説明

異形断面条の製造方法

【課題】肌荒れや表面荒れをより確実に防止して、歩留まりを良くする。
【解決手段】粗圧延工程、焼鈍工程、仕上げ圧延工程を有し、粗圧延工程及び仕上げ圧延工程は、厚肉部を形成するための小径ロール部及び薄肉部を形成するための大径ロール部が軸線方向に並んで形成された段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた平ロールとからなる複数組の圧延ロールにより前記平板状素材又は異形断面成形材を複数回ずつ挟み込んで圧延するものであり、粗圧延工程では、薄肉部の加工率を厚肉部の加工率よりも大きくして複数回圧延し、仕上げ圧延工程では、薄肉部の加工率と厚肉部の加工率とを同一にして複数回圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んで形成された異形断面条を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、例えば、LEDやパワートランジスタ等のリードフレームに、銅合金等の金属からなる異形断面条が用いられている。この異形断面条を製造する場合、一組のロールの一方を大径ロール部と小径ロール部とが並べられた段付きロールとし、他方を平ロールとして、これらロールの間に平板状素材を送り込んで圧延することにより、大径ロール部によって成形される薄肉部と小径ロール部によって成形される厚肉部とを有する異形断面条が製造される。
この異形断面条において、厚肉部の頂部や厚肉部と薄肉部との境界部分の裏面等に肌荒れや表面荒れが発生することがある。これらの荒れ部の表面粗度は大きく、最終製品の状態において表面粗さRaの最大値が1.0μmを超える場合には、リードフレームなど表面粗さが小さいことが要求される用途に用いるには問題となることがある。
【0003】
このような異形断面条において、肌荒れ等を防止するための方法として、特許文献1、特許文献2記載の技術がある。
特許文献1記載の技術は、複数段の圧延ロールがタンデムに配置され、薄板部(薄肉部)の成形が、後段の圧延ロールほど肉薄になるように圧延し、厚板部(厚肉部)の2段目以降の成形は、薄板部の加工度より大きい加工度で圧延するようにしている。これにより、圧延ロールを経由する毎に異形断面条の薄板部の拡幅圧延が拡大し、圧延の際の波打ちや捩れ等の変形を防止することができるとされている。
また、特許文献2に記載の技術は、厚肉部の裏面に、断面台形の突出部を形成した後、この突出部を平面に加工するようにしており、突出部を形成するときに、薄肉部から厚肉部へのメタルフローが円滑になって、肌荒れを防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−180389号公報
【特許文献2】特開平11−5101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献記載の技術により、肌荒れや表面荒れをある程度解決できるが、更なる改善が求められており、より歩留まりの良い製造方法が望まれている。
本発明は、このような事情に鑑み、肌荒れや表面荒れをより確実に防止して、歩留まりの良い異形断面条の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の異形断面条の製造方法は、平板状素材を圧延して厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面成形材を形成する粗圧延工程と、前記粗圧延工程にて形成された前記異形断面成形材を焼鈍する焼鈍工程と、前記焼鈍工程にて焼鈍された前記異形断面成形材を圧延することにより前記厚肉部及び前記薄肉部を整形して異形断面条を形成する仕上げ圧延工程とを有する異形断面条の製造方法であって、前記粗圧延工程及び仕上げ圧延工程は、厚肉部を形成するための小径ロール部及び薄肉部を形成するための大径ロール部が軸線方向に並んで形成された段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた平ロールとからなる複数組の圧延ロールにより前記平板状素材又は異形断面成形材を複数回ずつ挟み込んで圧延するものであり、前記粗圧延工程では、薄肉部の加工率を厚肉部の加工率よりも大きくして複数回圧延し、前記仕上げ圧延工程では、薄肉部の加工率と厚肉部の加工率とを同一にして複数回圧延することを特徴とする。
