説明

癌の処置及び診断のためのC‐CBL及びそのアンタゴニスト

本発明は、癌の処置に関する。より具体的には、本発明は、癌の診断及び/又は予後診断のためのマーカーとしてc‐cblの使用、並びにアポトーシス抵抗性を伴った癌の処置のためのc‐cblアンタゴニストの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は癌の処置に関する。より具体的には、本発明は、癌の診断及び/又は予後診断のためのマーカーとしてのc‐cblの使用、並びにアポトーシス抵抗性を伴う癌の処置のためのc‐cblアンタゴニストの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌及びアポトーシス
欠陥性のアポトーシス(プログラムされた細胞死)は、癌の発生及び進行における主要な原因要素となる。アポトーシスの関与を回避する腫瘍細胞の能力は、従来の治療計画に対する腫瘍細胞の抵抗性において重要な役割を果たし得る。癌細胞は、それらの成長を制御する正常な細胞シグナルを無視させる多くの変異を通常有し、正常細胞よりも高増殖性となる。アポトーシス抵抗性を伴う癌の場合には、腫瘍の増殖は、無調節な増殖とアポトーシスの抑制の両方の結果として生じている。これらの主要な欠陥のそれぞれが、臨床的に介入する機会を与える。しかしながら、増殖を乱すように設計された現在の化学療法の多くは、正常細胞に対して生じる損傷がそれらの臨床的有効度を制限するような洗練されていない方法で行われる。加えて、大部分の癌処置は、放射線照射又は化学物質を用いて細胞に損傷を与えることに依存し、多くの場合この種の攻撃に抵抗性がある細胞の選択につながる。最終的に、従来の薬剤の多くがアポトーシスに抵抗性がある癌細胞に対して有効でない。全てではないが、大部分の化学療法剤が、アポトーシスを誘発することによってそれらの抗ガン活性を発揮することを、いくつかの研究で示されている;したがって、アポトーシス抵抗性は、抗癌療法の有効性を制限する重要な要因になり得る。
【0003】
前立腺癌は、西側諸国の男性で最も頻繁に診断される癌の一つであり、男性の全ての癌の15.3%を占めている。それは癌による死亡原因の第2位か第3位である。その発生は増加しており、15年後には最も一般的な男性の悪性腫瘍になると予測されている。
【0004】
この癌の重大性は、アンドロゲン不応答性への進展後数年で当該癌へ不可避的に進行することに由来しており、非常に多くの研究がアンドロゲン‐難治性前立腺癌に至る分子事象を理解することに焦点を当てている。前立腺腫瘍がアンドロゲン非依存性となる理由が不明確なれば、年配の男性におけるごく初期の腫瘍性形質転換を支配する分子事象もまた十分には理解されない。
【0005】
しかしながら、プログラム細胞死の変化は、ヒトの前立腺癌細胞のゆるやかな蓄積に関する主要な説明となる。この変化は、実際には、いくつかの化学療法剤に対して抵抗性であり、及びアポトーシス機構がなお有効であったとしてもアポトーシス開始に対して抵抗性である、アンドロゲン不感応性前立腺腫瘍で明らかである。アンドロゲン不応答性は、制御されない細胞増殖、及び/又は抗アポトーシス因子の過剰発現のいずれかによる可能性がある。アポトーシスの阻害因子(IAP)ファミリー・タンパク質は、いくつかの癌、特に前立腺でアポトーシス抵抗性に関与すると報告されている。これらの阻害因子は、イニシエーター及びエフェクターカスパーゼのレベルで、アポトーシスカスケードの最末端で作用する。例えば、XIAPは、化学療法抵抗性につながる、さまざまなアポトーシス刺激によって誘発される細胞死に対する阻害効果を有することが示されている。しかし非常に興味深いことに、増強されたIAP発現が上皮内癌(PIN)と同時に観察されることが報告されており、このことは、このアポトーシスの脱制御が前立腺癌の発症の初期に起こること、及びグリーソン・グレード(Gleason grade)又は前立腺特異抗原(PSA)レベルと相関しないことを示唆している。よって、一般的に使用されるPSAアッセイは重要な診断上の指標を提供する一方で、それは診断用にも進行のモニタリングにも信頼性がない。特に、PSAアッセイは偽陽性につながり、時には偽陰性につながる。加えて、PSAレベルは非悪性の前立腺癌の場合であっても高いことがあり得るので、疾患の重症度との真の相関関係は存在しない。最後に、腫瘍が、約2年間の腫瘍進行後に起こるアンドロゲン依存段階を越えたとき、前立腺癌のための治療的処置が存在しない。
【0006】
よって、信頼性の高い診断ツール、及びアポトーシス抵抗性となった癌細胞においてアポトーシスを復元できる処置が必要である。
【0007】
c‐cbl癌原遺伝子
c‐cbl癌原遺伝子は、いくつかの受容体タンパク質チロシンキナーゼシグナル伝達経路の負の調節因子として、且つ、チロシンリン酸化依存性シグナル伝達のアダプタータンパク質として機能する。より具体的には、c‐cblには、E3リガーゼ機能があり、マルチドメインアダプタータンパク質としてのその役割が十分に立証されている。c‐cblが、特定の数の成長因子受容体(RTK)、例えばEGF‐R、PDGF‐R及びCSF‐1の負の調節因子として機能していることは、何年間も前から知られている。
【0008】
野生型c‐cbl(p120cblとも呼ばれる)は発癌性ではない。しかしながら、c‐cblのいくつかの変異体が発癌性であることが示されている(Hamilton et al. 2001 J. Biol. Chem. 276:9028-9037; Sinha et al. 2001 Exp Hematol. 29: 746-55; Thien et al. 2005 EMBO J. 24:3807-3819)。これらの変異は、細胞増殖に対する効果をほとんど持っていない。その後、CblΔY371発癌性変異体の発現が、マウスにおいてアポトーシスを抑制することが示されている(Hamilton et al. 2001 J. Biol. Chem. 276: 9028-9037)。
【0009】
(i)c‐cblは、RTKの分解を引き起こすことによってRTKを負に調節し;及び(ii)c‐cblの変異はアポトーシスを抑制するか又激減させるので、c‐cbl不活性化が、アポトーシス抵抗性及び癌の発生に関与すると当該技術分野において現在考えられている。結果的に、c‐cblの活性化及び/又は投与が、癌処置に有益なはずであると当該技術分野において現在考えられている。
【0010】
例えば、WO/1999/067380は、癌を処置又は予防するためのc‐cblをコードする発現ベクターの投与を教示している。El Chamiら(2005; J Cell Biol. 171: 651-61)はまた、c‐cbl発現が、精巣生殖細胞におけるアンドロゲン依存性アポトーシスを活性化するように義務付けられていると教示している。
【0011】
他のRTKの負の調節因子にはSprouty2が挙げられる。Sprouty2は、FGF‐R及びEGF‐Rの阻害因子として機能し、RTK RAS/MAPK経路の調節に関与している。Sprouty2は、c‐CblのE3‐ユビキチンリガーゼ機能を負に調節することが示された。Sprouty2は、E2ユビキチンへのc‐cblの結合に必要とされるc‐cblドメインに結合し、それによってRTK分解を妨げる。この事実と、いくつかの癌において高いSprouty2発現が見られた事実に基づいて、WO/2006/113579は、癌を処置するためにSproutyが阻害されるべきであると教示している。WO/1999/067380にあるように、この教示の基礎となる考えは、c‐cblによって発揮される、RTKに対する負の調節を増強するためには、c‐cblを活性化することが得策であるという考えである。
【0012】
Edwin及びPatel(2008; J. Biol. Chem. 283: 3181-3190)による最近の刊行物はこの仮説を補強している。この刊行物は、SW13癌細胞株において、Sprouty2阻害が、培地に追加した血清によってもたらされたアポトーシスに対する保護を無効にし、Akt及びErk1/2のリン酸化を減少させたと教示している。この刊行物によると、c‐cblがノックアウトされた場合には、Sprouty2は血清によって誘発されたアポトーシス抵抗性に対して全く効果がなかったので、Sprouty2による負の調節はc‐cblに関係している。
【0013】
Khanら(FASEB J. 2008; 22: 910-7)による別の最近の刊行物は、たばこの煙又はH22によって引き起こされた酸化ストレスが、EGF‐Rの異常なリン酸化を引き起こし、その結果、c‐cblのEGF‐Rへの結合を妨げると教示している。結果として、EGF‐Rは活性化されるだけではなく、安定化されもする。一方、この教示の基礎となる考えは、酸化ストレスがc‐cblの不活性化につながり、その結果、高い細胞生存に通じるという考えである。言い換えれば、c‐cblは、癌又はたばこの煙の酸化ストレス条件下で不活性化されるアポトーシス促進性制御因子(pro−apoptotic regulator)であることが示唆される。
【発明の概要】
【0014】
本発明の説明
本特許出願の発明者は、驚くべきことに、c‐cbl癌原遺伝子がアポトーシスの正の調節因子としてではなく負の調節因子として実際には機能することを見出した。
【0015】
c‐cblが悪性ヒト前立腺腫瘍で過剰発現されていることを見出した。C‐Cblは前立腺癌のマーカーであり、そしてその発現レベルは前立腺癌の重症度と良好な相関がある。
【0016】
c‐cblの発現が、アンドロゲン依存性段階のヒト前立腺腫瘍において研究された。c‐cbl発現は、これらの組織で非常に増加された(周囲の健常組織と比べて最大7倍高い)。グリーソン・スコア(Gleason score)に従って評価されるように、c‐cbl発現レベルは癌の重症度に比例した。そのため、C‐cblは前立腺癌の予後マーカー(prognostic marker)である。
【0017】
免疫組織化学による追加解析が、良性前立腺肥大(BPH)に対しておこなわれた。c‐cblはBPHの上皮細胞で発現されていたが、重症の前立腺癌に比べてはるかに低いレベルで発現されていた。
【0018】
免疫化学による更なる分析により、c‐cblが前立腺癌以外の癌で発現されていることが実証された。より具体的には、肺癌、乳癌、卵巣癌、脳の癌、結腸癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、精巣癌、リンパ腫及び黒色腫においても、それは発現される。
【0019】
加えて、c‐cblノックアウト動物(MEF KOとも呼ばれる)又は野生型動物(MEF WTとも呼ばれる)に由来するマウス胎児線維芽細胞(MEFs)の分析は、これらの結果を裏付け、そしてc‐cblの野生型形態(p120cblとも呼ばれる)の抗アポトーシス的役割を明確に示した。より具体的には、c‐cblは、H22によって引き起こされた酸化ストレスによって誘発されたアポトーシスからMEFを保護する。逆に、c‐cblは、エトポシドによって誘発されたアポトーシスからMEFを保護しない。そのため、酸化ストレスが、c‐cbl発現レベルの増大を引き起こし、それがひいてはアポトーシスから保護する(すなわちアポトーシス抵抗性)と考えられる。癌細胞が酸化ストレス条件下にあるので、これらの結果は、腫瘍細胞のアポトーシス抵抗性が、少なくとも一部には、酸化ストレスによって引き起こされた高いc‐cbl発現に起因するという結論をもたらす。
【0020】
最後に、p120cblの抗アポトーシス的役割を確認する追加試験がおこなわれた。これらの試験は、アポトーシスの阻害因子(IAP)の発現を研究することを含んだ。MEFにおいてc‐cblによって発揮されたアポトーシスの負の調節はまた、IAPの調節に関与することが示された。p120cblの不存在がXIAPタンパク質の発現の有意な減少につながり、そしてそれがc‐IAP1及びc‐IAP2タンパク質の発現低下につながることが、MEFにおいてインビトロ(in vitro)で示された。そのため、腫瘍細胞における高いc‐cbl活性は、アポトーシス阻害因子(IAP)の発現増加を引き起こすと考えられる。再度、これらの結果は、腫瘍細胞のアポトーシス抵抗性が、少なくとも一部には、c‐cbl発現の増大に起因するものであり、それが同様にIAP発現の低下をもたらすという結論につながる。
【0021】
要約すると本発明者は、本明細書において、インビボ(in vivo)における、及び初代KOマウス胎児線維芽細胞(MEF)におけるc‐cblの新しい抗アポトーシス効果を報告する。KOマウスには、p53依存性アポトーシスに晒されたKO MEFのように、前立腺上皮細胞のミトコンドリア性の自発的な又はアンドロゲン感受性のアポトーシス経路のわずかな過剰調節がある。KO MEFは、酸化ストレス条件における急激なアポトーシスを支持すること、及び、さまざまの起源の悪性腫瘍における強力なc‐cbl過剰発現が疾患の悪性度(aggressiveness)に関連づけられるはずであることを更に示した。最後に、c‐Cblの破壊が酸化ストレスを低下させる役割を果たすことが示された。より具体的には、腫瘍細胞における反応性酸素分子種(ROS)の高生産性を増強することによって、c‐cblが、当該腫瘍細胞のアポトーシス抵抗性に寄与することが見出された。
