、しかも結像レンズや結像ミラーには周辺光量の低下が存在するため、結像面での照度にムラ(シェーディング)が発生する。それゆえ、シェーディング補正が必要となる。
【0007】
一般に、シェーディング補正では、原稿を読み取る直前に、白色基準板をセンサにより読み取り、この読み取り結果に基づいてゲインやオフセットを画素ごとに調整する。
【0008】
しかし、白基準板を用いてシェーディング補正できるのは、光源の照度ムラや結像レンズの周辺光量低下など、読み取り光学系の分光特性(分光光学特性)に関連しない光量の変動に限られる。すなわち、反射ミラーや結像ミラー、結像レンズの画角の違いによる分光特性の変化の影響については補正できない。
【0009】
図30は、画角の違いに応じた反射ミラーの分光特性を示した図である。横軸に波長、縦軸に反射率を示している。図30によれば、画角が大きくなると、全体的に短波長側に分光特性がシフトしていることがわかる。
【0010】
このように、画角による分光特性の変化は、原稿画像が反射ミラー、結像ミラー、結像レンズに入射する際の画角に依存している。そのため、画角が大きいほど、その分光特性の変化も大きくなる。なお、読み取り光学系全体での分光特性は、読み取り光学系を構成する全素子の分光特性の積として与えられる。よって、シェーディング補正時には、白基準板の分光特性に光学系全体の画角による分光特性変化が影響することになる。
【0011】
とりわけ、原稿からの反射光が白基準板の白色に似た分光特性を持つ色(白や黒、グレーなどの無彩色)の光の場合は、たしかに、シェーディング補正の効果が得られる。しかし、原稿からの反射光が有彩色光の場合は、シェーディング補正を行っても、主走査方向の読み取り輝度にムラが発生する。これは、白色光を構成するピーク波長の光を基準にしてシェーディング補正することになるため、そのピーク波長と異なる有彩色光のシェーディングについては補正しきれないためである。この問題は、RGBラインセンサで有彩色を読み取るときも、後述する白黒ラインセンサで有彩色を読み取るときも生じ得る。
【0012】
一般に、主走査方向の端部と中央部とでの画角差が小さければ、光学系の画角による分光特性の変化の影響も小さくなる。例えば、特許文献1に示した画像読み取り装置のように、反射ミラーからCCDセンサまでの光路長を長くすれば、画角差を小さくすることができる。しかし、光路長を長くすれば、画像読み取り装置の大型化につながってしまうため、装置の小型化という目的を達成できなくなってしまう。
【0013】
白基準板に加えて、濃度管理のされた赤色や緑色、青色、シアンやマゼンタ、イエローなど各色の基準板を設け、各色ごとにシェーディング補正係数を決定してもよい。このような方法によっても、有彩色についての主走査方向の読み取り輝度ムラを低減することができるだろう。
【0014】
しかし、この方法では、濃度管理を必要とする基準板の数が増えるため、コストアップが避けられない。また、シェーディング補正用の補正係数を基準板の色数だけメモリに保持しておく必要もある。さらに、原稿上の色を判別して、その色に応じて補正係数を選択する回路も必要となってしまう。よって、シェーディング補正回路が煩雑化し、大型化してしまう。
【0015】
そこで、本発明は、このような課題および他の課題のうち、少なくとも1つを解決することを特徴とする。例えば、本発明は、装置の大型化やコストアップ、基準板の色数増加、回路構成の複雑化などを軽減しつつ、有彩色の主走査方向における読み取り輝度のムラを低減することを特徴とする。なお、他の課題については明細書の全体を通して理解できよう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の画像読み取り装置は、原稿に光を照射する光源と、原稿からの反射散乱光を複数枚の平面ミラー及び結像ミラーで集光して結像する結像ユニットと、結像ユニットにより結像された反射散乱光を電気信号に変換する光電変換ユニットとを備える。結像ユニットは、画像読み取り装置の主走査方向の端部における分光特性と、主走査方向の中央部における分光特性との差が光源のピーク波長において5%以内となるように調整された結像光学系である。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、装置の大型化やコストアップ、基準板の色数増加、回路構成の複雑化などを軽減しつつ、有彩色の主走査方向における読み取り輝度のムラを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】図1Aは、実施形態に係る画像読み取り装置の一例を示した断面図である。
【図1B】図1Bは、結像ミラー107、108、109、110とCCDラインセンサ113の位置関係を示す斜視図である。
【図2】図2(A)は、結像ミラーの拡大図である。図2(B)は、結像ミラーおよび結像ミラー保持部材の一部を示す斜視図である。図2(C)は、結像ミラーおよび結像ミラー保持部材の一部を拡大した断面図である。
【図3】図3は、実施形態に係る画像読み取り装置が備える制御部を示したブロック図である。
【図4】図4(A)は、光源102である白色LEDの分光特性の例を示した図である。図4(B)は、平面ミラー103〜105である反射ミラーの分光特性の例を示した図である。図4(C)は、結像ミラー107〜110の分光特性の例を示した図である。
【図5】図5(A)は、ピーク波長で正規化する前における読み取り光学系全体の分光特性を示した図である。図5(B)は、ピーク波長で正規化した後における読み取り光学系全体の分光特性を示した図である。
【図6】図6は、一次色であるイエロー、マゼンタ、シアンの分光感度特性を示した図である。
【図7】図7は、イエローのパッチを主走査方向に一様な濃度で分布させたチャートの例を示した図である。
【図8】図8は、図5に示した分光特性を持つ読み取り光学系で、図7に示したチャートを読み取った際の各色の読み取り輝度を示した図である。
【図9】図9は、シェーディング補正の一例を示したフローチャートである。
【図10】図10は、白基準部材の分光特性とピーク波長で正規化した光学系の分光特性とを示した図である。
【図11】図11は、図10に示した白基準部材の分光特性と、濃度0.3のグレー及び濃度1.5の黒パッチの分光特性とを比較するための図である。
【図12】図12は、金属表面における入射光と反射光との関係を示した図である。
【図13】図13は、アルミニウムと銀、金、銅の分光特性の例を示した図である。横軸は波長を示している。
【図14】図14は、媒質を通過する光を説明するための図である。
【図15】図15は、光が薄膜に対して斜入射する例を説明するための図である。
【図16】図16は、図15に示した薄膜への斜入射時の各境界面(真空と薄膜、薄膜と基板)でのフレネル係数を説明するための図である。
【図17】図17(A)は、設計中心波長を500nmに設定し、シミュレーションによる最適化設計から決定した反射ミラーの分光特性の例を示した図である。図17(B)は、設計中心波長を500nmに設定し、シミュレーションによる最適化設計から決定した結像ミラーの分光特性の例を示した図である。
【図18】図18(A)は、改善した平面ミラー及び結像ミラーで構成した読み取り光学系の分光特性(正規化前)を示した図である。図18(B)は、改善した平面ミラー及び結像ミラーで構成した読み取り光学系の分光特性(正規化後)を示した図である。
【図19】図19(A)は、図7に示した主走査方向に一様な濃度を持つ色帯を読み取り光学系で読み取った際の、主走査方向の読み取り輝度ムラを示した図である。図19(B)は、図7に示した主走査方向に一様な濃度を持つ色帯を読み取り光学系で読み取った際の、主走査方向の読み取り輝度ムラを示した図である。図19(C)は、図7に示した主走査方向に一様な濃度を持つ色帯を読み取り光学系で読み取った際の、主走査方向の読み取り輝度ムラを示した図である。
【図20】図20(A)は、改善前の読み取り光学系に関する分光感度特性を示した図である。図20(B)は、改善後の読み取り光学系に関する分光感度特性を示した図である。
【図21】図21は、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の分光反射特性を示した図である。
【図22】図22は、学系の改善前後における各色の主走査方向の平均輝度とその輝度差とを示した表である。
【図23】図23は、画像読み取り装置が出力する画像データを標準色空間に変換し、色評価するためにさらにXYZ表色系、L*a*b*表色系に変換する処理を示したフローチャートである。
【図24】図24(A)は、読み取り輝度信号に対して式(1.9)を適用した例を示す図である(γ=0.6)。図24(B)は、読み取り輝度信号に対して式(1.9)を適用した例を示す図である(γ=1.8)。
【図25】図25は、XYZ表色系色度図である。
【図26】図26は、等色関数の一例を説明するための図である。
【図27】図27は、色差ΔE*abと人間の感覚についての程度とを示した表である。
【図28】図28は、読み取り光学系の像高による分光特性変化によって発生する主走査方向の色差ΔEabの変遷を表す表である。
【図29】図29は、画像読み取り装置における画角を説明するための平面図である。
【図30】図30は、画角の違いに応じた反射ミラーの分光特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の一実施形態を示す。以下で説明される個別の実施形態は、本発明の上位概念、中位概念および下位概念など種々の概念を理解するために役立つであろう。また、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
【0020】
本発明は、白黒読み取り用のラインセンサで有彩色を読み取った場合だけではなく、カラー読み取り用のRGBの3ラインセンサで有彩色を読み取った場合においても主走査方向の読み取り輝度ムラを低減する発明である。
【0021】
以下の実施形態では、カラー読み取り用のRGBの3ラインセンサと、白黒読み取り用のラインセンサとを備えた4ラインセンサ型のイメージセンサを採用した画像読み取り装置について説明する。そこで、先に白黒読み取り用のラインセンサによる有彩色の読み取り輝度ムラについての説明を行い、後にカラー読み取り用の3ラインセンサについて説明する。
【0022】
図1Aは、実施形態に係る画像読み取り装置の一例を示した断面図である。原稿台ガラス101は、原稿を載置するためのガラスである。光源102は、原稿に光を照射するための白色LEDアレイや管光源である。平面ミラー103、104、105は、原稿にて拡散した光を導くための反射鏡である。平面ミラー103、104、105は、それぞれ反射光学系である。このように反射光学系は、複数の光学部品により構成されてもよいし、単一の光学部品により構成されてもよい。平面ミラー保持部材106は、平面ミラー103、104、105を保持するための保持部材である。結像ミラー107、108、109、110は、それぞれオフアキシャル反射面が形成されたミラーである。図1Bは、結像ミラー107、108、109、110とCCDラインセンサ113の位置関係を示す斜視図である。結像ミラー保持部材111は、結像ミラー107、108、109、110を保持するための保持部材である。結像ミラー107、108、109、110は、それぞれ反射光学系であるとともに結像光学系である。絞り112は、結像ミラー保持部材111内に設けられ、結像ミラー108からの光を絞る。CCDラインセンサ113は、前述したように4ラインセンサである。CCDラインセンサ113は、結像ユニットにより結像された反射光を電気信号に変換する複数の光電変換素子が所定方向に配列された光電変換ユニットの一例である。CCDは、Charge Coupled Deviceの略である。なお、CCDに代えて、CMOSイメージセンサなど、他の形式のセンサが採用されてもよい。走査枠体114は、光源102、平面ミラー103、104、105、結像ミラー保持部材111、CCDラインセンサ113を保持する。結像ミラー107、108、109、110及び結像ミラー保持部材111は、オフアキシャル結像ユニット115を形成する。なお、これらの反射ミラーや結像ミラーは、原稿からの反射散乱光を複数枚の平面ミラー及び結像ミラーで集光して結像する結像ユニットの一例である。
【0023】
原稿台ガラス101は、読み取りユニット枠体116に支持されている。走査枠体114は、読み取りユニット枠体116内に配置されている。走査枠体114は、駆動モーター117、駆動ベルト118の働きにより読み取りユニット枠体116内を副走査方向に往復動作する。走査枠体114は、光源、結像ユニット及び光電変換ユニットを搭載し、主走査方向に対して直交した副走査方向に移動する移動ユニットの一例である。
【0024】
原稿台ガラス101上に載置された原稿Sを読み取る際の動作について説明する。光源102が点灯し、光源102からの光が原稿Sを照明する。駆動モーター117及び駆動ベルト118は、走査枠体114を副走査方向に移動させることで、原稿Sを走査する。光源102が原稿Sに照射した光は原稿S上で拡散する。拡散光は、平面ミラー103、104、105によりオフアキシャル結像ユニット115に導かれる。
【0025】
オフアキシャル結像ユニット115に導かれた光は、結像ミラー107〜110で順次反射される。最終的に、拡散光、各結像ミラーに形成されたオフアキシャル反射面の働きにより、CCDラインセンサ113に結像する。CCDラインセンサ113は、受光した光を光電変換することにより、原稿の画像を表す電気信号を生成する。
【0026】
図2(A)は、結像ミラーの拡大図である。結像ミラー107、108、109、110のそれぞれには、図2(A)の斜線部に、オフアキシャル反射面が形成されている。固定部202、203は、結像ミラーの位置を決定し固定する。半球面204は、結像ミラーのZ方向の位置を決める凸状部材である。半球面204は、3ヶ所に形成されている。突き当て部205は、結像ミラーのX方向を決定する。突き当て部206は、結像ミラーのY方向の位置を決定する。結像ミラーのX・Y・Z方向の各位置を決定する半球面204および突き当て部205、206は、すべて固定部202、203に設けられる。固定部202、203の厚さは、オフアキシャル反射面が形成された部分の厚さに比べ、薄くなっており、断面二次モーメントが小さくなっている。
【0027】
図2(B)は、結像ミラーおよび結像ミラー保持部材の一部を示す斜視図である。結像ミラー保持部材111には、突起部208、受け面209、210が設けられている。突起部208は、3つ設けられており、結像ミラー107、108、109、110に設けられた3つの半球面204を保持する。これにより、結像ミラーのZ方向が位置決めされる。受け面209は、突き当て部205を保持する。受け面210は、突き当て部205を保持する。これにより、結像ミラーのX方向・Y方向が位置決めされる。
【0028】
図2(C)は、結像ミラーおよび結像ミラー保持部材の一部を拡大した断面図である。押圧部材211は、結像ミラーを固定するために、結像ミラー保持部材111に取り付けられる。押圧部材211は、3つの半球面204のそれぞれに対応して設けられる。3つの押圧部材211は、それぞれ等しい力で結像ミラーを押圧する。
【0029】
なお、押圧部材211が結像ミラーの固定部202、203に及ぼす力により生じる結像ミラー内部の応力によって、結像ミラー107、108、109、110は変形しようとする。また、押圧部材211の取り付け誤差や結像ミラー107、108、109、110の成形誤差により半球面204と押圧部材211の加圧点がずれるとモーメントが発生する。このモーメントによっても、結像ミラー107、108、109、110は変形しようとする。しかし、オフアキシャル反射面が形成された部分より固定部202、203の断面二次モーメントが小さい。そのため、固定部202、203が変形して内部応力およびモーメントが吸収される。よって、オフアキシャル反射面の変形は微小となる。
【0030】
また、光源102、CCDラインセンサ113及び駆動モーター117から発生する熱が画像読み取り装置内の空気を介して結像ミラーに伝わると、結像ミラーは熱膨張する。結像ミラーの線膨張係数と結像ミラー保持部材111との線膨張係数は異なるため、結像ミラーを変形させようとする応力が発生する。しかし、固定部202、203は、このような内部応力およびモーメントも吸収するため、オフアキシャル反射面の変形を微小にすることが可能である。
【0031】
固定部202、203が変形すれば、オフアキシャル反射面の位置が変化する。しかし、オフアキシャル反射面の位置変化が光学性能に与える影響は、オフアキシャル反射面自体の変形に比べて10分の1程度にすぎない。しかも、固定部202、203の変形による位置変化は微小である。よって、本実施形態の固定方法による光学性能の劣化は非常に小さく、実用上まったく問題ない程度となる。
【0032】
図3は、実施形態に係る画像読み取り装置が備える制御部を示したブロック図である。CPU601は、画像読み取り装置が備える各ユニットを統括的に制御するユニットである。CCD駆動回路602は、CCDラインセンサ113を駆動制御する回路である。A/D変換部603は、CCDラインセンサ113から出力されるアナログデータをディジタルデータに変換する。画像処理ASIC604は、A/D変換部603からの出力信号に対して画像処理を行う。画像処理には、例えば、シェーディング補正、色ズレ補正、MTF(Modulation Transfer Function)補正がある。画像処理ASIC604は、結像ユニットを通じて受光された白基準板からの光を光電変換ユニットにより変換することで生成された電気信号を用いてシェーディング補正を実行するシェーディング補正ユニットの一例である。DRAM605は、画像データを一時的に保存する記憶装置である。画像処理ASIC604により画像処理された画像データは、図示しない画像形成装置に送られる。モーター駆動回路606は、CPU601からの指示に従って駆動モーター117を制御する回路である。画像形成装置610は、画像読み取り装置から出力された画像データに基づいて、用紙に画像を形成する装置である。画像形成装置610は、複写装置の画像形成部であってもよい。また、画像形成装置610は、画像読み取り装置から原稿の画像を表す電気信号を受信して、画像を形成する画像形成部の一例である。画像形成部の形式は、電子写真方式、インクジェット方式など、どのような形式であってもよい。
【0033】
[シェーディング補正]
次に、白基準板を用いたシェーディング補正について説明する。シェーディング補正では、CCDラインセンサ113から出力される画像データの画素ごとの読み取りばらつきが補正される。
【0034】
まず、光源102から白基準板に光を照射し、白基準板からの拡散光をCCDラインセンサ113により読み取る。なお、白基準板は、濃度管理がされているものとする。画像処理ASIC604は、白基準板の読み取り結果を用いて、光源102の照度ムラ、結像ミラー107〜110の周辺光量低下及びCCDラインセンサ113の画素感度ばらつきに起因したシェーディングデータを取得する。
【0035】
画像処理ASIC604は、シェーディングデータの各画素値が任意の目標値(例えば、輝度値で245)になるように、画素ごとにゲイン値を調整する。画像処理ASIC604は、この調整値をゲイン調整値としてDRAM605に記憶する。
【0036】
