説明

疲労耐久性に優れた船舶および船舶の疲労耐久性向上方法

【課題】本発明は、特に、LNG船、ばら積み船、コンテナ船など、船殻の内部に大きな空洞、あるいは上部に大きな開口部を有する船舶において、疲労耐久性に優れた船舶およびその疲労耐久性の向上方法を提供する。
【解決手段】上部に大きな開口部を有する溶接構造の船殻を備えた船舶であって、該船殻を構成する鋼部材の溶接部うち、その溶接止端部の断面形状の曲率半径rmmと鋼部材の厚さtmmとの関係が、r≧t/4であることを要求される溶接止端部の少なくとも一部に、曲率半径Rが1.0〜10.0mm、鋼部材表面から厚さ方向の深さDが1.0mm以下である打撃痕を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労耐久性に優れた船舶および船舶の疲労耐久性の向上方法に関するものであり、特に、上部に大きな開口部を有する溶接構造の船殻を備え、疲労耐久性に優れる船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG船、ばら積み船、コンテナ船などでは、タンクや積み荷を収納するため、船殻の内部に大きな空洞と上部に大きな開口部を有し、また、原油タンカーでは内部に大きな空洞を備えた溶接構造となっている。このため、図10に示すように、航行中の波浪やうねりにより、大きな繰り返しの外力が船体23加えられた場合、船殻に大きな繰り返し応力26が発生する。これによって船殻の特定構造部位の溶接部には大きな応力集中が生じ、疲労き裂の発生の基点となっていた。このため、このような特定の構造部位の溶接部に対して十分な疲労耐久性を確保する必要があった。
溶接継手の疲労特性は一般に鋼材強度依存性がないため、降伏応力が400MPaを超えるような高強度鋼材を適用した場合には、設計応力を高めるための妨げとなっていた。
【0003】
船舶の耐疲労特性を向上させ、長期の使用寿命を確保する観点から、溶接部への応力集中を低減させるような船殻構造の改善が行われる一方、溶接部の疲労耐久性を確保するために、船殻を構成する各部の溶接部の止端部や溶接部補強のためのブラケット端部の溶接止端部などについては、例えば、非特許文献1に示されるように、鋼構造の溶接後の処理として、溶接止端部の形状を、その断面形状の曲率半径r(mm)と鋼部材の厚さtmmとの関係が、r≧t/4 を満たすような凹形状にグラインダー処理することを推奨している。なお、本願において溶接止端部の断面形状とは、溶接線に垂直な断面の形状をいうものとする。図8は、この推奨される溶接止端部のグラインダー処理後の凹形状8を示すものである。なお、図8においてd(mm)は、グラインダー処理後の凹形状8の深さ(鋼部材表面から厚さ方向の深さ)を示すものである。
このため、上記の凹形状が要求される溶接部止端部は、グラインダー処理により上記の形状に整えられていた。しかしながら、この処理によっても疲労き裂の発生を抑制するには不十分(日本鋼構造協会・疲労設計指針・疲労等級JSSC―D等級以下)であった。
さらに、グラインダー処理により上記のような凹形状を確保するためには、研削代を確保する必要があり、図9に示すように、本溶接ビード(溶接金属)2に隣接してさらに溶接を施し、付加ビード9を形成して脚長を長くする追加処理が必要であった。
しかしながら、上記のような形状とすることを要求される溶接止端部の箇所は多く、これをグラインダー処理するには、騒音、振動及び粉塵等を伴う厳しい環境で、多くの作業時間を必要とし、作業負荷及び費用とも極めて大きいものであった。
【0004】
ところで、疲労寿命を向上させる方法として、近年、金属部材の所要箇所にピーニング処理、特に、超音波衝撃処理を施すことが提案されている。例えば、特許文献1には、金属材料の疲労が問題となる箇所に超音波衝撃処理を行うことが提案されており、超音波衝撃処理を施すことによって、溶接止端部に所定の曲率を持つように変形させ、応力集中を緩和することが開示されている。
