説明

異常判定装置及び画像形成装置

【課題】 完成した製品をいち早く市場に供給しつつ、組情報群(正常データ群)のデータ量不足による判定精度の低下をより抑えることができる異常判定装置を提供する。
【解決手段】工場出荷後の上記被検対象が使用され始めてから所定の期間が経過するまでの初期運転期間を検知する初期運転期間検知手段と、該被検対象についての保守点検完了情報を入力する情報入力手段とを設け、該初期運転期間中に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に記憶させる処理を実施させ、且つ、該初期運転期間の経過後には、上記情報入力手段への上記保守点検完了情報の入力に基づいて、該保守点検完了情報の入力後の所定期間だけ、該所定期間内に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に追加で記憶する処理を実施させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検対象についての互いに異なる複数種類の情報の取得結果と、情報記憶手段に記憶している複数種類の情報の組み合わせの集まりである組情報群とに基づいて、被検対象の異常の有無を判定する異常判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、市場に出回っている様々な機械や装置においては、故障が発生すると、故障の内容によっては修理完了まで使用することができず、ユーザーに不便を強いてしまうことがあった。このため、故障の発生を事前に予測して、発生前に対処することが望まれる。
【0003】
一方、従来より、被検対象が正常なときに、その被検対象から複数種類の情報を取得して正常データ群を構築しておき、その後、正常データ群と、被検対象からの取得情報とに基づいて、被検対象の正常さ加減を量る種々の方法が知られている。例えば、非特許文献1に記載されたMTS(Maharanobis Taguchi System)法も、その1つである。MTS法では、まず、正常な状態の被検対象から、複数種類の情報からなる組情報を取得する。そして、この組情報を数多く収集して正常データ群を構築する。その後、被検対象の正常さ加減を調べたいときに、被検対象から種々の情報を取得する。そして、それらの情報について、予め構築しておいた正常データ群による多次元空間内でどのような相対位置関係にあるのかを示すマハラノビスの距離を求め、その結果に基づいて被検対象の正常さ加減を量る。かかるMTS法を用いれば、被検対象としての機械や装置の軽微な異常を検知して、故障の発生を事前に予測することが可能になる。そして、前もって部品を用意したり、その部品を交換したりすることで、被検対象のダウンタイムを低減することができる。
【0004】
【非特許文献1】「MTシステムにおける技術開発」 刊行委員会委員長 田口玄一著 日本規格協会刊
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかるMTS法のように、予め構築しておいた正常データ群を用いて被検対象の異常の有無を判定する場合において、判定精度をできるだけ高めるためには、正常データ群を次のようにして構築することが求められる。即ち、正常な状態にある被検対象を様々な条件下で試運転して、できるだけ多くの条件下でデータを取得することである。
【0006】
この一方で、開発途中であった製品の完成度がある程度熟して量産が可能になった場合には、それをできるだけ早く市場に供給することが投資回収の観点から望まれる。しかしながら、量産が可能になったばかりの製品については、十分量の正常データ群を取得していないことが多い。このため、その製品の異常の有無を異常判定装置に判定させる場合には、市場への供給を急ぐと、判定精度を低下させてしまうことになる。
【0007】
そこで、本発明者らは、工場出荷後の製品の初期運転期間中に、その製品から複数種類の情報からなる組情報を数多く取得させて、それらによって組情報群を構築させるようにした異常判定装置を開発中である。正常な状態である可能性が高い初期運転期間中の製品から取得した複数の組情報からなる組情報群は、異常の有無を判定する際に利用する正常データ群として用いることが可能である。よって、工場出荷時に十分量の正常データ群を記憶させていなくても、出荷先でデータを補足させて判定精度を高めていくことができる。
【0008】
ところが、初期運転期間という限られた期間内において、ユーザーが多様な条件下で製品を使用するとは限らない。むしろ、例えば画像形成装置であれば画像形成速度の比較的遅い高画質モードで使用することが殆どであるなどといった具合に、ユーザーの好みや製品の設置環境などに応じた特定の条件下でしか使用されないことの方が多い。このような場合には、初期運転期間中に十分量の正常データを補足することができなくなってしまう。
【0009】
本発明は、以上の背景に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、完成した被検対象をいち早く市場に供給しつつ、組情報群のデータ量不足による判定精度の低下をより抑えることができる異常判定装置を提供することである。また、かかる異常判定装置を用いる画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、被検対象についての互いに異なる複数種類の情報を取得する情報取得手段と、それら複数種類の情報の組み合わせである組情報の集合からなる組情報群を記憶する情報記憶手段と、少なくとも、該情報記憶手段に記憶されている該組情報群、及び該情報取得手段による取得情報に基づいて、該被検対象の異常の有無を判定する判定手段とを備える異常判定装置において、工場出荷後の上記被検対象が使用され始めてから所定の期間が経過するまでの初期運転期間を検知する初期運転期間検知手段と、該被検対象についての保守点検完了情報を入力する情報入力手段とを設け、該初期運転期間中に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に記憶させる処理を実施させ、且つ、該初期運転期間の経過後には、上記情報入力手段への上記保守点検完了情報の入力に基づいて、該保守点検完了情報の入力後の所定期間だけ、該所定期間内に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に追加で記憶する処理を実施させるようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項2の発明は、被検対象についての互いに異なる複数種類の情報を取得する情報取得手段と、それら複数種類の情報の組み合わせである組情報の集合からなる組情報群を記憶する情報記憶手段と、少なくとも、該情報記憶手段に記憶されている該組情報群、及び該情報取得手段による取得情報に基づいて、該被検対象の異常の有無を判定する判定手段とを備える異常判定装置において、工場出荷後の上記被検対象が使用され始めてから所定の期間が経過するまでの初期運転期間を検知する初期運転期間検知手段と、該被検対象についての点検時異常無し情報を入力する情報入力手段とを設け、該初期運転期間中に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に記憶させる処理を実行させ、且つ、該初期運転期間の経過後には、該初期運転期間の経過後に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群とは別に上記情報記憶手段に記憶させておき、上記情報入力手段への上記点検時異常無し情報の入力があった場合には、該初期運転期間の経過後から該点検時異常無し情報の入力時までに該組情報群とは別に記憶させておいた組情報を上記組情報群の一部として追加で記憶させるようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項3の発明は、請求項1又は2の異常判定装置において、上記情報入力手段に対して入力した上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に追加で記憶させるようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項4の発明は、請求項1、2又は3の異常判定装置において、上記情報取得手段によって取得された上記複数種類の情報のうちの少なくとも1つが所定の閾値を上回った場合、又は下回った場合に、そのときに取得された上記組情報を上記組情報群の一部として記憶するのを中止させるようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項5の発明は、請求項4の異常判定装置において、上記複数種類の情報のうちの少なくとも1つが所定の閾値を上回った場合、又は下回った場合に、そのときから遡った所定期間内に記憶された上記組情報についても、上記組情報群の一部として記憶するのを中止させるようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項6の発明は、請求項1、2又は3の異常判定装置において、上記情報入力手段に対して異常発生情報を入力した場合に、該異常発生情報の入力時から遡った所定期間内に記憶された上記組情報を上記組情報群から除外する処理を実行させるようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項7の発明は、請求項1乃至6の何れかの異常判定装置において、上記初期運転期間、又は上記組情報追加記憶処理を実施する期間にて、上記情報記憶手段に記憶している上記組情報群と、該情報取得手段によって取得した上記組情報とに基づいて上記被検対象の異常の有無を上記判定手段に判定させ、異常有りの場合にはその旨を報知手段によって報知させ、且つ、その後に上記情報入力手段に入力した異常正否情報に基づいて、該組情報を該組情報群の一部として記憶するか否かを決定させるようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項8の発明は、請求項7の異常判定装置において、上記組情報群内の組情報数の増加に伴って、上記異常の有無の判定基準を変化させるようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項9の発明は、請求項1乃至8の何れかの異常判定装置において、上記被検対象が所定の条件下で試運転されていることを検知する試運転検知手段と、その試運転の累積回数を計数する試運転回数計数手段とを設けたことを特徴とするものである。
また、請求項10の発明は、請求項7又は8の異常判定装置において、上記初期運転期間、又は上記組情報追加記憶処理を実施する期間にて行われた上記異常の有無の判定について誤判定があったことを示す誤判定情報の上記情報入力手段に対する単位時間あたりの入力回数に基づいて、上記初期運転期間、又は上記組情報追加記憶処理を実施する期間の終了タイミングを決定させるようにしたことを特徴とするものである。
また、請求項11の発明は、記録体に画像を形成する画像形成手段と、異常の有無を判定する異常判定手段とを備える画像形成装置において、上記異常判定手段として、請求項1乃至10の何れかの異常判定装置を用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
これらの発明においては、正常な状態である可能性が高い初期運転期間中の被検対象から取得した組情報を正常データ群として機能し得る組情報群の一部として記憶する。このような記憶により、被検対象の工場出荷時に十分量の正常データ群を情報記憶手段に記憶させていなくても、出荷先の被検対象からで正常データとして機能し得る組情報を補足して判定精度を高めていくことができる。
