説明

異種金属の接合方法及び接合構造

【課題】冶金的な接合が直接には困難なマグネシウム合金材と鋼材の組合せであっても、強固に接合することができる異種金属の接合方法と、このような方法によって得ることができる異種金属接合構造を提供する。
【解決手段】マグネシウム合金材1(第1の材料)と鋼材(第2の材料)を接合するに当たり、亜鉛(金属C)めっきを施した亜鉛めっき鋼板2を鋼材として使用すると共に、マグネシウム合金材1にはAl(金属D)を含有させておき、接合に際してMgとZnの共晶溶融を生じさせて、酸化皮膜1fや不純物などと共に接合界面から排出すると共に、AlMgのようなAl−Mg系金属間化合物や、FeAlのようなFe−Al系金属間化合物を生成させ、これら金属間化合物を含有する化合物層3を介して両材料1及び2の新生面同士を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合面に酸化皮膜が存在し、しかも直接的な接合が冶金的に困難な材料の組合せによる異種金属の接合方法と、このような方法により接合された異種金属の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
異種金属を接合する場合、例えばマグネシウム合金材と鋼材との組合せのように、マグネシウム合金材の表面に酸化皮膜が存在し、さらに接合時の加熱過程で鋼表面の酸化皮膜が成長するような材料の場合、大気中での接合が困難となる。
また、Fe−Mg二元状態図は二相分離型を示し、互いの固溶限(solid solubility limit)も非常に小さいことから、このような特性の材料同士を直接接合することは、冶金的に極めて困難である。
【0003】
そこで、従来、このようなマグネシウム系材料と鋼の異種金属材料を組み合わせて使用する場合には、ボルトやリベット等による機械的締結によっていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−272541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法においては、接合に用いる部品点数が増加することから、接合部材のは重量やコストが増加する点に問題があった。
【0006】
本発明は、異種金属接合における上記課題に鑑みてなされたものであり、マグネシウム合金材と鋼材のように、冶金的な接合が直接には困難な異種金属材料の組合せであっても、強固に接合することができる異種金属の接合方法を提供することを目的としている。また、本発明のさらなる目的とするところは、上記のような異種金属材料を組合せた場合においても、強固な接合が可能な異種金属の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、接合しようとする両異種金属材料間に第3の材料を介在させ、両異種金属材料の少なくとも一方との間に共晶反応を生じさせることによって、比較的低温度で酸化皮膜を接合界面から除去することができることを見出した。また、両異種金属材料の少なくとも一方との間に金属間化合物を形成する金属を添加し、接合界面にこのような金属間化合物を含む層を介在させることによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の異種金属の接合方法は、Mg(マグネシウム)を主成分とする第1の材料とFe(鉄)を主成分とする第2の材料との間に、金属Cを含有する第3の材料を介在させ、上記Mg及びFeの少なくとも一方と金属Cの間に共晶溶融を生じさせて接合する方法であって、金属Cとの間に共晶溶融を生じる金属を主成分として含有する材料中及び/又は第3の材料中に金属Dを予め添加しておき、接合に際して共晶溶融反応生成物を接合界面から排出すると共に、Mg及びFeの一方又はそれぞれと金属Dとの金属間化合物を接合界面に形成させ、この金属間化合物を含む化合物層を介して第1の材料と第2の材料を接合することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の異種金属の接合構造は、Mgを主成分とする第1の材料とFeを主成分とする第2の材料の新生面同士がMg及びFeの一方又はそれぞれと金属Dとの金属間化合物を含む化合物層を介して接合されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、Mg及びFeをそれぞれ主成分とする被接合材の間に第3の材料を介在させ、第3の材料との間で共晶溶融を生じさせることで、接合を阻害する酸化皮膜が接合界面に形成されていたとしても、低温で容易に接合界面から除去することができる。