説明

癌治療に良好に応答する患者の同定方法

本発明は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いる癌治療に対して良好に応答する患者を同定する方法に関する。本発明はまた、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いるかかる患者の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いる治療に対して良好に応答する患者を同定する方法に関する。本発明はまた、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いるかかる患者の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒストンはクロマチンの主要タンパク質構成要素である。クロマチン構造の調節が遺伝子発現を制御する中心機構であることが明らかになりつつある。一般的パラダイムとして、ヌクレオソームヒストンのアミノ末端尾部中のリシン残基のε-アミノ基のアセチル化は転写活性化と関係があると同時に、脱アセチル化はクロマチンの凝縮及び転写抑制と関係がある。ヒストンのアセチル化及び脱アセチル化は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)及びヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の酵素活性により制御される。p53及びGATA-1を含むいくつかの転写因子はまた、HDACの基質であることもわかっている。
【0003】
原型のHDAC阻害剤、例えば天然産物トリコスタチンA(TSA)及びスベロイルヒドロキサム酸(SAHA)は、細胞周期停止及び腫瘍抑制に関連する遺伝子の発現を誘導する。HDAC阻害剤(HDACi)により誘導される表現型変化には、G1及びG2/M細胞周期停止、腫瘍細胞におけるアポトーシスの誘導、血管新生の阻害、免疫調節、並びに細胞分化の促進が含まれる。HDACiはまた、腫瘍細胞内の遺伝子発現、例えば腫瘍サプレッサー遺伝子の発現を調節する。抗腫瘍活性は、PXD-101(Belinostatとしても知られる)を含むいくつかのHDAC阻害剤を用いて動物モデルにおいてin vivoで実証されている。
【0004】
PXD-101は強力なHDAC阻害剤であって、ヒドロキサム酸型のヒストンデアセチラーゼ阻害剤に属し、当該グループの様々なメンバーはリンパ腫に対して著しいin vitro及びin vivo(前臨床及び初期臨床試験)活性を示している。
【0005】
HDAC阻害剤、例えば小分子クラスI及びクラスIIのHDAC阻害剤であるPXD-101は、癌の治療における用途を見出されている。
【0006】
HDACiは、他の化学療法剤と相乗的に作用することが示されている。従って、WO 2006/082428号は、癌を治療する方法であって、患者に第1の量又は用量のHDACi、及び第2の量又は用量の(他の)化学療法剤又は上皮増殖因子レセプター(EGFR)阻害剤、例えばTarceva(登録商標)を投与することを含む方法を記載している。第2の量又は用量は、シスプラチン、5-フルオロウラシル、オキサリプラチン、トポテカン、ゲムシタビン、ドセタキセル、ドキソルビシン、タモキシフェン、デキサメタゾン、5-アザシチジン、クロランブシル、フルダラビン、Tarceva(登録商標)、Alimta(登録商標)、メルファラン、並びに製薬上許容されるそれらの塩及び溶媒和物から選択される化合物の第2の量又は用量である。
【0007】
WO 2007/054719号は、患者にHDACiを投与することを含む血液癌の治療方法、並びに第1量のHDACiと、VEGFに対する抗体、Avastin(登録商標)、CD20に対する抗体、リツキシマブ、ボルテゾミブ、サリドマイド、デキサメタゾン、ビンクリスチン、ドキソルビシン及びメルファラン(L-PAM及びPAMとしても知られる)から選択される第2量の他の化学療法剤とを投与することを含む固形腫瘍癌の治療方法を記載している。
【0008】
PXD-101は、HCT116結腸癌細胞におけるチミジル酸シンターゼ(TS)の発現を低減することがin vitroで示されており(Tumber et al., Cancer Chemother. Pharmacol. (2007) 60:275-283)、これはWO 2006/082428号に示されているようにPXD-101と5-フルオロウラシルとの間で証明されている相乗作用についての機構原理を提供すると仮定されている。
【0009】
TSの上昇したレベルは、新規の及びフルオロピリミジンに対する耐性獲得の両方の結腸癌細胞において証明されており、低い腫瘍内TSレベルは、フルオロピリミジンに基づく化学療法で処置された転移性結腸直腸癌患者における応答及び生存の両方の改善を予測することが示されている(Aschele JCO 1999, Leichman JCO 1997)。さらに、5-フルオロウラシルに応答する結腸直腸腫瘍は、TSの遺伝子発現レベルが低く、さらにチミジンホスホリラーゼ(TP)及びジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)のレベルが低いことが示されている(Salonga et al., Clinical Cancer Research 6:1322-1327, 2000)。
【発明の概要】
【0010】
本発明者は、驚くべきことに、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンにより処置を受けた癌患者における臨床転帰が、HDACiの試験用量に応答した3つの遺伝子、すなわちチミジル酸シンターゼ(TS)、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)及びp21の発現パターンの変化に基づいて予測することができるということを見出した。具体的には、本発明者は、TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加、のうちの少なくとも2つを示す患者が、良好な臨床転帰を有する可能性があることを見出した。これはまた、本出願において「3つのうち2つ」の発現パターンとも称する。
【0011】
具体的には、「3つのうち2つ」の発現パターンを有する患者は、そのような発現パターンを示さなかった患者と比較して、試験用量のHDACiに応答して疾患のより長期間の安定性を示した。さらに、これらの患者は、それらの患者が受けた直近の先行する治療ラインに応答して観察された安定化期間と比較して、より長い又はほぼ等しい疾患の安定化期間を示した。対照的に、この発現パターンを示さなかった患者は、好ましい臨床転帰を有さず、直近の先行する治療ラインに応答して観察された安定化期間と比較して、より短い疾患の安定化期間を示した。
【0012】
従って、一態様では、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いる癌治療に対する被験体の感受性を評価する方法であって、以下のステップ:
HDACiの初回用量の投与後に、TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ
を含み、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いた治療に対して感受性の被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示す、上記方法を提供する。
【0013】
別の態様では、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いる癌治療に対する被験体の感受性を評価する方法であって、以下のステップ:
(i)被験体に、又は被験体から単離したサンプルに、HDACiの初回用量を投与するステップ;
(ii)TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;並びに
(iii)HDACiの初回用量の投与前後での、TS、DPD及びp21の発現レベルを比較するステップ
を含み、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いた治療に対して感受性の被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示す、上記方法を提供する。
【0014】
別の態様において、被験体での癌の治療方法であって、以下のステップ:
(i)被験体に、又は被験体から単離したサンプルに、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)の初回用量を投与するステップ;
(ii)TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;
(iii)HDACiの初回用量の投与前後での、TS、DPD及びp21の発現レベルを比較するステップ;並びに
(iv)HDACi及び1種以上の他の化学療法剤を含む治療レジメンの治療上有効量を被験体に投与するステップ
を含み、被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示したことを条件とする、上記方法を提供する。
【0015】
別の態様において、癌の治療方法における使用のためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)であって、該方法は、それを必要とする被験体にHDACi及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを投与することを含み、該被験体は、HDACiの初回用量の投与に応答した、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示すものから選択される、上記HDACiを提供する。
【0016】
別の態様において、癌の治療方法における使用のための1種以上の化学療法剤であって、該方法は、それを必要とする被験体に該化学療法剤及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)の使用を含む治療レジメンを投与することを含み、該被験体は、HDACiの初回用量の投与に応答した、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示すものから選択される、上記化学療法剤を提供する。
【0017】
別の態様では、被験体における癌の治療のための医薬の製造におけるヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)の使用であって、該治療は、該被験体にHDACi及び1種以上の他の化学療法剤を含む治療レジメンを投与することを含み、該被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示すものから選択される、上記使用を提供する。
【0018】
さらなる態様において、被験体における癌の治療のための医薬の製造における1種以上の化学療法剤の使用であって、該治療は、該被験体に該化学療法剤及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)を含む治療レジメンを投与することを含み、該被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示すものから選択される、上記使用を提供する。
【0019】
本発明のこれらの態様及びさらなる態様を以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】「3つのうち2つ」のマーカーパターンを示さない患者(n=14;破線)と比較した、「3つのうち2つ」のマーカーパターンを示す患者(n=6;実線)における無増悪生存期間(PFS)の増大を示すグラフである。無増悪生存期間は2つの患者群間で有意差があった(p < 0.04)。