【0022】
よって、一方では、c‐cblの発現レベルが、腫瘍の重症度の診断及び/又は評価を可能にする。その一方で、c‐cblの治療学的なターゲティングは、腫瘍細胞におけるアポトーシス阻害因子(IAP)の発現を低減するのに寄与するはずであり、よって腫瘍細胞のアポトーシス抵抗性を低減するか又は無効にするのに寄与するはずである。c‐cblのターゲティングはさらに、腫瘍細胞に関して観察されるアポトーシス抵抗性の主な原因であると考えられている反応性酸素分子種(ROS)の産生を低減するのに寄与するはずである。よって、c‐cblのターゲティングは、2つの異なった機構によって、腫瘍細胞のアポトーシス抵抗性を無効にするはずである。そのため、本発明は、癌の診断及び/又は予後診断のためのマーカーとしてのc‐cblの使用、並びにアポトーシス抵抗性を伴う癌の処置のための、そしてより一般的にはアポトーシスに関連したあらゆる疾患の処置のためのc‐cblアンタゴニストの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、異なる期間(CT:対照;24、48、72及び96時間)フルタミドに曝露した成体ラット(生後90日)由来の腹側前立腺のc‐cbl共増幅RT‐PCR(上の並び)及びc‐Cblウエスタンブロット法(下の並び)の結果を示す。
【図2】図2は、生後16、17、18及び20日のマウス前立腺のc‐Cblウエスタンブロット法の結果を示す。発現レベルの標準化に使用した遺伝子はCK18である。
【図3】A.c‐Cbl KOと野性型(WT)のMEFにおけるBim ELの発現。当該細胞は、未処理(CTRL)であったか、又は0.1mMのエトポシド(Etop)若しくは1μMの過酸化水素(H22)で24時間処理された。B.同じ処理後におけるMEF中のc‐IAP2(左側)及びXIAP(右側)の発現。発現はウエスタンブロット法によって検討された。棒グラフの下部は平均値を表し、棒グラフの上部は標準偏差を表す。
【図4】A.0.1mMのH22又は1μMのエトポシドで24時間処理したc‐Cbl KOとWTのMEFにおける活性化されたカスパーゼ3の発現。B.様々な濃度のエトポシド(1若しくは10μM)又はH22(0.1mM若しくは0.5mM)で16時間又は24時間処理した後のc‐Cbl KOとWTのMEFに関する、DAPI試験によって明らかにされた核断片化。
【図5】図5は、同じ患者由来の正常組織における発現と比較した、ヒト前立腺腫瘍におけるc‐cbl発現を表す。6人の異なる患者(P1〜P6)からの試料が分析された。c‐cbl発現はウエスタンブロット法によって検討された。
【図6】図6は、正常な周辺組織と比較した様々な腫瘍における高c‐cbl発現を示す。A〜Hでは、左側のパネルが正常組織を示し、そして右側のパネルが同じ起源の対応する腫瘍組織を示す。全ての組織が免疫組織化学的試験によって抗c‐cbl抗体で染色された。組織マイクロアレイ(TMA)が調査され、そして少なくとも6人の異なる患者のスポットを比較したが、同等の結果を示した。A.前立腺対前立腺腺癌。B.乳房対浸透された腺管癌。C.卵巣対漿液性乳頭状癌腫。D.子宮対扁平上皮細癌腫。E.脳対星状細胞腫。F.肺対扁平上皮細癌腫。G.結腸対結腸腺癌。H.直腸対直腸腺癌。倍率尺は50μmを表す。
【図7】図7は、LNCaP細胞において、H22又はエトポシドでの処理によってc‐cbl発現レベルが減少したこと、及びc‐Cblのサイレンシングがエンドヌクレアーゼ酸化ストレスを低減することを示す。A.それぞれ25若しくは50nMの過酸化水素、又はそれぞれ10若しくは30μMのエトポシドでの24時間処理時のc‐Cbl発現。抗アポトーシスBcl‐2及びc‐IAP2タンパク質、並びにアポトーシス促進性Bcl‐2ファミリータンパク質Baxの発現もまた示されている。B.48時間のc‐Cblサイレンシング後のc‐Cbl発現。(酸化ストレスの指標となる)APE1の発現が、媒質対照(Ctrl)及びsi‐対照(si‐Ctrl)と比較して示されている。
【図8】図8は、マウス腹側前立腺(VP)のミトコンドリア・アポトーシス経路が、c‐Cblによって上方制御されていることを示す。ウェスタンブロッティング分析を、生後30日(若年成体)の、c‐Cbl KOマウス及びWTマウスの腹側前立腺組織を用いて行った。アクチンが基準のタンパク質であり、それぞれのウエスタンブロッティングパネルは3つの独立した試験の代表である。図8A:c‐Cbl KOマウス及び野性型(WT)マウスのVPにおけるアポトーシス促進性Bim ELタンパク質の発現。BimはKOマウスにおいてより高い(p=0.048)。図8B:c‐Cbl KOマウスVPにおけるアポトーシス促進性Bakタンパク質の発現は、WTマウスVPに比べて高い。図8C:c‐Cbl KOマウスVPにおけるSmac/Diablo発現は、WTマウスVPよりも有意に高い(p=0.0183)。図8D、E及びF:c‐Cbl KOマウス及びWTマウスのVPにおけるc‐IAP1、c‐IAP2及びXIAP発現。C‐IAP1(p=0.0201)並びにXIAP(p=0.035)は、KO VPにおいて有意に低い。図8A〜8Fにおいて、縦軸はアクチンの発現レベルに対する検討した遺伝子の発現レベルを表す。
【図9】図9は、マウス腹側前立腺(VP)のミトコンドリア・アポトーシス経路がc‐cblによって上方制御されていることを示す。ウェスタンブロッティング分析を、生後30日(若年成体)において、c‐Cbl KOマウス及びWTマウスの腹側前立腺組織を用いて行った。アクチンが基準のタンパク質であり、それぞれのウエスタンブロッティングパネルは3つの独立した試験の代表である。図9A:c‐Cbl KOマウス及びWTマウスのVPにおける加工されたカスパーゼ9の発現。活性カスパーゼ9は、KO VPにおいてより高かった。図9B:c‐Cbl KOマウス及びWTマウスのVPの組織切片に対しておこなわれたTUNEL試験によるアポトーシス細胞数。フルタミド処理動物からのアポトーシス細胞数もまた示す。KO VPは、WTに比べて有意に多いアポトーシス細胞を支持している(p=0.0014)。
【図10】A.H22又はエトポシドで処理したc‐Cbl KOとWTのMEFにおける活性カスパーゼ3の発現。B.H22又はエトポシドで処理したc‐cbl KOとWTのMEFに対するTUNEL試験によるアポトーシス細胞数。c‐cblをノックアウトしたMEF細胞は、c‐cblに関して野生型であるMEF細胞に比べて、H22に対して約2倍感受性が高かった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
c‐cblアンタゴニストの治療的使用
本発明の第1の態様は、癌、特にアポトーシス抵抗性を伴った癌を処置する又は予防する方法であって、それを必要としている個体に有効な量のc‐cblアンタゴニストを投与するステップを含んでなる方法である。この態様はさらに、癌、特にアポトーシス抵抗性を伴った癌の処置又は予防のためのc‐cblアンタゴニストの使用に関する。
【0025】
本明細書中に使用される場合、「癌」という用語は、あらゆるタイプの悪性(すなわち、非良性)腫瘍を指す。腫瘍は、(例えば、癌腫、腺癌、肉腫、悪性黒色腫、中皮腫、芽細胞腫が含まれる)固形悪性腫瘍、又は血液癌、例えば白血病、リンパ腫及び骨髄腫などに相当し得る。癌腫又は腺癌は、例えば、膀胱、結腸、腎臓、卵巣、前立腺、肺、子宮、乳房、前立腺の癌腫又は腺癌に相当し得る。芽細胞腫は、例えば、神経芽細胞腫、神経膠芽腫又は網膜芽細胞腫に相当し得る。癌は、好ましくは、前立腺癌(例えば、前立腺腺癌)、肺癌(例えば、扁平上皮細胞癌腫)、乳癌(例えば、浸潤腺管癌腫)、卵巣癌(例えば、漿液性乳頭状癌腫)、子宮癌(扁平上皮細胞癌腫)、脳腫瘍(例えば、星状細胞腫)、結腸癌(例えば、結腸腺癌)、結腸直腸癌、直腸癌(例えば、直腸腺癌)、横紋筋の癌(例えば、横紋筋肉腫)、甲状腺癌、精巣癌、リンパ腫、及び黒色腫から成る群から選択される。最も好ましい実施形態において、癌は、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮癌、脳腫瘍、結腸癌、結腸直腸癌、直腸癌及び横紋筋の癌から成る群から選択される。本発明による具体的な態様では、前立腺癌は本発明による癌から除外される。
【0026】
c‐cblは抗アポトーシス性制御因子なので、本発明の方法は、好ましくは、アポトーシス抵抗性を伴った癌を処置及び/又は予防するために使用される。本明細書中に使用される場合、「アポトーシス抵抗性を伴った癌」という用語は、例えばアルキル化剤、代謝拮抗剤、抗有糸分裂剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン療法剤、アロマターゼ阻害剤、及び/又はシグナル伝達阻害剤が使用される従来の化学療法に応答しない癌を指す。c‐cblアンタゴニストは、細胞がアポトーシスに入る能力を回復させ、それによって前述の従来の化学療法剤に対する癌細胞の感受性を復元する。当業者は、癌がアポトーシス抵抗性を伴っているか否かについて容易に判断できる。まず第一に、アポトーシス抵抗性を伴った癌は従来の化学療法に対してもはや応答しない。第二に、アポトーシス抵抗性を伴った癌では、Bcl‐2やiAPのようなタンパク質が過剰発現されているので、それらは、癌がアポトーシス抵抗性を伴っているか否かを判断するためのマーカーとして使用できる。本発明の枠組みの中で、c‐cblの過剰発現もまた、癌細胞におけるアポトーシス抵抗性のマーカーであることがさらに見出された。最後に、アポトーシス抵抗性が酸化ストレスに関連し、そしてそれは当業者によって容易に測定可能である。実際に、癌細胞における酸化ストレスを測定するための多くの方法が当該技術分野で知られている。
【0027】
具体的な実施形態において、アポトーシス抵抗性を伴った癌は、ホルモン非依存性であり、すなわちそれは、ホルモン抵抗性及びホルモン不応性と臨床的に定義される癌である。アポトーシス抵抗性を伴った癌は、例えば、アンドロゲン非依存性前立腺癌、又はエストロゲン非依存性乳癌又は卵巣癌に相当し得る。
【0028】
本明細書中に使用される場合、「c‐cbl」という用語は、Casitas B系列リンパ腫癌原遺伝子(SwissProt受入番号P22681)を指す。好ましい実施形態において、c‐cblは、p120cblアイソフォームを指す。野生型アイソフォームp120cblの対立遺伝子の配列は、配列番号1として示されている。
【0029】
本明細書中に使用される場合、「c‐cblアンタゴニスト」という用語は、c‐cblの生物学的活性を阻害又は低減する化合物を指す。好ましい実施形態において、アンタゴニストはp120cblアイソフォームを特異的に阻害する。c‐cblの生物学的活性は、その濃度(すなわち、その発現レベル)及びその比活性に依存する。そのため、c−cblアンタゴニストは、(i)c−cbl発現、(ii)c−cbl酵素活性(E3リガーゼ活性)、及び/又は(iii)c−cblポリ‐アダプター機能を低減又は阻害することもできる、すなわち、例えば、少なくとも1種類の結合パートナー、例えばGrb2、EGF−R、CIN85、Sprouty及びE2ユビキチンなどへのc−cblの結合を低減又は阻害し、その結果、シグナル伝達経路内のシグナル伝達を低減又は阻害することができる。好ましくは、本発明によるc‐cblアンタゴニストは、c‐cblポリ‐アダプター機能を低減又は阻害する。
【0030】
化合物がc‐cblアンタゴニストであるか否か判断するための方法は、当業者によって周知である。
【0031】
例えば当業者は、ウエスタンブロット法又はRT‐PCRによって、化合物がc‐cbl発現を低減するか又は無効にするかを評価することができる。例えば、実施例1.5に提供されるプロトコールが使用され得る。
【0032】
あるいは、化合物の存在下でのc‐cblのE3リガーゼ活性を、前述の化合物の不存在下でのE3リガーゼ活性と比較することもできる。これは例えば、Duanら(2003 J. Biol. Cell, 278:28950-28960)に記載の方法を使用して、RTK(例えば、EGF‐R)をユビキチン化するc‐cblの能力を測定することによって、又は例えば、Kirisitsら(2007 Int J Biochem Cell Biol. 39: 2173-82)に記載の方法を使用して、RTK(例えば、EGFR)のエンドサイトーシスを引き起こすc‐cblの能力を測定することによって、おこなってもよい。通常、EGF‐Rを免疫沈降させることによって、及び抗ユビキチン抗体を使用したウエスタン・ブロットを実施することによって、EGF‐Rをユビキチン化するc‐cblの能力を評価してもよい。RTKをユビキチン化する及び/又はエンドサイトーシスを引き起こすc‐cblの能力を低減するか又は無効にする化合物は、c‐cblアンタゴニストと定義される。
【0033】