また、特許文献2には、2枚の鋼板を重ね合わせた端部を溶接した重ね隅肉溶接止端部の近傍に超音波振動端子で打撃を与えることにより疲労強度を向上させる方法が提案されている。また、特許文献3には、ピーニング用のパンチと、このパンチを回転駆動する駆動手段と、回転しているパンチを被ピーニング材に打ちつけるパンチング手段を有する装置で、被ピーニング材をパンチし、局所的な表面硬化、残留応力を付与する方法が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2003−113418号公報
【特許文献2】特開2004−1303133号公報
【特許文献3】特開2001−179632号公報
【非特許文献1】IIW Recommendations on Post weld Improvement of Steel and Aluminum Structure, The International Institute of Welding , 2001.7.4)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献は、金属材料の溶接止端部に超音波衝撃処理やピーニング処理を施すことにより、疲労寿命或いは疲労強度を向上させることを提案している。
しかしながら、溶接部が無数に存在する溶接構造の船殻を有する船舶において、船舶の疲労耐久性を向上させるのに効率的且つ有利な処理部位、或いは、処理条件については開示されていない。
本発明は、特に、LNG船、ばら積み船、コンテナ船など、船殻の内部に大きな空洞、あるいは上部に大きな開口部を有する船舶において、疲労耐久性に優れた船舶およびその疲労耐久性の向上方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その要旨とするのは以下のとおりである。
(1)上部に大きな開口部を有する溶接構造の船殻を備えた船舶であって、該船殻を構成する鋼部材の溶接部うち、その溶接止端部の断面形状の曲率半径rmmと鋼部材の厚さtmmとの関係が、r≧t/4であることを要求される溶接止端部の少なくとも一部に、曲率半径Rが1.0〜10.0mm、鋼部材表面から厚さ方向の深さDが1.0mm以下である打撃痕を有することを特徴とする疲労耐久性に優れた船舶。
(2)前記打撃痕が、溶接止端部に沿う連続して10mm以上の長さにわたって溶接金属部と溶接影響部を含む範囲に形成されていることを特徴とする(1)に記載の疲労耐久性に優れた船舶。
【0008】
(3)上部に大きな開口部を有し溶接構造の船殻を備えた船舶の船殻を構成する鋼部材の溶接部のうち、その溶接止端部の断面形状の曲率半径rmmと鋼部材の厚さtmmとの関係が、r≧t/4であることを要求される溶接部止端部の少なくとも一部に打撃処理を施し、曲率半径Rが1.0〜10.0mm、鋼部材表面から厚さ方向の深さDが1.0mm以下の打撃痕を形成することを特徴とする船舶の疲労耐久性向上方法。
(4)前記打撃処理を、10Hz〜50kHzの周波数で加振させた振動端子で、0.01〜4kWの仕事率で施すことを特徴とする(3)に記載の船舶の疲労耐久性向上方法。
(5)前記振動端子が、先端部の断面の曲率半径が1.0〜10.0mmである棒状の振動端子であることを特徴とする(4)に記載の船舶の疲労耐久性向上方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来、グラインダー処理により所定の形状に調整されていた溶接止端部の形状がより均一なものに改善され、さらに、溶接止端部近傍の引張残留応力の低減や結晶組織の微細化などにより、溶接部の疲労強度が疲労等級JSSC−B等級以上に改善されたものとなり、疲労耐久性に優れた船舶とすることができる。
さらに、従来のグラインダー処理において問題となっていた騒音、振動、粉塵などの発生に因る過酷な作業環境が緩和され、また、グラインダーによる処理では必要であった付加ビード形成が不要となり、かつ作業も短時間で済むことから、作業負荷および処理コストを格段に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明者らは、船舶、特に上部に大きな開口部を有する溶接構造の船殻を備えた船舶に関し、その疲労耐久性の向上について検討した。