【図2】「3つのうち2つ」のマーカーパターンを有しかつ PXD-101/5-FUで処置した患者(三角)の無増悪生存期間と、直近の先行する処置に応答した同じ患者(四角)の無増悪生存期間とを比較するグラフである。
【図3】「3つのうち2つ」のマーカーパターンを示さずかつPXD-101/5-FUで処置した患者(菱形)の無増悪生存期間と、直近の先行する処置に応答した同じ患者(四角)の無増悪生存期間とを比較するグラフである。
【図4】21日間の処置サイクルは、第1サイクルでのBel(PXD-101)単独、及び続く全てのサイクルでのFUとの併用でのBelを含んでいた。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書に記載する癌治療は、HDAC阻害剤及び1種以上の他の化学療法剤の使用を必要とするが、この治療はまた、本明細書に記載する追加の治療剤、非治療剤又は化学療法剤を含んでもよい。
【0022】
本明細書において使用するHDACi及び1種以上の化学療法剤の使用を含む治療レジメンについての言及には、本明細書に記載するように、HDACi及び1種以上の化学療法剤の使用からなるレジメン、並びにHDACi、1種以上の化学療法剤及び1種以上の追加の治療剤若しくは非治療剤の使用を含むレジメンが含まれる。
【0023】
本明細書において使用する、治療(処置)に関する言及には、腫瘍細胞の死滅又は増殖の阻害のための任意の治療(処置)が含まれる。これには、腫瘍の重症度を緩和することを目的とする治療(処置)、例えば腫瘍を治癒することを目的とする治療、又は腫瘍に関連した症候を緩和するための治療が含まれる。また、腫瘍を発症するリスクのある個体において腫瘍の発症を予防する又は停止する目的の予防的処置が含まれる。例えば、治療(処置)は、慣用的な手段により検出するには大きくなりすぎる前の微小の転移の死滅を目的とするものであってもよい。
【0024】
本明細書で定義する治療剤又は治療レジメンは、同時に、別個に又は順次に投与することができる。「同時」投与とは、HDACi及び他の化学療法剤を同じ投与経路によって単回用量で被験体に投与することを意味する。
【0025】
「別個」の投与とは、HDACi及び他の化学療法剤を、同時期に2つの異なる投与経路で被験体に投与することを意味する。これは、例えば一方の成分を注入により投与し、他方の成分を注入の過程で経口投与する場合でありうる。
【0026】
「順次」の投与とは、HDACi及び他の化学療法剤を異なる時点に投与するが、但し、最初に投与される剤の活性が、2つ目の剤の投与時点において被験体内に存在し持続していることを意味する。HDACiが最初に投与される剤で、他の化学療法剤が2つ目に投与される剤であってもよいし、あるいはその逆でもよい。
【0027】
本明細書において使用する「被験体」又は「患者」という用語は、哺乳動物又は非哺乳動物被験体を意味するものである。一実施形態において、被験体は、哺乳動物、例えばヒト、イヌ、マウス、ネコ、ウシ、ヒツジ、ブタ又はヤギである。好ましい実施形態において、被験体はヒトである。
【0028】
本発明の方法において、TS、DPD及びp21の発現レベルは、HDACiの初回用量への被験体又はそれ由来のサンプルの曝露後に測定しうる。
【0029】
チミジル酸シンターゼ(TS)は、チミジン一リン酸(dTMP)を生成するために使用される酵素であり、このdTMPは続いてリン酸化されてDNAの合成及び修復に使用されるチミジン三リン酸となる。TSは、複数の化学療法剤の標的であり、化学療法剤の効力について多くの研究において焦点が当てられてきた。例えば、Salonga et al., Clinical Cancer Research 6:1322-1327 (2000)は、化学療法剤5-フルオロウラシルに対して応答する直腸結腸癌は、TS、並びにジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ及びチミジンホスホリラーゼの遺伝子発現レベルが低いことを示している。TSレベルの上昇もまた、de novoの及びフルオロピリミジンへの耐性を獲得した結腸癌細胞において示されており、低い腫瘍内TSレベルがフルオロピリミジンをベースとする化学療法により処置された、転移性直腸結腸癌患者における応答及び生存の両方の改善を予測することが示されている(Aschele JCO 1999, Leichman JCO 1997)。
【0030】
ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)は、ピリミジン分解に関与する酵素である。ピリミジン異化における最初のかつ律速ステップである。これは、ウラシル及びチミンの還元を触媒する。過去20年にわたる研究によって、天然のピリミジン、ウラシル及びチミンの代謝、並びに癌化学療法剤であるフルオロピリミジン薬、5-FU(Diasio, R. B. The role of dihydropyrimidine dehydrogenase (DPD) modulation in 5-FU pharmacology. Oncology, 12 (10 Suppl. 7): 23-27,1998)及び他のフルオロピリミジン薬、例えばカペシタビン(ゼローダ;Xeloda)などの代謝においてDPDが重要な調節酵素であることが示されている。特に、薬物動態研究では、臨床的に投与された5-FUの85%が不活性化され、異化経路によって排出されることが示された(Heggie, G. C., Sommadossi, J. P., Cross, D. S., Huster, W. J., and Diasio, R. B. Clinical pharmacokinetics of 5-fluorouracil and its metabolites in plasma, urine, and bile. Cancer Res., 47: 2203-2206, 1987)。しかしながら、宿主及び腫瘍細胞における5-FUの細胞傷害性は、その代謝の程度によって測定される同化に利用される5-FUの量によるヌクレオチドへの同化後にのみ起こる(Grem, J. L. Fluoropyrimidines. B. A. Chabner and D. L. Longo (編), Cancer Chemotherapy and Biotherapy, Ed. 2, pp. 149-197. Philadelphia: Lippincott-Raven, 1996)。従って、5-FUの酵素活性化と、DPD酵素によるその異化作用による排出(5-FU代謝の全体的な調節における重要な因子として認識される)との間に均衡が存在する。
【0031】
p21は、サイクリン依存性キナーゼインヒビター1A(Cip1及びCDKN1Aとしても知られる)をコードする遺伝子である。コードされるタンパク質は、サイクリン-CDK2又は-CDK4複合体に結合してその活性を阻害し、それゆえG1の細胞周期進行の調節因子として機能する。この遺伝子の発現は、腫瘍抑制因子タンパク質p53によって厳密に制御され、それを介してこのタンパク質は様々なストレス刺激に応答したp53依存的細胞周期G1期停止を媒介している。このタンパク質は増殖性細胞核抗原(PCNA)、DNAポリメラーゼアクセサリ因子と相互作用することができ、またS期DNA複製及びDNA損傷修復において調節的役割を担っている。このタンパク質は、CASP3様カスパーゼにより特異的に切断され、そのためそれはCDK2の大規模活性化を導き、カスパーゼ活性化後のアポトーシスの実行の助けとなりうることが報告されている。
【0032】
本発明においては、HDACi及び1種以上の他の化学療法剤を含む治療レジメンによる癌治療に対する被験体の感受性を、HDACiの初回用量への患者又はそれから単離されたサンプルの曝露後に、TS、DPD及びp21のそれぞれの発現レベルを測定することにより評価する。
【0033】
本発明者は、HDACiの初回用量により生じるマーカーTS、DPD及びp21の発現レベルの特定のパターンの証拠によって、本明細書で定義する治療剤による治療(処置)後の無増悪生存期間の増大を予測することができることを見出した。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、HDACiの初回用量後に、TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち2つ以上を示す患者は、本明細書で定義する治療剤による治療(処置)後の無増悪生存期間の増大を示しうる。
【0035】
TS、DPD、及び/又はp21の発現の増加又は減少は、これらのマーカーの発現のベースライン測定値と比較して決定され、このベースライン測定値は、HDACiの初回用量への患者の曝露前に得られる。
【0036】
従って、好ましい実施形態において、本発明は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いる癌治療に対する被験体の感受性を評価する方法であって、以下のステップ:
(i)HDACiの投与前に、被験体から単離したサンプルにおける、TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;
(ii)HDACiの初回用量の投与後に、TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;
(iii)HDACiの投与前後での、TS、DPD及びp21の発現レベルを比較するステップ
を含み、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いた治療に対して感受性の被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示す、上記方法を提供する。
【0037】
別の好ましい実施形態では、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いる癌治療に対する被験体の感受性を評価する方法であって、以下のステップ:
(i)被験体由来のサンプルにおける、TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;
(ii)被験体に、又は被験体から単離したサンプルに、HDACiの初回用量を投与するステップ;
(iii)TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;並びに
(iv)HDACiの初回用量の投与前後での、TS、DPD及びp21の発現レベルを比較するステップ
を含み、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いた治療に対して感受性の被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示す、上記方法を提供する。
【0038】
さらに別の好ましい実施形態において、被験体での癌の治療方法であって、以下のステップ:
(i)被験体由来のサンプルにおける、TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;
(ii)被験体に、又は被験体から単離したサンプルにヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)の初回用量を投与するステップ;
(iii)TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;
(iv)HDACiの初回用量の投与前後での、TS、DPD及びp21の発現レベルを比較するステップ;並びに
(v)HDACi及び1種以上の他の化学療法剤を含む治療レジメンの治療上有効量を被験体に投与するステップ
を含み、被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示したことを条件とする、上記方法を提供する。
【0039】
