説明

異常診断装置

【課題】軸受装置に対する診断が正常に行えない状態が継続されることを事前に回避し、適正な診断を常時、確実に行うことが可能な異常診断装置を提供する。
【解決手段】軸受装置の振動を検出する振動センサ4から出力される振動信号と、回転速度を検出する回転速度センサ6から出力される回転速度信号から軸受装置の異常の有無を診断する異常診断装置Aであって、前記異常診断装置には、診断解析部8ならびに波形発信部20a,20bが設けられ、前記診断解析部は、前記振動信号と前記回転速度信号から軸受装置の異常の有無を判断するとともに、前記診断解析部は、前記波形発信部から出力される既知の振動信号に相当するテスト信号および既知の回転速度信号に相当するテスト信号から得られる解析結果を、既知の解析結果と比較することで、自分自身が正常に動作しているかどうかを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受装置の異常の発生有無を診断する異常診断装置に関し、特に、鉄道車両用の軸受装置や、自動車用の軸受装置に異常が発生しているかどうかを診断するための異常診断装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、鉄道車両用の軸受装置や、自動車用の軸受装置などに対しては、その安全性を確保するため、高い信頼性が求められてきた。一方で、鉄道車両や自動車などは、屋外で使用されるため、かかる軸受装置に組み込まれ、車軸(回転軸)を軸支する軸受において、例えば、軸受の外部から内部へ異物(例えば、泥水や塵埃)が侵入する場合がある。このような異物が軸受の内部に侵入すると、例えば、軌道輪(例えば、内輪や外輪)の軌道面、転動体(例えば、玉やころ)の転動面に、早期に傷(クラック)や剥離(フレーキング)などの異常が生じる場合がある。そして、このようなクラックやフレーキングが生じると、転動体が軌道輪の軌道面間を安定して転動することができず、例えば、軸受が異常振動を起こして回転軸が振れ回る(ガタつく)など、軸受装置を長期に亘って安定して、良好に運転させ続けることが困難になってしまう場合がある。
【0003】
ところで、軸受の軌道輪及び転動体にクラックやフレーキングなどが生じた場合、回転軸の回転速度に比例した特定の周波数成分の振動信号が発生する。このため、従来から、軸受装置、及び軸受の回転状態を監視し、軸受の振動信号と回転軸の回転速度信号を検出することで、上述したような軸受装置に生じる不都合を回避する各種の診断装置や診断方法が用いられている。
例えば、特許文献1には、所定の時間間隔で取得した診断対象となる軸受の振動信号に対し、高速フーリエ変換などの周波数分析を行うことで、当該診断対象軸受に異常が発生しているかどうかを診断するとともに、異常が発生している軸受の構成部材(例えば、軌道輪(回転輪及び静止輪)、転動体など)を特定する方法が、一例として開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された診断方法、具体的には、当該診断方法を実施する診断装置によって、軸受異常の発生有無を診断する場合であっても、かかる診断装置の内部、特に、異常有無を診断解析する診断解析部に不具合が生じ、当該診断装置が診断自体を正常に行える状態ではない場合には、当該軸受に仮に異常が発生していたとしても、当該軸受の異常を検出することができなくなってしまう。この場合、軸受に発生した異常を看過してしまう、すなわち、軸受に発生した異常の発見が遅れてしまう結果となり、当該発見の遅れが原因となって、例えば、軸受が早期に異常振動を起こして車軸が振れ回り(ガタつき)、軸受装置の交換が早期に必要となってしまう場合などがある。
【特許文献1】特許第3569582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされており、その目的は、軸受装置の異常の発生有無を適正に診断できているかどうかを自己診断する機構を設けることで、内部に不具合が生じ、軸受装置に対する診断が正常に行えない状態であることを検出するとともに、この状態が継続されることを事前に回避し、適正な診断を常時、確実に行うことが可能な異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明に係る異常診断装置は、軸受装置の振動を検出し、振動信号を出力する振動センサ、軸受装置の回転速度を検出し、回転速度信号を出力する回転速度センサ、前記振動信号と回転速度信号から軸受装置の異常の有無を診断する診断解析部、ならびに既知の振動信号に相当するテスト信号および既知の回転速度信号に相当するテスト信号を出力する波形発信部を備えている。
