説明

異常監視装置

【課題】対象信号の特徴量が時間の経過に伴って変化する機器に用いても正常・異常について誤判定を生じない異常監視装置を提供する。
【解決手段】機器Xから生じる音および振動をセンサ部2で検出し、センサ部2から出力される対象信号から特徴抽出部3において特徴量を抽出する。2台のニューラルネット1a,1bには、特徴抽出部3で抽出した特徴量が入力される。一方のニューラルネット1a,1bは検査モードで動作し、特徴量のカテゴリを分類する。他方のニューラルネット1a,1bは学習モードで動作し、特徴量を学習データに用いて学習する。切換判定部4は、検査モードで動作するニューラルネット1a,1bについて判定結果の信頼性を評価し、判定結果の信頼性が低下すると、両ニューラルネット1a,1bの動作の入れ替えを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器の動作により生じる対象信号から抽出した特徴量をニューラルネットワークによって分類することにより、機器が正常に動作しているか否かを判定する異常監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニューラルネットワーク(ニューロコンピュータ)の分類機能を利用することにより、機器が正常に動作しているか機器に異常が生じているかを判定する異常監視装置が提案されている。この種の異常監視装置では、機器の動作音や機器の振動をセンサ(トランスデューサ)により電気信号に変換して対象信号に用い、対象信号について複数個のパラメータからなる特徴量を抽出し、この特徴量をニューラルネットワークで分類する技術が種々提案されている。
【0003】
ニューラルネットワークには種々の構成が知られている。たとえば、競合学習型ニューラルネットワーク(自己組織化マップ=SOM)を用いて特徴量のカテゴリを分類することが提案されている。競合学習型ニューラルネットワークは、入力層と出力層との2層からなるニューラルネットワークであり、学習モードと検査モードとの2動作を行う。
【0004】
学習モードでは、教師信号を用いずに学習データを与える。学習データにカテゴリを与えておけば、出力層のニューロンにカテゴリを対応付けることができ、同種のカテゴリに属するニューロンからなるクラスタを形成することができる。したがって、学習モードでは、出力層のニューロンのクラスタにカテゴリを示すクラスタリングマップを対応付けることができる。
【0005】
検査モードでは、分類しようとする特徴量(入力データ)を学習済みの競合学習型ニューラルネットワークに与え、クラスタリングマップにおいて発火したニューロンが属するクラスタのカテゴリをクラスタリングマップに照合することによって、入力データのカテゴリを分類することができる(たとえば、特許文献1参照)。
【0006】
なお、機器の異常に対応した学習データは、機器が異常な動作をするときにしか得られないものであるから、収集に時間がかかるという問題がある。したがって、機器の正常時の特徴量を学習データに用いることによって、クラスタリングマップにおいて正常というカテゴリのみを生成し、正常のカテゴリから逸脱するときに異常と判定することが提案されている。
【特許文献1】特開2004−354111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、空調機器のような機器では夏季と冬季とで動作が異なる。つまり、動作が正常であっても、夏季と冬季とでは対象信号に大きな変化が生じる。この種の機器では、クラスタリングマップにカテゴリを割り当てる際に、夏季に学習した場合と冬季に学習した場合とではクラスタの位置に大きな差が生じ、夏季に生成したクラスタリングマップを冬季に使用すると誤判定が生じる。