TS、DPD及びp21のそれぞれの発現レベルの測定は、任意の適当な技術を用いて行うことができる。好ましい実施形態において、この測定は、RTQ-PCR(定量的リアルタイムPCR)を用いて行う。RTQ-PCRでは、標的DNA分子の増幅と同時の定量が可能である。定量的PCRを用いて遺伝子発現レベルを分析するために、最初に細胞の総mRNAを単離し、逆転写酵素を用いてDNAへと逆転写する。例えば、mRNAレベルは、Taqman Gene Expression Assays(Applied Biosystems)又はABI PRISM 7900HT装置を製造業者の説明書に従って用いて測定することができる。続いて、標準曲線との比較により転写物の量を算出することができる。
【0040】
TS、DPD及びp21のそれぞれの発現レベルは、被験体から得られた適当なサンプル中で測定することができる。好ましい実施形態において、サンプルは、末梢血単核細胞(PBMC)サンプル、粘膜サンプル又は腫瘍サンプルである。
【0041】
一般的に、TS、DPD及びp21のベースラインの発現レベルを測定するために使用するサンプルと、HDACiの投与後のこれらのマーカーの発現レベルを測定するために使用するサンプルとが同じ種類のものである、すなわち、両方のサンプルがPBMCである又は両方のサンプルが腫瘍サンプルである、ことが好ましいが、サンプルが異なる種類のものであることも想定される。
【0042】
ベースラインの発現レベルを測定するため及びHDACiの投与後のマーカーの発現レベルを測定するために、TS、DPD及びp21の発現レベルは、それぞれの場合に、被験体から得られた単一サンプル中で測定することができる。しかしながら、被験体から得られた2つ以上のサンプルを分析して、ベースラインの測定及びHDACiの投与後の両方についてこれらのマーカーの発現レベルを測定することが好ましい。最も好ましくは、TS、DPD及びp21の発現を、ベースラインの測定及びHDACiの投与後の発現レベルの測定の両方で、被験体から得られた2つのサンプル中で測定する。マーカーのベースラインの発現レベルの測定、及びHDACiへの曝露後のこれらのマーカーのレベルの測定の一方又は両方のために、マーカーの発現レベルを2以上のサンプル中で測定する場合には、TS、DPD及びp21の発現レベル測定値は、サンプル中で測定した発現レベルの平均とすることができる。これは、測定の精度を改善するだろう。
【0043】
本発明において、マーカーTS、DPD及びp21の発現レベルの測定は、患者又は患者から単離されたサンプルのHDACiの初回用量への曝露後に行い、その発現レベルをHDACiの初回用量への曝露前の発現レベルと比較する。
【0044】
本発明の方法において、HDACiの初回用量の投与は、患者に又は患者から得られたサンプルに対してのいずれであってもよい。従って、本発明には、サンプルを被験体から得、そのサンプル又はその一部をTS、DPD及びp21のベースラインの発現レベルの測定に使用し、続いてそのサンプル又はその一部をHDACiの初回用量に曝露し、続いてHDACi曝露後のTS、DPD及びp21の発現レベルを測定する場合が含まれる。換言すると、マーカーTS、DPD及びp21の発現レベルをin vitroで測定する。別の場合には、患者を直接HDACiの初回用量で処置し、TS、DPD及びp21の発現レベルのベースライン測定とHDACi処置後のこれらのマーカーの発現レベルの測定とを、適当な時点に該患者から単離されたサンプルに対して行う。
【0045】
患者を直接HDACiの初回用量で処置する場合には、HDACiの初回用量の投与後のTS、DPD及びp21の発現を測定するためのサンプルは、HDACiの初回用量の投与後の任意の適当な時点に採取することができる。任意の適当な時点とは、HDACiがその作用を発揮するのに十分な時間が経過した後の任意の時点を意味する。例えば、サンプルを、HDACiの初回用量の投与後6〜24時間の間に採取することができる。好ましくは、HDACiの初回用量の投与から6時間後にサンプルを採取する。
【0046】
本発明の方法において、HDACiの初回用量は、典型的には標準的な用量のHDACi、すなわちHDACiの使用を含む処置の過程で臨床医が使用すると考えられるHDACiの量である。HDACiの初回用量は、治療用量のHDACiの場合と同様に投与することができ、その用量の量は投与方法に応じて異なるだろう。従って、初回用量を経口投与する場合には、その量は、1日当たり約2 mg〜約6000 mg、例えば1日当たり約20 mg〜約6000 mg、例えば1日当たり約200 mg〜約6000 mgでありうる。初回用量を静脈内投与又は皮下投与する場合には、被験体には、1日当たり約3〜1500 mg/m2、例えば1日当たり約3、30、60、90、180、300、600、900、1000、1200、又は1500 mg/m2を送達するのに十分な量のHDAC阻害剤を投与しうる。
【0047】
本発明の方法において、HDACiの初回用量は、単回用量として一日で投与してもよいし、又は単回用量として数日の期間で(例えば1〜5日間にわたって1日1回)投与してもよい。
【0048】
本発明の方法において、HDACiの初回用量は、in vitroでサンプルに投与してもよい。好ましくは、この場合にサンプルに投与される初回用量は、サンプル中のHDACiの濃度が治療に使用されるHDACiの濃度を反映するように選択される。
【0049】
本発明において、TS、DPD及びp21のそれぞれの発現レベルの測定により、患者が本明細書に定義する治療用化合物に対する陽性の臨床反応を示す可能性があるか否かの推測が可能となる。陽性の臨床反応は、例えば、疾患の長期安定化、すなわち(疾患)進行までのより長い時間(より長い無増悪期間)(TTP)でありうる。他の陽性臨床反応には、腫瘍の退縮及び患者の生存期間の延長が含まれる。
【0050】
好ましい実施形態において、患者は、3つのマーカー(TS、DPD及びp21)のうち2つの発現レベルがベースライン測定値と異なると決定された場合には、本明細書において定義する治療用化合物を用いた治療に好適であると判定される。
【0051】
一実施形態において、患者は、TS及びDPDの発現レベルがベースライン測定値と異なると決定された場合には、本明細書において定義する治療用化合物を用いた治療に好適であると判定される。
【0052】
一実施形態において、患者は、TS及びp21の発現レベルがベースライン測定値と異なると決定された場合には、本明細書において定義する治療用化合物を用いた治療に好適であると判定される。
【0053】
一実施形態において、患者は、DPD及びp21の発現レベルがベースライン測定値と異なると決定された場合には、本明細書において定義する治療用化合物を用いた治療に好適であると判定される。
【0054】
より好ましくは、患者は、3つのマーカー(TS、DPD及びp21)の全ての発現レベルがベースライン測定値と異なると決定された場合には、本明細書において定義する治療用化合物を用いた治療に好適であると判定される。
【0055】
最も好ましくは、患者は、3つのマーカー(TS、DPD及びp21)の全ての発現レベルがベースライン測定値と異なると決定され、かつその発現レベルが、ベースライン測定値と比較してTSの発現減少、DPDの発現減少及びp21の発現増加を示す場合には、本明細書において定義する治療用化合物を用いた治療に好適であると判定される。
【0056】
一態様において、本発明の方法により、本明細書で定義する治療剤による治療から利益を受ける可能性が高い癌患者の同定が可能となる。
【0057】
本明細書で使用される用語「癌」は、腫瘍、新生物、癌腫、肉腫、白血病、リンパ腫などを意味する。例えば、癌には、限定されるものでないが、白血病及びリンパ腫、例えば皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)、非皮膚末梢T細胞リンパ腫、ヒトT細胞リンパ向性ウイルス(HTLV)に関連するリンパ腫、例えば、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)、急性リンパ性白血病、急性非リンパ球性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、及び多発性骨髄腫、固形腫瘍、例えば脳腫瘍、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、ウイルムス腫瘍、骨腫瘍、及び軟組織肉腫、通常の固形腫瘍、例えば頭部及び頸部癌(例えば、口頭、咽頭、及び食道の)、尿生殖器癌(例えば、前立腺、膀胱、腎、子宮、卵巣、精巣、直腸、及び結腸(結腸直腸))、肺癌、非小細胞肺癌、前立腺癌、乳癌、膵臓癌、黒色腫及びその他の皮膚癌、胃癌(stomach cancer)、脳癌、肝臓癌、甲状腺癌及び胸腺悪性腫瘍(上皮縦隔胸腺腫など)、並びに胃癌(gastric cancer)が含まれる。
【0058】
好ましい実施形態において、治療対象の癌は、結腸直腸癌、膵臓癌、食道癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、胃癌、頭頸部癌、非ホジキンリンパ腫及び乳癌の群から選択される。
【0059】
2種の活性薬剤(例えば本明細書に記載するHDAC阻害剤及び他の化学療法剤)を参照する本明細書に記載する治療方法に関して、「治療上有効量」という用語は、治療における第1薬剤及び第2薬剤の合計量(combined amount)を特定するものと意図される。合計量は、所望の生物学的応答、例えば、哺乳動物(例えばヒト)における、癌の進行(癌の転移を含む)の部分的又は全体的な阻害、遅延又は予防;癌の再発(癌の転移を含む)の阻害、遅延又は予防;あるいは癌の発症又は発達の予防(化学的予防)を達成するものである。
【0060】
本発明の方法は、癌に罹患しており治療を必要とする被験体であれば、その癌が新たに診断されたものであるか又は患者が何らかの形態の癌治療を受けているかどうかにかかわらず、適用可能である。本発明の方法はまた、アジュバント療法又はネオアジュバント療法を受けている被験体にも適用することができる。
【0061】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤
ヒストンデアセチラーゼは、ヒストン及び非ヒストンタンパク質(p53、チューブリン、及び各種の転写因子)の可逆的なアセチル化に関与する。哺乳動物HDACは、既知の酵母因子との類似性に基づいて、3クラスに分類されている。クラスI HDAC(HDAC1、2、3及び8)は、酵母RPD3タンパク質との類似性を有し、核内に位置し、転写コレプレッサーと結合した複合体として見出される。クラスII HDAC(HDAC4、5、6、7及び9)は、酵母HDA1タンパク質と類似しており、核にも細胞質内にも局在する。クラスIII HDACは、酵母SIR2タンパク質に類縁性のあるNAD依存性酵素からなる構造的に遠いクラスを形成する。
【0062】
HDAC活性の阻害を示す化合物は、5つの構造的に異なるクラスに分類される:(1)ヒドロキサム酸;(2)環状テトラペプチド;(3)脂肪族酸;(4)ベンズアミド;及び(5)求電子性ケトン。
【0063】
ヒドロキサム酸は、最初に同定されたHDAC阻害剤の一つであり、こうした物質は、HDAC阻害剤のモデルファーマコフォアを明らかにするのに役立った。こうした物質のリンカードメインは、直鎖又は環状構造からなり、飽和又は不飽和のいずれかであって、表面認識ドメインは、一般に、疎水基であり、もっとも多くの場合芳香族である。フェーズI及びフェーzうII臨床試験が、PXD-101を含めて、いくつかのヒドロキサム酸を基本とするHDAC阻害剤について、現在、進行中である。
【0064】
PXD-101は、低いマイクロモルの効力でさまざまな腫瘍細胞株の増殖を阻止し(IC50 0.08〜2.43 μM)、HDAC酵素活性を阻害する(IC50 9〜110 nM)、非常に強力なHDAC阻害剤である。異種移植モデルにおいて、PXD-101は腫瘍増殖を鈍化させる。それに加えて、PXD-101は、増殖の速い細胞において、細胞周期停止及びアポトーシスを引き起こす。
【0065】
ヒドロキサム酸を基本とするHDAC阻害剤は、本発明における使用に特に好適である。
【0066】
一実施形態において、本発明で使用されるHDAC阻害剤は、下記の式の化合物、並びに製薬上許容されるそれらの塩及び溶媒和物から選択される:
【化1】