すなわち、タンクや積み荷を収納するため、船殻の内部に大きな空洞と上部に大きな開口部を有するLNG船、ばら積み船、コンテナ船、或いは、内部に大きな空洞を有する原油タンカーなどにおいては、繰返し応力が作用した場合に開口部周辺の特定の部位の溶接部に応力集中が生じ、疲労き裂の発生点となる。このような特定部位の溶接部の止端部、つまり、溶接止端部に対しては、その断面形状の曲率半径r(mm)と鋼部材の厚さtmmとの関係を、r≧t/4となるようにグラインダー処理することが要求されている。このような特定構造部位の溶接止端部の疲労強度をさらに向上させると共に、これを効率的に行える方法を検討した。
その結果、上述のような船殻を有する船舶において、上記のような形状とすることを要求された特定の構造部位の溶接止端部に、所定の打撃痕を形成することによって、船舶の疲労耐久性をさらに向上させると共に、これを効率的に実現できるようにしたものである。
【0011】
図1は、本発明の上記の形状とすることを要求された船殻の部位における溶接止端部に形成された打撃痕の状況を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は溶接線に垂直な断面の状況を示す模式図である。
すなわち、船殻を構成する鋼部材の溶接部の止端部うち、溶接線に垂直な断面(以下、単に断面形状とも記す)の曲率半径rmmと鋼部材の厚さtmmとの関係が、r≧t/4であることを要求される溶接部止端部5の少なくとも一部に、曲率半径Rが1.0〜10.0mm、鋼部材4の表面から厚さ方向の深さDが1.0mm以下である打撃痕1を有するものある。
【0012】
上記のような溶接構造を有する船殻においては、溶接箇所は多数存在し、溶接止端部もこれに伴って無数に存在すると言える。このうち、特に、応力集中が著しい箇所、すなわち、溶接止端部の断面形状を、曲率半径r(mm)と鋼部材の厚さtmmとの関係を、r≧t/4となるような凹形状にグラインダー処理すべき箇所としては、以下のような箇所が挙げられる。
図3(a)、(b)は、LNG船の船殻の上部部分を示す断面模式図であるが、例えば、図3(a)に示すように、アッパーデッキプレート10とトランスウエブ11の溶接部12、シアーストレーキ13とトランスウエブ11の溶接部14、図3(b)に示す範囲15のブロック継手の溶接部、例えばアッパーデッキプレート10のブロック突き合わせ溶接部、シアーストレ−キ13のブロック突合せ溶接部、また、図4はLNG船の底部の部分断面模式図であるが、ビルジ17とボトムシェル18をつなぐビルジナックル部の溶接部16、さらに、図5は、鉱石運搬船の船倉間の横隔壁板の模式図であるが、ロアスツール21とインナーボトム20の溶接部21などの溶接止端部である。これらの少なくとも1ヶ所の溶接部の溶接止端部の少なくとも一部の本発明の打撃痕を有するものである。
なお、本発明の打撃痕を有する船舶は、上記の例示した部位の溶接箇所に限定されるものではなく、溶接止端部の断面形状を、曲率半径r(mm)と鋼部材の厚さtmmとの関係を、r≧t/4となるような凹形状にグラインダー処理すべき箇所として要求される箇所の少なくとも一部に施されるものとする。
【0013】
上記の要求箇所に施された打撃痕1の断面における曲率半径Rが1.0mm未満では、溶接部への応力集中を緩和することが不十分であり、耐疲労特性の向上を期待できない。一方、曲率半径Rが10.0mmを超えても、応力集中を緩和する効果は飽和し、耐疲労特性のさらなる向上は得られず、また処理時間もより長く必要となる。従って、打撃痕の曲率半径Rは、1.0〜10.0mmとする。好ましくは、1.5〜5.0mmである。
なお、打撃痕1は、止端部5を中心として形成するが、溶接金属部2及び熱影響部の3一部を含むように形成することが好ましく、これを勘案して打撃位置、形成される打撃痕の曲率半径を選定することも好ましい。
【0014】
