説明

発光素子、発光素子の使用方法、発光素子の製造方法、ディスプレイ

【課題】容易に製造することができ、390nm程度の短波長領域で発光する発光素子を提供するものである。
【解決手段】本発明の発光素子は、第1電極と、第2電極と、第1及び第2電極間に設けられゲルマニウム微粒子を含む担持体を備え、前記ゲルマニウム微粒子は、酸化ゲルマニウムを含み、前記酸化ゲルマニウムは、少なくとも一部が酸素欠損を有し、前記担持体に対して電子線を5keVで照射した際のカソードルミネッセンスの波長のピークが340〜440nmの範囲内であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容易に製造でき且つ390nm程度の短波長領域で発光する発光素子並びにその使用方法及びその製造方法と、この発光素子を備えるディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴い、電子機器に搭載される部品をいかにコンパクトにするかが課題となっている。発光部品では固体素子の開発によって小型化が進んでいる。更に半導体のチップ間通信を光で行う技術や、光コンピューターなどが提案されているが、その実用性を高めるためには半導体基板上に直接作製することができる発光素子が望まれる。
【0003】
このような発光素子の一例としては、特許文献1に開示されているような半導体微粒子を用いたものが挙げられる。
【特許文献1】特開平11−310776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1などの従来の半導体微粒子を用いた発光は可視光領域であり、そのほとんどは赤色など波長の比較的長い領域の発光であり、通信速度の向上等の観点から、より短波長領域で発光する発光素子が望まれている。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、容易に製造することができ、390nm程度の短波長領域で発光する発光素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発光素子は、第1電極と、第2電極と、第1及び第2電極間に設けられゲルマニウム微粒子を含む担持体を備え、前記ゲルマニウム微粒子は、酸化ゲルマニウムを含み、前記酸化ゲルマニウムは、少なくとも一部が酸素欠損を有し、前記担持体に対して電子線を5keVで照射した際のカソードルミネッセンスの波長のピークが340〜440nmの範囲内であることを特徴とする。
【0007】
本発明者は、鋭意研究を行っていたところ、担持体中にゲルマニウム微粒子を含有させた素子に対して光照射・電子線照射・電圧印加を行うことによってこの素子を発光させることができ、そのカソードルミネッセンス波長のピークが340〜440nmの範囲内であることを見出した。
そして、この素子の発光原理についてさらに詳しく検討を行った結果、この素子の発光機構は従来考えられていた量子サイズ効果によるものではなく、酸化ゲルマニウムの酸素欠陥によるものであるという知見を得て、本発明の完成に到った。
本発明の発光素子は、担持体にゲルマニウムをイオン注入して、その後熱処理を行うという非常にシンプルな方法で製造できるというメリットを有している。
また、量子サイズ効果を発光原理としている発光素子では、粒子のサイズが変化すると発光波長も変化するが、粒子サイズはゲルマニウム注入量・熱処理温度・熱処理時間等によって容易に変化しうるものであるので、粒子サイズを揃えるのは容易ではなく、従って、製品ばらつきを小さくすることは容易ではない。
一方、本発明の発光素子は、酸素欠陥を有する酸化ゲルマニウムが発光中心となって発光するものであり、粒子サイズが変化しても発光波長が変化しない。従って、本発明によれば製品ばらつきを小さくすることが比較的容易である。
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。
【0008】
酸化ゲルマニウム全体に対する酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムの割合の最大値は、0.1以上であってもよい。
前記ゲルマニウム微粒子は、中心部がゲルマニウムからなり、酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムは、前記中心部の周囲に配置されていてもよい。
前記ゲルマニウム微粒子の最大粒径は、1〜20nmであってもよい。
前記担持体は、波長300〜500nmの光の透過率が80%以上であってもよい。
前記担持体は、絶縁体からなってもよい。