c‐cblの生物学的活性はまた、c‐cblが天然の結合パートナー、例えばGrb2、EGF‐R、CIN85又はSproutyに結合する能力を評価することによっても評価することができる(例えばKirisits et al. 2007 Int J Biochem Cell Biol. 39: 2173-82を参照のこと)。Grb2、EGF‐R、CIN85又はSproutyへのc‐cblの結合は、例えば、免疫沈降反応アッセイ、プル‐ダウン・アッセイ又は酵母2−ハイブリッド系(Y2H)を使用することで評価してもよい。Grb2、EGF‐R、CIN85及び/又はSproutyへのc‐cblの結合を低減するか又は無効にする化合物は、c‐cblアンタゴニストと定義される。
【0034】
c‐cblアンタゴニストは、任意の種類の分子に、例えば、小分子、又は干渉RNA(iRNA)、アンチセンスDNA及びアプタマーから成る群から選択される核酸に相当し得る。
【0035】
c‐cblアンタゴニストは、好ましくは、iRNA(特にsiRNA)に相当する。c‐cblを特異的にターゲティングするiRNAは、当該技術分野で周知であり、そしてそれには、例えばSinghら(2007 Proc Natl Acad Sci USA; 104: 5413-8)、Mitraら(2004 J Biol Chem. 279: 37431-5)及びZhouら(2004 Biochem Soc Trans. 32(Pt 5):817-21)に記載のiRNAが含まれる。c‐cblを標的とするiRNA及び/又はそういったiRNAを構築するためのキットは、例えばInvitrogen又はQiagenから購入することもできる。当該iRNAは、例えば、(i)配列番号2及び配列番号3の配列を含んでなる又はそれらから成るiRNA、(ii)それらと少なくとも80%、85%、90%又は95%同一である配列、又は(iii)配列番号2と配列番号3の少なくとも5、10又は15ヌクレオチドの断片から成る又はそれらを含んでなる配列であってもよい。本発明によるc‐cbl iRNAは、c‐cblに相同な遺伝子、例えばcbl‐bなどを標的としない。好ましい実施形態において、iRNAはp120cblアイソフォームを特異的に標的とする。
【0036】
「有効な量」とは、処置されるべき疾患を予防又は処置できるペプチド濃度を達成するために十分な量を意味する。そのような濃度は当業者によってごく普通に決定される。実際に投与される化合物の量は、処置されるべき身体状態、選ばれた投与経路、投与された実際の化合物、年齢、体重、及び個々の患者の応答、患者の症状の重症度などを含めた関連事情の見地から通常医師によって決定される。投薬量が、投与されたペプチドの安定性に依存し得ることもまた当業者によって理解され得る。
【0037】
「それを必要としている個体」とは、処置又は予防されるべき疾患に罹患しているか又は罹患しやすい個体を意味する。本発明の枠組みの中で処置されるべき個体は、あらゆる哺乳動物に相当し得る。好ましい実施形態において、当該個体はヒトである。
【0038】
「アポトーシス抵抗性を伴った癌を処置する方法」とは、身体状態を治療し、回復することを目的とする方法、及び/又はアポトーシス抵抗性を伴った癌に罹患している個体の寿命を延長する方法を意味している。「アポトーシス抵抗性を伴った癌を予防する方法」とは、まだアポトーシス抵抗性を伴っていない癌に罹患している個体のアポトーシス抵抗性の発現を予防することを目的とする方法を意味する。
【0039】
本発明による癌を処置又は予防する方法は、好ましくは、併用化学療法に相当する。実際には、本発明によるc‐cblアンタゴニストは、アポトーシスを回復し、それによって現在化学療法で使用されている公知の薬剤の有効性を回復させ及び/又は高める。よって、c‐cblアンタゴニストは、例えば、以下の抗癌剤のうちの少なくとも1つと組み合わせて(同時に又は連続して)個体に投与され得る:
− アルキル化剤、例えばシクロホスファミド(Cyclophosphamide)、クロラムブシル(Chlorambucil)及びメルファラン(Melphalan);
− 代謝拮抗剤、例えばメトトレキサート(Methotrexate)、シタラビン(Cytarabine)、フルダラビン(Fludarabine)、6‐メルカプトプリン及び5‐フルオロウラシル;
− 抗有糸分裂剤、例えばビンクリスチン(Vincristine)、パクリタキセル(Pclitaxel)(タキソール(Taxol))、ビノレルビン(Vinorelbine)、ドセタール(Docetal)及びアブラキサン(Abraxane);
− トポイソメラーゼ阻害剤、例えばドキソルビシン(Doxorubicin)、イリノテカン(Irinotecan)、白金誘導体、シスプラチン(Cisplatin)、カルボプラチン(Carboplatin)、オキサリプラチン(Oxaliplatin);
− ホルモン療法薬、例えばタモキシフェン(Tamoxifen);
− アロマターゼ阻害剤、例えばビカルタミド(Bicalutamide)、アナストロゾール(Anastrozole)、エキセメスタン(Examestane)及びレトロゾール(Letrozole);
− シグナル伝達阻害剤、例えばイマチニブ(Imatinib)(グリベック(Gleevec))、ゲフィチニブ(Gefitinib)及びエルロチニブ(Erlotinib);
− モノクローナル抗体、例えばリツキシマブ(Rituximab)、トラスツズマブ(Trastuzumab)(ハーセプチン(Herceptin))及びゲムツズマブ・オゾガマイシン(Gemtuzumab ozogamicin);
− 生物応答修飾物質、例えばインターフェロン‐α;
− 分化誘導剤、例えばトレチノイン及び三酸化ヒ素;及び/又は
− 血管形成を妨げる薬剤(血管新生阻害剤)、例えばベビシツマブ(Bevicizumab)、セラフィニブ(Serafinib)及びスニチニブ(Sunitinib)。
【0040】
加えて、本発明による癌を処置又は予防する方法は、放射線療法及び/又は外科手術を伴ってもよい。
【0041】
本発明はさらに、例えば、癌細胞において、アポトーシスを活性化し及び/又は高めることに使用するためのc‐cblアンタゴニスト、並びにアポトーシス抵抗性を伴った癌の処置及び/又は予防における使用のためのc‐cblアンタゴニストに関する。
【0042】
制癌剤のスクリーニングのための標的としてのc‐cblの使用
本発明の第2の態様は、癌、特にアポトーシス抵抗性を伴った癌の処置のための薬剤のスクリーニング方法であって、以下のステップ:
− 試験化合物を用意し;及び
− 前述の試験化合物がc‐cblを阻害するか否かを判定すること;
を含んでなり、ここで、前述の試験化合物がc‐cblを阻害するという判定が、前述の試験化合物が癌の処置又は予防のための薬剤であることを示している方法を対象とする。
【0043】
この方法は、好ましくはインビトロ又はエクスビボ(ex vivo)で行われる。
【0044】
より具体的には、本方法は、以下のステップ:
a)試験化合物を用意し;及び
b)前述の試験化合物の存在下でc‐cblの生物学的活性を測定し;
c)前述の試験化合物の不存在下でc‐cblの生物学的活性を測定し;並びに
d)ステップ(a)及び(b)の結果を比較すること;
を含んでなることができ、ここで、ステップ(b)で測定された生物学的活性がステップ(c)で測定された生物学的活性より低いという判定は、前述の試験化合物が癌の処置又は予防のための薬剤であることを示している。
【0045】
好ましくは、癌を処置するための前述の薬剤は、前立腺癌(例えば、前立腺腺癌)、肺癌(例えば、扁平上皮細癌腫)、乳癌(例えば、浸潤腺管癌腫)、卵巣癌(例えば、漿液性乳頭状癌腫)、子宮癌(扁平上皮細癌腫)、脳腫瘍(例えば、星状細胞腫)、結腸癌(例えば、結腸腺癌)、結腸直腸癌、直腸癌(例えば、直腸腺癌)、横紋筋の癌(横紋筋肉腫)、甲状腺癌、精巣癌、リンパ腫、及び黒色腫から成る群から選択された癌を処置するための薬剤である。
【0046】
先に示したとおり、c‐cblの生物学的活性は、多くの当該技術分野で周知の方法によって、例えば、ウエスタンブロット法又はRT‐PCRによってその発現レベルを測定することにより、ユビキチン化又はRTK(例えば、EGF‐R)のエンドサイトーシスを測定することによってE3リガーゼ活性を評価することにより、又は酵母2−ハイブリッド系、プル‐ダウン・アッセイ又は免疫沈降反応を使用して、結合パートナー、例えばEGF‐R、Grb2及び/又はCIN85へのその結合を評価することによって測定することもできる。
【0047】
試験化合物は任意の種類の化合物に相当し得る。それは例えば、小分子、又は、干渉RNA、アプタマー及びアンチセンスDNAから成る群から選択された核酸に相当し得る。好ましい実施形態において、試験化合物は、小分子であり、小分子のライブラリが本発明による方法を用いてスクリーニングされる。
【0048】
本発明はまた、癌の処置のためのc‐cblアンタゴニストのスクリーニングの標的としてのc‐cblの使用、及び癌のアポトーシス抵抗性を低減するc‐cblアンタゴニストのスクリーニングのための標的としてのc‐cblの使用を対象とする。
【0049】
癌の診断マーカー及び/又は予後マーカーとしてのc‐cblの使用
本明細書中に提示された結果は、ウエスタンブロット法又は免疫組織化学によって試験した場合に、ヒト前立腺腫瘍細胞が高いc‐cbl発現レベルによって特徴づけられることを示している。周囲の健常組織又は健常な前立腺由来の対照は全て、c‐cblで非常に弱く標識された。ウエスタンブロット法による試験は、c‐cbl発現レベルが周囲の健常組織に比べて前立腺腫瘍において2〜6倍高いことを示した(図5)。
【0050】
加えて、ウエスタン・ブロットの結果とインサイチュ(in situ)標識の結果の両方と、解剖病理学的分析とを相関させた後では、c‐cbl発現レベルが腫瘍の悪性度の度合いを反映しているように思われる。そのうえ、c‐cblの発現レベルは、前立腺癌と良性前立腺肥大(BPH)で異なっている。
【0051】
最後に、実施例7に示されているように、健常組織と比較した腫瘍組織における高いc‐cbl発現レベルは、前立腺癌細胞において見られるだけではなく、肺癌(例えば、扁平上皮細癌腫)、卵巣癌(例えば、漿液性乳頭状癌腫)、子宮癌(扁平上皮細癌腫)、脳腫瘍(例えば、星状細胞腫)、結腸癌(例えば、結腸腺癌)、直腸癌(例えば、直腸腺癌)及び横紋筋の癌(横紋筋肉腫)を含めた他の癌でも見られた。
【0052】
したがって、本発明の第3の態様は、癌、特にアポトーシス抵抗性を伴った癌を診断する方法であって、以下のステップ:
a)癌に罹患しやすい患者由来の生体試料を用意し;
b)前記生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し;及び
c)ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルを、非罹患生体試料において測定された値又は値の範囲と比較すること;
を含んでなり、ここで、ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルが、非罹患生体試料において測定された値又は値の範囲より高いという判定が、前述の患者が癌に罹患していることを示している、前記方法を対象とする。
【0053】
この方法は、好ましくは、インビトロ又はエクスビボで行われる。
【0054】
本発明は、さらに、癌、特にアポトーシス抵抗性を伴った癌の診断のためのc‐cblの使用を対象とする。より具体的には、c‐cblは、癌を診断するためのマーカーとして使用される。
【0055】
好ましくは、前述の癌は、前立腺癌(例えば、前立腺腺癌)、肺癌(例えば、扁平上皮細癌腫)、卵巣癌(例えば、漿液性乳頭状癌腫)、子宮癌(扁平上皮細癌腫)、脳腫瘍(例えば、星状細胞腫)、結腸癌(例えば、結腸腺癌)、結腸直腸癌、直腸癌(例えば、直腸腺癌)及び横紋筋の癌(横紋筋肉腫)から成る群から選択される。本発明による具体的な実施形態では、前立腺癌は本発明による癌から除外される。
【0056】
好ましい実施形態において、ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルが、非罹患生体試料において測定された値又は値の範囲より少なくとも25又は50%高いという判定が、前述の患者が癌に罹患していることを示している。最も好ましくは、ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルが、非罹患生体試料において測定された値又は値の範囲より少なくとも2、3倍、4倍、5倍、6倍又は7倍高いという判定が、前述の患者が癌に罹患していることを示している。
【0057】
c‐cbl発現レベルは、当該技術分野で周知のいずれかの方法を使用することで測定することができる。例えば、それはRT‐PCRによって測定することもできる。あるいは、それは免疫組織化学によって測定することもできる。そのような方法が実施例に詳細に記載されている。免疫組織化学的試験は、例えば、Santa Cruz Biotechnology(California, U.S.A)によって商品化されているCbl(C‐15)抗体、Cbl(A‐9)抗体又はCbl(2111C3a)抗体を使用することで実施できる。前記抗体は、好ましくは、Cbl(C‐15)抗体に相当する。