加えて、被接合材に含まれるMgやFeと金属Dとの金属間化合物を含む層が被接合材間に介在することにより、冶金的に直接接合が困難な被接合材の組合せであっても相互拡散が可能となり、強固な接合が達成されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】Mg−Zn系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図2】Mg−Sn系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図3】Mg−Cu系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図4】Mg−Ag系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図5】Mg−Ni系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図6】(A)〜(E)は本発明の異種金属の接合方法における接合過程を概略的に示す工程図である。
【図7】本発明の接合方法を適用した点接合による重ね継手の接合構造を示す概略断面図である。
【図8】Al−Mg系金属間化合物の形成を示す2元状態図である。
【図9】Fe−Al系金属間化合物の形成を示す2元状態図である。
【図10】Mg−Ga系金属間化合物の形成を示す2元状態図である。
【図11】Fe−Ga系金属間化合物の形成を示す2元状態図である。
【図12】本発明の実施例に用いた拡散接合装置の構造を示す概略図である。
【図13】(A)〜(C)は本発明の実施例3,6,8によって得られた接合界面構造を示すそれぞれ電子顕微鏡による写真である。
【図14】(A)及び(B)は本発明の実施例6及び8によって得られた接合界面に介在する金属間化合物のX線回折結果を示すチャート図である。
【図15】本発明の実施例に用いた抵抗スポット溶接装置の構造を示す概略図である。
【図16】(A)〜(C)は本発明の実施例12,13,15によって得られた接合界面構造を示すそれぞれ電子顕微鏡による写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の異種金属の接合方法、及びこれによって得られる接合構造について、さらに詳細、かつ具体的に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り、質量百分率を意味するものとする。
【0013】
本発明の異種金属の接合方法においては、上記したように、第1の材料(Mgが主成分)と第2の材料(Feが主成分)を接合するに際して、まず、両材料の間にMg及びFeの一方又は双方と共晶溶融を生じる金属Cを含有する第3の材料を介在させる。一方、Mg及びFeのうち、金属Cと共晶溶融を生じる金属を主成分として含有する方の材料及び第3の材料のいずれか一方、又は両方に金属Dを予め添加しておく。
そして、接合に際しては、加熱及び加圧によって共晶溶融を生じさせ、その反応生成物を接合界面から排出すると共に、Mgと金属Dの間及び/又はFeと金属Dとの間に金属間化合物を生成させ、このような金属間化合物を含む化合物層を介して第1の材料と第2の材料を接合するようにしている。
【0014】
したがって、被接合材の融点よりも低い温度で、接合の阻害要因である酸化皮膜を接合界面から容易に除去することができ、上記金属間化合物を含む層が介在することによって、冶金的に直接接合が困難な被接合材の組合せであっても相互拡散が可能となり、接合強度が向上することになる。
【0015】
なお、金属CがMg及びFeのいずれとも共晶溶融を生じる場合、金属Dは、第1及び第2の材料の双方に添加しても支障はないが、いずれか一方に添加すれば足りる。第3の材料に金属Dが添加してあれば、第1及び第2の材料の一方又は両方に添加したとしても差し支えはないが、第1及び第2の材料のいずれにも添加しなくても済むことは言うまでもない。
また、本発明において「主成分」とは、材料中に最も多く含まれる成分を意味するものとする。
【0016】
本発明における異種金属材料の具体的な組合せ、つまり第1及び第2の材料の具体例としては、上記したようなマグネシウム合金材と鋼材との組合せを挙げることができ、この場合、金属DとしてはAl(アルミニウム)を好適に用いることができる。また、実用的な金属の中では、上記アルミニウム以外にGa(ガリウム)を用いることができる。
すなわち、鋼材の接合面にMgと共晶溶融を生じる金属Cを含有する第3の材料を予め付着させておくと共に、マグネシウム合金材及び第3の材料の一方又は双方に金属Dとして、例えばアルミニウムを添加しておく。そして、接合に際してMgと金属Cの共晶溶融を生じさせ、これと共にマグネシウムの酸化皮膜を接合界面から排出し、Al−Mg系金属間化合物やFe−Al系金属間化合物を生成させ、当該金属間化合物を含む化合物層を介して上記マグネシウム系材料と鋼材とを接合するようになすことができる。
【0017】
