発光ダイオード用黄色フルオロスルフィド蛍光体及びその製造方法
【課題】白色発光ダイオードへの使用に適した黄色蛍光体を提供する。
【解決手段】(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の化学式と正方晶相を有し、式中、AとBがCe以外の異なる希土類金属であり、x、y、zの値の範囲がそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1であるフルオロスルフィド黄色蛍光体。前記希土類金属はSc、Y又はランタノイド元素であり、ランタノイド元素はLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuである。
【解決手段】(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の化学式と正方晶相を有し、式中、AとBがCe以外の異なる希土類金属であり、x、y、zの値の範囲がそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1であるフルオロスルフィド黄色蛍光体。前記希土類金属はSc、Y又はランタノイド元素であり、ランタノイド元素はLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色蛍光体に関し、特に、固体照明用の新規フルオロスルフィド蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀の初頭に、青色発光InGaNベースのチップ(Light−emitting InGaN−based chip)が開発されて以来、商業で実現された高効率白色発光ダイオード(white light−emitting diodes、WLEDs)の開発は、著しい進展を遂げた。InGaNベースのチップからの青い発光をY3Al5O12:Ce3+(YAG:Ce)ベースの蛍光体の下方変換に基づく黄色発光と結合させることにより、発生した白色光はすでに白熱灯の発生した光を超えて、従来の蛍光灯と競争することができるようになった。WLEDは、従来の光源に比べて、エネルギー効率が高く、耐久性よく、環境にやさしいという特性を有する。しかし、WLEDの色品質は、依然として白色色相可変性、色温度及び演色について改良する必要がある。これらの特性は、特に一般的な照明とは密接に関係している。
【0003】
現在、WLEDに応用されている蛍光体の多くは、白色光の最良要求に達していないとともに、赤いスペクトル領域において悪い演色を示す。そのため、蛍光体転換WLED(phosphor converted WLEDs、pc−WLEDs)に用いられる好適な発光材料を見出すことは、白色光の光学要求の実現にとって、非常に重要である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様は、(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の化学式と正方晶相を有し、式中、AとBがCe以外の異なる希土類金属であり、x、y、zの値がそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1であるフルオロスルフィドの黄色蛍光体に関する。
【0005】
一実施例によれば、希土類金属がSc、Y又はランタノイド元素であり、前記ランタノイド元素がLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuである。
【0006】
他の一実施例によれば、y=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2である。
【0007】
他の一実施例によれば、y及びzの両方が0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2CaF4S2である。
【0008】
他の一実施例によれば、y=0かつz=1である場合、前記化学式は(A1−xCex)2SrF4S2である。
【0009】
他の一実施例によれば、z=0である場合、前記化学式は(A1−x−yCexBy)2CaF4S2である。
【0010】
他の一実施例によれば、z=1である場合、前記化学式は(A1−x−yCexBy)2SrF4S2である。
【0011】
他の一態様において、本発明は、青色蛍光体と前記フルオロスルフィドの黄色蛍光体を含む白色光発光ダイオードに関する。
【0012】
前記内容を考慮して、Ceをドーピングしたフルオロスルフィドに基づく新規黄色蛍光体は、白色光LEDに、特に暖白色光の発生に用いられる潜在的候補者とすることができる。
【0013】
前記内容は本開示の簡略な要約を提供して、読者に本開示内容に対して基本的に理解させる。この発明の概要は、本開示の完全な記述ではなく、かつ本発明の重要・肝心なモジュールを指定、又は本発明の範囲を限定するものではない。この発明の概要の唯一の目的は、簡略な形式で本文に開示された概念を提供し、後で提示する、より多くの詳細な叙述の序文となることである。
【0014】
添付図面を参考とし、以下の詳細な叙述を考慮することにより、たくさんの構造特徴がより容易に、また、よりよく理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】試験例1のXRDスペクトルを示す。
【図1B】試験例9のXRDスペクトルを示す。
【図1C】試験例2、試験例10のXRDスペクトルを示す。
【図1D】試験例10のXRDスペクトルを示す。
【図2A】試験例1の励起と発光スペクトルを示す。
【図2B】試験例8の励起と発光スペクトルを示す。
【図2C】試験例9の励起と発光スペクトルを示す。
【図3A】試験例12の励起と発光スペクトルを示す。
【図3B】試験例18の励起と発光スペクトルを示す。
【図3C】試験例23の励起と発光スペクトルを示す。
【図4】CaS:Ce3+、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2及び(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2の温度依存性フォトルミネセンス強度を示す。
【図5】(a)は厚み0.1mmの(Y0.99Ce0.01)2Ca0.65Sr0.55F4S2の黄色蛍光体と460nmの青色光を発光するInGaN LEDチップを用いるWLEDの可視フォトルミネセンススペクトルを示し、(b)は用いられる蛍光体の分数の関数としてCIE色度座標における変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
Ce3+をドープした蛍光体の多くは、ホスト格子、結晶サイトサイズ、結晶サイト対称性、配位数に基づいて、紫外線から赤色光までのパリティ許容の4f−5d遷移による発光を示す。実際には、Ce3+の発光色は、結晶場強度を変えることによって、所要のスペクトルの領域に制御することができる。一例として、Ca(Si、Al)N2:Ce3+(赤色光)、(La、Gd)Sr2AlO5:Ce3+(黄色光)、(Ca、Sr)Sc2O4:Ce3+(緑色光)の蛍光体におけるCe3+ドーパントの光学特性が、すでに研究されている。
【0017】
