説明

異音判定装置

【課題】車両の速度等の走行条件を確認しながら異音の発生の有無を判定することにより判定の精度を向上させることのできる異音判定装置を提供すること。
【解決手段】異音判定装置10は、車両1の車内で集音する車内音計測器20と、前記車両が所定の走行条件を保って走行しているか否かを判定する走行状況判定部44と、前記走行状況判定部により前記走行条件が保たれている状態で、前記車内音計測器により計測された車内音データに基づいて異音が発生したか否かを判定する異音発生判定部53と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異音判定装置に関する。詳しくは、車両の走行によって発生する音が異音であるか否かを判定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、異音判定装置は、自動車工場の完成車の検査工程で用いられている。例えば石畳のような検査コースを走行させたときに異音が発生した車両を不良品とすることで、その車両が市場に出て行くことを防止する。
【0003】
このような異音判定装置は、従来から存在する(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、車両を走行させたときに集音した集音データを複数の周波数帯域に分割し、任意の周波数帯域の音圧が所定の閾値を超えた場合に異音と判定する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−221740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両の走行によって発生する音は速度等の走行条件によって大きく異なる。そのため、検査のために走行速度を設定しておいても、仮に設定速度よりも遅い速度で車両を走行させた場合は、実際に異音が発生した場合であっても、音圧の所定の閾値を超えないことがある。その場合は、異音の発生なしと判定されるため、判定の信頼性を欠くという課題がある。
【0006】
また、仮に設定速度よりも速い速度で車両を走行させた場合は、実際には異音が発生しない場合であっても、音圧の所定の閾値を超える音が発生することがある。その場合は、異音の発生ありと判定されるため、判定の信頼性を欠くという課題がある。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、車両の速度等の走行条件を確認しながら異音の発生の有無を判定することにより判定の精度を向上させることのできる異音判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の異音判定装置(例えば、後述の異音判定装置10)は、車両(例えば、後述の車両1)の車内で集音する車内音計測部(例えば、後述の車内音計測器20)と、前記車両が所定の走行条件を保って走行しているか否かを判定する走行状況判定部(例えば、後述の走行状況判定部44)と、前記走行状況判定部により前記走行条件が保たれている状態で、前記車内音計測部により計測された車内音データに基づいて異音が発生したか否かを判定する異音発生判定部(例えば、後述の異音発生判定部53)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、走行状況判定部により車両の走行条件が保たれていることを確認しながら異音の発生の有無を判定する。したがって、判定の精度を向上させることができる。
【0010】
この場合、前記走行条件はあらかじめ決められた複数の異なる範囲を有し、前記異音発生判定部による判定条件は前記各範囲に応じて変動することが好ましい。
【0011】
この発明によれば、車両の走行条件が変動するのに応じて異音発生判定部による異音判定閾値も変動する。したがって、判定の精度を向上させることができる。
【0012】
この場合、前記異音発生判定部は、前記車内音計測部により計測された車内音データをあらかじめ決められた時間間隔毎に平均値化したデータを用いて、所定の閾値を超える平均値が所定回数に達した場合に異音が発生したと判定することが好ましい。
【0013】
この発明によれば、短い時間間隔中の音圧データの平均値が閾値を超えた回数が所定回数に達した場合に、異音が発生したと判定する。そのため、短い間欠音が何回も発生するような場合にそれを異音として確実に判定することができる。したがって、判定の精度を向上させることができる。
【0014】
この場合、前記車両の車外で集音する環境音計測部(例えば、後述の環境音計測器30)をさらに備え、前記環境音計測部により所定の閾値を超え、かつ所定の時間よりも短い環境音データが計測された場合に、前記異音発生判定部は、当該環境音データの発生タイミングで前記車内音計測部により計測された車内音データを削除し、または当該車内音データから当該環境音データを減算したデータを用いて異音が発生したか否かを判定することが好ましい。
【0015】