【0067】
〔式中、
A は、非置換フェニル基であり、
Q1 は、共有結合、C1-7アルキレン基、又はC2-7アルケニレン基であり、
J は
【化2】

【0068】
であり、
R1 は、水素、C1-7アルキル、C3-20ヘテロシクリル、C5-20アリール、又はC5-20アリール-C1-7アルキルであり、
Q2
【化3】

【0069】
又は
【化4】

【0070】
である〕。
【0071】
一実施形態において、Q1 は共有結合、C1-4アルキレン基、又はC2-4アルケニレン基である。
【0072】
一実施形態において、Q1 は共有結合である。
【0073】
一実施形態において、Q1 はC1-7アルキレン基である。
【0074】
一実施形態において、Q1 は-CH2-、-C(CH3)-、-CH2CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH2CH(CH2CH3)-、-CH2CH2CH2-、又は-CH2CH2CH2CH2-である。
【0075】
一実施形態において、Q1 はC2-7アルケニレン基である。
【0076】
一実施形態において、Q1 は-CH=CH-又は-CH=CH-CH2-である。
【0077】
一実施形態において、R1 は水素、又はC1-7アルキルである。
【0078】
一実施形態において、R1 は水素、又はC1-3アルキルである。
【0079】
一実施形態において、R1 は水素、-Me、-Et、-nPr、-iPr、-nBu、-iBu、-sBu、又はtBuである。
【0080】
一実施形態において、R1 は水素、-Me、又は-Etである。
【0081】
一実施形態において、R1 は水素である。
【0082】
一実施形態において、Q2 は下記のとおりである:
【化5】

【0083】
一実施形態において、Q2 は下記のとおりである:
【化6】

【0084】
上記実施形態のすべての適合する組み合わせは、それぞれの特定の組み合わせが、個々に、しかも明示的に、列挙されているかのように、本明細書で開示される。
【0085】
一実施形態において、本発明で使用されるHDAC阻害剤は、下記の式の化合物、並びに製薬上許容されるそれらの塩又は溶媒和物から選択される:
【化7】

【0086】

【0087】
一実施形態において、本発明で使用されるHDAC阻害剤は、ボリノスタット(vorinostat)、パノビノスタット(panobinostat)(ヒドロキサメート)、ロミデプシン(romidepsin)(デプシペプチド)、SNDX-275、MGCD-0103、PCI24781、CHR-3996、ITF2357、SB939、JNJ26481585、JNJ16241199、バルプロ酸、及び下記の式の化合物(PXD-101としても知られている)、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物から選択される:
【化8】