次に、画像処理ASIC604は、光源102を消灯した状態で、シェーディングデータを取得する。画像処理ASIC604は、CCDラインセンサ113から出力されるデータの各画素値(黒オフセット値)が任意の目標値(例えば、輝度値で5)になるように、画素ごとにオフセットを調整する。画像処理ASIC604は、この調整値をオフセット調整値としてDRAM605に記憶する。
【0037】
画像処理ASIC604は、CCDラインセンサ113から出力される画像データに対して、ゲイン調整値及びオフセット調整値に基づいて、画素ごとにゲイン調整及びオフセット調整を実行する。以上の処理により白基準板によるシェーディング補正が完了する。
【0038】
この白基準板によるシェーディング補正により、光源102の照度ムラや結像ミラー107〜110の周辺光量低下、CCDラインセンサ113の画素感度ばらつきが低減される。すなわち、主走査方向には一様な状態で読み取ることが可能になると考えられる。
【0039】
[画角と分光特性との関係]
原稿に照射された光源102からの反射散乱光は、平面ミラー103〜105と結像ミラー107〜110とで順次反射される過程で、画角に応じた分光特性の変化を受ける。
【0040】
ただし、各ミラーでの最大画角は一致するとは限らない。主走査方向の原稿画像の反射位置(つまり、最大画角)をミラーごとに異ならしめることがあるからである。
【0041】
したがって、以下では、各ミラーの最大画角を個々に表示するのではなく、平面ミラー103〜105で順次反射された後の分光特性として反射ミラーの分光特性を示することにする。同様に、結像ミラー107〜110で順次反射された後の分光特性として結像ミラーの分光特性を示すことにする。また、以下では、各ミラーでの画角に応じた分光特性の変化ではなく、主走査方向の原稿画像の読み取り位置(つまり、像高)に応じた分光特性の変化と表現することにする。
【0042】
ここで、像高と画角の関係について説明する。像高が高いことは、光軸中心から離れていること、つまり、画角が大きいことを示している。逆に、像高が低いことは、光軸中心に近いこと、つまり、画角が小さいことを示している。
【0043】
次に、本実施形態で採用する読み取り光学系の各素子の特性例について述べる。
【0044】
図4(A)は、光源102である白色LEDの分光特性の例を示した図である。横軸は、波長を示している。縦軸は、相対発光強度を示している。なお、光源の波長ごとの発光強度は分光分布特性と呼ばれる。図4(B)は、平面ミラー103〜105である反射ミラーの分光特性の例を示した図である。さらに、図4(C)は、結像ミラー107〜110の分光特性の例を示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は反射率を示している。なお、光学部品の波長ごとの反射率は、分光反射特性と呼ばれる。
【0045】
一般に、反射ミラー及び結像ミラーは、それぞれガラスと樹脂上にアルミニウム(Al)を蒸着して製造される。これは、金属薄膜上に誘電体を積層してオーバーコーティングすることで反射率を高めるためである。発明者は、所望の特性を得るために、設計の中心波長を600nmとし、シミュレーションによる最適化により図4(B)及び図4(C)に示すミラーを作成した。
【0046】
本実施形態では、広角の結像光学系を採用している。そのため、本実施形態では、特開平3−113961号公報に示されるような、光源と反射ミラーを固定した走査ユニットで原稿面を走査する縮小光学系よりも、像高(画角)による分光特性の変化は大きい。
【0047】
ここで、広角とは、CCDラインセンサ113に結像させるまでの過程で、各ミラーの画角が大きいことを指している。一般に使用される広角レンズでは、35ミリ換算値で500mm以下の焦点距離を持つレンズのことを指す。本実施形態では、レンズの替わりにミラーを使用して画像を結像しているが、焦点距離の定義については、上記広角レンズと同様とする。
【0048】
図4(B)、図4(C)において、像高はyとして表している。y=0は主走査方向の中心(画角が最小の0度となる位置)に相当する。y=152.4は主走査方向の端部(画角が最大となる位置)に相当する。図4(B)、図4(C)には、各像高での分光特性の差異が示されている。
【0049】
光源102である白色LED、平面ミラー103〜105、結像ミラー107〜110、CCDラインセンサ113の感度を含めた、読み取り光学系全体の分光特性をピーク波長で正規化する前と後との比較をする。
【0050】
図5(A)は、ピーク波長で正規化する前における読み取り光学系全体の分光特性を示した図である。図5(B)は、ピーク波長で正規化した後における読み取り光学系全体の分光特性を示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は感度を示している。なお、受光素子や光学部品の波長ごとの感度は、分光感度特性と呼ばれる。図5(A)、図5(B)では、波長ごとに、読み取り光学系がどれくらいの感度で読み取れるかを、像高y=0とy=152.4とで比較している。
【0051】
図5(A)を見ると、ピーク波長である450nm付近での感度が像高に応じて大きく変化していることがわかる。これは、図4(A)の白色LEDのピーク波長450nmに対して、図4(B)、図4(C)にそれぞれ示している反射ミラーと結像ミラーの分光特性の像高による変化が影響しているからである。
【0052】
まず、図4(B)に示した反射ミラーの分光反射率の像高による変化に関して、450nmに注目してみることにする。像高y=0では反射率が63%程度であるのに対し、像高y=152.4では反射率が80%となっている。よって、像高による反射率の差は、17%である。
【0053】
次に、図4(C)に示した結像ミラーの分光反射率の像高による変化に関して、450nmに注目してみる。像高y=0では、反射率46%程度である。一方、像高y=152.4では、56%である。よって、像高の違いによる反射率の差は、10%ある。
【0054】
読み取り光学系全体としては、図5(A)の450nmに注目する。像高y=0では感度29%程度である。一方、像高y=152.4では、42%である。よって、像高の違いにより感度が13%変化している。
【0055】
次に、ピーク波長についての感度の差が分光特性全体に与える影響を見るために、ピーク波長で正規化した分光特性(図5(B))について考察する。
【0056】
図5(B)によれば、各波長の感度が、ピーク波長である450nm付近の感度により正規化されている。図5(B)によれば、ピーク波長における感度の変化は500nmよりも長波長側の分光特性に大きく影響していることが分かる。特に、変化が大きい550nmに注目してみる。像高y=0では感度54%程度である。一方、像高y=152.4では、39%である。よって、像高の違いによる感度の差は15%である。
【0057】
本実施形態で採用した反射ミラーと結像ミラーの分光特性の例では、反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が、500nmよりも長波長側の色の読み取りに、大きな影響を与えることになる。
【0058】
[主走査方向の読み取り輝度ムラ]
図6は、一次色であるイエロー、マゼンタ、シアンの分光感度特性を示した図である。特に、500nmよりも長波長側に分光感度特性を多く持つ色として、イエローがある。
【0059】
図7は、イエローのパッチを主走査方向に一様な濃度で分布させたチャートの例を示した図である。図7に示したチャートでは、イエロー以外に、マゼンタとシアンのパッチも示している。このチャートは、読み取り光学系の分光特性の変化が色の分光特性の違いにどの程度影響するかを比較するためのものである。
【0060】
図8は、図5に示した分光特性を持つ読み取り光学系で、図7に示したチャートを読み取った際の各色の読み取り輝度を示した図である。横軸は主走査方向の画素位置を示している。縦軸は読み取り輝度を示している。
【0061】
図8において、主走査方向の画素位置で0は像高y=152.4の位置に相当する。この位置は、主走査方向の端部であり、画角が最も大きい箇所である。また、画素位置で3500は像高y=0の位置に相当する。この位置は、主走査方向の中央部であり、画角が最も小さい箇所である。さらに、画素位置で7000は像高y=―152.4の位置に相当する。この位置も、主走査方向の端部であり、画角が最も大きい箇所となる。
【0062】
反射ミラーも結像ミラーも像高y=0を中心とする対称面となっている。よって、像高y=0を中心に像高の絶対値が大きくなるにつれて、画角も大きくなることを意味している。
【0063】
図8において、イエローの端部(主走査方向の画素位置で0や7000)での読み取り輝度は152である。また、中央(主走査方向の画素位置で3500)では輝度175となっている。主走査方向の端部と中央部とでは、23レベルの読み取り輝度差がある。シアンやマゼンタについては、主走査方向の端部と中央部で、それぞれ16レベル、11レベルの読み取り輝度差がある。
【0064】
このように、画角が大きい結像光学系を持つ読み取り光学系においては、白基準板によるシェーディング補正後であっても、主走査方向の読み取り輝度に差が生じる。この現象を「主走査方向の読み取り輝度ムラ」と呼ぶことにする。
【0065】
[有彩色についてのシェーディング補正]
ところで、白基準板によるシェーディング補正は、光源の照度ムラやラインセンサの出力ばらつき、結像ミラーの周辺光量低下などを補正するために、画像読み取り装置では一般に行われている補正処理である。しかし、この白基準板によるシェーディング補正では、有彩色に関しての主走査方向の読み取り輝度ムラを補正しきれない。以下では、この理由について述べる。
【0066】
図9は、シェーディング補正の一例を示したフローチャートである。ステップS1201で、CPU601は、原稿台ガラス101上に貼付されている白基準板の直下まで走査枠体114を移動するよう、モーター駆動回路606に指示する。モーター駆動回路606は、この指示に従って駆動モーター117を駆動する。
【0067】
ステップS1202で、CPU601は、光源102を点灯させ、CCD駆動回路602を制御し、CCDラインセンサ113によりシェーディングデータを取得する。
【0068】
ステップS1203で、CPU601は、画像処理ASIC604にゲイン値を決定するよう指示する。画像処理ASIC604は、シェーディングデータの各画素値が目標値となるよう、画素ごとのゲイン調整値を決定する。
【0069】
ステップS1204で、画像処理ASIC604は、画素ごとのゲイン調整値をDRAM605に格納する。
【0070】
ステップS1205で、CPU601は、光源102を消灯する。これにより、暗黒状態が作り出される。CCD駆動回路602は、CCDラインセンサ113を動作させ、データを取得する。
【0071】
ステップS1206で、画像処理ASIC604は、暗黒状態でのCCDラインセンサ113の読み取りレベルを黒レベルのオフセット調整値として算出する。
【0072】
ステップS1207で、画像処理ASIC604は、画素ごとのオフセット調整値をDRAM605に格納する。
【0073】
ステップS1208で、CPU601は、走査枠体114を原稿台ガラス101上の原稿Sの位置に移動するよう、モーター駆動回路606に指示する。モーター駆動回路606は、この指示に従って駆動モーター117を駆動する。
【0074】
ステップS1209で、CPU601は、原稿Sの位置に移動した走査枠体114の光源102を点灯させ、原稿画像の読み取りを開始する。走査枠体114は、副走査方向に一定速度で移動する。CCDラインセンサ113は、平面ミラー103〜105と結像ミラー107〜110とで順次反射して結像した原稿の画像データを光電変換する。これにより原稿の画像を表す電気信号が得られる。アナログの電気信号は、A/D変換部603で、ディジタル画像データに変換される。
【0075】
ステップS1210で、画像処理ASIC604は、画像データについて画素ごとに対応するゲイン調整値をそれぞれ乗算し、得られた各積に対応するオフセット調整値を加算する。
【0076】
ステップS1211で、画像処理ASIC604は、シェーディング補正された画像データを読み取り輝度信号として、後段の画像処理プロセスに出力する。
【0077】
この一連のシェーディング補正処理のうち、ステップS1203で、画素ごとにゲイン調整値を算出している。このゲイン調整値は、光源102の照度ムラ、CCDラインセンサ113の各画素での感度ばらつきに加えて、平面ミラー103〜105及び結像ミラー107〜110の像高による分光特性の変化の影響も含んだ形で算出されている。
【0078】
平面ミラー103〜105と結像ミラー107〜110の像高による分光特性変化は、読み取り光学系全体の像高による分光特性にも影響する。よって、読み取り光学系の像高による分光特性変化は、読み取り対象である原稿上の色の分光特性との関連で、読み取り輝度に影響することになる。
【0079】
読み取り輝度は、読み取り光学系の分光特性と、読み取り対象となる原稿上の色の分光特性との積分で与えられる。そのため、色の分光特性が主走査方向で一定であったとしても、光学系の分光特性が像高により変化することで、読み取り輝度も像高により変化することになる。
【0080】
したがって、基準の白色板が一様な濃度で管理され、かつ、光源102の照度ムラやCCDラインセンサ113の感度ばらつきが無視できるほど小さく、かつ、平面ミラー103〜105、結像ミラー107〜110の像高による分光特性変化がなければ、ゲイン調整値は、各画素でほぼ同じ値を取ることになる。
【0081】
しかし、前述したように、平面ミラー103〜105、結像ミラー107〜110の像高による分光特性の変化はある。よって、光源102の照度ムラやCCDラインセンサ113の感度ムラの影響が無視できるほど小さくても、ゲイン調整値は、各画素で異なってくる。
【0082】
図10は、白基準板の分光特性とピーク波長で正規化した光学系の分光特性とを示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は相対感度(反射率)を示している。光学系の分光特性に関しては、像高y=0とy=152.4とについてそれぞれ示している。
【0083】
図10を参照すると、白基準板の分光特性は、反射率0.9で各波長ほぼ一定であることがわかる。この白基準板と光学系の分光特性に関する積分値を以下示す。
【0084】
像高y=0(中央)において、積分値は75.7であり、
像高y=152.4(端部)において、積分値は59.9であり
両者の積分値に大きな差が出る。
【0085】
これらの積分値に対して、ここでは、読み取り輝度255をシェーディング補正の目標値としてゲイン調整値Gを算出する。
【0086】
像高y=0では、G0=3.38、
像高y=152.4では、G152.4=4.26
ここで、G0とG152.4は、それぞれ像高y=0とy=152.4でのゲイン調整値である。画像処理ASIC604は、これらの値を、シェーディング補正時に像高y=0と像高y=152.4の位置での補正値として、使用する。
【0087】
このように、光学系の像高による分光特性変化は、シェーディング補正時のゲイン調整値にも影響を与える。
【0088】
実際のシェーディング補正時のゲイン調整値は、上記の光学系の像高による分光特性変化に加え、光源の照度ムラの影響も受ける。しかし、画像読み取り装置で使用する光源102の分光特性は、一定の仕様の範囲内で管理されたものである。よって、照度ムラでの分光特性変化は非常に小さく、照度の主走査方向での変化が光源102の照度ムラとして発生する。
【0089】
しかし、光源102の分光特性が主走査方向で変わらなければ、光源102の照度ムラによる主走査方向の読み取り輝度ムラは、どの色に対しても現われる。すなわち、白基準板の白色だけではなく、他の一般的な無彩色、有彩色についても輝度ムラが現われる。よって、有彩色についてのみだけ、主走査方向の読み取り輝度ムラが発生することはない。
【0090】
したがって、光源102の照度ムラに関しては、白基準板によるシェーディング補正を行うことで、主走査方向に一様な読み取りが可能となる。この点で、読み取り光学系の像高による分光特性変化による主走査方向の読み取り輝度ムラとは、本質的に異なるのである。
【0091】
ここで注意したいのは、読み取り光学系の像高による分光特性変化は、すべての色について白基準板によるシェーディング補正の効果を減少させるのではない。すなわち、無彩色、つまり、白や黒、グレーなどの色については、シェーディング補正の効果が得られるのである。
【0092】
図11は、図10に示した白基準板の分光特性と、濃度0.3のグレー及び濃度1.5の黒パッチの分光特性とを比較するための図である。横軸は波長を示している。縦軸は反射率を示している。
【0093】
図11によれば、白基準板の分光特性と同様に、濃度0.3のグレーパッチの反射率は、各波長とも0.48でほぼ一定である。一方、濃度1.5の黒パッチの反射率は、各波長とも0.03でほぼ一定である。
【0094】
この濃度0.3の分光特性と光学系の分光特性を積分した結果は以下の通りである。
【0095】
像高y=0(中央)において、積分値は40.0、
像高y=152.4(端部)において、積分値は31.7
このように、積分値に差が出る。
【0096】
これらに、ゲイン調整値G0とG152.4を乗算する。その結果、読み取り輝度値は、以下の通りである。
【0097】
像高y=0(中央)において、読み取り輝度値は135、
像高y=152.4(端部)において、読み取り輝度値は135
と算出される。
【0098】
同様に、濃度1.5の分光特性と光学系の分光特性とを積分した結果は、以下の通りである。
【0099】
像高y=0(中央)において、積分値は2.69、
像高y=152.4(端部)において、積分値は2.13
このように、積分値に若干の差が出ている。
【0100】
これに、ゲイン調整値G0とG152.4を乗算すると、読み取り輝度値は、以下の通りとなる。
【0101】
像高y=0(中央)において、読み取り輝度値は9
像高y=152.4(端部)において、読み取り輝度値は9。
【0102】
つまり、分光特性に関して白基準板と良く似ている色(400nm〜700nmの各波長のうち、反射率がほぼ一定となる波長(色)で、その反射率の大小は問わない。)主走査方向の読み取り輝度ムラは発生しないことになる。すなわち、グレーや黒などでは、白基準板で決定したゲイン調整値を用いても、主走査方向の読み取り輝度ムラは発生しないことになる。
【0103】
ゲイン調整値G0とG152.4は、像高による白基準板の読み取り値の変化を補正するよう、決定さる。また、白基準板とよく似た分光特性を持つ色は、その反射率の大小に関わらず、像高による読み取り輝度の変化率はほぼ一定である。そのため、白基準板によるシェーディング補正によって、所望の効果が得られるのである。
【0104】
しかし、図6に示したイエローの分光特性について、同様の計算を行うと、イエローの分光特性と光学系の分光特性との積分値は以下の通りとなる。
【0105】
像高y=0(中央)において、積分値は48.1、
像高y=152.4(端部)において、積分値は33.7
このように、各像高の積分値に差が出る。
【0106】
これらの積分値に、対応するゲイン調整値G0とG152.4を乗算して、読み取り輝度値を算出する。
【0107】
像高y=0(中央)において、読み取り輝度値は162、
