説明

発光装置

【課題】高精細、高輝度かつ狭指向性を有し、比較的簡単な製作プロセスで製作できる発光装置を提供すること。
【解決手段】発光体基板10に、下部電極20、有機発光層40と、上部透明電極50とを積層して構成した発光部44の直上部のコア層60に発光部44において発生した光を伝搬するための光導波回折格子67を形成すると共に、光導波回折格子67の間に、隣り合う発光部において発生した光の伝搬を遮断するための光アイソレート回折格子68を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント装置の露光ヘッド等に利用される発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL素子をプリント装置の露光ヘッド等の光源として利用する試みが各種なされてきている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、有機EL素子のアレイの個々の素子に対応させてマイクロレンズを配置する構成において、各有機EL素子において発生した光の集光位置に、隣接する有機EL素子からの光が混入するのを遮る光学的な穴が設けられた隔壁を有機EL素子の発光側に配置することにより、露光ヘッドにおけるクロストークを低減させ、十分な解像力で各有機EL素子からの光を集光できるようにしている。
【0004】
また、特許文献2においては、有機EL素子の発光側に整列してマイクロレンズアレイ板を配置し、マイクロレンズアレイ板の入射側の面に、各有機EL素子を囲む溝を設け、その溝内に吸収層又は反射層を配置することにより、露光ヘッドにおけるクロストークを低減させ、十分な解像力で各有機EL素子からの光を集光できるようにしている。
【特許文献1】特開2003−291404号公報
【特許文献2】特開2003−291406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記した特許文献1及び特許文献2は、何れも有機EL素子毎に光学的な開口、マイクロレンズ、反射層、吸収層等を形成しなければならない。これらの構造は、プリント装置を高解像度化するほど微細化する必要があるため、その分だけ加工コストが上がり、場合によっては加工そのものが困難となる。
【0006】
また、上記特許文献1及び特許文献2は、光学的には有機EL素子に対してマイクロレンズの径が同程度の大きさである。そして、1枚レンズの構造であるため、集光位置が有機EL素子に非常に近くなり、像坦持体に集光するためには露光ヘッドと像担持体とを限りなく近づけなければならない。やむを得ず、結像点を離す場合には像が拡大されて解像度は低下し、さらに光量も低下することになる。また、結像ではなく狭指向性を利用して露光する場合にも、露光ヘッドを像担持体に限りなく近づけなければならない。
【0007】
さらには、マイクロレンズを用いる構造の場合、露光ヘッドの光照射面が凸形状となるため、露光ヘッドの光照射面にトナー等が付着した場合に容易に取り除くことができない。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、高精細、高輝度かつ狭指向性を有し、比較的簡単な製作プロセスで製作できる発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、発光層と、前記発光層を狭挟して前記発光層に電界を与えて前記発光層を発光させるための、対向する第1の電極及び第2の電極とを有して第1の基板の一面に形成され、前記発光層から発光した光を前記第1の電極から出射する複数の発光部が直線状に配列された発光部アレイと、前記発光部アレイにおける前記複数の発光部のそれぞれに対応して形成され、前記第1の電極から出射された光を前記複数の発光部の配列方向に直交方向に伝搬させて出射する複数の光導波回折格子と、前記複数の光導波回折格子のそれぞれの間に形成され、前記発光部の前記第1の電極から出射された光の隣り合う前記発光部への伝搬を遮断する複数の光アイソレート回折格子と、を具備することを特徴とする発光装置である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発光装置において、前記光導波回折格子は、ブラッグ条件の空間周期を有する分布帰還型の回折格子であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発光装置において、前記光導波回折格子は、λ/4位相シフト構造を有する回折格子であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の発光装置において、前記光アイソレート回折格子は、相異なる周期的摂動の単位セルから反射される前記隣り合う発光部からの光が打ち消し合う位相で重なる空間周期からなる回折格子であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