【0088】
好ましい実施形態において、本発明において使用されるHDAC阻害剤はPXD-101である。
【0089】
本発明における使用に適した他のHDAC阻害剤としては、米国特許出願第10,381,790号、同第10/381,794号、同第10/381,791号に記載の化合物がある。
【0090】
立体異性体
上記化合物の立体異性体は、本発明の範囲に含まれる。多くの有機化合物は、平面偏光面を回転させることができる、光学活性体として存在する。光学活性化合物を説明する際には、接頭辞D及びL、又はR及びSを用いて、その分子の不斉中心(1つ若しくは複数)に関する絶対立体配置を示す。接頭辞d及びl、又は(+)及び(-)は、化合物による平面偏光の回転の様相を示すために用いられ、(-)若しくはlは、その化合物が左旋性であることを意味する。(+)若しくはdが前に付いた化合物は、右旋性である。所与の化学構造に関して、こうした化合物は立体異性体と呼ばれるが、これらは互いに重ね合わせることができない鏡像であること以外は、同一である。特定の立体異性体は、エナンチオマーとも称され、このような異性体の混合物はエナンチオマー混合物と呼ばれることが多い。エナンチオマーの50:50混合物は、ラセミ混合物と呼ばれる。本明細書に記載の化合物の多くは、1つ若しくは複数の不斉中心を有するので、異なるエナンチオマー型として存在する可能性がある。必要に応じて、不斉炭素は星印(*)で示される。本発明の化学式において、不斉炭素への結合を直線として表示する場合、当然のことながら、その不斉炭素の(R)及び(S)立体配置はともにこの化学式に包含され、したがってエナンチオマーもその混合物もこれに含まれる。当技術分野で使用されるように、不斉炭素について絶対配置を指定することが求められる場合、不斉炭素への結合のうち1つは楔形で表示され(平面より上にある原子への結合)、もう1つは、一連の短い平行線、若しくは短い平行線からなる楔形として表示することができる(平面より下にある原子への結合)。Cahn-Ingold-Prelogシステムを用いて、不斉炭素の(R)及び(S)立体配置を割り当てることができる。
【0091】
本発明で使用されるHDAC阻害剤が1つの不斉中心を有する場合、その化合物は2つのエナンチオマー形態として存在しており、この場合、その化合物への言及は本明細書では2つのエナンチオマーの双方に関わるものであり、エナンチオマーの混合物、たとえばラセミ混合物と呼ばれる特殊な50:50混合物にも関するものである。エナンチオマーは、当業者に公知の方法で分離することができるが、その方法は、たとえば、結晶化などによって分離可能なジアステレオ異性体の塩を形成すること(たとえば、CRC Handbook of Optical Resolutions via Diastereomeric Salt Formation by David Kozma (CRC Press, 2001)を参照);たとえば結晶化、気体−液体又は液体クロマトグラフィーにより分離することができるジアステレオ異性体誘導体若しくは複合体を形成すること;エナンチオマー特異的試薬を用いた一方のエナンチオマーの選択的反応、たとえば、酵素によるエステル化;又は、キラル環境における気体−液体若しくは液体クロマトグラフィー、たとえば、キラル担体(たとえば、結合したキラルリガンドを有するシリカ)での前記クロマトグラフィー、若しくはキラル溶媒存在下での前記クロマトグラフィー、による。当然のことながら、上記の分離法の一つによって望ましいエナンチオマーが別の化学物質に変換される場合には、望ましいエナンチオマー形態を遊離するために、追加のステップが必要である。あるいはまた、光学活性試薬、基質、触媒、若しくは溶媒を用いた不斉合成によって、又は不斉転換により一方のエナンチオマーを他方に変換することによって、特定のエナンチオマーを合成することができる。
【0092】
不斉炭素における特定の絶対立体配置の指定は、化合物の指定されたエナンチオマー形態が、鏡像体過剰(ee)の状態であること、すなわち言い換えると、実質的に他方のエナンチオマーがないことを意味するものと理解される。たとえば、"R"型の化合物には、実質的にその化合物の"S"型はなく、したがって、"R"型の鏡像体過剰状態である。逆に、"S"型の化合物には、実質的にその化合物の"R"型はなく、したがって"S"型の鏡像体過剰の状態である。鏡像体過剰は、本明細書で使用される場合、特定のエナンチオマーが50%を越えて存在することである。たとえば、鏡像体過剰は、約60%以上、たとえば約70%以上、たとえば約80%以上、たとえば約90%以上とすることができる。特定の実施形態において、一定の絶対立体配置が指定される場合、記載の化合物の鏡像体過剰率は少なくとも約90%である。さらに特定した実施形態において、化合物の鏡像体過剰率は、少なくとも約95%、たとえば少なくとも約97.5%、たとえば少なくとも99%鏡像体過剰である。
【0093】
本発明で使用されるHDAC阻害剤が2つ以上の不斉炭素を有する場合、3つ以上の光学異性体があって、ジアステレオ異性体として存在する可能性があるが、このような場合、本明細書でのこうした化合物への言及は、その化合物のそれぞれのジアステレオ異性体、及びそれらの混合物に関わる。たとえば、2つの不斉炭素がある場合、化合物は最大4つの光学異性体を有する可能性があり、2対のエナンチオマー((S,S)/(R,R)及び(R,S)/(S,R))を有する可能性がある。エナンチオマー対(たとえば、(S,S)/(R,R))は、互いに鏡像の立体異性体である。鏡像でない立体異性体(たとえば、(S,S)及び(R,S))がジアステレオマーである。ジアステレオ異性体対は、当業者に公知の方法、たとえば、クロマトグラフィー若しくは結晶化によって分離することができ、個々のエナンチオマーはそれぞれの対の中で上記のように分離することができる。
【0094】
塩及び溶媒和物
本明細書に記載の活性化合物は、上記のように、そうした化合物の製薬上許容される塩の形で調製することができる。製薬上許容される塩は、親化合物の望ましい生物活性を維持しているが望ましくない毒性作用を与えない塩である。製薬上許容される塩の例は、Bergeら、1977, "Pharmaceutically Acceptable Salts," J. Pharm. Sci., Vol. 66, pp. 1-19において検討されている。記載の活性化合物は、上記のように、溶媒和物の形で調製することができる。「溶媒和物」という用語は、本明細書では、溶質(たとえば、活性化合物、活性化合物の塩)と溶媒の複合体を指す慣用的な意味で用いられる。溶媒が水である場合、溶媒和物は、簡便に、水和物、たとえば、0.5水和物、一水和物、二水和物、三水和物、などと呼ぶことができる。
【0095】
プロドラッグ
本明細書に記載のHDAC阻害剤のプロドラッグも、本発明における使用に適している。どのような化合物のプロドラッグも、周知の薬理学的手法を用いて作製することができる。
【0096】
異性体、ホモログ、及びアナログ
本明細書に記載のHDAC阻害剤の異性体、ホモログ及びアナログも、本発明における使用に適している。これに関連して、ホモログは、上記化合物との実質的な構造的類似性を有する分子である。アナログは、構造的類似性に関わらず、実質的な生物学的類似性を有する分子である。また、異性体は、同じ分子式を有するが構造の異なる化合物である(たとえば、メタ、パラ、又はオルト配置)。
【0097】
化学療法剤
本発明での使用に適した化学療法剤(すなわち、HDAC阻害剤の使用もまた含む治療レジメンの一部として用いられる1種以上の他の化学療法剤としての化学療法剤)としては、TSを全体的に又は部分的に標的化することにより治療効果を発揮する化学療法剤が含まれる。従って、本発明における使用に好適な化学療法剤は、チミジル酸シンターゼ活性を直接的若しくは間接的に阻害若しくは妨害する、チミジル酸シンターゼ発現を阻害若しくは妨害する、及び/又は他の何らかの機構によってチミジル酸シンターゼを妨害するものである。
【0098】
種々の化学療法剤の正確な作用機構は本発明にとって重要ではないが、本発明者は、1種以上の他の化学療法剤が、TS、及び場合によりDPD、の低い又は低減した発現レベルを示す患者における効力の増大を示しうると考えている。従って、本発明の方法における使用に好適な1種以上の化学療法剤は、TS、及び場合によりDPD、の低い又は低減した発現レベルを示す患者における効力の増大を示すような薬剤である。
【0099】
そのような化学療法剤化合物としては、例えば以下が挙げられる:
フルオロピリミジン化合物、例えば5-フルオロウラシル(FU)及びカペシタビン(XelodaTMとして販売)、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物;
抗葉酸化合物、例えばペメトレキセド(MTA;AlimtaTMとして販売)、プララトレキサート(PDX)、GW1843、メトトレキサート(MTX)、エダトレキサート(EDX)、アミノプテリン(AMT)、PT523、ニュートレキシン(neutrexin)(トリメトレキサート)、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物;
チミジル酸シンターゼ(TS)阻害剤、例えばチミタック(thymitaq)(AG337)、プレビトレキセド(ZD9331)、BGC945、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物;そして
抗代謝産物化合物、例えばフトラフール含有化合物(例えばテガフール、フトラフール(UFT)、及びS-1)。
【0100】
一実施形態において、他の化学療法剤は、5-フルオロウラシル(FU)、カペシタビン、ペメトレキセド(MTA)、プララトレキサート(PDX)、チミタック(AG337)、プレビトレキセド(ZD9331)、BGC945、ラルチトレキセド、GW1843、メトトレキサート(MTX)、エダトレキサート(EDX)、アミノプテリン(AMT)、PT523、UFT、S-1及びニュートレキシン(トリメトレキサート)、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物の群から選択される。
【0101】
好ましい実施形態において、他の化学療法剤は、5-フルオロウラシル(FU)、ペメトレキセド(MTA)、プララトレキサート(PDX)、チミタック(AG337)、プレビトレキセド(ZD9331)、BGC945、ラルチトレキセド、GW1843、カペシタビン、UFT及びS-1、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物の群から選択される。
【0102】
好ましい実施形態において、他の化学療法剤は、5-フルオロウラシル、又は製薬上許容されるその塩若しくは溶媒和物である。
【0103】
好ましい実施形態において、他の化学療法剤は、ペメトレキセド、又は製薬上許容されるその塩若しくは溶媒和物である。
【0104】
好ましい実施形態において、他の化学療法剤は、プララトレキサート、又は製薬上許容されるその塩若しくは溶媒和物である。
【0105】
好ましい実施形態において、他の化学療法剤は、カペシタビン、又は製薬上許容されるその塩若しくは溶媒和物である。
【0106】
好ましい実施形態において、他の化学療法剤は、5-フルオロウラシル(FU)、チミジル酸シンターゼ(TS)阻害剤、及び抗葉酸化合物の群から選択される。
【0107】
治療レジメン
本明細書において記載する治療レジメンは、好ましくはHDACi及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む。場合により、治療レジメンはまた、本明細書に記載する追加の治療剤、非治療剤又は化学療法剤を含んでもよい。好適な治療剤としては、抗体、例えばAvastin、Erbitux及びHerceptinなど、並びに他の治療用化合物、例えばTarceva及びTykerbが挙げられる。
【0108】
好ましい実施形態において、治療用治療レジメンは、HDACi、1種以上の他の化学療法剤、並びに1種以上の治療用抗体及び/若しくは治療用化合物の使用を含む。
【0109】
好ましい実施形態において、治療用治療レジメンは、HDACi、1種以上の他の化学療法剤、及び1種以上の治療用抗体の使用を含む。
【0110】
好ましい実施形態において、治療用治療レジメンは、HDACi、1種以上の他の化学療法剤、及び1種以上の治療用化合物の使用を含む。
【0111】
治療用抗体は、好ましくはAvastin、Erbitux及びHerceptinの群から選択される。
【0112】
治療剤は、好ましくはTarceva及びTykerbの群から選択される。
【0113】
投与方法及び用量
HDAC阻害剤は、経口剤形、たとえば、いずれも製薬技術分野の当業者によく知られている、錠剤、カプセル剤(これらはそれぞれ持続放出若しくは徐放性製剤を含む)、丸剤、粉剤、顆粒剤、エリキシル剤、チンキ剤、懸濁剤、シロップ剤、及び乳剤として投与することができる。また、HDAC阻害剤は、製薬技術分野の当業者によく知られている、静脈内(ボーラス若しくは輸液)、腹腔内、皮下、又は筋肉内投与剤形で投与することができる。
