説明

発泡成形体およびその製造方法

【課題】接着用樹脂を使用することなく、発泡樹脂成形体において好ましい細孔構造と構造強度の両立を図る。
【解決手段】型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる多数の発泡セル11、11、・・で構成される発泡成形体である。この発泡成形体では、隣り合う発泡セル11、11、・・の接触面11a、11a、・・がそれ自体が溶融した融着部となって、発泡セル相互を結合されている。そして、前記多数の発泡セル11、11、・・の間にある空隙12、12、・・は、発泡成形体内部を縦横に連通する三次元連通気孔を形成している。この発泡成形体の強度は、曲げ限界強度を、少なくとも10Nの強度を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性樹脂粒子を型内に充填して蒸気加熱などの手段で加熱発泡して得られる発泡成形体およびその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から発泡ポリスチレン樹脂などの発泡性樹脂粒子を型内に充填して蒸気加熱などの手段で加熱発泡して得られる発泡樹脂成形体はよく知られているが、従来のこの種の発泡樹脂成形体は、用途が「魚箱」のような生鮮食品保管・搬送BOXに代表されるように断熱保冷性、緩衝性が重視された結果、内部に空隙を持たない、実質的に無通気性の材料に仕上げられていて、例えば、吸音材料に適した細孔構造を持っていなかった。
【0003】
そこで、発泡樹脂成形体の適当な細孔構造を付与する研究が行なわれたが、好ましい細孔気孔率を実現するには、加熱温度条件を下げる必要があり、その結果、発泡セルの結合強度が低下し、成形体として実用的な構造強度が得られず、実用化に成功していなかった。このような点を改善するものとして、特許文献1の発泡樹脂成形体が提案されている。
【0004】
この特許文献1から知られる発泡樹脂成形体では、原料となる発泡性樹脂粒子の表面に、低温度で熱接着性の接着用樹脂を付着しておき、成形時に、発泡量を調節して細孔構造を残しながら、この接着用樹脂でもって発泡セル同士を接着接合するものであって、接着用樹脂を用いる等の理由から以下の不具合があった。
1)材料費や加工費がコストアップとなる。
2)発泡性樹脂粒子の流動性が低下し、充填装置が目詰まりしたり、型内の充填度が不均一になりやすいなど操作性に劣る。
3)接着用樹脂の低温軟化特性が原因となり耐熱性や長期耐久性が大幅に低下する。
【0005】
なお、本発明出願人は、上記問題を解決するために、新規な発泡成形体とその製造方法を提案している。〔特願2005−37960(出願2005・02・15)、優先権:特願2004−266853(出願2004・09・14)〕
【0006】
この適度な構造強度を持った発泡成形体の空隙構造は、発泡性樹脂粒子の融着、冷却に際して型内圧力を制御しながら低下させることにより発泡量を制御して得られるのであるが、このような方法においては、旧来のポリオレフィン系の発泡性樹脂粒子を原料とする場合には好適であっても、発泡性ポリスチレン粒子や、溶融張力を高めることにより発泡性ポリスチレン粒子と同様の加熱手段で成形を行なうことのできるように改良したポリオレフィン系の発泡性樹脂粒子などを原料として成形する場合は、容積気孔率や引裂き強度など品質が変動するので一定の発泡成形体が得られにくいという問題があった。
【特許文献1】特許第3268094号公報(特開平7−168577号公報):特許請求の範囲、段落〔0017〕〔0018〕など。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、接着用樹脂を使用することなく、また、発泡性ポリスチレン粒子やこれと同様の加熱手段で成形を行なうことのできる発泡性樹脂粒子を原料とした発泡樹脂成形体においても好ましい細孔構造と構造強度の両立を図ることができる安定した品質の発泡成形体およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる多数の発泡セルで構成される発泡成形体の発泡成形においても、発泡性樹脂粒子を融着温度条件下で発泡量を制御することによって、粒子間に空隙を設けながら粒子相互が融着して強固に結合するという本件発明者が見出した知見に基づくものである。
【0009】
(発泡成形体の発明)