近年、Ce3+をドープした混合アニオンフルオロオキサイド結晶の研究は大きく注目され、WLEDアセンブリーに対する潜在的な適用性を示したが、今まで、フルオロスルフィド/混合アニオンシステムのフォトルミネセンス(photoluminescence、PL)特性に関する研究報告がない。第4級フルオロスルフィドであるY2CaF4S2は、Sm2CaF4S2と同一の構造を有し、真っ先に新しいカラーピグメントとして発表された。この化合物において、フッ素配位子と硫黄配位子に囲まれている希土類の色相特徴と化学特性は、スルフィドとフッ化物の利点を結合してなることが期待されている。
【0018】
[(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の黄色蛍光体材料]
そのため、一態様において、本発明は、化学一般式が(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2であり、CIE値が(0.30−0.60、0.30−0.60)である黄色光を発光することに用られている新規フルオロスルフィド蛍光体に関する。(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の結晶格子構造は、Y2CaF4S2の結晶格子構造に似ており、正方空間群(I4/mmm、第139号)であり、その内、A3+、Ce3+及び/又はB3+はY2CaF4S2におけるY3+の等価置換であり、Sr2+はY2CaF4S2におけるCa2+の等価置換である。Ce3+は黄色光を発光する役割を担うので、xの値の範囲が0<x≦1である。yとzの値はともに0〜1である。(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2において、AとBの両方は、Sc、Y、ランタノイド元素のような、Ce以外の異なる3価の希土元素を示し、その内、ランタノイド元素として、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuであってもよい。
【0019】
y及び/又はzが0及び/又は1である場合、(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2のような簡略な化学式が得られる。一例として、y=0である場合、簡略な化学式の(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2が得られる。z=0である場合、(A1−x−yCexBy)2CaF4S2が得られる。z=1である場合、(A1−x−yCexBy)2SrF4S2が得られる。y及びz=0である場合、(A1−xCex)2CaF4S2が得られる。y=0、z=1である場合、(A1−xCex)2SrF4S2が得られる。
【0020】
[(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の製造方法]
他の態様において、本発明は、新規フルオロスルフィド蛍光体(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の製造方法に関する。まず、希望のCe3+をドープしたフルオロスルフィドの化学式により、少なくとも一種のスルフィドと、少なくとも一種のCeのフッ化物と、Ce以外の少なくとも一種の希土類金属と、Ca及びSrのうちの少なくとも1つとを化学量論量に秤量する。一例として、3価のYの源はYF3又はY2S3であってもよく、また、2価のCaの源はCaS又はCaF2であってもよい。本発明の一実施例によれば、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2を合成する場合、YF3、Y2S3、CaF2及びCeF3は、例えば、反応物とすることができる。
【0021】
次に、均一に混合されるまで、秤量されたスルフィドとフッ化物をすり砕く。そして、900〜1100℃の温度、真空雰囲気或いは約1気圧の圧力の不活性ガス又は窒素の雰囲気において、純粋な結晶相を得るまで、混合物を焼成する。得られた製品の晶相は、X線粉末回折(x−ray powder diffracion、XRD)スペクトルにより検査することができる。
【0022】
[実施例1:(A1−xCex)2CaF4S2(y=z=0)]
y=z=0である場合、(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2は簡略化されて(A1−xCex)2CaF4S2になった。前記製造方法により、AがY、La、Sm、Eu、Gd又はTbであり、x=0.01である試験例を製造した。
【0023】
試験例1及び試験例2のXRDスペクトルは、図1A及び図1Cに示す。試験例1の励起と発光スペクトルは、図2Aに示す。前記製造されたフルオロスルフィドとフォトルミネセンスの特性は表に示す。
【0024】
図1Aと図1Cを比較すると、異なるのは3価の陽イオンだけであり、すなわち、図1AにおけるY3+と図1CにおけるLa3+である。大きさが異なる等価の陽イオンの置換は、Ce3+の構造環境を変えることに用いられており、Ce3+の5d準位の結晶場分裂もそれに従って変わる。Y3+とLa3+は、フルオロスルフィドのホスト格子とコンパチブルするので、その置換が、異なる発光効率及び演色を発生することができる。
【0025】
まず、表1からわかるように、1モル%のCe3+の置換は、広い励起及び発光範囲を実現することができる。そのため、このCe3+をドープしたフルオロスルフィドシステムは、紫外光から青色光までを用いて励起源とし、pc−WLED応用の要求を満たせることができる。
【0026】
また、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2の励起範囲、発光範囲、CIE値に対して、青方偏移又は赤方偏移が少しだけ発生した。大まかに言えば、La3+置換のような、Ce−S結合の増大を起こす置換は、発光波長を減少する、つまり青方偏移されると見込まれる。逆に、Ce−S結合の収縮を起こす置換は、発光波長を増加する、つまり赤方偏移されると見込まれる。そのため、Ce3+イオンが感じた結晶場強度は、さまざまな3価の希土類金属イオンにより変わり、発光波長がそれに従い青方偏移又は赤方偏移される。
【0027】
しかし、Aのさまざまな希土元素により、励起範囲、発光範囲、CIE値は相対的に変わらない。これにより、これらの3価の希土類金属イオンの大きさはフルオロスルフィドの結晶格子に対して微小な変化だけを起こすことが分かった。そのため、フルオロスルフィドの正方アスペクト比及び結晶格子の大きさは僅かに影響された。
【表1】
表1:(A0.99Ce0.01)2CaF4S2のフォトルミネセンス特性であり、その内、AがY、La、Sm、Eu、Gd又はTbである。
【0028】
[実施例2:(A1−xCex)2CaF4S2におけるCa2+へのSr2+による置換]
次に、(A1−xCex)2CaF4S2(y=0、z=0)におけるCa2+は、(A1−xCex)2SrF4S2(y=0、z=1)を得るまで、徐々にSr2+に置換された。前記のような製造方法により、AがY又はLaであり、x=0.01、z=0、0.1、0.5又は1である試験例を製造した。
【0029】