【0058】
好ましくは、非罹患生体試料は、癌に罹患しやすい患者由来の健常組織に相当する。実際には、同一条件下で並列して行われる試験中に2種類の試料を並行して採取し、研究できるので、周囲の健常組織が最適な対照である。解剖病理学の当業者は、健常な周辺組織から異常組織(すなわち、潜在的癌組織)を容易に区別できる。この実施形態では、本発明による診断方法は、前述の患者由来の健常組織においてc‐cbl発現レベルを測定する更なるステップ(b2)を含んでなり、そしてステップ(c)は、ステップ(b)及びステップ(b2)にて測定されたc‐cbl発現レベルを比較することを含んでなる。
【0059】
あるいは、非罹患生体試料は、非罹患個体に由来することもできる。非罹患生体試料において測定されたc‐cbl発現の値又は値の範囲は、本発明による診断法をおこなう前に決定されてもよいし、又は本発明による診断法の枠組みの中で測定されてもよい。非罹患生体試料において測定されるc‐cbl発現の値又は値の範囲が、本発明による診断法をおこなう前に測定される場合には、この値又は値の範囲は、好ましくは、少なくとも2、5、10、50又は100個の非罹患生体試料から得られたデータから決定される。非罹患生体試料において測定されるc‐cbl発現の値又は値の範囲が、本発明による診断法の枠組みの中で測定される場合には、本発明による診断法は、ステップ(c)を実施する前に、非罹患生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定する更なるステップを含んでなる。
【0060】
好ましい実施形態において、癌に罹患しやすい患者由来の生体試料は、好ましくは、上皮細胞及び/又は分化した管腔細胞を含んでなる。上皮細胞及び/又は分化した管腔細胞に加えて、生体試料は内部対照としてストロマ細胞を含んでいてもよい。c‐cbl発現レベルが、(i)健常な周辺組織に比べて上皮細胞及び/又は分化した管腔細胞において高く;及び(ii)ストロマ細胞に比べて上皮細胞及び/又は分化した管腔細胞で高い、という判定は、前述の患者が癌に罹患していることを示している。実際には、前立腺癌では、上皮細胞及び/又は分化した管腔細胞において、c‐cblが過剰発現されていることが見出された。
【0061】
別の好ましい実施形態において、本発明による診断法が、前立腺癌を診断するために行われる。
【0062】
前記の診断法は、例えば、個体の癌を診断するために、癌の転帰の見通しを立てるために、処置計画を設計するために、癌の進行を観察するために、及び/又は薬剤に対する個体の応答を観察するため(すなわち、「薬剤モニタリング」)に使用できる。より具体的には、前記の診断法が障害の進行を観察するために、及び/又は薬剤に対する応答を観察するために使用されるときには、それは少なくとも2つの異なった時点(例えば、処置の開始前後)において繰り返される。
【0063】
c‐cbl発現レベルが、癌細胞のグレードに相関することが見出された。したがって、c‐cblは、大量の解剖病理学的研究を実施する必要なしに、癌の悪性度を測定するためのマーカーとして使用され得る。
【0064】
したがって本発明は、癌の悪性度を診断する方法であって、以下のステップ:
a)癌に罹患しやすい患者由来の生体試料を用意し;
b)前述の生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し;及び
c)ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルを、以下の:
i.非悪性の癌に罹患している個体;及び
ii.悪性の癌に罹患している個体;
由来の生体試料において測定された値又は値の範囲と比較すること;
を含んでなり、ここで:
− ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルが、非悪性の癌に罹患している個体由来の生体試料において測定された値と同一であるか、又はその値の範囲内に入っているという判定が、前述の癌が悪性ではないことを示し;且つ
− ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルが、悪性の癌に罹患している個体由来の生体試料において測定された値と同一であるか、又はその値の範囲内に入っているという判定が、前述の癌が悪性であることを示している、前記方法を対象とする。
【0065】
この方法は、ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルを、良性前立腺肥大に罹患している個体由来の生体試料において測定された値又は値の範囲と比較するステップをさらに含むこともできる。
【0066】
「悪性の癌」及び「非悪性の癌」という用語は、共に当業者にとって周知であり、且つ、明確である。癌の悪性度は、例えば、癌細胞のグレード(G1〜4)を測定することによって判断することもできる。より具体的には、癌細胞は、それらが正常細胞に類似しているように見えれば「低グレード」であり、そしてそれらが十分に分化していないように見えれば「高グレード」である。例えば、G1の癌が非悪性の癌として分類され得る一方で、G4の癌は悪性の癌として分類され得る。加えて又はその代わりに、癌の悪性度は、TNM分類を使用することで判断することもできる。この分類法では、T(aは(0)、1〜4)は原発性腫瘍のサイズ又は直接的な広がりを示し、そしてN(0〜3)は局部リンパ節への広がり具合を示し、そしてM(0/1)が転移癌の存在を示す。例えば、T1/N0/M0の癌は非悪性の癌に分類され得、T4/N3/M1の癌は悪性の癌に分類され得る。
【0067】
c‐cblの高い発現は、癌細胞がアポトーシスに対して抵抗性になったことを示す。そのため、そういった癌細胞を持っている患者は、積極的治療法(aggressive chemotherapy)によって処置される必要がある。よって、c‐cblは、患者の処置計画を選択するためのマーカーとして使用できる。
【0068】
よって本発明は、積極的化学療法によって処置されるのに好適な癌に罹患している患者を選択するための方法であって、前述の患者由来の生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し、及びc‐cblの高い発現レベルを有する場合にその患者を選択するステップを含んでなる方法を対象とする。
【0069】
「c‐cblの高い発現レベルを有する患者」とは、非罹患個体及び/又は患者由来の健常組織の試料におけるc‐cbl発現レベルの値又は値の範囲に比べて少なくとも25又は50%高い、好ましくは少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍又は7倍高いc‐cbl発現レベルを有する患者を意味している。
【0070】
「積極的化学療法」とは、悪性の癌を処置するために適した化学療法を意味している。具体的には、そのような積極的化学療法は、副作用を引き起こす可能性があり、そのため、非悪性の癌の場合には望ましい処置計画にはできない。積極的化学療法は、通常、高用量の薬剤を用いて行われる併用化学療法に相当する。併用化学療法は、例えば、アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗有糸分裂剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン療法剤、シグナル伝達阻害剤、アロマターゼ阻害剤、分化誘導剤、モノクローナル抗体、生物応答修飾物質、及び血管新生阻害剤から成る群から選択される少なくとも1種類の化合物の高用量の投与を含んでなることもできる。積極的化学療法は、放射線処置及び/又は外科手術とさらに組み合わせることもできる。
【0071】
好ましい実施形態において、積極的化学療法は、c‐cblアンタゴニストの投与を含んでなる。
【0072】
本発明はまた、c‐cblアンタゴニストで処置されるべき患者を選択するためのマーカーとしてのc‐cblの使用、及びc‐cblアンタゴニストによって処置されるのに好適な癌に罹患している患者を選択するための方法であって、前述の患者由来の生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し、c‐cblの高い発現レベルを有している患者を選択するステップを含んでなる方法を対象とする。
【0073】
本発明はさらに、アポトーシス抵抗性を伴った癌を処置又は予防する方法であって、以下のステップ:
a)前述の患者由来の生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し;
b)c‐cblの高い発現レベルを有する患者を選択し;及び
c)c‐cblの高い発現レベルを有する前述の患者に有効な量のc‐cblアンタゴニストを投与すること、
を含んでなる前記方法を対象とする。
【0074】
雑誌記事若しくは要約、公開された特許出願、交付済み特許又はいずれかの他の参考文献を含む、本明細書中に引用された全ての参考文献は、引用された参考文献内に存在する全てのデータ、表、図面及び文書を含めて、全体として本明細書に組み込まれる。
【0075】
異なった意味を持っているにもかかわらず、用語「comprising」、「having」、「containing」及び「consisting」は、この明細書を通じて互換的に使用され、互いに置き換えることもできる。
【0076】
本発明は、以下の実施例及び図面を考慮した上でさらに評価されるであろう。
【実施例】
【0077】
実施例1:材料及び方法
1.1.マウス
ラットに対して(c‐cblのノックアウトマウスに対して、及び同じ遺伝的背景、sv129を有する野生型マウスに対して)インビボにおいてか、或いはc‐cblをノックアウトしたマウス由来のMEFに対して、又は我々が胎生期13日目に作出した野生型マウス由来のMEFに対して、インビトロにおいて、試験を実施した。sv129遺伝的背景を有するマウスから出発して、c‐cbl−/−(KO)動物を作出した(Naramura et al. 1998 Proc Natl Acad Sci U S A. 1998 95:15547-52)。スプラーグドーリー(Sprague Dawley)ラットも使用した(IFFA Credo, l’Arbresle, France)。
【0078】
1.2.細胞株及び腫瘍
ヒト前立腺癌腫由来の生体試料は、Myriam Decaussin-Petrucci博士によって提供された(Lab. Anat. Cytol. Pathol., CHU Lyon-Sud, Lyon)。
【0079】
LNCaPは、ヒト細胞株であり、前立腺のホルモン依存性転移性腫瘍から得られた。当該細胞を、7.5%のFCS、20μg/mlのストレプトマイシン、20U/mlのナイスタチンを補ったRPMI 1640培地(Invitrogen)中で維持した。LNCaPは、継代50〜60代の間で使用した。ウエスタンブロット法のために、LNCaP細胞を、条件ごとに5枚のディスクを用いて、それぞれ10cmディスク(22.105細胞)と6cmディスク(8.105細胞)内に播種した。細胞を、24時間接着させ、そして0日目に様々な濃度のR1881で処理した。対照を含めた全ての細胞を、同じエタノール濃度の存在下で培養した。H22又はエトポシド処理のために、LNCaP細胞を、既知濃度のH22又はエトポシドの存在下で24時間培養した。RNAサイレンシングを、製造業者の取扱説明書(Invitrogen)に従いlipofectamine 2000を使用をすることでOptimen培地(Gibco)中で古典的方法によりおこなった。c‐Cbl RNAiは、Eurogentecによって作出された。その配列は:GGGAAGGCUUCUAUUUGUU(配列番号2)である。siRNA対照をInvitrogenから購入した:siRNA‐A(sc-37007)及びsiRNA‐B(sc-44230)。
【0080】
RAT1‐MEN2A細胞株を使用した。この細胞株は、不死化されているが、キメラRet受容体チロシンキナーゼとさらにRetのコレセプター、GFRも過剰発現している非形質転換ラット線維芽細胞株である。キメラRetは、C末端細胞質内領域においてFv配列が化学製品APに一時的に結合することが可能である。よって、APの存在下では、Ret‐Fvの二量体化と発癌性タイプ活性化が起こる。その一方で、Retのための生理的リガンド、GDNFの存在下では、一過性の四量体(Ret‐Fv)2+(GFRalpha)2の形成が起こり、それが生理学的活性化につながる。
【0081】
1.3.化学物質と抗体
