説明

発光素子、及び発光装置

表示装置や照明装置に使用される有機EL発光素子の発光膜を構成する電子輸送層あるいは電子注入層として、従来使用されていたアルカリ金属をドープした有機材料は、アルカリ金属が、反応性が高く水酸化物になり易く、厳密なプロセス管理が必要で、発光素子、又は発光装置の封止を完全なものにしなければならず、また発光素子の寿命が十分長くならないという問題があった。 有機EL発光素子の発光膜を構成する電子輸送層あるいは電子注入層として、アルカリ金属内包フラーレン、またはアルカリ金属内包フラーレンをドープした有機材料を使用することにした。アルカリ金属内包フラーレン、またはアルカリ金属内包フラーレンをドープした有機材料は、大気中の水分や他の不純物との反応性が低く、プロセス管理が容易で、また、簡易な封止構造を使用しても、発光素子の寿命を十分長くできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置、又は照明装置などに使用される有機ELを発光材料とする発光素子、及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【非特許文献1】AMD Application Note Vol.1 Dec.,2002 p.1〜p.19 Alkali Metal Dispenser for OLED
【特許文献1】特開2001−6878号公報 薄膜EL素子及びその駆動方法現在、薄型でフラットという特徴を持つ液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなど、さまざまな表示装置が、ブラウン管に代わる表示装置として広範に普及している。また、近年、次世代ディスプレイの本命として期待される有機ELを使用した表示装置の研究、開発がすすめられている。有機ELは、エレクトロルミネセンスを利用して電気を光に変換しているので、熱をほとんど発生せず、消費電力が小さい。また、液晶ディスプレイと異なり視野角によらず鮮明な画像を表示できるという特徴がある。
【0003】
第8図は、従来の発光素子の断面図である。従来の発光素子は、ガラス基板101上に、陽極102、正孔注入層103、正孔輸送層104、発光層105、電子輸送層106、電子注入層107、陰極108を順次積層して形成される。陽極には仕事関数の大きい透明な電極材料として、ITO(Indium Tin Oxide)が使用され、陰極には仕事関数の小さいアルミニウムが使用される。発光層105としては、Alq、NPBなどの低分子系の有機ELや、PPV、ポリ(3−アルキルチオフェン)などの高分子系の有機ELが使用される。無機材料の陽極、陰極と有機材料の発光層の接合性をよくするために、通常、発光層と陽極の間に正孔輸送層、正孔注入層を介在させ、また、発光層と陰極の間に電子輸送層、電子注入層を介在させることで、発光素子を多層構造にする。従来、正孔輸送層、又は正孔注入層の材料としては、TPD、PEDOTなどの有機材料が使用され、電子輸送層、又は電子注入層の材料としては、アルカリ金属をドープした有機材料が使用されていた。陰極界面の有機層に、アルカリ金属をドープすることにより、有機分子のラジカルアニオンが生成され、電場印加時に内部キャリアとしてふるまうため、有機ELの駆動電圧を低減させることができる(非特許文献1)。
【0004】
しかし、電子輸送層、電子注入層の材料として使用されていたアルカリ金属をドープした有機材料は、アルカリ金属が、反応性が高く水酸化物になり易いという問題があった。そのため、発光素子の製造工程において、アルカリ金属をドープした有機材料、あるいは形成した薄膜が、大気中の水分や他の不純物と反応しないように、プロセス管理を厳密に行わなければならない、作製した発光素子に外気がリークして水蒸気などと反応しないように、発光素子、又は発光装置の封止を完全なものにしないといけないなどの問題があった。また、寿命が十分長い発光素子を作製することが困難だった。
【0005】
また、電子輸送層として、C60、C70などの空のフラーレンを含む材料を使用したEL素子が知られている(特許文献1)。しかし、空のフラーレンは、電子親和力が比較的小さく、電子注入効率が悪く、従って、発光効率が高くないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発光素子の製造プロセス管理を容易にし、発光素子、又は発光装置の封止を簡易なものにし、発光効率の高い、長寿命の発光素子を作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電子輸送層、又は電子注入層の材料に、アルカリ金属内包フラーレン類、またはアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料を使用することにした。