像高y=152.4(端部)においても、読み取り輝度値は144
このように、像高に応じた読み取り輝度値に18レベルの差が出ることがわかる。
【0108】
ここまでの考察ではゲイン調整値にのみ注目したため、オフセット補正値については考慮しなかった。これは、オフセット補正値は、光源を消灯した状態で行うため、光学系の分光特性の影響は受けないからである。
【0109】
以上で説明したように、白基準板によるシェーディング補正では白基準板とほぼ相似形の分光特性を持つ無彩色については主走査方向の読み取り輝度のムラを低減することができる。しかし、有彩色については、白基準板を用いたシェーディング補正では主走査方向の読み取り輝度ムラは補正しきれない。
【0110】
このように、広角の結像光学系を持つ画像読み取り装置では、白基準板によるシェーディング補正を行っても、有彩色については、主走査方向に読み取りの輝度ムラが発生する。
【0111】
[有彩色について発生する主走査方向の読み取り輝度ムラを低減する方法]
有彩色について発生する主走査方向の読み取り輝度ムラを低減する方法として、読み取り光学系の像高による分光特性の変化を低減する方法が挙げられる。
【0112】
この方法の1つは、例えば、反射ミラーや結像ミラーに入射する読み取り画像の画角を小さくすることである。主走査方向の端部での画角を小さくするには、各ミラー間の距離を長くする、つまり、光路長を長く取る必要がある。しかし、ミラー間の距離を長く取るためには、画像読み取り装置を大きくしなければならない。また、大型化に伴う部材のコストアップも見込まれる。そのため、この方法では、装置の小型化やコストダウンという要求には応えられない。
【0113】
他の方法としては、白基準板の他に、濃度管理のされた赤色や緑色、青色、シアンやマゼンタ、イエローなど各色の基準板を設け、原稿の色によってシェーディング補正係数を変更する方法がある。しかし、この方法を採用する場合、濃度管理をする基準板の数が増えてしまう。また、シェーディング補正用の補正係数を各色で記憶しておくためのメモリも必要となる。さらに、原稿上の色を判別する回路も必要となってしまう。コストアップや装置の大型化は避けられない。
【0114】
そこで、本実施形態では、光源のピーク波長近傍の波長帯での反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が小さくする方法を採用することにする。この方法は、光学系の像高による分光特性の変化が、光源のピーク波長と反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が重なる部分に大きく起因することに注目することで得られた。これにより、有彩色についての主走査方向の読み取り輝度ムラが低減される。また、この方法は、コストアップや装置の大型化に関しても、上記の方法と比較して有利である。
【0115】
本実施形態では、光源として図4(A)に示すような分光特性をもつ白色のLEDを使用しており、ピークの波長は450nm付近である。前述のように、この光源のピーク波長に対して、反射ミラー及び結像ミラーの分光特性が像高により変化してしまうことが原因で、白基準板によるシェーディング補正をしてもなお、有彩色については主走査方向の読み取り輝度ムラが発生する。そこで、白色LEDのピーク波長450nmにおいて、反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が小さくなるようにすればよい。
【0116】
ここで、反射ミラー、結像ミラーの分光特性について述べておく。一般に、ミラーは、ガラスやプラスチック、樹脂などの表面に、アルミニウムや銀、クロム、銅などの金属の薄膜を蒸着することで作成されている。よって、ミラーの分光特性は蒸着する金属の種類により異なる。
【0117】
図12は、金属表面における入射光と反射光との関係を示した図である。金属の表面に光が当たると、表面の薄膜層に存在する金属イオンや自由電子などが光のエネルギーを吸収して共鳴振動を起こす。その振動のエネルギーが金属表面より放出される。これが金属からの光の反射現象である。
【0118】
図13は、アルミニウムと銀、金、銅の分光特性の例を示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は反射率を示している。
【0119】
銀の反射率は、450nmで97%、550nmで98%、650nmで98%である。このように、銀は、可視光領域全域の波長で反射率が非常に高い。そのため、ミラーに蒸着する金属としては銀が最も望ましい。しかし、銀は素材として高価である。よって、ミラーにはアルミニウムがよく使用される。
【0120】
アルミニウムは、450nmで92%、550nmで91%、650nmで90%の反射率を持っている。アルミニウムの反射率は、銀の反射率には及ばない。しかし、アルミニウムの反射率は、可視光領域全域の各波長でほぼ均一である。
【0121】
金の反射率は、紫外域(400nmよりも短波長側)から青の波長帯(400nm〜500nm)では低い。また、金の反射率は、緑の波長帯(500nm〜600nm)の中央550nmから高くなり始める。金の反射率は、赤の波長帯(600nm〜700nm)から赤外域(700nmよりも長波長側)で98%となる。したがって、金は、緑の波長帯と赤の波長帯の光を多く反射するため、黄色っぽい色として見えることになる。
【0122】
銅の反射率は、金と同様に、紫外域から青の波長帯では低い。また、同の反射率は、緑の波長帯でも70%程度であるが、赤の波長帯で93%といった高い反射率を持つ。したがって、銅に入射した光は、赤の波長帯で多く反射されるため、赤っぽい色として見えることになる。
【0123】
ミラーの保護膜として、金属膜上にフッ化マグネシウム(MgF2)などの誘電体多層膜をオーバーコーティングすることで反射率を高めることができる。ただし、反射率は、波長や入射角に依存することが知られている。
【0124】
さらに、蒸着する反射膜の膜厚を変化させることで、ミラーの分光特性全体を短波長側に波長シフトさせることができる。これらについて、以下で説明する。
【0125】
図14は、媒質を通過する光を説明するための図である。一般に、光の位相速度は、光が通過する媒質により異なる。しかし、光の振動数νは変わらない。ここで、光が正弦波振動をしながら、真空、媒質の境界面を垂直に入射しながら進行する場合を考える。
【0126】
真空中の光の屈折率、波長、速さを、それぞれn0、λ0、cとする。媒質中の光の屈折率、波長、速さをそれぞれn、λ、νとする。これらのパラメータには、次式が成立する。
【0127】
【数1】
【0128】
図14が示すように、屈折率nの媒質中の波長λは、真空中の波長の1/nになり、n>1の時、媒質中の波長は、真空中に比べて短くなる。
【0129】
屈折率nの媒質の距離をdとすると、この媒質中に含まれる波の数は、次式の通りである。
【0130】
【数2】
【0131】
これは、距離ndの中に含まれる波長λ0の波の数に等しい。このndを光学距離、または、光学薄膜(optical thickness)という。
【0132】
図15は、光が薄膜に対して斜入射する例を説明するための図である。真空中の光の屈折率、波長、入射角をそれぞれn0、λ0、θ0とする。薄膜中の光の屈折率、波長、屈折角をそれぞれn、λ、θとする。また、薄膜を蒸着している基板の屈折率、波長、入射角をそれぞれnm、λm、θmとする。
【0133】
真空中から光が薄膜に斜入射すると、光路差が生じする。すなわち、薄膜表面で反射する光(図15中の点Pから点Qに向かう光)と、薄膜中に透過した後に薄膜中を進行して基板表面で反射して再度真空中に透過してくる光(図15中の点Rで反射して点P‘で真空中に出る光)とに光路差が生じる。
【0134】
この光路差PQ’は、次式の通りである。
【0135】
【数3】
【0136】
なお、式(1.3)において、スネルの法則
【0137】
【数4】
【0138】
を用いて変換を行っている。つまり、斜入射すると光学薄膜は、垂直入射時のndにcosθを乗算した値になり、垂直入射時よりも光学薄膜は小さくなる。このように、斜入射時には光学薄膜は小さくなる。なお、光学薄膜は小さくなると、分光特性が変化する。
【0139】
図16は、図15に示した薄膜への斜入射時の各境界面(真空と薄膜、薄膜と基板)でのフレネル係数を説明するための図である。ρ0は、真空から薄膜へ入射する際のフレネルの反射係数である。τ0は、真空から薄膜へ入射する際のフレネルの透過係数である。ρ1は、薄膜から基板へ入射する際のフレネルの反射係数である。τ1は、薄膜から基板へ入射する際のフレネルの透過係数である。
【0140】
このような単層薄膜での反射率Rfは、一般に式(1.4)のように表せられる。なお、fは偏波を示すサフィックスである。すなわち、fはsまたはpで、それぞれs偏波、p偏波を示す。
【0141】
【数5】
【0142】
ここで、ρ0f、ρ0sは、それぞれs偏波、p偏波のフレネル反射係数を示している。
【0143】
【数6】
【0144】
式(1.5)において、η0f、ηf、ηmfは、式(1.6)で定義される。
【0145】
【数7】
【0146】
式(1.6)において、n0,n,nmはそれぞれ、真空中、薄膜中、基板中の屈折率を示している。θ0は真空から薄膜への入射角である。θは真空から薄膜への屈折角である。θmは、薄膜から基板への屈折角である。
【0147】
なお、各屈折率と入射角には、スネルの法則が成り立つ。
【0148】
【数8】
【0149】
また、式(1.4)中のδは、薄膜中の位相変化を示している。δは、式(1.3)より、次式のように求められる。
【0150】
【数9】
【0151】
式(1.8)に示すように、薄膜への入射角により光学薄膜は変化する。また、光学薄膜の変化は、薄膜中の位相変化を引き起こす。この薄膜中の位相変化δは、式(1.4)に示すように、反射率Rfに影響する。
【0152】
以上に述べた原理で、反射ミラー及び結像ミラーには、像高(入射角)に応じて分光特性の変化が起こるのである。
【0153】
本実施形態では、白基準板によるシェーディング補正しても残る有彩色の主走査方向の読み取り輝度ムラを低減することを目的としている。そこで、白色LEDのピーク波長450nmにおいて、反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が小さくなるようにする。
【0154】
図17(A)は、設計中心波長を500nmに設定し、シミュレーションによる最適化設計から決定した反射ミラーの分光特性の例を示した図である。図17(B)は、設計中心波長を500nmに設定し、シミュレーションによる最適化設計から決定した結像ミラーの分光特性の例を示した図である。横軸は波長を示し、縦軸は反射率を示している。像高y=0は主走査方向の中心(各ミラーでの画角が最小となる位置)を示している。像高y=152.4は主走査方向の端部(各ミラーでの画角が最大となる位置)を示している。
【0155】
まず、図17(A)において、反射ミラーの分光反射率の像高による変化に関して、450nmに注目する。像高y=0では反射率85%程度であるのに対し、像高y=152.4では、90%である。よって、像高の違いによる反射率の差は5%である。すなわち、中央部から端部にかけての反射率の変化割合は5%である。
【0156】
ちなみに、図4(A)に示す反射ミラーの像高による分光特性の変化は、約13%であった。これと比較すると、改善した反射ミラーでは、分光特性の変化の割合が半分以下に低減していることがわかる。
【0157】
次に、図17(B)において、結像ミラーの分光反射率の像高による変化に関して、450nmに注目する。像高y=0では反射率76%程度であるのに対し、像高y=152.4では、79%である。よって、像高の違いによる反射率の差は4%である。すなわち、中央部から端部にかけての反射率の変化割合は4%である。
【0158】
ちなみに、図4(C)に示した結像ミラーの像高による分光特性の変化は、約10%であった。これと比較すると、改善した結像ミラーでは、分光特性の変化の割合が半分以下に低減していることがわかる。
【0159】
図18(A)は、改善した平面ミラー及び結像ミラーで構成した読み取り光学系の分光特性(正規化前)を示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は感度を示している。ここでは、各波長における読み取り光学系の感度を、像高y=0と像高y=152.4とについて比較している。
【0160】
図17(A)に示した改善した平面ミラーと、図17(B)に示した改善した結像ミラーとを採用することで、読み取り光学系全体としても感度が改善している。例えば、450nmの波長に注目すると、像高y=0では感度が62%程度であるが、像高y=152.4では、感度が67%になっている。すなわち、像高の違いに応じた感度の変化が5%になっている。
【0161】
上述したように、図5(A)に示した改善前の読み取り光学系の分光特性の変化は約13%であった。よって、改善の前後で分光特性の変化割合が半分以下に低減されていることがわかる。
【0162】
図18(B)は、改善した平面ミラー及び結像ミラーで構成した読み取り光学系の分光特性(正規化後)を示した図である。正規化しているのは、ピーク波長での感度の変化が分光特性全体に与える影響を見るためである。横軸は波長を示している。縦軸は感度を示している。正規化は、ピーク波長である450nmに対応する感度を用いて実行されている。
【0163】
図18(B)によれば、ピーク波長における感度変化が、500nmよりも長波長側の分光特性に影響していることがわかる。そこで、感度の変化が見られる550nmに注目してみる。像高y=0では感度が31%程度である。一方、像高y=152.4では、感度が28%である。よって、像高の違い応じた感度の差は3%である。つまり、主走査方向の中央部から端部にかけて感度が3%だけ変化していることが分る。このように、改善後の反射ミラーと結像ミラーを採用すれば、500nmよりも長波長側の色の読み取りへの影響を低減することができる。
【0164】
図19(A)ないし図19(C)は、図7に示した主走査方向に一様な濃度を持つ色帯を読み取り光学系で読み取った際の、主走査方向の読み取り輝度ムラを示した図である。ここでは、本実施形態の効果を確認するために、改善前の光学系で読み取った結果と、改善後の光学系で読み取った結果とが示されている。横軸は主走査方向の画素位置を示している。縦軸は読み取り輝度を表している。
【0165】
改善前の光学系は、図4に示した分光特性を持つ反射ミラー及び結像ミラーで構成されている。改善後の光学系は、図17に示した分光特性を持つ反射ミラー及び結像ミラーで構成されている。
【0166】
図19(A)〜図19(C)によれば、改善前と改善後で読み取り輝度がオフセットしているように見えるの。しかし、これは、反射ミラーと結像ミラーの分光特性を変えたことにより、読み取り光学系全体の分光特性も変化したためである。
【0167】
前述したように、読み取り輝度は、読み取り光学系の分光特性と、読み取り対象の色パッチの分光特性との積分値に、ゲイン調整値を乗算し、この積にオフセット調整値を加算したものである。そのため、同じ色のパッチを読み取っても、読み取り光学系の分光特性が変わる。よって、読み取り輝度も変わるのである。
【0168】
図19(A)では、イエローの読み取り輝度ムラを示している。イエローは他の色と比較して読み取り輝度ムラが大きいからである。ちなみに、読み取り光学系の改善前においては、主走査方向の端部の輝度レベルは137であり、中央部の輝度レベルは159であった。その差は22レベルある。改善後においては、主走査方向の端部の輝度レベルは123であり、中央部の輝度レベルは136であった。その差は13レベルある。
【0169】
図19(B)では、マゼンタの読み取り輝度ムラを示している。主走査方向の端部と中央部とでの輝度レベル差は改善前は8であったが、改善後には6となった。よって、改善の前後で、2レベル低減している。
【0170】
図19(C)では、シアンの読み取り輝度ムラを示している。主走査方向の端部と中央部とでの輝度レベル差は、改善前は9であったが、改善後には6となった。よって、改善の前後で、3レベル低減している。
【0171】
前述したように、無彩色の主走査方向の読み取り輝度ムラは、白基準板を用いたシェーディング補正によりほぼ低減できる。さらに、本発明の構成を備えた読み取り光学系を採用することにより、有彩色についての主走査方向の読み取り輝度ムラも低減することが可能となる。このように、本実施形態によれば、無彩色だけでなく有彩色についても、主走査方向の読み取り輝度ムラを低減することができる。
[カラー読み取りにおける輝度ムラ]
ここまでは、白黒読み取り時の主走査方向における読み取り輝度ムラについて説明してきた。しかし、カラー読み取り時にも読み取り輝度ムラは発生する。すなわち、白基準板によるシェーディング補正を行ってもなお、有彩色については、主走査方向の読み取り輝度ムラが発生する。すなわち、輝度ムラがRGBの各色で発生する。
【0172】
RGB各色で読み取り輝度ムラが発生すれば、主走査方向で色ムラが発生することになる。これは、カラー複写機において高画質化の妨げとなってしまう。そこで、以下では、主走査方向の色ムラを低減する方法について説明する。
【0173】
なお、主走査方向の色ムラも、上述した有彩色についての読み取り輝度ムラを低減する方法によって、低減することができる。なぜならば、白黒読み取り時であっても、カラー読み取り時であっても、像高の違いによる読み取り光学系の分光特性の変化を削減できれば、主走査方向の読み取り輝度の差を低減できるからである。
【0174】
よって、以下では、改善前の光学系(図4(B)、図4(C))のカラー読み取り結果と、改善後の光学系(図17(A)、図17(B))のカラー読み取り結果とを比較することにする。
【0175】
図20(A)は、改善前の読み取り光学系に関する分光感度特性を示した図である。図20(B)は、改善後の読み取り光学系に関する分光感度特性を示した図である。図20(A)、図20(B)において、横軸は波長を示し、縦軸は反射率を示している。像高y=0は主走査方向の中心(各ミラーでの画角が最小となる位置)である。像高y=152.4は主走査方向の端部(各ミラーでの画角が最大となる位置)でありる。
【0176】
図20(A)において、まず、白色LEDのピーク波長である450nmに注目する。像高y=0では感度が21%程度である。一方、像高y=152.4では、感度が31%である、よって、像高の違いにより感度が10%変化していることがわかる。次に、図20(B)において、ピーク波長450nmに注目する。像高y=0では感度が45%程度である。一方、像高y=152.4では感度50%である。よって、像高の違いにより、感度が5%変化していることがわかる。これらの事実が意味することは、改善の前後で、分光感度特性の変化の割合がおおよそ半分に低減できていることである。
【0177】
この読み取り光学系の像高による分光感度特性の変化を小さくしたことの効果を、図6に示した分光反射特性を持つY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)の各色を用いて説明する。
【0178】
図21は、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の分光反射特性を示した図である。
【0179】