ここで、診断解析部が正常に動作しているかどうかを確認するために、診断解析部に、解析結果が既知である振動信号及び回転速度信号に相当するテスト信号を入力し、当該テスト信号の解析結果を既知である解析結果と照合し、両者が一致するかどうかを判定する。この結果、両者が一致した場合、診断解析部自身が正常に動作していることを確認できる。
【0007】
なお、診断解析部は、解析のみを実施し、解析結果に照合により診断解析部が正常に動作しているかどうかを判定することは、別に設けた解析動作異常判定部で行ってもよい。
この場合、診断解析部又は解析動作異常判定部に対して、テスト信号を1度のみでなく、所定時間間隔又は一定時間間隔で入力し、当該診断解析部が正常に動作していることを示す正常動作信号を、所定時間間隔又は一定時間間隔で診断動作監視部に出力すれば、当該診断解析部の動作が正常に行われていることを継続的に確認できる。すなわち、所定時間内又は一定時間内に正常動作信号が診断動作監視部又は解析動作異常判定部に入力されない場合、診断解析部の動作が異常であると判定することができ、外部装置などへこの異常を知らせることができる。
【0008】
なお、波形発信部は、診断解析部が振動信号に代えて解析するテスト信号として、一定周波数の所定形状の波形を成す信号を出力し、診断解析部が回転速度信号に代えて解析するテスト信号として、当該回転速度に比例した一定の周波数を有する所定形状の波形(例えば、矩形波や正弦波など)を成す信号を出力すればよい。
また、波形発信部は、診断解析部が振動信号に代えて解析するテスト信号として、既知の回転速度における軸受装置の異常発生時の出力振動信号と同一周波数を有し、同一波形を成す信号を出力し、診断解析部が回転速度信号に代えて解析するテスト信号として、前記既知の回転速度において、前記回転速度センサが出力する回転速度信号と同一周波数を有し、同一波形を成す信号を出力してもよい。
【0009】
さらに、回転速度センサが、回転速度信号として、回転速度に比例した電圧値(例えば、時速100kmの場合、1.0V等)などのアナログ信号を出力している場合、波形発信部は、診断解析部が回転速度信号に代えて解析するテスト信号として、速度に比例した電圧値を出力する。
【0010】
なお、以上に記載した異常診断装置は、例えば、鉄道車両用の軸受装置、若しくは自動車用の軸受装置の異常の発生有無を診断する装置として適用した場合、これらの軸受装置の信頼性の向上を図ることができ、非常に有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る異常診断装置によれば、軸受装置の異常の発生有無を適正に診断できているかどうかを自己診断する機構を設けることで、内部に不具合が生じ、軸受装置に対する診断が正常に行えない状態であることを検出するとともに、この状態が継続されることを事前に回避し、適正な診断を常時、確実に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る異常診断装置について、添付図面を参照して説明する。なお、本発明の異常診断装置は、所定の回転軸を回転自在に支持する軸受装置について、その異常の発生有無を診断することができるが、ここでは、診断対象として、鉄道車両用及び自動車用の軸受装置、具体的には、これらの軸受装置に組み込まれ、車軸を軸支する軸受を適用した場合を一例として想定し、説明する。なお、この場合、軸受に発生する異常としては、例えば、軌道輪(回転輪や静止輪)の軌道面、転動体(玉やころ)の転動面に生じる傷(クラック)や剥離(フレーキング)などを、一例として想定する。
【0013】
図1には、本発明の一実施形態に係る異常診断装置(以下、装置Aという)が示されており、当該装置Aには、軌道輪(回転輪)が車軸10とともに回転する軸受(図示しない)の異常の発生有無を診断する診断解析部8が備えられている。この場合、診断解析部8は、軸受の振動、及び回転速度を監視するセンサ4,6から出力された振動信号、及び回転速度信号を入力して解析し、その解析結果に基づいて、当該軸受に異常が発生しているかどうかを診断している。なお、診断解析部8は、入力された振動信号及び回転速度信号に対して、例えば、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)などによる周波数分析を行うことで、当該信号を解析し、軸受の異常の発生有無を診断している。また、装置Aには、所定の外部電源装置(図示しない)から、電力(電圧及び電流)が供給されている。