また、請求項1の発明特定事項の全てを備える発明においては、初期運転期間中の被検対象から、十分量の組情報を取得することができなかった場合でも、次に説明する理由により、正常データとして機能し得る組情報を更に補足することができる。即ち、初期運転期間の後、サービスマン等による保守点検が完了した場合、その後、更に所定期間が経過するまでの間は、被検対象が正常な状態を維持する可能性が高い。そこで、サービスマン等による保守点検完了情報の入力に基づいて、初期運転期間の経過後の所定期間だけ、その所定期間に情報取得手段によって取得した組情報を更に追加で組情報群の一部として記憶するようになっている。かかる構成では、初期運転期間中に加えて、保守点検完了後の所定期間中にもその被検対象から正常データとして機能し得る組情報を取得することで、上述した開発中の異常判定装置よりも確実に、異常の有無の判定精度を高めていくことができる。よって、完成した被検対象をいち早く市場に供給しつつ、組情報群のデータ量不足による判定精度の低下をより抑えることができる。
また、請求項2の発明特定事項の全てを備える発明においては、初期運転期間中の被検対象から、十分量の組情報を取得することができなかった場合でも、次に説明する理由により、正常データとして機能し得る組情報を更に補足することができる。即ち、初期運転期間の後、サービスマン等による点検時に被検対象に異常が無く十分に正常な状態を維持していると被検対象が判断された場合、初期運転期間の後、点検完了までの間に、正常な状態を維持していた可能性が高い。そこで、初期運転期間の経過後に情報取得手段によって取得された組情報を組情報群とは別に記憶しておき、サービスマン等による点検時異常無し情報の入力があった場合には、初期運転期間の経過後からその入力までの間に組情報群とは別に記憶していた組情報を更に追加で組情報群の一部として記憶するようになっている。かかる構成では、初期運転期間中に加えて、初期運転期間の経過後から異常無しが点検されるまでの期間中に取得していた組情報も、正常データとして組情報群に組み入れることで、上述した開発中の異常判定装置よりも確実に、異常の有無の判定精度を高めていくことができる。よって、完成した被検対象をいち早く市場に供給しつつ、組情報群のデータ量不足による判定精度の低下をより抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を適用した異常判定装置について説明する前に、異常判定装置の被検対象となる複写機について説明する。
図1は、被検対象となる複写機を示す概略構成図である。この複写機は、プリンタ部100と給紙部200とからなる画像形成手段と、スキャナ部300と、原稿搬送部400とを備えている。スキャナ部300はプリンタ部100上に取り付けられ、そのスキャナ部300の上に原稿自動搬送装置(ADF)からなる原稿搬送部400が取り付けられている。
【0013】
スキャナ部300は、コンタクトガラス32上に載置された原稿の画像情報を読取センサ36で読み取り、読み取った画像情報を図示しない制御部に送る。制御部は、スキャナ部300から受け取った画像情報に基づき、プリンタ部100の露光装置21内に配設された図示しないレーザやLED等を制御してドラム状の4つの感光体40K,Y,M,Cに向けてレーザ書き込み光Lを照射させる。この照射により、感光体40K,Y,M,Cの表面には静電潜像が形成され、この潜像は所定の現像プロセスを経由してトナー像に現像される。なお、符号の後に付されたK,Y,M,Cという添字は、ブラック,イエロー,マゼンタ,シアン用の仕様であることを示している。
【0014】
プリンタ部100は、露光装置21の他、1次転写ローラ62K,Y,M,C、2次転写装置22、定着装置25、排紙装置、図示しないトナー供給装置、トナー供給装置等も備えている。
【0015】
給紙部200は、プリンタ部100の下方に配設された自動給紙部と、プリンタ部100の側面に配設された手差し部とを有している。そして、自動給紙部は、ペーパーバンク43内に多段に配設された2つの給紙カセット44、給紙カセットから記録体たる転写紙を繰り出す給紙ローラ42、繰り出した転写紙を分離して給紙路46に送り出す分離ローラ45等を有している。また、プリンタ部100の給紙路48に転写紙を搬送する搬送ローラ47等も有している。一方、手差し部は、手差しトレイ51、手差しトレイ51上の転写紙を手差し給紙路53に向けて一枚ずつ分離する分離ローラ52等を有している。
【0016】
プリンタ部100の給紙路48の末端付近には、レジストローラ対49が配設されている。このレジストローラ対49は、給紙カセット44や手差しトレイ51から送られてくる転写紙を受け入れた後、所定のタイミングで中間転写体たる中間転写ベルト10と2次転写装置22との間に形成される2次転写ニップに送る。
【0017】
同複写機において、操作者は、カラー画像のコピーをとるときに、原稿搬送部400の原稿台30上に原稿をセットする。あるいは、原稿搬送部400を開いてスキャナ部300のコンタクトガラス32上に原稿をセットした後、原稿搬送部400を閉じて原稿を押さえる。そして、図示しないスタートスイッチを押す。すると、原稿搬送部400に原稿がセットされている場合には原稿がコンタクトガラス32上に搬送された後に、コンタクトガラス32上に原稿がセットされている場合には直ちに、スキャナ部300が駆動を開始する。そして、第1走行体33及び第2走行体34が走行し、第1走行体33の光源から発せられる光が原稿面で反射した後、第2走行体34に向かう。更に、第2走行体34のミラーで反射してから結像レンズ35を経由して読取りセンサ36に至り、画像情報として読み取られる。
【0018】
このようにして画像情報が読み取られると、プリンタ部100は、図示しない駆動モータで支持ローラ14、15、16の1つを回転駆動させながら他の2つの支持ローラを従動回転させる。そして、これらローラに張架される中間転写ベルト10を無端移動させる。更に、上述のようなレーザ書き込みや、後述する現像プロセスを実施する。そして、感光体40K,Y,M,Cを回転させながら、それらに、ブラック,イエロー,マゼンタ,シアンの単色画像を形成する。これらは、感光体40K,Y,M,Cと、中間転写ベルト10とが当接するK,Y,M,C用の1次転写ニップで順次重ね合わせて静電転写されて4色重ね合わせトナー像になる。感光体40K、40Y、40M、40C上にトナー像を形成する。
【0019】
一方、給紙部200は、画像情報に応じたサイズの転写紙を給紙すべく、3つの給紙ローラのうちの何れか1つを作動させて、転写紙をプリンタ部100の給紙路48に導く。給紙路48内に進入した転写紙は、レジストローラ対49に挟み込まれて一旦停止した後、タイミングを合わせて、中間転写ベルト10と2次転写装置22の2次転写ローラ23との当接部である2次転写ニップに送り込まれる。すると、2次転写ニップにおいて、中間転写ベルト10上の4色重ね合わせトナー像と、転写紙とが同期して密着する。そして、ニップに形成されている転写用電界やニップ圧などの影響によって4色重ね合わせトナー像が転写紙上に2次転写され、紙の白色と相まってフルカラー画像となる。
【0020】
2次転写ニップを通過した転写紙は、2次転写装置22の搬送ベルト24の無端移動によって定着装置25に送り込まれる。そして、定着装置25の加圧ローラ27による加圧力と、加熱ベルトによる加熱との作用によってフルカラー画像が定着せしめられた後、排出ローラ56を経てプリンタ部100の側面に設けられた排紙トレイ57上に排出される。
【0021】
図2は、プリンタ部100を示す拡大構成図である。プリンタ部100は、ベルトユニット、各色のトナー像を形成する4つのプロセスユニット18K,Y,M,C、2次転写装置22、ベルトクリーニング装置17、定着装置25等を備えている。
【0022】
ベルトユニットは、複数のローラに張架した中間転写ベルト10を、感光体40K,Y,M,Cに当接させながら無端移動させる。感光体40K,Y,M,Cと中間転写ベルト10とを当接させるK,Y,M,C用の1次転写ニップでは、1次転写ローラ62K,Y,M,Cによって中間転写ベルト10を裏面側から感光体40K,Y,M,Cに向けて押圧している。これら1次転写ローラ62K,Y,M,Cには、それぞれ図示しない電源によって1次転写バイアスが印加されている。これにより、K,Y,M,C用の1次転写ニップには、感光体40K,Y,M,C上のトナー像を中間転写ベルト10に向けて静電移動させる1次転写電界が形成されている。各1次転写ローラ62K,Y,M,Cの間には、中間転写ベルト10の裏面に接触する導電性ローラ74がそれぞれ配設されている。これら導電性ローラ74は、1次転写ローラ62K,Y,M,Cに印加される1次転写バイアスが、中間転写ベルト10の裏面側にある中抵抗の基層11を介して隣接するプロセスユニットに流れ込むことを阻止するものである。
【0023】
プロセスユニット(18K,Y,M,C)は、感光体(40K,Y,M,C)と、その他の幾つかの装置とを1つのユニットとして共通の支持体に支持するものであり、プリンタ部100に対して着脱可能になっている。ブラック用のプロセスユニット18Kを例にすると、これは、感光体40Kの他、感光体40K表面に形成された静電潜像をブラックトナー像に現像するための現像手段たる現像ユニット61Kを有している。また、1次転写ニップを通過した後の感光体40K表面に付着している転写残トナーをクリーニングする感光体クリーニング装置63Kも有している。また、クリーニング後の感光体40K表面を除電する図示しない除電装置や、除電後の感光体40K表面を一様帯電せしめる図示しない帯電装置なども有している。他色用のプロセスユニット18Y,M,Cも、取り扱うトナーの色が異なる他は、ほぼ同様の構成になっている。同複写機では、これら4つのプロセスユニット18K,Y,M,Cを、中間転写ベルト10に対してその無端移動方向に沿って並べるように対向配設したいわゆるタンデム型の構成になっている。
【0024】
図3は、4つのプロセスユニット18K,Y,M,Cからなるタンデム部20の一部を示す部分拡大図である。なお、4つのプロセスユニット18K,Y,M,Cは、それぞれ使用するトナーの色が異なる他はほぼ同様の構成になっているので、同図においては各符号に付すK,Y,M,Cという添字を省略している。同図に示すように、プロセスユニット18は、感光体40の周りに、帯電手段としての帯電装置60、現像装置61、1次転写手段としての1次転写ローラ62、感光体クリーニング装置63、除電装置64等を備えている。
【0025】
感光体40としては、アルミニウム等の素管に、感光性を有する有機感光材を塗布し、感光層を形成したドラム状のものを用いている。但し、無端ベルト状のものを用いても良い。また、帯電装置60としては、帯電バイアスが印加される帯電ローラを感光体40に当接させながら回転させるものを用いている。感光体40に対して非接触で帯電処理を行うスコロトロンチャージャ等を用いてもよい。
【0026】
現像装置61は、磁性キャリアと非磁性トナーとを含有する二成分現像剤を用いて潜像を現像するようになっている。内部に収容している二成分現像剤を攪拌しながら搬送して現像スリーブ65に供給する攪拌部66と、現像スリーブ65に付着した二成分現像剤のうちのトナーを感光体4K,Y,M,Cに転移させる現像部67とを有している。
【0027】
攪拌部66は、現像部67よりも低い位置に設けられており、互いに平行配設された2本のスクリュウ68、これらスクリュウ間に設けられた仕切り板、現像ケース70の底面に設けられたトナー濃度センサ71などを有している。
