説明

発光装置及びその製造方法、並びに、光書き込みヘッド、電気光学装置、及び画像形成装置

【課題】 ほぼ均一な膜厚の発光層を備える発光装置及びその製造方法、並びに、当該発光装置を備える光書き込みヘッド、電気光学装置、及び画像形成装置を提供する。
【解決手段】 発光素子アレイ22は、画素電極27、発光層28、及び陰極29を含んでなる複数の有機EL素子24を備えており、これら有機EL素子24はバンク25によって囲まれている。有機EL素子24は、長手方向であるY方向についてバンク25をなす撥液性バンク25bと少なくとも200μm離間して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置及びその製造方法、並びに、光書き込みヘッド、電気光学装置、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発光素子として有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)を使用したディスプレイ又はプリンタの光書き込みヘッド等の開発が盛んに行われている。この種のデバイスは、有機EL素子を構成する発光材料(以下、有機EL材料という)が高分子系有機材料であるか又は低分子系有機材料であるかによってその製造方法が異なる。
【0003】
有機EL材料が高分子系有機材料である場合には、所謂液滴吐出法を用いて製造することが知られている。この液滴吐出法とは、有機EL材料を所定の溶媒に溶解又は分散させて液状組成物を形成し、この液状組成物を液滴吐出ヘッドのノズルから吐出して基板の所定の画素電極上に塗布する製造方法である。かかる製造方法においては、画素電極の周囲をバンクで区画することで、塗布された液状組成物が他の位置にある画素電極上に塗布された液状組成物と混ざり合うのを抑制することで、高精細なパターニングを可能としている。
【0004】
ところで、上記の液滴吐出法では、画素電極上に塗布された液状組成物の溶媒の蒸発は極めて速い。とりわけ、基板の外周付近に塗布された液状組成物は、基板の中央部に塗布された液状組成物よりも溶媒分子分圧が低いために速く乾き始める。このため、基板の外周付近に塗布された液状組成物と基板の中央部に塗布された液状組成物とでは、その乾燥時間に差が生ずる。このような液状組成物の乾燥時間の差があると、画素内、画素間における有機EL素子の各層の膜厚ムラが生じ、輝度ムラ等の表示ムラの原因となってしまう。
【0005】
以下の特許文献1には、基板上の外周に表示には関係のないダミーの塗布領域を設けることで塗布領域を広げ、基板内の溶媒分子分圧を均一にすることで、有機EL素子の膜厚ムラを防止する技術が提案されている。
【特許文献1】特開2002−222695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述したプリンタの光書き込みヘッドは、複数の有機EL素子が1つのバンクに囲まれた構造を有する。かかる構造の有機EL素子は上述した方法と同様の方法により製造される。つまり、液滴吐出法を用いてバンクによって区画された領域に液状組成物を配置し、この液状組成物を乾燥することにより製造される。しかしながら、プリンタの光書き込みヘッドは複数の有機EL素子を所定の方向に沿って配列した構造であるため、バンクによって区画される領域は有機EL素子の配列方向が長手方向とされた細長形状であり、長手方向の長さと短手方向(長手方向と交差する方向)の長さとが大きく異なる。
【0007】
このため、長手方向における液状組成物の乾燥速度と短手方向における液状組成物の乾燥速度が大きく異なり、長手方向における端部から乾燥が進む。この結果、長手方向に対して形成された有機EL素子の膜厚が分布を持ち、例えば長手方向の端部のみ膜厚が厚くなり、輝度ムラ等が生ずるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ほぼ均一な膜厚の発光層を備える発光装置及びその製造方法、並びに、当該発光装置を備える光書き込みヘッド、電気光学装置、及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の発光装置は、複数の発光素子が隔壁によって囲まれてなる発光装置において、前記隔壁が前記発光素子を囲む領域は長手方向と短手方向とを有する矩形形状であり、前記長手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離は、前記短手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離よりも大であることを特徴としている。
この発明によると、発光素子は隔壁によって形成される長手方向と短手方向とを有する矩形形状の領域に配置されており、長手方向における隔壁と発光素子との距離が短手方向における隔壁と発光素子との距離よりも大に設定されている。このため、例えば液滴吐出法によって発光素子を構成する発光層を形成する場合に、吐出された液状組成物の乾燥速度が短手方向よりも長手方向の方が速くても、発光素子が形成されている部分においてはほぼ同程度にすることができる。この結果、発光素子が囲まれている領域における長手方向の端部では発光層の膜厚が厚くなっていても、発光素子が形成されている部分においてはほぼ均一にすることができる。この結果として、輝度ムラ等が生じない発光装置を提供することができる。
また、本発明の発光装置は、前記長手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離が、少なくとも200μmに設定されていることを特徴としている。
ここで、長手方向における隔壁と発光素子との距離を200μmよりも短くすると発光素子に形成される発光層の膜厚が厚くなる傾向がある。このため、長手方向における隔壁と発光素子との距離を200μm以上に設定すると、発光素子に形成される発光層の膜厚をほぼ均一にする上で好適である。尚、隔壁と発光素子との距離が200μm以上であればその距離に制限はないが、この距離を余りにも大きくしてしまうと、発光装置の大型化を招くとともに、発光に寄与しない不要な部分の増大によりコスト上昇を招いてしまう。このため、隔壁から発光素子までの距離が極端に大きくするのは避けた方が望ましい。
また、本発明の発光装置は、前記発光素子と前記隔壁との間に親液性を有する絶縁体が形成されてなることを特徴としている。
この発明によると、発光素子と隔壁層との間に親液性を有する絶縁体が形成されているため、例えば液滴吐出法によって発光素子を構成する発光層を形成する場合に、吐出された液状組成物を、隔壁に囲まれた領域の中心から隔壁に至るまで広がらせることができる。これによって、隔壁に囲まれた領域の発光素子が形成される領域において溶媒分子分圧をほぼ均一にすることができ、膜厚がほぼ均一な発光層を形成する上で好適である。
また、本発明の発光装置は、前記発光素子が、有機材料で構成された発光層をそれぞれ備えていることを特徴としている。