図22は、光学系の改善前後における各色の主走査方向の平均輝度とその輝度差とを示した表である。輝度差は、像高y=0の輝度と像高y=152.4の輝度との差である。
【0180】
例えば、イエローに注目してみると、改善前の平均輝度と輝度差(主走査方向の輝度変化率)は、以下の通りである。
【0181】
R=254.1、ΔR=1.5(0.6%)
G=221.3、ΔG=4.5(2.0%)
B=32.7、ΔB=7.5(23.0%)
また、改善後の平均輝度と輝度差(輝度変化率)は、以下の通りである。
【0182】
R’=253.5、ΔR’=2.1(0.8%)
G’=212.6、ΔG’=5.3(2.5%)
B’=26.4、ΔB’=2.6(9.7%)
特に、低輝度であるB信号の読み取り輝度の輝度変化率が低減されていることがわかる。B(ブルー)など、読み取り輝度の低い色は、分光反射率も低い色である。また、分光反射率の低い色は、読み取り光学系の像高による分光感度特性変化の影響を受けやすい。それゆえ、B信号の読み取り輝度の輝度変化率が低減されているのである。このことについて、数値を用いて具体的に述べる。
【0183】
図10の分光特性を持つ白基準板と図20(A)に示す読み取り光学系の分光特性を積分した結果を以下に示す。
【0184】
像高y=0(中央)における積分値、R:5.99、G:7.35、B:4.97
像高y=152.4(端部)における積分値、R:5.95、G:7.81、B:7.30
このように、RGB各色で積分値に差が出ている。特にB成分の差は大きい。
【0185】
この積分値に対して、ここでは、シェーディング補正のターゲット値(目標値)を読み取り輝度255として、ゲイン設定を行うものとする。
【0186】
像高y=0では、
GR0=42.56、GG0=34.70、GB0=51.16
像高y=152.4では、
GR152.4=42.83、GG152.4=32.65、GB152.4=34.93
このように、ゲイン調整値が算出される。ここで、GR0、GG0、GB0はそれぞれ、RGB各色の像高y=0でのゲイン調整値を示している。GR152.4、GG152.4、GB152.4はそれぞれ、RGB各色のy=152.4でのゲイン調整値を示している。画像処理ASICは、シェーディング補正時にRGB各色で像高y=0と像高y=152.4の位置でこれらの値を補正値として使用することになる。
【0187】
図6に示すイエローの分光特性について、イエローパッチの分光反射特性と読み取り光学系の分光特性とを積分した結果は次の通りである。
【0188】
像高y=0(中央)における積分値、R:5.77、G:6.04、B:0.57
像高y=152.4(端部)における積分値、R:5.72、G:6.36、B:0.71
このように、積分値に差が出る。
【0189】
これに、先ほど算出したゲイン調整値GR0、GG0、GB0、GR152.4、GG152.4、GB152.4を乗算すると、読み取り輝度値が算出される。
【0190】
像高y=0(中央)における輝度値、R=245、G=209、B=29
像高y=152.4(端部)における輝度値、R=245、G=208、B=25
このように像高の違いにより、B成分の読み取り輝度に4レベルの差が出ることがわかる。これは、読み取り光学系の像高による分光特性変化の影響でゲイン調整値がRGB各色で大きく異なるからである。また、このゲイン調整値の差が微小な積分値であるB成分には大きな比率として調整されるからでもある。ここでの計算においても、説明の便宜上、オフセット調整は省略した。
【0191】
ところで、画像読み取り装置で読み取られた画像に対して、後段の画像形成装置は、標準色空間への色処理変換を実行する。標準色空間とは、IEC(International Electrotechnical Commission)などによって標準化が進められた「sRGB規格」や「AdobeRGB規格」などの標準化された色空間のことである。色処理変換は、モニターへの出力やプリンターへの出力など、異なるデバイス間の色再現性を一致させるために使用される。
【0192】
図23は、画像読み取り装置が出力する画像データを標準色空間に変換し、色評価するためにさらにXYZ表色系、L*a*b*表色系に変換する処理を示したフローチャートである。
【0193】
ステップS2601で、画像読み取り装置は、原稿を読み取り、RGBの輝度信号を画像形成装置610に出力する。
【0194】
ステップS2602で、画像形成装置610のガンマ補正処理部は、画像読み取り装置から出力されたRGB輝度信号に対してガンマ補正処理を行う。ガンマ補正とは、原稿画像の色データとそれが実際に出力される際の信号との相対関係を調節して、より自然に近い表示を得るための補正操作であり、非線形な濃度変換処理である。γ(ガンマ)値とは、画像の明るさの変化に対する電圧換算値の変化の比である。γ値は1に近づくのが理想だが、機器によってそれぞれ異なった値となる。したがって、元データに忠実な表示を再現したければ、これらの誤差を修正する必要がある。これがガンマ補正である。
【0195】
一般にガンマ補正は次式で表すことができる。
【0196】
【数10】
【0197】
式(1.9)において、Din、Dout、Dmax、γはそれぞれ、ガンマ補正前の入力濃度値、ガンマ補正後の出力濃度値、ガンマ補正前後での最大濃度値、ガンマ値を表している。
【0198】
図24(A)は、読み取り輝度信号に対して式(1.9)を適用した例を示す図である(γ=0.6)。図24(B)は、読み取り輝度信号に対して式(1.9)を適用した例を示す図である(γ=1.8)。輝度信号の最大値は256とする。
【0199】
図24(A)に示されるように、γ<1の場合、ガンマ補正により全体的に明るくなる。特に、低輝度側は、ガンマ値の影響を受けやすい。よって、低輝度側は、ガンマ値が小さくなればなるほど、急峻な立ち上がりとなる。
【0200】
図24(B)に示すように、γ>1の場合、ガンマ補正により全体的に暗くなる。特に、低輝度側は、γ<1の場合と同様にガンマ値の影響を受けやすい。よって、低輝度側は、ガンマ値が大きくなればなるほど、立ち上がりが遅くなる。
【0201】
このガンマ値は、読み取り光学系の特性や色処理などを考慮して設定される。本実施形態では、低輝度側のダイナミックレンジを確保したいため、低輝度側を持ち上げるようにγ=0.6としている。
【0202】
ステップS2603で、画像形成装置610の色空間変換部は、色空間変換を行う。色空間は、前述の「sRGB規格」や「AdobeRGB規格」などの標準化された色空間である。
【0203】
画像読み取り装置から出力されるRGBの読み取り輝度信号は、標準的な色空間とは異なった色空間のものである。これは、画像読み取り装置を構成する光源、ミラー、ラインセンサ、カラーフィルタの特性が依存するからである。例えば、RGB輝度信号のうち、B信号を明るめに、R信号を暗めに読み取るなど、特有の読み取り輝度信号を出力することになる。画像読み取り装置の特有の読み取り特性を標準的な色空間に合うように補正する処理が、色空間変換である。この色空間変換は、マトリクス演算によるものや、LUT(ルック・アップ・テーブル)を用いたダイレクトマッピングによるものなど、数々の方法がある。本実施形態では、マトリクス演算よりも補間演算精度の高いダイレクトマッピング処理を採用した。
【0204】
ステップS2604で、画像形成装置610のXYZ表色系変換部は、ガンマ補正されかつ色空間変換されたRGB輝度信号を、XYZ表色系に変換する。XYZ表色系は、現在CIE標準表色系として各表色系の基礎となっている。XYZ表色系は、色度図を使って色をYxyの3つの値で表わす。Yが反射率で明度に対応し、xyが色度を表す。
【0205】
図25は、XYZ表色系色度図である。図25からわかるように、横軸方向がx、縦軸方向がyである。無彩色は色度図の中心にある。彩度は周辺になるほど高くなる。図25において、380nm〜470nmは青領域、480nm〜490nmはシアン領域、490nm〜560nmは緑領域、560nm〜590nmはイエロー領域、590nm〜780nmは赤領域をおおそよ示している。
【0206】
XYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値X、Y、Zは次式によって求められる。
【0207】
【数11】
【0208】
ここで、S(λ)は、光源の分光特性を示している。
【0209】
【数12】
【0210】
は、XYZ表色系における等色関数を示している。R(λ)は、分光立体角反射率である。
【0211】
等色関数とは、CIEで定められた等エネルギースペクトルに対する目の感度(スペクトル刺激値)の曲線を表す関数のことである。
【0212】
図26は、等色関数の一例を説明するための図である。横軸は、波長を示している。縦軸は、感度(スペクトル刺激値)を示している。
【0213】
RGB輝度信号からXYZ表色系への変換は、次式で行われる。
【0214】
【数13】
【0215】
ステップS2605で、画像形成装置610のL*a*b*表色系変換部は、XYZ表色系に変換されたRGBの読み取り輝度信号をさらにL*a*b*表色系に変換する。L*a*b*表色系は、物体の色を表わすのに、現在あらゆる分野で使用されている表色系である。L*a*b*表色系は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本でもJIS(JISZ8729)において採用されている。
【0216】
L*a*b*表色系では、明度をL*、色相と彩度を表す色度をa*、b*で表わす。a*、b*は、色の方向を示している。a*は赤方向を示している。−a*は緑方向を示している。b*は、黄方向を示している。−b*は、青方向を示している。a*軸とb*軸が直交する点が無彩色になる。なお、a*、b*の数値が大きくなるにしたがって色あざやかになる。一方、a*、b*の数値が小さくなるにしたがってくすんだ色になる。明度L*は、色度a*、b*と直交する。よって、L*、a*、b*の3つの軸は立体的に直交する。
【0217】
XYZ表色系からL*a*b*表色系への変換は、次式で行われる。
【0218】
【数14】
【0219】
ただし、(1.12)式は、以下の条件で使用するものとする。
【0220】
【数15】
【0221】
式(1.13)が満足されない場合、つまり、
【0222】
【数16】
【0223】
のとき、式(1.12)を下記のように置き換えて計算する。
【0224】
【数17】
【0225】
ここで、X,Y,Zは、式(1.11)で求めた読み取り輝度値RGBをXYZ表色系に変換した値である。Xn,Yn,Znは、完全拡散反射面の三刺激値である。D=65光源を使用する場合、Xn,Yn,Znは、次式で与えられる。
【0226】
【数18】
【0227】
二つの試料(色刺激)の間の色差は、式(1.12)〜式(1.16)を用いて算出したL*a*b*値と、L*a*b*表色系における座標L*a*b*との差である。この差を、ΔL*、Δa*、Δb*と定義する。
【0228】
【数19】
【0229】
以上のような、RGB輝度信号→XYZ値→L*a*b*値という変換を得て、色差ΔE*abが得られる。
【0230】
図27は、色差ΔE*abと人間の感覚についての程度とを示した表である。これは、日本色彩研究所の色差資料を基に作成した。図27によると、一般には同じ色と認識される「A級許容差」では、色差ΔE*ab=3程度が限度である。
【0231】
よって、色差ΔE*ab=3を基準として、カラー読み取り時の主走査方向の読み取り色ムラを低減することが望ましい。そこで、光源である白色LEDのピーク波長450nmにおいて、反射ミラー及び結像ミラーの像高による分光特性の変化をどの程度まで抑えればよいかについて述べる。
【0232】
図28は、読み取り光学系の像高による分光特性変化によって発生する主走査方向の色差ΔEabの変遷を表す表である。ここでは、読み取り光学系トータルでの像高の違いに応じた分光感度特性が、光源である白色LEDのピーク波長450nmにおいて、どの程度変化しているときに、どの程度の色差が発生しているかを説明する。評価対象のチャートに含まれる色は、計6色である。この6色には、図6に示した分光反射特性を持つY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)の各色と、図21に示した分光反射特性を持つR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各色とが含まれる。
【0233】
分光の変化率が15%である場合、イエローの色差ΔE*abは8.59で他の色の色差と比較して最も大きく、目標である色差ΔE*ab=3を大幅に越えている。一方、分光の変化率を10%にした場合であっても、イエローの色差ΔE*abは5.39で最大であり、しかも目標である色差ΔE*ab=3を達成できていない。また、分光の変化率が5%である場合、イエローの色差ΔE*abは2.16でやはり最大であるが、目標である色差ΔE*ab=3を達成できたことがわかる。
【0234】
したがって、色差ΔE*ab=3を達成するためには、読み取り光学系の像高による分光感度特性変化が、光源である白色LEDのピーク波長450nmにおいて5%以内であればよいことになる。
【0235】
以上説明したように、本実施形態では、画像読み取り装置の主走査方向の端部における光源のピーク波長の分光感度特性と、主走査方向の中央部における分光感度特性との差が5%以内となるように調整された結像光学系を採用している。これにより、装置の大型化やコストアップ、基準板の色数増加、回路構成の複雑化などを軽減される。さらに、有彩色の主走査方向における読み取り輝度のムラを低減することもできる。ただし、本実施形態に係る結像光学系を、大型の装置に適用してもよいし、それぞれ異なる色の複数の基準板とももに採用してもよい。
【0236】
とりわけ、次世代の光源として有望な白色LEDについてのピーク波長は、450nmである。よって、450nmにおいて、主走査方向の中央部における分光感度特性との差が5%以内となるように調整された結像光学系を採用することが望ましい。
【0237】
また、結像ユニットの一部である結像ミラーの反射面は、オフアキシャル反射面とすることが望ましい。オフアキシャル反射面は、基準軸光線の入射方向と反射方向が異なり、かつ、曲率を有した反射面である。よって、オフアキシャル反射面は、画像読み取り装置を小型化するのに有利である。
【0238】
また、本実施形態であれは、白基準板のみを用いてシェーディング補正するような画像読み取り装置において特に有効である。一般に、白基準板のみを用いてシェーディング補正すると、有彩色については十分にシェーディング補正することが難しい。しかし、本実施形態であれば、主走査方向の端部における光源のピーク波長の分光感度特性と中央部における分光感度特性との差が5%以内となる。よって、有彩色についても十分にシェーディング補正することが可能となる。
【0239】
画像読み取り装置を小型化するには、光源、結像ユニット及び光電変換ユニットを一体化した移動ユニットを採用することが望ましい。しかし、このような移動ユニットを採用すると、主走査方向の端部と中央部とで画角の差が大きくなり、分光特性の差も生じやすい。しかし、本実施形態では、主走査方向の端部における光源のピーク波長の分光感度特性と中央部における分光感度特性との差が5%以内となる。よって、このような移動ユニットを採用しても、輝度ムラを低く抑えることが可能となる。
【0240】
なお、複写機などの画像形成装置では、画像読み取り装置における輝度ムラは、色ムラに直結する。よって、輝度ムラを低減できれば、画像形成装置の色ムラを低減することが可能となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置とともに使用される画像読み取り装置及び単体で使用される画像読み取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディジタル複写機等に搭載される画像読み取り装置は、結像レンズ、ラインセンサ及び反射ミラーを備えている(特許文献1)。結像レンズ及びラインセンサは筐体に固定されている。一方、反射ミラーは、移動可能な走査ユニットに搭載され、原稿に対して副走査方向に移動する。特許文献1に記載された画像読み取り装置では、一般に、最大画角が20°程度になるように設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−113961号公報
【特許文献2】特開2004−126448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図29は、画像読み取り装置における画角を説明するための平面図である。図の縦方向は、画像読み取り装置にける主走査方向に対応している。また、図の横方向は、副走査方向に対応している。反射ミラー522で反射される原稿画像の反射角は、主走査方向の端部と中央部で異なる。つまり、反射ミラー522のうち主走査方向の端部では、光を結像レンズ525に集光させるために、所定の角度θで光を反射する。この角度θのことを画角と言う。一方、主走査方向の中央に向かうにつれて、画角は、徐々に小さくなって行く。とりわけ、主走査方向の中央で画角θは0度となる。このように、原稿画像の画角は、反射ミラー522のどの位置で反射されるかに応じて異なっている。
【0005】
ところで、近年になり、画像読み取り装置の小型化が注目されるようになってきている。特許文献2によれば、結像素子として、オフアキシャル反射面が形成された複数のミラーにより結像させるオフアキシャル結像ユニットを採用することで、装置の小型化を図った画像読み取り装置が提案されている。オフアキシャル反射面は、基準軸光線の入射方向と反射方向が異なり、かつ、曲率を有した反射面のことである。
【0006】
ただし、大型の画像読み取り装置であっても、小型の画像読み取り装置であっても、光量ムラを補正するためのシェーディング補正が必要となる。一般に、カラー画像読み取り装置では、ラインセンサの光電変換素子上に、赤(R)、緑(G)及び青(B)の光成分をそれぞれ通過する3つのカラーフィルタを設けている。この3色のフィルタからの各透過光をRGBラインセンサで受光して光電変換を行うことにより、RGBの読み取り輝度信号を得る。一般に、光源の照度にはばらつきがあり、しかも結像レンズや結像ミラーには周辺光量の低下が存在するため、結像面での照度にムラ(シェーディング)が発生する。それゆえ、シェーディング補正が必要となる。
【0007】
一般に、シェーディング補正では、原稿を読み取る直前に、白色基準板をセンサにより読み取り、この読み取り結果に基づいてゲインやオフセットを画素ごとに調整する。
【0008】
しかし、白基準板を用いてシェーディング補正できるのは、光源の照度ムラや結像レンズの周辺光量低下など、読み取り光学系の分光特性(分光光学特性)に関連しない光量の変動に限られる。すなわち、反射ミラーや結像ミラー、結像レンズの画角の違いによる分光特性の変化の影響については補正できない。
【0009】
図30は、画角の違いに応じた反射ミラーの分光特性を示した図である。横軸に波長、縦軸に反射率を示している。図30によれば、画角が大きくなると、全体的に短波長側に分光特性がシフトしていることがわかる。
【0010】