【0028】
現像部67は、現像ケース70の開口を通して感光体40に対向する現像スリーブ65、これの内部に回転不能に設けられたマグネットローラ72、現像スリーブ65に先端を接近させるドクタブレード73などを有している。ドクタブレード73と現像スリーブ65との間の最接近部における間隔は500[μm]程度に設定されている。現像スリーブ65は、非磁性の回転可能なスリーブ状の形状になっている。また、現像スリーブ65に連れ回らないようにないようされるマグネットローラ72は、例えば、ドクタブレード73の箇所から現像スリーブ65の回転方向にN1、S1、N2、S2、S3の5磁極を有している。これら磁極は、それぞれスリーブ上の二成分現像剤に対して回転方向の所定位置で磁力を作用させる。これにより、攪拌部66から送られてくる二成分現像剤を現像スリーブ65表面に引き寄せて担持させるとともに、スリーブ表面上で磁力線に沿った磁気ブラシを形成する。
【0029】
磁気ブラシは、現像スリーブ65の回転に伴ってドクタブレード73との対向位置を通過する際に適正な層厚に規制されてから、感光体40に対向する現像領域に搬送される。そして、現像スリーブ65に印加される現像バイアスと、感光体40の静電潜像との電位差によって静電潜像上に転移して現像に寄与する。更に、現像スリーブ65の回転に伴って再び現像部67内に戻り、マグネットローラ72の磁極間の反発磁界の影響によってスリーブ表面から離脱した後、攪拌部66に戻される。攪拌部66内では、トナー濃度センサ71による検知結果に基づいて、二成分現像剤に適量のトナーが補給される。なお、現像装置61として、二成分現像剤を用いるものの代わりに、磁性キャリアを含まない一成分現像剤を用いるものを採用してもよい。
【0030】
感光体クリーニング装置63としては、ポリウレタンゴム製のクリーニングブレード75を感光体40に押し当てる方式のものを用いているが、他の方式のものを用いてもよい。クリーニング性を高める目的で、本例では、外周面を感光体40に接触させる接触導電性のファーブラシ76を、図中矢印方向に回転自在に有するクリーニング装置63を採用している。そして、ファーブラシ76にバイアスを印加する金属製電界ローラ77を図中矢示方向に回転自在に設け、その電界ローラ77にスクレーパ78の先端を押し当てている。スクレーパ78によって電界ローラ77から除去されたトナーは、回収スクリュ79上に落下して回収される。
【0031】
かかる構成の感光体クリーニング装置63は、感光体40に対してカウンタ方向に回転するファーブラシ76で、感光体40上の残留トナーを除去する。ファーブラシ76に付着したトナーは、ファーブラシ76に対してカウンタ方向に接触して回転するバイアスを印加された電界ローラ77に取り除かれる。電界ローラ77に付着したトナーは、スクレーパ78でクリーニングされる。感光体クリーニング装置63で回収したトナーは、回収スクリュ79で感光体クリーニング装置63の片側に寄せられ、トナーリサイクル装置80で現像装置61へと戻されて再利用される。
【0032】
除電装置64は、除電ランプ等からなり、光を照射して感光体40の表面電位を除去する。このようにして除電された感光体40の表面は、帯電装置60によって一様帯電せしめられた後、光書込処理がなされる。
【0033】
ベルトユニットの図中下方には、2次転写装置22が設けられている。この2次転写装置22は、2つのローラ23間に、2次転写ベルト24を掛け渡して無端移動させている。2つのローラ23のうち、一方は図示しない電源によって2次転写バイアスが印加される2次転写ローラとなっており、ベルトユニットのローラ16との間に中間転写ベルト10と2次転写ベルト24とを挟み込んでいる。これにより、両ベルトが当接しながら当接部で互いに同方向に移動する2次転写ニップが形成されている。レジストローラ対49からこの2次転写ニップに送り込まれた転写紙には、中間転写ベルト10上の4色重ね合わせトナー像が2次転写電界やニップ圧の影響で一括2次転写されて、フルカラー画像が形成される。2次転写ニップを通過した転写紙は、中間転写ベルト10から離間して、2次転写ベルト24の表面に保持されながら、ベルトの無端移動に伴って定着装置25へと搬送される。なお、2次転写ローラに代えて、転写チャージャ等によって2次転写を行わせるようにしてもよい。
【0034】
2次転写ニップを通過した中間転写ベルト10の表面は、支持ローラ15による支持位置にさしかかる。ここでは、中間転写ベルト10が、おもて面(ループ外面)に当接するベルトクリーニング装置17と、裏面に当接する支持ローラ15との間に挟み込まれる。そして、ベルトクリーニング装置17により、おもて面に付着している転写残トナーが除去された後、K,Y,M,C用の1次転写ニップに順次進入して、次の4色トナー像が重ね合わされる。
【0035】
ベルトクリーニング装置17は、2つのファーブラシ90,91を有している。これらは、複数の起毛をその植毛方向に対してカウンタ方向で中間転写ベルト10に当接させながら回転することで、ベルト上の転写残トナーを機械的に掻き取る。加えて、図示しない電源によってクリーニングバイアスが印加されることで、掻き取った転写残トナーを静電的に引き寄せて回収する。
【0036】
ファーブラシ90,91に対しては、それぞれ金属ローラ92,93が接触しながら、順または逆方向に回転している。これら金属ローラ92,93のうち、中間転写ベルト10の回転方向上流側に位置する金属ローラ92には、電源94によってマイナス極性の電圧が印加されている。また、下流側に位置する金属ローラ93には、電源95によってプラス極性の電圧が印加される。そして、それらの金属ローラ92,93には、それぞれブレード96,97の先端が当接している。かかる構成では、中間転写ベルト10の図中矢印方向への無端移動に伴って、まず、上流側のファーブラシ90が中間転写ベルト10表面をクリーニングする。このとき、例えば金属ローラ92に−700[V]が印加されながら、ファーブラシ90に−400[V]が印加されると、まず、中間転写ベルト10上のプラス極性のトナーがファーブラシ90側に静電転移する。そして、ファーブラシ側に転移したトナーが更に電位差によってファーブラシ90から金属ローラ92に転移して、ブレード96によって掻き落とされる。
【0037】
このように、ファーブラシ90で中間転写ベルト10上のトナーが除去されるが、中間転写ベルト10上にはまだ多くのトナーが残っている。それらのトナーは、ファーブラシ90に印加されるマイナス極性のバイアスにより、マイナスに帯電される。これは、電荷注入または放電により帯電されるものと考えられる。次いで下流側のファーブラシ91を用いて今度はプラス極性のバイアスを印加してクリーニングを行うことにより、それらのトナーを除去することができる。除去したトナーは、電位差によりファーブラシ91から金属ローラ93に転移させ、ブレード97により掻き落とす。ブレード96、97で掻き落としたトナーは、不図示のタンクに回収される。
【0038】
ファーブラシ91でクリーニングされた後の中間転写ベルト10表面は、ほとんどのトナーが除去されているがまだ少しのトナーが残っている。これらの中間転写ベルト10上に残ったトナーは、上述したようにファーブラシ91に印加されるプラス極性のバイアスにより、プラス極性に帯電される。そして、1次転写位置で印加される転写電界によって感光体40K,Y,M,C側に転写され、感光体クリーニング装置63で回収される。
【0039】
レジストローラ対49は一般的には接地されて使用されることが多いが、転写紙Pの紙粉除去のためにバイアスを印加することも可能である。
【0040】
2次転写装置22および定着装置25の下には、上述したタンデム部20と平行に延びるような、転写紙反転装置28(図1参照)が設けられている。これにより、片面に対する画像定着処理を終えた転写紙が、切換爪で転写紙の進路を転写紙反転装置側に切り換えられ、そこで反転されて再び2次転写転写ニップに進入する。そして、もう片面にも画像の2次転写処理と定着処理とが施された後、排紙トレイ上に排紙される。
【0041】
以上の構成の同複写機においては、各プロセスユニット18K,Y,M,C、2次転写装置22、露光装置21等により、記録体たる転写紙に画像を形成する画像形成手段が構成されている。
【0042】
同複写機のような画像形成装置においては、センシング情報、制御パラメータ情報、入力情報、画像読取情報などの様々な情報をセンサ等の情報取得手段によって取得することができる。以下、取得可能な情報の一例について説明する。
【0043】
(a)センシング情報
センシング情報としては、駆動関係、記録媒体の各種特性、現像剤特性、感光体特性、電子写真の各種プロセス状態、環境条件、記録物の各種特性などが取得する対象として考えられる。これらのセンシング情報の概要を説明すると、以下のようになる。
【0044】
(a-1)駆動の情報
・感光体ドラムの回転速度をエンコーダーで検出したり、駆動モータの電流値を読み取ったり、駆動モータの温度を読み取る。
・同様にして、定着ローラ、紙搬送ローラ、駆動ローラなどの円筒状またはベルト状の回転する部品の駆動状態を検出する。
・駆動により発生する音を装置内部または外部に設置されたマイクロフォンで検出する。
【0045】
(a-2)紙搬送の状態
・透過型または反射型の光センサ、あるいは接触タイプのセンサにより、搬送された紙の先端や後端の位置を読み取り、紙詰まりが発生したことを検出したり、紙の先端や後端の通過タイミングのずれ、送り方向と垂直な方向の変動などを読み取る。
・同様に、複数のセンサ間の検出タイミングにより、紙の移動速度を求める。
・給紙時の給紙ローラと紙とのスリップを、ローラの回転数計測値と紙の移動量との比較で求める。
【0046】
(a-3)紙などの記録媒体の各種特性
この情報は、画質やシート搬送の安定性に大きく影響する。この紙種の情報取得には以下のような方法がある。
・紙の厚みは、紙を二つのローラで挟み、ローラの相対的な位置変位を光学センサ等で検知したり、紙が進入してくることによって押し上げられる部材の移動量と同等の変位量を検知することによって求める。
・紙の表面粗さは、転写前の紙の表面にガイド等を接触させ、その接触によって生じる振動や摺動音等を検知する。
・紙の光沢は、規定された入射角で規定の開き角の光束を入射し、鏡面反射方向に反射する規定の開き角の光束をセンサで測定する。
・紙の剛性は、押圧された紙の変形量(湾曲量)を検知することにより求める。
・再生紙か否かの判断は、紙に紫外線を照射してその透過率を検出して行なう。
・裏紙か否かの判断は、LEDアレイ等の線状光源から光を照射し、転写面から反射した光をCCD等の固体撮像素子で検出して行なう。
・OHP用のシートか否かは、用紙に光を照射し、透過光と角度の異なる正反射光を検出して判断する。
・紙に含まれている水分量は、赤外線またはμ波の光の九州を測定することにより求める。
・カール量は光センサ、接触センサなどで検出する。
・紙の電気抵抗は、一対の電極(給紙ローラなど)を記録紙と接触させて直接測定したり、紙転写後の感光体や中間転写体の表面電位を測定して、その値から記録紙の抵抗値を推定する。
【0047】
(a-4)現像剤特性
現像剤(トナーやキャリア)の装置内での特性は、電子写真プロセスの機能の根幹に影響するものである。そのため、システムの動作や出力にとって重要な因子となる。現像剤の情報を得ることは極めて重要である。この現像剤特性としては、例えば次のような項目が挙げられる。
・トナーについては、帯電量およびその分布、流動性、凝集度、嵩密度、電気抵抗、外添剤量、消費量または残量、流動性、トナー濃度(トナーとキャリアの混合比)を挙げることができる。
