説明

異型長尺成形体の製造方法

【課題】 本発明は、長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートが延伸方向に沿って割れることなく、且つ、収縮することなく賦形することができる異型長尺成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】 長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートを延伸方向に沿って切断すると共に切断された長尺熱可塑性樹脂シートを所定形状に配置して、押出被覆金型に供給し、切断された長尺熱可塑性樹脂シートの周囲に熱可塑性樹脂を押出被覆することを特徴とする異型長尺成形体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異型長尺成形体の製造方法、特に雨樋として好適に使用できる延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの異型長尺成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂は耐水性、難燃性、機械的特性等が優れ、且つ価格が比較的安価であるので、建築部材の材料として広く使用されている。例えば、雨樋は、一般的に硬質塩化ビニル系樹脂を押出成形により成形している。
【0003】
しかし、硬質塩化ビニル系樹脂成形体の線膨張係数は7.0×10-5(1/℃)と大きいので、硬質塩化ビニル系樹脂製雨樋を設置する際には、雨樋の伸縮を吸収しうる継手で接続したり、端部をフリーにしたりする必要があったが、施工される雨樋全体の長さが長くなると、継手や落とし口が多くなり、外観が悪いという欠点があった。
【0004】
そのため、線膨張係数の低い雨樋の検討が種々なされている。例えば、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、マイカ20〜35重量部と、炭酸カルシウム20〜40重量部と、加工助剤5〜15重量部とを添加した塩化ビニル系樹脂組成物からなることを特徴とする塩化ビニル系樹脂製雨樋(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。
【特許文献1】特許第2905260号公報
【0005】
上記雨樋は、塩化ビニル系樹脂にマイカと炭酸カルシウムを添加し雨樋の線膨張係数を低くしているが、塩化ビニル系樹脂を主体とするものであり、マイカと炭酸カルシウムの添加量が少ないと線膨張係数が依然として高く、添加量を多くすると雨樋の耐衝撃性、耐久性が低下するという欠点があった。
【0006】
又、補強材としてガラス繊維を含浸したり、金属薄板を積層したりした雨樋も提案されている。例えば、熱可塑性樹脂と強化繊維とからなる複合シートが所要断面形状に賦形され、かつ、その表面に熱可塑性樹脂が押出被覆されているとともに、上記複合シートは、少なくともその賦形部分に強化短繊維がランダム配向していることを特徴とする複合成形品(例えば、特許文献2参照。)、金属薄板を芯材とし、この芯材両面に合成樹脂を被覆してシート材を形成し、このシート材に折曲治具先端部を押し当てて断面略コ字型に折曲形成して成る雨樋において、内面側となる前記合成樹脂の折曲位置に、折曲治具先端部がガイドされる凹溝を設けて成ることを特徴とする雨樋(例えば、特許文献3参照。)等が提案されている。
【特許文献2】特開平11−19998号公報
【特許文献3】特開平9−279783号公報
【0007】
しかしながら、前者の雨樋は熱可塑性樹脂と強化繊維とからなり、短繊維がランダムに配向した複合シートを作成し、所要断面形状に賦形した後に、その表面に熱可塑性樹脂を押出被覆しなければならず、その製造工程が複雑となり、製造効率が悪く、又、廃棄する際に問題があった。
【0008】
後者の雨樋は、金属薄板が芯材として積層されているので、重量が重くなり、切断作業が困難であり、且つ、雨樋の端部に金属薄板が露出するので経時により錆が発生し、腐食により耐久性が低下するという欠点があった。
【0009】
更に、金属薄板からなる芯材やガラス繊維を使用せず、線膨張係数の低い雨樋として、例えば、20〜80℃の平均線膨張率が5×10-5(1/℃)以下であるポリオレフィン延伸材料の表面に、該ポリオレフィンを溶解する低分子化合物を付着させた後、加圧・加熱により前記ポリオレフィン延伸材料を接着した、20〜80℃の平均線膨張率が5×10-5(1/℃)以下であるポリオレフィン成形体(例えば、特許文献4参照。)、熱可塑性樹脂を押し出し成形した後、更に、この押し出し成形したものを延伸して引き延ばすことで分子を一方向に配向し、熱可塑性合成樹脂の線膨張係数が6×10-5/℃以下で且つ厚みが0.5mmより厚いことを特徴とする合成樹脂雨樋(例えば、特許文献5参照。)等が提案されている。
【特許文献4】特開平10−291250号公報
【特許文献5】特開2002−285685号公報
【0010】
しかしながら、前者の雨樋はポリオレフィン延伸材料を20〜40倍と高度に延伸したシートであり、延伸方向に沿って割れやすく耐衝撃性が悪いという欠点を有しており、これを防ぐために硬質塩化ビニル系樹脂、AES樹脂等と積層しようとすると、ポリオレフィンはこれらの樹脂より融点が低いためポリオレフィンの延伸状態が崩れ、線膨張係数が高くなるという欠点があった。更に、後者の雨樋は押し出し成形した雨樋を単に延伸したものなので、延伸方向に沿って割れやすく耐衝撃性が悪いという欠点を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記欠点に鑑み、長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートが延伸方向に沿って割れることなく、且つ、収縮することなく賦形することができる異型長尺成形体の製造方法を提供することにある。
【0012】
又、異なる目的は、線膨張係数が小さく、軽量で、耐衝撃性、耐久性、作業性等が優れている異型長尺成形体の製造方法、特に、雨樋等の外装建材として好適に使用できる異型長尺成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の異型長尺成形体の製造方法は、長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートを延伸方向に沿って切断すると共に切断された長尺熱可塑性樹脂シートを所定形状に配置して、押出被覆金型に供給し、切断された長尺熱可塑性樹脂シートの周囲に熱可塑性樹脂を押出被覆することを特徴とする。
【0014】