また、本発明の発光装置は、前記発光素子が、前記隔壁によって囲まれた領域内で、千鳥格子状に配置されていることを特徴としている。
この発明によると、発光素子を千鳥格子状に形成しているため、発光素子を高密度に形成することができる。この結果として、輝度の高い発光素子を得ることができる。
上記課題を解決するために、本発明の発光装置の製造方法は、基板上に複数の発光素子が形成された発光装置の製造方法において、長手方向と短手方向とを有する矩形形状の領域に前記複数の発光素子全体を共通して囲むとともに、前記長手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離を前記短手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離よりも大となるように隔壁を形成する隔壁形成工程と、前記隔壁によって区画された領域に、前記発光素子の少なくとも一部を構成する発光層を形成する素子形成工程とを含むことを特徴としている。
この発明によると、隔壁を形成することにより、発光素子を囲むための長手方向と短手方向とを有する矩形形状の領域であって、長手方向における隔壁と発光素子との距離が短手方向における隔壁と発光素子との距離よりも大に設定された領域が形成され、この隔壁によって区画された領域に発光素子の少なくとも一部を構成する発光層が形成される。このため、例えば液滴吐出法によって発光素子を構成する発光層を形成する場合に、吐出された液状組成物の乾燥速度が短手方向よりも長手方向の方が速くても、発光素子が形成されている部分においてはほぼ同程度にすることができる。この結果、発光素子が囲まれている領域における長手方向の端部では発光層の膜厚が厚くなっていても、発光素子が形成されている部分においてはほぼ均一にすることができる。この結果として、輝度ムラ等が生じない発光装置を提供することができる。
また、本発明の発光装置の製造方法は、前記隔壁形成工程が、前記長手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離が少なくとも200μmとなるよう前記隔壁を形成する工程であることを特徴としている。
ここで、長手方向における隔壁と発光素子との距離を200μmよりも短くすると発光素子に形成される発光層の膜厚が厚くなる傾向がある。このため、長手方向における隔壁と発光素子との距離を200μm以上に設定すると、発光素子に形成される発光層の膜厚をほぼ均一にする上で好適である。尚、隔壁と発光素子との距離が200μm以上であればその距離に制限はないが、この距離を余りにも大きくしてしまうと、発光装置の大型化を招くとともに、発光に寄与しない不要な部分の増大によりコスト上昇を招いてしまう。このため、隔壁から発光素子までの距離が極端に大きくするのは避けた方が望ましい。
また、本発明の発光装置の製造方法は、前記発光素子と前記隔壁との間に親液性を有する絶縁体を形成する絶縁体形成工程を含むことを特徴としている。
この発明によると、発光素子と隔壁層との間に親液性を有する絶縁体を形成しているため、例えば液滴吐出法によって発光素子を構成する発光層を形成する場合に、吐出された液状組成物を、隔壁に囲まれた領域の中心から隔壁に至るまで広がらせることができる。これによって、隔壁に囲まれた領域の発光素子が形成される領域において溶媒分子分圧をほぼ均一にすることができ、膜厚がほぼ均一な発光層を形成する上で好適である。
また、本発明の発光装置の製造方法は、前記絶縁体形成工程が、前記隔壁形成工程の前に行われることが望ましい。
更に、本発明の発光装置の製造方法は、前記素子形成工程が、前記発光層を液体プロセスで形成する工程であることを特徴としている。
この発明によると、発光素子の形成時においては、発光素子を構成する材料(例えば、発光素子の発光層を構成する発光材料)を含んだ液状組成物が、隔壁で区画された領域内に塗布される。
本発明の光書き込みヘッドは、上記の何れかに記載の発光装置、又は、上記の何れかに記載の発光装置の製造方法により製造された発光装置を備えることを特徴としている。
この発明によると、輝度ムラ等が生じない発光装置を備えているため、輝度ムラ等の表示ムラのない高解像度な描画を行うことができる。
本発明の電気光学装置は、上記の何れかに記載の発光装置、又は、上記の何れかに記載の発光装置の製造方法により製造された発光装置を備えることを特徴としている。
この発明によると、輝度ムラ等が生じない発光装置を備えているため、輝度ムラ等の表示ムラのない電気光学装置を提供することができる。
本発明の画像形成装置は、上記の何れかに記載の発光装置、又は、上記の何れかに記載の発光装置の製造方法により製造された発光装置を備えることを特徴としている。
この発明によると、輝度ムラ等が生じない発光装置を備えているため、輝度ムラ等に起因する階調ムラのない正確な画像を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による発光装置及びその製造方法、並びに、光書き込みヘッド、電気光学装置、及び画像形成装置について詳細に説明する。尚、以下に説明する実施形態は、本発明の一部の態様を示すものであり、本発明を限定するものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0011】
〔画像形成装置〕
図1は、本発明の一実施形態による画像形成装置としての光プリンタの要部を示す断面図である。図1に示す光プリンタ1は、フルカラー表示が可能なタンデム方式の光プリンタである。図1に示す通り、光プリンタ1は、光書き込みヘッドとしてのブラック用有機EL露光ヘッド2K、シアン用有機EL露光ヘッド2C、マゼンダ用有機EL露光ヘッド2M、及びイエロ用有機EL露光ヘッド2Yを備えている。
【0012】
また、光プリンタ1は、各露光ヘッド2K,2C,2M,2Yの下方に、ブラック用感光ドラム3K、シアン用感光ドラム3C、マゼンダ用感光ドラム3M、イエロ用感光ドラム3Yをそれぞれ備えている。更に、光プリンタ1は、駆動ローラ4、従動ローラ5、テンションローラ6、及びテンションローラ6によりテンションを加えられて張架されながら図1中反時計周り方向へ循環駆動される中間転写ベルト7を備える。
【0013】
上記の各感光ドラム3K,3C,3M,3Yは、中間転写ベルト7に対して所定間隔に配置されている。各感光ドラム3K,3C,3M,3Yは、中間転写ベルト7の駆動と同期して図1中時計周り方向へ回転駆動されるようになっている。そして、各露光ヘッド2K,2C,2M,2Yは、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの外周面を各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの回転に同期して順次ライン走査することで、描画データに応じた静電潜像を対応する感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に形成する。また、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの周囲には、感光ドラム3K,3C,3M,3Yの各外周面を一様に帯電させるコロナ帯電器8K,8C,8M,8Yが設けられている。