このように、画角による分光特性の変化は、原稿画像が反射ミラー、結像ミラー、結像レンズに入射する際の画角に依存している。そのため、画角が大きいほど、その分光特性の変化も大きくなる。なお、読み取り光学系全体での分光特性は、読み取り光学系を構成する全素子の分光特性の積として与えられる。よって、シェーディング補正時には、白基準板の分光特性に光学系全体の画角による分光特性変化が影響することになる。
【0011】
とりわけ、原稿からの反射光が白基準板の白色に似た分光特性を持つ色(白や黒、グレーなどの無彩色)の光の場合は、たしかに、シェーディング補正の効果が得られる。しかし、原稿からの反射光が有彩色光の場合は、シェーディング補正を行っても、主走査方向の読み取り輝度にムラが発生する。これは、白色光を構成するピーク波長の光を基準にしてシェーディング補正することになるため、そのピーク波長と異なる有彩色光のシェーディングについては補正しきれないためである。この問題は、RGBラインセンサで有彩色を読み取るときも、後述する白黒ラインセンサで有彩色を読み取るときも生じ得る。
【0012】
一般に、主走査方向の端部と中央部とでの画角差が小さければ、光学系の画角による分光特性の変化の影響も小さくなる。例えば、特許文献1に示した画像読み取り装置のように、反射ミラーからCCDセンサまでの光路長を長くすれば、画角差を小さくすることができる。しかし、光路長を長くすれば、画像読み取り装置の大型化につながってしまうため、装置の小型化という目的を達成できなくなってしまう。
【0013】
白基準板に加えて、濃度管理のされた赤色や緑色、青色、シアンやマゼンタ、イエローなど各色の基準板を設け、各色ごとにシェーディング補正係数を決定してもよい。このような方法によっても、有彩色についての主走査方向の読み取り輝度ムラを低減することができるだろう。
【0014】
しかし、この方法では、濃度管理を必要とする基準板の数が増えるため、コストアップが避けられない。また、シェーディング補正用の補正係数を基準板の色数だけメモリに保持しておく必要もある。さらに、原稿上の色を判別して、その色に応じて補正係数を選択する回路も必要となってしまう。よって、シェーディング補正回路が煩雑化し、大型化してしまう。
【0015】
そこで、本発明は、このような課題および他の課題のうち、少なくとも1つを解決することを特徴とする。例えば、本発明は、装置の大型化やコストアップ、基準板の色数増加、回路構成の複雑化などを軽減しつつ、有彩色の主走査方向における読み取り輝度のムラを低減することを特徴とする。なお、他の課題については明細書の全体を通して理解できよう。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の画像読み取り装置は、原稿に光を照射する光源と、原稿からの反射散乱光を複数枚の平面ミラー及び結像ミラーで集光して結像する結像ユニットと、結像ユニットにより結像された反射散乱光を電気信号に変換する光電変換ユニットとを備える。結像ユニットは、画像読み取り装置の主走査方向の端部における分光特性と、主走査方向の中央部における分光特性との差が光源のピーク波長において5%以内となるように調整された結像光学系である。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、装置の大型化やコストアップ、基準板の色数増加、回路構成の複雑化などを軽減しつつ、有彩色の主走査方向における読み取り輝度のムラを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】図1Aは、実施形態に係る画像読み取り装置の一例を示した断面図である。
【図1B】図1Bは、結像ミラー107、108、109、110とCCDラインセンサ113の位置関係を示す斜視図である。
【図2】図2(A)は、結像ミラーの拡大図である。図2(B)は、結像ミラーおよび結像ミラー保持部材の一部を示す斜視図である。図2(C)は、結像ミラーおよび結像ミラー保持部材の一部を拡大した断面図である。
【図3】図3は、実施形態に係る画像読み取り装置が備える制御部を示したブロック図である。
【図4】図4(A)は、光源102である白色LEDの分光特性の例を示した図である。図4(B)は、平面ミラー103〜105である反射ミラーの分光特性の例を示した図である。図4(C)は、結像ミラー107〜110の分光特性の例を示した図である。
【図5】図5(A)は、ピーク波長で正規化する前における読み取り光学系全体の分光特性を示した図である。図5(B)は、ピーク波長で正規化した後における読み取り光学系全体の分光特性を示した図である。
【図6】図6は、一次色であるイエロー、マゼンタ、シアンの分光感度特性を示した図である。
【図7】図7は、イエローのパッチを主走査方向に一様な濃度で分布させたチャートの例を示した図である。
【図8】図8は、図5に示した分光特性を持つ読み取り光学系で、図7に示したチャートを読み取った際の各色の読み取り輝度を示した図である。
【図9】図9は、シェーディング補正の一例を示したフローチャートである。
【図10】図10は、白基準部材の分光特性とピーク波長で正規化した光学系の分光特性とを示した図である。
【図11】図11は、図10に示した白基準部材の分光特性と、濃度0.3のグレー及び濃度1.5の黒パッチの分光特性とを比較するための図である。
【図12】図12は、金属表面における入射光と反射光との関係を示した図である。
【図13】図13は、アルミニウムと銀、金、銅の分光特性の例を示した図である。横軸は波長を示している。
【図14】図14は、媒質を通過する光を説明するための図である。
【図15】図15は、光が薄膜に対して斜入射する例を説明するための図である。
【図16】図16は、図15に示した薄膜への斜入射時の各境界面(真空と薄膜、薄膜と基板)でのフレネル係数を説明するための図である。
【図17】図17(A)は、設計中心波長を500nmに設定し、シミュレーションによる最適化設計から決定した反射ミラーの分光特性の例を示した図である。図17(B)は、設計中心波長を500nmに設定し、シミュレーションによる最適化設計から決定した結像ミラーの分光特性の例を示した図である。
【図18】図18(A)は、改善した平面ミラー及び結像ミラーで構成した読み取り光学系の分光特性(正規化前)を示した図である。図18(B)は、改善した平面ミラー及び結像ミラーで構成した読み取り光学系の分光特性(正規化後)を示した図である。
【図19】図19(A)は、図7に示した主走査方向に一様な濃度を持つ色帯を読み取り光学系で読み取った際の、主走査方向の読み取り輝度ムラを示した図である。図19(B)は、図7に示した主走査方向に一様な濃度を持つ色帯を読み取り光学系で読み取った際の、主走査方向の読み取り輝度ムラを示した図である。図19(C)は、図7に示した主走査方向に一様な濃度を持つ色帯を読み取り光学系で読み取った際の、主走査方向の読み取り輝度ムラを示した図である。
【図20】図20(A)は、改善前の読み取り光学系に関する分光感度特性を示した図である。図20(B)は、改善後の読み取り光学系に関する分光感度特性を示した図である。
【図21】図21は、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の分光反射特性を示した図である。
【図22】図22は、学系の改善前後における各色の主走査方向の平均輝度とその輝度差とを示した表である。
【図23】図23は、画像読み取り装置が出力する画像データを標準色空間に変換し、色評価するためにさらにXYZ表色系、L*a*b*表色系に変換する処理を示したフローチャートである。
【図24】図24(A)は、読み取り輝度信号に対して式(1.9)を適用した例を示す図である(γ=0.6)。図24(B)は、読み取り輝度信号に対して式(1.9)を適用した例を示す図である(γ=1.8)。
【図25】図25は、XYZ表色系色度図である。
【図26】図26は、等色関数の一例を説明するための図である。
【図27】図27は、色差ΔE*abと人間の感覚についての程度とを示した表である。
【図28】図28は、読み取り光学系の像高による分光特性変化によって発生する主走査方向の色差ΔEabの変遷を表す表である。
【図29】図29は、画像読み取り装置における画角を説明するための平面図である。
【図30】図30は、画角の違いに応じた反射ミラーの分光特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の一実施形態を示す。以下で説明される個別の実施形態は、本発明の上位概念、中位概念および下位概念など種々の概念を理解するために役立つであろう。また、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
【0020】
本発明は、白黒読み取り用のラインセンサで有彩色を読み取った場合だけではなく、カラー読み取り用のRGBの3ラインセンサで有彩色を読み取った場合においても主走査方向の読み取り輝度ムラを低減する発明である。
【0021】
以下の実施形態では、カラー読み取り用のRGBの3ラインセンサと、白黒読み取り用のラインセンサとを備えた4ラインセンサ型のイメージセンサを採用した画像読み取り装置について説明する。そこで、先に白黒読み取り用のラインセンサによる有彩色の読み取り輝度ムラについての説明を行い、後にカラー読み取り用の3ラインセンサについて説明する。
【0022】
図1Aは、実施形態に係る画像読み取り装置の一例を示した断面図である。原稿台ガラス101は、原稿を載置するためのガラスである。光源102は、原稿に光を照射するための白色LEDアレイや管光源である。平面ミラー103、104、105は、原稿にて拡散した光を導くための反射鏡である。平面ミラー103、104、105は、それぞれ反射光学系である。このように反射光学系は、複数の光学部品により構成されてもよいし、単一の光学部品により構成されてもよい。平面ミラー保持部材106は、平面ミラー103、104、105を保持するための保持部材である。結像ミラー107、108、109、110は、それぞれオフアキシャル反射面が形成されたミラーである。図1Bは、結像ミラー107、108、109、110とCCDラインセンサ113の位置関係を示す斜視図である。結像ミラー保持部材111は、結像ミラー107、108、109、110を保持するための保持部材である。結像ミラー107、108、109、110は、それぞれ反射光学系であるとともに結像光学系である。絞り112は、結像ミラー保持部材111内に設けられ、結像ミラー108からの光を絞る。CCDラインセンサ113は、前述したように4ラインセンサである。CCDラインセンサ113は、結像ユニットにより結像された反射光を電気信号に変換する複数の光電変換素子が所定方向に配列された光電変換ユニットの一例である。CCDは、Charge Coupled Deviceの略である。なお、CCDに代えて、CMOSイメージセンサなど、他の形式のセンサが採用されてもよい。走査枠体114は、光源102、平面ミラー103、104、105、結像ミラー保持部材111、CCDラインセンサ113を保持する。結像ミラー107、108、109、110及び結像ミラー保持部材111は、オフアキシャル結像ユニット115を形成する。なお、これらの反射ミラーや結像ミラーは、原稿からの反射散乱光を複数枚の平面ミラー及び結像ミラーで集光して結像する結像ユニットの一例である。
【0023】
原稿台ガラス101は、読み取りユニット枠体116に支持されている。走査枠体114は、読み取りユニット枠体116内に配置されている。走査枠体114は、駆動モーター117、駆動ベルト118の働きにより読み取りユニット枠体116内を副走査方向に往復動作する。走査枠体114は、光源、結像ユニット及び光電変換ユニットを搭載し、主走査方向に対して直交した副走査方向に移動する移動ユニットの一例である。
【0024】
原稿台ガラス101上に載置された原稿Sを読み取る際の動作について説明する。光源102が点灯し、光源102からの光が原稿Sを照明する。駆動モーター117及び駆動ベルト118は、走査枠体114を副走査方向に移動させることで、原稿Sを走査する。光源102が原稿Sに照射した光は原稿S上で拡散する。拡散光は、平面ミラー103、104、105によりオフアキシャル結像ユニット115に導かれる。
【0025】
オフアキシャル結像ユニット115に導かれた光は、結像ミラー107〜110で順次反射される。最終的に、拡散光、各結像ミラーに形成されたオフアキシャル反射面の働きにより、CCDラインセンサ113に結像する。CCDラインセンサ113は、受光した光を光電変換することにより、原稿の画像を表す電気信号を生成する。
【0026】
図2(A)は、結像ミラーの拡大図である。結像ミラー107、108、109、110のそれぞれには、図2(A)の斜線部に、オフアキシャル反射面が形成されている。固定部202、203は、結像ミラーの位置を決定し固定する。半球面204は、結像ミラーのZ方向の位置を決める凸状部材である。半球面204は、3ヶ所に形成されている。突き当て部205は、結像ミラーのX方向を決定する。突き当て部206は、結像ミラーのY方向の位置を決定する。結像ミラーのX・Y・Z方向の各位置を決定する半球面204および突き当て部205、206は、すべて固定部202、203に設けられる。固定部202、203の厚さは、オフアキシャル反射面が形成された部分の厚さに比べ、薄くなっており、断面二次モーメントが小さくなっている。
【0027】
図2(B)は、結像ミラーおよび結像ミラー保持部材の一部を示す斜視図である。結像ミラー保持部材111には、突起部208、受け面209、210が設けられている。突起部208は、3つ設けられており、結像ミラー107、108、109、110に設けられた3つの半球面204を保持する。これにより、結像ミラーのZ方向が位置決めされる。受け面209は、突き当て部205を保持する。受け面210は、突き当て部205を保持する。これにより、結像ミラーのX方向・Y方向が位置決めされる。
【0028】
図2(C)は、結像ミラーおよび結像ミラー保持部材の一部を拡大した断面図である。押圧部材211は、結像ミラーを固定するために、結像ミラー保持部材111に取り付けられる。押圧部材211は、3つの半球面204のそれぞれに対応して設けられる。3つの押圧部材211は、それぞれ等しい力で結像ミラーを押圧する。
【0029】
なお、押圧部材211が結像ミラーの固定部202、203に及ぼす力により生じる結像ミラー内部の応力によって、結像ミラー107、108、109、110は変形しようとする。また、押圧部材211の取り付け誤差や結像ミラー107、108、109、110の成形誤差により半球面204と押圧部材211の加圧点がずれるとモーメントが発生する。このモーメントによっても、結像ミラー107、108、109、110は変形しようとする。しかし、オフアキシャル反射面が形成された部分より固定部202、203の断面二次モーメントが小さい。そのため、固定部202、203が変形して内部応力およびモーメントが吸収される。よって、オフアキシャル反射面の変形は微小となる。
【0030】
また、光源102、CCDラインセンサ113及び駆動モーター117から発生する熱が画像読み取り装置内の空気を介して結像ミラーに伝わると、結像ミラーは熱膨張する。結像ミラーの線膨張係数と結像ミラー保持部材111との線膨張係数は異なるため、結像ミラーを変形させようとする応力が発生する。しかし、固定部202、203は、このような内部応力およびモーメントも吸収するため、オフアキシャル反射面の変形を微小にすることが可能である。
【0031】
固定部202、203が変形すれば、オフアキシャル反射面の位置が変化する。しかし、オフアキシャル反射面の位置変化が光学性能に与える影響は、オフアキシャル反射面自体の変形に比べて10分の1程度にすぎない。しかも、固定部202、203の変形による位置変化は微小である。よって、本実施形態の固定方法による光学性能の劣化は非常に小さく、実用上まったく問題ない程度となる。
【0032】
図3は、実施形態に係る画像読み取り装置が備える制御部を示したブロック図である。CPU601は、画像読み取り装置が備える各ユニットを統括的に制御するユニットである。CCD駆動回路602は、CCDラインセンサ113を駆動制御する回路である。A/D変換部603は、CCDラインセンサ113から出力されるアナログデータをディジタルデータに変換する。画像処理ASIC604は、A/D変換部603からの出力信号に対して画像処理を行う。画像処理には、例えば、シェーディング補正、色ズレ補正、MTF(Modulation Transfer Function)補正がある。画像処理ASIC604は、結像ユニットを通じて受光された白基準板からの光を光電変換ユニットにより変換することで生成された電気信号を用いてシェーディング補正を実行するシェーディング補正ユニットの一例である。DRAM605は、画像データを一時的に保存する記憶装置である。画像処理ASIC604により画像処理された画像データは、図示しない画像形成装置に送られる。モーター駆動回路606は、CPU601からの指示に従って駆動モーター117を制御する回路である。画像形成装置610は、画像読み取り装置から出力された画像データに基づいて、用紙に画像を形成する装置である。画像形成装置610は、複写装置の画像形成部であってもよい。また、画像形成装置610は、画像読み取り装置から原稿の画像を表す電気信号を受信して、画像を形成する画像形成部の一例である。画像形成部の形式は、電子写真方式、インクジェット方式など、どのような形式であってもよい。
【0033】
[シェーディング補正]
次に、白基準板を用いたシェーディング補正について説明する。シェーディング補正では、CCDラインセンサ113から出力される画像データの画素ごとの読み取りばらつきが補正される。
【0034】
まず、光源102から白基準板に光を照射し、白基準板からの拡散光をCCDラインセンサ113により読み取る。なお、白基準板は、濃度管理がされているものとする。画像処理ASIC604は、白基準板の読み取り結果を用いて、光源102の照度ムラ、結像ミラー107〜110の周辺光量低下及びCCDラインセンサ113の画素感度ばらつきに起因したシェーディングデータを取得する。
【0035】
画像処理ASIC604は、シェーディングデータの各画素値が任意の目標値(例えば、輝度値で245)になるように、画素ごとにゲイン値を調整する。画像処理ASIC604は、この調整値をゲイン調整値としてDRAM605に記憶する。
【0036】
次に、画像処理ASIC604は、光源102を消灯した状態で、シェーディングデータを取得する。画像処理ASIC604は、CCDラインセンサ113から出力されるデータの各画素値(黒オフセット値)が任意の目標値(例えば、輝度値で5)になるように、画素ごとにオフセットを調整する。画像処理ASIC604は、この調整値をオフセット調整値としてDRAM605に記憶する。
【0037】
画像処理ASIC604は、CCDラインセンサ113から出力される画像データに対して、ゲイン調整値及びオフセット調整値に基づいて、画素ごとにゲイン調整及びオフセット調整を実行する。以上の処理により白基準板によるシェーディング補正が完了する。
【0038】
この白基準板によるシェーディング補正により、光源102の照度ムラや結像ミラー107〜110の周辺光量低下、CCDラインセンサ113の画素感度ばらつきが低減される。すなわち、主走査方向には一様な状態で読み取ることが可能になると考えられる。
【0039】
[画角と分光特性との関係]
原稿に照射された光源102からの反射散乱光は、平面ミラー103〜105と結像ミラー107〜110とで順次反射される過程で、画角に応じた分光特性の変化を受ける。