本発明で使用される熱可塑性樹脂としては、延伸可能な任意の熱可塑性樹脂が使用可能であり、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のオレフィン系樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂等が挙げられるが、線膨張係数が小さく、軽量で、耐衝撃性、耐久性等に優れた熱可塑性ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0015】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは、引張弾性率が7GPaを下回ると線膨張係数が大きくなり、15GPaを上回ると耐衝撃性が低下するので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引張弾性率は7〜15GPaが好ましい。
【0016】
上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの製造方法は、特に限定されるものではないが、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度±20℃の温度で引抜延伸した後、引抜延伸温度より高い温度で総延伸倍率が3〜8倍に一軸延伸するのが好ましい。
【0017】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリグリコール酸、ポリ(L−乳酸)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート/ヒドロキシバリレート)、ポリ(ε−カプロラクトン)、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート/乳酸、ポリブチレンサクシネート/カーボネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレナジペート/テレフタレート、ポリブチレンサクシネート/アジペート/テレフタレート等が挙げられ、耐熱性の優れたポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
上記熱可塑性ポリエステル系樹脂の極限粘度は、低すぎるとシート作成時にドローダウンを起こしやすく、高すぎると、延伸しても機械的強度(特に弾性率)が上昇しないので、0.6〜1.0が好ましい。
【0019】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みは特に限定されないが、0.1mm未満では、延伸後のシート厚みが薄くなりすぎ、取扱いに際しての強度が十分な大きさとならないことがあり、5mmを超えると延伸が困難となることがあるので0.1〜5mmが好ましい。
【0020】
上記延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは非晶状態である。延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは非晶状態であればよく、その結晶化度は特に限定されるものではないが、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満あることが好ましく、より好ましくは5%未満である。
【0021】
上記非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引抜延伸する方法は、特に限定されず所定のクリアランスを有する引抜金型を通して引抜延伸してもよいが、一対のロール間を通して引抜延伸するのが、延伸後の厚みを自由にコントロールでき、又、引抜金型の特定部位の磨耗が生じることがないので好ましい。
【0022】
引抜延伸する際の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの温度は、特に限定されるものではないが、ガラス転移温度付近の温度に予熱されているのが好ましい。予熱温度は、低すぎても高すぎても熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが所定の温度にならないことがあるので、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度が好ましい。
【0023】
上記引抜延伸する際の温度は、低温であると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが硬すぎて、引抜こうとしても先に切断されてしまうことがあり、切断されなくてもシートにボイドができて白化してしまうなどの問題があり、逆に、高温になると熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが柔らかくなりシートを引抜く張力によりシートが切断されるので、熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度±20℃の温度範囲であり、好ましくは熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度〜熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度範囲である。
【0024】
又、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜く際に、ロールは回転している必要はないが、特に熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚みが厚い場合には、せん断発熱によるロールの蓄熱に起因するシートの温度上昇が生じやすいため、引抜方向に回転させるのが好ましい。
【0025】
ロールの回転速度が遅いと、ロールと熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの接触時間が長くなり、摩擦熱が発生し、ロール温度が上昇して、加熱された熱可塑性ポリエステル系樹脂を冷却する効果が低下し、所定の引抜延伸温度を超えてしまい、逆にロールの回転速度が早くなると、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの表面の熱可塑性ポリエステル系樹脂のみが流動し、均一に引抜延伸できなくなり、得られた引抜延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの弾性率が低下する。
【0026】