上記の課題は、物の発明である第1発明、すなわち、型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる多数の発泡セルで構成される発泡成形体であって、隣り合う発泡セルそれ自体が溶融した融着部によって結合されるとともに、前記多数の発泡セルの間に形成される三次元連通気孔からなり、かつ少なくとも10Nの曲げ限界強度を有することを特徴とする本発明の発泡成形体によって、解決することができる。
【0010】
また、この第1発明は、前記連通気孔からなる容積気孔率が10〜40%である上記発明の形態に具体化される。また、前記融着部によって結合される発泡セルが離隔した位置関係を持ち、かつその融着部が両者間に架け渡される架橋状態に形成されている上記発明の形態に具体化される。
さらに、これらの発泡成形体は、自動車用内装部材、車体フロア面の凹凸をフラットにする車両用フロアフラット材、建築用吸音部材、道路・鉄道騒音防止部材、住宅用吸音部材または産業機器用吸音部材として好ましく用いられる。
【0011】
(発泡成形体の製造方法の発明)
さらに、上記の問題は、方法発明である第2発明、すなわち、型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡し結合して得られる前記したいずれかの発泡成形体の製造方法であって、加熱水蒸気の存在下、その発泡性樹脂粒子を融着温度に加熱したときに、型内圧力より高圧の制御用空気を型内に導入し、型内をより高圧状態に加圧することを特徴とする本発明の発泡成形体の製造方法によって解決することができる。
【0012】
また、本発明は、前記制御用空気により、型内圧力を融着温度に加熱したときの型内圧力の1.5倍以上の値に加圧することを特徴とする形態に具体化でき、また、前記制御用空気の温度が、導入時の型内温度〜常温の範囲の温度であるのが好ましい。さらに、前記高圧加熱に続いて圧力を制御して発泡性樹脂粒子の発泡量を制御しながら発泡セルを融着させるようにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発泡成形体によれば、接着用樹脂を使用することなく、取扱い、搬送に耐え、かつ構造体として実用的構造強度として、10N以上の曲げ限界強度を有するポリスチレン系発泡成形体から構成されるので、接着用樹脂に起因するコストアップは抑制され、また発泡性樹脂粒子の有する本来の特性が活かすことができ、操作性あるいは耐熱性や長期耐久性の問題も解消できる利点が得られる。
さらに、10〜40%の容積気孔率を有する細孔構造を持つものは、自動車用内装部材、車体フロア面の凹凸をフラットにする車両用フロアフラット材、建築用吸音部材、道路・鉄道騒音防止部材、住宅用吸音部材または産業機器用吸音部材として有用となる。
【0014】
また、本発明の発泡成形体の製造方法によれば、型内の融着温度に達した発泡性ポリスチレン樹脂粒子を高圧の制御用空気により加圧した後、融着、結合させることができるから、三次元連通気孔の構造を安定して形成することができ、より品質の安定したポリスチレン発泡成形体やポリプロビレン発泡成形体を製造することができる。
【0015】
かくして、本発明の発泡成形体およびその製造方法は、このように、接着用樹脂を使用することなく、吸音体に好ましい細孔構造と構造強度を得るという従来困難であった問題を解決して、接着用樹脂に起因するコストアップ、操作性あるいは耐熱性や長期耐久性の低下を防止できるという優れた効果がある。よって本発明は、従来の問題点を解消した発泡成形体およびその製造方法として、工業的価値はきわめて大なるものがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、本発明の発泡成形体およびその製造方法を、発泡性ポリスチレン樹脂粒子を原料として行った実施形態について、図1〜6を参照しながら説明する。
(発泡成形体)
本発明の発泡成形体を模式的な概念図1によって概説すると、先ず、型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる多数の発泡セル11、11、・・で構成される発泡成形体1からなるもので、その特徴とするところは、先ず、その発泡成形体1が、発泡性ポリスチレン樹脂その他これと同様の手段で発泡成形可能な発泡性樹脂粒子を型内に充填して蒸気加熱などで加熱発泡して得られる発泡樹脂成形体である点にある。なお、以下の説明で発泡成形体は特に注釈しない場合はポリスチレン系樹脂からなるものを意味することとする。
