説明

疼痛の処置のための1−[2H−1−ベンゾピラン−2−オン−8−イル]−ピペラジン誘導体

【化1】


本発明は、とりわけ機能的セロトニン受容体活性すなわち強力な5−HT1Aアゴニストならびに5−HT1D拮抗活性を有する、広範囲の5−HT受容体に結合する化合物すなわち既知の1−[2H−1−ベンゾピラン−2−オン−8−イル]ピペラジン誘導体の新規使用に関する。本発明の化合物は疼痛を処置するための医薬品の製造に有用である。本発明は、一般式(1)[式中、記号は記述中に示されるところの意味するところを有する]の化合物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ機能的セロトニン受容体活性すなわち強力な5−HT1Aアゴニストならびに5−HT1D拮抗活性を有する、広範囲の5−HT受容体に結合する化合物、すなわち既知の1−[2H−1−ベンゾピラン−2−オン−8−イル]−ピペラジン誘導体の新規使用に関する。本発明はまた、有益な効果を与える医薬品の製造のための本明細書に開示される化合物の使用にも関する。有益な効果は、本明細書に開示されるか、若しくは本明細および当該技術分野の一般的知識から当業者に明らかである。本発明はまた、疾患若しくは状態を処置若しくは予防するための医薬品の製造のための本発明の化合物の使用にも関する。より具体的には、本発明は、本明細書に開示されるか若しくは本明細および当該技術分野の一般的知識から当業者に明らかな疾患若しくは状態の処置のための新たな使用に関する。本発明の態様において、本明細書に開示される特定の化合物は、疼痛のための医薬品の製造に使用される。
【背景技術】
【0002】
急性疼痛は、個体に可能な傷害を警告するために神経系で誘発される正常な感覚である。慢性疼痛は、当初の損傷若しくは傷害が消失した後に継続する神経系の持続性疼痛シグナルから生じる。慢性疼痛は、いずれかの過去の傷害若しくは身体損傷の証拠の非存在下で発生し得る(いわゆる心因性疼痛)。
【0003】
多くの異なる型の鎮痛薬が存在する。それらのいずれも完全でなく、また、いずれかの型の疼痛を迅速にかついかなる副作用も伴わずに適切に処置することは、現在利用可能な薬物で可能でない。
【0004】
本発明は、全部の現在市販されている鎮痛薬の分子作用機序と異なる作用機序をもち、そして従って、既知の鎮痛薬で満足に治療可能でない疼痛状態において治療的価値のある最低1種の化合物を含有する、疼痛の処置のための医薬品を提供するという目的を有した。
【0005】
驚くべきことに、とりわけ機能的セロトニン受容体活性すなわち強力な5−HT1Aアゴニスト、5−HT1D拮抗活性ならびに5−HTアゴニスト活性(下の受容体結合プロファイルを参照されたい)を有する、広範囲の5−HT受容体に結合する化合物、3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンの一塩酸一水和物(下で「化合物1」と命名される)が、疼痛の実験的動物モデルで潜在的に活性であることが見出された。該化合物は、100mg/kg、p.o.までの投薬量で与えられる場合に鎮静効果を欠き、また、成長因子の誘導物質として高度に活性であることもまた示された。後者の活性は、神経保護効果、および神経再生に必要とされる脳の可塑性の改善を示し、そしてまた、神経因性疼痛(非特許文献1;および非特許文献2を参照されたい)ならびに糖尿病誘発性疼痛(非特許文献3)における潜在的な治療効果も示す。経口で与えられる場合に、本発明の化合物は良好な生物学的利用能を示し、高い効力および長い作用持続時間をもたらす。
【0006】
本発明の化合物およびそれらの塩で実現されるところの薬理学的活性は、慢性疼痛障害の処置のための、若しくは有痛性シグナルに対する過剰感作、痛覚過敏、異痛症、高められた疼痛知覚、および疼痛の高められた記憶が存在する他の状態の処置において、新規分類の鎮痛性化合物を表す。
【非特許文献1】P.Anand.、“Neurotrophic factors and their receptors in human sensory neuropathies”、Prog.Brain Res.、146、477−492、2004
【非特許文献2】R.Wangら、“Glial cell line−derived neurotrophic factor normalizes neurochemical changes in injured dorsal root ganglion neurons and prevents the expression of experimental neuropathic pain”、Neuroscience、121、815−824、2003
【非特許文献3】J.A.Christiansonら、“Beneficial effects of neurotrophin treatment on diabetes−induced hypoalgesia in mice”、J.Pain、4、493−504、2003
【発明の開示】
【0007】
[発明の要約]
本発明は、一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
[式中:
は、アルキル(1−4C)、アルコキシ(1−4C)、ヒドロキシル、アルコキシ(1−4C)アルキル(1−4C)、ピロリジニル、ピペリジニル、モルホリニル、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、アミノ、または一若しくは二置換アミノ(式中該置換基はアルキル(1−4C)若しくはアルキル(1−4C)カルボニルである)であり、
mは値0、1若しくは2を有し、
は、アルキル(1−4C)、アルコキシ(1−4C)、ハロゲン若しくはトリフルオロメチルであり、
nは、(m+n)が最低1であるという了解の下で0若しくは1であり、
は水素、アルキル(1−3C)若しくはアルケニル(2−3C)であり
はアルキル(1−4C)であり、および
pは値0、1若しくは2を有する]
の化合物、
ならびにその薬理学的に許容できる塩およびプロドラッグ
に関する。
【0010】
[発明の詳細な記述]
とりわけ機能的セロトニン受容体活性すなわち強力な5−HT1Aアゴニストならびに5−HT1D拮抗活性を有する、広範囲の5−HT受容体に結合する化合物、1−[2H−1−ベンゾピラン−2−オン−8−イル]−ピペラジン誘導体は、元は抗うつ薬として
開発された(欧州特許第EP 0 650 964号明細書)。5−HT1D拮抗作用の存在は治療的価値があると考えられる。5−HT1D受容体は神経末端のシナプス前に位置し、そして5−HTの放出に対する負の調節の影響を有する。従って、これらの受容体の阻害はその末端からの5−HTの放出を高める。シナプス前5−HT1D拮抗作用の付加的な存在は、5−HT取り込み阻害剤の投与後に観察されるところの類似の効果をもたらすことができる。5−HT1D拮抗作用が5−HT1Aアゴニズムと組合せられる場合に、後者の活性が強化される。
【0011】
上の論法は本発明の化合物の鎮痛活性に妥当であることがありそうであるということは、抗偏頭痛薬として開発された原型の5−HT1Dアゴニスト、スマトリプタンを用いた相互作用試験により示された。偏頭痛はしばしばそれ自身を頭部の耐え難いほどの疼痛として発現するという事実にもかかわらず、「疼痛」および「偏頭痛」は、間違いなく同義でない。選択的抗偏頭痛薬としての「トリプタン類」の開発まで、該障害は古典的鎮痛薬に対し完全に抵抗性であった。逆もまた当てはまる。すなわち、「トリプタン類」は鎮痛性でない。スマトリプタンは「ホットプレート」試験(下を参照されたい)で完全に不活性であることが見出された。驚くべきことに、しかしながら、スマトリプタンは化合物1の鎮痛効果をほぼ完全に阻害することが見出され(下を参照されたい)、この化合物の5−HT1D拮抗作用がその鎮痛活性において重要な役割を演じていることを明瞭に示す。
【0012】
上述された相互作用試験の結果に基づけば、5−HT1D受容体拮抗活性のみを有する化合物が疼痛の処置で価値があることもまたありそうである。
【0013】
式(1)を有する全部の化合物、ラセミ化合物、ジアステレオマーの混合物および個々の立体異性体が本発明に属する。従って、潜在的に非対称の炭素原子上の置換基がR配置若しくはS配置のいずれかである化合物が本発明に属する。
【0014】
上で挙げられた化合物のプロドラッグは本発明の範囲にある。プロドラッグは、それ自体不活性であるがしかし1種若しくはそれ以上の活性代謝物に変換される治療薬である。プロドラッグは、親薬物分子の利用性に対するいくつかの障壁を克服するのに使用される、薬物分子の生物可逆的誘導体である。これらの障壁は、限定されるものでないが、溶解性、浸透性、安定性、全身前(presystemic)代謝およびターゲッティングの限界を挙げることができる(Medicinal Chemistry:Principles and Practice、1994、ISBN 0−85186−494−5、F.D.King編、p.215;J.Stella、“Prodrugs as therapeutics”、Expert Opin.Ther.Patents14(3)、277−280、2004;P.Ettmayerら、“Lessons learned from marketed and investigational prodrugs”、J.Med.Chem.、47、2393−2404、2004)。プロドラッグ、すなわち、いずれかの既知の経路によりヒトに投与される場合に式(1)を有する化合物に代謝される化合物は、本発明に属する。とりわけ、これは、一級若しくは二級アミノ若しくはヒドロキシ基をもつ化合物に関する。こうした化合物は、限定されるものでないがアミジン、エナミン、マンニッヒ塩基、ヒドロキシルメチレン誘導体、O−(アシルオキシメチレンカルバメート)誘導体、カルバメート、エステル、アミド若しくはエナミノンを挙げることができる、投与後に容易に除去される付加的な基が存在する式(1)を有する化合物を生じさせるように有機酸と反応させ得る。
【0015】
製薬学的に許容できる塩は、当該技術分野で公知の標準的手順を使用して、例えば本発明の化合物を適する酸、例えば塩酸のような無機酸若しくは有機酸と混合することにより得ることができる。有効成分およびそれらの塩は、標準的方法によって組成物、例えば液体および固体の担体物質のような補助物質を使用して、丸剤、錠剤、コーティング錠剤、
カプセル剤、散剤、注入液体などに加工し得る。
【0016】
(Rおよび(Rが水素であり、Rが上で示されたところの意味するところを有し、そして(Rが、ピロリジニル、ピペリジニル、モルホリニル、アミノ、および置換基がアルキル(1−4C)若しくはアルキル(1−4C)カルボニルである一若しくは二置換アミノよりなる群から選択される3位の置換基である、式(1)を有する化合物がとりわけ好ましい。
【0017】
本発明は、とりわけ、化合物3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンおよびその塩、すなわち(Rが3−NHであり、(R、Rおよび(Rが水素であり、従って式(2):
【0018】
【化2】