【0014】
また、光プリンタ1は、ブラック用感光ドラム3Kの周囲にブラック用現像装置9Kを、シアン用感光ドラム3Cの周囲にシアン用現像装置9Cを、マゼンダ用感光ドラム3Mの周囲にマゼンダ用現像装置9Mを、イエロ用感光ドラム3Yの周囲にイエロ用現像装置9Yをそれぞれ備えている。これら各現像装置9K,9C,9M,9Yは、対応する有機EL露光ヘッド2K,2C,2M,2Yによって各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に形成された静電潜像に対応する色の現像剤であるトナーを付与して可視像(トナー像)を形成するものである。例えば、シアン用現像装置9Cは、シアン用有機EL露光ヘッド2Cによってシアン用感光ドラム3C上に形成された静電潜像にシアン色のトナーを付与して可視像(トナー像)を形成する。
【0015】
詳しくは、各現像装置9K,9C,9Yは、例えば、トナーとして非磁性一成分トナーを用いるもので、その一成分現像剤を、例えば供給ローラで現像ローラへ搬送し、現像ローラ表面に付着したトナーの膜厚を規制ブレードで規制する。この規制により、現像ローラを各感光ドラム3K,3C,3M,3Yに接触或いは押圧させることにより、各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に形成された静電潜像の電位レベルに応じて現像剤を付着させて可視像(トナー像)として現像する。
【0016】
更に、光プリンタ1は、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの周囲に、各現像装置9K,9C,9Yで現像された可視像(トナー像)を一次転写対象である中間転写ベルト7に順次転写する一次転写ローラ10K,10C,10M,10Yを備えている。更にまた、光プリンタ1は、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの周囲に、クリーニング装置11K,11C,11M,11Yを備えている。クリーニング装置11K,11C,11M,11Yは、一次転写の後に、各感光ドラム3K,3C,3M,3Yの表面に残留しているトナーを除去するためのものである。
【0017】
このような各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に形成されたブラック,シアン,マゼンタ,イエロの各可視像(トナー像)は、一次転写ローラ10K,10C,10M,10Yによって中間転写ベルト7上に順次一次転写される。この一次転写により中間転写ベルト7上で順次重ね合わされてフルカラーとなった可視像(トナー像)は、二次転写ローラ18によって用紙等の記録媒体P上に二次転写され、一対の定着ローラ12を通ることで記録媒体P上に定着される。可視像(トナー像)が定着した記録媒体Pは、排紙ローラ13によって案内されて光プリンタ1の上部に形成された排紙トレイ14上へ排出される。
【0018】
また、光プリンタ1は、多数枚の記録媒体Pを保持する給紙カセット15、給紙カセット15から記録媒体Pを一枚ずつ給送するピックアップローラ16、二次転写ローラ18の二次転写部への記録媒体Pの供給タイミングを規定するゲートローラ17を備えている。更に、光プリンタ1は、中間転写ベルト7とで二次転写部を形成する二次転写ローラ18、及び二次転写後に中間転写ベルト7の表面に残留しているトナーを除去するクリーニングブレード19を備えている。
【0019】
次に、有機EL露光ヘッド2K,2C,2M,2Yの詳細について説明する。尚、ブラック用有機EL露光ヘッド2K、シアン用有機EL露光ヘッド2C、マゼンダ用有機EL露光ヘッド2M、及びイエロ用有機EL露光ヘッド2Yは、全て同じ構造をしているので、説明の便宜上、ブラック用有機EL露光ヘッド2Kについて説明し、他の有機EL露光ヘッド2C,2M,2Yについては、その詳細な説明を省略する。
【0020】
図2は、ブラック用有機EL露光ヘッド2Kの斜視図である。ブラック用有機EL露光ヘッド2Kは、一方向、即ち中間転写ベルト7の搬送方向に対して直交する方向に配設された箱体21と、箱体21とブラック用感光ドラム3Kとの間に位置するように箱体21に支持固定された光学部材23とを備えている。箱体21は、ブラック用感光ドラム3K側に開口部を有しており、その開口部に向かって光が射出するように発光素子アレイ22を固定している。次に、発光装置としての発光素子アレイ22について説明する。
【0021】
〔発光装置〕
図3は、発光装置としての発光素子アレイ22を示す図であって、(a)は発光素子アレイ22の上面図であり、(b)は(a)中のA−A線断面図であり、(c)は(a)中のB−B線断面図である。図3(a)に示す通り、発光素子アレイ22は、基板S上に発光素子としての有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)24を複数個配列した構成である。本実施形態の発光素子アレイ22は、図中のY方向(長手方向)一列に等ピッチに配列された複数個(図3に示す例では7個)の有機EL素子24がX方向(短手方向)に2列配列されている。そして、各有機EL素子24は、隣接する他の列の有機EL素子24とX方向に半ピッチだけずれるようにして配置されている。つまり、各有機EL素子24は、千鳥格子状に配列されている。尚、図3においては図示を簡略化しているが、実際には有機EL素子24はY方向に数十〜百数十個程度配列される。この有機EL素子24の直径は40μm程度である。
【0022】
基板S上にはITO(インジウム錫酸化物)等の透光性導電材料により形成される電極層Dが形成されており、この電極層Dの上部であって、複数の有機EL素子24の周囲には、その複数の有機EL素子24全体を囲むように隔壁としてのバンク25が形成されている。本実施形態におけるバンク25(撥液性バンク25b)は、図3(a)に示す通り、複数の有機EL素子24全体を囲むように矩形形状を成している。また、バンク25は、X方向については全ての有機EL素子24から少なくとも3μm離間するように形成され、Y方向については全ての有機EL素子24から少なくとも200μn離間するように形成されている。これは有機EL素子24の一部をなす発光層28(詳細は後述する)の膜厚を、全ての有機EL素子24でほぼ均一にするためである。尚、バンク25によって囲まれる領域のX方向の長さは200μm程度であり、Y方向の長さは170mm程度である。
【0023】