【0017】
第2に、この発泡成形体では、隣り合う発泡セル11、11、・・の接触面11a、11a、・・がそれ自体が溶融した融着部(後記の図2(B)参照)となって、発泡セル相互を結合されている点、そして、前記多数の発泡セル11、11、・・の間にある空隙12、12、・・は、発泡成形体内部を縦横に連通する三次元連通気孔を形成している点にある。すなわち、その結合部分である融着部は、発泡性樹脂素材が融合しているのであるから、発泡樹脂素材と全く同一の物性を持ち、強固な結合が得られるのである。その結合状態については、追ってさらに詳述する。
【0018】
次に、本発明の発泡体の強度としては、ハンドリングに耐える形状保持強度が最低、必要であり、好ましくは構造体としての機械的強度を持つことが好ましい。この点から、機械的強度を代表する尺度として、曲げ限界強度を採用して、少なくとも10Nの強度を備える点を特徴としており、22N以上であるのがより好ましい。
【0019】
本発明の発泡成形体における前記3次元連通気孔は、多数の枝分かれしてジグザグ、曲がりくねり、その内径は拡大・縮小の変化を不規則に繰り返すという複雑な空間経路を持っているので、進入した音波に対し、反射、干渉、共振などの減衰効果が作用するという吸音基本機能を発揮するのである。また、発泡成形体の好ましい機械的緩衝機能を発揮する基本構造であることは言うまでもないことである。なお、この3次元連通気孔は、全体の容積に対する細気孔の全容積比である容積気孔率が10〜40%であるのが好ましい。
【0020】
この容積気孔率が10%を下回る場合は、高強度を得るには好都合であるが、吸音効果が不足するので吸音体としては好ましくない。また、40%を超える場合は、吸音効果が低下する傾向を示すうえ、機械的強度が得られ難いという構造上の理由から好ましくない。
【0021】
本発明の発泡成形体を構成する発泡セルの形状にも以下のような特徴がある。すなわち、その発泡セルのカット断面は、略円形ないし長円形断面を持つ粒体であって、その大きさは長径基準で1.5〜5.5mmのものが好ましい。この範囲外の場合は、吸音作用に好ましい細気孔容積が得られ難いからである。
また、個々の発泡セルは、その長径/短径の範囲が3.0までの略長円形断面粒体であるのが、吸音作用に必要な細気孔容積が得られ易いので好ましい。
【0022】
次に、本発明の発泡セルの結合状態について、図2を参照して補足する。図2は、本発明の発泡成形体における発泡セルの代表的な結合状態A,B,Cを示す模式的図である。
先ず、図(A)は、発泡セル11、11が互いに押し圧状態に結合したもので、その境界に沿って融着部2aが形成されている。この場合は、後記の(B)(C)の場合に較べて比較的強い結合強度が得られるものの、気孔率が小となるので吸音性ではやや劣るものとなる。
【0023】
図(B)は、図(A)(C)の中間的形態であって、発泡セル11、11が接触状態を保ち、その間に融着部2bが形成されている。このような状態は、発泡セルが融着時に、外部からの加圧により図(A)の状態から圧縮されることにより形成されるが、具体的には第2発明の製造法において詳述する。
【0024】
図(C)は、融着部2cによって結合される発泡セル11、11が離隔した位置関係を持ち、かつその融着部2cが両者間に架け渡される架橋状態に形成されている形態を示している。このような状態は、外部からの加圧により図(B)の状態からさらに圧縮されることにより形成されるが、この結合状態では、十分な強度を保持しながら前2種の図(A)(B)の場合より大きな気孔率が得られるのでより好ましい形態といえる。
【0025】
次に、本発明をその用途面から補足する。
本発明の発泡成形体は、吸音材としてのみならず、強度を負担する構造部材を兼ねる材料であるから、適度な吸音性と強度を要求される自動車用内装部材に好適である。例えば、ダッシュボード面部材、車室内壁材、フロア部材などに用いられ得る。これらの場合、容積気孔率が小または実質的に0である表層部を、発泡成形体全体の厚さの10〜45%になるよう片面(表面側)に一体成形して用いるのがよい。
【0026】
また、フロア材に用いる場合には、前記表層部を車室側に向けて配置し、車体フロアとの間に発泡成形体を介在させて、この発泡成形体によって車体フロア面の凹凸をフラットにする車両用フロアフラット材として好ましく用いられる。