Aldrich Chemical Co.から入手したフルタミドを、0.5%(w/v)にてメチルセルロース400(Fluka)水溶液中に溶解した。テストステロンアゴニストのメチルトリエノロン(R188)をNEN Life Science Productsから購入した。プロテアーゼインヒビターカクテルをRoche Molecular Biochemicals(Mannheim, Germany)から入手した。過酸化水素、エトポシド、4’,6’‐ジアミジノ‐2フェニルインドール(DAPI)、アクチンポリクローナル抗体、Tween20、及びBiomax MRフィルムをSigmaから入手した。Schleicher & Schuellのポリビニルジフルオライド(PVDF)膜をMerck Eurolab(Strasbourg, France)から購入した。西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG及び化学発光キットをCovalAbから入手した。TRIzol及びdNTPをLife Technologiesから入手した。TaqポリメラーゼをPromega Life Scienceから購入した。プライマーは、ProligoFrance SAS(Paris, France)又はMWG GmbH(Ebersberg)のいずれかによって合成された。M‐MLV及び[33P]dATP(1000〜3000Ci/mmol)をAmersham(Orsay, France)から購入した。マイヤーヘマトキシリン(Mayer's haematoxylin)及び水性包埋剤(Faramount)をDako(Trappes, France)から入手した。
【0082】
実施例の枠組みの中で使用される抗体は、以下の市販の抗体であった:c‐cblの15個のC末端アミノ酸に対する抗cbl抗体をSanta Cruz Biotechnology(California, U.S.A.、カタログ番号sc170)から入手した、抗Cbl‐b抗体(Santa Cruz、カタログ番号C20)、サイトケラチン18(CK18)に対して産生されたマウスポリクロナール、アンドロゲン受容体に対して産生されたウサギポリクロナール(AR、sc-815)、抗Bim抗体(Santa Cruz、カタログ番号H191)、抗Smac/DIABLO抗体(Santa Cruz、カタログ番号V17)、抗カスパーゼ9抗体(Santa Cruz、カタログ番号H83)、抗活性化カスパーゼ3又は6抗体(Ozyme、それぞれカタログ番号Covalab及びN0 9762)、抗c‐IAP1又は2抗体(Santa Cruz、カタログ番号H85)、抗XIAP抗体(Abcam、カタログ番号ab21278)、抗Bcl2抗体(Santa Cruz、カタログ番号sc492)並びに抗Akt及びphAkt抗体(Santa-Cruz)。アプリン/アピリミジンエンドヌクレアーゼ(APE1/REF1)ヒト融合タンパク質ウサギポリクローナル抗体をAbcamから入手した(カタログ番号ab82)。
【0083】
1.4.iRNA
c‐cblのiRNAはEurogentecによって作出され、それは以下の配列:5’GGGAAGGCUUCUAUUUGUU3’(配列番号2)及び5’CUGUCCAUCUAGAGACAAA3’(配列番号3)を持っていた。それはヒト、ラット及びマウスc‐cblに対して有効である。それはcbl‐bに対して効力がない。
【0084】
1.5.ウエスタンブロット法及び免疫組織化学的試験
S20リボソーム遺伝子の共増幅を伴う、ウエスタンブロット(WB)試験、免疫組織化学(IHC)試験及びRT‐PCR試験を、Omezzineら(2003, Biol. Reprod., 69: 752-760)、Bozecら(2004, J. Endocr., 183: 79-90)及びEl Chamiら(2005, J. Cell. Biol., 651-661)に既に記載されている従来の方法に従っておこなった。
【0085】
RT‐PCRのためのプライマーは、ProligoFrance又はMWG-Biotechnology製である。c‐cbl増幅に使用したプライマーは、以下の配列:ATGGACAAGGTTGGTGCGGTTGTGGT(配列番号6)及びGAAGAGGCTGATAGTCTGCTTAGT(配列番号7)を持っており、それにより、213bpの増幅産物を産生した。
【0086】
(抗c‐cbl、抗IAP2及び/又は抗XIAP抗体を用いた)ウエスタンブロット試験及び免疫組織化学的試験を、ヒト試料に対しておこなった。c‐cbl抗体(Santa Cruz Biotechnology、California, U.S.A.、カタログ番号sc170)の希釈は、IHC試験に関しては1/200、そしてWB試験に関しては1/3000であった。
【0087】
免疫組織化学的試験は、自動化した免疫組織化学的試験に相当した。IHC手順を、製造業者の手順を用いて、Ventana Benchmark XT自動染色装置により実施した。簡単に言えば、パラフィン除去後に、スライドを、95℃にて30分間、セルコンディショナー(Cell Conditioner)を用いて抗原賦活化した。次いでスライドを、特異的な一次抗体と一緒に37℃にて32分間インキュベートした。色素原としてFast Redを用いたビオチン/アビジン/ホスファターゼ系を含むVentanaキットを使用し、次いでスライドを標本にする前にヘマトキシリンによって対比染色した。特異的な一次抗体を除くことによって、陰性対照を得た。
【0088】
免疫組織化学的染色の分析のために、各スライドについて、強度を、なし(−)、弱い(+)、中等度(++)、又は、強い(+++)と格付けした。組織のうちの1%以上に免疫染色の明らかな痕跡があった場合には、標本が免疫陽性であると見なした。免疫染色は、処理状況に関して予備知識のない検査室の2人の独立した観察者によって評価された。
【0089】
40×/NA 0.75のplan-Neofluar対物レンズ(Carl Zeiss MicroImaging, Inc.)を備えた顕微鏡(Axioskop;Carl Zeiss MicroImaging, Inc.)を使用して画像を得た。観察を、デジタル画像媒体を使用して3200‐Kのハロゲンライトと日光青色フィルターにより実施した。DABを色素原として使用した。カメラ(Coolpix990;Nikon)では、Nikon収集ソフトウェアを使用した。全ての操作を室温にて実施した。画像処理を、Adobeフォトショップで実施し、そして全画像を、明るさ、コントラスト、及びカラーバランス調節で加工した。
【0090】
1.6.TUNEL及びIHC試験
TUNEL試験、さらにIHC試験を、ラット、マウス又はヒト前立腺由来の5ミクロン(5μm)の切片に対して実施した。ホルマリン中のBouin溶液中で処理し、続いて目盛付きのエタノール浴を用いて脱水した後に、試料をパラフィン包埋した。続いて、切片を、脱パラフィン処理し(キシレン)、その後水/エタノール浴で再水和し、次いでクエン酸の存在下で93〜98℃にて20分間処理した(エピトープの脱マスキング)。
【0091】
1.7.インビボ試験
ラット又はマウスを、メチルセルロース400(Fluka)の水溶液中に溶解したテストステロンアンタゴニストフルタミド(Aldrich Chemicals)で処理した。フルタミドを、10mg/kg/日の用量にて4日間連続で、ラット又はマウス(60〜90日齢)に経口投与した。前立腺葉の試料を、フルタミド処理が終わった翌日に採取した。
【0092】
テストステロン(テストステロンヘプチラート10mg/kg、Theramex)を、4日間連続で、1日あたり1.6mg/kgの用量にて皮下注射することによって、1日前に去勢したラットに投与した。
【0093】
1.8.インビトロ試験
テストステロンアゴニストR1881(Life Science Products)を、様々な濃度(10-12M〜10-8M)にてLNCaP細胞培養に使用した。
【0094】
c‐cblのMEF KO及びMEF WTを、DMEM、10%のFCS中で培養した。アポトーシス誘導物質は、H22の場合には0.5mMの終濃度にて、そしてエトポシドの場合には10μmの終濃度にて使用した。処理の24時間後に、アポトーシスについて細胞を試験した。ヒト前立腺癌株は、125nMのc‐cbl iRNAで6時間トランスフェクトされ、トランスフェクションの24時間後又は48時間後に、c‐cbl発現のクエンチングについて試験した。処理は、RAT1‐MEN2A細胞と同じであった。
【0095】
1.9.統計的分析
データを平均S.D.として表した。異なる親由来の3〜7匹の動物を使用した。インビボ及びインビトロモデルの両方で生じたデータの統計的解析のために、一元ANOVAを実施して、全ての群間に相違があるか否かを判定し(P<0.05)、次いでBonferroniの事後検定を実施して、対をなす群間の相違の有意性を判定した。P<0.05を有意と見なした。統計的検定をStatViewソフトウェア・バージョン5.0(SAS Institute Inc.)により実施した。
【0096】
実施例2:c‐Cbl発現は、ラット腹側前立腺においてアンドロゲン依存性である。
齧歯動物において前立腺器官が3つの葉に分かれており、腹側前立腺(VP)がアンドロゲン依存性である一方で、頭側前立腺(CP)と背側前立腺(DP)がそうでないことは、当該技術分野で公知である(Banerjee et al. 1995 Endocrinology. 136:4368-76)。
【0097】
フルタミドは、その強さが使用したフルタミドの用量に依存するアポトーシスを誘発することが知られている(Kassim et al. 1997 J Anat. 190(Pt 4):577-88)。抗アンドロゲン・フルタミドは、アンドロゲン核受容体(AR)レベルで(前立腺の5α‐レダクターゼ酵素によってテストステロンから作り出される)ジヒドロテストステロン(DHT)と競合する。成体ラットを、最初に様々な処理期間、10mg/kg/日の用量にてフルタミドで処理し、そして異なった前立腺葉をc‐cbl発現に関して分析した。用量/効果測定もおこなった。次に、その内因性(endogen)テストステロンの主要源が破壊された去勢ラットを、c‐cbl発現試験のための手術の1日後に屠殺した。他の動物を、手術後2日目から5日目まで与えられた代替テストステロン処理後に分析した。最終的に、インサイチュ試験は、前立腺におけるc‐cblを精密に局所化することができ、且つ、重要なことに、c‐cblを発現している細胞に対するフルタミドの影響を観察することができるようになされた。
【0098】
腹側前立腺におけるc‐Cblタンパク質発現は、3日間のフルタミド強制食餌後には、対照に比べて有意に低かった(約半分)(図1)。mRNA発現もまた、2日間の処理後に影響を受けたので、c‐Cblの変化が転写レベルで存在するという事実を示した。しかしながら、タンパク質の発現は、mRNA(96時間の処理)にさらに影響を受けるように見えるが、それは、一部には転写後効果に起因し得、及び/又は前立腺間質細胞における弱いc‐cbl発現に起因し得る。これらの結果は、男性ホルモン活性の阻害が腹側前立腺におけるc‐cblの発現低下をもたらすことを明確に示した。
【0099】
尾側及び背側前立腺葉もまた試験したが、どんなフルタミド処理の期間であっても、c‐cbl発現の相違は見られなかった。これらの結果は、それが発現される組織がそれ自体アンドロゲン依存性である場合にのみ、c‐cblの発現が活性アンドロゲン受容体を経由するという仮説を補強する。実際に、齧歯動物の尾側及び背側前立腺葉がアンドロゲンで影響を受けないことが知られている(Banerjee et al. 1995 Endocrinology. 136:4368-76)。尾側及び背側前立腺は、腹側前立腺において観察されたc‐Cblのアンドロゲン依存性に対する内部陰性対照であると見なすことが可能である。
【0100】
c‐Cbl発現低下がフルタミドの用量に依存することを確認するために、及びc‐Cbl発現の有意な変化を見ることが可能であるフルタミドの用量を推定するために、用量/効果試験をおこなった。c‐cbl発現低下は、実際には、2mg/kg/日の用量から観察され、そして10mg/kg/日にて対照の3分の1に減少した。これらの量が生細胞数に対して非常にわずかな影響しか与えないことに留意することが重要である。
【0101】
ラットに対して実施した去勢では、腹側前立腺におけるc‐Cblのアンドロゲン依存性を確認した。具体的には、手術の1日後すぐに、当業者はc‐Cbl発現の低下を観察することができた。手術の翌日から始まる4日間に与えられる代替テストステロン処理の場合には、準正常型のc‐cbl発現レベルを観察した。手術後4日間のアンドロゲン投与が罹患組織を再配置させるには短かすぎるので、この結果は、c‐Cblが生理学的レベルまで再発現されることを強く示唆している。改めて、それは、腹側前立腺におけるc‐cblアンドロゲン依存性を示している。
【0102】
インサイチュ試験は、c‐Cblがラットで腹側前立腺の上皮境界で原則的に発現されていることを示した。分化した管腔細胞は染色されたが、基底管腔細胞では染色されなかった。間質細胞はどちらも染色されなかった。先に報告したデータと一貫して、フルタミド処理は、未処理の対照と比較して、10mg/kg/日にて96時間の処理においてc‐Cbl染色のほとんど完全な消失につながり、c‐Cbl発現のアンドロゲン依存性を改めて強調した。非常に重要なことには、この用量は上皮境界の保全に全く影響しなかったので、同量で処理した動物由来の前立腺抽出物のタンパク質及びmRNAレベルの両方の比較が可能であった。この試験はまた、4日間の処理がそれらの管腔c‐Cbl発現細胞に影響しないことを確実にした。同じインサイチュ試験におけるc‐Cbl染色は、管腔細胞において、腹側前立腺と比較して頭部前立腺は中程度であり、背側前立腺では全く見られなかった。アンドロゲン受容体(AR)が腹側前立腺の上皮細胞で強く発現され、c‐cblと共局在化した。c‐Cblに関して、AR染色はフルタミド処理後、特に処理の96時間後に消失した。この結果は、管腔前立腺細胞における活性ARとc‐cbl発現の密接な関連を明確に示している。