【0014】
図1に示す構成においては、一例として、2つのセンサ(振動センサ4と回転速度センサ6)から振動信号及び回転速度信号が診断解析部8へ出力される装置Aの構成が示されている。この場合、振動センサ4は、当該軸受(例えば、回転輪、静止輪及び転動体など)の振動状態を監視し、その振動状態を示す振動信号を診断解析部8へ出力している。これに対し、回転速度センサ6は、車軸10の回転状態を監視し、その回転速度を示す回転速度信号を診断解析部8へ出力している。また、振動センサ4及び回転速度センサ6は、軸受が収容されているハウジング12の所定位置にそれぞれ設けられている。
【0015】
なお、振動センサ4は、軸受の振動状態を監視し、その振動状態を示す振動を検出可能な位置に設ければよい。また、回転速度センサ6は、車軸10の回転状態を監視し、その回転速度を示す回転速度信号を診断解析部8へ出力可能な任意の位置に設ければよく、その位置は特に限定されない。例えば、振動センサ4及び回転速度センサ6は、ハウジング12の上部や側面部、あるいは、軸受の静止輪などの所定位置に設けることができる。
また、振動センサ4及び回転速度センサ6の取付方法は特に限定されず、例えば、所定の締結部材(ボルトやナットなど)でハウジング12に締結固定してもよいし、所定の接着剤などでハウジング12に接着固定してもよい。
さらにまた、振動センサ4は、軸受2の振動状態を監視し、振動信号を出力することが可能なセンサであれば、その形式は特に限定されない。例えば、振動センサ4として、圧電式、静電容量式、ひずみゲージ式及びMEMS(Micro Electro Mechanical System)式などを任意に適用することができる。同様に、回転速度センサ6としては、車軸10の回転状態を監視し、回転速度信号を出力することが可能なセンサであれば、例えば、各種の光学式センサや磁気式センサなどを任意に適用することができる。
【0016】
なお、本実施形態においては、一例として、2つの個別のセンサ(振動センサ4及び回転速度センサ6)で、軸受の回転状態(振動及び回転速度など)を監視しているが、例えば、軸受の振動状態を監視して振動信号を出力するとともに、車軸10の回転状態を監視して回転速度信号を出力することが可能な1つのセンサのみで、軸受の回転状態を監視する構成としてもよい。また、複数個の振動センサ4、及び複数個の回転速度センサ6で、軸受の回転状態を監視する構成としてもよい。
【0017】
本実施形態において、装置Aには、所定のテスト信号を、所定時間間隔又は一定時間間隔で診断解析部8へ出力可能な波形発信部20a,20bが設けられている。また、診断解析部8が正常に動作している場合に、所定時間間隔又は一定時間間隔で診断解析部から出力される信号(以下、正常動作信号Scという)を監視する診断動作監視部22が設けられている。
【0018】
図1に示す構成において、装置Aには、一例として、2つの波形発信部(振動波形発信部20a及び回転速度波形発信部20b)がそれぞれ設けられている。この場合、振動波形発信部20aは、振動信号に代えて診断解析部8で解析される所定のテスト信号(以下、テスト信号Saという)を、所定時間間隔で診断解析部8へ出力している。これに対し、回転速度波形発信部20bは、回転速度信号に代えて診断解析部8で解析される所定のテスト信号(以下、テスト信号Sbという)を、所定時間間隔で診断解析部8へ出力している。
【0019】
なお、一例として、装置Aには、信号切換スイッチ16が設けられており、当該信号切換スイッチ16が、所定時間間隔で、診断解析部8へ入力される信号を振動信号から、振動波形発信部20aから出力されるテスト信号Saへ切り換えているとともに、診断解析部8へ入力される信号を回転速度信号から、回転速度波形発信部20bから出力されるテスト信号Sbへ切り換えている。この場合、信号切換スイッチ16において、診断解析部8と振動波形発信部20aとの間、及び診断解析部8と回転速度波形発信部20bとの間のスイッチ切換は、それぞれ同時に行ってもよいし、タイミングをずらして非同期に行ってもよい。なお、信号切換スイッチ16に対するスイッチ切換タイミングの制御は、例えば、診断解析部8、若しくは振動波形発信部20a及び回転速度波形発信部20bが行ってもよいし、信号切換スイッチ16を制御するスイッチ制御部を設けて行ってもよい。