このとき、金属Cとしては、Mgと共晶溶融を生じる金属でありさえすれば、特に限定されず、例えばZn、Sn、Cu、Ag及びNiを単独で、あるいはこれらの2種以上を含むものを第3の材料として用いることができる。
すなわち、図1〜5に示した合金状態図から明らかなように、Mg−Zn系合金は341℃及び364℃に2点、Mg−Sn系合金は561℃及び204℃(?)に2点の共晶点をそれぞれ有している。また、Mg−Cu系合金には485℃及び552℃に、Mg−Ag系合金には472℃に、さらにMg−Ni系合金には506℃に、それぞれMgの融点よりも低い共晶点があることが知られている。
【0018】
また、上記したように、金属Cを含む第3の材料中に金属DとしてのAlやGaを添加することもでき、具体的には金属CとしてのZnと金属DであるAlを含有する合金を第3の材料として用いることが望ましい。これによって、AlやGaを実質的に含有しないマグネシウム系材料の接合にも容易に対応することができる。
【0019】
このとき、金属Cや、金属Cと共に金属Dを含む第3の材料を鋼材の接合面に予め付着させておくための具体的手段としては、めっき、溶射、蒸着、皮膜コーティングなどの被覆手段を採用することが望ましい。
すなわち、洗浄後の清浄面に対して上記のような被覆手段により付着させることによって、共晶反応により溶融された被覆層が、表面の酸化皮膜や不純物と共に接合部周囲に排出された後は、被覆層の下から極めて清浄な新生面が現れるため強固な接合を可能とすることができる。
【0020】
この場合、鋼板としては、Mgと低融点共晶を形成するZnがその表面に予めめっきされている材料、例えば、JIS G 3302やG 3313に規定されている亜鉛めっき鋼板を用いることができる。これによって、新たにめっきを施したり、特別な準備を要したりすることもなく、防錆目的で亜鉛めっきを施した通常の市販鋼材をそのまま使用することができ、極めて簡便かつ安価に、異種金属の強固な接合を行なうことができるようになる。
【0021】
また、MgやFeと金属間化合物を形成する金属Dとして機能するAlを亜鉛めっき中に含むAl−Zn合金めっき鋼板を使用することも可能である。
この場合、当該めっき層中に含まれるAl含有量としては、質量比で65%未満、さらには5%以上60%未満であることが好ましい。すなわち、Al−Zn合金めっき層中のAl量が65%以上となると、接合界面に形成される化合物層の厚さが相対的に厚くなってくると共に、化合物の構造がFe−Al系金属間化合物の支配的な組織となったり、Fe−Al系金属間化合物とAl−Mg系金属間化合物が混在する複合構造ではなく、層状に二重構造を呈するようになったりして、接合強度が低下する傾向がある。
【0022】
なお、表面にAl−Zn合金から成るめっきを施した合金めっき鋼板がJIS G 3317(Zn−5%Al)やG 3321(55%Al−Zn)に規定されており、このような市販鋼材を適用することができ、この場合にも同様に、簡便・安価に、異種金属の強固な接合を行なうことができる。
【0023】
本発明の異種金属の接合方法は、上記のように、第1の材料(Mgが主成分)と第2の材料(Feが主成分)をMgと金属Dの金属間化合物やFeと金属Dの金属間化合物を含む化合物層を介して接合するものであり、当該化合物層に上記金属間化合物のいずれかが含まれていれば、接合が達成される。しかし、接合強度をさらに向上させる観点からは、Mg−D系金属間化合物とFe−D系金属間化合物の両者を生成させ、これらが化合物層中に混在していることが望ましい。
なお、上記したマグネシウム合金材と鋼材とを組合せ、金属DとしてAlをもちいた例では、AlMgのようなAl−Mg系金属間化合物とFeAlのようなFe−Al系金属間化合物とが混在する複合組織を備えた化合物層を形成することが望ましい。
【0024】
ここで、共晶溶融について、Mg−Zn系合金の例について説明する。
先に、図1のMg−Zn系2元状態図に示したように、Mg−Zn系には、共晶点が2点(Te1及びTe2)あり、それぞれ341℃及び364℃であり、マグネシウムの融点650℃よりも遙かに低い温度で共晶反応を生じる。
したがって、図に示した共晶点を利用してMgとZnの共晶溶融を作り出し、接合時の酸化皮膜除去に利用することによって、接合性を阻害するマグネシウムの酸化皮膜を低温で効果的に除去できると共に、接合時の界面温度をより均一に保持できるようになり、安定した接合が実施できる。
【0025】
なお、共晶溶融とは共晶反応を利用した溶融を意味し、2つの金属(又は合金)が相互拡散して生じた相互拡散域の組成が共晶組成となった場合に、保持温度が共晶温度以上であれば共晶反応により液相が形成される。
したがって、両金属の清浄面を接触させ、共晶温度以上に加熱保持すると反応が生じる。これを共晶溶融といい、共晶組成は相互拡散によって自発的達成されるため、組成のコントロールは必要ない。
