説明

発泡ポリ乳酸系樹脂組成物及びこれを用いた成形品

【課題】汎用のポリ乳酸を用いて耐熱性に優れた発泡ポリ乳酸系樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリ乳酸100重量部に対し、下記一般式で表される鎖状アミド化合物又は鎖状ヒドラジド化合物、及び、特定の環状アミド化合物又は環状ヒドラジド化合物のうちから選択される一種以上のアミド系化合物0.01〜10重量部が配合されてなる発泡ポリ乳酸系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸に発泡剤と特定の化合物を添加することで優れた耐熱性を実現した発泡ポリ乳酸系樹脂組成物およびこれを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境保護の見地から、自然環境中で分解する生分解性ポリマー及びその成形品が求められ、脂肪族ポリエステルなどの自然分解性樹脂の研究が活発に行われている。特に、乳酸系ポリマーは融点が140〜180℃と十分に高く、しかも透明性に優れるため、包装材料や透明性を生かした成形品等として大いに期待されている。
【0003】
しかし、乳酸系ポリマーの射出成形等による容器は、剛性には優れているが、耐熱性が低く、あるいは耐熱性および耐衝撃性が共に低く、例えば包装容器では熱湯又は電子レンジを使用することができず、用途が限定されている。
【0004】
耐熱性を付与するには成形加工時に金型冷却を長時間にするか、また、成形後に成形品をアニール処理して高度に結晶化する必要があった。しかし、成形時における長時間の冷却工程は実用的でなく、かつ結晶化が不十分になり易く、また、アニールによる後結晶化は成形品が結晶化する過程で変形しやすい欠点がある。
【0005】
上記欠点を克服するため、例えば特許文献1には、ラクチド熱可塑性プラスチックへのシリカ、カオリナイトのような無機化合物の充填剤の添加により、硬度、強度、温度抵抗性の性質を変えることが、特許文献2には、核剤として乳酸塩、安息香酸塩を用いることが、特許文献3には、核剤としてポリグリコール酸及びその誘導体をポリL−ラクチド等に加え、結晶化速度を上昇させることにより、射出成形サイクル時間を短縮させ、かつ、優れた力学的性質を有することが、また、特許文献4〜6には、ポリ乳酸及び脂肪族ポリエステルに対して、芳香族及び脂肪族カルボン酸アミド化合物を混合することで、結晶性、透明性に優れかつ耐熱性に優れた組成物及び成形体が得られることが、それぞれ開示されている。
【0006】
一方、樹脂成形品においては、発泡体とすることで、軽量化したり、断熱性、遮音性を付与したり、緩衝材とすることが広く行われている。例えば、発泡剤が成形時の熱で分解して急激にガスを発生し、このガスが気泡となって樹脂内に残ることで発泡成形品となる。しかし、ポリ乳酸系樹脂の発泡体では耐熱性が低く、熱湯や電子レンジで調理した食品などと接触した場合に変形してしまうため、ポリ乳酸を用いた発泡成形品は限られた用途でしか用いられなかった。
【0007】
特許文献7には、ポリプロピレンに発泡剤とともに2−ヒドロキシベンズアミド−1,2,4−トリアゾール−3−イルなどを用いることで発泡成形品のセルを均一にする方法が提案されている。また、ステアリン酸亜鉛などの発泡助剤を用いることで発泡剤の分解温度を低下させることも公知である。
【0008】
しかし、特許文献7に提案されている2−ヒドロキシベンズアミド−1,2,4−トリアゾール−3−イルは、ポリプロピレンにおいてはセルの均一化に効果を示すものの、結晶性や加工温度、加工時の粘度などが異なるポリ乳酸系樹脂では効果を示さず、ステアリン酸亜鉛を添加すると、分解温度の低下により発泡の制御が困難となる。
【0009】
ポリ乳酸などの生分解性樹脂の発泡体については、特許文献8には特定の溶融粘度、融点を有する脂肪族ポリエステルを用いることが、特許文献9にはタルクとエチレンビスステアリルアミドを併用することが、特許文献10には特定の溶融粘度、溶融張力を有する脂肪族ポリエステルを用いることが、特許文献11には特定の分子量分布を有する生分解性樹脂に架橋助剤を配合し、電子線架橋した発泡体が、特許文献12にはd体とl体のモル比が規定されたポリ乳酸に架橋助剤を配合し、熱分解型発泡剤を用いた発泡体でゲル分率が10%以上の発泡体が、それぞれ開示されている。
【特許文献1】特表平4−504731号公報(WO90/01521)(特許請求の範囲)
【特許文献2】特表平6−504799号公報
【特許文献3】特開平4−220457号公報
【特許文献4】特開平9−278991号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平10−87975号公報
【特許文献6】特開平11−5849号公報
【特許文献7】特開平1−203441号公報
【特許文献8】特開平6−248104号公報(特許請求の範囲)
【特許文献9】特開平10−81815号公報
【特許文献10】特開2003−335889号公報(特許請求の範囲)
【特許文献11】特開2004−352751号公報(特許請求の範囲)
【特許文献12】特開2005−8869号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記の提案は、特許文献9以外はいずれも樹脂の特定を制御、選択することで優れた発泡体を提供することを提案しているもので、結果的に使用できるポリ乳酸が限定されるため、得られる成形品の特性も限定される。また、特許文献9の提案についても、発泡体の特性が改善されてはいるものの、未だ満足のいくものではなかった。
【0011】
そこで本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、特に樹脂物性の限定なしで、汎用のポリ乳酸を用いて耐熱性に優れた発泡ポリ乳酸系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリ乳酸に対し、特定の構造を有する鎖状アミド化合物、環状アミド化合物、鎖状ヒドラジド化合物及び環状ヒドラジド化合物のうちから選択されるアミド系化合物を配合することで上記目的が達成できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸100重量部に対し、下記一般式(I)で表される鎖状アミド化合物又は鎖状ヒドラジド化合物、及び、下記一般式(II)〜(VII)のうちのいずれかで表される環状アミド化合物又は環状ヒドラジド化合物のうちから選択される一種以上のアミド系化合物0.01〜10重量部が配合されてなることを特徴とするものである。