・キャリアについては、磁気特性、コート膜厚、スペント量などを挙げることができる。
これらの情報を画像形成装置の中で単独で検出することは通常困難である。そこで、現像剤の総合的な特性として検出すると良い。この現像剤の総合的な特性は、例えば次のように測定することができる。
・感光体上にテスト用潜像を形成し、予め決められた現像条件で現像して、形成されたトナー像の反射濃度(光反射率)を測定する。
・現像装置中に一対の電極を設け、印加電圧と電流の関係を測定する(抵抗、誘電率など)。
・現像装置中にコイルを設け、電圧電流特性を測定する(インダクタンス)。
・現像装置中にレベルセンサを設けて、現像剤容量を検出する。レベルセンサは光学式、静電容量式などがある。
【0048】
(a-5)感光体特性
感光体特性も現像剤特性と同じく、電子写真プロセスの機能と密接に関わる。この感光体特性の情報としては、感光体の膜厚、表面特性(摩擦係数、凹凸)、表面電位(各プロセス前後)、表面エネルギー、散乱光、温度、色、表面位置(フレ)、線速度、電位減衰速度、電気抵抗、静電容量、表面水分量などが挙げられる。このうち、画像形成装置の中では、次のような情報を検出できる。
・膜厚変化に伴う静電容量の変化を、帯電部材から感光体に流れる電流を検知し、同時に帯電部材への印加電圧と予め設定された感光体の誘電厚みに対する電圧電流特性と照合することにより、膜厚を求める。
・表面電位、温度は従来周知のセンサで求めることができる。
・線速度は感光体回転軸に取り付けられたエンコーダーなどで検出される。
・感光体表面からの散乱光は光センサで検出される。
【0049】
(a-6)電子写真プロセス状態
電子写真方式によるトナー像形成は、周知のように、感光体の均一帯電、レーザー光などによる潜像形成(像露光)、電荷を持ったトナー(着色粒子)による現像、転写材へのトナー像の転写(カラーの場合は中間転写体または最終転写材である記録媒体での重ね合わせ、または現像時に感光体への重ね現像を行なう)、記録媒体へのトナー像の定着という順序で行なわれる。これらの各段階での様々な情報は、画像その他のシステムの出力に大きく影響を与える。これらを取得することがシステムの安定を評価する上で重要となる。この電子写真プロセス状態の情報取得の具体例としては、次のようなものが挙げられる。
・帯電電位、露光部電位は従来公知の表面電位センサにより検出される。
・非接触帯電における帯電部材と感光体とのギャップは、ギャップを通過させた光の量を測定することにより検知する。
・帯電による電磁波は広帯域アンテナにより捉える。
・帯電による発生音。
・露光強度。
・露光光波長。
【0050】
また、トナー像の様々な状態を取得すること方法としては、次のようなものが挙げられる。
・パイルハイト(トナー像の高さ)を、変位センサで縦方向から奥行きを、平行光のリニアセンサで横方向から遮光長を計測して求める。
・トナー帯電量を、ベタ部の静電潜像の電位、その潜像が現像された状態での電位を測定する電位センサにより測定し、同じ箇所の反射濃度センサから換算した付着量との比により求める。
・ドット揺らぎまたはチリを、ドットパターン画像を感光体上においては赤外光のエリアセンサ、中間転写体上においては各色に応じた波長のエリアセンサで検知し、適当な処理をすることにより求める。
・オフセット量(定着後)を、記録紙上と定着ローラ上の対応する場所をそれぞれ光学センサで読み取って、両者比較することにより求める。
・転写工程後(PD上,ベルト上)に光学センサを設置し,特定パターンの転写後の転写残パターンからの反射光量で転写残量を判断する。
・重ね合わせ時の色ムラを定着後の記録紙上を検知するフルカラーセンサで検知する。
【0051】
(a-7)形成されたトナー像の特性
・画像濃度、色は光学的に検知する。反射光、透過光のいずれでもよい。色に応じて投光波長を選択すればよい。濃度及び単色情報を得るには感光体上または中間転写体上でよいが、色ムラなど,色のコンビネーションを測るには紙上の必要がある。
・階調性は、階調レベルごとに感光体上に形成されたトナー像または転写体に転写されたトナー像の反射濃度を光学センサにより検出する。
・鮮鋭性は、スポット径の小さい単眼センサ、若しくは高解像度のラインセンサを用いて、ライン繰り返しパターンを現像または転写した画像を読み取ることにより求める。
・粒状性(ざらつき感)は、鮮鋭性の検出と同じ方法により、ハーフトーン画像を読み取り、ノイズ成分を算出することにより求める。
・レジストスキューは、レジスト後の主走査方向両端に光学センサを設け、レジストローラONタイミングと両センサの検知タイミングとの差異から求める。
・色ずれは、中間転写体または記録紙上の重ね合わせ画像のエッジ部を、単眼の小径スポットセンサ若しくは高解像度ラインセンサで検知する。
・バンディング(送り方向の濃度むら)は、記録紙上で小径スポットセンサ若しくは高解像度ラインセンサにより副走査方向の濃度ムラを測定し、特定周波数の信号量を計測する。
・光沢度(むら)は、均一画像が形成された記録紙を正反射式光学センサで検知するように設ける。
・かぶりは、感光体上、中間転写体上、または記録紙上において、比較的広範囲の領域を検知する光学センサで画像背景部を読み取る方法、または高解像度のエリアセンサで背景部のエリアごと画像情報を取得し、その画像に含まれるトナー粒子数を数えるという方法がある。
【0052】
(a-8)画像形成装置のプリント物の物理的な特性
・像流れや画像かすれなどは、感光体上、中間転写体、あるいは記録紙上でトナー像をエリアセンサにより検知し、取得した画像情報を画像処理して判定する。
・トナーチリ汚れは記録紙上の画像を高解像度ラインセンサまたはエリアセンサで取り込み、パターン部の周辺に散っているトナー量を算定することにより求める。
・後端白抜け、ベタクロス白抜けは、感光体上、中間転写体、あるいは記録紙上で高解像度ラインセンサにより検知する。
・記録紙のカール、波打ち、折れは、変位センサで検出する。折れの検出のためには記録紙の両端部分に近い所にセンサを設置することが有効である。
・コバ面の汚れやキズは、排紙トレイに縦に設けたエリアセンサにより,ある程度排紙が溜まった時のコバ面をエリアセンサで撮影,解析する。
【0053】
(a-9)環境状態
・温度検出には、異種金属どうし或いは金属と半導体どうしを接合した接点に発生する熱起電力を信号として取り出す熱電対方式、金属或いは半導体の抵抗率が温度によって変化することを利用した抵抗率変化素子、また、或る種の結晶では温度が上昇したことにより結晶内の電荷の配置に偏りが生じ表面に電位発生する焦電型素子、更には、温度による磁気特性の変化を検出する熱磁気効果素子などを採用することができる。
・湿度検出には、HO或いはOH基の光吸収を測定する光学的測定法、水蒸気の吸着による材料の電気抵抗値変化を測定する湿度センサ等がある。
・各種ガスは、基本的にはガスの吸着に伴う、酸化物半導体の電気抵抗の変化を測定することにより検出する。
・気流(方向、流速、ガス種)の検出には、光学的測定法等があるが、システムへの搭載を考慮するとより小型にできるエアブリッジ型フローセンサが特に有用である。
・気圧、圧力の検出には、感圧材料を使用する、メンブレンの機械的変位を測定する等の方法がある。振動の検出にも同様に方法が用いられる。
【0054】
(b)制御パラメータ情報
画像形成装置の動作は制御部によって決定されるため、制御部の入出力パラメータを直接利用することが有効である。
【0055】
(b-1)画像形成パラメータ
画像形成のために制御部が演算処理により出力する直接的なパラメータで、以下のような例がある。
・制御部によるプロセス条件の設定値で、例えば帯電電位、現像バイアス値、定着温度設定値など。
・同じく、中間調処理やカラー補正などの各種画像処理パラメータの設定値。
・制御部が装置の動作のために設定する各種のパラメータで、例えば紙搬送のタイミング、画像形成前の準備モードの実行時間など。
【0056】
(b-2)ユーザー操作履歴
・色数、枚数、画質指示など、ユーザーにより選択された各種操作の頻度
・ユーザーが選択した用紙サイズの頻度。
【0057】
(b-3)消費電力
・全期間または特定期間単位(1日、1週間、1ヶ月など)の総合消費電力あるいはその分布、変化量(微分)、累積値(積分)など。
【0058】
(b-4)消耗品消費情報
・全期間または特定期間単位(1日、1週間、1ヶ月など)のトナー、感光体、紙の使用量あるいはその分布、変化量(微分)、累積値(積分)など。
【0059】
(b-5)故障発生情報
・全期間または特定期間単位(1日、1週間、1ヶ月など)の故障発生(種類別)の頻度あるいはその分布、変化量(微分)、累積値(積分)など。
【0060】
(c)入力画像情報
ホストコンピュータから直接データとして送られる画像情報、あるいは原稿画像からスキャナーで読み取って画像処理をした後に得られる画像情報から、以下のような情報を取得することができる。
・着色画素累積数はGRB信号別の画像データを画素ごとにカウントすることにより求められる。
・例えば特許第2621879号の公報に記載されているような方法でオリジナル画像を文字、網点、写真、背景に分離し、文字部、ハーフトーン部などの比率を求めることができる。同様にして色文字の比率も求めることができる。
・着色画素の累積値を主走査方向で区切った領域別にカウントすることにより、主走査方向のトナー消費分布が求められる。
・画像サイズは制御部が発生する画像サイズ信号または画像データでの着色画素の分布により求められる。
・文字の種類(大きさ、フォント)は文字の属性データから求められる。
【0061】
次に、同複写機における各種情報の具体的取得法について説明する。
(1)温度
同複写機は、温度の情報を取得する温度センサとして、原理及び構造が簡単でしかも超小型にできる抵抗変化素子を用いるものを備えている。
【0062】
(2)湿度
小型にできる湿度センサが有用である。基本原理は感湿性セラミックスに水蒸気が吸着すると、吸着水によりイオン伝導が増加しセラミックスの電気抵抗が低下することによる。感湿性セラミックスの材料は多孔質材料であり、一般的にはアルミナ系、アパタイト系、ZrO2−MgO系などが使用される。
【0063】
(3)振動
振動センサは、基本的には気圧及び圧力を測定するセンサと同じであり、システムへの搭載を考慮すると超小型にできるシリコン利用のセンサが特に有用である。薄いシリコンのダイアフラム上に作製した振動子の運動を、振動子と対向して設けられた対向電極間との容量変化を計測する、或いはSiダイアフラム自体のピエゾ抵抗効果を利用して計測することができる。
【0064】
(4)トナー濃度(4色分)
各色ごとにトナー濃度を検出する。トナー濃度センサとしては従来より公知の方式のものを用いることができる。例えば、特開平6−289717号公報に記載されているような現像装置中の現像剤の透磁率の変化を測定するセンシングシステムにより、トナー濃度を検出することができる。
【0065】
(5)感光体一様帯電電位(4色分)
各色用の感光体(40K,Y,M,C)について、それぞれ一様帯電電位を検出する。物体の表面電位を検知する公知の表面電位センサを用いることができる。
【0066】
(6)感光体露光後電位(4色分)
光書込後の感光体(40K,Y,M,C)の表面電位を、(5)と同様にして検出する。
【0067】
(7)着色面積率(4色分)
入力画像情報から、着色しようとする画素の累計値と全画素の累計値の比から着色面積率を色ごとに求め、これを利用する。
【0068】
(8)現像トナー量(4色分)
感光体(40K,Y,M,C)上で現像された各色トナー像における単位面積あたりのトナー付着量を、反射型フォトセンサによる光反射率に基づいて求める。反射型フォトセンサは対象物にLED光を照射し、反射光を受光素子で検出するものである。トナー付着量と光反射率とには相関関係が成立するため、光反射率に基づいてトナー付着量を求めることができる。