【0019】
を有する式(1)の化合物に関する。
【0020】
下で「化合物1」と称される、3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンの一塩酸一水和物がとりわけ好ましい。
【0021】
本発明の化合物は、0.1〜100mg/kgの範囲の用量で経口投与後に活性であり、そして、それらの独特の薬理学的プロファイルは、疼痛の処置においてそれらをとりわけ有用にする。
【0022】
本明細書で使用されるところの疼痛という用語は全部の型の疼痛を指す。好ましくは、該用語は、侵害受容性、神経因性、心因性疼痛を包含する全部の型の慢性疼痛、ならびに雑多な範疇の疼痛(侵害受容性および神経因性成分)を指す。これは、とりわけ、限定されるものでないが糖尿病性神経障害、神経原性疼痛、中枢痛、体性痛、内臓および癌性疼痛、炎症性疼痛、術後疼痛、慢性腰痛、座骨神経痛、頚部および腰部痛、緊張性頭痛、群発頭痛、慢性日常性頭痛、ヘルペス神経痛およびヘルペス後神経痛、顔面および口腔神経痛、ならびに筋膜疼痛症候群、幻肢痛、断端痛および対麻痺痛、歯痛、オピオイド抵抗性疼痛、心外科手術および乳房切除を包含する外科手術後疼痛、分娩時の疼痛、出産後疼痛、卒中後疼痛、狭心痛、骨盤痛ならびに膀胱炎および外陰前庭炎ならびに精巣痛を包含する尿生殖路疼痛、過敏性腸症候群、月経前症候群痛、火傷若しくは化学傷害または日焼けから生じる疼痛、ならびに骨損傷疼痛を挙げることができる。
【0023】
侵害受容性疼痛の亜型は体性痛および内臓痛である。
【0024】
体性痛は、炎症性疼痛、術後疼痛、慢性腰痛、頚部および腰部痛、群発頭痛、歯痛、分娩時の疼痛、出産後疼痛、火傷若しくは化学傷害または日焼けから生じる疼痛、ならびに骨損傷疼痛を包含する。
【0025】
内臓痛は、癌性疼痛、心外科手術を包含する外科手術後疼痛、狭心痛、骨盤痛ならびに
膀胱炎および外陰前庭炎ならびに精巣炎を包含する尿生殖路疼痛、ならびに月経前疼痛症候群を包含する。
【0026】
神経因性疼痛の亜型は、糖尿病性神経障害、癌性疼痛、神経原性疼痛、中枢痛、座骨神経痛、ヘルペス神経痛、ヘルペス後神経痛、顔面および口腔神経痛、幻肢痛、断端痛および対麻痺痛、オピオイド抵抗性疼痛、乳房切除を包含する外科手術後疼痛ならびに卒中後疼痛である。
【0027】
心因性疼痛の亜型は慢性日常性頭痛および緊張性頭痛である。
【0028】
雑多な範疇の疼痛の亜型は、癌性疼痛、筋膜症候群および緊張性頭痛である(例えば、McCaffery M、Pasero C.Pain:Clinical Manual p19 セントルイス:Mosby 1999;Merskek HとBogduk(編)Classification of chronic pain、第2版、IASP Task Force on Taxonomy、p209−214、IASP Press、シアトル 1994;The Merck Manual、第14部、第167章、Pain、第17版 Merck & Co 1999)。
【0029】
好ましい一適応症は、過敏性腸症候群(IBS)、すなわち有痛性の便秘若しくは下痢、ガス発生(gassiness)および膨脹(bloating)を伴う痙攣性の腹痛に至る腸の一般的な障害である。IBSの原因は既知でないが、しかし、それはしばしば感情的葛藤すなわちストレスにより引き起こされると考えられている。IBSは、結腸を検査する場合に疾患の兆候が存在しないために機能性障害と呼ばれる。
【0030】
製薬学的製剤
本発明の化合物は、液体若しくは固体の担体物質のような補助物質を使用する通常の方法によって投与に適する形態にもたらし得る。本発明の製薬学的組成物は、腸に、経口で、非経口で(筋肉内若しくは静脈内に)、直腸にまたは局所に(locally)(局所に(topicaly))投与しうる。それらは溶液、散剤、錠剤、カプセル剤(マイクロカプセル剤を包含する)、軟膏剤(クリーム剤若しくはゲル剤)または坐剤の形態で投与し得る。こうした製剤に適する賦形剤は、製薬学的に通例の液体若しくは固体の増量剤および希釈剤、溶媒、乳化剤、滑沢剤、着香料、着色料ならびに/若しくは緩衝物質である。挙げられうる頻繁に使用される補助物質は、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、乳糖、マンニトールおよび他の糖若しくは糖アルコール、タルク、乳タンパク質、ゼラチン、デンプン、セルロースおよびその誘導体、魚肝油、ヒマワリ、ラッカセイ若しくはゴマ油のような動物および植物油、ポリエチレングリコール、ならびに例えば滅菌水および一価若しくはグリセロールのような多価アルコールのような溶媒である。
【0031】
使用しうる製薬学的組成物の型は、限定されるものでないが、錠剤、咀嚼可能な錠剤、カプセル剤、溶液、非経口溶液、坐剤、懸濁剤、ならびに本明細書に開示されるか若しくは本明細および当該技術分野の一般的知識から当業者に明らかな他の型を挙げることができる。本発明の態様において、本発明の製薬学的組成物の成分の1種若しくはそれ以上を充填した1個若しくはそれ以上の容器を含んでなる製薬学的パック若しくはキットが提供される。使用説明書、または製薬学的製品の製造、使用若しくは販売を規制する政府機関により指示された形態の通知のような多様な文書資料(written material)がこうした容器(1個若しくは複数)に付随し得、この通知はヒト若しくは家畜の投与についての製造、使用若しくは販売の機関による承認を反映する。
【0032】
薬理学的アッセイのプロトコル
慢性狭窄性神経傷害:神経因性疼痛モデル
これらの試験の目的は、末梢単ニューロパシーのBennettとXieのモデル(G.J.BennetとY−K.Xie、“A peripheral mononeuropathy in rat that produces disorders of pain sensation like those seen in man”、Pain、33、87−107、1988を参照されたい)で試験物質の潜在的鎮痛特性を評価することである。
【0033】
試験デザイン
雄性Sprague−Dawleyラット(およそ250g:Harlan、英国、若しくは他の公認の供給元)。観察者は処置群に対し盲検化する。
【0034】
5処置群(n=10ラット/群);ベヒクル対照、参照物質および試験物質の3投薬群。2日の基礎試験、末梢単ニューロパシーを誘発するための外科手術、ならびに術後(PO)第10および11日の行動試験を使用するニューロパシーの発症のモニタリング。PO第12日に開始し14日間の慢性の皮下薬物投与(1日2回注入、若しくは浸透圧ミニポンプを介する連続注入のいずれかによる)、および機械的異痛についての投与後4時点での行動試験。
【0035】
手順:
ラットはバッチ(各バッチに各処置群のメンバーを伴う)で準備し、そして、行動試験および投薬は、各バッチについて外科手術後に固定した間隔で行う。行動試験(下を参照されたい)を、外科手術前の2日間に全ラットで実施して基礎値を確立する。末梢単ニューロパシーをその後、4本の緩く狭窄する結紮を右総座骨神経の周囲に無菌条件下で置くことにより誘発する。動物は、行動試験を再開する前に最低4日間、外科手術から回復させる(B.LynnとS.E.Carpenter、“Primary afferent units from the hairy skin of the rat hind limb”、Brain Research、238、29−43、1982)。
【0036】
行動試験を術後(PO)第10日に再開し、そして第11日に反復して異痛の発生をモニターする。薬物処置はPO第12日(最大の行動変化に対応する時間点)から、若しくは試験プロトコルに定義されるとおり実施し、そして行動試験の時間経過を実施する。冒された指の自己切断のいずれかの兆候を示す動物は終了させる。(特定のプロトコルで使用される行動試験の結果により決定されるところの)末梢単ニューロパシーを発症しないいかなる動物も試験で使用しない。
【0037】
行動試験:
機械的異痛試験:動物を金網ケージに入れ、そして一連のVon Freyフィラメントを後足の足底表面に下から適用する。フィラメントは昇順(最も弱い力で開始する)で適用し、そして、同側および反対側双方の後足の後退の閾値を評価する。後退の閾値は、反射後退応答(すなわち短い足の動き)を導き出すための2種若しくはそれ以上の連続したvon Freyフィラメントの最小の力であると定義する。
【0038】
結果の解析:
標準的な統計学的方法を使用して、試験物質に関係する効果を評価する。データは、均一性、および適切なように適用されるパラメトリック若しくはノンパラメトリックいずれかの方法について解析する。
【0039】
脊髄神経の結紮:神経因性疼痛モデル
KimとChung(Pain 1992、50:355−363)によるラットでの
神経因性疼痛試験(Chung試験):ラットの脊髄神経のきつい結紮は、痛覚過敏、異痛および自発痛を伴い、そして従ってヒトにおける末梢性神経因性疼痛のモデルを構成する。抗痛覚過敏薬は、疼痛過敏症のこれらの慢性兆候を低下させる。ラット(180〜220g)を麻酔(ペントバルビタールナトリウム40mg/kg i.p.)し、そしてL4−S2レベルでの切開を実施して左L5およびL6脊髄神経を露出させる。結紮を各神経の周囲できつく結ぶ。創傷をその後縫合する。ラットは50000IUのペニシリンの筋肉内(i.m.)注入を受領し、そして回復させる。慢性状態が完全に導入される外科手術の最低2週間後に、ラットに、非病変および病変双方の後足の熱的および触覚刺激を連続して受けさせる。熱刺激については、装置は、上昇されたガラス製床の上に置いた6個の個別のPlexiglas製の箱(17×11×13cm)よりなる。ラットを箱に入れ、そして10分間自由に慣らさせる。その後、移動式の赤外放射源(設定20)の焦点を非病変および病変後足の下に合わせ、そして足の後退の待ち時間を自動的に記録する。足の後退が反射放射を中断し、そしてカウンタおよび光源のスイッチを切る。組織損傷を予防するため、反応が示されない場合は試験を45秒後に終了する。触覚刺激のためには、動物を格子床上の反転させたPlexiglas製の箱(17×11×13cm)の下に入れる。電子的von Freyプローブの先端をその後、増大する圧を伴い非病変および病変後足に適用し、そして足の後退を誘発するのに必要とされる力を自動的に記録する。この手順を3回実施し、そして足あたりの平均の力を計算して、動物あたりの基礎スコアを提供する。薬物処置を受領する前に、全動物に触覚刺激を受けさせかつそれらの疼痛応答に基づいてマッチさせた処置群に割り当てることができる。
【0040】
in vivo電気生理学:炎症性疼痛のモデル
in vivo電気生理学は、(閾値を使用する行動試験と異なり)閾値超の刺激に対する脊髄ニューロンの感覚応答を直接見る強力な手段であり、そして、従って臨床的な疼痛状態により関係する。
【0041】
雄性Sprague−Dawleyラット(200〜250g)を2〜3%ハロタン(66%NOおよび33%O中)で麻酔し、そしてその後1.8%ハロタンで維持する。動物の中核体温を、加熱ブランケットに接続した直腸温度計プローブを使用してモニターする。実験の終了時に、動物を麻酔薬の過剰投与で殺す。椎弓切除を実施して脊髄のL4−L5区分を露出させ、そして、パリレン被覆タングステン電極を、Epsonのステッパー装置を使用して後角中に下降させる。記録部位の深さは、マイクロドライブの示度から示される。細胞外の記録は、有害および無害双方の刺激(ピンチおよび接触)に応答するそれらの能力により同定される、後足の皮膚からのCおよびA線維入力を受領する単一の後角ニューロンから行う。ニューロンの応答は、同側の後足のニューロンの受容野の中心に、C線維で惹起される活動に必要とされる閾値電流の3倍で与えた経皮的電気刺激により導き出す。10分間隔で、連続16刺激(0.5Hzの2m秒幅のパルス)よりなる試験を実施し、そして刺激後ヒストグラムを構築する。これらの惹起された応答を、待ち時間に従って、Aβ線維で惹起された活動(刺激後0〜20m秒);Aδ線維で惹起された活動(20〜90m秒);C線維で惹起された活動(90〜300m秒)およびニューロンの後放電(300〜800m秒)に分離する。該連続の最初の刺激により惹起されたニューロン応答は「入力」と称され、そして、この刺激により惹起された活動電位(90〜800m秒)の数よりなる。ワインドアップ、すなわち反復刺激により導き出される高められたニューロン応答の尺度を、16刺激により生じられる活動電位(90〜800m秒)の総数と、入力×16との間の差違として定量する。従って、ワインドアップの尺度は、高められたC線維で惹起される応答、およびワインドアップが発生する際に生成される後放電の双方を包含する。von Frey毛(1〜75g)および熱(30〜48℃)もまた、天然の機械的および熱刺激に対する応答を定量するのに使用する。
【0042】
試験は、各試験で惹起されたニューロン応答が10%未満だけ異なるまで10分間隔で実施する。最後の3試験の結果をその後平均して、各パラメータの対照値を生じる。
【0043】
(50μl容量の)化合物の累積用量をその後、露出させた脊髄に、50μl容量の薬物を保持した、椎弓切除により形成した「ウェル」中で適用する。ニューロン応答を各投与後60分間追跡し、その後、溶液を除去し得かつ次の用量を適用し得る。同様に、全身性の効果を、0.2mlの皮下注入を使用して測定し得る。
【0044】
データは、薬物の各用量について60分の時間経過を伴い、薬物前の対照値のパーセントとして示す。用量応答曲線を生成させるため、各ニューロンに対する各用量の最大の効果を平均する。データは平均±s.e.m.として提示する。各経路に10ニューロンが必要とされる。正常動物での(上の試験により決定されるところの最も有効な経路による)該化合物の効果を用いて、カラギーナン炎症の3時間後に見られるものとで比較を行う。従って、合計30回の実験(動物あたり1ニューロン)を行い、また、各試験は1日持続する。
【0045】
ホルマリン足試験:炎症性疼痛のモデル
Wheeler−Acetoら(Psychopharmacology 1991、104:35−44)によるマウス若しくはラットでのホルマリン足試験:動物に、5%ホルマリン(マウスについて25μl、ラットについて50μl)の足底内注入を後左足に与える。この処置は対照動物で認識可能な後ずさり応答を誘発する。後ずさりの数を、ホルマリンの注入直後に開始する10分間(早期)、および、注入20分後に開始してマウスで5分間若しくはラットで15分間、計数する。
【0046】
カラギーナン浮腫試験:炎症性疼痛のモデル
ラットでのカラギーナン浮腫試験はWinterらにより記述されたもの(Proc.Soc.Exp.Biol.Med.1962、111:544−547)に従う。すなわち、右後足の下表面への溶液(0.05ml生理学的生理的食塩水中足あたり0.75mg)。2時間後、ラットに、炎症を起こしていないおよび炎症を起こした双方の後足の熱的および触覚刺激を連続的に受けさせる。熱刺激のため、装置(Ugo Basile、参照:7371)は、上昇されたガラス製床上に置いた6個の個別のPlexiglas製の箱(17×11×13cm)よりなる。ラットを箱に入れ、そして10分間自由に慣れさせる。その後、移動式の赤外放射源(設定20)の焦点を、炎症を起こしていないおよび炎症を起こした後足の下に合わせ、そして足の後退の待ち時間を自動的に記録する。足の後退が反射放射を中断し、そしてカウンタおよび光源のスイッチを切る。組織損傷を予防するため、反応が示されない場合は試験を45秒後に終了する。触覚刺激のためには、動物を格子床上の反転させたPlexiglas製の箱(17×11×13cm)の下に入れる。電子的von Freyプローブの先端をその後、増大する圧を伴い、炎症を起こしていないおよび炎症を起こした後足に適用し、そして足の後退を誘発するのに必要とされる力を自動的に記録する。この手順を3回実施し、そして足あたりの平均の力を計算して、動物あたりの基礎スコアを提供する。3.5時間後に頸椎への強打により動物を殺し、そして後足を切片にしかつ秤量する。足重量の増大(浮腫)は炎症を示す。この後者の手順はマウスにもまた適用し得る。
【0047】
酵母高温試験:炎症性疼痛のモデル
Teotinoら(J.Med.Chem.1963、6:248)によるマウス若しくはラットでの酵母高温試験:動物を最初に、直腸プローブを使用して直腸温度について測定する。それらにその後酵母懸濁液(512mg/kg s.c.)を注入する。8時間後に試験物質を投与する。マウスは、試験物質投与直前、ならびに60および120分後に再度、直腸温度について測定する。
【0048】
ラットでの結腸直腸膨満:内臓痛のモデル
実験手順:
動物(雌性Sprague Dawleyラット、体重:208〜257g、群あたり5〜7匹)を、水への自由な到達を伴い、実験前24時間絶食させる。酢酸(0.6%、1.5ml)を結腸(肛門に対し10cm近位)に注入する。50分後、5cm長(6〜7ml体積)のゴム風船を直腸で下降結腸に挿入し、そして取り付けたチューブをラットの尾にテープで止めることにより固定する。風船の圧を100mbarに10分間設定する。この時間の腹部収縮の数を目視により記録する。実験は、10回以上の腹部収縮を伴い結腸直腸膨満に応答する動物でのみ継続する。これらの動物は、有効成分若しくはベヒクル(水中10%Arlatone G、10%エタノール(96%))の単回皮下投与を受領し、そして、結腸直腸膨満のプロトコルを投与30、60、90および120分後に反復する。
【0049】
データ解析:
結果は平均±SDで示す。物質若しくはベヒクルの投与後30、60、90および120分の腹部収縮の数、ならびに平均値(30〜120分)を、対応のある両側t検定により前値(時間0)と比較する。p<0.5の値を統計学的に有意と解釈する。
【0050】
さらに、収縮の総対数(前値の%)を各動物について計算し、そして群の平均値を生じる。
【0051】
神経保護活性:成長因子の誘導
本発明の化合物(3mg/kg、p.o.)若しくはベヒクルを1日1回3週間投与する(処置群あたりn=8動物)。最後の投与の24時間後に動物を(CO/O麻酔を使用して)殺し、脳を取り出しかつ切開する。RNAを個々の脳サンプルから抽出し、そして成長因子BDNFおよびGDNFの誘導を定量的PCRにより測定する。全RNAをTrizol法(Invitrogen)で脳片から単離する。cDNAを、逆転写酵素Superscript II(Invitrogen)を使用して2μgの全RNA(第一鎖緩衝液中、DNアーゼ(Ambion)で30分間前処理する)で開始して作成する。リアルタイムPCRによるmDNAの定量は、PCRの初期周期は標的の増幅の指数的増大を特徴とするという観察結果を利用する。PCR産物の蓄積を、Sybergreen IIを使用して測定する。プライマーは、ソフトウェアパッケージPrimer Express(Applied Biosystems)を使用して設計する。ハウスキーピング遺伝子オルニチン脱炭酸酵素(ODC_ex8)およびα−チューブリン(TUBA)の発現レベルを、正規化のためおよび良好なcDNA合成の対照として使用する。
【0052】
ホットプレート試験:急性疼痛のモデル
EddyとLelmbach(J.Pharmacol.Exp.Ther.1953、107:385−393)によるマウス若しくはラットでのホットプレート試験:マウス若しくはラットを、Plexiglas製の筒(高さ:13cm;直径:19cm)により囲まれた、マウスについて54℃若しくはラットについて52℃に維持された高温金属プレート上に載せる。最初の足なめ(foot−lick)までの待ち時間を測定する(最大:30秒)。
【0053】
尾動かし(tail flick)試験:急性疼痛のモデル
D’AmourとSmith(J.Pharmacol.Exp.Ther.1941、72:74−79)によるに従うマウス若しくはラットでの尾動かし試験:動物の尾を熱光源によって加熱する。動物がその尾を後退させる前の待ち時間を測定する(最大:マウスについて15秒、ラットについて30秒)。
【0054】
フェニルブタゾン/酢酸もがき試験:急性疼痛のモデル
マウスでのフェニルベンゾキノンおよび酢酸もがき試験はHendershotらにより記述された方法(J.Pharmacol.Exp.Ther.1959、125:237−240)に従う。すなわち、マウスにフェニルベンゾキノン(PBQ)(1.25mg/kg i.p.)若しくは酢酸(0.5% i.p.)を注入する。この処置は対照動物で認識可能なもがき応答を誘発する。もがきの数を、PBQ若しくは酢酸の注入5分後に開始して10分間計数する。
【0055】
フロイントのアジュバント試験:慢性炎症性疼痛のモデル
Whiteley(Current Protocols in Pharmacology、Wiley、ニューヨーク、5.5、1999)によるラットでの慢性炎症性疼痛試験(フロイントのアジュバント試験):ラットでのフロイントのアジュバントの注入は疼痛を伴う多発性関節炎の慢性の臨床兆候を誘発する。第1日に、ラットを秤量し、そしてミコバクテリウム ブチリクム(Mycobacterium butyricum)(フロイントのアジュバント)の懸濁液を尾の近位1/4に皮内注入する(0.1ml鉱物油中1mg)。擬似対照は鉱物油の類似の注入を受領する。慢性状態が完全に導入される第18日にラットを再度秤量し、そして炎症の臨床症状について評価する。それらにその後双方の後足の熱的および触覚刺激を連続して受けさせる。臨床兆候について、各足を5点尺度(0〜4)に従って、および尾を4点尺度(0〜3)に従って、炎症について評価する(すなわち動物あたり19の最大スコア)。熱刺激について、装置(Ugo Basile、参照:7371)は、上昇されたガラス製床上に置いた6個の個別のPlexiglas製の箱(17×11×13cm)よりなる。ラットを箱に入れ、そして10分間自由に慣れさせる。その後、移動式の赤外放射源(設定20)の焦点を各足の下に合わせ、そして足の後退の待ち時間を自動的に記録する。足の後退が反射放射を中断し、そしてカウンタおよび光源のスイッチを切る。組織損傷を予防するため、反応が示されない場合は試験を45秒後に終了する。触覚刺激のためには、動物を格子床上の反転させたPlexiglas製の箱(17×11×13cm)の下に入れる。電子的von Freyプローブ(Bioseb、型式1610)の先端をその後、増大する圧を伴い各後足に適用し、そして足の後退を誘発するのに必要とされる力を自動的に記録する。この手順を3回実施し、そして足あたりの平均の力を計算して、動物あたりの基礎スコアを提供する。薬物処置を受領する前に、全動物に触覚刺激を受けさせかつそれらの疼痛応答に基づいてマッチさせた処置群に割り当てることができる。
【0056】
受容体結合実験
受容体結合データは、十分に報告された標準的手順を使用して、CEREP(128,rue Danton,92500 Rueil−Malmaison,フランス)若しくはSolvay Pharmaceuticals B.V.により得た。例えば5−HT1A受容体に対する親和性は、ラット前頭皮質ホモジェネート中のその特異的結合部位から[H]−2−(ジ−n−プロピルアミノ)−8−ヒドロキシテトラリン([H]−8−OH−DPAT)を置き換える本発明の化合物の能力を試験することにより測定した。この試験は、Gozlanらにより記述された方法(Nature、305、(1983)、140〜142ページ)に基づく。
【0057】
用量
セロトニン受容体に対する本発明の化合物の親和性を上述されたとおり測定した。式(1)の所定の化合物について測定された結合親和性から、理論上の最低有効用量を推定し得る。測定されたK値の2倍に等しい化合物の濃度で、受容体の100%が該化合物により占有されることがありそうである。その濃度を患者1kgあたりの化合物のmgに変換することは、理想的な生物学的利用能を仮定すれば、理論上の最低有効用量を生じる。薬物動態、薬動力学および他の考慮が、実際に投与される用量をより高い若しくは低い値に変えうる。便宜上投与される投薬量は、0.001〜1000mg/kg、好ましくは0.1〜100mg/kg患者体重である。
【0058】
実施例
【実施例1】
【0059】
合成の間に使用される分析方法
核磁気共鳴(MNR)分光学
NMRスペクトルは、Bruker AM400分光計若しくはVarian VXR400S分光計で記録した。化学シフト(δ)は内部標準としてのTMSから低磁場のppmで報告した。10〜50mgのサンプルを重水溶媒、通常はCDCl若しくはDMSO−d6/CDCl(4:1 v/v)混合物)に溶解した。溶媒はサンプルの完全な溶解を確実にするように選択した。自由誘導減衰は一般に以下の条件下で室温で得られた:
デジタル分解能:0.2Hz
掃引幅:18ppm
パルス幅:20度
パルス反復時間:4.5秒、若しくは完全な緩和に必要とされる場合はそれ以上
搬送周波数:6.0ppm
取得数:128、若しくは必要な場合はそれ以上。0.5%シグナル強度のC−13サテライトシグナルが明瞭に見えるべきである。
【0060】
NMRは相対含量の測定方法として使用した。
【0061】
滴定法(塩化物および水の定量)
電位差滴定のため、Metrohm型式E636(スイス)を使用した。
【0062】
電位差滴定の塩化物定量を、塩化物を測定するためにこの合成で使用した。滴定は組合せ銀電極および硝酸銀滴定液を用いて実施した。該方法は、それが異なる電極電位に基づきヨウ化物および臭素と塩化物を識別し得るために、塩化物に特異的である。
【0063】
カール・フィッシャーによる測定のためのボルタン滴定は、米国薬局方の方法に従ってMetrohm 633KF(Metrohm、スイス)装置を使用して実施した。
【実施例2】
【0064】
3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンおよびその一塩酸一水和物(化合物1)の合成
【0065】
段階1:ニトロ化
第一段階は、5−ブロモ−2−ヒドロキシ−3−ニトロベンズアルデヒド(2)を生じる5−ブロモ−2−ヒドロキシベンズアルデヒド(1)のニトロ化であった。
【0066】
【化3】