【0008】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、対象信号の特徴量が時間の経過に伴って変化する機器に用いても正常・異常について誤判定を生じない異常監視装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、機器の動作により生じる対象信号を取り込む信号入力部と、対象信号について複数のパラメータからなる特徴量を抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部により抽出した特徴量を学習データに用いて学習する学習モードと学習モードでの学習結果に基づいて前記特徴量を機器の動作が正常であるかそれ以外かに分類する検査モードとを切替可能な2台の競合学習型ニューラルネットワークと、各競合学習型ニューラルネットワークによる分類結果を出力する出力部と、各競合学習型ニューラルネットワークを学習モードと検査モードとのどちらで動作させるかを選択しかつ互いに他の動作をさせるモード切換部と、検査モードで動作する競合学習型ニューラルネットワークによる判定結果の信頼性を評価する判定評価値を求め判定結果の信頼性が低下し評価判定値が評価基準を満たさなくなると当該競合学習型ニューラルネットワークを学習モードで動作させ他方の競合学習型ニューラルネットワークを検査モードで動作させるようにモード切換部に指示する切換判定部とを備えることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、2台の競合学習型ニューラルネットワークを用い、機器の動作中に得られる特徴量を用いて一方の競合学習型ニューラルネットワークにより機器が正常に動作しているか否かを判定している間に、同じ特徴量を用いて他方の競合学習型ニューラルネットワークの学習を行い、機器の動作の時間変化によって一方の競合学習型ニューラルネットワークでは判定結果の信頼性が低下したときに、学習を行っていた他方の競合学習型ニューラルネットワークを用いて判定を行うように、各競合学習型ニューラルネットワークの動作を切り換えるので、機器の動作が時間変化したことで異常ではないにもかかわらず一方の競合学習型ニューラルネットワークにおいて正常の判定ができなくなったときには、他方の競合学習型ニューラルネットワークで正常の判定を行うことができる。つまり、機器の動作の時間変化に追従してつねに適正な分類が可能になる。
【0011】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、前記切換判定部は、検査モードで動作している前記競合学習型ニューラルネットワークにおいて判定結果が正常であってかつ判定基準を満たしているときの特徴量のみを、学習モードで動作している競合学習型ニューラルネットワークの学習データに用いることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、学習モードで動作している競合学習型ニューラルネットワークに与える学習データを、検査モードで動作している競合学習型ニューラルネットワークでの判定結果を考慮して選択するから、不適切な学習データによる学習の可能性を低減することができ、学習モードから検査モードに切り換えたときの判定結果の信頼性を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構成によれば、2台の競合学習型ニューラルネットワークを用いるとともに、一方を検査モードで動作させ他方を学習モードで動作させることによって、機器の動作の時間変化に追従した適正な判定が可能になるという利点がある。すなわち、対象信号の特徴量が時間の経過に伴って変化する機器に用いても正常・異常について誤判定を生じることがないという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に説明する実施形態は、機器の動作によって得られる対象信号の特徴量の時間変化が比較的緩やかである場合に適用される。ここでの緩やかの意味は、瞬時的な変化ではないという意味であり、時間変化の単位についてはとくに問わない。したがって、時間変化は1日を単位とする変化であってもよく、1週間、1ヶ月、季節、1年などを単位とする変化であってもよい。また、機器としては空調機器(エアコン)を想定するが、機器の種類はとくに問わない。
【0015】
本実施形態で説明する異常監視装置は、図1に示すように、教師なしの競合学習型ニューラルネットワーク(以下、単に「ニューラルネット」と呼ぶ)1a,1bを2台用いている。各ニューラルネット1a,1bは、図2に示すように、それぞれ入力層11と出力層12との2層からなり、出力層12の各ニューロンN2が入力層11のすべてのニューロンN1とそれぞれ結合された構成を有している。ニューラルネット1a,1bは、逐次処理型のコンピュータで適宜のアプリケーションプログラムを実行することにより実現する場合を想定しているが、専用のニューロコンピュータを用いることも可能である。