【0069】
(9)紙先端位置の傾き
給紙部(200)の給紙ローラから2次転写ニップに至る給紙経路のどこかに、転写紙をその搬送方向に直交する方向の両端で検知する光センサ対を設置し、搬送されてくる転写紙の先端付近の両端を検出する。両光センサについて、給紙ローラの駆動信号の発信時を基準として、通過までの時間を計測し、時間のズレに基づいて送り方向に対する転写紙の傾きを求める。
【0070】
(10)排紙タイミング
排出ローラ対(図1の56)を通過後の転写紙を光センサで検出する。この場合も給紙ローラの駆動信号の発信時を基準として計測する。
【0071】
(11)感光体総電流(4色分)
感光体(40K,Y,M,C)からアースに流れ出る電流を検出する。感光体の基板と接地端子との間に、電流測定手段を設けることで、かかる電流を検出することができる。
【0072】
(12)感光体駆動電力(4色分)
感光体の駆動源(モータ)が駆動中に費やす駆動電力(電流×電圧)を電流計や電圧計などによって検出する。
【0073】
次に、本発明を適用した異常判定装置の第1実施形態について説明する。
まず、本異常判定装置の基本的な構成について説明する。本異常判定装置については、複写機等の被検対象の内部に搭載してもよいし、被検対象とは別体で構成してもよい。被検対象と別体で構成した場合には、それを被検対象の近傍に配設してもよいし、遠隔地に配設してもよい。遠隔地に配設する場合は、通信回線によって被検対象と異常判定装置との間でデータ交信を行わせることで、異常判定装置に判定処理を行わせることができる。また、被検対象の内部に異常判定装置を配設した場合には、サービスマン等が配設現場に出張することで、その異常判定装置に対し、データを書き込んだり取り出したりすることが可能である。
【0074】
図4は、本第1実施形態に係る異常判定装置600の電気回路の一部を示すブロック図である。同図において、異常判定装置600は、被検対象たる複写機の状態を示す複数種類の情報を取得する情報取得手段601、複数種類の情報の組合せからなる組情報や、これの集まりである組情報群を記憶する情報記憶手段602などを有している。また、情報取得手段601によって取得された組情報と、情報記憶手段602に記憶されている組情報群とに基づいて被検対象たる複写機の異常の有無を判定する判定手段603も有している。また、ユーザー等の入力操作による情報を入力するためのキーボード等からなる情報入力手段604も有している。
【0075】
異常判定装置600に、CPUやRAM等からなる制御部を用いる場合には、その制御部のRAM等を情報記憶手段602として機能させることができる。また、異常の有無を判定する判定手段603として機能させることもできる。
【0076】
図5は、異常判定装置600を複写機500内に搭載した例を示すブロック図である。この例の場合、複写機500に搭載した各種センサや操作部などを、異常判定装置600の情報取得手段601として機能させることが可能である。また、複写機500全体の制御を司るメイン制御部を、異常判定装置600の判定手段603として機能させることも可能である。
【0077】
図6は、図5の構成の複写機500にパーソナルコンピュータ(PC)が接続されている例を示すブロック図である。この例の場合、パーソナルコンピュータ(PC)との通信を可能にするために複写機500に搭載した通信ポート等の通信手段を、異常判定装置600の情報取得手段601や情報入力手段604として機能させることが可能になる。また、複写機500に搭載した操作表示部を、異常判定装置600の情報入力手段として機能させることもできる。
【0078】
図7は、異常判定装置600を、複写機500の設置現場から遠く離れた遠隔地に配設した例を示すブロック図である。この例の場合、複写機500と異常判定装置600とは、有線又は無線を利用した通信回線によるデータ交換が可能になっている。複写機500との通信を可能にすべく、異常判定装置600に搭載した通信ポート等の通信手段を、情報取得手段601や情報入力手段604として機能させることができる。
【0079】
図8は、ネットワークを介して複数のパーソナルコンピュータ(PC)に接続された複数の複写機500に対して、通信回線を介して異常判定装置600を接続した例を示している。この例の場合、1つの異常判定装置600により、複数の複写機500に対して、それぞれ個別に異常の有無を判定させることができる。
【0080】
図5〜図8に示したように、異常判定装置600については、被検対象に搭載してもよいし、被検対象とは別体で構成してもよい。また、異常判定装置600の一部だけを被検対象内に搭載し、残りを別体としてもよい。この場合、異常の有無の判定を、被検対象内で行わせることもできるし、別体の方で行わせることもできる。本第1実施形態においては、異常判定装置600を複写機500の内部に搭載した例について説明する。
【0081】
以下、本第1実施形態に係る異常判定装置600の特徴的な構成について説明する。
異常判定装置600は、情報取得手段601として機能する複写機500の各種センサ、メイン制御部、操作表示部などによって取得された複数種類の情報からなる組情報に基づいて、被検対象たる複写機の異常の有無を判定する。より詳しくは、その組情報に基づいて、MTS法によるマハラノビスの距離を求めて、装置内に異常が発生しているか否かを判定するようになっている。マハラノビスの距離を求めるためには、正常な状態の複写機から取得した複数の組情報の集まりである組情報群を構築する必要があるが、この構築については、複写機の出荷先において、ユーザーの命令に基づく運転時に行うようになっている。なお、出荷時においても、データ量は少ないものの、組情報群をRAM、ハードディスク等に記憶させているが、出荷先において、その組情報群に更なる組情報を組み込むのである。
【0082】
図9は、異常判定装置600によって実施されるデータ処理の概要を示すフローチャートである。このデータ処理が実施される前提として、異常判定装置600では、公知の技術によって各種機器の制御を実施する複写機のメイン制御部が、異常判定装置600の情報記憶手段602や判定手段603として機能している。また、複写機の図示しない操作表示部が、異常判定装置600の情報入力手段604として機能している。また、このメイン制御部、複写機に搭載された各種センサ、操作表示部が、それぞれ、異常判定装置600の情報取得手段601として機能している。
【0083】
被検対象となる複写機が工場から出荷された後(ステップ1:以下、ステップをSと記す)、ユーザーの元で初めに複写機の主電源が投入されると(S2)、メイン制御部は、その時点を初期運転開始タイミングとしてRAM等の情報記憶手段に記憶させる(S3)。この情報記憶手段には、かかる初期運転開始タイミングから、ある一定の期間が経過したことを判断するために必要となる期間経過判断パラメータが、工場出荷に先立って格納されている。かかる期間経過判断パラメータとしては、経過時間閾値、経過日数閾値、経過月数閾値、プリント枚数閾値、運転時間閾値などが挙げられる。
【0084】
上述の初期運転開始タイミングから、これら期間経過判断パラメータに基づいて決定されるある一定の期間経過までの間、即ち、所定期間が経過するまでの間は、組情報群構築処理が実行される(S4でN、S5)。この組情報群構築処理では、センサ等の情報取得手段によって取得可能な各種情報の組み合わせである組情報がプリントジョブ中に取得され、組情報群の一部として情報記憶手段に記憶される。上述の初期運転開始タイミングから所定期間が経過すると(S4でY)、組情報群構築処理に代えて、異常判定処理が実行される(S6)。この異常判定処理では、所定期間経過後のプリントジョブ中に情報取得手段によって取得された各種情報からなる組情報と、情報記憶手段に記憶されている組情報群とに基づいてマハラノビスの距離が求められる。そして、得られたマハラノビスの距離に基づいて、複写機について異常ありか否かが判定される。ここで、異常ありと判定されると(S7でY)、操作表示部等の報知手段により、異常ありが報知される(S8)。
【0085】
このような制御を実施する異常判定装置600においては、メイン制御部が、初期運転期間を検知する初期運転期間検知手段として機能している。なお、組情報群の構築方法や、異常の有無の判定方法については、後に詳述する。
【0086】
図10は、異常判定装置600によって実施される保守点検フラグ確認処理の制御フローを示すフローチャートである。この保守点検フラグ確認処理では、まず、保守点検フラグについて、セットされているか否かが判断される(S1)。この保守点検フラグは、複写機を保守点検して異常なしと判断したサービスマン等の専門家により、その結果が複写機の操作表示部に入力されるとセットされる。
かかる保守点検フラグがセットされていないと判断された場合には(S1でN)、制御フローが直ちに終了する。一方、セットされていると判断されると(S1でY)、次に、その保守点検フラグがセットされてからの経過期間であるセット経過期間について、所定の閾値を超えているか否かが判断される(S2)。そして、超えていると判断された場合には(S2でY)、保守点検フラグが解除される。また、超えていないと判断された場合には(S2でN)、そのまま制御フローが終了する。
【0087】
先に図9に示したフローチャートは、保守点検フラグがセットされていないときに実行される処理である。保守点検フラグがセットされているときには、図9の組情報群構築処理(S5)だけが実施される。
【0088】
本第1実施形態においては、複写機の操作表示部が、被検対象たる複写機の保守点検完了情報を入力する情報入力手段として機能している。そして、複写機の初期運転期間中には、情報取得手段によって取得された各種情報からなる組情報を組情報群の一部として情報記憶手段に記憶する。また、初期運転期間の経過後には、操作表示部への保守点検完了情報の入力に基づいて、情報取得手段によって取得された組情報を組情報群の一部として情報記憶手段に追加で記憶する処理を所定期間だけ実施する。かかる構成では、初期運転期間中に加えて、保守点検完了後の所定期間中にも、その複写機から正常データとして機能し得る組情報を取得することで、異常の有無の判定精度を高めていくことができる。
【0089】
次に示す表1は、上述の組情報群構築処理において構築される取得データテーブルの一例である。この取得データテーブルでは、k種類の情報からなる組情報をn組取得して逆行列を構成する例を示している。
【表1】

【0090】
組情報群構築処理では、まず、1組目の組情報を構成するk種類の情報(y11、y12・・・・・・y1k)がそれぞれ情報取得手段によって取得される。そして、データテーブル内の1行目のデータとして、情報記録手段に記憶される。次いで、2組目の組情報を構成するk種類の情報(y21、y22・・・・・・y2k)がそれぞれ情報取得手段によって取得され、データテーブル内の2行目のデータとして、情報記憶手段に記憶される。以降、3組目以降の組情報がプリントジョブに伴って順次取得されていき、データテーブル内のデータとして記憶されていく。そして、上述の所定期間が経過する直前にn組目の組情報が取得されて、データテーブル内のn行目のデータとして情報記憶手段に記憶される。所定期間が経過すると、各組情報を構成するk種類の情報について、それぞれn個における平均と標準偏差(σ)とが求められて、それぞれn+1、n+2行目のデータとして、情報記憶手段に記憶される。
【0091】
上述の所定期間が経過してこのような取得データテーブル構築工程が終わると、その直後に、逆行列構築処理が行われる。この逆行列構築処理では、以下に説明する情報正規化工程と、相関係数算出工程と、逆行列変換工程とが実施される。