前記担持体は、酸化シリコン、窒化シリコン又は酸窒化シリコンからなってもよい。
【0009】
また、本発明は、上記記載の発光素子を備えたディスプレイも提供する。上記発光素子を発光源として用いればディスプレイのフレキシブル化、軽量化及び薄型化を比較的容易に達成することができる。
【0010】
また、本発明は、上記記載の発光素子の使用方法であって、第1及び第2電極間に交流電圧を印加することを特徴とする発光素子の使用方法も提供する。本発明の発光素子は、交流電圧を印加した場合に発光強度が強くなることが実験的に見出された。
【0011】
また、本発明は、上記記載の発光素子の製造方法であって前記ゲルマニウム微粒子は、前記担持体中のゲルマニウム濃度(原子濃度)が0.1〜1.4原子%になるようにゲルマニウムをイオン注入し、その後熱処理を施すことによって形成される発光素子の製造方法も提供する。この範囲の量のゲルマニウムを注入することによって発光強度を強くすることができることが実験的に見出された。
【0012】
ここで示した種々の実施形態は、適宜組み合わせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下,本発明の一実施形態を図面を用いて説明する。図面や以下の記述中で示す内容は,例示であって,本発明の範囲は,図面や以下の記述中で示すものに限定されない。
【0014】
1.発光素子
図1を用いて本発明の一実施形態の発光素子について説明する。図1は、本実施形態の発光素子10の構造を示す断面図である。
【0015】
本実施形態の発光素子10は、第1電極1と、第2電極3と、第1及び第2電極1,3間に設けられゲルマニウム微粒子5を含む担持体7を備え、ゲルマニウム微粒子5は、酸化ゲルマニウムを含み、前記酸化ゲルマニウムは、少なくとも一部が酸素欠損を有し、担持体7に対して電子線を5keVで照射した際のカソードルミネッセンスの波長のピークが340〜440nmの範囲内である。第1及び第2電極1,3間に電圧が印加されると、ゲルマニウム微粒子5を含む担持体7から光が放出される。
【0016】
1−1.第1及び第2電極
第1電極1及び第2電極3は、担持体7に対して電圧を印加することができるものであればその構成は特に限定されない。第1電極1と第2電極3は、同じ材料であっても異なる材料であってもよい。担持体7からの光取り出し効率を向上させるために第1電極1と第2電極3の少なくとも一方は、発光波長に対して透明であることが好ましい。一例では、第1電極1は、担持体7上に配置されたITO電極からなり、第2電極3は、担持体7を間に挟んで第1電極3の反対側に基板9を介して配置されたアルミニウム電極からなる。
【0017】
1−2.担持体
担持体7は、ゲルマニウム微粒子5を担持することができるものであればその構成は特に限定されない。担持体7の光透過率は特に限定されないが、波長300〜500nmの光の透過率が80%以上であることが好ましい。ゲルマニウム微粒子5を含む担持体7から放出される光のピーク波長は390nm前後であるので、波長300〜500nmでの光透過率が高ければその分だけ光取り出し効率が高くなるからである。また、担持体7の材料は、特に限定されないが、担持体7は、絶縁体からなることが好ましい。この場合、発光に寄与することなく電極間を流れる電流を低減できるので、実効的な発光効率を向上することができ、低消費電力で発光が可能だからである。また、担持体7は、酸化シリコン、窒化シリコン又は酸窒化シリコンからなることがさらに好ましい。この場合、シリコン系の絶縁膜であり、シリコンはゲルマニウムよりも酸素と結合しやすいので、ゲルマニウム原子が不必要に酸素と結合せず、また酸化シリコン、窒化シリコン又は酸窒化シリコンは比較的酸素を透過しにくいのでゲルマニウム原子が外気の浸透によって酸化されたたりしないので、発光が安定し劣化も少ない。また、酸化シリコン、窒化シリコン又は酸窒化シリコンは通常のシリコン半導体プロセスで製膜可能であるので量産性に優れる上、他の電子回路と組み合わせることが可能だからである。さらに、担持体7は、酸化シリコンからなることが特に好ましい。この場合、シリコン基板の熱酸化によって容易に担持体7を形成することができるからである。従って、基板9と担持体7は、それぞれ、シリコン基板と、その上のシリコン熱酸化膜であることが好ましい。基板9は、絶縁体基板、半導体基板、導電体基板の何れであってもよく、省略してもよい。
【0018】
1−3.ゲルマニウム微粒子