この発明によれば、異音発生判定部は、突発的環境音データの発生タイミングで計測された車内音データを削除し、またはその車内音データから突発的環境音データを減算したデータを用いて、異音が発生したか否かを判定する。したがって、判定の精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、走行状況判定部により車両の走行条件が保たれていることを確認しながら異音の発生の有無を判定する。したがって、判定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る異音判定装置を適用した車両の概略的平面図である。
【図2】図1に示す異音判定装置を示すブロック図である。
【図3】図2に示す制御装置による動作の第1実施形態を示すフローチャートである。
【図4】図3に示す実施形態の場合の周波数と音圧との関係を示すグラフである。
【図5】図2に示す制御装置による動作の第2実施形態を示すフローチャートである。
【図6】図5に示す実施形態の場合の周波数と音圧との関係を示すグラフである。
【図7】図5に示す実施形態の場合の速度と閾値との関係を示すグラフである。
【図8】図2に示す制御装置による動作の第3実施形態を示すフローチャートである。
【図9】図2に示す制御装置による動作の第4実施形態を示すフローチャートである。
【図10】図2に示す制御装置による動作の第5実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る異音判定装置10を適用した車両1の概略的平面図、図2は異音判定装置10を示すブロック図である。異音判定装置10は、車両1を、例えば図1に示す石畳のような検査コースを走行させたときに異音が発生するか否かを判定する。
【0019】
図1、図2に示すように、異音判定装置10は、車両1の車内に配置される車内音計測部としての車内音計測器20と、車両1の車外に配置される環境音計測部としての環境音計測器30と、制御装置40と、出力装置60とを備える。
【0020】
車内音計測器20は、前部集音器21aと、後部集音器21bと、車内音データ処理部22と、出力部23とを備える。前部集音器21aは、車両1の前部に配置され、前部の車内音を集音する。後部集音器21bは、車両1の後部に配置され、後部の車内音を集音する。車内音データ処理部22は、前部集音器21aにより集音された前部の車内音と、後部集音器21bにより集音された後部の車内音とを、所定の方法でデータ処理する。出力部23は、車内音データ処理部22により処理された車内音データを制御装置40へ出力する。
【0021】
環境音計測器30は、第1集音器31a〜第n集音器31nと、環境音データ処理部32と、出力部33とを備える。第1集音器31a〜第n集音器31nは、車両1の走行路の両側に所定の間隔で配置され、走行路の環境音を集音する。環境音データ処理部32は、第1集音器31a〜第n集音器31nにより集音された環境音を所定の方法でデータ処理する。出力部33は、環境音データ処理部32により処理された環境音データを制御装置40へ出力する。
【0022】
制御装置40は、速度設定部41と、速度制御部42と、速度データ保存部43と、走行状況判定部44と、閾値データベース50と、車内音データ保存部51と、車内音データ処理部52と、異音発生判定部53と、環境音データ保存部54とを備える。
【0023】
速度設定部41は、車両1の走行条件の一例としての走行速度を設定する。速度制御部42は、速度設定部41により設定された速度で車両1が走行するように車両1の駆動系2を制御する。速度データ保存部43は、駆動系2から伝えられる車両1の速度データを保存つまり記憶する。走行状況判定部44は、速度データ保存部43に保存される車両1の速度データにより車両1が所定の走行条件つまり走行速度を保って走行しているか否かを判定する。
【0024】
閾値データベース50には、車両1の走行条件に応じて種々の閾値が保存つまり記憶されている。例えば、車両1の走行速度が比較的低速の場合は、異音発生判定部53が異音発生の有無を判定するのに用いる異音判定閾値は比較的小さい。一方、車両1の走行速度が比較的高速の場合は、異音発生判定部53が用いる異音判定閾値は比較的大きい。このように、異音発生判定部53が用いる異音判定閾値と車両1の走行速度との間には相関がある。そのため、石畳や悪路等の検査コースを、車両1を実際に走行させてどのような異音が発生するかを実験する。その結果に基づいて、車両1の走行速度と異音発生判定部53が用いる異音判定閾値との関係をデータベース化したものが閾値データベース50である。
【0025】
車内音データ保存部51は、車内音計測器20の出力部23から伝えられる車両1の車内音データを保存つまり記憶する。車内音データ処理部52は、車内音データ保存部51に保存される車両1の車内音データを処理する。
【0026】
すなわち、車内音データ処理部52は、例えば、車両1の車内音データを複数の周波数ブロック(帯域)に分割する。また、例えば、車両1の車内音データをあらかじめ決められた時間間隔毎に平均値化する。さらに、後述するように、例えば突発的環境音が発生した場合、その突発的環境音が発生したタイミングにおける車内音データを削除するか、または、その車内音データから突発的環境音を減算する。突発的環境音とは、所定の閾値を超え、かつ所定の時間よりも短い環境音のことである。