試験例1、試験例9、試験例2、試験例10のXRDスペクトルは、図1A〜図1Dに示す。試験例1、試験例8、試験例9の励起と発光スペクトルは、図2A〜図2Cに示す。製造されたフルオロスルフィドとそのフォトルミネセンス特性は、表2に示す。
【0030】
図1A〜図1Dからわかるように、Y(試験例1及び試験例9)シリーズとLa(試験例2及び試験例10)シリーズの両方に対して、Ca2+をSr2+で置換することにより、(A1−xCex)2CaF4S2の晶相は変わらなかった。これらの試験例の晶相は、相変わらずY2CaF4S2と同様に正方構造を有する。しかし、Ca2+がSr2+に置換された後、XRDピーク値は、低角側に移動した。Ca2+及びSr2+の8配位の原子半径がそれぞれ1.12Å及び1.26Åである場合、図1A〜図1Dに示す結果は、イオンの大きさの変化に応じるものである。それは、結晶格子の体積がSr2+の置換により増大したことを示す。
【0031】
図2A〜図2Cからわかるように、励起と発光スペクトルの両方は青方偏移した。さらに、表2では、Y(試験例1及び試験例7〜試験例9)シリーズとLa(試験例2及び試験例10)シリーズの両方において、青方偏移現象が見られる。それは、前記置換により結晶格子体積のサイズが増大されたことを示し、それは、より大きいSr2+イオンのサイズで誘発された。この場合、結晶格子の大きさの増大により、Ce3+イオンが弱い結晶場分裂を経て、最低の5d準位を高めた。そのため、青方偏移した励起と発光スペクトルが観察されたことは合理的である。
【0032】
表2からわかるように、CIEのxの値は(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2におけるzの値の増加に伴って減少し、yの値はzの値の増加に伴って増加し、それは発光色がオレンジからイエローグリーンに移動したからである。
【表2】
表2:(A0.99Ce0.01)2Ca1−zSrzF4S2のフォトルミネセンス特性であり、その内、Yシリーズには、z=0、0.1、0.5又は1であり、Laシリーズには、z=0又は1である。
【0033】
[実施例3:(A1−xCex)2CaF4S2における第二の3価の希土類金属イオンの、第一の3価の希土類金属イオンへの置換]
(A1−xCex)2CaF4S2(y=0、z=0)において、(A0.9−xCexB0.1)2CaF4S2(y=0.1、z=0)を得るように、10モル%の第一の3価の希土類金属イオンAを、第二の3価の希土類金属イオンBにより置換した。前記製造方法により、x=0.01である場合、(A0.9−xCexB0.1)2CaF4S2(y=0.1、z=0)における第一の3価の希土類金属AがYであり、第二の3価の希土類金属BがSc、La、Sm、Eu、Gd又はTbであるものを製造した。製造された試験例及びそのフォトルミネセンス特性は、表3に示す。
【0034】
実施例1の結果(前記表1)と類似しており、励起スペクトル、発光スペクトル、CIE値の傾向は、第二の3価の希土類金属イオンBによる第一の3価の希土類金属イオンAへの一部の置換と同様である。
【表3】
表3:(Y0.89Ce0.01B0.1)2CaF4S2のフォトルミネセンス特性であり、その内、BがSc、La、Sm、Eu、Gd又はTbである。
【0035】
[実施例4:(A1−x−yCexBy)2CaF4S2におけるCa2+イオンへのSr2+イオンによる置換]
結晶格子の大きさの増大効果を検証するように、実施例3(試験例11〜試験例16)の(Y0.89Ce0.01B0.1)2CaF4S2におけるCa2+をさらにSr2+により置換した。結果は表4に示し、試験例12、試験例18、試験例23の励起と発光スペクトルは、図3A〜図3Cに示す。
【0036】
表4、図3A〜図3Cからわかるように、励起と発光スペクトルの青方偏移がいずれも著しく見られず、CIE値も約相等であった。この結果は、上記の実施例2と異なった。実施例1と実施例2を比較すると、フルオロスルフィドの結晶格子の大きさに対して、2価の陽イオンは3価の陽イオンより大きい影響を有し、それに従い、発光エネルギーに対する影響も同様であることがわかった。従って、実施例4の結果は、発光エネルギーは単に結晶場により決められるのではなく、Ce−S配位結合が有する共有−イオン結合性の百分率のような他の要素によっても決められることを示す。
【表4】
表4:(Y0.89Ce0.01B0.1)2Ca1−zSrzF4S2のフォトルミネセンス特性であり、その内、Sc、Sm、Eu、Gd、Tbシリーズには、BがSc、La、Sm、Eu、Gd又はTbであり、zが0、0.1であり、Laシリーズには、zが0、0.1、1である。
【0037】
[実施例5:(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2、(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2の温度依存性フォトルミネセンス強度]
この実施例5において、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2及び(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2両方のフォトルミネセンス(PL)強度の温度依存の挙動を検証した。図4は、25℃〜225℃の温度範囲における市販のCaS:Ce3+、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2及び(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2の温度依存性フォトルミネセンス強度を示す。
【0038】
図4において、全てのサンプルにおけるPL強度は、同一のサンプルが室温で観察されたものと比べると、減少したと発見されており、これは、増加した熱エネルギーが、電子を伝導帯の最低状態まで励起してイオン化することに用いられるためと考えられる。意外に、フルオロスルフィドの熱安定性は、2価のスルフィドCaS:Ce3+の熱安定性に相当又はより安定であった。F原子をスルフィドのホスト格子に導入することは、ソフトフォノンモードの結果として、熱消光の程度を低減した。
【0039】
図4において、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2及び(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2のΔE値は、それぞれ0.3741eV、0.3829eVであると推定した。ΔEは、Ce3+イオンの電子を5d状態まで励起する熱エネルギーを表す。また、(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2におけるCe3+イオンは、より弱い結晶場強度を経たので、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2が(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2より高い活性化エネルギー特徴を表した。
【0040】
[実施例6:(Y0.99Ce0.01)2Ca1−zSrzF4S2のpc−WLED応用]