【0008】
本発明(1)は、陽極、発光層及び陰極を含み、かつ、陰極と発光層との間に電子注入層及び/又は電子輸送層が介在する発光素子において、前記電子注入層及び/又は電子輸送層が、アルカリ金属内包フラーレン類又はアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料であることを特徴とする発光素子である。
【0009】
ここで、「電子輸送層」とは、陰極から電子を発光層まで輸送し、陽極側から移動してきたホールをブロックして陰極に逃がさないような層をいい、「電子注入層」とは、陰極から輸送層(輸送層が無い場合は発光層)にスムーズに電子が入っていけるようにする層をいう。尚、これらの機能を有する限り、異なった標記であっても、本明細書にいう「電子輸送層及び/又は電子注入層」に包含される。したがって、例えば、両方の機能を有する一層が存在する場合、当該層は「電子輸送層及び電子注入層」に相当する。
【0010】
本発明(2)は、電子輸送層が、アルカリ金属内包フラーレン類又はアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料である、前記発明(1)の発光素子である。
【0011】
本発明(3)は、陽極と発光層との間に正孔注入層及び/又は正孔輸送層が介在する、前記発明(1)又は(2)の発光素子である。
【0012】
本発明(4)は、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの発光素子を複数用いてアレイ状又はマトリクス状に配置した発光装置である
【0013】
本発明(5)は、前記発明(4)の発光装置を含む表示装置である。
【0014】
本発明(6)は、前記発明(4)の発光装置を含む照明装置である。
【発明の効果】
【0015】
1.アルカリ金属内包フラーレン類は、アルカリ金属が球形炭素クラスターであるフラーレンの中に閉じ込められているため、アルカリ金属内包フラーレン類、またはアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料で形成した電子輸送層、又は電子注入層は大気中の水分や他の不純物との反応性が低い。そのため、プロセス管理が容易になる、発光素子、又は発光装置の封止に簡易型の封止構造が使用できる。また、発光素子の寿命を長くすることができる。
【0016】
2.アルカリ金属内包フラーレン類、またはアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料は、アルカリ金属をドープした有機材料に比べ電子移動度が大きい。そのため、発光素子の発光効率が向上する。また、発光素子の内部抵抗が小さくなるため、低電圧駆動が可能になる。
【0017】
3.アルカリ金属内包フラーレン類、またはアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料は、空のフラーレンに比べ電子親和力が大きい。そのため、電子注入効率が高く、発光効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一具体例に係る発光素子の断面図である。
【図2】本発明の第二具体例に係る発光素子の断面図である。
【図3】本発明の第三具体例に係る発光素子の断面図である。
【図4】本発明の第四具体例に係る発光素子の断面図である。
【図5】本発明の第五具体例に係る発光素子の断面図である。
【図6】本発明の第六具体例に係る発光素子の断面図である。
【図7】(a)は、本発明の第七具体例に係る発光素子の断面図であり、(b)は、本発明の第七具体例に係る発光素子を表す回路記号である。
【図8】従来の発光素子の断面図である。
【図9】本最良形態のパッシブ・マトリックス駆動方式の発光装置の平面図である。
【図10】(a)は、本最良形態のアクティブ・マトリックス駆動方式の発光装置の平面図である。(b)は、本最良形態のアクティブ・マトリックス駆動方式の発光装置の回路図である。
【図11】本発明の第八具体例に係る発光素子の断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1、17、25、32、38、48、59、101 ガラス基板
9 プラスティック基板
2、10、18、26、33、53、60、102 陽極
3、11、19、27、42、51、103 正孔注入層
4、12、20、28、34、43、52、104 正孔輸送層
5、13、21、29、35、54、44、61、105 発光層
6、14、22、36、45、55、62、106 電子輸送層
7、15、23、30、46、56、107 電子注入層
8、16、24、31、37、57、63、108 陰極