【0040】
ただし、各ミラーでの最大画角は一致するとは限らない。主走査方向の原稿画像の反射位置(つまり、最大画角)をミラーごとに異ならしめることがあるからである。
【0041】
したがって、以下では、各ミラーの最大画角を個々に表示するのではなく、平面ミラー103〜105で順次反射された後の分光特性として反射ミラーの分光特性を示することにする。同様に、結像ミラー107〜110で順次反射された後の分光特性として結像ミラーの分光特性を示すことにする。また、以下では、各ミラーでの画角に応じた分光特性の変化ではなく、主走査方向の原稿画像の読み取り位置(つまり、像高)に応じた分光特性の変化と表現することにする。
【0042】
ここで、像高と画角の関係について説明する。像高が高いことは、光軸中心から離れていること、つまり、画角が大きいことを示している。逆に、像高が低いことは、光軸中心に近いこと、つまり、画角が小さいことを示している。
【0043】
次に、本実施形態で採用する読み取り光学系の各素子の特性例について述べる。
【0044】
図4(A)は、光源102である白色LEDの分光特性の例を示した図である。横軸は、波長を示している。縦軸は、相対発光強度を示している。なお、光源の波長ごとの発光強度は分光分布特性と呼ばれる。図4(B)は、平面ミラー103〜105である反射ミラーの分光特性の例を示した図である。さらに、図4(C)は、結像ミラー107〜110の分光特性の例を示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は反射率を示している。なお、光学部品の波長ごとの反射率は、分光反射特性と呼ばれる。
【0045】
一般に、反射ミラー及び結像ミラーは、それぞれガラスと樹脂上にアルミニウム(Al)を蒸着して製造される。これは、金属薄膜上に誘電体を積層してオーバーコーティングすることで反射率を高めるためである。発明者は、所望の特性を得るために、設計の中心波長を600nmとし、シミュレーションによる最適化により図4(B)及び図4(C)に示すミラーを作成した。
【0046】
本実施形態では、広角の結像光学系を採用している。そのため、本実施形態では、特開平3−113961号公報に示されるような、光源と反射ミラーを固定した走査ユニットで原稿面を走査する縮小光学系よりも、像高(画角)による分光特性の変化は大きい。
【0047】
ここで、広角とは、CCDラインセンサ113に結像させるまでの過程で、各ミラーの画角が大きいことを指している。一般に使用される広角レンズでは、35ミリ換算値で500mm以下の焦点距離を持つレンズのことを指す。本実施形態では、レンズの替わりにミラーを使用して画像を結像しているが、焦点距離の定義については、上記広角レンズと同様とする。
【0048】
図4(B)、図4(C)において、像高はyとして表している。y=0は主走査方向の中心(画角が最小の0度となる位置)に相当する。y=152.4は主走査方向の端部(画角が最大となる位置)に相当する。図4(B)、図4(C)には、各像高での分光特性の差異が示されている。
【0049】
光源102である白色LED、平面ミラー103〜105、結像ミラー107〜110、CCDラインセンサ113の感度を含めた、読み取り光学系全体の分光特性をピーク波長で正規化する前と後との比較をする。
【0050】
図5(A)は、ピーク波長で正規化する前における読み取り光学系全体の分光特性を示した図である。図5(B)は、ピーク波長で正規化した後における読み取り光学系全体の分光特性を示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は感度を示している。なお、受光素子や光学部品の波長ごとの感度は、分光感度特性と呼ばれる。図5(A)、図5(B)では、波長ごとに、読み取り光学系がどれくらいの感度で読み取れるかを、像高y=0とy=152.4とで比較している。
【0051】
図5(A)を見ると、ピーク波長である450nm付近での感度が像高に応じて大きく変化していることがわかる。これは、図4(A)の白色LEDのピーク波長450nmに対して、図4(B)、図4(C)にそれぞれ示している反射ミラーと結像ミラーの分光特性の像高による変化が影響しているからである。
【0052】
まず、図4(B)に示した反射ミラーの分光反射率の像高による変化に関して、450nmに注目してみることにする。像高y=0では反射率が63%程度であるのに対し、像高y=152.4では反射率が80%となっている。よって、像高による反射率の差は、17%である。
【0053】
次に、図4(C)に示した結像ミラーの分光反射率の像高による変化に関して、450nmに注目してみる。像高y=0では、反射率46%程度である。一方、像高y=152.4では、56%である。よって、像高の違いによる反射率の差は、10%ある。
【0054】
読み取り光学系全体としては、図5(A)の450nmに注目する。像高y=0では感度29%程度である。一方、像高y=152.4では、42%である。よって、像高の違いにより感度が13%変化している。
【0055】
次に、ピーク波長についての感度の差が分光特性全体に与える影響を見るために、ピーク波長で正規化した分光特性(図5(B))について考察する。
【0056】
図5(B)によれば、各波長の感度が、ピーク波長である450nm付近の感度により正規化されている。図5(B)によれば、ピーク波長における感度の変化は500nmよりも長波長側の分光特性に大きく影響していることが分かる。特に、変化が大きい550nmに注目してみる。像高y=0では感度54%程度である。一方、像高y=152.4では、39%である。よって、像高の違いによる感度の差は15%である。
【0057】
本実施形態で採用した反射ミラーと結像ミラーの分光特性の例では、反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が、500nmよりも長波長側の色の読み取りに、大きな影響を与えることになる。
【0058】
[主走査方向の読み取り輝度ムラ]
図6は、一次色であるイエロー、マゼンタ、シアンの分光感度特性を示した図である。特に、500nmよりも長波長側に分光感度特性を多く持つ色として、イエローがある。
【0059】
図7は、イエローのパッチを主走査方向に一様な濃度で分布させたチャートの例を示した図である。図7に示したチャートでは、イエロー以外に、マゼンタとシアンのパッチも示している。このチャートは、読み取り光学系の分光特性の変化が色の分光特性の違いにどの程度影響するかを比較するためのものである。
【0060】
図8は、図5に示した分光特性を持つ読み取り光学系で、図7に示したチャートを読み取った際の各色の読み取り輝度を示した図である。横軸は主走査方向の画素位置を示している。縦軸は読み取り輝度を示している。
【0061】
図8において、主走査方向の画素位置で0は像高y=152.4の位置に相当する。この位置は、主走査方向の端部であり、画角が最も大きい箇所である。また、画素位置で3500は像高y=0の位置に相当する。この位置は、主走査方向の中央部であり、画角が最も小さい箇所である。さらに、画素位置で7000は像高y=―152.4の位置に相当する。この位置も、主走査方向の端部であり、画角が最も大きい箇所となる。
【0062】
反射ミラーも結像ミラーも像高y=0を中心とする対称面となっている。よって、像高y=0を中心に像高の絶対値が大きくなるにつれて、画角も大きくなることを意味している。
【0063】
図8において、イエローの端部(主走査方向の画素位置で0や7000)での読み取り輝度は152である。また、中央(主走査方向の画素位置で3500)では輝度175となっている。主走査方向の端部と中央部とでは、23レベルの読み取り輝度差がある。シアンやマゼンタについては、主走査方向の端部と中央部で、それぞれ16レベル、11レベルの読み取り輝度差がある。
【0064】
このように、画角が大きい結像光学系を持つ読み取り光学系においては、白基準板によるシェーディング補正後であっても、主走査方向の読み取り輝度に差が生じる。この現象を「主走査方向の読み取り輝度ムラ」と呼ぶことにする。
【0065】
[有彩色についてのシェーディング補正]
ところで、白基準板によるシェーディング補正は、光源の照度ムラやラインセンサの出力ばらつき、結像ミラーの周辺光量低下などを補正するために、画像読み取り装置では一般に行われている補正処理である。しかし、この白基準板によるシェーディング補正では、有彩色に関しての主走査方向の読み取り輝度ムラを補正しきれない。以下では、この理由について述べる。
【0066】
図9は、シェーディング補正の一例を示したフローチャートである。ステップS1201で、CPU601は、原稿台ガラス101上に貼付されている白基準板の直下まで走査枠体114を移動するよう、モーター駆動回路606に指示する。モーター駆動回路606は、この指示に従って駆動モーター117を駆動する。
【0067】
ステップS1202で、CPU601は、光源102を点灯させ、CCD駆動回路602を制御し、CCDラインセンサ113によりシェーディングデータを取得する。
【0068】
ステップS1203で、CPU601は、画像処理ASIC604にゲイン値を決定するよう指示する。画像処理ASIC604は、シェーディングデータの各画素値が目標値となるよう、画素ごとのゲイン調整値を決定する。
【0069】
ステップS1204で、画像処理ASIC604は、画素ごとのゲイン調整値をDRAM605に格納する。
【0070】
ステップS1205で、CPU601は、光源102を消灯する。これにより、暗黒状態が作り出される。CCD駆動回路602は、CCDラインセンサ113を動作させ、データを取得する。
【0071】
ステップS1206で、画像処理ASIC604は、暗黒状態でのCCDラインセンサ113の読み取りレベルを黒レベルのオフセット調整値として算出する。
【0072】
ステップS1207で、画像処理ASIC604は、画素ごとのオフセット調整値をDRAM605に格納する。
【0073】
ステップS1208で、CPU601は、走査枠体114を原稿台ガラス101上の原稿Sの位置に移動するよう、モーター駆動回路606に指示する。モーター駆動回路606は、この指示に従って駆動モーター117を駆動する。
【0074】
ステップS1209で、CPU601は、原稿Sの位置に移動した走査枠体114の光源102を点灯させ、原稿画像の読み取りを開始する。走査枠体114は、副走査方向に一定速度で移動する。CCDラインセンサ113は、平面ミラー103〜105と結像ミラー107〜110とで順次反射して結像した原稿の画像データを光電変換する。これにより原稿の画像を表す電気信号が得られる。アナログの電気信号は、A/D変換部603で、ディジタル画像データに変換される。
【0075】
ステップS1210で、画像処理ASIC604は、画像データについて画素ごとに対応するゲイン調整値をそれぞれ乗算し、得られた各積に対応するオフセット調整値を加算する。
【0076】
ステップS1211で、画像処理ASIC604は、シェーディング補正された画像データを読み取り輝度信号として、後段の画像処理プロセスに出力する。
【0077】
この一連のシェーディング補正処理のうち、ステップS1203で、画素ごとにゲイン調整値を算出している。このゲイン調整値は、光源102の照度ムラ、CCDラインセンサ113の各画素での感度ばらつきに加えて、平面ミラー103〜105及び結像ミラー107〜110の像高による分光特性の変化の影響も含んだ形で算出されている。
【0078】
平面ミラー103〜105と結像ミラー107〜110の像高による分光特性変化は、読み取り光学系全体の像高による分光特性にも影響する。よって、読み取り光学系の像高による分光特性変化は、読み取り対象である原稿上の色の分光特性との関連で、読み取り輝度に影響することになる。
【0079】
読み取り輝度は、読み取り光学系の分光特性と、読み取り対象となる原稿上の色の分光特性との積分で与えられる。そのため、色の分光特性が主走査方向で一定であったとしても、光学系の分光特性が像高により変化することで、読み取り輝度も像高により変化することになる。
【0080】
したがって、基準の白色板が一様な濃度で管理され、かつ、光源102の照度ムラやCCDラインセンサ113の感度ばらつきが無視できるほど小さく、かつ、平面ミラー103〜105、結像ミラー107〜110の像高による分光特性変化がなければ、ゲイン調整値は、各画素でほぼ同じ値を取ることになる。
【0081】
しかし、前述したように、平面ミラー103〜105、結像ミラー107〜110の像高による分光特性の変化はある。よって、光源102の照度ムラやCCDラインセンサ113の感度ムラの影響が無視できるほど小さくても、ゲイン調整値は、各画素で異なってくる。
【0082】
図10は、白基準板の分光特性とピーク波長で正規化した光学系の分光特性とを示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は相対感度(反射率)を示している。光学系の分光特性に関しては、像高y=0とy=152.4とについてそれぞれ示している。
【0083】
図10を参照すると、白基準板の分光特性は、反射率0.9で各波長ほぼ一定であることがわかる。この白基準板と光学系の分光特性に関する積分値を以下示す。
【0084】
像高y=0(中央)において、積分値は75.7であり、
像高y=152.4(端部)において、積分値は59.9であり
両者の積分値に大きな差が出る。
【0085】
これらの積分値に対して、ここでは、読み取り輝度255をシェーディング補正の目標値としてゲイン調整値Gを算出する。
【0086】
像高y=0では、G0=3.38、
像高y=152.4では、G152.4=4.26
ここで、G0とG152.4は、それぞれ像高y=0とy=152.4でのゲイン調整値である。画像処理ASIC604は、これらの値を、シェーディング補正時に像高y=0と像高y=152.4の位置での補正値として、使用する。
【0087】
このように、光学系の像高による分光特性変化は、シェーディング補正時のゲイン調整値にも影響を与える。
【0088】
実際のシェーディング補正時のゲイン調整値は、上記の光学系の像高による分光特性変化に加え、光源の照度ムラの影響も受ける。しかし、画像読み取り装置で使用する光源102の分光特性は、一定の仕様の範囲内で管理されたものである。よって、照度ムラでの分光特性変化は非常に小さく、照度の主走査方向での変化が光源102の照度ムラとして発生する。
【0089】
しかし、光源102の分光特性が主走査方向で変わらなければ、光源102の照度ムラによる主走査方向の読み取り輝度ムラは、どの色に対しても現われる。すなわち、白基準板の白色だけではなく、他の一般的な無彩色、有彩色についても輝度ムラが現われる。よって、有彩色についてのみだけ、主走査方向の読み取り輝度ムラが発生することはない。
【0090】
したがって、光源102の照度ムラに関しては、白基準板によるシェーディング補正を行うことで、主走査方向に一様な読み取りが可能となる。この点で、読み取り光学系の像高による分光特性変化による主走査方向の読み取り輝度ムラとは、本質的に異なるのである。
【0091】
ここで注意したいのは、読み取り光学系の像高による分光特性変化は、すべての色について白基準板によるシェーディング補正の効果を減少させるのではない。すなわち、無彩色、つまり、白や黒、グレーなどの色については、シェーディング補正の効果が得られるのである。
【0092】
図11は、図10に示した白基準板の分光特性と、濃度0.3のグレー及び濃度1.5の黒パッチの分光特性とを比較するための図である。横軸は波長を示している。縦軸は反射率を示している。
【0093】
図11によれば、白基準板の分光特性と同様に、濃度0.3のグレーパッチの反射率は、各波長とも0.48でほぼ一定である。一方、濃度1.5の黒パッチの反射率は、各波長とも0.03でほぼ一定である。
【0094】
この濃度0.3の分光特性と光学系の分光特性を積分した結果は以下の通りである。
【0095】
像高y=0(中央)において、積分値は40.0、
像高y=152.4(端部)において、積分値は31.7
このように、積分値に差が出る。
【0096】
これらに、ゲイン調整値G0とG152.4を乗算する。その結果、読み取り輝度値は、以下の通りである。
【0097】
像高y=0(中央)において、読み取り輝度値は135、
像高y=152.4(端部)において、読み取り輝度値は135
と算出される。
【0098】
同様に、濃度1.5の分光特性と光学系の分光特性とを積分した結果は、以下の通りである。
【0099】
像高y=0(中央)において、積分値は2.69、
像高y=152.4(端部)において、積分値は2.13
このように、積分値に若干の差が出ている。
【0100】
これに、ゲイン調整値G0とG152.4を乗算すると、読み取り輝度値は、以下の通りとなる。
【0101】
像高y=0(中央)において、読み取り輝度値は9
像高y=152.4(端部)において、読み取り輝度値は9。
【0102】
つまり、分光特性に関して白基準板と良く似ている色(400nm〜700nmの各波長のうち、反射率がほぼ一定となる波長(色)で、その反射率の大小は問わない。)主走査方向の読み取り輝度ムラは発生しないことになる。すなわち、グレーや黒などでは、白基準板で決定したゲイン調整値を用いても、主走査方向の読み取り輝度ムラは発生しないことになる。
【0103】
ゲイン調整値G0とG152.4は、像高による白基準板の読み取り値の変化を補正するよう、決定さる。また、白基準板とよく似た分光特性を持つ色は、その反射率の大小に関わらず、像高による読み取り輝度の変化率はほぼ一定である。そのため、白基準板によるシェーディング補正によって、所望の効果が得られるのである。
【0104】
しかし、図6に示したイエローの分光特性について、同様の計算を行うと、イエローの分光特性と光学系の分光特性との積分値は以下の通りとなる。
【0105】
像高y=0(中央)において、積分値は48.1、
像高y=152.4(端部)において、積分値は33.7
このように、各像高の積分値に差が出る。
【0106】
これらの積分値に、対応するゲイン調整値G0とG152.4を乗算して、読み取り輝度値を算出する。
【0107】
像高y=0(中央)において、読み取り輝度値は162、
像高y=152.4(端部)においても、読み取り輝度値は144
このように、像高に応じた読み取り輝度値に18レベルの差が出ることがわかる。
【0108】
ここまでの考察ではゲイン調整値にのみ注目したため、オフセット補正値については考慮しなかった。これは、オフセット補正値は、光源を消灯した状態で行うため、光学系の分光特性の影響は受けないからである。
【0109】
以上で説明したように、白基準板によるシェーディング補正では白基準板とほぼ相似形の分光特性を持つ無彩色については主走査方向の読み取り輝度のムラを低減することができる。しかし、有彩色については、白基準板を用いたシェーディング補正では主走査方向の読み取り輝度ムラは補正しきれない。
【0110】
このように、広角の結像光学系を持つ画像読み取り装置では、白基準板によるシェーディング補正を行っても、有彩色については、主走査方向に読み取りの輝度ムラが発生する。
【0111】
[有彩色について発生する主走査方向の読み取り輝度ムラを低減する方法]
有彩色について発生する主走査方向の読み取り輝度ムラを低減する方法として、読み取り光学系の像高による分光特性の変化を低減する方法が挙げられる。