(Y0.99Ce0.01)2Ca1−zSrzF4S2のpc−WLED応用に用いられる可能性を説明するために、zの値が0.55、0.65の二種類の蛍光体を用いて、460nmの青光を発光するInGaN LEDチップを有するpc−WLEDを製造した。このWLEDの典型的な可視フォトルミネセンススペクトルは、図5(a)に示し、用いられる蛍光体の分数の関数としてCIE色度座標における変化は、差し込み図として図5(b)に示す。図5において、蛍光体(Y0.99Ce0.01)2Ca0.65Sr0.55F4S2は、YCSFS−0.55と表示され、もう一方の蛍光体(Y0.99Ce0.01)2Ca0.55Sr0.65F4S2は、YCSFS−0.65と表示された。図5における可視スペクトル領域全体は、青色チップが励起されることにより得られ、この二色pc−WLEDの演色評価数(Color rendering index、CRI)Raは、約74〜85であると決められた。
【0041】
pc−WLEDの国際照明委員会(Commission International de l'Eclairage、CIE)の色度座標、相関色温度(correlating color temperature、CCT)及び相応する発光効率は、表5に示す。表5において、70〜75の範囲におけるRa値を有し、色温度が6900Kである従来のYAG:Ce3+蛍光体を用いてpc−WLEDと比較した。そのため、本研究で発生した二色の白色光は、高いRa及び低い色温度という二つの好ましい特性を有する。
【表5】
表5:YCSFS−0.55及びYCSFS−0.65を変換蛍光体層とするpc−WLEDの光学と色度バラメータ
【0042】
前記開示内容によれば、Ceをドープしたフルオロスルフィドに基づく新規黄色蛍光体は、白色光LEDに、特に暖白色光の発生に用いられる潜在的候補者とすることができる。なお、1モル%のCe3+の置換だけにより、広い励起と発光範囲を実現することができる。そのため、このCe3+をドープしたフルオロスルフィドシステムは、紫外光から青色光までを用いて励起源とし、pc−WLED応用の要求を満たせることができる。
【0043】
読者は、本明細書と同時に提出され、公衆の閲覧に付されたすべての文書に注意すべきであり、これらの文書の内容の全ては、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0044】
特に説明しない限り、本明細書で開示されている全ての特徴(特許請求の範囲、要約書、図面のいずれをも含む)は、同一、同等又は類似の目的を果たす代替的な特徴で置き換えることができる。したがって、開示された特徴は、一連の同等又は類似な特徴の例だけである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、黄色蛍光体に関し、特に、固体照明用の新規フルオロスルフィド蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
20世紀の初頭に、青色発光InGaNベースのチップ(Light−emitting InGaN−based chip)が開発されて以来、商業で実現された高効率白色発光ダイオード(white light−emitting diodes、WLEDs)の開発は、著しい進展を遂げた。InGaNベースのチップからの青い発光をY3Al5O12:Ce3+(YAG:Ce)ベースの蛍光体の下方変換に基づく黄色発光と結合させることにより、発生した白色光はすでに白熱灯の発生した光を超えて、従来の蛍光灯と競争することができるようになった。WLEDは、従来の光源に比べて、エネルギー効率が高く、耐久性よく、環境にやさしいという特性を有する。しかし、WLEDの色品質は、依然として白色色相可変性、色温度及び演色について改良する必要がある。これらの特性は、特に一般的な照明とは密接に関係している。
【0003】
現在、WLEDに応用されている蛍光体の多くは、白色光の最良要求に達していないとともに、赤いスペクトル領域において悪い演色を示す。そのため、蛍光体転換WLED(phosphor converted WLEDs、pc−WLEDs)に用いられる好適な発光材料を見出すことは、白色光の光学要求の実現にとって、非常に重要である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の一態様は、(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の化学式と正方晶相を有し、式中、AとBがCe以外の異なる希土類金属であり、x、y、zの値がそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1であるフルオロスルフィドの黄色蛍光体に関する。
【0005】
一実施例によれば、希土類金属がSc、Y又はランタノイド元素であり、前記ランタノイド元素がLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuである。
【0006】
他の一実施例によれば、y=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2である。
【0007】
他の一実施例によれば、y及びzの両方が0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2CaF4S2である。
【0008】
他の一実施例によれば、y=0かつz=1である場合、前記化学式は(A1−xCex)2SrF4S2である。
【0009】
他の一実施例によれば、z=0である場合、前記化学式は(A1−x−yCexBy)2CaF4S2である。
【0010】
他の一実施例によれば、z=1である場合、前記化学式は(A1−x−yCexBy)2SrF4S2である。
【0011】
他の一態様において、本発明は、青色蛍光体と前記フルオロスルフィドの黄色蛍光体を含む白色光発光ダイオードに関する。
【0012】
前記内容を考慮して、Ceをドーピングしたフルオロスルフィドに基づく新規黄色蛍光体は、白色光LEDに、特に暖白色光の発生に用いられる潜在的候補者とすることができる。
【0013】
前記内容は本開示の簡略な要約を提供して、読者に本開示内容に対して基本的に理解させる。この発明の概要は、本開示の完全な記述ではなく、かつ本発明の重要・肝心なモジュールを指定、又は本発明の範囲を限定するものではない。この発明の概要の唯一の目的は、簡略な形式で本文に開示された概念を提供し、後で提示する、より多くの詳細な叙述の序文となることである。
【0014】
添付図面を参考とし、以下の詳細な叙述を考慮することにより、たくさんの構造特徴がより容易に、また、よりよく理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】試験例1のXRDスペクトルを示す。
【図1B】試験例9のXRDスペクトルを示す。
【図1C】試験例2、試験例10のXRDスペクトルを示す。
【図1D】試験例10のXRDスペクトルを示す。
【図2A】試験例1の励起と発光スペクトルを示す。
【図2B】試験例8の励起と発光スペクトルを示す。
【図2C】試験例9の励起と発光スペクトルを示す。
【図3A】試験例12の励起と発光スペクトルを示す。
【図3B】試験例18の励起と発光スペクトルを示す。
【図3C】試験例23の励起と発光スペクトルを示す。