また、打撃痕1の鋼部材4の厚さ方向の深さDが1.0mmを超えても、溶接止端部5近傍の引張残留応力を解放する効果、或いは、さらに圧縮残留応力を付与する効果のいずれもほぼ飽和し、耐疲労特性の大幅な向上は期待できない。一方、深さを大きくするには時間も要することから効率的ではない。従って、打撃痕1の鋼部材の厚さ方向の深さは1.0mm以下とする。好ましくは、0.5mm以下である。
なお、この打撃痕が施された溶接止端部では、上記の形状とすることによって止端部の線は消滅し、疲労き裂の起点となり難くなり、耐疲労特性が向上する。
【0015】
上記打撃痕は、船舶において上記の凹形状とすることを要求される全箇所の溶接部の止端部に形成されていることが望ましいが、全要求箇所の溶接止端部の少なくとも1カ所以上において形成されていれば、耐疲労特性を向上させることができる。好ましくは、全要求箇所の20%以上の溶接部の止端部に形成されていれば、船舶の疲労耐久性を向上させることができる。
また、上記の各溶接部においては、溶接止端部の全長に亘って形成されることが好ましいが、各要求箇所の溶接止端部の20%以上(連続で10mm以上)の長さに亘って形成されて入れば、その溶接部における疲労耐久性を向上させることができる。
また、図1、図2では、溶接部の一方の側の止端部にのみ打撃痕を形成している状態を示しているが、通常他方の側の溶接止端部にも同様に打撃痕が施されることは言うまでもない。
広範囲の溶接止端部に本発明の打撃痕を施すことは、耐疲労特性を更に向上させるのに好ましい。
【0016】
次に、本発明の疲労耐久性の向上方法を説明する。
上述のように、本発明においては、上記船舶の溶接止端部のうち、特に、応力集中が著しい箇所、すなわち、その断面形状において曲率半径r(mm)と鋼部材の厚さtmmとの関係を、r≧t/4とすべき溶接部の止端部5に対して、打撃処理を施し、曲率半径Rを1.0〜10.0mm、鋼部材4の厚さ方向の深さDを1.0mm以下とする打撃痕を形成するものであるである。
図2の(a)〜(c)は、船舶の所要の溶接止端部に打撃処理を施すプロセスを模式的に示す斜視図である。溶接止端部5に沿って振動装置7と振動子6を有する打撃装置により打撃処理を施し、上記の形状を備えた打撃痕1を形成するものである。打撃処理の方法としては、上記のような打撃痕を形成できるような方法を採用すれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、ハンマーピーニング法、ニードルピーニング法、或いは、特許文献1または2に開示されているような超音波衝撃装置などによる方法を用いることができ、また、特許文献3に開示されているようなピーニング装置を用いることもできる。
【0017】
図6(a)(b)は、このような打撃装置の実施形態の概略を示す模式図であり、(a)単数の振動端子6を備えたもの、(b)は複数の振動端子を備えたものをそれぞれ示している。打撃装置では、振動装置7による振動を振動端子6に伝えてこれを振動させながら、上記溶接止端部の表面の溶接線に沿って移動させ、打撃処理を施し、上記形状の打撃痕を形成する。このとき、振動装置7により振動端子6を周波数10Hz〜50kHzで振動させ、0.01〜4kWの仕事率で打撃処理を施すことが好ましい。
すなわち、周波数10Hz〜50kHzで振動させ、0.01〜4kWの仕事率で打撃処理を施すことによって、溶接止端部表面の金属が塑性流動し、溶接部の冷却に伴って形成されていた引張残留応力を解放し、圧縮残留応力場を形成することができる。また、周波数10Hz〜50kHzで振動させ、0.01〜4kWの仕事率で打撃処理を施すことによって、溶接止端部表面が加工発熱し、この加工発熱が散逸しない断熱状態で繰り返し打撃処理を与えることにより、熱間鍛造と同じような作用を止端部近傍に及ぼす結果、結晶組織が微細化される。
【0018】
振動端子の振動周波数を10Hz以上とするのは、10Hz未満では打撃による断熱効果が得られないからであり、また、周波数を50kHz以下とするのは超音波など工業的に適用できる振動装置によって得られる周波数が一般に50kHz以下であるからである。
