説明

発光装置及び電子機器

【課題】 有機EL素子の輝度ムラを低減することが可能な発光装置を提供する。
【解決手段】発光装置は、基板上に構築される画素電極13及び対向電極、並びに、これらに挟持される発光機能層を含む有機EL素子8と、前記画素電極13及び有機EL素子を駆動する駆動トランジスタ9間を電気的に連絡する中継線61と、この中継線に流れる電流によって発生する磁場を検知するホール素子500と、を備える。ホール素子500の図中上下の端子(符号502a及び503a参照)間に電流が流され、前記磁場が紙面を貫く方向に印加されると、ホール電場が生じる。制御回路Cは、この検知結果に応じて有機EL素子に流れる電流の大きさを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネセンスにより発光する発光装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
薄型で軽量な発光源として、OLED(organic light emitting diode)、即ち有機EL(electro luminescent)素子が提供されている。有機EL素子は、有機材料で形成された発光層を画素電極と対向電極とで挟んだ構造を有する。
このような有機EL素子における発光原理は概ね以下のようである。すなわち、(i)前記発光層に、陽極たる画素電極からホール(正孔)が、陰極たる対向電極から電子が、それぞれ注入される、(ii)これらホール及び電子の再結合により励起子が生成される、(iii)この励起子が基底状態に遷移するときに、エネルギ放出、即ち発光現象が生じる。
これらの過程において、発光に関与する正孔及び電子の量は、当該有機EL素子に流れる電流量とみなすことができるが、当該有機EL素子の発光輝度は、この電流量の大きさに概ね比例することが知られている。
【0003】
このような有機EL素子としては、例えば特許文献1に開示されているようなものが知られている。
【特許文献1】特開2002−260851号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した有機EL素子には、一般に、前述した電流−輝度特性等その他の特性について素子間のばらつきみられる。すなわち、多数の有機EL素子を同じ条件下で製造し、かつ、同じ条件下で発光させたとしても、そのうちの一部はより強く発光し、他の一部はより弱く発光する、などといったことが生じる。これは、例えば、これら有機EL素子(特に、その各々の構成要素たる前記発光層)を製造するためのプロセス上の各種パラメータの微妙な変動や、有機EL素子を駆動するための駆動トランジスタの特性の相違等が影響することによる。
また、製造当初は全素子の輝度が一定範囲内に収まっていたとしても、時間の経過とともに有機EL素子の劣化が進行し、かつ、その劣化の度合いが各有機EL素子について異なる、などという事象が発生する可能性もある。この場合、経時的に、輝度の変化、あるいは、そのばらつきが生じることになる。
このようなことから、複数の有機EL素子が存在すれば、それらの間では殆ど必ずといっていい程、輝度のばらつきを観測することができる。実際上の対応は、これらのばらつきを、如何にして許容範囲内に閉じ込めることができるかにある。
【0005】
従来、このような発光輝度のばらつきを改善するべく、様々な提案がなされている。例えば、前記の特許文献1は、「発光素子から発せられる光強度を検出するための光センサ」(特許文献1の〔請求項1〕、あるいは〔0018〕中の(1))を備え、かつ、その「検出された光情報をもとに各素子の発光量(発光素子に流す電流値)および/または発光時間を最適化」(特許文献1の〔0023〕)することにより、上述したような課題を解決しようとする。この特許文献1は、発光素子が発する光それ自体に着目する技術だといえる。
【0006】
しかしながら、この特許文献1には次のような問題がある。すなわち、特許文献1にいう「光センサ」は、「発光素子上に」(特許文献1の〔請求項1〕等)、より詳しくは、「上電極11」の上に形成されるのである(特許文献1の〔図1〕及び〔図2〕、あるいは〔0026〕参照)。
しかし、これでは、発光素子の発光領域の一部は、画像表示には寄与しないという意味において、いわば必然的に犠牲に供されることになる。たしかに、「光センサを発光素子の上に形成しているので、発光素子から発せられる光を効率よく光センサに導くことができ」るともいえようが(特許文献1の〔0023〕)、ただでさえ発光効率がそうは高くない有機EL素子において、その発光の一部を犠牲にせざるを得ないという点は、無視し得ない不利な点だといえる。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、有機EL素子の輝度ムラ低減を中心とした、前記の課題の全部又は一部を解決することの可能な発光装置及び電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発光装置は、上述した課題を解決するため、基板と、当該基板上に構築される第1及び第2電極層、及び、これらに挟持される発光機能層を含む、発光素子と、前記第1及び第2電極層のいずれか一方に電気的に接続される配線と、前記配線に流れる電流によって発生する磁場を検知する磁場検知手段と、前記磁場検知手段の検知結果に応じて前記発光素子に流れる電流の大きさを制御する制御手段と、を備える。
【0009】
本発明によれば、例えば、配線、第1電極層、発光機能層、及び第2電極層という順(又はその逆)に沿った電流が流れ得る。ここで前記発光素子は、例えば有機EL素子であり、前記電流が発光機能層に流れることによって、当該発光機能層は発光する。
ここで本発明においては特に、磁場検知手段が、配線に流れる電流によって発生する磁場を検知する。この磁場は、いわゆる右ねじの法則に従った磁場を含み、したがって、電流の大きさに比例して、磁場の強さも大きくなる。そして、制御手段は、この検知結果に応じて、前記発光素子に流れる電流の大きさを制御する。つまり、本発明では、磁場検知手段が当該発光素子の現状を把握し、制御手段がその現状に基づくフィードバック制御を行うようになっているとみることができる。
この際、本発明は、発光素子ないし発光機能層が発する光それ自体に着目するのではない。すなわち、本発明によれば、配線周りの磁場が検知対象とされているから、例えばフォトダイオード等の光検出手段を用いることなく、あるいは別の言い方をすれば、発光素子が発する光の全部を本来的用途(例えば、画像表示)に貢献させながら、発光素子の現状が正確に把握されることになる。ちなみに、この場合、前述のように、発光領域の一部をいわば“犠牲”にすることもない。
そして、前記フィードバック制御を行うことにより、発光素子が所望の輝度で発光するよう調整することは容易になり、これにより、輝度ムラの低減等の効果が享受される。
【0010】
この発明の発光装置では、前記磁場検知手段は、ホール素子を含む、ように構成してもよい。