【0016】
各ニューラルネット1a,1bの動作には、従来の技術として説明したようように、学習モードと検査モードとがあり、学習モードにおいて適宜の学習データを用いて学習した後に、検査モードにおいて実際の対象信号から生成した特徴量(入力データ)のカテゴリを分類する。
【0017】
すなわち、入力層11のニューロンN1と出力層12のニューロンN2との結合度(重み係数)は可変であり、学習モードにおいて、学習データをニューラルネット1a,1bに入力することによりニューラルネット1a,1bを学習させ、入力層11の各ニューロンN1と出力層12の各ニューロンN2との重み係数を決める。言い換えると、出力層12の各ニューロンN2には、入力層11の各ニューロンN1との間の重み係数を要素とする重みベクトルが対応付けられる。したがって、重みベクトルは入力層11のニューロンN1と同数の要素を持ち、入力層11に入力される特徴量のパラメータの個数と重みベクトルの要素の個数とは一致する。
【0018】
一方、検査モードでは、カテゴリを判定すべき入力データをニューラルネット1a,1bの入力層11に与えると、出力層12のニューロンN2のうち、重みベクトルと入力データとのユークリッド距離が最小であるニューロンN2が発火する。学習モードにおいて出力層12のニューロンN2にカテゴリが対応付けられていれば、発火したニューロンN2の位置のカテゴリによって入力データのカテゴリを知ることができる。
【0019】
出力層12のニューロンN2には、たとえば6×6個の領域を有する2次元のクラスタリングマップ13a,13bの各領域に一対一に対応付けられている。したがって、学習モードにおいて、クラスタリングマップ13a,13bの各領域に学習データのカテゴリを対応付けておけば、入力データにより発火したニューロンN2に対応するカテゴリをクラスタリングマップ13a,13bにより知ることができるから、クラスタリングマップ13a,13bはニューラルネット1a,1bによる分類結果を出力する出力部として機能する。
【0020】
クラスタリングマップ13a,13bの各領域(実質的には出力層12の各ニューロンN2)にカテゴリを対応付けるに際しては、学習済みのニューラルネット1a,1bを出力層12から入力層11に向かって逆向きに動作させて出力層12の各ニューロンN2ごとに入力層11に与えたデータを推定し、推定したデータとのユークリッド距離がもっとも近い学習データのカテゴリを、出力層12における当該ニューロンN2のカテゴリに用いる。
【0021】
言い換えると、出力層12の各ニューロンN2のカテゴリには、各ニューロンN2の重みベクトルとのユークリッド距離が最小である学習データのカテゴリを用いる。これにより、出力層12の各ニューロンN2のカテゴリには、学習データのカテゴリが反映される。また、多数個(たとえば、150個)の学習データを与えると、属性の類似度の高いカテゴリがクラスタリングマップ13a,13b上で近い位置に配置される。
【0022】
したがって、出力層12のニューロンN2のうち同種のカテゴリに属する学習データに対応して発火したニューロンN2は、クラスタリングマップ13a,13b上で近い位置に集まりニューロンN2の集合からなるクラスタを形成する。学習モードでニューラルネット1a,1bに与えられる学習データは学習データ記憶部14a,14bに格納されており、必要に応じて学習データ記憶部14a,14bから読み出されてニューラルネット1a,1bに与えられる。
【0023】
ところで、ニューラルネット1a,1bにより分類する対象信号は、機器Xから得られる電気信号であって、たとえば、機器Xの動作音を検出するマイクロホン2aと、機器Xの動作時に生じる振動を検出する振動センサ2bとの少なくとも一方からなるセンサ部2の出力を用いる。センサ部2の構成は機器Xの種類に応じて適宜に選択され、マイクロホン2a、振動センサ2bのほか、TVカメラ、匂いセンサなどの各種のセンサを単独または組み合わせて用いることができる。あるいはまた、機器Xが発生する信号を取り出して対象信号に用いることも可能である。センサ部2は機器Xの動作により生じる対象信号を取り込むから、信号入力部として機能する。
【0024】