【0067】
3.75リットルの酢酸(98%)中の1.0molの5−ブロモ−2−ヒドロキシベンズアルデヒド(1)の溶液を、約60℃まで混合物を加熱することに際して生じさせた。1.5molの濃硝酸(137g=97ml)をおよそ1時間でゆっくりと添加した。添加の完了後に攪拌を65℃でさらなる10分間継続した。溶液をその後45℃に冷却し、そして生成物を4リットルの水の添加により沈殿させた。最低3時間攪拌した後に、生成物をフィルター上で収集し、そして母液のpHがおよそ6になるまで水で洗浄した。物質を遠心分離により可能な限り多く乾燥する。粗生成物を還流および攪拌下に800mlのアセトンに溶解した。400mlのアセトンを蒸留により除去した。20℃に冷却した後に混合物を3時間攪拌した。沈殿物をフィルター上で収集し、そして石油エーテル40〜65℃で洗浄した。固形物を40℃の空気流中で一夜乾燥した。最後に、粗物質(crude)(2)をアセトンから再結晶して、NMR分析により示されるところの98%の純度を伴う最終生成物を生じた。
【0068】
5−ブロモ−2−ヒドロキシベンズアルデヒド(1)は、その特徴的な化学シフト、δ9.84ppmにより同定され;5−ブロモ−2−ヒドロキシ−3−ニトロベンズアルデヒド(2)はδ10.4ppmの特徴的な化学シフトを有した。
【0069】
この段階の全体的な収率はおよそ60%(粗物質対粗物質(crude on crude))であった。
【0070】
段階2:エルレンマイヤー縮合
第二段階は、N−(6−ブロモ−8−ニトロ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)アセトアミド(3)を生じるための、5−ブロモ−2−ヒドロキシ−3−ニトロベンズアルデヒド(2)のN−アセチルグリシンとのエルレンマイヤー縮合であった。
【0071】
【化4】