この態様によれば、磁場検知手段がホール素子を含むので、本発明の最好適な具体例の1つが提供される。これは、ホール素子に関しては、小型化が容易、あるいは、その形成工程が発光素子の形成工程と無理なく並存可能である、等の事情があることによる。
【0011】
この態様では、前記発光素子を駆動するための駆動トランジスタと、前記駆動トランジスタに含まれ、前記第1電極層に電気的に接続される第1半導体層と、を更に備え、前記ホール素子は、前記第1半導体層が形成される下地膜の上に、かつ、当該第1半導体層と同時に形成される第2半導体層を含む、ように構成してもよい。
この態様は、発光素子の駆動トランジスタの構成要素である第1半導体層と、ホール素子の構成要素である第2半導体層とが、同時に形成されるようになっているので、製造工程の簡略化が可能になる。
【0012】
また、本発明の発光装置では、 前記磁場検知手段は、磁気抵抗効果素子を含む、ように構成してもよい。
この態様によれば、磁場検知手段が磁気抵抗効果素子を含むので、本発明の最好適な具体例の1つが提供される。ここで磁気抵抗効果素子とは、磁場の印加により自身の電気抵抗を変化させる素子を意味する。これは、例えばGMR(Giant Magneto Resistance)型、TMR(Tunneling Magneto Resistance)型、AMR(Anisotropic Magneto Resistance)型、あるいはCMR(Colossal Magneto Resistance)型等と分類されているが、本態様にいう「磁気抵抗効果素子」は、そのいずれをも範囲内に収める。
【0013】
また、本発明の発光装置では、前記磁場検知手段は、磁気インピーダンス素子を含む、ように構成してもよい。
この態様によれば、磁場検知手段が磁気インピーダンス素子を含むので、本発明の最好適な具体例の1つが提供される。ここで磁気インピーダンス素子とは、いわゆるMI効果(Magneto Impedance Effect)を利用した素子であり、MI効果とは、高周波電流が流れるアモルファス磁性体に磁場を印加するとその両端のインピーダンスが変化する効果をいう。
【0014】
また、本発明の発光装置では、前記磁場検知手段は、磁場検知素子を含み、当該磁場検知素子は、前記基板を平面視した場合、前記発光機能層の形成領域の一部と重なるように形成されており、かつ、前記第1及び第2電極層のうち前記発光機能層からみて前記磁場検知素子が存在しない側の電極層は透光性をもつ、ように構成してもよい。
この態様によれば、前述した、発光素子が発する光の全部の有効利用という態様がよりよく実現される。なぜなら、本態様においては、磁場検知素子と、透光性をもつ電極層とは、それぞれ、発光機能層を挟んで、その両面側に配置されることになるからである。これによれば、発光機能層を発した光は、当該透光性をもつ電極層から無駄なく出射し、磁場検知素子が、そのような光の進行の邪魔になることがない。なお、このことは同時に、本態様(の規定)が、当該発光装置内における磁場検知素子の最も適切な配置例の1つを提供することを意味する。
なお、念のため、前記の規定ぶりからも明らかではあるが、本態様は、第1及び第2電極層の双方が透光性を持つ態様を排除しない。
【0015】
また、本発明の発光装置では、前記磁場検知手段は、複数の磁場検知素子を含み、これら複数の磁場検知素子は、前記配線の延在方向に交わる方向に沿って並ぶ、ように構成してもよい。
この態様によれば、配線に流れる電流によって発生する磁場が、より正確に検知されうることになる。というのも、当該磁場の強さは、一般に、配線と磁場検知素子との距離に反比例して弱くなるが、磁場検知素子が、前述のように「配線の延在方向に交わる方向に沿って並ぶ」のであれば、磁場の強さは、その変化の様子さえをも含めて、つぶさに観察され得ることになるからである。
【0016】
なお、この態様は特に、「磁場検知手段」が、前述した「磁気抵抗効果素子」を含む場合(換言すれば、本態様にいう「磁場検知素子」が「磁気抵抗効果素子」を含む場合)に適用されて好適である。なぜなら、磁気抵抗効果素子は、通常、磁場が印加されているか、いないかといった、いわばデジタル的な検出用途には優れた性能を発揮するものの、これに対する、いわばアナログ的な用途には向いていない。そうすると、前述したフィードバック制御も、いきおい“1”か“0”か、といった粗い制御を基礎とするものになりかねない。
しかるに、本態様では、当該磁場検知素子が前述のように「並ぶ」ので、例えば、前記配線を中心として、磁場の影響力が及ぶ範囲では“1”、及ばない範囲では“0”といった検出を行いながら、そのうち“1”であったものの個数を確認する、等といった運用を行えば、当該磁場の強さを推測することが可能になるからである。
【0017】
また、本発明の発光装置では、前記磁場検知手段は、磁場検知素子を含み、当該磁場検知素子は、前記配線との間に少なくとも1層の層間絶縁膜を挟んで形成される、ように構成してもよい。
この態様によれば、当該発光装置内における磁場検知素子の最も適切な配置例の1つが提供される。というのも、磁場検知素子が、いわば検知対象となる配線からみて、層間絶縁膜を挟んで配置されるならば、当該磁場検知素子と当該配線との間の距離をより小さく、しかもこれを比較的容易に実現することが可能になるからである。前者によれば、磁場の検知をより感度よく行うことが可能になり、後者によれば、当該発光装置の設計自由度や製造容易性等が高まる。
かかる効果は、仮に、磁場検知素子と配線とを共通の下地膜の上に同時に形成してしまう場合と対比すると明らかである。この場合でも、たしかに、磁場検知素子と配線との間の物理的距離を狭めることは難なくできそうであるが、しかし、磁場検知素子に必要な各種の配線を接続し、また、当該配線に必要な各種の配線を接続しなければならないことを考えると、これは容易ではない。例えば、磁場検知素子が前記ホール素子を含む場合、ホール磁場の発生層に通常少なくとも4つの接続端子と、これに連なる配線が必要となるので、前述のような水平配置は極めて困難である。本態様では、かかる不具合を被らないのである。
【0018】
また、本発明の発光装置では、前記配線は、前記第1電極層に電気的に接続される第1配線、及び、前記第2電極層に電気的に接続される第2配線を含み、前記磁場検知手段は、前記第1配線に対応する第1磁場検知素子、及び、前記第2配線に対応する第2磁場検知素子を含む、、ように構成してもよい。
この態様によれば、第1電極層に接続される第1配線と、第2電極層に接続される第2配線との双方に関して、磁場検知が行われるので、発光素子の現状把握がより正確になされ得ることになり、したがって、前述したフィードバック制御がよりよく行われ得る。
【0019】
一方、本発明の電子機器は、上記課題を解決するために、上述した各種態様の発光装置を備える。
本発明の電子機器は、上述した各種の発光装置を備えてなるので、輝度ムラが低減された画像を表示することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<第1実施形態>