【0020】
この場合、波形発信部20a,20bが診断解析部8へ出力するテスト信号Sa,Sbは、事前に当該診断解析部8によって解析されており、その解析結果(以下、解析結果Mdという)が当該診断解析部8に予め記憶されている。すなわち、テスト信号Sa,Sbは、診断解析部8に入力して解析した場合、当該診断解析部8に予め記憶されている所定の解析結果Mdと同一の解析結果を取得可能であることが既知となっている。なお、解析結果Mdについての情報(所定のテスト信号Sa,Sbに対する解析結果Mdの情報)は、例えば、診断解析部8に所定の記憶機構(半導体メモリやディスク装置など)を設けて、テスト信号Sa,Sbをキーとして予め記憶しておけばよい。
【0021】
このような波形発信部20a,20b及び診断動作監視部22を設けることで、装置Aにおいて、軸受の異常の発生有無の診断に加え、その診断解析部8が正常に動作しているかどうか、具体的には、軸受異常の発生有無の診断を適正に行うことができているかどうかの診断、すなわち自己診断(セルフチェック)を行っている。以下、装置Aのセルフチェックの方法について、説明する。
【0022】
装置Aにおいては、所定時間間隔で、振動信号に代えて、振動波形発信部20aから出力されたテスト信号Saを、診断解析部8に入力しているとともに、回転速度信号に代えて、回転速度波形発信部20bから出力されたテスト信号Sbを、診断解析部8に入力している。テスト信号Sa,Sbが入力されると、診断解析部8は、当該テスト信号Sa,Sbに対して、周波数分析などの解析を行い、その解析結果を、予め記憶している当該テスト信号Sa,Sbに対する解析結果Mdと照合する。照合した結果、両者が一致した場合、診断解析部8は、正常に動作している、すなわち、軸受の異常の発生有無を適正に診断することができていると判定することができる。この場合、診断解析部8は、正常動作信号Scを診断動作監視部22へ出力する。
なお、診断解析部8は、解析のみを実施し、解析結果の照合により診断解析部8が正常に動作しているかどうかを判定することは、別に設けた解析動作異常判定部(図示しない)で行ってもよい。
【0023】
また、このようなテスト信号Sa,Sbに対する解析及び解析結果の照合処理を、テスト信号Sa,Sbの周波数を変更して複数回行うことで、セルフチェックの信頼性を高めることができる。この場合、所定時間内に、振動波形発信部20a及び回転速度波形発信部20bから周波数の異なる複数のテスト信号Sa,Sbを出力し、振動信号及び回転速度信号に代えて、診断解析部8に入力すればよい。
【0024】
さらに、より短い時間間隔で、振動波形発信部20a及び回転速度波形発信部20bからテスト信号Sa,Sbを出力し、振動信号及び回転速度信号に代えて、診断解析部8に入力することで、セルフチェックの回数を増やすことができるため、その信頼性を高めることができる。ただし、セルフチェックを頻繁に行うことで、所定時間内における軸受の異常発生の有無の診断回数が減少することにもなる。したがって、テスト信号Sa,Sbを診断解析部8に入力する所定時間間隔は、例えば、診断対象となる軸受に要求される信頼性や寿命などに応じて任意に設定する必要があり、ここでは特に限定しない。
【0025】
なお、装置Aにおいては、通常時、振動センサ4から出力された軸受の振動信号、及び回転速度センサ6から出力された車軸10の回転速度信号を診断解析部8に入力している。そして、当該振動信号及び回転速度信号に対して、周波数分析などの解析を行い、その解析結果に基づいて、軸受に異常が発生しているかどうかを診断している。
また、装置Aにおいては、診断解析部8が、当該軸受の異常の発生有無を示す診断結果信号を表示器17へ出力し、当該表示器17は、診断結果情報(例えば、正常若しくは異常を示すメッセージなど)を表示する。
【0026】
上述したようなセルフチェックを行うことで、装置Aにおいて、所定時間内に診断解析部8から正常動作信号Scが診断動作監視部22へ出力されない場合、診断解析部8が正常に動作しておらず、軸受の異常の発生有無を適正に診断することができない状態であると判定することができる。この場合、診断動作監視部22は、診断解析部8が正常に動作していないことを示す警告信号を、外部装置14などへ出力する。例えば、診断動作監視部22に所定のタイマー機構を設け、診断解析部8から出力された正常動作信号Scの当該診断動作監視部22への入力有無を監視し、所定時間内に正常動作信号Scが入力されない場合、診断動作監視部22が警告信号を外部装置14などへ出力するように構成すればよい。