【0007】
異形断面条における肌荒れや表面荒れは、素材の結晶粒径、加工率、異形断面の形状等に起因すると思われるが、厚肉部に材料が十分に充満せずに空隙部が生じると、その部分の表面が肌荒れし易い。この厚肉部に材料を十分に充満させるためには、素材を圧延するときに、薄肉部から厚肉部へのメタルフローを円滑に行わせることが重要である。また、このメタルフローが阻害されると、厚肉部の裏面でも肌荒れ現象が生じる。
そこで、本発明の製造方法では、粗圧延工程において、薄肉部の加工率を厚肉部の加工率よりも大きくすることにより、加工率の大きい薄肉部から加工率の小さい厚肉部にメタルフローが生じ易くしている。
この場合、薄肉部は、大きい加工率で加工されるため、粗圧延工程終了時点では加工硬化により硬くなっており、これを焼鈍することにより、内部のひずみを取り除いて組織を軟化させ、次の仕上げ圧延工程時の展延性を向上させて仕上げ精度を良くすることができる。
【0008】
本発明の製造方法において、前記粗圧延工程では、厚肉部の側面と薄肉部の上面との間の角部の曲率半径をRmmとし、厚肉部と薄肉部との厚さの差をΔhmmとしたとき、初回の粗圧延をR>(Δh/2)となるように行い、最終回の粗圧延をR=(Δh/2)となるように行うとよい。
粗圧延工程の初回では、厚肉部と薄肉部との厚さの差に対して角部の曲率半径Rを大きくして、この角部の部分を経由するメタルフローを生じ易くし、最終回でその曲率半径Rを小さくして、以降の仕上げ圧延につなぐのである。前述の厚肉部と薄肉部との加工率の差の作用と相俟って、薄肉部から厚肉部へのメタルフローをより円滑に行わせることができる。この厚肉部と薄肉部との厚さの差はR>(Δh/2)の状態からR=(Δh/2)の状態へ徐々に変化していくようにするのが好ましい。
【0009】
本発明の異形断面条の製造方法において、前記粗圧延工程では、初回の圧延で使用する段付きロールの大径ロール部の表面粗さが最終回の圧延で使用する段付きロールの大径ロール部の表面粗さよりも小さくするのが好ましい。
初回の圧延では表面粗さが小さい段付きロールにより接触面でのメタルフローに対する抵抗を小さくするのである。この場合も、表面粗さは徐々に変化していくのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、粗圧延工程において、薄肉部の加工率を厚肉部の加工率より大きくして、薄肉部から厚肉部へのメタルフローを生じ易くしているので、厚肉部に材料が緊密に充満し、肌荒れや表面荒れを防止することができる。そして、焼鈍工程を経ることにより、加工率の大きい薄肉部を軟化させ、その後の仕上げ圧延の展延性を向上させ、寸法精度のよい異形断面条を得ることができ、製造品質を向上させて歩留まりを良くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る異形断面条の製造方法の一実施形態で用いられる粗圧延工程の段付きロールと平ロールとの組み合わせについて、その第1回目から最終回までの圧延を(a)〜(d)の順に示す異形断面成形材を断面にした正面図である。
【図2】図1の各圧延状態を拡大して示す断面図であり、その(a)〜(d)は図1の(a)〜(d)に対応する。
【図3】図2(c)に示す状態をさらに拡大し、一回前の状態を鎖線で重ね合わせて示した断面図である。
【図4】仕上げ圧延工程において段付きロールと平ロールとの間に異形断面条を成形している状態を示す異形断面条を断面にした正面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