【0092】
逆行列構築処理における情報正規化工程では、表1に示した取得データテーブルに基づいて、次の表2に示すような正規化データテーブルが構築される。
【表2】

【0093】
データの正規化とは、各種情報について、その絶対値情報を変量情報に変換するための処理であり、次に示す関係式に基づいて、各種情報の正規化データが算出される。なお、次式におけるiは、n組の組情報のうちの何れか1つであることを示す符号である。また、jは、k種類の情報のうちの何れか1つであることを示す符号である。
【数1】

【0094】
上記情報正規化工程が終わると、次に、相関係数算出工程が行われる。この相関係数算出工程では、n組の正規化データ群において、それぞれk種類の正規化データのうち、互いに異なる2種類が成立し得る全ての組合せ(kC2通り)について、次式に基づいて相関係数rpq(rqp)が算出される。
【数2】

【0095】
全ての組合せについての相関係数rpq(rqp)が算出されると、次に、対角要素を1、その他のp行q列の要素を相関係数rpqとした、k×k個の相関係数行列Rが構築される。なお、この相関係数行列Rの内容を、次式に示す。
【数3】

【0096】
このような相関係数算出工程が終わると、次に、行列変換工程が実施される。この行列変換工程により、上記数3で示した相関係数行列Rが、次式で示される逆行列A(R−1)に変換される。
【数4】

【0097】
異常判定装置600は、表1に示した組情報群たる取得データテーブルを構築する組情報群構築処理を行った後、異常判定処理を実施するのに先立って、以上のような情報正規化工程、相関係数算出工程、行列変換工程という一連のプロセスによって逆行列Aを構築する。そして、この逆行列Aを情報記憶手段に記憶する。
【0098】
逆行列Aを構築すると、複写機内の異常の有無を判定する異常判定処理を実行する。この異常判定処理では、プリントジョブ毎に、情報取得手段によって定期的に取得した各種の情報の全て又は一部の組合せからなる組情報について、逆行列Aによる多次元空間内におけるマハラノビスの距離(以下、マハラノビス距離という)Dを、次式に基づいて算出する。
【数5】

【0099】
図11は、組情報群構築処理から行列変換工程までの一連のプロセスを示すフローチャートである。同図において、まず、複写機の状態と関連があるk個の情報が、複写機からn組取得される(ステップ1−1:以下、ステップをSと記す)。次に、情報の種類(j)毎に、上記数1の関係式に基づいた平均値と標準偏差σとが算出され、算出結果に基づいて正規化データテーブルが構築される(S1−2)。そして、正規化データテーブルに基づいて相関係数行列Rが構築された後(S1−3)、逆行列Aに変換される(S1−4)。
【0100】
図12は、逆行列Aと各種取得データとに基づいてマハラノビス距離Dを算出する手順を示すフローチャートである。この手順では、まず、任意の状態でのk種類のデータx1,x2,・・・,xkが取得される(S2−1)。データの種類はy11,y12,・・・,y1kなどに対応する。次に、上記数1の関係式に基づいて、それぞれの取得データがX1,X2,・・・,Xkといった具合に規格化される。そして、すでに構築されている逆行列Aの要素akkを用いて決められた上記数5の関係式により、マハラノビス距離Dの二乗が算出される。図中の「Σ」は、添字pおよびqに関する総和を表している。
【0101】
異常判定装置600は、このようにして求めたマハラノビス距離Dを、予め設定した閾値と比較する。そして、マハラノビス距離Dが閾値よりも大きい場合には、取得された組情報について正常分布から大きくずれている異常データであると判定して、操作表示部に故障発生注意情報を表示する。
【0102】
図13は、マハラノビス距離Dを、最も簡単なXとYの2変量の空間で説明するための模式図である。変数Xと変数Yの間に相関がある場合、その正常値の分布は標準偏差の楕円によって図のような等高線で示される。そして、マハラノビス距離Dは、分布上のデータに対しては小さな値を、A点のように分布から外れたデータに対しては大きな値を、その方向の標準偏差を尺度にして示す。つまり、図14に示すように、組情報群内の正常データの数が増えるにつれて、小さな値をしめすようになる。
【0103】
情報記憶手段に正常組データ群として機能する逆行列Aを記憶させておく例について説明したが、逆行列Aの代わりに、次のような組情報群を記憶させておいてもよい。即ち、組情報群構築処理で構築した上記取得データテーブルや、逆行列構築工程の途中で得られる上記正規化データテーブル、上記相関係数行列Rなどである。逆行列Aの代わりにこれら正常組データ群の何れかを記憶させた場合には、異常の判定に先立って、そのデータに基づいて逆行列Aを構築させればよい。
【0104】
かかる構成の異常判定装置500によれば、各種情報の全て又は一部の組合せからなる組情報の取得結果についての異常をMTS法によって判定することで、様々な種類の異常を広範囲に渡って発見することができる。また、個々の異常について、その原因の有無をそれぞれ監視する必要がないため、かかる監視による制御の煩雑化を回避することができる。また、出荷に先立って被検対象となる複写機を工場で試運転しなくても、出荷先において正常な状態の被検対象となる複写機から正常データ群を取得した後、異常の有無を判定することができる。しかも、判定に用いる正常データ群として、標準機から取得したものではなく、被検対象となる複写機自体から取得したものを用いることができる。よって、出荷に先立って製品毎に正常データ群を取得することによるコスト高と、標準機から取得した正常データ群を個々の製品に採用することによる判定精度の低下との両方を回避することができる。
【0105】
図15は、特定の製品を稼動させたときの時間と故障発生率との関係を示すグラフである。このグラフで示される曲線は一般にBath-tub曲線と呼ばれている。製品完成後からある期間は、製造工程での不良部品混入や調整不良といった原因によって確率的に故障し易い状態にあって(初期故障期間)、これらの不良項目を抽出処置することが、判定精度を高める上で有効である。市場の全製品を対象として捉えた場合、不良項目の無い製品の中に不良項目を含む製品が混入した状態となるため、製品の状態情報としては、全データを取得すると異常状態の情報をやや多く含んでいることになる。初期故障期間を過ぎると安定な故障発生率を示す偶発故障期間となる。一般的な信頼性を比較する尺度としての故障発生率は偶発故障期間についてのものである。更に稼動を続けると、部品の摩耗や劣化が進行する。そして、故障発生率が増加する摩耗故障期間に移る。異常の有無の判定は、この摩耗故障期に移る時期を察知して早めに対処することによって、故障発生率を低い状態に維持することが狙いである。
【0106】
図16は、初期故障期間と偶発故障期間における故障発生度数(対寿命期間)の分布を示すグラフである。図示のように、両期間においては、故障発生の分布が右肩下がり(指数分布)となる。
【0107】
図17は、摩耗故障期間における故障発生度数(対寿命期間)の分布を示すグラフである。図示のように、摩耗故障期間においては、故障発生の分布が正規分布となる。この正規分布内の平均値が平均寿命時間となる。図示の分布の幅が狭ければ、稼動時間を監視することでおおまかな故障発生時期を判断することができる。このため、異常の有無を判定する必要性は低い。但し、分布の幅が広ければ、稼動時間以外の多くの要因によって故障が発生することになるので、判定の必要性が高まる。電子写真方式などを用いた画像形成装置は、故障発生要因が多岐に渡り極めて多くの要因が複雑に関連しているため、摩耗故障期間における異常の有無の判定は、必要性が高くなる。
【0108】
次に、本発明を適用した第2実施形態の異常判定装置について説明する。なお、以下に特筆しない限り、本第2実施形態に係る異常判定装置の構成は、第1実施形態と同様である。
【0109】
本第2実施形態に係る異常判定装置は、上述の保守点検フラグではなく、点検時異常無しフラグがセットされている場合に、特別な処理を行う。この点検時異常無しフラグとは、サービスマン等が点検したときに、被検対象に異常が認められなかった場合に、サービスマン等の入力に基づいてセットされるものである。特別な処理の内容は次の通りである。即ち、初期運転期間が経過すると、異常判定装置は、複写機から取得された組情報と、情報記憶手段に記憶されている組情報群(正常データ群)とに基づいて異常の有無を判定しながら、その組情報を取得日時とともに情報記憶手段に記憶していく。つまり、取得された組情報については、組情報群に組み込まずに、それぞれ単独で取得日時とともに記憶しておくのである。そして、上述の点検時異常無しフラグがセットされると(サービスマン等によって正常な状態であると判断されると)、それまで組情報群に組み込まずにいた組情報を、組情報群内に追加して記憶する。
【0110】
かかる構成の本異常判定装置においては、初期運転期間中に加えて、その後から保守点検完了までの期間中にも被検対象たる複写機から正常データとして機能し得る組情報を取得する。そして、このことにより、異常の有無の判定精度を高めていくことができる。
【0111】
次に、第1実施形態又は第2実施形態の異常判定装置に、より特徴的な構成を付加した各実施例の異常判定装置について説明する。
[第1実施例]
本第1実施例に係る異常判定装置は、情報入力手段として機能し得る操作表示部や外部データ入力ポートなどから、組情報を取得できるように構成されている。そして、入力された組情報を、情報記憶手段に記憶している組情報群(正常データ群)の一部として、追加で記憶するようになっている。かかる構成においては、本異常判定装置を搭載した被検対象の複写機から取得された組情報だけでなく、同じ規格の他の複写機製品から取得された組情報も、組情報群に組み入れることで、より多くの正常データをより早く取得して、判定精度を高めていくことができる。
【0112】
[第2実施例]
複写機などの画像形成装置においては、初期運転期間中、補記運転期間経過後〜保守点検完了、保守点検完了後〜所定期間経過まで、という組情報群が構築され得る期間中に、何らかの理由により、突発的な異常をきたすことがある。例えば、ユーザーが複写機本体にセットする補充用のトナーを収容するトナー収容器の買い置きを忘れていた場合に、複写機本体がトナー濃度不足の警告を発しても、ユーザーが画像濃度不足をきたすことを承知の上で、無理にプリントアウトを実施する場合がある。このような場合には、トナーが補充されるまでの間、一時的に画像濃度不足という異常をきたすことになる。また例えば、複写機が一時的に斜めに傾いた状態で使用されたり、折り目やしわのついた転写紙が使用されたりした場合、一時的にジャムなどの異常が発生しやすくなる。このような異常な状態で取得された組情報は、正常データ群の構成要素としてはふさわしくない。
【0113】
図18は、ユーザーの目に見える異常が発生するまでにおける組情報の正常さ加減の変化を示すグラフである。同図においては、Y軸方向の値が大きくなるほど、正常さ加減が悪化することを示している。また、符号P1は、目に見える異常が発生する原因が発生した時点を示している。トナー不足であるにもかかわらず強制的なプリントを初めた時点、折り癖やしわのある転写紙を発生し初めた時点などである。原因が発生した時点では、複写機全体としての正常さ加減は比較的良好である。そして、その後、プリントジョブが行われるにつれて、徐々に正常さ加減が悪化してくる。但し、この悪化は、突発的な原因によるもので、その原因が取り除かれたら、複写機は再び正常な状態を取り戻す。図中の一点鎖線は、取得された組情報を正常なデータとして扱っても差し障りない状態と、差し障りのある状態との境界を示している。目に見える異常が発生した時点では、既に後者の状態になっており、且つ、それから遡って一定期間内でも後者の状態になっている。目に見える程度の異常な状態になった場合には、情報取得手段によって取得される複数種類の情報のいくつかが、明らかに正常値から大きくはずれた値を示すことが多い。例えば、極めて高頻度にジャムが発生したり、トナー濃度が極めて低下したりといった具合である。