(式(I)中、Ra、Rb及びRcは、各々独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリール基、又は結合して環状構造(該環状構造の炭素原子数は、縮合環の全炭素原子数として10〜18)を表し、Rは、直接結合、n価の炭素原子数2〜30の炭化水素基、複素環、又は下記式(I−a)、

(式(I−a)中、R’は、n価の炭素原子数1〜30の炭化水素基又は複素環を表し、Xは直接結合又は炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、nは1〜3の数を表す。)で表される基を表し、nは1〜3の数を表す。)

(式(II)〜(VII)中、A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、A8、A9、B1、B2、B3、B4、B5、B6、B7、B8、B9、B10、B11およびB12は各々独立に−CH2−、−C(=O)−、−C(=S)−、−NH−、−NR13−、又は−S(=O)2−を表し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、又は炭素原子数6〜18のアリール基を表し、R13は−NH2、−NHR14、−NHC(=O)−R15、炭素原子数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、又は炭素原子数6〜18のアリール基を表し、R14、R15は炭素原子数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、又は炭素原子数6〜18のアリール基を表す。ただし、A1、A2、A3のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、A4、A5、A6のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、A7、A8、A9のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、B1、B2、B3、B4のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、B5、B6、B7、B8のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、B9、B10、B11、B12のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−である。)
【0014】
本発明において、前記アミド系化合物としては、安息香酸アミド構造を有する化合物が好適である。
【0015】
また、本発明においては、前記アミド系化合物として、縮合複素環構造を有する化合物も好適である。
【0016】
さらに、本発明においては、前記アミド系化合物として、デカンジカルボン酸ビスベンゾイルヒドラジドも好適である。
【0017】
さらにまた、本発明においては、前記アミド系化合物として、フタル酸ヒドラジドも好適である。
【0018】
また、本発明の耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品は、上記の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上記構成としたことで、特に樹脂物性の限定なしで、汎用のポリ乳酸を用いて耐熱性に優れた発泡ポリ乳酸系樹脂組成物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明においてポリ乳酸(乳酸系ポリマー)とは、ポリ乳酸ホモポリマーの他、ポリ乳酸コポリマー、さらにポリ乳酸ホモポリマーとコポリマーとのブレンドポリマーを含む。また、本発明の特徴である結晶性を損なわない範囲であれば、ポリ乳酸ホモポリマー及び/又はポリ乳酸コポリマーを主体とするブレンドポリマーであってもよい。
【0021】
ポリ乳酸の重量平均分子量は、一般に5万〜50万、好ましくは10万〜25万である。重量平均分子量が5万未満では、実用上必要な物性が得られず、一方、重量平均分子量が50万を超えると、成形性が悪くなり易い。
【0022】
また、ポリ乳酸におけるL−乳酸単位及びD−乳酸単位の構成モル比L/Dは、100/0〜0/100のいずれであってもよいが、高い融点を得るにはL−乳酸あるいはD−乳酸のいずれかの単位を75モル%以上、更に高い融点を得るにはL−乳酸あるいはD−乳酸のいずれかの単位を90モル%以上含むことが好ましい。
【0023】
乳酸コポリマーは、乳酸モノマー又はラクチドと共重合可能な他の成分とが共重合されたものである。このような他の成分としては、2個以上のエステル結合形成性の官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等、及びこれら種々の構成成分より成る各種ポリエステル、各種ポリエーテル、各種ポリカーボネート等が挙げられる。
【0024】
ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
【0025】
多価アルコールの例としては、ビスフェノールにエチレンオキサイドを付加反応させたものなどの芳香族多価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族多価アルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のエーテルグリコール等が挙げられる。
【0026】
ヒドロキシカルボン酸の例としては、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、その他特開平6−184417号公報に記載されているもの等が挙げられる。
【0027】
ラクトンとしては、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、ε−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0028】
ポリ乳酸は、従来公知の方法で合成することができる。すなわち、特開平7−33861号公報、特開昭59−96123号公報、高分子討論会予稿集第44巻、3198−3199頁に記載のような乳酸モノマーからの直接脱水縮合、又は乳酸環状二量体ラクチドの開環重合によって合成することができる。
【0029】
直接脱水縮合を行う場合、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、又はこれらの混合物のいずれかの乳酸を用いてもよい。また、開環重合を行う場合においても、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、meso−ラクチド、又はこれらの混合物のいずれのラクチドを用いてもよい。
【0030】
ラクチドの合成、精製及び重合操作は、例えば米国特許4057537号明細書、公開欧州特許出願第261572号明細書、Polymer Bulletin,14,491−495(1985)、及びMacromol.Chem.,187,1611−1628(1986)等の文献に様々に記載されている。