【図4】CaS:Ce3+、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2及び(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2の温度依存性フォトルミネセンス強度を示す。
【図5】(a)は厚み0.1mmの(Y0.99Ce0.01)2Ca0.65Sr0.55F4S2の黄色蛍光体と460nmの青色光を発光するInGaN LEDチップを用いるWLEDの可視フォトルミネセンススペクトルを示し、(b)は用いられる蛍光体の分数の関数としてCIE色度座標における変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
Ce3+をドープした蛍光体の多くは、ホスト格子、結晶サイトサイズ、結晶サイト対称性、配位数に基づいて、紫外線から赤色光までのパリティ許容の4f−5d遷移による発光を示す。実際には、Ce3+の発光色は、結晶場強度を変えることによって、所要のスペクトルの領域に制御することができる。一例として、Ca(Si、Al)N2:Ce3+(赤色光)、(La、Gd)Sr2AlO5:Ce3+(黄色光)、(Ca、Sr)Sc2O4:Ce3+(緑色光)の蛍光体におけるCe3+ドーパントの光学特性が、すでに研究されている。
【0017】
近年、Ce3+をドープした混合アニオンフルオロオキサイド結晶の研究は大きく注目され、WLEDアセンブリーに対する潜在的な適用性を示したが、今まで、フルオロスルフィド/混合アニオンシステムのフォトルミネセンス(photoluminescence、PL)特性に関する研究報告がない。第4級フルオロスルフィドであるY2CaF4S2は、Sm2CaF4S2と同一の構造を有し、真っ先に新しいカラーピグメントとして発表された。この化合物において、フッ素配位子と硫黄配位子に囲まれている希土類の色相特徴と化学特性は、スルフィドとフッ化物の利点を結合してなることが期待されている。
【0018】
[(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の黄色蛍光体材料]
そのため、一態様において、本発明は、化学一般式が(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2であり、CIE値が(0.30−0.60、0.30−0.60)である黄色光を発光することに用られている新規フルオロスルフィド蛍光体に関する。(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の結晶格子構造は、Y2CaF4S2の結晶格子構造に似ており、正方空間群(I4/mmm、第139号)であり、その内、A3+、Ce3+及び/又はB3+はY2CaF4S2におけるY3+の等価置換であり、Sr2+はY2CaF4S2におけるCa2+の等価置換である。Ce3+は黄色光を発光する役割を担うので、xの値の範囲が0<x≦1である。yとzの値はともに0〜1である。(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2において、AとBの両方は、Sc、Y、ランタノイド元素のような、Ce以外の異なる3価の希土元素を示し、その内、ランタノイド元素として、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuであってもよい。
【0019】
y及び/又はzが0及び/又は1である場合、(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2のような簡略な化学式が得られる。一例として、y=0である場合、簡略な化学式の(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2が得られる。z=0である場合、(A1−x−yCexBy)2CaF4S2が得られる。z=1である場合、(A1−x−yCexBy)2SrF4S2が得られる。y及びz=0である場合、(A1−xCex)2CaF4S2が得られる。y=0、z=1である場合、(A1−xCex)2SrF4S2が得られる。
【0020】
[(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の製造方法]
他の態様において、本発明は、新規フルオロスルフィド蛍光体(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の製造方法に関する。まず、希望のCe3+をドープしたフルオロスルフィドの化学式により、少なくとも一種のスルフィドと、少なくとも一種のCeのフッ化物と、Ce以外の少なくとも一種の希土類金属と、Ca及びSrのうちの少なくとも1つとを化学量論量に秤量する。一例として、3価のYの源はYF3又はY2S3であってもよく、また、2価のCaの源はCaS又はCaF2であってもよい。本発明の一実施例によれば、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2を合成する場合、YF3、Y2S3、CaF2及びCeF3は、例えば、反応物とすることができる。
【0021】
次に、均一に混合されるまで、秤量されたスルフィドとフッ化物をすり砕く。そして、900〜1100℃の温度、真空雰囲気或いは約1気圧の圧力の不活性ガス又は窒素の雰囲気において、純粋な結晶相を得るまで、混合物を焼成する。得られた製品の晶相は、X線粉末回折(x−ray powder diffracion、XRD)スペクトルにより検査することができる。
【0022】
[実施例1:(A1−xCex)2CaF4S2(y=z=0)]
y=z=0である場合、(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2は簡略化されて(A1−xCex)2CaF4S2になった。前記製造方法により、AがY、La、Sm、Eu、Gd又はTbであり、x=0.01である試験例を製造した。
【0023】
試験例1及び試験例2のXRDスペクトルは、図1A及び図1Cに示す。試験例1の励起と発光スペクトルは、図2Aに示す。前記製造されたフルオロスルフィドとフォトルミネセンスの特性は表に示す。
【0024】
図1Aと図1Cを比較すると、異なるのは3価の陽イオンだけであり、すなわち、図1AにおけるY3+と図1CにおけるLa3+である。大きさが異なる等価の陽イオンの置換は、Ce3+の構造環境を変えることに用いられており、Ce3+の5d準位の結晶場分裂もそれに従って変わる。Y3+とLa3+は、フルオロスルフィドのホスト格子とコンパチブルするので、その置換が、異なる発光効率及び演色を発生することができる。
【0025】
まず、表1からわかるように、1モル%のCe3+の置換は、広い励起及び発光範囲を実現することができる。そのため、このCe3+をドープしたフルオロスルフィドシステムは、紫外光から青色光までを用いて励起源とし、pc−WLED応用の要求を満たせることができる。
【0026】
