説明

異方性希土類磁石の製造方法

【課題】Dy、Tb、Coなどの希少金属を多量添加することなく焼結によりバルク化して高温保磁力を有する新規なNdFeB系磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】溶湯から急冷により非晶質組織とし、得られた非晶質組織の急冷薄帯(以下、急冷リボンと表示することもある。)を焼結、次いで熱間加工時の加熱により結晶化するとともに異方化する異方性希土類磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高保磁力の異方性希土類磁石の製造方法に関し、さらに詳しくはDy、Tb、Coなどの希少金属を多量添加することなく高保磁力を確保し得る高保磁力の異方性希土類磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料としては大きく分けると硬磁性材料と軟磁性材料とがあり、両者の対比において硬磁性材料は高保磁力であることが求められ、軟磁性材料は保磁力が小さくても高い最大磁化が求められる。
この硬磁性材料に特徴的な保磁力は磁石の安定性に関係した特性であり、高保磁力であるほど高温での使用が可能となりまた磁石の寿命が長い。
【0003】
硬磁性材料の磁石の1つとしてNdFeB系の磁石が知られている。このNdFeB系の磁石は微細集合組織を含み得ることが知られている。そして、この微細集合組織を含む高保磁力の急冷リボンは、温度特性を改善し得て高温保磁力を改善し得ることが知られている。しかし、微細集合組織を含むNdFeB系の磁石はバルク化のために焼結すると保磁力が低下してしまう。
このNdFeB系磁石について、保磁力などの特性を改良するために種々の提案がされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、R−Fe−B系合金(但し、RはPr、Nd又はDy)組成の溶湯を急冷して非晶質若しくは超微細結晶組織をもつ合金薄帯を作製し、破断、粉砕した後、熱処理する微細結晶型永久磁石合金粉末の製造方法が記載されている。そして具体例として、Nd4.5Fe7718.5組成の溶湯から磁石合金粉末を得た例が示されている。
【0005】
また、特許文献2には、RFe100−(x+y+z+m+n)(但し、Rはネオジム、ランタン、セリウム、ジスプロジウム又はプラセオジムで、TはTi、Zr、Cr、Mn、Hf、Nb、V、Mo、W又はTaであり、MはSi、Al、Ge、Cu、Ag又はAuであり、DはC、N、P又はOであり、3<x<15、4<y<22、o.5<z<5、0.1<m<2、0.1<n<4の範囲である。)組成の溶湯を急冷して非晶質の固体粒子を形成し、次いで熱処理する永久磁石の製造方法が記載されている。しかし、具体的に永久磁石を製造した例は示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−2774037号公報
【特許文献2】特表2002−536539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これら公知の技術では焼結によりバルク化して得られるNdFeB系磁石の保磁力が低い。
従って、本発明の目的は、Dy、Tb、Coなどの希少金属を多量添加することなく高い保磁力を有する異方性希土類磁石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成することを目的として鋭意研究を行った結果、溶湯から急冷により薄帯とし、粉砕・微細化した粉末の状態で熱処理により結晶化すると、結晶粒粗大化が起こり保磁力の低下をもたらし、これは1)NdFeB系磁石の主相(NdFe14B)がすべり変形に伴い結晶粒が回転して加工方向にc軸が配向するが、結晶粒が大きくなると回転半径が大きくなるため同一加工度における配向度が低下してしまう、2)出発原料(急冷薄帯)の組織が不均質(非晶質、ナノ結晶、柱状晶混在)であると、粉末の状態で熱処理により結晶化した後の焼結時、及び強加工時の熱による粒成長速度が異なるため、部分的に結晶粒が粗大化してしまう、3)非晶質粒子からの熱処理は均質な組織を与え得るが、核生成頻度に対して粒成長速度が高いため、結晶粒が成長してしまい、焼結・強加工時の熱によって結晶粒が成長してしまうため、最終的に結晶粒径を単磁区粒径である300nm以下に抑えることが難しく、さらに保磁力の低下が避けられないことを見出しさらに検討を行った結果、本発明を完成した。
本発明は、溶湯から急冷により非晶質組織とし、得られた非晶質組織の急冷薄帯(以下、急冷リボンと表示することもある。)を焼結、次いで熱間加工時の加熱により結晶化するとともに異方化する異方性希土類磁石の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Dy、Tb、Coなどの希少金属を多量添加することなく高い保磁力を有る異方性希土類磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施態様における焼結体および本発明の範囲外の焼結体の減磁曲線を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明の実施態様における焼結体の熱間加工磁石および本発明の範囲外の焼結体の熱間加工磁石の減磁曲線を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施態様における焼結体および熱間加工磁石と本発明の範囲外の焼結体および熱間加工磁石の減磁曲線を比較して示すグラフである。