以下では、本発明に係る第1の実施の形態について図1乃至図7を参照しながら説明する。なお、これらの図面及び後に参照するそれ以降の各図面においては、各部の寸法の比率、あるいは各要素間の距離等は実際のものとは適宜に異ならせてある場合がある(図面を見易くするため、あるいは紙面の大きさの都合上、変更を加えている場合もある。)。
【0021】
図1は、第1実施形態の有機EL装置(発光装置)の一例を示す平面図である。
この図1において、有機EL装置は、素子基板7と、この素子基板7上に形成される各種の要素を備えている。ここで各種の要素とは、有機EL素子8、走査線3及びデータ線6、走査線駆動回路103A及び103B、データ線駆動回路106、プリチャージ回路106A、並びに対向電極用電源線201、そしてホール素子500等である。
【0022】
有機EL素子(発光素子)8は、図1に示すように、素子基板7上に複数備えられており、それら複数の有機EL素子8はマトリクス状に配列されている。有機EL素子8の各々は、画素電極、発光機能層及び対向電極から構成されている。これら各要素に関しては後に図4等を参照しながら改めて触れる。
画像表示領域7aは、素子基板7上、これら複数の有機EL素子8が配列されている領域である。画像表示領域7aでは、各有機EL素子8の個別の発光及び非発光に基づき、所望の画像が表示され得る。なお、以下では、素子基板7の面のうち、この画像表示領域7aを除く領域を、「周辺領域」と呼ぶ。
【0023】
走査線3及びデータ線6は、それぞれ、マトリクス状に配列された有機EL素子8の各行及び各列に対応するように配列されている。より詳しくは、走査線3は、図1に示すように、図中左右方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されている走査線駆動回路103A及び103Bに接続されている。一方、データ線6は、図中上下方向に沿って延び、かつ、周辺領域上に形成されているデータ線駆動回路106に接続されている。これら各走査線3及び各データ線6の各交点の近傍には、前述の有機EL素子8等を含む単位回路(画素回路)Pが設けられている。
【0024】
この単位回路Pは、図2に示すように、前述の有機EL素子8を含むほか、nチャネル型の第1トランジスタ68、pチャネル型の第2トランジスタ9、及び容量素子69を含む(なお、図2においては、図1に示されているホール素子500の図示は省略されている。)。
単位回路Pは、電流供給線113から給電を受ける。複数の電流供給線113は、図示しない発光用電源に接続されている。また、pチャネル型の第2トランジスタ(駆動トランジスタ)9のソース電極は電流供給線113に接続される一方、そのドレイン電極は有機EL素子8の画素電極に接続される。この第2トランジスタ9のソース電極とゲート電極との間には、容量素子69が設けられている。一方、nチャネル型の第1トランジスタ68のゲート電極は走査線3に接続され、そのソース電極はデータ線6に接続され、そのドレイン電極は第2トランジスタ9のゲート電極と接続される。
単位回路Pは、その単位回路Pに対応する走査線3を走査線駆動回路103A及び103Bが選択すると、第1トランジスタ68がオンされて、データ線6を介して供給されるデータ信号を内部の容量素子69に保持する。そして、第2トランジスタ9が、データ信号のレベルに応じた電流を有機EL素子8に供給する。これにより、有機EL素子8は、データ信号のレベルに応じた輝度で発光する。
【0025】
素子基板7上の周辺領域上には、プリチャージ回路106Aが備えられている。このプリチャージ回路106Aは、有機EL素子8へのデータ信号の書込み動作に先立って、データ線6を所定の電位に設定するための回路である。
また、対向電極用電源線201(以下、単に「電源線201」という。)は、素子基板7の外形輪郭線にほぼ沿うように、平面視してΠ字状の形状をもつ。この電源線201は、有機EL素子8の対向電極に例えばグランドレベル等の電源電圧を供給する。
なお、前述では、走査線駆動回路103A及び103B、データ線駆動回路106、並びにプリチャージ回路106Aのすべてが素子基板7上に形成される例について説明しているが、場合によっては、そのうちの全部又は一部を、フレキシブル基板に形成するのであってもよい。この場合、当該のフレキシブル基板と素子基板7との両当接部分に適当な端子を設けておくことにより、両者間の電気的な接続を可能とする。
【0026】
概要以上述べたような構成を備える有機EL装置は、より実際的には、前記単位回路Pにつき、平面視して図3に示すような構造を備え、また、素子基板7上に図4に示すような積層構造物250を備えている。この積層構造物250は、図4に示すように、素子基板7を基準として、図中下から順に、第2トランジスタ9(ゲート絶縁膜300を含む)、及び、ホール素子500、第1乃至第3層間絶縁膜301乃至303、反射層34、第4層間絶縁膜304、画素電極13、発光機能層18、並びに対向電極5等を含む。
【0027】
このうち、ゲート絶縁膜300、及び、第1乃至第4層間絶縁膜301乃至304(以下、単に「絶縁膜300乃至304」ということがある。)は、その他の残る導電性要素間の短絡が生じないように、あるいは、これら導電性要素の積層構造物250中の好適な配置を実現するため等に貢献する。これら絶縁膜300乃至304は、様々な厚さでもって様々な絶縁性材料から作られうるが、好適には、各絶縁膜の積層構造物250中の配置位置や役割等に応じて、適宜適当な厚さ及び材料が選択されるとよい。
より具体的には例えば、絶縁膜300乃至304は、SiO、SiN、SiON等々で作られて好ましい。あるいは、その表面がより平坦であることが望ましい場合は、当該の絶縁膜300乃至304のうちの全部又は一部は、製造時に一定程度以上の流動性をもつ樹脂(例えば、アクリル樹脂)等で作られてもよい。これによれば、当該の絶縁膜の下層側の凹凸が比較的激しくても、該絶縁膜はいわばその凹凸を均すように覆い被さるので、その表面は平坦化面として現出する。このような特性が満たされて好ましいのは、図4でいえば、反射層34ないし画素電極13の下地膜として機能する第2及び第3層間絶縁膜302及び303、等である。
【0028】
第2トランジスタ9は、前述のように単位回路Pに含まれる。この第2トランジスタ9は、図4に示すように、半導体層1、ゲート絶縁膜300、及びゲート電極31の積層構造をもつ。ゲート電極31は半導体層1のチャネル領域に対向する。また、半導体層1のソース領域には前述した電源供給線113の一部がソース電極として接続され、ドレイン領域には中継線61の一部がドレイン電極として接続される。なお、これら両者はそれぞれ、コンタクトホール361及び362を介して、半導体層1に接続されている。
なお、図2を参照して説明した第1トランジスタ68を構成する、半導体層、ゲート絶縁膜、ゲートメタル等や容量素子69を構成する電極用薄膜、更には走査線3及びデータ線6等も、積層構造物250の一部を構成するが、図4においてはその図示が省略されている。
【0029】
一方、前述の有機EL素子8の各々は、図4に示すように、積層構造物250を構成する前述の各種の要素のうち、画素電極13、発光機能層18、及び対向電極5から構成される。
【0030】