この製造方法は、平板状素材を圧延して厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面成形材を形成する粗圧延工程と、この粗圧延工程にて形成された異形断面成形材を焼鈍する焼鈍工程と、この焼鈍工程にて焼鈍された異形断面成形材を圧延することにより厚肉部及び薄肉部を整形して異形断面条を形成する仕上げ圧延工程とを有している。
このうち、粗圧延工程と仕上げ圧延工程においては、素材を圧延する段付きロールと平ロールとをそれぞれ複数組ずつ備えた圧延装置が用いられる。
【0013】
図1は、粗圧延工程における複数回の圧延時に用いられる段付きロール1a〜1dと平ロール2a〜2dとの組み合わせを圧延の順に示したものである。図1(a)が第1回目の粗圧延、(b)が第2回目の粗圧延、(c)が第3回目の粗圧延、(d)が第n回目の粗圧延をそれぞれ示しており、(d)に示す状態が粗圧延工程の最終回とする。また、圧延部分を拡大して示したのが図2であり、この図2の(a)〜(d)は図1の(a)〜(d)にそれぞれ対応する。
各段付きロール1a〜1dには、その長さ方向(幅方向)の中央部に小径ロール部3a〜3dが形成され、この小径ロール部3a〜3dの両側に大径ロール部4a〜4dが形成されている。平ロール2a〜2dは、いずれも長さ方向(幅方向)にわたって均一な半径とされることにより、外周面が凹凸のない平坦な円周面とされている。
そして、これら段付きロール1a〜1dと平ロール2a〜2dとの間での圧延によって形成される異形断面成形材5a〜5dには、その幅方向の中央部に、小径ロール部3a〜3dにより形成される厚肉部6a〜6dが配置され、その両側に大径ロール部4a〜4dにより形成される薄肉部7a〜7dが配置される。以下の説明では、個々の工程に関する場合は、各要素にa〜dの添え字を付けた符号とするが、特に工程を区別しないで総称する場合は数字のみで表す場合がある。
【0014】
図1(a)及び図2(a)に示す第1回目の粗圧延では、小径ロール部3aはその長さ方向にわたって同じ半径に形成されるが、この小径ロール部3aの両側の大径ロール部4aは、小径ロール部3aの表面から所定角度θ1の傾斜面8aを介して比較的大きい曲率半径R1の凸型円弧面を有する山形に形成されている。そして、この段付きロール1aにより成形される異形断面成形材5aは、幅方向の中央部に、幅方向にわたって同一厚さの厚肉部6aが形成され、その両側に、断面がほぼ凹円弧状をなす薄肉部7aが形成されている。この場合、厚肉部6aの両側面は、厚肉部6aの先端面から薄肉部7aに向けて漸次厚肉部6aの幅を大きくするように厚さ方向に対して所定の角度(段付きロール1aにおいては角度θ1)で傾斜した傾斜面(段付きロール1aにおいては傾斜面8a)とされ、その傾斜面(8a)と薄肉部7aの表面との間は曲率半径(段付きロール1aにおいては曲率半径R1)の円弧面とされている。
この曲率半径(R1)は、厚肉部6aと薄肉部7aとの厚さの差(Δh1)の半分(Δh1/2)に対して十分大きい値(R1>Δh1/2)に設定される。
また、両薄肉部7aの外側の縁部は幅方向の両端に向かうにしたがって徐々に板厚を大きくするように傾斜している。
なお、傾斜面及び曲率半径は、段付きロールにおけるものと、これにより成形された異形断面成形材におけるものとは、後者にはスプリングバック等があるため、その傾斜角度又は半径寸法が正確に一致するものではないが、便宜上、異形断面成形材における傾斜面、曲率半径については、段付きロールに付した符号を括弧書きで表す。
【0015】