【0072】
1.0molの5−ブロモ−2−ヒドロキシ−3−ニトロベンズアルデヒド(2)、1.0molのN−アセチルグリシンおよび1.0molの無水酢酸ナトリウムの混合物に、800mlのN−メチル−2−ピロリドンを添加する。混合物を攪拌しかつ50℃に加熱した。その後、2.2molの無水酢酸をおよそ30分で反応容器に流し込んだ。反
応混合物を100℃に加熱した。加熱する間に、反応混合物はしばらく均一になり;その直後に固形物が形成され、攪拌を厄介にした。100℃で4時間加熱した後に混合物を80℃に冷却し、そして1,100mlの酢酸(98%)を添加した。その後、混合物の攪拌は容易になった。次に、混合物を室温に冷却しそして60分間攪拌した。沈殿物をフィルター上で収集し、そして625mlの酢酸(80%)で2回、900mlの水で5回、および300mlのアセトンで1回洗浄した。生成物を40℃の空気流中で24時間乾燥し、そしてNMR分析により示されるところの98%の純度を有した。
【0073】
5−ブロモ−2−ヒドロキシ−3−ニトロベンズアルデヒド(2)はδ10.4ppmの特徴的なシフトを有し;N−(6−ブロモ−8−ニトロ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)アセトアミド(3)の特徴的な化学シフトはδ8.72ppmであった。
【0074】
この段階の全体的な収率はおよそ80%(粗物質対粗物質)であった。
【0075】
段階3:還元
第三の段階は、N−(6−ブロモ−8−ニトロ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)アセトアミド(3)のN−(8−アミノ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)アセトアミド(4)への触媒的水素化であった。
【0076】
【化5】