従って、ロールの回転速度は熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを同一条件の引抜速度でロールが回転していない状態で引き抜いた際の送り速度と実質的に同一又はそれ以下の速度が好ましい。
【0027】
又、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さが厚い(1.5mm以上)場合は、ロールとシートとのせん断による発熱が大きくなるため、ロールの回転速度は上記送り速度の50〜100%が好ましい。また、熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さが薄い場合は、ロールによる冷却効果が大きいのでロールの回転速度は遅くてもよい。
【0028】
上記引抜延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性率に優れたシートが得られず、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなるので、2〜9倍が好ましく、より好ましくは2.5〜7倍である。
【0029】
引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを引抜延伸の温度より高い温度で一軸延伸する。
【0030】
引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートのポリエステル系樹脂は、延伸の阻害要因となる熱による等方的な結晶化及び配向が抑えられた状態で分子鎖は高度に配向しているので強度及び弾性率が優れているが結晶化度は低いので、加熱されると配向は容易に緩和され弾性率は低下してしまうという欠点を有している。
【0031】
しかし、この引抜延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該引抜延伸の温度より高い温度で一軸延伸することにより配向が緩和されることなく結晶化度が上昇し、加熱されても配向が容易に緩和されない耐熱性の優れた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが得られる。
【0032】
上記一軸延伸する方法としてはロール延伸法が好適に用いられる。ロール延伸法とは、速度の異なる2対のロール間に延伸原反を挟み、延伸原反を加熱しつつ引っ張る方法であり、一軸方向のみに強く分子配向させることができる。
【0033】
上記一軸延伸する際の温度は、引抜延伸の温度より高い温度であればよいが、高すぎると一次延伸された熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが溶融して切断されるので、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度の温度範囲が好ましい。
【0034】
尚、ポリエチレンテレフタレートの結晶化ピークの立ち上がり温度は約120℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃である。従って、ポリエチレンテレフタレートシートを一軸延伸する際は約120℃〜約230℃で一軸延伸するのが好ましい。
【0035】
上記一軸延伸の延伸倍率は、特に限定されるものではないが、延伸倍率が低いと、引張強度、引張弾性係数等の優れたシートが得られず、高くなると延伸時にシートの破断が生じやすくなるので、1.05〜3倍が好ましく、さらに好ましくは1.1〜2倍である。
【0036】
又、引抜延伸と一軸延伸の総延伸倍率は、小さすぎても大きすぎても線膨張係数の絶対値が大きくなるので2.5〜10倍が好ましく、より好ましくは3〜8倍である。
【0037】
本発明においては、耐熱性を向上させるために一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを一軸延伸温度より高い温度で熱固定するのが好ましい。
【0038】
熱固定温度は、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度より低いと熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化が進まないので耐熱性が向上せず、融解ピークの立ち上がり温度より高いと熱可塑性ポリエステル系樹脂が溶解して延伸(配向)が消滅し引張弾性率、引張強度等が低下し、一軸延伸温度より30℃以上高くなると、一軸延伸温度で結晶化した結晶の配向が緩和されるので、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であって、一軸延伸温度より30℃以上高くない温度が好ましい。
【0039】
又、熱固定する際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに大きな張力がかかっていると延伸され、張力がかかっていないか、非常に小さい状態では収縮するので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの延伸方向の長さが実質的に変化しないようにした状態で行うことが好ましく、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに圧力もかかっていないのが好ましい。
【0040】
即ち、熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.95〜1.1で、一軸延伸倍率より低い倍率になるように熱固定するのが好ましい。
【0041】
従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的に熱固定する場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を0.95〜1.1になるように設定して熱固定するのが好ましい。
【0042】
熱固定する際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法があげられる。
【0043】
熱固定する時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さや熱固定温度により異なるが、一般に10秒〜10分が好ましい。
【0044】
更に、上記熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、ガラス転移温度〜昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度の範囲で、実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。