センサ部2で得られた電気信号である対象信号は、特徴抽出部3に与えられ対象信号の特徴量が抽出される。本実施形態では、センサ部2から特徴抽出部3に与えられる対象信号は振動成分を含む信号であって、特徴抽出部3に入力されることにより対象信号の振動成分を表す複数種類の特徴量が抽出される。
【0025】
特徴抽出部3では、機器Xが発生する対象信号から同じ条件で特徴量を抽出するために、まず機器Xの動作に同期したタイミング信号(トリガ信号)を用いたり、対象信号の波形の特徴(たとえば、ひとまとまりの対象信号の開始点と終了点)を用いたりすることによって、対象信号の切り出し(セグメンテーション)を行った後、適宜の単位時間ごとの信号に分割し、単位時間毎に特徴量を抽出する。したがって、特徴抽出部3はセンサ部2から与えられる対象信号を一時的に記憶するバッファを備える。また、特徴抽出部3では、必要に応じて周波数帯域を制限するなどして、ノイズを低減させる前処理を行う。さらに、センサ部2から出力される対象信号をデジタル信号に変換する機能も備える。
【0026】
説明を簡単にするために、ここでは、セグメンテーションを行った後の対象信号の振動成分から複数の周波数成分(周波数帯域ごとのパワー)を抽出し、各周波数成分を特徴量に用いるものとして説明する。周波数成分の抽出には、FFT(高速フーリエ変換)の技術、あるいは多数個のバンドパスフィルタからなるフィルタバンクを用いる。どの周波数成分を特徴量に用いるかは、対象とする機器Xや抽出しようとする異常に応じて適宜に選択される。
【0027】
特徴抽出部3から単位時間毎に得られた特徴量は、特徴量の抽出のたびに両ニューラルネット1a,1bにそれぞれ与えられる。また、後述するように特徴量は学習データとしても用いるから、学習データ記憶部14a,14bにも格納される。学習データ記憶部14a,14bはFIFO(先入れ先出し)であって、一定個数(たとえば、150個)の特徴量が学習データとして保持されるようになっている。
【0028】
ところで、本実施形態のニューラルネット1a,1bでは、学習モードにおいて設定されるカテゴリを「正常」のみとしている。各ニューラルネット1a,1bでは、検査モードにおいて入力データにより発火した出力層12のニューロンN2が正常のカテゴリに属しておらず、かつ規定した条件(たとえば、正常のカテゴリに属するニューロンN2からのユークリッド距離が規定した閾値以上という条件)を満たすときに異常と判定する。また、検査モードでは、入力データにより発火した出力層12のニューロンN2が正常のカテゴリに属しておらず、かつ規定した条件を満たさないときには正常とも異常とも判別できないグレーと判定する。
【0029】
ところで、両ニューラルネット1a,1bは同時に検査モードになることはなく、一方のニューラルネット1a,1bが検査モードであるときに、他方のニューラルネット1a,1bは学習モードになり、両ニューラルネット1a,1bが学習モードと検査モードとを交互に繰り返すように構成されている。各ニューラルネット1a,1bの動作を学習モードとするか検査モードとするかは、切換判定部4の指示に従って各ニューラルネット1a,1bの動作を切り換えるモード切換部5により選択される。
【0030】
切換判定部4は、各ニューラルネット1a,1bのうち検査モードで動作しているニューラルネット1a,1bの判定結果に基づいて判定評価値を求め、判定評価値が規定した条件を満たすときにモード切換部5に指示することにより、各ニューラルネット1a,1bの動作を切り換えさせる。判定評価値は、検査モードで動作しているニューラルネット1a,1bの判定結果の信頼性を評価する評価値であり、異常と判定した回数、乖離度、適合度の少なくとも一つの値を判定評価値に用いる。判定評価値および切換判定部4での評価基準は後述する。
【0031】
検査モードで動作しているニューラルネット1a,1bを判定評価値を用いて評価し、判定評価値によって判定結果の信頼性が低下したと判定されたときに、検査モードのニューラルネット1a,1bを学習モードに切換させるのである。一方、それまで学習モードで動作していたニューラルネット1a,1bは検査モードに切り換えられる。各ニューラルネット1a,1bの出力は出力選択部6を通して外部に取り出される。出力選択部6は、検査モードで動作しているニューラルネット1a,1bの出力を選択するように切換判定部4により制御される。出力選択部6を通して取り出す出力は、ニューラルネット1a,1bの出力層12におけるニューロンN2のすべての状態とするのが望ましいが、発火したニューロンN2の位置に対応したカテゴリのみであってもよい。