ゲルマニウム微粒子5とは、ゲルマニウム原子を含む微粒子であり、ゲルマニウムとその酸化物を主成分とする微粒子であることが好ましく、実質的にゲルマニウムとその酸化物のみからなる微粒子であることがさらに好ましく、実質的にゲルマニウムの酸化物のみからなる微粒子であることがさらに好ましい。
【0019】
ゲルマニウム微粒子5は、担持体7中に含まれており、担持体7中に均一に分散していることが好ましい。担持体7中のゲルマニウム微粒子5の数密度は、特に限定されない。ゲルマニウム微粒子5は、一例では、数密度が1×1016個/cm3〜1×1021個/cm3となるように担持体7中に含める。
【0020】
ゲルマニウム微粒子5は、好ましくは、最大粒径が1〜20nmである。この場合、発光効率が特に高くなるからである。本発明において、「最大粒径」とは、担持体7の任意の断面(図1のような断面であってもよく、紙面に垂直な断面であってもよい。)の100nm角の範囲をTEM観察した場合に観察できた微粒子のうち粒径が最も大きいものの粒径を意味する。また、本発明において「粒径」とは、断面TEM写真で見た場合に、TEM写真に射影され微粒子の平面像が含むことのできる最も長い線分の長さを意味する。ゲルマニウム微粒子5の最大粒径は、例えば、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19又は20nmである。ゲルマニウム微粒子5の最大粒径は、ここで例示した何れか2つの数値の間の範囲内であってもよく、何れか1つの数値以下であってもよい。
【0021】
ゲルマニウム微粒子5は、酸化ゲルマニウムを含み、この酸化ゲルマニウムは、少なくとも一部が酸素欠損を有している。ゲルマニウム原子は4本の結合手を有しているので、各結合手が酸素原子に結合すると、各ゲルマニウム原子には4つの酸素原子が結合することになる。このような状態の酸化ゲルマニウムを「酸素欠損を有さない酸化ゲルマニウム」又は「GeO2」と称する。一方、ゲルマニウムの酸化度合いによっては各ゲルマニウム原子の4本の結合手の一部のみを酸素原子に結合させ、残りを未結合の状態(つまり、酸素原子に結合していない状態)にすることができる。このような状態の酸化ゲルマニウムを「酸素欠損を有する酸化ゲルマニウム」又は「GeO」と称する。
GeOが存在している場所は、特に限定されず、GeOは、例えば、ゲルマニウム微粒子5の表面に配置される。一例では、中心部がGeであり、その周囲がGeOで覆われている。また、GeOの周囲がGeO2で覆われていてもよい。
【0022】
酸化ゲルマニウム全体(GeO2+GeO)に対する酸素欠損を有する酸化ゲルマニウム(GeO)の割合(以下、「酸素欠損率」とも称する。)は、XPSスペクトルのGeの3dピーク付近のスペクトルにおいて、GeO2に起因するピークの面積SGeO2と、GeOに起因するピークの面積SGeOを求め、SGeO/(SGeO2+SGeO)を算出することによって求めることができる。XPS測定のためのX線源には、例えば単色化したAl Kα線(1486.6eV)を用いることができる。GeO2に起因するピークとGeOに起因するピークは、裾野が重なるが、図2に示すようにガウスフィッティングを行ってGeO2に起因するピークとGeOに起因するピークとを波形分離することによって面積SGeO2及びSGeOを求めることができる。GeO2及びGeOのピークエネルギーは、それぞれ約33.5,32eVである。
【0023】
GeOが発光に関与していることが本発明者の実験によって明らかになったので、酸素欠損率が高いほど発光効率が高くなると考えられる。酸素欠損率の最大値は、特に限定されないが、0.1以上が好ましい。この最大値が小さすぎると発光しなかったり発光強度が小さくなりすぎる可能性があるからである。この最大値は、具体的には例えば0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,0.95,0.99,1である。この最大値は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0024】
また、酸素欠損率の平均値は、特に限定されないが、0.1以上が好ましい。この平均値が小さすぎると発光しなかったり発光強度が小さくなりすぎる可能性があるからである。この平均値は、具体的には例えば0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,0.95,0.99,1である。この平均値は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。酸素欠損率の平均値は、ゲルマニウム微粒子5の数密度がピーク値の1/100以上となる範囲で測定する。酸素欠損率の平均値は、具体的には例えば、担持体7の深さ方向の一定間隔の複数の位置で酸素欠損率の測定を行い、この測定で得られた測定値を代数平均することによって求めることができる。測定を行う位置の間隔は、できるだけ狭い方が好ましく、例えば、10nm以下とする。酸素欠損率の測定は、例えば、担持体7のエッチングを同条件で一定時間行う度に行ってもよい。エッチング条件は、例えば、4keVでのアルゴンエッチングを5分間にする。