【0077】
1.0molのN−(6−ブロモ−8−ニトロ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)アセトアミド(3)、50gの10%炭上パラジウムペースト(61%水を含有する)、1.0molの炭酸カリウムおよび15リットルのエタノールの混合物を60℃に加熱した。この温度で、出発原料を1400rpmで4barの過度の圧力で水素で還元した。反応の完了(1時間)後に、濾過助材を使用する濾過により触媒を除去し、そして4.5リットルのメチルエチルケトン(MEK)で洗浄した。濾液を2リットルに濃縮し、そして、溶媒をエタノールからMEKに変えるために2.3リットルのMEKを添加し、2リットルの溶媒混合物を常圧で蒸留分離し、そして2リットルのMEKを添加した。これを4回反復した。その後、5リットルのMEKおよび2.6リットルの水を添加し、そして混合物を攪拌した。層を分離した。上層を常圧でおよそ3.5リットルまで濃縮した。残渣を25℃に冷却した。この冷却の間に生成物が結晶した。その後、混合物を−10℃に冷却しかつ2時間攪拌した。固形物を濾過し、そして800mlのヘキサンで3回洗浄した。生成物を一定重量まで乾燥(50℃、20cmHg、N)した。
【0078】
N−(6−ブロモ−8−ニトロ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)アセトアミド(3)はδ8.72ppmの特徴的な化学シフトを有し;N−(8−アミノ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)−アセトアミド(4)のものはδ8.55ppmであった。
【0079】
この段階の全体的な収率はおよそ70%(粗物質対粗物質)であった。
【0080】
段階4:ピペラジン環系の構築
段階4は、N−(8−(1−ピペラジニル)−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル−)アセトアミド(5)を生じる、N−(8−アミノ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)−アセトアミド(4)のビスクロロエチルアミンでのアルキル化であった。
【0081】
【化6】