【0027】
異音発生判定部53は、走行状況判定部44により走行条件が保たれていることが確認されている状態で、車内音計測器20により計測された車内音データに基づいて異音が発生したか否かを判定する。すなわち、異音発生判定部53は、走行状況判定部44により確認されている走行条件に応じて対応する閾値を閾値データベース50から取得する。この閾値と車両1の車内音データとを比較して異音が発生したか否かを判定する。
【0028】
環境音データ保存部54は、環境音計測器30の出力部33から伝えられる車両1の環境音データを保存つまり記憶する。そのため、上述の突発的環境音のデータも環境音データ保存部54に保存される。突発的環境音が発生した場合、異音発生判定部53は、車内音データ処理部52によりその突発的環境音データの発生タイミングで車内音計測器20により計測された車内音データを削除し、またはその車内音データから突発的環境音データを減算したデータを用いて異音が発生したか否かを判定する。
【0029】
出力装置60は、異音発生判定部53により判定された結果を出力する。例えば、異音発生判定部53による異音発生ありの判定結果、または異音発生なしの判定結果を適宜の表示画面に表示する。
【0030】
次に、図3に示すフローチャートを参照して制御装置40による動作の第1実施形態を説明する。
まず、ステップS1では、制御装置40により車両1を所定の走行条件で走行させる。すなわち、速度設定部41により設定された速度で車両1が走行するように速度制御部42により車両1の駆動系2を制御する。具体的には、車両1を例えば時速10kmで走行させる。
【0031】
ステップS2では、集音器21a、21bを作動させる。車内音計測器20の前部集音器21aを作動させて集音された前部の車内音と、後部集音器21b作動させて集音された後部の車内音とを処理した車内音データを制御装置40へ出力する。
【0032】
ステップS3では、制御装置40により車両1の走行速度が所定の下限値と上限値との間にあるか否かを判定する。具体的には、車両1を時速10kmで走行させる場合の下限値は例えば時速8km、上限値は例えば時速12kmとする。
この判定がYESの場合は、ステップS4に移り、NOの場合は、ステップS12に移る。
【0033】
ステップS4では、制御装置40により音圧データを複数の周波数ブロックに分割する。すなわち、車内音計測器20から得られる車内音データは、図4に示すように、例えば横軸に周波数をとり、縦軸に音圧(振幅)をとるグラフで表される。このグラフにおいて、周波数を複数のブロック(帯域)に分割する。具体的には、A〜Dの4つのブロックに分割する。
【0034】
ステップS5では、制御装置40により音圧データを周波数ブロック毎に閾値と比較する。すなわち、図4に示すように、Aブロックの音圧データをAブロックの閾値Tと比較する。Bブロックの音圧データをBブロックの閾値Tと比較する。Cブロックの音圧データをCブロックの閾値Tと比較する。Dブロックの音圧データをDブロックの閾値Tと比較する。これらの閾値T、T、T、Tは閾値データベース50に保存されている。
【0035】
ステップS6では、制御装置40により1ブロックでも音圧データが閾値を超えたか否かを判定する。具体的には、図4に示すグラフG1の場合、A、B、C、Dのすべてのブロックで音圧データは閾値T、T、T、Tをそれぞれ下回っている。一方、グラフG2の場合、Aブロックの音圧データはAブロックの閾値Tを超えている。残りのB、C、Dの3つのブロックの音圧データは閾値T、T、Tをそれぞれ下回っている。
この判定がYESの場合は、ステップS7に移り、NOの場合は、ステップS8に移る。
【0036】
ステップS7では、制御装置40により異音発生ありと判定する。具体的には、図4に示すグラフG2の場合は異音発生ありと判定する。
【0037】
一方、ステップS6の判定がNOで、ステップS8に移った場合、ステップS8では、制御装置40により検査時間が終了したか否かを判定する。すなわち、検査時間はあらかじめ決められていて、この検査時間が途中なのか終了したのかを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS9に移り、NOの場合は、ステップS10に移る。
【0038】
ステップS9では、制御装置40により異音発生なしと判定する。具体的には、図4に示すグラフG1の場合は異音発生なしと判定する。
【0039】
一方、ステップS8の判定がNOで、ステップS10に移った場合、ステップS10では、制御装置40により車両1の走行速度が所定の下限値と上限値との間にあるか否かを判定する。具体的には、車両1が下限値である時速8kmと上限値である時速12kmとの間の速度で走行しているか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS4に戻り、NOの場合は、ステップS11に移る。