【0025】
ところで、XPSスペクトルのGeの2pピーク付近のスペクトルにおいて、ゲルマニウム(Ge)に起因するピークの面積SGeと、酸化ゲルマニウム(GeO+GeO2)に起因するピークの面積S酸化Geを求め、SGeO/(SGe+S酸化Ge)を算出することによってGeの酸化率を求めることができる。また、上記の酸素欠損率の平均値と同様の方法で酸化率の平均値を求めることができる。この酸化率の平均値は、特に限定されないが、例えば、1,5,10,15,20,25,30,34.9,35,40,45,50,55,60,60.1,65,70,70.1,75,80,85,90,95,99,100%である。この酸化率の平均値は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
担持体7中にゲルマニウム微粒子5を含有させる方法は、特に限定されないが、一例では、担持体7に対してゲルマニウムをイオン注入し、その後、少なくとも一部が酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムが形成されるように熱処理を行う方法が考えられる。イオン注入後の熱処理によってイオンが凝集して多数の微粒子が担持体7中に形成されるとともにGeが酸化されて少なくとも一部が酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムが形成される。ゲルマニウムのイオン注入は、例えば、注入エネルギー5〜100keVで注入量1×1014〜1×1017ions/cm2の条件で行うことができる。
酸素欠損率は、ゲルマニウムの注入量、熱処理時間、熱処理温度、熱処理雰囲気等を変化させることによって適宜調節することができる。具体的には熱処理雰囲気中の酸素の分圧や流量を調整することによって酸素欠損率を高めることができる。例えば膜厚100nmの酸化シリコン中のゲルマニウムの原子濃度が10%以下の場合において、1時間、800℃の熱処理においては、真空引き(毎分400リットル)しながら不活性ガスを供給(毎分50ミリリットル)した場合は、ゲルマニウムは一部酸素と結合するが酸素が不足しているので完全には酸化されず酸素欠損が生成できる。不活性ガスに体積20%の酸素を混合した1気圧の雰囲気中では、酸素の供給過多で酸素欠損が減少する。酸素欠損率を高めるのに適した雰囲気は、ゲルマニウムの注入条件や熱処理時間、温度など他のパラメーターにも左右されるが、一例では、ゲルマニウムの原子濃度を比較的高くし、不活性ガスに酸素を混合したガスを真空引きしながら供給することによって酸素欠損率を高めることができる。
【0027】
また、ゲルマニウムは、担持体7中のゲルマニウム濃度が0.1〜1.4原子%になるようにイオン注入することが好ましい。1時間、800℃の熱処理において、真空引き(毎分400リットル)しながら不活性ガスを供給(毎分50ミリリットル)した場合は、この範囲であれば発光効率が比較的高くなるからである。ゲルマニウム濃度は、具体的には例えば0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.1,1.2,1.3,1.4原子%である。この濃度は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。ゲルマニウム濃度は、例えば高分解能RBS(ラザフォード後方散乱)法によって測定することができる。その他、SIMS(二次イオン質量分析法)等の様々な分析法によって測定することが可能である。なお、ゲルマニウム濃度の測定は、ゲルマニウム濃度がピーク値の1/100以上となる範囲で行う。熱処理の温度は、600〜900℃が好ましく、700〜800℃がさらに好ましい。この範囲であれば発光効率が比較的高くなるからである。
【0028】
1−4.発光波長
本実施形態の発光素子10は、担持体7に対して電子線を5keVで照射した際のカソードルミネッセンス(CL)の波長のピークが340〜440nm(より厳密には、350〜430nm,360〜420nm,370〜410nm,380〜400nm又は385〜395nm)の範囲内である。電極間に電圧を印加したときに発生する光(エレクトロンルミネッセンス,EL)の波長は、CLの波長から若干ずれる可能性があるが、CLの波長とほぼ同じになると考えられる。