【0045】
上記アニールすることにより、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートは弾性率等の力学的物性が良好であって、ガラス転移温度以上の温度に加熱されても弾性率等の力学的物性が低下することがなく、且つ、収縮率を低く抑えることができる。
【0046】
又、アニールする際に、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに大きな張力がかかっていると延伸されるので、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートに実質的に張力がかからない状態でアニールするのが好ましい。
【0047】
即ち、アニールされた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、アニール前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの1.0以下になるようにアニールするのが好ましい。
【0048】
従って、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートをピンチロール等のロールで加熱室内を移動しながら連続的にアニールする場合は、入口側と出口側の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの送り速度比を1.0以下になるように設定してアニールするのが好ましい。
【0049】
アニールする際の加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風、ヒーター等で加熱する方法が挙げられる。
【0050】
アニールする時間は、特に限定されず、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さやアニール温度により異なるが、一般に10秒以上が好ましく、より好ましくは30秒〜60分であり、更に好ましくは1〜20分である。
【0051】
本発明においては、上記長尺熱可塑性樹脂シートは衝撃により延伸方向に沿って割れや亀裂が発生しやすく、特に、熱可塑性樹脂が熱可塑性ポリエステル系樹脂の場合は直接雨水や太陽光線に曝されると加水分解や劣化を受け耐久性が低下しやすいので、長尺熱可塑性樹脂シートが衝撃により延伸方向に沿って割れや亀裂が発生しないように保護すると共に、熱可塑性樹脂が直接雨水や太陽光線に曝されて加水分解や劣化を受け耐久性が低下することを防ぐために、長尺延伸熱可塑性樹脂シートに熱可塑性樹脂を被覆する。
【0052】
しかしながら、長尺熱可塑性樹脂シートは一軸延伸されているので、長尺熱可塑性樹脂シートを所定形状に変形した後熱可塑性樹脂を被覆したのでは一軸延伸方向に沿って割れて熱可塑性樹脂を均一に被覆できなかったり、割れずに被覆できたとしても屈曲部がシャープなRがとれないので形状が制限され、又、きれいな異型長尺成形体が得られない等の問題があるので、長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートを延伸方向に沿って切断すると共に切断された長尺熱可塑性樹脂シートを所定形状に配置して、押出被覆金型に供給し、切断された長尺熱可塑性樹脂シートの周囲に熱可塑性樹脂を押出被覆する。
【0053】
熱可塑性樹脂を押出被覆すると、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの線膨張係数の絶対値が上昇するので、熱可塑性樹脂層の厚さは0.1〜3mm程度の薄い層にするのが好ましい。
【0054】
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、スチレン樹脂、AS樹脂、メチルメタクリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等が挙げられ、雨樋の場合は塩化ビニル樹脂が好ましい。
【0055】
長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートを延伸方向に沿って切断する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、フォーミングロールで押圧して長尺熱可塑性樹脂シートを目的とする異型長尺成形体の形状に賦形し、フォーミングロールの圧力で屈曲部を切断する方法、上流から下流方向に行くに従って、平面形状から次第に異型長尺成形体の断面形状になされているスリットが形成されている複数のプレートのスリットを通過させて長尺熱可塑性樹脂シートを賦形し、最下流側のプレートで長尺熱可塑性樹脂シートをスリットの角に押し当てて屈曲部を切断する方法、長尺熱可塑性樹脂シートを目的とする異型長尺成形体の形状に賦形しながら屈曲部をナイフ、カッター等で切断する方法、平らな状態の長尺熱可塑性樹脂シートを目的とする異型長尺成形体の形状に従って屈曲すべき位置を計測してナイフ、カッター等で切断する方法等が挙げられる。
【0056】
次に、切断された長尺熱可塑性樹脂シートを所定形状に配置して、押出被覆金型に供給し、切断された長尺熱可塑性樹脂シートの周囲に熱可塑性樹脂を押出被覆して異型長尺成形体を製造する。尚、フォーミングロールの圧力で屈曲部を切断する場合は、多数のフォーミングロールで次第に目的とする異型長尺成形体の形状に賦形し、押出被覆金型に供給する直前で屈曲部を切断し、その形状のまま押出被覆金型に供給し熱可塑性樹脂を押出被覆するのが好ましい。
【発明の効果】
【0057】
本発明の異型長尺成形体の製造方法の構成は上述の通りであり、長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートが延伸方向に沿って割れることなく、且つ、収縮することなく賦形すると共に熱可塑性樹脂を被覆することができ、得られた異型長尺成形体は線膨張係数が小さく、軽量で、耐衝撃性、耐久性、作業性等が優れており、特に、雨樋等の外装建材として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
次に、本発明の実施例を図面を参照しながら、詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0059】
図1は本発明の異型長尺成形体の製造方法の一例を示す説明図である。図中1は長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートの供給ロールであり、繰出ロール2より長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シート10が繰り出される。