【0026】
図6(A)〜(E)は、本発明による異種金属パネルの接合プロセスとして、マグネシウム合金材(第1の材料:主成分Mg)と亜鉛めっき鋼板(第2の材料:主成分Fe)との接合過程を示す概略工程図である。
まず、図6(A)に示すように、少なくとも接合界面側の表面に、Mgと共晶を形成する金属Cとして機能するZnを含む亜鉛めっき層(第3の材料)2cが施された亜鉛めっき鋼板2と、マグネシウム合金材1を用意する。そして、図6(B)に示すように、これら亜鉛めっき鋼板2とマグネシウム合金材1を亜鉛めっき層2cが内側になるように重ねる。なお、マグネシウム合金材1には、予め適量のAl(金属D)が添加されており、表面には酸化皮膜1fが生成している。
【0027】
次に、これを図6(B)に矢印で示すように、相対的な押圧や、熱的な衝撃の負荷や加熱による塑性変形などによって、局部的に酸化皮膜1fが破壊される。
このように酸化皮膜1fが破壊されると、MgとZnの局部的な接触が起こり、所定の温度状態に保持されると、図6(C)に示すように、MgとZnの共晶溶融Eが生じ、マグネシウム合金材1の表面の酸化皮膜1fが順次効果的に除去される。
【0028】
そして、図6(D)に示すように、押圧によって共晶溶融生成物Eと共に酸化皮膜1fや接合界面の不純物(図示せず)が接合部周囲に排出される。この時、接合界面では共晶溶融によりZnと共にMgが優先的に溶融、排出され、その結果、マグネシウム合金中に添加されたAl成分が取り残され、接合界面だけ相対的にAlリッチな相ができ、さらにこのAl原子がFe及びMgと反応し、Al−Mg系やFe−Al系の金属間化合物を含む化合物層3が形成される。
【0029】
さらに、接合時間が経過すると、図6(E)に示すように、界面に形成したMg−Zn共晶溶融生成物が完全に排出され、接合界面には上記のような金属間化合物を含む化合物層3を介してマグネシウム合金材1と鋼版2との強固な接合が完了する。
この例では、接合後の接合界面には亜鉛層が残存せず、これがマグネシウム合金材1と鋼版2の強固な接合が得られる要因であるが、これには所定の押圧や、反応や排出に要する温度や時間、さらには亜鉛めっき鋼板2の亜鉛めっき層2cの厚さが共晶反応に消費される量に見合ったものであることが必要となる。
【0030】
図7は、上記した方法を適用した実用的な点接合による接合継手の接合部構造を示すものであって、少なくとも接合界面側の表面には金属Cとしての亜鉛めっき層2cが施された亜鉛めっき鋼板2に、マグネシウム合金材1がその表面に酸化皮膜1fが生成された状態で重ねられている。
そして、接合面には前述したように、Al−Mg系金属間化合物(例えばAlMg)やFe−Al系金属間化合物(例えばFeAl)を含む化合物層3が形成され、これを介してマグネシウム合金材1と鋼板2が接合されている。そして、この接合部を囲むように、亜鉛めっき鋼板2の亜鉛を含む共晶溶融物と共に酸化皮膜1fに由来する酸化物や接合界面の不純物などが排出され、両板材1,2の間に排出物Wとなって介在している。
【0031】
なお、上記においては、金属C及び金属Dとして、それぞれZn及びAlを用いた例を示したが、上記したように、金属Cとしては、Znの他にSnやCu、Ag、Niなどを用いることができ、金属Dとしては、Al以外にはGaを用いることができる。
このような場合においても、共晶温度や生成される金属間化合物が金属Cや金属Dの種類に応じて変化するものの、接合原理や効果についてはZn及びAlを用いた場合と基本的に変わることはない。
【0032】
図8〜11は、それぞれAl−Mg系、Fe−Al系、Mg−Ga系及びFe−Ga系の2元合金状態図を示すものであって、これら両金属の間に、AlMg、FeAl、MgGa、FeGa等の金属間化合物が生成されることが判る。
【0033】
また、本発明の異種金属接合方法に適用する接合手段(加熱手段)としては、接合界面の温度を精密にコントロールできる接合方法であれば特に限定はない。例えば、抵抗スポット溶接、レーザ溶接、高周波溶接などの溶融接合から、摩擦攪拌接合、超音波接合、拡散接合などの固相接合まで、通常用いられている装置や設備を用いることができ、このための新たな熱源を準備することなく、既存の設備で済むことから経済的である。
【0034】
本発明の異種金属の接合構造は、第1の材料(主成分:Mg)と第2の材料(主成分:Fe)の新生面同士がMgと金属Dの金属間化合物やFeと金属Dの金属間化合物を含む化合物層を介して接合されたものであり、本発明の上記接合方法によって得ることができる。
【0035】
このとき、例えば重ね接合においては、図7に示したように、Mg及びFeの少なくとも一方と金属Cの間に形成された共晶溶融反応生成物や、酸化皮膜に由来する酸化物などを含む排出物Wが接合部、すなわち化合物層3の周囲に排出され、両材料1,2間に介在することになる。なお、上記排出物Wには、接合界面の不純物や、被接合材に含まれる成分、余剰の金属Cなども含まれることがある。