また、振動端子6の仕事率を0.01kW以上とするのは、0.01kW未満では打撃処理に要する時間が長くかかり過ぎるからであり、4kW以下とするのは、これを超える仕事率で打撃処理をしても効果が飽和するため経済性が低下するからである。
【0019】
振動端子6は、図6(a)(b)に示すように棒状であり、その先端の曲率半径は、1.0〜10mmとすることが好ましい。先端の曲率半径が1.0mmよりも小さいと、曲率半径が1.0〜10.0mmである所定の打撃痕を形成するのに長時間を要し、一方、10.0mmを超えると、所定の曲率半径の打撃痕を形成することが困難となるからである。すなわち、振動子の先端を打撃痕の曲率半径と同様とすることにより、所定の打撃痕を効率的に形成することが可能となる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例について説明する。
LNG船や鉱石運搬船のアッパーデッキとトランスウエブの溶接部、シアーストレーキとトランスウエブの溶接部、ビルジナックル溶接部、鉱石運搬船の内底部と倉間横隔壁下部スツールの取り合い部、などを模擬した形状として図7に示すような荷重非伝達型十字継手試験体27を作製し、疲労寿命の向上効果を評価した。
鋼材はKA32、KE36、KE40と強度レベルの異なる3種の造船鋼材4を試験体に用いた。いずれの鋼材からも、板厚は30mm、長さは1000mm、幅は100mmの板状試験体を作製し、溶接、打撃処理、疲労試験に供した。
試験体27の継手形状は、十字継手で、荷重非伝達型の完全溶け込み溶接とし、試験体中央に試験体の長手方向に直交するように縦板28(幅100mm、高さ50mm、板厚20mm)を両面それぞれに溶接して試験体を作製した。いずれの試験体も6体づつ作製し疲労試験に供した。
溶接方法は、FCAWとし、フラックス入りワイヤ、径1.2mm、電流250A、電圧27V、速度30cm/minの条件で、CO2ガス中で溶接を行った。多層盛りで脚長15mmを得た。
【0021】
溶接後の試験体には各溶接線の止端部に(幅方向100mm、縦板の左右および表裏面の合計4溶接線)に超音波衝撃処理装置もしくはハンマーピーニング装置を用いて打撃処理を施した。各溶接線の全長にわたって止端部に処理を施した場合(試験体の幅の100%)と、各溶接線の中央部10%〜70%(試験体の幅の中央部10〜70%)の止端部に処理を施した場合の比較を行った。打撃処理を施した際の打撃処理装置の周波数(kHz)、仕事率(kW)、および用いた振動端子の先端曲率半径(mm)を表1に示す。打撃処理は、打撃処理装置にそれぞれの曲率を有する振動端子を1本装着し、押し付け荷重約4kgにて、溶接止端部(溶接線の両側の止端部(8線))に沿って打撃痕が連続するように処理した。処理速度は、超音波衝撃処理の場合、速度30cm/min、ハンマーピーニングの場合、速度10cm/minとした。また、得られた打撃痕の曲率(mm)、打撃痕の深さ(mm)を同じく表1に示す。打撃痕の曲率と深さは印象材で型取りして測定した。
なお、比較例7は、比較のために打撃処理を施さない試験体を準備し、本願発明の場合との比較を行った。
また、比較例8、10においては、打撃処理の代わりにグラインダー処理を溶接止端部に施し、本願発明の場合との比較を行った。得られたグラインダーの溝の曲率と深さは表1にGr曲率およびGr深さとして示す。
疲労試験は、試験体の長手方向に繰返し軸力を付与し、応力比R=0、繰返し周波数10Hz、サイン波の片振りで、応力範囲Δσ=200MPaにて試験を実施し、破断寿命を測定した。
表1の疲労強度の結果から明らかなように、本願発明(No.1〜6)の条件においては、いずれの場合もΔσ=200MPaの疲労破断寿命が180万回以上と極めて長寿命であるのに対し、本願発明の範囲外である比較例(No.7〜12)においては、疲労寿命は98万回以下と短い値を示し、本願発明の有効性が確認され、結果的に耐疲労特性に優れた継手を提供することが可能となった。