このうち画素電極13は、素子基板7上に、マトリクス状に配列するように形成されている。有機EL素子8がマトリクス状に配列されているということは、このように画素電極13がマトリクス状に配列されているということに相応する(図1参照)。
この画素電極13は、コンタクトホール363を介して、前述したドレイン電極としての中継層61と電気的に接続されている。これにより、この画素電極13は、図2に示した第2トランジスタ9を介して電流供給線113から供給される電流を、発光機能層18に印加可能である。なお、コンタクトホール363は、第2及び第3層間絶縁膜302及び303を貫通するようにして形成されている。
このような画素電極13は、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透光性かつ導電性の材料から作られている。
【0031】
反射層34は、このような画素電極13の形成領域に対応するように、第3層間絶縁膜303上、且つ、第4層間絶縁膜304下に形成されている。反射層34は、図4に示すように、発光機能層18から発せられた光を反射する。この反射光は、図中上方に向かって進行する(図4中の矢印参照。)。このように、第1実施形態に係る有機EL装置は、いわゆるトップエミッション型である。なお、このことから、素子基板7は、セラミックスや金属等の不透明材料で作られてよい(これとは反対に、ボトムエミッション型の場合、素子基板7は、透光性材料から作られている必要がある。)
このような反射層34は、上述の反射機能をよりよく発揮するため、光反射性能の比較的高い材料から作られているとよい。例えば、アルミニウムや銀等の金属を利用することができる。
【0032】
発光機能層18は、図4に示すように、画素電極13の上に形成されている。この発光機能層18は、少なくとも有機発光層を含む。有機発光層は、正孔と電子の再結合により生起した励起子が基底状態へと遷移することによって発光する有機EL物質から構成されている。この有機EL物質が例えば高分子材料である場合、当該有機EL物質は、例えば液滴塗布法(インクジェット法)により、図示しない隔壁により区画された各空間内のみに(即ち、画素ごとに)供給される。
発光機能層18を構成する他の層として、電子ブロック層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層及び正孔ブロック層の一部又は全部を備えていてもよい。
【0033】
対向電極5は、図4に示すように、発光機能層18に接触している。この対向電極5は、平面視して、素子基板7の全面を覆うかのような矩形状(その内部に特別な開口、間隙等をもたない、いわゆるベタ状)に形成される(図4ではその一部が図示されている。)。対向電極5の周囲は、図1に示した電源線201に電気的に接続される(その接続態様は不図示)。
このような対向電極5は、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透光性かつ導電性の材料から作られる。あるいは、どのような材料でも、十分に薄い薄膜を形成すれば、それは一定程度以上の透光性をもつので、対向電極5は、ITO以外にも、MgAg等の金属材料、合金材料等で作られてもよい。
【0034】
以上の構成に加えて、第1実施形態に係る有機EL装置は特に、図3、あるいは図4に示すように、ホール素子(磁場検知素子)500を備えている。このホール素子500に関連して、有機EL装置は、半導体層501(これはホール素子500の一部である。)、第1及び第2電流供給線502及び503、第1及び第2電圧検知線504及び505等を備える。なお、いま述べたホール素子500を初めとした各種要素と、後述する磁場検知手段550とは、本発明にいう「磁場検知手段」の一具体例を構成する。
【0035】
このうち半導体層501は、図3に示すように、平面視して概ね長方形状をもつ。この半導体層501は、前述した第2トランジスタ9の構成要素である半導体層1と同時に形成される。すなわち、図4に示すように、これら半導体層501及び1は、それらの下地としての素子基板7の表面の上に同時に形成されるようになっている。
【0036】
なお、本発明にいう「下地膜」は、いま述べたところからも明らかなように、“素子基板7の表面”も特別に含む。ただし、これら半導体層501及び1は、それらの保護等を目的として、例えば素子基板7の表面に、SiO等で作られる下地絶縁膜の上に形成されてもよい。この場合、半導体層501及び1は、文字通り、「下地膜」の上に形成されるということになる。
また、半導体層501は、図3からも明らかなように、半導体層1と同時に形成されるほか、第1トランジスタ68を構成する半導体層とも同時に形成される。なお、これに関連して、半導体層501は、p型又はn型のいずれであるかの別等に特にこだわらない。よって、半導体層501と、半導体層1及び第1トランジスタ68の半導体層と、に関するドーピング工程も、同時的に行われうるが、必要があれば、適当なマスク等を利用することにより両者間の調整を行うことはできる。
【0037】
第1電流供給線502は、画素電極13の形成領域を図3中左右方向に横切るように延びる。この第1電流供給線502は、その一部に、半導体層501の一部とコンタクトをとるための張り出し部502aをもつ。この張り出し部502aは、第1電流供給線502の延在方向に沿って一定間隔ごとに設けられる。この一定間隔は、図1に示す行方向に沿った画素配列の間隔にほぼ一致する。つまり、第1電流供給線502は、少なくとも画素行毎に共通に設けられる。
また、この第1電流供給線502は、図3及び図4に示すように、ゲート絶縁膜300の上に形成されており、したがって、前述したゲート電極31、走査線3等と同時に形成される。
【0038】
一方、第2電流供給線503は、画素電極13の形成領域を図3中上下方向に横切るように延びる。また、この第2電流供給線503もまた、その一部に、前記第1電流供給線502と同様、半導体層501の一部とコンタクトをとるための張り出し部503aをもつ。この張り出し部503aは図示するように平面視してL字状をもつ。そして、この張り出し部503aも、第2電流供給線503の延在方向に沿って一定間隔(この場合は、図1に示す列方向に沿った画素配列の間隔にほぼ一致する。)ごとに設けられる。つまり、第2電流供給線503は、少なくとも画素列毎に共通に設けられる。
また、この第2電流供給線503は、図3及び図4に示すように、第1層間絶縁膜501の上に形成されており、したがって、前述した中継線61、データ線6等と同時に形成される。
【0039】
前述の張り出し部502a及び503aそれぞれの先端部は、図3に示すように半導体層501を挟んで互いに対向する。これにより、前者及び後者間に適当な電位が設定されれば、前者から後者(あるいは、後者から前者)へ向かう方向に沿って電流が流れ得る。図3でいえば、その向きは、図中上方向又は下方向に沿った方向である。
【0040】