また、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2の励起範囲、発光範囲、CIE値に対して、青方偏移又は赤方偏移が少しだけ発生した。大まかに言えば、La3+置換のような、Ce−S結合の増大を起こす置換は、発光波長を減少する、つまり青方偏移されると見込まれる。逆に、Ce−S結合の収縮を起こす置換は、発光波長を増加する、つまり赤方偏移されると見込まれる。そのため、Ce3+イオンが感じた結晶場強度は、さまざまな3価の希土類金属イオンにより変わり、発光波長がそれに従い青方偏移又は赤方偏移される。
【0027】
しかし、Aのさまざまな希土元素により、励起範囲、発光範囲、CIE値は相対的に変わらない。これにより、これらの3価の希土類金属イオンの大きさはフルオロスルフィドの結晶格子に対して微小な変化だけを起こすことが分かった。そのため、フルオロスルフィドの正方アスペクト比及び結晶格子の大きさは僅かに影響された。
【表1】
表1:(A0.99Ce0.01)2CaF4S2のフォトルミネセンス特性であり、その内、AがY、La、Sm、Eu、Gd又はTbである。
【0028】
[実施例2:(A1−xCex)2CaF4S2におけるCa2+へのSr2+による置換]
次に、(A1−xCex)2CaF4S2(y=0、z=0)におけるCa2+は、(A1−xCex)2SrF4S2(y=0、z=1)を得るまで、徐々にSr2+に置換された。前記のような製造方法により、AがY又はLaであり、x=0.01、z=0、0.1、0.5又は1である試験例を製造した。
【0029】
試験例1、試験例9、試験例2、試験例10のXRDスペクトルは、図1A〜図1Dに示す。試験例1、試験例8、試験例9の励起と発光スペクトルは、図2A〜図2Cに示す。製造されたフルオロスルフィドとそのフォトルミネセンス特性は、表2に示す。
【0030】
図1A〜図1Dからわかるように、Y(試験例1及び試験例9)シリーズとLa(試験例2及び試験例10)シリーズの両方に対して、Ca2+をSr2+で置換することにより、(A1−xCex)2CaF4S2の晶相は変わらなかった。これらの試験例の晶相は、相変わらずY2CaF4S2と同様に正方構造を有する。しかし、Ca2+がSr2+に置換された後、XRDピーク値は、低角側に移動した。Ca2+及びSr2+の8配位の原子半径がそれぞれ1.12Å及び1.26Åである場合、図1A〜図1Dに示す結果は、イオンの大きさの変化に応じるものである。それは、結晶格子の体積がSr2+の置換により増大したことを示す。
【0031】
図2A〜図2Cからわかるように、励起と発光スペクトルの両方は青方偏移した。さらに、表2では、Y(試験例1及び試験例7〜試験例9)シリーズとLa(試験例2及び試験例10)シリーズの両方において、青方偏移現象が見られる。それは、前記置換により結晶格子体積のサイズが増大されたことを示し、それは、より大きいSr2+イオンのサイズで誘発された。この場合、結晶格子の大きさの増大により、Ce3+イオンが弱い結晶場分裂を経て、最低の5d準位を高めた。そのため、青方偏移した励起と発光スペクトルが観察されたことは合理的である。
【0032】
表2からわかるように、CIEのxの値は(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2におけるzの値の増加に伴って減少し、yの値はzの値の増加に伴って増加し、それは発光色がオレンジからイエローグリーンに移動したからである。
【表2】
表2:(A0.99Ce0.01)2Ca1−zSrzF4S2のフォトルミネセンス特性であり、その内、Yシリーズには、z=0、0.1、0.5又は1であり、Laシリーズには、z=0又は1である。
【0033】
[実施例3:(A1−xCex)2CaF4S2における第二の3価の希土類金属イオンの、第一の3価の希土類金属イオンへの置換]
(A1−xCex)2CaF4S2(y=0、z=0)において、(A0.9−xCexB0.1)2CaF4S2(y=0.1、z=0)を得るように、10モル%の第一の3価の希土類金属イオンAを、第二の3価の希土類金属イオンBにより置換した。前記製造方法により、x=0.01である場合、(A0.9−xCexB0.1)2CaF4S2(y=0.1、z=0)における第一の3価の希土類金属AがYであり、第二の3価の希土類金属BがSc、La、Sm、Eu、Gd又はTbであるものを製造した。製造された試験例及びそのフォトルミネセンス特性は、表3に示す。
【0034】
実施例1の結果(前記表1)と類似しており、励起スペクトル、発光スペクトル、CIE値の傾向は、第二の3価の希土類金属イオンBによる第一の3価の希土類金属イオンAへの一部の置換と同様である。
【表3】
表3:(Y0.89Ce0.01B0.1)2CaF4S2のフォトルミネセンス特性であり、その内、BがSc、La、Sm、Eu、Gd又はTbである。
【0035】
[実施例4:(A1−x−yCexBy)2CaF4S2におけるCa2+イオンへのSr2+イオンによる置換]
結晶格子の大きさの増大効果を検証するように、実施例3(試験例11〜試験例16)の(Y0.89Ce0.01B0.1)2CaF4S2におけるCa2+をさらにSr2+により置換した。結果は表4に示し、試験例12、試験例18、試験例23の励起と発光スペクトルは、図3A〜図3Cに示す。
【0036】
表4、図3A〜図3Cからわかるように、励起と発光スペクトルの青方偏移がいずれも著しく見られず、CIE値も約相等であった。この結果は、上記の実施例2と異なった。実施例1と実施例2を比較すると、フルオロスルフィドの結晶格子の大きさに対して、2価の陽イオンは3価の陽イオンより大きい影響を有し、それに従い、発光エネルギーに対する影響も同様であることがわかった。従って、実施例4の結果は、発光エネルギーは単に結晶場により決められるのではなく、Ce−S配位結合が有する共有−イオン結合性の百分率のような他の要素によっても決められることを示す。
【表4】
表4:(Y0.89Ce0.01B0.1)2Ca1−zSrzF4S2のフォトルミネセンス特性であり、その内、Sc、Sm、Eu、Gd、Tbシリーズには、BがSc、La、Sm、Eu、Gd又はTbであり、zが0、0.1であり、Laシリーズには、zが0、0.1、1である。
【0037】
[実施例5:(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2、(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2の温度依存性フォトルミネセンス強度]
この実施例5において、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2及び(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2両方のフォトルミネセンス(PL)強度の温度依存の挙動を検証した。図4は、25℃〜225℃の温度範囲における市販のCaS:Ce3+、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2及び(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2の温度依存性フォトルミネセンス強度を示す。
【0038】