次に、図1(b)及び図2(b)に示す第2回目の粗圧延では、段付きロール1bの両大径ロール部4b及び小径ロール部3bの外径が第1回目粗圧延の段付きロール1aよりも大きく形成されるとともに、両大径ロール部4bの間隔が第1回目粗圧延の段付きロール1aのものよりも狭められ、小径ロール部3bの表面から大径ロール部4bの先端に向かう傾斜面8bと半径方向とのなす角度θ2が第1回目粗圧延の段付きロール1aでの各度θ1よりも小さく、かつ、その傾斜面8bと大径ロール部4bの表面との間の曲率半径R2も第1回目粗圧延の段付きロール1aよりも小さく設定されている。したがって、この第2回目の粗圧延により成形される異形断面成形材5bは、第1回目の異形断面成形材5aに比べて、全体に板厚が小さく形成されているとともに、厚肉部6bの幅が小さくされ、この厚肉部6bの両側面の傾斜面(8b)と薄肉部7bの表面との間の曲率半径(R2)が小さく形成されている。この曲率半径(R2)は、厚肉部6bと薄肉部7bとの厚さの差(Δh2)の半分(Δh2/2)の寸法よりは大きい(R2>Δh2/2)が、これらR2とΔh2/2との差は、初回の粗圧延時の両者の関係(R1とΔh1/2の差)よりは小さく設定される。
【0016】
また、図1(c)及び図2(c)に示すように、第3回目の粗圧延においては、第1回目粗圧延から第2回目粗圧延の場合と同様に、段付きロール1cの両大径ロール部4c及び小径ロール部3cの外径が第2回目粗圧延の段付きロール1bよりも大きく形成されるとともに、両大径ロール部4cの間隔がより狭められ、小径ロール部3cの表面から大径ロール部4cの先端に向かう傾斜面8cと半径方向とのなす角度θ3、及びその傾斜面8cと大径ロール部4cの表面との間の曲率半径R3も第2回目粗圧延の段付きロール1bよりも小さく形成されている。このため、この第3回目粗圧延により成形される異形断面成形材5cは、第2回目の異形断面成形材5bに比べて、全体として板厚が小さくされるとともに、厚肉部6cの幅も小さくされ、この厚肉部6cの両側面の傾斜面(8c)と薄肉部7cの表面との間の曲率半径(R3)がさらに小さく形成されている。この曲率半径がR3>(Δh3/2)とされるのは第1回目、第2回目の粗圧延のときと同様であるが、R3とΔh3/2の差は徐々に小さく設定される。
【0017】
以降、同様にして順次圧延されることにより、板厚、厚肉部の幅、厚肉部の両側面の傾斜面の角度、その傾斜面と薄肉部の表面との間の曲率半径が徐々に小さくなり、この粗圧延工程の最終回としては、図1(d)及び図2(d)に示す形状となる。
すなわち、段付きロール1dの両大径ロール部4d及び小径ロール部3dの外径がそれまでの各工程のものより最も大きく形成されるとともに、両大径ロール部4dの間隔がより狭められ、小径ロール部3dの表面から大径ロール部4dの先端に向かう傾斜面8dと半径方向とのなす角度θn、及びその傾斜面8dと大径ロール部4dの表面との間の曲率半径Rnも最も小さく形成されている。また、両小径ロール部3dは、いずれも、長さ方向にわたって均一な半径とされたストレートの円柱状に形成されている。そして、この最終回の粗圧延により成形される異形断面成形材5dは、全体として板厚がさらに小さくされるとともに、厚肉部6dの幅も小さくされ、この厚肉部6dの両側面の傾斜面(8d)と薄肉部7dの表面との間の曲率半径(Rn)がさらに小さく形成されている。この最終回の粗圧延においては、その曲率半径(Rn)は、厚肉部6dと薄肉部7dとの厚さの差(Δhn)の半分の寸法と同じ(Rn=Δhn/2)に設定される。また、両薄肉部7dは、ほぼ均一厚さの平板状に成形される。
【0018】
このような粗圧延工程において、第1回目よりも第2回目、第2回目よりも第3回目と、順次加工度を増していくのであるが、このとき、各回毎に、厚肉部に対する加工率よりも薄肉部に対する加工率の方が大きくなるように加工する。図3には、第3回目の粗圧延における厚肉部6c周辺を拡大したものであり、第2回目の粗圧延時の段付きロール1bの位置を鎖線で示している。この図3に示されるように、第2回目の粗圧延時に、小径ロール部3bによる厚肉部6bの成形厚さがT2、大径ロール部4bによる薄肉部7bの成形厚さがt2とし、第3回目の粗圧延時に、小径ロール4cによる厚肉部6cの成形厚さがT3、大径ロール部4cによる薄肉部7cの成形厚さがt3とすると、厚肉部6cの加工率がα1=(T2−T3)/T2、薄肉部の加工率がα2=(t2−t3)/t2であり、これらはα1<α2となるように設定される。