ここで、有機EL素子24とバンク25とのY方向の距離を200μmよりも短い距離にすると発光層28の膜厚ムラが大きくなってしまうため、有機EL素子24とバンク25とのY方向の距離は少なくとも200μmに設定される。一方、バンク25と有機EL素子24との距離が200μm以上であればその距離に制限はないが、この距離を余りにも大きくしてしまうと、発光素子アレイ22の大型化を招くとともに、発光に寄与しない不要な部分の増大によりコスト上昇を招いてしまうため、有機EL素子24とバンク25との距離は200μm程度にするのが望ましい。
【0024】
図3(b)に示す通り、バンク25は、電極層D上に形成された親液性を有する絶縁体としての親液性バンク25aと、親液性バンク25a上に形成された撥液性バンク25bとから構成されている。親液性バンク25aの一部は、撥液性バンク25bより基板S中央側に張り出すようにして形成されている。親液性バンク25aは、元来、親液性を備えた材料であって、例えば、酸化珪素(SiO)で構成される。尚、親液性を備えていないものであって、通常用いられる公知の親液化処理を施すことで表面を親液化したものであってもよい。一方、撥液性バンク25bは、元来、撥液性を備えた材料、例えば、フッ素系樹脂で構成されたものであってもよい。また、撥液性を備えていないものであって、通常用いられるアクリル樹脂やポリイミド樹脂等の有機樹脂をパターン形成し、CFプラズマ処理等により表面を撥液化したものであってもよい。
【0025】
また、図3(a)に示す通り、バンク25によって基板Sの中央には有機EL素子24が配列される凹状領域26が形成されている。凹状領域26の底部であって、親液性バンク25aの開口が形成された部分の電極層Dは画素電極27とされている。本実施形態の画素電極27は平面形状が円形形状である。また、本実施形態の画素電極27は、Y方向一列に等ピッチに配列された複数個(図3に示す例では7個)形成されるとともに、X方向に2列配列されている。そして、各画素電極27は、隣接する他の列の画素電極27とY方向に半ピッチだけずれるようにして配置されている。各画素電極27は、それぞれに独立した配線を介して図示しないデータ信号出力駆動回路に接続されている。このデータ信号出力駆動回路から出力された描画データ信号は画素電極27に供給される。
【0026】
また、凹状領域26の底部には、その全面を覆うようにして発光層28が形成されている。これにより、各画素電極27上にも発光層28が積層される。また、撥液性バンク25b及び発光層28上全面に渡って陰極29が形成されている。この陰極29は、データ信号出力駆動回路に接続されている。更に、陰極29上の全面には、封止部材30が形成されている。そして、前述した画素電極27と、画素電極27と相対して形成した陰極29と、画素電極27と陰極29との間に形成した発光層28とで有機EL素子24が構成される。
【0027】
図4は、ブラック用有機EL露光ヘッド2Kの側断面図である。図4に示す通り、ブラック用有機EL露光ヘッド2Kに設けられる光学部材23は、発光素子アレイ22と対向する位置に備えられている。この光学部材23は、内部に複数のレンズ31を備えており、有機EL素子24から射出された光を集光してブラック用感光ドラム3Kに照射(描画)する。
【0028】
他の有機EL露光ヘッド2C,2M,2Yも同様に、その各発光素子アレイに設けられた有機EL素子の発光層の膜厚は、均一になっている。また、他の有機EL露光ヘッド2C,2M,2Yは、その光学部材23の他端から対応する各感光ドラム3C,3M,3Yに向かって射出される。そして、各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上の電位レベルが射出された光に応じて変化することでトナーの付着力が制御されて各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に描画データ信号に基づいた可視像(トナー像)が現像される。このとき、各有機EL露光ヘッド2K,2C,2M,2Yに設けられた各有機EL素子24の発光層28の膜厚はほぼ均一であるため、各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に現像される可視像(トナー像)は、輝度ムラ等の表示ムラの無い可視像(トナー像)である。
【0029】
〔発光装置の製造方法〕
次に、本発明の一実施形態による発光装置の製造方法について説明する。図5は、本発明の一実施形態による発光装置の製造方法を示す工程図である。尚、ブラック用有機EL露光ヘッド2K、シアン用有機EL露光ヘッド2C、マゼンダ用有機EL露光ヘッド2M、及びイエロ用有機EL露光ヘッド2Yに設けられる発光装置としての発光アレイ22は、全て同じ方法によって製造される。従って、以下の説明では、便宜上ブラック用有機EL露光ヘッド2Kに設けられる発光装置としての発光アレイ22の製造方法のみを説明し、他の有機EL露光ヘッド2C,2M,2Yについては、その詳細な説明を省略する。
【0030】
まず、基板S上に公知の方法によって電極層Dを形成し、次いで電極層D上に公知の方法によってSiO等からなる絶縁層を形成する。ここで、基板Sは、例えばガラス、石英ガラス、Siウェハ、プラスチックフィルム、金属板等である。尚、これら各種の素材基板の表面に半導体膜、金属膜、誘電体膜、有機膜等を下地層として形成したものされたものであってもよい。
【0031】
次に、基板S上の絶縁層をパターニングして親液性バンク25aを形成する(絶縁体形成工程)。その後、形成した親液性バンク25a上に、親液性バンク25aの一部が基板S中央側に張り出すようにフッ素系樹脂を、例えば高さが1〜2μm程度になるようにパターニングして撥液性バンク25bを形成する。このとき、図3(a)に示す通り、有機EL素子24を取り囲む矩形形状の領域の長手方向がY方向に、短手方向がX方向になるよう撥液性バンク25bを形成する。また、X方向については撥液性バンク25bが全ての有機EL素子24から少なくとも3μm離間し、Y方向については撥液性バンク25bが全ての有機EL素子24から少なくとも200μm離間するよう撥液性バンク25bを形成する。これにより、基板S上には、複数個の画素電極27の周囲に複数の画素電極27全体を囲むようにバンク25が形成される(隔壁形成工程)。この結果、画素電極27が形成された基板S中央には凹状領域26が形成される。
【0032】
ここで、撥液性バンク25bの形成材料としては、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、オレフィン樹脂、メラミン樹脂等の高分子材料、ポリシラザン、ポリシロキサン等を含有した有機・無機ハイブリッド材料等が用いられる。バンクBの形成方法としては、リソグラフィ法や印刷法等、任意の方法を用いることができる。例えば、リソグラフィ法を使用する場合は、スピンコート、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、ディップコート等所定の方法で、基板S上に撥液性バンク25bの形成材料からなる層を形成した後、エッチングやアッシング等によりパターニングすることにより、所定のパターン形状のバンクが得られる。尚、基板Sとは別の物体上で撥液性バンク25bを形成し、それを基板S上に配置してもよい。