一方、突き合わせ接合においては、排出物Wを接合界面から周囲に排出して、接合部材から完全に除去することも可能である。
【0036】
第1の材料がマグネシウム合金材であり、第2の材料が鋼材であって、金属Dが例えばAlである場合、マグネシウム合金材と鋼材の新生面同士がAl−Mg系やFe−Al系の金属間化合物を含む化合物層を介して接合された構造となる。
【0037】
このとき、接合強度を向上させる観点からは、化合物層にAl−Mg系金属化合物とFe−Al系金属間化合物の両方が含まれ、AlMgとFeAlから成る複合組織を備えていることが望ましい。
【0038】
一方、金属DがGaである場合、マグネシウム合金材と鋼材の新生面同士がMg−Ga系やFe−Ga系の金属間化合物を含む化合物層を介して接合された構造となる。
【0039】
このとき、接合強度を向上させる観点からは、化合物層にMg−Ga系金属化合物とFe−Ga系金属間化合物の両方が含まれ、MgGaとFeGaから成る複合組織を備えていることが望ましい。
【0040】
なお、これら化合物層の厚さとしては、0.08μm以上、望ましくは2.5μm以下であることが好ましい。すなわち、化合物層の厚さが0.08μmに満たない場合、接合面内に接合部と未接合部が局部的に混在した不連続な接合状態となり、十分な接合強度が得られなくなるという不都合が生じることがある。このため、接合面内を均一で確実な接合状態とするには、化合物層の厚さを0.08μm以上とすることが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0042】
第1の材料としてMgを主成分とするマグネシウム材と第2の材料としての鋼板との異種金属接合を行うに際して、鋼材としては、裸鋼板と、亜鉛(金属C)めっきを施した亜鉛めっき鋼板を用いた。一方、マグネシウム材としては、純マグネシウムと、Al(金属D)の添加量の異なる3種のマグネシウム合金を用意し、これら鋼材とマグネシウム材とを種々の条件で接合し、得られる界面構造と強度の関係を調査した。
【0043】
図12は、当該実施例に用いた接合装置の構造を示す概略図であって、図に示す接合装置20は、一般的な拡散接合装置であり、加熱炉21と、この加熱炉21内の雰囲気温度を調整する温度制御装置22と、加圧装置23を備えている。
そして、加熱炉21内にセットした円柱形のマグネシウム材11と逆U字状に成形した鋼材12を所定の加圧力で加圧しながら、温度制御装置22により各温度に制御し、それぞれの時間だけ保持した後、加熱を中止して空冷した。
【0044】
接合条件としては、加圧力を5MPaとし、接合温度を425〜500℃、接合時間を5〜60分の範囲内で変化させ、接合後は継手強度を測定するため、T字引張試験を行い、引張強度を測定した。
一方、接合部界面の化合物層の組成、厚さなどを走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分光法、X線回折装置により調査した。これらの結果を表1に示す。なお、表中においては、引張強度について、30MPaに満たないものを「△」、30〜50MPa未満のものを「●」、50〜70MPaのものを「○」、70MPaを超えるものを「◎」と評価した。また、接合できないものについては「×」と表記した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すように、比較例1〜4においては、鋼材として亜鉛めっきがされていない裸鋼板を用いたことから、Mg−Zn共晶溶融が生じないために、マグネシウム材表面の酸化皮膜が除去できず、接合条件を種々変更しても接合できなかった。
比較例5では、鋼材には亜鉛めっきがされた亜鉛めっき鋼板を用いているため、Mg−Zn共晶溶融によってマグネシウム材表面の酸化皮膜が除去できたものの、マグネシウム材がAl添加のない純マグネシウムであるために、接合界面に化合物層が形成されず、良好な接合ができない結果となった。
【0047】
また、比較例6〜8においては、接合温度が低く、接合時間も比較的短いことから、マグネシウム材のAl含有量が多い場合には、Fe−Al系金属間化合物が若干形成されるものの、いずれもMg−Zn共晶反応生成物を接合界面から排除することができず、接合強度が低い結果となった。
【0048】
これに対し、実施例1〜4は、鋼材として亜鉛めっき鋼板を用い、マグネシウム合金材として3%Al−Mg合金を用いた例である。
これら実施例においては、マグネシウム合金材のAl添加量が3%とやや低いため、接合界面にはFeAlが形成されているものの、AlMgは形成されず、また、本実施例のように拡散接合を用いた場合には、その平均厚さが0.5μmに満たず、不連続に形成されていることから、接合は達成できるものの、接合強度が僅かに低い結果となった。