続いて、第1電圧検知線504は、前述の第2電流供給線503と配置態様に関してほぼパラレルな関係にある。すなわち、この第1電圧検知線504は、第2電流供給線503と比べて、画素電極13の形成領域を図3中上下方向に横切るように延びる点、その一部に半導体層501とコンタクトをとるための張り出し部504aをもつ点、第1層間絶縁膜301の上に形成される点、という各点で同じである。
このことは、第2電圧検知線505と、第1電流供給線502との関係についてもいえる。すなわち、第2電圧検知線505は、第1電流供給線502と比べて、画素電極13の形成領域を図3中左右方向に横切るように延びる点、その一部に半導体層501とコンタクトをとるための張り出し部505aをもつ点、ゲート絶縁膜300の上に形成される点、という各点で同じである。
【0041】
ただし、前記のうち、第1電圧検知線504の張り出し部504aと、第2電圧供給線505の張り出し部505aとは、いずれも、半導体層501中、前記の張り出し部502a及び503aそれぞれの先端部間であって、これらを結ぶ直線に直交する方向に延びる部分をもつ。そして、これら張り出し部504a及び505aは、それぞれの先端部が対向するように配置される。
以上により、これら張り出し部504a及び505a間を結ぶ直線は、前記の張り出し部502a及び503aを結ぶ直線と直交する。
【0042】
また、前記のうち、第1電圧検知線504の張り出し部504aは、前述した張り出し部503aが第2電流供給線503から延在する部分であるのとは異なって(即ち、いずれの要素(503a及び503)も第1層間絶縁膜301上でいわば一体的関係を保つのとは異なって)、ゲート絶縁膜300の上に、ゲート電極31等々と同時に形成される要素である。そして、かかる張り出し部504aは、その一端で、コンタクトホールを介して、第1電圧検知線504の一部に接続される。
このような配置態様は、前記中継線61との短絡を防ぐためにとられている。すなわち、中継線61は、前述のように第2トランジスタ9ないしその構成要素たる半導体層1と画素電極13とを電気的に接続するための中継配線であるが、かかる中継線61は、図3及び図4に示すように、第1層間絶縁膜301の上で、かつ、第1電圧検知線504と半導体層501との間を図3中上下方向に沿って延びるように配置されている。このため、第1電圧検知線504の張り出し部504aは、このような中継線61のいわば下側を潜って半導体層501に到達するために、ゲート絶縁膜300の上に形成されるのである。
【0043】
さらに、前記のうち第1及び第2電圧検知線504及び505は、図1に示す磁場検知回路550に接続されている。この磁場検知回路550は、ホール素子500に生起したホール電圧の大きさを検知することを通じて、中継線61回りの磁場を検知する。第1実施形態に係る磁場検知回路550は、検知されたホール電圧ないし磁場が、どの単位回路Pに対応するものかを特定する能力をもつ。
また、磁場検知回路550は、その検知結果を有機EL装置制御回路(以下、単に「制御回路」という。)Cに供給する。制御回路Cは、この検知結果に応じて、前述した、データ線駆動回路106が送り出すデータ信号の内容を変更すること等を通じて、有機EL素子8に流れる電流の大きさを制御する。
なお、制御回路Cは、いま述べた制御のほか、前述した、走査線駆動回路103A及び103B等々の制御をはじめ、第1実施形態に係る有機EL装置全体の調和的動作を実現するための制御を行う。
【0044】
以上述べた、ホール素子500を構成する各種要素等に関する配置関係は、第1実施形態において比較的重要な意味をもつ。その意味は、後述する、第1実施形態に係る有機EL装置の作用、あるいは効果の説明の際により明瞭になるが、これを意義あらしめるための当該配置関係の特徴的要素をいくつか抽出しておくと、以下のようになる。
【0045】
〔I〕 中継線61の延在方向は、第1及び第2電流供給線502及び503それぞれが半導体層501とコンタクトをとる部分を結ぶ直線が延びる方向と平行関係にある。つまり、半導体層501に流れる電流と、中継線61を流れる電流とは、同じ向き又は相互に真反対の向きに流れる。
〔II〕 中継線61は、第2トランジスタ9と画素電極13との間を中継する配線である。
〔III〕 中継線61は、第1層間絶縁膜301を挟んでホール素子500の上層に位置付けられる。あるいは、ホール素子500、第1層間絶縁膜301及び中継線61は、この順に、積層構造を呈する。
〔IV〕 中継線61は、画素電極13の形成領域の全長を横切るように延びる。
【0046】
以上のような構成をもつ有機EL装置によれば、次のような作用効果が奏される。
まず、第1実施形態の有機EL装置では、図示しない発光用電源により、画素電極13及び対向電極5間に所定の電位差が設定されることで、発光機能層18に電流が流される。すなわち、画素電極13からは正孔が、対向電極5からは電子が、それぞれ発光機能層18に注入される。この際、これら正孔及び電子は再結合して励起子を生起する。そして、この励起子が基底状態に遷移する際、発光現象が生じる。この光は、図4を参照して説明したように、そのうちの一部が反射層34で反射した後装置外部へと進行する。他の一部は、直接に装置外部へと進行する(図4参照)。
【0047】
この際、第1実施形態では特に、ホール素子500が作用する。すなわち、前述のように有機EL素子8に電流が流されるとき、その電流は、図2を参照して説明したように第2トランジスタ9の供給にかかるものであるから、中継線61にも電流が流れる。そうすると、この電流の方向が、図5に示す図中下方向を向く矢印(符合Iel参照)で表される方向に一致するなら、当該中継線61の周りには、これを中心とした磁場が発生する。この磁場は右ねじの法則に従うので、図5に示すように、その向きは、紙面のこちら側では図中右から左へ、紙面の向こう側では図中左から右へ、というようになる。また、この場合同時に、中継線61よりも紙面右側の領域では、当該磁場の向きは、紙面の向こう側からこちら側へと当該紙面を貫くように、ということになるから、ホール素子500にも、同様の向きの磁場が貫くことになる(なお、図6も参照。)。
【0048】
また、磁束密度をB、透磁率をμ、電流をI、中継線61の中心からの距離をRとすると、
B=μI/2πR … (1)
が成立する。この(1)式から、ホール素子500に印加される磁場の強さは、中継線61に流れる電流の値、あるいはホール素子500及び中継線61間の距離に影響を受けることがわかる。
【0049】
ここで、第1及び第2電流供給線502及び503間に所定の電位を設定しておいて、半導体層501の図5中上から下(又は下から上)に向かって電流を流しておけば、半導体層501にはホール電場が生じる。すなわち、前記電流及び磁場の向きの双方に直交する図5中左右方向の向きに、ホール電圧Vhaが発生する。第1及び第2電圧検知線504及び505には、このホール電圧Vhaに応じた電流が流れる。磁場検知回路550は、第1及び第2電圧検知線504及び505を通じて、このホール電圧Vhaの大きさを検知する。そして、制御回路Cは、この検知結果を受けて、当該の有機EL素子8に流れる電流の大きさを制御する(図1参照)。
【0050】