【0031】
この重合反応に用いる触媒は、特に限定されるものではないが、公知の乳酸重合用触媒を用いることができる。例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α−ナフトエ酸スズ、β−ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ等のスズ系化合物、粉末スズ、酸化スズ、亜鉛末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物、三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物、酸化ビスマス(III)等のビスマス系化合物、酸化アルミニウム、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウム系化合物等を挙げることができる。
【0032】
これらの中でも、スズ又はスズ化合物からなる触媒が活性の点から特に好ましい。これらの触媒の使用量は、例えば開環重合を行う場合、ラクチドに対して0.001〜5重量%程度である。
【0033】
重合反応は、上記触媒の存在下、触媒種によって異なるが、通常100〜220℃の温度で行うことができる。また、特開平7−247345号公報に記載されているような2段階重合を行うことも好ましい。
【0034】
ポリ乳酸を主体としたブレンドポリマーとは、例えばポリ乳酸ホモポリマー及び/又は乳酸コポリマーとポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルとを混合、溶融して得られた混合物であり、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルのブレンドにより成形品に柔軟性、耐衝撃性を付与することができる。ブレンドの重量割合は、通常、ポリ乳酸ホモポリマー及び/又は乳酸コポリマー100重量部に対して、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル10〜100重量部程度である。
【0035】
本発明において、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル(以下、単に「脂肪族ポリエステル」という)は、1種のポリマー又は2種以上のポリマーの複合でもよく、例えば、ポリマーとしては、脂肪族カルボン酸成分と脂肪族アルコール成分とからなるポリマーや、ε−カプロラクトンなど環状無水物を開環重合して得られた脂肪族ヒドロキシカルボン酸ポリマーなどが挙げられる。これらを得るには、直接重合して高分子量物を得る方法と、オリゴマー程度に重合した後、鎖延長剤等で高分子量物を得る間接的な方法がある。また、脂肪族ポリエステルは、主として上記脂肪族モノマー成分を含んで構成されるポリマーであれば、共重合体であってもよく、あるいは他樹脂との混合物であってもよい。
【0036】
本発明に使用される脂肪族ポリエステルは、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとからなることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の化合物、又はこれらの無水物や誘導体が挙げられる。一方、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのグリコール系化合物、及びこれらの誘導体が一般的である。これらの脂肪族ジカルボン酸や脂肪族ジオールはいずれも、炭素数2〜10のアルキレン基、シクロ環基又はシクロアルキレン基をもつモノマーである。これら脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールの中から選択されたモノマー化合物の重縮合により脂肪族ポリエステルが製造される。カルボン酸成分あるいはアルコール成分のいずれにおいても、2種以上用いても構わない。
【0037】
また、溶融粘度の向上のためにポリマー中に分岐を設ける目的で、脂肪族ポリエステルの成分として、3官能以上の多官能のカルボン酸、アルコールあるいはヒドロキシカルボン酸を用いても構わない。これらの成分は、多量に用いると得られるポリマーが架橋構造を持ち、熱可塑性ではなくなる場合や熱可塑性であっても部分的に高度に架橋構造をもったミクロゲルを生じる場合がある。従って、これら3官能以外の成分は、ポリマー中に含まれる割合はごくわずかで、ポリマーの化学的性質、物理的性質を大きく左右するものではない程度に含まれる。多官能成分としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸あるいはペンタエリスリットやトリメチロールプロパンなどを用いることができる。
【0038】
脂肪族ポリエステルの製造方法のうち、直接重合法は、上記の化合物を選択して化合物中に含まれる、あるいは重合中に発生する水分を除去しながら高分子量物を得る方法である。また、間接重合法は、上記化合物を選択してオリゴマー程度に重合した後、分子量増大を目的として、少量の鎖延長剤、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物を使用して高分子量化する方法である。あるいはカーボネート化合物を用いて脂肪族ポリエステルカーボネートを得る方法がある。
【0039】
前記一般式(I)におけるRa、Rb及びRcで表される炭素原子数1〜8のアルキル基としてはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル等が挙げられる。Ra、Rb及びRcで表される炭素原子数1〜8のアルコキシ基としては、例えば、上記アルキル基に対応するアルコキシ基が挙げられる。
【0040】
また、前記一般式(I)におけるRa、Rb及びRcで表される炭素原子数6〜18のアリール基としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル等が挙げられる。
【0041】
さらに、前記一般式(I)におけるRa、Rb及びRcのうちいずれか2個が結合した環状構造(炭素原子数は、縮合環の全炭素原子数として10〜18)としては、ナフチル等が挙げられる。
【0042】
前記一般式(I)におけるRで表されるn価の炭素原子数2〜30の炭化水素基及びR’で表されるn価の炭素原子数1〜30の炭化水素基を形成する炭化水素としては、例えば、直鎖又は分岐のエタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン等の脂肪族飽和炭化水素、エチレン、プロペン、ブテン、ブタジエン、ドデセン等の脂肪族不飽和炭化水素、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ターフェニル等の芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0043】
また、RおよびR’で表される複素環としては、以下に示す構造を有するもの等が挙げられる。