【0029】
1−5.発光素子の使用方法
本実施形態の発光素子10は、第1電極1と第2電極3の間に電圧を印加することによって発光させることができる。印加する電圧は、直流電圧であっても交流電圧であってもよいが、交流電圧を印加した場合の方が発光効率が高いので交流電圧が好ましい。交流電圧の波形は、例えば正弦波であり、その電圧は、例えば10〜100Vp−pであり、その周波数は、例えば0.1〜10kHzである。この電圧は、具体的には例えば10,20,30,40,50,60,70,80,90,100Vp−pである。この電圧は、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。この周波数は、具体的には例えば0.1,0.2,0.5,1,2,5,10kHzである。この周波数はここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0030】
2.ディスプレイ
上記実施形態の発光素子10は、比較的短波長の光を放出するので、適切な蛍光体を用いることによって青色、緑色及び赤色の光に変換することができる。従って、発光素子10を用いてカラーディスプレイを作成することができる。また、発光素子10を発光源として用いればディスプレイのフレキシブル化、軽量化及び薄型化を比較的容易に達成することができる。
【0031】
以上の実施形態で示した種々の特徴は,互いに組み合わせることができる。1つの実施形態中に複数の特徴が含まれている場合,そのうちの1又は複数個の特徴を適宜抜き出して,単独で又は組み合わせて,本発明に採用することができる。
【0032】
3.実証実験
3−1.EL実験
以下の方法でEL実験を行った。
まず酸素雰囲気中,1050℃、100分でシリコン基板を熱酸化することによって表面にシリコン熱酸化膜を形成した。
次に、シリコン熱酸化膜中にGe負イオンを50keVで1.4x1016ions/cm2、20keVで3.2x1015ions/cm2、10keVで2.2x1015ions/cm2の条件でこの順番で多重に注入した。
次に、ロータリーポンプで引きながら、窒素を流入させ、800℃で1時間熱処理した。この熱処理中に注入したGeの凝集及び酸化によってGeが酸化されて少なくとも一部が酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムが形成される。
次に、シリコン熱酸化膜上にITO電極を形成し、シリコン基板側にアルミニウム電極を形成し、EL実験に用いる発光素子を得た。作製した発光素子の外観写真を図3(a)に示す。
【0033】
この発光素子のITO電極とアルミニウム電極の間に交流電圧(正弦波、60Vp−p、1kHz)を印加したところ図3(b)及び(c)に示すような青色の発光が確認された。なお、図3(c)は、図3(b)の丸で囲った部分を抜き出して白黒反転させたものである。
また、交流電圧の代わりに30Vの直流電圧を印加したところ、交流電圧を印加した場合よりも発光が微弱であった。
【0034】
3−2.酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムと発光との関係
以下に示す方法によって、酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムが本発明の発光素子の発光に関与していることを確認した。
【0035】
まず、発光機構について2つの仮説を考えた。第1の仮説は、Geナノ粒子が量子サイズ効果によって発光が起こっているというものである。この発光機構は、通常のナノ粒子の発光機構と同じであり、発光波長が粒子サイズに依存する。第2の仮説は、図4に示すような酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムが発光に関与するというものである。酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムの励起状態と基底状態のエネルギー準位差は、2.9〜3.2eV(387〜427nm)であるので(L. Skuja, J. Non-Cryst. Solids, 239 (1998) 16-48.を参照)、第2の仮説によれば、発光波長は、387〜427nm程度になり、この波長は粒子サイズに依存しないと考えられる。
【0036】