【0114】
そこで、本異常判定装置は、情報取得手段によって取得された複数種類の情報のうちの少なくとも1つが、所定の閾値を上回った場合、又は下回った場合には、次のような処理を実行するようになっている。即ち、その1つの情報が取得された時点から遡った一定期間内に記憶された組情報を上記取得データテーブルから除外する処理である。具体的には、被検対象となる複写機では、取得データテーブル内に記憶する各組情報に対応させて、それらの取得日時を情報記憶手段に記憶している。そして、ある情報が所定の閾値を上回った場合に、その情報が取得された時点から例えば1週間以内に取得された組情報を、取得データテーブルから削除する。より詳しくは、例えば、情報としてのジャム発生について、所定の閾値としての発生頻度閾値を上回った場合に、その時点から遡って一定期間内に取得されていた組情報を取得データテーブルから削除する。また例えば、情報としてのトナー濃度について、所定の閾値としての所定濃度を下回った場合に、その時点から遡って一定期間内に取得されていた組情報を取得データテーブルから削除する。
【0115】
かかる構成の被検対象となる複写機では、組情報構築処理を実施する期間中に、一時的な異常が発生した場合に、正常データとして適さなくなった組情報を組情報群から除外することで、それを組情報群に含めることによる判定精度の低下を回避することができる。
【0116】
[第3実施例]
本第3実施例に係る異常判定装置では、目に見える異常が発生したことを情報取得手段による取得情報の少なくとも1つに基づいて判断する代わりに、ユーザーによって判断してもらうようになっている。具体的には、操作表示部等の情報入力手段に対して、ユーザーが異常発生情報を入力することができるようになっている。これによって異常発生情報が入力された場合には、第2実施例と同様にして、その時点から遡って一定期間内に記憶されていた組情報を、取得データテーブルから削除する。
【0117】
[第4実施例]
第1実施形態や第2実施形態に係る異常判定装置では、初期運転期間中、補記運転期間経過後〜保守点検完了、保守点検完了後〜所定期間経過まで、という組情報群が構築され得る期間中には、異常の有無の判定を行わなかった。これに対し、本第4実施例に係る異常判定装置では、これらの期間中にも、情報記憶手段に記憶している組情報群と、情報取得手段によって取得した組情報とに基づいて、マハラノビス距離Dを求めて、複写機の異常の有無を判定するようになっている。但し、上述したように、これらの期間中には、十分量の正常データを組情報群に組み込んでいない可能性が高いため、複写機が正常であっても、マハラノビス距離Dが比較的大きな値を示して、異常ありと判定されてしまう可能性がある。そこで、本異常判定装置においては、これらの期間中において、異常有りと判定した場合には、その旨を報知手段たる操作表示部での表示によってユーザーに報知する。この報知に基づいてユーザーあるいはサービスマンは、複写機の状態を点検する。そして、点検の後、異常無し又は有りを示す異常正否情報を情報入力手段に入力する。例えば、点検の結果、異常無しと認められた場合だけ、「異常がなかった」旨の情報を入力する場合には、それが異常正否情報となる。異常判定装置は、この異常正否情報に基づいて、複写機が正常であったにもかかわらず異常ありと判定したことがわかった場合には、異常有りと判定したときに用いた組情報を、組情報群の一部として記憶する。また、異常であった複写機に対して異常有りと判定したことがわかった場合には、異常有りと判定したときに用いた組情報を、組情報群の一部として記憶するのを中止する。
【0118】
以上の構成の本複写機においては、組情報群(正常データ群)に組情報(正常データ)を補足して異常の判定精度を高めている期間中にも、複写機の異常の有無を判定することができる。しかも、組情報群内の正常データが不足していることに起因して誤判定が生じた場合でも、その誤判定を修正することができる。
【0119】
[第5実施例]
本第5実施例の異常判定装置も、初期運転期間中、補記運転期間経過後〜保守点検完了、保守点検完了後〜所定期間経過まで、の何れかにおいて、異常の有無を判定するようになっている。
【0120】
図19は、特定の製品(例えば複写機)が発売されてから販売終了するまでの市場における稼働台数の推移を示すグラフである。発売当初は、一般に新製品効果によって稼働台数(販売台数)が増加するが、やがて鈍化する。販売促進策の効果でやや増加する時期を経て、販売終了後、次製品への置き換えが進行するにつれて台数は減少に転じる。
【0121】
正常データとして取得し得る組情報の量が圧倒的に不足する製品発売当初は、組情報の分布のバラツキが小さい。出荷先で取得された組情報を正常データ群として機能し得る組情報群に追加していくと、その分布が徐々に広がりを見せ始める。このため、図14に示したように、A点(図13参照)という絶対位置にある組情報に対して、マハラノビス距離Dは、正常データ群の分布が小さい製品発売当初では大きな値を示す。そして、販売開始からの時間経過に伴って、より多くの組情報が組情報群(正常データ群)に組み込まれるにつれて、正常データ群の分布が大きくなる。これにより、マハラノビス距離Dは、A点という絶対位置にある組情報に対して、発売当初よりも小さな値を示すことになる。これでは、製品発売当初において予測検出をしようとしても、正常データに対しても異常判定を繰り返すことになってしまい、正確な異常の判定を行うことができない。
【0122】
本第5実施例に係る複写機においては、異常の有無を判定する際にマハラノビス距離Dと対比する閾値を、組情報群内の組情報数の増加に伴って変化させるようになっている。具体的には、判定基準たる閾値を、運転開始(又は販売開始)初期には比較的大きな値とし、その後、組情報数の増加に伴って徐々に小さくしていくのである。小さくしていく割合については、判定精度に応じて調整することが可能である。
【0123】
以上の構成の本異常判定装置においても、組情報群(正常データ群)に組情報(正常データ)を補足して異常の判定精度を高めている期間中にも、複写機の異常の有無を判定することができる。しかも、組情報群内の正常データが不足していることに起因して誤判定が生じた場合でも、その誤判定を修正することができる。
【0124】
ごく初期において、上述のように閾値を調整しても不十分ということがあり得る。この場合は、判定精度が許容レベルに達するまで異常の有無の判定を行わせないようにするとよい。
【0125】
[第6実施例]
本第6実施例に係る複写機は、ユーザーからの命令に応じて、所定の条件で基準画像をプリントアウトする試運転を実施するようになっている。この試運転によって出力される基準画像は、ユーザーにとっては必要のないものであるが、より多くの条件で運転される複写機から正常データを取得したい異常判定装置にとっては、判定精度を高める上で非常に有効になる。ユーザーが様々な条件で試運転を行うほど、より多くの作動条件で正常データを取得することができるからである。但し、ユーザーが試運転をあまり行わなければ、その効果を得ることができなくなる。
【0126】
そこで、本異常判定装置においては、試運転の累積回数を計数する試運転回数計数手段を設けている。本異常判定装置の一部として機能する複写機のメイン制御部は、試運転キーがユーザーに押下されるなどした場合に、試運転を行うとともに、試運転の累積回数を計数していく。本異常判定装置の試運転検知手段や試運転回数計数手段として機能するのである。
【0127】
試運転の累積回数を計数すると、その計数結果に応じて、ユーザーに対して様々な特典を付与することが可能となる。例えば、累積回数が増加するほど、複写機のメンテナンス契約料金を割り引きしたり、リース契約の複写機であればその分だけプリントアウトを無料で行ったりするといった特典である。これにより、試運転の実行をユーザーに促して、多くの条件下で正常データ群を取得することが可能である。
【0128】
[第7実施例]
本第7実施例に係る異常判定装置は、第4実施例又は第5実施例に係る異常判定装置の構成と、第6実施例に係る異常判定装置の構成とを兼ね備えている。
図20は、本第7実施例に係る異常判定装置の一部として機能する複写機の操作表示部の表示画面を示す模式図である。
【0129】
本異常判定装置は、ユーザーからの試運転命令を検知すると、まず、操作表示部に「プリンタの状態を調べるため、標準画像を出力します。OKキーを押して下さい。」というメッセージを表示させる。これにより、これからテストプリントが行われることをユーザーに報知する。次いで、テストプリントが終了すると、「標準画像に問題がなければOKキーを、問題があればNGキーを押して下さい。」というメッセージを表示させる。このとき、OKキーやNGキーに対する押下操作情報は、異常正否情報として機能する。異常判定装置は、この結果に応じて、試運転(テストプリント)時に取得した組情報を組情報群に組み入れるか否かを判断する。あるいは、マハラノビス距離Dと比較する閾値を補正する。このようにして判定精度を高めた後、試運転の累積回数を計数する。そして、計数結果に応じて、ユーザーに特典を付与する。同図においては、特典として、無償のプリントアウトを100枚分だけ提供する場合の画面表示例を示している。無償分のプリントアウトが終了するまでは、図示のように、無償サービスがあと何枚分残っているかを表示する。
【0130】
[第8実施例]
本第8実施例に係る異常判定装置は、第2実施例に係る異常判定装置の構成と、第6実施例に係る異常判定装置の構成とを兼ね備えている。
図21は、本第8実施例に係る異常判定装置の一部として機能する複写機の操作表示部の表示画面を示す模式図である。
【0131】
同図において、メッセージ表示によって、これからテストプリントが行われることをユーザーに報知するまでは、第7実施例と同様である。この後、テストプリントが終了すると、「出力された標準画像をスキャナにセットして下さい。OKキーを押すと読み込みます。」というメッセージを表示させる。そして、情報取得手段たるスキャナによってテストプリント画像が読み込まれると、その画像情報について、所定の閾値(マハラノビス距離Dと対比する閾値ではない)を上回っているか否かを判断する。そして、上回っている場合には、そのときに取得した組情報を、組情報群に組み入れるのを中止したり、そのときから遡った所定期間内に記憶された組情報を組情報群から削除したりする。
【0132】
なお、テストプリント画像の読取情報である画像情報から求められる様々なパラメータを組情報に組み入れることにより、様々な異常を検出することが可能になる。例えば、互いに連続しない孤立状態にある複数のドットから構成される画像をテストプリント画像とした場合を例にすると、各ドットの中心距離の累積加算値(累積ピッチ)を主走査方向と副走査方向について算出した結果は、組情報の中の情報の1つとして用いることができる。感光体や現像スリーブに回転ムラがない場合、各ドットはおおむね等間隔で形成される。このため、各ドットの中心距離の累積加算値と、ドット数との関係を示すグラフは直線状になる。ところが、回転ムラがあると、同グラフは図22に示すような起伏のあるグラフとなる。また、標準画像における画像面積率や画像濃度の変動を算出することにより、画像濃度ムラなどを検出することが可能になる。また、各ドットの面積率の分布を算出することにより、感光体に発生したピンホールなどの欠陥が検出できる。