【0032】
検査モードでは、特徴抽出部3で得られた特徴量を入力データに用いるが、学習モードでは、特徴抽出部3で得られた特徴量を学習データに用いる。このときのカテゴリは正常として扱う。したがって、時間経過に伴って特徴量が変化すると学習データも変化し、学習モードで動作しているニューラルネット1a,1bでは、特徴量の時間変化に伴って正常の判定で発火するニューロンN2の位置が時間変化する。
【0033】
つまり、検査モードで動作しているニューラルネット1a,1bにおいて、特徴量の時間変化に伴って判定結果の信頼性が低下したときに、学習モードで動作しているニューラルネット1a,1bを検査モードに切り換えると、信頼性の高い判定結果を得ることが可能になる。もちろん、機器Xの異常によって特徴量の時間変化が瞬時的に生じるときには、ニューラルネット1a,1bの判定結果は正常のカテゴリから大きく逸脱するから、検査モードにおいて異常の検出は可能である。
【0034】
ただし、学習済みのニューラルネット1a,1bでは、学習モードにおける重みベクトルの変化は緩やかであって、たとえば、正常のカテゴリを対応付けた学習データについて、5個のうち1個程度は適正な学習データではない場合でも、重みベクトルの変化は微小であって、重みベクトルが急激に変化することはない。したがって、正常に動作している機器において、対象信号の特徴量が緩やかに時間変化する場合には、重みベクトルが追従してしだいに変化し、学習モードから検査モードに切り替わったときに、その時点の対象信号を正常のカテゴリと判断することが可能になるのである。
【0035】
ところで、判定評価値に用いる乖離度は、検査モードにおける入力データ(ベクトル)と、当該入力データにより発火したニューロンに設定された重みベクトルとの差分の内積を正規化した値であって、入力データを[X]、発火したニューロンの重みベクトルを[Wwin]とすれば([a]はaがベクトルであることを意味している)、乖離度Yは次式で定義される。
Y=([X]/X−[Wwin]/Wwin)([X]/X−[Wwin]/Wwin)
ここにTは転置を表し、角付き括弧を付与していないX,Wwinは各ベクトルのノルムを表す。
【0036】
一方、適合度Gは、検査モードにおける入力データ[X]と、発火したニューロンの重みベクトル[Wwin]と、出力層のニューロンの重みベクトルの分散σとを用いることにより、次式で表される。
G=Σgi
gi=exp(−Z/2σ
Z=([X]−[Wi])([X]−[Wi])
ただし、i=1〜N
判定評価値として異常と判定した回数を用いる場合には、以下の判定条件が成立するようになったときにモード切換部5および出力選択部6に切換の指示を与える。つまり、信頼性が低下して判定評価値が評価基準を満たさなくなると、モード切換部5および出力選択部6に切換の指示を与える。
(1)異常の判定が正しかったか誤判定であったかを人が判定するとともに判定結果を切換判定部4に与えることによって切換判定部4において誤判定の回数を計数し、計数した回数が規定の閾値を上回ったとき。
(2)異常の判定の回数が規定した閾値を上回ったとき。
(3)規定した単位回数において異常の判定の回数の割合が規定の閾値を上回ったとき。
また、判定評価値として乖離度を用いる場合には、以下の判定条件が成立したときにモード切換部5および出力選択部6に切換の指示を与える。
(4)規定回数の判定での乖離度の総和が規定の閾値を上回ったとき。
(5)規定回数の判定での乖離度の最大値が規定の閾値を上回ったとき。
判定評価値として適合度を用いる場合には、以下の判定条件が成立したときにモード切換部5および出力選択部6に切換の指示を与える。
(6)規定回数の判定での適合度の総和が規定の閾値を下回ったとき。
(7)規定回数の判定での適合度の最小値が規定の閾値を下回ったとき。
判定評価値として乖離度と適合度との両方を用いる場合には、以下の判定条件が成立したときにモード切換部5および出力選択部6に切換の指示を与える。
(8)乖離度が(4)(5)のいずれかの条件を満たし、かつ適合度が(6)(7)のいずれかの条件を満たした回数が規定した基準回数を上回るとき。
(9)乖離度が(4)(5)のいずれかの条件を満たし、かつ適合度が(6)(7)のいずれかの条件を満たす状態が連続して生じ、その回数が規定した基準回数に達したとき。