【0049】
また、鋼材として亜鉛めっき鋼板を用い、マグネシウム合金材として6%Al−Mg合金及び9%Al−Mg合金を用いた実施例5〜11においては、Al添加量が十分であるため、特に実施例5,6,9,10においては、接合界面にAlMgとFeAlから成る複合型の化合物層が形成された。しかも、その厚さがいずれも0.5μm以上で、均一に形成されているため、引張強度が70MPaを超えるような高い接合強度が得られることが確認された。
一方、接合時間が長くなると、化合物層の全体の厚さが厚くなると共に、時間の経過と共にMgの拡散が進むことから、一旦形成されたAlMgとFeAlから成る複合型化合物層がFeAlの単層の化合物層に変化するようになる。この場合、化合物層と鋼側の結合力は強いが、化合物層とマグネシウム側の結合力が十分ではなくなるため、特に実施例8や11のように接合強度がやや低下する傾向が認められた。
【0050】
図13(A)〜(C)は、本発明の接合構造の代表例として、実施例3,6,8の接合界面を走査型電子顕微鏡によって観察した結果をそれぞれ示すものである。
また、図14(A)及び(B)は、上記実施例6及び8における接合界面に介在する金属間化合物のX線回折結果を示すチャート図である。
【0051】
すなわち、実施例3の接合界面には、図13(A)に示すように、FeAlのみが形成されており、しかもその平均厚さは0.5μmに満たない薄さに不連続に形成されているため、接合強度がやや不十分となったものと考えられる。
一方、図13(B)は、本発明の実施例6の接合部を示す電子顕微鏡による組織であって、接合界面には、図14(A)に示すX線回折による組成分析結果からも明らかなように、AlMgとFeAlから成る複合型の化合物層が均一に形成されており、実施例中で最も高強度が得られたことが理解できる。
【0052】
そして、図13(C)は、本発明の実施例8における接合部を示す電子顕微鏡による組織である。接合界面には、図14(B)に示すX線回折による組成分析結果から判るように、FeAlから成る単層の化合物層がやや厚めに均一に形成されているが、マグネシウム合金材と化合物層との結合力が十分に得られないため、若干の接合強度低下が生じているものと考えられる。
【0053】
上記実施例においては、接合工法として拡散接合を用い、金属DとしてのAlを添加したマグネシウム合金を第1の材料、亜鉛めっき鋼板を第2の材料として用いた例を示した。
これに対し、以下には、金属DとしてのAlと金属CとしてのZnをあらかじめ合金化した金属を鋼板にめっきした亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、又はアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を第2の材料として用い、抵抗スポット溶接機によって接合した例を示す。
【0054】
同様に、マグネシウム材と鋼との異種金属接合を行うに際して、鋼材としては、亜鉛(金属C)めっきを施した亜鉛めっき鋼板、Al(金属D)の添加量の異なる4種の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、及びZnを含有しないAlのみのめっきを施したアルミニウムめっき鋼板を用いた。
一方、マグネシウム材としては、Al(金属D)の添加量の異なる2種のマグネシウム合金を用意し、これら鋼材とマグネシウム材とを、本実施例では抵抗スポット溶接を用い、種々の条件で接合し、得られる界面構造と強度の関係を調査した。なお、マグネシウム合金材の板厚は1.0mm、鋼板の板厚は0.55mmのものを用いた。
【0055】
図15は、当該実施例に用いた接合装置の構造を示す概略図であって、図に示す接合装置30は、一般的な抵抗スポット溶接装置である。
図において、接合装置30は、1対の電極33を備え、当該電極33により被接合材であるマグネシウム合金材31と種々のめっきが施された鋼板32を所定の加圧力で加圧しながら、交流電源34により所定時間だけ通電し、接合界面の電気抵抗による発熱を利用して接合することができる。なお、電極33としては、クロム銅から成り、先端曲率半径Rが40mmのものを用いた。
【0056】
接合条件としては、加圧力を3kNとし、接合時間を0.24sec、溶接電流を16000〜30000Aの範囲内とし、接合後は継手強度を測定するため、引張せん断試験を行い、接合強度を測定した。
一方、接合部界面の化合物層の組成、厚さなどを走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分光法、X線回折装置により調査した。
【0057】