【0027】
さらに、本発明は、建築物の壁用、天井用など吸音内装部材の他、道路・鉄道騒音防止部材、住宅用吸音部材または産業機器用吸音部材として広く用いられ得るのはいうまでもないが、この場合、前記表層部は強度を有する化粧面を構成するのであるが、その厚さは、全体の厚さの10〜45%であって1〜40mmの範囲が適当である。
【0028】
(発泡成形体の製造方法)
本発明の第2発明である発泡成形体の製造方法について、図3〜6を参照して説明する。本発明は、前記した発泡成形体の製造方法であって、加熱水蒸気の存在下、その発泡性樹脂粒子を融着温度に加熱したときに、型内圧力より高圧の制御用空気を型内に導入し、型内をより高圧状態に加圧する点を重要な要件とする。
【0029】
ここで、図3は、本発明の発泡成形方法における重要な操作条件、すなわち、発泡性樹脂粒子が充填される型内の圧力(圧力曲線4)と温度(温度曲線4a)を縦軸に、時間経過を横軸にして、その挙動を模式的にやや誇張して示したグラフであり、図4は、本発明の出願人が出願した先願の特願2005−37960において開示した同様なグラフ(圧力曲線5、温度曲線5a)である。
【0030】
本発明の方法も、従来の凹型、凸型の組み合わせである発泡成形用型が用いられ得る。これら所定の型内(凹凸型間の成形空間のこと、キャビティとも言われる)に充填した発泡性ポリスチレン樹脂粒子を加熱発泡して発泡成形体を製作する点を要点としていることは、従来の基本的手法と変わるところはない。すなわち、図3を参照して解説すると、以下のB1)昇温工程、B2)融着温度加熱工程、B3)発泡融着工程、B4)冷却工程、B5)大気放冷・取出し工程に大別される。
【0031】
B1)昇温工程:キャビティ内を加熱昇温する工程で、発泡樹脂粒子の充填に続いて、チャンバ内排気、キャビティ内の加熱蒸気による一方向排気加熱、同じく逆方向排気加熱などにより、内部を水蒸気で昇温するとともに水蒸気で充満させる。圧力曲線4、温度曲線4aは実際はジグザグしながら上昇する。
【0032】
B2)融着温度加熱工程:発泡樹脂粒子を発泡(膨張)させ、かつ融着させて、キャビティ形状に沿った所定の形状に成形するために、加熱水蒸気により全体を加熱してむら無く融着温度に加熱する工程。なお、この工程の後半では、発泡ポリスチレン樹脂粒子は、融着温度に相当する蒸気圧で加熱されているので、融着可能な温度に達するうえ、発泡成分の発泡圧が急激に上昇し、発泡が進行して、それまでの流動可能な状態から、隣り合う多数の粒子は接触状態になり、その接触部分では融着が始まり、進行している状態に達しているのである。
【0033】
B3)発泡融着工程:本発明の特徴とする工程であり、B2工程に続いて、発泡性樹脂粒子の発泡(膨張)量を制御し空隙を形成しながら発泡セルの融着を完成させる工程であるが、重要な点は、先願(図4)の場合は、蒸気の供給と排気を調節して、圧力曲線5がa点からc点に徐々に低下させるのに対して、本発明(図3)では、型内が均一な設定融着温度になり、融着が始まったa点において制御用空気を導入して型内圧力をより高圧なA点まで加圧するところにある。
図3では、この加圧操作の後、制御終了圧力B点まで制御しながら減圧している。この制御終了圧力B点は、温度が融着完了温度であるb点に相当する圧力である。
【0034】
本発明の制御用空気による高圧加圧の目的は、融着温度に達したポリスチレン発泡性樹脂粒子が極めて不安定な発泡内圧のため、僅かな減圧が原因で瞬間的に膨張して粒子相互間の空隙を埋め尽くしてしまう融着状態が出現するという、いわば暴発的融着現象が引き起こされるのを防止する点にある。その後に圧力制御することで、粒子の内圧(粒子内圧)と外圧(キャビティ内圧力)とをバランスさせながら、発泡性樹脂粒子の相互間に空隙(容積気孔率)を残しつつ、接触面に融着部を形成させることができるのである。
【0035】
このような目的には、スチームではなく空気を用いる必要がある。それは、スチームに比較して空気は発泡粒子の内部に侵入し難いため、粒子に対する外圧制御が容易になるからである。
また、この目的の制御用空気としては、その温度と圧力とを適切に設定することが重要である。本発明において導入される前記制御用空気は、型内圧力を融着温度に加熱したときの型内圧力の1.5倍以上、好ましくは2倍以上に加圧できる圧力を有する加圧空気が最適である。また、その制御用空気の温度は、導入時の型内温度と常温との範囲の温度であるのが好ましい。