【0033】
続いて、凹状領域26内に発光層28を液体プロセスとしての液滴吐出法によって形成する(素子形成工程)。即ち、図5(b)に示す通り、発光層28を構成する組成物としての発光材料を所定の溶媒に溶解又は分散させて形成された液状組成物Lを吐出ヘッド40のノズルNから吐出させる。このとき、吐出ヘッド40に設けられたガイドレール41に沿って吐出ヘッド40を基板Sに対して相対移動させながら液状組成物Lを順次吐出することで凹状領域26内に複数回液状組成物Lを吐出する。これにより、凹状領域26内全面に液状組成物Lを塗布させる。
【0034】
ここで、液状組成物Lは、導電性微粒子を溶媒に分散させた分散液や有機銀化合物や酸化銀ナノ粒子を溶媒に分散させた溶液からなるものである。導電性微粒子としては、例えば、金、銀、銅、パラジウム、及びニッケルのうちの何れかを含有する金属微粒子の他、これらの酸化物、並びに有機銀化合物や導電性ポリマーや超電導体の微粒子等を用いることができる。これらの導電性微粒子は、分散性を向上させるために表面に有機物などをコーティングして使うこともできる。導電性微粒子の粒径は1nm以上0.1μm以下であることが好ましい。0.1μmより大きいと、後述する液体吐出ヘッドのノズルに目詰まりが生じるおそれがある。また、1nmより小さいと、導電性微粒子に対するコーティング剤の体積比が大きくなり、得られる膜中の有機物の割合が過多となる。
【0035】
また、発光層の形成材料としては、蛍光或いは燐光を発光することが可能な公知の高分子発光材料である、ポリフルオレン誘導体(PF)、ポリパラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリジアルキルフルオレン(PDAF)、ポリフルオレンベンゾチアジアゾール(PFBT)、ポリアルキルチオフェン(PAT)や、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)等のポリシラン系などを好適に用いることができる。また、これらの発光材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0036】
液状組成物Lに含まれる溶媒としては、発光層28を得るための溶質を分散できるもので、凝集を起こさないものであれば特に限定されない。例えば、水の他に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、n−ヘプタン、n−オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼン等の炭化水素系化合物、またエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、p−ジオキサン等のエーテル系化合物、更にプロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン等の極性化合物を例示できる。
【0037】
また、上記の液状組成物Lの表面張力は0.02N/m以上0.07N/m以下の範囲内であることが好ましい。液滴吐出法にて液体を吐出する際、表面張力が0.02N/m未満であると、インク組成物のノズル面に対する濡れ性が増大するため飛行曲りが生じやすくなり、0.07N/mを超えるとノズル先端でのメニスカスの形状が安定しないため吐出量や、吐出タイミングの制御が困難になる。表面張力を調整するため、液状組成物Lには、基板との接触角を大きく低下させない範囲で、フッ素系、シリコーン系、ノニオン系等の表面張力調節剤を微量添加するとよい。ノニオン系表面張力調節剤は、液体の基板への濡れ性を向上させ、膜のレベリング性を改良し、膜の微細な凹凸の発生等の防止に役立つものである。上記表面張力調節剤は、必要に応じて、アルコール、エーテル、エステル、ケトン等の有機化合物を含んでもよい。
【0038】
また、上記分散液の粘度は1mPa・s以上50mPa・s以下であることが好ましい。液滴吐出法を用いて液状組成物を液滴として吐出する際、粘度が1mPa・sより小さい場合にはノズル周辺部がインクの流出により汚染されやすく、また粘度が50mPa・sより大きい場合は、ノズル孔での目詰まり頻度が高くなり円滑な液滴の吐出が困難となる。更に、液滴吐出法の吐出技術としては、帯電制御方式、加圧振動方式、電気機械変換式、電気熱変換方式、静電吸引方式等が挙げられる。
【0039】
ここで、帯電制御方式は、材料に帯電電極で電荷を付与し、偏向電極で材料の飛翔方向を制御してノズルから吐出させるものである。また、加圧振動方式は、材料に30kg/cm程度の超高圧を印加してノズル先端側に材料を吐出させるものであり、制御電圧をかけない場合には材料が直進してノズルから吐出され、制御電圧をかけると材料間に静電的な反発が起こり、材料が飛散してノズルから吐出されない。また、電気機械変換方式は、ピエゾ素子(圧電素子)がパルス的な電気信号を受けて変形する性質を利用したもので、ピエゾ素子が変形することによって材料を貯留した空間に可撓物質を介して圧力を与え、この空間から材料を押し出してノズルから吐出させるものである。
【0040】
電気熱変換方式は、材料を貯留した空間内に設けたヒータにより、材料を急激に気化させてバブル(泡)を発生させ、バブルの圧力によって空間内の材料を吐出させるものである。静電吸引方式は、材料を貯留した空間内に微小圧力を加え、ノズルに材料のメニスカスを形成し、この状態で静電引力を加えてから材料を引き出すものである。また、この他に、電場による流体の粘性変化を利用する方式や、放電火花で飛ばす方式等の技術も適用可能である。液滴吐出法は、材料の使用に無駄が少なく、しかも所望の位置に所望の量の材料を的確に配置できるという利点を有する。尚、液滴吐出法により吐出される液状材料(流動体)の一滴の量は、例えば1〜300ナノグラムである。
【0041】
次に、基板Sを、例えばホットプレート上に載置することによって加熱して液状組成物L中の溶媒を蒸発させ、凹状領域26上全面に発光層28を形成する(図5(c)参照)。ここで、溶媒の蒸発速度(乾燥速度)は、液状組成物Lの中央部よりも液状組成物Lの端部(特に、図3(a)に示すY方向における撥液性バンク25bの近傍)の方が速い。このため、液状組成物Lに含まれる溶質が±Y方向の撥液性バンク25bの近傍へよってしまい、最終的に形成される発光層28は、±Y方向の撥液性バンク25bの近傍において盛り上がった形状になってしまう。
【0042】