【0044】
前記一般式(I)において、Rは、好ましくは複素環又は下記式(I−a)で表される基であり、nは、好ましくは1又は2である。また、下記式(I−a)において、R’は、好ましくは炭素原子数2〜22のアルキレン基である。

【0045】
前記一般式(I)で表される化合物としては、より具体的には、以下の化合物No.1〜10等が挙げられる。ただし、本発明は、以下の化合物により何ら制限されるものではない。
化合物No.1


化合物No.2


化合物No.3


化合物No.4


化合物No.5


化合物No.6


化合物No.7


化合物No.8


化合物No.9


化合物No.10

【0046】
また、前記一般式(II)〜(VII)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15で表される炭素原子数1〜18のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、第三ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2−エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、イソデシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル等が挙げられる。アルケニル基としては、例えば、ビニル、プロペニル、ブテニル、オクテニル、オレイルなどが挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。
【0047】
さらに、前記一般式(II)〜(VII)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11及びR12で表される炭素原子数1〜18のアルコキシ基としては、例えば、上記アルキル基に対応するアルコキシ基が挙げられる。
【0048】
また、前記一般式(II)〜(VII)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11及びR12で表されるハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素などが挙げられる。
【0049】
さらにまた、前記一般式(II)〜(VII)におけるR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14及びR15で表される炭素原子数6〜18のアリール基としては、フェニル、ナフチル、ビフェニル等が挙げられる。
【0050】
上記一般式(II)〜(VII)で表される化合物としては、より具体的には、以下の化合物No.11〜25等が挙げられる。ただし、本発明は以下の化合物により何ら制限されるものではない。
化合物No.11