【0133】
[第9実施例]
本第9実施例に係る異常判定装置は、組情報追加記憶処理たる組情報構築処理を実施する初期運転期間、補記運転期間経過後〜保守点検完了、保守点検完了後〜所定期間経過、という期間の終了を次のようにして決定するようになっている。即ち、上述の情報入力手段たる操作表示部には、これらの期間中に行った異常の有無の判定について誤判定があったことを示す誤判定情報を入力することができるようになっている。この誤判定情報の単位時間あたりにおける入力回数(以下、誤判定発生率という)が所定値を下回ると、これらの期間を終了するのである。
【0134】
図23は、初期運転開始から所定期間が経過するまでにおける誤判定発生率と経過時間との関係を示すグラフである。運転開始して間もなくは、上述したように、十分量の正常データが組情報群に組み入れられていないことから、異常なしにもかかわらず異常ありと判定したり、この逆の判定をしたりといった誤判定が多く発生する。この誤判定は、ユーザー自らが発見したり、サービスマンが発見したりする。例えば、異常ありの報知に基づいてサービスマンが現地に駆けつけてものの、複写機に異常が認められなかった場合には、サービスマンが発見することになる。異常ありの報知がなかったにもかかわらず、故障が発生した場合には、ユーザーが誤判定を発見することも可能である。
【0135】
組情報群内の正常データ量が充実してくるに従って、図示のように誤判定率は徐々に低くなっていく。この低下傾向はしばらく続くが、やがて、ある一定の値で落ち着くようになる。このようになった段階で、正常データの分布の偏りがほぼ完全に修正されて、判定精度が飽和まで高まる。これ以降は、いくら組情報群内の正常データを増加させても、それらの分布は既に記憶されている正常データの範囲内にあるので、判定精度は高まらない。
【0136】
図24は、異常判定に必要なコストと、組情報群内のデータ量との関係を示すグラフである。図示のように、組情報群内のデータ量が増えるにつれて、必要コストが増加する。このため、不要な正常データまで取り入れ続けると、無駄なコストがかかってしまう。
【0137】
そこで、本異常判定装置は、誤判定発生率が所定値を下回ると、即ち、判定精度がある程度まで高まると、組情報構築処理を実施する期間を終了して、不要な正常データの取り入れを回避するようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】被検対象となる複写機を示す概略構成図。
【図2】同複写機のプリンタ部を示す概略構成図。
【図3】同複写機のタンデム部を示す部分拡大図。
【図4】第1実施形態に係る異常判定装置の電気回路の一部を示すブロック図。
【図5】同異常判定装置を同複写機に搭載した例を示すブロック図。
【図6】同複写機にパーソナルコンピュータが接続されている例を示すブロック図。
【図7】同異常判定装置を、同複写機の設置現場から遠く離れた遠隔地に配設した例を示すブロック図。
【図8】ネットワークを介して複数のパーソナルコンピュータに接続された複数の複写機に対して、通信回線を介して同異常判定装置を接続した例を示すブロック図。
【図9】同異常判定装置によって実施されるデータ処理の概要を示すフローチャート。
【図10】同異常判定装置によって実施される保守点検フラグ確認処理の制御フローを示すフローチャート。
【図11】組情報群構築処理から行列変換工程までの一連のプロセスを示すフローチャート。
【図12】逆行列Aと各種取得データとに基づいてマハラノビス距離Dを算出する手順を示すフローチャート。
【図13】マハラノビス距離Dを、最も簡単なXとYの2変量の空間で説明するための模式図。
【図14】特定の組情報についてのマハラノビス距離Dと、組情報群内の正常データの数との関係を示すグラフ。
【図15】特定の製品を稼動させたときの時間と故障発生率との関係を示すグラフ。
【図16】初期故障期間と偶発故障期間における故障発生度数(対寿命期間)の分布を示すグラフ。
【図17】摩耗故障期間における故障発生度数(対寿命期間)の分布を示すグラフ。
【図18】ユーザーの目に見える異常が発生するまでにおける組情報の正常さ加減の変化を示すグラフ。
【図19】特定の製品(例えば複写機)が発売されてから販売終了するまでの市場における稼働台数の推移を示すグラフ。
【図20】第7実施例に係る異常判定装置の一部として機能する複写機の操作表示部の表示画面を示す模式図。
【図21】第8実施例に係る異常判定装置の一部として機能する複写機の操作表示部の表示画面を示す模式図。
【図22】テストプリント画像と、これの読取結果に基づいて得られる各数値の特性とを示す模式図。
【図23】初期運転開始から所定期間が経過するまでにおける誤判定発生率と経過時間との関係を示すグラフ。
【図24】異常判定に必要なコストと、組情報群内のデータ量との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0139】
600 異常判定装置
601 情報取得手段
602 情報記憶手段
603 判定手段
604 情報入力手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検対象についての互いに異なる複数種類の情報を取得する情報取得手段と、それら複数種類の情報の組み合わせである組情報の集合からなる組情報群を記憶する情報記憶手段と、少なくとも、該情報記憶手段に記憶されている該組情報群、及び該情報取得手段による取得情報に基づいて、該被検対象の異常の有無を判定する判定手段とを備える異常判定装置において、
工場出荷後の上記被検対象が使用され始めてから所定の期間が経過するまでの初期運転期間を検知する初期運転期間検知手段と、
該被検対象についての保守点検完了情報を入力する情報入力手段とを設け、
該初期運転期間中に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に記憶させる処理を実施させ、
且つ、該初期運転期間の経過後には、上記情報入力手段への上記保守点検完了情報の入力に基づいて、該保守点検完了情報の入力後の所定期間だけ、該所定期間内に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に追加で記憶する処理を実施させるようにしたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項2】
被検対象についての互いに異なる複数種類の情報を取得する情報取得手段と、それら複数種類の情報の組み合わせである組情報の集合からなる組情報群を記憶する情報記憶手段と、少なくとも、該情報記憶手段に記憶されている該組情報群、及び該情報取得手段による取得情報に基づいて、該被検対象の異常の有無を判定する判定手段とを備える異常判定装置において、
工場出荷後の上記被検対象が使用され始めてから所定の期間が経過するまでの初期運転期間を検知する初期運転期間検知手段と、
該被検対象についての点検時異常無し情報を入力する情報入力手段とを設け、
該初期運転期間中に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に記憶させる処理を実行させ、
且つ、該初期運転期間の経過後には、該初期運転期間の経過後に上記情報取得手段によって取得された上記組情報を上記組情報群とは別に上記情報記憶手段に記憶させておき、上記情報入力手段への上記点検時異常無し情報の入力があった場合には、該初期運転期間の経過後から該点検時異常無し情報の入力時までに該組情報群とは別に記憶させておいた組情報を上記組情報群の一部として追加で記憶させるようにしたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項3】
請求項1又は2の異常判定装置において、
上記情報入力手段に対して入力した上記組情報を上記組情報群の一部として上記情報記憶手段に追加で記憶させるようにしたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3の異常判定装置において、
上記情報取得手段によって取得された上記複数種類の情報のうちの少なくとも1つが所定の閾値を上回った場合、又は下回った場合に、そのときに取得された上記組情報を上記組情報群の一部として記憶するのを中止させるようにしたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項5】
請求項4の異常判定装置において、
上記複数種類の情報のうちの少なくとも1つが所定の閾値を上回った場合、又は下回った場合に、そのときから遡った所定期間内に記憶された上記組情報についても、上記組情報群の一部として記憶するのを中止させるようにしたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項6】
請求項1、2又は3の異常判定装置において、
上記情報入力手段に対して異常発生情報を入力した場合に、該異常発生情報の入力時から遡った所定期間内に記憶された上記組情報を上記組情報群から除外する処理を実行させるようにしたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れかの異常判定装置において、
上記初期運転期間、又は上記組情報追加記憶処理を実施する期間にて、上記情報記憶手段に記憶している上記組情報群と、該情報取得手段によって取得した上記組情報とに基づいて上記被検対象の異常の有無を上記判定手段に判定させ、異常有りの場合にはその旨を報知手段によって報知させ、且つ、その後に上記情報入力手段に入力した異常正否情報に基づいて、該組情報を該組情報群の一部として記憶するか否かを決定させるようにしたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項8】
請求項7の異常判定装置において、
上記組情報群内の組情報数の増加に伴って、上記異常の有無の判定基準を変化させるようにしたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかの異常判定装置において、
上記被検対象が所定の条件下で試運転されていることを検知する試運転検知手段と、その試運転の累積回数を計数する試運転回数計数手段とを設けたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項10】
請求項7又は8の異常判定装置において、
上記初期運転期間、又は上記組情報追加記憶処理を実施する期間にて行われた上記異常の有無の判定について誤判定があったことを示す誤判定情報の上記情報入力手段に対する単位時間あたりの入力回数に基づいて、上記初期運転期間、又は上記組情報追加記憶処理を実施する期間の終了タイミングを決定させるようにしたことを特徴とする異常判定装置。
【請求項11】
記録体に画像を形成する画像形成手段と、異常の有無を判定する異常判定手段とを備える画像形成装置において、
上記異常判定手段として、請求項1乃至10の何れかの異常判定装置を用いたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2006−201317(P2006−201317A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−10993(P2005−10993)
【出願日】平成17年1月18日(2005.1.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】