【0027】
これにより、外部装置14において、警告情報を表示することができ、診断解析部8が正常に動作していないこと、すなわち、装置Aが軸受の異常の発生有無を適正に診断することができない状態であることを目視により確認することが可能となる。また、警告情報の表示に代えて、あるいは、これに加えて、外部装置14において、当該異常の発生を知らせる警告アラームを鳴動させることで、装置Aが軸受の異常の発生有無を適正に診断することができない状態であることを視聴覚的に確認することが可能となる。
【0028】
なお、上記のような判定を行うための所定時間、すなわち、診断解析部8から診断動作監視部22への正常動作信号Scの出力がどの程度の時間途絶えた場合に、診断解析部8に不具合が生じたと判定するかは、より短時間に設定することで、当該診断解析部8に不具合が生じたことをリアルタイムで把握することができる。ただし、例えば、瞬間的な電圧変動や電流変動などによって一時的な不具合が生じる場合なども想定されるため、かかる判定時間は、診断対象となる軸受に要求される信頼性や寿命などに応じて任意に設定する必要があり、ここでは特に限定しない。
【0029】
また、診断動作監視部22は、所定時間内に診断解析部8から出力された正常動作信号Scが入力された場合、診断解析部8が正常に動作しており、軸受の異常の発生有無を適正に診断することができる状態であることを示す正常信号を、外部装置14へ出力するようにしてもよい。これにより、外部装置14において、正常動作情報を表示することができ、診断解析部8が正常に動作していること、すなわち、装置Aが軸受の異常の発生有無を適正に診断することができる状態であることを目視により確認することが可能となる。
【0030】
この結果、装置Aの内部、特に、診断解析部8に不具合が生じ、当該装置Aが診断自体を正常に行える状態ではないことをリアルタイムで把握することができ、当該不具合に対して迅速な対処を行うことが可能となる。これにより、装置Aの内部に不具合が生じていることが看過され、軸受に対する診断が正常に行えない状態が継続してしまうことを迅速に回避することができる。さらに、装置Aの内部に不具合が生じる兆候を事前に把握することができるため、装置Aの内部に不具合が発生することを事前に回避し、適正な軸受の診断を常時、確実に行うことが可能となる。
【0031】
このように、本実施形態に係る装置Aによれば、軸受に発生した異常を看過すること、すなわち、軸受に発生した異常の発見が遅れることがなく、軸受の異常をリアルタイムで把握することができる。このため、本実施形態に係る装置Aによって、例えば、鉄道車両用の軸受装置や、自動車用の軸受装置などに組み込まれた軸受を監視すれば、これらの軸受装置の信頼性の向上を図る上で非常に有効である。
【0032】
なお、上述した本実施形態においては、テスト信号Sa,Sbを波形発信部20a,20bが所定時間間隔で診断解析部8へ出力し、継続的に診断解析部8の動作を監視しているが、テスト信号Sa,Sbを必要に応じて単発的に診断解析部8へ出力すれば、この時点における診断解析部8の動作状態を確認できることはもちろんである。例えば、異常診断装置の電源投入時、単発的に波形発信部20a,20bからテスト信号Sa,Sbを診断解析部8へ出力してもよいし、異常診断装置にセルフチェックボタンなどを設け、当該ボタンが押された場合、単発的に波形発信部20a,20bからテスト信号Sa,Sbを診断解析部8へ出力してもよい。
また、テスト信号Sa,Sbの診断解析部8への出力は、所定時間間隔又は一定時間間隔で行う必要はなく、例えば、異常診断装置の用途などに応じて、任意に設定すればよい。
【0033】
なお、振動波形発信部20aが診断解析部8へ出力するテスト信号Sa、及び回転速度波形発信部20bが診断解析部8へ出力するテスト信号Sbは、当該テスト信号Sa,Sbに対する解析結果Mdが診断解析部8、又は解析動作異常判定部(図示しない)に予め記憶されている信号であれば、周波数や波形などの特性は、特に限定されない。
本実施形態において、テスト信号Saとしては、任意の周波数を有し、任意の波形を成す所定の信号(正弦波信号(アナログ信号)や矩形波信号(デジタル信号)など)を選択的に適用し、振動波形発信部20aから診断解析部8へ出力すればよい。また、テスト信号Sbとしては、回転速度に比例した一定の周波数を有する任意の波形を成す所定の信号(正弦波信号(アナログ信号)や矩形波信号(デジタル信号)など)、及び回転速度に比例した一定の電圧、電流の信号などを選択的に適用し、回転速度波形発信部20bから診断解析部8へ出力すればよい。