【図4】図4は、焼結体の熱間加工による磁気特性の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例において急冷リボンの作製に用いる単ロール炉の模式図である。
【図6】図6は、本発明の実施例における急冷リボンおよび本発明の範囲外の急冷リボンの減磁曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によれば、溶湯から急冷により非晶質組織とし、得られる非晶質組織の急冷薄帯(以下、急冷リボンと表示することもある。)を焼結時及び熱間加工時の加熱により結晶化するとともに異方化することにより、保磁力の低下を抑制して高い保磁力を有する異方性希土類磁石を得ることができる。
【0012】
特に、本発明の異方性希土類磁石において、以下の実施態様を挙げることができる。
1)前記溶湯が、Nd−Fe−B−M組成(但し、MはTi、Zr、Cr、Mn、Nb、V、Mo、W、Ta、Si、Al、Ge、Ga、Cu、Ag又はAuであり、Ndは12at%より多く35at%以下、Nd:B(原子分率比)が1.5:1〜2.5:1の範囲、Mは0〜3at%、残部がFeである。)である前記製造方法。
2)前記焼結の条件が、前記焼結の条件が、熱処理温度450〜650℃、1〜100分間の保持時間である前記の製造方法。
3)前記熱間加工の条件が、550〜720℃の温度、初期面圧10〜1000MPa、0.05〜10分間の時間である前記の製造方法。
4)前記溶湯が、Nd15Fe77Ga組成である前記の製造方法。
【0013】
以下、本発明について、図1〜図4を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の実施態様により焼結した焼結体は、VSMによって測定した磁気特性において、本発明の範囲外のナノ結晶のみおよびナノ結晶と非晶質とが混在したものである焼結体に比べて保磁力がやや低く、他の焼結体よりも結晶粒径が大きくなっていると推定されるが、十分に高い保磁力を有しており、微細集合組織化していると考えられる。
【0014】
また、図2に示すように、本発明の実施態様により焼結体を熱間加工した加工磁石は、VSMによって測定した磁気特性において、本発明の範囲外の急冷リボンがナノ結晶のみおよび急冷リボンがナノ結晶と非晶質とが混在したもである加工磁石に比べて残留磁化の伸びは小さいものの、保磁力は熱間加工前とほとんど変化していないことが理解される。
【0015】
また、図3に示すように、急冷リボンの結晶組織が不可避分を除いて非晶質のみである本発明の磁石は、当方性焼結体の段階での保磁力は低いが、熱間加工することにより保磁力が低下せずに異方化することが理解される。
【0016】
そして、図4に示すように、急冷リボンの結晶組織が不可避分を除いて非晶質のみである本発明の磁石は、本発明の範囲外の急冷リボンがナノ結晶のみおよび急冷リボンがナノ結晶と非晶質とが混在したものである熱間加工磁石に比べて、試料変形量に対する残留磁化の増加率が低いものの、保磁力はほとんど低下せず、同一配向度で比較した場合、遜色ない保磁力を有する異方性磁石が得られていることが理解される。
【0017】
本発明においては、リボンとして、例えばNd−Fe−B−M組成(但し、MはTi、Zr、Cr、Mn、Nb、V、Mo、W、Ta、Si、Al、Ge、Ga、Cu、Ag又はAuであり、Ndは12at%より多く上35at%以下、Nd:B(原子分率比)が1.5:1〜2.5:1の範囲、Mは0〜3at%、残部がFeである。)の溶湯から急冷して得られる急冷リボンから、不可避分を除いて結晶組織が非晶質のみであるものを取得して、原料とし得る。
前記の非晶質のみであるものを取得する方法としては、磁選法、比重選別法が用いられ得る。
【0018】
本発明の実施態様における前記のNd−Fe−B−M組成として、結晶化後に高保磁力を得るためにNdおよびB量をストイキオメトリ領域(Nd12Fe82)よりもNdあるいはBがリッチな組成にすることが好適である。また、15kOe以上の保磁力を発現させるためには、Nd量が14at%以上とすることが好適である。また、15kOe以上の保磁力を発現させるためには、Nd量が14at%以下である場合はBをリッチにすることが好適である。また、余剰Bの一部を他の元素、例えばGaで置換してNdFeBGaとすることで、Ga無添加の場合に比べて焼結・熱間加工の保磁力低下を抑制し得るので好適である。
【0019】
本発明の実施態様においては、例えば前記のNd−Fe−B−M組成において、焼結と同時に低温、例えば450〜650℃の温度で結晶化させることにより、塑性加工前のNdFeB系等方性磁石の結晶構造を、微細集合組織(不可避の柱状晶を除く。非晶質成分を含んでいても構わない。)とし得る。
また、本発明の実施態様において、前記の焼結と同時に低温で結晶化させた等方性磁石を低温、例えば550〜720℃の温度で熱間加工することにより、単磁区粒径以下(<300nm)の微細集合組織を維持することが可能となり、高保磁力のNdFeB系異方性磁石を得ることができる。
【0020】
本発明の実施態様において、前記のNd−Fe−B−Mの急冷リボンは、例えば前記の原子数比を与える割合のNd、Fe、BおよびMの所定量を用いて、溶解炉、例えばアーク溶解炉を用いて合金インゴットを作製し、得られた合金インゴットを鋳造装置、例えば合金融液を貯留する融液貯留器、融液を供給するノズル、冷却ロール、巻き取り機、冷却ロール用モータ、巻き取り機モータ、冷却ロール用冷却装置等を備えたロール炉を用いて得ることができる。
【0021】