【0037】
上述の判定条件は一例であって、判定評価値に対する判定条件として他の条件を用いることも可能である。また、評価基準としての上述した閾値は、たとえば以下の値を採用する。
(1)全学習データに対する乖離度・適合度の平均値。
(2)全学習データに対する乖離度・適合度の平均値+分散。
(3)全学習データに対する乖離度・適合度の平均値−分散。
(4)全学習データに対する乖離度・適合度の上・下位各5%を除いた平均値。
(5)全学習データに対する乖離度・適合度の上・下位各5%を除いた平均値+分散。
(6)全学習データに対する乖離度・適合度の上・下位各5%を除いた平均値−分散。
【0038】
切換判定部4の動作を図3にまとめる。まず、2台のニューラルネット1a,1bの一方を検査モードで動作させ、他方を学習モードで動作させる(S1)。ここでは、初期状態においてニューラルネット1aを検査モードで動作させ、ニューラルネット1bを学習モードで動作させるものとする。特徴抽出部3により得られた特徴量は、検査モードで動作するニューラルネット1aには入力データとして与えられ、学習モードで動作するニューラルネット1bには学習データとして与えられる。切換判定部4は、各ニューラルネット1a,1bを検査モードとするか学習モードとするをモード切換部5に指示して選択させ、検査モードで動作しているニューラルネット1a,1bの出力を取り出すように出力選択部6に指示して選択させる。
【0039】
学習モードでは、学習データのカテゴリをすべて正常として学習を行う。また、切換判定部4では、特徴抽出部3での特徴量の抽出毎に、検査モードで動作するニューラルネット1a,1bから判定評価値を演算するための情報を取得し(S2)、判定評価値を用いて判定結果の信頼性を評価する(S3)。切換判定部4において判定結果の信頼性が低下して判定評価値が評価基準を満たさなくなったときには、検査モードで動作していたニューラルネット1aを学習モードで動作させ、学習モードで動作していたニューラルネット1bを検査モードで動作させる。つまり、各ニューラルネット1a,1bの動作を入れ換える(S4)。以後は、ステップS2〜S4を繰り返し、判定評価値によって各ニューラルネット1a,1bの動作を決める。
【0040】
検査モードで動作するニューラルネット1a,1bでは、機器Xの動作が時間経過に伴って変化すると入力データと学習済みの重みベクトルとにずれが生じることによって判定結果の信頼性が低下する。一方、学習モードで動作するニューラルネット1a,1bでは、機器Xの動作が時間経過に伴って変化するのにつれて動作の変化に対応した学習データが正常のカテゴリを持つ学習データとして機器Xから得られている。したがって、このニューラルネット1a,1bを検査モードに切り換えて判定を行えば、切換前に検査モードであったニューラルネット1a,1bで正常と判定することができなかった入力データを、切換後に検査モードになったニューラルネット1a,1bでは正常と判定することが可能になる。
【0041】
このような動作は、エアコンのように季節によって動作が変動するような機器においてはとくに利便性が高く、機器のさまざまな動作に適合する学習データを用いて学習させた多数台のニューラルネットを用いることなく2台のニューラルネット1a,1bを用いるだけで、そのときどきに応じた適正な判定が可能になる。
【0042】
ところで、上述した構成例では、学習モードで動作するニューラルネット1a,1bには、特徴抽出部3で得られた特徴量について、すべてを正常のカテゴリを持つ学習データとして扱っているが、検査モードで動作するニューラルネット1a,1bには同じ特徴量を入力データとして与えているから、機器Xの動作によっては、正常のカテゴリに分類されない入力データも学習データとして与えられることになる。ニューラルネット1a,1bは、学習データに対して鋭敏に応答することはなく、正常のカテゴリに属する入力データに対して正常のカテゴリに属さない入力データが一定割合で混入していても、学習結果に大きな差異は生じないが、判定結果がグレーになる範囲が増加する可能性がある。
【0043】