【0082】
2.5リットルのモノクロロベンゼン、1.0molのN−(8−アミノ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)−アセトアミド(4)および1.2molのビスクロロエチルアミン塩酸塩の混合物を窒素下還流に加熱した。モノクロロベンゼンの一部(0.5リットル)を蒸留分離した。この混合物を10日間還流した。反応をHPLCにより追跡した。反応後に混合物を20℃に冷却し、そして一夜攪拌した。固体の生成物をフィルター上で収集し、そして360mlのモノクロロベンゼンで1回および360mlのエタノールで3回洗浄した。生成物を真空中50℃で乾燥した。
【0083】
粗生成物の半分を3リットルの水に溶解した。18gのセライトおよび50gの炭の添加後に混合物を室温で1時間攪拌した。濾過後に、溶液を水の蒸留により濃縮した。その間、粗生成物の第二の半分を上述されたとおり処理した。合わせた水性溶液の総容量が約1.5リットルになった場合に蒸留を停止し、そして混合物を室温に冷却した。その後、125gの重炭酸ナトリウムを一部分ずつ添加した。15℃で1.5時間攪拌した後に、形成された沈殿物をフィルター上で収集した。360mlの水および270mlのエタノールで2回洗浄した後に、生成物を真空中50℃で乾燥した。
【0084】
N−(8−アミノ−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル)−アセトアミド(4)はδ8.55ppmの特徴的な化学シフトを有し;N−(8−(1−ピペラジニル)−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル−)アセトアミド(5)のものはδ8.57ppmであった。
【0085】
この段階の全体的な収率はおよそ50%(粗物質対粗物質)であった。
【0086】
段階5:アミド加水分解
段階5は塩酸を使用するN−(8−(1−ピペラジニル)−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル−)アセトアミド(5)のアミド官能基の加水分解であった。これは3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンの三塩酸塩(6)をもたらした。
【0087】
【化7】