【0036】
前記制御用空気の条件が好ましい理由は、圧力が1.5倍未満では、前記した暴発的融着現象を十分に防止できず、三次元連通気孔に部分的むらが発生する。また3倍超えの高圧の場合はそれ以上には防止効果が期待できないからである。また、温度が前記した範囲外では、いずれも発泡成形体の融着状態にむらが生じ易く、均質な発泡成形体が得られ難いからである。
【0037】
また、一般的に、減圧速度を大とすれば膨張が促進され容積気孔率は低下し、減圧速度を小とすれば膨張が抑制され容積気孔率は増大することになるが、発泡性樹脂粒子の発泡特性は、樹脂種類や予備発泡処理によって変化するので、減圧速度の程度、減圧曲線、および制御終了圧力の値は予めに使用する発泡性樹脂粒子に基づいて予備テストを行い定めるものとする。ここで、融着完了温度は前記融着現象が進行しなくなる温度をいう。
【0038】
なお、融着温度や、融着完了温度は、使用する発泡性樹脂粒子の主に樹脂種類によって定まる値であり、例えば、本発明のポリスチレン樹脂の場合は、下限融着温度は90〜100℃であり、上限は105℃までが好ましい。また、融着完了温度は110〜120℃である。したがって、a点における設定融着温度は、この下限融着温度を基準にして上限までの間に設定するものである。
【0039】
B4)冷却工程B4:前記制御用空気で加圧された圧力を保持した状態でチャンバ内に冷水を注水して冷却する。
B5)大気放冷・離型工程:その後、チャンバの排気弁を開いて、内部の気体を排気し、金型を開いて成形体を取り出す。
かくして、本発明の第1発明である発泡成形体、すなわち、隣り合う発泡セルそれ自体が軟化溶融した融着部で結合しており、好ましくは10〜40%の容積気孔率を有する3次元連通気孔と、少なくとも10Nの曲げ限界強度を有するポリスチレン発泡成形体が得られる。
【実施例】
【0040】
(実施例1)次に、本発明の製造方法の実施例およびそれにより得られた発泡成形体の特性を表1によって説明する。
なお、製造条件の諸元は次の通り。また、図5に成形過程の製品内部温度6a、金型温度(平均)6c、型内圧力6の変化を示す。
a)使用発泡樹脂:種類=ポリスチレン樹脂、粒度=2.5〜3.5mm、予備発泡処理=済み。
b)金型:キャビティの両側にベントホールを備えた加熱水蒸気による通常の加熱タイプの開閉金型。
【0041】
c)融着温度加熱工程までの昇温工程B1:
発泡樹脂粒子の充填、チャンバ内排気、キャビティ内の加熱蒸気による一方向排気、同じく逆方向排気などは従来から知られている条件で行なう。
d)融着温度加熱工程B2:
両側のチャンバに0.05〜0.1MPa の加熱水蒸気を約3秒間導入し、キャビティ内の発泡樹脂粒子を設定融着温度(110℃)にまで加熱する。
【0042】
e)発泡・融着工程B3:
加熱終了のa点で水蒸気の供給を止め、制御用空気を約3秒間供給し、型内を加圧圧力の表1の圧力まで加圧する。このとき、融着温度にまで達している製品内部温度は、製品内部に閉じ込められた水蒸気によって更に温度が上昇し(6a1)、発泡セルは相互に融着して融着部を形成するとともに、圧縮されて融着部は架橋状態に形成される。型内圧力は、制御用空気によって短時間、好ましくは5秒間以内の短時間に所定の圧力に加圧するのが好ましい。
【0043】
制御用空気を導入する直前には、製品内部温度は融着温度に達していることが重要であり、この状態でそのときの飽和圧力より高圧の空気を導入して、型内圧力を前記したように高圧に加圧すると、発泡セル内およびセル間の水蒸気が瞬間的に圧縮されることが原因と思われる、製品内部温度の一時的上昇現象が見られる。この温度上昇がセル間の融着を促進するものと思われる。
また同時に、高い制御圧力(0.1〜0.2MPa )は、温度上昇で増加傾向の発泡圧(0.1〜0.12MPa )を持つ融着状態の発泡セルを押さえ込むように働くので、セル間に架け渡される架橋状態の融着部が形成することになる。
【0044】
f)冷却工程B4:
前記制御用空気で加圧された圧力を保持した状態でチャンバ内に冷水を注水して冷却する。
g )大気放冷・離型工程B5:
その後、チャンバの排気弁を開いて、内部の気体を排気し、金型を開いて成形体を取り出す。
【0045】