そこで、図4に示すように、出力選択部6を通して得られる判定結果をフィードバックし、特徴抽出部3で得られた特徴量のうち判定結果が所定の判定基準を満たすときにのみ当該判定結果をもたらした入力データ(特徴量)を学習データに用いるようにするのが望ましい。判定基準は、発火したニューロンが正常のカテゴリに属することを条件としたり、発火したニューロンが正常のカテゴリに属していないことを条件としたりすることができる。あるいはまた、正常のカテゴリに属するニューロンが発火し、かつ当該ニューロンがカテゴリの特定のニューロン(たとえば、学習モードで発火の頻度が最大であったニューロン)に対して規定の閾値以上の距離であることを条件としてもよい。この条件を判定基準とすれば、機器Xの動作の変化を学習データに反映させやすくなる。
【0044】
上述した判定基準に従って特徴抽出部3から出力された特徴量のうち学習データに用いる特徴量を選択するために、特徴抽出部3と各学習データ記憶部14a,14bとの間には、それぞれ学習データ選択部7a,7bを設けている。各学習データ選択部7a,7bは、出力選択部6で得られたニューラルネット1a,1bの判定結果が判定基準を満たすか否かを判断し、判定基準を満たしているときには特徴抽出部3で得られた特徴量を学習データとして学習モードで動作しているニューラルネット1a,1bに対応付けた学習データ記憶部14a,14bに転送する。したがって、学習データ選択部7a,7bは、学習モードで動作しているニューラルネット1a,1bに対応付けられ、切換判定部4により選択される。
【0045】
図4に示した構成では、学習モードで動作するニューラルネット1a,1bに与える学習データを、当該学習データを入力データとして検査モードで動作しているニューラルネット1a,1bの判定結果に応じて選別するから、学習データから異常値を除去することができ、適正な学習によって検査モードでの判定結果の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】同上に用いるニューラルネットの概略構成図である。
【図3】同上の動作説明図である。
【図4】本発明の他の実施形態を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
1a,1b ニューラルネット(競合学習型ニューラルネットワーク)
2 センサ部
2a マイクロホン
2b 振動センサ
3 特徴抽出部
4 切換判定部
5 モード切換部
6 出力選択部
7a,7b 学習データ選択部
11 入力層
12 出力層
13a,13b クラスタリングマップ
14a,14b 学習データ記憶部
N1,N2 ニューロン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の動作により生じる対象信号を取り込む信号入力部と、対象信号について複数のパラメータからなる特徴量を抽出する特徴抽出部と、特徴抽出部により抽出した特徴量を学習データに用いて学習する学習モードと学習モードでの学習結果に基づいて前記特徴量を機器の動作が正常であるかそれ以外かに分類する検査モードとを切替可能な2台の競合学習型ニューラルネットワークと、各競合学習型ニューラルネットワークによる分類結果を出力する出力部と、各競合学習型ニューラルネットワークを学習モードと検査モードとのどちらで動作させるかを選択しかつ互いに他の動作をさせるモード切換部と、検査モードで動作する競合学習型ニューラルネットワークによる判定結果の信頼性を評価する判定評価値を求め判定結果の信頼性が低下し評価判定値が評価基準を満たさなくなると当該競合学習型ニューラルネットワークを学習モードで動作させ他方の競合学習型ニューラルネットワークを検査モードで動作させるようにモード切換部に指示する切換判定部とを備えることを特徴とする異常監視装置。
【請求項2】
前記切換判定部は、検査モードで動作している前記競合学習型ニューラルネットワークにおいて判定結果が正常であってかつ判定基準を満たしているときの特徴量のみを、学習モードで動作している競合学習型ニューラルネットワークの学習データに用いることを特徴とする請求項1記載の異常監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−40682(P2008−40682A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212435(P2006−212435)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】