図4において、全てのサンプルにおけるPL強度は、同一のサンプルが室温で観察されたものと比べると、減少したと発見されており、これは、増加した熱エネルギーが、電子を伝導帯の最低状態まで励起してイオン化することに用いられるためと考えられる。意外に、フルオロスルフィドの熱安定性は、2価のスルフィドCaS:Ce3+の熱安定性に相当又はより安定であった。F原子をスルフィドのホスト格子に導入することは、ソフトフォノンモードの結果として、熱消光の程度を低減した。
【0039】
図4において、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2及び(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2のΔE値は、それぞれ0.3741eV、0.3829eVであると推定した。ΔEは、Ce3+イオンの電子を5d状態まで励起する熱エネルギーを表す。また、(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2におけるCe3+イオンは、より弱い結晶場強度を経たので、(Y0.99Ce0.01)2CaF4S2が(Y0.99Ce0.01)2SrF4S2より高い活性化エネルギー特徴を表した。
【0040】
[実施例6:(Y0.99Ce0.01)2Ca1−zSrzF4S2のpc−WLED応用]
(Y0.99Ce0.01)2Ca1−zSrzF4S2のpc−WLED応用に用いられる可能性を説明するために、zの値が0.55、0.65の二種類の蛍光体を用いて、460nmの青光を発光するInGaN LEDチップを有するpc−WLEDを製造した。このWLEDの典型的な可視フォトルミネセンススペクトルは、図5(a)に示し、用いられる蛍光体の分数の関数としてCIE色度座標における変化は、差し込み図として図5(b)に示す。図5において、蛍光体(Y0.99Ce0.01)2Ca0.65Sr0.55F4S2は、YCSFS−0.55と表示され、もう一方の蛍光体(Y0.99Ce0.01)2Ca0.55Sr0.65F4S2は、YCSFS−0.65と表示された。図5における可視スペクトル領域全体は、青色チップが励起されることにより得られ、この二色pc−WLEDの演色評価数(Color rendering index、CRI)Raは、約74〜85であると決められた。
【0041】
pc−WLEDの国際照明委員会(Commission International de l'Eclairage、CIE)の色度座標、相関色温度(correlating color temperature、CCT)及び相応する発光効率は、表5に示す。表5において、70〜75の範囲におけるRa値を有し、色温度が6900Kである従来のYAG:Ce3+蛍光体を用いてpc−WLEDと比較した。そのため、本研究で発生した二色の白色光は、高いRa及び低い色温度という二つの好ましい特性を有する。
【表5】
表5:YCSFS−0.55及びYCSFS−0.65を変換蛍光体層とするpc−WLEDの光学と色度バラメータ
【0042】
前記開示内容によれば、Ceをドープしたフルオロスルフィドに基づく新規黄色蛍光体は、白色光LEDに、特に暖白色光の発生に用いられる潜在的候補者とすることができる。なお、1モル%のCe3+の置換だけにより、広い励起と発光範囲を実現することができる。そのため、このCe3+をドープしたフルオロスルフィドシステムは、紫外光から青色光までを用いて励起源とし、pc−WLED応用の要求を満たせることができる。
【0043】
読者は、本明細書と同時に提出され、公衆の閲覧に付されたすべての文書に注意すべきであり、これらの文書の内容の全ては、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0044】
特に説明しない限り、本明細書で開示されている全ての特徴(特許請求の範囲、要約書、図面のいずれをも含む)は、同一、同等又は類似の目的を果たす代替的な特徴で置き換えることができる。したがって、開示された特徴は、一連の同等又は類似な特徴の例だけである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の化学式と正方晶相を有し、式中、AとBがCe以外の異なる希土類金属であり、x、y、zの値がそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1であることを特徴とするフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項2】
前記希土類金属がSc、Y又はランタノイド元素であることを特徴とする請求項1に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項3】
前記ランタノイド元素がLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuであることを特徴とする請求項2に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項4】
y=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項5】
z=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2CaF4S2であることを特徴とする請求項4に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項6】
z=1である場合、前記化学式は(A1−xCex)2SrF4S2であることを特徴とする請求項4に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項7】
z=0である場合、前記化学式は(A1−x−yCexBy)2CaF4S2であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項8】
z=1である場合、前記化学式は(A1−x−yCexBy)2SrF4S2であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項9】
青色蛍光体と、
(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の化学式と正方晶相を有し、式中、AとBがCe以外の異なる希土類金属であり、x、y、zの値がそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1である黄色蛍光体と、
を含むことを特徴とする白色光発光ダイオード。
【請求項10】
前記希土類金属がSc、Y又はランタノイド元素であることを特徴とする請求項9に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項11】
前記ランタノイド元素がLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuであることを特徴とする請求項10に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項12】
y=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2であることを特徴とする請求項9から11の何れか1項に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項13】