これらの仮説のどちらが正しいのかを検証するために、互いに異なる種々の温度条件と注入条件で発光素子を作製し、この素子に5keVの電子線を照射したときのCL波長を測定した。CL波長の測定には、「gatan製MonoCL3+」を用いた。発光素子の作製方法は、熱処理温度やGe注入量を適宜変化させた以外は「3−1.EL実験」で説明した通りである。
得られた結果を図5(a),(b)に示す。図5(a)中の温度は、熱処理温度(時間は1時間)を示す。図5(b)中の「原子%」は、Ge注入後のシリコン熱酸化膜内でのGe濃度を示す。このGe濃度は、「KOBELCO製HRBS500」を用いてラザフォード後方散乱法によって測定した。具体的には、450keVでHeイオンビームを照射し、反跳粒子を磁場型エネルギー分析器を用いて分析した。シリコン酸化膜中のゲルマニウム原子の深さ分布をシリコン酸化膜中のシリコン原子からの散乱を基準して求めることができる。本実施例ではシリコン酸化膜とシリコンの密度を2.2と2.33g/cm3として計算した。図5(a)でのGe濃度は0.5原子%であり、図5(b)での熱処理温度は800℃(時間は1時間)である。
【0037】
図5(a),(b)を参照すると、熱処理温度やGe濃度が変わってもCLのピーク波長は、ほぼ390nmで一定であることが分かる。熱処理温度やGe濃度が変わると、形成されるナノ粒子のサイズも変化するので、発光機構が第1の仮説に従うのであればCLのピーク波長がずれるはずである。従って、図5(a),(b)で確認されたCLの波長は、第1の仮説では説明ができない。一方、波長390nmは、第2の仮説で予測された発光波長(387〜427nm)の範囲内である。
【0038】
以上より、本発明の発光素子からのCL波長は、第1の仮説では説明できず、第2の仮説で説明できることが分かる。従って、本発明の発光素子の発光には、酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムが関与していることが確認できた。
【0039】
ところで、図5(a)を参照すると、熱処理温度は、700〜900℃が好ましく、700〜800℃がさらに好ましいことが分かる。また、図5(b)を参照すると、Ge濃度は、0.1〜1.4原子%が好ましく、0.5〜1.0原子%がさらに好ましいことが分かる。
【0040】
3−3.Ge,GeO,GeO2の割合の深さ方向分布
「3−1.EL実験」で説明した方法に従って発光素子を作製し、シリコン熱酸化膜内でのGe,GeO,GeO2の割合の深さ方向分布を調べた。ここで作製した発光素子のGe濃度は5原子%であり、熱処理温度は800℃(時間は1時間)である。
XPSは通常試料表面から深さ数nmの範囲の分析ができるので、アルゴンイオンビームによるエッチングとXPS測定を交互に行うことによって、深さ50nmまでの領域においてGe,GeO,GeO2の割合の深さ方向の変化を調べた。アルゴンイオンビームのエネルギーは4kV,ビーム電流は15mAで、1回当り300秒照射した。その時のXPS測定結果を各深さについて、分かり易いように縦方向にグラフを平行移動して並べたものを図6(a)に示す。また、各深さに含まれるGe原子の状態を、Ge(金属Ge),GeO(酸素欠損を有する酸化Ge),GeO2(完全酸化Ge)の割合で示したグラフを図6(b)に示す。これによると、「3−1.EL実験」で説明した注入方法でGeの注入濃度が比較的高い深さ10〜50nmの領域では、酸化されていないGeの割合は30〜70%である。GeO2は0〜20%の間で、およそ10%である。Geが完全に酸化されず一部酸化したGeOは10〜50%の間である。各深さでのGe,GeO,GeO2の割合は、スペクトルのGeの3dピーク付近のXPSスペクトルにおいて、Geに起因するピークの面積SGeと、GeOに起因するピークの面積SGeOと、GeO2に起因するピークの面積SGeO2とを求め、(SG,SGeO,SGeO2)/(SG+SGeO+SGeO2)を各深さで算出することによって求めた。また、各深さでの、酸化ゲルマニウム全体(GeO2+GeO)に対するGeO,GeO2の割合を図7のグラフに示す。これによると、酸化ゲルマニウムの内、完全に酸化されてGeO2となっている割合は、ゲルマニウムの濃度が低く、雰囲気の影響を強く受けてゲルマニウムが完全に酸化されやすい表面近傍を除いて、およそ20〜60%の間で、Geが完全に酸化されず一部酸化したGeOはおよそ40〜80%の間である。「3−1.EL実験」で説明した注入方法でGeの注入濃度が比較的高い深さ10〜40nmの領域では、酸化ゲルマニウムの内、完全に酸化されてGeO2となっている割合はおよそ50%以下で、およそ20〜30%である。Geが完全に酸化されず一部酸化したGeOはおよそ50%以上で70〜80%である。各深さでのGeO,GeO2の割合は、スペクトルのGeの3dピーク付近のXPSスペクトルにおいて、GeOに起因するピークの面積SGeOと、GeO2に起因するピークの面積SGeO2とを求め、(SGeO,SGeO2)/(SGeO+SGeO2)を各深さで算出することによって求めた。XPSスペクトルは、X線源として単色化したAl Kα線(1486.6eV)を用いて測定した。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態の発光素子の構造を示す断面図である。