【0114】
HDAC阻害剤は、活性成分の持続放出を可能にするような方式で製剤化された、デポー注射剤若しくはインプラント製剤として投与することができる。活性成分は小球形又は小円柱形に圧縮され、皮下又は筋肉内に、デポー注射剤又はインプラントとして埋め込まれる。インプラントは、生分解性ポリマー又は合成シリコーン、たとえば、Silastic、シリコーンゴム、又はDow-Corning社製の他のポリマーといった、不活性材料を用いることができる。
【0115】
HDAC阻害剤はまた、小単層ベシクル、大単層ベシクル、及び多層膜ベシクルといった、リポソームデリバリーシステムの形で投与することができる。リポソームは、コレステロール、ステアリルアミン、若しくはホスファチジルコリンといった、さまざまなリン脂質から作製することができる。
【0116】
HDAC阻害剤はまた、当該化合物分子が結合される個別の担体として、モノクローナル抗体を使用することによって、送達することもできる。
【0117】
HDAC阻害剤はまた、標的指向性薬物担体として可溶性ポリマーを用いて、調製することができる。こうしたポリマーとして、ポリビニルピロリドン、ピランコポリマー、ポリヒドロキシ-プロピル-メタクリルアミド-フェノール、ポリヒドロキシエチル-アスパルトアミド-フェノール、又はパルミトイル残基で置換されたポリエチレンオキシド-ポリリジンを挙げることができる。
【0118】
さらに、HDAC阻害剤は、薬物の放出制御を実現するのに有用な生分解性ポリマー、たとえば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸のコポリマー、ポリεカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、並びにハイドロゲルの架橋した若しくは両親媒性のブロックコポリマーを用いて調製することができる。
【0119】
HDAC阻害剤を用いる投与計画は、種類、生物種、年齢、体重、性別、及び治療しようとする癌のタイプ;治療対象の癌の重症度(すなわち、病期);投与経路;被験体の腎機能及び肝機能;並びに使用される個別の化合物若しくはその塩、などのさまざまな要因によって、選択することができる。通常の熟練した医師若しくは獣医師であれば、たとえば病気の進行を妨げ、(完全に若しくは部分的に)阻害し、又は停止させるといった、治療に必要な薬物の有効量を、容易に決定して処方することができる。
【0120】
HDAC阻害剤の経口投与量は、目的とする癌を治療するために、1日当たり約2 mg〜約6000 mg、たとえば1日当たり約20 mg〜約6000 mg、たとえば1日当たり約200 mg〜約6000 mgの範囲とすることができる。たとえば、経口投与量は、1日当たり約2、約20、約200、約400、約800、約1200、約1600、約2000、約4000、約5000、又は約6000 mgとすることができる。1日当たりの総量は、単回用量で与えることができるが、1日当たり2回、3回若しくは4回といった複数回用量で与えることもできる。
【0121】
たとえば、被験体は、約2 mg〜約2000 mg/日、たとえば約20〜約2000 mg/日、たとえば約200〜約2000 mg/日、たとえば約400 mg〜約1200 mg/日の範囲で投与を受けることができる。したがって、1日1回投与用に適切に調製された薬剤は、約2 mg〜約2000 mg、たとえば約20 mg〜約2000 mg、たとえば約200 mg〜約1200 mg、たとえば約400 mg〜約1200 mgを含有すると考えられる。HDAC阻害剤は、1日に1回の用量で、若しくは2、3若しくは4回に分けた用量で投与することができる。したがって、1日2回投与用に適切に調製された薬剤は、必要とされる1日量の半分を含有することになる。
【0122】
静脈内又は皮下に、被験体は、1日当たり約3〜1500 mg/m2、たとえば1日当たり約3、30、60、90、180、300、600、900、1000、1200、若しくは1500 mg/m2を送達するのに十分な量の、HDAC阻害剤(たとえば、PXD-101)の投与を受けるであろう。上記の量は、いくつかの適当な方法で、たとえば、大容量の低濃度HDAC阻害剤を、長時間にわたって又は1日数回、投与される。上記の量は、1日以上の連続した日数、断続的な日数、又は1週間(7日間)ごとにそれらを組み合わせて、投与することができる。あるいはまた、小容量の高濃度HDAC阻害剤を、短期間にわたって、たとえば、1日1回、1日以上の日数にわたって、連続して、間をおいて、又は1週間(7日間)ごとにそれらを組み合わせて、投与することができる。たとえば、1日当たり300 mg/m2の用量を、5日連続で治療当たり総計1500 mg/m2投与することができる。別の投与計画では、連続日数はやはり5日であるが、治療は2ないし3週間続き、治療全体で、総計3000 mg/m2 及び4500 mg/m2投与することができる。
【0123】
典型的には、約1.0 mg/mLから約10 mg/mLまで、たとえば、2.0 mg/mL、3.0 mg/mL、4.0 mg/mL、5.0 mg/mL、6.0 mg/mL、7.0 mg/mL、8.0 mg/mL、9.0 mg/mL、若しくは10 mg/mLの濃度のHDAC阻害剤を含有する静注製剤を調製し、上記の用量を達成できる量として投与することができる。ある例において、1日の全用量が約300から約1200 mg/m2の間となるように、十分な量の静注製剤を1日で被験体に投与することができる。
【0124】
好ましい実施形態において、1000 mg/m2のPXD-101を、1日1回、少なくとも5日間連続して、24時間ごとに30分の注入により静脈内投与することができる。
【0125】
一実施形態において、PXD-101は、1日総用量として1500 mg/m2まで投与される。一実施形態において、PXD-101は、1日総用量として1000 mg/m2又は1400 mg/m2又は1500 mg/m2を、たとえば、1日1回、連続して(毎日)、又は間欠的に、静脈内投与される。一実施形態において、PXD-101は3週間毎に第1日から第5日まで毎日投与される。
【0126】
HDAC阻害剤の静脈内投与のために許容されるpH範囲において、妥当な緩衝能を有するグルクロン酸、L-乳酸、酢酸、クエン酸、又は製薬上許容される酸/共役塩基をバッファーとして使用することができる。酸又は塩基、たとえば、塩酸又は水酸化ナトリウムのいずれかによって望ましいpH範囲に調整された塩化ナトリウム溶液も使用することができる。典型的には、静注製剤のpH範囲は、約5から約12までの範囲内とすることができる。静注製剤に好ましいpH範囲は、HDAC阻害剤がヒドロキサム酸部分を有する場合(たとえば、PXD-101のように)、約9から約12までとすることができる。適当な賦形剤を選択する際には、HDAC阻害剤の溶解性及び化学的適合性を考慮すべきである。
【0127】
好ましくは、約5から約12までのpH範囲で、当技術分野で周知の方法に従って調製された皮下投与製剤は、適当なバッファー及び等張化剤も含有する。こうした製剤は、1日1回ないし複数回の皮下投与で、たとえば、1日1、2若しくは3回で、HDAC阻害剤の1日用量を送達するように製剤化することができる。製剤の適当なバッファー及びpHは、投与すべきHDAC阻害剤の溶解性に応じて、当業者により容易に選択される。酸又は塩基、たとえば、塩酸又は水酸化ナトリウムのいずれかによって望ましいpH範囲に調整された塩化ナトリウム溶液も、皮下投与製剤に使用することができる。典型的には、皮下投与製剤のpH範囲は、約5から約12の範囲内とすることができる。皮下投与製剤に好ましいpH範囲は、HDAC阻害剤がヒドロキサム酸部分を有する場合、約9から約12までである。適当な賦形剤を選択する際には、HDAC阻害剤の溶解性及び化学的適合性を考慮すべきである。
【0128】
HDAC阻害剤はまた、適当な鼻腔内投与媒体の局所使用によって、又は経皮経路によって、当業者に周知のそうした形の経皮パッチを用いて、鼻腔内投与の形で投与することができる。経皮デリバリーシステムの形で投与するため、投与は、投与計画の全体にわたって、おそらく、間欠的ではなく連続的となる。
【0129】
他の化学療法剤(又は、2種以上を使用する場合には複数の剤)は、当業者に周知の慣用的な方法及びプロトコールを用いて投与することができる。例えば、5-フルオロウラシル(5-FU)についての典型的な投与速度は、24時間で750〜1000 mg/m2を、3週間毎に4〜5日間投与する。カペシタビンについての典型的な投与速度は、3週間毎の第1〜14日に一日2回投与する場合には1000〜1250 mg/m2を経口で投与する。
【0130】
医薬組成物
HDAC阻害剤は、目的とする投与形態、すなわち、経口錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、シロップ剤などについて適切に選択され、従来の製薬上の慣例と矛盾しない、適当な医薬用希釈剤、賦形剤、又は担体(ここでは、集合的に「担体」材料と呼ぶ)と混合した活性成分として投与することができる。
【0131】
たとえば、一実施形態において、医薬組成物は、HDAC阻害剤PXD-101を、L-アルギニンとともに溶液中に含む。この組成物を調製するために、10g量のL-アルギニンを、約70 mLの注射用水(Water-For-Injections BP)を入れた容器に加えた。この混合物を、アルギニンが溶解するまで磁気攪拌器で撹拌した。5g量のPXD-101を加え、PXD-101が溶解するまで、混合物を25℃にて撹拌した。その溶液を、最終容量が100 mLとなるまで注射用水で希釈した。その結果得られた溶液は、pHが9.2〜9.4であり、浸透圧は約430 mOSmol/kgであった。この溶液は、適当な0.2μm無菌濾過(たとえばPVDF)膜を通して濾過した。濾過した溶液をバイアル又はアンプルに入れ、加熱により、又は適当なストッパー及びキャップにより、密封した。溶液は室温で、又はより好ましくは、薬物の分解を少なくするために冷蔵(たとえば、2〜8℃)で保存した。
【0132】
一実施形態において、HDAC阻害剤(たとえば、PXD-101)は、経口投与することができる。経口投与は、錠剤又はカプセル剤の形をとることができる。HDAC阻害剤は、毒性がなく、製薬上許容される、不活性な経口担体、たとえば、乳糖、デンプン、ショ糖、ブドウ糖、メチルセルロース、微晶質セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトールなど、又はそれらの組み合わせと、混合する。液体形態での経口投与のためには、HDAC阻害剤は、毒性がなく、製薬上許容される、不活性な任意の経口担体、たとえば、エタノール、グリセロール、水などと混合する。さらに、望ましい場合又は必要である場合には、適当な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、及び着色剤もこの混合物に組み入れることができる。適当な結合剤には、デンプン、ゼラチン、天然の糖、たとえば、ブドウ糖若しくはβ乳糖、コーンシロップ、天然及び合成ガム、たとえば、アカシア、トラガカント若しくはアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、微晶質セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ポリエチレングリコール、ワックスなどがある。上記剤形への使用に適した滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどがある。上記剤形への使用に適した崩壊剤としては、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンガムなどが挙げられる。
【0133】
本明細書に記載され、本発明の方法における使用に適した、HDAC阻害剤の好適な製薬上許容される塩は、毒性のない慣用の塩であって、これには、塩基との塩又は酸付加塩、たとえば無機塩基との塩、たとえば、アルカリ金属塩(例:リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例:カルシウム塩、マグネシウム塩など)、アンモニウム塩;有機塩基との塩、たとえば、有機アミン塩(例:トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン塩など)など;無機酸付加塩(例:塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩など);有機カルボン酸若しくはスルホン酸付加塩(例:ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩など);塩基性若しくは酸性アミノ酸との塩(例:アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸など)などが含まれる。
【0134】