化合物No.12


化合物No.13


化合物No.14


化合物No.15


化合物No.16


化合物No.17


化合物No.18


化合物No.19


化合物No.20


化合物No.21


化合物No.22


化合物No.23


化合物No.24


化合物No.25

【0051】
上記アミド系化合物は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部用いることが好ましい。0.01重量部より少ないと添加効果が不十分であり、10重量部より多いとポリ乳酸系樹脂組成物の表面に噴出するなどの現象が発生するようになる。
【0052】
上記アミド化合物のなかで、安息香酸アミド構造を有する化合物、特に、デカンジカルボン酸ビスベンゾイルヒドラジドが、得られる発泡ポリ乳酸系樹脂成形品の耐熱性に特に優れるので好ましい。
【0053】
また、上記アミド化合物のなかで縮合複素環構造を有する化合物は、融点が200℃以上とポリ乳酸系樹脂の融点より高く、特にフタル酸ヒドラジドは融点が300℃以上と高く、樹脂の結晶化が開始する時点で結晶化の核となることが期待できるほか、樹脂からの噴出が少ないので好ましい。
【0054】
本発明におけるポリ乳酸系樹脂の発泡方法としては、特に限定されず、従来公知の発泡樹脂組成物の製造方法のいずれも用いることができる。例えば、熱分解型の発泡剤や揮発性発泡剤をポリ乳酸系樹脂、アミド系化合物及び他の配合物と混合して分解温度以上で成形することにより製造できる。また、架橋剤や電子線を用いて架橋させることで発泡体の強度を向上することもできる。
【0055】
上記の加熱分解型発泡剤としては、有機系及び無機系の各種加熱分解型発泡剤であり、有機系発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、P−P’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド等である。また、無機系発泡剤としては重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、カルシウムアジド等である。
【0056】
上記揮発性発泡剤としては、プロパン、ブタン、ペンタン、イソブタン、ネオペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ブタジエン等の脂肪族炭化水素類、さらには、メチルクロライド、メチレンクロライド、ジクロロフルオロメタン、クロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン等のハロゲン化炭化水素類である。このような揮発性発泡剤を用いて発泡体を製造するには、脂肪族ポリエステルを主成分とする原料を押出機で溶融、混練しながら揮発性発泡剤を注入したり、該原料に揮発性発泡剤を含浸させたものを押出機から大気中に押し出すことによって発泡体を製造することができる。
【0057】
上記架橋剤としては、分解温度が樹脂の融点以上である有機過酸化物であり、ジクミルパーオキサイド、クメンヒドロペルオキシド、メチルエチルケトンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネイト等が挙げられる。
【0058】
また、本発明において、架橋するには、電子線、β線、ガンマ線等の電離性放射線を用いることもできる。放射線により架橋させる場合には、樹脂の劣化を防ぐために、N2 雰囲気下において、1Mradから50Mradの放射線を照射する。1Mrad未満では架橋反応が起こらず、50Mradを超えると、樹脂の劣化が激しくなる。樹脂の厚さは1mm以下であることが望ましく、さらに望ましくは5mm以下である。1mmを超えると放射線が内部まで届かないため、発泡時に内部の気泡が粗大、不均一になる。
【0059】
本発明において、ポリ乳酸に各種添加剤を配合する方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、乳酸系ポリマー粉末あるいはペレットと添加剤各成分とをそれぞれドライブレンドで混合してもよく、添加剤成分の一部をプリブレンドして他の成分を後でドライブレンドしても構わない。例えば、ミルロール、バンバリーミキサー、スーパーミキサー等を用いて混合し、単軸あるいは二軸押出機等を用いて混練すればよい。この混合混練は、通常120〜220℃程度の温度で行われる。また、乳酸系ポリマーの重合段階で、添加剤成分を添加しても構わない。また、添加剤各成分を高濃度で含有するマスターバッチを生成し、これを乳酸系ポリマーに添加する方法などを用いることができる。