39 ソース電極
40 半導体層
41、49 ゲート電極
47 ドレイン電極
50 ゲート絶縁膜
58 保護絶縁膜
201 カラム・ドライバー
202 ロー・ドライバー
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本最良形態につき、まず各層毎に説明する。はじめに、陽極は、発光層のHOMO準位と比較し、仕事関数が同程度か、より大きい電極材料を用いることが好適である。また、発光素子という用途との関係上、陽極又は陰極の少なくともいずれか一方は、透明乃至は半透過性であることが好適である。このような電極材料として、金(例えば半透過膜の形態)やITO(Indium Tin Oxide)を挙げることができる。
【0021】
次に、陰極は、陽極の仕事関数と比較し、仕事関数がより小さく、かつ、安定な電極材料を用いることが好適である。例えば、アルミニウム、銀、Mg−In,Mg−Agなどの合金を挙げることができる。尚、前記のように、発光素子という用途との関係上、陽極又は陰極の少なくともいずれか一方は、透明乃至は半透過性であることが好適である。
【0022】
電子注入層は、好適には、比較的仕事関数の高い陰極を用いた際、当該陰極の仕事関数を補う程度の仕事関数の小さい材料であり、例えば、LiFやMgを用いることができる。
【0023】
電子輸送層は、好適には、電子親和力が大きく、ホールブロッキング能を有し、かつ、電子移動度が大きい材料であり、例えば、BND、PBD、p−EtTAZ、BCPなどの有機材料を用いることができる。
【0024】
ここで、本発明の特徴は、電子輸送層及び/又は電子注入層(好適には少なくとも電子輸送層)は、アルカリ金属内包フラーレン類又はアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料であるという点である。
【0025】
ここにいう「フラーレン類」とは、フラーレン、ヘテロフラーレン、化学修飾フラーレンのみならず、フラーレンダイマーのようなフラーレン同士の繰り返し結合体(イオン結合、共有結合等)を包含する概念である。ここで、「フラーレン」とは、Cn(nは50以上の整数:例えば、n=60,70,76,78,・・・)で示される炭素クラスター物質であり、例えば、C60を挙げることができる。また、繰り返し結合体の場合、すべてのフラーレン単位中にアルカリ金属が内包されていなくともよい。例えばダイマーの場合、一方のフラーレンのみアルカリ金属が内包されている態様を挙げることができる。金属内包フラーレン類のドープ量は、有機材料に対して0.1wt%以上が好ましい。1wt%を超えると本発明の効果は急激に向上する。
【0026】
有機材料は、特に限定されず、導電性有機材料、例えば、アルミ錯体、オキサジアゾール類、トリアゾール類、フェナントロリン類、導電性高分子(好ましくはN型導電性高分子)が使用可能である。例えば、PBD、ポリアリニン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)を挙げることができる。尚、電子輸送層及び/又は電子注入層を構成するものとして、すべてアルカリ金属内包フラーレン類である必要はなく、本発明の効果を奏する限り、例えば、他の材料(例えば空のフラーレン、ドナーとして、アルカリ金属、アルキルアンモニウムイオン等)を含有していてもよい。
【0027】
正孔注入層は、好適には、比較的仕事関数の低い陽極を用いた際、当該陽極の仕事関数を補う程度の仕事関数又はイオン化ポテンシャルの大きい材料であり、当該層の慣用材料、例えば、TPD、銅フタロシアニン、PEDOT、ポリチオフェン、ポリアニリンが使用可能である。
【0028】
正孔輸送層は、電子ブロッキング能を有し、かつ、正孔移動度が大きい材料であり、例えば、NPD,TPD,PEDOT、TPACなどの有機材料が使用可能である。
【0029】
発光層は、電子とホールの再結合により発光を起こす材料である限り特に限定されない。例えば、Alq3、NPBなどの低分子系の有機EL、PPV,ポリ(3−アルキルチオフェン)などの高分子系の有機ELが使用可能である。
【0030】
次に、上記層の組み合わせを積層した発光素子につき説明する。まず、発光素子において、上記層の内、陽極、発光層及び負極は必須である。そして、電子輸送層及び電子注入層の少なくともいずれか一方は必須であり、残りの層の存在は任意である。以下、上記層の組み合わせの具体例を図を参照しながら説明する。
【0031】
第1図は、第一具体例に係る発光素子の断面図である。本発明の第一具体例に係る発光素子は、外部の駆動素子で発光素子を制御する、いわゆるパッシブ・マトリックス駆動の発光素子であり、電極間の多層膜が5層構造の発光素子である。ガラス基板1上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、陰極8を順次積層して形成されている。