当業者には、本開示内容から本発明の種々のさらなる態様及び実施形態が明らかであろう。本明細書において言及する刊行物及びデータベース登録は全てその全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0135】
文脈が別に指定しない限り、上記の特徴の説明及び定義は、本発明のいずれかの特定の態様又は実施形態に限定されるものではなく、記載された全ての態様及び実施形態に等しく適用される。
【0136】
ここで、本発明の特定の態様及び実施形態を、実施例により、図面及び表を参照して説明する。
【実施例】
【0137】
患者処置
35名の患者(pts)(表1)を、種々の用量レベルのBel(PXD-101)(mg/m2/30分間1日1回注入)/FU(mg/m2/24時間注入)で処置した:300/250(n=4)、600/250(n=3)、1000/250(n=6)、1000/500(n=6)、1000/750(n=7)、1000/1000(n=8)、600/1000(n=1;計画していないFU用量)。
【0138】
全ての患者に対する処置継続期間中央値は、2サイクル(1〜14の範囲)であった。中断の理由は、進行性疾患(25名の患者;71%)、有害事象(AE)(5名の患者;14%;肺塞栓、嘔吐、過敏症、粘膜炎症、及び倦怠感の事象)、及び患者/医師の決定(5名の患者;14%)であった。
【0139】
合計で、3症例の用量制限毒性(DLT)(全て第2サイクル)が、用量レベル1000/1000(2名の患者:グレード3胸痛、グレード3口内炎)及び1000/750(1名の患者;グレード3嘔吐)で記録され、これに基づいて、推奨用量レベルは1000/750に設定された。
【0140】
最も頻発したAE(いずれかのグレード、関連にかかわりなく、処置した全ての患者)は:倦怠感(80%)、吐き気(74%)、及び嘔吐(63%)であった(表2)。2名以上の患者で生じた唯一のグレード3/4の処置に関連した有害事象は、倦怠感(2名の患者;全ての患者のうち6%)であり、関連のある重症有害事象は1症例のみであった(1名の患者でのグレード3倦怠感)。
【0141】
心臓に対する安全性
BelのPK評価と組み合わせた徹底的なECGモニタリング(3000回超のECGが評価された)により、心臓に対する安全性を解析した。中央検査室による解析に基づくと、主な知見(種々の用量レベルでの、またBel単独及びFUとの併用での、ベースラインからの平均変化)は以下のものであった:
・心拍数、−1〜+11bpmの変化、異常値又はいかなる用量相関もなし
・PR間隔、−8〜+2msの変化、異常値又はいかなる用量相関もなし
・QRS間隔、−3〜+4msの変化、異常値又はいかなる用量相関もなし
・QTcF間隔、−4〜+18msの変化、いかなる用量相関もなし。1名の異常値患者(新規のQTcF値>500ms)が、用量レベル1000/750で特定された(注入後最大QTcF値522ms、注入前の値487ms)。
【0142】
用量相関の欠如及び関連PK-PDモデルの傾きの評価により、心筋再分極への影響は明らかには見られなかったことが示唆される。また、各時点に対するベースラインを考慮すると、解析は、QTcFでの時間依存的変化の欠如を示している。したがって、中央検査室での再検討及び利用可能な情報(n=35名の患者)に基づけば、圧倒的多数のデータが、心拍数、AV伝導、心筋脱分極、形態学又は心筋再分極に対する臨床的に重要な影響のいかなる明らかな徴候もみられないことを示している。
【0143】
薬物動態学
Belは、全ての用量コホート(n=22)にわたって、第1日に直線的PKを示した。ベリノスタットの推奨用量レベル(1000mg/m2/日ベリノスタット;表3を参照されたい)では、平均曝露パラメータ(Cmax及びAUC)の有意でない上昇、並びに分布量及びクリアランスの有意でない低下が、第1日と比較して第5日で観察された。
【0144】
有効性−薬力学
9名の患者(26%)が安定的疾患を有し、そのうち6名の患者が4〜14サイクルに供された(表4)。
【0145】
腫瘍組織でのTSの発現は、Bel前後両方の解析可能なサンプルを有する4名の患者のうち4名で、Bel単独療法の間、ダウンレギュレートされた(表5;全ての患者がBel 1000mg/m2/日で処置された)。4名の患者のうち3名は、p21のアップレギュレーションを示し(G1細胞周期停止を示す)、DPD発現において若干の変化が見られた。表5に示した患者に加えて、別の2名の患者が、肝臓病変部から採取した生検試料を有したが(患者101-11及び101-12)、これらの生検試料は、Bel曝露の前後いずれにおいても、解析に十分な材料を含んでいなかった。
【0146】
TS、DPD及びp21の発現は、代用非腫瘍組織、すなわちPBMCでも評価した(表5B)。ベースラインからの変化%に対する相対的遺伝子発現の「生の数値」を変換することにより、Belにより誘導される発現レベルの変化に起因するFUの考えられる増大効果に対して最も好ましいパターンであると仮定され得るもの(すなわち、TSダウンレギュレーション、DPDダウンレギュレーション、及びp21アップレギュレーション)を反映した、代用組織での応答パターンを有する患者はわずかであることを示す結果が得られる。Bel及びFUの組み合わせで処置した患者の臨床転帰は、臨床的有益性(例えば、集中的な前処置にもかかわらない疾患の長期の安定化)が、TS、DPD及びp21の発現に対するBelの好ましい影響と関連している可能性があることを示しているようである(表6)。
【0147】
PBMCでTS、DPD及びp21を解析しようと試みた20名の患者のうち、2名の患者が、明らかに良好な臨床転帰を示したようであり(患者101-3及び102-14、それぞれBel/FUでの8サイクル及び14サイクルの処置期間;表4及び表6を参照されたい)、すなわち、選択なしで10%の良好な転帰の割合である。
【0148】
Belの初回用量、並びにBel投与の6時間後のPBMCでのTS、DPD及びp21発現の解析の後に、Bel/FUでの処置について患者を選別していれば、「3つのうち2つ」の陽性発現パターン(陽性とは、処置前の値と比較して、TSダウンレギュレーション、DPDダウンレギュレーション、及びp21アップレギュレーションであると仮定される)に基づく患者の選別により、良好な転帰の割合は33%〜67%まで上昇していた可能性がある。
【0149】
Bel投与の6時間後に採取した単一サンプルに基づく選別(表A):20名の患者のうち6名(30%;患者101-3/5/6/7、102-6/14)が、Bel投与後の好ましい発現変化を示す「3つのうち2つ」のマーカーを有し、6名の患者うち2名(33%)が、明らかに良好な臨床転帰を有する。患者101-6及び101-7も「3つのうち2つ」パターンを有していたが、Bel/FUでの処置期間が中央値よりも長いので(すなわち、4サイクル;表4を参照されたい)、「明らかに良好な臨床転帰」を有しているとはカウントされない。
【0150】
Bel投与の6時間後に採取した2つのサンプルの平均に基づく選別(表B):20名の患者のうち3名(15%;患者101-3、102-6/14)が、Bel投与後の好ましい発現変化を示す「3つのうち2つ」のマーカーを有し、3名の患者のうち2名(67%)が、明らかに良好な臨床転帰を有する。
【0151】
サンプル採取回数を増加させても、予測可能性を著明に増大させることにはならず、例えば、ベースラインに対する、4回のサンプル採取時点(第1日及び第4日、それぞれの日でBel投与の6時間後及び24時間後)に基づく第1サイクルでのBel処置の間の最大の変化%を示す表6に示したデータは、20名の患者のうち5名(25%)がBel投与後の好ましい発現変化を示す「3つのうち2つ」のマーカーを有し、5名の患者のうち2名(40%)が良好な臨床転帰を有する。
【0152】
20名の患者でのBel投与6時間後の単一PBMCサンプルとBel処置前サンプルの評価
20名の患者のうち6名(30%;患者101-3/5/6/7、102-6/14)が、Bel投与後の好ましい発現変化を示す「3つのうち2つ」のマーカーを有し、6名の患者のうち2名(33%)が、明らかに良好な臨床転帰を有する。
【0153】
「3つのうち2つ」のマーカーパターンを有する6名の患者と、そのようなパターンを有しない14名の患者との比較により、Bel/FUでの無増悪生存期間(PFS)は、「3つのうち2つ」のマーカーパターンを有する患者で有意に(p<0.04)長い(図1)。
【0154】
Bel/FU以前に最も最近受けた前処置では、「3つのうち2つ」のマーカーパターンを有する患者と有しない患者とは、同様に長いPFSを有しているが、各群でBel/FUでのPFSとそれぞれの最も最近受けた前処置でのPFSを比較すると、明白な差異がある(図2及び3)。Belの単一用量後に「3つのうち2つ」のマーカーパターンを有する患者は、最も最近受けた前回の処置で達成することができたのと同様の、Bel/FUでのPFSを有する。
【0155】
方法
以下のものを評価するという目的を有する、フェーズI用量漸増多施設研究:
・FUとの併用でのBelの最大耐容量及び用量制限毒性(DLT)
・腫瘍及び非腫瘍代用組織(末梢血単核細胞;PBMC)での、TS、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)、及びp21の発現に対するBelの影響
・FUとの併用での、Belの予備的抗腫瘍活性
・ECGパラメータに対するBelの影響
・FUと併用した場合のBelの薬物動態(PK)
【0156】
21日間の処置サイクルは、第1サイクルでのBel単独、及び続く全てのサイクルでのFUとの併用でのBelを含んでいた(図4)。処置は、著明な処置関連毒性又は進行性疾患が見られるまで、継続される予定であった。
【0157】
標準的な化学療法後に進行した進行固形腫瘍を有する患者を含めた。試験に含めるための他の主要な基準は、測定可能な疾患、カルノフスキー・パフォーマンス>70%、許容できる臓器機能、著明な心血管疾患がないこと、ベースラインQTc間隔<500ms、及び既知の活性なHIV、B型肝炎、C型肝炎又はIV治療を必要とする感染を有しないことを含んでいた。
【0158】
DLT、すなわち、グレード3/4非血液毒性及びグレード4好中球減少症又は血小板減少症を、第1及び第2サイクルで測定した。安全性は、NCI CTC (v.3)で評価し、有効性はRECIST基準で評価した。TS、DPD及びp21 mRNAの発現は、PBMCで(20名の患者、ベースライン、並びに投与前、第1サイクルの第1日及び第4日の投与6時間後及び24時間後)、そして腫瘍生検試料で(8名の患者、ベースライン、及び第1サイクルの第4日又は第5日に1回)、RTQ-PCRにより測定した。結果は、アクチンに対する相対的な遺伝子発現として表した(すなわち、TS/アクチン相対的遺伝子発現、DPD/アクチン相対的遺伝子発現、及びp21/アクチン相対的遺伝子発現)。
【0159】
結論
5-FUとの併用でのベリノスタット(BelFU)の推奨スケジュールは、第1〜5日での1日1回の30分の注入により投与されるベリノスタット1000mg/m2/日及び第2日から開始される96時間連続注入による5-FU 750mg/m2/24時間と決定された。
【0160】
この組み合わせは安全であることが示され、予期せぬ有害事象は見られなかった。徹底的なECGモニタリングの中央検査室での再検討に基づいて、ベリノスタット又はBelFU処置中の、心拍数、AV伝導、心筋脱分極、形態学又は心筋再分極に対していかなる臨床的に重要な影響の明らかな徴候もないことが示された。
【0161】
徹底的な前処置にもかかわらず(中央値3回の先立つレジメン;患者の大多数は2回以上のFUベースのレジメンで処置された)、BelFUで患者の26%が疾患の安定化に達し、無増悪期間12〜41週を有する6名の患者が含まれる。
【0162】
ベリノスタットによるチミジル酸シンターゼ(TS;FUの主な標的)の前臨床的に示されたダウンレギュレーションが、臨床で確認された。4名の評価可能な患者のうち4名が、ベリノスタット単独療法中に腫瘍組織でTSのダウンレギュレーションを示し、4名の患者のうち3名は、p21のアップレギュレーション(G1細胞周期停止を示す)も有していた。
【0163】
代用非腫瘍組織(すなわちPBMC)でのTS、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)、及びp21発現へのベリノスタットの影響の評価は、TSダウンレギュレーション、DPDダウンレギュレーション及びp21アップレギュレーションからなる、転帰に関連した好ましい発現パターンについての可能性を示した。ベリノスタットの単回用量後にPBMCで「3つのうち2つ」のマーカーの好ましい変化を含む発現パターンを示した、BelFUで処置した患者の臨床転帰は、この発現パターンを有しない患者と比較して有意に優れたPFSを有していた。
【0164】
BelFUの組み合わせは、好ましくはそれほど高度でない前処置を受けた患者で、さらに評価されるべきであり、これには、患者のPBMCをベリノスタットに曝露した後の(臨床的な「試験用量」又は潜在的にはin vitroのいずれか)、TS、DPD及びp21に関する好ましい発現パターン変化に基づく患者選別の可能性のさらなる評価が含まれる。
【表1】