【0060】
さらに本発明の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物には、必要に応じて、従来公知の可塑剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤、各種フィラー、帯電防止剤、離型剤、香料、滑剤、難燃剤、発泡剤、充填剤、抗菌剤・抗カビ剤、核形成剤等の各種添加剤が配合されていてもよい。
【0061】
上記フィラーとしては、特に制限されず、含水珪酸マグネシウム(タルク)、シリカ、炭酸カルシウムなどが粒径、製造方法によらず用いることができる。これらフィラーのなかでも、含水珪酸マグネシウムが結晶核の形成促進効果に優れるので好ましく、平均粒子径は10μm以下であることがより好ましく、1〜5μmであることが特に好ましい。10μmを超える平均粒子径の含水珪酸マグネシウムを用いても効果はあるが、10μm以下の場合はより結晶核の形成促進効果が高く、成形品の耐熱性がより向上できる。
【0062】
含水珪酸マグネシウム(タルク)の配合量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.01〜40重量部とすることが好ましく、0.01〜30重量部とすることがより好ましい。0.01重量部未満の配合量では、添加の効果があまり得られず、40重量部を超えて配合すると樹脂組成物の比重が重くなるだけでなく、耐衝撃性も低下する。
【0063】
本発明の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物は、走査型示差熱量計(DSC)における結晶化ピーク温度が90〜150℃、その結晶化熱量が20J/g以上、好ましくは25J/g以上である。この結晶化ピーク温度が90℃未満であると、成形加工時の冷却時間が長くなり、一方、結晶化ピーク温度が150℃を超えると、結晶化速度は速くても成形品の弾性率の低下に伴い取り出しが困難となる。また、この結晶化熱量が20J/g未満であると、結晶化可能温度での成形性が悪くなり、また得られる成形品の耐熱性が劣り、引張強度、衝撃強度も劣る結果となる。
【0064】
本発明は、上記発泡ポリ乳酸系樹脂組成物から得られる耐熱性発泡成形品にも関する。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
表1に示す配合成分をドライブレンドし、170℃の二軸混練押出機にて溶融混合し、口金よりストランド状に押出し、水冷後、切断し、アミド系化合物を含む発泡ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを得た。
【0066】
得られたペレットを110℃で真空乾燥し、絶乾状態にした後、220℃の圧縮成形機にて5mmの厚さのスペーサーを用いて、溶融、発泡させ、その後110℃で保持し、結晶化させた。得られた発泡体を試験片として、JIS K7206に従い、ビカット軟化温度試験機((株)東洋精機製作所製、自動HDT−VICAT試験装置)を用いて、油浴中で昇温速度50℃/時、試験荷重10Nでビカット軟化温度を測定した。ビカット軟化温度が高いほど耐熱性に優れることを示す。結果を表1に示す。
【0067】
なお、表1に記載の実施例および比較例に用いた各配合物は以下の通りであり、表1における配合量はすべて「重量部」を示す。
ポリ乳酸:三井化学(株)製、LACEA H−100
発泡剤:三協化成(株)製、セルマイク306
化合物A:鎖状アミド化合物:化合物No.5
化合物B:鎖状ヒドラジド化合物:化合物No.2
化合物C:環状アミド化合物:化合物No.21
化合物D:環状ヒドラジド化合物:化合物No.11
比較アミド化合物:ケイエフトレーディング(株)製、エチレンビス(ヒドロキシステアリン酸)アミド
タルク:日本タルク(株)製、微粉末タルク「ミクロエースP−6」
【0068】
【表1】