【0032】
第2図は、第二具体例に係る発光素子の断面図である。プラスティック基板9上に、陽極10、正孔注入層11、正孔輸送層12、発光層13、電子輸送層14、電子注入層15、陰極16を順次積層して形成されている。軽量でフレキシブルなプラスティック基板を使用することで、携帯電話、電子ペーパーなどへの応用が広がる。また、PETなどの安価なプラスティック基板を使用することで、発光素子のコストダウンが可能になる。外部の駆動回路により、陰極16に対し陽極10に正の駆動電圧を印加すると、陰極16から注入された電子と陽極10から注入された正孔が、発光層13において再結合することで、発光層13が発光する。
【0033】
第3図は、第三具体例に係る発光素子の断面図である。第三具体例に係る発光素子は、ガラス基板17上に、陽極18、正孔注入層19、正孔輸送層20、発光層21、電子輸送層22、電子注入層23、陰極24を順次積層して形成されている。
【0034】
第4図は、第四具体例に係る発光素子の断面図である。第四具体例に係る発光素子は、ガラス基板25上に、陽極26、正孔注入層27、正孔輸送層28、発光層29、電子注入層30、陰極31を順次積層して形成されている。
【0035】
第5図は、第五具体例に係る発光素子の断面図である。第五具体例に係る発光素子は、ガラス基板32上に、陽極33、正孔注入層34、発光層35、電子輸送層36、陰極37を順次積層して形成されている。
【0036】
第11図は、第八具体例に係る発光素子の断面図である。第八具体例に係る発光素子は、ガラス基板59上に、陽極60、発光層61、電子輸送層62、陰極63を順次積層して形成されている。
【0037】
第6図は、第六具体例に係る発光素子の断面図である。第六具体例に係る発光素子は、各発光素子が駆動素子を有するアクティブ・マトリックス駆動の発光素子であり、駆動素子としてSITを使用している。ガラス基板38上に、ソース電極39、半導体層40、正孔注入層42、正孔輸送層43、発光層44、電子輸送層45、電子注入層46、ドレイン電極47を順次積層して形成されている。ゲート電極41は、半導体層40内にくしの歯状に配置されている。半導体層40は、たとえばP型の導電性有機材料からなり、アルミニウムなどからなるゲート電極41に正のバイアス電圧を印加し、ソース電極39から発光層44に向かって流れる正孔をキャリアとする電流を制御して、発光素子の発光強度を制御する。
【0038】
第7図(a)は、第七具体例に係る発光素子の断面図である。第七具体例に係る発光素子も、アクティブ・マトリックス駆動の発光素子であり、駆動素子としてはMOS型の電流制御構造を使用している。ガラス基板48上に、ゲート電極49、ゲート絶縁膜50が積層形成されている。ゲート絶縁膜50上に形成された陽極53の上に、正孔注入層51、正孔輸送層52、発光層54、電子輸送層55、電子注入層56からなる多層膜を配置し、電子注入層56上に陰極57を配置している。陰極57と陽極53は横方向にずれた位置に配置されている。たとえば、陰極57を接地電位とし、陽極53に正のバイアス電圧を印加し、陽極53から正孔をキャリアとする電流を注入する。ゲート電極49に負の制御電圧を印加し、陽極から注入される正孔の一部を捕捉することで電流を制御する。陰極57から注入される電子と陽極53から注入される正孔が発光層54で再結合することで、発光層が発光する。発光強度は、ゲート電極49に印加する制御電圧で制御できる。
【0039】
第7図(b)は、第七具体例に係る発光素子を表す回路記号であり、本明細書の中で、第7図(a)に示すMOS型の電流制御構造を使用した発光ダイオードを表すものとして定義したものである。Aで示される端子は陽極53、Kで示される端子は陰極57、Gで示される端子はゲート電極49に対応する。
【0040】
第9図は、本最良形態のパッシブ・マトリックス駆動方式の発光装置の平面図である。フィルム状の発光素子を格子状に配置したカラム電極C1〜C6とロー電極R1〜R7で挟んで、電極の端に配置したカラム・ドライバー201とロー・ドライバー202でバイアス電圧を印加して、カラム電極とロー電極から同時にバイアス電圧を印加した部分の発光層を発光させる。
【0041】