これらの結果を表2に示す。なお、表中の接合強度については、2.5kNに満たないものを「×」、2.5〜3.0kN未満のものを「●」、3.0〜3.5kNのものを「○」、3.5kNを超えるものを「◎」と評価した。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示すように、比較例9及び10においては、鋼材としてアルミニウムめっき鋼板を用い、亜鉛が存在しないため、酸化皮膜の円滑な排出ができなかった。また、アルミニウム量が多すぎるため、接合界面にはAlMgとFeAlとが混在した複合型の化合物層は形成されずに2層構造となり、しかもFeAlが厚い化合物層を形成するため、化合物層の全体厚さが2.5μmを超えることから、接合強度は低くなり、良好な接合ができない結果となった。
【0060】
一方、実施例12及び実施例16は、先の実施例と同様に、鋼材として亜鉛めっき鋼板を用い、マグネシウム合金材としてそれぞれ3%Al−Mg合金及び6%Al−Mg合金を用いた例である。
これら実施例においては、マグネシウム合金材のAl添加量が有効に作用し、その厚さはやや薄いものの、接合界面にはAlMgとFeAlが混在して成る複合型化合物層が形成され、有効な接合がなされた。この場合の化合物層の厚さは、実施例12では0.08〜0.12μm、実施例16では0.2μm程度であった。
【0061】
これに対し、実施例13〜15、及び実施例17〜19は、鋼材として亜鉛とアルミニウムの合金をめっきした亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板又はアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を用い、マグネシウム合金材として3%Al−Mg合金又は6%Al−Mg合金を用いた例である。
これら実施例においてはAl添加量が十分であるため、接合界面にAlMgとFeAlが混在して成る複合型の化合物層が形成された。しかも、その厚さが0.3〜1.2μmで、均一に形成されているため、接合強度が3.5kNを超えるような極めて高い接合強度が得られることが確認された。
【0062】
また、実施例20及び21は、鋼材としてめっき層中のAl含有量が65%と高いアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を用いた例である。
これらの場合、アルミニウム量が多すぎるため、接合界面には上記のような複合型化合物層は形成されず、AlMgとFeAlが主体の二重構造の厚い化合物層となって、化合物層の全体厚さが2μm以上となることから、接合強度がやや低い結果となった。
【0063】
図16(A)〜(C)は、本発明の接合構造の代表例として、実施例12,13及び15の接合界面を走査型電子顕微鏡によって観察した結果をそれぞれ示すものである。
すなわち、実施例12の接合界面には、図16(A)に示すように、AlMgとFeAlが混在した複合型の化合物層が、約0.1μmの厚さに、きわめて薄く均一に形成されており、良好な接合強度が得られたことが理解できる。
【0064】
同様に、図16(B)は、本発明の実施例13の接合部を示す電子顕微鏡による組織であって、接合界面には、AlMgとFeAlから成る複合型の化合物層が、約0.4μmの厚さに均一に形成されており、実施例中で最も高強度が得られたことが理解できる。
そして、図16(C)は、本発明の実施例15における接合部を示す電子顕微鏡による組織である。接合界面には接合界面には、AlMgとFeAlから成る複合型の化合物層が、約1.0μmの厚さで、確実に形成されており、同様に高強度が得られたことが理解できる。
【0065】
上記実施例においては、金属CとしてZnを用い、金属DとしてAlを用いた例を示したが、以下に、金属CとしてSn、Cu、Agを用いた例と、金属DとしてGaを用いた例について示す。あらかじめ合金化した金属を鋼板にめっきした亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、又はアルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板を第2の材料として用い、抵抗スポット溶接機によって接合した例を示す。
【0066】
すなわち、図15に示した溶接装置30を用い、同様の条件のもとにマグネシウム合金材と鋼との抵抗スポット溶接による異種金属接合を行うに際して、鋼材としては、それぞれすずめっき、銅メッキ及び銀メッキを施しためっき鋼板を用い、3%及び6%のAlを含有するマグネシウム合金材と組合せた。また、亜鉛めっき鋼板と20%及び40%のGaを含有するマグネシウム合金材とを組合せた接合も実施し、これらの結果を表3に示す。
なお、マグネシウム合金材及び鋼材の板厚は、それぞれ1.0mm及び0.55mmであり、接合強度の評価基準についても、上記した抵抗スポット溶接の場合と同様である。