【0103】
実施例3:マウス前立腺の成熟中のc‐Cblアンドロゲン依存性の出現
マウスにおける腹側前立腺のc‐Cblのアンドロゲン依存性について調査するために、c‐Cbl発現をマウス前立腺発生中に分析した。あらゆるアンドロゲン依存性組織に関して、マウス前立腺成熟化が、実際には、生後15日目前後に現れるテストステロンの第一の波によることが知られている(Chung 1995 Cancer Surv. 23:33-42)。よって、その後16日目〜20日目のc‐Cbl発現レベルの変化を検出することが可能であり得る。よって、上皮特異的マーカーであるサイトケラチン18(K18)を用いて実験を行い(Schalken and van Leenders 2003 Urology. 62(5 Suppl 1):11-20)、ある日とその他の日のc‐Cbl発現レベルを比較することができた(図2)。c‐Cbl発現は、16日目〜18又は20日目から4倍超に増大したが、それはマウスにおけるテストステロンの第一波に相当する。
【0104】
これは、マウスにおけるアンドロゲン依存性c‐cbl発現を明確に立証している。
【0105】
実施例4:ラット腹側前立腺におけるフルタミド誘発アポトーシスは、c‐Cbl下方制御を伴う
アンドロゲン・レセプター活性化のレベルが前立腺の上皮細胞の生存と相関し、且つ、c‐Cbl発現がこの効果に依存しているので、c‐Cblと前立腺細胞アポトーシスとの相関を次に検討した。
【0106】
調査では、ラット腹側前立腺において、フルタミド処理によるc‐Cblの下方制御がミトコンドリア性アポトーシス経路の不均衡を伴い、それがアポトーシス経路の上方制御を促進することの立証をまず実現した。c‐Cbl KOマウス由来のマウス精巣生殖細胞において変更される2種類のアポトーシスマーカー:アポトーシス促進性BH3‐Onlyタンパク質Bim EL及びアポトーシスの阻害因子c‐IAP2を試験した(Uren et al. 2007 J Cell Biol 177:277-87;Strasser et al. 2005 Nat Rev Immunol 5:189-200;Schimmer 2004 Cancer Res 64:7183-90)。10mg/kg/日のフルタミド処理は、Bim EL発現(ウエスタンブロット法によって試験される)の増大をもたらした。その増大は、72時間の処理で検出され、そして96時間の処理で有意であった。インサイチュ試験は、未処理の対照に関して染色の完全な不存在と、24時間の処理からの腹側前立腺管腔細胞のBim EL染色の明確な発現を示し、そしてc‐Cbl及びARと共に共局在化した。Bim EL発現を増大するために必要とされる処理期間に対する、インサイチュ試験とウエスタンブロット法の間のわずかな矛盾は、恐らく2つのアプローチの感度の違い関係している。El Chamiら(2005; J Cell Biol. 171:651-61)によって既に報告されているようにc‐Cbl発現が減少するとき、これはアポトーシス促進性Bimマーカーの発現の増大と一貫性がある。逆に、c‐IAP2発現は、48時間のフルタミド処理において0.5倍で、より長い処理後もレベルを保っていた。これらのデータは、Omezzineら(2003, Biol. Reprod., 69:752-760)によってラット腹側前立腺に関する文献に既に記載されているアポトーシスの開始に一致する。
【0107】
これらの結果は、前立腺におけるc‐Cbl発現の減少とアポトーシス開始との密接な関連を示している。
【0108】
実施例5:c‐Cblは、ミトコンドリア経路を経てマウス胎児線維芽細胞におけるアポトーシスを下方制御する
c‐Cblは、腹側前立腺における管腔細胞アポトーシスの下方制御物質と考えられるので、KOマウス及びWTマウスからのマウス胎児線維芽細胞(MEF)における比較検討をおこなった。
【0109】
MEF細胞はアンドロゲン受容体を発現していないので、エトポシド化合物と過酸化水素(H22)をアポトーシス誘導物質として使用した。それらのそれぞれは、異なったシグナル伝達経路に関与することが知られているが、ともにアポトーシスのミトコンドリア経路に至る。過酸化水素はC‐Junキナーゼを活性化するが、エトポシドはdsDNA破断とDNA‐PK/p53活性化を引き起こすトポイソメラーゼIIを遮断する(DeYulia et al. 2005 Proc Natl Acad Sci U S A 102:5044-9;Kamata and Hirata 1999 Cell Signal 11:1-14;Karpinich et al. 2002 J Biol Chem 277:16547-52)。
【0110】
Bim ELは、WTのMEFと比較してc‐Cbl KOのMEFで上方制御されたことがわかった(図3A)。興味深いことに、前立腺管腔細胞において見られたように、フルタミドによるアポトーシス活性化は、KOにおいてもWT細胞においてもBim EL発現を増加させなかった。よって、アポトーシスが実行されているとき、c‐Cblは特にBimを妨げることはない。アポトーシス阻害剤のc‐IAP2とXIAPは、KO及びWT無処理対照群における発現レベルと同じレベルを示した(図3B)。H22やエトポシドによるアポトーシス活性化は、制御レベルの約1/3にこれらのIAPの有意の減少を引き起こす。
【0111】
次いで、これらの細胞のアポトーシス状況を試験した。切断型(活性型)カスパーゼ3は、WT細胞に比べてc‐Cbl KO細胞において2倍高い突発性の顕著な発現があった(図4A及び10A)。エトポシド活性化は、両ケース(KO又はWT)において切断型カスパーゼ3をわずかな、有意でない増大に導いたが、しかし、過酸化水素によって刺激したc‐cbl KO細胞においてカスパーゼ・エフェクターの急激で、顕著な発現を導いた(対照の3.5倍)。比較において、H22によって刺激した場合には、活性化したカスパーゼ3発現は、WTで2倍増大したが、KOと比べてかなり低いレベルのままであった。エトポシドには、MEFのカスパーゼ3活性化についてわずかな効果しかなかったが、過酸化水素の活性化はこれらの細胞における密接なc‐Cbl相関に関係した。アポトーシス細胞のパーセンテージは、使用した過酸化水素の希釈(0.1〜0.5nM)及び培養中の活性化の時間(16又は24時間)にかかわらず、WT培養物に比べてKO MEF培養物においてH22で実際に平均が大幅に高かった(43%のより多いアポトーシス細胞)(図4B及び10B)。エトポシド処理は、KO対WTのアポトーシス細胞の間の平均のわずかな相違に関与した(29%のより多いKOアポトーシス細胞)。WT MEF培養物は、エトポシド処理に比べてH22に対してわずかに感受性が低かったが(4.9%のWTアポトーシス細胞対5.8%のKOアポトーシス細胞)、c‐Cbl KO培養物はエトポシド処理とH22処理との間におけるより大きな相違に晒された:4%のアポトーシスのエトポシド処理KO細胞対8.75%のアポトーシスのH22処理KO細胞。両未処理細胞型の自発的なアポトーシスは、非常に低く、定量化できなかった。
【0112】
要約すると、アポトーシス細胞数に関して、c‐Cblのサイレンシングは、エトポシド処理に比べて過酸化水素処理によってより高い感受性を細胞に与えた。この態様は、先に報告されたカスパーゼ3の過剰活性化を完全に反映している。アポトーシス不均衡を明らかにするためには、これらの細胞が刺激されなければならず、そしてそれが自然にアポトーシス過程に入るほんのわずかな数の細胞に相当することは注目に値する。さらに、これらの結果の全てが、酸化ストレスに対応したアポトーシスの下方制御因子としてのc‐Cblの役割を裏付けている。
【0113】
実施例6:c‐Cbl上方制御は、ヒト前立腺腫瘍と強く関連している
前立腺癌は周知のアポトーシス抵抗性を維持している(Denmeade et al. 1996 Prostate 28:251-65)。本実施例の枠組みの中で、c‐cblにはアポトーシスの下方制御における役割があることが見出されたので、次に、前立腺癌におけるc‐Cblの発現状態を、c‐cbl発現をウエスタンブロット法によって検討することによって調査した。T3グレードの患者を手術し、そして試料を採取した。正常組織を、同じ患者の癌組織と比較した。これらの患者は、化学療法によっても又は放射線療法によっても処置されなかった。c‐Cblタンパク質は、腫瘍細胞において、ほとんど全ての分析に関して生理学的対照の少なくとも4倍に達するほど急激に増大した(図5)。
【0114】
次いで、更なる免疫組織化学的試験をおこなった。ヒト前立腺腺癌のいくつかの症例を集め、それらのグレードに従って列挙した。
【0115】
c‐cbl発現の程度をこれらの腫瘍に関して測定した。良性前立腺肥大(BPH)由来の切片がまた、蓄積された。前立腺腫瘍の臨床的及び解剖学的病理は、c‐Cbl発現レベルで比較された。c‐cbl発現レベルを目視により評価した。
【0116】
c‐cblは周囲の健常組織で発現されていなかった。
前立腺腫瘍に関して、以下のことがわかった:
− c‐cbl染色は低グレード前立腺腫瘍で弱かった;
− c‐cbl染色は高グレード悪性前立腺腫瘍で強かった;そして
− c‐cblは、上皮細胞で発現されたが、ストロマ細胞で発現されなかった。
BPHにおいて、c‐cbl染色は弱かった。
【0117】
前立腺癌がアポトーシスに対して抵抗性であることが知られているので、さらにIAPの非常に高い異常発現を維持することが知られているので(Krajewska et al. 2003 Clin Cancer Res 9:4914-25)、本結果は、c‐cblのアポトーシス下方制御的役割を示す結果と一緒に、c‐Cblが、癌、特に前立腺癌のアポトーシス経路を変更するアポトーシスに関する上流の作用物質(actor)であることを実証している。
【0118】
実施例7:c‐Cblの上方制御は様々な癌で見られる
免疫組織化学的(IHC)試験をおこなって、下記の癌に罹患している患者由来の試料におけるc‐cbl発現レベルを評価した:肺癌、乳癌、リンパ腫、卵巣癌、脳腫瘍、結腸癌、甲状腺癌、前立腺癌、黒色腫、食道癌、胃癌、肝臓癌、腎臓癌、膀胱癌、子宮癌及び膵臓癌。
【0119】
それぞれのタイプの癌に関して、(それぞれ3つ及び1つの試料を試験した)結腸癌及び黒色腫の他に、6つの異なる試料を試験した。6つの試料のうち3つを病院(CHU Lyon-Sud, Lyon)の患者から得、そして他の3つの試料は購入した市販のスライドであった。それぞれの癌試料に関して、黒色腫試料を除いて、健常な周辺組織の対応する対照試料が存在した。
【0120】
c‐cbl発現を免疫組織化学法によって分析した。結果を目視により分析した。「−」(染色なし)から「+++」(強い染色)に及ぶ発現レベルは、それぞれ試料に起因すると考えられた。
【0121】
対照試料は、いずれもc‐cblで染色されなかった(「−」)。
【0122】
癌試料に関して、c‐cbl染色は、本明細書中の以下の表1に示したとおりであることがわかった。
【0123】
【表1】

【0124】
結論として、c‐cblは、肺癌、乳癌、リンパ腫、卵巣癌、脳腫瘍、結腸癌、甲状腺癌、前立腺癌及び黒色腫で過剰発現されている。よって、これらの癌を診断するためのマーカーとして、c‐cblを使用できるかもしれない。加えて、c‐cblアンタゴニストがこれらの癌を処置できると予想される。
【0125】
先の予備的な結果の正当性を確認するために、様々な腫瘍におけるc‐cblの発現レベルを、追加試験によりさらに調査した。
【0126】
より具体的には、組織マイクロアレイアッセイ(TMA)におけるインサイチュ染色を、下記の組織を含めた16種類の組織でおこなった:前立腺癌(前立腺腺癌)、乳癌(浸潤腺管癌腫)、卵巣癌(漿液性乳頭状癌腫)、子宮癌(扁平上皮細癌腫)、脳腫瘍(星状細胞腫)、肺癌(扁平上皮細癌腫)、結腸癌(結腸腺癌)及び直腸癌(直腸腺癌)。
【0127】
対応する健常組織と比較して、c‐cblの過剰発現が、強度の程度こそ異なるが7つのタイプの腫瘍で検出した(図6)。正常組織と比較して、c‐Cbl発現は、ホルモン依存性腫瘍において(例えば、前立腺癌、卵巣癌、子宮癌及び脳腫瘍において)強く維持されているように思えた。c‐cblはまた、横紋筋肉腫(横紋筋の癌)、並びに肺癌、結腸癌及び直腸癌で非常に高度に発現していた。その他の腫瘍のいくつかで、かなり高いc‐Cbl染色が維持されていたが、対照組織と有意に異ならなかった(乳癌、肝臓癌、腎臓癌、膀胱癌、膵臓癌、リンパ腫、皮膚癌、食道癌及び胃癌)。
【0128】