【0040】
ステップS11では、制御装置40により検査やり直しと判定する。この場合は、ステップS3の判定がYESであり、ステップS10の判定がNOとなった。具体的には、ステップS3では下限値である時速8kmと上限値である時速12kmとの間の速度で車両1は走行していたが、ステップS10では車両1の走行速度が時速8kmを下回るかまたは時速12kmを上回った。すなわち、車両1の走行速度が設定範囲から外れたため検査やり直しと判定する。
【0041】
一方、ステップS3の判定がNOで、ステップS12に移った場合、ステップS12では、制御装置40により検査時間が終了したか否かを判定する。すなわち、あらかじめ決められた検査時間が途中なのか終了したのかを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS11に移り、NOの場合は、ステップS3に戻る。
【0042】
ステップS11では、制御装置40により検査やり直しと判定する。この場合は、車両1の走行速度が検査時間の開始から終了まで1度も設定範囲内に入らなかったため検査やり直しと判定する。
【0043】
本実施形態の場合、図8に示す実施形態で後述するように、突発的環境音の発生にともなって車内音データからその突発的環境音による影響をキャンセルすることが可能である。
【0044】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)走行状況判定部44により車両1の速度等の走行条件が保たれていることを確認しながら異音の発生の有無を判定する。したがって、判定の精度を向上させることができる。
【0045】
次に、図5に示すフローチャートを参照して制御装置40による動作の第2実施形態を説明する。
まず、ステップS21では、制御装置40により車両1を所定の走行条件で走行させる。具体的には、車両1を例えば時速5km〜40kmの任意の速度で走行させる。
【0046】
ステップS22は、図3に示すフローチャートのステップS2と同様のものであるので、説明を省略する。
【0047】
ステップS23では、制御装置40により車両1の走行速度が所定の範囲内にあるか否か、すなわち、速度Aより速くて速度Bより遅い範囲にあるか否かを判定する。具体的には、車両1の走行速度が例えば時速5kmより速くて時速10kmより遅い範囲にあるか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS24に移り、NOの場合は、ステップS30に移る。
【0048】
ステップS24では、制御装置40により音圧データを複数の周波数ブロックに分割する。すなわち、車内音計測器20から得られる車内音データを表す図6(a)に示すようなグラフGaにおいて、周波数を複数のブロック(帯域)に分割する。具体的には、A〜Dの4つのブロックに分割する。
【0049】
ステップS25では、制御装置40により音圧データを周波数ブロック毎に閾値と比較する。これについては後述する。
【0050】
ステップS26では、制御装置40により1ブロックでも音圧データが閾値を超えたか否かを判定する。これについては後述する。
この判定がYESの場合は、ステップS27に移り、NOの場合は、ステップS28に移る。
【0051】
ステップS27、S28、S29は、図3に示すフローチャートのステップS7、S8、S9とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0052】
一方、ステップS23の判定がNOで、ステップS30に移った場合、ステップS30では、制御装置40により車両1の走行速度が所定の範囲内にあるか否か、すなわち、速度Bより速くて速度Cより遅い範囲にあるか否かを判定する。具体的には、車両1の走行速度が例えば時速10kmより速くて時速20kmより遅い範囲にあるか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS31に移り、NOの場合は、ステップS34に移る。
【0053】
ステップS31では、制御装置40により音圧データを複数の周波数ブロックに分割する。すなわち、車内音計測器20から得られる車内音データを表す図6(b)に示すようなグラフGbにおいて、周波数を複数のブロック(帯域)に分割する。具体的には、A〜Dの4つのブロックに分割する。
【0054】
ステップS32、S33は、ステップS25、S26とそれぞれ同様のものであるので、これについては後述する。
【0055】
一方、ステップS30の判定がNOで、ステップS34に移った場合、ステップS34では、制御装置40により車両1の走行速度が所定の範囲内にあるか否か、すなわち、速度Cより速くて速度Dより遅い範囲にあるか否かを判定する。具体的には、車両1の走行速度が例えば時速20kmより速くて時速40kmより遅い範囲にあるか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS35に移り、NOの場合は、ステップS38に移る。
【0056】