この場合、磁場検知回路550及び制御回路Cによる検知及び電流制御の具体的態様としては様々なものがありうる。例えば、次のようである。
第1に、磁場検知回路550は、図1に示す全有機EL素子8を同一条件下で発光させた場合における、これら各々のホール電圧Vhaを検知する(ここでは、以下、有機EL素子8の数をN個とし、その各々につき検知された固有のホール電圧を、Vha(1),Vha(2),…,Vha(N)と表すことにする。)、第2に、これらの全ホール電圧の平均値、即ちVA=(Vha(1),Vha(2),…,Vha(N))/Nをとる、そして第3に、この平均値VAと、各ホール電圧Vha(1),Vha(2),…,Vha(N)の値との差をみて、VA<Vha(p)(ただし、p=1,2,…,N)ならば当該p番目の有機EL素子8の電流を小さく、VA>Vha(p)ならば当該p番目の有機EL素子8の電流を大きく、VA=Vha(p)ならば当該p番目の有機EL素子8の現状の電流を維持する、などというようである。
【0051】
なお、最後の第3の工程は、必要であれば、有機EL装置の運用中、随時実施することができる。一般に、有機EL素子8については、図7に示すように、電流−輝度間に比例関係が成立する。したがって、例えば、装置運用中、ある有機EL素子8についての磁場を観測したら、電流I0に相当する輝度L0でしか発光していないとわかれば、その電流をI*に上げ、電流I1に相当する輝度L1で発光しているとわかれば、その電流をI*に下げる、などといった運用が可能である(なお、図7では、同図中のI*が前記平均値VAの役割に相当する。)。
【0052】
以上のような作用ないし動作により、第1実施形態では以下のような効果が奏される。
(1) まず、画像表示領域7a上の有機EL素子8の特性がばらばらであっても、当該領域7aを全体的な観点からみた輝度ムラが低減される。これは、上に述べたところからも明らかなように、第1実施形態では、中継線61に流れる電流によって発生する磁場を検知することにより、全有機EL素子8それぞれに関するフィードバック制御が行われるようになっているからである。
【0053】
(2) 特に、第1実施形態では、前述した〔I〕から〔IV〕までの特徴的要素が存在することにより、前述した効果は、より実効的に享受される。
すなわち、中継線61と半導体層501内の電流の流れる方向とが平行関係にあること(〔I〕)により、ホール電場の方向は好適に設定されることになり、したがって、磁場の検知は、構造上無理なく、また、よりよく行える。
また、磁場の検知対象として、画素電極13及び第2トランジスタ9間を結ぶ中継線61が選択されていること(〔II〕)は、フィードバック制御の前提となる有機EL素子8の現状把握にとっては最適な一具体例を提供する。これに関連して、第1実施形態においては、中継線61とホール素子500と第1層間絶縁膜301を介して積層構造を呈していること(〔III〕)は、両者間の距離をより狭めることを可能とし、したがって、前記(1)式からわかるとおり、よりよい磁場の検知を可能とする。このことは、図6をみるとより明瞭に把握される。この図から推測されるように、中継線61と半導体層501との間の距離Rをより狭めようと思えば、当該距離Rは、原理上は、第1層間絶縁膜301の厚さに相当する距離に至るまで小さくすることができる(この場合、半導体層501のいわば直上に、中継線61が存在する、ということになる。)。
加えて、中継線61が、画素電極13の形成領域の全長を横切るように延びていること(〔IV〕)は、磁場検知場所の設定が比較的自由になる等の利点を通じて、よりよい磁場検知に貢献する。
【0054】
(3) 第1実施形態に係る有機EL装置では、上述のように、反射層34等の具備等によるトップエミッション型が採用されているとともに、ホール素子500が、発光機能層18からみて対向電極5が存在する側とは反対側に配置されていることから、発光機能層18から発した光の全部の有効利用が可能となっている。ホール素子500は、画素電極13の形成領域内に形成されてはいるが(図3参照)、これが、光の進行に邪魔になるようなことがないからである。
【0055】
(4) 第1実施形態に係る有機EL装置では、ホール素子500の半導体層501と、第2トランジスタ9の半導体層1とが、素子基板7の表面に同時に形成されるようになっているので、例えばこれらを別々に製造するなどといった場合に比べて、製造工程の簡略化が可能になる。また、このことは、本発明において、「磁場検知手段」の一具体化として、「ホール素子」を利用することの有利性を増強する。
【0056】
<第2実施形態>
以下では、本発明の第2の実施の形態について、図8乃至図10を参照しながら説明する。なお、この第2実施形態の有機EL装置の基本的な構成は、第1実施形態の有機EL装置と実質的に同じである。したがって、以下では、両者で共通する部分に関する図面の符号は共通に用いることとし、また、その説明は省略することとする。
【0057】
第2実施形態の有機EL装置は、図8及び図9に示すように、本発明にいう「磁場検知手段」の一具体化として、磁気抵抗効果素子(磁場検知素子)601を利用する。
【0058】
この磁気抵抗効果素子601は、図9に比較的よく示されているように、積層構造をもつ素子である。この積層構造は、第1磁性層611及び第2磁性層621と、これらに挟まれた非磁性層631とからなる。
このうち第1及び第2磁性層611及び621は、例えば、InSb、MgO、Ga等を主成分とする材料から作られてよく、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)及び希土類元素のうち少なくとも1つの磁性材料を含んでいることが好ましい。あるいは、特に、ハーフメタルと呼ばれる材料であれば、なおよい。なお、ハーフメタルとは、電気伝導に関与する電子のスピンがすべて同じ向きの物質(言い換えれば、100%スピン分極した物質)をいう。
また、非磁性層631は、電気絶縁性樹脂や電気絶縁性のセラミック材料から作られて好適である。
【0059】
前述のうち第1及び第2磁性層611及び621には、これらそれぞれに接するように、第1電極602a及び第2電極603aが設けられる(図9参照)。第1電極602aは、図8に示すように、これに電気的に接続する第1電極用配線602の一部であり、第2電極603aは、これに電気的に接続する第2電極用配線603の一部である。また、第2電極用配線603は更に、中継線604に接続され、この中継線604は更に、検知線605に接続される。そして、この検知線605は、図1に示すと同様の磁場検知回路に接続される。
これら各種配線等の中で、第1電極602aを含む第1電極用配線602及び中継線604は、前述した第2トランジスタ9用のゲート電極31等と同時に形成される要素であり、第2電極603aを含む第2電極用配線603及び検知線605は、データ線6等と同時に形成される要素である。
【0060】