【0034】
例えば、振動波形発信部20aは、診断解析部8が振動信号に代えて解析するテスト信号Saとして、一定周波数の所定形状の波形を成す信号を出力し、回転速度波形発信部20bは、診断解析部8が回転速度信号に代えて解析するテスト信号Sbとして、回転速度に比例した一定の周波数を有する所定形状の波形を成す信号を出力してもよい。
【0035】
また、振動波形発信部20aは、テスト信号Saとして、既知の回転速度における軸受装置の異常発生時の出力振動信号と同一周波数を有し、同一波形を成す信号を出力し、回転速度波形発信部20bは、テスト信号Sbとして、前記既知の回転速度において、回転速度センサ6が出力する回転速度信号と同一周波数を有し、同一波形を成す信号を出力してもよい。この場合、診断解析部8が軸受装置異常の発生有無の診断を適正に行うことができているかどうかの診断を、実際の異常発生時の信号を用いて直接的かつ確実に行うことができるため、セルフチェックの信頼性を高めることができ、より好ましい。
【0036】
なお、回転速度センサ6が、回転速度信号として、回転速度に比例した電圧又は電流(例えば、時速100kmの場合、1.0V等)のアナログ信号を出力している場合、回転速度波形発信部20bは、テスト信号Sbとして、回転速度に比例した電圧や電流などのアナログ信号を出力すればよい。
【0037】
同様にこの場合、振動波形発信部20aは、テスト信号Saとして、既知の回転速度における軸受装置の異常発生時の出力振動信号と同一周波数を有し、同一波形を成す信号(デジタル信号若しくはアナログ信号)を出力し、回転速度波形発信部20bは、テスト信号Sbとして、前記既知の回転速度において、回転速度センサ6が出力する回転速度信号に比例した電圧や電流などのアナログ信号を出力すればよい。この場合、診断解析部8が軸受異常の発生有無の診断を適正に行うことができているかどうかの診断を、実際の異常発生時の信号を用いて直接的かつ確実に行うことができるため、セルフチェックの信頼性を高めることができ、より好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係る異常診断装置の全体構成例を示す図。
【符号の説明】
【0039】
4 振動センサ
6 回転速度センサ
8 診断解析部
10 回転軸(車軸)
12 ハウジング
14 外部表示装置
16 信号切換スイッチ
17 表示器
20a 振動波形発信部
20b 回転速度波形発信部
22 診断動作監視部
A 異常診断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受装置の振動を検出する振動センサから出力される振動信号と、回転速度を検出する回転速度センサから出力される回転速度信号から軸受装置の異常の有無を診断する異常診断装置であって、
前記異常診断装置には、診断解析部ならびに波形発信部が設けられ、
前記診断解析部は、前記振動信号と前記回転速度信号から軸受装置の異常の有無を判断するとともに、
前記診断解析部は、前記波形発信部から出力される既知の振動信号に相当するテスト信号および既知の回転速度信号に相当するテスト信号から得られる解析結果を、既知の解析結果と比較することで、自分自身が正常に動作しているかどうかを判断することを特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
軸受装置の振動を検出する振動センサから出力される振動信号と、回転速度を検出する回転速度センサから出力される回転速度信号から軸受装置の異常の有無を診断する異常診断装置であって、
前記異常診断装置には、診断解析部、解析動作異常判定部ならびに波形発信部が設けられ、
前記診断解析部は、前記振動信号と前記回転速度信号から軸受装置の異常の有無を判断するとともに、
前記波形発信部から出力される既知の振動信号に相当するテスト信号および既知の回転速度信号に相当するテスト信号を解析し得られる解析結果を、解析動作異常判定部に与え、
解析動作異常判定部において既知の解析結果と比較することで、診断解析部が正常に動作しているかどうかを判断することを特徴とする異常診断装置。
【請求項3】