【0060】
図中3、4、5、6及び7は上流側から下流側に順次設置されたプレートである。図2〜6に示したように、プレート3、4、5、6及び7にはそれぞれスリット31、41、51、61及び71が形成されている。スリット31は略平面に近く、長尺熱可塑性樹脂シート10を賦形する位置がわずかに屈曲されている。そして、スリット31から41、51、61、71と屈曲部の角度は次第に小さくなされ、スリット71の形状は製造する異型長尺成形体30の形状になされている。
【0061】
即ち、供給ロール1から送り出された長尺熱可塑性樹脂シート10は、プレート3より上流側であるA地点においては図7に示したように平面状である。平面状の長尺熱可塑性樹脂シート10はプレート3のスリット31及びプレート4のスリット41を通過することにより、スリット31及びスリット41の形状にしたがって少しだけ屈曲され、プレート4の下流側であるB地点においては図8に示したように少しだけ屈曲されている。
【0062】
長尺熱可塑性樹脂シート10は、更にプレート5のスリット51、プレート6のスリット61及びプレート7のスリット71を通過することにより、スリット51、スリット61及びスリット71の形状にしたがって屈曲されると共に、スリット71においてスリット71の角に長尺熱可塑性樹脂シート10が押し付けられ一軸延伸方向に切断され、プレート7の下流側であるC地点においては図9に示したように、切断された長尺熱可塑性樹脂シート10が製造すべき異型長尺成形体の形状に配置される。
【0063】
次に、製造すべき異型長尺成形体の形状に配置された長尺熱可塑性樹脂シート10を押出被覆金型8に供給する。押出被覆金型8は押出機9に接続されており、押出機9から熱可塑性樹脂を押出被覆する。押出被覆すると切断された長尺熱可塑性樹脂シート10は熱可塑性樹脂20で被覆・一体化され、押出被覆金型8の下流側であるD地点では図10に示した異型長尺成形体30が得られる。異型長尺成形体30は引取りロール2’により引取り適当な長さに切断する。
【0064】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ社製、商品名「NEH−2070」、極限粘度0.88)を溶融押出成形した後急冷して得られた厚さ2.5mmのポリエチレンテレフタレートシート(結晶化度1.3%)を延伸装置(協和エンジニアリング社製)に供給し、80℃に予熱した後、74℃に加熱された一対のロール(ロール間隔0.6mm)間を2m/minの速度で引抜いて引抜延伸し、更に熱風加熱槽中でポリエチレンテレフタレートシート表面温度を180℃に加熱し、出口速度2.5m/minに設定してロール延伸して、延伸倍率が約4倍、厚さ0.6mmの延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。
【0065】
尚、上記ポリエチレンテレフタレートシートのガラス転移温度は76.7℃、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での結晶化ピークの立ち上がり温度は約118℃であり、融解ピークの立ち上がり温度は約230℃であった。
【0066】
得られた延伸ポリエチレンテレフタレートシートを、ピンチロールが設置され、200℃に設定されているライン長10mの熱風加熱槽に、入口速度2.5m/minで供給し、出口速度2.75m/minに設定して熱固定を行い、熱固定された延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの1.00倍であった。
【0067】
熱固定された延伸ポリエチレンテレフタレートシートを、ピンチロールが設置され、90℃に設定されているライン長14mの熱風加熱槽に、入口速度2.75m/minで供給し、出口速度2.7m/minに設定してアニールを行い、アニールされた延伸ポリエチレンテレフタレートシートを得た。アニールされた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの厚さは0.65mmであり、長さはアニール前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.98倍であった。
【0068】
得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを用い、JIS K 7197に準拠して線膨張係数を測定したところ−0.34×10 -5 (/℃)であり、JIS K 7113の引張試験方法に準拠して23℃、50%RHで引張弾性率を測定したところ8.7GPaであった。尚、線膨張係数は、得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを0℃、50%RHで24時間保持した後、その長さをマイクロメータで測定し、次に60℃、50%RHで24時間保持した後、その長さをマイクロメータで測定し、その差から計算した。
【0069】
得られた延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを上記装置に供給し、延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの繰出速度1.2m/分の条件で賦形・切断すると共に、押出機9から塩化ビニル樹脂(徳山積水社製、商品名「TR1000R」、重合度1050)を押出して、押出被覆金型8で延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの両面に厚さ0.6mmの塩化ビニル樹脂層を積層するように被覆して樋形状の異型長尺成形体を得た。
【0070】
得られた異型長尺成形体を用い、同様にして線膨張係数を測定したところ2.0×10 -5 (/℃)であり、引張弾性率を測定したところ7.9GPaであった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の異型長尺成形体の製造方法の一例を示す説明図である。
【図2】プレート3(スリット31)の一例を示す正面図である。
【図3】プレート4(スリット41)の一例を示す正面図である。
【図4】プレート5(スリット51)の一例を示す正面図である。
【図5】プレート6(スリット61)の一例を示す正面図である。
【図6】プレート7(スリット71)の一例を示す正面図である。
【図7】A地点における長尺熱可塑性樹脂シート10の形状を示す断面図である。
【図8】B地点における長尺熱可塑性樹脂シート10の形状を示す断面図である。
【図9】C地点における長尺熱可塑性樹脂シート10の形状を示す断面図である。