ステップS35では、制御装置40により音圧データを複数の周波数ブロックに分割する。すなわち、車内音計測器20から得られる車内音データを表す図6(c)に示すようなグラフGcにおいて、周波数を複数のブロック(帯域)に分割する。具体的には、A〜Dの4つのブロックに分割する。
【0057】
ステップS36、S37は、ステップS25、S26とそれぞれ同様のものであるので、これについては後述する。
【0058】
ステップS38、S39は、図3に示すフローチャートのステップS12、S11とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0059】
図7に示すように、車両1の走行速度と、異音発生判定部53が異音発生の有無を判定するのに用いる異音判定閾値との間には相関がある。この相関の詳細を実験により求めてその結果が閾値データベース50に保存されている。
【0060】
前述したように、ステップS25では、図6(a)に示すようなグラフGaにおいて、音圧データを周波数ブロックA〜D毎に閾値と比較する。図示してないが、閾値は周波数ブロックA〜D毎に相違している。この場合は、車両1の速度は時速5kmから10kmの範囲にあるので、この速度範囲に対応する異音判定閾値を閾値データベース50から取得し、この異音判定閾値を周波数ブロックA〜D毎に音圧データと比較する。そして、1ブロックでも音圧データが異音判定閾値を超えたか否かを判定する(ステップS25、S26参照)。
【0061】
また、ステップS32では、図6(b)に示すようなグラフGbにおいて、音圧データを周波数ブロックA〜D毎に閾値と比較する。この場合は、車両1の速度は時速10kmから20kmの範囲にあるので、図6(a)に示すグラフGaに比べてすべての周波数ブロックA〜Dで音圧データのレベルが高い。この速度範囲に対応する異音判定閾値を閾値データベース50から取得し、この異音判定閾値を周波数ブロックA〜D毎に音圧データと比較する。そして、1ブロックでも音圧データが異音判定閾値を超えたか否かを判定する(ステップS32、S33参照)。
【0062】
また、ステップS36では、図6(c)に示すようなグラフGcにおいて、音圧データを周波数ブロックA〜D毎に閾値と比較する。この場合は、車両1の速度は時速20kmから40kmの範囲にあるので、図6(b)に示すグラフGbに比べてすべての周波数ブロックA〜Dで音圧データのレベルが高い。この速度範囲に対応する異音判定閾値を閾値データベース50から取得し、この異音判定閾値を周波数ブロックA〜D毎に音圧データと比較する。そして、1ブロックでも音圧データが異音判定閾値を超えたか否かを判定する(ステップS36、S37参照)。
【0063】
本実施形態の場合、図9に示す実施形態で後述するように、突発的環境音の発生にともなって車内音データからその突発的環境音による影響をキャンセルすることが可能である。
【0064】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(2)車両1の走行速度が変動するのに応じて異音発生判定部53による異音判定閾値も変動する。したがって、判定の精度を向上させることができる。
【0065】
次に、図8に示すフローチャートを参照して制御装置40による動作の第3実施形態を説明する。
ステップS41は、図3に示すフローチャートのステップS1と同様のものであるので、説明を省略する。
【0066】
ステップS42では、集音器21a、21bおよび集音器31a〜31nを作動させる。車内音計測器20の前部集音器21aを作動させて集音された前部の車内音と、後部集音器21bを作動させて集音された後部の車内音とを処理した車内音データ、および、環境音計測器30の第1集音器31a〜第n集音器31nを作動させて集音された環境音を処理した環境音データを制御装置40へ出力する。
【0067】
ステップS43は、図3に示すフローチャートのステップS3と同様のものであるので、説明を省略する。
【0068】
ステップS44では、制御装置40により突発的環境音を検出したか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS45に移り、NOの場合は、ステップS46に移る。
【0069】
ステップS45では、制御装置40により、突発的環境音の検出タイミングの車内音データを削除し、またはこの車内音データから突発的環境音を減算する。すなわち、突発的環境音が環境音計測器30により計測された場合に、車内音データ処理部52は、その環境音データの発生タイミングで車内音計測器20により計測された車内音データを削除するか、または、その車内音データからその環境音データを減算する。
【0070】
ステップS46では、制御装置40により音圧データが閾値を超えたか否かを判定する。すなわち、異音発生判定部53は、突発的環境音データの発生タイミングで車内音計測器20により計測された車内音データを削除し、またはその車内音データから突発的環境音データを減算したデータを用いて、異音が発生したか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS47に移り、NOの場合は、ステップS48に移る。