【0088】
2.9リットルの濃塩酸を、1.0molのN−(8−(1−ピペラジニル)−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル−)アセトアミド(5)および1.4リットルの無水エタノールの懸濁液に室温で約10分で添加した。この添加の間に温度が40℃に上昇した。添加後に混合物を50℃の温度で1.5時間攪拌した。混合物を20℃に冷却し、そして結晶化が開始した後に1.4リットルの無水エタノールを添加した。その後、混合物を20℃で1時間、および0℃で2時間攪拌した。結晶を濾過により単離し、そして0.6リットルのアセトンで2回洗浄した。単離された生成物を真空中(40℃、200mmHg、N、24時間)で乾燥した。
【0089】
N−(8−(1−ピペラジニル)−2−オキソ−2H−1−ベンゾピラン−3−イル−)アセトアミド(5)はδ8.57ppmの特徴的な化学シフトを有し;3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンの三塩酸塩(6)はδ6.77ppmの特徴的な化学シフトを有した。
【0090】
この段階の全体的な収率はおよそ85%(粗物質対粗物質)であった。
【0091】
段階6:部分的中和
最後の段階すなわち第6のものは、所望の生成物、すなわち化合物1すなわち3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンの一塩酸一水和物(7)を製造するための重炭酸ナトリウムでの三塩酸塩(6)の部分的中和であった。
【0092】
【化8】