発光装置において、前記複数の光導波回折格子及び前記複数の光アイソレート回折格子は、第2の基板の一面に積層して形成された屈折率が異なる2つの回折格子形成層の界面に設けられた回折格子形状により形成され、前記第1の基板の前記一面側と、前記第2の基板の前記一面側とが対向して設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発光装置において、前記第2の基板の前記一面上と前記2つの回折格子形成層との間の、前記各発光部と対向する位置に形成され、前記発光部から出射され、前記第2の基板の前記一面側に入射した光を前記光導波回折格子側に反射させる反射部を更に具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、直線状に配列される複数の発光部のそれぞれに対応して光導波回折格子を形成して、各発光部から出射した光を発光部の配列方向に直交方向に伝搬させて出射させ、各光導波回折格子間に光アイソレート回折格子を形成して隣り合う発光部間に光が伝搬しないようにして、高精細、高輝度かつ狭指向性を有し、比較的簡単な製作プロセスで製作できる発光装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る発光装置1000を模式的に示す3断面図である。なお、図1(a)は発光装置1000の上面断面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A線断面図であり、図1(c)は図1(a)のB−B線断面図である。
【0017】
図1(c)に示すように、発光装置1000は、有機EL発光体形成層100に導波路形成層200を積層した構造により構成されている。また、図1(c)において、矢印C方向は光の伝搬方向を示している。更に、発光装置1000の光出射面と対向する側の面には例えばアルミ薄膜からなる反射板300が形成されている。なお、反射板300の代わりに遮光板を形成しても良い。
【0018】
有機EL発光体形成層100は、例えばガラス基板からなる発光体基板(第1の基板)10に、フォトレジストによって例えばAlからなる下部電極(第2の電極)20をパターニングした後で、導波路形成層200におけるクラッド層の役割を兼ねた絶縁層30を積層し、その後に例えばフォトレジストによって絶縁層30に開口をパターニングし、該開口に、有機発光層40、及び例えばITO(インジウムスズ酸化物)からなる上部透明電極(第1の電極)50を順に積層して発光部44を形成することにより構成されている。
【0019】
ここで、図1(a)に示すように、発光部44は、直線状に複数配列されて形成されて、発光部アレイをなしている。それぞれの発光部44は個別に発光制御可能とするために、矢印Cで示す光出射方向に対して長尺形状に形成されている。また、下部電極20と上部透明電極50からは、図1(a)に示すようにして配線が引き出され、図示しない発光装置の駆動装置に接続されている。
【0020】
このような構成において、下部電極20と上部透明電極50とを介して有機発光層40に電界が印加されると、有機発光層40を構成する電子輸送層とホール輸送層との間で電子及びホールの移動が起こり、その結果、電子とホールとが発光層において再結合して発光が起きる。
【0021】
ここで、有機EL発光体形成層100の各材料は、従来の有機EL発光素子に用いられる各種材料を用いることができる。ただし、下部電極20は、有機発光層40から発光体基板10側に出射された光を導波路形成層200側へ戻すために、高い光反射率を有する金属材料(例えば、AlやAgなど)で形成することが望ましい。
【0022】
導波路形成層200は、絶縁層30と共にクラッド層の役割を兼ねる導波路基板(第2の基板)55と、コア層60とにより形成されている。
【0023】
発光部44において発生した光が伝搬されるコア層60は、互いに屈折率の異なる第1の層60aと第2の層60bとからなり、第1の層60aと第2の層60bとの境界領域に回折格子66が形成されている。
【0024】
ここで、コア層60の第1の層60aと第2の層60bとの間に形成される回折格子66は、2種類の光導波回折格子67、68を図1(a)、図1(b)及び図1(c)に示すように配置することで構成されている。
【0025】
即ち、長尺形状の発光部44において発生した光の伝搬方向には、位相が一致して光帰還するブラッグ条件の回析格子を有する光導波回折格子67を発光部44の直上部に該発光部44と対となるような位置に配置している。もう1種類の回折格子は、隣り合う発光部44間のスペース直上部に、位相が180度ずれて光帰還する条件の回折格子を有する光アイソレート回折格子68を配置している。なお、光アイソレート回折格子68は光導波回折格子67に対して直交する方向に形成されている。
【0026】
ここで、光導波回折格子67は、例えばブラック条件を満たす空間周期で格子間隔が設定される分布帰還型の回折格子である。即ち、光導波回折格子67は、発光部44から第1の層60aを介して入射する光の波長をλ、回折格子の格子間隔をΛとした場合に、