したがって、加工率の大きい薄肉部7cで圧縮された分の材料が、加工率の小さい厚肉部6cの方に流動することが可能になり、薄肉部7cから厚肉部6cに矢印で示すようにメタルフローが生じ易くなっている。
この加工率の差としては、厚肉部6に対する加工率α1と薄肉部7に対する加工率α2との比率として、α1/α2を5〜95%とするのが好ましい。
【0019】
また、小径ロール部3の表面から大径ロール部4の先端に向かう傾斜面8と大径ロール部4の表面との間の曲率半径Rは、小径ロール部3と大径ロール部4との半径差Δhとの関係では、初回の粗圧延ではR1>(Δh1/2)、最終回の粗圧延ではRn=(Δhn/2)となるようにそれぞれ設定され、これらの間で徐々に変化するように設定されている。
これにより、厚肉部6と薄肉部7との厚さの差(Δh)に対して、薄肉部7から厚肉部6に至る傾斜面8の曲率半径Rが粗圧延工程の初期の段階では大きくなって、薄肉部7から厚肉部6へのメタルフローが生じ易くなる。
【0020】
また、この粗圧延工程では、使用する段付きロール1と平ロール2との表面粗さ(算術平均粗さRa)については、初回の粗圧延で使用するロール1,2が最も表面粗さが小さく、回を追う毎に、徐々に粗くなっていくように設定されている。初回の粗圧延のときに、ロール1,2の表面粗さが小さいので、その接触面でのメタルフローに対する抵抗が小さくなり、材料の流動を円滑に行わせることができる。
【0021】
このように、この粗圧延工程においては、
(1)厚肉部6に対する加工率よりも薄肉部7に対する加工率の方が大きくなるように加工され、
(2)厚肉部6と薄肉部7との厚さの差(Δh)に対して、薄肉部7から厚肉部6に至る角部の曲率半径Rが、R>(Δh/2)となる関係からR=(Δh/2)となる関係まで、徐々に変化し、
(3)ロール1,2の表面粗さが初回では小さく、圧延毎に徐々に大きくなっており、
これらの相乗作用により、薄肉部7から厚肉部6へのメタルフローが円滑になされ、厚肉部6の頂部に材料が緊密に充満される。したがって、この円滑なメタルフローが達成されるので、表面の肌荒れや表面荒れの発生が防止され、表面状態の良好な異形断面成形材5を得ることができる。
【0022】
次に、このようにして形成した異形断面成形材5を焼鈍する。粗圧延工程においては、特に薄肉部7の加工率が大きく設定されていたことにより、薄肉部7が加工硬化により硬くなっており、これを焼鈍することにより歪みを除去して組織を軟化させ、次の仕上げ圧延工程を円滑にして、仕上げ精度を向上させることができる。
この焼鈍工程によって、異形断面成形材5は、その長さ方向(圧延方向)に伸び易くなる。因みに、粗圧延工程においては、薄肉部7から厚肉部6へのメタルフローを円滑にして厚肉部6に材料を十分に充満させるため、特に幅方向に材料が流動し易いことが重要であるが、焼鈍工程を経た後は幅方向には変形しにくくなるので、幅方向に流動し易い焼鈍工程前の状態で粗圧延工程において厚肉部6に十分に材料を充満させておくのである。
【0023】
そして、図4に示すように、仕上げ圧延工程においては、粗圧延工程の場合と同様に、段付きロール11と平ロール12との組み合わせからなる圧延装置によって異形断面成形材5を複数回圧延することが行われるが、この場合は、各回の圧延において、小径ロール部13による厚肉部16と、大径ロール部14による薄肉部17との加工率はほぼ同じに設定される。これにより、厚肉部16も薄肉部17も一様な加工率で加工され、表面硬度に分布が生じることがなく、各部において均一な物性の異形断面条21が形成される。
なお、最終形状の異形断面条としては、例えば、薄肉部の厚さが0.1〜1mm、幅が0.3〜50mm、厚肉部の厚さが0.3〜3mm、幅が0.5〜50mmのものに適用することができる。