【0112】
この方法の1つは、例えば、反射ミラーや結像ミラーに入射する読み取り画像の画角を小さくすることである。主走査方向の端部での画角を小さくするには、各ミラー間の距離を長くする、つまり、光路長を長く取る必要がある。しかし、ミラー間の距離を長く取るためには、画像読み取り装置を大きくしなければならない。また、大型化に伴う部材のコストアップも見込まれる。そのため、この方法では、装置の小型化やコストダウンという要求には応えられない。
【0113】
他の方法としては、白基準板の他に、濃度管理のされた赤色や緑色、青色、シアンやマゼンタ、イエローなど各色の基準板を設け、原稿の色によってシェーディング補正係数を変更する方法がある。しかし、この方法を採用する場合、濃度管理をする基準板の数が増えてしまう。また、シェーディング補正用の補正係数を各色で記憶しておくためのメモリも必要となる。さらに、原稿上の色を判別する回路も必要となってしまう。コストアップや装置の大型化は避けられない。
【0114】
そこで、本実施形態では、光源のピーク波長近傍の波長帯での反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が小さくする方法を採用することにする。この方法は、光学系の像高による分光特性の変化が、光源のピーク波長と反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が重なる部分に大きく起因することに注目することで得られた。これにより、有彩色についての主走査方向の読み取り輝度ムラが低減される。また、この方法は、コストアップや装置の大型化に関しても、上記の方法と比較して有利である。
【0115】
本実施形態では、光源として図4(A)に示すような分光特性をもつ白色のLEDを使用しており、ピークの波長は450nm付近である。前述のように、この光源のピーク波長に対して、反射ミラー及び結像ミラーの分光特性が像高により変化してしまうことが原因で、白基準板によるシェーディング補正をしてもなお、有彩色については主走査方向の読み取り輝度ムラが発生する。そこで、白色LEDのピーク波長450nmにおいて、反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が小さくなるようにすればよい。
【0116】
ここで、反射ミラー、結像ミラーの分光特性について述べておく。一般に、ミラーは、ガラスやプラスチック、樹脂などの表面に、アルミニウムや銀、クロム、銅などの金属の薄膜を蒸着することで作成されている。よって、ミラーの分光特性は蒸着する金属の種類により異なる。
【0117】
図12は、金属表面における入射光と反射光との関係を示した図である。金属の表面に光が当たると、表面の薄膜層に存在する金属イオンや自由電子などが光のエネルギーを吸収して共鳴振動を起こす。その振動のエネルギーが金属表面より放出される。これが金属からの光の反射現象である。
【0118】
図13は、アルミニウムと銀、金、銅の分光特性の例を示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は反射率を示している。
【0119】
銀の反射率は、450nmで97%、550nmで98%、650nmで98%である。このように、銀は、可視光領域全域の波長で反射率が非常に高い。そのため、ミラーに蒸着する金属としては銀が最も望ましい。しかし、銀は素材として高価である。よって、ミラーにはアルミニウムがよく使用される。
【0120】
アルミニウムは、450nmで92%、550nmで91%、650nmで90%の反射率を持っている。アルミニウムの反射率は、銀の反射率には及ばない。しかし、アルミニウムの反射率は、可視光領域全域の各波長でほぼ均一である。
【0121】
金の反射率は、紫外域(400nmよりも短波長側)から青の波長帯(400nm〜500nm)では低い。また、金の反射率は、緑の波長帯(500nm〜600nm)の中央550nmから高くなり始める。金の反射率は、赤の波長帯(600nm〜700nm)から赤外域(700nmよりも長波長側)で98%となる。したがって、金は、緑の波長帯と赤の波長帯の光を多く反射するため、黄色っぽい色として見えることになる。
【0122】
銅の反射率は、金と同様に、紫外域から青の波長帯では低い。また、同の反射率は、緑の波長帯でも70%程度であるが、赤の波長帯で93%といった高い反射率を持つ。したがって、銅に入射した光は、赤の波長帯で多く反射されるため、赤っぽい色として見えることになる。
【0123】
ミラーの保護膜として、金属膜上にフッ化マグネシウム(MgF2)などの誘電体多層膜をオーバーコーティングすることで反射率を高めることができる。ただし、反射率は、波長や入射角に依存することが知られている。
【0124】
さらに、蒸着する反射膜の膜厚を変化させることで、ミラーの分光特性全体を短波長側に波長シフトさせることができる。これらについて、以下で説明する。
【0125】
図14は、媒質を通過する光を説明するための図である。一般に、光の位相速度は、光が通過する媒質により異なる。しかし、光の振動数νは変わらない。ここで、光が正弦波振動をしながら、真空、媒質の境界面を垂直に入射しながら進行する場合を考える。
【0126】
真空中の光の屈折率、波長、速さを、それぞれn0、λ0、cとする。媒質中の光の屈折率、波長、速さをそれぞれn、λ、νとする。これらのパラメータには、次式が成立する。
【0127】
【数1】
【0128】
図14が示すように、屈折率nの媒質中の波長λは、真空中の波長の1/nになり、n>1の時、媒質中の波長は、真空中に比べて短くなる。
【0129】
屈折率nの媒質の距離をdとすると、この媒質中に含まれる波の数は、次式の通りである。
【0130】
【数2】
【0131】
これは、距離ndの中に含まれる波長λ0の波の数に等しい。このndを光学距離、または、光学薄膜(optical thickness)という。
【0132】
図15は、光が薄膜に対して斜入射する例を説明するための図である。真空中の光の屈折率、波長、入射角をそれぞれn0、λ0、θ0とする。薄膜中の光の屈折率、波長、屈折角をそれぞれn、λ、θとする。また、薄膜を蒸着している基板の屈折率、波長、入射角をそれぞれnm、λm、θmとする。
【0133】
真空中から光が薄膜に斜入射すると、光路差が生じする。すなわち、薄膜表面で反射する光(図15中の点Pから点Qに向かう光)と、薄膜中に透過した後に薄膜中を進行して基板表面で反射して再度真空中に透過してくる光(図15中の点Rで反射して点P‘で真空中に出る光)とに光路差が生じる。
【0134】
この光路差PQ’は、次式の通りである。
【0135】
【数3】
【0136】
なお、式(1.3)において、スネルの法則
【0137】
【数4】
【0138】
を用いて変換を行っている。つまり、斜入射すると光学薄膜は、垂直入射時のndにcosθを乗算した値になり、垂直入射時よりも光学薄膜は小さくなる。このように、斜入射時には光学薄膜は小さくなる。なお、光学薄膜は小さくなると、分光特性が変化する。
【0139】
図16は、図15に示した薄膜への斜入射時の各境界面(真空と薄膜、薄膜と基板)でのフレネル係数を説明するための図である。ρ0は、真空から薄膜へ入射する際のフレネルの反射係数である。τ0は、真空から薄膜へ入射する際のフレネルの透過係数である。ρ1は、薄膜から基板へ入射する際のフレネルの反射係数である。τ1は、薄膜から基板へ入射する際のフレネルの透過係数である。
【0140】
このような単層薄膜での反射率Rfは、一般に式(1.4)のように表せられる。なお、fは偏波を示すサフィックスである。すなわち、fはsまたはpで、それぞれs偏波、p偏波を示す。
【0141】
【数5】
【0142】
ここで、ρ0f、ρ0sは、それぞれs偏波、p偏波のフレネル反射係数を示している。
【0143】
【数6】
【0144】
式(1.5)において、η0f、ηf、ηmfは、式(1.6)で定義される。
【0145】
【数7】
【0146】
式(1.6)において、n0,n,nmはそれぞれ、真空中、薄膜中、基板中の屈折率を示している。θ0は真空から薄膜への入射角である。θは真空から薄膜への屈折角である。θmは、薄膜から基板への屈折角である。
【0147】
なお、各屈折率と入射角には、スネルの法則が成り立つ。
【0148】
【数8】
【0149】
また、式(1.4)中のδは、薄膜中の位相変化を示している。δは、式(1.3)より、次式のように求められる。
【0150】
【数9】
【0151】
式(1.8)に示すように、薄膜への入射角により光学薄膜は変化する。また、光学薄膜の変化は、薄膜中の位相変化を引き起こす。この薄膜中の位相変化δは、式(1.4)に示すように、反射率Rfに影響する。
【0152】
以上に述べた原理で、反射ミラー及び結像ミラーには、像高(入射角)に応じて分光特性の変化が起こるのである。
【0153】
本実施形態では、白基準板によるシェーディング補正しても残る有彩色の主走査方向の読み取り輝度ムラを低減することを目的としている。そこで、白色LEDのピーク波長450nmにおいて、反射ミラーと結像ミラーの像高による分光特性の変化が小さくなるようにする。
【0154】
図17(A)は、設計中心波長を500nmに設定し、シミュレーションによる最適化設計から決定した反射ミラーの分光特性の例を示した図である。図17(B)は、設計中心波長を500nmに設定し、シミュレーションによる最適化設計から決定した結像ミラーの分光特性の例を示した図である。横軸は波長を示し、縦軸は反射率を示している。像高y=0は主走査方向の中心(各ミラーでの画角が最小となる位置)を示している。像高y=152.4は主走査方向の端部(各ミラーでの画角が最大となる位置)を示している。
【0155】
まず、図17(A)において、反射ミラーの分光反射率の像高による変化に関して、450nmに注目する。像高y=0では反射率85%程度であるのに対し、像高y=152.4では、90%である。よって、像高の違いによる反射率の差は5%である。すなわち、中央部から端部にかけての反射率の変化割合は5%である。
【0156】
ちなみに、図4(A)に示す反射ミラーの像高による分光特性の変化は、約13%であった。これと比較すると、改善した反射ミラーでは、分光特性の変化の割合が半分以下に低減していることがわかる。
【0157】
次に、図17(B)において、結像ミラーの分光反射率の像高による変化に関して、450nmに注目する。像高y=0では反射率76%程度であるのに対し、像高y=152.4では、79%である。よって、像高の違いによる反射率の差は4%である。すなわち、中央部から端部にかけての反射率の変化割合は4%である。
【0158】
ちなみに、図4(C)に示した結像ミラーの像高による分光特性の変化は、約10%であった。これと比較すると、改善した結像ミラーでは、分光特性の変化の割合が半分以下に低減していることがわかる。
【0159】
図18(A)は、改善した平面ミラー及び結像ミラーで構成した読み取り光学系の分光特性(正規化前)を示した図である。横軸は波長を示している。縦軸は感度を示している。ここでは、各波長における読み取り光学系の感度を、像高y=0と像高y=152.4とについて比較している。
【0160】
図17(A)に示した改善した平面ミラーと、図17(B)に示した改善した結像ミラーとを採用することで、読み取り光学系全体としても感度が改善している。例えば、450nmの波長に注目すると、像高y=0では感度が62%程度であるが、像高y=152.4では、感度が67%になっている。すなわち、像高の違いに応じた感度の変化が5%になっている。
【0161】
上述したように、図5(A)に示した改善前の読み取り光学系の分光特性の変化は約13%であった。よって、改善の前後で分光特性の変化割合が半分以下に低減されていることがわかる。
【0162】
図18(B)は、改善した平面ミラー及び結像ミラーで構成した読み取り光学系の分光特性(正規化後)を示した図である。正規化しているのは、ピーク波長での感度の変化が分光特性全体に与える影響を見るためである。横軸は波長を示している。縦軸は感度を示している。正規化は、ピーク波長である450nmに対応する感度を用いて実行されている。
【0163】
図18(B)によれば、ピーク波長における感度変化が、500nmよりも長波長側の分光特性に影響していることがわかる。そこで、感度の変化が見られる550nmに注目してみる。像高y=0では感度が31%程度である。一方、像高y=152.4では、感度が28%である。よって、像高の違い応じた感度の差は3%である。つまり、主走査方向の中央部から端部にかけて感度が3%だけ変化していることが分る。このように、改善後の反射ミラーと結像ミラーを採用すれば、500nmよりも長波長側の色の読み取りへの影響を低減することができる。
【0164】
図19(A)ないし図19(C)は、図7に示した主走査方向に一様な濃度を持つ色帯を読み取り光学系で読み取った際の、主走査方向の読み取り輝度ムラを示した図である。ここでは、本実施形態の効果を確認するために、改善前の光学系で読み取った結果と、改善後の光学系で読み取った結果とが示されている。横軸は主走査方向の画素位置を示している。縦軸は読み取り輝度を表している。
【0165】
改善前の光学系は、図4に示した分光特性を持つ反射ミラー及び結像ミラーで構成されている。改善後の光学系は、図17に示した分光特性を持つ反射ミラー及び結像ミラーで構成されている。
【0166】
図19(A)〜図19(C)によれば、改善前と改善後で読み取り輝度がオフセットしているように見えるの。しかし、これは、反射ミラーと結像ミラーの分光特性を変えたことにより、読み取り光学系全体の分光特性も変化したためである。
【0167】
前述したように、読み取り輝度は、読み取り光学系の分光特性と、読み取り対象の色パッチの分光特性との積分値に、ゲイン調整値を乗算し、この積にオフセット調整値を加算したものである。そのため、同じ色のパッチを読み取っても、読み取り光学系の分光特性が変わる。よって、読み取り輝度も変わるのである。
【0168】
図19(A)では、イエローの読み取り輝度ムラを示している。イエローは他の色と比較して読み取り輝度ムラが大きいからである。ちなみに、読み取り光学系の改善前においては、主走査方向の端部の輝度レベルは137であり、中央部の輝度レベルは159であった。その差は22レベルある。改善後においては、主走査方向の端部の輝度レベルは123であり、中央部の輝度レベルは136であった。その差は13レベルある。
【0169】
図19(B)では、マゼンタの読み取り輝度ムラを示している。主走査方向の端部と中央部とでの輝度レベル差は改善前は8であったが、改善後には6となった。よって、改善の前後で、2レベル低減している。
【0170】
図19(C)では、シアンの読み取り輝度ムラを示している。主走査方向の端部と中央部とでの輝度レベル差は、改善前は9であったが、改善後には6となった。よって、改善の前後で、3レベル低減している。
【0171】
前述したように、無彩色の主走査方向の読み取り輝度ムラは、白基準板を用いたシェーディング補正によりほぼ低減できる。さらに、本発明の構成を備えた読み取り光学系を採用することにより、有彩色についての主走査方向の読み取り輝度ムラも低減することが可能となる。このように、本実施形態によれば、無彩色だけでなく有彩色についても、主走査方向の読み取り輝度ムラを低減することができる。
[カラー読み取りにおける輝度ムラ]
ここまでは、白黒読み取り時の主走査方向における読み取り輝度ムラについて説明してきた。しかし、カラー読み取り時にも読み取り輝度ムラは発生する。すなわち、白基準板によるシェーディング補正を行ってもなお、有彩色については、主走査方向の読み取り輝度ムラが発生する。すなわち、輝度ムラがRGBの各色で発生する。
【0172】
RGB各色で読み取り輝度ムラが発生すれば、主走査方向で色ムラが発生することになる。これは、カラー複写機において高画質化の妨げとなってしまう。そこで、以下では、主走査方向の色ムラを低減する方法について説明する。
【0173】
なお、主走査方向の色ムラも、上述した有彩色についての読み取り輝度ムラを低減する方法によって、低減することができる。なぜならば、白黒読み取り時であっても、カラー読み取り時であっても、像高の違いによる読み取り光学系の分光特性の変化を削減できれば、主走査方向の読み取り輝度の差を低減できるからである。
【0174】
よって、以下では、改善前の光学系(図4(B)、図4(C))のカラー読み取り結果と、改善後の光学系(図17(A)、図17(B))のカラー読み取り結果とを比較することにする。
【0175】
図20(A)は、改善前の読み取り光学系に関する分光感度特性を示した図である。図20(B)は、改善後の読み取り光学系に関する分光感度特性を示した図である。図20(A)、図20(B)において、横軸は波長を示し、縦軸は反射率を示している。像高y=0は主走査方向の中心(各ミラーでの画角が最小となる位置)である。像高y=152.4は主走査方向の端部(各ミラーでの画角が最大となる位置)でありる。
【0176】
図20(A)において、まず、白色LEDのピーク波長である450nmに注目する。像高y=0では感度が21%程度である。一方、像高y=152.4では、感度が31%である、よって、像高の違いにより感度が10%変化していることがわかる。次に、図20(B)において、ピーク波長450nmに注目する。像高y=0では感度が45%程度である。一方、像高y=152.4では感度50%である。よって、像高の違いにより、感度が5%変化していることがわかる。これらの事実が意味することは、改善の前後で、分光感度特性の変化の割合がおおよそ半分に低減できていることである。
【0177】
この読み取り光学系の像高による分光感度特性の変化を小さくしたことの効果を、図6に示した分光反射特性を持つY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)の各色を用いて説明する。
【0178】
図21は、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の分光反射特性を示した図である。
【0179】
図22は、光学系の改善前後における各色の主走査方向の平均輝度とその輝度差とを示した表である。輝度差は、像高y=0の輝度と像高y=152.4の輝度との差である。
【0180】
例えば、イエローに注目してみると、改善前の平均輝度と輝度差(主走査方向の輝度変化率)は、以下の通りである。
【0181】
R=254.1、ΔR=1.5(0.6%)
G=221.3、ΔG=4.5(2.0%)
B=32.7、ΔB=7.5(23.0%)
また、改善後の平均輝度と輝度差(輝度変化率)は、以下の通りである。
【0182】
R’=253.5、ΔR’=2.1(0.8%)
G’=212.6、ΔG’=5.3(2.5%)
B’=26.4、ΔB’=2.6(9.7%)
特に、低輝度であるB信号の読み取り輝度の輝度変化率が低減されていることがわかる。B(ブルー)など、読み取り輝度の低い色は、分光反射率も低い色である。また、分光反射率の低い色は、読み取り光学系の像高による分光感度特性変化の影響を受けやすい。それゆえ、B信号の読み取り輝度の輝度変化率が低減されているのである。このことについて、数値を用いて具体的に述べる。
【0183】
図10の分光特性を持つ白基準板と図20(A)に示す読み取り光学系の分光特性を積分した結果を以下に示す。
【0184】