このような磁気抵抗効果素子601は、一種のTMR型磁気抵抗効果素子として機能する。すなわち、前述の第1磁性層611及び第2磁性層621に電圧をかけておくと、これらの間の非磁性層631にはトンネル電流が流れる。このトンネル電流の流れやすさは、第1磁性層611の磁化方向と第2磁性層621のそれとの関係に応じて変化する。両者が平行であれば、電気抵抗は最小になり、反平行であれば最大になる。そして、第2実施形態において、この磁化方向の変化は、中継線61に流れる電流によって発生する磁場によってもたらされる。
【0061】
このような結果、この第2実施形態でも、上述した第1実施形態によって奏された効果と本質的に異ならない効果が奏されることは明白である。すなわち、中継線61が発する磁場の検知結果に応じて、有機EL素子8に流れる電流の大きさが制御され得る。
【0062】
なお、この効果をよりよく享受するためには、前記の非磁性層631の厚さは、少なくとも第1及び第2磁性層611に比べて相対的に薄く、より具体的には例えば0.001〜0.5μm等とされて好適である。
また、同じく前記効果をよりよく享受するためには、第1磁性層611及び第2磁性層621それぞれの保磁力に差を設けておくようにすると好ましい。このようにしておけば、一方の磁性層の磁化方向のみが変化を受け、他方の磁性層のそれは変化しない、といった現象を比較的容易に作り出すことができ、中継線61の磁場はよりよく検知され得ることになるからである。なお、両層611及び621の保磁力に差をもたせるためには、例えばこれら各層611及び621間で、その厚さや材料構成につき適当な差を設けること等によるとよい。
【0063】
さらに、本発明では、この第2実施形態に関連して、これを応用した図10に示すような態様を採用することも可能である。すなわち、図8及び図9に示すような磁気抵抗効果素子601を用いる場合には、その磁気抵抗効果素子601を、図10に示すように、複数備えるとよい(符号601−1,601−2,…,601−5、参照)。これら複数の磁気抵抗効果素子601−1,601−2,…,601−5は、この順番に従い、中継線61の延在方向に直交する方向に沿って次第に遠ざかりながら、並んでいる。
このような磁気抵抗効果素子601−1,601−2,…,601−5を備える態様によれば、前記の(1)式中のRの効果を考えれば明白なように、中継線61に流れる電流によって発生する磁場の影響力が及ぶ範囲では、電気抵抗が最小、そうでない範囲では最大、ということが生じ得る。また、この場合もちろん、磁場の強さが大きければ大きいほど、前記影響力は大きくなるから、電気抵抗が最小になる磁気抵抗効果素子の数はそれだけ多くなる。
図10では、図中左側の3つの磁気抵抗効果素子601−1乃至601−3が磁場の影響を受けて“ON”(即ち、電気抵抗が最小)となり、残る2つの磁気抵抗効果素子601−4及び601−5がその影響を受けずに“OFF”(即ち、電気抵抗が最大)となる場合が例示されている。
【0064】
このような態様によれば、“ON”となる磁気抵抗効果素子601の数をカウントすれば、中継線61に流れる電流によって発生する磁場の強さを推測することが可能となる。このように、図10の態様では、当該磁場の強さは、いわばデジタル的な手法により検知されることになる。
このような手法は、第2実施形態の場合に適用されて好適である。なぜなら、磁気抵抗効果素子は、通常、磁場が印加されたか、されていないかといった、いわばデジタル的な検出用途には優れた性能を発揮するものの、これに対する、いわばアナログ的な用途には向いていないからである(上述のような手法によれば、そのような磁気抵抗効果素子を用いても、アナログ的な運用が可能になる。)。
【0065】
なお、言うまでもないが、図10において、磁気抵抗効果素子の数が5つであるのは、単なる一例を示しているに過ぎない。磁気抵抗効果素子をいくつ設けるかは、画素電極13の形成領域の大きさと第1及び第2磁性層611及び621の形成領域の大きさとの相対的関係等といった物理的制約のほか、どの程度精度の高いフィードバック制御を行うか等といった合目的的配慮等、各種の考慮要素に基づいて適宜定められる。
また、本発明においては、「磁気抵抗効果素子」として、上述したTMR型以外にも、GMR型、CMR型、AMR型等の各種のタイプの利用が基本的には可能である。
【0066】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明に係る発光装置は、上述した形態に限定されることはなく、各種の変形が可能である。
(1) 上記各実施形態で述べたように、本発明にいう「磁場検知手段」は、「ホール素子500」、あるいは「磁気抵抗効果素子601」を含みうるが、本発明は、これら以外の選択肢を当然排除しない。上述の各素子(500及び601)以外では、好適には例えば、「磁気インピーダンス素子」を利用することもできる。ここに磁気インピーダンス素子とは、いわゆるMI効果を利用した素子であり、MI効果とは、高周波電流が流れるアモルファス磁性体に磁場を印加するとその両端のインピーダンスが変化する効果をいう。このような磁気インピーダンス素子については、例えば、文献、「磁気インピーダンス効果を有する積層型薄膜磁界検出素子」,西部他,豊田中央研究所R&Dレビュー,Vol32,No.1(1997.3)において紹介されているように、“薄膜型”の磁界検出素子としての利用可能性が指摘されている。このような薄膜型の素子は特に、本発明にいう「磁場検知素子」として有効に利用されうる。
あるいは、場合によっては、以上述べたようなものも含め、複数種類の磁場検知素子が一装置内で同時に併用されてもよい。
以上を要するに、本発明にいう「磁場検知手段」、ないしは「磁場検知素子」は、「配線」周りに発生する磁場を検知可能であれば、基本的に、どのような態様をもとることができる。
【0067】
(2) 上記各実施形態では、ホール素子500、あるいは磁気抵抗効果素子601の検知対象が中継線61(正確には、「その周りに発生する磁場」であるが、以下同様に略す。)となっているが、本発明は、かかる形態に限定されない。例えば、場合によっては、対向電極5に接続される配線(不図示)が検知対象とされてもよく、あるいは、当該配線及び中継線61の双方が検知対象とされてもよい。特に後者の場合によれば、有機EL素子8の現状把握がより正確になされ得ることになり、したがって、前述したようなフィードバック制御がよりよく行われ得る。
【0068】
(3) 上記第2実施形態では、図10を参照して、磁気抵抗効果素子601を複数並べる態様について説明しているが、この態様は、上述した第1実施形態のホール素子500、あるいはそれ以外の各種の素子に適用可能である。いずれの場合でも、磁場の強さをよりよく検知することに貢献する。
【0069】
<応用例>
次に、本発明に係る発光装置を利用した電子機器について説明する。図11ないし図13には、以上に説明した実施形態に係る有機EL装置を採用した電子機器の形態が図示されている。
【0070】
図11は、有機EL装置を採用したモバイル型のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。パーソナルコンピュータ2000は、各種の画像を表示する有機EL装置100と、電源スイッチ2001やキーボード2002が設置された本体部2010とを具備する。
【0071】