【0093】
3.5リットルのエタノール中の1.0molの三塩酸塩(6)の懸濁液に、2.8リットルの水中の2.2molの重炭酸ナトリウムの溶液を約30分で添加した。温度は20℃と25℃との間であった。懸濁液をその後3時間攪拌した。反応混合物を濾過し、そしてその後、1.1リットルの水、1.1リットルのエタノールおよび1.1リットルのヘキサンで洗浄した。単離された粗生成物を真空中で乾燥(40℃、200mmHg、N、24時間)した。
【0094】
乾燥した生成物(1mol)を、還流温度まで加熱することにより9リットルのメタノールに溶解した。溶液は完全に澄明にはならなかった。20℃まで冷却した後に混合物を濾過した。300mlの水および150mlのメタノールを濾液に添加し、その後約3リットルの溶媒混合物を常圧で蒸留した。完全な手順をもう1モルの乾燥した生成物を用いて反復した。その後、合わせた画分を蒸留により約12リットルの容量まで濃縮した。6リットルのエタノールの添加後に、6リットルの溶媒混合物を常圧での蒸留により除去した。混合物をその後0℃に冷却しそして2時間攪拌した。沈殿物をフィルター上で収集し、そして750mlのアセトンで2回洗浄した。生成物を真空下で乾燥(40℃、200mmHg、N、24時間)し、そしてその後微粉砕、および必要な場合は超微粉砕することにより均質にした。
【0095】
3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンの三塩酸塩(6)はδ6.77ppmの特徴的な化学シフトを有し;最終生成物すなわち化合物1のものはδ6.7ppmであった。
【0096】
この段階の全体的な収率はおよそ85%(粗物質対粗物質)であった。
【0097】
化合物1すなわち3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンの一塩酸一水和物は、分子式C1318ClNおよび299.5の分子量を有した。純粋な生成物(99.8%、NMR)は白色ないし帯黄色粉末であった。その塩化物含量は滴定法により測定されたところの11.7%(質量対質量)であった。カール・フィッシャー水アッセイ滴定により測定されたその水分含量は6.5%(質量対質量)であった。
【実施例3】
【0098】
化合物1の製剤
経口(p.o.)投与のため:ガラスチューブ中の所望の量(0.5〜15mg)の化合物1に数個のガラスビーズを加え、そして物質を2分間ボルテックス攪拌することにより微粉砕した。水中1%メチルセルロースの溶液1mlの添加後に、化合物を10分間ボルテックス攪拌することにより懸濁した。1mg/mlより上(up and above)の濃度のため、懸濁液中の残存する粒子を、超音波浴を使用することによりさらに懸濁した。
【0099】
腹腔内(i.p.)投与のため:ガラスチューブ中の所望の量(0.5〜15mg)の固体の化合物1に数個のガラスビーズを加え、そして固形物を2分間ボルテックス攪拌することにより微粉砕した。水中1%メチルセルロースおよび5%マンニトールの溶液1mlの添加後に、化合物を10分間ボルテックス攪拌することにより懸濁した。最後にpHを7に調節した。
【実施例4】
【0100】
薬理学的試験結果
ラットでの結腸直腸膨満:内臓痛のモデル
酢酸での感作後の結腸直腸膨満(上に示されたプロトコルによる)は、全群で匹敵する数の腹部収縮をもたらした。最低用量の化合物1(0.1μmol/kg)は、水中10%Arlatone G、10%エタノール(96%)に溶解し、そして投与後90分に内臓過敏症を低下させた。対照群では匹敵するベヒクルを試験した(水中20%Arlatone G、20%エタノール(96%))。反復する結腸直腸膨満プロトコルの間の腹部収縮の数の有意の減少は観察されなかった。化合物1は、皮下投与90分後に、3と10μmol/kgとの間の用量範囲の酢酸での感作後の結腸直腸膨満による腹部収縮の数の有意の阻害を表した。この投与に使用したベヒクルは実験プロトコルを妨害しなかった。
【0101】
成長因子の誘導
化合物1での処置は、視床、線条体、前頭前皮質、側座核および海馬中のGDNFおよびBDNFのRNAレベルを増大させた(表を参照されたい)
定量的PCRにより測定されるところの化合物1での処置による成長因子のRNAの調節。データはベヒクル処置に比較した増大の倍数として表す。
【0102】
【表1】

【0103】
ホットプレート試験:急性疼痛のモデル
化合物1および他の化合物を腹腔内投与30分後にホットプレートで試験した。方法の記述は上に示す。
【0104】
【表2】

【0105】
上の表に示されるデータから、モルヒネはホットプレートから動物自身を除去する動物の待ち時間をほぼ倍加することが明らかである(妥当な鎮痛効果)。化合物1は、モルヒネと同じくらい、しかしはるかにより低用量で有効である。選択的5−HT1Dアゴニスト、スマトリプタンは10mg/kg i.p.という非常に高用量で不活性であるが、しかし、その用量で、それは化合物1の鎮痛効果にほぼ完全に拮抗する(P値=0.0001、Wilcoxon検定)。
【0106】
化合物1はまたマウスでのこの試験でも経口で活性である。すなわちそのED50は3.2mg/kg(p.o.)である。
【0107】
酢酸もがき試験:急性疼痛のモデル
化合物1はこの試験で活性である。すなわちそのED50は1.82mg/kg p.o.である。
【0108】
化合物1の受容体結合プロファイル
下の表に収集した結合データは、十分に報告された標準的手順を使用して、CEREP(128,rue Danton,92500 Rueil−Malmaison,フランス)若しくはSolvay Pharmaceuticals B.V.のいずれかにより得られた。
【0109】
【表3】

【0110】
【表4】

【0111】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
疼痛の処置用製薬学的組成物の製造のための、5−HT1D受容体拮抗活性を有する化合物の使用。
【請求項2】
疼痛の処置用製薬学的組成物の製造のための、5−HT1A受容体アゴニスト活性および5−HT1D受容体拮抗活性を有する化合物の使用。
【請求項3】
化合物が、一般式(1):
【化1】

[式中:
は、アルキル(1−4C)、アルコキシ(1−4C)、ヒドロキシル、アルコキシ(1−4C)アルキル(1−4C)、ピロリジニル、ピペリジニル、モルホリニル、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、アミノ、または一若しくは二置換アミノ(式中該置換基はアルキル(1−4C)若しくはアルキル(1−4C)カルボニルである)であり、
mは値0、1若しくは2を有し、
は、アルキル(1−4C)、アルコキシ(1−4C)、ハロゲン若しくはトリフルオロメチルであり、
nは、(m+n)が最低1であるという了解の下で0若しくは1であり、
は水素、アルキル(1−3C)若しくはアルケニル(2−3C)であり
はアルキル(1−4C)であり、および
pは値0、1若しくは2を有する]
ならびにその全部の立体異性体および薬理学的に許容できる塩
を有することを特徴とする、請求項1若しくは2のいずれかに記載の使用。
【請求項4】
化合物が、3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンおよびその塩、すなわち、(Rが3−NHであり、(R、Rおよび(Rが水素であり、従って式(2):
【化2】

を有する式(1)の化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
化合物が、3−アミノ−8−(1−ピペラジニル)−2H−1−ベンゾピラン−2−オンの一塩酸一水和物であることを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
疼痛が、侵害受容性、神経因性、心因性疼痛を包含する慢性疼痛、ならびに、限定されるものでないが糖尿病性神経障害、神経原性疼痛、中枢痛、体性痛、内臓および癌性疼痛、炎症性疼痛、術後疼痛、慢性腰痛、座骨神経痛、頚部および腰部痛、緊張性頭痛、群発頭痛、慢性日常性頭痛、ヘルペス神経痛およびヘルペス後神経痛、顔面および口腔神経痛、ならびに筋膜疼痛症候群、幻肢痛、断端痛および対麻痺痛、歯痛、オピオイド抵抗性疼痛、心外科手術および乳房切除を包含する外科手術後疼痛、分娩時の疼痛、出産後疼痛、卒中後疼痛、狭心痛、骨盤痛ならびに膀胱炎および外陰前庭炎ならびに精巣痛を包含する尿生殖路疼痛、過敏性腸症候群、月経前症候群痛、火傷若しくは化学傷害または日焼けから生じる疼痛、ならびに骨損傷疼痛を挙げることができる雑多な範疇の疼痛(侵害受容性および神経因性成分)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の使用。

【公表番号】特表2007−530509(P2007−530509A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504418(P2007−504418)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/051328
【国際公開番号】WO2005/092340
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(501439149)ソルベイ・フアーマシユーチカルズ・ベー・ブイ (71)
【Fターム(参考)】