診断解析部が正常に動作しているかどうかを監視する診断動作監視部が設けられ、診断解析部又は解析動作異常判定部は、入力されたテスト信号を解析した結果と既知の解析結果とを比較し、両者が一致している場合、当該診断解析部が正常に動作していることを示す正常動作信号を前記診断動作監視部へ出力し、当該診断動作監視部において、診断解析部又は解析動作異常判定部からの正常動作信号の入力有無によって、当該診断解析部が正常に動作しているかどうかを監視することを特徴とする請求項1又は2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
診断解析部が正常に動作しているかどうかを監視する診断動作監視部が設けられ、診断解析部又は解析動作異常判定部は、所定時間間隔又は一定時間間隔で入力されたテスト信号を解析した結果と既知の解析結果とを比較し、両者が一致している場合、当該診断解析部が正常に動作していることを示す正常動作信号を前記診断動作監視部へ出力し、当該診断動作監視部において、所定時間内又は一定時間内における診断解析部又は解析動作異常判定部からの正常動作信号の入力有無によって、当該診断解析部が正常に動作しているかどうかを監視することを特徴とする請求項1又は2に記載の異常診断装置。
【請求項5】
既知の振動信号、ならびに既知の回転速度信号であるテスト信号の既知の解析結果が予め診断解析部に記憶されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項6】
波形発信部は、診断解析部が振動信号に代えて解析するテスト信号として、一定周波数の所定形状の波形を成す信号を出力しているとともに、診断解析部が回転速度信号に代えて解析するテスト信号として、当該回転速度に比例した一定の周波数を有する所定形状の波形を成す信号を出力していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項7】
波形発信部は、診断解析部が振動信号に代えて解析するテスト信号として、既知の回転速度における軸受装置の異常発生時の出力振動信号と同一周波数を有し、同一波形を成す信号を出力しているとともに、診断解析部が回転速度信号に代えて解析するテスト信号として、前記既知の回転速度において、前記回転速度センサが出力する回転速度信号と同一周波数を有し、同一波形を成す信号を出力していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項8】
回転速度センサは、回転速度信号として、回転速度に比例した電圧又は電流のアナログ信号を出力しており、波形発信部は、診断解析部が回転速度信号に代えて解析するテスト信号として、回転速度に比例した電圧又は電流のアナログ信号を出力していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項9】
波形発信部は、診断解析部が振動信号に代えて解析するテスト信号として、一定周波数の所定形状の波形を成す信号を出力しているとともに、診断解析部が回転速度信号に代えて解析するテスト信号として、軸受装置の回転速度に比例した電圧又は電流のアナログ信号を出力していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項10】
波形発信部は、診断解析部が振動信号に代えて解析するテスト信号として、軸受装置が異常発生時に出力する振動信号と同一周波数を有し、同一波形を成す信号を出力しているとともに、診断解析部が回転速度信号に代えて解析するテスト信号として、当該異常発生時に回転速度センサが出力する回転速度信号と同一の電圧又は電流のアナログ信号を出力していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の異常診断装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の異常診断装置であって、鉄道車両用の軸受装置、若しくは自動車用の軸受装置の異常の発生有無を診断していることを特徴とする異常診断装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−102005(P2008−102005A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284307(P2006−284307)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】