酸化ストレスの指標となるエンドヌクレアーゼの発現レベルを、抗APE1/REF1抗体を用いて評価した。本明細書中の下記の表2に示されているように、多数の腫瘍が高い酸化ストレスを裏付けることがわかった。
【0129】
【表2】

【0130】
先の表の中で、「h」は強い発現を表し、「w」は弱い発現を表し、「NT」は非腫瘍組織を表し、「T」は腫瘍組織を表し、そして「nd」は未測定を表す。
【0131】
11個の試験組織のうち7つが、抗APE1/REF1抗体を用いて染色するとき陽性であった。(c‐cblを用いた染色強度が健常組織よりはるかに強かった)6つのc‐Cbl陽性腫瘍のうち4つはまた、健常組織ではAPE1/REF1に関して陽性ではなかったが、腫瘍、すなわち、前立腺腫瘍、子宮腫瘍、脳の腫瘍及び横紋筋肉腫においてのみAPE1/REF1に関して陽性であった。その他の2つのc‐Cbl陽性腫瘍、卵巣癌及び肺癌、は健常組織と腫瘍の両方で高い酸化ストレスを示した。これらの結果は、高いc‐Cbl発現が強い酸化ストレスと関連し、そしてある程度、組織のホルモン依存性と関連することを示す。
【0132】
c‐cbl染色の強度を、これらの腫瘍の解剖‐病理学的進行と相関させるために試験が行われている。
【0133】
実施例8:c‐cblと反応性酸素分子種(ROS)
先のデータは、c‐Cblが、酸化ストレスを受けている細胞の生存及び/又はアポトーシスに密接に関連していることを示している。強い酸化ストレスによりチロシンキナーゼ受容体が正しく下方制御されないことを前提とすると、c‐Cbl発現が正のフィードバック機構を通して増大される可能性があると仮定された。一方、エネルギー消費、特に脂肪酸酸化へのc‐Cblの重要な寄与を知ることで、このタンパク質が病理学的ROSの増大に一部関与することもあり得る。
【0134】
過酸化水素又はエトポシドの不存在下に比べて過酸化水素又はエトポシドの存在下で培養したLNCaP細胞株において、c‐Cblがわずかに少なく発現されることがわかった(図7A)。本明細書中で分析したBcl‐2及びc‐IAP2抗アポトーシス因子もまた、過酸化水素又はエトポシドの存在下でわずかに少なく発現されたが、アポトーシス促進性Baxタンパク質の発現は、特にエトポシド処理によって増大した。
【0135】
よって、c‐Cbl発現特性は他の抗アポトーシスのものと同じであり、それはc‐cblが抗アポトーシスに作用する事実で完全に一貫性がある。加えて、これらの結果はROSがc‐Cblを上方制御しないことを明確に示している。
【0136】
逆に、抗APE1/REF1シグナルの微減が見られるので、LNCaP細胞株におけるc‐Cblの一過性サイレンシングは、細胞の酸化に対して防御する(図7B)。したがって、c‐CblがROSの効果を増大させるか、或いは、恐らくROS産生において役割を果たしていると推測され得る。
【0137】
これらのデータは、c‐CblがROS産生にかかわっていることを強く示唆している。インビボ及びMEFの両方で同定されたc‐Cblの抗アポトーシス効果は、それらがc‐Cblを顕著に発現するとき、腫瘍細胞の生存に効果を有するようである。したがって、c‐cblは癌療法の非常に魅力的な標的である。
【0138】
実施例9:c‐cbl野生型(WT)マウスと比較した、c‐cblノックアウト(KO)マウスのアポトーシスの状況
インビボにおける、アポトーシスとc‐Cbl発現との間の関係を調査するために、KOマウスの腹側前立腺(VP)のアポトーシスの状況を、WTマウスのアポトーシスの状況と比較した。
【0139】
BH3‐Only Bimタンパク質は、Bak又はBaxとして、ミトコンドリア透過性に関与する抗生存関連物質(anti-survival relative)と拮抗することによって機能する。KOマウスのVPでは、BimELは、WTマウスのVPに比べて自発的により多く発現される(図8A)。アポトーシス促進性因子Bakもまた、KOマウスのVPで増大されることがわかった(図8A)。ミトコンドリアから放出されるタンパク質Smac/Diabloは、IAPの自動ユビキチン化をもたらすか、又はそれらのカスパーゼ阻害ドメインを直接妨害する、アポトーシス促進性IAPの負の調節因子である。Smacタンパク質は、WTマウスのVPの2倍高いレベルで、KOマウスのVPにおいて発現される(図8C)。Bim過剰発現、並びにBak過剰発現は、増大したSmac/DIABLO発現の原因であり得る。
【0140】
次いで、KOマウス対WTマウスのVPのIAPの発現パターンを調査した(図8D、E及びF)。C‐IAP1、及びそれほどではないにせよXIAPは、VP KOにおいて自然に下方制御される。XIAPに関しては3分の1減少し、c‐IAP1に関しては50%減少する。
【0141】
要するに、これらのデータは、自発的なアポトーシス/生存の不均衡と一致しており、c‐cbl KOマウスのPVにおけるアポトーシスに好都合である。
【0142】
処理されたミトコンドリアのイニシエーターのカスパーゼ‐9は、KOマウスのVPにおいてわずかに上方制御されたが、この結果はミトコンドリアのアポトーシス経路関与と整合した(図9A)。
【0143】
TUNEL試験は、これらのデータを裏付け(図9B)、c‐Cbl KO管腔細胞(WT管腔細胞に比べて約50%高い)内に多数のアポトーシス細胞を示した。最終的に、c‐Cblは、前立腺上皮細胞の抗アポトーシス制御因子であるとみなされる。c‐cblは、生理学的なアポトーシス閾値を低下させ、抗アンドロゲン・アポトーシス誘発パターンを特に妨害しない。
【0144】
実施例10:結果の考察
これらの試験は、前立腺細胞によって、及び前立腺腫瘍によっても与えられるアポトーシス過程の作用物質としての癌原タンパク質c‐Cblに焦点を当てた。
【0145】
マルチ・アダプターE3‐ユビキチンリガーゼc‐Cblは数タイプの調節をおこない、アポトーシス調節のためのc‐cblの可能性もまた、いくつかの論文に示された(Sinha et al. 2001 Exp Hematol 29:746-55;Hamilton et al. 2001 J Biol Chem 276:9028-37;Akiyama et al. 2003 Embo J 2003;22:6653-64)。El Chamiら(2005 J Cell Biol 171:651-61)は最近、c−Cblが、精巣生殖細胞のアンドロゲン依存性アポトーシスの調節において重要な役割を果たしていることを示し、それは我々に、その成熟化及び恒常性がアンドロゲンに依存する前立腺におけるかかる役割を調べるように促した。実際には、アポトーシス抵抗性が前立腺癌の顕著な特徴であることが実証されたので、前立腺の細胞死プログラムは非常に重要である(Krajewska et al. 2003 Clin Cancer Res 9:4914-25;Denmeade et al. 1996 Prostate 28:251-65)。アンドロゲン不応答性は、アポトーシス抵抗性が発生しているので、患者の重大な予後診断に関する、前立腺癌の発生を中断させる主な事象として疾患の経過の間に生じている(Agus et al. 1999 J Natl Cancer Inst 91:1869-76)。前立腺癌自体の発生は、PINにおけるアポトーシスの阻害因子の上方制御によって示唆されたとおり、まだアポトーシス過程の変化によって影響を受ける可能性がある(Krajewska et al. 2003 Clin Cancer Res 9:4914-25)。
【0146】
本試験の枠組みの中で、c‐Cblが腹側前立腺の管腔細胞(基底細胞ではなく分化した上皮細胞)において基本的に、且つ、高度に発現されていることがわかった。そのような局在化と高い強度は、様々な理由で非常に興味深いものである。第一に、c‐Cblはアンドロゲン受容体と共に共局在化している。ARが、管腔細胞において基本的に発現されていることは既に報告されており、そしてインサイチュにおけるテストステロンの減少がAR発現減少と並行して起こるc‐Cbl発現の減少をもたらすことは、我々の試験によって明確である。テストステロンの離脱におけるAR発現の下方制御もまた、既に報告されている。アンドロゲンが、AR mRNAを下方制御するが、ARタンパク質の半減期を上方制御することもまた以前の研究で示されている。睾丸では、前立腺と精のうがアンドロゲンによって等しく刺激されること、そして睾丸におけるAR免疫学的発現がアンドロゲン依存性であることが最終的に証明された。本研究において、c‐cbl染色が24時間の処理後すぐに強く減少することがわかり、そして前立腺におけるc‐Cblのアンドロゲン依存性を示したウエスタンブロット法によって確認された。アンドロゲン非依存性前立腺葉におけるc‐Cbl発現のあらゆる変化の不存在は、c‐CblとARとのつながりを強化する。テストステロンに対するこのc‐cbl発現依存性は、睾丸においてこのタンパク質がするようにこの組織においてもこのタンパク質が行う恐らく固有、且つ、顕著な制御機能を実証している。
【0147】
アンドロゲンは、管腔細胞の終末分化を駆動するのに重要であり、機能的なARを持つアンドロゲン非依存性の一過性増幅集団(TAP)がホルモン抵抗性前立腺癌において特定の重要性を持ち得ることが示唆された。この集団は、間接的な機構を通じてアンドロゲン反応性であり、且つケラチノサイト増殖因子(KGF)によってAR発現を維持すると考えられる。特にTAP及び腫瘍細胞におけるアンドロゲン調節を免れる又はアンドロゲン調節しないc‐Cblを探すために、そのような中間細胞集団内にc‐Cblを配置することは、大いに興味深いものであり得る。c‐Cblのアンドロゲン依存性は、それが上皮細胞の成長に密接に関連していることを示すテストステロンの第一波に現れた。実際には、上皮細胞の特異的マーカー(K18)と比較した場合、それらの細胞におけるc‐cbl発現のレベルは、テストステロンの暴露に従う。
【0148】
本明細書中に記載されたインサイチュでのc‐Cbl染色に付随する第2の、そして重要な態様は、フルタミド処理の時間又は用量がどんなものであっても、顕著な上皮破損も起こらなかったことである。フルタミド処理が含まれるとき、この観察は、この研究に関する分子発現データの正当性を立証している。他の研究は、かかる用量が有害ではないこと、並びに、本明細書中又は他の研究で報告されたアポトーシス細胞の数が非常に少なく、c‐Cbl発現における変更を説明することはほとんどできないことを既に立証している。
【0149】
第3の、そして興味深い態様は、c‐cblが下方制御された又は無効にされたときに、常に観察されたBim ELの発現増加である。
【0150】
MEF研究は、KO MEFのアポトーシスシグナルにおけるIAPの低下、及び同じシグナルにおけるアポトーシスKO MEF数の顕著な増加を示した。興味深いことに、KO MEFは、WT MEFに比べて低い用量(0.1nM)にて過酸化水素(H22)に感受性であるように見え、それが、H22による活性カスパーゼ3の劇的な増加に特異的、且つ、密接に関連することもあり得る。結論として、MEF c‐Cblは、特に過酸化水素としての反応性酸素分子種(ROS)によって誘発されたアポトーシスに対して細胞を明らかに保護している。
【0151】
癌、特に前立腺癌はROSの高度な産生細胞である。ROSが上流のチロシンリン酸化を増幅するか、それどころかRTKsのリン酸化を無調節にするのであれば(Khan et al. 2008 FASEB J. 22:910-7)、MEFで得られた本結果を考慮すると、c‐Cbl発現レベルがこの影響に立ち向かうように増大し、その後、生存に有利な生存/死亡バランスを妨げることが、本試験から予想され得る。
【0152】
実際には、試験した前立腺腫瘍の全てが、非常に高いc‐Cbl発現を示した。それがIAPの発現増大を引き起こし、その後、アポトーシスに対する強い抵抗を引き起こした。興味深いことにこの機構は、IAP発現の変化がPINsにおいて観察される通り、前立腺癌が発生するとすぐに現れた。
【0153】
また、我々の結果は、前立腺以外の癌がc‐Cbl発現の増大に関係し、その後、この腫瘍マーカーに注がれる関心を拡張し、この腫瘍変化の機構の共有された同一性を指摘することも示した。
【0154】
実施例11:結果の概要
本明細書において、c‐Cblが、アンドロゲン依存的な様式で腹側前立腺の上皮細胞において高度に発現されることを示した。c‐Cblが抗アポトーシス性であることがまた、見出された。特に、MEFにおけるその無効化が、アポトーシスの阻害因子(IAP)の発現を急激に減少させた。c‐Cblの異常に高い発現がヒト腫瘍に見られ、それは、上皮内新生物(PIN)のように、アポトーシスに抵抗性であり、且つ、IAPを過剰発現することが知られている。上皮腹側前立腺細胞で高度に発現されているc‐Cblは、マウス及びラット、そして間違いなく初代MEFにおいて、アポトーシスの下方制御因子であり得る。これらの知見は、c‐Cblがヒト腫瘍におけるアポトーシスの抑止にかかわっており、且つ、c‐CblがH22誘導性アポトーシスに対する抵抗性に関与していることを強く示唆している。c‐Cblはまた、腫瘍マーカーとみなされ得る。
【0155】