図12は、有機EL装置100を適用した携帯電話機の構成を示す斜視図である。携帯電話機3000は、複数の操作ボタン3001およびスクロールボタン3002と、各種の画像を表示する有機EL装置100とを備える。スクロールボタン3002を操作することによって、有機EL装置100に表示される画面がスクロールされる。
【0072】
図13は、有機EL装置100を適用した携帯情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)の構成を示す斜視図である。携帯情報端末4000は、複数の操作ボタン4001および電源スイッチ4002と、各種の画像を表示する有機EL装置100とを備える。電源スイッチ4002を操作すると、住所録やスケジュール帳といった様々な情報が有機EL装置100に表示される。
【0073】
本発明に係る発光装置が適用される電子機器としては、図11から図13に例示した機器のほか、デジタルスチルカメラ、テレビ、ビデオカメラ、ページャ、電子手帳、電子ペーパー、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、プリンタ、スキャナ、複写機、ビデオプレーヤ、カーナビゲーションシステム等などが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】図1の単位回路の詳細を示す回路図である。
【図3】図1に示す有機EL装置の一部拡大平面図であって、特にホール素子500及びそれに関わる要素の配置を示す図である(なお、この図において、符号361等で表されるコンタクトホールは適宜要部のみに図示している。図8において同じ。)。
【図4】図3のX1―X1’線断面図である。
【図5】ホール素子500に、中継線61を流れる電流によって発生する磁場が印加される様子を模式的に示した図である。
【図6】図3のX2―X2’線断面図である。
【図7】有機EL素子の電流-輝度特性を表すグラフである。
【図8】図3と同趣旨の図であって、本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の一部拡大平面図であって、特にホール素子500及びそれに関わる要素の配置を示す図である。
【図9】図3のY−Y’線断面図である。
【図10】図7及び図8に示す磁気抵抗効果素子601を中継線61と交わる方向に沿って複数並べる態様を模式的に示した図である。
【図11】本発明に係る電子機器の形態(パーソナルコンピュータ)を示す斜視図である。
【図12】本発明に係る電子機器の形態(携帯電話機)を示す斜視図である。
【図13】本発明に係る電子機器の形態(携帯情報端末)を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0075】
7……素子基板、7a……画像表示領域、8……有機EL素子、13……画素電極、18……発光機能層、5……対向電極、9……第2トランジスタ(駆動トランジスタ)、1……半導体層、61……中継線、500……ホール素子、501……半導体層、502,503……第1,第2電流供給線、504,505……第1,第2電圧検知線、550……磁場検知回路、C……有機EL装置制御回路、601……磁気抵抗効果素子、602……第1電極用配線、602a……第1電極、603……第2電極用配線、603a……第2電極、
3……走査線、6……データ線、113……電源供給線、34……反射層、103A,103B……走査線駆動回路、106……データ線駆動回路、106A……プリチャージ回路、201……電源線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
当該基板上に構築される第1及び第2電極層、及び、これらに挟持される発光機能層を含む、発光素子と、
前記第1及び第2電極層のいずれか一方に電気的に接続される配線と、
前記配線に流れる電流によって発生する磁場を検知する磁場検知手段と、
前記磁場検知手段の検知結果に応じて前記発光素子に流れる電流の大きさを制御する制御手段と、
を備える、
ことを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記磁場検知手段は、ホール素子を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記発光素子を駆動するための駆動トランジスタと、
前記駆動トランジスタに含まれ、前記第1電極層に電気的に接続される第1半導体層と、
を更に備え、
前記ホール素子は、
前記第1半導体層が形成される下地膜の上に、かつ、当該第1半導体層と同時に形成される第2半導体層を含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記磁場検知手段は、磁気抵抗効果素子を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項5】
前記磁場検知手段は、磁気インピーダンス素子を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項6】
前記磁場検知手段は、磁場検知素子を含み、
当該磁場検知素子は、
前記基板を平面視した場合、前記発光機能層の形成領域の一部と重なるように形成されており、かつ、
前記第1及び第2電極層のうち前記発光機能層からみて前記磁場検知素子が存在しない側の電極層は透光性をもつ、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項7】
前記磁場検知手段は、複数の磁場検知素子を含み、
これら複数の磁場検知素子は、
前記配線の延在方向に交わる方向に沿って並ぶ、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項8】
前記磁場検知手段は、磁場検知素子を含み、
当該磁場検知素子は、
前記配線との間に少なくとも1層の層間絶縁膜を挟んで形成される、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項9】
前記配線は、
前記第1電極層に電気的に接続される第1配線、及び、前記第2電極層に電気的に接続される第2配線を含み、
前記磁場検知手段は、
前記第1配線に対応する第1磁場検知素子、及び、前記第2配線に対応する第2磁場検知素子を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の発光装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の発光装置を備える、
ことを特徴とする電子機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−198764(P2009−198764A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39761(P2008−39761)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】