第10図(a)は、本最良形態のアクティブ・マトリックス駆動方式の発光装置の平面図であり、第10図(b)は、本最良形態のアクティブ・マトリックス駆動方式の発光装置の回路図である。第10図(a)に示すアレイ状に配置された発光素子において、各発光素子はそれぞれMOS構造による制御を行う駆動素子を有している。第10図(b)に示すように、各カラム配線C1〜C3は、駆動素子のゲート電極と接続し、各ロー配線R1〜R3は駆動素子の陽極に接続されている。駆動素子の陰極は、接地電位と接続している。ロー配線にバイアス電圧を印加して、制御する発光素子の行を選択し、各カラム配線に印加する制御電圧を制御して、選択された行における各列の発光素子の発光強度を制御する。第10図では、発光素子を駆動する素子として、MOS構造による制御を行う駆動素子を例にとって説明したが、他の駆動素子を使用しても本発明の効果が同様に得られることは明らかである。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例を参照しながら具体的に説明する。尚、本発明の技術的範囲は本実施例に限定されるものではない。
【0043】
実際に発光素子を作製し評価した結果について説明する。比較例に係る発光素子としては、電子輸送層にアルカリ金属をドープした有機材料膜を用いた発光素子を評価した。実施例に係る発光素子としては、電子輸送層に内包フラーレン膜を用いた発光素子と、電子輸送層に内包フラーレンをドープした有機材料膜を用いた発光素子を評価した。評価用の発光素子として、それぞれの作製方法につき各10個の素子を作製した。
【0044】
(比較例に係る発光素子の製造)
透明ガラス基板(コーニング1713、30mm×30mm、厚さ0.8mm)を用意し、ガラス基板上に、ITOからなる薄膜をスパッター法により厚さ340Å堆積し、陽極を形成した。また、陽極上に、東京化成製銅フタロシアニン(商品名P1005)からなる薄膜を蒸着法により厚さ10Å堆積し、正孔注入層を形成した。次に、正孔注入層上に、アルドリッチ製NPD(商品名55,669−6)からなる薄膜を蒸着法により厚さ1000Å堆積し、正孔輸送層を形成した。次に、同仁化学製Alq3(商品名T203)を昇華精製した。そして、正孔注入層上に、精製したAlq3からなる薄膜を蒸着法により厚さ500Å堆積し、発光層を形成した。次に、アルドリッチ製PBD(商品名25,785−0)を昇華精製した。そして、発光層上に、精製したPBDとNaを蒸着源とする共蒸着法により、NaをドープしたPBDからなる薄膜を厚さ500Å堆積し、電子輸送層を形成した。次に、電子輸送層上に、LiFからなる薄膜を蒸着法により厚さ5Å堆積し、電子注入層を形成した。そして、電子注入層上に、Alからなる薄膜を蒸着法により厚さ1000Å堆積し、陰極を形成した。次に、陰極上に透明ガラス基板(コーニング1713、30mm×30mm、厚さ0.8mm)を貼り付け、比較例に係る発光素子を得た。
【0045】
(実施例1に係る発光素子の製造)
まず、透明ガラス基板(コーニング1713、30mm×30mm、厚さ0.8mm)を用意し、ガラス基板上に、ITOからなる薄膜をスパッター法により厚さ340Å堆積し、陽極を形成した。次に、陽極上に、東京化成製銅フタロシアニン(商品名P1005)からなる薄膜を蒸着法により厚さ10Å堆積し、正孔注入層を形成した。そして、正孔注入層上に、アルドリッチ製NPD(商品名55,669−6)からなる薄膜を蒸着法により厚さ1000Å堆積し、正孔輸送層を形成した。次に、同仁化学製Alq3(商品名T203)を昇華精製した。正孔注入層上に、精製したAlq3からなる薄膜を蒸着法により厚さ500Å堆積し、発光層を形成した。そして、イデアルスター製Na@C6050mgをニラコ製モリブデンボート(SS−1−10)にセットした後、基板を10cm上方に設置し、真空度10−6Torr下で前記ボートに100mAを印加し、Na@C60を600℃、60秒間加熱して昇華させ、基板上に堆積させることにより、厚さ500Åの薄膜からなる電子輸送層を形成した。次に、電子輸送層上に、LiFからなる薄膜を蒸着法により厚さ5Å堆積し、電子注入層を形成した。そして、電子注入層上に、Alからなる薄膜を蒸着法により厚さ1000Å堆積し、陰極を形成した。次に、陰極上に透明ガラス基板(コーニング1713、30mm×30mm、厚さ0.8mm)を貼り付け、実施例1に係る発光素子を得た。
【0046】
(実施例2に係る発光素子の製造)
まず、透明ガラス基板(コーニング1713、30mm×30mm、厚さ0.8mm)を用意し、ガラス基板上に、ITOからなる薄膜をスパッター法により厚さ340Å堆積し、陽極を形成した。次に、陽極上に、東京化成製銅フタロシアニン(商品名P1005)からなる薄膜を蒸着法により厚さ10Å堆積し、正孔注入層を形成した。そして、正孔注入層上に、アルドリッチ製NPD(商品名55,669−6)からなる薄膜を蒸着法により厚さ1000Å堆積し、正孔輸送層を形成した。次に、同仁化学製Alq3(商品名T203)を昇華精製した。正孔注入層上に、精製したAlq3からなる薄膜を蒸着法により厚さ500Å堆積し、発光層を形成した。そして、アルドリッチ製PBD(商品名25,785−0)20mgを昇華精製した。イデアルスター製Na@C60を10mg用意し、発光層上に、実施例1に係る発光素子の製造に準じ、精製したPBDとNa@C60を蒸着源とする共蒸着法により、Na@C60をドープしたPBDからなる薄膜を厚さ500Å堆積し、電子輸送層を形成した。電子輸送層の形成条件として、PBDの加熱温度を700℃、Na@C60の加熱温度を600℃とした。次に、電子輸送層上に、LiFからなる薄膜を蒸着法により厚さ5Å堆積し、電子注入層を形成した。そして、電子注入層上に、Alからなる薄膜を蒸着法により厚さ1000Å堆積し、陰極を形成した。次に、陰極上に透明ガラス基板(コーニング1713、30mm×30mm、厚さ0.8mm)を貼り付け、実施例2に係る発光素子を得た。