【実施例】
【0024】
次に、平板状素材としてCu−Fe−P系銅合金板でFeが0.1wt%、Pが0.03wt%含有するものを使用して粗圧延、焼鈍、仕上げ圧延の各工程を経て実施例の異形断面条を製作した。比較例として、粗圧延工程において、2回目以降の加工率を薄肉部より厚肉部の方を大きくし、厚肉部と薄肉部との厚さの差Δhと薄肉部から厚肉部に至る角部の曲率半径Rとの関係及び各ロールの算術平均表面粗さRaを粗圧延工程中同じに設定したものを使用した。
これらの条件の一部を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
この実験の結果、実施例の条件で製造した異形断面条は、厚肉部に緊密に材料が充満し、その表面や裏面に肌荒れは認められなかったが、比較例の条件で製造したものは、厚肉部の一部に血肉が生じ、肌荒れが認められた。
【0027】
以上、本発明の実施形態の製造方法について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、厚肉部と薄肉部との数や寸法等は図示例に限定されるものではなく、厚肉部と薄肉部とを複数ずつ交互に並べた異形断面条に適用してもよい。その場合、厚肉部どうし、薄肉部どうしの厚さや幅をそれぞれ同じ寸法に設定してもよいし、それぞれ異なる寸法に設定したものとしてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1a〜1d 段付きロール
2a〜2d 平ロール
3a〜3d 小径ロール部
4a〜4d 大径ロール部
5a〜5d 異形断面成形材
6a〜6d 厚肉部
7a〜8d 薄肉部
8a〜8d 傾斜面
11 段付きロール
12 平ロール
13 小径ロール部
14 大径ロール部
16 厚肉部
17 薄肉部
21 異形断面条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状素材を圧延して厚肉部と薄肉部とが幅方向に並んだ異形断面成形材を形成する粗圧延工程と、前記粗圧延工程にて形成された前記異形断面成形材を焼鈍する焼鈍工程と、前記焼鈍工程にて焼鈍された前記異形断面成形材を圧延することにより前記厚肉部及び前記薄肉部を整形して異形断面条を形成する仕上げ圧延工程とを有する異形断面条の製造方法であって、
前記粗圧延工程及び仕上げ圧延工程は、厚肉部を形成するための小径ロール部及び薄肉部を形成するための大径ロール部が軸線方向に並んで形成された段付きロールと、半径が軸線方向に沿って一定とされた平ロールとからなる複数組の圧延ロールにより前記平板状素材又は異形断面成形材を複数回ずつ挟み込んで圧延するものであり、
前記粗圧延工程では、薄肉部の加工率を厚肉部の加工率よりも大きくして複数回圧延し、
前記仕上げ圧延工程では、薄肉部の加工率と厚肉部の加工率とを同一にして複数回圧延することを特徴とする異形断面条の製造方法。
【請求項2】
前記粗圧延工程では、厚肉部の側面と薄肉部の上面との間の角部の曲率半径をRmmとし、厚肉部と薄肉部との厚さの差をΔhmmとしたとき、初回の粗圧延をR>(Δh/2)となるように行い、最終回の粗圧延をR=(Δh/2)となるように行うことを特徴とする請求項1記載の異形断面条の製造方法。
【請求項3】
前記粗圧延工程では、初回の圧延で使用する段付きロールの大径ロール部の表面粗さが最終回の圧延で使用する段付きロールの大径ロール部の表面粗さよりも小さいことを特徴とする請求項1又は2記載の異形断面条の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−5534(P2011−5534A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153361(P2009−153361)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】