c‐cblの発現がラットの腹葉の分化上皮細胞において自然に存在することが見出された。c‐Cbl発現のアンドロゲン依存性は、この葉の上皮細胞のみに現れ、その発生とその維持がアンドロゲンに依存していることが知られている。これらの結果は、アンドロゲンアンタゴニストであるフルタミドの投与後におこなわれた試験によって、或いは、去勢及びテストステロンの代替投与によって得られた。c‐Cbl発現レベルがマウスにおける前立腺発生(生後15〜20日)に伴って有意に増大したこともまた示された。
【0156】
フルタミドの投与によって引き起こしたアポトーシスは、ラットの腹側前立腺のc‐Cbl発現レベルの負の調節を伴うことが見出された。ラットにおいて、フルタミドの投与により、アポトーシスの阻害因子であるc‐IAP2の発現が有意に減少したが、その一方で、アポトーシス促進因子のBim ELが徐々に過剰発現されることがさらに示された。
【0157】
前立腺細胞においてc‐Cblによって発揮された調節が、別の系で観察できるか確認するために、MEF KO及びMEF WTを樹立し、そしてアポトーシスに対するそれらの感受性をH22及びエトポシドの存在下で試験した。アポトーシスの阻害因子であるc‐IAP2の発現レベルは、細胞がこれらのアポトーシス誘導物質のうちのいずれかの存在下に置かれた場合に、有意に減少することを示した。これらの同じ誘導因子の効果の下でアポトーシスを受けるMEF KOの数は、細胞がH22の存在下に置かれたときに比べてはるかに多かった(DAPI試験)。よって、これらの絶えず増殖している細胞の自発的アポトーシスは非常に少ないが、c‐Cblの不存在は、これらの細胞を過酸化水素に対して非常に感受性が高い状態にする。これらの結果は、前立腺に関してインビボで得られた結果と合致している:c‐Cblは、アポトーシス抵抗性に寄与するように思われ、特に、酸化還元電位変化が存在する場合にそのように思われる。特にそれらが悪性であるときに、前立腺癌が酸化還元電位の強い変化を示すと記載されていることに留意することは興味深い。
【0158】
ホルモン依存性前立腺癌が、周囲の健常組織と比べて非常に高い、c‐cblの自発的発現を示すことがウエスタンブロット法によってさらに示されている。これらの試験は、c‐Cbl発現の強さが腫瘍の解剖病理学的重症度によることを示唆している。他の腫瘍を免疫組織化学によって試験し、そして、c‐cblが、肺癌、乳癌、リンパ腫、卵巣癌、脳腫瘍、結腸癌、甲状腺癌、前立腺癌及び黒色腫でも同様に過剰発現されることが見出された。
【0159】
概要として、本試験は、免疫組織化学的試験又はウエスタンブロット試験によって、ヒト前立腺腺癌におけるc‐cbl癌原タンパク質の自発的な過剰発現を実証することに関する。それはまた、c‐cbl RNA干渉技術を使用した処理によって、同一の腫瘍細胞のプログラム細胞死を活性化する可能性に関する。結果は、前立腺癌に存在している酸化ストレスのため、c‐cblの発現が非常に高く、したがってこれらの腫瘍細胞のアポトーシスに対する抵抗性がもたらされることを暗示している。それらはまた、同一の機構が他の腫瘍細胞における高いc‐Cbl発現にも関与していることを暗示している。
【0160】
c‐cblをノックアウトされたマウスは、c‐cblに関して野生型であるマウスに比べて、自然に高いアポトーシスの割合となることがさらに示された。この結果はc‐cblの抗アポトーシス効果をさらに裏付けている。
【0161】
LNCaP細胞株を用いておこなった試験により、以下の結論が導き出された:
− Bcl‐2及びIAP抗アポトーシス因子のように、c‐cblの発現はH22及びエトポシドの存在下で低減される。よって、c‐cblは、抗アポトーシス因子の典型的な発現特性を有する;そして
− H22の存在下で見られたc‐cbl発現低下は、H22に起因するものではなく、反対に、c‐cbl発現低下はH22のようなROSの減少につながると思われる。
【0162】
実施例12:c‐cbl RNA干渉試験
22によりアポトーシスを活性化させて、LNCaP(例えば、DU145又はPC3)に加えて、患者から得たヒト腫瘍細胞、又は多様な癌細胞株から得たヒト腫瘍細胞に対してc‐cbl RNA干渉試験を行った。
【0163】
マウスモデル、例えばTRAMPマウスモデル、及びCWR22Rv1マウスモデルに対しても、c‐cbl RNA干渉試験が行われた。TRAMPマウスモデルにおいて、p53はT抗原の存在のために不活性であった。CWR22Rv1マウスモデルにおいて、当該マウスはアンドロゲン受容体を有するが、アンドロゲン非依存性になるように誘導されたヒト前立腺腫瘍異種移植片を得ることができた。c‐cbl発現レベルが測定され、そしてそれは、腫瘍のグレード、アポトーシス・レベル、及び/又はSprouty2、IAP(特にXIAP)、Bim、Smac/DIABLO、AIF及びARの発現レベルと相関された。さらに、これらの腫瘍細胞及び/又はマウスモデルにおいて、アポトーシスが誘導され得た。さらに、siRNA c‐Cblは、それらのマウスの腹膜内に注射され得、そして、腫瘍の減少が測定された。
【配列表フリーテキスト】
【0164】
配列の簡単な説明
配列番号1は、ヒトc‐cbl(p120cbl)のアミノ酸配列に相当する。
配列番号2及び3は、c‐cblを阻害するiRNAに相当する。
配列番号4及び5は、c‐cblがc‐Cbl KOマウスで発現されていないことを確認するために使用されるプライマーに相当する。
配列番号6及び7は、c‐cblを増幅するために使用されるプライマーに相当する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポトーシス抵抗性を伴った癌の処置又は予防における使用のためのc‐cblアンタゴニスト。
【請求項2】
前記癌が、肺癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、脳腫瘍、結腸癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、子宮癌、直腸癌、横紋筋の癌、精巣癌、リンパ腫及び黒色腫から成る群から選択される、請求項1に記載のc‐cblアンタゴニスト。
【請求項3】
前記アンタゴニストが、小分子、又は以下の:干渉RNA、アンチセンスDNA及びアプタマーから成る群から選択される核酸である、請求項1又は2に記載のc‐cblアンタゴニスト。
【請求項4】
前記アンタゴニストが、配列番号2及び配列番号3を含んでなる干渉RNAである、請求項3に記載のc‐cblアンタゴニスト。
【請求項5】
前記処置が、併用化学療法による処置である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のc‐cblアンタゴニスト。
【請求項6】
アルキル化剤、代謝拮抗剤、抗有糸分裂剤、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン療法剤、シグナル伝達阻害剤、アロマターゼ阻害剤、分化誘導剤、モノクローナル抗体、生物応答修飾物質及び血管新生阻害剤から成る群から選択される少なくとも1種類の化合物の有効量と組み合わせて投与される、請求項1〜5のいずれか1項に記載のc‐cblアンタゴニスト。
【請求項7】
アポトーシス抵抗性を伴った癌の処置のための薬剤をスクリーニングするためのインビトロでの方法であって、以下のステップ:
a)試験化合物を用意し;及び
b)前記試験化合物がc‐cblを阻害するか否かを判定すること;
を含んでなり、ここで、前記試験化合物がc‐cblを阻害するという判定が、前記試験化合物がアポトーシス抵抗性を伴った癌の処置又は予防のための薬剤であることを示している、前記方法。
【請求項8】
前記癌が、肺癌、前立腺癌、乳癌、卵巣癌、脳腫瘍、結腸癌、結腸直腸癌、甲状腺癌、子宮癌、直腸癌、横紋筋の癌、精巣癌、リンパ腫及び黒色腫から成る群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記試験化合物が、小分子、又は以下の:干渉RNA、アプタマー及びアンチセンスDNAから成る群から選択される核酸である、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
癌を診断するためのインビトロでの方法であって、以下のステップ:
a)癌に罹患しやすい患者由来の生体試料を用意し;
b)前記生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し;及び
c)ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルを、非罹患生体試料において測定された値又は値の範囲と比較すること;
を含んでなり、ここで、ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルが、非罹患生体試料において測定された値又は値の範囲より高いという判定が、前記患者が癌に罹患していることを示している、前記方法。
【請求項11】
癌の悪性度を診断するためのインビトロでの方法であって、以下のステップ:
a)癌に罹患しやすい患者由来の生体試料を用意し;
b)前記生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し;及び
c)ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルを、以下の:
− 非悪性の癌に罹患している個体;及び
− 悪性の癌に罹患している個体;
由来の生体試料において測定された値又は値の範囲と比較すること;
を含んでなり、ここで:
− ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルが、非悪性の癌に罹患している個体由来の生体試料で測定された値と同一であるか、又はその値の範囲内に入っているという判定が、前記癌が悪性でないことを示し;且つ
− ステップ(b)で測定されたc‐cbl発現レベルが、悪性の癌に罹患している個体由来の生体試料において測定された値と同一であるか、又はその値の範囲内に入っているという判定が、前記癌が悪性であることを示している、前記方法。
【請求項12】
前記癌が、肺癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮癌、脳腫瘍、結腸癌、結腸直腸癌、直腸癌及び横紋筋の癌から成る群から選択される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記癌が前立腺癌であり、且つ、前記の癌に罹患しやすい患者由来の生体試料が、前立腺の上皮細胞及び/又は前立腺の分化した管腔細胞を含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
積極的化学療法によって処置されるのに好適な癌に罹患している患者を選択するためのインビトロでの方法であって、以下のステップ:前記患者由来の生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し、及び、高いc‐cbl発現レベルを有する患者を選択すること、を含んでなる、前記方法。
【請求項15】
前記積極的化学療法が、高用量の薬剤を用いて行われる併用化学療法である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記積極的化学療法が、c‐cblアンタゴニストの投与を含んでなる、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
c‐cblアンタゴニストによって処置されるのに好適な癌に罹患している患者を選択するためのインビトロでの方法であって、以下のステップ:前記患者由来の生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し、及び、高いc‐cbl発現レベルを有する患者を選択すること、を含んでなる、前記方法。
【請求項18】
アポトーシス抵抗性を伴った癌を処置又は予防するための方法であって、以下のステップ:
a)患者由来の生体試料におけるc‐cbl発現レベルを測定し;
b)高いc‐cbl発現レベルを有する患者を選択し;及び
c)前記の高いc‐cbl発現レベルを有する患者に有効な量のc‐cblアンタゴニストを投与すること、
を含んでなる、前記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−517455(P2012−517455A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549542(P2011−549542)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051644
【国際公開番号】WO2010/092079
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【出願人】(511196870)ユニベルシテ クロード ベルナール リヨン プルミエ (1)
【出願人】(504217063)
【Fターム(参考)】