Λ=m(λ/2) m=1,2,3,… (式1)
で示すブラッグ条件が成立するように構成される。図2は、分布帰還型の光導波回折格子67を示した図である。例えば、発光部44の発光した光が空気中を伝わる際の波長をλ0=750nmとし、回折格子を構成する材料の平均屈折率をn1=1.5とすると、回折格子に入射する光の波長λg(=λ)は、
λg=λ=λ0/n1=500nm (式2)
となる。したがって、図2に示す格子間隔Λは、(式1)より250nmの自然数倍した寸法、即ちΛ=250、500、750、1000、1250、1500…の中から選択可能である。ただし、格子間隔が小さくなるほど、回折格子に入射した光の位相が一致して帰還する回数が多くなるので、格子間隔Λは精度良く製作可能な最小の間隔とすることが望ましい。
【0027】
図2のようなブラッグ条件の分布帰還型の回折格子を形成することにより、発光部44において発生し、回折格子の各単位セルから反射された光が導波路形成層200内で共振し、結果として光が増幅される。したがって、波長選択性及び指向性に優れ、発光スペクトル幅の狭い光を得ることができる。
【0028】
ここで、光導波回折格子67は、図3に示すようなλ/4位相シフト構造を有することが好ましい。λ/4位相シフト構造は、上記(式1)の関係を満たす空間周期の格子とその半分の空間周期(=Λ/2)の格子との組み合わせで構成される。例えば、回折格子に入射する光の波長λg(=λ)を上記と同様の500nmとすると、図3に示す格子間隔Λ及びΛ/2はそれぞれ250と125、500と250、750と375、1000と500、1250と625、1500と750…の中から選択可能である。この場合も、格子間隔Λ及びΛ/2は精度良く製作可能な最小の間隔とすることが望ましい。
【0029】
このように、光導波回折格子67をλ/4位相シフト構造とすることにより、出射光の位相を一致させ、より単一モードの光を出射することができる。なお、λ/4位相シフト構造の回折格子の代わりに、利得結合型構造の回折格子を用いても良い。
【0030】
また、光アイソレート回折格子68は、ブラッグ条件を満たさない空間周期で格子間隔が設定される回折格子である。即ち、上記(式1)の条件を満たさないようにするため、入射光の波長λの非自然数倍となるように格子間隔Λが設定される。このような回折格子を形成することにより、格子の各単位セルから反射される隣り合う発光部44からの光が打ち消されるので、クロストークを低減させて各発光部から光を出射できる。
【0031】
ここで、導波路形成層200の回折格子構造は、コア層の第1の層60aを形成するための薄層樹脂、例えばポリメタクリル酸メチル[PMMA]、ポリカーボネート[PC]、ポリイミド[PI]等の光透過性の良い、光学特性の優れた樹脂材料を、例えばガラス材料の導波路基板55に薄層コーティングした基材に対して、例えば熱式ナノインプリント法により前述の回折格子形状を転写形成することで作成することができる。なお、回折格子構造の作成手法は、熱式ナノインプリント法に限るものではなく、例えば射出成型法により作成するようにしても良い。
【0032】
このように第1の層60aに形成された回折格子66の上に第1の層60aと屈折率の異なる第2の層60bを塗布して平坦化することにより導波路形成層200を製作することができる。なお、第1の層60aと第2の層60bとは屈折率が異なっていれば良く、例えば第1の層60aにポリメタクリル酸メチルを用い、第2の層60bにポリカーボネートを用いたり、逆に第1の層60aにポリカーボネートを用い、第2の層60bにポリメタクリル酸メチルを用いたりすることができる。
【0033】
このように導波路形成層200は、導波路基板55にコーティングした薄層樹脂層に対して形状を形成しているため樹脂部の熱収縮等による歪や寸法変動を低く抑えることが可能となる。
【0034】
ここで、有機EL発光体形成層100の発光体基板10も導波路基板55と同様の材料(例ではガラス材料)を選定することにより寸法精度、熱膨張が同レベルとなる。これにより接合が容易となり、特に微細ピッチのアレイを形成する場合の歩留を向上させることが可能となる。
【0035】
また、有機EL発光体形成層100の有機発光層40は一般に水分等の吸湿により著しく寿命が低下する。これに対し、本実施形態においては、発光部44を基板端面に対してガスバリア可能な十分な内側位置に配置することが可能であり、このように内側位置に配置した発光部44に、導波路形成層200を積層させることにより有機ELを封止でき、発光部44からの光を光導波回折格子67により発光装置の光出射面に導くことができる。
【0036】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図4は、本実施形態に係る発光装置1000を模式的に示す3断面図である。なお、図4(a)は発光装置1000の上面断面図であり、図4(b)は図4(a)のA−A線断面図であり、図4(c)は図4(a)のB−B線断面図である。