この盛り上がりは、本実施形態の製造方法を用いても解消することはできないが、本実施形態ではY方向における撥液性バンク25bと全ての有機EL素子24との距離を少なくとも200μmにしており、盛り上がり部分がY方向における撥液性バンク25bと全ての有機EL素子24との間に形成されるため、画素電極27上に形成される発光層28の膜厚はほぼ均一にすることができる。尚、液状組成物Lが塗布された基板Sを真空容器内に配置し、真空容器内を減圧して液状組成物Lに含まれる溶媒を減圧乾燥により除去してもよい。その後、バンク25及び発光層28上に、LiF層、Ca層、Al層等を蒸着方法等により積層して陰極29を形成する。続いて、陰極29全面に光透過性を有する、例えば樹脂等で構成された封止部材30を形成する(図5(d)参照)。
【0043】
図6は、有機EL素子24に形成された発光層28のバンク端部(Y方向における撥液性バンク25bの端部)からの膜厚分布の一例を示す図である。図6(a)では、異なる3つの条件(条件1、条件2、条件3)により乾燥させた場合の膜厚分布を示している。例えば、条件1で乾燥させた場合には、端部においては前述の通り溶質が盛り上がっているが、バンク端部から離れるに従って膜厚はある一定の値に近づく。一方、条件2で乾燥させた場合には、膜厚が一定の値になるのに必要な幅(バンク端部からの距離)は条件1で乾燥させた場合よりも長くなっている。
【0044】
図6(b)は、真空乾燥装置のメインバルブ開度を制御して乾燥条件を変えた場合において、発光層28の膜厚が一定の値になるバンク端部からの距離を示す図である。メインバルブ開度が大きい程、蒸発速度が速くなる。図6(b)から膜厚が一定の値になるのに必要な領域はメインバルブ開度によって変化し、最も幅が小さいものは約200μm程度である。即ち、バンク端部から少なくとも200μm程度離れていれば発光画素が形成される領域において膜厚が安定する条件を得ることが可能となる。
【0045】
有機EL素子24と撥液性バンク25bとのY方向の距離を200μm以上にし、条件1によって乾燥すると、この膜厚が厚くなる部分がその間隔を空けた部分に形成されるため、有機EL素子24の発光層28の膜厚に影響を与えない。このため、図6(a)に示す通り、近接する有機EL素子24に形成される発光層28の膜厚をほぼ均一に形成することができる。
【0046】
以上説明した通り、本実施形態においては、基板S上であって、複数個の有機EL素子24の画素電極27全てを囲む矩形形状の撥液性バンク25bを、長手方向(Y方向)について有機EL素子24の各々から少なくとも200μm以上離間するように形成した。また、撥液性バンク25bによって形成された基板S中央に形成された凹状領域26内全域に液状組成物Lを塗布して発光層28を形成した。このため、Y方向における撥液性バンク25bの近傍に形成される盛り上がり部分が、有機EL素子24の発光層28の膜厚に影響を与えることがなく、有機EL素子24の発光層28をほぼ均一にすることができる。この結果、バンク25内で形成された各有機EL素子24は、互いに輝度ムラ等の表示ムラの無い可視像(トナー像)を形成することができる。
【0047】
また、実施形態によれば、各有機EL露光ヘッド2K,2C,2M,2Yは、有機EL素子24を複数個備えた発光素子アレイ22と、発光素子アレイ22とに対向する位置に備えられた光学部材23とを備えている。そして、各有機EL素子24から射出した光は、光学部材23によって集光され、対応する各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に照射される。このとき、各有機EL素子24の発光層28は、均一な膜厚であるので、各感光ドラム3K,3C,3M,3Y上に現像されるトナー像は、輝度ムラ等の表示ムラの無い像となる。この結果、表示品位の優れた画像を印刷することのできる光プリンタ1を提供することができる。
【0048】
更に、本実施形態によれば、液滴吐出法によって凹状領域26内に発光層28を形成するようにした。液滴吐出法では、発光層28を構成する組成物としての発光材料を所定の溶媒に溶解又は分散させて形成された液状組成物Lを凹状領域26に吐出して、その後、乾燥することで発光層28を形成するので、凹状領域26の形状に関係なく、高精細なパターニングが可能となる。
【0049】
尚、以上説明した発光装置としての発光素子アレイ22は、図3に示す通り、Y方向一列に等ピッチに7個の有機EL素子24が形成され、横方向に2列配列されたものであったが、Y方向一列に形成される有機EL素子24の数、及びX方向の列の数は任意である。また、上記各実施形態において、有機EL素子24は、画素電極27、発光層28、及び陰極29で構成されていた。しかしながら、画素電極27、発光層28、及び陰極29以外に、例えば、画素電極27と発光層28との間に正孔輸送層を備えた構成にすることも可能である。かかる構成の場合には、正孔輸送層材料を溶媒に分散又は溶解して形成された液状組成物を凹状領域26内全面に塗布することで均一な膜厚を有する正孔輸送層を形成し、更に、その上に発光層28を形成するようにする。このようにすることで、正孔輸送層及び発光層28の各膜厚を均一にすることができる。
【0050】
また、上記実施形態では、液体プロセスとして液滴吐出法を使用して発光層28を形成するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、発光材料を含んだ液状組成物Lをディスペンサーを使用して凹状領域26内全面に塗布するようにしてもよい。また、上記実施形態では、画素電極27は、円形形状を成していたが、例えば略四角形状であってもよい。更に、上記実施形態では、発光素子として有機EL素子を使用したが、これに限定されるものではない。
【0051】
尚、以上説明した実施形態では、光書き込みヘッドとしてのブラック用有機EL露光ヘッド2K、シアン用有機EL露光ヘッド2C、マゼンダ用有機EL露光ヘッド2M、及びイエロ用有機EL露光ヘッド2Yを備えた画像形成装置としての光プリンタ1について説明したが、本発明の発光装置は電気光学装置にも用いることができる。ここで、電気光学装置とは、液晶表示装置(LCD)、有機EL装置(OLED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、FED(Field Emission Display)等を総称したものである。次に、電気光学装置について、有機EL装置を例に挙げて説明する。
【0052】
〔電気光学装置〕
図7は、電気光学装置の一種としての有機EL装置の配線構造を示す模式図である。図7に示す有機EL装置100は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)を用いたアクティブマトリクス方式のものであり、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とからなる配線構成を有し、走査線101と信号線102との各交点付近に画素領域Xを形成したものである。信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン、及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路104が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路105が接続されている。