本発明の実施態様において前記のNd−Fe−B−Gaの急冷リボンの焼結は、例えば前記の急冷リボンを、ダイス、温度センサ、制御装置、電源装置、発熱体、電極、断熱材、金属サポート、真空チャンバ等を備えた通電加熱焼結装置を用いて通電加熱焼結する方法が挙げられる。
前記の焼結は、例えば10〜1000MPaの焼結時の面圧、450℃以上650℃以下の温度で10−2MPa以下の真空下に1〜100分間の条件で、通電加熱焼結によって行うことできる。
【0022】
前記の熱間加工は、例えば550〜720℃の温度、初期面圧10〜1000MPa、真空度10−5〜10−1Pa、0.5〜10分間の条件で行うことができる。
前記の熱間加工による加工度が大きい場合、通常強加工と呼ぶこともある。
本発明の実施態様において前記の熱間加工によって、NdFeBGaMの急冷リボンから同一配向度で比較して安価且つ高い保磁力の異方性磁石を得ることができる。
以上、本発明を本発明の実施態様に基づいて説明したが、本発明は前記実施態様に限定されることなく、特許請求の範囲に示す発明の範囲に適用し得る。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を示す。
以下の各例において急冷リボン、焼結体、熱間加工体の磁気特性は振動試料型磁力計:Vibrating Sample Magnetometer Systemによって、装置としてLake Shorc社製のVSM測定装置を用いて測定したものである。
以下の実施例において、急冷リボンの作製は図5に模式図を示す単ロール炉を用いて行った。
【0024】
実施例1および比較例1〜2
1.急冷リボンの作製
Nd、Fe、BおよびGaの原子数比が15:77:7:1となる割合でNd、Fe、BおよびGaの所定量を秤量し、アーク溶解炉にて合金インゴットを作製した。次いで、単ロール炉にて合金インゴットを高周波で溶解し、次の単ロール炉使用条件で銅ロールに噴射し急冷リボンを作製した。
単ロール炉使用条件
ノズル径 0.6mm
クリアランス 1.0mm
噴射圧力 0.4kg/cm
ロール速度 2000rpm〜3000rpm
溶解温度 1450℃
磁選により、ナノ結晶、非晶質を含むNd15Fe77Ga組成の急冷リボンを各々採取した。
採取した急冷リボンを一部サンプリングし、VSMにより磁気特性を測定した。結果を図6に示す。
この結果から、非晶質急冷リボンは、軟磁性であることを確認した。
【0025】
3種類の急冷リボン(ナノ結晶のみ、非晶質のみ、ナノ結晶:非晶質=7:3のナノ結晶+非晶質の混合物)をSPS(放電プラズマ焼結:Spark Discharge Sintering)を使用し、次の条件で焼結した。
真空度 10−3MPa
熱処理温度 570℃
昇温速度 20℃/分
保持時間 5分
焼結時面圧 100MPa
作製した各焼結体をVSMにより磁気特性を測定した。結果を図1に示す。
図1から、非晶質の急冷リボンからのものは、やや保磁力が低く、他の2つの試料に比べて結晶粒径が大きくなっていると予想されるが、十分に高い保磁力であり、微細集合組織化していると考えられる。
【0026】
得られた3種類の焼結体を使用して、次の条件で熱間加工を行った。
真空度 10−3MPa
熱処理温度 620〜660℃
昇温速度 20℃/分
保持時間 80〜100秒
初期面圧 100MPa
熱間加工の加工度は約60%であった。
作製した加工磁石の減磁曲線を図2に、図1および図2をまとめて図3に、また残留磁化および保磁力の変化を試料変形量に対してプロットしたものを図4に示す。
ナノ結晶+非晶質の混合物の試料については、試料変形量が異なる水準についても熱間加工を実施し、その傾向を分析した。
図4から、ナノ結晶+非晶質の混合物の試料について得られた傾向に対して、非晶質のみのものはMr/Msが低く、配向が進みにくいものの、保磁力がほとんど低下しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によって、高保磁力の異方性希土類磁石を提供し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯から急冷により非晶質組織とし、得られた非晶質組織の急冷薄帯を焼結、次いで熱間加工時の加熱により結晶化するとともに異方化する異方性希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
前記溶湯が、Nd−Fe−B−M組成(但し、MはTi、Zr、Cr、Mn、Nb、V、Mo、W、Ta、Si、Al、Ge、Ga、Cu、Ag又はAuであり、Ndは12at%より多く35at%以下、Nd:B(原子分率比)が1.5:1〜2.5:1の範囲、Mは0〜3at%、残部がFeである。)である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記焼結の条件が、熱処理温度450〜650℃、1〜100分間の保持時間である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱間加工の条件が、550〜720℃の温度、初期面圧10〜1000MPa、0.05〜10分間の時間である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記溶湯が、Nd15Fe77Ga組成である請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−23190(P2012−23190A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159686(P2010−159686)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】