【0069】
上記表1中に示す実施例1〜4及び比較例1と2の結果から、特定のアミド化合物が配合された本発明の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物を用いて得られる成形品は、アミド化合物未添加の場合(比較例1)や公知のタルクおよびエチレンビス(ヒドロキシステアリン酸)アミドを併用した場合(比較例2)よりも高い耐熱性を示すことは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸100重量部に対し、下記一般式(I)で表される鎖状アミド化合物又は鎖状ヒドラジド化合物、及び、下記一般式(II)〜(VII)のうちのいずれかで表される環状アミド化合物又は環状ヒドラジド化合物のうちから選択される一種以上のアミド系化合物0.01〜10重量部が配合されてなることを特徴とする発泡ポリ乳酸系樹脂組成物。

(式(I)中、Ra、Rb及びRcは、各々独立に、水素原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、炭素原子数6〜18のアリール基、又は結合して環状構造(該環状構造の炭素原子数は、縮合環の全炭素原子数として10〜18)を表し、Rは、直接結合、n価の炭素原子数2〜30の炭化水素基、複素環、又は下記式(I−a)、

(式(I−a)中、R’は、n価の炭素原子数1〜30の炭化水素基又は複素環を表し、Xは直接結合又は炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、nは1〜3の数を表す。)で表される基を表し、nは1〜3の数を表す。)

(式(II)〜(VII)中、A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、A8、A9、B1、B2、B3、B4、B5、B6、B7、B8、B9、B10、B11およびB12は各々独立に−CH2−、−C(=O)−、−C(=S)−、−NH−、−NR13−、又は−S(=O)2−を表し、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11、R12は水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、炭素原子数1〜18のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、又は炭素原子数6〜18のアリール基を表し、R13は−NH2、−NHR14、−NHC(=O)−R15、炭素原子数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、又は炭素原子数6〜18のアリール基を表し、R14、R15は炭素原子数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、又は炭素原子数6〜18のアリール基を表す。ただし、A1、A2、A3のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、A4、A5、A6のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、A7、A8、A9のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、B1、B2、B3、B4のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、B5、B6、B7、B8のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−であり、B9、B10、B11、B12のいずれか1個以上は−C(=O)−又は−C(=S)−であり、いずれか1個以上は−NH−又は−NR13−である。)
【請求項2】
前記アミド系化合物が安息香酸アミド構造を有する化合物である請求項1記載の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項3】
前記アミド系化合物が縮合複素環構造を有する化合物である請求項1記載の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
前記アミド系化合物がデカンジカルボン酸ビスベンゾイルヒドラジドである請求項1記載の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項5】
前記アミド系化合物がフタル酸ヒドラジドである請求項1記載の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項記載の発泡ポリ乳酸系樹脂組成物を成形してなることを特徴とする耐熱性ポリ乳酸系樹脂成形品。

【公開番号】特開2007−262319(P2007−262319A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91971(P2006−91971)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】