【図2】ガウスフィッティングを説明するためのXPSスペクトルの一例である。
【図3】図3(a)は、本発明の効果実証実験でEL測定のために作製した発光素子の外観写真である。図3(b)は、発光素子が青色発光している状態を示す写真であり、図3(c)は、図3(b)の丸で囲った部分を抜き出して白黒反転させたものである。
【図4】本発明の効果実証実験の第2の仮説を説明するために、酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムの化学式を示す。
【図5】図5(a)は、本発明の効果実証実験に係る、種々の温度で熱処理を行って作製した発光素子についてのCL波長測定結果を示す。図5(b)は、本発明の効果実証実験に係る、種々のGe濃度の発光素子についてのCL波長測定結果を示す。
【図6】図6(a)は、本発明の効果実証実験に係る、種々の深さで測定したXPSスペクトルを示す。図6(b)は、本発明の効果実証実験に係る、種々の深さでのGe,GeO,GeO2の割合を示すグラフである。
【図7】本発明の効果実証実験に係る、種々の深さでの、酸化ゲルマニウム全体(GeO2+GeO)に対するGeO,GeO2の割合を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
1:第1電極 3:第2電極 5:ゲルマニウム微粒子 7:担持体 9:基板 10:発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、第2電極と、第1及び第2電極間に設けられゲルマニウム微粒子を含む担持体を備え、
前記ゲルマニウム微粒子は、酸化ゲルマニウムを含み、前記酸化ゲルマニウムは、少なくとも一部が酸素欠損を有し、前記担持体に対して電子線を5keVで照射した際のカソードルミネッセンスの波長のピークが340〜440nmの範囲内であることを特徴とする発光素子。
【請求項2】
酸化ゲルマニウム全体に対する酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムの割合の最大値は、0.1以上である請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記ゲルマニウム微粒子は、中心部がゲルマニウムからなり、
酸素欠損を有する酸化ゲルマニウムは、前記中心部の周囲に配置されている請求項1又は2に記載の素子。
【請求項4】
前記ゲルマニウム微粒子の最大粒径は、1〜20nmである請求項1〜3の何れか1つに記載の素子。
【請求項5】
前記担持体は、波長300〜500nmの光の透過率が80%以上である請求項1〜4の何れか1つに記載の素子。
【請求項6】
前記担持体は、絶縁体からなる請求項1〜5の何れか1つに記載の素子。
【請求項7】
前記担持体は、酸化シリコン、窒化シリコン又は酸窒化シリコンからなる請求項1〜6の何れか1つに記載の素子。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1つに記載の発光素子を備えたディスプレイ。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか1つに記載の発光素子の使用方法であって、
第1及び第2電極間に交流電圧を印加することを特徴とする発光素子の使用方法。
【請求項10】
請求項1に記載の発光素子の製造方法であって
前記ゲルマニウム微粒子は、前記担持体中のゲルマニウム濃度が0.1〜1.4原子%になるようにゲルマニウムをイオン注入し、その後熱処理を施すことによって形成される発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−33908(P2010−33908A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195249(P2008−195249)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】