z=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2CaF4S2であることを特徴とする請求項12に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項14】
z=1である場合、前記化学式は(A1−xCex)2SrF4S2であることを特徴とする請求項12に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項15】
請求項1の化学式により、少なくとも一種のスルフィドと、少なくとも一種のCeのフッ化物と、Ce以外の少なくとも一種の希土類金属と、Ca及びSrのうちの少なくとも1つとを化学量論量に秤量するステップと、
前記少なくとも一種のスルフィドと前記少なくとも一種のフッ化物をすり砕いて均一に混合することにより、混合物を形成するステップと、
900〜1100℃の温度、真空雰囲気において、純粋な結晶相を得るまで、前記混合物を焼成するステップと
を有することを特徴とする請求項1に記載の前記フルオロスルフィドの黄色蛍光体の製造方法。
【請求項16】
前記希土類金属がSc、Y又はランタノイド元素であることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ランタノイド元素がLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuであることを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【請求項1】
(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の化学式と正方晶相を有し、式中、AとBがCe以外の異なる希土類金属であり、x、y、zの値がそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1であることを特徴とするフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項2】
前記希土類金属がSc、Y又はランタノイド元素であることを特徴とする請求項1に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項3】
前記ランタノイド元素がLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuであることを特徴とする請求項2に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項4】
y=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項5】
z=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2CaF4S2であることを特徴とする請求項4に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項6】
z=1である場合、前記化学式は(A1−xCex)2SrF4S2であることを特徴とする請求項4に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項7】
z=0である場合、前記化学式は(A1−x−yCexBy)2CaF4S2であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項8】
z=1である場合、前記化学式は(A1−x−yCexBy)2SrF4S2であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のフルオロスルフィドの黄色蛍光体。
【請求項9】
青色蛍光体と、
(A1−x−yCexBy)2Ca1−zSrzF4S2の化学式と正方晶相を有し、式中、AとBがCe以外の異なる希土類金属であり、x、y、zの値がそれぞれ0<x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1である黄色蛍光体と、
を含むことを特徴とする白色光発光ダイオード。
【請求項10】
前記希土類金属がSc、Y又はランタノイド元素であることを特徴とする請求項9に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項11】
前記ランタノイド元素がLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuであることを特徴とする請求項10に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項12】
y=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2Ca1−zSrzF4S2であることを特徴とする請求項9から11の何れか1項に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項13】
z=0である場合、前記化学式は(A1−xCex)2CaF4S2であることを特徴とする請求項12に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項14】
z=1である場合、前記化学式は(A1−xCex)2SrF4S2であることを特徴とする請求項12に記載の白色光発光ダイオード。
【請求項15】
請求項1の化学式により、少なくとも一種のスルフィドと、少なくとも一種のCeのフッ化物と、Ce以外の少なくとも一種の希土類金属と、Ca及びSrのうちの少なくとも1つとを化学量論量に秤量するステップと、
前記少なくとも一種のスルフィドと前記少なくとも一種のフッ化物をすり砕いて均一に混合することにより、混合物を形成するステップと、
900〜1100℃の温度、真空雰囲気において、純粋な結晶相を得るまで、前記混合物を焼成するステップと
を有することを特徴とする請求項1に記載の前記フルオロスルフィドの黄色蛍光体の製造方法。
【請求項16】
前記希土類金属がSc、Y又はランタノイド元素であることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ランタノイド元素がLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb又はLuであることを特徴とする請求項16に記載の製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−136683(P2012−136683A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95263(P2011−95263)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(598139748)國立交通大學 (92)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(598139748)國立交通大學 (92)
【Fターム(参考)】
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