【0047】
(発光素子の評価方法)
以上の方法により作製した、実施例1及び2並びに比較例に係る発光素子の発光効率(cd/A)と最低駆動電圧(V)を、陰極の形成後5時間以内に常温常圧の通常の実験室環境で測定した。最低駆動電圧は、200cd/mの発光開始電圧と定義した。以下に示す測定データは、各作製方法により作製された10個の発光素子の測定値の平均値である。
発光素子 発光効率(cd/A) 最低駆動電圧(V)
比較例 4.2 4.5
実施例1 9.5 3.8
実施例2 8.2 4.3
【0048】
上記の測定データからわかるように、実施例1及び2の発光素子は、発光効率に関しては、いずれも比較例の発光素子に比べ向上していることがわかる。また、最低動作電圧に関しては、実施例1、実施例2ともに従来の発光素子に比べ改善されていることがわかるが、特に実施例1において大きく改善していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
アルカリ金属内包フラーレン類は、アルカリ金属が球形炭素クラスターであるフラーレンの中に閉じ込められているため、アルカリ金属内包フラーレン類、またはアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料で形成した電子輸送層、又は電子注入層は大気中の水分や他の不純物との反応性が低い。そのため、プロセス管理が容易になる、発光素子、又は発光装置の封止に簡易型の封止構造が使用できる。また、発光素子の寿命を長くすることができる。
【0050】
アルカリ金属内包フラーレン類、またはアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料は、アルカリ金属をドープした有機材料に比べ電子移動度が大きい。そのため、発光素子の発光効率が向上する。また、発光素子の内部抵抗が小さくなるため、低電圧駆動が可能になる。
【0051】
アルカリ金属内包フラーレン類、またはアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料は、空のフラーレンに比べ電子親和力が大きい。そのため、電子注入効率が高く、発光効率が向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、発光層及び陰極を含み、かつ、陰極と発光層との間に電子注入層及び/又は電子輸送層が介在する発光素子において、前記電子注入層及び/又は電子輸送層の少なくとも一つの層が、アルカリ金属内包フラーレン類又はアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料からなることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
電子輸送層が、アルカリ金属内包フラーレン類又はアルカリ金属内包フラーレン類をドープした有機材料である請求項1記載の発光素子。
【請求項3】
陽極と発光層との間に正孔注入層及び/又は正孔輸送層が介在する請求項1又は2記載の発光素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の発光素子を複数用いてアレイ状又はマトリクス状に配置した発光装置。
【請求項5】
請求項4記載の発光装置を含む表示装置。
【請求項6】
請求項4記載の発光装置を含む照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【国際公開番号】WO2005/006817
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511564(P2005−511564)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009945
【国際出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(502344178)株式会社イデアルスター (59)
【Fターム(参考)】