【0067】
【表3】

【0068】
実施例22〜27の結果から明らかなように、金属CとしてSn、Cu、Agを用いた場合でも、Znの場合と同様に、AlMgとFeAlから成る複合型の化合物層が形成され、同等の接合強度が得られることが確認された。
また、実施例28及び29の結果から、金属DとしてAlに替えてGaを用いても、同様にMgGaやFeGa等の金属間化合物を含む複合型の化合物層が形成され、同等の接合強度が得られることが判明した。
【符号の説明】
【0069】
1 マグネシウム合金材(第1の材料)
1f 酸化皮膜
2 亜鉛めっき鋼板(第2の材料)
2c 亜鉛めっき層(第3の材料)
3 化合物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mgを主成分とする第1の材料とFeを主成分とする第2の材料の間に、金属Cを含有する第3の材料を介在させ、上記Mg及びFeの少なくとも一方と金属Cの間に共晶溶融を生じさせ、共晶溶融による反応生成物を接合界面から排出して第1の材料と第2の材料を接合するに際して、
上記第1の材料及び第2の材料のうち、金属Cとの間に共晶溶融を生じる金属を主成分として含有する材料及び/又は第3の材料中に金属Dを添加しておき、Mg及びFeの一方又はそれぞれと金属Dとの金属間化合物を接合界面に形成し、当該金属間化合物を含む化合物層を介して上記第1及び第2の材料を接合することを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
上記化合物層には、Mgと金属Dとの金属間化合物と、Feと金属Dとの金属間化合物とが混在していることを特徴とする請求項1に記載の異種金属の接合方法。
【請求項3】
上記第1の材料がマグネシウム合金材、第2の材料が鋼材、金属DがAl及び/又はGaであって、上記鋼材の接合面にMgと共晶溶融を生じる金属Cを含有する第3の材料を予め付着させておくことを特徴とする請求項1又は2に記載の異種金属の接合方法。
【請求項4】
上記第3の材料がめっき、溶射、蒸着、皮膜コーティングなどの被覆手段により鋼材の接合面に付着させてあることを特徴とする請求項3に記載の異種金属の接合方法。
【請求項5】
上記第3の材料に含有されている金属Cが、Zn、Sn、Cu、Ag及びNiから成る群より選ばれた少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項6】
上記第3の材料が、金属CとしてのZnと金属DとしてのAlを含む合金であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項7】
第2の材料として、予め接合面にAl−Zn合金をめっきしたAl−Znめっき鋼板を用いることを特徴とする請求項6に記載の異種金属の接合方法。
【請求項8】
上記Al−Znめっき鋼板におけるめっき層中のAl含有量が65質量%未満であることを特徴とする請求項7に記載の異種金属の接合方法。
【請求項9】
Mgを主成分とする第1の材料とFeを主成分とする第2の材料の新生面同士がMg及びFeの一方又はそれぞれと金属Dとの金属間化合物を含む化合物層を介して接合されていることを特徴とする異種金属の接合構造。
【請求項10】
上記化合物層の周囲にMg及びFeの少なくとも一方と金属Cの間に形成された共晶溶融反応生成物を含む排出物が排出されていることを特徴とする請求項9に記載の異種金属の接合構造。
【請求項11】
上記第1の材料がマグネシウム合金材、第2の材料が鋼材、金属DがAl及び/又はGaであることを特徴とする請求項9又は10に記載の異種金属の接合構造。
【請求項12】
上記金属DがAlであって、マグネシウム合金材及び鋼材の新生面同士がAl−Mg系及び/又はFe−Al系金属間化合物を含む化合物層を介して接合されていることを特徴とする請求項11に記載の異種金属の接合構造。
【請求項13】
上記化合物層がAlMgとFeAlを含む複合組織を備えていることを特徴とする請求項12に記載の異種金属の接合構造。
【請求項14】
上記金属DがGaであって、マグネシウム合金材及び鋼材の新生面同士がMg−Ga系及び/又はFe−Ga系金属間化合物を含む化合物層を介して接合されていることを特徴とする請求項11に記載の異種金属の接合構造。
【請求項15】
上記化合物層がMgGaとFeGaを含む複合組織を備えていることを特徴とする請求項14に記載の異種金属の接合構造。
【請求項16】
上記化合物層の平均厚さが0.08μm以上であることを特徴とする請求項12〜15のいずれか1つの項に記載の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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