【0037】
本実施形態の発光装置1000は、第1の実施形態と同様に、有機EL発光体形成層100に導波路形成層200を積層した構造より構成されている。第2の実施形態と第1の実施形態との違いは、導波路基板(第2の基板)55とコア層60との間に反射部としての反射ミラー80が形成されている点である。その他の構造は第1の実施形態と同じであるので説明を省略する。
【0038】
反射ミラー80は、AlやAg等の高反射率材料を、例えば蒸着により導波路基板55上に成膜することにより形成される。なお、反射ミラー80は、数層の誘電体を成膜する増反射ミラーにすることがより望ましい。このような反射ミラー80を設けることにより、発光部44において発光した光が導波路基板55側に入射してきた場合でも、該入射した光が反射ミラー80によって光導波回折格子67の側に反射されるので、光の閉じ込め率を第1の実施形態よりも向上させることができる。
【0039】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0040】
さらに、上記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、上述したような課題を解決でき、上述したような効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る発光装置を模式的に示す3断面図である。
【図2】分布帰還型の光導波回折格子を示した図である。
【図3】λ/4位相シフト構造の光導波回折格子を示した図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る発光装置を模式的に示す3断面図である。
【符号の説明】
【0042】
10…発光体基板、20…下部電極、30…絶縁層、40…有機発光層、44…発光部、50…上部透明電極、55…導波路基板、60…コア層、60a…第1の層、60b…第2の層、66…回折格子、67…光導波回折格子、68…光アイソレート回折格子、80…反射ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層と、前記発光層を狭挟して前記発光層に電界を与えて前記発光層を発光させるための、対向する第1の電極及び第2の電極とを有して第1の基板の一面に形成され、前記発光層から発光した光を前記第1の電極から出射する複数の発光部が直線状に配列された発光部アレイと、
前記発光部アレイにおける前記複数の発光部のそれぞれに対応して設けられ、前記第1の電極から出射された光を前記複数の発光部の配列方向に直交方向に伝搬させて出射する複数の光導波回折格子と、
前記複数の光導波回折格子のそれぞれの間に形成され、前記発光部の前記第1の電極から出射された光の隣り合う前記発光部への伝搬を遮断する複数の光アイソレート回折格子と、
を具備することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
前記光導波回折格子は、ブラッグ条件の空間周期を有する分布帰還型の回折格子であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記光導波回折格子は、λ/4位相シフト構造を有する回折格子であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
前記光アイソレート回折格子は、相異なる周期的摂動の単位セルから反射される前記隣り合う発光部からの光が打ち消し合う位相で重なる空間周期からなる回折格子であることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項5】
前記複数の光導波回折格子及び前記複数の光アイソレート回折格子は、第2の基板の一面に積層して形成された屈折率が異なる2つの回折格子形成層の界面に設けられた回折格子形状により形成され、前記第1の基板の前記一面側と、前記第2の基板の前記一面側とが対向して設けられていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項6】
前記第2の基板の前記一面上と前記2つの回折格子形成層との間の、前記各発光部と対向する位置に形成され、前記発光部から出射され、前記第2の基板の前記一面側に入射した光を前記光導波回折格子側に反射させる反射部を更に具備することを特徴とする請求項5に記載の発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−91129(P2008−91129A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268948(P2006−268948)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】