【図10】D地点における異型長尺成形体30(長尺熱可塑性樹脂シート10)の形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 供給ロール
2 繰出ロール
3、4、5、6、7 プレート
31、41、51、61、71 スリット
8 押出被覆金型
9 押出機
10 長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シート
20 熱可塑性樹脂
30 異型長尺成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向に一軸延伸されている長尺熱可塑性樹脂シートを延伸方向に沿って切断すると共に切断された長尺熱可塑性樹脂シートを所定形状に配置して、押出被覆金型に供給し、切断された長尺熱可塑性樹脂シートの周囲に熱可塑性樹脂を押出被覆することを特徴とする異型長尺成形体の製造方法。
【請求項2】
異型長尺成形体が、雨樋であることを特徴とする請求項1記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂シートが延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートであることを特徴とする請求項1又は2記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項4】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの引張弾性率が7〜15GPaであることを特徴とする請求項3記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項5】
延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートが、非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度±20℃の温度で引抜延伸した後、引抜延伸温度より高い温度で総延伸倍率が3倍〜8倍に一軸延伸されたシートであることを特徴とする請求項3又は4記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項6】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの、示差走査熱量計で測定した結晶化度が10%未満であることを特徴とする請求項5記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項7】
引抜延伸を、一対のロール間を通して行うことを特徴とする請求項5又は6記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項8】
非晶状態の熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度−20℃〜該熱可塑性ポリエステル系樹脂のガラス転移温度+10℃の温度で予熱した後、引抜延伸することを特徴とする請求項7記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項9】
熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、同一条件の引抜速度でロールが回転していない状態で引き抜いた際の送り速度と実質的に同一速度以下の速度で該ロールを引抜方向に回転させることを特徴とする請求項7又は8記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項10】
一軸延伸温度が、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項11】
一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度〜融解ピークの立ち上がり温度であって、一軸延伸温度より30℃以上高くない温度で熱固定することを特徴とする請求項5〜10のいずれか1項記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項12】
熱固定を、一軸延伸された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが実質的に変化しない状態で行うことを特徴とする請求項11記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項13】
熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さが、熱固定前の延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートの長さの0.95〜1.1であることを特徴とする請求項12記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項14】
熱固定時間が、10秒〜10分であることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1項記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項15】
更に、熱固定された延伸熱可塑性ポリエステル系樹脂シートを、ガラス転移温度〜昇温速度10℃/minで測定した示差走査熱量曲線での熱可塑性ポリエステル系樹脂の結晶化ピークの立ち上がり温度の範囲で、実質的に張力のかからない状態でアニールすることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1項記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項16】
アニール時間が10秒以上であることを特徴とする請求項15記載の異型長尺成形体の製造方法。
【請求項17】
押出被覆する熱可塑性樹脂が塩化ビニル系樹脂であることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項記載の異型長尺成形体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−80516(P2008−80516A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−259962(P2006−259962)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】