【0053】
画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT111と、このスイッチング用TFT111を介して信号線102から供給される画素信号を保持する保持容量112と、保持容量112によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT113と、この駆動用TFT113を介して電源線103に電気的に接続したときに電源線103から駆動電流が流れ込む画素電極(電極)114と、この画素電極114と共通電極116との間に配置された複数の有機EL素子117,118,119とが設けられている。
【0054】
画素電極114と共通電極116との間に配置された複数の有機EL素子117,118,119は直列接続されており、各々が独立して発光する発光素子である。これらの有機EL素子117は、図3に示す発光素子アレイ22と同様に、バンクによって取り囲まれた構成である。各画素領域Xに複数の発光素子を備える構成とするのは、有機EL装置100の大型化に伴って電源線103の配線長が長くなり、電圧降下の増大により生ずる各画素領域Xの発光輝度低下を防止するためである。尚、電源線103に流れる電流を低減することができるため、電源線103細くすることで高精細化も可能である。
【0055】
画素領域Xに設けられる有機EL素子の数をnとすると、画素領域Xに1つの有機EL素子が設けられている場合に比べて、電源線103にn倍の電圧が印加されている。これにより、1つの画素領域Xの発光輝度を殆ど変えることなく電源線103を流れる電流を1/nにすることができ、この結果として電圧降下による各画素領域Xの発光輝度の低下を防止することができる。
【0056】
尚、本実施形態では、画素領域Xに3つの有機EL素子117,118,119が設けられている構成を例に挙げて説明するが、画素領域Xに設けられる有機EL素子の数は任意で良い。ここで、画素領域Xの各々に設けられる有機EL素子の数を増加させればさせる程、電源線103を流れる電流を低減することができるため、電圧降下による輝度低下防止の観点からは画素に設けられる有機EL素子の数は多い方が良い。しかしながら、画素の各々に設けられる有機EL素子の数を増加させればさせる程、開口率の低下を招いてしまう。このため、輝度低下の観点及び開口率の低下の観点の双方を考慮して画素内の有機EL素子の数は2個以上4個以下であることが望ましい。
【0057】
上記構成の有機EL装置100によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT111がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量112に保持され、保持容量112の状態に応じて、駆動用TFT113のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT113のチャネルを介して電源線103から画素電極114に電流が流れ、更に有機EL素子117,118,119に電流が流れる。すると、有機EL素子117,118,119は、これを流れる電流量に応じて発光する。
【0058】
図8は、有機EL装置100の構成を模式的に示す平面図である。図8に示す通り、有機EL装置100は、光透過性と電気絶縁性とを備える基板120と、図7に示すスイッチング用TFTに接続された画素電極が基板120上にマトリックス状に配置されてなる画素電極域(図示せず)と、画素電極域の周囲に配置されるとともに各画素電極に接続される電源線103(図8では図示せず)と、少なくとも画素電極域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部130(図8中一点鎖線枠内)とを備えて構成されている。尚、画素部130は、中央部分の実表示領域140(図中二点鎖線枠内)と、実表示領域140の周囲に配置されたダミー領域150(一点鎖線及び二点鎖線の間の領域)とに区画されている。
【0059】
実表示領域140には、それぞれ画素電極を有する表示領域R,G,Bが規則的に配置されている。尚、これらの表示領域R,G,Bの各々は、図1に示した画素領域Xをなしている。また、実表示領域140の図8中両側には、走査線駆動回路105,150が配置されている。この走査線駆動回路150,150は、ダミー領域150の下層側に位置して設けられている。また、実表示領域140の図8中上方側には検査回路160が配置されており、この検査回路160はダミー領域150の下層側に配置されて設けられている。この検査回路160は、有機EL装置100の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する検査情報出力手段(図示せず)を備え、製造途中や出荷時における表示装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されている。
【0060】
走査線駆動回路150及び検査回路160の駆動電圧は、所定の電源部から不図示の電圧導電部を介して印加されている。また、これら走査線駆動回路150及び検査回路160への駆動制御信号及び駆動電圧は、この有機EL装置100の作動制御を司る所定のメインドライバ等から不図示の信号導通部を介して送信及び印加されるようになっている。尚、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路150及び検査回路160が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバ等からの指令信号である。
【0061】
〔電子機器〕
図9は、電子機器の一例を示す図である。図9(a)は、携帯電話の一例を示す斜視図である。図9(a)において500は携帯電話機本体であり、この携帯電話機本体500は以上説明した有機EL表示装置100等の電気光学装置を有する表示部501を備えている。
【0062】
また、図9(b)は、ワードプロセッサ、パーソナルコンピュータ等の携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図9(b)において600は情報処理装置であり、この情報処理装置600は、キーボード等の入力部601、情報処理本体602、及び以上説明した有機EL表示装置100等の電気光学装置を有する表示部603を備えている。また、図9(c)は、腕時計型電子機器の一例を示素斜視図である。図9(c)において、700は時計本体を示しており、この時計本体700は、以上説明した有機EL表示装置100等の電気光学装置を有する表示部701を備えている。図9(a)〜図9(c)に示す電子機器は、以上説明した有機EL表示パネル等を備えているため、色むら等が低減された良好な表示を得ることができる。
【0063】