かくして得られた発泡成形体は、表1に示す物性を持っていた。実施例試料では三次元連通気孔と強度をあわせて有する発泡成形体が得られたが、加圧圧力Aが低い場合は、試料1では通気量が少なく、かつ変動するが、1.5倍以上の場合には、部位によるばらつきが少なくなり、2倍以上ではばらつきは殆どなくなり、気孔率、強度、吸音性など好ましい品質が得られることが分かる。なお、比較例11は、本発明の制御用空気の加圧が行われない従来の成形法で得られた成形体であり、強度面で優れるが本発明の目的とする気孔構造が得られない。
【0046】
なお、実施例試料は、ハンドリングは勿論、構造部材として利用可能な強度を持つことが確認された。また、そのカット断面の観察結果、それぞれ隣接する発泡セルが接触面においてそれ自体が軟化溶融して結合していることが認められた。特に、試料2、3、4の場合には、図2(C)に示すような、融着部2cによって結合される発泡セル11、11が離隔した位置関係を持ち、かつその融着部2cが両者間に架け渡される架橋状態に形成されている状態が明瞭に観察された。
【0047】
【表1】

【0048】
通気量は、金型の凸面および凹面に面した試料面5箇所を対象として、毎分30l の空気を先端2.5cm2 から吐出させその1分間当たり平均通気量(l)であり、±でばらつきを示す。
平均容積気孔率は、融着前の単体のビーズ状態の隙間空間を気孔率100%とし、例えば1Lのメスシリンダーに発泡ビーズを入れた場合、その空間の体積を求める方法として隙間を埋めるように水を注入し、その水の重量W (1cc=1g)から体積換算した値V が、ビーズ1000ccの100%気孔率となる。以上から、例えばポーラスのサンプルを一定体積vにカットした時の空隙率100 %の体積(水の重量)xは、v/1000 =x/W (W=V)で求められる。
従って、実際に成形サンプルを水に浸し内部浸透させた跡、重量wを測定し、この値と100 %の体積(水の重量)xとの比較からw/xでサンプルの気孔率として求められる。従って、平均容積気孔率はこのサンプルn 個の気孔率の平均値となる。
曲げ限界強度は、JIS−K7221規定の方法で測定したものである。
吸音性は、垂直入射吸音率測定器を使用し、試料は厚さ15mm、50〜1600Hzの周波数領域の測定(JIS(A)1405)における吸音率が30%以上の場合を○、以下の場合を×と表示した。
【0049】
(実施例2)
次に、本発明の製造方法の別の実施例について説明する。
この場合の実施条件は、実施例1の場合と以下の部分を除いて同様である。また、図6に成形過程の型内温度6a、金型温度(平均)6c、型内圧力6の変化を示す。
【0050】
この実施例2では、昇温工程B1のチャンバ内排気、キャビティ内の加熱蒸気による一方向排気、同じく逆方向排気などの終了時点で、制御用空気導入工程B31が挿入され、ついで、加熱水蒸気よりキャビティ内の発泡樹脂粒子を設定融着温度に加熱する融着温度加熱工程B2がある。そして、それに続いて制御用空気を導入して行う発泡・融着工程B32が行われ、その後、制御用空気で加圧された圧力を保持した状態でチャンバ内に冷水を注水して冷却するB4があり、チャンバの排気弁を開いて、外部に気体を排気し、大気状態で冷却離型するなどの冷却離型工程B5となるものがある。
【0051】
この事例では、融着温度加熱工程B2の前後に制御用空気を導入する工程が設けてあるが、前者の制御用空気導入工程B31は、昇温工程B1の終点a1において、部分的に融着温度に達した発泡粒子の融着が進行して気孔構造がばらつくのを防止するために、制御用空気を導入して圧力A1まで加圧し発泡粒子を圧縮するとともにやや冷却して融着するのを抑制する操作である。
【0052】
そして、実施例1と同様に、次に続く融着温度加熱工程B2の終点a2おいて、制御用空気を導入して圧力A2に加圧する発泡・融着工程B32に移行して、先に同じく、粒子の内圧(粒子内圧)と外圧(キャビティ内圧力)とをバランスさせながら、発泡性樹脂粒子の相互間に空隙(容積気孔率)を残しつつ、接触面に融着部を形成させるのである。
かくして、実施例1の場合と同様な物性の発泡成形体が得られるが、制御用空気としては実施例1の場合より低圧の空気が利用できるので、この点では有利となる。
【0053】
かくして、本発明の発泡成形体は、このような3次元連通気孔構造による吸音効果と、発泡樹脂が持つ本来の材料強度、耐熱性、耐久性を利用した騒音防止用吸音体、例えば、自動車用内装部材、車両用フロアフラット材、住宅壁など建築物用吸音材、産業機器用、道路の騒音防止用、工場や地下鉄などの排気消音ダクト用として広く有用なことが確認された。