【0165】
【表2】

【0166】
【表3】

【0167】
【表4】

【0168】
【表5】

【0169】
【表5−B】

【0170】
【表6】

【0171】
【表7−A】

【0172】
【表7−B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療方法における使用のためのヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)であって、該方法は、それを必要とする被験体にHDACi及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを投与することを含み、該被験体は、以下:HDACiの初回用量の投与に応答した、TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示すものから選択される、上記HDACi。
【請求項2】
癌の治療方法における使用のための1種以上の化学療法剤であって、該方法は、それを必要とする被験体に該化学療法剤及びヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)の使用を含む治療レジメンを投与することを含み、該被験体は、以下:HDACiの初回用量の投与に応答した、TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示すものから選択される、上記化学療法剤。
【請求項3】
1種以上の他の化学療法剤が、以下:フルオロピリミジン化合物、抗葉酸化合物、チミジル酸シンターゼ(TS)阻害剤、抗代謝産物化合物、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物の群から選択される、請求項1又は2に記載の使用のためのHDACi又は化学療法剤。
【請求項4】
1種以上の他の化学療法剤が、以下:5-フルオロウラシル(FU)、カペシタビン、ペメトレキセド(MTA)、プララトレキサート(PDX)、チミタック(thymitaq)(AG337)、プレビトレキセド(ZD9331)、BGC945、ラルチトレキセド、GW1843、メトトレキサート(MTX)、エダトレキサート(EDX)、アミノプテリン(AMT)、PT523、及びニュートレキシン(neutrexin)(トリメトレキサート)、UFT及びS-1並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物の群から選択される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用のためのHDACi又は化学療法剤。
【請求項5】
1種以上の他の化学療法剤が、以下:5-フルオロウラシル、プララトレキサート、カペシタビン及びペメトレキセドの群から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用のためのHDACi又は化学療法剤。
【請求項6】
癌が、以下:結腸直腸癌、膵臓癌、食道癌、胃癌、頭頸部癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫及び乳癌の群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用のためのHDACi又は化学療法剤。
【請求項7】
HDACiが、ヒドロキサム酸に基づくHDAC阻害剤である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用のためのHDACi又は化学療法剤。
【請求項8】
HDACiが、PXD-101、ボリノスタット、パノビノスタット(ヒドロキサメート)、ロミデプシン(デプシペプチド)、SNDX-275、MGCD-0103、PCI24781、CHR-3996、ITF2357、SB939、JNJ26481585、JNJ16241199、バルプロ酸、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用のためのHDACi又は化学療法剤。
【請求項9】
被験体が、TSの発現減少、DPDの発現減少及びp21の発現増加を示す、請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用のためのHDACi又は化学療法剤。
【請求項10】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いる癌治療に対する被験体の感受性を評価する方法であって、以下のステップ:
HDACiの初回用量の投与後に、TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ
を含み、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いた治療に対して感受性の被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示す、上記方法。
【請求項11】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いる癌治療に対する被験体の感受性を評価する方法であって、以下のステップ:
(i)被験体に、又は被験体から単離したサンプルに、HDACiの初回用量を投与するステップ;
(ii)TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;並びに
(iii)HDACiの初回用量の投与前後での、TS、DPD及びp21の発現レベルを比較するステップ
を含み、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤の使用を含む治療レジメンを用いた治療に対して感受性の被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示す、上記方法。
【請求項12】
HDACiの投与前に被験体から単離したサンプル中のTS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップをさらに含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
HDACiの初回用量を、被験体から単離したサンプルに投与する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項14】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)及び1種以上の他の化学療法剤を用いて患者を処置するステップをさらに含む、請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
被験体での癌の治療方法であって、以下のステップ:
(i)被験体に、又は被験体から単離したサンプルにヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)の初回用量を投与するステップ;
(ii)TS、DPD及びp21の発現レベルを測定するステップ;
(iii)HDACiの初回用量の投与前後での、TS、DPD及びp21の発現レベルを比較するステップ;並びに
(iv)HDACi及び1種以上の他の化学療法剤を含む治療レジメンの治療上有効量を被験体に投与するステップ
を含み、被験体は、HDACiの初回用量の投与後に、以下:TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加のうち少なくとも2つを示したことを条件とする、上記方法。
【請求項16】
TS、DPD及びp21の発現レベルを、定量的PCRを用いて測定する、請求項10〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
TS、DPD及びp21の発現を、前記被験体から取得したサンプル中で測定する、請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
TS、DPD及びp21の発現を、前記被験体から取得した2つのサンプル中で測定する、請求項10〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
患者へのHDACiの初回用量の投与6時間後にサンプルを採取する、請求項10〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
サンプルが、末梢血単核細胞(PBMC)サンプル、粘膜サンプル又は腫瘍サンプルである、請求項10〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
他の化学療法剤が、以下:フルオロピリミジン化合物、抗葉酸化合物、チミジル酸シンターゼ(TS)阻害剤、抗代謝産物化合物、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物の群から選択される、請求項10〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
他の化学療法剤が、以下:5-フルオロウラシル(FU)、カペシタビン、ペメトレキセド(MTA)、プララトレキサート(PDX)、チミタック(thymitaq)(AG337)、プレビトレキセド(ZD9331)、BGC945、ラルチトレキセド、GW1843、メトトレキサート(MTX)、エダトレキサート(EDX)、アミノプテリン(AMT)、PT523、及びニュートレキシン(neutrexin)(トリメトレキサート)、UFT及びS-1並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物の群から選択される、請求項10〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
他の化学療法剤が、以下:5-フルオロウラシル、プララトレキサート、カペシタビン及びペメトレキセドの群から選択される、請求項10〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
癌が、以下:結腸直腸癌、膵臓癌、食道癌、胃癌、頭頸部癌、前立腺癌、非小細胞肺癌、非ホジキンリンパ腫及び乳癌の群から選択される、請求項10〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
HDACiが、ヒドロキサム酸に基づくHDAC阻害剤である、請求項10〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
HDACiが、PXD-101(ベリノスタット)、ボリノスタット、パノビノスタット(ヒドロキサメート)、ロミデプシン(デプシペプチド)、SNDX-275、MGCD-0103、PCI24781、CHR-3996、ITF2357、SB939、JNJ26481585、JNJ16241199、バルプロ酸、並びに製薬上許容されるその塩及び溶媒和物から選択される、請求項10〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
被験体が、TSの発現減少、DPDの発現減少、及びp21の発現増加を示す、請求項10〜26のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−515143(P2012−515143A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544847(P2011−544847)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000077
【国際公開番号】WO2010/081662
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(506295609)
【Fターム(参考)】