【0022】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の打撃痕を有する船舶の溶接止端部の打撃痕の状況を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は溶接方向に垂直な断面を示す。
【図2】本発明の打撃痕を形成するプロセスを説明する図である。
【図3】本発明の打撃痕を施す船舶の鋼部材の溶接箇所の一例を示す図であり、(a)は通常の溶接部、(b)はブロック継手溶接部の例を示す。
【図4】本発明の打撃痕を施す船舶の鋼部材の溶接箇所の他の例を示す図である。
【図5】本発明の打撃痕を施す船舶の鋼部材の溶接箇所の更に他の例を示す図である。
【図6】打撃装置例を示す模式図であり、(a)は1本の振動端子を備えた例、(b)複数の振動子を備えた例を示す。
【図7】荷重非伝達型十字継手試験体を示す模式図である。
【図8】溶接止端部に対して要求されるグラインダー処理後の形状を示す図である。
【図9】溶接止端部に対して要求されるグラインダー処理のために事前に施される付加ビード及びグラインダー処理後の形状を示す図である。
【図10】船体に作用する繰返し応力の状況を例示する図である。
【符号の説明】
【0024】
1 溶接止端部に形成された打撃痕
2 溶接金属
3 溶接熱影響部
4 鋼部材
5 溶接止端部
6 振動端子(ピン)
7 振動装置
8 グラインダー処理による形成される凹形状部
9 付加ビード
10 アッパーデッキ
11 トランスウエブ
12 アッパーデッキとトランスウエブの溶接部
13 シアーストレイキ
14 シアーストレイキとトランスウエブの溶接部
15 ブロック継手溶接形成範囲
16 ビルジナックル部
17 ビルジ
18 ボトムシェル
19 サイドシェル
20 インナーボトム
21 ロアスツール
22 インナーボトムとロアスツールとの溶接部
23 船体
24 LNGタンク
25 タンクカバー
26 船体に作用する繰り返し応力
27 試験体
28 縦板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部に大きな開口部を有する溶接構造の船殻を備えた船舶であって、該船殻を構成する鋼部材の溶接部うち、その溶接止端部の断面形状の曲率半径rmmと鋼部材の厚さtmmとの関係が、r≧t/4であることを要求される溶接止端部の少なくとも一部に、曲率半径Rが1.0〜10.0mm、鋼部材表面から厚さ方向の深さDが1.0mm以下である打撃痕を有することを特徴とする疲労耐久性に優れた船舶。
【請求項2】
前記打撃痕が、溶接止端部に沿う連続して10mm以上の長さにわたって溶接金属部と溶接影響部を含む範囲に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の疲労耐久性に優れた船舶。
【請求項3】
上部に大きな開口部を有し溶接構造の船殻を備えた船舶の船殻を構成する鋼部材の溶接部のうち、その溶接止端部の断面形状の曲率半径rmmと鋼部材の厚さtmmとの関係が、r≧t/4であることを要求される溶接部止端部の少なくとも一部に打撃処理を施し、曲率半径Rが1.0〜10.0mm、鋼部材表面から厚さ方向の深さDが1.0mm以下の打撃痕を形成することを特徴とする船舶の疲労耐久性向上方法。
【請求項4】
前記打撃処理を、10Hz〜50kHzの周波数で加振させた振動端子で、0.01〜4kwの仕事率で施すことを特徴とする請求項3に記載の船舶の疲労耐久性向上方法。
【請求項5】
前記振動端子が、先端部の断面の曲率半径が1.0〜10.0mmである棒状の振動端子であることを特徴とする請求項4に記載の船舶の疲労耐久性向上方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−290125(P2008−290125A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139251(P2007−139251)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】