【0054】
なお、前記した説明はいずれも実験上最も有効であった発泡性ポリスチレン樹脂粒子を原料として行った場合であるが、型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られるものであれば全ての発泡性樹脂粒子を原料とする場合にも適用できるものであって、発泡性ポリスチレン樹脂粒子以外でも近年になって分子量分布の拡大、少量の超高分子量成分の付与、電子線照射、混練変成や触媒の改良による部分供花や長鎖分岐、グラフト成分の付与などの開発が勧められた結果、発泡性ポリスチレン樹脂粒子と同様の方法で発泡成形方法が可能となった高溶融張力の発泡性ポリプロピレン樹脂粒子(例えば、株式会社カネカが発売している商品名エペランPP、株式会社JSPが発売している商品名ピーブロック)や発泡性ポリエチレン樹脂粒子(例えば、積水化成品株式会社が発売している商品名ピオセラン)その他のポリオレフィン系の発泡性樹脂粒子などを原料としても本来の目的を達成できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の発泡成形体の模式的概念断面図。
【図2】発泡セルの結合状態を説明するための模式的概念断面図(A)(B)(C)。
【図3】本発明の製造法における型内圧力、同温度と時間の関係を示す模式的経過グラフ。
【図4】先願の製造法における型内圧力、同温度と時間の関係を示す参考模式的経過グラフ。
【図5】本発明の実施例1における型内圧力、同温度、型温度と時間の関係の1例を示す経過グラフ。
【図6】本発明の実施例2における型内圧力、同温度、型温度と時間の関係の1例を示す経過グラフ。
【符号の説明】
【0056】
1 発泡成形体
11 発泡セル
11a 接触面
12 空隙
2a 融着部
2b 融着部
2c 融着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡して得られる多数の発泡セルで構成される発泡成形体であって、隣り合う発泡セルそれ自体が溶融した融着部によって結合されるとともに、前記多数の発泡セルの間に形成される三次元連通気孔からなり、かつ少なくとも10Nの曲げ限界強度を有することを特徴とする発泡成形体。
【請求項2】
前記連通気孔からなる容積気孔率が10〜40%である請求項1に記載の発泡成形体。
【請求項3】
前記融着部によって結合される発泡セルが離隔した位置関係を持ち、かつその融着部が両者間に架け渡される架橋状態に形成されている請求項1または2に記載の発泡成形体。
【請求項4】
請求項1、2、3のいずれかに記載の発泡成形体であって、自動車用内装部材、車体フロア面の凹凸をフラットにする車両用フロアフラット材、建築用吸音部材、道路・鉄道騒音防止部材、住宅用吸音部材または産業機器用吸音部材として用いられる発泡成形体。
【請求項5】
型内に充填した発泡性樹脂粒子を加熱発泡し結合して得られる請求項1〜4のいずれかに記載の発泡成形体の製造方法であって、加熱水蒸気の存在下、その発泡性樹脂粒子を融着温度に加熱したときに、型内圧力より高圧の制御用空気を型内に導入し、型内をより高圧状態に加圧することを特徴とする発泡成形体の製造方法。
【請求項6】
前記制御用空気により、型内を融着温度に加熱したときの型内圧力の1.5倍以上の圧力に加圧することを特徴とする請求項5に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項7】
導入される前記制御用空気の温度が、導入時の型内温度〜常温の範囲の温度である請求項5または6に記載の発泡成形体の製造方法。
【請求項8】
前記高圧加熱に続いて圧力を制御して発泡性樹脂粒子の発泡量を制御しながら発泡セルを融着させる請求項5または6または7に記載の発泡成形体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−106973(P2007−106973A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314646(P2005−314646)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【出願人】(391023057)株式会社ダイセン工業 (14)
【Fターム(参考)】