像高y=0(中央)における積分値、R:5.99、G:7.35、B:4.97
像高y=152.4(端部)における積分値、R:5.95、G:7.81、B:7.30
このように、RGB各色で積分値に差が出ている。特にB成分の差は大きい。
【0185】
この積分値に対して、ここでは、シェーディング補正のターゲット値(目標値)を読み取り輝度255として、ゲイン設定を行うものとする。
【0186】
像高y=0では、
GR0=42.56、GG0=34.70、GB0=51.16
像高y=152.4では、
GR152.4=42.83、GG152.4=32.65、GB152.4=34.93
このように、ゲイン調整値が算出される。ここで、GR0、GG0、GB0はそれぞれ、RGB各色の像高y=0でのゲイン調整値を示している。GR152.4、GG152.4、GB152.4はそれぞれ、RGB各色のy=152.4でのゲイン調整値を示している。画像処理ASICは、シェーディング補正時にRGB各色で像高y=0と像高y=152.4の位置でこれらの値を補正値として使用することになる。
【0187】
図6に示すイエローの分光特性について、イエローパッチの分光反射特性と読み取り光学系の分光特性とを積分した結果は次の通りである。
【0188】
像高y=0(中央)における積分値、R:5.77、G:6.04、B:0.57
像高y=152.4(端部)における積分値、R:5.72、G:6.36、B:0.71
このように、積分値に差が出る。
【0189】
これに、先ほど算出したゲイン調整値GR0、GG0、GB0、GR152.4、GG152.4、GB152.4を乗算すると、読み取り輝度値が算出される。
【0190】
像高y=0(中央)における輝度値、R=245、G=209、B=29
像高y=152.4(端部)における輝度値、R=245、G=208、B=25
このように像高の違いにより、B成分の読み取り輝度に4レベルの差が出ることがわかる。これは、読み取り光学系の像高による分光特性変化の影響でゲイン調整値がRGB各色で大きく異なるからである。また、このゲイン調整値の差が微小な積分値であるB成分には大きな比率として調整されるからでもある。ここでの計算においても、説明の便宜上、オフセット調整は省略した。
【0191】
ところで、画像読み取り装置で読み取られた画像に対して、後段の画像形成装置は、標準色空間への色処理変換を実行する。標準色空間とは、IEC(International Electrotechnical Commission)などによって標準化が進められた「sRGB規格」や「AdobeRGB規格」などの標準化された色空間のことである。色処理変換は、モニターへの出力やプリンターへの出力など、異なるデバイス間の色再現性を一致させるために使用される。
【0192】
図23は、画像読み取り装置が出力する画像データを標準色空間に変換し、色評価するためにさらにXYZ表色系、L*a*b*表色系に変換する処理を示したフローチャートである。
【0193】
ステップS2601で、画像読み取り装置は、原稿を読み取り、RGBの輝度信号を画像形成装置610に出力する。
【0194】
ステップS2602で、画像形成装置610のガンマ補正処理部は、画像読み取り装置から出力されたRGB輝度信号に対してガンマ補正処理を行う。ガンマ補正とは、原稿画像の色データとそれが実際に出力される際の信号との相対関係を調節して、より自然に近い表示を得るための補正操作であり、非線形な濃度変換処理である。γ(ガンマ)値とは、画像の明るさの変化に対する電圧換算値の変化の比である。γ値は1に近づくのが理想だが、機器によってそれぞれ異なった値となる。したがって、元データに忠実な表示を再現したければ、これらの誤差を修正する必要がある。これがガンマ補正である。
【0195】
一般にガンマ補正は次式で表すことができる。
【0196】
【数10】
【0197】
式(1.9)において、Din、Dout、Dmax、γはそれぞれ、ガンマ補正前の入力濃度値、ガンマ補正後の出力濃度値、ガンマ補正前後での最大濃度値、ガンマ値を表している。
【0198】
図24(A)は、読み取り輝度信号に対して式(1.9)を適用した例を示す図である(γ=0.6)。図24(B)は、読み取り輝度信号に対して式(1.9)を適用した例を示す図である(γ=1.8)。輝度信号の最大値は256とする。
【0199】
図24(A)に示されるように、γ<1の場合、ガンマ補正により全体的に明るくなる。特に、低輝度側は、ガンマ値の影響を受けやすい。よって、低輝度側は、ガンマ値が小さくなればなるほど、急峻な立ち上がりとなる。
【0200】
図24(B)に示すように、γ>1の場合、ガンマ補正により全体的に暗くなる。特に、低輝度側は、γ<1の場合と同様にガンマ値の影響を受けやすい。よって、低輝度側は、ガンマ値が大きくなればなるほど、立ち上がりが遅くなる。
【0201】
このガンマ値は、読み取り光学系の特性や色処理などを考慮して設定される。本実施形態では、低輝度側のダイナミックレンジを確保したいため、低輝度側を持ち上げるようにγ=0.6としている。
【0202】
ステップS2603で、画像形成装置610の色空間変換部は、色空間変換を行う。色空間は、前述の「sRGB規格」や「AdobeRGB規格」などの標準化された色空間である。
【0203】
画像読み取り装置から出力されるRGBの読み取り輝度信号は、標準的な色空間とは異なった色空間のものである。これは、画像読み取り装置を構成する光源、ミラー、ラインセンサ、カラーフィルタの特性が依存するからである。例えば、RGB輝度信号のうち、B信号を明るめに、R信号を暗めに読み取るなど、特有の読み取り輝度信号を出力することになる。画像読み取り装置の特有の読み取り特性を標準的な色空間に合うように補正する処理が、色空間変換である。この色空間変換は、マトリクス演算によるものや、LUT(ルック・アップ・テーブル)を用いたダイレクトマッピングによるものなど、数々の方法がある。本実施形態では、マトリクス演算よりも補間演算精度の高いダイレクトマッピング処理を採用した。
【0204】
ステップS2604で、画像形成装置610のXYZ表色系変換部は、ガンマ補正されかつ色空間変換されたRGB輝度信号を、XYZ表色系に変換する。XYZ表色系は、現在CIE標準表色系として各表色系の基礎となっている。XYZ表色系は、色度図を使って色をYxyの3つの値で表わす。Yが反射率で明度に対応し、xyが色度を表す。
【0205】
図25は、XYZ表色系色度図である。図25からわかるように、横軸方向がx、縦軸方向がyである。無彩色は色度図の中心にある。彩度は周辺になるほど高くなる。図25において、380nm〜470nmは青領域、480nm〜490nmはシアン領域、490nm〜560nmは緑領域、560nm〜590nmはイエロー領域、590nm〜780nmは赤領域をおおそよ示している。
【0206】
XYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値X、Y、Zは次式によって求められる。
【0207】
【数11】
【0208】
ここで、S(λ)は、光源の分光特性を示している。
【0209】
【数12】
【0210】
は、XYZ表色系における等色関数を示している。R(λ)は、分光立体角反射率である。
【0211】
等色関数とは、CIEで定められた等エネルギースペクトルに対する目の感度(スペクトル刺激値)の曲線を表す関数のことである。
【0212】
図26は、等色関数の一例を説明するための図である。横軸は、波長を示している。縦軸は、感度(スペクトル刺激値)を示している。
【0213】
RGB輝度信号からXYZ表色系への変換は、次式で行われる。
【0214】
【数13】
【0215】
ステップS2605で、画像形成装置610のL*a*b*表色系変換部は、XYZ表色系に変換されたRGBの読み取り輝度信号をさらにL*a*b*表色系に変換する。L*a*b*表色系は、物体の色を表わすのに、現在あらゆる分野で使用されている表色系である。L*a*b*表色系は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化され、日本でもJIS(JISZ8729)において採用されている。
【0216】
L*a*b*表色系では、明度をL*、色相と彩度を表す色度をa*、b*で表わす。a*、b*は、色の方向を示している。a*は赤方向を示している。−a*は緑方向を示している。b*は、黄方向を示している。−b*は、青方向を示している。a*軸とb*軸が直交する点が無彩色になる。なお、a*、b*の数値が大きくなるにしたがって色あざやかになる。一方、a*、b*の数値が小さくなるにしたがってくすんだ色になる。明度L*は、色度a*、b*と直交する。よって、L*、a*、b*の3つの軸は立体的に直交する。
【0217】
XYZ表色系からL*a*b*表色系への変換は、次式で行われる。
【0218】
【数14】
【0219】
ただし、(1.12)式は、以下の条件で使用するものとする。
【0220】
【数15】
【0221】
式(1.13)が満足されない場合、つまり、
【0222】
【数16】
【0223】
のとき、式(1.12)を下記のように置き換えて計算する。
【0224】
【数17】
【0225】
ここで、X,Y,Zは、式(1.11)で求めた読み取り輝度値RGBをXYZ表色系に変換した値である。Xn,Yn,Znは、完全拡散反射面の三刺激値である。D=65光源を使用する場合、Xn,Yn,Znは、次式で与えられる。
【0226】
【数18】
【0227】
二つの試料(色刺激)の間の色差は、式(1.12)〜式(1.16)を用いて算出したL*a*b*値と、L*a*b*表色系における座標L*a*b*との差である。この差を、ΔL*、Δa*、Δb*と定義する。
【0228】
【数19】
【0229】
以上のような、RGB輝度信号→XYZ値→L*a*b*値という変換を得て、色差ΔE*abが得られる。
【0230】
図27は、色差ΔE*abと人間の感覚についての程度とを示した表である。これは、日本色彩研究所の色差資料を基に作成した。図27によると、一般には同じ色と認識される「A級許容差」では、色差ΔE*ab=3程度が限度である。
【0231】
よって、色差ΔE*ab=3を基準として、カラー読み取り時の主走査方向の読み取り色ムラを低減することが望ましい。そこで、光源である白色LEDのピーク波長450nmにおいて、反射ミラー及び結像ミラーの像高による分光特性の変化をどの程度まで抑えればよいかについて述べる。
【0232】
図28は、読み取り光学系の像高による分光特性変化によって発生する主走査方向の色差ΔEabの変遷を表す表である。ここでは、読み取り光学系トータルでの像高の違いに応じた分光感度特性が、光源である白色LEDのピーク波長450nmにおいて、どの程度変化しているときに、どの程度の色差が発生しているかを説明する。評価対象のチャートに含まれる色は、計6色である。この6色には、図6に示した分光反射特性を持つY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)の各色と、図21に示した分光反射特性を持つR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の各色とが含まれる。
【0233】
分光の変化率が15%である場合、イエローの色差ΔE*abは8.59で他の色の色差と比較して最も大きく、目標である色差ΔE*ab=3を大幅に越えている。一方、分光の変化率を10%にした場合であっても、イエローの色差ΔE*abは5.39で最大であり、しかも目標である色差ΔE*ab=3を達成できていない。また、分光の変化率が5%である場合、イエローの色差ΔE*abは2.16でやはり最大であるが、目標である色差ΔE*ab=3を達成できたことがわかる。
【0234】
したがって、色差ΔE*ab=3を達成するためには、読み取り光学系の像高による分光感度特性変化が、光源である白色LEDのピーク波長450nmにおいて5%以内であればよいことになる。
【0235】
以上説明したように、本実施形態では、画像読み取り装置の主走査方向の端部における光源のピーク波長の分光感度特性と、主走査方向の中央部における分光感度特性との差が5%以内となるように調整された結像光学系を採用している。これにより、装置の大型化やコストアップ、基準板の色数増加、回路構成の複雑化などを軽減される。さらに、有彩色の主走査方向における読み取り輝度のムラを低減することもできる。ただし、本実施形態に係る結像光学系を、大型の装置に適用してもよいし、それぞれ異なる色の複数の基準板とももに採用してもよい。
【0236】
とりわけ、次世代の光源として有望な白色LEDについてのピーク波長は、450nmである。よって、450nmにおいて、主走査方向の中央部における分光感度特性との差が5%以内となるように調整された結像光学系を採用することが望ましい。
【0237】
また、結像ユニットの一部である結像ミラーの反射面は、オフアキシャル反射面とすることが望ましい。オフアキシャル反射面は、基準軸光線の入射方向と反射方向が異なり、かつ、曲率を有した反射面である。よって、オフアキシャル反射面は、画像読み取り装置を小型化するのに有利である。
【0238】
また、本実施形態であれは、白基準板のみを用いてシェーディング補正するような画像読み取り装置において特に有効である。一般に、白基準板のみを用いてシェーディング補正すると、有彩色については十分にシェーディング補正することが難しい。しかし、本実施形態であれば、主走査方向の端部における光源のピーク波長の分光感度特性と中央部における分光感度特性との差が5%以内となる。よって、有彩色についても十分にシェーディング補正することが可能となる。
【0239】
画像読み取り装置を小型化するには、光源、結像ユニット及び光電変換ユニットを一体化した移動ユニットを採用することが望ましい。しかし、このような移動ユニットを採用すると、主走査方向の端部と中央部とで画角の差が大きくなり、分光特性の差も生じやすい。しかし、本実施形態では、主走査方向の端部における光源のピーク波長の分光感度特性と中央部における分光感度特性との差が5%以内となる。よって、このような移動ユニットを採用しても、輝度ムラを低く抑えることが可能となる。
【0240】
なお、複写機などの画像形成装置では、画像読み取り装置における輝度ムラは、色ムラに直結する。よって、輝度ムラを低減できれば、画像形成装置の色ムラを低減することが可能となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像読み取り装置であって、
原稿に光を照射する光源と、
前記原稿からの反射光を集光する反射光学系を含む結像光学系で結像する結像ユニットと、
前記結像ユニットにより結像された反射光を電気信号に変換する複数の光電変換素子が所定方向に配列された光電変換ユニットと
を備え、
前記結像ユニットの 前記所定方向の端部における分光特性と、前記結像ユニットの前記所定方向の中央部における分光特性との差が前記光源のピーク波長において5%以内であることを特徴とする画像読み取り装置。
【請求項2】
前記光源のピーク波長は、450nmであることを特徴とする請求項1に記載の画像読み取り装置。
【請求項3】
前記結像ユニットの一部である結像ミラーの反射面は、オフアキシャル反射面であることを特徴とする請求項1に記載の画像読み取り装置。
【請求項4】
白基準板と、
前記結像ユニットを通じて受光された前記白基準板からの光を前記光電変換ユニットにより変換することで生成された電気信号を用いてシェーディング補正を実行するシェーディング補正ユニットと、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の画像読み取り装置。
【請求項5】
前記光源、前記結像ユニット、及び、前記光電変換ユニットを搭載し、前記所定方向に対して直交した方向に移動する移動ユニットをさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の画像読み取り装置。
【請求項6】
前記結像ユニットにおいて、前記所定方向の端部における分光特性と前記所定方向の中央部における分光特性との差が前記光源のピーク波長において前記5%以内となるように、前記反射光学系の反射率が設定されることを特徴とする請求項1に記載の画像読み取り装置。
【請求項7】
画像形成装置であって、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載された画像読み取り装置と、
前記画像読み取り装置から前記原稿の画像を表す電気信号を受信して、画像を形成する画像形成部とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
画像読み取り装置であって、
原稿に光を照射する光源と、
前記原稿からの反射光を集光する反射光学系を含む結像光学系で結像する結像ユニットと、
前記結像ユニットにより結像された反射光を電気信号に変換する複数の光電変換素子が所定方向に配列された光電変換ユニットと
を備え、
前記結像ユニットの 前記所定方向の端部における分光特性と、前記結像ユニットの前記所定方向の中央部における分光特性との差が前記光源のピーク波長において5%以内であることを特徴とする画像読み取り装置。
【請求項2】
前記光源のピーク波長は、450nmであることを特徴とする請求項1に記載の画像読み取り装置。
【請求項3】
前記結像ユニットの一部である結像ミラーの反射面は、オフアキシャル反射面であることを特徴とする請求項1に記載の画像読み取り装置。
【請求項4】
白基準板と、
前記結像ユニットを通じて受光された前記白基準板からの光を前記光電変換ユニットにより変換することで生成された電気信号を用いてシェーディング補正を実行するシェーディング補正ユニットと、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の画像読み取り装置。
【請求項5】
前記光源、前記結像ユニット、及び、前記光電変換ユニットを搭載し、前記所定方向に対して直交した方向に移動する移動ユニットをさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の画像読み取り装置。
【請求項6】
前記結像ユニットにおいて、前記所定方向の端部における分光特性と前記所定方向の中央部における分光特性との差が前記光源のピーク波長において前記5%以内となるように、前記反射光学系の反射率が設定されることを特徴とする請求項1に記載の画像読み取り装置。
【請求項7】
画像形成装置であって、
請求項1ないし6のいずれか1項に記載された画像読み取り装置と、
前記画像読み取り装置から前記原稿の画像を表す電気信号を受信して、画像を形成する画像形成部とを備えることを特徴とする画像形成装置。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図25】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図25】
【公開番号】特開2010−124460(P2010−124460A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232870(P2009−232870)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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