【0071】
ステップS47、S48、S49、S50、S51、S52は、図3に示すフローチャートのステップS7、S8、S9、S10、S11、S12とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0072】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(3)異音発生判定部53は、突発的環境音データの発生タイミングで車内音計測器20により計測された車内音データを削除し、またはその車内音データから突発的環境音データを減算したデータを用いて、異音が発生したか否かを判定する。したがって、判定の精度を向上させることができる。
【0073】
次に、図9に示すフローチャートを参照して制御装置40による動作の第4実施形態を説明する。
ステップS61、S62、S63は、図5に示すフローチャートのステップS21、S22、S23とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0074】
ステップS64、S65は、図8に示すフローチャートのステップS44、S45とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0075】
ステップS66では、制御装置40により音圧データが閾値を超えたか否かを判定する。すなわち、異音発生判定部53は、突発的環境音データの発生タイミングで車内音計測器20により計測された車内音データを削除し、またはその車内音データから突発的環境音データを減算したデータを用いて、異音が発生したか否かを判定する。この場合は、車両1の速度は時速5kmから10kmの範囲にあるので、この速度範囲に対応する異音判定閾値を閾値データベース50から取得し、この異音判定閾値を音圧データと比較する。
この判定がYESの場合は、ステップS67に移り、NOの場合は、ステップS68に移る。
【0076】
ステップS67、S68、S69、S70は、図5に示すフローチャートのステップS27、S28、S29、S30とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0077】
ステップS71、S72は、ステップS64、S65とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0078】
ステップS73では、制御装置40により音圧データが閾値を超えたか否かを判定する。すなわち、異音発生判定部53は、突発的環境音データの発生タイミングで車内音計測器20により計測された車内音データを削除し、またはその車内音データから突発的環境音データを減算したデータを用いて、異音が発生したか否かを判定する。この場合は、車両1の速度は時速10kmから20kmの範囲にあるので、この速度範囲に対応する異音判定閾値を閾値データベース50から取得し、この異音判定閾値を音圧データと比較する。
この判定がYESの場合は、ステップS67に移り、NOの場合は、ステップS68に移る。
【0079】
ステップS74は、図5に示すフローチャートのステップS34と同様のものであるので、説明を省略する。
【0080】
ステップS75、S76は、ステップS64、S65とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0081】
ステップS77では、制御装置40により音圧データが閾値を超えたか否かを判定する。すなわち、異音発生判定部53は、突発的環境音データの発生タイミングで車内音計測器20により計測された車内音データを削除し、またはその車内音データから突発的環境音データを減算したデータを用いて、異音が発生したか否かを判定する。この場合は、車両1の速度は時速20kmから40kmの範囲にあるので、この速度範囲に対応する異音判定閾値を閾値データベース50から取得し、この異音判定閾値を音圧データと比較する。
この判定がYESの場合は、ステップS67に移り、NOの場合は、ステップS68に移る。
【0082】
ステップS78、S79は、図5に示すフローチャートのステップS38、S39とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0083】
本実施形態によれば、上記(2)および(3)の効果と同様の効果がある。
【0084】
次に、図10に示すフローチャートを参照して制御装置40による動作の第5実施形態を説明する。
ステップS81、S82、S83は、図3に示すフローチャートのステップS1、S2、S3とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0085】
ステップS84では、制御装置40により長い時間間隔が経過したか否かを判定する。あらかじめ、所定の長い時間間隔が設定されている。具体的には、例えば5分の時間間隔が経過したか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS85に移り、NOの場合は、ステップS90に移る。