尚、以上説明した有機EL装置100等の電気光学装置は、図9(a)〜図9(c)に例示した電子機器以外にも種々の電子機器に適用することができる。例えば、液晶プロジェクタ、マルチメディア対応のパーソナルコンピュータ(PC)及びエンジニアリング・ワークステーション(EWS)、ページャ、テレビ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、電子手帳、電子卓上計算機、カーナビゲーション装置、POS端末、タッチパネルを備えた装置等の電子機器に適用することが可能である。
【0064】
また、本願発明は、上述した例に限定されるものではなく、本願発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変更を加え得ることはもちろんである。また、本願発明の要旨を逸脱しない範囲において上述した各例を組み合わせても良い。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の一実施形態による画像形成装置としての光プリンタの要部を示す断面図である。
【図2】ブラック用有機EL露光ヘッド2Kの斜視図である。
【図3】発光装置としての発光素子アレイ22を示す図である。
【図4】ブラック用有機EL露光ヘッド2Kの側断面図である。
【図5】本発明の一実施形態による発光装置の製造方法を示す工程図である。
【図6】有機EL素子24に形成された発光層28のバンク端部からの膜厚分布の一例を示す図である。
【図7】電気光学装置の一種としての有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
【図8】有機EL装置100の構成を模式的に示す平面図である。
【図9】電子機器の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1……光プリンタ(画像形成装置)
2C……シアン用有機EL露光ヘッド(光書き込みヘッド)
2K……ブラック用有機EL露光ヘッド(光書き込みヘッド)
2M……マゼンダ用有機EL露光ヘッド(光書き込みヘッド)
2Y……イエロ用有機EL露光ヘッド(光書き込みヘッド)
22……発光素子アレイ(発光装置)
24……有機EL素子(発光素子)
25a……親液性バンク(絶縁体)
25b……撥液性バンク(隔壁)
28……発光層
100……有機EL装置(電気光学装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子が隔壁によって囲まれてなる発光装置において、
前記隔壁が前記発光素子を囲む領域は長手方向と短手方向とを有する矩形形状であり、
前記長手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離は、前記短手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離よりも大である
ことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記長手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離は、少なくとも200μmに設定されていることを特徴とする請求項1記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光素子と前記隔壁との間に親液性を有する絶縁体が形成されてなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の発光装置。
【請求項4】
前記発光素子は、有機材料で構成された発光層をそれぞれ備えていることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記発光素子は、前記隔壁によって囲まれた領域内で、千鳥格子状に配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の発光装置。
【請求項6】
基板上に複数の発光素子が形成された発光装置の製造方法において、
長手方向と短手方向とを有する矩形形状の領域に前記複数の発光素子全体を共通して囲むとともに、前記長手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離を前記短手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離よりも大となるように隔壁を形成する隔壁形成工程と、
前記隔壁によって区画された領域に、前記発光素子の少なくとも一部を構成する発光層を形成する素子形成工程と
を含むことを特徴とする発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記隔壁形成工程は、前記長手方向における前記隔壁と前記発光素子との距離が少なくとも200μmとなるよう前記隔壁を形成する工程であることを特徴とする請求項6記載の発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記発光素子と前記隔壁との間に親液性を有する絶縁体を形成する絶縁体形成工程を含むことを特徴とする請求項6又は請求項7記載の発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁体形成工程は、前記隔壁形成工程の前に行われることを特徴とする請求項8記載の発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記素子形成工程は、前記発光層を液体プロセスで形成する工程であることを特徴とする請求項6から請求項9の何れか一項に記載の発光装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の発光装置、又は、請求項6から請求項10の何れか一項に記載の発光装置の製造方法により製造された発光装置を備えることを特徴とする光書き込みヘッド。
【請求項12】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の発光装置、又は、請求項6から請求項10の何れか一項に記載の発光装置の製造方法により製造された発光装置を備えることを特徴とする電気光学装置。
【請求項13】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の発光装置、又は、請求項6から請求項10の何れか一項に記載の発光装置の製造方法により製造された発光装置を備えることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−87694(P2007−87694A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273408(P2005−273408)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】