【0086】
ステップS85では、制御装置40により音圧データの平均値を求める。具体的には、5分の時間間隔中における音圧データの平均値を求める。
【0087】
ステップS86では、制御装置40により平均値は閾値を超えたか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS87に移り、NOの場合は、ステップS88に移る。
【0088】
ステップS87、S88、S89は、図5に示すフローチャートのステップS27、S28、S29とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0089】
一方、ステップS84の判定がNOで、ステップS90に移った場合、ステップS90では、制御装置40により短い時間間隔が経過したか否かを判定する。あらかじめ、所定の短い時間間隔が設定されている。具体的には、例えば3秒の時間間隔が経過したか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS91に移り、NOの場合は、ステップS83に戻る。
【0090】
ステップS91、S92は、ステップS85、S86とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0091】
ステップS93では、制御装置40により、平均値が閾値を超えた回数が設定回数に達したか否かを判定する。具体的には、平均値が閾値を超えた回数が例えば10回に達したか否かを判定する。
この判定がYESの場合は、ステップS94に移り、NOの場合は、ステップS90に戻る。
【0092】
ステップS94、S95、S96は、ステップS87、S88、S89とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0093】
ステップS97、S98は、図5に示すフローチャートのステップS38、S39とそれぞれ同様のものであるので、説明を省略する。
【0094】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(4)例えば3秒の短い時間間隔中の音圧データの平均値が閾値を超えた回数が例えば10回に達した場合に、異音が発生したと判定する。そのため、短い間欠音が何回も発生するような場合にそれを異音として確実に判定することができる。したがって、判定の精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0095】
1…車両
10…異音判定装置
20…車内音計測器(車内音計測部)
30…環境音計測器(環境音計測部)
40…制御装置
44…走行状況判定部
53…異音発生判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車内で集音する車内音計測部と、
前記車両が所定の走行条件を保って走行しているか否かを判定する走行状況判定部と、
前記走行状況判定部により前記走行条件が保たれている状態で、前記車内音計測部により計測された車内音データに基づいて異音が発生したか否かを判定する異音発生判定部と、
を備えることを特徴とする異音判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の異音判定装置において、
前記走行条件はあらかじめ決められた複数の異なる範囲を有し、
前記異音発生判定部による判定条件は前記各範囲に応じて変動することを特徴とする異音判定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の異音判定装置において、
前記異音発生判定部は、前記車内音計測部により計測された車内音データをあらかじめ決められた時間間隔毎に平均値化したデータを用いて、所定の閾値を超える平均値が所定回数に達した場合に異音が発生したと判定することを特徴とする異音判定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の異音判定装置において、
前記車両の車外で集音する環境音計測部をさらに備え、
前記環境音計測部により所定の閾値を超え、かつ所定の時間よりも短い環境音データが計測された場合に、前記異音発生判定部は、当該環境音データの発生タイミングで前記車内音計測部により計測された車内音データを削除し、または当該車内音データから当該環境音データを減算したデータを用いて異音が発生したか否かを判定することを特徴とする異音判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−243338(P2010−243338A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92600(P2009−92600)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】